NOVEL 1-4(First)

ソクトア第2章1巻の4(前半)


 4、旅立ち
 遥かなる歴史を持つ法治国家ストリウス。ここには、数多くの遺跡がある。かの
黒竜王が刺激した事によって、ストリウスは今、多くの魔族や龍など異世界の者達
が溢れ返っていた。と言っても表面に出ているのは、ほんの僅かで、多くは奥の奥
の方で力を蓄えている者が多かった。
 しかし、その中でもワイス遺跡は別格で、かの神の戦争にも大きく関わった事の
ある「神魔」ワイスが眠っている土地であった。ワイスは、当時の5大神と呼ばれ
る神の中でもトップクラスのエリート達によって魔界へと封印されてしまったので
ある。呼び出すためには、それ相応の『闇の骨』と封印が解ける400年間の時を
必要としたのだ。
 魔界剣士であり、ワイスの忠実なる配下であった砕魔 健蔵は、奇跡的にも封印
から逃れる事が出来たので、じっと地下で待っていたのである。『闇の骨』を胸に
抱いて・・・。しかし、それは人間の凄腕の盗賊によって邪魔されてしまった。そ
の盗賊の特殊技能である「隠れ」の能力に、してやられたのだ。健蔵はワイスが封
印されてから、ずっと張り詰めた状態で居た。精神的に疲れた所を、その盗賊にや
られたのだった。
 それから健蔵は、すぐ様、その盗賊を見つけて打ち殺したのだが、盗賊の手にす
でに『闇の骨』は無かった。ワイス遺跡のどこかに落ちてしまったのだ。逃げてい
る最中に盗賊が落としたらしい。探そうにもワイスの封印を見張る義務を怠っては
いけないので、何も出来ずにいる状態が続いた。
 しかし、愚かな人間の手によって、ワイスは復活と相成ったのだ。
 ワイスは、若干の遅れを感じたが、問題は無かった。地上では神に匹敵するほど
の人間の気配はしない。神も、どうやら他に問題が起きたようで、魔界からのワイ
スの復活を感じ取る様子も無かった。
 そしてついに、ワイスは、同胞の復活を試みる事になる。
「健蔵。まだ我の力は、復活には程遠い。復活の手伝いをせよ。」
 ワイスは、一際大きい『闇の骨』を取り出す。
「あのー・・・。私は・・・。」
 一人残されたルドラーが、暇そうにしていた。
「お前は扉を見張っていろ。その扉を開けると、我が瘴気が、抜け出す畏れがある。
神共に気づかれるのは、まずいからな。」
 ワイスは的確に指示を出す。ワイスとて馬鹿ではない。まだ戦力も揃ってないの
に神と闘うほど愚かではなかった。ルドラーは、どうせ断れもしないので、見張っ
てる事にした。確かに外に瘴気が流れ出さないようになっている。
「ワイス様。その『闇の骨』は、クラーデスのですか?」
 健蔵は、『闇の骨』の形を見て気がつく。
「察しが良いな。我の片腕には、ちょうど良かろう。」
 ワイスは、ニヤリと笑う。
「はい。しかし、お言葉ながら、あのクラーデスが、ワイス様の命に素直に従うと
は思えませぬ。」
 健蔵は、クラーデスの事を知っていた。
 クラーデス。魔界では「魔王」の地位である。しかし、同じ魔王にもランクと言
う物があって、クラーデスは、その中でもピカイチの実力を持つ魔王だった。性格
は、豪快にして自信家。真っ直ぐ伸びた自分の角が誇りの証。プライドは、極めて
高く、そう易々と従うような魔族では無かった。魔界では「魔王の中の魔王」と言
われる程の実力の持ち主であった。
 しかし、クラーデスは「神魔」の試練をしていない。故に、どうしても今わの際
でワイスには負けてしまう。しかし、ワイスとの実力差は大きくなく、そのうち取
って代わろうとしている事は、明白だった。
「分かっておらぬな。健蔵。我の言う事を従うのは、お前だけで充分なのだ。クラ
ーデスには、別に泳がせておく。それが目的だ。」
 つまり、同胞として呼ぶのではなく勢力として呼び出すのだ。神との闘いになれ
ばクラーデスは、喜んで出陣するだろう。そうなればワイスは、この上なく有利な
状態で戦える。それに邪魔な人間を打ち倒す役目でも与えておけば、正確にこなす
程の実力も持ち合わせている。
「そこまで深くお考えであったとは!この健蔵、まだまだ精進が足りませんでした。」
 健蔵は、ワイスにひれ伏す。
「分かればよい。それに、奴とは我が魔界に封印されていた350年の間に一度も
我に勝っていない。要は使いようだ。健蔵よ。」
