NOVEL 1-2(Second)

ソクトア第2章1巻の2(後半)


 ペガサスで空を駆けると言うのはどういう気分なのだろう?それは乗ってみなけ
れば分からない。フジーヤは、今その気分を味わっている。自分で作り出したペガ
サスに乗るというのは少し複雑な気分だった。
 そして、傍らには頼もしく駆けるグリフォンの姿があった。完成してから大事に
育てて今では配合も上手く行ってるみたいで将来楽しみであった。既に家では世話
役の人に頼んで子供のグリフォンを育ててもらっているところだった。
(風が気持ちいいな。)
 フジーヤは、単純にそう思った。ペガサスも気持ちよさそうにしている。このペ
ガサスをジーク達に送ったとき、ジークは凄く大切そうにしていた。あの眼を見て
このグリフォンを送っても良いと思ったのである。
「フジーヤ。グリフォンのこと心配?」
 後ろに乗っていたルイシーが話し掛けてくる。ペガサスに乗れる人数は2人が限
界だろう。でもこのペガサスは頑張って空を駆けてくれていた。
「まぁ世話役を残しているし、大丈夫だとは思うけどな。」
 フジーヤは、世話役に丹念に餌のやり方とか書いておいた。それはグリフォンだ
けではない。他の研究で使った動物達すべてもだ。フジーヤの家には凄い数の動物
達が居るので世話役1人では追いつかなかったみたいなので、3人に増やしておい
たのだが、心配は心配であった。
「3人でいつもの俺っちの仕事が勤まるかねぇ?」
 横から口の減らない声が聞こえる。よく見ると隣のペガサスにはトーリスともう
1人居た。
「スラート。世話役をそう馬鹿にするものじゃありませんよ?」
 トーリスは、優しい口調で語りかける。トーリスのこの口調で何人の女性がトロ
ンとすることか。
「そうだけどよぉ。いつも大変なんだぜ?」
 トーリスの後ろに猿がくっついていた。しかし人は居ない。そう。この猿がしゃ
べっているのだった。
 この猿は、フジーヤが戦乱時代に改良して創った特別製の猿で、現在息子が1人
居る。息子は研究所でお留守番してるが、不満そうであった。名前はスラート。フ
ジーヤの身の回りの世話から護衛まで何でもこなすスーパーモンキーで、その身体
能力と思考能力、更には寿命も普通の猿のゆうに10倍はある。
 だから、今年ですでに30歳で、なんとトーリスより年上なのである。しかし、
この人を馬鹿にしたような口調は変わっておらず、フジーヤ以外の人間には減らず
口をこぼす困った猿であった。
「はっはっは。スラート君には感謝してるさ。」
 フジーヤもこのスラートには頭が上がらない。しかし、それも頷けるはずでスラ
ートが居なければ動物の世話などで研究に没頭することなど出来はしないだろう。
スラートはかなりの助けになっていた。しかしスラートはそれを嫌だと思ったこと
は1回足りとも無い。自分がこうして生きているのもフジーヤのおかげだし、フジ
ーヤもスラートのことは息子のように扱ってくれている。そのせいかスラートは忠
誠心を絶やすことは無いのだ。
「フジーヤにそう言ってもらえるのが俺っちの楽しみですよ。」
 どことなく憎めない顔をする。この猿は表情が豊かである。
「スラート。ジークの家まであとどれくらいでしょうか?」
 トーリスが尋ねる。スラートはその身体能力の特化によって物凄い視力を持って
いる。だから、距離を測ることなどは楽なことあった。
「そうだな。あと半日もあれば着くと思うぜ?」
「なるほど・・・。あと少しですね。」
 スラートはさらりと答える。スラートが言うのだから合っているのだろう。それ
くらいトーリスもこのスラートは信用している。トーリスにとってスラートはペッ
トであり、また兄のようでもあった。
「そういえば、トーリスは魔法剣だったよな?どうよ?出来は。」
 スラートはプレゼントの話をする。
「腰掛の袋に入ってますよ。」
 トーリスは、ペガサスの腰掛の袋にちゃんと入れておいた。スラートは空中だと
いうのに器用に魔法剣だけを取り出す。よく見るとルクトリアの紋章が入っている。
昔ライルが愛用していた剣に似ていた。
「やるねぇ。トーリス。」
 フジーヤはその剣の見事さにさすがに声をあげる。横目で見るだけでも物凄い魔
力を感じ取れる。おそらく紋章をかたどっている宝石の中にトーリスの魔力が込め
られているのだろう。
「本当は刀身にも少し魔力をかけたかったのですがね。時間が無くて。」
