NOVEL 2-2(First)

ソクトア第2章2巻の2(前半)


 2、衝撃
 ストリウスの中心は、ギルドから成り立っている。と言うのも、この国が、法皇
とは名ばかりで、ギルドが自治を行ってる国であるからだ。
 そのギルドの中でも、「闇」と「光」と「気」が、勢力争いのように抗争を繰り
広げている。しかし、上手いバランスが、成り立っている物で、それぞれ拮抗して
るから激しい争いは無く、上手い具合に自治が成り立っていた。
 しかし、この頃のジーク達の活躍によって、この3ギルドの威信はドンドン失わ
れていった。それどころか、「望」にギルドメンバーを取られていると言う噂すら
ある。このままでは「望」に取って代わられる日も、そう遠くないかもしれない。
 そうなっては後の祭りと言う事で、色々計画を立てようとしていた。
 特に「闇」は、盗賊や暗殺者などを生業としている者が多い。とは言え、「望」
に行った連中を襲うのでは、いずれアシが付いて、名ばかりとは言え、法皇や対立
している「光」や「気」に何をされるか分からない。
 となると、初めから「望」に居た連中を襲うしかなかった。しかし、ジーク達7
人は、とてつもない強さなので、これまで何人か遠征に出したが、悉く返り討ちに
遭っていた。だが、それ以外の連中は、そこまで強くは無い。何度か「闇」に襲わ
れたと言うギルドメンバーが「望」の中に出始めていた。
 その事に付いて、ジーク達7人と、ギルドマスターのサルトリア、副ギルドマス
ターのサルトラリアは、会議を開いていた。
「とんでもない連中だな。」
 ジークは、口を尖らす。そう言う汚い事は、ジークは嫌いなので、バツの悪い顔
をしていた。
「何度か、私の手で返り討ちにしてるんですがね。懲りない人達だ。」
 トーリスは、溜め息をつく。トーリスは、何度か3ギルドに誘われた事があるが、
もちろん断ってきた。その度に、トーリスは襲われたが、返り討ちにしていた。
「皆を襲うなんて酷い人達だねー。やんなっちゃうねー。」
 ツィリルも憤慨していた。トーリスのおかげか、魔力を制御出来るようにはなっ
たが、ツィリルは感情によって魔力の桁が変わる時がある。気を付けなければなら
ない。前に酒を飲んだときは凄い騒ぎになった事を、まだ覚えている。
「盗賊の中でも悪質な連中が多いって聞いたね。」
 ゲラムは、職業訓練所の話を思い出す。「闇」のメンバーは、見ただけで分かる
らしい。そう言う連中には、気合を入れて教えないそうだ。
「表の受付本部とは別に。裏の本部があるって聞いたネ。」
 ミリィは、ストリウス出身なので、その辺の噂は良く聞いている。
「怪我人が、増えなきゃ良いけどね。」
 レルファは、それが心配だった。この頃、怪我人が多く出るので、レルファの出
番が多いのだ。嫌な訳では無い。でもどうせなら、出ない方が良いに決まっている。
「レルファを参らすとは・・・。品性の無い連中には鉄槌を下さねばね。」
 サイジンは、鼻先で笑う。結構本気だった。
「まぁ待つんじゃ。」
 サルトリアは皆が、過激な事ばかり言ってるので、制止する。
「いきなり攻め込んでも、埒があかないじゃろ?」
 サルトリアは、いつに無く慎重だった。
「随分珍しいね。じいさん。」
 ジークは、サルトリアが結構したたかな爺さんな事は知っている。しかし、この
状況では、真っ先に出掛けるかもしれないと危惧していた物だ。
「こういう無駄な事で、お主らの手を患わせたく無いんじゃよ。」
 サルトリアは、困った顔で言った。
「迷惑だ何て、思ってませんよ?」
 トーリスは、優しく声を掛けてやる。
「そう言う事じゃあない。たまには、この爺にも出番をくれと言うてるのじゃよ。」
 サルトリアは、胸を張る。
「どうする気なのですかな?」
