8、化神  南方遥かストリウスでは、復興の兆しが見え始めていた。ここは、人間にやられ たのであって、魔族にやられたのでは無いのが、唯一の救いなのだろう。傷ついて る所も少なく、また「望」の者達が中心になって、壊れた所を少しでも修繕すると 言った厳戒態勢で臨んでいる為、早々攻め込まれる事もなかった。「望」は、その 功績を称えられ、法皇から感謝状まで貰っている。  しかし、サルトラリアは、どこか満足していなかった。気になるのである。ジー ク達の事が、どうしても片隅から離れない。宿屋「聖亭」の女将であるファン=レ イホウも、時々様子を見に来るのだが、ジーク達の事が分かったら、すぐにでも知 らせに行っているくらいである。  サルトラリアも同様で、レイホウの所には、ちょくちょく寄っているようだ。お かげで、レイホウとサルトラリアは妙な噂まで立てられている。本人達は、最初こ そ気にも留めて無かったが、ギルドメンバーが噂したりしてたので、ちょっと気に しかけている。最も、もう良い年齢なので、互いを気にすると言うより、良い友達 と言う感覚で付き合ってるようだ。それにレイホウは「聖亭」、サルトラリアは、 「望」の仕事で追われている。そんなに付き合う程、暇では無いのだ。  最も、2人共、今は未婚なので、チャンスが無いと言う訳では無い。ミリィの赦 しがあれば、付き合ってもおかしくないのだ。  ジーク達が、バルゼに行くと言ってから、既に3週間ほど経つ。その間に、何が 起こったのか知りたい所なのだろう。トーリスの事も気になる。サルトリアとレイ アの遺体を、冷凍保存させてるのも気に掛かる所だろう。  そんなある日の事であった。いつもの通り「望」の連中を鍛えていた。 「今日は、ここまで!午後からは東地区の点検に行くぞ!」  サルトラリアが檄を飛ばす。すっかりギルドマスターっぽくなった、その佇まい は、亡きサルトリアの若い頃を彷彿させる。 「サルトラリアさん!大変だヨ!!」  突然「聖亭」からレイホウがやってきた。何やら、手紙を持っていた。 「これはレイホウさん。どうしました?」  サルトラリアは、レイホウが、いつも以上に焦っているのが気になった。 「これをみてヨ!」  レイホウは、サルトラリアに手紙を渡す。どうやらジークからのようだ。 『レイホウさん、サルトラリアさんへ  俺達は今、プサグルに居ます。そちらは体に気を付けてますか?  早速、本題なのですが、トーリスが見つかりました。トーリスは、レイアさんへ の罪の意識が狂わされた原因のようです。しかし、俺達には嬉しい誤算がありまし た。ツィリルにレイアさんの魂が宿っていたのです。この話は、手紙では長くなる ので、長くは書けませんが、トーリスが正気に戻った事は事実です。  それと、今回、手紙を送ったのは嬉しい事実があったからです。トーリスとツィ リル、そしてツィリルに宿ったレイアさんの結婚式を行うので是非、出席してもら いたいからです。俺は、筆不精なので、どうしても上手く説明出来ないけど、とに かく来て欲しいです。詳しい話は来てから、話そうと思います。もし来れない場合 は、手紙をください。お返事待ってます。  それと冷凍保存の件ですが、どうやらトーリスの父親であるフジーヤさんが魂を 戻す事が出来る技を持っているので、それに賭けたみたいなのですが、どうやら死 後3日以上経つと、魂と体の波長が合わなくなって無理との事だったので、今度正 式に葬式をやりましょう。色々な事が有りすぎて、俺も詳しく書けないのですが、 トーリスとツィリルの晴れ姿を是非見に来てください。      ジーク』  と書いてあった。ジークは手紙を書くのは苦手なのだが、トーリスも復活したて で、しかも結婚式の準備に忙しいので、手紙を書く所では無いので、一所懸命書い たのだろう。 「・・・色々あったようだな。」  サルトラリアは、手紙を見て一粒の涙を零す。 「私は信じられない事ばかりヨ。これを見て、行くしかないと思ってるネ。」  レイホウは行く気満々だった。すでに「聖亭」の従業員には伝えてある。自分が 留守の場合の対処も、充分教えてあるので、安心していた。 「俺も行こう。行かなきゃ分からない事ばかりだ。」  サルトラリアは、手紙を畳むと、レイホウに手渡した。 「そうこなきゃネ。」  レイホウは、サルトラリアの背中をバンバン叩く。 「丁度、ジーク達に伝えたい事もある。行かなきゃならんな。・・・よし。ギルド 師団長!お前に留守を任す!俺はジーク達の所に行く。出来るな?」  サルトラリアは、信用しているギルドの師団長に話し掛ける。 「任せてください!ジークさんにも宜しく言っておいてくださいよ!」  師団長は心地よい返事をくれる。師団長は、サルトラリアの考えを理解していた。 連絡があれば、いつかサルトラリアは行くであろうと予想もしていた。 「ギルドマスター!俺達もジークさん達を応援してるって言って下さいよ!」  「望」のギルドメンバーが次々出てくる。どうやら予想されていたようだ。 「分かった分かった。留守は頼むぞ!」  サルトラリアは、早速、旅支度を始める。 (良いギルドになった。見てるか?父さん。)  サルトラリアは、サルトリアの事を思いながら用意するのであった。  結婚が決まってから1週間、フジーヤは大忙しであった。ペガサスやグリフォン を駆使して、親への連絡や、出席するメンバーの確認などもやったし、その是非を、 トーリスやツィリルに聞きながら、ルクトリアの大使としての仕事もこなしていた。 激務も良い所である。あまりの忙しさに見兼ねたジークは、その手伝いとして、手 紙を送ったり、訓練の合間に式の準備をしたりして、ジークの休む暇すら無くなっ ていった。  別にジークだけではない。他の6人も、それぞれこなす事をしながらも、結婚式 の準備に大忙しであった。トーリスとツィリルは、フジーヤと一所に親への挨拶を しに行ってるし、レルファとサイジンは参加者リストを作って、出席者確認の用紙 を確認していた。ゲラムは参加者のためのペガサスやグリフォンの世話をしていた し、ミリィに至っては、厨房の献立メニューを考えたりしていた。休む暇が無いと は、この事である。  ヒルトは、娘の結婚式の時は、国の行事として国政官に任せてたので、こんなに 忙しい物だと言う認識は無かった。今回はジーク達が、自分達でやると言ってたの で、見てたのだが恐ろしい忙しさで、ヒルトも呆れるくらいだった。 (国政官の連中も、こんなに忙しかったのか・・・。)  ヒルトは改めてそう思う。しかしヒルトは、今回ただの参加者なので、やった事 と言えば、式場の場所を用意した事くらいだった。城ではなくプサグル国立教会で やるつもりだ。  どちらにしろ、着々と準備は進んでいる。そんな中でも訓練だけは忘れない。魔 族の恐怖は、しっかり刻まれているようだった。  遠方から結婚式に出席する人々が、次々到着して、プサグルの城で休む事になっ ていた。その出席者と言うのも、かなりの数で、ジーク達を知っている人のほとん どが、参加するらしい。参加しないのは、どうしても王と言う立場上で、駆けつけ る訳には行かないライルくらいの物だ。妻であるマレルも、出席しないみたいだ。  レルファとサイジンが、出席者を確かめて、ゲラムが部屋へと案内すると言う手 順になっているらしい。式は3日後に控えた今、色々な人が訪れる事だろう。  既に、サイジンの父であるグラウドやエルディス一家などは到着している。 「サイジン。元気か?」  グラウドが、話し掛けてくる。ただ城に居ると言うのも暇なのだろう。それに、 グラウドは、元々プサグル出身で、この城に付いては大概覚えている。 「父上。このサイジン、そう簡単には音をあげませんぞ!」  