 ワイスとて、ただ封印されていた訳ではない。魔界では、それぞれ力を磨く事も
する。そしてクラーデスとは、よく戦闘をした物だ。だがワイスは、一度たりとも
負けてないのだ。今わの際で「神魔」と「魔王」の差が出てしまう。
 健蔵は、この350年間、一日たりとも修行を怠っていなかった。魔族は意外に
求道者が多い。神に負けまいと磨く精神が、そうさせているのだろう。
「分かりました。それで、いつ執り行いますか?」
 健蔵は日時を聞く。
「そうだな。この『闇の骨』では少し足りぬ。少し時間を置いた方が良いな。」
 ワイスは、気の長い話をする。基本的に魔族は寿命が長いので、細かい事で気に
したりは、しないのだ。
「では、私も修行をしてまいります。ワイス様も、お力を蓄えて下さい。」
 健蔵は、そう言うと自分専用の部屋に入る。恐らく、修行する場所に作り変えて
あるのだろう。ワイスは、それを見ると再び眠りに入る。
 ルドラーは、なんだか馬鹿らしくなったが逆らうわけにも行かず、そのまま見張
っている事にした。


 ジークの誕生日も終わりが来ようとしていた。20人以上集まった、今回の誕生
日は、凄い騒ぎになった。ジュダの持ってきた酒が回ったのか、ジークが不動真剣
術を披露したり、それにつられて子供達も、大人達も入り混じってドンちゃん騒ぎ
になった。
 それにしても、ジークの酔いッぷりは凄かった。目が据わると、まるで目に焦点
が合ってないまま、踊りだす始末であった。不動真剣術を披露すると言っておいて、
かなり狙いがずれたりして、かなり危険だった。これからは、ジークに酒を飲ます
のは控える事にしようと、全員が誓ったのだった。
 ツィリルも面白がってお酒を飲んだ時も凄かった。才能があるのは、良い事なの
だが、まるで制御が出来てなく、その辺の木に向かって「火炎」の魔法や「爆発」
の魔法を撃ちまくって、目の前が焼け野原になったりして、後始末が大変だった。
危うく山火事になる所だった。
 そんなこんなで、楽しく過ごせたのだが、もう日も暮れて、酔いつぶれた者達は、
家の中でグースカ寝ていたし、酔いつぶれてない者は、後片付けをしてクタクタに
疲れていた。外ではキャンプテントを張って寝てる者が、かなり居た。ユード家は、
自然がいっぱいなので、ちょっとしたキャンプ気分だった。
 そんな中、家の中でまだ酒を酌み交わしてる者達が居た。
「ライル。お疲れ様なことだ。」
 ヒルトが酒を酌しながら話しかけてきた。ライル、ヒルト、ジュダの3人は特別
酒が強かったので、まだ飲み足りないのか、家の中で、まだ飲んでいた。
「疲れたよ。でも楽しかった。俺は満足だよ。」
 ライルは、笑いながら酒を飲む。
「ジークとツィリルの乱れようは、凄かったな。面白かったぜ。」
 ジュダは思い出して笑う。
「ジュダさん。もう勘弁してくださいよ。こんなの続けてたら、家まで壊されちゃ
いますよ。」
 ライルは困った顔をする。さすがに、ジークもツィリルも気にしてたのか、家に
まで被害が出る事は無かった。しかし、あのまま放っておいたらまずかっただろう。
「久しぶりに楽しく過ごせた。礼を言うぜ。ライル。」
 ジュダは、フッと笑う。それは寂しげな笑いにも見えた。
「大げさですよ。ジュダさん。」
「大げさじゃないさ。俺は、もうここを発たなきゃならんのでな。」
 ジュダは、そう言うとコップに入っていた酒を全部飲み干す。
「そ、そうなんですか?それは残念だ。」
 ライルは面食らった。さすがに2,3日は、ゆっくりしていくと思っていたのだ。
「次は、どこへ行くんだ?」
 ヒルトが尋ねておく。そうでもしないと、また4,5年は会えないと思っていた
のだ。ジュダは、風のようにやってきて風のように去る時が多い。所在も不明なの
で、中々会えないのだ。
「そうだな。バルゼに少し用がある。とだけ言っておこう。」
 ジュダは、相変わらずハッキリは言わない。
「おい。ジュダ。何をしている。そろそろ出るぞ。」
 赤毘車が、いつの間にか支度を済ませて降りてきた。
「赤毘車は、せっかちだな。まぁ人の事は言えないか。」
 ジュダは、掛けてあったマントを羽織る。いつものスタイルに戻っていた。もう
出るつもりなのだろう。
「他の奴は、皆寝てるみたいだな。別れづらくなるのも嫌だからな。そろそろ行く
ぜ。楽しかったぜ?」
