NOVEL Darkness 4-6(Second)

ソクトア黒の章4巻の6(後半)


 私は、両親の仇なんて、考えた事が無かった。
 それは、親不孝な事なのか?
 それは、分からない。
 だけど私は、あの時から、人生が変わったのは確かだ。
 士との生活・・・幸せだった。
 だけど、あのまま人生を送っていたら、どうなっていただろうか?
 士が、命令に従っていたら、どうなっていただろうか?
 私は、考えるなと言われても、考えてしまう。
 その原因を作ったのが、お姉ちゃんの父親、ファン=ディーゲル。
 叔父さんは、お姉ちゃんに、ファン家を継いで貰いたかったのだ。
 だから、『ダークネス』に頼んで、私の両親を殺した。
 そして、邪魔になった、私の殺しの依頼を、『ダークネス』に頼んだ。
 そして、殺しに来たのが、士だ。
 その首領が、目の前の扉の中に居る。
 士の『索敵』のルールで、中の人物が動いていないのは、分かっている。
 ゼハーンさんとも合流したが、『荒神』と交戦したらしく、士と同じで、満身創
痍だ。ゼハーンさんは、『神聖薬』を飲んだのだが、まだ、体力が回復していない
と話していた。しかし、脇腹が破裂した傷は、治ったらしく、いつでも闘えると言
っていた。
 扉に入る前に、健蔵さんの事を紹介した。皆、勿論知っていて、仲間になったと
伝えると、驚きを隠せなかった。大体、健蔵さんが復活している事自体が、信じら
れなかったらしく、ゼハーンさん等は、複雑な表情を見せていた。
「砕魔 健蔵だ。士の中に居る、グロバス様の命により、貴様等の仲間となる。」
 健蔵さんは、頭を下げる。何とも、口下手な人だ。
「士さんと居ると、本当に飽きないと言うか・・・。」
 ジャンさんは、驚きっぱなしだ。
「ウチは、もう慣れてきたよ。それも、どうかと思うけどね。」
 アスカは、そろそろ驚く事に慣れてきたようだ。
「私は、複雑な気分ではある。が、もう色々考えるのは辞めようと思ってな。」
 ゼハーンさんは、健蔵さんと、因縁がある。だが、グロバスさんの件もそうだが、
気にしない事にしたらしい。
「俺は、グロバス様の為、士の為に尽力する事を誓おう!」
 健蔵さんは、本気みたいだ。
「やれやれ・・・。融通の利かなそうなのが、入った物だ・・・。」
 士は、私に肩を預けている。疲れが限界なので、『索敵』のルールだけに集中し
ているようだ。
「宜しくお願いするヨ。」
 私は、健蔵さんと握手をする。健蔵さんは、少し逡巡したが、握手をしてくれた。
「・・・俺は、人間は、勝手な生き物だとばかり、思ってきた。」
 健蔵さんは、遠い眼をする。回想をしているようだ。
「魔族と人間のハーフだった俺は、幼少の頃、人間から、迫害を受けた。その迫害
から守ってくれた母は、謝罪しながら死んだ。・・・そして、俺の父であるワイス
様は、そんな俺の境遇から、守ってくれた存在だった。」
 健蔵さんの、幼少の頃の思い出は、屈辱に塗れてきたのだ。それを忘れて、人間
の仲間になる事は、出来ないだろう。
「ワイス様は、俺を一人前の魔族に育てて下さった。その恩は、決して忘れぬ。そ
して、グロバス様は、ワイス様を最大級に評価して下さった。そして、俺が絶望の
淵に居た時に、励まして下さった。その恩に、報いなければならぬ。」
 健蔵さんは、グロバスさんに対して、恩があるようだ。
「『健蔵は、我に代わって、最期まで闘い抜いた。それで十分だ。』だってよ。」
 士が、グロバスさんの代わりに言ってやる。このやり取りも、慣れた物だ。
「大体、ご先祖は、肩肘を張り過ぎなんだ。人間だ魔族だって、考えねーようにす
りゃあ良いんだ。魔族も人間も、腐った奴は居るし、信じられる奴は居る。」
 士は、その辺の線引きをしない。そう言う所は、如何にも士らしい。その代わり、
