6、組織  俺は、甘くなっただろうか?  昔の俺なら、容赦無く、全員の首を刎ねただろう。  しかし、シティの高級住宅街で、騒ぎを起こしては、いけない。  それに、これ以上、無駄な血は避けたい。  そう思ったからだろうか?  俺には、首を刎ねる事が出来なかった。  多分、皆が驚いた事だろう。  あの時、俺が『オプティカル』の面々を醒めた眼で見てた時・・・。  皆は、俺が『処理』してしまうだろうと、思っていただろうな。  俺は、敵に容赦した事が無かったからな。  特に、ショアンに対して、奴等は許せぬ事をした。  だから、余計に、俺は、容赦しないだろうと思っていたらしい。  だが、俺は、センリンの時の事を思い出していた。  あの時は、逆上して、我を失いながら、助けようとした。  その結果は、どうだったか?  見るも無残な結果だった・・・。  あの過ちを、繰り返しちゃならない。  だから、冷静になったんだ・・・。  アイツ等を殺して、送り返した所で、新たな火種を生むだけだ。  ならば、強い誓約の紋章を掛けて、こちらに手を出させない事が、大事だ。  そう考えた時、勝手に体が動いたのだ。  後は、ショアンが、元気になってくれれば・・・。  そればかりは、俺の手では、どうにもならない。  俺達は、ハイム家の医務室の前で佇む。 「ウチ、悔しい・・・。こんな時に何も出来ないなんてさ。ウチのせいなのに。」  アスカは、自分が買出しに出掛けたせいだと、思っている。 「姐さん。それは違うぜ。アイツ等は、見張ってやがったんだ。姐さんが、行動を 起こせば、いつでも連れ戻そうと考えてな。そんなの、姐さんのせいじゃないよ。」  ジャンは、優しく手を握ってやる。少しは成長しているな。 「ジャンさんの言う通りだヨ。だから、弱気になっちゃ駄目だヨ。ショアンさんは、 絶対助かル!そう信じる事が、私達に出来る事だヨ!」  センリンは、何も出来ないと言う事は無いと、教えてやる。 「アランを、信じてやってくれ。あれでも、医師の免許は持ってるんだ。」  ゼハーンは、アランを信じろと言う。あの執事、医師の免許まで持ってるのか。 「気にし過ぎは、体に毒だ。ま、アイツの事だ。無事な顔を見せてくれるさ。」  俺も、アスカの肩を叩いてやる。このお嬢さんは、どうにも弱気になる事が多い からな。気が強そうに見えて、一番弱気なんだから不思議な物だ。 「うん。ウチ、信じる!ショアンさんも、アランさんも、皆も!」  アスカは、そう言うと、必死に祈り始める。純粋な、お嬢さんだな。この純粋さ に、ジャンも惹かれたんだろうけど・・・。  そうこうしてる内に、医務室の扉が開かれる。アランが出て来た。 「アラン。ショアンの様子は、どうか?」  ゼハーンが、真っ先に尋ねる。 「足の傷が酷かったので、縫合致しました。他の打撲などは、後遺症などは残らぬ ようです。ショアン様は、信じ難い体力をお持ちのようです。」  アランは、足の傷が酷いだけで、後は、何とかなりそうだと言う、見解を述べる。 「命の別状は、御座いません。」  アランの言葉に、皆が、溜め息を吐く。安心したのだろう。 「アランさん、ウチ、感謝で、言葉も出ないよ!」  アスカは、アランの手を握って、感謝の礼を述べる。 「アスカ様。お優しいのですね。でも、私よりも、皆様の祈りが届いたに違いない と、私は思います。」  アランは、優しい目でアスカを見る。それは、娘を見るような目だった。 「息苦しくしている途中、ショアン様の体が、少し発光しておりました。そして、 傷が塞がった様に、私には見えました。皆様の祈りが、届いたのですよ。」  アランには、不思議な出来事だったのだろう。 「奴は、簡単にくたばる様な、柔な奴じゃないさ。」  俺は、口ではそう言ったが、安堵していた。 (素直じゃないな。喜びを示せば良かろうに。)  煩い。俺のキャラじゃないんだ。これくらいで良いんだよ。 (人間とは、不便な物だな。)  ああ。不便だ。でも、その不便さを楽しむ余裕が、必要なのさ。  ショアンは、安静が必要だと言う。だから、病院に連れて行く事も考えたが、こ の辺の病院は、『スピリット』の息が掛かった病院が多く、却って危険だと言うの で、ここで療養する事になった。  俺達は、客間で寛ぐ。これから、やる事を確認しなくては、ならない。 「ショアンは、療養中だ。アランは、ショアンを診てくれると言う。」  俺は、現状を確認する。ショアンの事は気掛かりだが、アランに任せる事にする。 「私達は、今でこそ、ここに居るけど、いずれ、出なきゃならないネ。」  センリンも分かっていた。ここは、本住まいをする場所じゃないのだ。 「アランは、構わぬと言うだろう。が、ここに居れば、私の事もバレる。」  ゼハーンは、ここに俺達が滞在する事には、反対は無い。だが、自分が居る事で、 セントに、いずれバレるのが、懸念事項のようだ。 「お尋ね者だもんねぇ。オレ等。」  ジャンは、そう言いつつも、嬉しそうだ。 「ウチ、あの組織に居る位なら、お尋ね者の方が良いよ。」  アスカは、『オプティカル』と完全に決別したようだ。 「で、一応聞いてみようと思ってな。」  俺は、本題に入る。是非、聞かなければならない事だった。 「セントを、出る覚悟はあるか?」  俺は、皆に問い掛ける。セントの元老院に睨まれたって事は、いつ、何処で狙わ れるか、分からない。やはり、セントを出ねばならない。 「そろそろ潮時かな?って思ってたぜ。オレは。」  ジャンは、覚悟を決めた目をしている。 「セントの中は、どこか、狭苦しいんだよな。『自由』を感じねぇんだ。」  ジャンは、久し振りに『自由』と言う言葉を口にする。 「ジャン・・・。その『自由』に、ウチは・・・入ってるよね?」  アスカは、不安なようだ。ジャンが、何処かへ行ってしまうと思ってるのか? 「・・・姐さん。不安だったかい?」  ジャンは、そう言うと、アスカを抱き締めてやる。 「オレは、組織に居た時、姐さんから迫られる度に、『自由』って言葉で逃げてた から、不安なんだろ?」  ジャンは、分かっていたみたいだ。自分が逃げていたと言う事実。それが、アス カの不安を煽っていた事をだ。 「でも、姐さん、アンタは、オレの生涯の女だって決めたんだ。もう、姐さんが嫌 だって言ったって、離すもんかよ!!」  ジャンは、アスカの頭を抱きながら、答える。本気だな。あれは。 「ジャン、ジャンー!!ウチ、駄目だ!嬉しくて、前が見えないよ。」  アスカは、念願が叶ったと言う感じに、泣きじゃくっていた。 「姐さん。今なら、婚姻届、書いてやれるぜ?」  ジャンは、悪戯っぽく答える。 「馬鹿!もう、そんなの、要らないよ!」  そう。アスカも悟ったのだ。婚姻届のような形など無くても、ジャンの心が伝わ ってくる。だから、そんな物が無くたって、構わないのだ。 「良かったな。アスカ。そして、ジャン。・・・頑張るんだぞ!」  ゼハーンは、祝福の言葉を述べる。 「ジャンさン。格好良かったヨ!そして、アスカ!おめでとうだヨ!」  センリンも、涙を流しながら、祝福してやる。 「決めやがったな。ジャン。俺達は、今の言葉を忘れないから、アスカを幸せにし てやるんだぞ?反故にしたら、只じゃ置かんぞ?」  ま、俺も祝福してやるさ。珍しく本気だからな。アイツ。 「・・・良かった・・・。幸せに・・・で、御座・・・る。」  ・・・!?この声は、ショアン!! 「ショアン様!!まだ、安静にしてなきゃ駄目です!」  アランの声が聞こえる。アイツ、アランの制止を振り切って、祝福を述べやがっ た。全く、融通の利かない奴だ。 「ショアン・・・。アランを困らすな。全く・・・。」  ゼハーンは、呆れている。まぁ俺も、呆れ気味だ。  ショアンは、アランに連れられて、また寝床に戻ったようだ。 「も、申し訳御座いません・・・。ジャン様の決意が、聞こえた辺りから、ショア ン様が突然、起き上がりまして・・・。お止めしたのですが・・・。」  アランは、本当に申し訳無さそうに、土下座をしている。 「気にするな。あの男が悪い。引き続き、診てやってくれ。」  ゼハーンは、溜め息を吐いて、アランを労う。まぁ、気持ちは分かるな。 「はい。・・・ジャン様、アスカ様、不肖ながら、この私も、ご祝福致します。末 永く、幸あらん事を!」  アランまで、祝福を述べる。この幸せ者共め。 「ま、一段落着いたか。・・・だが、祝福ムードを、ぶち壊して悪いが、やらにゃ ならん事もある。それを整理しよう。」  俺は、気を引き締めて、皆を見る。そう。やらねばならない事がある。 「『ダークネス』の事だな?厄介な奴等だな。」  ゼハーンは、頭を抱える。『ダークネス』の事については、キッチリ片を付けな きゃならない。このまま去る訳には、いかない。  その時、俺の携帯電話が鳴った。・・・誰だ? 「・・・アイツか。」  俺が親しくしていた情報屋からだ。 「もしもし?」 『久し振り。旦那。』  この声は、確かに、あの情報屋の声だ。 「どうした?」 『小耳に挟んだ話が、ありましてね。』  こう言う事を、臭わせるって事は、情報をやるから、金を払えと言っているのだ ろう。分かり易い奴だ。 「フゥ・・・。いくらだ?」 『さっすが旦那。今回は、緊急で確定情報だから、1万ゴードでどうです?』  ・・・1万か。結構高いな。しかも確定情報と来た物だ。重要な情報だな。 「いつもの口座で良いか?」  俺は、払う事にした。幸い、まだ人斬り関連の資金は残っている。 『毎度。旦那が、仕事辞めちゃったのは、知ってるからさ。多分、これが最後だと 思ってる。完全な俺の善意さ。』  情報屋は、縁の切れた人斬りに、普通は、相手をしない。なのに電話をくれたっ てのは、完全に善意なのだろう。 「最後の金が取れると思ったからだろ?」 『それもありますけどね。で、旦那。マークされてたでしょ?』  情報屋は、本当に耳が早い。俺達が『オプティカル』の連中にマークされてたの を、知っていたみたいだ。 「耳が早いな。もう撃退した後だ。」 『さすが、旦那。で、何でアイツ等が、旦那達の場所を知ってたか、知りたくあり ません?』  ・・・そこまで分かっているのか。しょうがない。俺は、センリンに合図をする。 すると、センリンは、携帯で口座振込みをする。言われた通り、1万ゴードを支払 った。こうして処理した方が早くて助かる。 「入れたぞ。確認しろ。」 『・・・さすが太っ腹。・・・まぁ、極秘ですよ?』  情報屋は、慎重になっている。 『・・・実は、『根暗』が、『光源』に情報を流したって話でね。』  なる程。隠語で隠してあるが、『ダークネス』が『オプティカル』に情報を流し たって事か。良い度胸じゃねぇか。 『で、『根暗』のボスが、『老人』の一味だって話です。』  やはり『ダークネス』のボスは、『元老院』の一人だって事か。 「分かった。気を付ける事にする。」  俺は、情報屋に礼を言っておく。 『旦那。『根暗』は、本気で、アンタ等を狙ってる。気を付けな。』  情報屋は、一言付け加える。利用する側、される側の関係だったってのに、随分 と心配された物だ。 「黙ってやられる俺達じゃない。安心しろ。」  俺は、そう言うと、電話越しで、安心したのか、情報屋からの電話が切れる。 「士、情報屋からなノ?」  センリンは、俺と情報屋のやり取りを、いつも聞いてるので、すぐに気付いたよ うだ。まぁ、口座に振り込む時に気が付いたかな? 「ああ。