4、到来  ストリウスにあるギルドは今、変わりつつあった。自ら自治を行う団体と、ハイ エナのように領地を取ろうとする団体が、ぶつかり合っていた。「闇」「光」「気」 が、消えた今、残ってる主なギルドは、せいぜい「望」くらいだった。他のギルド も、台頭を表してきたが、「望」が、一番でかくなってきた。サルトラリアは、そ の都度、忙しそうにしてたが、寂しそうでもあった。このギルドは、元々サルトリ アが望んで作った物である。やはり、父が居なければ、ギルドが大きくなっても、 嬉しさは半減だった。  ギルド「望」では、サルトラリアが、ギルドマスターで、ジークが、副ギルドマ スターと言う事で、成立している。最も、ほとんど仕事は、サルトラリアがこなし ていた。他にも、経理や受付などは、ちゃんと雇って建物も改修したため、今では、 当時の3倍は大きいギルドとなってしまった。  ジーク達は、未だにギルドの仕事を、ちょくちょくこなしていた。ストリウスに 来て、既に3ヶ月近く経っている。その中身も、少しずつ変わっていった。また、 ジークは、冒険する事で、自分の目標を立てると言う目的は、達成しつつあった。  ジークは最近、何のために闘っているのか考える事が多い。最初は、依頼をこな すため、仲間を守るため、修行のためだったが最近は違う。トーリスの行方も捜す ためなのも、そうだが、何よりも、依頼をこなした時の、人々の喜ぶ顔を見るため に、やる事が多い。冒険者になって良かったと思える事が、一番だと考えていた。  この頃、ジークが気にしている事と言えば、もう一つある。サイジンとレルファ の事である。魔法を教えてもらった晩辺りから、妙に雰囲気が違う。何と言うか、 サイジンもレルファも、いつもと変わらないのだが、二人でしゃべってる時は、妙 に声が掛けづらい雰囲気なのだ。  変わったといえば、この頃、ミリィが良くジークに話し掛けてくる。ジークも別 に嫌じゃないので、話す事は多くなったが、何となく照れてしまう事が多い。  ツィリルはツィリルで、トーリスの事を考えている事が多いようだ。まず第一に 行方、そして、レイアとの関係の事も考える機会が多くなった。と言うより、レイ アが、生きていたら、どう言う風に考えるだろう?と考える事が多くなった。  ゲラムはゲラムで、マイペースながらも、トーリスの事を考えていた。トーリス との思い出は、そんなに多くない。しかし尊敬する人だった。何に置いても動じな い強い精神力と凄まじいまでの魔力に対する努力を怠らない人だった。しかし、そ れは反対に、脆い心への警告だったのかも知れない。普段、動じない人が、動じる ような事が起きると、意外に脆いのかも知れない。そんな事を考えていた。  そんなある日、サルトラリアが、ある依頼を持ってきた。 「皆、この依頼を見てくれ。」  サルトラリアは、「望」の新しい談話室で、依頼内容を広げる。 「今回の依頼は、バルゼだ。」  サルトラリアは皆にも分かるように、説明しだした。 「そして、依頼内容を見てくれ。」  サルトラリアは、依頼の紙をジークに渡す。 「こ、これは!!」  ジークは、見てビックリする。 「どうしたんですかな?ジーク義兄さん。」  サイジンは、ジークの驚きようが気になっていた。 「どーしたのー?」  ツィリルも、不思議そうな顔をしていた。 「ト、トーリス・・・。」  ジークは呟く。依頼内容にはバルゼの商品の警護と書いてあったが、その内容が 奇妙だった。この頃、「商隊剣士」が悉く襲われて、使い物にならないので警護し てくれとのことである。「商隊剣士」とは、バルゼの商人達の私兵だが、その強さ は正規の軍より強い傭兵達によって、編成されていたはずである。しかし、この頃 その「商隊剣士」が、赤いローブで赤い三角帽子を被った緑髪の男に悉く葬られて いると言う事である。それも、報告によると、死体のほとんどは、凍傷によって死 亡した者が多いと言う事である。 「・・・なるほどネ。これは、確かにトーリスの仕業っぽいネ。」  ミリィは、腕組みして考える。 「しかし、何で「商隊剣士」なんて襲ってるのかな?」  ゲラムは訳が分からなかった。トーリスが、「闇」などを潰した理由は分かって いる。自分の恋人を殺されたためだ。しかし、「商隊剣士」を襲う理由など、どこ にも無いはずである。 「先生の考えの中で、何かあったのかしら・・・。」  レルファは考えるが、答えは出てこなかった。何が起こったのかサッパリである。 「ジークお兄ちゃん。行こう!」  ツィリルは、行く気満々だった。それはそうだろう。 「ああ。もちろん、そのつもりだ。」  ジークは答える。皆を見回すが、反対の者など一人も居なかった。 「センセーは、絶対、わたしが戻してみせるよ!」  ツィリルは、いつになく積極的だった。この頃トーリスの事でモンモンと考える 事が多かったせいか、煮詰まってるぽかった。 「応援してるヨ!」 「ツィリルちゃん。ガッツよ!」  ミリィとレルファも、それに同調する。この頃、この3人は団結してる事が多か った。サイジンは、その理由が分かっていたが、ここまでとは思わなかった。 「しかし、バルゼとは、また遠いなぁ・・・。」  ジークは、頭を抱える。バルゼと言えば、北の台所である。ソクトアの中でも、 かなり北に位置する国で、プサグルも、かなり北だが、その北だと言うのだから、 かなりである。中央大陸を縦断しなければ、ならないだろう。 「ストリウスからだと、馬車で約1週間掛かるな。中々な距離だな。」  サルトラリアは、計算して出してくれる。最も、ストリウスの商品をバルゼに届 ける依頼なので、すぐ帰って来れるのかもしれない。 「こんな時に、ペガサスでもあれば、便利だったんだがなぁ・・・。」  ジークは、贅沢な事を言う。 「ペガサス?何ヨそれ?」  ミリィは、キョトンとしていた。サルトラリアもである。 「あれ?知らない?ああ。そうか。一般的には、知られてないんだっけ。」  ジークは、しょうがないので、手短にペガサスの説明をする。ついでに、フジー ヤの事も話しておいた。 「すごーいネ!私見たいヨ!」  ミリィは、興味津々だった。それはそうだ。ペガサスは、王家やジーク達にしか 出回っていない。馬が空を飛ぶなど、一般には考えられない事だ。 「そうか。トーリス君の父が、そんな凄い人だったとはな。」  サルトラリアも、感心していた。ペガサスの存在は信じがたいが、ジーク達全員 が、知ってるとなると、信じない訳にも行かなかった。 「途中、俺の家に寄って、ペガサスを借りるか。」  ジークは、久しぶりに我が家に顔を出して置きたかった。 「その方が早く着くし、良いと思うよー。」  ツィリルも反対しなかった。それほど、空の旅は楽な物だった。中央大陸を馬車 で縦断するなどしてたら、トーリスも、どこかへ行ってしまい兼ねない。それに、 ジークの家なら、ストリウスから馬車で1日で着く。効率は良かった。 「トーリスに会う為には、「商隊剣士」としても、少し居なきゃいけないだろうし な。効率良く行かなきゃな。」 