 トーリスはあっさりそんなことを言う。宝石に込められているだけでも恐ろしい
ほど魔力が込められているのに、刀身にも掛けようと思ってた辺り、探究心が強い
のだろう。
「こりゃジークも喜ぶなぁ。なんかウキウキしてきたぜ!」
 スラートは、腰掛に魔法剣をしまうと拳を握る。ジークにあえるのも楽しみなの
だが、ライルに会うのがかなり楽しみだった。スラートとライルは意外にウマが合
うのでよく話してたものだ。
「マレルさんは元気かなー?」
 ルイシーは、マレルに会えるのが楽しみだった。マレルはルイシーによくライル
のことで相談してたのでかなり仲が良かった。なによりもマレルは修道女でルイシ
ーは天使だったのでそのことで話すことも結構多かったのだ。
「今回は、人いっぱい来るらしいからな。なんでもグラウドやエルディス達も来る
らしいぞ。」
 フジーヤは、その知らせをヒルトから聞いていた。ライルには黙っていたが、ジ
ークの20歳という区切りに盛大に祝ってやる。それがヒルトの計画だった。その
第一に相談にのっていたのがフジーヤであった。ルース一行はもちろんのこと、フ
ジーヤとヒルトの家族。そしてグラウドとエルディスの家族も全員来るということ
で、かなりの人数になっていたのである。
「なかなか賑やかになりそうですね。」
 トーリスも口調は優しかったが、楽しみにしてるようだった。
「?ちょっと待て。ありゃ何だ?」
 スラートが、注意を促す。何か浮遊物体を見つけたらしい。トーリスも手綱を握
りながらいつでも魔法を撃てるようにしておいた。
「人だな・・・。」
 スラートは、意外なことを口にもらす。人が浮いているというのだ。
「あれは!!」
 フジーヤも気がついたらしい。そしてその人影には見覚えがあった。
「リューイ。スピードを落としてくれ。」
 フジーヤはペガサスの名前をいいながらも手綱を緩める。トーリスもそれに習っ
てスピードを落としていく。すると、あちらもフジーヤに気がついたらしく、手を
振っていた。
「よぉ!久しぶりだな!」
 その人物は気さくに答える。悠然とマントをなびかせて、髪も少し長髪のためな
びいている姿がよく似合う男だった。後ろで少し束ねている。栗色の髪なのだが、
少し金色がかっている。しかし、それだけではない。この男からは凄い魔力と闘気
が感じられた。だいたい、空中に浮いているなど今の魔法の技術からしてもとんで
もなく難しい物だ。それをこともなげにやっている辺り恐ろしい魔力を有している
のだろう。
 その傍らに居る剣士も浮いていたが、こっちはどうやら女性のようだ。一見分か
らないが、綺麗な赤い髪とスラッとした体格。更にさらしを巻いているのを見れば
女性だと分かる。腰にかけている刀が、なんともガリウロルの剣士ということをに
おわせていた。物静かで鋭い目つきが特徴的だった。
「ジュダに赤毘車(あかびしゃ)!久しぶりだなぁ。」
 フジーヤはあまり驚いてない様子だった。この2人とは面識があるし、何より戦
乱時代に色々世話になったからだ。
 男のほうはジュダ=ロンド=ムクトーという。戦乱時代にちょっとしたことでフ
ジーヤと会って、戦術の議論を交わしたことがある。だが、フジーヤはこの男にだ
けは全く勝てなかった。魔法も体術も桁違いで、フジーヤは反対にこの男から教わ
ったほどである。
 女性のほうは赤毘車=ロンドといって、ジュダの妻である。その物静かな雰囲気
から繰り出される剣は凄まじい冴えがあり、当時のライルですら一本も取れなかっ
たほどのつわもので、ライルとルースが2人がかりでも互角以上の闘いをしていた
恐ろしい女性であった。
 しかし、この2人は用事があるということで、途中戦線を離れていったのだが、
それからは、4、5年に1回くらいしか会っていない。なんとも謎の多い人物だっ
た。しかしその実力は折り紙つきである。
「浮いてるところじゃなんだし、下に降りようぜ。」
 ジュダが、下へと促す。確かにペガサスが辛そうだったのでみんなそうすること
にした。
(しかし、変わらないなぁ。この人たちは・・・。)
 フジーヤは不思議に思っていた。この2人の外見はどうみても25年前のままで
ある。多分、それには秘密があるのだろうが、フジーヤには予想も出来なかった。
「はじめまして。トーリスです。お噂はかねがね聞いてますよ。」
 トーリスが、物怖じもせずに挨拶する。天才は天才を知るという奴なのだろうか?
