NOVEL 3-2(Second)

ソクトア第2章3巻の2(後半)


 一方、ストリウスの『望』では、居残り組が精を出して、毎日の修練を忘れずに
積んでいた。ルイに刺激されたのか、ミリィの方も、この頃、目に見えて成長して
来ている。ミリィの棍は、元々才能があるだけに、楽しみであった。
 また、2人の言い争いを止めているゲラムも、隙を見ては、修練を積んでいた。
ゲラムは、剣の腕こそルイには劣る物の、それを補って余りある弓の腕がある。遠
目からのサポートは、ゲラムに任せて良いと思っていた。
 サルトラリアは、成長して帰ってきたジーク達を、頼もしく思っていた。少し前
までは、互角に近い腕を持っていたサルトラリアだが、もうジークには、敵わない
だろう。それくらい、ジークの腕前の成長は早かった。
 ただ、魔法の腕は、からっきしだったので、『望』の副ギルドマスターこと、ギ
ルに色々習っていた。ギルは、トーリス程の腕を持っている訳では無いが、バラン
ス良く、どちらも使いこなす器用な戦士だったので、ジーク達に魔法を教えるのは、
自分の立場の分も考えても、とても楽しかった。
 その分、剣術、武術の訓練は、ジークがズバ抜けて強かったので、何人か纏めて
相手をするようにしている。しかも、見事に皆を倒した後、皆の悪い癖を見抜いて、
アドバイスしているのだから、大した物である。ギルも何度も倒された。だが、悔
しいと言う気持ちよりも、自分が成長していると言う、確かな手応えが、掴めたた
め、ジークとの手合わせする順番が、待ち遠しいくらいになっていた。
(皆、確かな成長を繰り返している。俺も負けていられんな。)
 サルトラリア自身も、ジークと手合わせしたりしていた。何回か一回は、勝てる
のだが、倒される方が、遥かに多かった。
「よし!次!!」
 ジークは、アドバイスを与えると、次に出てくる3人と対峙する。
「本気で行くネ!」
 ミリィが出てきた。
「フッフッフ。それは、私の台詞よ!悪いけど今日の勝ちは、私の物よ!」
 ルイも出てきた。ジークが倒されたら、休憩と言う事になっている。タフな話で
ある。その横では、サルトラリアが同じ事をしていた。サルトラリアとて、並の使
い手では無い。ギルドメンバー達を、いつも鍛えているのは、サルトラリアなのだ。
とは言え、人気があるのは、圧倒的にジークだった。
「あんたと組?ついてないわ。足を引っ張らないように、気を付けなさいよ。」
「それは、こっちの台詞ネ。自信だけじゃ勝てない事もあるネ。」
 ルイとミリィは、また睨み合っていた。困った物である。
「ルイさんもミリィさんも、協力しなきゃ、ジーク兄ちゃんには勝てないよ!」
 ゲラムが止めに掛かる。そう。ゲラムも同じ組だった。
「ゲラムに免じて、協力してあげるわ。感謝なさい。」
「剣術には無い強さを、見せてあげるヨ。」
 2人とも静まったようだ。ゲラムも肩の荷を降ろす。しかし、安心ばかりしてい
られない。目の前に居る剣士は、ソクトア最強の剣士と言っても過言では無い。
「ルイさんにミリィにゲラムか。よし!来い!!」
 ジークは、気合を入れた。なんだかんだ言って、この3人と手合わせするのが、
一番面白い。近めからは、ルイの鋭い剣術が相手だし、中間距離からは、同時にミ
リィが棍で攻撃してくる。そして、遠距離から矢を打ちながらも、ゲラムが切り込
んで行くと言う、色々なバリエーションが、考えられる3人だからだ。
 最も、大怪我しては、元も子も無いので、ジークとルイは木刀だし、ミリィは棍
と言っても竹で出来た棍だし、矢も鏃が無い殺傷力の薄い矢だった。とは言え、油
断していれば、結構なダメージを貰う。みんな真剣に勝負していた。
「ここだ!」
 ゲラムは、ルイとミリィに当たらないように、ジークに向かって矢を3本放つ。
「はいぃぃぃ!!」
 その瞬間、飛び出したのはルイであった。切れ味の鋭い木刀が、飛んでくる。ジ
ークは矢を木刀を回転させて跳ね返すと、ルイの木刀を、手首を返すだけで跳ね返す。
「ハァァ!!」
 その瞬間、ミリィが飛び出した。棍での突きを、ルイの横から連発する。
(中々の連続攻撃だ!)