「ありがとうネ!ジーク!」  ジークは、ミリィの喜ぶ顔が見れたので少し満足だった。この頃、何故か、そう 言う考え方をする日が多い。ジークにも、少し変化が表れた証拠だろう。 「うーん。久しぶりねぇ。家に帰るのも。」  レルファも、感慨深い思いにさせられる。 「そう言えば、あの家から始まったのですなぁ。」  サイジンは思い出す。レルファが出ていったのを見て、慌てて自分も旅支度した のを覚えている。あの時を見逃していたら、一生後悔していただろう。 「そう言えば、お兄ちゃんとか、元気かなぁ・・・。」  ツィリルは、兄のアインの事などを思い出す。ここまでは、トーリスの事で寂し さを紛らわす事が出来たが、やっぱり、寂しいのだろう。 「ライルさんに、久しぶりに会いたいけど、居ないんだろうなぁ。」  ゲラムは、ライルがルクトリアに向かった事は手紙で知った。あの時の特訓は忘 れないだろう。英雄と、その息子ジークとの特訓は苛烈を極めたが、楽しかった。 「皆は良いネ。私は初めてだヨ。」  ミリィが、少し寂しそうだった。 「何言ってるのさ。ミリィ。これからミリィも加わって思い出を作れば良いんだよ。」  ジークは、ミリィの肩を叩いてやる。 (へぇ。あの兄さんが、こんな事言うなんて、珍しいわね。)  レルファが、ジークの反応の違いに少し驚く。 「そうだよ。ミリィさん!わたし、ミリィさんに会って、本当に良かったと思って るんだよ?きっとセンセーだって、同じだよ♪」  ツィリルは、ニパァッと笑う。ミリィは、嬉しそうにツィリルに微笑み返す。 「よし!決まりだな。じゃぁ、この依頼は、君達で、こなしてくれ。」  サルトラリアは、依頼に決定マークを押す。 「分かりました。今回は、ちょっと個人的だけど、がんばろうぜ!」  ジークは、皆に気合を入れる。 『オウ!』  皆は、それに答えた。  トーリスは、抜けたが団結力は更に強くなっていたのであった。  ソクトア大陸の中央に位置する中央大陸。その中心より、多少、南に行った所に、 一軒の家がある。その家こそ、冒険の始まりであるユード家だった。ここでのジー クの20歳の誕生日が、事の始まりだったとも言える。今となっては、結構懐かし い出来事だ。  今、ユード家は、プサグルの執事が全力を持って掃除してるので、出て行った時 より、ピカピカのままで維持されている。大した物である。信用している執事を寄 越したと言うだけある。  その家にライルは寄ってみた。まだ、マレルなどがルクトリアに居るので、帰ら ねばならない身だが、空が暗くなったので、久しぶりに泊まってみる事にしたのだ。 (しかし、凄いな。)  ライルは家の中に入って改めて思った。全部完璧に仕立ててあった。無いとすれ ば、その日の材料くらいだ。ペガサスの世話まで、全て完璧にやってあった。執事 は今、ペガサスに餌をやっている所だった。  噂に寄れば隣の修道院の誰かも来て、手伝ってるとの事で、ありがたい話だった。 (さて、材料は取ってきたし、調理するとするかな。)  ライルは、帰り際に久しぶりに野生の猪を取ってきたので、食べる事にした。  すると、修道院の馬車の停車場から、久しぶりに誰かが降りる音がする。 (珍しいな。)  ライルは、この修道院に、この時間に馬車が止まると言うのは、あまり聞いた事 が無かった。すると、結構な人数で、降りてくる音が聞こえた。  どうやら、ここに向かって来るらしい。 「はぁ。久しぶりのうちかぁ。と言っても、誰も居ないんだよなぁ。」  暢気な声が聞こえてくる。無論聞き覚えのある声だった。 「誰も居ない事は、無いぞぉ!」  ライルは大声で、それに答える。どうやらドアの外まで聞こえたようで、ビック リしたのか、すぐにドアが開けられる。 「と、父さん!」  ジークは、ドアを開けてビックリする。まさか、父が帰って来てるとは、思わな かったのだ。執事の人とは、さっきペガサスの厩舎で挨拶したので、誰も居ないか と思っていたのだ。 「おぉ!ライルさんだ!ひっさしぶりです!」  ゲラムも、元気に挨拶する。 「なぁんだ。父さんが居るとは、思わなかったわ。」  レルファは、相変わらず軽い口を叩く。 「これはお義父上。帰っていらしたとは・・・。」  サイジンは相変わらずだったが、ひょんな事に、レルファが抵抗しなくなってい た。ライルは、それを見て感づいたが、レルファが幸せそうな顔をしていたので、 特には言わなかった。しかし、後で聞いてみるつもりだった。 「ライル叔父さんだぁ。久しぶりでーす!」  ツィリルは、少し寂しげだった。見渡したらトーリスが居ないので、そのせいだ と悟った。フジーヤの手紙に書いてあったのは、本当だったらしい。 「私、ファン=ミリィでス。お願いしますネ!」  ミリィが、丁寧に挨拶する。かなり緊張してるようだった。ソクトアの英雄の前 だと言う事もあるが、それ以上に、ジークの父親だと言う事が大きい。 「みんな、いっぺんに挨拶されても困るな。まぁ座りなさい。」  ライルは、優しく人数分の椅子を用意した。こういう所は、ジークそっくりだと ミリィは思った。やはり親子なので、似てるのだろう。  しばらく話し込んで、執事を紹介していた。執事の名前はサムソンと言う名前で、 凄腕の執事らしく、プサグルの執事功労賞を何度か取ったらしい。  サムソンの話が終わると、今度はジークが、これまで起こった事を話し始める。 大体の事は、フジーヤの手紙で知っていたが、ミリィの事や、龍の巣の詳しい出来 事などを聞く事が出来て、満足だった。  ライルの方は、これまでの皆の動きと、フラルの結婚話に付いて話した。その話 は、ジーク達は全く聞いた事が無かったので、ビックリしていた。特にゲラムは、 信じられない顔をしていた。 「へぇ、フラルさん、結婚するんだ。」  ジークは、ビックリしながら頷いた。 「あの姉さんがねぇ・・・。相手の人は、どんな感じなのかなぁ?」  マイペースのゲラムと言えど、さすがに自分の義理の兄になる人は、気になるの だろう。何より、あの姉が嫁いで行く所など、想像も出来なかった。 「ヒルト兄さんの話では、デルルツィアの王子で、フラルの一目惚れらしいぞ。」  ライルは、ヒルトがそれ以上あまり語りたがらなかったので、聞いていなかった。 「この際だし、言っちゃったら?」  レルファは、サイジンに肘で合図する。 「・・・わ、分かりました。」  サイジンは、緊張した面持ちで答えた。 「ライルさん。じ、実は、ですね。」  サイジンも、緊張する事があるのだろう。レルファは初めて見た。 「何だ?改まって。」  ライルは、怪訝そうな顔をしていたが、実は予想はついていた。 「真剣にレルファと、お付き合いするので、許して戴きたい!」  サイジンは、真面目な声で、皆の前で言った。レルファは、恥ずかしそうにして いたが、嬉しそうだった。 「サ、サイジン、本当なのか!?」  ジークだけ、一人抜けてる事を言っていた。 「・・・サイジン君。君に一つだけ、質問しよう。」  ライルは、真剣な顔でサイジンを見る。 「何でしょう?」 