敵と味方の線引きには、容赦が無い。
「貴様は不思議な男だな。誰よりも瘴気が濃く、誰よりも敵に容赦が無い。なのに、
誰よりも差別をしない。貴様のような男が、俺の幼少時代に居たのなら、人間全体
を恨む事も、無かっただろうにな。」
 健蔵さんは、思い込みが激しかったのだろう。だから、迫害を受けた過去を、忘
れられないで居た。だからこそ、人間を強く恨んでいた。それを、士は、取っ払っ
てやろうと言うのだ。全く士らしい。
「別に恨んでも良いんじゃねぇか?ただ、俺達の仲間を恨まなければ、俺は構わな
い。気に入る奴、気に入らない奴なんて、人によって違う物だろ?」
 士は、単純明快に答える。士は、優しいな。ここで、健蔵さんが間違っていたと、
言っても、おかしくないのに、それ自体を否定するつもりは無い。と言ったのだ。
「貴様は・・・。全く、グロバス様が気に入る訳だ・・・。」
 健蔵さんは、士の優しさに、涙を流す寸前だった。
「さーて、敵は、ご丁寧に、待ってるからな。突入するか。」
 士は、『索敵』のルールで、確認しながら、扉に手を掛ける。
 そして、扉を開けた。すると、そこには優雅な仕草をする男性が立っていた。
「これはこれは、この支部に、良くぞ来た。」
 この状況が分かってないのだろうか?余裕な応対をしている。
「中々、良い度胸だな。お前が『創』か?」
 ゼハーンさんが尋ねる。この男がボスなのだろうか?
「いや、違う。この男は、『鏡』・・・。アリアス=ミラーだ。」
 士は、『鏡』こと、アリアス=ミラーの顔を見た事がある。
「アンタが、アリアス・・・。」
 ジャンさんは、緊張する。『ダークネス』のナンバー2にして、ボスが、絶対な
る信頼を置いている男。それがアリアス=ミラーだ。実力、風格は、他の幹部と比
べても、飛び抜けている。
「ウチの両親を殺したのも、アンタだね!」
 アスカは、恨みを込めた眼で、アリアスを睨む。
「私の両親も、貴方ニ・・・。」
 そうだ。『鏡』は、私の両親を殺した男だ。
「ほう・・・。確か、『オプティカル』の元ボスと『軟派師』。そして、そこに居
るお嬢さんは、ファン家の・・・。懐かしいな。」
 アリアスは、思い出したようだ。しかし私達と、随分と深い係わり合いがある男
だ。この男は、『ダークネス』の中心人物って実感が湧く。
「そして、貴様が『司馬』か。『創』様を蔑ろにした罪は、重いぞ!」
 アリアスは、士に向かって、信じられないような殺気を出す。
「私を忘れては困るな。このハイム=ゼハーンド=カイザードをな!」
「・・・まさか、ハイム家の当主まで来るとは・・・。そうか。私の最初の殺しの
相手の息子か。お前達が、手を組んでるのは、偶然では無さそうだな。」
 ゼハーンさんとアリアスも、因縁がある。
「そして、伝記の魔族殿まで、そちら側か?困った物だ。」
 アリアスは、健蔵さんに侮蔑の眼差しを向ける。
「貴様の配下になった覚えなど無い。ワイス様を蘇らせる約束があったから、貴様
の言う事を聞いたまでだ。」
 そうだ。健蔵さんは、別にアリアスの部下では無い。
「だが、そこに居ると言う事は、その約束も、無い物として良いのだな?」
 アリアスは、揺さぶりを掛ける。
「・・・ワイス様を蘇らせたいのは、変わらん。」
 健蔵さんは、父親であるワイスとの出会いを、何よりも大切にしている。
「だが!!俺が隷属して蘇生させたとあっては、ワイス様は嘆き悲しまれる!!俺
は、魔族としての誇りを忘れん!!」
 強いなぁ。健蔵さんは強い。本当は、今すぐにでも、蘇らせたいに違いない。だ
けど、それを押し殺してまで、魔族の誇りを示すつもりだ。
「全く。私には理解出来ぬな。だが、敵対するのならば、仕方が無い。」
 アリアスは、何か黒い物を取り出す。何だアレは?