『オプティカル』に、俺達の情報を渡したのは、『ダークネス』だって話 だ。・・・それと、『ダークネス』のボスは『元老院』の一人だって情報だった。」  俺は、皆に伝える。確かに『オプティカル』の動きは早かったしな。 「やはり、『ダークネス』に行かねばならんな。」  ゼハーンは、これからの事を考えているようだ。 「これだけ、虚仮にしてくれたんだ。只で済まそうなんて、思っちゃいねぇ。」  俺は、『ダークネス』とは因縁が深い。そろそろケリを付けるべきだ。 「このセントでの、最後の仕事ネ。派手にやろうヨ!今度こそ・・・ネ!」  センリンは、メトロタワーでの失敗を、今度こそ、取り戻そうとしている。そう だ。俺も、そのつもりだ。 「我等が狙われる理由、今度こそ、分かる・・・か。」  ゼハーンは、この前のメトロタワーでは、余り情報が聞けなかったので、今度こ そ、狙われる理由を調べるつもりみたいだな。 「ウチを、ハメようとした連中は、さすがに許さないよ!」  アスカは、『オプティカル』に連れ戻されそうだった。アスカの居場所を流した のが、『ダークネス』なら、許す訳には行かないのだろう。 「オレも、因縁が深いね。『ダークネス』の奴等、調子に乗ってるし、いっちょ暴 れるか!セントでの最後のお仕事ってね!」  ジャンは、本気の目だった。『ダークネス』と『オプティカル』に翻弄されてき たので、好い加減、決着を着けるつもりなのだろう。  すると、医務室の扉が開かれる。 「旦那様。『ダークネス』に行かれるのは、本当ですか?」  中から出て来たアランが、尋ねてきた。聞こえてたのか。 「ああ。そろそろ堪忍袋の緒が切れそうなのでな。」  ゼハーンは、当然と言った風に返す。アランも、『ダークネス』の事は、知って いるようだな。 「ショアン様が、これを渡してくれと・・・。」  アランは、紙切れをゼハーンに渡す。アイツ、また、無理して起き上がったのか。 「・・・この住所は?もしや・・・。」  どうやら、住所が書かれているようだ。俺は覗き込む。 「これは、『ダークネス』のスラム第2支部の住所だな。」  俺は、有名な支部なので思い出す。スラム地区を統括している、結構大きめの支 部だ。俺が居た頃も、有名だった支部だ。 「ここに『創』が居るに違いないと、申しておりました。」  アランは、ショアンの伝言を伝える。ショアンの奴、思い出したくも無い『ダー クネス』の情報を思い出して、しかも無理して、こんなメモを書いて・・・。 「今度こそ休めって、言って置いてくれ。」  俺は、ショアンが無理するのを見てられない。全く困った奴だ。 「こっちが心配しちゃうヨ。」  センリンも、呆れている。ショアンは、無理し過ぎなんだよな。 「旦那様。とうとう大旦那様の仇討ちに、出掛けるのですね。」  アランは、目を閉じる。大旦那様?って事は、ゼハーンの親父さんか? 「無論、そのつもりもある。だが、そっちよりも、このセントでの最後の仕事を片 付けたいって気持ちの方が上だ。」  ゼハーンは、当然のように言う。 「ゼハーンの親父さんは、『ダークネス』に殺されたのか?」  俺は、尋ねてみる。確か、20年以上前に死んだって聞いている。 「大旦那様は、22年前に、『鏡』と申される当時14歳の人斬りに、殺されまし た。・・・大旦那様は、我等が出掛けている隙に、殺されたのです。」  アランは、珍しく感情を出す。余程、悔しかったんだな。 「私は、母親が10の時に病気で死んでしまったのでな。定期的に墓の掃除に行っ てたのだが、その、墓の掃除の隙に、『鏡』は来たらしい。」  ゼハーンも、大変な人生を歩んでいるようだな。 「それにしても、『鏡』って事は、奴か。全く、因縁が深いな。」  俺にとっても、センリンにとっても、忘れられない相手だ。『ダークネス』の大 幹部、『鏡』のアリアス=ミラー。アイツは、俺にセンリンを殺すように命じた男 で、センリンの両親の仇だ。 「やっぱり、セントを去る前に、清算しなきゃ駄目だネ。」  センリンも、俺も、そしてゼハーンも・・・。『ダークネス』には煮え湯を飲ま されいてる。最も、俺は、『ダークネス』にも煮え湯を飲ませているけどな。 「場所も分かったし、派手にやってやろうぜ。派手にな!」  俺は、『ダークネス』を潰す。そして、これが、セントでの最後の仕事だ。  全てを清算するために、『ダークネス』に向かう事を決めた。  思えば、『ダークネス』は、全てに関わっていた。  私は、両親を殺された時から。  士は、『ダークネス』の命令に反した時から。  ゼハーンさんは、父親を殺された時からだと知った。  ショアンさんは、『ダークネス』を抜けた時から。  ジャンさんと、アスカは、『オプティカル』として、対決して・・・。  これから、セントを抜けて生活するにしても・・・。  『ダークネス』を、そのままにはして置けない。  例え、『ダークネス』を潰したとしても・・・。  『オプティカル』『スピリット』が、後を引き継ぐだけだろう。  それは、分かっている。  しかし、『ダークネス』を、そのままにすれば、後悔する事になる。  だから、潰すのだ。  全てを清算して、次の生活をするために。  私達は、スラムの中に入った。  スラム・・・。セントの中でも、極めて治安の悪い地域。階級の低い者達が住み、 独自の文化を作り上げた、この地域は、スラムの人々以外の人は、中々近付かない。 私達も、実際に入ったのは、初めてだ。  いつもの格好では、目立つし、目を付けられてしまう。なので、スラムの人々に 合わせて、ボロのフードと、ボロのジャンパーを羽織っていく事にした。  しかし、本当に独特だ。道行く人は、今時、カセットプレーヤーを手に、踊りを 踊っている者も居る。路地裏に入ると、何が起こるか分からないような雰囲気を持 っている。警察も、居るか居ないのか、分からない。これは治安が悪い筈だ。  周りを警戒しながら進む。いつ、何をされるか分からない雰囲気が、漂っている。 これが、セントの中なのか?と思ってしまう。  これは、住所を書いてくれたショアンさんに、感謝だ。こんな中、聞き込みをす ると言うのは、危なっかしくて、しょうがない。  住所に近付くと、人混みも、疎らになってきた。いくらスラムの人間と言えど、 『ダークネス』に逆らう事は、しないのだろう。そして、ここに、『ダークネス』 が出入りしてると、分かっているのだろう。そんな所に、突入しようと言うのだか ら、私達も、物騒なんだろうな。  ショアンさんの話では、『ダークネス』のボスである『創』は、奥の部屋に出入 りしていると言う。スラム第2支部は、軽い要塞のような形をしていて、『創』は、 敷地内の建物の、どこかに潜んでいると言う。 「・・・さて、ジャン、アスカ、東側は頼んだぞ。」  士は、指示を出す。東側は、予備人員が詰め所にしているとの情報だ。とは言え、 『ダークネス』の支部だけに、結構な数が居る。油断は出来ない。 「合点承知。士さんこそ、気を付けろよ。恐らく、アイツが居るぜ。」  ジャンさんは、士の心配をする。アイツとは、私を襲おうとした、『荒神』だろ う。噂では、私達のせいで、下っ端に落とされたのだが、元々結構な腕前である為、 この支部で、警護をしている可能性が高いと、ショアンさんは、言っていた。 「士。奴の相手は、私に任せろ。奴も、それを望んでいる筈だ。」  ゼハーンさんが、任せろと言う。確かに、『荒神』は、ゼハーンさんの事を、恨 んでいる筈だ。彼が、任務に失敗したのは、ゼハーンさんのせいだからね。 「余計な心配かも知れんが、気を付けろよ。何をしてくるか分からんぞ。アイツは。」  士は、心配していた。『荒神』は、今度こそ、形振り構わず、攻撃してくるから だろう。かなりの腕で、有名になった人斬りだ。油断は禁物だろう。 「分かっている。・・・お互い、これがある限り、頑張れるだろう?」  ゼハーンさんは、ミサンガを見せる。そうだ。これが、私達の絆だ。 「ウチの両親も、『ダークネス』に殺されたからね。派手にやるよ!」  アスカも気合が入っているようだ。そうだ。アスカの両親も『ダークネス』に殺 されたんだった。碌な関り合いが無いね。 「姐さんのため、そして、これに為にも、いっちょ頑張るかな。」  ジャンさんは、ミサンガを見せて、気合を入れる。 「セントでの生活の締めだ。悔いが無いように、やるぞ!」  ゼハーンさんも、これが、セントでの最後の戦いだと思っている。 「これ以上、『ダークネス』は、放って置けないヨ。これまでの修行の成果、見せ てあげるネ。」  私は、ここで、今までの修行の成果を見せようと思った。そうだ。こう言う時の 為に、修行をしたんだ。 「ショアンが待っている。奴の願いを無駄には、しない。やるぞ!!」  士が締める。そうだ。ショアンさんの為にも、この戦い、負けられない!  父親の仇か・・・。  当時は、悔しかった物だがな。  今となっては、余り気にしなくなってしまっていた。  だが、アランは、ずっと気にしていたんだな。  私は、ずっとレイクの事ばかり気にしてたからな。  そのせいも、あるかも知れない。  しかし、ここまで来たからには、仇を取らせてもらおう。  最も、『鏡』と対峙するのは、誰か分からんがな。  その前に私が相手するのは、あの非道だ。  あのような者を、野放しには出来ない。  何やら、私に対して、恨みがあるような事を言っていたが・・・。  勘違い甚だしい。  これまで、奴は、どれ程の人の恨みを買っていたと言うのか。  それに比べれば、奴の恨みなど、生温い。  それに、私が受けるべき恨みは、もっと深い物だ。  残念だが、それに比べれば、奴の恨みなど、軽いと言わざるを得ない。  私が・・・引導を渡してやる!!  早速、突入を掛けた。見張りは、士が針を飛ばして、動けなくした後、私とジャ ンで、手早く縛り上げた。そして、それと同時に、アスカとセンリンが、静かに忍 び込んで、近くの建物に、用意していたダイナマイトを仕掛ける。  ゴォォォォォォ!!!  物凄い音と共に、近くの建物が、吹き飛ばされる。最も、これは狼煙だ。  建物から避難した『ダークネス』の面々を、ジャンとアスカが、襲い掛かる。東 は、任せて良さそうだな。私は、西の本体の方へと向かう。 「貴様等、ここが何処だと・・・!」  対峙した『ダークネス』の者共を、一刀に斬り伏せる。時間は有効に使わなくて はな。士も、見事な腕前で斬り伏せる。  ・・・結構な人数だ。これは、『創』が居る可能性が高いな。  西の建物から、囲むように『ダークネス』の奴等が現れる。 「悪いが、眠ってもらおう。」  私は、『魂流』のルールを発動させる。 「何言ってやがる!この数を抜けられると思うなよ!」  そう言って、襲い掛かってきた奴の斬りを、私は避ける。そして、間髪入れずに 腕を掴む。そして、『魂流』のルールを発動させる。 「うああああ!!」  ソイツは、目を白黒させながら、意識を失う。私の中に、魂の力が宿るのを感じ た。いつもながら、恐ろしい『ルール』だ。  そして、士を見ると、センリンと背中合わせに先へと進んでいく。二人共、集中 しているな。次々襲い掛かってくる敵を、センリンは、棒と『念力』のルールで、 更に棒を増やしながら、闘っている。上手い使い方だ。  士も、今回は容赦が無い。殺気を存分に放って、一人目の首を、一刀で刎ねると、 二人目は、回し蹴りで気絶させる。