「君は、レルファの事を幸せにする自信は、あるかね?」  ライルは、サイジンの眼を見据えて言った。すると、サイジンは、少し伏せ目が ちだったが、真面目な顔で返す。 「今は、ありません。しかし、そうなるよう努力します。」  サイジンは、ちゃんと答えた。 「・・・フッ。レルファ。サイジンに付いて行けるか?」  ライルは今度はレルファに尋ねる。すると、恥ずかしそうに首を縦に振っていた。 「そうか。なら反対するべくも無い。頼むぞ。サイジン君。」  ライルは、サバサバしていた。サイジンは、見た目よりしっかりしてそうだし、 娘も幸せそうにしている。寂しさは残るが、娘も16だ。そろそろ、自分で自分の 事を決め始める年頃なのだろうと理解していた。  自然と拍手が起こる。ジークも、それに入って手を叩いていた。 (レルファは、自分の幸せを掴んだのか・・・。)  ジークは、それならば何も言うまいと思った。 「約束しましょう。私はレルファ、貴女と共にある事を!」  サイジンは、レルファに微笑みかける。 「ありがとう!父さん、兄さん、そしてサイジン!」  レルファは、感極まって涙が溢れてきた。 「良かったヨ!ほんとに良かったヨ!」  ミリィは、自分の事のように喜ぶ。ツィリルも嬉しそうだった。 「これで、マレルへの土産話も増えたな。」  ライルは、嬉しそうに言った。 「それにしても、バルゼか。トーリス君が居れば、良いがな。」  ライルは、トーリスの事は報告を受けて知っている。 「センセーは、迷ってるんだよ。だから迷いを吹っ切らなきゃ・・・。」  ツィリルは、希望に満ち溢れた目をしていた。トーリスに会うと言う目的のため に、邁進している感じだ。 「ツィリルは、強くなったね。でも、無理は・・・するなよ。」  ライルは、優しい目で微笑みかける。つい、この姪っ子には優しくなってしまう。 「うん。でもね。わたしセンセーに会って、話さなきゃならないの。」  ツィリルの決意は、固かった。 「そうか。なら止めない。だが後悔だけは、するなよ?」  ライルは、ツィリルの頭を撫でてやった。 「うん!」  ツィリルは、ニパァッと笑う。相変わらずの笑顔だ。この状態で、この笑顔を作 れるとは、見た目より精神の強い子なのだろう。 「そして、君がミリィさんか。よろしく。」  ライルは、ミリィに視線を移す。ミリィは、結構緊張した面持ちだった。 「よろしくでス。」  ミリィは、ライルを見て本当にジークに似ていると思った。いや、ジークがライ ルに似ているのだ。英雄が持つ独特の雰囲気をジークも、持っているのだろう。 「ミリィさん。君は少し、気後れしてないかい?」  ライルは指摘する。確かに、その通りだった。ミリィは、皆が思い出深いこの場 所に、初めて入る客人なのだ。 「確かに皆にとっては、思い出の場所だと言う事には代わりは無い。ただね。この 場所を、ミリィさんにも、思い出の場所にして欲しいな。」  ライルは、説き伏せる。ミリィは、それを聞いて嬉しく思う。 「ありがとうございますネ。・・・何だか軽い気持ちに、なりましたヨ!」  ミリィは嬉しそうに、ライルの方を見る。どうやら肩の力は抜けたようだ。 「よし。・・・サムソンさん。悪いが、猪の調理のほう頼んで良いかな?」  ライルは、取ってきた猪をサムソンの方に渡す。 「どうぞ。私の役目は、この家の管理ですから。ごゆるりと。」  サムソンは、丁寧に返事を返す。しかし、嫌な感じはしなかった。かなり優秀な 執事のようだ。ライルは、感謝の礼をすると、木刀を持つ。 「ジーク。表に出ろ。俺が、久しぶりに稽古してやろう。鈍ってないよな?」  ライルは、そう言うとジークに木刀を持たす。 「大丈夫だよ。父さんの方こそ、大丈夫だよね?」  ジークは、やる気満々になっていた。さすが親子である。 「ほう。ジーク義兄さんとライルさんの稽古か。見たいですな。」  サイジンは、興味津々だった。サイジンは、まだ、この2人の手合わせを見た事 が無いのだ。皆は、ライルに付いていく。外は暗いが、家の前は、ランプを付けれ ば、まだ明るく見える程だった。 「よぉし。構えろ。ジーク。」  ライルは、不動真剣術「攻め」の型を見せる。 「俺だって、この3ヶ月間、伊達に冒険した訳じゃないよ?」  ジークも、不動真剣術「攻め」の型を見せた。2人共、攻め中心に考える事が好 きなのだろう。2人共、隙が無かった。 「はぁぁぁ!」  ジークは、切っ先をユラユラ揺らしたまま、攻め込む。 「幻惑のつもりか?甘いぞ!」  ライルは、切っ先を木刀で跳ね除けると、一気に間合いを詰めた。 「不動真剣術、突き「雷光」!・・・っと、避けられたか。」  ライルの突きを、ジークはジャンプして躱す。さすが、継承者同士の闘いだけあ って、読まれる事は多いようだ。ジークは、ジャンプから木刀をひっくり返して、 ライルに斬りを繰り出す。 「その態勢で、良い斬りなど出せん!」  ライルは、ジークの斬りを軽く受け流す。そして足を払う。つもりだった。 「なに!?」  ジークは、それを見越したのか、足に木刀を持ってきて、受け止めて着地した瞬 間、突っ込んできた。 「はぁぁぁ!!不動真剣術、袈裟斬り「閃光」!・・・さすが父さん。」  ジークは、手応えは、あったが木刀なのを知った。ジークの「閃光」は、木刀を 縦にして、受け止められていたのだ。 「・・・早い。さすがですな。」  サイジンは、2人の尋常ならざる動きに感心していた。 「凄いネ。さすがジーク。それにライルさんも、凄いヨ。」  ミリィも、その凄さを肌で感じ取っていた。まるで動きが見えない。これが不動 真剣術の継承者同士の闘いなのだろう。レルファは、見慣れていたし、ゲラムもあ る程度見ていたので、そんなに驚きはしなかったが、いつに無く、力が入ってたの は、見て分かった。また、ツィリルは、見てたが内容がイマイチ掴めて無かった。 「腕を上げたな。ジーク。だが、これでどうだ?」  ライルは、不動真剣術「無」の型を見せる。 「俺の攻撃を「無」で返せる自信があるのか。さすが父さん。」  ジークは、冷や汗を流す。「無」の構えは、己を無にして、敵の攻撃を間一髪で 避けて、カウンターの一撃を食らわす構えだった。 「だが、そうは行かない!不動真剣術、旋風剣「爆牙」!!」  ジークは、「爆牙」で風の小竜巻を起こす。ライルは、それを突っ込みながら躱 す。恐ろしい反応である。一気に間合いを詰められたジークは、堪らず裏に回りこ むように、大きくジャンプする。 「こういう時に、使うんだ!ジーク!不動真剣術、旋風剣「爆牙」!」  ライルは、お返しに「爆牙」をジークの方に向ける。迫ってくる竜巻に対して、 ジークは、無防備だった。 「はぁぁぁ!」  ジークは避けられないと知ると、その竜巻を素早く4回斬りつける事で、竜巻を 消してしまう。 「不動真剣術、連続斬「短冊(たんざく)」!」  ジークは、横に一回、縦に素早く3回斬るこの技で、竜巻の威力を消してしまっ た。しかし、消し切れなかったのか、少し腕に掠り傷を負っていた。 「まさか、「短冊」を持ってくるとはな。」  