「あれは、『闇の骨』!!」
 士は、知っているようだ。『闇の骨』って、伝記で出て来た、魔界の魔族を、召
喚するための媒体!?
「あれ程、大量に持っているとは・・・。貴様!!」
 健蔵さんも、警戒している。と言う事は、相当な量に違いない。健蔵さんは、危
険だと判断したのか、アリアスに襲い掛かる。
 ギィン!!
 アリアスは、健蔵さんの剣を受け止めて見せた。
「物騒だな。まだ儀式の途中なんだ。邪魔しないで貰おうか。」
 アリアスは、『闇の骨』を、そこら中にバラ撒く。すると、この部屋全体が光り
だした。どうやら、巨大な魔方陣が書かれていたようだ。
「何も、伝記の頼るだけが、脳では無いのだ。」
 アリアスは、そう言うと、健蔵さんから離れる。その間に、召喚に応じた魔族が
姿を現した。
「ちぃ!!」
 健蔵さんは、機会を逃した事に、悔やんでいるようだ。
 ウォォォォォォォォン!!!
 物凄い唸り声が聞こえた。誰を召喚すると言うのだろうか?
「な、何だと!?こ、これは・・・。」
 健蔵さんは、驚きの顔を見せる。どう言う事だろう。
「何故、これ程の瘴気を・・・。一体誰が出てくると言うのだ・・・。」
 健蔵さんが、警戒する程の魔族が出てくるって言うの?
 そして、少し経つと、栗色の毛で、映えるような長い髪を持った魔族が、こちら
を見る。そして、アリアスの方を見た。
「余を呼んだのは、貴公か?」
 その魔族は、アリアスを見て、判断する。
「そうだ。お前の名を聞こう。」
 アリアスは、満面の笑みを浮かべる。
「余は、神魔ケイオス。召喚したのは、貴公なのだな?」
 ケイオスと名乗る魔族は、アリアスをギロリと睨む。
「神魔?貴様、ワイス様を差し置いて、神魔と名乗ると言うか!!」
 健蔵さんは、怒っていた。健蔵さんにとって、神魔とは、グロバスさんと、ワイ
ス以外に、居ては、ならない物なのかも知れない。
「聞き分けの無い、伝記時代の魔族が居るのでね。お前の召喚をしたまでだ。」
 アリアスは、健蔵さんを指差して、勝手な事を言う。
「ほう。召喚に応じた者に、反旗を?それに、ワイスと来たか。随分と古い魔族の
名を言うのだな。ま、伝記時代の魔族では、余の名前を知らなくて当然か。」
 ケイオスは、凄い風格を感じた。何だろう。この威圧感は・・・。
「貴様ぁ!!ワイス様への侮辱は許さぬ!!」
 健蔵さんは、大剣を取り出すと、ケイオスに向かって突進して、振るう。
 キィン!