 ジークは、対処していたが、結構連携が取れてて、きつい攻めだった。
「でやぁぁ!!」
 ゲラムも、矢を時々に放ちながら木の脇差で、攻撃してきた。
「ちっ!やるっ!!」
 ジークは、中々攻め込む隙が見つけられない。ただの3人じゃない。やはりスペ
シャリストの3人の攻撃は、かなりの猛攻だった。
「ここ!!」
 ルイは気合の入った一閃をジークの腕に当てる。ジークは防具で受け止めていた。
「ハイイィィ!!」
 ミリィの鋭い突きが、ジークの頬を掠めた。多少血が出てしまう。
「だぁああ!!」
 そして、追い討ちを掛けるように、ゲラムの小刀が飛んでくる。それをジークは、
何とか木刀の背で受け止める。
「ふぅぅ・・・。やるなぁ・・・。」
 ジークは、そう言うと、頬の血を拭う。そして、ニヤリと笑った。この状況を楽
しんでいるようだ。
「俺も、本気になれそうだ・・・。」
 ジークは闘気の質を変える。とてつもない闘気である。あれだけ練習した後に、
どうして、これだけ闘気を発散出来るのか、分からなかった。
「望む所よ!!さぁ、来なさい!」
 ルイは、相変わらず無意味に指を差す。ジークが言う本気とは、不動真剣術を繰
り出すと言う事だ。構えも攻めの型に変わる。いつもは、守りの型で勝負している。
「そうこなくちゃ、面白くないネ。」
 ミリィも冷や汗を流しながらも、笑っていた。
(ジーク兄ちゃんの本気か・・・。技の組み立てを読まなきゃな。)
 ゲラムは、後方から冷静に分析していた。
「・・・行け!『爆牙』!!」
 ジークは、木刀を素早く回転させて、気流を作って、それをルイ達に向ける、不
動真剣術の回転斬りの一種である。それを3人は躱してみせた。
 バシィィィィ!!
 その瞬間の事であった。ルイは、手に持っていた木刀が無くなる。何と、ジーク
は、距離を一気に詰めて、木刀を弾き飛ばしたのだ。
(なんて速さ!!)
 さすがのルイもビックリした。このとてつもない速さこそ、ジークの『閃光』の
速さであった。袈裟斬りの『閃光』は、一気に距離を詰める速さこそが、重要なの
だ。それを応用した動きであった。
「やるネ!!」
 ミリィは『閃光』の後、ジークの動きが鈍る瞬間を狙って棍を突き出す。『閃光』
は、やった後、どうしても動きが鈍ってしまう。それだけのエネルギーを使って、
神速とも言える速さを出すのだ。しょうがない事である。
「うわっと!」
 ジークは、間一髪で木刀の背で受ける。その瞬間、矢が3本程、飛んでくる。
「うわわわ!!」
 ジークは、それを何とか、木刀を突き立てて逆立ちするような形で避ける。
 ゲラムはm冷静にジークに矢を撃ったのだった。その瞬間、ミリィが動く。ミリ
ィは、棍を振り回して両端を上手く使って攻撃する。
「くっ!!」
 さすがのジークも、疲れからか、何とか受けていたに過ぎなかった。そこにゲラ
ムが、ここぞとばかりに小刀で背後から近づく。
 その瞬間、ジークは弾けた様に動く。と言うより、どこに行ったか分からない。
「消えた!?」
 ゲラムも、少し驚く。恐ろしい速さである。しかしジークは、『閃光』を放つエ
ネルギーで、どこかに移動したに違いないと思った。これだけ連発してれば、いく
ら何でも、ジークも疲れるはずと読んでいた。しかし、どこを見回しても、ジーク
は居なかった。すると突然、頭上から衝撃が来る。
「うわぁぁ!!」
 ゲラムは頭を抑える。ジークは何と飛んでいたのだ。そして、頭上から襲い掛か
って来たのだ。そして、木刀を横一文字に素早く振る。すると、真空刃が巻き起こ
って、ミリィの棍を弾き飛ばしていた。
「・・・さすがジークなのネ。」
 ミリィは、素直に負けを認めた。この瞬間、決着がついたようだ。
「まさか、『一閃』まで使う羽目になるとはね・・・。」
 ジークは、3人の動きが凄かったのを素直に認めた。『一閃』は、不動真剣術の
横斬りの一種で、真空刃を飛ばす技だった。この技は、あまり見せる事が無いのだ
が、咄嗟に使わざるを得なかったのだ。
「腕を上げたな。さすがに俺も疲れたよ・・・。」
 ジークは、へたりこんでしまった。
「ふっふっふ。私の攻撃の前に、疲れを隠せないようね!」
 ルイが意味も無く誇りだす。そう思っているのだから、放って置く事にする。
「貴女だけじゃなくて、私達も含めなのネ。」
 ミリィが余計な事を言う。この2人は、あれだけの修行をしたのに、元気な物で
ある。タフさ加減では負けていない。
「ジーク兄ちゃん。後は、何とかしてよね。」
 ゲラムは、さすがに疲れたのか、その場で大の字で寝てしまった。
