8、芽生え  ソクトア大陸の最南端にある離島キーリッシュ。ここは、その地形を活かした漁 業が盛んな島である。ここに住んでいると言われる龍も、魚は大好物で、捧げ物に も良く使われる程だ。  この島の人々の生活は、ほぼ自炊からなっていて、他国との干渉は、全く無いと 言って良いだろう。故に、ストリウスも自治を認めており、竜神信仰に対しても、 敢えて反対したりは、しないのだ。また、ここに住んでいる龍は、人間に危害を加 える事が無かった。それどころか友好的であり、人間と良く親交したりもしていた。  だが、ある事件をきっかけに、ここの龍は荒れ狂う結果となる。ストリウスの方 にも、度々龍の姿をするようになり、不必要に人間を恐れさせる結果となった。キ ーリッシュの人々は、それでも龍の事を信じては居たが、ストリウスとしては、黙 っている訳には行かなかった。故に、近づく者は、皆無と言って良い程であった。  そのある事件を解決するのが、今回のジーク達の仕事なのである。龍が、ただ恐 れさせるためだけに、近隣を回ったりしないだろうし、突然人間を敵視するのも不 自然である。何かあったに違いないのだ。  そのために、ジークは調査に行くのだ。初めての依頼にしては、結構高度な仕事 である。しかし、「望」のためにも失敗する訳には行かない。  しかしジーク達は、このキーリッシュに住む島民については、嫌というほど思い 知らされた。ストリウスの事を、あまり歓迎してないのは知っていたが、話すら、 まともにさせてもらえないとは、思ってもいなかった。  この島の人々にとって、龍とは竜神の使いであって、それを不必要に調べようと する者は、災いの元なのである。竜神信仰の深い彼らにとって、ジーク達の行動は、 歓迎するべき物では無いのだ。  この島は、あまり広くは無いが、洞穴は、非常にいっぱいある。こんなことでは、 依頼を済ますのに、何ヶ月も掛かってしまう。時間制限などは特には無いが、調査 の依頼で、3ヵ月以上も経てば、出来なかったと判断されてもおかしくない。それ だけは防ぎたかった。 「何か手がかりはあったか?」  ジークは、自らも何か痕跡を探しながら、仲間を見渡す。 「ぜーんぜん。話も聞けない、ヒントも無いじゃ参っちゃうわ。」  レルファが、珍しく音をあげている。無理も無い。既に3日は、探し続けている のだ。ツィリルもサイジンも根気が続かないようだ。 「ミリィ。どう?」  ジークは、何やらミリィが真剣な顔して道を見てたので、話し掛けてみた。 「ジーク。もしかしたら、私たちは、固定観念に捉われてたのかも知れないヨ。」  ミリィは、何かを拾っていた。 「どういう事?固定観念?」  ジークは、不思議がる。ミリィは、頷くと拾っていた物を見せた。 「これは?・・・まさか!」 「そう。龍の鱗ヨ。」  ミリィは、龍の鱗を見つけていたのだ。 「凄いじゃん!ミリィ!でも固定観念って何の話?」  ジークは、龍の鱗があると言う事は、この道を辿れば良いと思っていた。 「こんな道端で、龍の鱗を見つけるなんて普通じゃないネ。」  ミリィは、考え込んでいた。恐らく、彼女のスキルである方角士の勘が、働くの であろう。トーリスも考えていた。 「なるほど・・・ね。」  トーリスも、何かを思いついたようだ。ジークは、顎に手を掛けながら、考え込 むが、全く検討がつかない。 「洞穴が、いっぱいあると言う事で、探さなくてはいけない、と言う固定観念。こ れに捉われていた。と言う訳ですね。」  トーリスは、納得したようだった。 「そう。洞穴の中とか、入り口でこの鱗を見つけるなら話は早いネ。でも、道端で 見つけられると言うことは、よほど出入りが、激しい証拠ヨ。」  ミリィは、鱗と洞穴の方向を調べたのだが、その方向に洞穴が見つからなかった ので、達した結論だった。 「普通、こういうものは出入り口に散乱してる物なのヨ。それが、道端にあると言 うことは、何ヶ所も入り口があって、風で飛ばされて、その一つが飛んで来たと考 えるのが普通ヨ。」  ミリィは鱗を手に取りながら説明した。ミリィは、最初から洞穴の入り口に鱗一 つ見つけられないのを、不思議に思っていた。どこの洞穴にも無かったので、海底 からとか違う秘密の入り口でもあるのか?と考えていたのだ。 「それに、これだけ多くの洞穴があるのに目印一つ無いって言うのもおかしいネ。」  ミリィは続ける。確かに、多くの入り口で、どこも似たような所だったので、何 か目印が無くては、迷ってしまう事だろう。大人の龍ならともかく、子供の龍だっ て居るはずなのだ。 「じゃあまさか・・・。」 「そう。この洞穴は全て繋がっていたと、考えるのが普通ネ。」  ミリィは、説明を終える。 「すごーい。そんな事まで分かっちゃうんだぁ!」  ツィリルが感心する。確かに、良い分析である。 「ミリィは、中々優秀な方角士のようですね。」  トーリスも、感心していた。全員も納得する。 「あんまり言われると、照れるネ。」  ミリィは、恥ずかしがっていた。 「でも、ミリィのおかげで助かったよ。これで行く先は決まったしね。」  ジークは、ミリィの肩をポンと叩く。ミリィは、少し嬉しそうだった。 「よし!そうと決まれば、早速行ってみよう!」  ジークは、拳を握って近くの洞穴に向かう事にした。 「いよいよですな!燃えますぞ!」  サイジンが、頷いていた。今まで手がかり探しでウズウズしていたのだ。  一行は、洞穴の中へと足を踏み入れて行くのだった。それを見ている2つの眼が あった事までは、気が付いていなかった。  プサグル王宮の一室で、王女と兵士が話しこんでいた。しかし、それは、ただの 王女と兵士では無かった。王女の方は、プサグル随一のお転婆で知られていたし、 兵士の方は、お忍びで来ているデルルツィアの王子だと言うのだから驚きである。  プサグル王には、全て事情を話して信頼されては居るのだが、年頃の若い娘と男。 父親としては、気が気で無いのは事実であった。  最も、王女の方は、気に留めてないし、兵士の方は、王には悪いと思いながらも、 話に付き合っていた。もう2週間程も経っていた。 「へぇ。デルルツィアでは牧畜が盛んですのね。」  プサグル王女こと、フラルは、頷きながら聞いていた。 「はい。デルルツィアは、海も近くないですしね。農業も盛んでは無いため、どう しても、牧畜を、主にせざるを得ない事情もあるって事ですよ。」  兵士とは、名ばかりのミクガードは、自分が王子と言うことは隠しながら話して いた。名前も、ミックと言う偽名を使っている。一応兵士と言う役柄少しは気を使 っているのだが、普段、あまり丁寧語などは使ったりしないため、少し肩に力が入 ったりしていた。しょうがないと言えば、それまでなのだが・・・。 「ミックは牧畜って、やった事あるですの?」  フラルは、デルルツィアの話に興味津々だった。