 サイジンは、ちょっと心配だった。
「何のことは無い。休戦条約を、結びに行くだけじゃよ。」
 サルトリアは、もう書状を用意してあった。
「危険じゃない?ちょっと心配だなぁ。僕。」
 ゲラムは、一回サイジンが追っ払ってる時の事を見ている。とても話し合いが通
じる連中には見えなかった。
「あっちとて被害が大きいし、「光」や「気」の事もある。無理に、わしらとは戦
わんじゃろ。」
 サルトリアは、算段があった。「光」や「気」の事も含めて「闇」が受け入れる
だろう条件を結構書き記していた。何せ、自分達の領域を作らないと言う内容の事
も書いてある。悪くない取引だ。彼らは「望」の勢力化が一番気にしているのだ。
それを持たないと宣言すれば、無理に攻め込んでくる事も無いだろう。
「俺も、あまり賛成じゃあないな。」
 サルトラリアだった。実の父の事だ。心配なのだろう。
「お主は、わしがいない間の、このギルドの運営をやるんじゃ。」
 サルトリアは、キッパリ言った。これだけは、やり遂げる気でいる。
「わしとてなぁ。形だけのギルドマスターに、収まりたくは無いんじゃよ。」
 サルトリアは、ニッコリ笑う。なるほど。その思いが強かったからである。
「やれやれ。頑固な事だな。まぁ任せるよ。でも気をつけてよ。」
 サルトラリアは、溜め息をつく。父の、こういう時の押しの強さは、十分知って
いる。サルトラリアが子供の頃から、こんな感じであった。
「お主達も、それで良いな?」
 サルトリアは7人を見渡す。
「お爺ちゃん。気をつけてねー。」
 ツィリルは、心配そうだった。
「今回は任せるけど、無理しないでよ。」
 ジークは、サルトリアと握手する。
「おお。任せんしゃい!」
 サルトリアは、開口一番にそう言うと、手を振って「闇」の表の受付に向かって
いった。
(こんな仕事を、あの子達に任せる訳にも、いかんのじゃよ。)
 サルトリアは、ジーク達の事を本当の孫みたいに思っている。そんなジーク達を、
危険な目に遭わせたく無かったのだ。
 空は、まだ昼だと言うのに曇り始めていた。


 デルルツィアの領土に、一つの馬車が走っていた。決して豪華では無いが、しっ
かりした作り。これは機能性を重視しているためであろう。その分だけ、早く着こ
うとしていた。
 その馬車の中に2人、重要人物が乗っていた。それは、デルルツィア王子ミクガ
ード=フォン=ツィーアと、プサグル王女フラル=ユードだ。馬車を引いてるのは、
不貞腐れた顔をしたドランドル=サミル近衛団長だった。
「フラル。暑くないか?プサグルよりデルルツィアの方が暑いはずだからな。」
 ミクガードは心配する。確かに、気温はデルルツィアの方が遥かに上だ。
「大丈夫よ。ミック。それにしても、お父様には参ったわ。」
 フラルは、思い出して苦笑する。フラルはミクガードの事を呼び難いので、やっ
ぱりミックと呼ぶ事にした。ミクガードも、それで良いと思っていた。
「俺は心配したんだぞ?全く・・・。」
 ミクガードは、頭を掻く。ヒルトにフラルの事を話した時の事だった。もちろん、
ヒルトは、突然の話にビックリして、そう簡単に認めないと言う断固たる姿勢でミ
クガードを跳ね除けていた。しかし、フラルが「ミクガード以外は、結婚しない。
無理やり離すと言うなら、この城を出て行く。」とまで言ったので、ヒルトは目を
白黒させて、気絶してしまったのだ。
「あんな、お父様見るの、初めてだったわ。」
 フラルは、目を伏せる。いつも偉大な父であったヒルトが、自分の事になると、
ああまで取り乱すとは思ってなかったのだ。父の愛を感じた。
「でもミックの真剣さが、伝わったのかもね!」
 フラルは、嬉しそうに言った。結局、馬車でデルルツィアに向かっていると言う
事は、許しを得たのだった。気絶した後、ヒルトは、ミクガードと、とことん話し