ジュダもそれを感じ取っているみたいだった。
「ジュダ=ロンド=ムクトーだ。俺も親父さんから君の事は聞いてるぜ。」
 ジュダはトーリスと握手をする。
「赤毘車=ロンドだ。よろしく頼む。」
 赤毘車も握手をした。ぶっきらぼうだが悪い感じはしなかった。
「ところで家族総出なんて珍しいな。」
 ジュダはフジーヤが滅多に遠出しないのは知ってるので少し不思議に思っていた。
まして家族もつれてとなると、何かの用事が無ければあることではない。
「ジークの20歳の誕生日で祝いに行くところだよ。」
「ああ。あのライルの息子か。もう20か。早い物だな。」
 フジーヤは隠す必要も無いので教えてやった。
「俺も何か祝ってやるとするかな。」
 ジュダは、顎に手をかける。この仕草はこの男の好む仕草で、これをやる時はと
んでもないことを考えてる場合が多かった。赤毘車はそれを知っているので、少し
ジト目で見ていた。
「そんな顔するなよ。素直に祝うだけだからさ。」
 ジュダも妻には弱いらしく、つい言い訳っぽくなってしまう。そしてその口調で
赤毘車はジュダがろくでもないことを考えているという事を察知してしまった。
「程々にしとくんだぞ。」
 赤毘車が釘を刺す。ジュダは、それを聞いてさらに顎に手をかける。
「さぁて、用意しなくちゃな。」
 ジュダはそう言うと、手を交差させる。そして少し気合を入れると、なんと違う
風景が出てきた。それを手でつかむと無理やり押し広げる。そして人が通れる大き
さになったら、なんとそこに入ってしまった。さすがのトーリスもこれには少し驚
いていた。赤毘車は頭を掻いていただけだが、フジーヤもルイシーもスラートでさ
えも今の光景は信じられずに居た。
「程々にしとけといったのに・・・。しょうがない奴だ。」
 赤毘車は、クスクス笑う。どうやら日常茶飯事のようだが、ジュダが消えたとい
うことは、今のはどこかにワープする魔法かなんかなのだろう。
「今のは・・・古代魔法の『転移』では?」
 トーリスは、古くからの文献を思い出して口に出した。
「『転移』?そうか。今のが・・・。」
 フジーヤも納得した。『転移』とは移動用に主に用いる魔法で、空間を捻じ曲げ
て移動するのでとんでもなく高度なのでどんな魔法使いもあきらめたほどの魔法だ
った。それをいとも簡単にやってしまうとは、恐ろしい男であった。
「正確には次元魔法だな。私も詳しくは知らんがな。」
 赤毘車が答える。それを聞いて、トーリスはメモを取る。はじめてみた魔法に対
しても研究心を怠らない。それが新しい研究に繋がるということなのだろう。
「次元を捻じ曲げて扉を作る。なるほど。今の魔法研究とはかけ離れた物だ。どう
りでみんな出来ないはずだ。」
 トーリスが分析をしていた。今の魔法は、浮力を利用する『飛翔』や『浮遊』く
らいしか移動手段としての魔法は存在しない。それを覆すのがこの『転移』だった。
今の魔法は物理学的なものを利用することからまだ出ていない。熱を発するとか、
冷気を作り出す。などの研究は色々されているが、今のジュダのように自然界に存
在する次元の穴を見つけ出すという研究は皆無であった。
「噂どおり、いや噂以上ですよ。」
 トーリスは、嬉しそうだった。トーリスの魔法研究からしてみれば、今のような
芸当も充分自分の役に立つ物だった。なにより自分の目で見ることで全く違った観
点から見れる。それが何より嬉しかった。
 バリッ
 妙な音がした。その音がした方向を見ると、みるみるうちに空間が破けていった。
妙な言い回しだが、その表現が一番ピッタリきた。
「もっと静かに帰ってこれんのか?」
 赤毘車は口元で笑う。
「わりぃな。急いでたからよ。」
 その破れた空間からジュダが出現した。どうやら、さっきの『転移』を今度は逆
側から使ったらしい。
(まったく、俺達なんか驚きっぱなしだぜ・・・。)
 フジーヤは、冷や汗をかいていた。ジュダも赤毘車も平然とその光景を見てるが
常識はずれなことを平然とした態度で見てる時点で化け物だ・・・。とフジーヤは
思っていた。
「ところで何を持ってきたんだ?」
 赤毘車は、ジュダが持ってる袋に気がついたようだ。
「そりゃ20歳ならあれだろ?」
 ジュダは、にやりと笑う。どうやら革の入れ物になにか液体のような物が入って
るらしい。
「未成年も来るのだぞ?少しは気を使った方が良いんじゃないのか?」
 赤毘車はジュダが笑ったのを見てすぐにその中身が上等の酒だということが分か
った。ジュダが家から持ってきたものだろう。
「硬いこというなって。何とかなるさ。」
 ジュダは親指を立てる。赤毘車はこのポーズに何度だまされたことか・・・。