元々、出回るのが好きな王女だ。 当然と言えば当然である。しかもデルルツィアは、ほとんど鎖国状態である。なお さら、興味が沸いて来るのだろう。 「私は、やってないですがね。牧畜なんてのは、肩が凝っちまって、傭兵なんて事 を結構やってるんですがね。」  ミクガードは、この王女と話すのが好きだった。ミクガードには、妹が居たが、 こんな活発な方では無い。まして、宮廷の女性は、自分の機嫌を取ろうとして、必 死な貴族達ばかりで、うんざりしていたのだ。フラルは、話しやすいし、今までに 無い新鮮な女性でもあった。 「傭兵かぁ。良いですわ。私も、そうやって色々世界を見て回りたい。」  フラルは遠い目をする。恐らく、前に聞かされた事がある、弟の事を考えている のだろう。弟のゲラムは、かの有名な英雄の息子と共に、冒険者として旅に出たと 言う話だ。フラルからして見れば、羨ましいのだろう。 「そうやって、また、この窓から逃げる算段でもしてるんですかい?」  ミクガードは、茶化す。 「んもう。そんなんじゃないわ。」  フラルが、頬を膨らます。その仕草も、良く見かける光景だ。フラルもミクガー ドみたいなタイプは、初めてなのだ。ついつい気軽に話してしまう。おべっかを使 う貴族達は、フラルも嫌いなのだ。 「それにしても、ミックは面白いのね。私が飽きないなんて、中々無い事よ?」  フラルは、ニッコリ笑う。つい、その仕草に見惚れてしまう。 「そいつは光栄です。でも、傭兵は、戦うのが仕事ですからね。」  ミクガードは、照れ隠しに力瘤を作ってみせる。 「なぁに?私との話は、仕事じゃ無いから詰らないって言うの?」  フラルは、ジト目で睨み付ける。 「いや、そういう訳じゃ無いですけど・・・。」  ミクガードは、頭を掻く。フラルは、それを見て楽しそうに笑う。 「フフ。本気にしないの!」  フラルは、そう言うと、ベッドに倒れる。疲れると、すぐにベッドに倒れるのも、 この王女の特徴だ。しかし、そんなに話し込んで無いはずなのだが・・・。 「・・・考え事ですかい?」  ミクガードは、尋ねてみる。フラルが、ベッドに倒れる理由の、もう一つは、大 概それだ。宙を見つめて、何かを考える。そう言う事も、この頃多くなってきた。 「ミック。私は、このまま、どこかの国に嫁いで一生終わるのかしらね?」  フラルは、いつに無く真剣な顔をしていた。 「お父様の優しさも分かってる。・・・だけど、納得出来ない事もあるのよ。」  フラルは、溜め息をつく。フラルも、もう20歳。そろそろ嫁いでも、おかしく ない時期である。ヒルトが、どんな思いで、娘をまだ嫁にやらないかも、分かって いるつもりだ。あの父の事だ。フラルに選ばせようと、しているのだろう。 「ヒルト王は、偉大なお方だ。王女の考えも、尊重してくれると思いますよ。」  ミクガードは、元気付けてやろうと思う。しかし、口下手な自分は、中々それが 出来ない。少し歯痒さも感じていた。 「ありがと。でも、私は選ぶなんて、まだ出来ない・・・。」  フラルは、ミクガードを見る。そして、また宙を向く。 「ミック。もし貴方を選びたいって言ったら、お父様何て言うかしらね?」  その言葉を聞いて、ミクガードは咽返る。 「か、からかわないで下さいよ!」  ミクガードは、真っ赤になっていた。 「ハハハハ!ミックは本気にしやすいですのね!」  フラルは笑う。ミクガードは、冷や汗を拭きながら、ジト目でフラルを見る。 (そう言えば、この頃ドランドルさん立って無いんだよな・・・。良かった・・・。)  ミクガードは、扉の方を向く。最初の内は、警戒からか、フラルと話している時 は、必ず、ドランドルが見張っていたのだが、この頃はそう言う事も無い。こんな 話を聞かれたら、冷やかされた挙句に、痛いのを3発くらいもらってる所だ。 「ミックは、恋人とか居るのかしら?」  フラルは、また唐突に質問してきた。ミクガードは、また咽返る。 「ノ、ノ、ノ、ノーコメントです!」  ミクガードは、咳払いをしながら答える。 「あーら。私の悩みを聞いて置いて、ただで済まそうって言うの?」  フラルは、口をへの字に曲げる。 「そ、そんな!もう・・・。分かりましたよ。笑わないで下さいよ。居ませんよ!」  ミクガードは、バツが悪そうに目を逸らす。 「あーら。悪い事聞いちゃったわね。」  フラルは、口元で笑う。ミクガードは、ムスッとしていた。 (こんなこと、聞かれるなら作っときゃ良かったぜ。)  ミクガードは、溜め息をつく。 「あらら?怒っちゃった?」  フラルは、ニヤニヤ笑う。ミクガードは、上を向いたまま黙っていた。フラルは、 ミクガードの顔を覗き込むように近寄ってきた。 「あらあら。機嫌直らないわね。」 「と、当然ですよ!もう・・・からかわれた方の身にも、なって下さいよ。」  ミクガードは、まだご機嫌斜めだった。 「もう。そんなに気にする事無いじゃない。別に、おかしい事じゃないわよ。」  フラルは、少し安心したような声を出した。 「へいへい。でも、あまり言いたい事じゃあ無いですよ。」  ミクガードは、機嫌を直して椅子に座る。フラルは横でニッコリ笑っていた。 「よろしい!じゃぁそんなミックに機嫌が直る『おまじない』をしてあげなきゃね。」 「おまじない?」  ミクガードが、ボーっとして、フラルの方に向き直った瞬間、フラルは、ミクガ ードの唇に自らの唇を重ねて来た。  ミクガードは、何が何やら分からず、目をパチクリさせていた。 (・・・これは・・・もしや?)  ミクガードが、考えている間に、フラルは唇を離す。 「・・・元気出た?」  フラルは、少し恥ずかしそうにして自分の椅子に座る。 「・・・も、もちろん・・・。」  ミクガードは、言葉にならなかった。やがて頬が真っ赤に染まる。 「・・・よろしい!じゃぁ今日は、ここまで!」  フラルは、いつもの調子に戻って満面の笑顔を作る。 「また、話を聞かせて下さる?」  フラルは、ウィンクした。 「は、はい!もちろん!し、し、失礼致しました!また・・・参ります。」  ミクガードは、一礼した後、ソワソワしながら扉から出て行った。 (ちょっと大胆だったかしら・・・。)  フラルは、さっきのことを思い出して、顔を真っ赤に染めた。  しかし、微塵も後悔していなかった。元々、気持ちを隠すのは、得意な方では無 い。ミクガードは、何か惹きつけられる。そんな感じがした。  若い二人は、まだ恋に関しては未熟と言わざるを得なかった。  プサグルの風は、穏やかに二人を見守るのだった。  ワイス遺跡では、今日も、唸りのような声は止まらない。これは、神魔ワイスが、 力を蓄えている証拠らしい。日に日に瘴気が強まっていく感じは受ける。しかし、 こうも動きを見せないと、不安になってしまう事も事実だ。  