た。ミクガードは今までの事を包み隠さず言った。その真摯な表情を見て、ヒルト
は、真剣な表情でフラルの事を頼んでいた。あの表情をミクガードは、忘れられな
い。一国の王とは言え、父であるという証だからだ。
(俺の親父も妹を嫁がせる時、こんなだったかなぁ・・・。)
 ミクガードは、妹の事を思い出す。16歳と言う若さで、政略のために結婚させ
られた妹は、人形のように嫁いで行ってしまった。フラルのように、自分の意思が、
そこにはあったのだろうか?今となっては分からないが、結婚する時に見せた表情
は幸せそうだった。あの時の自分の気持ちを、フラルの兄ゼルバ=ユード=プサグ
ルも持っているのだろうか?ミクガードは、ゼルバとは何度か話したが、ヒルトに
似て、素晴らしい才能だったのを覚えている。人の上に立つ者のオーラが漂ってた。
「どうしたの?」
 フラルは、ミクガードが、また何か考えてるので、顔色を伺う。
「いや、妹の事を考えてた。」
 ミクガードは、フラルにも妹の話をした事がある。自分の身分を明かした後に、
色々と話したせいだ。
「ゼルバ兄さんの事も、でしょ?」
 フラルは、ミクガードの思考回路が、どういう風なのか大体分かるつもりだ。
「多分、ゼルバさんは、妹が嫁いだ時の俺と、似たような心境なんだろうな。」
「どんな気持ちだったの?」
 フラルは、尋ねてみる。ゼルバが、何を考えているか大体知りたかったからだ。
「悔しいと言うより、幸せになって欲しいって気持ちの方が上だったな。」
 ミクガードは、正直に言った。恐らく、ゼルバも似たような心境なのだろう。
「フフッ。あの兄さんが、そう思ってくれれば、少しは嬉しいわ。」
 フラルは、ゼルバの冷静さを知ってるだけに、その兄が、どう考えているか想像
出来るのは楽しみであった。
「それにしても、俺が、こんな形で帰って来るとは想像出来なかったな。」
 ミクガードは、斥候として潜り込みに来たのだ。まさか、フラルと、こんな関係
になるとは思いも寄らなかった。ミクガード自身が、そうなのだから、国の人達は、
もっとだろう。
「あー・・・。何か緊張してきたな。」
 ミクガードは、今更緊張する。国には、一応直筆で手紙は渡してあるが、詳しい
話は、帰ってからすると言う事になっている。
「手紙に、ある程度書いちゃえば早かったのに。」
 フラルも、少し緊張気味だった。
「いやぁ、信用されないと思ってなぁ。」
 ミクガードの直筆だけでは確かに罠だと思われる危険性がある。
「デルルツィアは、そういう体質の国なんだよ。」
 ミクガードは、目を伏せた。デルルツィアは、長い事城壁に囲まれた国である。
一種の鎖国状態と化しているのだ。
「俺が、その状態を破らなきゃな。」
 ミクガードは、決意の目をする。
「その顔のミック、私好きよ。」
 フラルはニッコリ笑う。ミクガードは、照れくさそうだった。
「おい。そろそろ着くぞー。」
 外に居たドランドルから声が掛かった。小さい頃から、子供のように可愛がって
きた、フラルの嫁送りと言う事で、些か不機嫌だった。
「城壁が見えました?」
「ああ。間違いねぇな。それにしてもでけぇなぁ。こりゃ鎖国何て言われる訳だ。」
 ドランドルは、そのデルルツィアの壁を見てビックリする。結構離れているのに
肉眼で見えるほど、デルルツィアの壁は高い。いつの時代に、何のために作ったか
知りたいくらいだ。
「へぇ。うわぁ・・・。大きいのねぇ。」
 フラルも、初めて見る。そして、その大きさに少し感動していた。何せ、知り合
いの家や、プサグル国内しか行った事の無いフラルなのでワクワクしていた。
「デルルツィアが誇る『行雲の壁』だ。・・・俺は、あまり好きじゃないがな。」