「酒かぁ。ジークは初めてじゃないのか?」
 フジーヤは、思案する。ジークが酒を飲んだというはなしは聞いたことが無い。
ルクトリアでは、18歳から成人といわれるので、ジークが酒を飲んでても問題は
無いのだが、飲んだという話は聞かなかった。
「私も聞いたこと無いですね。というか、ライルさんも弱いんじゃないですか?」
 トーリスも思案していた。親のライルがたいした飲める男じゃなかったので、ジ
ークもおそらく飲めるクチじゃぁ無いのだろう。
「そういうトーリスはどうなの?」
 ルイシーは、我が子が酒を飲む姿を見たことが無かった。
「私もそんなにいけるクチじゃあないですよ。」
 トーリスは、すこし弱った顔をする。しかしルイシーはその仕草で分かった。我
が子は謙遜してるだけだと・・・。トーリスが本当に弱った時はこういう反応はし
ないはずだ。
「ま、楽しく飲めれば結果オーライって奴よ。」
 ジュダは気楽に言っていた。
「まったく。私は知らんぞ。」
 赤毘車は、ジュダがこう言うときは大概ロクでもないことが起きるのを知ってる
のであきれていた。
 その様子を見て、フジーヤはライルのところに行くのが少し楽しみになっていた。


 ライルの家の朝は早い。朝ご飯を食べる前に修行をすることもあって、夜がまだ
完全に明けないうちから起き始める。レルファもそれに慣れていたので、朝に弱い
ジークを起こすのはレルファの役目だった。ライルもマレルも朝はそんなに弱くな
いのだがジークだけは弱いようだ。不思議な物である。
 だが、朝に弱い人はまだ居た。それはフラルであった。案外ゲラムは早起きは得
意なようで、泊まって2日目辺りにはすでに慣れていたのだが、フラルは4日目に
なる今日もまだ夢の中だった。
「おい。姉さん。起きろよー。」
 ゲラムは、自分の姉の寝坊にはあきれるばかりであった。
「むー・・・。」
 フラルは、全く起きる様子が無い。フラルお気に入りのパジャマに身を包んで寝
てるだけだった。
「レルファさんに料理教えてもらうんじゃなかったの?」
 ゲラムは痛いところをつく。
「むー。あとー・・・。」
 フラルは良く分からないことを言っていた。やはり起きる様子は無い。
「おーい。ゲラムー。フラルさん起きた?」
 ジークが呼びにきた。さすがに女性の寝てる部屋に入るのは気まずいらしく、部
屋の外で呼んでるだけだ。
「起きる様子も無いよー。参ったなぁ。」
 ゲラムは、自分の姉の情けなさを痛感する。
「うっさーい・・・。」
 フラルは、眠りながら文句を言っていた。なかなかいい根性である。これにはさ
すがにゲラムも頭にきたらしい。
「ええい!起きてよ!姉さん!!」
 ゲラムは大声で叫ぶと、布団を思いっきり剥がした。
「うああああうん!?」
 フラルは声にならない叫びをあげて、キョロキョロした。ついに起きたのである。
そして、目をこすりながら、周りを見る。しばらくボーっとしてたがゲラムを見て
状況を理解する。
「ゲーーーラーーーームーーー・・・。」
 フラルは世にも恐ろしい目でゲラムをにらみ付ける。
「おいおい。無茶したんじゃないだろうな?」
 ジークが部屋のドアを開ける。すると、そこにはパジャマ姿のフラルが居た。さ
すがにジークは気まずくなって固まった。
「あ。ごめん。フラルさん。」
 ジークは、赤面しつつもドアを閉める。
「・・・ジークには見られたくなかったのにー・・・。それというのもゲラム!あ
んたが悪い!」
 フラルはめちゃくちゃなことを言う。
「ええ!何言ってるのー!起きなかった姉さんが!いて!」
 ゲラムは言い訳するが、フラルのチョップは続く。
 しばらくチョップの音が聞こえたがしばらくすると止んだ。
「・・・これくらいで許してあげるわ。さっさと出て行きなさい。」
 フラルは着替えをするらしく、用意をする。ゲラムはすごすごと出て行った。な
んかかわいそうになってきた。
「はは。災難だったな。ゲラム。」
 ジークは笑いながらゲラムの頭をナデナデする。
「むー・・・。姉さんの馬鹿!」
 ゲラムは、そう言うと急いで階段の下に行ってしまった。
「ぬぁんですってぇ?」
 フラルの声が聞こえたが、すでにゲラムは下の階に行っていた。
「兄さん。フラルさん。起きたの?」
 レルファが顔を出した。さすがにアレだけ騒いだ後なのでレルファにも聞こえた
のだろう。そしてマレルやライルにも聞こえてるだろうことは想像できた。
「ああ。起きたみたいだな。」
 ジークはさっきのパジャマ姿を思い出して赤面する。どうにも他人のそういうと
ころを見たことが無かったので慣れなかった。ライルと一緒に修行ばっかしてたせ