 ジュダは、そう言うと玄関の扉を開ける。そして、ライルとヒルトに挨拶代わり
に指でサヨナラの合図をする。
「また来てくださいよ。ジュダさん。」
「俺も待ってます。ジュダさん。」
 ライルとヒルトは、それぞれ礼をする。それを見ると、ジュダは、次元の扉を作
って、赤毘車と共に行ってしまった。なんとも忙しい人達であった。
「2人抜けただけで寂しい物だな。」
「これから、そんな思いが多くなる。慣れておく事だ。ライル。」
 ライルが、情緒に駆られていたので、ヒルトが慰める。
「そうですね。ところで話ってなんです?」
 ライルは切り出す。元々、ヒルトがライルに話があるという事で、酒に託けて2
人で居たのだ。そこに、たまたまジュダが通りかかったのである。
「ああ。父上たちの事でな。」
 ヒルトは、顔を曇らす。ライルも、あまり明るい顔ではなかった。ライルとヒル
トの父、シーザーは、現在ルクトリアの王として君臨している。しかし、もう高齢
で、現在では側近のクライブ=スフリトの助け無しでは歩く事も自由では無かった
らしい。しかし、クライブとて、あの戦乱を経験したほどなので、若くは無い。2
人の母であるカルリール=ユードは、比較的しっかりしているが、それでも高齢な
のだ。2人にとっては心配ばかりである。
「ライル。お前に家庭が、あるのは分かっている。だが、2人が心配なんだ。」
 ヒルトは、ライルに行って欲しかった。ライルが帰れば、あの2人も元気を取り
戻す事だろう。幸いライルは、ジークに継承者を譲ったので、立場的には一番行け
る立場ではある。
「このまま、アルドとルースに任せるのは忍びないんだ。」
 ヒルトは、アルドとルースには感謝している。同じルクトリアの街に住んでいる
ため、アルドもルースも、ちょくちょく顔を出しているのだ。しかし、それにも限
度という物がある。いつまでも2人だけに負担を掛けるのは好ましい事ではない。
「俺は、プサグルの王と言う立場がある。それは非常に申し訳ないと思っている。」
 ヒルトの負い目は、そこだった。ヒルトは一度国を捨てた人間なのだ。そう易々
とは帰れないのだ。それにプサグルを離れる訳にも行かないのだ。
「兄さん。負い目を感じる事は無い。兄さんは、間違った事はしていない。」
 ライルは、フォローをする。
「済まない・・・。」
 ヒルトは、ライルのフォローが嬉しかったが、納得している訳ではないのだ。
「ライル頼む。あと2年で良い。2年経ったら・・・俺は引退する。」
 ヒルトは驚くべきことを言う。
「兄さん・・・。本気ですか?」
「本気だ。そして後をゼルバに継いでもらう。あいつには、資質がある。」
 ヒルトは、ゼルバの王としての資質は、自分よりも高いと睨んでいた。
「分かりました。それまで尽力しますよ。」
 ライルは、ヒルトの覚悟を受け取った。
「ただし、条件があります。この家の世話を頼みたい。」
 ライルは、それだけが不安だった。この家には、まだジークとレルファが居る。
しかし、2人だけに任せるには、不安があるのだ。
「任せておけ。選りすぐりの執事と手伝いを送ろう。」
 ヒルトは固い約束をする。ライルの気持ちを考えれば当然の事だ。
 2人は互いに握手すると、同時に酒を飲み干す。互いに信頼しあった素晴らしい
兄弟であった。2人は、それぞれの寝室に入った。
 ジークは、そんな中、目覚めた。そして偶然だが、2人の会話を聞いてしまった
のである。
(そうか・・・。祖父ちゃんと祖母ちゃんも歳だもんな・・・。)
 ジークは普段、何気なく過ごしている。だが、それは両親が居てこその物だと気
がつく。
(甘えてる場合じゃないよな。俺は、今日で20なんだ。)
 ジークは、成人して2年を迎えていた。ソクトアの成人は18歳と言われている。
(父さんは、俺がしっかりしてないから、あんなに不安なんだ。)
 ジークは、ふと考える。自分がしっかりしてれば、この家も任せられるはずであ
る。しかし、ライルはジークに、そこまでやらせるつもりは無いのだ。
(決めた・・・。)
 ジークは決意する。そう。ジークは、この家を出る事を決意した。前から何度か
出ようと思ったことがある。しかし、その度にライルに「まだ早い」と止められて
いた。しかし、今日で20である。ここでやらなければ、いつやるのか?