 ミクガードは、この壁が小さい頃から嫌いだった。守りに入る感じがするからだ。
そして、それは卑小に見える時もある。それが耐えられないのだ。
「そろそろ検問だな。頼むぜ王子さんよ!」
 ドランドルは、ミクガードに声をかける。ミクガードは、覚悟を決める。
(俺は帰ってきたんだな・・・。)
 ミクガードは、この門を前にして、やっと、その実感が湧いてくる。
「そこの馬車!止まれ!」
 城壁の見張り台から声がした。城門のスイッチも、ここにある。これなら、ここ
を破ろうとする者は少ないだろう。と言うより、空でも飛んでない限り、入るのは
不可能だ。城壁に囲まれた国とは、良く言った物だ。
 ドランドルは、門の前で馬車を止める。
「ここをデルルツィアと知っておろう?目的を話すが良い!」
 門番は大声で尋ねる。なるべく威圧するように、言われているのだろう。
「そこにいるのは、フレノールか?」
 ミクガードは、馬車から降りた。
「な、私を知っているとは・・・何者だ!」
 フレノールと呼ばれた門番は、ビックリする。
「俺の顔を忘れたのか?もう少し、早く気付けよ。」
 ミクガードは参ったように頭を掻く。フレノールは身を乗り出して顔を確認する。
「ま、まさか!お、王子!?か、帰って来たのですか!」
 フレノールは、ミクガードの顔を見てビックリする。
「何を、そんなに驚いているんだ?ちゃんと帰るって手紙出しただろう?」
 ミクガードは、不審に思う。
「いえ、私は、聞いてません。初耳であります。」
 フレノールが、嘘をついているとは思えない。
「手紙を出したのは、1週間も前だぞ?そんなはずは無いのだがなぁ・・・。」
 ミクガードは、少し困っていた。
「まぁいい。親父に知らせてくれ!俺が、帰ってきたってな。」
 ミクガードは、フレノールに伝えると、フレノールは、部下に伝令を頼んだ。
「ちっ。どうなってやがるんだ。」
 ミクガードは、不機嫌だった。もっと、すんなり入れると思ったからだ。
「悪いな。ドランドルにフラル。少し、待っててくれ。」
 ミクガードは、申し訳なさそうにする。
 すると、伝令が、慌てて戻ってきた。デルルツィアでは、伝令役が要所要所に居
るので対応は早い。
「王子!失礼いたしました!今から開門いたします!」
 フレノールが、またでかい声を張り上げる。
「王子!ご到着!」
 ギギギギギギ・・・
 フレノールの声と共に、城門が物凄い音を立てて開く。
 すると、中からは街の様子が見えた。どうやら、伝令が素早く伝わったらしく、
街の人々は、歓迎の眼差しで、こちらを見ていた。
「これが・・・デルルツィアなのね。」
 フラルは、ビックリした。街の様子は、そんなにはプサグルと変わらないが、雰
囲気が違った。王子が帰ってくるだけで、ここまでの騒ぎになるとは思わなかった
のである。プサグルでは、有り得ない盛り上がりだった。
「絶対王帝政の証拠さ。俺は好きじゃないがな。」
 ミクガードは、鼻で笑う。ミクガードは、フラルに話す時も、あまりこの国の事
を良く話して無かったので、何でか?と思ったが、少し納得出来た。
「ミクガード殿下!ばんざーい!」
 人々の様子は熱狂的だった。さすがのドランドルも、これには引いた。
「・・・鎖国ってのは、やっちゃいけないんだよ。分かるだろう?」
 ミクガードは、フラルとドランドルにだけ聞こえるように言う。
(こりゃ、想像以上だぜ。)
 ドランドルは、さすがにフラルを守り通せるか不安になってきた。それが、自分
の使命である。
 やがて、デルルツィアの城の前に来た。すると、すでに王と皇帝と皇太子が迎え
に来ていた。
(あれが、デルルツィア王ルウ=フォン=ツィーアか。そして隣がデルルツィア皇
帝のシン=ヒート=ツィーアか。あれが皇太子だな。たしかゼイラー=ヒート=ツ
ィーアだったか。)