いもあるかもしれない。
「?兄さん何赤くなってるの?」
 レルファは怪しむ。
「え?・・・なんでもないさ。」
 ジークはしどろもどろになる。どうにも慣れない。
「お待たせー。ごめんねー。レルファ。」
 フラルがいつの間にか着替え終えてドアから出てきた。
「良いよ。今日も頑張ろうね。」
 レルファは、フラルの寝坊はすでに4日間で見ていたので慣れていた。それにフ
ラルとは歳が近いせいか妙に気が合う。レルファにとっても貴重な4日間になって
いたのだ。
「お。起きたな。じゃぁ俺は父さんと稽古してくるな。」
 ジークは、手を振って、ライルとゲラムが待っている玄関に向かった。レルファ
とフラルはマレルが待ってる台所に行った。
「ジーク兄さん。今日は負けないよ!」
 ゲラムは元気マンマンだった。この朝の練習もすっかりゲラムのほうが先に着く
事が多くなってきた。
「はっはっは。ゲラムはやる気あるからな。お前もウカウカしてられんぞ?」
 ライルは、ジークを冷やかすようににらむ。しかしまんざら嘘でもなかった。ゲ
ラムは日一日と強くなっていったのである。
「ちぇ。俺も負けないよ?父さん。」
 実はジークもそれに刺激されてか、実力はかなりライルに近づいていたのである。
(やはりゲラムを入れて成功だったな。)
 ライルは、ジークのやる気のボルテージも上がるだろうと踏んで、ゲラムも入れ
ることにしたのである。そしてそれは成功したといっても過言ではなかった。
「気合のノリはいいようだな。よし。じゃぁゲラム。そこの木に縦百本に横百本だ。
ジークは・・・分かってるな?」
 ライルは指示する。ゲラムはいつも打ち込みをやってる木に縦斬り百本と、横斬
り百本の練習で、ジークはライルとの手合わせだった。
「父さん。今日こそ1本取るよ?」
「言ってるな。そう簡単にはとらせんぞ?」
 ジークはここ数日で自分に力がついてきてるのを実感している。結構自信があっ
た。ライルもそれを感じているが、過信させてはいけないと思って、何とか勝ちを
収めているのであった。
「えい!やぁ!」
 横でゲラムが早速打ち込みをはじめていた。素直な子である。
「来い!ジーク!」
「行くよ!」
 ライルとジークは声と木刀に気合を入れる。早速構えを取り始める。二人ともこ
の瞬間は真剣そのものである。
(父さんの構えは「守り」の型からか・・・。)
 ライルは木刀を斜めに構えて守りに徹する「守り」の型を取る。ジークは気に入
ってる「攻め」の型を取っている。しかし、これでは芸が無い。ジークは毎日練習
している成果を試そうと思った。
「な・・・!」
 ライルはさすがにビックリした。ジークは「攻め」の型を解いたからだ。そして、
取った構えはなんと「無」の型だった。
「ジーク。「無」の型は一朝一夕でできる構えじゃないぞ。自分の集中力を極限ま
で高めて敵の攻撃をかわすと共に必殺の一撃を決めなきゃならない型だ。」
 ライルは注意する。それだけ危険度が高い型だからだ。危険度だけではなくその
難易度も最高レベルだった。
(しかし、ジークは「不動真剣術」の技はすべてマスターした。だからこそか?)
 ライルは冷静に判断する。ジークはすでに免許皆伝の腕を持っていることは知っ
ている。「無」の型も練習では何回もやらせたことはあった。しかし手合わせでや
るということは、それだけ覚悟をしなければならない。そしてジークは「無」の型
を解く気はないようだった。
「なら、俺もそれに応えてやろう・・・。」
 ライルは、ジークが本気であることを知ると構えを「攻め」の型に変える。ライ
ルが「攻め」の型を使うのは久しぶりのことであった。
「今日は父さんに・・・勝つ!」
 ジークはその「攻め」の型を見てもまったくひるまなかった。それどころか、前
に一歩ずつ歩み寄っていった。
(成長した物だ・・・。あのジークが・・・。)
 ライルは自分の戦乱時代を思い出す。あの時のライルもこういう覚悟を経験した。
そして強くなっていったのだ。
(だからこそ・・・。見極めるために手加減はせん!)
 ライルは目を見開くと、ジークに向かって木刀を振りに行った。
「はぁあああ!」
 ライルは横に縦にと変幻自在の振りを見せる。しかしジークはそれをことごとく
受け止めていた。ライルの振りの速さを見切るということは凄まじいことであった。
一見「守り」の型に見えたが、「無」の基本であるひるまず相手の動きを読む事に
関しては合格点であった。
(ここまで成長していたか!)
 ライルは嬉しかった。ジークは明らかに成長していたのである。
「でやぁ!!!」
 ジークは、ライルのちょっとした隙を見て流れるように打ち込む!
 バシィ!