そして、3人目は、返す刀で腕を斬り捨てた。  さすがだな。そうだ。私達は、こんな所で負けられない。やがて、西の建物から、 誰も出て来なくなった。 「ここまでか?・・・む!!」  私は、急に建物から、噴出すような殺気を感じる。 「ぬがああ!!」  ソイツは、私に一直線に突っ込んできた。  ガキィン!!  私は、ソイツの剣を真正面から受け止める。 「・・・貴様、『荒神』か!」  私は、見知った顔が出て来たのを感じた。 「てめぇの顔は、忘れなかったぜぇ・・・。」  歯を剥きだしにして、私を睨む。相当、恨みを募らせているようだな。 「私は、忘れたいな。貴様の顔など、覚えたくも無い。」  私は、奴の力を受け流すようにして、弾き飛ばす。 「忘れさせなくしてやる!!」  『荒神』は、目が血走っている。 「ゼハーン!」  士は、心配していた。 「行け!私も後で行く!」  私は、コイツの相手をした後に行くと伝える。 「・・・無茶すんなよ!」  士とセンリンは、奥へと進んでいく。・・・よし。コイツに集中するか。 「余裕だなぁ?この『荒神』を相手に、後で追いかける。だぁ?」  『荒神』は、私の言葉が、気に入らなかったようだ。 「降格した貴様など、怖くは無い。」  私は挑発する。この男は、冷静にさせない方が良い。 「一々、癇に障る野郎だ!!!」  『荒神』は、力に任せて斬りに掛かる。だが、甘い。最初の袈裟斬りは、剣の背 で受け止めて、次の横斬りは、縦斬りで、弾き返す。突きは、体を捻る事で躱し、 その後の上段斬りは、刃を回転させる事で、弾いた。 「・・・てめぇ。強いな・・・。」  『荒神』は、残念ながら、冷静になったようだ。私の強さを感じ取ったのか。 「・・・俺だけの強さじゃ勝てねぇな・・・。」  『荒神』は、何かを取り出して飲む。何だアレは? 「・・・キヒヒヒヒ!!キッターーーーー!」  何だ!?いきなり奇声を上げたぞ・・・。 「これを飲むとなぁ・・・!覚醒するんだよ!!」  覚醒?何の事だ!? 「覚醒、発動!!!」  !!これは、『ルール』!?ならば、『防御』するか!・・・危なかった。気が 付くのが遅れれば、『ルール』の力をまともに受ける所だった。 「覚醒の力を受けて、動けるとは・・・。てめぇ・・・。」  コイツ、『ルール』の事を知らぬのか。恐ろしいな。 「おっかしいなぁ。確か、試した時は・・・。」  『荒神』は、近くに居た気絶している『ダークネス』の者の手を掴む。 「ボン!!」  『荒神』が掛け声を上げると、掴まれた者の体が、膨張していく。ば、馬鹿な!!  ブシィィィ!!  変な音が鳴って、やがて、人の体が、風船のように破裂した。何と恐ろしい『ル ール』だ。こんな『ルール』に目覚めていようとは・・・。 「キヒャヒャヒャヒャ!!!こうなる筈だったのになぁ!?ま、まだ慣れてないか らな。直接触れば、何とかなるかなぁ??」  『荒神』は、狂気の目を、こちらに向けてくる。 「この外道が!!」  私は、何の躊躇いも無く、あの力を使う『荒神』が許せなかった。人の体など、 何とも思ってない証拠だ。 (酷い・・・。人間を何だと思っているの?あの人・・・。)  清芽殿。彼は、もう人間では無い。化け物だ。 「お前も、膨れろよ!!」  『荒神』は、陸上の選手のように、走ってこちらに向かってきた。早い!どうし てだ?・・・そうか!自分の体も、多少膨れさせて、ストライドを大きくしている のか!使いこなしているな! 「チッ!!」  私は、いざと言う時の為の煙幕を取り出して、煙を放つ。  そして、その間に、ドラム缶の奥へと隠れる。まずは、動きを見切る・・・。 「どぉこぉへ、隠れやがったぁ!?」  『荒神』は、気に入らないのか、怒声を上げながら、周りを見渡す。 「ケッ!めんどくせぇ。」  『荒神』は、私が気絶させていた者の、襟首を掴むと、無造作にブン投げる。  ブシャアアアア!!  その者は、壁に到達する間に、どんどん体が膨れて、爆弾のように飛び散った。 「そこじゃねぇか。んじゃ、次はっと・・・。」  『荒神』は、容赦無く、次々と気絶した者を、ブン投げる。その度に、地獄が展 開される。投げる。飛び散る。投げる・・・。飛び散る・・・。 (あんな・・・酷い・・・。)  清芽殿・・・。あの者!!許せぬ!! 「貴様、もう止めろ!!!私はここだ!!」  私は、我慢出来なかった。地獄のような光景を見て、つい、血の絨毯を思い出し てしまった。 「てめぇが、悪いんだろぉ?逃げたりすっからよぉ?」  『荒神』は、口を曲げて答える。 「なら、もう逃げぬ。そして、容赦せぬ!!!!」  私は、『魂流』のルールを全開にする。 (ゼハーンさん。お優しい貴方は、いつも命を奪わないように手加減してましたね。 でも、あの人は、駄目です。人の心を失っています。)  清芽殿。私は、あの男を許せぬ。だから、ここで、奴を止める!! 「ヒィヒャヒャヒャ!!膨れろ!!」  『荒神』は、『膨張』のルールを全開にしてくる。  ・・・集中しろ・・・。集中するんだ!奴の魂の動きを見切れ! 「終わりだぁ!!」  『荒神』は、私の腕を掴もうとする。ここだ!! 「フン!セイィ!!」  私は、寸前で見切り、『荒神』の腕を捻りあげると、腕を逆に捻る。  ボキィ!!  嫌な音が鳴って、『荒神』の腕は折れた。 「ギャアアアアアア!!」  『荒神』の悲鳴が響き渡る。だが、ここで終わりにしない!! 「『魂流』のルール!!!」  私は、『荒神』の顔面を掴むと、『魂流』のルールで吸い取る。奴の魂の全てを 吸い取る。コイツは、野放しに出来ぬ!! 「てめぇ・・・。ふざけんな・・・!」  『荒神』は、力が無くなっていく。しかし、辛うじて私の脇腹に手が触れた。  ギリリ!!  脇腹の辺りが痛む。奴め。『膨張』のルールを使ったか。しかし、この程度の痛 みなら!!あの時の痛みに比べれば、耐えられる!! 「ヌゥン!!」  私は、『魂流』を緩める事無く、奴の魂を吸い続けた。 「あ・・・が・・・。」  『荒神』は、全てを吸い取られたのか、やがて、目が、死んだ魚のようになって いた。・・・分かっていた・・・。この力を全開にすれば、こうなると・・・。 (でも、この人は、こうするしか無かった。)  清芽殿。それでも、命は命だ。やはり、やり切れぬよ。 「ゼハーンさん!!」  後ろから、ジャンとアスカが来る。どうやら、全て片付いたようだ。 「無事だったか。」  私は、一息吐く。 「無事だったかじゃねぇよ!なんだよ!その傷!」  ジャンは、私の脇腹を見る。おっと。やはり少し破裂していたか。 「名誉の負傷だ。」  私は、おどけた様に言う。 「な、何言ってるの!早く、手当てしないと!!」  アスカは、傷口を見る。 「ここは、敵地だぞ。・・・仕方が無い。これに頼るか・・・。」  私は、使いたくないが、使わざるを得ないと感じたので、取り出す。 「何これ?」  ジャンは、不思議そうにしていた。 「年代物だがな。・・・『神聖薬』だ。」  私は、不気味な色をした液体の瓶を取り出す。 「伝記で聞いた事が無いか?アレと同様の物だ。」  説明してやる。伝記で、物凄く不味いと有名だった『神聖薬』だ。 「な、何で、そんな物持ってるんだ?」  ジャンはビックリする。まぁそうだろうな。 「アランが調合したのだよ。伝記の猿、スラート秘伝の書を読み漁って、私の為に 作ったのだ。2年前に出来たそうだ。それを、今朝、渡されたのだ。」  私は、要らぬと言ったのだが、アランは、どうしてもと聞かなかった。 「あの執事さん、本当に何でもするんだな。」  ジャンは、アランの勤勉さに舌を巻く。 「全く。出来た奴だよ。・・・さて・・・。」  私は、意を決して、『神聖薬』を一気に飲み干す。 「む・・・ぐぐぐぐぐ!!!!」  こ、これは不味い!!!何たる味!!まるで、ペンキでも口に含んでいるような 味だ。酷過ぎる!!! 「・・・あのゼハーンさんが、こんなに悶絶するなんて・・・。」  アスカが、怖い物でも見るように、こっちを見る。  しかし、物凄い不味さだが、脇腹の痛みが消えていくのが分かった。 「すっげぇ。本当に傷口が塞いでいくぞ。」  ジャンは、面白いのか、マジマジと見ている。 「・・・うぐぐ・・・。さぁ、合流しに行くぞ・・・。」  私は、不味さを我慢しながら、士の後を追うように促す。  出来れば、2度と飲みたくない代物では、あるな。  西の建物の中は、敵の本拠地だけあって、凄い数の敵が潜んでいた。だが、俺と センリンの前に敵は居ない。センリンの『念力』のルールは、本物だ。恐ろしく使 い勝手が良い。棒を突く、薙ぐ、そして、相手の動きを止めるなど、あらゆる動き が可能なのだ。場面場面によって使い分けが出来る。  一方の俺は、『索敵』のルールを使って、敵の虚を突く事が出来る。俺の『ルー ル』の前では、不意打ちなど不可能だ。  順調だ。だからこそ、何かが引っ掛かる。こんな簡単に攻略出来て良いのか?  まだ、何か重大な奴が居るのでは無いかと、疑ってしまう。  センリンは、一生懸命付いて来ている。だが、俺には、悪い予感がして堪らない。 何でだろうか?弱気になっているのか?俺は。 (いや、何かを感じ取っているのだろう?我にも、何かを感じる。だが、妙な感じ なのだ。どう言えば良いだろうか?妙に懐かしいと言う・・・。)  懐かしい?それも変な話だな。 (我にも分からぬ。何かがあるに違いない。)  まぁ良い。何があっても、進むしかないのは確かだ。  そして、俺達は、荘厳な感じがする扉を見つける。 「ここが、最奥かナ?」  センリンも、気配を感じ取っているようだ。 「・・・『索敵』のルール!」  俺は、『索敵』のルールを張り巡らせる。 「この中に、気配が1つ。・・・そして、そこに1つ!」  俺は、針を投げつける。すると、その針を、誰かが弾く。さすが『索敵』のルー ルだ。潜んでいても見付けられる。 「俺の気配に気が付くとは・・・。人間にしては、やるな。」  ・・・中々強そうな気配だ。 (この声・・・どこかで・・・。)  グロバス?知っているのか? 「この時代の人間は、歯応えが無かったからな。少しは楽しませろ。」  誰かが姿を現す。妙な言い方をするな・・・。この時代の人間だと? 「士、ここは二人デ・・・。」  センリンは、構えを取る。俺は、それを制す。 「待て。・・・センリン、コイツを倒すまで、柱に居ろ。」  俺は、何だか、嫌な予感がしていた。 「この扉の奥に入らぬのなら、手を出すつもりは無い。安心しろ。」  ソイツは、かなり大きな剣を取り出す。 (・・・ま、まさか!!)  分かったのか?コイツの正体が・・・。ソイツは、姿を晒す。 (や、やはり健蔵(けんぞう)!!何故ここに!?)  健蔵?まさか、伝記の砕魔(さいま) 健蔵か?アンタの部下だった・・・。 「恨みは無い。だが、ある御方の復活の為、ここを通す訳には行かぬ。」  健蔵は、不退転の決意を見せる。何だって、こんな事を・・・。  それに、健蔵とは、俺にも関り合いがあったな。だからか。嫌な予感がしたのは。 まさか、伝記の時代の使い手と、会う事になるとはな。 「アンタ、どうやって復活したんだ?」  俺は、健蔵に問い掛ける。 「・・・貴様、俺の正体を、知っているのか?・・・その問いには、答えられぬ。」  健蔵は警戒する。それはそうだ。初めて会う筈なのに、健蔵を知ってる自体おか しいのだ。 「まさか、俺の剣術の先祖に会うとはな・・・。」  俺は、剣を取り出す。