 ドランドルは、名前を思い出す。いざと言う時に呼べなければ困るからだ。
「ミクガードよ!良くぞ帰った!」
 ルウが、王の威厳の声でミクガードを迎える。
「だが、確認したい事がある!お主、誓いの証はあるか!」
 ルウは、ミクガードをジロリとにらむ。偽者では無いかと疑っているのだ。
「・・・好い加減にしやがれ!」
 ミクガードは、イライラしていたが、ちゃんと親指の誓いを見せる。デルルツィ
アの血判と言う誓いの証だった。
「そう苛立つな。ミクガードよ。よくぞ戻った。誠に嬉しいのだ。だからこそ、確
認したかっただけじゃよ。」
 ルウは、ミクガードがイライラしているのを見越していた。息子だから一発で分
かる。だが、何故イライラしてたかまでは、読めなかった。
「親父!それにシンさんにゼイラー!これは、どう言う事だ!手紙だって渡しただ
ろうが!」
 ミクガードは、半分キレ気味だった。いつもなら、あの熱狂的な迎え方は、しな
いし、あれでは、如何にも嘘臭い事はバレバレである。要するに、ルウの指示だっ
たのだろう。それに手紙の事もだ。送ったのに、伝令に伝わって無かったと言う事
も、かなり頭に来ていた。
「ミクガード。どうしたのです?」
 ゼイラーは、あまりにミクガードが怒っているので、ビックリしていた。
「手紙とは、これの事か?」
 シンは懐から取り出す。どうやら、来ている事は来ていたらしい。それならば、
尚更、納得いかなかった。
「俺の手紙では、意味をなさないとでも言うのか?」
 ミクガードは、3人をジロリと睨む。
「ミクガードよ。落ち着け。このデルルツィアでは、他国からの不審者が多いから、
手紙一通でも、怪しく思うってのは常識じゃろうに。」
 ルウは、子供をあやすかのように言った。
「なによ!それ!」
 フラルも、イライラしていたせいか、口を挟んでしまった。
「お主は、誰ぞ?そこに居る兵士も見慣れぬな。」
 ルウは、2人を鑑定するかのように見渡す。
「私はフラル=ユード!プサグルの王女よ。ちゃんと証だって持ってるわ。」
 フラルは、プサグルの紋章の付いたペンダントを見せる。確かに王家の物だった。
「俺はドランドル=サミル。プサグルの近衛団長だ。「荒龍」と言ったほうが早い
か?もっとも戦乱時代の渾名だがな。」
 ドランドルは、四天王の時の剣を見せる。
「ほう。ミクガードよ。何故、この2人と居るのじゃ?」
 ルウは、段々怪しみ始めた。
「親父。好い加減にしないと、怒るぞ?その怪しむような態度を、息子に向けるの
だけは、辞めてくれねぇか?」
 ミクガードはルウだけでは無く、シンやゼイラー、そして他の人々に対して言っ
た。この雰囲気に、耐えられなかったのだろう。
「まぁ良い。信じよう。だが、説明無しに信じる程、お人好しでは無いぞ。」
 ルウは、ミクガードを睨む。
「良いだろう。説明してやる。皆も良く聞いてくれ。」
 ミクガードは、深呼吸する。
「俺が、プサグルに行った事は、皆も知ってる通りだ。そこで俺が見たものは、素
晴らしい物だった。このデルルツィアと違い、王が国民の視線になれるようにと、
努力を続けていた!そして、自由があった!」
 ミクガードは、皆を見回しながら言う。
「そして、俺は、ここに居るフラルとドランドルと知り合えた。一兵士として潜り
込んだのにも関わらずだ!それが何を意味しているか・・・分かるだろう?」
 ミクガードは続ける。ルウは、黙って聞いていた。
「俺は、フラルと知り合って一緒の時を過ごした。俺が、ここに帰ってきたのは、
フラルとの婚約を果たすためだ!」
 ミクガードは、発表する。その瞬間、どよめきが起こった。
「ミクガードよ。それを、お前は信用するのか?」
「親父。アンタなら、そう言うと思っていた。だがな!この国も変わるべきなんだ!