「はっはっは。じゃぁ、そろそろ休憩にするか。」
 サルトラリアは、休憩にする事にした。
 食事はレイホウが、いつも届けてくれていた。この頃、盛況で従業員も増えたと
かで、色々と副業も出来るようになって来ているらしい。
 ミリィは、それを聞いて安心していた。自分が冒険に行ってる間『聖亭』の方が、
心配だったが、ちゃんとお客さんが、増えてるんだったら、心配も少ない。
「私らが出来る事は、これくらいネ。頑張る事ヨ!」
 レイホウは『望』が、いつもここを守っているおかげで、平和があると信じてい
る。ここ最近で、ストリウスで事件が少ないのも頑張っているおかげなのだろう。
「ルイって子、手強そうだけど、負けちゃ駄目ネ。」
 レイホウは、ミリィに、そう告げると店に帰った。無論ジークの事であろう。
(母さんにも心配掛けるなんて、良くないネ。)
 ミリィは、溜め息をつく。ジークに惚れて、付いて行ったのは良いが、進展が無
いんじゃ親としては、心配なのだろう。増して、ルイが現れたので余計である。
 それはそうと、ルイは、レイホウには礼儀正しくしている。いくらミリィの親と
は言え、飯を作ってくれる人には、頭を下げるようだ。ルイも、レイホウの暖かい
人柄には、逆らえないようだ。
 ギルドの皆は、レイホウが持ってきてくれた弁当を、次々と手を出す。ジークや
ゲラムも、この時ばかりは無心で弁当を食べる。やはり、あれだけ修練を積んだ後
だと、お腹も減るのだろう。
「いやぁ、しかし、ゲラムも腕を上げてきたなぁ。」
 ジークは、ゲラムと話している。
「そうは言うけど、まだジーク兄ちゃんには、及ばないよ。」
 ゲラムも日に日に強くなっていくのは感じるが、ジークの圧倒的な強さには、ま
だ敵わないと見ている。
「不動真剣術は、そう簡単に敗れないぞ?」
 ジークはニヤリと笑う。
「ふっふっふ。私の普天流だって、そう簡単に敗れないわよ?」
 ルイは胸をはる。ルイは意外に、良いプロポーションなので思わず顔を赤くする。
「ジーク・・・。何見てるネ。」
 ミリィは、目を細くする。
「そういえば、ルイさんは、プサグルからだと聞いているが、どこら辺何だ?」
 サルトラリアが、険悪な雰囲気になる前に、話題を逸らそうとした。
「大した所じゃないわ。丁度ストリウスとデルルツィアとの境目辺りよ。」
 ルイは答える。プサグルの、すぐ南はデルルツィアだが、中央大陸側の境目だと、
すぐにストリウスになる。なので、中央大陸に近い所なのだろう。
「となると・・・もしかして、踊り子の里の近くか?」
 サルトラリアは、意外な名前を出した。
「近くというより、そこよ。私は踊り子の里の、家元の娘よ?」
 ルイは、普通に答える。皆ビックリする。踊り子の里は、代々受け継がれた踊り
の才能により、観光客が集まってくる村として有名だった。ただ、21代目の時に、
ちょっとした騒動があったのだと言う。
「そんな家柄だったとはな。知らなかったな。」
 サルトラリアは、感心する。
「隠すつもりは無いわ。ただ、あそこって、退屈なのよね。」
 ルイは、かなり冷めた目をしていた。あまり、良い思い出は無いらしい。
「今は妹が、継いでるはずよ。私は、あんな所に居るのは真っ平ゴメンなのよね。」
 ルイは、普通に答える。良いのだろうか?
「21代目を決める時、私は迷わず普天流を習いに行ったわ。妹は、村のために役
立ちたいとか言ってたわね。全く・・・気が知れないわ。」
 ルイは、そう言うが、薄っすら涙を浮かべる。なるほど。21代目の騒動とは、
ルイが継がなかったための、騒動なのだろう。ルイだって、妹とは離れたく無かっ
たのだろう。しかし、自分の夢のために出て行ったのだ。
「私には、ソクトア全土を旅するって言う夢があるの。諦めは、しないわ。」
 ルイは、強い目をしていた。そのために、妹まで置いてきたのだ。引き下がれな
いのだろう。
「そんな事情が、あったとはな。」
 サルトラリアは、顎を擦る。
「妹は、真面目過ぎたのよ。でも、夢を達成したら、ちゃんと帰るつもりよ。」
 ルイは、ニッコリ笑う。
「その方が良いな。親御さんも、心配している事だろう。」
 サルトラリアは頷く。
「ところで、ルイさんって、踊れるのですかな?」
 ギルが聞いてきた。気になる所なのだろう。
「当然よ!これでも、家元の娘よ?結構普天流の動きにも、活かせるのよ?」
 ルイは説明する。普天流は、鋭い攻めと避けを中心とした剣術だ。踊れれば、確
かに、その動きの増加に繋がるだろう。