そして、霊王剣術の構えを見せる。 「ほう。霊王剣術・・・。それで、俺の事を・・・。しかも、現代の使い手か。な る程。楽しめそうだな。」  健蔵は、嬉しそうに笑う。コイツから発する剣気は、相当な物だ。健蔵の事を知 っていた事実は、グロバスからだが、俺が、霊王剣術の使い手だからだと、受け取 ったようだ。 (健蔵が、このような者達に従っているとは・・・。)  アンタにとっては、ショックだろうな。まぁ理由は、あるんだろうぜ。 (話が、したいのだが・・・。)  ・・・アンタにとっては、可愛い部下だからか? (それもある・・・が、復活した理由も、聞き出したい。)  なる程な。良いだろう。無関係じゃないし、積もる話もあるだろう。 「どうした?剣を構えろ。ここを通りたいのだろう?」  健蔵は、既に剣を構えている。せっかちな奴め。 「焦るな。・・・アンタに話があるそうだ。コイツがな。」  俺は、自分の胸を指差す。 「士!まさか、変わるノ?」  センリンは、気が付いたようだ。そうだ。グロバスに変わる。 「どうしても・・・と、せがまれてな。全く俺も、お人好しだな。」  俺は、意識を集中させる。グロバス・・・。変わるぞ!!  ・・・  む。最近、スムーズに代われるようになったな。喜ばしき事だ。 「んな!この瘴気は・・・!ま、まさか!!」  健蔵は、驚いているようだな。まぁ仕方があるまい。 「久しいな。健蔵。まさか、このように時を越えて、会えるとはな。」  我は、健蔵に挨拶する。 「き、貴様!グロバス様の真似をして、何のつもりだ!!」  健蔵め。見当違いな事を言っておるな。 (まぁ、いきなりじゃ信じられぬだろうよ。)  そんな物か。しかし、健蔵は、我の瘴気を知っておる筈だがな。 「健蔵よ。我が瘴気を忘れたか?時を越えても、忘れぬと思ったがな。」  我は、健蔵やワイスは、信用していたのだがな。 「ほ、本当に、グロバス様・・・なのですか?」  健蔵は、未だに信じてないようだな。 「健蔵。我は、運命神の時を飛ばす技を食らって、この時代へ来たのだ。そして、 士と言う器を得て、ここに具現している。」  我は、説明してやる。こんな説明など無くとも、分かる物だが・・・。 「何と・・・。では、その人間に乗り移ったと?」  どうにも、健蔵は、まだ分かっておらぬようだな。 「そんな無粋な真似をする、我だと思うか?我と、この士は、協力関係にあるだけ だ。士の了承を得ない時は、具現化しようとは、思わぬわ。」  そうだ。ただ、肉体を乗っ取ったのでは、レイモスと変わらぬ。そんな愚かな事 をする訳が無い。 (俺も、完全に了承した訳じゃないんだがな・・・。)  そう言うな。ある程度は了承してくれてるでは、ないか。 「その人間と、共存関係にある・・・と言う事ですか?」  健蔵は、やっと理解したようだ。手間を掛けさせるな。 「では、『覇道』は、その人間と共に目指すのですか?」  『覇道』か・・・。健蔵は、諦められぬらしいな。 「健蔵。今のソクトアを見たか?共存を500年も続けて、踏み躙られ、セントの 支配が横行している、今のソクトアを、見たか?」  我は、今のソクトアの姿が正しいとは思えぬ。 「・・・はい。俺も、その一環で呼ばれました。俺は、『無』によって、斬られて 姿を失った身。意識は『無』へと流されました。しかし、俺を召喚した者は、『無』 によって散った者を、再生出来る能力の持ち主でした。」  何だと・・・?つまり、『無』によって倒された者だからこそ、召喚出来たとで も、言うのか?・・・そうか。ゼロマインドは、『無』の意識の集合体。有り得ぬ 話では無いな。 「フム・・・。それで、お前は、セントに協力しているのか?」  ただ、復活してくれただけで従うような健蔵では無いと思うのだが。 「ワイス様の復活の約束を、交わしました。その見返りとして、この組織に加担せ よと命じられたのです。」  ・・・やはりな。健蔵が動くとあれば、我か、ワイスの事でであろう。 「このようなソクトアにした者の言う事を、信じるのか?・・・それと、さっきの 答えをやろう・・・。我は、再び『覇道』を提唱するつもりは無い。」  我は、この混迷なる時代を何とかしたいが、『覇道』を提唱するつもりは無い。 「何故で御座いますか!『覇道』は、我等の悲願!!それを否定なさるつもりか!」  健蔵は、納得出来ぬのであろうな。 「健蔵よ。お前は、何のために『覇道』を信じた?このソクトアは、魔族が報われ ぬからでは無いのか?魔族の鮮烈な生き方が、間違ってはいないと、信じたからで は無いのか?・・・我は今でも、そう思っている。」  そうだ。我は、『覇道』を提唱する事で、魔族が報われない世を、直したかった のだ。魔族が、魔界に追いやられている不公平を、何とかしたかったのだ。 「だが、人間は、500年も、『人道』で共存の意志を示した。夢物語だと思って いた共存をだ。ならば、我は、それを支持する。それだけの事だ。」  魔族が、幸せな世なら、『人道』であっても構わぬ。 「人間は、信じるに値しませぬ!!」  健蔵なら、そう言うであろうな。 「健蔵。お前は、どこまで人間を知っている?・・・我も、知らなかった。我は、 この士と、その仲間達を見て、人間全体は、まだしも、仲間の絆と言う強さを、信 じられるようになった。我は、強さを見せた者は、信じる事にしている。」  そうだ。我を変えたのは、他でも無い。士。お前だ。 (フン。ムズ痒い事を、言うんじゃねーよ。)  素直では無いな。この神魔王グロバスが認めたと言うのに。 「『覇道』以上の強さだと、言われるおつもりか?そんな絆とやらが!」  健蔵は、絆の強さを知らぬ。仕方が無いな。 「魔族は、強い者を尊敬する。強き者は、それなりの研鑽を積んでいるからだ。そ の高潔な在り方は、日々を無駄にせぬ。だからこそ、強さを信じるのだ。ならば、 絆も強さの一つ。日々の研鑽の結果、築かれた物を、否定するつもりは無い。」  そうだ。絆も、一夕一朝では出来ぬ。 「俺は、自分の強さを信じます。目に見えぬ絆など、信じませぬ!!」  健蔵は、そう言う性格であったな。 「お前なら、そう言うであろうと思った。なれば、強さを見せるしかあるまい。こ れから、我は、士に体を返す。その士を、我は信じる。・・・その絆を、砕ける物 なら、砕いて見せるが良い。」  我は、士の強さを信じている。 (勝手な事を言いやがって・・・。まぁ良いさ。どうせ、ご先祖とは剣を交えるつ もりだった。やってやるさ。)  そうだ。この神魔王グロバスが、士だからこそ信じると言ってるのだ。失望させ てくれるなよ。・・・健蔵は強いが、絆の強さを見せれば勝てると信じている。 (分かったよ・・・。やってやるさ。) 「そこまで、この人間を・・・。グロバス様に、何があったのだ・・・。」  健蔵は、ショックを受けているようだな。まぁ良い。変わるぞ。  ・・・  ふう・・・。戻ったか。以前より、話すだけなら、疲労しなくなったな。 「待たせたな。ご先祖。どうやら、ご指名があったみたいだな。」  俺は早速、剣を構える。 「貴様、グロバス様は、戻ったのか?」  ご先祖は、険悪な表情を浮かべる。 「ああ。ここに居る。時々話し掛けて来るがな。」  俺は、胸を指差す。 「グロバス様を変えたのは、貴様か。」  ご先祖は、恨みでもあるかのような眼を、俺に向ける。 「さぁな。奴は、半年前に勝手に入ってきた。それから、邪魔な事はしないので、 同化しているだけだ。」  俺は、飽くまで俺だ。邪魔な事でもしよう物なら、追い出している所だ。 「そ、その言い草は何だ!グロバス様が宿っておられると言うのは、光栄な事だと 言うのに!」  ご先祖は、悔しがっている。何だか、変な嫉妬を受けてるぞ・・・。 (健蔵は、我とワイスを尊敬していたからな。) 「そんな事を言ってもな・・・。まぁ、良いさ。俺は、そこを通らなきゃならん。 グロバスも柄でも無く、信じているらしいし、倒させてもらうぞ。」  俺は、剣を構えると、瘴気を発生させる。 「む・・・。人間が、これ程の瘴気を・・・。」  ご先祖は、驚いているな。俺の瘴気って、そんなに多いのか? (普通の人間で扱える瘴気の量では無い。)  褒められているのか、分からんな。 「士!グロバスさんと同じように、私も、信じてるかラ!」  センリンは、俺の闘いが終わるまで、待ってくれるようだ。扉の向こうに居る奴 は、今の所、動く様子が無い。余程、ご先祖は、信頼されているようだな。 「だが、瘴気だけでは、この俺には勝てぬ!『無』の力を使える事を忘れるな!」  ご先祖は、『無』の力を解放し始める。チィ!何たる力の奔流だ。 「これが力だ!!絆とやらが、この力に勝るとでも言うのか!?」  ご先祖は、力を示さなければ、納得しない。厄介だな。全く。 「確かに凄い力だ。ご先祖。アンタは、凄い力を手に入れたんだな。・・・だが、 それだけだ!力を超えた信念を持たない限り、俺は倒せん!」  俺は、怯んだりしない。確かにご先祖は、恐ろしい力を持っている。だが、力を 超えた能力・・・『ルール』が無い。そして、信念が無い。そんな奴に、俺は負け ない。力を持っているだけでは、駄目なんだ。 「口では、何とでも言える。俺に文句が言いたいなら、力で示せ!」  ご先祖は、襲い掛かってきた。そして、『無』の力を宿した大剣を振るう。俺は、 『無』の力を上回るような瘴気で、ご先祖の剣を受け止める。 「ほう。瘴気で覆ったか。『無』を上回る力で・・・。だが、いつまで保っていら れるかな?」  ご先祖も分かっているようだ。この方法は燃費が悪い。このままでは、先に力尽 きるのは俺の方だ。 「『無』が何故強いのか?それは、全てを消し去れる力と、圧倒的な効率ゆえだ!」  ご先祖の言う通り、『無』の力は、効用が全てを消し去る事。そして、その力は、 瘴気や神気などと比べても、密度が濃いのだ。なので、少ない絶対量で、相手を上 回れる。だからこそ、最高の力と言われているのだ。  だから俺は、技量を駆使する事にした。俺は、ご先祖の剣に宿る力を、適当に受 け流す。『無』の力に掻き消されないように、瘴気で覆った剣を振るう。そして、 相手が圧倒的な力で、闘おうとするのに対し、『影縛り』で相手を止めようとする。 「そんな物が、この俺に通じるか!!」  ご先祖は、『影縛り』を予め影にナイフを突き刺す事で逃れる。ジャンと同じ破 り方だ。と言うか、ご先祖に、この技を使っても駄目だよな。 「ここまでだ!所詮、絆の力など、夢物語だ!!」  ご先祖は、『無』の力を存分に宿して、剣で斬ろうとする。 「甘い!」  俺は、直前で見切って、ご先祖の剣を押さえ付けると、その勢いで回し蹴りを放 つ。ご先祖のテンプルに見事に当たった。 「ぬぅ!!貴様、体術を会得しているのか!」  ご先祖は、驚いているようだった。それはそうだ。昔の霊王剣術に、体術の項目 は、無い。なのに、俺の回し蹴りが、本格的だったので、驚いたのだ。 「ご先祖。アンタは、霊王剣術の中でも、最強の部類だろう。だが、俺には、アン タが眠っていた間の1000年間の叡智と技量がある!力だけでは、勝てない事を証明 してみせる!」  俺は、ご先祖の剣を完全に見切っていた。確かに早いし強い。しかし、軌道は読 めるし、剣を振るう事以外の動きは、俺に追いついていない。 「・・・貴様、名前は?まだ聞いてなかったな。」 「黒小路 士だ。ご先祖の名前は、良く聞いてるぜ。」  