フラルは、俺を信じて、ここまで付いて来てくれたんだぞ?それに応えずに、果た
して良い結果が出るのか?」
 ミクガードは、演説を続けた。段々人々の間から歓声が上がる。
「・・・プサグルで、何があったのじゃ?」
 ルウは、息子の変わりようを見て驚く。ミクガードとて、最初はプサグルの事が、
信用なら無くて自分で調べるとまで言ったのだ。
「親父。ヒルト王は、俺達の結婚を認めたよ。そして、俺に約束してくれた。ソク
トアが一つになるために、同盟すると言う事をな。それを聞いても、まだこの国は、
鎖国するのか?そしてシンさん。アンタもヒルト王を、まだ信用出来ないのか?」
 ミクガードは、皇帝にも尋ねる。
「ミック・・・。」
 フラルは、この恋人を見て頼もしく思った。そして、涙が一筋零れた。
「皆、俺は、フラルと結婚して、この国を支えてみせる。俺に付いて来てくれない
だろうか?俺は、そのために帰ってきた!」
 ミクガードは、宣言する。その瞬間、人々の間から大歓声が飛び出す。
「ミクガード。・・・お主、本気なのじゃな?」
 ルウは、鋭い目付きで睨む。
「ああ。例え、親父が反対しようとも、俺は貫く。」
 ミクガードは、強い意思を表した。
(お調子者の、あの子が、ここまで言うとはな・・・。)
 ルウは、ミクガードの今の輝きが、すでに王として人の上に立つ者の光を放って
いたのを見逃していなかった。
「よかろう!ミクガードよ。お前には、人の上に立つ光がある。わしの目は、いつ
の間にか衰えていたらしい。お前に、この王の座を渡そう。そして、やってみせよ!」
 ルウは、荘厳に答えた。それは引退宣言であった。人々の間から、どよめきが聞
こえる。ミクガードは、ルウを見て深く頷いた。
「ルウよ。良いのか?」
 シンが、心配そうにルウの事を見る。
「シン。息子の支えになってくれ。アレを見よ。わしの時代は、終わったのだよ。」
 ルウが、指差す先に、国民の大歓声を受けるミクガードがあった。
「フン。格好を付けるな。ルウよ。私とて、今のミクガードを支える力は無い。あ
るとすれば・・・。」
 シンは、ゼイラーの方を向く。ゼイラーは、キョトンとしていた。
「父上。どうなされました?」
 ゼイラーは、シンの視線に気づく。
「国民よ!よく聞け!お前達は、良く尽くしてくれた!しかし、時代は新しくなる
物!私は、ゼイラーに全てを任せ、ここに引退を宣言する!」
 シンは、国民に向かって演説する。国民は、更に一層どよめきたつ。
「父上・・・。分かりました。ゼイラー=ヒート=ツィーア!しかと承ります!」
 ゼイラーは、覚悟を決めた。国民の間から、一層の大歓声が起こる。
「フラル。俺は今、初めて、この国を尊敬している。この一体感は他の国には無い
物だ。それを生かすも殺すも俺達次第と言う事だったのだな。」
 ミクガードは、フラルに微笑みかける。フラルはニッコリ笑った。
「俺は、ここに宣言する!このデルルツィアを、人々の争いの無い国にすると!」
 ミクガードは、そう言うと、城の中に入った。すると、人々は口々にミクガード
とゼイラーの名前を連呼する。
「ミクガード。これで、俺の肩の荷も下りた。フラルを幸せにしろよ?」
 ドランドルは、ミクガードと握手をする。
「私、ここの国の人達に好かれるように、頑張りますわ!」
 フラルは、初めて心の底から笑って見せた。それは、幸せと嬉しさが、こみ上げ
る素晴らしい笑いに違いなかった。
 ミクガード=フォン=ツィーア。後に改革王と言われる器であったが、それは、
まだ先の事であった。
 デルルツィアに、プサグルの心地よい風が入って来たかのようだった。