サイジンは、いつも通り話し掛けてきた。しかし傍目から見ても、レルファとの 進展があったのが分かる。サイジンは、サイジンの道を歩き始めてるようだ。それ に、ずーっとジークの剣を受けていたせいか、実力も驚くほど上がっている。 「なら良い。お前も早く俺を安心させろよ?」  グラウドは軽口を叩く。サイジンは少し照れているようだった。息子の成長具合 を見れて、グラウドは安心していた。 「うちのレイリーは来てるか?」  エルディスが話し掛けてきた。息子が、ライルの下で修行中なので、気になる所 なのだろう。 「まだ来てませんねぇ。残念ですな。」  サイジンは、答えてやる。 「良いのよ。アイツの事だからひょんな時に顔を出すわ。」  エルディスの妻の繊香が、あっけらかんと答える。 「いっぱい来るのかしらねぇー?」  レイリーの姉でもある麗香が、おっとりと名簿を見る。相変わらずだ。 「そう言ってる間にも来ますよ。」  レルファは、名簿を確認する。サイジンは、周りを見ると外から誰かが、到着し たようだ。この足音は聞いた事があった。 「凄い立派な城ネ。」 「ゲラム君の故郷は、こんな凄い所だったとはなぁ・・・。」  2人組だ。しかも、この声は、間違いなかった。 「レイホウさんにサルトラリアさん!」  レルファが声を掛ける。向こうも、それに気がついたようで、こっちに駆け寄っ てくる。サイジンも嬉しそうな顔をしていた。 「レルファちゃんにサイジン君。元気してタ?」  レイホウが握手をする。 「いやぁ、俺も驚いたよ。トーリス君は・・・どうなった?」  サルトラリアは、トーリスの事を心配していた。 「いっぺんに言われても返答に困りますな。まずは、この名簿にサインして下さい。」  サイジンは名簿を出す。サルトラリアとレイホウは手早くサインをする。  その間に、エルディスやグラウドに、これまでお世話になったストリウスの人だ と言う事を説明していた。 「息子が世話に、なりましたようで・・・。」  グラウドが声を掛ける。レイホウは、サインを終えるとニコッと笑う。 「世話になったのは、こっちネ。良い息子さん持ったヨ。」  レイホウは明るく声をかける。 「貴方がグラウド=ルーンさんにエルディス=ローンさんか。初めてお目に掛かる。 私の名は、サルトラリア=アムルだ。」  サルトラリアは2人と握手をする。 「ふむ。何か剣術をやってらっしゃるのか?」  グラウドはサルトラリアの身のこなしや、手を握った時の感覚で悟る。 「天武砕剣術をやっています。最も今はギルドの長ですがね。」  サルトラリアは歯切れよく答える。グラウドは少し警戒した。 「ハイム=ジルドラン=カイザード殿が使ってた、あの剣術か?」  グラウドは直に聞いてみる。昔プサグル四天王だった男だ。 「・・・そうです。惜しい奴でした。才能は抜群でした。彼は・・・。」  サルトラリアは、遠い目をする。ジルドランは、サルトラリアと同じくらい剣術 の才能があった。だがプサグルに忠誠を誓って、その命を落としたのである。  そんな事を話してる間に、また来たようだ。今日は来訪者が多い。 「ふう。やっと着いたか。おい!アイン!しっかりしろって!」  喧しい声が聞こえてきた。エルディスが頭を抱える。レイリーの声だ。 「揺らさないでくれ。・・・俺は乗り物は弱いんだ・・・。」  アインは、ヘロヘロになっていた。乗り物酔いは相変わらずのようである。 「プサグルか・・・。こんな用事で来る事になるとはな・・・。」  ルースの声もする。緊張した面持ちだった。自分の娘が結婚するのだ。複雑な気 持ちなのだろう。 「ツィリルは、立派になったのかしらねぇ・・・。」  隣に居たルースの妻アルドも、涙目になっている。 「こっちですぞ!ルースさん!」  サイジンが大声を上げる。向こうも気がついたようだ。 「サイジン君。それにレルファちゃんか。他の奴らは、どうした?」  ルースは、ジーク達が居ないのを不思議に思っていた。 「兄さんは、慣れない手紙を書いたり、式場の飾り付けで、てんてこ舞いよ。」  レルファが笑いながら答える。 「ツィリルは・・・どうしてます?」  アルドが聞いてきた。やはり気になるのだろう。 「ツィリルは、今レイアさんの実家に居ます。トーリスとフジーヤさんと一緒です よ。向こうの家族にも挨拶に向かってます。」  レルファは、説明してやる。 「一回、うちにも説明しに来たけど・・・まだ信じられん気分だよ。」  ルースは、ツィリルと中に入っているレイアに会っていた。もちろん、トーリス にもだ。トーリスからツィリルへの気持ちも聞いたし、フジーヤからレイアへの説 明もあったし、実際レイアにも会ってみた。それでも、まだ信じられない気分だ。  それにトーリスなら安心して嫁に出せるのだが、まだツィリルには早いのでは無 いか?と言う気分もある。親なのだろう。 「ともあれ、サインしてください。アインも、しっかりして下さいよ。」  サイジンが名簿を渡す。皆それぞれチェックしに行く。 「よぉ。サイジン。俺は腕を上げたぜェ?」  レイリーは、ニヤリと笑う。サイジンとは何度か手合わせしている。 「そのようですな。でも、私もジークの剣を受けていると言う事を忘れずにね。」  サイジンは自信を持って言う。そう言える程、サイジンも腕を上げていた。やは り、毎日ジークの剣を受けるのは並大抵の事では無いのだ。 「今度、俺とも手合わせしよう!」  アインも、少し気分が良くなってきたのか、サイジンと握手を交わす。 「望む所ですぞ。アイン。」  サイジンは、良きライバル達に感謝する。 「それは良いけど、仕事も忘れちゃ駄目よ。サイジン。」  レルファは釘をさす。名簿の管理も結構大変な仕事なのである。 「分かってますよ。レルファ。仕事を忘れるほど抜けちゃいませんぞ。」  サイジンは、親指を立てて答える。レルファはクスッと笑う。 「・・・あの2人も、進展があったようだな。」  エルディスは顎に手を掛けながら、ルースに話し掛ける。 「冒険してると、やっぱ違うのかねぇ。」  ルースは、自分の娘もトーリスと結婚すると言うので、その辺なのでは無いか? と思っていた。  こうしている間にも、また誰か着いたようだ。今日は、本当に来訪者が多い。ち なみに、来訪者が来た時は物見が知らせてくれるのだ。 「おっきな城ねぇ。」  素っ頓狂な声がした。どうやら子供連れの女性らしい。子供の方もキョロキョロ 見ていた。余程、珍しいのか楽しそうだった。 「あ!レルファおねぇちゃんだ!!」  子供の方が、こちらに駆けて来る。どうやら、こっちの事を知っているらしい。 (誰だったかしら?子供に知り合いなんて・・・?)  レルファは、記憶を探るが中々出てこない。しかし女性を見て思い出した。 「ま、まさかドラムちゃん!?」  レルファは、ビックリした。子供はドラムなのだろう。女性の方は、人間の姿を したドリーだった。昔、龍の巣に入った時に、出会ったきりなので忘れそうだった。 間違いなく龍の親子だった。しかも、あの時ドラムは人間に変化出来なかったはず だ。どうやら成長したのは、ジーク達だけでは無いらしい。 「おねぇちゃんだぁ!会いたかったよ!!」  ドラムは、無邪気に抱きつく。レルファもビックリしたが頭を撫でてやる。 「いやぁ、驚きましたぞ。ジークは、ドリーさんにまで手紙出していたとは・・・。」  サイジンも驚いていた。名簿を渡された時に知っている人のチェックは、してた のだが、ドリーの事はすっかり忘れていて、チェックし忘れていたのだ。 「私の方も驚きました。あの時のトーリスさんとツィリルちゃんが結婚だ何て。」  ドリーは、嬉しそうに笑う。 「うーむ。これは・・・一度、全部説明した方が良さそうですね。」  