俺は、名を名乗る。そう言えば、まだ名乗ってなかったな。 「黒小路・・・。ダンゲルの甥だった、光成(みつなり)の家系か?」  黒小路 光成・・・。確か、霊王剣術が、黒小路になってからの最初の継承者だ。 「さすが。俺のご先祖もご存知な訳だ。」  全部知られていると言うのも、余り気分の良い物じゃないな。 「光成が継いで、その技を、子孫が昇華させたか・・・。面白い!!」  ご先祖は、剣を振り回すと、魔の六芒星を描く。これは、『滅砕陣』か! 「ちょこちょこ逃げられるのも、癪なんでな。決めさせてもらう!」  ご先祖は、一気に決めるつもりだ。 「士!!」  センリンが心配している。ご先祖の、凄い力を感じるからだろう。 「フッ。見てろ。俺は、お前の前では、もう負けぬ!そう誓ったのだ!!」  俺は、センリンの前で、あんな無様な姿を見せる訳には、行かない。 「ほざくのは、破ってからにしろ!!霊王剣術!!奥義!『滅砕陣』!!」  ご先祖は、存分に瘴気を放って、『滅砕陣』を俺にぶつけてくる。この技で、伝 記では、ルクトリア城が吹き飛ばされたんだっけな。 「城一つを落とす技でも、この俺の信念は、落とせん!!」  俺は、剣に瘴気を限界まで吸わせて、剣を前で回す事で、壁を作る。 「霊王剣術!防技!『剣幕(けんまく)』!!」  俺は、剣を振り回し続ける。これを切らしたら、後ろのセンリンにまで、被害が 及ぶ。それだけは、絶対に避けなきゃならん! 「士!私、信じてル!士を、信じてるかラ!!」  センリンは、俺のピッタリ後ろに移動していた。参ったな。これで、必ず食い止 めなきゃならない訳だ。だが、センリンが信頼を寄せてくれている。負けるかぁ!! それに、俺には、ミサンガを付けた、仲間達が居る!!  ギギギギギギギギギィィィィ!!  物凄い音がした。『滅砕陣』が、こちらに行こうとする圧力だろう。 「行かせん!!」  俺は、『剣幕』の回転力を上げて、更に防御力を上げた。  ギィィィィ・・・。  やがて、『滅砕陣』は、完全に威力が相殺された。ご先祖は肩で息をしている。 「うおおおお!」  俺は、最後の気力を振り絞って、『滅砕陣』を描く。魔の六芒星は、次第に、そ の強さを増し、エネルギーの塊となる。 「霊王剣術!奥義!『滅砕陣』!!」  俺は、ご先祖に向かって、『滅砕陣』を放つ。 「・・・ぐっ!!」  ご先祖は、さっきので、力を使い果たしたのか、中々動けないでいた。 「神魔剣士!!砕魔 健蔵を舐めるなぁ!!」  ご先祖は、『滅砕陣』に対し、『無』の力を剣に宿して、迎撃する。 「ぬぐぐぐぐ!うおあああああ!!」  ご先祖は、ある程度、斬り付けるが、耐え切れなくなって、吹き飛ばされる。 「・・・ぐ・・・うぅぅぅ・・・。」  ご先祖は、『滅砕陣』を、まともに喰らって、動けなくなっていた。 「・・・こ、これが、絆の力・・・か。」  ご先祖は、横たわる。・・・俺は、勝ったのか・・・。 「俺の方が、力は上だった・・・。なのに、最後の最後で、防がれて、無防備な所 に『滅砕陣』。見事だ。」  ご先祖は、そのギリギリの粘りが、足りなかったのだ。 「俺の力の源は、これだ。」  俺は、ミサンガを見せる。センリンも、見せてやった。 「私達の仲間は、皆、付けてるネ。」  そうだ。このミサンガは、仲間の証だ。決して破らせん。 「絆の力か・・・。俺も、ワイス様や、グロバス様に、その力を感じていた。なの に・・・俺は、ワイス様の復活にのみ、執着してしまった・・・。」  ご先祖は、ワイス復活のために、信念を変えてしまったのか。 (健蔵・・・。我は、そんなお前を責めはせぬ。父を蘇らそうとする行為に、愚か な考えなどあろうか?そう言う行動に至ったのは、決して間違いでは無い筈だ。)  ・・・全く。手間を掛けさせやがって。俺の口から言えと言いたいんだろ? 「ご先祖。奴から伝言だ。『我は、そんなお前を責めはせぬ。父を蘇らそうとする 行為に、愚かな考えなどあろうか?そう言う行動に至ったのは、決して間違いでは 無い筈だ。』・・・だとよ。」  俺は、ご先祖に報せる。すると、ご先祖は涙を流していた。 「さぁ、光成の子孫、士よ。止めを刺すが良い。」  ご先祖は、動けない体を、俺に差し出す。 「・・・ったく。」  ザクッ!!  俺は、剣をご先祖に向けると、顔の横に突き刺した。 「馬鹿な意地を張ってるんじゃねぇよ。せっかく貰った命を、無駄にする馬鹿が居 るかってんだ。」  こんな状態で、ご先祖を殺した所で、俺の中には、後悔しか残らない。冗談じゃ ない。出来るか。そんな事。 「しかし、俺は、『無』の存在から、生み出された命だぞ?」 「だから、どうした?生き返らせてもらったから、ソイツに従わなきゃならねぇの か?そんな古臭い考え、捨てちまえよ。」  そうだ。別に、生き返らせてもらったのは、ゼロマインドからかも知れない。 だが、ソイツに従う義務は無い筈だ。 (士。我の言いたい事を言ってくれたか。)  ・・・全く、もどかしい奴等だ。ほれ。変わってやるよ。  ・・・  士・・・。我の為に・・・。感謝する。 「グロバス様・・・。ですね。」  健蔵は、我の姿を見る。 「健蔵。過去は問わぬ。これからは、己の心に従うのだ。」  そうだ。我は、魔族に自由を与えたいのだ。 「有難き幸せ・・・。この健蔵、グロバス様と共に、参りたいです!」  ・・・健蔵は、いつになっても、こうだな。 「我は、魂だけの身。それでも良ければ、来るが良い。」  そうだ。それが健蔵の、やりたい事なら、止めはせぬ。  さて、士。体を返すぞ。  ・・・  本当に慣れてきたな。自分でも怖いくらいだ。疲れが、ほとんど無いぞ・・・。 「士よ。俺も、その仲間とやらに加われるか?」  ご先祖がねぇ・・・。そりゃ、有難い限りだが・・・。 「俺だけじゃ、決められんな。悪いが、これから来る、俺の仲間達に言ってくれ。」  俺は、その瞬間に、疲れがどっと来ていた。さすがに力を使い果たしたか。  俺のご先祖、砕魔 健蔵。  果てしなく、危険で、果てしなく純粋な力の持ち主だった。  私は、両親の仇なんて、考えた事が無かった。  それは、親不孝な事なのか?  それは、分からない。  だけど私は、あの時から、人生が変わったのは確かだ。  士との生活・・・幸せだった。  だけど、あのまま人生を送っていたら、どうなっていただろうか?  士が、命令に従っていたら、どうなっていただろうか?  私は、考えるなと言われても、考えてしまう。  その原因を作ったのが、お姉ちゃんの父親、ファン=ディーゲル。  叔父さんは、お姉ちゃんに、ファン家を継いで貰いたかったのだ。  だから、『ダークネス』に頼んで、私の両親を殺した。  そして、邪魔になった、私の殺しの依頼を、『ダークネス』に頼んだ。  そして、殺しに来たのが、士だ。  その首領が、目の前の扉の中に居る。  士の『索敵』のルールで、中の人物が動いていないのは、分かっている。  ゼハーンさんとも合流したが、『荒神』と交戦したらしく、士と同じで、満身創 痍だ。ゼハーンさんは、『神聖薬』を飲んだのだが、まだ、体力が回復していない と話していた。しかし、脇腹が破裂した傷は、治ったらしく、いつでも闘えると言 っていた。  扉に入る前に、健蔵さんの事を紹介した。皆、勿論知っていて、仲間になったと 伝えると、驚きを隠せなかった。大体、健蔵さんが復活している事自体が、信じら れなかったらしく、ゼハーンさん等は、複雑な表情を見せていた。 「砕魔 健蔵だ。士の中に居る、グロバス様の命により、貴様等の仲間となる。」  健蔵さんは、頭を下げる。何とも、口下手な人だ。 「士さんと居ると、本当に飽きないと言うか・・・。」  ジャンさんは、驚きっぱなしだ。 「ウチは、もう慣れてきたよ。それも、どうかと思うけどね。」  アスカは、そろそろ驚く事に慣れてきたようだ。 「私は、複雑な気分ではある。が、もう色々考えるのは辞めようと思ってな。」  ゼハーンさんは、健蔵さんと、因縁がある。だが、グロバスさんの件もそうだが、 気にしない事にしたらしい。 「俺は、グロバス様の為、士の為に尽力する事を誓おう!」  健蔵さんは、本気みたいだ。 「やれやれ・・・。融通の利かなそうなのが、入った物だ・・・。」  士は、私に肩を預けている。疲れが限界なので、『索敵』のルールだけに集中し ているようだ。 「宜しくお願いするヨ。」  私は、健蔵さんと握手をする。健蔵さんは、少し逡巡したが、握手をしてくれた。 「・・・俺は、人間は、勝手な生き物だとばかり、思ってきた。」  健蔵さんは、遠い眼をする。回想をしているようだ。 「魔族と人間のハーフだった俺は、幼少の頃、人間から、迫害を受けた。その迫害 から守ってくれた母は、謝罪しながら死んだ。・・・そして、俺の父であるワイス 様は、そんな俺の境遇から、守ってくれた存在だった。」  健蔵さんの、幼少の頃の思い出は、屈辱に塗れてきたのだ。それを忘れて、人間 の仲間になる事は、出来ないだろう。 「ワイス様は、俺を一人前の魔族に育てて下さった。その恩は、決して忘れぬ。そ して、グロバス様は、ワイス様を最大級に評価して下さった。そして、俺が絶望の 淵に居た時に、励まして下さった。その恩に、報いなければならぬ。」  健蔵さんは、グロバスさんに対して、恩があるようだ。 「『健蔵は、我に代わって、最期まで闘い抜いた。それで十分だ。』だってよ。」  士が、グロバスさんの代わりに言ってやる。このやり取りも、慣れた物だ。 「大体、ご先祖は、肩肘を張り過ぎなんだ。人間だ魔族だって、考えねーようにす りゃあ良いんだ。魔族も人間も、腐った奴は居るし、信じられる奴は居る。」  士は、その辺の線引きをしない。そう言う所は、如何にも士らしい。その代わり、 敵と味方の線引きには、容赦が無い。 「貴様は不思議な男だな。誰よりも瘴気が濃く、誰よりも敵に容赦が無い。なのに、 誰よりも差別をしない。貴様のような男が、俺の幼少時代に居たのなら、人間全体 を恨む事も、無かっただろうにな。」  健蔵さんは、思い込みが激しかったのだろう。だから、迫害を受けた過去を、忘 れられないで居た。だからこそ、人間を強く恨んでいた。それを、士は、取っ払っ てやろうと言うのだ。全く士らしい。 「別に恨んでも良いんじゃねぇか?ただ、俺達の仲間を恨まなければ、俺は構わな い。気に入る奴、気に入らない奴なんて、人によって違う物だろ?」  士は、単純明快に答える。士は、優しいな。ここで、健蔵さんが間違っていたと、 言っても、おかしくないのに、それ自体を否定するつもりは無い。と言ったのだ。 「貴様は・・・。全く、グロバス様が気に入る訳だ・・・。」  健蔵さんは、士の優しさに、涙を流す寸前だった。 「さーて、敵は、ご丁寧に、待ってるからな。突入するか。」  士は、『索敵』のルールで、確認しながら、扉に手を掛ける。  そして、扉を開けた。すると、そこには優雅な仕草をする男性が立っていた。 「これはこれは、この支部に、良くぞ来た。」  この状況が分かってないのだろうか?余裕な応対をしている。 「中々、良い度胸だな。お前が『創』か?」  ゼハーンさんが尋ねる。この男がボスなのだろうか? 「いや、違う。この男は、『鏡』・・・。アリアス=ミラーだ。」  士は、『鏡』こと、アリアス=ミラーの顔を見た事がある。 「アンタが、アリアス・・・。」  ジャンさんは、緊張する。『ダークネス』のナンバー2にして、ボスが、絶対な る信頼を置いている男。