(みんな寝ている。今しかないんだ。)
 ジークは、皆を起こさないように自分の部屋に向かう。前々から出る時のために
貯めた金貨が30枚程ある。普通の一日の平均が銅貨(金貨の100分の1の通貨)
30枚と言われている。30枚もあれば、3ヵ月半は、もつだろう。ジークは金貨
を握り締めると、しっかりと旅用の袋の中に入れる。そして皆のプレゼントを入れ
ておく。魔法剣は、そのまま腰に差して行く事にした。
(皆の気持ちは無駄にはしない。だけど、グリードだけは心配だな。)
 ジークは、そおっと玄関の方に向かうと、静かにドアを開ける。音は極力立てな
いようにしていた。どうやら、ライルとヒルトも無事寝ているようである。
 そして厩舎の方に向かう。そこには、既にグリード専用のスペースがあって、可
愛らしい寝息を立てて寝ていた。
「行ってくるよ。グリード。」
 ジークは、暖かい目でグリードを見る。するとグリードは起きて、ジークの目を
見る。そして、優しい目をすると、まるで、いってらっしゃいとでも言わんばかり
に羽根を振る。ジークは少し笑うと外に出た。そして、決意を新たに修道院の方へ
と向かう。あと30分ほどで最終の馬車が停車場に来るのだ。向かう先はストリウ
スだと知っていた。あそこは貿易が盛んになってきて、宿も遅くまでやっている。
ストリウスで冒険者が休むための馬車が、最終なのだ。この修道院とストリウスは、
かなり近いため、ストリウスには、3時間程で着くのだ。
「ふう・・・。俺が、居なくなってたら、みんなどう思うんだろうな。」
 ライルとマレルの反応は、分かっていた。黙って安否を気遣ってくれるだろう。
他の人は、ジークと剣を合わせたがっていた人も居たので、残念がるだろう。そし
て、レルファは・・・。
「怒るだろうな・・・。あいつは。」
 ライルは、ふと、そんな事を考えていた。
「あったり前でしょ?勝手な事して。」
 隣にレルファの声が聞こえるかのようだ。レルファだったら、こういう風に怒る
だろう。・・・とジークは振り返った。
「レ、レ、レ、レルファーーー!?」
 ジークは、ビックリした。確かに、ここに入るまでは1人だったはずである。し
かし、いつの間にか、レルファが居たのだ。
「ちょっと、静かにしてよ。結構家と、ここ近いの分かってる?」
 レルファは、焦ってライルの家の方を見た。しかしジークは、それどころではな
かった。
「お前!なんで!いや、それより、どういうつもりだ?まさか・・・。」
 ジークはレルファが、ここに来た意味を必死に考えていた。一つしかないだろう。
「兄さんねぇ。料理の一つも出来ない人が、1人で旅なんか出来ると思うの?それ
に魔法使いが居た方が、後々便利だと思うけど?」
 レルファは痛い所をついてくる。
「そりゃそうだけどな。遊びじゃ無いんだぞ?」
「だーれーが!遊びなんて言ったのよ。私だって・・・聞いたんだもん。」
 レルファは、ライルとヒルトの会話を聞いてしまったのだろう。それでジークと
同じ答えに至ったのだろう。そう言う所は、さすが兄妹だ。
「そうか。まぁ俺たち2人居なくなれば、母さんも父さんに付いて行くもんな。」
 ジークは、レルファが寂しい思いをするよりは、マシだと思ったのだろう。
「でも、あいつが悲しむぞ?」
 ジークは、サイジンの事を言う。レルファは、少し俯いていた。
「ご心配無用!私は、もう旅支度が出来ていますからね!」
 突然、後ろから声がした。いつもの大声では無いが、はっきりとした口調だった。
「げ・・・。サイジン・・・。」
 レルファは、さっきの俯きが、嘘のようにジト目になっていた。
「おお。レルファ。私は、あなたの盾となりお守り致します!どうぞ、ご同行を!」
 サイジンは浸りまくっていた。この男に駄目だと言っても聞く物じゃないだろう。
却って行き辛くなるだけだった。
「兄さん。しょうがないわよね・・・。」
 レルファは、ジークの方を見る。ジークも同じ考えだったみたいで、頭を抱えて
いた。しっかり旅支度している辺り、この男の器用さが出ている。
「ジーク義兄さん。感謝いたしますぞ!」
 相変わらずのテンションであった。この先も、こうなるのかと思うと頭痛がした。
「ジーク兄さん。黙っていくなんてずるいよ?」
 また声がした。しかも、この声は・・・。
「ゲラム!・・・おいおい。お前は王子なんだぞ?連れて行くわけには行かない!」
 ジークは、さすがにゲラムは、まだ若すぎるので連れて行くわけには行かないと
思った。しかし失言だった。
「王子は関係ないよ。ジーク兄さんは、僕に覚悟を教えてくれたんでしょ?僕は、
もう覚悟してるよ。嫌とは言わせないからね。」
 ゲラムは頑として聞かなかった。意外に芯が強いのかもしれない。いつもフラル
にやられるイメージがあるが、いざとなった時の精神力は、目を見張る物がある。
「いつ馬車くるのー?」
 横の方で声がした。いつの間にか、ツィリルが居た。
「ツ、ツィリル!おいおい。ルースさんが、心配するぞ?俺、責任持てないよ。」
 ジークは参っていた。1人で行くはずが、いつの間にか5人である。情緒も何も
あったもんじゃない。
「ゲラム君を連れてくのに、わたしは駄目なの?」
 ツィリルは、どうしても付いて行くつもりだった。目を見れば分かる。いつもの
素直なツィリルが、懐かしいくらいである。
「ハハッ。兄さん。あきらめなよ。旅は道連れって言うしさ。皆、強いじゃない。」
 レルファがフォローする。そう言う問題じゃないんだが、少しは気休めになった。
「おやおや、みなさん夜更けに騒いでは、いけませんよ?」
 修道院の入り口付近に、もう1人居た。
「ト、トーリスさん・・・。」
 ジークは、もう頭がこんがらがっていた。1人で出たはずなのに、こんなに付い
て来るとは思わなかったのである。自分の忍び足の能力を疑ってしまう。
「皆で物見・・・って訳でも無さそうですね?」
 トーリスは、わざと言う。分かっているのだ。トーリスは、家に連れ戻そうとし
ているのだろうか?