 いい音がなった。それと同時にライルは吹き飛ばされる。
「くっ!・・・取られたか・・・。」
 ライルは、素直に完敗を認めた。ジークに一本取られるのは初めてのことであっ
た。しかし不思議と負けて悔しくなく、むしろ嬉しかった。
「やった。やったぞ!」
 ジークは感無量になって叫び声をあげる。
「見事だ。ジーク。まさか「無」の型をそこまで使いこなせるとは思わなかったぞ。」
「練習したからね。不安だったけど・・・。」
 ジークは本当に嬉しそうだった。しかしライルの嬉しさはそれの比ではなかった。
息子の成長ほど嬉しい物は無い。
「おめでとう!ジーク兄さん!」
 ゲラムが練習しながらも祝ってくれていた。それに返すように手を振る。
「ジーク。お前に渡す物がある。」
 ライルは、そう言うと家の中に入ってしまった。何かを持ってくるつもりなのだ
ろう。ジークは少し面食らったが、待つことにした。
 しばらくして、ライルが戻ってきた。
「受け取れ。そして、今日からお前が「不動真剣術」継承者だ。」
 ライルは、そう言うと一振りの剣と巻物を渡す。
「こ!これは!」
 ジークの手が震えている。無理も無い。この剣と巻物はただの剣と巻物ではなか
った。何度か目にしたことがある。
「そうだ。この剣は「怒りの剣」だ。そして、巻物は不動真剣術の「秘儀の書」だ。」
 ライルは、真面目な顔を崩さなかった。どうやら冗談ではないらしい。そしてジ
ークが継承者となることをこのライルが認めた証だった。
「父さん・・・。」
 ジークはあまりの展開にビックリしていた。
「良いか?ジーク。これはただの通過点に過ぎないんだ。これをどう使うか。そし
て、これらをどう活かすのかは、お前次第だということを、忘れるな。」
 ライルは、そう言うとジークの肩を優しく叩く。重みのある一言だった。そして
この瞬間からジークは継承者であることを肌に感じ取っていた。
「俺、まだ実感無いけど・・・不動真剣術を守って見せるよ!」
 ジークは、力強く答える。そして拳を握る。若々しくもしっかりとした拳だった。
「だが、これで終わりじゃない。ジーク。俺が見ていてやる。「怒りの剣」を抜い
てみろ。」
 ライルは少し緊張しながら言った。
「分かりました・・・。」
 ジークはなぜライルが緊張しているのか知っていた。「怒りの剣」は、資格の無
い者が触ると拒絶反応を起こすからだ。それは最悪、死に繋がる。
「・・・俺の鼓動を感じろ!怒りの剣!」
 ジークは、思いのままに怒りの剣を抜いた。
 ドックン!
 ジークは自分の心臓が高鳴るのを感じた。その瞬間、ジークは何か遠くを見る目
になった。
(怒りの剣の記憶・・・か?)
 ジークは目の前にまるで走馬灯のように流れる不思議な映像を見ていた。それは、
あたかも現実のようであり、幻覚のようでもあった。


 私の名は「怒りの剣」。元の名をペルジザードという。これから見せる物は現実
であり、尊い記憶でもある。そして、これを見た限りお前は私の力を受け止めねば
ならない。そこを十分理解していろ。
 事の起こりは、ルクトリアの国ができるときのことからだ。ルクトリアは、ただ
の草原だった。しかし私は金剛神ラウスの命により奥深くと眠りについていた。そ
れを解放したのが、現ルクトリアの祖先であるユード家の者だ。私はこのユード家
の者に力を貸すことを決めた。
 私とユード家の者が合わさった力は強大で、やがてユード家は更なる発展をする
ことになる。最初は貴族となり富を得たが、その後、軍事国家へと変わっていった。
だが、その過程においてユード家は私を裏切ることになる。
 私の真の力を知ったユード家の13代目だったか・・・。奴は私の力なくとも国
家は繁栄をもたらすと思ってか、そして私の力が弟達の手に渡るのを恐れてか、私
を地下の奥深くに封印した。私は再び眠りにつくことになった。
 いくら私とて自分の力で動くことはかなわぬ。所詮は人の手を借りねば動けぬ代
物であることに変わりは無い。
 200年ほどであったか・・・。私は眠っていた。静かであった。だが、私が動
く時がやってきた。それは古代文献を調べたお前の祖父シーザーの仕業であった。
私は歓喜した。動けるときがきたと・・・。しかしシーザーは器ではなかった。私
を手に取った瞬間、記憶が流れると同時に手を離しおった。現在において私の記憶
量に耐えられるほどの強靭な精神の持ち主は少ないということなのだろう。
 しかしシーザーは私の価値を見出していた。そして、それを使いこなせる能力は
お前の父ライルにこそあると見出したのだろう。奴は側近であるバリス=ストロン
という男に私のことを託していつでもライルに渡せるようにしておいたのだ。
 そして、時はきた。お前も話で聞いたことがある「秩序無き戦い」の後のことで
あった。ライルは私を抜き、すべてを受け止めた。今のお前同様にな。
 私の力をいち早く気づいたライルは、私をここぞという闘いにしか使わなかった。
私には特に対魔能力が優れているのに気づいたのだろう。かの黒竜王の時は私の真
の力を使いこなしてくれた。
 お前は、そのライルの息子であるというのなら、私が今から見せる映像を受け止
めなければならない。私を受け取った責任を果たしてもらわなければならない。そ
れを忘れるな。今から映像を送る。
 ・・・
(何だ!?ここは・・・。もしかして、ルクトリア!?)
 そうだ。そして、あれが、お前の父ライルだ。見えるか?