と言うのも、ワイスだけでは無く、あの魔王クラーデスも、眠りについたままだ からだ。復活したのは良いが、まだ力を取り戻せていないらしい。  ルドラーは、そんな2人の様子を見て、苛立ちを隠せなかった。しかし、歯向か ったら、例え力が戻ってないとは言え、一瞬の内に消し去られてしまうだろう。そ れにあの魔界剣士の砕魔 健蔵が居る。あの男ですら、とてつもない達人なのだ。 (動けないってのが、こんなに辛いとはな。)  ルドラーは、ずっと門番をしていた。もちろん、体が訛らない程度に、運動はし ているが、門から動く事は、出来なかった。 「ご苦労な事だな。」  健蔵が様子を見に来たらしい。健蔵は、このルドラーの事など、少しも信用して 無いが、ここまで門番の責を果たしている事だけは、評価していた。 「アンタか。ワイス様は、まだご就寝中か?」  ルドラーは、探りを入れてみる。 「貴様には分からぬだろう。ワイス様の力は、日に日に強まって行ってる。余計な 心配は無用だ。」  健蔵は嬉しそうに呟いた。嘘では無いらしい。 「あのクラーデスは、どうなのだ?」  ルドラーは、クラーデスが使っている扉を見る。 「フン。忌々しいが、あの男の力も日に日に強くなっているようだな。」  健蔵は鼻で笑う。クラーデスも並みの魔王では無い。このソクトアの大地に、段 々と、馴染んでいるようだ。 「それにしても、時間が掛かる物なんだな。」  ルドラーは、溜め息をつく。もう呼び出してから、1ヶ月以上経っている。なの に、まだ力を溜めていると言うのだ。もう好い加減、我慢の限界なのだろう。 「貴様は、分かってないな。人間達を滅ぼすのは、訳無い事なのだ。しかし、神が 黙っていない。神を倒す力を蓄えるまでは、迂闊に行動する訳には、いかんのだよ。」  健蔵は説明してやる。 (しかし、人間が、そう簡単にやられるものか?特に、あのライルが・・・。)  ルドラーは、瀕死になりながらも、黒竜王とライルの戦いを横目で見た事がある。 故に、そう簡単にライルがやられるとは、思えないのだ。 「納得行ってないようだな。黒竜王を倒したとか言う人間が気になるのか?」  健蔵は、横からルドラーを覗き込む。ルドラーは、その通りだと、いわんばかり の顔を見せる。 「笑わせる。魔貴族ごときに、苦戦するようでは、この俺だとて、まともに相手出 来まい。最も、黒竜王は、魔貴族の中では上級な方ではあるがな。」  健蔵は冷たく笑いながら答える。健蔵は「魔界剣士」である。「魔貴族」である 黒竜王とは、格が違うのだ。 「だが、そのライルとか言う者。闘ってみたい相手だな。」  健蔵は、低く笑う。魔族にとって、闘う事は、至上の喜びなのだ。相手が強けれ ば強いほど喜びは増す。 「例え、アンタだとて、不動真剣術を破らない限り、そう簡単に勝てはしないぞ。」  ルドラーは、その目で不動真剣術の極意を見ていたのだ。 「・・・不動・・・真剣術?」  健蔵は、眉がピクリと動く。 「そうだ。ライルが使う剣術さ。」  ルドラーは、頷く。 「・・・不動真剣術だと?なるほどな。フフフフフフ。フハハハハハ!」  健蔵は、突然笑い出した。この様子だと、健蔵は不動真剣術の事を知っているら しい。しかも、徒ならぬ関係が伺える。 「どうした?」 「どうしたもこうしたもあるか。不動真剣術を伝える者が居たとはな。楽しみで仕 方が無いぞ。」  健蔵は、大笑いをしている。どうやら、知っているらしい。 「アンタと、何の関係があるんだ?」  ルドラーは、つい尋ねてみる。 「フフフ。不動真剣術は、我が剣術と対をなす憎むべき剣術よ。」  健蔵は剣を抜く。そして、写る自分の顔を見てニヤリと笑った。 「不動真剣術は、光のごとき速さを身に付け、光の力を得て実践に活かす剣術。そ して、四大精霊の力を借りて、剣に乗せて闘うのが天武砕剣術。そして・・・。」  健蔵は、剣に力を込める。すると、剣が闇色に染まる。そして、不気味な瘴気が 剣を包む。健蔵は、嬉しそうに剣を見る。 「我が霊王剣術は闇の波動を身に付け、瘴気を操り敵を滅砕する剣術!」  健蔵は、剣を振ると、闇の波動が地面を伝って、壁に当たった瞬間、大穴が空い た。しかし、爆発音も無く、壁が崩れた訳でもない。しかし、不気味に闇の部分が、 穴を空けていたのだ。ルドラーは、つい飛び退る。 「不動真剣術か。ますます、滅ぼさなければならんな。」  健蔵は剣をしまう。すると、一帯を包んでいた闇の波動と瘴気が消えた。 (恐ろしい男だ。こんな奴が、魔界剣士だとでも言うのか?)  ルドラーは、改めて魔族の強さを思い知った。そして、健蔵が自分の部屋に帰る までルドラーは、ひれ伏してしまった。  不動真剣術と霊王剣術。過去に何があったかまでは、知らないが、徒ならぬ死闘 の予感がした。  キーリッシュの洞穴は、入り口は無数にあるが、中は、それほど複雑では無かっ た。ジーク達一行は、思ったより進行具合が良いので、拍子抜けしてしまっていた。 それほど、この3日間くらいの、手がかり探しは、長く感じたのであろう。  何より方角士のスキルがあるミリィと、太古の知識もあるトーリスが居るため、 それほど進行に支障がある訳でも無かった。  しかし、龍の巣に近づかないだけで、妖魔や人食い動物と言った類の隠れ家にも なっていて、時々襲い掛かって来ていた。しかし、ジークとサイジンの剣の冴えと、 トーリス、ツィリルの魔法で蹴散らし、レルファの神聖魔法で傷を癒して、ミリィ の案内で進んでいく。という良いリズムでサクサク進んでいた。  最初の頃は、苦戦を強いられたパーティー一行も、次第に慣れてくれば、元々の 能力が高いだけにサクサク進んでいった。 「はい!おしまい。」  レルファが回復をしていた。さすがに母のマレルの血を引くだけあって、素晴ら しい神聖の力を持っている。 「おお!レルファ!私は、何て幸せ者なのだ!レルファの回復は慈母の涙!」  サイジンが、相変わらず浸りまくっていた。その度にレルファの鉄拳が飛んだ。 「それにしても、長い洞穴ですね。」  トーリスが、周りを見渡す。入り口から結構歩いている。途中に、他の入り口へ の道を見つけたが、島の大きさから考えて、もうそろそろ、着いても良い頃である。 「わたし、お腹空いたなぁー。」  ツィリルが、お腹をさする。 「なら、これを噛むと良いでしょう。」  トーリスはそう言うと、カカオの実とミントの葉をすり潰して、薬丸にした物を 魔法で加工した物を渡す。ツィリルは、それを受け取ると口の中に入れた。 「わぁ。結構おいしー。それに何かスゥーっとして気持ち良いね!」  ツィリルは、素直に感想を述べた。 「この薬丸には、気持ちを落ち着かせるのと空腹を満たす効果があります。」  トーリスは、そう言うと、皆にも渡した。 「ありがとー!センセー!」  ツィリルは、ニパッと気持ちの良い笑いを浮かべる。トーリスは、この笑顔に弱 い。