「是非、見たいな。踊ってくれるか?」
 サルトラリアは、興味を示していた。
「俺も興味あるな。」
 ジークは素直に興味を示した。踊りと言っても、余りピンと来なかったのである。
「そこまで言うのなら、仕方が無いわね。とくと見る事ね。」
 ルイは偉そうにに言うと、ゆっくり立ち上がる。そして、訓練場の広い場所に移
動する。ここなら、踊り易いと判断したのだろう。
「じゃ、行くわよ!」
 ルイは、そう言うとテンポ良く踊りだす。さすが家元の踊りとだけあって、かな
りの物だ。ステップ、ターン、そして、それに纏わる動き、何をとっても、非の打
ち所が無かった。
「凄いネ・・・。」
 ミリィですら、言葉を失うほどだった。さすがである。ルイの踊りは、技術だけ
で無く、何かを惹きつける感じもする。剣術の冴えも悪くないが、踊りは、それ以
上だと言わざるを得ない。21代目に騒動が起きたのも、分かる気がする。これだ
けの踊りの技術を持ちながら、継がなかったのだ。惜しいと思うのが普通だろう。
「はぁ・・・。」
 ジークは、初めて見る凄い踊りに目を奪われていた。そして、少しすると、ルイ
は、踊りのシメに入る。軽やかなターンからの、片足でバランスを取りながらポー
ズを決めて、フィニッシュだった。すると、その瞬間ギルド中から拍手が起こる。
「すっげぇ!ビックリしたよ!」
 ゲラムも、拍手を惜しまない。疲れが吹き飛ぶような、踊りだった。
「本当に凄いネ。」
 ミリィは認めざるを得なかった。素直に感心していた。
「あまり、見せびらかしたく無かったんだけどね。たまには良いわね。」
 ルイは髪を掻き揚げる。どうやら、あまり踊りの方は、好きでは無いらしい。剣
術に打ち込んだからには、剣術に集中したいのだろう。
「いや、凄かったよ!」
 ジークは素直に褒めた。褒めるべき才能を持っていたのも事実である。
「フッ。まぁ、後は剣術で、貴方を上回らなきゃね!覚悟なさい!」
 ルイは既に、いつもの調子に戻って明後日の方向に指を差す。
「これさえなきゃ認めるのニ・・・。」
 ミリィは、溜め息をつく。
 まだまだ『望』は平和だと言う証拠だろう。


 中央大陸の戦場跡地の荒野で、いつも力を比べあっている者達が居た。しかも、
ただの比べあいじゃない。恐ろしい戦闘力のぶつかりあいだ。それは、ジュダ達で
あった。いつ何が起きても、対処出来るように、修練を積んでいるのである。その
ぶつかり合いたるや、半端な物では無かった。ネイガは、その度にジュダの強さを
思い知らされる。赤毘車も噂通りの強さで、さすがとしか言いようが無い。女性の
神だと思って手加減してると、あっという間にやられてしまう。本気を出しても、
ネイガと同じくらい強いだろう。
 ネイガは、エリート意識が高かったが、その意識を、完全に捨てる事にした。そ
れほど、この2人は孤高の強さを持っていたのである。奢れる者には持てない、求
道者のような強さをである。しかも、それを持ちつつも、見せ付けたりはしない。
 神になると、その強さを見せて、抑え付けて人々に分からせる例も、少なくない。
その中で、ジュダは、自らの強さを追い求めながら、人々と接して、魔族と立ち向
かう事で、その存在感を示している。
 ネイガは、今まで神と言うのは、その強さで人々を守って、感謝されて尊敬を一
身に受ける事が、勤めだと思っていた。しかしジュダを見て、その考え方は変わっ
た。ジュダは闘う事で、神であると言う自覚を保ち、目標を示唆する事で、人々の
強さを底上げしようと言う試みをする。そこで暮らす人々が変わらなければ、神た
る勤めを果たしていないと言う、考えからなのだろう。
(このような神は、見た事が無い。)
 ネイガは、そう思う。だが、素晴らしい試みだと思った。同時に、自分のやって
きた事に疑問を持ち始めていた。自分が救ってきた星は、果たして本当に幸せだっ
たかどうか?だ。実際に、その星の未来は、果たして平和になるのだろうか?その
疑問が、いつまでも纏わりつく。ネイガは、一つの星を救ってきたが、所詮、尊敬
を一時受けただけで終わってしまったのではないか?と言う不安が大きいのだ。
 ネイガは、思い切ってジュダに聞いてみる事にした。
「ははっ。この頃、何か悩んでると思ったら、その事か。」
 ジュダは、気さくに笑い飛ばす。
「ジュダ様!私は、真剣に悩んでいるのですよ?」
 ネイガは顰めっ面で、ジュダに抗議する。
「まぁ、考えてもみろ。ネイガが救った星は、どう言う星だった?」
 ジュダは、ネイガに問い掛ける。