(もしかして、あの俺に似た人が・・・。)
 そう。そしてあの捕らえられているのがマレル。お前の母だ。そしてお前の母を
腕で持ち上げているのがリチャード=サンだ。
(あれが、母さんか・・・。そしてあれがリチャード・・・。)
 ほうけてる場合ではないぞ。あのリチャードこそ黒竜王の化身であり、お前の母
はリチャードの許婚だったのだからな。
(本当の話だったのか・・・。)
 信じられぬか?無理も無い。いまから音声も送ろう。その方が分かりやすかろう。
「ライル・・・。」
「マレル!」
 お前の父と母はこのときに既に恋仲であった。しかし、リチャードの出現でその
仲は切れる寸前だったのだ。
「性懲りも無く来たか。ライル。」
「俺はあきらめが悪いんでね。」
(父さん・・・本当に母さんのこと好きだったんだな。俺にもそういうことがある
のだろうか?)
 感傷に浸ってる場合ではない。お前はあの黒竜王の技をよく見ておけ。そのため
に映像を送ったのだからな。
(どういう意味だ?)
 わからんのか?お前はこれから魔族と闘うことになるということだ。お前にはま
だ感じないかもしれないがな。私にはわかる。魔族の胎動がな。ライルが私を使っ
て平和にしたのならお前が受け継ぐべき意志はもう決まっているだろう?
(俺が・・・やらなくちゃならないのか?)
 お前に意志が無いというのなら、私はこれ以上見せない。どうする?
(俺は父さんから不動真剣術を受け継いだ。なら、答えは一つだ。俺は父さんを超
える!見せてくれ。怒りの剣。)
 ・・・お前の意志は受け取った。もう後戻りは効かぬぞ。
「フッ。許婚であるマレルを引き渡せというのか?道理が通らんぞ?」
「リチャード。俺はその運命を呪った。だが俺がマレルを想う心は貴様には負けな
い!マレル!答えてくれ・・・。俺はもう許婚、いや運命には負けない!」
(父さんの激しい想いが俺にまで伝わってくる・・・。)
 うむ。私にも伝わった。恐ろしい力を感じたよ。この時にな。
「ライル・・・ライル!私は「月の巫女」じゃない!マレルでいられるのね!」
(母さん。苦しんでいたんだな・・・。)
「それはマレル。君次第だ。俺は君をあきらめきれない!」
「私も!」
 マレルとライルは見える通り、リチャードの手から奇跡的に抜けられたんだ。あ
の時に抜けられなかったらマレルの命は無かっただろうな。この時のリチャードは
放心していたんだろうな。許婚に裏切られたわけだしな。
「運命に負けないだと?とんだ茶番を・・・。」
(何だ!あのリチャードから流れるどす黒い闘気は!)
 見ておけ。あれが魔族が出す特有の殺気だ。暗く冷たい闘気の塊さ。
「我を差し置いてそのような茶番・・・許すわけには行かぬ。」
(暗い闘気が増大していく!)
「リチャード。以前の俺なら、貴様を見て絶望しただろう。しかし、今は違う。マ
レルと俺の未来を見るために貴様を倒す!」
(凄い!父さんは負けてない!あれが若い頃の父さんの本気!)
 そうだ。肌に感じるだろう?私とライルが合わさった本気が!
「見せてやろう。我の本来の姿を!」
(リチャードが黒い化け物に変身していく!)
「はぁぁぁ・・・。」
 見ておけ。ジーク。ライルは私と同化しつつ自分の精神を統一しているのだ。あ
の姿こそ私の力の真骨頂なのだ。お前もこれをやらなければならぬ。
「生まれ変りし「怒りの剣」よ!俺の精神を受け取れ!」
「笑止!我の敵になる人間など存在するはずが無い!」
 ここだ!ここの黒竜王の動きを見逃すな。
「死ねぇい!」
(手に光る暗褐色の球体はなんだ!?アレが暗い闘気の集まりなのか!?)
 そうだ。黒竜王はそれをライルにぶつけるが、ライルは私を使って斬ったのだ。
(あの球体を斬った!?しかも今のは・・・。)
 察しの通り、不動真剣術の袈裟斬り「閃光」だ。物凄いジャンプで袈裟斬りを繰
り出す技だったな。
(そう。そして「閃光」は名の通り見えちゃいけないんだ。)
「くぅう!我が闘気を斬って反撃しただと!?」
「俺は、今まで数々の戦乱を乗り越えてきた。貴様にはそれがない!負けてなるも
のか!」
 黒竜王はそんな言葉など耳を貸さなかった。奴のプライドというやつだろうな。
奴は連続してあの闘気の玉を発した。
「吹き飛ばす!・・・不動真剣術!旋風剣「爆牙」!」
(「爆牙」か!なるほど。あの技は剣の風圧を利用する技。闘気を風の力で押し返
そうというわけか!・・・上手い。闘いなれてる・・・。)
 その「爆牙」が功を奏したのだろうな。しかし全部跳ね返せたわけではない。ラ
イルもそれなりに傷を負っていたはずだ。
「チィ!」
「・・・馬鹿め。我が闘気をすべて跳ね返すなど出来るものか!」
(ああ!父さんがメッタ打ちにあってる!)