つい、世話したくなってしまうのだ。 「みんな、見るネ。」  ミリィは、少し広くなっている所を指差す。そこには、色々な台座があった。そ して、奥には扉がある。どうやら何か仕掛けがあるらしい。 「これは・・・古代遺跡の一つ。龍の腰掛ですね。」  トーリスは、紋章のような物を見ながら説明する。 「龍の腰掛?」  ジークは、見当もつかない言葉に目をパチクリさせる。 「そうです。恐らく、龍と侵入者を区別するための、判別機のような物です。」  トーリスは、そう言うと考え込む。つまり、侵入者を撃退するための罠でもある のだ。何としても、その秘密を解かなければならない。 「お前達は、ここでいーきどーまりーぃぃ。キャキャキャ!」  奥の方から気配がした。下卑た声が聞こえてくる。 「下品な笑い声ですな。」  サイジンは、けしからんと言う風に、その方向を見る。 「人間が、こーんな所で、何をしぃぃーてるぅぅのかなぁー?」  その者達が、姿を現す。どうやら、小型の妖魔のインプのようだ。魔族の中でも、 低級で知能も人間より下。しゃべる言葉すらおぼつかない。しかし、ずる賢さは意 外と長けていて、人を陥れる様を見て喜ぶという残忍な魔族だ。 「インプごときが、何の用だ?」  ジークは、スラリと剣を抜く。臨戦態勢になる。 「インプごときだぁぁっって?そんな口は、叩けないようにしぃぃてやるぅぅ。」  インプ達は数は20匹ほど。そのうちジークは5匹。サイジンが4匹。ツィリル とレルファとミリィで6匹。トーリスが残りと対陣していた。 「掛かれぇぇぇぇ!」  インプ達は、欲望を満たすために襲い掛かる。まずは、口から炎のような物を吐 いた。そして、怯んだ隙に、鋭い爪で攻撃するつもりだろう。  カキィン!シュバッ!  そのインプ達の企みは、まず失敗に終わった。ジークとサイジンは、炎を剣圧で 叩き切ってしまったし、トーリスは残りの炎を全て凍らせてしまったのだ。 「ウキャァァァァ!!」  インプ達は、それを見て、怒りに燃える目で襲い掛かってきた。 「下品なだけでは無いですな。君達は相当・・・未熟者ですな!」  サイジンはインプ達を力で捻じ伏せ始めた。あっという間に2匹が絶叫をあげる。 「はぁぁあ!せい!不動真剣術!旋風剣「爆牙」!!」  ジークは剣を唸るように動かす。すると、衝撃波のような物が、竜巻を作ってイ ンプ達に襲い掛かる。 「えぇーい!『振動』(しんどう)!!」  ツィリルは、爆撃魔法の内の、大地を爆発させる『振動』を使う。逃げ遅れたイ ンプ達は、黒焦げになる。 「みんな!後一息!『精励』!」  レルファが、元気を取り戻させるために、全員に『精励』を唱えて疲れを癒す。 「私の突きは、甘くないヨ!「幻霧」(げんむ)!!」  ミリィが変幻自在の棒術を見せる。 「私も、続くとしましょう。『火矢』(ひや)!!」  トーリスは、掌を広げると、炎の矢を何本も飛ばす。正確にインプ達の心臓を狙 っていく。得意呪文で無くても、この男は、自由自在なのだ。 「しかし、これだけ技を使っても壊れないとは。この洞穴は意外に丈夫ですな。」  サイジンが、妙に納得していた。確かに洞穴にしては、丈夫である。 「龍が長年住み着いても大丈夫なように、でしょうね。」  トーリスも相槌を打っていた。 「ギギギ・・・。強すぎるゥゥゥ。」  インプは、既に2匹になっていた。皆、この人間達にやられてしまった。 「無駄な抵抗は止めるんだな。命が惜しければ、ここから去ることだ。」  ジークは、インプを睨み付ける。インプ達は、その迫力に押されていた。 「人間の分際でェェェ!こうなったら最後の手段ダギャアァァ!」  インプは、そう言うと祭壇の方へ向かって、滅茶苦茶に荒らしまわった。 「何をする!そんな事をしたら、お前達も、唯では済まないぞ!」  ジークは、このインプの行動にビックリしてしまった。 「ギギギ。道連れぇ・・・。道連れェェェェ!!」  インプは、もう狂っていた。人間にやられたショックと、仲間を殺された恨みの せいだろう。すると、祭壇が大きく揺れ始めた。 「ヤッタァァァ!グギャアアアアアアアアアアアァァ!!!」  インプが喜ぶと同時に、インプの体は蒸発して消えた。しかし、揺れは収まらな かった。さすがのトーリスも、険しい顔をした。対処の仕方に困っているのだろう。 「しょうがありません。『浮遊』をやるしか、ありませんね!」  トーリスは『浮遊』の魔法を唱える準備をする。 「ハァァァ・・・。『浮遊』!」  トーリスが念を込めると、ジーク達の体が浮き始めた。しかし、何故か、レルフ ァの体が浮かない。 「え?え?何で!?私重くないわよ!」  レルファは、一人焦っていた。皆が浮いてくのに、自分だけ浮かないのだ。 「くぅ!度重なる戦闘のせいです!ツィリル!魔力を分けてください!」  トーリスは、苦しみながらも『浮遊』を続ける。 「レルファ!私につかまるのです!」  サイジンが、手を伸ばす。レルファは、急いでサイジンの所に向かう。 「レルファ!あと少しだ!」  ジークも、サイジンの手を掴みながら手伝う。その瞬間だった。  ガゴッ!  急に地面が無くなった。下は、物凄い暗闇だった。下が見えないのだ。 「キャァァァァァァァ!」  レルファは、サイジンの手を掴みかける瞬間落ちていった。 「レルファ!うおおおおおおおお!!!」  サイジンは、『浮遊』の空間を離れて、レルファの所へと飛び込んで行った。 「サイジン!辞めなさい!貴方まで!!」  トーリスが、言う前にサイジンは、レルファを追いかけて行った。 「レルファァァ!サイジーーーーン!!」  ジークが、叫ぶ。叫べば助かると言うのなら、いくらでもと言わんばかりに。 「うわぁ!!やだよぉ!レルファァァ!サイジンさーーん!」  ツィリルは泣き出してしまった。 「しょうがないネ!!万が一の可能性に賭けるヨ!!」  ミリィは、落ちていった方向に目印球(めじるしだま)を投げる。これがあると、 居場所が分かると言う優れ物だ。  そのうち、揺れが収まって地面が閉じていく。正確に言えば新しい地面が迫出す。 そう言う仕組みなのだろう。トーリスは『浮遊』を解いて着地させる。 「何たる事!私とした事が!」  トーリスは、自分の力量の無さを悔やんだ。 「・・・トーリスのせいじゃ無い。あのインプ達のせいさ。」  ジークは、目をつぶる。 「ジークお兄ちゃんは、心配じゃないの!?」  ツィリルは、ジークが冷静なのが気に障ったらしい。 「そんな事無いよ。でもさ。大丈夫!あの二人なら絶対生きてる!」  ジークは、そう言うとトーリスとツィリルの肩を力強く叩く。 「その通りネ!私たちが、悲観的になっちゃだめヨ!」  ミリィは、同調する。 「そう・・・だよね!わたしも信じる!」  ツィリルは、涙を拭ってニパァッと笑う。 「私とした事が・・・らしくありませんでしたね。