「トーリスさん。見逃してください。俺は、決心したんです。」
 ジークは、頭を下げる。
「フッ。ジーク。良く考えなさい。私が止めに来た格好に見えますか?」
 トーリスは、しっかり旅支度に身を包んでいた。止める処か、これでは・・・。
「まさか、トーリスさんまで・・・。」
 ジークは、頭を抱えた。
「だいたい、あなた達だけで、宿のチェックインとか出来ますか?」
 トーリスは現実問題を突きつける。確かにトーリスの言うとおりだった。成人じ
ゃないレルファ、ツィリル、ゲラムは論外として、サイジンが出来るとは思えない
し、そう言うガラでも無い。ジークは、今回が初めての旅なので、やったことがな
い。オロオロするのは目に見えていた。
「・・・こちらこそ頼みます。」
 ジークは、観念してトーリスに頭を下げる。実際に、トーリスが居れば自分が一
番の年長じゃないのでジークとしては気が楽になる。それにトーリスは、魔術と体
術の天才だ。戦力にならないなんて事は絶対に無いだろう。
「よろしい。細かい事は、私がやります。ジークは、ストリウスで何をすべきか決
めて下さいね。それが大事なのですよ?」
 トーリスは釘を刺す。そう。ただ旅をすれば良いのではなかった。ジークは生き
方その物を学ばなければ意味が無いのだ。ジークは考え込む。
「決まりだね!後は、馬車がくれば、しゅっぱつだねー♪」
 ツィリルは、妙にはしゃいでいた。このテンションが、いつまで続くかが心配だ
った。でもジークも気が紛れて来る。
(こういう旅も・・・悪くないか。)
 ジークは、苦笑する。
「どうやら来たようですぞ!行きましょう!レルファと、その仲間達!」
 サイジンが相変わらず失礼な事を言う。が、確かに馬車が来たようだ。他に人が
来る気配も無いので、ジーク達は、停車場の方に急ぐ。
「今日の最終馬車だ。乗ってくかい?」
 馬車の引き手がジーク達を見て尋ねる。
「ええ。ストリウスまで6人。お願いします。」
 ジークは、金貨を出そうとする。それをトーリスが止めて銅貨を6枚出す。そう。
ここで金貨を出したら、お釣りなんて返ってきやしないのだ。それが、ジークには
分かっていなかった。しかし、ジークも意味を知って、赤面する。どうやら常識か
ら教わった方が良いようだ。
「確かに受け取ったよ。乗ってくだせーや。」
 引き手が快く馬車の扉を開ける。どうやら、今日はジーク達しか居ないようだっ
た。ちょうど良いのかも知れない。皆、乗り込む。
「じゃぁ頼みますよ!」
 ジークが言う。すると馬車は走り出した。すると、皆、ユード家の方向を見る。
馬車に乗った事のあるツィリルでさえ見る。最も今回は、ただの旅じゃない。スト
リウスで何をすべきか探す、いわば冒険なのだ。
「俺は、見つけるよ。父さん!」
 ジークは、拳を握って決意を新たにした。
 誕生日が区切れ目と言うのも珍しい事では無いのかも知れない。しかし、人生の
転機など、そんな物である。そしてジークは選んだのだ。自分の人生の始まりを。
 英雄の息子ジークの新たなる第一歩の始まりであった。


 法治国家ストリウスは厳かな国家で、天上神ゼーダを信仰する一派として考えら
れてきた。実際に、この街は宗教的なあらゆる要素が集まっていて、寺院や遺跡、
はたまた、歴史的な建立物などを観光するための土地として考えられてきた。ソク
トアの中でも1,2を争うほどの歴史を持つ国で、南の大国として知られていた。
 だが、そんな国も、時代の流れには逆らえないのか、遺跡や寺院などに化け物の
類が出るようになってから、冒険者が続々と集まり、いつの間にか、冒険者の国と
して有名になる事になる。しかもストリウス人も、逞しい物で、それを利用した商
品などの輸出を頻繁に繰り返すようになり、あっという間に冒険者の集う国として
機能してしまった。それは黒竜王の戦い以降の事なので、ここ最近になってからの
事ではあるが・・・。
 ストリウスには、城が無い。王政ではない証拠だ。ストリウスには大きな教会が
ある。そこにストリウスを治める法皇がいる。しかし基本的にお触れを出すという
感じではなく、あくまで外交の取引に参加する程度の権利しかなく、自由の多い国
柄ではあった。共和国と呼ばれるならデルルツィアよりも、むしろこちらの方が相
応しいと言えよう。デルルツィアは便宜上共和国と呼ばれているが、王と皇帝が治
めてるだけの王政や帝政と全く変わりは無かった。