サイジンはレルファと顔を見合わせながら、溜め息をつく。  サイジンは、今までの事と、ここに介した人達の、それぞれの自己紹介も兼ねて、 説明する事にした。それが今日の一番の仕事になってしまった。  サイジンは、今までの事を全て話してあげた。ストリウスに行った時の事、「聖 亭」での出来事、ギルドの存在、そして「望」に入ったときの事。そして、龍の巣 の依頼と、その時に出会ったドリー親子の事、そしてトーリスの苦悩とレイアの事。 そして、何よりも今対立している魔族の話。トーリスにとり憑いてたレイモスの話。 何よりも、ここに集まっているエルディス一家と自分の父親であるグラウドの紹介。 そして、今回結婚するツィリルの親であるルース一家の話。  全て話し終えたとき、周りからは拍手が起こった。実際サイジンも倒れそうだっ た。レルファが『精励』を掛けてやるが、それでも疲れきった顔をしていた。 「そんな面白い事があったとはなぁ。俺も行きたかったぜェ!!」  レイリーが、拳を握りながら答える。相変わらず燃える男である。 「俺も正直、付いていけば、面白かったかもな。」  アインまで言い出す。確かにジーク達の旅は驚きの連続だった。サイジンでさえ 物事を整理するのに、時間が掛かったくらいである。 「しかし・・・ジーク義兄さんは、皆を呼ぶ気なのですかなぁ・・・。」  サイジンは、ヘトヘトになっていた。 「苦労したのですねぇ。」  ドリーが、しみじみと話す。 「しかし、おめーさんが龍だなんて、ホントなのかよ?」  レイリーは、嬉しそうにしているドラムに話し掛ける。 「へっへー。ホントだよぉ!ほら!」  ドラムは、そう言うと龍の姿になる。まだ小さい龍だが間違いなかった。しかし、 あの当時より、かなり大きくなっていた。 「これ。ドラム。簡単に龍にならないって言ったでしょ?」 「ごめんなさーい・・・。」  ドリーは、ドラムに叱り付けるとドラムは頭を抱えながら人間の姿に戻った。 「ホントに龍だったなぁ。」  アインも呆然とする。皆、ビックリしたようだ。やっぱり話を聞くのと自分の目 で見るのでは違うのだろう。 「素直な良い子ですよ。ね。サイジン。」  レルファは、サイジンに同意を求める。 「ええ。でも成長しましたなぁ。私も驚いたぞ。ドラム。」  サイジンも、ドラムの頭を撫でてやる。ドラムは気持ち良さそうにしていた。 「お前達は、随分と凄い体験をしてきた物だな。」  ルースも素直に感心する。ツィリルも、冒険慣れしている事だろう。  そうしていると、向こうからゲラムがやってきた。 「お?皆!うわぁすっごい来てるじゃん!」  ゲラムは、素直に驚いていた。確かに今日の来訪者は結構濃いメンバーだ。 「なぬ!?あれがゲラム!?」  レイリーは、ビックリした。レイリーが知ってるゲラムは、もっと小さかったは ずだ。ゲラムも成長しているのである。他の皆も同じ思いだった。 「どうしたんだよ?レイリーさん。僕は僕だよ。」  ゲラムは、無邪気に笑いかける。性格は変わってないらしい。 「おい。ゲラム。ジークは、まだ忙しいのか?」  ルースが尋ねてくる。これでジークが来たら主要なメンバーは、ほとんど集まる。 「ジーク兄ちゃんだったら、もうすぐだと思うけど?さっき飾りつけ終わったって 叫んでたよ。」  ゲラムは、ジークに、ついさっき会ってきたので知っていた。  すると、また来訪者の合図があった。サイジンはゲンナリする。 「今度は、誰が来たのですかな?」  サイジンは名簿をチェックする。しかし主要なメンバーは揃っているはずだ。 「ふう。お?見ろよ。すげぇ集まってるぜ?」 「そうだな。む?あそこに居るのはジークの仲間の者達では無いか。」  3人組の男女だった。その内、2人までは見た事がある。 「ジュダさん!来てくれたのですな!」  サイジンは、また驚きの声を上げる。その男は間違いなくジュダだった。 「いよぉ!サイジンか!・・・腕上げたみたいだなぁ。闘気が溢れてるぜ?」  ジュダはニヤリと笑う。挨拶で、いきなり強さの話とは、如何にもジュダらしい。 「あ、貴方様は!」  ドリーは、ビックリする。そして、即座に跪く。ドラムもドリーの真似をする。 「お、おいおい。どうしたんだよ。」  ジュダは頭を掻く。そりゃ、いきなり跪かれたらビックリするだろう。 「竜神ジュダ様ですね?ご降臨なされていたとは!」  ドリーは、真面目ぶった挨拶をする。その言葉に皆、ビックリする。サイジン達 は知っていたので、特には驚いていなかった。 「そう言うって事はお前、キーリッシュん所の龍か?奇遇な所で会うなぁ。」  ジュダは、妙に納得した顔で答える。 「ジュ、ジュダ様。人間に正体を明かして宜しいのですか!?」  ジュダと赤毘車以外の、もう1人が驚いていた。 「はっはっは。構わねぇよ。ここにいる奴らは、皆、魔族と第1線で闘ってる連中 だ。正体隠してたら、失礼って物だ。」  ジュダは、全然気にしていなかった。どうにも、この神は緊張感が無いらしい。 「赤毘車様。宜しいのですか?」  もう1人の男は、呆れたように赤毘車にも聞く。 「フッ。ジュダが気にしていないのなら、私も気にせぬ。」  赤毘車は、ジュダのこう言う所には、慣れているらしい。 「凄いお人だとは思っていたが・・・神の1人だったとは・・・。」  エルディスは、驚きを隠せなかった。自分は、凄い人と知り合いになった物だと も思っていた。レイホウなど腰を抜かしそうになっていた。 「まぁそこの龍のお姉さんが言ったように、俺の名前は竜神ジュダだ。宜しくな。」  ジュダは、改めて挨拶する。皆は、宜しくと言われても、どう反応すれば良いの か、分からなかった。 「私はジュダの妻ある剣神、赤毘車だ。」  赤毘車は、ガリウロル風に礼をする。エルディスが、それに反応して礼をした。 「私の名は鳳凰神ネイガだ。ジュダ様同様、お見知りおきを。」  ネイガは、真面目に挨拶する。 「驚いたぜ・・・。おいサイジン!お前達どう言う冒険してたんだ!?」  レイリーは驚かされっぱなしで悔しかったのだろう。 「どう言うたって・・・ジークに聞いて下さいよ。」  サイジンは、呆れ顔で答える。サイジンはジュダ達にサインしてもらっていた。 ネイガは予定には無かったが、ジュダの顔を立てて大丈夫と言う事になった。  その内、城の中から聞き慣れた足音が迫ってきた。 「おお!皆、集まってる!久しぶり!!」  その主はジークだった。ジークは手を振る。横にはミリィも居た。厨房の指示が 終えたのだろう。 「兄さん!こんなに手紙出したなんて聞いて無かったわよ!」  レルファが怒る。サイジンは怒る前に呆れていた。 「そう言うなって!アイツらの結婚式だろ?賑やかにやってやりたいんだよ。」  ジークは、優しい目をしていた。 「ジークらしいと言えば、それまでだが・・・豪華なメンバーだな。」  ルースも呆れていた。龍や神まで来るなんて予想していなかった。それも、この ジークの人柄が為せる業なのだろうか? 「ミリィ!久しぶりネ!」  レイホウが、ミリィを見つけて挨拶をする。 「母さん!来てくれたのネ!」  ミリィは、久しぶりに母の言葉を聞いて嬉しそうだった。 「凄い冒険してたんだネェ。あなた達。ビックリしたヨ。」  レイホウは、素直に驚いた事を伝えた。 「私も、まだ信じられないくらいネ。」  ミリィは、今居る顔ぶれを見て冒険の事を思い出していた。  すると、また来訪者の合図があった。しかし、これは帰還の合図だった。 「お?来たな。」  ジークは正面の門の方に行く。グリフォンの羽ばたきも聞こえてきた。 「おーい!トーリス!皆が来てるぜ!」  ジークは手を振って教えてやる。