「そうですねぇ。規律を重んじる国が、多かったですね。」
 ネイガは思い出す。規律をそれぞれが管理していた国が、多かった気がする。
「なる程な。それで、お前は何で、派遣されたんだ?」
 ジュダは、さらに聞いてくる。どうやら、事情を聞いてみようと思ったのだろう。
「国同士の戦争をしている所に、魔族が付け込んだのです。ある国の将軍が魔族で
した。その者が、星その物を支配しようとしたので、成敗致しました。」
 ネイガは、思い出しながら言う。軍隊を指揮していた将軍が、その国の支配者を
唆していたのだ。
「その後、どうなった?」
 ジュダは、考え込んでいる。
「その魔族を打ち倒す事で、人々の平穏が戻ったので、天界に報告して帰りました。」
 ネイガは、その時の事を思い出す。人々が革命を起こして、支配者は、ついに屈
したのだった。しかし、その後の事については、干渉は一切しなかったのである。
「ま、それが普通の神の在り方だ。聞いた感じ、間違った所は無いな。」
 ジュダは、冷静に分析する。
「だが、お前の気にする通り、人々に生きる力が出来たかどうかは、疑問だな。」
 ジュダは指摘してやった。ネイガのやり方も、神として間違ったやり方なのでは
無い。だが、本当に、その人々のためになったかは別である。一時的に助けた事に
より伝説には、なるだろう。しかし、それで人々が意識的に強くなるかと言えば、
どうしても疑問符が付く事だろう。
「ただ、それで、どうするつもりだ?」
 ジュダは、尋ねてきた。
「その星の様子を、一目見たいと思っております。」
 ネイガは、真摯な眼で答えた。
「お前には、俺と共に、このソクトアを守る任務がある。」
 ジュダは、突き放した。神としての勤めを忘れてはならないと言う事だろう。
「・・・。」
 赤毘車は黙って見ていたが、余り良い顔では無かった。
「無理は承知しております。任務違反と言うのであれば、神の任も降りる覚悟です。」
 ネイガは、ジュダと出逢って、やはり何かが変わったようだ。昔のネイガからは、
こんな台詞は聞けなかっただろう。
「フフッ。プッハハハハハ!俺が、そんな事、本気で言うとでも思ったか?」
 ジュダは、声に出して笑った。ジュダは、ネイガを試したのである。
「行ってこいよ。心に、何かシコリを残したまま任務なんて、それこそ俺が許さな
い所だ。納得して来い。そして神の任が、どう言う物か、自分の目で確かめるんだ。」
 ジュダは、優しい目をしていた。
「あ、ありがとう御座います!」
 ネイガは、本気で頭を下げる。ジュダは全てを理解した上で、ネイガの願いを聞
き遂げる事にしたのだ。
「ミシェーダの野郎には、俺が何とか言って置いてやる。行って来いよ。」
 ジュダは、ネイガの肩を叩く。
「御恩は忘れません!・・・行って参ります!」
 ネイガは、そう言うと次元の扉を開く。ワープする時に使う技だ。神になった時
に、この技は必ず習得しなければならない。そうでなくては、自由に移動が出来な
いからだ。とは言え、星の間をワープすれば、1ヶ月は、次元が安定しないため、
帰ってこれない。それもジュダは承知の上だった。同じ星の上であれば、そう問題
も無いのだが・・・。なので普通は、許しはしないのだ。
「フッ。ジュダも、人が悪いな。」
 赤毘車は鼻で笑う。赤毘車は、一瞬本気で、ジュダが行かせないのかと思った。
「決意が本物かどうか、確かめるためさ。何だよ。信じて無かったのか?」
 ジュダは、膨れっ面をする。こんな顔を見せるのも、赤毘車にだけだ。
「お前は冗談とも、本気とも、取れない返事をする時があるからな。」
 赤毘車は、からかう。もう2百年近く一緒に居るのだ。お互いの性格は分かって
いるつもりだ。
「チッ。言ってくれるな。手厳しいな。お前は。」
 ジュダは、笑いながら照れ臭そうに頭を掻く。こんな仕草をする夫を、赤毘車は
この上なく好んでいた。自分が神になる前から、このような性格だった。
「それくらいの方が、お前には丁度良い。」
 赤毘車は、ニッコリ笑う。
「また、俺達だけの任務になったな。」
 ジュダは、一息つく。ネイガの加入で、色々忙しくしてたので、休む暇が無かっ
たのである。それだけネイガには、期待をしていた。ネイガには、強さとしての資
質がある。任務に対する忠誠心もある。だが、任務の先を見ていない。しかし、今
の申し入れにより、それも解消される事だろう。
(可愛い後輩には、厳しくなきゃな。)
 ジュダは、ネイガが、これからの神の一員として、外せない奴になると見ていた。