 ケイオスは、その剣を、手の甲で受け止める。それも、訳も無くだ。
「良い太刀筋だ。余の部下に欲しいくらいだ。」
 ケイオスは、余裕な顔で、そのまま健蔵さんごと弾き飛ばす。
「フム。だが、お前は、まだ力が戻ってないようだな。無論、余もだが。」
 ケイオスは、健蔵さんの力を図っていた。
「・・・貴様、何故、それを・・・。」
 健蔵さんは、歯噛みする。どうやら、力が完全に戻ってないのは、本当の事らし
い。しかし、相手もだと言う。恐ろしい話だ。
「そして、そこの5人、人間にしては、とても楽しみな力を持っているようだ。」
 ケイオスは、私達を見た。そして、士に注目する。
「ほう・・・。先の神魔王の魂を感じる・・・。貴公、面白いな。余の部下になら
ぬか?余は、神魔王を継ぎし者、ケイオス=ローンだ。」
 ・・・ケイオス=ローン?どこかで聞いたような・・・。
「お前、『魔人(まびと)』レイリーの息子か?」
 士は、グロバスさんと交信を取ったのか、尋ねてみる。と言うか、レイリーの息
子って・・・。
「余の父を、ご存知か。確か、貴公の部下だったか。・・・父は、力を追い求めて、
走りに走って力尽きた。余は、その姿勢を評価している。」
 ケイオスは、否定しなかった。と言う事は、本当に・・・。
「貴様、『魔人』の息子だったのか・・・。」
 健蔵さんも覚えているようだ。
「貴公等の活躍は、魔界でも轟いていた。それはそれは、凄い信仰だったよ。だが
その後、魔界は、貴公等を失って、覇権争いが起きた。その、想像を絶する戦いに
勝利したのが余だ。それから、900年間、魔界を守り通してきた。」
 ケイオスは、最初は、覇権争いをする一人だったのか。
「最初は、それこそ、貴公等の足元にも及ばぬ『魔族』であった。その時の覇権を
握っていたのは、魔神レイモスの息子、デイビッドと、その妹であるエイハ。その
力は、貴公等には大した事が無かっただろうが、余にとっては強大であった。」
 ケイオスは、その時の様子を、思い出したのか、目を瞑る。
「だが、余は研鑽を惜しまなかった。そして、100年が経った頃、余は、誰にも
負けぬ力を手に入れた。そして、這い上がり、蹴落として、今の座を、手に入れた
のだ。そして、魔界の王の座を、守り通してきた・・・。」
 ケイオスは、最初から強かった訳では無い。それこそ、取るに足らない存在だっ
たに違いない。しかし、勝ち取ったのだ。魔界の王の座を。
「余は、現在の魔界に於いて、神魔と呼ばれている。『神液』の試練を突破したか
らだ。だから、このような力も使える。」
 ケイオスは、右手で瘴気を出し、左手で神気を扱う。
「伝記での『無』の力は、こうであったか?」
 ケイオスは、それを真ん中で合わせる事で、『無』の力を作り出す。
「貴様、そこまでの力を持っていながら、このような人間に従うのか!」
 健蔵さんは、ケイオスの姿勢が気に入らない。
「そんなつもりは、毛頭無い。だが、協力はしようと思っている。」
 ケイオスは、臣従ではなく、協力を申し出ていた。
「ケイオスとやら、何故だ?お前程の男なら、手伝う必要など無い筈だ。」
 士は、ケイオスの力を認めていた。それは、グロバスさんも認めたと言う事だ。
「面白くなったからだ。余は、このまま魔界に居ても、詰まらぬと感じている。敵
が居ないのだよ。余の言う事に従う者ばかりになってしまったのだ。余の力を見せ
付けた結果かも知れんがな。だが、ここはどうだ?力ある者が溢れておる。」
 ケイオスは、魔界に居ても、詰まらなくなってしまったのか。
「それに、魔界では、いつもソクトアの事が、引き合いに出されていた。魔界の者
が、口を揃えて言うのだ。『ソクトアの覇権を取れたら、貴方は、全ての覇者にな
れる。』とな。余の生まれ故郷でもあるソクトア。段々興味が湧いてきてな。」
 ケイオスの生まれ故郷?ケイオスは、ソクトアで産まれたのか・・・。
「余は、魔界を統べる為に、故郷を捨てた。だが、それが成った暁には、ソクトア
に戻り、試してみようと思っていた。そんな中、この者の召喚があった。だから、