さすがのライルも、予想が付いて無かった。 「良い修行を、したようだな。」  ライルは、ニヤリと笑う。息子の成長が見て取れて嬉しかった。 「父さんだって、衰える所か、前より冴えているってのは、どう言う事さ。」  ジークも、久しぶりに父の木刀を受けて、嬉しく思っていた。 「毎日、アインやレイリーの相手をさせられてるからな。衰えはしないさ。」  ライルは、そう言うと木刀で妙な構えに変える。 「さぁて、行くぞ!ジーク!不動真剣術、剣圧「烈光(れっこう)」!」  ライルは、木刀で一条の光を作り出す。それを気合で飛ばした。その剣圧を、ジ ークは、読んでいたのか、ジャンプ一番で躱す。  その態勢のまま、ジークは、何と五芒星を木刀で描く。 「まさか!」  ライルは、ビックリした。 「行くぞ!父さん!不動真剣術、奥義!「光砕陣(こうさいじん)」!!」  ジークは、五芒星に自分の闘気を乗せて、ライルに放つ。地面に向かうまでに、 大きくなっていき、ライルは、その五芒星を木刀で受け止めようとしたが、受け切 れず、木刀と一緒に吹き飛ばされた。 「くっ。ぬぅぅぅ!」  ライルは、起き上がろうとした矢先、ジークの木刀の切っ先が眼前に向けられた。 「ふぅ。参った。俺の負けだ。」  ライルは、お手上げのポーズをした。 「ふぅ!しんどかった・・・。」  ジークは、肩の力を抜く。 「凄いヨ!ジーク!見直したネ!」  ミリィは、駆け寄ってきた。そして嬉しそうに手を握る。 「ハハッ!ありがとう!」  ジークは、照れながらも握り返した。ミリィは嬉しそうな顔をすると手を離す。 「全く・・・俺の予想を、遥かに越えて強くなりやがって・・・。」  ライルは、文句を言ってたが、息子の成長振りが見られて嬉しそうだった。  それにライルは、継承の時ですら、出さなかった不動真剣術の技の数々を、繰り 出してまで負けた。本気を出して負けたのだ。 (ジークは、この俺よりも才能があるようだな。)  ライルは、間違いなく自分より強いと思った。ライルの全盛期も凄まじい実力で は、あったが、ジークは見た所、まだ成長段階である。それを考えると、ジークの 力は、ライルの力を凌駕していた。  ライルが、そんな事を思っていると、突然後方から気配がした。 「誰だ!」  ライルは、警戒しだす。あまり良い気配とは言えなかった。  気配は、光の下に出ると、その姿を現す。切れ長の目に真っ黒い髪をしていた。 暗黒色の服を着ていて、姿は、人間だが何か違う感じがした。 「ライル=ユード=ルクトリアとは、アンタの事か?」  その男は、突然尋ねる。 「そうだ。そういう君は、何者だ?」  ライルは、まだ警戒していたが、敵意は少ないと見て、肩の力を抜いた。 「俺の名はミカルド。覚えておくと良い。」  その男は、人間の姿を模したミカルドだった。 「なるほど。それで、アンタを倒した、お前は何者だ?」  ミカルドは、ジークの方に視線を向ける。 「俺は、ジーク=ユード=ルクトリアだ!アンタこそ、何者なんだ?」  ジークは、ミカルドを睨み付ける。 「ほう。なるほど。息子と言う訳か。面白い。」  ミカルドは、低く笑う。皆、ミカルドが、何者かは分からなかったが、只者では 無い事は、その佇まいで分かる。 「そこに居る5人も、かなりの力を持っているようだし・・・。楽しめそうだな。」  ミカルドは、5人に視線を移す。 「何が目的だ?」  ライルは、この不気味な青年を、快く思っていなかった。 「今日は、物見に来ただけさ。驚かせてしまったかな?」  ミカルドは、嬉しそうに笑う。この7人に対して、ここまで余裕で居られる者な ど、普通では無い。実力が分かっていて、この余裕である。 「もしや、魔族か?」  ライルは、この青年を見てると、リチャード=サンを思い出してしまう。黒竜王 の化身であったリチャードも、こんな雰囲気であった。 「ビンゴとだけ、言っておこう。」  ミカルドは、あくまで余裕の構えを解かない。 「魔族・・・か。私達を物見して、何を企んでいるのですかな?」  サイジンは、聞いてみる。 「人間の最強は、どんな物か確かめてみたかったのさ。だが、この程度では、いず れ滅ぼされるぞ?」  ミカルドは、指摘する。言うほど弱くは無いが、ミカルドを相手にするには、ま だ不十分な実力だった。 「やってみなくちゃ、分からないでしょ!」  レルファは、つい我慢出来ずに、叫んでしまう。 「気の強い事だな。だが俺には分かるんだよ。」  ミカルドは、楽しそうに笑う。 「だが、俺の望んでいる闘いは、もっと緊張感のある闘いだ。魔族と神々だけの闘 いなど、俺は望んでいない。」  ミカルドは、腕を組む。 「魔族と神々の闘いって、何の事ヨ。」  ミリィは、不思議そうな顔をする。 「お前ら人間は、知らぬだろうな。古来より魔族が、力をつけた時に、必ず神々が 邪魔をすると言う事を。お前らは、それだけ恵まれているのだぞ?」 「・・・その話なら、聞いた事がある。」  ライルは、しかめっ面をする。ライルは、聞き覚えがあった。魔族現れる時に、 乱起こり、神々が、その乱鎮めたもう、という話は、良く口伝で伝えられている。 「今とて、神がどこかで調査し、どこかで監視しているに違いない。」  ミカルドは、忌々しく言った。それほど神の力は絶大なのである。どんな弱い神 と言われていても、魔王クラスの魔族を蹴散らせる実力があると言う。 「人間達よ。貴様らは、守られるだけで良いのか?」  ミカルドは、ジークを睨む。 「元よりそんなつもりは無い。例え、今は力が無くても、俺達は、自分の力で乗り 越えてみせる!」  ジークは言い切った。そして、正確な想いだった。 「良くぞ言った。その通りだ。」  ライルも、同調していた。 「良かろう。ならば、乗り切って見せるが良い。この力をな!」  ミカルドは、そう言うと瘴気を出し始めた。物見だけのつもりだったが、つい我 慢が出来なかったのだろう。 「くっ!この波動!黒竜王以上だ!」  ライルは、驚くと共に、これからの闘いの厳しさを悟るのだった。 「乗り越えられるか?ジークとやら。」  ミカルドは、ニヤリと笑う。その瞬間だった。空間に扉が開いた。 「あ、あれは・・・。」  ジークは、その先に出てきた人物に見覚えがあった。 「ジュダさんだぁ。それに赤毘車さんもだ。」  ツィリルは、懐かしげに見る。ジークの誕生日以来だった。 「久しぶりだな。そして、そこに居る魔族。何者だ?」  ジュダは、『転移』で、ここに来たのだろう。 「ジュダ・・・。ほう・・・。貴様が、このソクトアを監視していた奴か。」  ミカルドは、冷や汗を流す。ミカルドが冷や汗を流すなど、尋常な事では無い。 「どう言う事だ?」  ライルは、ジュダと赤毘車を見る。 「フッ。これ以上、隠しても無駄なようだな。」  ジュダは観念する。と同時に、物凄い魔力と闘気を放ち始める。赤毘車もだ。 「俺の名前は、竜神ジュダ!」 「そして、私の名は、剣神、赤毘車!」  ジュダと赤毘車は、正体を明かす。