出会うためにも、ここの主に会 いましょう。そうすれば、居場所が分かるかも知れない。」  トーリスも、いつもの調子に戻って、ジークに微笑み返す。 「よし!行こう!」  ジークは、力強く言った。気が付くと先の扉は開いていた。龍は、飛べるので、 この罠に掛かる事が無いのだろう。だから仕掛けが解けたのかも知れない。 (レルファ!サイジン!無事で居ろよ!)  ジークは、言葉に出さなかったが、誰よりも、2人の事を心配してたのである。  落ちていく。とてつもない闇の中に落ちていく。宙を彷徨うと言うのが、こんな に恐怖だったとは、初めて知った。しかし、頼れる物は無い。  それが今のレルファの心境だった。あの罠に掛かって、自分が浮かないのは、シ ョックだった。自分の体重が重いせいか?とも考えたが、そんな事を言ったら、自 分よりジークの方が、よっぽど重い。それも変な話だった。多分、レルファは後ろ の方で援護していたので『浮遊』が効く範囲外に居たのだろう。  しかし、不思議と途中から怖くなくなった。何故か、何かに包まれている感じが したからである。何かは分からない。しかし、しっかり掴まれている。そんな感じ がした。 (・・・?掴まれている?)  レルファは妙な感じがした。掴まれているはずが無いからだ。掴み損ねたのは、 自分の方だ。サイジンは『浮遊』から落ちるのを省みずに手を伸ばしてくれた。結 構、頼れる人だとは思っていたが、普段が普段だけに意外だった。  ズシャ!!!  良い音がした。恐らく、地面に激突した音だろう。終わりが無いはずが無い。落 ちれば、どこかに終点があるのだ。その終点に着いたのだろう。 (・・・痛く・・・ない??)  レルファは、その時、自分が、本当に何かに包まれているのを知った。そして、 自分を包んでいる何かから液体が零れ落ちて来る。 (これは・・・血・・・?血!!!?)  レルファは、意識がハッキリしてきた。そして、何に包まれているかを知った。 「サ、サイジン!?」  レルファを追いかけに来た、サイジンが、重さを利用してレルファを包んで自分 の体をクッションにして地面の激突を防いだのだ。そのせいか酷い出血をしている。 「レ・・・ルファ・・・。」  サイジンは、呻き声を、あげながら苦しんでいた。 「ちょっと!サイジン!何で!・・・こんな・・・。」  レルファは、酷い状態に言葉を失った。そして、何で、こんな状態になったのか も悟った。 「無事・・・ですか?・・・良か・・・った。」  サイジンは、ニコリと笑う。 「馬鹿!!何が無事ですか?よ!無茶して!!」  レルファは、泣き出してしまった。 「待ってなさいよ!今、回復魔法を掛けるからね!」  レルファは、一生懸命に『癒し』の魔法を唱える。傷口が見る見る塞がって行く。 しかし、中々全部とは、行かなかった。それほど酷い怪我なのだ。 「貴方は馬鹿よ!私のため・・・私のため?」  レルファは、再び言葉を失った。そう。自分のせいなのだ。サイジンが、こんな 怪我をする羽目になったのは自分の・・・。 「そ、そんな・・・。私の・・・。私のせいで・・・!!」  レルファは、唇がガクガク震えていた。サイジンの手を握りながら、恐怖に怯え ていた。 「レルファ!・・・貴女のせい・・・じゃありま・・・せん。」  サイジンは、傷口が塞がって来たので、起き上がる。しかし、まだ体の中の痛み は取れない。それでも踏ん張って起き上がった。 「だって・・・だって!」  レルファは、まだ震えていた。 「自分を見失わないで・・・レルファ。・・・私には助ける理由があるのです。」  サイジンは、意識がハッキリしてきたのか、言葉が出るようになっていた。 「だって、貴方、死にかけたのよ!私のせいよ!」  レルファは、狂乱しかけていた。仲間を助けるはずの自分が、仲間を巻き込んだ 事への罪の意識が、レルファを攻め立てているのだろう。 「言ったはずです。私は、貴女の盾になると。いつも言ってる言葉は、偽りではあ りませんよ?」  サイジンは、暖かい目をしていた。いつもなら、ふざけてる所だが、今の目は真 面目だった。レルファは、その瞬間涙が溢れた。 「それにね。私も助けられたのですよ?貴女が居なくなったら、私は自分が自分で 居られなくなる。」  サイジンは、少し照れ臭そうだった。この男でも照れる事は、あるのだ。 「サイジン・・・。分かった!待っててね。すぐ治すから!」  レルファは、そう言うと再び精神を集中させて『癒し』の魔法を唱える。その名 の通り、体を元通りに癒す魔法だ。 「フフ。レルファの回復魔法は、やっぱ、効きますねぇ。」  サイジンは、いつもの調子に戻り始めていた。 「馬鹿。誰でも同じよ。でも、ありがと。」  レルファは、サイジンと二人のせいか、いつもより、サイジンに優しかった。い つもは、照れ隠しなのだろう。 「ジーク義兄さんは、無事ですかね?」  サイジンは真上を見上げる。結構な高さから落ちた物だ。 「兄さんは、大丈夫。自分を見失ったりしないわ。あれでも、英雄の父さんの息子 なのよ?結構しっかりしてるわ。」  レルファは、ジークが逆境に陥った時、凄い力を発揮する事を知っている。 「レルファだって英雄の娘じゃないですか。」  サイジンは、ニコリと笑う。 「・・・。そうだけど。兄さんは私とは違うのよ。」  レルファは、どこか悲しい目付きをしていた。 「レルファ?」  サイジンは、レルファの様子が、少しおかしい事に気付く。 「兄さんはね。いや、あと父さんもね。違うのよ。家族なのも分かってる。誇りに 思う気持ちはあるの。でも・・・どこか私とは違うのよ。」  レルファは、英雄と呼ばれる父と、それを受け継ぐに相応しい力量を持った兄に、 囲まれている。普段は、家族として軽口を叩いているが、いつか、どこかに行って しまうのではないか?と言う心配が尽きないのだ。 「レルファ・・・。」  サイジンは、目をつぶると黙ってレルファを抱きしめる。 「ちょ、サイジン!」  レルファは、ビックリする。しかし、抵抗はしなかった。 「自信を持って・・・。貴女は、素晴らしい女性だ!英雄なんかじゃなくても、貴 女にしかない素晴らしさを、私は感じている!」  サイジンは、思った通りの事を言う。レルファは、また、涙を伝う。自分を認め て欲しかった。その存在が、近くに居ると言うだけで涙が出そうになった。 「ありがとう。そう言ってくれたの、貴方が初めて・・・。」  レルファは、サイジンの顔を愛しそうに撫でる。その時だった。  ザッ・・・。  どこからか音がした。サイジンとレルファは、恥ずかしそうに離れながら、辺り を警戒し始めた。 「・・・何か居ますね。」  サイジンは、かなり体が治っていた。レルファの回復力のおかげだろう。少し体 が痛むが、戦闘に大きな支障は無いほどだった。 「キュ?」  どこからか声がした。