 そのストリウスの街にある多くの宿は、かなり遅くまでやっている。冒険者が、
いつやってきても良いように対応している証拠だろう。しかし、そのせいか治安は、
かなり悪く盗賊団なども数多く居るのも特徴だ。
 ストリウスの街の出口の近くに「聖亭」という宿屋がある。ここは経営者が聖職
者をやっていて、熱心な天上神信教者なので「聖(ひじり)」の文字を付けたと言
われている。
 聖亭の女将であるファン=レイホウは、女手一つで聖亭を守ってきた。経営者は、
既にレイホウに全ての宿の管理を任せている。それだけ絶対の信頼を置いている手
腕の持ち主だった。料理から後片付け、宿の中にある酒場の雰囲気まで細やかな配
慮が感じられる。その点は、さすがだった。
 レイホウは、生粋のストリウス人で髪もガリウロル人と同じく黒髪で、後ろにお
団子を作って纏めていた。今年で、もう45歳になる。
 そんなレイホウにも一人娘が居た。勝気な娘で、ストリウス拳法を、悉く身に付
けて、体術は、もちろんのこと棒術に特に優れた動きをしている。名前は、ファン
=ミリィと言って、栗色の髪が多いパーズ国の父親との間に生まれたハーフであっ
た。髪は栗色の長めで、頭の両脇にお団子を作っていると言うストリウス人特有の
髪型を好んで使っていた。今年で、もう19歳になった。
「母さん。コレ持っていくヨ。」
 ミリィは、今日最後の客に食事を持っていく。
「気をつけるんだヨ?」
 レイホウは、食事をミリィに渡すと、ミリィの背中を叩く。ミリィは、笑顔でそ
れを返す。信頼しあっているのだろう。パーズ人の父親は、既に他界していて、娘
と従業員僅かで、切り盛りしている。だが、お客は結構繁盛している。料理が安い
割には美味いと言う事で有名になっていた。宿の方も、住みやすいと言う事で、常
連さんが利用する事も多かった。
「お客サーン。これ最後ネ。ゆっくり味わってヨ。」
 ミリィは最後の客に食事を渡し終えた。お客は、ミリィに色目使っていたが、ミ
リィは相手にしない。こんな事は日常茶飯事なので、無視しているのだ。お客様に
喜んでもらうのは、あくまで食事と宿であって、自分ではない。それを弁えている
証拠だった。
「さて、そろそろ店じまいにするかネ。」
 ストリウスでも、最終の馬車が来てから1時間後には、皆、店仕舞いをする。あ
んまり夜遅くまで開けてると、今度は盗賊などに狙われる事になるからだ。レイホ
ウも、その例に漏れず、時間を見計らって、宿を閉める事にする。
「あれれ!?もう終わり!?」
 外から素っ頓狂な声がする。レイホウは不思議に思って外に出る。すると、この
時間には似合わず、若い6人組が外で嘆いていた。
「この時間ですからねぇ。ストリウスは最終馬車が来て1時間で店も終わると聞き
ます。そろそろ店仕舞いと言うのは当たり前の事ですよ。」
 大きな三角帽子を被った冷静そうな青年がため息をつきながら説明する。
「まったく・・・。いくら初めてだからって、皆、土産物屋で長く居過ぎよ。」
 修道院の出だろうか?どことなく清楚な雰囲気を持つ少女が、ジト目で、でっか
い剣を背負ってる剣士に言う。
「ハッハッハ。手厳しい!これでは、野宿しかありませんな!ハッハッハ!」
 無意味に大笑いしている青年も居た。どうにも軽そうな男であった。
「僕、野宿なんて初めてなんだけど・・・。」
 どことなく気品がある少年が、困った顔をしていた。
「わたしもはじめてー♪楽しいのかな?」
 物凄く明るい少女が無闇に、はしゃいでいた。
「とにかく、ここは誠意を持って頼むしかないだろ?」
 剣士が、困った顔をしながらも、こちらに向かってくる。さすがのレイホウも唖
然としていた。中々濃い連中だった。ただ楽しそうな雰囲気はあった。
「すみません。宿に泊めてもらえませんか?」
 剣士が深く頭を下げる。全部聞いていたレイホウは、つい笑ってしまう。
「入りなサイ。このストリウスで野宿は危険だからネ。」
 レイホウは、この連中が、つい気に入ってしまったのだ。
「あ、ありがとうございます!」
 剣士は、本当に嬉しそうだった。中々表裏の無い性格である。
「母さん?店は閉めタ?ってアレ?」
 ミリィが、あんまり時間が掛かってるので、心配してこちらに来た。
「ミリィ。お客さん、6人追加だヨ。」
 レイホウは、優しい目をしていた。
「母さん甘いネ。まぁ良いけどネ。」