「ジュダ。このソクトアは、見通しがつきそうか?」
 赤毘車は尋ねてくる。魔族が進出して来て、もう半年以上経っている。なのに、
自分達とは戦闘する所か、ミカルド以外、会ってすら居ない。不気味なのだろう。
「赤毘車様ともあろう者が、不安に駆られたか?」
「茶化すな。魔族とて、馬鹿ではない。だからこそ、戦いを仕掛けて来ないのだろ
う。・・・嫌な予感が付き纏うのだ。」
 赤毘車は、どんどん膨れ上がる邪悪な瘴気を感じていた。ジュダも、感じない訳
じゃない。寧ろ赤毘車よりも感じている。しかし、このまま攻めた所で、こちらの
犠牲を含んで決着がつく。そんな事には、したくないのだ。
「赤毘車。心配する事は無い。俺の強さは誰よりも、お前が良く知ってるはずだ。」
 ジュダは拳を握ってみせる。赤毘車は苦笑する。
「・・・私らしく無かったか。」
 赤毘車は、いつもの通り不敵な笑みを浮かべた。
「良いか?赤毘車。俺達は、絶対に生き残って勝つんだ。そのためには、誰が来よ
うと負けない強さを作る。それが第一なんだ。」
 ジュダは、力強い一言で励ます。
「お前が言うと、どんな言葉でも最もらしく聞こえるから不思議だな。」
 赤毘車は、ジュダの隣に座る。
「ジュダ。私は、お前を信じる。いつまでもな。」
 赤毘車は、そう言うとジュダと自然に唇を重ねる。ジュダは鼻で少し笑うと、そ
れに応えた。
 ジュダは赤毘車も、やはり女性なのだと言う事を再認識した。自分が守らねばな
らない。いくら神とは言え、大切な妻なのだから・・・。


 妖精の森の訓練場は、エルザードが特別に目立たぬように、カモフラージュして
る所にある。しかも、ここは毎日魔力で強化してあるため、絶対に外部に漏れない
と言う、おまけ付きだ。魔力で強化してあると一口に言っても、魔力の高いフェア
リー族が、何人掛かりでやっているので、その効果は、魔族が、いつも使っている
修練場にも匹敵する程の丈夫さであった。
 そんな中、エルザードとエルフの精鋭達が、ミカルドと共に汗を流している。最
初こそ魔族との練習なんて、主義に反すると異を唱えていた者も、ミカルドの他意
無き行為と、純粋な強さに惹かれて、皆、練習に参加するようになっている。
 その中でも、ミカルドの強さは群を抜いていた。強いなんて物じゃない。エルフ
が数人掛かりで立ち向かっても、手も足も出なかった。その中で、エルザードが善
戦していたが、まだまだ力不足だった。エルザードは、ミライタルにすら、まだ力
の差を開けられている。増して、このミカルドは、魔王クラーデスの力を最も濃く
受け継いでいると、言われてるだけあって、凄まじい程の力だった。
 しかし、ミカルドは容赦はしなかった。とは言え、無論気絶しないように、配慮
はしていたが、手加減は一切しなかった。しかし、その圧倒的な強さを目の当たり
にする事によって、エルフ達の危機感を促す事も出来たし、エルザードが、日に日
に自分に追いつこうと、必死になっている姿勢が良かった。そして何よりも、全力
を出し続けているミカルドのレベルアップにも繋がる。
「どうした!もう終わりか!?」
 ミカルドは、鬼のような形相で皆を見返す。
「はあああ!!」
 エルフの一人が、これでもかと言わんばかりに魔力を放出する。その魔力を、真
空の刃に変えて、ミカルドに向かって放つ。
 パシィィィッ!
「な、何ぃ!?」
 エルフは、目を見開いた。ミカルドは、その刃を指二本で止めて見せたのだ。そ
して、あっという間に消し去った。
「つつっ。ちょっと切れちまったな。今のは、良い感じだったぞ。」
 ミカルドは、ニヤリと笑う。指先が少し切れていた。さすがに、受け止め切れな
かったのである。しかし、指先を少し怪我しただけとは、恐ろしい物である。
「まだまだ!今度は、私が相手だ!!」
 エルザードが、間髪居れずにミカルドに襲い掛かる。エルザードは、矢に闘気を
注入させて、放った後に魔力を風の刃に変える。
「むぅん!!」
 ミカルドは、エルザードの矢を指先で威力を殺すと、次に、風の刃を片手に襲い
掛かるエルザードに対して、構えを取った。
「はあぁぁ!!ハイィ!ハイィ!ハァァァイ!!」
 エルザードは、気合を入れながらミカルドに襲い掛かった。魔力で作った風の刃
に、闘気を伝わらせて強化しながら、剣のように振り回しているのである。
「む・・・。やる!」
 ミカルドは、さすがに、かなりの威力がある風の刃に対して、自らの拳に瘴気を
纏わりつかせる事で、拳を強化して対抗する。
 ギャイィン!ビキィィィーン!ギィィィィンン!!