サイジンは、声がした方向に向かって構える。 「キュ〜〜?」  何やら、間抜けそうな声が聞こえてくる。すると、無警戒にそれは出て来た。 「・・・か、可愛い!」  レルファは、いきなり目を輝かせ始めた。そこに居たのは小型の龍だった。まだ 子供のせいか、言葉が上手くしゃべれないのだろう。 「うーーーーむ。私達の邪魔をするなど、野暮な小龍ですねぇ。」  サイジンは、すっかりいつもの調子に戻っていた。 「ちょっと!怯えちゃうじゃないの!剣を仕舞ってよね。」  レルファは、睨み付ける。サイジンは、渋々剣を仕舞った。 「はぐれちゃったのかな?私達の言ってる事分かる?」  レルファは、すっかり、この小龍の事で、頭がいっぱいらしい。 「キュー!」  小龍は嬉しそうに尻尾を振る。レルファは頭を撫でてやる。すると、気持ち良さ そうに、レルファに体を預けた。 「うわぁ・・・。可愛いぃ。」  レルファは、上手に抱きとめてやった。ちょうど大人の猫ほどのサイズだったの で、腕にすっぽり嵌る。 「ああ!レルファの腕に抱かれるなんて、羨ましい限り!」  サイジンは、手で顔を覆って、ショックのジェスチャーをする。 「アンタ何考えてるのよ!それとこれとは別よ!」  レルファは、前のようにサイジンを殴ったりはしなかったが、反論した。 「ねぇ。貴方、ここに、いつ落ちて来たの?」  レルファは、小龍に尋ねてみる。小龍は言葉を理解出来るのだが、しゃべれない ので悲しい顔をした。 「3日くらい前かしら?」  レルファが聞くと、小龍は、フルフルと首を横に振った。 「ちょっと!今の見た!?この子、やっぱり言葉が理解出来るのよ!」  レルファは、嬉しそうにしていた。 「素晴らしいけど、何やら、次の質問を待ってる様子ですぞ。」  サイジンが指差すと小龍は目をパチクリさせていた。 「ごめんごめん!うーーーん。そうねぇ。10日くらい?」  レルファが聞くと、小龍は、頭の中で計算しながら、また首を横に振る。 「あれぇ?じゃぁもしかして・・・2週間くらい前じゃないの?」  レルファが尋ねると小龍は嬉しそうに首を縦に振った。 「2週間とは、どこから出て来たのですか?レルファ。」  サイジンが首を傾げる。 「貴方、気が付かないの?今回の龍が暴れ出したの2週間くらい前からよ?そうな ると、おそらく原因は・・・。」  レルファとサイジンは、同時に小龍の方を見る。 「なるほど・・・。さすがレルファですな。」  サイジンは、感心していた。親龍が、この小龍を見失ったため、探しに出かけて 暴れてるように見えたのだろう。それが、2週間くらい前なのだろう。 「この暗さじゃぁ、親龍の所に行けないのも、無理ないわね。」  レルファは周りを見渡した。小龍は、恐らく、2週間を湧き水と小動物を食べて 暮らしたのだろう。親龍も心配する訳である。 「キュ〜・・・。」  小龍は涙顔になる。お腹も空いてるのだろう。 「そうだ!サイジン。確か干し肉、まだあったわよね。」  レルファは、道具袋に手を突っ込んで探してみる。 「あれだけ、ゲラムにもらったから、まだありますね。」  サイジンは、自分の袋も探してみた。ゲラムは1ヶ月は保てる量を寄越したのだ。 「あ、あった!この子食べるかしら?」  レルファは、干し肉を小龍の口へ近づける。すると、最初の内は、クンクン匂い を嗅いでいたが、大丈夫と知ると口にほうばった。幸せな顔をする。 「食べたわ!あらあら?」  小龍は2切れほど食べた所で、お腹一杯になったのか、眠たそうに瞼を擦る。 「寝てて良いわよ。大丈夫。私達が、必ず親の所に連れてってあげるからね。」  レルファは、ニコッと笑って気を鎮めさせると、小龍は安心したのか眠り始めた。 「まるで、レルファのペットのようですなぁ。頭の良い子だ。」  サイジンは眠ったのを確認すると、小龍の安心した寝顔を覗き込む。 「さて、気を取り直して行きますか!」  レルファは、カンテラを取り出す。サイジンは、それを受け取ると火を付ける。 さっきまでは、ジークが先導していたのだ。今度は、自分がやるべきだろう。何せ、 レルファの腕の中には小龍が居るのだ。 「・・・結構広いですな。」  サイジンは、目を凝らす。これなら小龍も不安がる訳である。何も無い空間かと 思いきや、撃退用の罠なども、チラホラ見える。カンテラ無しに、ここを歩くのは 至難の業だろう。 「ん?」  サイジンは、妙な物を見つける。 「これは・・・。目印球!」  サイジンは、ミリィが、いつも言っていた目印球の事を思い出した。 「これを放るって事は、私たちは死なないって、信じてる証拠ね。」  レルファは、嬉しくなった。自分達を信じてくれている。その事が、こんなに大 きくプラスになるとは思わなかった。 「では、行きましょう。ジーク達も私達を探しに来る事でしょうしね。」  サイジンは、そう言うと洞窟の奥へと踏み出して行った。  そんなサイジンを見て、レルファは頼もしく思えた。  洞穴は、どうやら、あの罠がある部屋から、一本道になっているらしく、そこか らは、大して迷わず進めた。それに、今まで襲ってきた妖魔達も、ここら辺になっ てくると姿を見せない。どうやら、龍の巣へ段々と近づいてる感覚がする。  しかし、どこかにあるはずなのだ。レルファとサイジンが落ちた所が、洞穴の行 き止まりだと信じたくなかった。  ジーク達は、よーく壁などを見ながら、仕掛けが無いかどうか探しながら、先へ と進んでいた。ミリィも居るので、方角的には間違いは無い。 「お?みんな見るネ。」  ミリィは、自分の持ってる目印球が、光りだしたのを見逃さなかった。 「あー。光ってるぅ。」  ツィリルが覗き込む。確かに光っていた。 「と言うことは、無事でしたか。これで安心して進めますね。」  トーリスも、胸を撫で下ろす。ジークも、これを見て安堵感に溢れた。  実は、ジークは、レルファの事を凄く心配するのと同時に、サイジンの事を見直 していた。あの時、手を差し伸べたのも、兄である自分では無く、サイジンだった。 そして、真っ先に飛び込んだのもサイジンだった。 「サイジンは、凄いよ。・・・俺には真似出来ないな。」  ジークも、やってやれない訳では無いが、サイジンは、後先考えずに飛び込んで いた。レルファのために、自分も出来るか?その答えは分かっている。さっき出来 なかったのだ。おそらく無理だろう。 (兄貴失格かもな。)  ジークは、自嘲する。 「ジーク。自分を責めては、いけませんよ。」  トーリスは肩を叩く。ジークが、自分を責め始めてるのを感じ取ったのだろう。 「私も飛び込めませんでした。でもね。あんまり見せ場を取っちゃうと、サイジン に悪いでしょう?」  トーリスは、指を立てて説明する。 「ハハハッ!そうだな。俺らしくなかったな。俺達が、今やるべき事は、早く合流 するか、龍の所に行くか。