 ミリィは、そう言うと6人を見渡す。その6人とは、もちろん、ジーク達6人の
事であった。最終馬車でストリウスに来たのは良いが、ジークとサイジンとゲラム
が、土産物屋で躓いてしまって、店仕舞いにするまで張り付いて見ていたのだ。
「一時は、どうなる事かと思ったよ。助かりました!」
 ジークは、レイホウに向かって礼をする。それに倣って6人共、礼をした。
「こっちは、お客さんが取れて助かるヨ。気にしないデ。」
 レイホウは、そんな事は、少ししか思っていないのだが謙遜した。その辺の心遣
いが、この宿の良い所だろう。
「早速、手続き済ませるネ。」
 ミリィは、宿帳を持ってくる。ジークは、勧められてたじろいだ。生まれてこの
方、宿帳に何を書けば良いのか知らないのだ。トーリスは、クスリと笑うと、ジー
クからペンを貸してもらう。ジークは申し訳無さそうにしていた。
「・・・こんな物ですかね。」
 トーリスは、スラスラと書いていく。早い上に、とても字が綺麗だった。この男
は、何をやらせても、そつなくこなしてしまう。
「で、リーダーは誰ネ?」
 聖亭では、パーティーを泊まらせる場合、何かと連絡を取るのに、リーダーを呼
ぶ事が多い。大概のパーティーは、リーダーを決めているので話は早いのだが。
「そういえば、決めてませんね。・・・と言っても1人しか居ませんね。」
 トーリスは、皆を見渡す。皆は頷く。ジークだけ訳が分からない様子だった。ト
ーリスはリーダーに丸印を付ける。
「リーダーのジーク=ユードさん誰ネ?」
 ミリィは、リーダーの名前を告げる。
「え?ええ!?なんでぇ?」
 ジークは、ビックリした。自分ではなくて、トーリスだと思ったからだ。トーリ
スの方が、何でも知ってるし、頼りになる。歳だって自分より上だ。
「チョット。静かにしてヨ。寝てるお客さんも居るネ。」
 ミリィは、ジークを睨む。ジークは素直に謝った。
「すみません・・・。」
「分かれば良いネ。で、ここにサインと、御代もらって終わりヨ。」
 ミリィは、そう言うと宿帳を指差す。ジークは、手早くサインして、金貨を10
枚渡す。金貨10枚でも、この宿なら1ヶ月の泊まり代にはなる。
「1ヶ月、よろしくネ。」
 ミリィは、とびっきりの笑顔を見せる。
「こちらこそ、よろしく。」
 ジークは笑顔に笑顔で返す。中々感じの良い宿だった。
「それぞれの鍵ヨ。女の子2人と男4人で2部屋貸すヨ。」
 レイホウは、鍵を渡す。203号と204号室だった。203の方が、少し部屋
が小さいので、203号室をレルファに渡す。
「ウム。女将さん。私は、レルファと同室でも構いませぬぞ。身も心も捧げてます
のでね。」
 サイジンは、浸りつつも説明する。
「何を言ってるの?入ってきたら、「熱」じゃ済まないと思ってね。」
 レルファは、恥ずかしがりながらも怒った顔で「熱」の魔法をサイジンに見せる。
「不動真剣術で顔の形が変わっても良いのなら、レルファの部屋に入るんだな。」
 ジークも腰の剣に手を当てて、かなり怖い顔で笑いながら脅す。
「お二人共、大人気無いですぞ。私は、皆さんの緊張を解すために、こうやって和
らげてるのではありませんか。いけませんぞー。」
 サイジンは、半分本気だったくせに、よくもヌケヌケとこんな事を言う。レルフ
ァもジークも分かっていたので、これ以上相手にしなかった。
「ま、私が見張ってます。安心してなさい。」
 トーリスがレルファとツィリルに合図を送る。
「・・・しょうがないなぁ。」
 ゲラムも呆れていた。この調子では、頭が痛くなる事も多くなるだろう。
「わたし、お腹すいたなー。」
 ツィリルは、お腹を押さえる。確かに、昼から何も食べていない。寝てるのなら
ともかく、馬車で3時間、乗っていたのだ。お腹も空く筈である。
「荷物置いてきたら、用意するヨ。」
 レイホウは、優しい口調でいった。
「母さん。甘すぎるヨ。今日は、もう店仕舞いだったのヨ?」
 ミリィは、宿の扉に鍵を掛けながら、母親の甘さに呆れた。
「ミリィ?覚えておきなサイ。お客の気持ちを察するのがプロなのヨ。」
 レイホウは、6人の様子を見て、ただの疲れじゃ無い事も分かっていた。何か大
事な用事があって、慌てて出てきたのだろう。食事をする間も無かったのだ。
「ありがとー♪女将さん、だーい好き♪」
 ツィリルが、本当に嬉しそうに笑う。それを見るとレイホウは、本当に満足そう
にしていた。ミリィは、それを見て、呆れながらも納得した。