 耳を劈くような音が聞こえた。風の刃と瘴気の拳が、交わる音である。そこに、
エルフの他の者達が、真空刃を飛ばして援護する。
「むぅぅう!!」
 ミカルドは、限りない真空刃の前に、受けざるを得なかった。しかし、咄嗟に翼
を広げて回転する事で、真空刃を全て押し殺してしまった。
「良いぞ。段々、俺の求める強さ像に近づいている証拠だ!!」
 ミカルドは、楽しそうに笑う。実際楽しかった。エルフ達は、自分達で考えなが
ら、どんどん強くなっていく。ミカルドも真剣に勝負しているおかげで、実戦形式
で強くなっている。純粋に、力を追い求める姿が、そこにはあった。
「だが、まだ甘い!」
 ミカルドは、掌抵でエルザードを弾き飛ばす。エルザードは、風の刃を守りに使
って、それを何とか凌ぐ。しかし、防ぎ切れた訳でも無く、少し血を吐いた。
「強い・・・。だが、そうでなくては、訓練にならぬ!」
 エルザードは、自らが強くなっているのを実感する。
「勝負をかける!」
 エルザードは、自らの魔力を極限まで高めると、両手にそれを集める。そして、
その塊を、全て左手に持っていく。そして、それを大きな風の刃に変えて、ミカル
ドに対して振り下ろす!
「また風の刃か!芸が無いぜ!」
 ミカルドは、それを受け止めようとする。しかし驚いた事に、エルザードは右手
で、闘気による闘気の刃を作り上げていた。それを横薙ぎにする!
 ズバァァァァァ!!
 手ごたえあった。エルザードは、持てる力を、全部出し切った。エルザードは、
何と左手で魔力による風の刃を作り上げて、右手で闘気の刃を作る事で、十字に斬
る事を可能にしたのである。その威力は、計り知れなかった。そして、それを実行
するだけのセンスとバランスは、並大抵の物では無かった。
「くっ!!」
 ミカルドの胸が、十字に裂けていた。と言っても、咄嗟に胸に、全ての瘴気を防
御に集中したおかげか、拳大くらいの傷で済んでいた。
「やるじゃねぇか。さすがだな。」
 ミカルドは、燃えるような瘴気を放っていた。
「・・・参った。私の全ての力を出し尽くして、その程度の傷じゃ勝ち目は無い。」
 エルザードは、負けを認める。それはエルフ全体も同意であった。しかし、皆、
ミカルドに傷を付けられるまでに、成長していた。
「まぁ今日は、ここまでにすっか。中々ためになったぜ。」
「ふう。礼を言おう。傷は大丈夫か?」
 エルザードは、自分が付けてしまった傷を気にする。
「フッ。魔族は、傷の治りが早いのを知っているだろう?明日になったら、もう万
全になる。気にする事は無い。」
 ミカルドは、ニヤリと笑うと、修練場を出て行く。確かに、いつもミカルドは、
次の日に、何事も無かったように出てくる。魔族の治癒の力を思い知ってしまう。
「あの男は、本当に強いな・・・。」
 エルザードは、感心していた。それと共に、心強さも感じていた。これほどまで
に、協力してくれれば、いつかミライタルにも、追いつく事が出来るだろう。
 ミカルドは、既に自分の住処を借り切っていた。エルザードが、いつまでも居候
じゃ失礼だと言う事で、作ってもらったのだ。居心地は、そんなに悪くない。
 その住処に着く。
「・・・誰だ?」
 ミカルドは、玄関先に気配がしたので、睨み付ける。そこに居たのは、リーアだ
った。人間の姿をしているのは、他に居ない。
「何の用だ?」
 ミカルドは、かったるそうに話す。
「エルフを強くしてくれるなんて、魔族らしくないわ。」
 リーアは、あまり意見を隠さない。フェアリーは、弱気な種族なのに珍しい事だ。
「どうやったら、魔族らしいんだ?」
 ミカルドは、苦笑する。どうも、エルフや他のフェアリーは認めてくれるのに、
この少女だけは、中々認めてくれないのだ。
「魔族は、嘘も言うのね?」
 リーアは、目を伏せる。
「おいおい。俺は、本気で鍛える気だぜ?」
 ミカルドは、その言葉に偽りは無かった。この頃、毎日が楽しい。ジーク達が、
どこかでレベルアップするのも感じるし、このエルフ達も、自分を信用して強くな
っていく。強さを目指すミカルドにとって、これほどの充実は無いのだ。
「その事じゃない。」
 リーアは、そう言うと、近寄ってきてミカルドの腕の辺りに、魔力を当てる。
「・・・!!」
 ミカルドは少し顔を顰めたが、平然なフリをしていた。
「ほら・・・。もう隠せないじゃない!!」
 リーアは指摘する。そう。ミカルドは、エルザードに嘘を吐いていた。魔族の治
癒能力が高いのは本当だが、こんな一日二日で全てが治るような体であれば、神に
すら勝っている事だろう。本当は、治っていなかったのだ。それを無理して、魔力
でコーティングして隠していたのだ。
「こんな魔力で痛がるなんて、尋常じゃないわ!」
 リーアは、心配していたのである。無理をしていた自分の人間の時の、祖父を思
い出してしまう。自分に心配を掛けさせまいとして、無理をしてた祖父をである。