それがアリアス=ミラーだ。実力、風格は、他の幹部と比 べても、飛び抜けている。 「ウチの両親を殺したのも、アンタだね!」  アスカは、恨みを込めた眼で、アリアスを睨む。 「私の両親も、貴方ニ・・・。」  そうだ。『鏡』は、私の両親を殺した男だ。 「ほう・・・。確か、『オプティカル』の元ボスと『軟派師』。そして、そこに居 るお嬢さんは、ファン家の・・・。懐かしいな。」  アリアスは、思い出したようだ。しかし私達と、随分と深い係わり合いがある男 だ。この男は、『ダークネス』の中心人物って実感が湧く。 「そして、貴様が『司馬』か。『創』様を蔑ろにした罪は、重いぞ!」  アリアスは、士に向かって、信じられないような殺気を出す。 「私を忘れては困るな。このハイム=ゼハーンド=カイザードをな!」 「・・・まさか、ハイム家の当主まで来るとは・・・。そうか。私の最初の殺しの 相手の息子か。お前達が、手を組んでるのは、偶然では無さそうだな。」  ゼハーンさんとアリアスも、因縁がある。 「そして、伝記の魔族殿まで、そちら側か?困った物だ。」  アリアスは、健蔵さんに侮蔑の眼差しを向ける。 「貴様の配下になった覚えなど無い。ワイス様を蘇らせる約束があったから、貴様 の言う事を聞いたまでだ。」  そうだ。健蔵さんは、別にアリアスの部下では無い。 「だが、そこに居ると言う事は、その約束も、無い物として良いのだな?」  アリアスは、揺さぶりを掛ける。 「・・・ワイス様を蘇らせたいのは、変わらん。」  健蔵さんは、父親であるワイスとの出会いを、何よりも大切にしている。 「だが!!俺が隷属して蘇生させたとあっては、ワイス様は嘆き悲しまれる!!俺 は、魔族としての誇りを忘れん!!」  強いなぁ。健蔵さんは強い。本当は、今すぐにでも、蘇らせたいに違いない。だ けど、それを押し殺してまで、魔族の誇りを示すつもりだ。 「全く。私には理解出来ぬな。だが、敵対するのならば、仕方が無い。」  アリアスは、何か黒い物を取り出す。何だアレは? 「あれは、『闇の骨』!!」  士は、知っているようだ。『闇の骨』って、伝記で出て来た、魔界の魔族を、召 喚するための媒体!? 「あれ程、大量に持っているとは・・・。貴様!!」  健蔵さんも、警戒している。と言う事は、相当な量に違いない。健蔵さんは、危 険だと判断したのか、アリアスに襲い掛かる。  ギィン!!  アリアスは、健蔵さんの剣を受け止めて見せた。 「物騒だな。まだ儀式の途中なんだ。邪魔しないで貰おうか。」  アリアスは、『闇の骨』を、そこら中にバラ撒く。すると、この部屋全体が光り だした。どうやら、巨大な魔方陣が書かれていたようだ。 「何も、伝記の頼るだけが、脳では無いのだ。」  アリアスは、そう言うと、健蔵さんから離れる。その間に、召喚に応じた魔族が 姿を現した。 「ちぃ!!」  健蔵さんは、機会を逃した事に、悔やんでいるようだ。  ウォォォォォォォォン!!!  物凄い唸り声が聞こえた。誰を召喚すると言うのだろうか? 「な、何だと!?こ、これは・・・。」  健蔵さんは、驚きの顔を見せる。どう言う事だろう。 「何故、これ程の瘴気を・・・。一体誰が出てくると言うのだ・・・。」  健蔵さんが、警戒する程の魔族が出てくるって言うの?  そして、少し経つと、栗色の毛で、映えるような長い髪を持った魔族が、こちら を見る。そして、アリアスの方を見た。 「余を呼んだのは、貴公か?」  その魔族は、アリアスを見て、判断する。 「そうだ。お前の名を聞こう。」  アリアスは、満面の笑みを浮かべる。 「余は、神魔ケイオス。召喚したのは、貴公なのだな?」  ケイオスと名乗る魔族は、アリアスをギロリと睨む。 「神魔?貴様、ワイス様を差し置いて、神魔と名乗ると言うか!!」  健蔵さんは、怒っていた。健蔵さんにとって、神魔とは、グロバスさんと、ワイ ス以外に、居ては、ならない物なのかも知れない。 「聞き分けの無い、伝記時代の魔族が居るのでね。お前の召喚をしたまでだ。」  アリアスは、健蔵さんを指差して、勝手な事を言う。 「ほう。召喚に応じた者に、反旗を?それに、ワイスと来たか。随分と古い魔族の 名を言うのだな。ま、伝記時代の魔族では、余の名前を知らなくて当然か。」  ケイオスは、凄い風格を感じた。何だろう。この威圧感は・・・。 「貴様ぁ!!ワイス様への侮辱は許さぬ!!」  健蔵さんは、大剣を取り出すと、ケイオスに向かって突進して、振るう。  キィン!  ケイオスは、その剣を、手の甲で受け止める。それも、訳も無くだ。 「良い太刀筋だ。余の部下に欲しいくらいだ。」  ケイオスは、余裕な顔で、そのまま健蔵さんごと弾き飛ばす。 「フム。だが、お前は、まだ力が戻ってないようだな。無論、余もだが。」  ケイオスは、健蔵さんの力を図っていた。 「・・・貴様、何故、それを・・・。」  健蔵さんは、歯噛みする。どうやら、力が完全に戻ってないのは、本当の事らし い。しかし、相手もだと言う。恐ろしい話だ。 「そして、そこの5人、人間にしては、とても楽しみな力を持っているようだ。」  ケイオスは、私達を見た。そして、士に注目する。 「ほう・・・。先の神魔王の魂を感じる・・・。貴公、面白いな。余の部下になら ぬか?余は、神魔王を継ぎし者、ケイオス=ローンだ。」  ・・・ケイオス=ローン?どこかで聞いたような・・・。 「お前、『魔人(まびと)』レイリーの息子か?」  士は、グロバスさんと交信を取ったのか、尋ねてみる。と言うか、レイリーの息 子って・・・。 「余の父を、ご存知か。確か、貴公の部下だったか。・・・父は、力を追い求めて、 走りに走って力尽きた。余は、その姿勢を評価している。」  ケイオスは、否定しなかった。と言う事は、本当に・・・。 「貴様、『魔人』の息子だったのか・・・。」  健蔵さんも覚えているようだ。 「貴公等の活躍は、魔界でも轟いていた。それはそれは、凄い信仰だったよ。だが その後、魔界は、貴公等を失って、覇権争いが起きた。その、想像を絶する戦いに 勝利したのが余だ。それから、900年間、魔界を守り通してきた。」  ケイオスは、最初は、覇権争いをする一人だったのか。 「最初は、それこそ、貴公等の足元にも及ばぬ『魔族』であった。その時の覇権を 握っていたのは、魔神レイモスの息子、デイビッドと、その妹であるエイハ。その 力は、貴公等には大した事が無かっただろうが、余にとっては強大であった。」  ケイオスは、その時の様子を、思い出したのか、目を瞑る。 「だが、余は研鑽を惜しまなかった。そして、100年が経った頃、余は、誰にも 負けぬ力を手に入れた。そして、這い上がり、蹴落として、今の座を、手に入れた のだ。そして、魔界の王の座を、守り通してきた・・・。」  ケイオスは、最初から強かった訳では無い。それこそ、取るに足らない存在だっ たに違いない。しかし、勝ち取ったのだ。魔界の王の座を。 「余は、現在の魔界に於いて、神魔と呼ばれている。『神液』の試練を突破したか らだ。だから、このような力も使える。」  ケイオスは、右手で瘴気を出し、左手で神気を扱う。 「伝記での『無』の力は、こうであったか?」  ケイオスは、それを真ん中で合わせる事で、『無』の力を作り出す。 「貴様、そこまでの力を持っていながら、このような人間に従うのか!」  健蔵さんは、ケイオスの姿勢が気に入らない。 「そんなつもりは、毛頭無い。だが、協力はしようと思っている。」  ケイオスは、臣従ではなく、協力を申し出ていた。 「ケイオスとやら、何故だ?お前程の男なら、手伝う必要など無い筈だ。」  士は、ケイオスの力を認めていた。それは、グロバスさんも認めたと言う事だ。 「面白くなったからだ。余は、このまま魔界に居ても、詰まらぬと感じている。敵 が居ないのだよ。余の言う事に従う者ばかりになってしまったのだ。余の力を見せ 付けた結果かも知れんがな。だが、ここはどうだ?力ある者が溢れておる。」  ケイオスは、魔界に居ても、詰まらなくなってしまったのか。 「それに、魔界では、いつもソクトアの事が、引き合いに出されていた。魔界の者 が、口を揃えて言うのだ。『ソクトアの覇権を取れたら、貴方は、全ての覇者にな れる。』とな。余の生まれ故郷でもあるソクトア。段々興味が湧いてきてな。」  ケイオスの生まれ故郷?ケイオスは、ソクトアで産まれたのか・・・。 「余は、魔界を統べる為に、故郷を捨てた。だが、それが成った暁には、ソクトア に戻り、試してみようと思っていた。そんな中、この者の召喚があった。だから、 応じてみたのだ。久し振りに、楽しい余興が始まりそうで、余は浮かれておる。」  ケイオスにとって、ソクトアは生まれ故郷でありながら、力を試す場でもあるよ うだ。何て勝手な・・・。 「呼ばれたからには、余は、力を振るうと決めている。魔界には無い緊張感を、貴 公等は、持っていよう?見せてくれまいか?」  ケイオスは、そう言うと、力を解放する。凄い力だ・・・。まだ召喚されたばか りなのに、この力とは・・・。 「貴公等、全員鈍くないようだ。余の力を、全員が感じ取っている。」  皆、ケイオスの凄まじい力を感じ取っていた。 「貴様、グロバス様や、ワイス様の為し得なかった事を、為そうとしているのか?」  健蔵さんは、ケイオスの思惑を感じ取っていた。 「そうだな。余の王国を築くのも悪くない。魔界では、少々飽きてきた所だ。」  ケイオスは、余裕だった。恐ろしい敵の誕生だった。 「そのような真似は、辞めてもらおうか。」  アリアスは、口出ししてきた。 「今の人間は、度胸があるのだな。余に対して、ここまでの口が利けるとは。」  ケイオスは、楽しんでいた。魔界では、誰も逆らわないのだろう。 「『ダークネス』のために尽力して貰うのは、構わん。だが、お前の王国を作る事 など許可せぬ。『創』様には、従って貰う。」  アリアスは、飽くまで『ダークネス』が中心なのだろう。 「ハッハッハッハ!!貴公、面白いな!この神魔ケイオスを呼び出して、その態度、 その不遜さ、評価に値する!」  ケイオスは、心から楽しそうに笑う。 「フン・・・。では、ここは頼んだぞ。」  アリアスは、天竺の裏にある通路に入る。 「逃がすかよ!!」  ジャンさんが、ナイフに『爆破』のルールを込めて、天竺に向かって放り投げる。 「ヌン!」  それを、ケイオスが、握り潰す。手の中で爆発したが、全く意に介していない。 「一応は、召喚された恩がある。余を倒してから追うのだな。」  ケイオスは、天竺の前に立ちはだかる。 「『索敵』のルール!!」  士は、『索敵』のルールで追おうとする。しかし、発動しなかった。 「チィ!今日は、使い過ぎたか!!」  そうだ。士は、健蔵さんとの闘いもあり、さらに常に『索敵』のルールで見張っ ていた。だから、疲れが出ていて、ワープする能力が、薄れてきてるのだ。 「ならば、皆で掛かって、ここを通るまで!!」  ゼハーンさんは、剣を構える。しかし、ゼハーンさんこそ、『荒神』との闘いで 重傷を負って、傷は治したが、疲れが出ている筈だ。 「皆、疲れが出てるネ・・・。」  私だってそうだ。ここまで来るのに、『ルール』を使いまくった。その疲れが出 ている。 「・・・士。俺との闘いの疲れが出ているのだな?」  健蔵さんは、自分のせいだと思っているらしい。 「少々予定が狂っただけだ。気にするんじゃない。」  