だしな!」  ジークは、元気を取り戻して先へと進む。  ふと、光る物が見えた。しかも、そこだけ何故か光っている。それは、神秘的な 光とも言うべき物だった。急いで奥を覗き込むと、大きい椅子があった。しかも、 その椅子は、重厚感に満ちていて、何とも言えない光を発していた。その空間だけ どこか城に居るような感覚に包まれる。その中心の椅子に、それは座っていた。 「人間ですね。」  それは声を発した。どうやら龍の様だ。大きな翼に立派な角。堂々たる体格に知 性溢れる顔つき。相当位の高い龍に違い無かった。  ツィリルとミリィは、ついこの重厚な雰囲気に負けお辞儀してしまった。 「龍ですね。俺はジーク。ジーク=ユード=ルクトリアです。」  ジークは、一礼する。 「依頼故、お邪魔してます。どうぞご容赦を。」  トーリスは、説明すると一礼した。 「依頼と言うのは、私の退治ですか?」  龍は、静かだが威圧感のある声を発する。ミリィやツィリルは、その威圧感に顔 を背ける。そこには、数々の冒険者を相手にしてきた凄みがあった。 「違います。調査です。」  ジークは、ハッキリと答えた。ジークは、決して気圧されてなかった。 「調査ですか。ならば私が何故、この頃地上で主に生活してるか、分かりますね?」  龍は問い掛けた。 「分かりません。」  ジークは、またもハッキリ答えた。すると、龍の眉がピクリと震える。 「俺は、嘘をつきに来たのではない。出来れば、その原因を、貴方の口から聞きた いと思ってやって来たんだ。」  ジークは、淀みなく答える。何と言う度胸か。 「フフフ。正直な方で安心しましたよ。」  龍は低く笑う。これまで、龍の財産を狙う冒険者や嘘をついて不意打ちを食らわ す冒険者とは、何度も闘って、勝利してきた龍だ。目を見れば、相手が嘘をついて いるか分かる。ジークのそれは、正直者の目だった。 「やりますねぇ。ジーク。この私ですら、そこまで淀みなくは聞けませんよ。」  トーリスは溜め息をつく。ジークの度胸の良さには、呆れるばかりだ。さすがは、 英雄の血を引くだけはある。 「私はトーリス。こちらがツィリルで、こちらがミリィです。」  トーリスは、仲間を紹介する。龍の威圧感が解けたからだろう。 「私は、ここの龍の主ドリーと申します。」  ドリーは、そう言うと人間の姿に変わった。知性の高い龍は人間に変身出来ると 聞いたが、その通りだった。ドリーは、人間で言う所の30代の女性のようなフォ ルムをしていた。どうやら母龍なのだろう。 「ドリーさんかぁ。さっきは怖かったけど、今は何か暖かい感じがするぅ。」  ツィリルは、つい思ったことを口にした。ドリーは、それを聞いてクスリと笑う。 「この姿を見せたのは、貴方達が初めてです。いつもは人間の街に買出しに行く時 に見せる格好なのですが・・・。」  ドリーは説明する。おそらく、龍から人間の姿になる所を見せたのが、初めてな のだろう。それはそうだ。正体がバレたら、何をされるか分からない。極力見せな いようにしているのだ。 「龍でも買出しに行くのネ。参考になるヨ。」  ミリィは頷く。もしかしたら、ストリウスの街で見ているかも知れないと思った からだ。 「ドリーさん。俺達に教えてくれませんか?貴女が、龍の姿になってまで人間の住 む所まで行く理由を。」  ジークは単刀直入に聞く。 「私には、一人息子が居ます。」  ドリーは話し始めた。 「私の息子は、私の宝。龍とて子は産むのです。その息子が2週間程前から、居な くなりました。最初は隠れるのが、好きなあの子の悪戯だと思って居ましたが。」  ドリーは、そう言うと少し険しい表情になる。 「龍ならば、目に付きやすいですから、つい龍の姿で探し行ったのです。」  ドリーは、溜め息をつく。そして2週間も居ないとなると、母として、どれだけ 心配かと言うことだ。ジーク達が、ここに来てからでさえ、バレないように探しに 行ったくらいだ。 「そう言う訳でしたか。なるほどね。確かに人間の中には、腐った連中も居ますし ね。お気持ちは分かりますよ。」  トーリスは、納得した。「闇」や「光」、それに「気」の連中を見て来たので、 何となく言いたい事は、分かった。 「息子さんの名前は分かります?」  ジークは、尋ねる。 「ドラムと言います。あの子は、まだ人間変身能力がありません。心配なのです。」  ドリーは目を伏せる。 「よぉし。調査ついでだ!俺達も、そのドラム君を探すの手伝いますよ!」  ジークは、嬉しそうに声をあげる。 「本当ですか?ありがとうございます。」  ドリーは、頭を下げる。こう見ると、仕草は、あまり人間と変わらない。気付か れない訳である。 「ところで、お聞きしたい事が、あるのですが・・・。」  トーリスが口を挟む。 「何でしょう?」  ドリーは、穏やかな顔をしていた。 「私たちの仲間が、ここに来る前の扉の祭壇で、罠に掛かってしまいまして。」  トーリスは、さっきの祭壇の所を指差す。 「あそこですか。あそこは無用な侵入者を防ぐために、作られた罠だと聞いていま す。祭壇に触ると約4000度の高熱を発し、約30メートル程、地下に落とされ ると聞きます。」  ドリーは、説明する。ジーク達はゾッとした。祭壇に触っていれば、4000度 の高熱で一瞬に蒸発してしまうのだろう。さっきのインプのように・・・。 「あそこから落ちてしまったのですね・・・。」  ドリーは、ジーク達の様子を見て察する。 「30メートルか・・・。無事で居てくれよ!」  ジークは、祈るような気持ちになった。 「あそこから落ちて助かったのなら、ここに繋がるはずです。」  ドリーは、そう言うと何かボタンを押す。すると、すぐ側に穴が空く。そこには、 ここのような建物の雰囲気はなく、暗く湿った感じのする洞穴が広がっていた。 「なるほど・・・。深いな。」  ジークは、覗き込んだが、光が見えない。これでは、カンテラを使わずして、進 む事など出来ないだろう。 「トーリス!そこの柱に、このロープを巻き付けてくれ。」  ジークは、トーリスにロープを渡す。 「分かりました。」  トーリスは、ロープを器用に巻き付けて行く。 「勇気ある行動ですね。感嘆致します。」  ドリーは、褒め称える。人間で、ここまでやる者は、今までの侵入者からは、見 た事が無かった。 「長さは足りてるな。・・・よし、俺が見てくる。トーリス達は、そこで待ってて くれ。合図はする。」  ジークは、さっき助けられなかった分、張り切っていた。 「無理は禁物ですよ。ジーク。」  トーリスは、念を押す。ジークは親指を立てて返す。すると、見る見る間にロープ から降りていく。 「・・・!ドラム!」  ドリーは、突然声を上げる。すると、奥の方から声がした。 「キュキュキュキューーー!」  すると、とても小さい小龍が、ドリーの胸に飛び込んで行く。 