すると、トーリスは嬉しそうにツィリルと一緒 に走ってきた。フジーヤやルイシーに、恐らくレイアの両親だろう。その4人も後 から付いてきた。 「皆さん!着いてましたか!」  トーリスは、見知った顔ぶれが揃っているのを見て笑顔で答える。 「おいおい。ジュダさんまで居るぜ?豪華なメンバー揃えたもんだ。」  フジーヤが呆れた顔をしていた。ルイシーも同じであった。 「みんなー!ひっさしぶり!うわぁ!嬉しいなぁ!」  ツィリルが、とてつもなく喜んでいた。自分の結婚式に、これだけのメンバーが 祝福してくれるのだ。嬉しくないはずが無い。 「おかえりなさい!ツィリル!トーリス!」  レルファが、迎えてやる。自分の事のように嬉しそうだった。  こうして、プサグルの城に物凄いメンバーが一堂に介したのであった。  この後、ヒルトに全て説明したのもサイジンで、今日は、彼が一番の功労とも言 えるだろう。お蔭様で、サイジンは、しばらく動けなかったと言う。  翌日、皆は、すっかりお互いと打ち解けあっていた。その後、2日後の式の用意 が整ったと言う事もあって、久しぶりに思い切り訓練しようと言う事になった。  魔族の襲来が凄いと言う事もあるが、これだけのメンバーが揃っているのである。 さながら実戦形式で訓練する良い機会なのだろう。それに、何と言っても神である ジュダ達3人が居るのだ。本当にそうなのか、確かめる良い機会だし、何より魔族 よりも強い強さを持っているのである。対抗出来ないようでは、人間の未来は掴め なくなってしまうと言う考えもあっての事だろう。  それにジュダ達3人も、久しぶりに人間達の力を見る良い機会なのである。最も、 ネイガは少し反対してはいたが・・・。 (神が、ここまで人間に干渉して良い物なのか?)  ネイガは、その想いが拭えない。しかし、ジュダがそうしている以上、従わない 訳にも行かなかった。  主に剣術組、魔法組に分かれて、修行していた。剣術組は剣だけでなく忍刀を使 うレイリーや弓を使うゲラム。棒を使うミリィまで参加していた。魔法組は、魔法 を主に使う者達が集まって修行に励んでいた。  剣術組の中心は、主にジークと赤毘車、魔法組は、トーリスとジュダだった。ネ イガも魔法組の方に入っていた。  剣術組では、早くも赤毘車とジークが打ち合いをしていた。剣神と言うだけあっ て、赤毘車の剣術は群を抜いていた。あのジークでさえ、まるで一本が奪えないの だ。次元の違う強さであった。ジークとサイジンが、何とか赤毘車に木刀の背で受 け止められるレベルだったが、他は受け止めるまでもなく、避けられて打ち込まれ ていた。誰を狙っても良いと言うバトルロワイヤル形式の訓練だったが、やはり集 中したのはジークと赤毘車にだった。時々サイジンにも来た。  赤毘車は、普段控えめだが剣を唸らせる時は、まるで人が違ったかのような強さ だった。神の中でも強い部類に入るだけはある。しかし、その赤毘車に木刀で受け させるだけの実力を、ジークとサイジンは備えていた。サルトラリアでさえ、訓練 をこの頃してなかったせいか、まるで当たらない。『疾風』と恐れられたルースで さえ、掠りもしないのだ。ジークからは、何本か取っているだけに、レベルの違い を思い知らされていた。 「・・・すっげぇな。赤毘車さん。俺、こんなにワクワクしたのは初めてだ。」  ジークは嬉しそうに赤毘車を見る。女性の神ではあるが、この強さは本物だ。 「ジークも筋が良い。サイジンも腕を上げたようだな。」  赤毘車は話しながらも、木刀で受け切ってみせる。 「参りましたね・・・。死角剣がここまで、当たらなかったのは初めてですよ。」  サイジンも息を切らしながら、木刀を振る。 「サイジン!油断大敵だぜ!」  レイリーが横から、猛スピードでサイジンに打ち込もうとする。しかし、サイジ ンは、その打ち込みを木刀の鞘の部分で受け止めると、そのまま胴に打ち込む。中 々の早さであった。 「ちぃ。俺も腕を上げたってのに・・・。ワクワクするじゃねぇか!」  レイリーは胴を擦りながら、また木刀を構える。 「せい!」  サイジンに、サルトラリアが攻撃を仕掛ける。それと同時に、死角からグラウド も仕掛けてきた。サイジンはサルトラリアの木刀を受け止めつつも、グラウドの仕 掛けをジャンプ一番で避けた。 「勝機!天武砕剣術!撫で斬り『空刃(くうじん)』!」  サルトラリアが、サイジンに天武砕剣術の『空刃』を仕掛ける。空中に居る相手 に対して、素早く撫で斬りを仕掛ける技だ。さすがのサイジンも、空中では動きが 鈍かったので胸に打ち込まれしまった。 「見逃しませんな!見事ですぞ。」  サイジンは、痛そうにしていたが、すぐに立ち上がった。 「はぁああ!!不動真剣術!旋風剣『爆牙』!」  ジークは赤毘車に向かって『爆牙』で竜巻をぶつける。赤毘車は感心していたが、 何と、その竜巻を飛び越えると太陽を背にジークに飛び込む。 「くっ!まぶしい!」  ジークは木刀の構えを解かなかったが、赤毘車は空中で、既に別の技に移行して いた。油断も隙も無い。赤毘車は、ジークに対して一回強烈な斬りを放って、木刀 越しに跳ね飛ばすと、横から襲ってきたミリィの回転撃を木刀の先で受け止める。 凄まじい神技であった。まさに神の技である。 「今の連携は、良い感じだったぞ!しかし、まだ甘い!」  赤毘車は、ミリィを木刀の先で受け止めた所から棒を跳ね飛ばすと、今度は上か ら襲ってきた矢を全て正確にゲラムの下に跳ね返す。 「・・・す、凄いや!!」  ゲラムもビックリした。気付かれないように矢を打ったのに、跳ね返ってきたの だからビックリである。ちなみに鏃は付いていない。  何よりも驚愕すべき事は、これだけの行動をしているのに、息一つ乱していない 事だ。神の強さの一端を見させられた気がした。 「ならば、これはどうだ!」  ルースは、抜刀の形を取って真正面から斬ると、それをそのまま上に返して2段 斬りとした。すると赤毘車は斬られてしまった・・・かに見えた。しかし、ルース には全く手応えが無かった。何と残像だったのである。凄まじいスピードだ。 「惜しかったな。」  赤毘車は、一瞬で後ろに回ってルースを後ろから肩口より斬りを入れる。それと 同時に、襲ってきた木の手裏剣を木刀を軸にして逆立ちするような格好で避ける。 「あれも避けるとは・・・。」  エルディスは、今度こそ当たったと思ったのだが、避けられてしまった。しかし、 その上空をアインがジャンプして狙う。 「ルース流剣術!『ツバメ3段』!」  アインは、ルース道場で習ったツバメ返し3段返し、通称『ツバメ3段』を放つ。 赤毘車は、それを体を捻るだけで全て避けてしまった。全て振りを予測してたとし か思えない動きだ。 「す、すげぇ・・・。」  レイリーは思わず見惚れてしまった。 「みんな鋭くなって来たな。嬉しいぞ。それに応えて面白い物を見せよう!」  赤毘車は、木刀に気合を入れる。神気と呼ばれる物を込めているのだろう。 「破砕一刀流、斬気『波界(はかい)』!!」  赤毘車は、初めて自分の剣術を見せた。この『波界』は、気合を剣に込めて、目 標物に衝撃を与える技だ。その速さたるや早々避けられる物では無い。 「私ですら避けられんとは・・・!」  サイジンは、木刀を軸に膝をついてしまう。他の皆も、ほとんど伸びていた。意 識があっても体を起こすのが、やっとであった。しかしジークだけは立っていた。 「『波界』を弾くか!面白い!」  赤毘車は木刀を構える。ジークだけ木刀に闘気を込めて弾き返したのだった。 「すげぇ。すげぇぜ!赤毘車さん!こうなったら、俺も小細工なしだ!!」  ジークは、木刀を妙な構えで構える。水平にして気合を込めていた。 「行くぞ!はあああああ!!」  