 6人は、よほどお腹が空いていたのか、荷物を手早く置きに行くと、軽装に着替
えて、すぐに降りてきた。
「待っててネ。腕によりをかけるネ。」
 レイホウは、食事の用意をしていた。ミリィは食器の用意をする。
「レディだけにやらせるのは、忍びない。私も手伝おう!」
 サイジンが、余計な事を言って厨房の方へと向かう。
「お断りするネ。私達には私達の誇りがあるヨ。今日来たばかりのお客様に手伝わ
せる訳にはいかないネ。」
 ミリィが怖い目で睨んできた。サイジンは、すごすごと席に戻る。
「ミリィさんは、宿の仕事に誇りを掛けてる。・・・俺も誇りを掛けなきゃな。」
 ジークは、そう言うと背中の剣を触る。いくら軽装でもこの剣は、ただの剣じゃ
ない。奪われる訳にも行かないし、触らせる訳にも行かない。ジークは常に背負っ
ていた。幸い怒りの剣は、重さをほとんど感じないので苦にはならなかった。
「お客さん、さっき不動真剣術言わなかったカ?」
 ミリィは、さっきの会話を聞いていて、ふと気になっていた。
「ええ。不動真剣術は俺の使う剣術ですよ。」
 ジークは、隠さず言った。トーリスから隠さないで言った方が修行になると、ア
ドバイスを受けていたのだ。
「良く見ると筋肉も、良いつき方してるネ。理解ヨ。」
 ミリィは観察するようにジークを見る。なんか、ジークは気恥ずかしくなった。
「6人前!できたヨ!」
 レイホウは、大皿に食事を乗せる。ストリウス特有のエビを使った料理らしい。
エビを中心に豚肉を上手く使った料理が運ばれてきた。ミリィが、食器と一緒に料
理を目にも止まらぬ速さで並べていく。見事な物である。
「いっぱい食べてネ!」
 レイホウがニッコリ笑う。
『いただきまーす!』
 6人は、声を揃えて食べ始める。そのがっつく様を見て、本当にお腹が減ってい
たのだと思い知らされる。
「そういえば、ジーク=ユード・・・ジーク君は、どこかで聞いた事あるネ。」
 レイホウが、噂話を思い出す。
「・・・もしかして、お父さんの名前ライルじゃないカ?」
 レイホウは、英雄ライルの事を思い出す。ルクトリアを救った英雄としてストリ
ウスでも有名になっていた。何せ、ライルが有名になったきっかけである第17回
武術大会は、ストリウスで行った物だ。ライルは、それを鳴り物入りで参加して見
事に優勝を奪ったのである。レイホウも、その大会を見ていたのだ。
「父は有名ですからね。でも、俺はそんなの気にしませんよ。あくまで自分は自分
ですからね。」
 ジークは、ライルの事で人から噂される事には慣れていた。あまり気持ちの良い
物では無いが、それに負けないと決めた限り、文句は言わないでいた。
「不動真剣術・・・。英雄の息子カ。ジークさん。明日私の稽古手伝ってヨ。」
 ミリィは、口元で笑う。ジークは、食べていた豚肉を危うく落としそうになる。
「ミリィさん。俺は女性と手合わせした事無いんですよ。勘弁してください。」
 さすがにジークも女性を本気で、手合わせするのは気が進まないのだろう。
「女だからって、馬鹿にしたら許さないヨ!私は、こう見えてもストリウス拳法の
免許皆伝ネ。」
 ミリィは、目くじら立てて怒る。どうやら本当の事らしい。
「ミリィ。お客様を怒らせちゃ駄目ヨ。」
 レイホウは頭を抱える。普段は、あまり迷惑を掛ける娘じゃないのだが、こと闘
いの事になると、女性で拳法家と言う事で、よく馬鹿にされてるので、ムキになり
やすいのだ。こうなったらレイホウでも手がつけられない。
 実際、ミリィは、こうやって挑んだ相手を全て打ちのめしている。
「さぁ、どうネ?」
「分かった。受けるよ。ミリィさん。」
 ジークは、ミリィの事を思って受ける。このまま受けなければ、侮辱されたと思
うだろう。そう思わせる方が、ジークには辛い事あった。
「待ってるネ。約束忘れない事ネ。」
 ミリィは、ニヤリと笑う。英雄の息子と手合わせ出来るなんて滅多に出来ない事
だ。自分の腕が、どこまで上がったのか分かるチャンスでもある。
(腕がなるヨ。私は誰にも負けないヨ。)
 ミリィは、明日が待ち遠しくなった。拳法家としての血が騒ぐのだ。
 他の5人は圧倒されながらも、黙々と食事を食べていた。レイホウは我が娘の事
ながら呆れていた。



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