 ストリウスの「聖亭」。ここには、今日もお客が、いっぱい居た。レイホウも、
大忙しであったが、心地良い忙しさであった。
 娘が、また違う依頼を受けたと言う事で、レイホウは、自慢げに客と話したりし
ている。何だかんだ言って、娘の活躍は嬉しいのだろう。
 今回、ミリィが受けている依頼は、ジークとミリィとゲラムだけで受けている物
で、ゲラムの依頼に対する慣れを目的とした内容であった。ストリウスの街の近く
にある法皇の別荘に「妖魔」が住み着いたと言う事で、退治しに行ってるのだ。
 残りの4人は、トーリスを除いてストリウスの街で金貨稼ぎをしていた。ようす
るに働いているのだ。トーリスは魔法の研究が進まないと言う事で、「聖亭」で一
部屋を借り切って、研究していた。昔、ジュダに見せてもらった古代魔法の研究ら
しく、完成すれば古代の魔法が使えるようになると言う。意外と便利な物が多いと
文献にはあったが、実際に使うまでは、トーリスは納得しないのだろう。
 そんな幼馴染の様子を、呆れた顔でレイアは見ていた。研究に没頭すると、周り
が見えなくなる所などは、昔から変わっていない。少し安心した。
 レイアは差し入れを持っていく。
「トーリス。入るわよ?」
 レイアは、ドアを叩きながら声を掛ける。
「レイアですか。どうぞ。」
 トーリスの声がした。どうやら、一休みしている最中らしい。レイアは、ドアを
開けて入る。トーリスは、いつもの三角帽子を机に置いて、研究ノートと魔法書を
どっさりと、床に置きながら椅子に座って寛いでいた。
「フフッ。相変わらずねぇ。」
 レイアは、トーリスの部屋を思い出す。背景こそ違うが、様子は、ほとんど同じ
だった。こういう所は、トーリスは意外に気をつけていない。片付けは、全てが終
わってからやるのだが、終わるまでは片付けようともしなかった。
「はい!これ差し入れ!レイホウさんに感謝してね。」
 レイアは差し入れを渡す。トーリスは優雅に、それを受け取ると静かに口に運ぶ。
「生き返りますね。後でレイホウさんに、ありがとうって伝えて置いてください。
それと、レイアも、仕事の合間を縫ってきたんでしょう?ありがとう。」
 トーリスは、レイアに微笑み返す。レイアは幼馴染の、この表情に弱い。
「トーリス。私、あと1週間で研修は終わるの。」
 レイアは、ニッコリ笑う。この頃、機嫌が良かったのは、そのせいだろう。
「そうですか。なら、その時に一緒に、一回帰りましょう。」
 トーリスは、式を挙げると言う意味で言った。
「皆、ビックリするかもね!」
「ハハッ。そうだと良いですけどね。父さんは、あれで意外と冷静だからね。」
 トーリスは、フジーヤの事を思い出す。確かにフジーヤは、薄々とレイアとの関
係の事を勘付いてるだろう。父は、そういう男だ。何より母には気付かれている。
「でも、トーリスは、まだ冒険に付き合うんでしょ?」
 レイアは、少し暗い顔をする。するとトーリスは、レイアの肩を抱く。
「私は、抜けるつもりでいますよ。」
 トーリスは、意外な事を言った。
「え?ど、どうして!」
 レイアは、錯乱していた。トーリスは、反対の答えを言うと思ってたからだ。
「もちろん、レイアと一緒に暮らしたいと言うのもあります。でもね。後1ヶ月も
すれば、私の弟子達は完成します。そうすれば私が、無理に残る必要はありません。」
 トーリスは、レルファとツィリルの事を言った。既に、ここ1週間だけでツィリ
ルは、目覚しい成長を遂げていた。「飛翔」まで覚えたのはトーリスも驚いていた。
「そっか。分かった!楽しみにしてる!じゃぁ、私仕事あるから!」