ジークは、木刀で不動真剣術の象徴である五芒星を描く。 「不動真剣術、奥義!『光砕陣(こうさいじん)』!!」  なんと健蔵が前に放った『滅砕陣』の不動真剣術バージョンを繰り出す。凄まじ いエネルギーが赤毘車を襲う。 「考えたな。私も、それ相応の技で対応させてもらうか。」  赤毘車は木刀を縦回転で回し始めた。回しながらも木刀に気合を入れて『光砕陣』 のエネルギーを吹き飛ばしてしまった。 「これぞ破砕一刀流、防技『灰塵(かいじん)』。これを出させるとは大した物だ。」  赤毘車は、ジークを褒める。この『灰塵』は、取って置きの防御技だったのだ。 「・・・参りましたよ。俺は今ので力使い果たしちゃいましたよ。」  ジークは膝からへたりこむ。しょうがないだろう。赤毘車も、さすがに汗を掻い ていた。神に汗を流させる程の動きを、皆はしていたのである。 (楽しみな事だ。)  赤毘車は、これから来るであろう時代の担い手達を心の内で褒めるのだった。  一方、魔法組の方は、主に授業形式で魔力を高めていたが、それぞれの魔力を高 め終わったら、その成果を見せると言う事で、中庭を使って魔法の打ち合いをする 事になった。  こっちにはジュダを始めとして、ネイガ、トーリス、ツィリル、レルファ、そし てフジーヤ、ドリー、ルイシー、麗香なども居た。レイホウや繊香、ドラムなどは 見学と言う事で脇の方で見ていた。  トーリスは、ジュダとネイガに早速、驚いていた。自分の魔力も、かなり上がっ ていると自負していたが、この2人の魔力は桁違いだった。どう感じても、無限に 近い魔力を持っている。この2人の末恐ろしさを知った。  一方のジュダもトーリスは、もちろんの事、ツィリルの魔法の才能にも評価して いた。潜在能力は凄い物があるらしく、魔法を湯水のように吸収していく。レルフ ァは、そこまででは無いにしても、こと神聖魔法に関しては、他の2人より群を抜 いて強い。それぞれの特徴が良く出ている。  他の4人も、普通の人間から比べれば上位クラスだが、それ程、飛び抜けてる訳 では無い。しかし、おっとりとしていながらも、麗香は若いせいか、かなりの魔力 を秘めているのを感じていた。 (想像以上に実りある訓練になりそうだな。)  ジュダは心の内で手応えを感じていた。 「魔法の源は精神力だ。精神力が強い者程、魔力は高いと言っても過言じゃあない。 だが、魔力を増幅させる事が出来る事も忘れてはならない。」  ジュダは説明してやる。魔力は、その人の精神力の強さによって、強さがまちま ちである。しかし、それだけではない。精神力ならサイジンだってジークだって、 それなりに凄い物を持っている。闘気向きの体質を持つ者と、魔力向きの体質の持 ち主も居るのだ。ここに居る者達は、いずれも魔力向きの体質を持っている。最も ジュダとネイガの場合は、それを上回る程の神の気である神気が得意なのだが。  魔力は、物によって増幅する事も出来るのだ。実は、それが人それぞれで違うの だ。ネイガが、よく愛用しているのは、魔法でコーティングされている小型の腕輪 である。そしてジュダが愛用しているのは宝石であった。いつでも出せるように、 首のネックレスに相当の数の宝石が埋め込まれていた。派手なアクセサリーだと思 ったが、意味無く付けていた訳では無さそうだ。  ジュダは、その増幅させる物を探すために色々皆に試させてみた。魔法の打ち合 いは、それからと言う事になった。 「ふーむ。確かに増幅出来ると言う事は知っていましたが、私は、杖のみかと思っ ていたのでね。人それぞれ違うなんて、知りませんでしたよ。」  トーリスは、市販で売られている魔力の帯びた杖以外に使った事が無かった。と 言うより魔法使いのステータスにすらなっているので疑問を持つ者は居なかった。 「まぁ色々試してみる事だな。」  ジュダは宝石、杖、腕輪、指輪、冠、ネックレス、その他軽い物で携帯できる物 で考えられる物を多く用意していた。 「これ可愛い〜♪」  ツィリルは、イヤリングなどに興味を示していた。と言うより、女性陣は増幅出 来る物を選ぶと言うより、自分に似合うかどうか楽しみながら選んでいた。気楽な 物である。寧ろ、その方が選び易いのかもしれない。 「これ付けたら、サイジン喜ぶかなぁ?」  レルファも楽しみながら選んでいた。ネイガは呆れていた。 「これ、良いですね〜。」  麗香は、おっとりした口調で髪飾りを手に取っていた。すると、驚く事に麗香の 魔力がアップするのを感じた。本人もキョトンとしていたが、間違いないようだ。 「一人決まったようだな。俺も色々試してみるか。」  フジーヤは麗香の魔力の上昇具合を見て、色々試していた。 「・・・わたしこれかも・・・。」  ツィリルは、そう言うとレイアの付けていたロザリオを手に取ってみた。すると、 その瞬間に、ツィリルの体が弾けるくらい、強力な魔力がツィリルの体から放たれ ていた。これにはジュダもビックリしていた。 (ここまでとはな。このお嬢ちゃん、大成するかもな。)  これには、ネイガもビックリしていた。 「・・・む!これは・・・。」  今度はトーリスだった。トーリスが手に取っていたのは、オリハルコンで出来た 鎖型の腕輪だった。腕輪と言うよりミサンガに近い。トーリスは、溢れ出す魔力を 感じていた。杖の時とは比べ物にならない程、フィットしていた。 (人間が、これ程の魔力を放つなど・・・装飾品の効果もあるとは言え・・・。)  ネイガは驚かずには、いられなかった。 「う、うわ!なにこれ??」  今度はレルファだった。レルファはペンダントを首に付けた瞬間だった。魔力の 増幅は明らかに分かる物だった。魔法を使う者ならば、魔力の強さが何となく感じ るのだ。それが一気にアップしたように感じるのだ。だから付けた瞬間に分かるの だ。ルイシーは冠、フジーヤは甲拳、ドリーは。サークレットが、それぞれ魔力を アップさせる物だった。次々と判明する内に、ネイガは人間の底力を感じていた。 (ジュダ様が気に掛ける訳だ。)  ネイガはフッと笑う。 「よし。判明した所で、それぞれ得意魔法を撃ってみろ。」  ジュダは、そう言うと腕を振り回す。 「ジュダさん。どうして構えるのですか?」  トーリスは、ジュダが構えを見せているので不思議に思った。 「俺に撃てって言ってるんだよ。まさか、中庭を壊す訳には行くまい?」  ジュダは、ニヤリと笑う。それぞれ魔力が上がった効果を自分の体で受けてみた いと思ったのだろう。 「だいじょーぶ?ジュダさん。」  ツィリルは、さすがに躊躇ってしまう。 「俺は、これでも神だぜ?遠慮する必要はねぇぞ?」  ジュダは、腕を交差させて魔力を手に溜めていた。防御する構えだ。 「じゃあ私から行きましょう。遠慮はしませんよ。」  トーリスは、腕輪を握ると凄まじい程、魔力が溢れてくるのが分かった。そして、 その魔力を自分の得意な氷結系の魔法に変えた。 「氷結の力よ!『氷砕』!!」  トーリスは『氷砕』の魔法を撃つ。氷の塊がやがて、吹雪のようになって、ジュ ダを襲う。いつもの数倍の威力を感じていた。この腕輪もさる事ながら、瞑想によ って力が増して来てるのを感じた。しかし、ジュダは何と片手で受け止めていた。 「俺に手を使わせるなんてな。やるじゃないか。」  ジュダはそう言いつつも『氷砕』の威力を掻き消す。 (これが・・・神の力と言う訳ですか。参りましたね。)  トーリスは冷や汗を掻いた。いつもの数倍の威力をジュダは、片手で受け止めて いたのである。 「次、わたし行くよー!」  今度はツィリルが前に出た。 「私も試してみるわ。」  レルファも構える。レルファは、攻撃魔法が得意で無いので、ツィリルに魔力を 増幅させる『塊魔』の魔法を撃つつもりだ。