応じてみたのだ。久し振りに、楽しい余興が始まりそうで、余は浮かれておる。」
 ケイオスにとって、ソクトアは生まれ故郷でありながら、力を試す場でもあるよ
うだ。何て勝手な・・・。
「呼ばれたからには、余は、力を振るうと決めている。魔界には無い緊張感を、貴
公等は、持っていよう?見せてくれまいか?」
 ケイオスは、そう言うと、力を解放する。凄い力だ・・・。まだ召喚されたばか
りなのに、この力とは・・・。
「貴公等、全員鈍くないようだ。余の力を、全員が感じ取っている。」
 皆、ケイオスの凄まじい力を感じ取っていた。
「貴様、グロバス様や、ワイス様の為し得なかった事を、為そうとしているのか?」
 健蔵さんは、ケイオスの思惑を感じ取っていた。
「そうだな。余の王国を築くのも悪くない。魔界では、少々飽きてきた所だ。」
 ケイオスは、余裕だった。恐ろしい敵の誕生だった。
「そのような真似は、辞めてもらおうか。」
 アリアスは、口出ししてきた。
「今の人間は、度胸があるのだな。余に対して、ここまでの口が利けるとは。」
 ケイオスは、楽しんでいた。魔界では、誰も逆らわないのだろう。
「『ダークネス』のために尽力して貰うのは、構わん。だが、お前の王国を作る事
など許可せぬ。『創』様には、従って貰う。」
 アリアスは、飽くまで『ダークネス』が中心なのだろう。
「ハッハッハッハ!!貴公、面白いな!この神魔ケイオスを呼び出して、その態度、
その不遜さ、評価に値する!」
 ケイオスは、心から楽しそうに笑う。
「フン・・・。では、ここは頼んだぞ。」
 アリアスは、天竺の裏にある通路に入る。
「逃がすかよ!!」
 ジャンさんが、ナイフに『爆破』のルールを込めて、天竺に向かって放り投げる。
「ヌン!」
 それを、ケイオスが、握り潰す。手の中で爆発したが、全く意に介していない。
「一応は、召喚された恩がある。余を倒してから追うのだな。」
 ケイオスは、天竺の前に立ちはだかる。
「『索敵』のルール!!」
 士は、『索敵』のルールで追おうとする。しかし、発動しなかった。
「チィ!今日は、使い過ぎたか!!」
 そうだ。士は、健蔵さんとの闘いもあり、さらに常に『索敵』のルールで見張っ
ていた。だから、疲れが出ていて、ワープする能力が、薄れてきてるのだ。
「ならば、皆で掛かって、ここを通るまで!!」
 ゼハーンさんは、剣を構える。しかし、ゼハーンさんこそ、『荒神』との闘いで
重傷を負って、傷は治したが、疲れが出ている筈だ。
「皆、疲れが出てるネ・・・。」
 私だってそうだ。ここまで来るのに、『ルール』を使いまくった。その疲れが出
ている。
「・・・士。俺との闘いの疲れが出ているのだな?」
 健蔵さんは、自分のせいだと思っているらしい。
「少々予定が狂っただけだ。気にするんじゃない。」
 士は、健蔵さんのせいに、したくないのだろう。
「フン。まぁ良い。おい。若造。貴様の神魔とやらの力、俺が見極めてやる。」
 健蔵さんは、ケイオスの前に出る。
「だから、この者達を、ここへ通せと?」
 ケイオスも、健蔵さんの思惑に、気が付いているようだ。
「そうだ。その代わり、貴様が望む、全力で相手してやる。」
 健蔵さんは、ケイオスと、全力で闘う代わりに、ここを通せと言っているようだ。
「悪くない。だが、一応契約もある。余を退かしたくば、力で押し通るが良い。」
 ケイオスは、飽くまで力で通れと言った。それが、魔族の掟なのだろう。
「仕方が無い。ならば、そうさせてもらう!!」
 健蔵さんは、さっきとは、比べ物にならない程の瘴気を出すと、ケイオスに飛び
掛っていく。凄い。まだ全力じゃ無かったんだ!
「ほう・・・。良い力だ。余と争うに相応しいな。」
 ケイオスは、健蔵さんの力に押されて、天竺から離される。
「行け!!!」
 健蔵さんは、今がチャンスだとばかりに、促す。
 すると、皆は、振り返らずに天竺の方へと向かう。私も走った。そして、天竺の
奥へとある通路に入る。その瞬間、声が聞こえた。
「これで、全力を出してくれるのだろうな?」
 ケイオスの余裕そうな声が聞こえる。まさか・・・わざと!?