ライルはビックリしたが、黒竜王の時の事を 考えても、今までの事を計算しても、この人達が、神だったと考えれば、合点が行 く事が多かった。 「ならば、俺も答えよう。俺は、魔王クラーデスが末弟ミカルド!」  ミカルドは、自己紹介をする。そして、それと同時にジュダは眉を動かす。 「ほう。あのクラーデスの息子か。」  ジュダは、聞き覚えがあった。魔王クラーデスと言えば、「魔王の中の魔王」と 言う事で有名である。 「ふっ。手応えありそうな人間達よ。そして竜神に剣神。また会おう。今日は物見 だけなんでな。これ以上やったら、お咎めを受けてしまうからな。」  ミカルドは、そう言うと『転移』の応用か、すぐに消えた。 「あれが・・・魔族・・・か。」  ジークは、これからの闘いの厳しさを予感するのだった。  間違いなく、とてつもない闘いになる。ライルでさえも、そんな予感がした。  ライルの家では朝は早い。あんな出来事があった後だが、関係なく起きて、朝の 稽古をする。いや、あんな出来事があったからこそ、時間を無駄に出来ないと思っ たのだろう。  相変わらず、ジークは起きるのが少し遅かったが、朝飯を食べ終わったら、すぐ に稽古を始めた。昼前までにペガサスで飛び立つつもりなので、急がなければなら ない。確かに、魔族との闘いも重要なのだが、あの様子では、まだ始動するのは遅 そうだ。それより居なくなったトーリスを追う事の方が重要なのである。  あの後、ジュダと赤毘車から話は聞いた。ジュダと赤毘車は、神のリーダーから の命令で、このソクトアの調査と魔族の殲滅が任務だという。この頃、ソクトアに 猛烈な波動が出始めたのは、黒竜王のせいだけでは無く、間違いなく魔王クラスの 魔族が出始めた証拠なのだと言う。そして、その場所は、今探っている最中で、中 々突き止められないで居た。しかし、昨日のミカルドの一件から、クラーデスは、 間違いなく降臨しているのだろう。  そして、魔族の位についても話をしてもらった。その話を聞いて、ライルは、ビ ックリしていた。ライルの倒した黒竜王が「魔貴族」だと言う事。そして、その上 にある「魔界剣士」「魔王」そして「神魔」という位があるという事だ。  ライルは、あの黒竜王ですら苦戦したと言うのに、それ以上の魔族が降臨してい るとなれば、これまでに無い闘いが、起こると言う事は、予想出来た。そして、ジ ュダは、神とて協力するには、限りがあると言う事で、昨日は、任務もあるので、 帰ってしまったのだ。  それと、戦乱時代のライルに手を貸したのは、やはり魔族である黒竜王の出現に よりなのだと言う。しかし、ライルが倒してしまったので、これ以上追求する事は 無かったのだが、この頃の波動のせいで、また出番が回って来たのだと言う。  そんな事もあって、ジーク達は、挫ける訳には行かなかった。昨日の一件で、魔 族に一番マークされるのは、ライルとジークだと言う事は、予想出来た。ならば、 それを乗り越えるしかない。特にジークには、厳しいマークが付けられるだろう。  ジークは、昨日は、さすがに恐怖した。魔族の力を見せ付けられた後だし、「神 魔」というのは、神でさえも、梃子摺るくらいの実力の持ち主だと言う事も聞いた。 そんな相手にマークされるのだ。恐怖が無いといえば嘘になる。しかし、一方で開 き直っていた。魔族が進出すれば、恐らく逃げ場は無いのだろう。ならば闘うしか ない。闘って勝ち取らない限り、未来が無いのなら、やってみせようと思ったのだ。 「せい!」  ジークは、朝の稽古にも力が入る。サイジンの木刀を受けながら、自分の力の調 子を確かめる。 「兄さんったら、調子上げてきたわねぇ。」  レルファは、横目で見ながら魔法の習得に力を入れていた。兄に負けていられな い。兄が襲われるのならば、それをサポートするのが、自分の役目だと思っていた。 それはツィリルとミリィも、そう思ったのか、いつもより魔法の習得に力を入れる。 「ミリィさん、様になってきたわねぇ。」  レルファは、ミリィの魔法の覚え具合には、結構驚いていた。もう初歩的な物は、 全てマスターしてしまったらしい。才能が、あるのかも知れない。 「ジークを助けるためネ。絶対、殺させやしないヨ!」  ミリィは、その想いがあるためなのか、一生懸命であった。 「そうね。兄さんは、殺させはしない。」  レルファにとっても、たった一人の兄である。  ゲラムはゲラムで、弓の修練をしていた。より早く正確に打ち抜く訓練だ。 「後方から支援するのは、僕しか居ないんだ!」  ゲラムは、ジークの強さに憧れていた。しかし、今は大切な仲間である。仲間で ある以上、狙われているのなら、守るのが自分の努めである。  皆が皆、昨日の事でやる気が増してきた。これこそが、ミカルドが望んだ結果な のかもしれない。彼は神より、人間の方に注目していた。特に、昨日のジークの剣 の冴えを見て、見込みがあると思ったのだろう。魔族として強い奴と闘いたいと言 う血が、ウズウズしてしまったのだろう。  結果、ジュダ達と遭遇してしまった訳だが、ジュダ達も、手を出してない以上、 追い詰めない事にしたのだ。他の魔族なら、いざ知らず、ミカルドは、さほど邪悪 には見えなかったからである。どこか他の魔族と、雰囲気が違っていた。  その内に、時間が来てしまう。 「ペガサスのご用意が、出来ました。」  執事のサムソンが、ちゃんとペガサスの用意をしてくれた。 「ありがとう。サムソンさん。」  ジークが、礼を言うと恭しく一礼をする。 「これが、ペガサスなのネ。可愛いネ♪」  ミリィは、ペガサスが人懐こく首を傾げたりしたので、首を撫でてやった。 「それじゃぁ、俺のペガサスにはミリィ。レルファのにはサイジン。それと、ゲラ ムが操るペガサスには、ツィリルで良いな?」  ジークは、確認する。確かに、ペガサスに乗り慣れてるのは、レルファとゲラム とジークしか居ない。それに、ペガサスに2人以上乗せるのは酷だった。 「了解ネ。」  ミリィは、ジークの後ろに乗れるのが嬉しかった。 「サイジン。しっかり捕まってね。」  レルファは、サイジンに、あれこれ指示していた。 「レルファの後ろに乗れるなど・・・。私は幸せ者ですなぁ。」  サイジンは、相変わらずだった。まぁ決めた所で、そう簡単に性格が変わる訳で はなかった。 「久しぶりだけど・・・。まぁ、大丈夫かな。」  ゲラムは、ペガサスの手綱の具合を調べていた。 「ツィリルさん。結構、ペガサスの上は揺れるから、この手綱を掴んでね。」  ゲラムは、手綱を長くして説明する。 「結構、緊張するなぁ・・・。まぁ良いか。エヘヘ♪」  ツィリルも、ペガサスに乗るのは初めてだったので、嬉しそうだった。本当なら トーリスの後ろだったら幸せだったのだが、このゲラムも、優しくしてくれるので、 別に悪い気はしなかった。 「フム。そろそろ行くのか?ジーク。」  ライルは、迎えに来てくれた。 「うん。母さんによろしく言っといてよ。父さん。」  ジークは、ニッコリ笑う。ライルは、それに笑顔で返す。 「ああ。言っておこう。」 「じゃぁ、そろそろ行くか。」  ジークは、軽い動きでペガサスに乗る。