レルファはペンダントに祈りを込める。 「ツィリル。行くわよ!・・・『塊魔』!」  レルファの声と共に、ツィリルの魔力が膨れ上がる。そして、その魔力を受けた ツィリルはロザリオを握り締めながら自分が得意の爆発系の魔法に変える。 「いっけぇ!『原子壊』!!」  ツィリルは原子爆発を起こして、敵を破壊する魔法を撃った。レルファから魔力 をもらったおかげで、難なく撃てた。それをジュダは、またしても片手で受け止め る。魔力が爆発しようとして暴走気味になっているのを、無理やり押し込めている 感じだった。そして、やがてジュダが力を入れると消えていった。 「すっごーい。さすがジュダさんだぁ。」  ツィリルは、自分でも暴走するかもしれない魔法を、ジュダが受け止めたので驚 いていた。レルファも同様である。ツィリルの魔力は、自分の魔法で確かに素晴ら しくアップしていたはずだ。それを片手で受け止めるなんて信じられなかった。  その後、他の人も一通り撃ったがジュダは、指一本で止めて見せたりしていた。 そして、ジュダの言う通り、中庭は全く傷つかずに魔法を撃ち終えていた。 「凄すぎるぜ。ジュダさん。」  フジーヤは、魔力をかなり解放したと言うのに全く通じなかった。 「ははっ。お前達の魔力も中々だったぜ。・・・でもな。実は、もう一つ重要な要 素があるのを忘れちゃなら無いぜ?」  ジュダは、そう言うと、人差し指を立てる。 「今度は、何です?」  トーリスは、素直に聞く事にした。 「それは体術さ。その重要性は、トーリスとフジーヤ辺りは知ってるだろ?」  ジュダはニヤリと笑う。魔法を使う者にとって、体術は不可欠である。魔法に集 中している隙に攻撃されるのを防ぐためだ。事実、レルファもツィリルもトーリス から体術の基本は学んでいる。 「お前達は地上で動く分には申し分ない体術を持っているとは言える。だが、空中 では、まだまだだろ?それを磨かなきゃ駄目だぜ。」  ジュダは、そう言うと事も無げに空中に浮く。『浮遊』の魔法と『飛翔』を組み 合わせて上手く制御しているのだろう。 「空中の体術の基本は『飛翔』の魔法だ。これを体術とミックスさせる事により、 自在に動けるようにする。そうじゃねぇと魔族との空中戦で勝てないぜ?」  ジュダは空中で自在に動いて見せた。相当、慣れているのだろう。 「ま、基本はこんな所だ。何かへばってるようだし、今日は、ここまでにするか。」  ジュダは、皆が魔法を撃ち終わって疲れてるのを見て、終わりにする。 「ジュダ様。まだ私が残ってますよ?」  ネイガは、そう言うと前に出てきた。 「ほう。急にどうした?やる気満々だな。」  ジュダは、ネイガが神気を発しているのを見逃さなかった。 「神の中でも、屈指の実力を持つ貴方と、手合わせしたいと思っていたのですよ。」  ネイガは、このチャンスを待っていたのだ。 「嬉しい事言うじゃねぇか。でも、ここじゃお前と闘ったら城が崩れるかもしれん。 場所を変えるぞ。」  ジュダは、そう言うと『転移』の魔法で空中に穴を空ける。どうやら、中央大陸 の中でも生物が少ない荒野のようだ。 「やるなら付いて来い。付き合ってやるぜ。」  ジュダは、転移で空けた穴の中に入る。 「もちろん行きますよ。」  ネイガは、穴の中に入っていった。トーリスとレルファとツィリルも、顔を見合 わせると中に入っていった。 「お、おい!トーリス!」  フジーヤが、止める間もなくトーリス達3人は入っていった。神と神の闘いを見 て何かを感じ取ろうと言う狙いがあるのだろう。 「しょうがねぇ奴らだ。」  フジーヤは呆れていた。あれが2日後に結婚式を控えた者達とは思えない。  皆も同じ考えだったようで、呆れながら空を見ている者が多かった。  ジュダが空けた穴の先は、ソクトアの中でもルクトリア、バルゼ、プサグル、パ ーズ、ストリウスと繋がっている、だだっ広い荒野が広がる中央大陸で、国として は成り立ってないが、凄まじいほどの面積を誇る場所であった。  気が付くと、いつの間にか、トーリス達が見学に来ていた。 「おい。そこに居ると、危ねぇぞ?今回は、手加減が出来そうもねぇからな。」  ジュダは、トーリス達が付いて来た事は、さして驚いていなかった。 「その心配は無い。」  いきなり空中から声がした。すると、赤毘車がいつの間にか来ていた。そして、 その横には、かなりへばっているジーク、サイジン、ミリィ、ゲラムにアイン、レ イリーの姿があった。フジーヤが説明しているのを聞いて、どうしても見に行きた いと言ったのだ。赤毘車は呆れながらも連れて来たのであった。赤毘車は、ジュダ の位置なら探らなくても分かる。その辺は夫婦の絆が強いと言う事だろう。 「全く。ネイガもジュダも軽率だぞ?私に一言の説明もしないなんてな。」  赤毘車は呆れながら、この辺一帯に神の気による強力なバリア状の物を張る。こ れでジーク達は、安全だろう。 「済まねぇな。赤毘車。・・・ギャラリーが増えちまったが、やるか。ネイガ。」  ジュダは、指をポキポキ鳴らし始める。やる気満々である。 「私も軽率でしたが・・・これで心置きなく闘えますね。」  ネイガは、神気を高め始める。同時に魔力も放出していった。すると、大地が揺 れ始めた。凄まじい程の力である。地震が起こるかのようだった。 「この目で、こんな闘いが見られるなんて・・・ついてるぜぇ!」  レイリーは拳を握り始める。傍から見ても、この2人は恐ろしい力を秘めている のが分かる。ジークやトーリスが冷や汗を掻いているのを見れば、その程度が分か ると言う物だ。 「さて、まずは様子見って所か?」  ジュダは、拳を握りつつも神気を高め始めた。嵐が起こる前の静けさのような力 が、ジュダを取り巻いていく。 「フッ。ジュダめ。久しぶりに本気だな。」  赤毘車は、夫の嬉しそうな姿を見て笑う。 「すげぇ。この「怒りの剣」すらも怯える程のパワーだ。」  ジークは「怒りの剣」が、平伏すようなサインを出している事に気が付いた。 「魔力も凄まじいです。まだ上がっていくなんて、私は信じられませんよ。」  トーリスは、バリア越しからも伝わる程の凄まじい魔力に敬服していた。 「さて、行きます!!」  ネイガは、ジュダに向かってダッシュする。その速さたるや、ワープしたかのよ うであった。鳳凰神と言うだけあって、恐ろしい早さである。 「速い!」  ジークは思わず叫ぶ。信じられない程のスピードであった。そこから、ネイガは 拳の弾幕を突きつける。しかし、それをジュダは全て受け止めてみせる。 「中々速いな。・・・ハッ!」  ジュダは、受け止めながら蹴りで反撃を試みる。しかも、ただの蹴りではなく、 こちらも蹴りで弾幕を作っていた。ネイガは、それを全て避けきって見せていた。 「見切ったか。やるな。」  ジュダは、一旦後ろに下がると空中に浮く。 「やっぱり、あなたは他の神とは次元が違う!嬉しいですよ!」  ネイガは、そう言うと神気を形にしてジュダにぶつけようとする。ジュダは、そ れを片手に気合を込めて弾き返した。ネイガは追いかけようとしていたので、その 神気弾をすんでの所で躱す。その気弾は、地面に激突して大爆発を起こしていた。 赤毘車のバリアが無ければ危ない所であった。 「す、凄いや・・・。」  ゲラムも言葉が無かった。明らかに超越した者の闘いだった。しかも気がつくと、 2人共、空中に浮いて空中で激しく殴り合っていた。2人ともガードが、しっかり しているため、空中でとてつもない音が鳴っているのだが、決め手が無いみたいだ った。しかし、2人が殴っている周りが竜巻のようになっている事から、その凄ま じい破壊力は窺い知れるだろう。 「ネイガか・・・。