「・・・いつから気が付いた?」
 ミカルドは、冷や汗を隠しながらも質問する。
「この頃よ。自然治癒している人が、夜中に、あんな呻き声は上げないわ。」
 リーアは、ミカルドの近くに住処を建てていたので、気が付いたのである。
「俺とした事が・・・。そんな声を上げていたとはな。」
 ミカルドは悔しがる。プライドの高い男なので、皆には見せたく無かったのだ。
「すぐに回復魔法に長けてる人を、連れてくるべきよ!」
 リーアは、ミカルドが心配だったのである。魔族とは言え、これほど尽くしてく
れる人を怪しむ訳が無かった。我慢しているのが、目に見えていたので、見ていら
れなかっただけなのである。
「・・・止めろ。」
 ミカルドは、リーアの手を引くと座らせる。
「何言ってるのよ。貴方、かなりの重症のはずよ?今日だって、胸が裂けてるじゃ
ない!こんな事続けてたら、魔族だって、もたないわよ!」
 リーアは、泣きそうな顔をしていた。
「・・・そんな顔をするな。俺は今、生き甲斐を感じているんだ。頼むから、黙っ
ててくれ。」
 ミカルドは、真摯な目をしていた。
「何で、そこまでするの?」
 リーアは、不思議でならなかった。ここまで尽くしてくれるのは、只事ではない。
「お前達は、まだ俺の親父の恐ろしさを知らない。」
 ミカルドは真剣だった。クラーデスの事だろう。
「親父はな。表こそ強さを求める、純粋な魔王だ。だが、俺は知っている。強くな
るためには、手段を選ばない。今の内に、倒せるだけの力を持たなくては、絶対に
手遅れになる。ここの住処が、俺は気に入った。滅ぼさせたく無いんだ。」
 ミカルドはクラーデスの事を語る。ミカルドは見た事があるのだ。クラーデスは、
強さを追い求める余りに、アルスォーンの母を一撃の下に貫いて、殺しているのを
だ。その時は丁度、魔界に魔族の胎児を掴み取れば、強くなれるというデマが流れ
た事がある。何とクラーデスは、妊娠していたアルスォーンの母のお腹から、胎児
を掴み取ろうとしていたのである。
 その光景を、ミカルドは見てしまった。クラーデスの強さへの執着は、並みの物
では無いのだ。結局、その事件はアルスォーンの母が、そのデマを信じて狂ってし
まったと言う事で、片付けられたが、ミカルドは、その光景を忘れはしなかった。
 その話をすると、さすがのリーアも黙ってしまった。
「恐ろしいだろう?俺は、一歩も退く事は出来ないんだ。」
 ミカルドは、リーアを説得する。
「信じられない・・・。その胎児が、可哀想・・・。」
 リーアは、ついに泣いてしまった。
「お前は、優しい奴だな・・・。恐怖より先に、それか・・・。」
 ミカルドは、つい優しい目をしてしまう。自分は、魔族に向いてないんだと、つ
くづく思う。ミカルドは、その事件以来、魔族である自分を呪い続けていた。何よ
り自分が、そのクラーデスの息子だと言う事を忌み嫌っていた。だが、ミカルドの
能力は、一番高かったので、クラーデスが目を掛けていたのだ。それが故に、騙し
つつも、自分は魔族のエリートである事を、演じ続けてきた。しかし、ガグルドの
時は、つい自分が出てしまった。卑怯なやり方をしたガグルドは、クラーデスと同
じ目をしていた。その時に、自分が思うよりも早く手が動いてしまっていたのだ。
 その事をリーアに告げると、リーアは納得してしまう。このミカルドは、魔族で
いるには、優し過ぎるのだ。それに今までの行動にも、納得が出来た。
「俺には、呪われた血が入っている。そして、その強さを受け継いでいる。だが、
その強さが、これほど役に立つのなら、俺は自分の体を惜しくない。」
 ミカルドは、静かに話す。しかし、決意に満ち溢れていた。
「分かった・・・。皆には言わない。」
 リーアは、ミカルドの意志を尊重したいと思った。
「でも、私の回復魔法くらい受けて。」
 リーアは、そう言うとフェアリーの姿になって、魔力を癒しの方向に使う。ミカ
ルドは、最初こそ拒もうとしたが、諦めて受け入れた。
「・・・。これが回復魔法か・・・。良い物だな。」
 ミカルドは、今まで激痛を感じていた所が、和らいで行くのを感じた。魔族は、
どうしても、自分の自己治癒能力に頼ってしまうため、治癒魔法は苦手なのだ。
「これからは、私には、無理をしないで言って。見てられないわ。」
 リーアは涙を拭うと、笑って見せた。
「これで、明日からも、無理が出来ると言うものだ。」
 ミカルドは、ニヤリと笑う。
「もう。私の仕事を増やさないでよ?」
 リーアは軽口を叩いた。しかし、このミカルドと言う魔族に、惹かれている自分
を感じた。それも良いと思っている。
 心地よい風が舞う時、魔族も妖精も、心地良さを感じるのであった。



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