士は、健蔵さんのせいに、したくないのだろう。 「フン。まぁ良い。おい。若造。貴様の神魔とやらの力、俺が見極めてやる。」  健蔵さんは、ケイオスの前に出る。 「だから、この者達を、ここへ通せと?」  ケイオスも、健蔵さんの思惑に、気が付いているようだ。 「そうだ。その代わり、貴様が望む、全力で相手してやる。」  健蔵さんは、ケイオスと、全力で闘う代わりに、ここを通せと言っているようだ。 「悪くない。だが、一応契約もある。余を退かしたくば、力で押し通るが良い。」  ケイオスは、飽くまで力で通れと言った。それが、魔族の掟なのだろう。 「仕方が無い。ならば、そうさせてもらう!!」  健蔵さんは、さっきとは、比べ物にならない程の瘴気を出すと、ケイオスに飛び 掛っていく。凄い。まだ全力じゃ無かったんだ! 「ほう・・・。良い力だ。余と争うに相応しいな。」  ケイオスは、健蔵さんの力に押されて、天竺から離される。 「行け!!!」  健蔵さんは、今がチャンスだとばかりに、促す。  すると、皆は、振り返らずに天竺の方へと向かう。私も走った。そして、天竺の 奥へとある通路に入る。その瞬間、声が聞こえた。 「これで、全力を出してくれるのだろうな?」  ケイオスの余裕そうな声が聞こえる。まさか・・・わざと!? 「俺は約束は守る。この神魔剣士の力、存分に見せてやる!!」  健蔵さんは、ケイオスに、闘いを挑むようだ。 「け、健蔵さン!!」  私は、天竺越しに、叫ぶ。 「行け!!貴様等の目的を果たせ!!良いな!!」  健蔵さんは、振り返るなと言った。・・・仕方が無い。  私達は、目を瞑りながら、天竺の奥へ、走り出していった。  ご先祖は、命を懸けていた。  生き返ったばかりだと言うのに・・・。  何で、俺の周りには、命を懸ける奴ばかりなんだろうな。  ご先祖は、ケイオスに勝てると思っていない。  俺が見た感じでも、ケイオスの方が、力が上にしか見えなかった。  ご先祖は、確かに並大抵の強さじゃない。  だが、ケイオスの力は、底が見えなかった。  なのに、ご先祖は、突撃する事を選んだ。  俺達を先へ行かせる為?  いや、違う・・・。  あれは、命を懸ける場所を、探していたのだ。  まるで、今の時代に生きた証を見せるかのようにだ。  馬鹿が!  これから生きないで、どうするんだ!  だけど、俺には止められなかった。  こうしないと、アリアスを追い掛けられなかったからだ。  非情だと言われても、俺は構わない。  それに、戻って加勢する事を、ご先祖が望んでいなかった。  ならば、俺達は、先に進むしかない。  アリアスを・・・そして、『創』を追うんだ!!  『ダークネス』を追い詰めるのが、俺達のやる事だ。 (・・・健蔵・・・。)  気を落とすな。グロバス。ご先祖が望んだ事だ。 (健蔵は、我とワイスを差し置いて、神魔を名乗ったケイオスが、許せなかったの だろうな。・・・1000年前を、無にされたくなかったのだ。)  時代の証明か・・・。ご先祖の拘りそうな事だな・・・。  それにしても、この通路、外に繋がってる訳じゃ無さそうだ。  どこか、隠し部屋にでも繋がっているのか?  しばらく行くと、また、扉があった。 「あそこか!」  俺は、『索敵』のルールを発動させる。・・・敵が一人・・・。やはりアリアス か?奴は、この部屋に逃げ込みたかっただけか?  俺達は、扉に手を掛けると、一気に開け放つ。  すると、真ん中にフードを被った男が立っていた。 「騒がしいな。お前達が、巷で有名な『司馬』か。」  フードの男は、こちらを睨み付ける。雰囲気が、アリアスとは違う。アリアスは、 何処に消えたんだ? 「ご存知のようだな。アンタが『創』か?」  俺は、フードの男に尋ねてみる。 「その通りだ。私は、『ダークネス』の支配者にして生みの親、『創』である。」  やはりそうか・・・。しかし、コイツ、何処から入ってきたんだ? 「アンタが・・・。ウチの両親を!」  アスカは、両親の仇だけあって、怒りを剥き出しにしている。 「お前は、元老院の一人なのか?」  ゼハーンが尋ねる。ゼハーンにとっては、大事な問題だ。 「『オプティカル』の元ボスと、伝記の末裔が来たか。」  『創』は、俺達の様子を見ていた。 「・・・それより、アリアスは、何処に消えた?」  俺は、そっちの方が気になっていた。 「アリアスは、我が右腕。まだ、色々働いてもらわねばならぬ。居場所を言う訳に は、いかんな。」  そう簡単には、いかないか。 「しっかし、余裕綽々ってのが、気に入らねーな。」  ジャンは、『創』が落ち着いているのが気に入らないようだ。 「何か、あるかも知れないネ。」  センリンは、警戒している。コイツの持つ雰囲気が、そうさせているのだろう。  しかし、何だか違和感がある。何だろうか? 「散々我が組織を愚弄した『司馬』よ。お前達には、死をくれてやる!」  『創』は、並々ならぬ殺気を出す。やはり、おかしい。 「この部屋・・・。外に抜けられぬな。」  ゼハーンも、何かが、おかしい事に気が付いたようだ。 「どうしたんだ?ゼハーンさん。」  ジャンは、ゼハーンが、何かに気が付いている事を察知する。 「この部屋、隔離されているのに、何処にも出口が無いヨ。」  センリンも、冷静になってきているようだ。 「見た所、『転移』が使われた形跡も無いな。」  俺は、『索敵』のルールで見張っていた。だから、『転移』で誰かが入れ替わっ たのなら、それを感じ取る事が出来る筈だ。 「どう言う事だい?」  アスカは、少し混乱気味だ。 「お前、アリアスか?」  俺は、『創』に話し掛ける。アリアスが、一計を案じているのか? 「そう思うか?ならば仕方があるまい。」  『創』は、フードを脱いだ。すると、アリアスとは、顔付きが違う男が、姿を現 す。アリアスじゃなかったのか? 「この男が・・・『創』か!」  ジャンも緊張している。しかし、別人なら、アリアスは、何処に消えたんだ。  ・・・ま、まさか・・・。いや、そんな事が・・・。 (そのような事、人間に起こりえるのか?)  グロバスも、俺の仮説に驚いているようだ。 「違うな・・・。だが、まさかとは思うが・・・。」  俺は、自分に起こった事を体験している。だから分かる。違和感の正体は、同族 の臭いがしたからだ。 「お前、既に死んでいるな?」  俺は、『創』に問い掛ける。そう。『創』は既に、この世に居ないのだ。 「目の前に居る私を見て、何を言うのか?」  『創』は、鼻で笑う。しかし、俺は怯まない。 「だから、アリアスの体を借りているんだろ?」  そうだ。俺だからこそ分かる。この違和感は、グロバスに体を預けた時の、俺に 似ているんだ。 「・・・何を根拠に、そのような馬鹿な事を言う。」  『創』の口調が変わった。やはり、俺の思った通りか。  なら、見せてやるしかないな。今日は、3回目だが・・・。行けるか? (変わるだけなら、問題ないんじゃないか?)  そうか。なら、アンタに体を預ける。 「見せてやるよ。その根拠って奴をな!」  俺は、グロバスに体を預ける。  ・・・  我は、ここに体現する。だが、今日の士は疲れている。すぐに返さなくては、い かんな。無理をさせるものでは無い。  ・・・  ふう・・・。短い間なら、まだ行けるようだな。あまり慣れたくないんだがな。 「今の、俺の変化が、お前に起こっていると言ってるんだ。」  俺は、当事者だからこそ、アリアスに起こっている変化が分かる。 「・・・フフフフフ。フハハハハハ!!!」  この声は・・・アリアス!!やはり! 「良く気が付いたな。さすがは『司馬』よな。」  急に雰囲気が、アリアスに戻る。やはり、『創』の魂が、アリアスに、憑いてい たのか! 「俺の『索敵』のルールに、誰かが入ってくる様子が無かった。この部屋は、お前 しか居なかった筈なんだ。なのに、別人が居た。ならば、入れ替わったと考えれば、 自然なんだよ。まさかとは、思ったがな。」  そうだ。俺だからこそ分かる。『索敵』のルールを持ち、グロバスが憑いている 俺だからこそ、気が付けたのだ。 「まさか・・・士と同じようニ?」  センリンは、信じられないようだ。 「実際の人間が憑くとは・・・。」  ゼハーンも信じ難いようだ。そう。俺のように魔族が憑いたのでは無く、人間が、 憑くと言うのは、信じ難い想いの念が、必要な筈だ。 「『創』様は、『オプティカル』との抗争の際に、胸を刺されて死んだ。・・・そ この女の親にな!」  アリアスは、アスカを睨み付ける。相当強い恨みを持っているようだ。 「ウチの両親が・・・。『創』を倒していたんだね・・・。」  アスカは、両親が犬死では無い事を知る。 「俺は、願った!!このまま『ダークネス』を潰す訳には行かぬと!その為なら、 この体は要らぬと!!」  そうか。アリアスは、『創』を崇拝していた。その崇拝が、『創』と魂で繋がる と言う奇跡を起こしたのだ。 「そして、『創』様に全てを捧げる事が出来た!私は、『創』様の魂を前面に押し 出している時は、『創』様になれた。」  グロバスと違って、『創』は、元々人間だ。俺みたいな極端な変化が無い分、バ レなかったのだろう。顔付きだけが変わるだけだったのだ。 「お前ならば知ってる筈だ!答えよ!!お前は、元老院の一味なのか!!」  ゼハーンさんが、尋ねる。そうだ。その為に、ここに来たんだ。 「如何にも。効率的に人斬りを普及させる為、セントより頼まれたのだ。」  アリアスは、誇らしげに答える。なる程な。 「ならば、我等を狙うのは何の為だ!セントが伝記の末裔を付け狙うのは、何の為 だ!伝記の末裔と言うだけで、根絶やしにしようとする理由を聞かせろ!」  ゼハーンさんは、心の叫びを上げる。 「分からぬのか?ゼロマインドが、何故500年後に現れなければ、ならなかった のかを考えれば、すぐに分かる事だと思うがな?」  アリアスは、含み笑いをする。どう言う事だ? 「あの時点で、クラーデスが勝っていれば、どうなっていたかな?」  ・・・そうか・・・。そう言う事だったのか・・・。あの時点で、クラーデスが 勝っていれば、『無』の力は、崇められていた事だろう。そうすれば、ゼロマイン ドは、もっと早くに生まれていたのだ。しかし、伝記の英雄達が、勝ってしまった 為、誕生は、困難を極めたのだ。 「そんな・・・自分の為だけに、我等を根絶やしに、しようとしたのか!!」  ゼハーンは、怒っていた。逆恨みも良い所だったからだ。その逆恨みのせいで、 数々の不幸が起き、ゼハーンは、妻を死なせてしまったのだ。 「ゼロマインドは、生きる為に必死なのだ。その存在を否定しようとした貴様等を、 野放しにする訳が無い。」  そうだ。ゼロマインドは、500年前は、大した事の無い存在だった。それは、 『無』の力で勝利したのに、その力を封印しようとした英雄達のせいだ。自身を否 定されたゼロマインドは、息も絶え絶えだったのだ。 「自身の存在の為か。・・・気持ちは分からんでも無い。」  俺も・・・いや、人間とて、自身の存在を確かめる為、日々奔走している。 「士!」  ゼハーンは、俺を睨む。 「早まるなよ。気持ちが分からんでも無いが、賛同はしない。俺も人間なんでな。」  そうだ。俺は人間なので、ゼロマインドに賛同するつもりなど無い。 「結局、お前達は、元老院とは、分かり合えぬ存在よな。」  アリアスは、それを確かめる。当たり前だ。元老院など、分かり合いたくも無い。 