「俺は約束は守る。この神魔剣士の力、存分に見せてやる!!」
 健蔵さんは、ケイオスに、闘いを挑むようだ。
「け、健蔵さン!!」
 私は、天竺越しに、叫ぶ。
「行け!!貴様等の目的を果たせ!!良いな!!」
 健蔵さんは、振り返るなと言った。・・・仕方が無い。
 私達は、目を瞑りながら、天竺の奥へ、走り出していった。


 ご先祖は、命を懸けていた。
 生き返ったばかりだと言うのに・・・。
 何で、俺の周りには、命を懸ける奴ばかりなんだろうな。
 ご先祖は、ケイオスに勝てると思っていない。
 俺が見た感じでも、ケイオスの方が、力が上にしか見えなかった。
 ご先祖は、確かに並大抵の強さじゃない。
 だが、ケイオスの力は、底が見えなかった。
 なのに、ご先祖は、突撃する事を選んだ。
 俺達を先へ行かせる為?
 いや、違う・・・。
 あれは、命を懸ける場所を、探していたのだ。
 まるで、今の時代に生きた証を見せるかのようにだ。
 馬鹿が!
 これから生きないで、どうするんだ!
 だけど、俺には止められなかった。
 こうしないと、アリアスを追い掛けられなかったからだ。
 非情だと言われても、俺は構わない。
 それに、戻って加勢する事を、ご先祖が望んでいなかった。
 ならば、俺達は、先に進むしかない。
 アリアスを・・・そして、『創』を追うんだ!!
 『ダークネス』を追い詰めるのが、俺達のやる事だ。
(・・・健蔵・・・。)
 気を落とすな。グロバス。ご先祖が望んだ事だ。
(健蔵は、我とワイスを差し置いて、神魔を名乗ったケイオスが、許せなかったの
だろうな。・・・1000年前を、無にされたくなかったのだ。)
 時代の証明か・・・。ご先祖の拘りそうな事だな・・・。
 それにしても、この通路、外に繋がってる訳じゃ無さそうだ。
 どこか、隠し部屋にでも繋がっているのか?
 しばらく行くと、また、扉があった。
「あそこか!」
 俺は、『索敵』のルールを発動させる。・・・敵が一人・・・。やはりアリアス
か?奴は、この部屋に逃げ込みたかっただけか?
 俺達は、扉に手を掛けると、一気に開け放つ。
 すると、真ん中にフードを被った男が立っていた。
「騒がしいな。お前達が、巷で有名な『司馬』か。」
 フードの男は、こちらを睨み付ける。雰囲気が、アリアスとは違う。アリアスは、
何処に消えたんだ?
「ご存知のようだな。アンタが『創』か?」
 俺は、フードの男に尋ねてみる。
「その通りだ。私は、『ダークネス』の支配者にして生みの親、『創』である。」
 やはりそうか・・・。しかし、コイツ、何処から入ってきたんだ?
「アンタが・・・。ウチの両親を!」
 アスカは、両親の仇だけあって、怒りを剥き出しにしている。
「お前は、元老院の一人なのか?」
 ゼハーンが尋ねる。ゼハーンにとっては、大事な問題だ。
「『オプティカル』の元ボスと、伝記の末裔が来たか。」
 『創』は、俺達の様子を見ていた。
「・・・それより、アリアスは、何処に消えた?」
 俺は、そっちの方が気になっていた。
「アリアスは、我が右腕。まだ、色々働いてもらわねばならぬ。居場所を言う訳に
は、いかんな。」
 そう簡単には、いかないか。
「しっかし、余裕綽々ってのが、気に入らねーな。」
 ジャンは、『創』が落ち着いているのが気に入らないようだ。
「何か、あるかも知れないネ。」
 センリンは、警戒している。コイツの持つ雰囲気が、そうさせているのだろう。
 しかし、何だか違和感がある。何だろうか?