ジュダと、これほど対等に渡り合えるとは・・・やるな。」  赤毘車も感心していた。ジュダと渡り合えるのは、知っている限りでは神のリー ダーであるミシェーダ、そして自分と両親くらいしか知らない。赤毘車でさえ、付 いて行くのがやっとで、、ジュダには中々勝てないと言うのに、あの男は、かなり 食いついている。ミシェーダが自ら紹介するだけあって、天才なのかも知れない。 「ウォオオオオ!!」  ジュダは、ネイガの拳を躱した所で、両足を揃えて、ネイガを思いっきり蹴って 弾き飛ばす。だが、ネイガもそれを防御して体制を整える。 「食らえ!」  ジュダは、ネイガが体制を整えたと同時に、神気弾を何回も連続で放つ。ネイガ は、ガードしながら何発かをジュダに跳ね返していた。 「ふう・・・。やるな。想像以上だぜ?お前。」  ジュダは一息つくと、空中で首を回す。嬉しい時に、つい出てしまうジュダの癖 だった。ネイガもニヤリと笑う。 「貴方も、想像以上ですよ。下手な小細工は、もう止めましょう。」  ネイガはそう言うと、腕輪を前に突き出して静かに目を閉じる。 「・・・てめぇ。なる気だな?なら、俺も本気を出してやるぜぇ!」  ジュダも目を閉じる。愛用の宝石を握り締めて集中していく。すると、2人の姿 が段々変わっていく。 「・・・それほどの相手か!ネイガは!」  赤毘車は、驚いていた。 「ど、どう言う事なんです?赤毘車さん。」  ジークは訳が分からなかったので、赤毘車に聞いてみる。 「奴ら、神の姿に変化するつもりだ。今の姿に、それぞれ宿っている神の力を解放 する事によって、なれる姿がある。それを「化神(けしん)」と言うんだ。」  赤毘車は説明する。ジュダとネイガは、元のベースである人間の体に神になった 時に授かった神の力を足す事で、一番力が出せる形態に変化しようとしていたのだ。 それを「化神」と言うのだろう。 「くああああああぁ!!うぉあああああ!!」  ジュダは、竜神としての自分の力を解放し始める。ジュダは、いつも着けている マントを外すと、背中から龍の翼が見え始める。そして腕が龍の姿へと変わってい って、髪の色も緑色に輝き始める。そして頭の上には角が生えていた。 「ぬぅおおおおおお!!はぁあああ!!!」  ネイガも同じように力を解放する。背中から炎を帯びた翼が生え始めて、目も切 れ長になっていく。そして腕は鳳凰を象徴するかのように燃え始めていた。 「こ、これが「化神」!」  トーリスは、いつになく興奮していた。他の皆もである。神がその姿を晒すと言 うのは、中々無い事である。丁度、トーリスがレイモスに乗っ取られた時の感覚に 似ていた。しかし、力の増し具合は、それ以上だった。 「待たせたな。」  ジュダは、竜神の力を受けて緑色のオーラに包まれていた。 「私も今、終わった所ですよ。」  ネイガは鳳凰神の力を受けて、炎の色をしたオーラに包まれていた。 「行くぜ?用意は良いな?」  ジュダは拳に力を溜める。 「私も行きますよ。トア!」  ネイガは、掛け声と共にジュダに襲い掛かる。ネイガのスピードは、さっきの何 倍も増していた。何より応酬するパワーが何倍にも増していた。しかしジュダも負 けていなかった。手足や翼までも使ってネイガの攻撃に合わせつつ自らも攻撃する。 「・・・ネイガの方が速いな。」  赤毘車は分析していた。ネイガの方が、僅かににスピードが上だった。しかし、 パワーはジュダの方が上のようだ。 「ここまで闘えたのは、ミシェーダ以来だぜ。」  ジュダは、ニヤリと笑う。前にミシェーダと手合わせした時以来の力を出してい た。ミシェーダは、さすがに神のリーダーと言うだけあって、ジュダに勝っていた が、それ以外の神をジュダは、蹴散らして来たのだ。しかし、このネイガは、その ジュダに匹敵する力を持っていると言うのだ。  2人共、攻撃主体に切り替えて、防御を考えない攻めに変わって来ていた。凄ま じい程の動きで応酬していた。その合間に、ちゃんと魔法を放って攻撃する辺り、 神の攻撃のセンスが感じられた。トーリスやジークですら、隙が全く見当たらない 程の攻めだった。 「うりゃああああぁああ!!」  ジュダは、ネイガの一瞬の隙を見て、投げ飛ばす。 「ちぃ!!」  ネイガは、地面に激突しながらも、バックダッシュして神気を溜める。 「仕方が、ありませんね。・・・遥か古代から伝わる鳳凰の腕輪よ。その力を我に 与えよ!そして、炎の力となりて敵を打ち砕かん!!」  ネイガが腕輪を握り締めると、炎の力がアップした。そして、ネイガは全身が炎 となる。決める気だ。 「神技!『鳳凰の突撃』(チャージングフレア)!!」  ネイガは、そのまま高速でジュダに突っ込む。ジュダは、それを両手で受け止め るが、受け止めきれないで炎上する。ジュダは跳ね飛ばされていた。 「ジュダ!!」  赤毘車は、急いでジュダに向かおうとする。 「赤毘車!来るな!大丈夫だ。」  ジュダは手で遮る。そして気合を込めると、炎がドンドン消えていく。 「ふう・・・。やるなぁ。」  ジュダは無事ではあったが、ダメージは思いの他、大きかったようだ。 「私のチャージングフレアを食らって立てるとは・・・。さすがです。」  ネイガは決まったと思っていた。それほど会心の一撃だった。しかし、ジュダは 立ってきたのだ。 「こんなに心が震えたのは、久しぶりだぜ。俺も見せてやるよ。」  ジュダはそう言うと、宝石の中の一つを取り出す。 「ジュダ・・・。アレをやる気か!」  赤毘車は、バリアを強化していた。ジュダは決め技を放つ気だった。 「・・・わが魂に眠る神の力、アーウィンよ。我の魔力と共にその力、限界まで引 き出せ!!エメラルドよ!!」  ジュダは、エメラルドを握り締めると、ジュダの全ての力が、拳に集まるのを感 じた。そして、それを形作っていく。 「竜神の奥義、見せてやるぜぇ!『緑光神力』(エメラルドアーウィン)!!」  ジュダの叫びと共に、エメラルドの色をした力が、ネイガに向かっていく。ネイ ガは、それを自らの神気で防御する。しかし、とてつもない力はネイガの防御を、 あっさり打ち崩した。ネイガは、凄まじい緑の輝きと共に弾き飛ばされてしまう。 「うぉああああああ!!」  ネイガは地面に激突して、とうとう鳳凰の「化神」まで解けてしまった。すかさ ず、ジュダはネイガの所まで追って行き、拳を構える。 「・・・降参するか?」  ジュダは、そう言うと拳を止めた。 「・・・もちろんですよ。参りました。」  ネイガは、あっさり認めた。とても勝てる気がしなかったのだ。 「そうか。・・・ふう。」  ジュダは自分の「化神」も解く。どうやら決着はついたようだ。 「心配したぞ。ジュダ。」  赤毘車はバリアを解くと、ジュダの元に駆け寄る。普段ぶっきらぼうでも、こう 言う時は素直なようだ。 「いやぁ、強かったぜ?ネイガ。またやろうな!」  ジュダはそう言うと、爽やかに笑ってみせる。 (何て事だ。私の完全な敗北とはな・・・。)  ネイガは、ジュダの心と力を思い知らされた。神として何に於いても、ジュダの 方が上だと悟ったのである。 「凄い・・・。凄すぎる!!俺、感動しましたよ!」  ジーク、はジュダに素直な気持ちをぶつける。 「ははっ。ありがとよ。さすがに俺もネイガも、疲れちまったからよ。そろそろ休 もうぜ?」  ジュダは、そう言うと赤毘車の肩を借りる。赤毘車はクスッと笑うと、『転移』 を使って、プサグルへの扉を開ける。ネイガはサイジンが肩を貸していた。  神と神の激突を見たジーク達は、更なる上を目指す事を胸に誓っていた。  結婚式の当日、トーリスとツィリルは、逸早く教会に向かっていた。仲人を務め るジークも、逸早く向かった。ジークは、朝起きるのは苦手であったが、そんな事 を言ってる場合ではない。