皆も、それに倣って乗ってみる。ツィリ ルは、少し苦戦していたが、ちゃんと乗る事が出来た。 「行く前に一言。ジーク、レルファ、それに皆も、良く聞け。今からは、お前達の 時代だ。俺を超えて、そして俺の代わりに闘ってくれ。それが俺への励ましになる と思ってくれ。頼むぞ。」  ライルは、そう言うとクルリと背中を向けた。 「父さんが、そんな弱気な事、言ったって似合わないぜ!」  ジークは、豪快に笑う。ライルは、そんな息子を見て、頭を掻きながら苦笑した。 と同時に、こんな事を言ってくれる息子を誇りに思う。 「んじゃぁ、行ってくるよ!」  ジークは、ペガサスの手綱を強く握ると、ペガサスは合図とみて、空中に飛びた つ。ミリィは、しっかりジークの腰にしがみ付いた。他の2人のペガサスも、同じ ように飛び出した。 (生意気を言いやがって。それくらいの方が、張り合いが出て、良いかもな。)  ライルは息子を見送ると、今度は、自分のルクトリアへの帰還の準備を進めるの だった。  一陣の風が、ジーク達を包み込んで行くのを、ライルは感じた。  ソクトアの中でも、屈指の防衛力を誇る城壁に囲まれた、共和国デルルツィア。 その軍事力は、謎に包まれていたが、次第に明らかになっていった。と言うのも、 ソクトアの中でも、最高の軍事力を持つと言われるルクトリアとプサグルの両国と、 同盟を結ぶ事になったからである。  これも全て、デルルツィアの王子ミクガード=フォン=ツィーアのおかげであろ う。デルルツィアの人々が、鎖国状態のデルルツィアを解放した偉大な王として迎 えたいと言うくらい絶大な人気を誇っている。と言うのも、単身プサグルへ行き、 王女との交際の後、結婚という偉業を果たしたのは、このミクガードだからである。  そして、王子ミクガードは、今日付けで正式に王となるのだった。今日は、ミク ガードと、プサグル王女フラル=ユードの結婚式である。  ミクガードは、控え室でソワソワしていた。今、王宮の中央広場では、先代王の ルウが、集まった皆に、ミクガードへの戴冠を説明していた。そして、傍らには先 代皇帝の、シンの姿もあった。  そして、今日のメインの来賓である、プサグル王ヒルト=ユード=プサグル。そ して、王妃のディアンヌ=ユード。そして、王子であるゼルバ=ユード=プサグル の姿もあった。3人は、堂々とデルルツィア国民の前に姿を現していた。  ミクガードが、ソワソワしている訳は、フラルの結婚衣裳に着替えてる最中だと 言う事もあっての事だろう。どんな人でも緊張する物である。 「コラ。お前は今日の主役なんだから、もっとドッシリしろっての。」  ミクガードの護衛を、自ら頼み出たドランドルが文句を言う。 「そ、そんな事言ったって、緊張するんですよ。ドランドルさん。」  ミクガードは、この前、国民の前で決めたばかりなのに、弱気な事を言っている。 「俺には、分からんなぁ。俺は不器用で、結婚もしてねぇからな。」  ドランドルは、戦乱時代は激動と共に生きて、それから、ヒルトに仕えて20年 経つ。その間、目もくれずに仕事をこなしたり、プサグル王宮のために尽くして来 たので、結婚相手を探す余裕も無かったのだ。 「ドランドルさん・・・。」  ミクガードは、そんなドランドルの胸中を知らずに言ってしまった事を後悔する。 「しみったれた顔するんじゃねぇよ。お前は、俺が認めた男だ。フラルを幸せにし てくれると俺は信じている。だから、そんな顔するんじゃねぇ。良いな?」  ドランドルは、ニッコリと笑ってくれた。ドランドルからしてみれば、娘を嫁に 出す気分なのだろう。フラルは、この自由奔放なドランドルを気に入っていた。ド ランドルも、生意気な小娘とは思いつつも、色々可愛がってあげていた。 (ヒルトも、こんな気分なのかな?)  ドランドルは、外で演説しているヒルトの事を思う。ヒルトも、娘の晴れ姿を楽 しみにしているのだろう。それと同時に、この頃寂しい顔をしていたのを、ドラン ドルは、見逃してはいなかった。 「花嫁の着替え、終了致しました。」  部屋の中から、侍女達の声が聞こえる。ミクガードもドランドルも、緊張した面 持ちで、部屋を見つめる。  そして、中からシルクのヴェールを被ったフラルが出てきた。 「・・・フラル。」  ミクガードは、つい感動して、近寄ってしまう。フラルは、嬉しそうに微笑んで いた。すると、外から拍手が聞こえた。どうやら、全てのスピーチが終わったよう だ。司会進行役が、こちらに来て、ミクガードとフラルを見る。そして確認すると、 また、外に向かって走っていった。 「皆様!長らくお待たせ致しました!新郎と新婦の用意が終わりましたので、更な る拍手で、お迎えください!」  司会が、大きい声を出した。よく見ると、司会はフレノールだった。非常に嬉し そうな顔をしている。ミクガードの結婚の司会が出来て嬉しいのだろう。そして、 宮殿内から凄まじい拍手が聞こえた。 「ミック、少し緊張しちゃうわね。」  フラルは、少し震えていた。それをミクガードは、優しく手を取って微笑む。 「俺が付いてる。心配するな。」  ミクガードは、そう言うと、フラルをエスコートする形で進んでいく。 「うん。行きましょう。」  フラルは、嬉しそうに微笑むと、宮殿の中央広場に向かっていく。凄い拍手だっ た。そして国民は、今度は、上辺では無く、心の底から嬉しそうな顔をしていた。 「フラル様!お綺麗ですわ!」 「ミクガード様!万歳!」  こんな声が、あちらこちらから聞こえてくる。  そして、ルウ、シン、ゼイラー、ヒルト、ディアンヌ、ゼルバが待ち受けていた。 皆、微笑みを返してくれていた。フラルの目から、つい涙が零れる。 「フラル。涙顔なんて似合わないぜ?笑顔で、皆の所に行こう。」  ミクガードは、そう言うと涙を拭ってやる。 「うん。ミック。」  フラルは、皆に笑顔で返す。 「フラル。綺麗だぞ。」  ゼルバは、妹を誇りに思う。自分勝手だった妹だが、自分で結婚相手を決めて、 ここに居る。これは、ゼルバも見習うべき所だった。 「フラル。幸せになるのよ。」  ディアンヌは、フラルに微笑みかける。母として、娘の晴れ姿には、特別な想い が、あるのだろう。それは、ヒルトも同じだった。 「ミクガード。我が娘を頼むぞ。そしてフラル。付いていくのだぞ。」  ヒルトは、そう言うと笑顔でミクガードとフラルに握手をする。 「お父様、お母様、お兄様。私は幸せ者よ。今までありがとう!これからも、よろ しくお願いね。」  フラルは、少し涙声だったが、ちゃんと言い切った。 「ミクガード。頑張るのだ。応援してるぞ。」  シン前皇帝は、ミクガードと握手をする。 「私と共に、この国を支えて行きましょう。」  ゼイラーも握手をした。ゼイラーも、今日から皇帝である。 「ミクガードよ。この国を頼むぞ。そしてフラル。ミクガードを頼む。」  ルウはミ、クガードとフラルに暖かい眼差しを送った。こんな父親を、ミクガー ドは、初めて見た。しかし、いつになく父親が大きく見えた。 「シンさん。ゼイラー。そして親父。