「散々我が組織を愚弄した『司馬』よ。お前達には、死をくれてやる!」
 『創』は、並々ならぬ殺気を出す。やはり、おかしい。
「この部屋・・・。外に抜けられぬな。」
 ゼハーンも、何かが、おかしい事に気が付いたようだ。
「どうしたんだ?ゼハーンさん。」
 ジャンは、ゼハーンが、何かに気が付いている事を察知する。
「この部屋、隔離されているのに、何処にも出口が無いヨ。」
 センリンも、冷静になってきているようだ。
「見た所、『転移』が使われた形跡も無いな。」
 俺は、『索敵』のルールで見張っていた。だから、『転移』で誰かが入れ替わっ
たのなら、それを感じ取る事が出来る筈だ。
「どう言う事だい?」
 アスカは、少し混乱気味だ。
「お前、アリアスか?」
 俺は、『創』に話し掛ける。アリアスが、一計を案じているのか?
「そう思うか?ならば仕方があるまい。」
 『創』は、フードを脱いだ。すると、アリアスとは、顔付きが違う男が、姿を現
す。アリアスじゃなかったのか?
「この男が・・・『創』か!」
 ジャンも緊張している。しかし、別人なら、アリアスは、何処に消えたんだ。
 ・・・ま、まさか・・・。いや、そんな事が・・・。
(そのような事、人間に起こりえるのか?)
 グロバスも、俺の仮説に驚いているようだ。
「違うな・・・。だが、まさかとは思うが・・・。」
 俺は、自分に起こった事を体験している。だから分かる。違和感の正体は、同族
の臭いがしたからだ。
「お前、既に死んでいるな?」
 俺は、『創』に問い掛ける。そう。『創』は既に、この世に居ないのだ。
「目の前に居る私を見て、何を言うのか?」
 『創』は、鼻で笑う。しかし、俺は怯まない。
「だから、アリアスの体を借りているんだろ?」
 そうだ。俺だからこそ分かる。この違和感は、グロバスに体を預けた時の、俺に
似ているんだ。
「・・・何を根拠に、そのような馬鹿な事を言う。」
 『創』の口調が変わった。やはり、俺の思った通りか。
 なら、見せてやるしかないな。今日は、3回目だが・・・。行けるか?
(変わるだけなら、問題ないんじゃないか?)
 そうか。なら、アンタに体を預ける。
「見せてやるよ。その根拠って奴をな!」
 俺は、グロバスに体を預ける。
 ・・・
 我は、ここに体現する。だが、今日の士は疲れている。すぐに返さなくては、い
かんな。無理をさせるものでは無い。
 ・・・
 ふう・・・。短い間なら、まだ行けるようだな。あまり慣れたくないんだがな。
「今の、俺の変化が、お前に起こっていると言ってるんだ。」
 俺は、当事者だからこそ、アリアスに起こっている変化が分かる。
「・・・フフフフフ。フハハハハハ!!!」
 この声は・・・アリアス!!やはり!
「良く気が付いたな。さすがは『司馬』よな。」
 急に雰囲気が、アリアスに戻る。やはり、『創』の魂が、アリアスに、憑いてい
たのか!