 一瞬の油断というやつだろうな。あの闘気で一瞬揺らいだのを黒竜王は見逃さな
かったのだ。
「ライル!」
「来るな!マレル!俺は勝つ!」
(父さんは、母さんを巻き込みたくないんだ。どこまで気丈な人なんだ。)
「寝ぼけたことを抜かすな!この体格差に実力差がまだわからんのか!オリャ!」
 ライルはこの時派手に吹き飛ばされた。体もボロボロにされたはずだ。しかし、
私を握る手の力は失っていなかった。黒竜王が得意満面に闘気をぶつける瞬間を待
っていたのだ。
「とどめだ・・・。最大のパワーで消してくれる!はあああぁぁ!」
「今だ!行くぞ!怒りの剣よ!」
(父さんが飛んだ!あの体で!?)
 この時ばかりは私も驚いた。しかしライルがやる以上私も付き合うことにしたの
さ。ライルだけではない。私も死を覚悟した物さ。
「こざかしい!消えろ!」
「俺自身の技を見せてやる!」
(父さん自身の技!?どういうことだ!?)
 知らなかったのか?不動真剣術は代々受け継がれてきただけではない。新しい技
を発見すればそれを書き加えるのも継承者の務めだぞ?忘れるな。
「不動真剣術!秘儀!「越光(えっこう)」!」
(速い!しかも飛んでるのにあの速さは何だ!?凄い!)
 私には感じた。この時のライルは光を超えたのだ。物理的な力でではない。精神
がそれを超えたのだ。
「馬鹿・・・な!この・・・私が・・・!」
 黒竜王も哀れな奴だった。奴は存在意義のためにリチャードを通じて君臨しよう
としたのだ。わざわざ魔界への扉を開いてまでしてな。
(父さんは母さんのために心を鬼にして倒した・・・というわけか。)
 そうだ。私が語るのはここまでだ。そこからはライルは私を一度も手にしていな
い。する必要が無かったのだ。今の黒竜王の闘い。忘れるなよ?お前は親父を超え
たいのなら覚悟して置くといい。言っておくが私を使った人間の中で最高の実力の
持ち主だった。それは間違いない。
(英雄・・・か。呼ばれるわけだ・・・。)
 もう気落ちしたか?お前は曲がりなりにもその英雄に今日勝ったのだろう?ライ
ルはこの稽古に一瞬たりとも手加減したことは無かったらしいぞ。誇りを持つこと
だな。
(偉大か・・・。だが!俺も父さんの息子なら超えてみせる!)
 よく言った。そろそろライルも心配している頃だ。戻るといい。


 ジークは遠い夢を見ているように静かだった。さすがのライルも心配している。
だが、ライルには分かっていた。ジークが何を見ているのかを。自分も体験したこ
とだ。しかしジークはライルの体験までも身に染みているのだろう。
「ジーク兄さん!大丈夫?」
 ゲラムも心配していた。ジークは目を覚ます様子は無い。しかしジークの目から
涙が流れたのを見て、ビックリする。
「う・・・ううう・・・。」
 ジークは苦しそうに目をあけた。
「気がついたか。ジーク。」
 ライルが優しい目でジークを見守る。ジークはそんなライルと怒りの剣が見せた
ライルを自然と比べてしまう。
「よかったぁ。まるで魂が抜けたかのようだったよ?」
 ゲラムはかなり心配だった。
「・・・抜けたかもしれないな。」
 ジークは、静かに起き上がる。
「怒りの剣は、見せてくれたか?」
 ライルは静かに尋ねる。ジークは、黙って首を縦に振る。怒りの剣は大いなる記
憶を見せてくれた。ルクトリアの歴史、魔族との戦い方、そして父の偉大さをだ。
「父さん。俺は負けないよ!」
 ジークは、すがすがしい笑いを浮かべた。それが何を意味しているのか、ライル
には理解できた。
「俺の全盛期を超える気か?やってみろ!」
 ライルは、励ますように笑うとジークの肩を叩いてやる。
「僕だって負けないぞ!」
 ゲラムはつられて言ってしまう。
「それには、素振りを忘れちゃいかんぞ?ゲラム?」
 ライルは、ゲラムが素振りをまだ終えてないのを知っていた。
「ちぇ。ライル叔父さんは抜け目が無いなぁ。」
 ゲラムは、そう言うと素振りをはじめた。
「ジーク。今日のこと、忘れるな。そして俺を必ず超えろよ?」
 そう言うライルの眼は限りなく優しく、そして力強かった。ジークは拳を握りつ
つも決意を新たにしていた。
 英雄ライルの息子ジーク。そして不動真剣術の継承者の誕生の瞬間でもあった。



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