見ていてくれ。俺は必ず、この国を栄えさせ て見せる。そしてフラル。頑張ろうな。」  ミクガードは、嬉しそうにフラルを見て、国民に手を振る。  よく見ると、プサグルの国民も来ていた。そして、デルルツィアの国民と手を取 り合って喜んでいた。この光景こそ、ミクガードもヒルトも望んでいた光景だった。 「では、ミクガード様。王の抱負を、お聞かせください!」  フレノールは、ミクガードに話を振った。 「皆!俺は、今日付けで王になる。まだ若輩者で至らぬ所はある。だが、この国を 良くすると言う心だけは、誰にも負けないつもりだ!そして、プサグルと共に歩ん で行ける、この国を誇りに思う!フラルと一緒に、その事を胸に抱きつつも、少し ずつ変えていく事を宣言しよう。デルルツィアとプサグルの未来に栄光あれ!!」  ミクガードは、国民の前で見事に宣言した。この輝きは、既にルウには出せない 物だった。この輝きこそ、真の王たる輝きだとルウは思っていた。 (良き王になるのだぞ。ミクガードよ。)  ルウは、自分の役目は終わった事を確信した。 「ありがとうございました!続いて、ゼイラー新皇帝にもご、挨拶を伺いましょう。」  フレノールは、ゼイラーの方を見る。 「私も、今日付けで皇帝になるゼイラーです。私も、まだ若輩者の身。だが、先代 の名を受け継ぎ、そして私にしか出来ない事を、やってみようと思います。ミクガ ード王とフラル王妃に、大いなる祝福とさせていただきます。おめでとう!」  ゼイラーは、最後にミクガードを立たせる形で終わらせた。シンは頷いていた。 納得しているのだろう。 「ありがとうございました!では、婚礼の儀を執り行います!」  フレノールは、一際大きい声で宣言する。国民の間から拍手が巻き起こる。 「誓いの儀の宣言を、ヒルト王とディアンヌ王妃にお願い致します!」  フレノールは、ビックリする事を言う。実は打ち合わせの時に、ヒルトとディア ンヌが、それぞれ申し出ていたのだ。  ヒルトは宮殿の祭壇の上に立つ。ディアンヌも、その傍らに立った。 「新郎、新婦、こちらへ。」  ヒルトは、ミクガードとフラルに合図をした。最初は、戸惑っていたが、覚悟を 決めたのか、ヒルトの方へと向かう。 「新郎デルルツィア王、ミクガード=フォン=ツィーアよ。そなたは、苦しい時も 健やかなる時も、新婦とこれを共にし、生涯尽きるまで歩んでいく事を、創造神ソ クトアの名に於いて誓うか?」  ヒルトは、結婚の儀に、必ず言う言葉を代弁していった。 「はい。誓います!」  ミクガードは、真っ直ぐヒルトの目を見て答えた。 「新婦デルルツィア王妃、フラル=ユード。そなたは、苦しい時も健やかなる時も、 新郎と共にし、生涯を新郎に仕える事を、創造神ソクトアの名に於いて誓いますか?」  今度は、ディアンヌが言ってやった。 「はい。誓います。」  フラルも、はっきりと答えた。ディアンヌが、その時に涙を一筋零したのを、フ ラルは見ていた。 「よろしい。では、誓いの印として、互いの接吻をもって、ここに示しなさい。」  ヒルトは、そこで微笑んだ。2人を見守っている証拠だろう。 「ミック。とうとうね。」 「ああ。フラル。もう迷いは無い。」  フラルとミクガードは、互いに見詰め合うと唇と唇を合わせた。その瞬間、冷や かしの声も、あがる。 「ここに、この2人の結婚を創造神の名に於いて、決議された事を宣言する!」  ヒルトが、凛とした声で言うと、国民の間から割れるような拍手が巻き起こる。 「幸せになれよ!!!」  奥の方で、ドランドルが叫んでいるのが、聞こえた。あのドランドルでさえ、も う涙でクシャクシャだった。 『みんな、ありがとう!!』  ミクガードとフラルは、声を揃えて国民と皆に、感謝の礼を述べる。  ここにデルルツィアとプサグルの国交が成立した。この出来事は、後に、最も無 血なる同盟として、歴史に名を刻む事になる。ソクトアの歴史に新たなページが出 来るのだった。  ストリウスのワイス遺跡の奥深くでは、既に、地下の工事も終わって、地下に城 として充分な程のスペースと、魔族ならではの、壮大な造りに、魔界を感じさせる ような雰囲気が広まっていた。  その度に、召還された魔族たちは歓喜の声をあげて、興奮は最高潮に達していた。  神魔ワイスも、この前のクラーデスとの怪我も治ってきて、そろそろ頃合だと思 っていた。それは「神魔王」ことグロバスの召還であろう。クラーデスも、復調し て来たようで、既に、ワイスに勝つためのトレーニングまでしていると言うのだか ら、タフな物である。  そんな中、クラーデスの息子の3人は、気まずい雰囲気の中に居た。健蔵にコテ ンパンにやられた後では、口が出し辛いのであろう。現に口惜しい思いで、クラー デスの言葉を待っていたが、クラーデスは無関心で、自分の力を上げる事にしか、 興味は無いようだ。  また、ミカルドは、帰ってきて、そんな事があったと聞いて、3人の兄達を鼻で 笑っていた。情けない限りである。しかし、自分は自分だと思っていたので、特に 関心も持っていなかった。 「おい。ルドラーとやら。健蔵は、どこに居る?」  ミカルドは、健蔵を探していた。ルドラーは、地下工事が終わったばかりで、疲 れていたので知らなかった。 「俺は、知らぬ。部屋にも居ないのか?」  ルドラーは、健蔵の部屋を指差す。すると、素早くワイスの玉座から、こちらに 来る者が居た。 「俺に何の用か?」  健蔵であった。ワイスの警護を主としていたので、ワイスの玉座に居たのだろう。 ミカルドは、探しもしないで尋ねたのだった。ルドラーは舌打ちする。 「いや、ライルとやらを見てきたので、お前も聞きたくは無いのか?と思ってな。」  ミカルドは、健蔵に、わざとライルの部分を強調して言う。 「フン。聞かせてもらおうか。」  健蔵は、ミカルドの態度が気に入らなかったが、聞く事にした。 「お前の言う通り、結構な実力の持ち主だった。だが・・・。」  ミカルドは、口を濁す。 「だが・・・なんだ?」  健蔵は、その言い方に引っ掛かった。 「ライルの息子のジーク。奴の方こそ、真の実力者だと俺は見ている。」  ミカルドは、ニヤリと笑う。 「ほう。息子が居たのか・・・。ジークか。覚えておこう。」  健蔵は、ミカルドの言う事なので、間違いは無いと思ったのだろう。この男は、 人を冷やかしたりはするが、嘘を突く男では無かった。  その時、ワイスの声が遺跡内に響いた。 「皆の者!よく聞けい!」  ワイスは、宣言を続ける。 「今より、「神魔王」グロバス様を復活させる儀を執り行う!」  ワイスが、宣言すると遺跡内が盛り上がる。グロバスと言えば、魔界の神だ。そ のグロバスが復活すると言う事は、魔族の天下も近くなると言う事だ。 「オォォォォォォォ!グゥロォバス!グゥロォバス!」  魔族の間から、宗教じみた歓声が聞こえてくる。 「では、クラーデスよ。ここに。」  ワイスは、立ち上がると、クラーデスを呼び寄せる。クラーデスは、ワープして ワイスの前に出てきた。また、クラーデスの息子3人、いやミカルドも健蔵も、そ の傍らにワープした。 