「私は、まだ『創』様と、そして元老院と、繋がって無くてはならん。この秘密を 知った貴様等は、死んで貰う事になる!」  アリアスは、『創』を前面に押し出す。すると、顔付きが変わった。 「まさか、私と同じような変化がある、存在が居るとはな。」  『創』が、俺を睨む。それは、俺の台詞だ。 「てめぇを倒さないと、姐さんが安心出来ねぇ!悪いが覚悟しな!」  ジャンが、投げナイフを取り出して、『爆破』のルールを発動させる。そして、 それを『創』に投げ付けた。 「下郎。この私に飛び道具など、効かぬわ!」  これは、『ルール』!『創』も『ルール』を使えたのか!  すると、ジャンの投げナイフは、『創』の体を避けていくように、すり抜ける。 後ろが爆発したが、『創』は、既に移動していた。 「ど、どうなってやがる!?」  ジャンは、狙いが外れた事に、驚いていた。 「フッ。貴様等には理解出来まい。」  『創』は、剣を構える。それに対して、ゼハーンが、対応に当たる。ゼハーンは、 『創』の剣を、横に縦にと、弾きながら、バランスを取る。 「中々良い腕だな。さすがは、伝記の末裔。」  『創』は、余裕で対応している。これはやばいな。ここまでの腕を持っていると は・・・。『ダークネス』のボスだけある。 「だが、この私の前では通用せぬ!」  『創』は、また『ルール』を発動させる。すると、ゼハーンが弾こうとした剣が すり抜けて、ゼハーンは、足が斬られた。 「うぐっ!!」  ゼハーンは、足を押さえて飛び退く。 「ゼハーンさん!チィ!!」  ジャンは、ナイフを再び取り出すと、『創』に投げ付けた。  しかし、また『創』の体には当たらなかった。 「フハハハハ!!無駄だ!無駄よ!!」  『創』には、全く攻撃が当たらない。しかも、相手の攻撃は、弾く事も出来ない。 どうなってやがる・・・。どんな能力なんだ。 「やらせないよ!!」 「タァ!!」  アスカとセンリンが、2人同時に襲い掛かる。しかし、さっきと同じで、全く攻 撃が当たらない。2人共、信じられないようだが、諦めずに攻撃する。 「愚か者共め!この私に逆らう事自体が、罪なのだ!無駄なのだよ!」  『創』は、闘気を開放する。そして、その力で、全員を吹き飛ばした。何て闘気 だ!恐ろしい腕前だ。皆、肩で息をしている。 「ウチは・・・仇を・・・取るんだ!!」  アスカは、それでも動こうとする。 「まだそんな事を・・・。この私に、手を掛けた奴の子だったな・・・。」  『創』の眼が怪しく光る。 「恨みがあるのは、寧ろこっちだ。この害虫めが!」  『創』は、剣を逆手にすると、アスカに向かって剣を振り下ろす。  ザン!!  嫌な音と共に、剣を突き刺した音が聞こえた。しかし、それはアスカに、届いて いなかった。その前にジャンが出てきて、素手で剣を受け止めたのだ。 「ジャ・・・ジャン!!」  アスカは、ジャンが死に物狂いで剣を受け止めてるのを見て、呆然とする。 「姐さんを、殺させて堪るかってんだよ!!」  ジャンは、歯を食いしばりながら、剣を受け止めている。受け止めている手から は、夥しい程の血が流れ出ていた。 「なら、貴様ごと、死んでもらおうか。」  『創』は、腕に力を入れる。 「やらせるかよぉ!!」  ジャンは、受け止めていたが、もつ訳が無い。次第にジャンの腹に剣が届く。 「止めて!!止めてよぉ!!」  アスカは、動けない体を引きずって、ジャンの前に出ようとする。 「姐さん・・・。駄目・・・だぁ!!」  ジャンは、踏ん張っているが、アレではもたない。 「させないヨ!!」  センリンは、棒で体を支えて、『創』に襲い掛かる。しかし、『創』には、棒が 届かない・・・。何せ、『創』には、あの能力が・・・。  ガツッ!!  ・・・え?当たった・・・だと? 「ヌゥ!!?」  『創』は、驚いていた。何故当たったか、分からないようだ。 「・・・貴様、危険なようだな!!」  『創』は、ジャンに向けた剣を引き抜くと、フラフラになってるセンリンに剣を 向ける。いかん! 「ぬおおお!!!」  俺は、『創』の剣を、気合で弾く。冗談じゃない。センリンに手を掛けられて堪 るか!しかし、こっちも中々、力がはいらねぇ・・・。 「『司馬』まで、無駄な足掻きを続けるようだな!!」  『創』は、激高する。・・・冷静だ・・・。冷静になれ・・・。相手は逆上して いる。なら、俺が冷静になって対抗すれば、必ず勝てる筈だ。この前みたいな失敗 は、犯して堪るか。  アイツの能力だ。それを解明すれば・・・今の俺でも勝てる筈だ。最後の力を溜 めて、奴にぶつければ・・・。  待てよ・・・。俺は、奴の『ルール』は、何か空間を捻じ曲げる能力だと思って いた。空間を歪めて、来た物を躱す。だが、そこまで強力な『ルール』を、あんな 連発出来る物だろうか?いや・・・。俺が、そうだから分かる。便利な『ルール』 は、とんでもなく疲労が来る。そんな凄まじい『ルール』なら、もつ訳が無い。増 して、その状態で、この全員を相手する事自体、体に負担が掛かる。精神力は、か なりの物があるだろうが、いくら『創』だからと言って、人間の精神力で、全員に そんな強力な『ルール』を連発しながら、圧倒出来るか?  なら、どんな『ルール』だ?・・・空間では無いとすると、強力な風でも操るの か?・・・そうとも考え難い。それなら、強力な風の煽りが、俺達にも感じる筈だ。  では・・・む・・・。そ、そうか!!もしや!! 「ぬぅぅぅ!!!」  俺は、膝に力を入れる。そして、奴を見据える。やっと、分かったぞ・・・。 「士!!まだいけるか!?」  横でゼハーンも、気合で起き上がってきた。 「まだ、くたばる訳には、いかん!!」  ゼハーンは、まだ眼が死んでいない。行ける! 「生意気な奴らめ。この私の能力を見て、まだ立ち上がるか!」  『創』は、まだ、自分の能力に自信があるようだ。 「ゼハーン。耳を貸せ。」  俺は、ゼハーンに秘策を授ける。俺の考えが正しければ、ゼハーンならば、行け る筈だ。伝えると、ゼハーンは、驚いていた。 「本当に、それで、行けるのか?」 「ああ。と言うか、それしかない。」  俺は、ほぼ確信を持っていた。 「お前を信じるか。・・・それにしても、教訓が生きているようだな。」  ゼハーンは、この前の俺の失敗の事を言っている。中々耳の痛い事を・・・。 「耳が痛い事を言うな。勝つ為だ。行くぞ!!」  俺は、ゼハーンと共に『創』に突っ掛かっていく。 「馬鹿め。ただ突っ込むだけでは、この私に勝つ事など出来ぬ!」  『創』は、『ルール』を発動する。俺の予想が正しければ・・・。こうする事で、 行ける筈!俺は、ゼハーンと共に、目を瞑った。  ヒュン!!!  聞こえた。ここだ!!  キィン!!  俺は、確かな手応えを感じた。やはり、思った通りだ。コイツの能力は、空間を 捻じ曲げるような強力な物では無い!ゼハーンの方も、半信半疑だったようだが、 剣を弾いていた。やはり、間違いない! 「貴様等、何故弾ける!!」  明らかに『創』に焦りの色が出る。 「・・・そこだ!!」  俺は、目を閉じたまま、気配だけを察知して、瘴気弾を打ち出す。 「ぬああああ!!」  『創』に当たった。俺の予想は当たっていた。 「見抜いたぞ。お前の『ルール』をな!!」  そうだ。コイツの『ルール』は、空間を捻じ曲げる事でも、風を操るような強力 な物では無い。 「まさか、幻覚を見せる『ルール』だったとはな。」  そう。物は使いようだ。単に狙いが狂っていたのだ。しかし、タネさえ分かれば、 こちらの物だ。『幻視』のルール・・・に間違いないだろう。 (そう言う事か。我も騙されていたとは・・・。)  分かっちまえば、こっちの物だ。 「見破られるとはな。確かにその通りだ!だが、その体で何が出来る!」  『創』は、俺達が限界だと言う事を、悟っている。  冷静になれ。俺は、もう力を放出する関連の技を、繰り出す事は出来ない。なら ば、俺に出来る限りのサポートをすれば良い。 「ゼハーン。お前に任せる。」  俺は、それだけ言う。すると、ゼハーンは、それだけで俺の考えを見抜いた。助 かる。そして、目でセンリンに合図をする。 「出来るか?」  俺は、それだけ聞く。すると、センリンは、強く頷いてくれた。 「行くぞ!!」  俺は、剣を振るいに行く。すると『創』は、俺の剣を弾こうとする。  キィン!!  俺は、剣を弾かれて思わず剣を落としてしまう。すると、『創』は、チャンスと ばかりに、俺に追撃しようとする。・・・掛かった!!  俺は、その瞬間、飛び退く。こう来ると分かっていたからだ。  ザン!!!  センリンが、渾身の力で、棒を地面に突き立てる。すると、『創』の目の前に壁 が出来る。いや、地面を抉って壁にしたのだ。センリンの得意技だ。  ヒュン!!!  俺は、そこに目掛けて、針を飛ばす。 「グッ!!」  『創』を拘束する。『影縛り』だ。俺の得意技だ。『創』は、完全に不意を突か れたのか、『影縛り』を破るのに、時間が掛かっていた。  そこに、ジャンのナイフが飛んでくる。『創』は弾き飛ばしたが、その瞬間に爆 発した。『爆破』のルール!アイツ、あの体で『爆破』のルールを使うなんて! 「ぬぅああ!!」  『創』は怯む。しかし、それでも尚、『影縛り』を破ろうとしている。そこに、 アスカが『舞踊』のルールを発動させて、鋭い攻撃で邪魔をする。  ザシュ!!!  ゼハーンが、間髪入れずに『創』の足を斬り飛ばす。 「うぐあああああ!!」  『創』は、片足になったが、剣を支えに立っていた。  ジュブ・・・。  そこに、俺の一撃を食らわす。そう。俺は、最後の力を振り絞って、『索敵』の ルールで、『創』の背後にワープして、心臓に剣を突き立てた。 「あ・・・。ぐ・・・。」  『創』は、信じられないような顔になる。 「この、『創』が・・・。そんな、馬鹿な!!馬鹿な!!!」  『創』は、口から血を吐き出すと、それ以外にも、何かが飛び出る。 「・・・あれが、『創』の魂か・・・。」  ゼハーンは、『魂流』のルールで『創』の魂が出て行ったのを確認する。絶叫を 上げながら、段々と消えていった。 「うぐ・・・。」  呻き声を上げる。・・・コイツは、もうアリアスか? 「『創』様・・・。また・・・お別れ・・・ですか?」  アリアスだった。もう虫の息である。 「・・・阿呆。お前、『創』しか、頭に無いのかよ。」  俺は、やり切れなかった。コイツは、人生を全て『ダークネス』に捧げてきた。 最初は、ゼハーンの親父さんを殺す事に始まり、駆け抜けて、駆け抜けて、『ダー クネス』を大きくしてきた。そして、ついには『創』に体を捧げて、この様だ。 「私・・・は・・・後悔・・・し・・・ない。」  アリアスは、微塵も後悔していなかった。 「夢・・・だった・・・。・・・『創』・・・様に・・・なる・・・のが。」  どこまで純粋な奴だ。恐らく、『創』に命令されたら、容赦無かったのだろう。 そして、最後は『創』になりきった。何て奴だ・・・。 「お・・・前・・・達・・・。・・・私達・・・を・・・。忘れ・・・るな!!」  アリアスは、目を見開く。もう死を悟ったアリアスは、最期の願いを言う。 「私・・・も・・・そ・・・こ・・・へ・・・。」  アリアスは、そう言って、上に手を伸ばすと、そのまま手の力が無くなる。  『ダークネス』のボスである『創』。  そして大幹部『鏡』こと、アリアス=ミラーは、凄絶な最期を迎えたのであった。