頑張って起きた。しかし、それでもトーリスやツィリル、 それに、それぞれの両親はもっと早く着いていて、どうにもバツが悪い形となって しまった。  他の参列者達は、教会の椅子に既に座っている。後は、式を始めるだけになって いた。しかし、この日のために色々やった事を思うと万感の思いが馳せた。やはり、 自分達で飾り付けや式の準備をしたので、趣が違うのだろう。ジークとゲラムは、 飾り付けや雑用などをこなしたし、レルファとサイジンは参列者の紹介や管理など をやったし、ミリィは今日運ばれてくる料理の献立を全て作り上げたし、本人達は、 あっちこっち回っての挨拶を全てこなした。その準備があってこその今日なのだ。  教会の中は厳かな雰囲気の中に、ちょっとしたレースをあしらえて、式の雰囲気 を盛り上げている。レルファなども、思わずウットリしてしまうほどだ。  そして、ヒルトからの言い付けで、音楽隊も用意してある。  その音楽隊が一斉に演奏しだした。とうとう式の始まりなのだろう。神父も目を 閉じて用意している。 「新郎、新婦、ここにお出でなさい。」  神父が合図した。すると、教会のドアが開けられ、真ん中に、ジークを挟んで、 トーリスとツィリルが登場する。みんなが一斉に拍手をした。その後ろには、フジ ーヤとルイシー、そしてルースとアルド、そしてレイアの両親がいた。  トーリスとツィリルは、互いを見合わせながら幸せそうな顔をしている。 (結婚・・・か。)  ルースは、複雑な気持ちだった。最初、話を聞いた時は、意識が途絶えそうにな った物だ。反対もしようとした。レイアの事も聞いて、尚更、反対をしようとした。 しかし、娘のトーリスに対しての眼差しを見て考えが変わった。その眼差しを見て、 何たる目をしているのか、と思った。トーリスに対しての絶対の信頼を置いている 目。そしてレイアに対して全てを託している目だった。 (あの小さかったツィリルが・・・。)  ルースは、その想いを隠せない。ツィリルは可愛い娘だった。贔屓目じゃなくて も、そう思った。その娘が、あんな目をするとは思ってなかったのだ。成長が嬉し かったと同時に、自分を離れたという去就感もした。しかし、避けては通れない道 である事も分かっていた。なので結婚を許したのだ。だが、油断すると、すぐ涙が 出てしまう。ルースは必死に涙を堪えていた。  ツィリルとトーリスが、やっと教壇の前に着いた。ジークは、一歩引いた所に下 がった。そして、それぞれの両親は椅子の一番前の席に座る。そして神父が一度天 を崇めると、創造神ソクトアに対して祈りを捧げる。ソクトア大陸では、創造神ソ クトアこそが聖なる神なのだ。ジュダも、ソクトアとは1回だけ会った事があるが、 中々見識の広い神だった事は覚えている。 「創造神ソクトアに許しを戴きました。これより結びの儀を行なう。」  神父が口を開く。 「新郎トーリスよ。」 「はい。」  トーリスは、しっかりとした口調で返事をする。 「汝、悩める時も健やかなる時も、新婦ツィリル及びレイアの魂と、共に喜び、苦 しみを分かち、生きていく事を誓いますか?」  神父は事情を説明されてビックリしたが、納得してくれると、ツィリルとレイア の2人との結婚式の言葉を考えてくれていたのだ。 「誓います。」  トーリスは静かだが、決意ある口調で誓いを立てる。 「新婦ツィリルよ。」 「はい!」  ツィリルは、少し緊張していたが元気良く返事をする。 「汝、悩める時も健やかなる時も、新郎トーリスと、共に喜び、苦しみを分かち、 生きていく事を誓いますか?」  神父がツィリルに問うた。 「誓います!」  ツィリルは、少し涙声で誓った。そして、意識をレイアに渡す事にする。ツィリ ルが崩れそうになるのを、トーリスが支えながらも意識がレイアに変わる。神父は、 少し驚いたが、説明があったので納得しながら言葉を続ける。 「新婦レイアよ。」  神父が、恐る恐る聞いてみる。 「はい。」  ツィリルの口から返事が返ってくる。どうやら、レイアに変わったようだ。皆、 も説明があったとは言え、少し驚いているようだった。 「汝、悩める時も健やかなる時も、新郎トーリスと、共に喜び、苦しみを分かち、 生きていく事を誓いますか?」 「誓います。」  レイアも涙声で答える。トーリスは静かに目を閉じた。 「宜しい。では、互いの指輪を誓いの証として交換しなさい。」  神父が言うと、トーリスとレイアは指輪を交換する。 「では、互いに誓いの証明たる口付けを!」  神父が合図すると、トーリスはレイアを見る。どうやらツィリルとレイアは、ど ちらも協調しているのか、どちらともつかない顔をしている。トーリスは、構わず 口付けを交わす。皆から、少し冷やかしの声があがったが、気にしていなかった。 「ツィリル・・・レイア・・・。」  トーリスは、唇を離すと限りなく優しい目でツィリルとレイアを見ていた。 「センセー・・・。トーリス・・・。私、幸せ・・・。」  どちらともつかない声が響く。 「ここに結びの儀は成された!創造神ソクトアよ!あらんこと無き祝福を!」  神父の言葉と共に、拍手と一層大きな演奏が響き渡る。すると、トーリスとツィ リル、そしてレイアは祝福を受けながら退場する。 「トーリス・・・。ツィリルちゃん・・・。ありがとう。」  退場途中であった。恐らくレイアのなのだろう。涙を流しながらも礼を述べる。 「レイアさん・・・。行っちゃ駄目・・・だよ!」  ツィリルが、妙な事を口にする。 「どうしました?」  トーリスが不思議に思う。 「レイアさんが行っちゃう!!」  ツィリルは、涙が止まらなかった。 「・・・まさか!レイア!」  トーリスは魔力を全開にして、目に集中する。すると、レイアがツィリルの体か ら離れて行くのが見えた。レイアは、この上なく幸せな顔をしていた。  そしてレイアは、会場に響く声で最後に言い渡した。 「私・・・幸せ・・・。また・・・会おうね!」  レイアの言葉が、はっきりと全員の耳に届く。そして形も朧気ながら見える。レ イアは手を振って上へと・・・そう天へと昇っていった。 「レイア!・・・レイアァアアアアアア!!」  トーリスは叫ぶ。しかしレイアは、もう行ってしまった。 「レイアさん・・・。どうして・・・。」  ツィリルは、トーリスの胸で泣いていた。 「ツィリル・・・。レイアは、こうなる事が分かっていたようです・・・。」  トーリスは涙が一筋流れたが、冷静だった。 「レイアは、それでも私と結婚して・・・そして成仏したかったのです。結婚した 瞬間、離れると分かっていても・・・。」  トーリスは拳を握る。そして涙が出そうになった。 「・・・分かったよ。レイアさん。わたし約束する!センセーと幸せになるよ!セ ンセーも幸せにするよ!絶対だよ!!」  ツィリルが叫ぶ。いつの間にか、周りから拍手が途絶えていたが、皆も事情が分 かったのか、泣いていた。特にレイアの両親は、娘の死を改めて認識したのか、涙 が止まらなかったようだ。 「レイア・・・。さよならは言いません。また・・・また会いましょう!」  トーリスが、しっかりした口調で言う。もう二度と、レイアの事で狂うことは無 いだろう。気持ちの整理はついたようだ。 「レイアさーん!!またねー!!」  ツィリルは、今度は涙顔だったが笑いながら手を振る。  こうして結婚式は終わった。ここに出席した皆は、決してレイアを忘れないだろ う。死んでからもトーリスとの愛を貫こうとした女性を・・・。  こうして、トーリスとツィリルは結婚と相成った。ジーク達にとって、衝撃的な 出来事の一つとなった。  絶対に諦めないと言う事。レイアは、これを皆に託して天へと帰るのであった。