「ウム。では、『闇の骨』を、この魔方陣の上に置こう。」  ワイスは、魔方陣の上に物凄く大きい『闇の骨』を置く。グロバス用の『闇の骨』 なのだろう。これからも、実力は伺える。 「では、今より瘴気を送る。皆の者も、協力するのだ!」  ワイスが、そう宣言すると、魔族は皆、瘴気を出し始める。皆のパワーを、ワイ スの掌に集めているのだ。皆、恐ろしく協力的なので、すぐにパワーが集まってく る。 「破壊神の名を持つ「神魔王」グロバス様!ここに現れ我々を導きたまえ!」  ワイスが、そう言うと、全てのパワーを『闇の骨』に注ぐ。さすがに復活したワ イスとクラーデス。そして、ここに居る大量の魔族の力のおかげか、あっという間 に『闇の骨』は姿を変えて扉になっていく。魔方陣が怪しい光を帯びて輝き始める。 「ゴォォォォォォォォォ!!!!」  とてつもない唸りを感じた。この不気味な声が、グロバスだと言うのか。魔方陣 は、次第に大きくなって、『闇の骨』も完全に消えてしまう。  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。  とてつもない地鳴りがした。そして、魔方陣から腕のような物が見え始める。  そして、そこから一気に姿が現れた。その姿は、荘厳の一言だった。ワイスのよ うに魔族らしい格好をしている訳では無い。だが、出している瘴気の量は、半端で は無い。4本の腕に大きな翼と力強い四肢。そしてダークブルーの髪なのに、どこ か輝いているその様は、破壊神であった頃と変わっていない。だが、瘴気を出して いるその様は正に「神魔王」と呼ぶに相応しかった。 「ムゥゥゥゥゥ。ここは、どこであるか?」  グロバスは、口を開く。 「ソクトアであります。グロバス様。」  ワイスは、恭しく礼をする。さすがのワイスも、グロバスには敵わないのだろう。 「ソクトア・・・。そうか。やっと、再戦の時が来たのか。」  グロバスは、そう言うと低く笑う。やはり、この様は「神魔王」である。 「このクラーデスに、全てを任せてくれないか?グロバスさんよ。」  クラーデスは、しゃしゃり出て来た。 「む?貴公は、クラーデスか。ふむ・・・。面白い。やってみると良い。」  グロバスは、何か考えがあるのだろうか?ただ、体の調子は、あまり良くないみ たいなので、玉座に座った。 「なるほど。そこの扉で隠しながらも、着々と進めていたと言う訳か。」  グロバスは、ワイス遺跡の封印の扉については知っていた。ここの扉は、瘴気や 闘気などを遮断する力がある。そのおかげで神にも気が付かれずに済んだのだろう。 「ソクトアには、竜神と剣神が来ているように、御座います。」  ミカルドが、口を出してきた。 「そなたは、ミカルドであったな。ふむ。若輩者の神2人に任せるとは、神側も、 中々人材不足であるみたいだな。」  グロバスは、ジュダと赤毘車の事は知っていたが、記憶には薄かった。グロバス が、魔界に落ちてから「神化」によって、神になった2人である。グロバスが覚え ているのは、魔界の落ちる前までの神だった。 「さて、クラーデスよ。貴公の腕前を、とくと見せてもらおう。」  グロバスは、ニヤリと笑った。 「フム。確か人間共の間では、2大強国とか言われている国があったな。その国を 潰せば、勢いは衰えるだろう。」  クラーデスは、ソクトアの地図を広げながら言った。丁度ルクトリアと、プサグ ルの2国を指し示していた。 「まぁ、俺が行くまでも無いな。ルクトリアには、アルスォーン。プサグルには、 ガレスォード。貴様らが行って、暴れてくるが良い。」  クラーデスは、息子達の汚名返上を、ここで使おうと思っていた。 「そして、ガグルド。お前は、人間達のリーダーとか言われているライル=ユード =ルクトリアとか言う奴を、潰して来い。」  クラーデスは、指示を与える。 『御意。』  3人は、嬉しそうにしていた。 「クラーデスよ。しばし待て。悪いが、この健蔵にもチャンスをくれぬか?」  ワイスは、健蔵がウズウズしてるのを見逃さなかった。 「ワ、ワイス様。」  健蔵は、思わぬ助けを得て、喜びを顕わにしていた。 「坊やか。しょうがないな。ならば、変更するか。アルスォーン。お前は、プサグ ルへ行け。ガレスォードの手伝いをしろ。」  クラーデスは、アルスォーンに伝える。アルスォーンは、顔を顰めたが、この前 の闘いで敗れたので、何も言えなかった。それが魔界の厳しい掟のような物だった。 「そして、坊やは、ルクトリアだ。分かってるな?」  クラーデスは、健蔵に合図を送る。健蔵は一礼をした。 「期待に応えよう。それが礼と言う物。」  健蔵は、ワイスとクラーデスに、礼を述べる。 「ミカルド。お前の出番は無いが、良いか?」  クラーデスは、ミカルドの方を見る。 「ああ。特には無い。だが、ちょいとライルを見てきた者にとっては、感慨深い物 が、あるんでな。見学しに行って良いか?」  ミカルドは、ガグルドに付いて行くつもりなのだろう。 「ガグルド。どうだ?」  クラーデスは、ガグルドの方を見る。 「依存は、ありませぬ。ミカルドよ。邪魔はせぬようにな。」  ガグルドは、礼儀正しく答えた。 「へいへい。分かってるさ。」  ミカルドは、軽く答えた。 「そなたらの働きに、期待している。」  グロバスは、4人に対して激励の言葉を述べた。 『ハハッ!』  4人は恭しく礼をすると、扉のほうへと向かった。 「さぁ、我の復活の狼煙の代わりだ!扉を開けよ!」  グロバスが言うと、封印の扉が開けられる。すると、ここに溜まっていた瘴気も、 空気のように流れ出すのを感じた。 「では、ガレスォード、プサグルに参ります。」  ガレスォードは、プサグルに向けて歩を進める。 「アルスォーン、続きます。」  アルスォーンは、不満そうだったが、兄と一緒にプサグルへと向かった。 「ガグルド、ライルとやらを探しに行って参ります。」  ガグルドは、ライルを追いに出かける。 「砕魔 健蔵、ルクトリアを滅ぼして見せましょう。」  健蔵は、恭しく礼を言うと、さっさとルクトリアの方へと向かう。 「さて、我も力を取り戻すまで、休ませてもらうぞ。」  ワイスは、誰も使ってない部屋を選んで入る。玉座はグロバスの物なので、ワイ スは、部屋に移る事にしたのだ。 「俺も、吉報を待ちながら休むとしようか。」  クラーデスは、自分の部屋に向かう。 「フフフ。神々の驚く顔が見たい物だな。ハーーハッハッハッハ!」  グロバスは、邪悪な顔をすると、一際大きい笑い声を上げる。 (これで、ルクトリアは滅びる・・・。クククククク!)  ルドラーは、一人ほくそ笑んでいた。ルドラーにとって、魔族が支配しようと、 ルクトリアさえ滅びれば文句は無いのだ。しかも、滅ぼしに行くのが、あの健蔵な ら失敗の可能性は薄い。ルドラーの積年の思いが叶う瞬間は、近づいていった。  とうとう復活したグロバス。そして、魔族達が、行動を開始する。  これは、神にとっても、人間達にとっても長い長い戦いの始まりになるのだった。