 レイアは、トーリスの頬に軽くキスをして出て行く。この頃あまり隠していない。
特に、トーリスの前では自分の気持ちを出すようにしていた。
 それを目撃している不穏な影があった。トーリスに気が付かれないように、廊下
の奥の方で、それを監視している影だった。
(あの女。確か、ここの新入りだったな。)
 影は「闇」の一人で、凄まじい忍び足の名手だった。
(・・・使えるな。)
 「闇」は、この影にジーク達7人の弱点を探すように言われていたのだ。後の6
人は、隙が無かった。しかし、意外にも、このトーリスに弱点があろうとは思って
も居なかった。一番隙が、無さそうだったからである。
 レイアは、そんな事露知らずに買出しを自分から勧んで頼まれて、外に出る。
 そして、「聖亭」から、少し離れた所で、路地裏で影は動いた。
「・・・!?」
 レイアは、いきなり路地裏に連れ込まれてビックリする。それと同時に、眠り薬
を嗅がされた。こういう事に関しては「闇」は一流である。レイアは気を失う。
「ト・・・トー・・・リ・・・ス。」
 レイアは、力なく倒れる。すると、「闇」のメンバーが控えていて、そのメンバ
ーが、レイアの事を運び出す。手際の良い仕事だった。
 そして、そのメンバーは、「聖亭」のポストに脅迫状を入れた。
 内容は、「ストリウスの西地区に「闇」専用の広場がある。そこに一人で来るが
良い。一人で来なければ、レイアとか言う女の命は無い。」
 と言う内容だった。トーリス宛で、怪しまれないように偽装してあるので、まず
トーリスだけに見られるし、トーリスは、この女を見殺しには、しないだろう。
 レイホウが、ポストに音がしたので、確かめに来ていた。レイホウは、思った通
り、トーリスに手渡しで渡していた。それを見た時点で「闇」の影は「聖亭」を後
にした。トーリスは、手紙を自室に持っていく。
(・・・!!)
 トーリスは、自室で愕然とする。しかし、悟られないように周りに気を配る。
(レイア・・・。クッ!私のせいで!何たる事!)
 トーリスは手紙を握りつぶすとあっという間に燃やした。そして、早速、身支度
をする。レイホウにも悟られないように、しなければいけない。
「おや?トーリス。どうしたんだヨ?」
 レイホウは、声を掛けてきた。
「いやぁ、ちょっと文献が足りないんで、探しに行ってみようかと思うんですよ。」
 トーリスは、上手く嘘をついた。
「そうカ。なら悪いんだけど、レイアちゃんも探してくれないかイ?」
 レイホウは、レイアが遅くなっているので心配していた。
「何か、あったのですか?」
 トーリスは同様を悟られないように、平静さを意識しながら保つ。
「いやぁ、張り切って自分で買出しに行くって言ったまま、帰ってこないのヨ。迷
って無いか心配ネ。」
 レイホウは参った顔をしていた。
「分かりました。探しておきます。」
 トーリスは、それだけ言うと、飛び出した。どうやら間違いない。間違いなくレ
イアを攫ったらしい。連中のやりそうな事である。
(私としたことが!レイアを一人にしてしまうなんて!)
 トーリスは、悔やみきれないでいた。レイアは、武術や体術の心得はない。一番
攫われ易いのだ。部外者だと思っていたので、油断していたのだ。
(何かあったら・・・連中、生かしては帰しません!)
 トーリスは、とにかく先を急いだ。そうすれば、間に合うのなら、体が引きちぎ
れても良いと言わんばかりにである。
(無事で居てください!レイア!)
 トーリスは、とにかく祈りながら先を急いだ。



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