「レルファ!サイジン!」  ジークは、ビックリした。何と降りて行った瞬間、こちらに走ってくる人影が見 えたと思ったら、さっきの小龍が飛び出てきたし、レルファとサイジンが走ってき たのだ。嬉しかったが、少し拍子抜けしてしまった。 「あらぁ?光が見えたと思ったら・・・兄さんじゃない。」  レルファは、思ったより元気そうだった。 「思ったより早く合流出来ましたな。私はレルファと一緒で楽しかったですがね。」  サイジンも、いつもの調子でレルファを褒め称えていた。 「ドラム!ドラム!よかった!」  ドリーは、涙を流しながらドラムを抱きしめる。ドラムも、ドリーの胸の中で泣 いていた。ジーク達は、さっさと上に上がって、その光景を見て喜ぶ。 「しかし、よく無事でしたねぇ。それに・・・。」  トーリスは、ドラムを見ながら呟く。 「まぁ、色々あったのよ。」  レルファは、これまで起こった事を説明した。ドラムとは、この落ちた所で遭遇 した事などだ。 「あなた方の勇気ある、そして誠実な行動に感謝致します。」  ドリーは、説明を聞きながら一礼する。 「サイジン。レルファの事。ありがとう!」  ジークは、そっちの方が気になっていた。 「はっはっは!私は、レルファの盾となり、お守りすると誓ったはずですぞ!」  サイジンは、馬鹿笑いするが、レルファの突っ込みは無かった。 「あんまり無茶したら、今度は、本気で怒るからね。」  レルファは、そう言うと恥ずかしそうにミリィやツィリルの所に行く。 「サイジン。ちょっとこっちに来い。」  ジークは、サイジンを呼び寄せる。 「はっはっは!何用ですかな?」  サイジンは、柱の陰の所に呼び出される。 「おい。何があった?レルファの、あの変わりようは何かあっただろ?」  ジークは、兄として確かめねば、ならなかった。 「い、嫌だなぁ。義兄さん。私は、レルファと少し話しただけですぞ。」  サイジンは、ジークの圧力に気圧されたが、本当の事は、言えなかった。 「まぁ良い。今回の事は、俺も感謝している。でも何かあったら報告するようにな。」  ジークは、咳払いした。 「義兄さん。野暮な事は、言いっこ無しですぞ?」  サイジンは、相変わらず軽い口調で答える。良い性格をしている。 「ちょっとぉ。何2人で、こそこそ話してるのよ。」  レルファは、2人を睨み付ける。随分遅いので、文句言いに来たらしい。 「いやぁ、今回の事について、サイジンに感謝してただけさ!」  ジークは、取り繕うことにした。 「そうね。私、サイジンに色々聞いてもらって、スッキリしたしね!」  レルファはニコッと笑う。サイジンは、その表情を見てウットリしていた。 「おい!やっぱ何かあっただろ!吐け!」  ジークは、サイジンの首根っこを掴む。 「兄さん!何してるのよ!サイジンは、まだ治したばかりなのよ!」  レルファは、口をへの字にして反論する。 「そ、そうなのか?済まん。サイジン。」  ジークも、妹には弱いらしい。 「ハッハッハ。私の体は、レルファを守るためなら鋼鉄にもなりましょう!」  サイジンは、相変わらずノリの良い口調で話していた。どうも、本気なのか冗談 なのか、分からない奴だ。 「これは、何かあったネ。」  ミリィは腕組みしながら考える。いつものレルファなら、鉄拳が飛ぶ所だ。 「サイジンさんとレルファちゃん、仲が良くなったね!アハッ!」  ツィリルも、何かを感じ取っていたようだ。 「仲良き事は、良い事ですね。」  トーリスは、分かっている癖に茶化していた。 「キュキュキュ!キュキュキューキュ!」  ドラムが、ドリーに何か説明していた。 「あらあら、この人に、大事な干し肉を分けてもらったのですか。」  ドリーは、レルファの方を向く。 「ありがとうございます。この子も感謝しています。」 「そんな!ドラムちゃん可愛かったから、つい・・・。」  レルファは、頬を掻く。照れているのだろう。 「あらあら。この子ったら、レルファさんに付いて行きたいですって。」  ドリーは、困った顔をした。 「え、でも・・・。駄目よ?ドラムちゃん。」  レルファは、ドラムの頭を撫でる。 「キュ〜・・・。」  ドラムは悲しい顔をする。 「ドラムちゃん。お母さんの言うことを聞いて、人間変身能力と言葉を覚えたら、 会いに来てね?分かるでしょ?」  レルファは諭す様に言った。ドラムは、まだ変身能力が無い。街中に居たら、そ れだけで目立つのだ。すると人間にも良い奴ばかりでは無い。それだけ危険なのだ。 「キュ・・・。キュ!」  ドラムは、目を伏せていたが、ある決意をすると納得した顔になった。 「分かってくれたのね。」  レルファは、笑顔を見せる。 「レルファさん。私もこの恩は忘れません。いつか会いに行きますよ。この子と二 人でね。」  ドリーは握手を求める。レルファは、頷くと手を握り返した。ドリーの手は、思 ったより柔らかかった。そしてドリーは元の龍の姿に戻る。 「これを持って行きなさい。」  ドリーは、サークレットと龍のお守りをくれた。 「これは・・・?」 「あなた達が、依頼を果たしたと言う証拠です。これを上の島民に見せれば、納得 するはずです。」  ドリーは、そう言うとペコリと一礼をする。それと同時にドラムも一礼を真似た。 「帰り道は、このサークレットの紋章の通りに行けば早く着くはずです。」  ドリーは、サークレットを指差す。サークレットは、いつの間にやら、どこかを 光で照らしていた。どうやら、方向を表しているらしい。 「凄い仕組みネ。」  方角士としての性か、ミリィは感嘆の声をあげる。 「あなた達に竜神の祝福あらん事を。」  ドリーは、そう呟くと、扉を開けた。奥の方で、あの扉が開いた音がする。 「ドリーさん。俺達はストリウスの「聖亭」に居ます。いつか、会いましょう。」  ジークは、そう言うと扉の方へと向かっていった。 「ドラムちゃん、またねーー!」  ツィリルは、手を振りながら、それに付いて行く。 「来たら、私も腕を振るうヨ。楽しみにネ!」  ミリィも、それに続く。 「竜神の使いである、あなた方にも祝福あらん事を祈ります。」  トーリスは、そう言うと、一礼して、それに続いた。 「ドラム君。レルファに会いに来たら、私にも挨拶するのですぞ!」  サイジンは、ニコリと笑うとドラムの頭を撫でて、一行に続く。 「ドラムちゃん。私、待ってるから絶対来てよね!」  レルファは、そう言うとニコッと笑ったが、少し涙を浮かべていた。ドラムは、 涙を流していたが、それを拭っていた。 「キューーーーーー!」  ドラムは、そう一声鳴くと、別れの挨拶の代わりにした。  「望」としての依頼は、こうして終わりを告げるのだった。  この依頼を成功させた事で、ジーク達の名前は売れ始める。しかし、それはまた 別のお話。  ソクトア暦1041年。新たなる歴史が刻まれようとしていた。