「俺の『索敵』のルールに、誰かが入ってくる様子が無かった。この部屋は、お前
しか居なかった筈なんだ。なのに、別人が居た。ならば、入れ替わったと考えれば、
自然なんだよ。まさかとは、思ったがな。」
 そうだ。俺だからこそ分かる。『索敵』のルールを持ち、グロバスが憑いている
俺だからこそ、気が付けたのだ。
「まさか・・・士と同じようニ?」
 センリンは、信じられないようだ。
「実際の人間が憑くとは・・・。」
 ゼハーンも信じ難いようだ。そう。俺のように魔族が憑いたのでは無く、人間が、
憑くと言うのは、信じ難い想いの念が、必要な筈だ。
「『創』様は、『オプティカル』との抗争の際に、胸を刺されて死んだ。・・・そ
この女の親にな!」
 アリアスは、アスカを睨み付ける。相当強い恨みを持っているようだ。
「ウチの両親が・・・。『創』を倒していたんだね・・・。」
 アスカは、両親が犬死では無い事を知る。
「俺は、願った!!このまま『ダークネス』を潰す訳には行かぬと!その為なら、
この体は要らぬと!!」
 そうか。アリアスは、『創』を崇拝していた。その崇拝が、『創』と魂で繋がる
と言う奇跡を起こしたのだ。
「そして、『創』様に全てを捧げる事が出来た!私は、『創』様の魂を前面に押し
出している時は、『創』様になれた。」
 グロバスと違って、『創』は、元々人間だ。俺みたいな極端な変化が無い分、バ
レなかったのだろう。顔付きだけが変わるだけだったのだ。
「お前ならば知ってる筈だ!答えよ!!お前は、元老院の一味なのか!!」
 ゼハーンさんが、尋ねる。そうだ。その為に、ここに来たんだ。
「如何にも。効率的に人斬りを普及させる為、セントより頼まれたのだ。」
 アリアスは、誇らしげに答える。なる程な。
「ならば、我等を狙うのは何の為だ!セントが伝記の末裔を付け狙うのは、何の為
だ!伝記の末裔と言うだけで、根絶やしにしようとする理由を聞かせろ!」
 ゼハーンさんは、心の叫びを上げる。
「分からぬのか?ゼロマインドが、何故500年後に現れなければ、ならなかった
のかを考えれば、すぐに分かる事だと思うがな?」
 アリアスは、含み笑いをする。どう言う事だ?
「あの時点で、クラーデスが勝っていれば、どうなっていたかな?」
 ・・・そうか・・・。そう言う事だったのか・・・。あの時点で、クラーデスが
勝っていれば、『無』の力は、崇められていた事だろう。そうすれば、ゼロマイン
ドは、もっと早くに生まれていたのだ。しかし、伝記の英雄達が、勝ってしまった
為、誕生は、困難を極めたのだ。
「そんな・・・自分の為だけに、我等を根絶やしに、しようとしたのか!!」
 ゼハーンは、怒っていた。逆恨みも良い所だったからだ。その逆恨みのせいで、
数々の不幸が起き、ゼハーンは、妻を死なせてしまったのだ。
「ゼロマインドは、生きる為に必死なのだ。その存在を否定しようとした貴様等を、
野放しにする訳が無い。」
 そうだ。ゼロマインドは、500年前は、大した事の無い存在だった。それは、
『無』の力で勝利したのに、その力を封印しようとした英雄達のせいだ。自身を否
定されたゼロマインドは、息も絶え絶えだったのだ。
「自身の存在の為か。・・・気持ちは分からんでも無い。」
 俺も・・・いや、人間とて、自身の存在を確かめる為、日々奔走している。
「士!」
 ゼハーンは、俺を睨む。
「早まるなよ。気持ちが分からんでも無いが、賛同はしない。俺も人間なんでな。」
 そうだ。俺は人間なので、ゼロマインドに賛同するつもりなど無い。
「結局、お前達は、元老院とは、分かり合えぬ存在よな。」
 アリアスは、それを確かめる。当たり前だ。元老院など、分かり合いたくも無い。
「私は、まだ『創』様と、そして元老院と、繋がって無くてはならん。この秘密を
知った貴様等は、死んで貰う事になる!」
 アリアスは、『創』を前面に押し出す。すると、顔付きが変わった。
「まさか、私と同じような変化がある、存在が居るとはな。」
 『創』が、俺を睨む。それは、俺の台詞だ。
「てめぇを倒さないと、姐さんが安心出来ねぇ!悪いが覚悟しな!」
 ジャンが、投げナイフを取り出して、『爆破』のルールを発動させる。そして、
それを『創』に投げ付けた。
「下郎。この私に飛び道具など、効かぬわ!」
 これは、『ルール』!『創』も『ルール』を使えたのか!
 すると、ジャンの投げナイフは、『創』の体を避けていくように、すり抜ける。
後ろが爆発したが、『創』は、既に移動していた。
「ど、どうなってやがる!?」
 ジャンは、狙いが外れた事に、驚いていた。
「フッ。貴様等には理解出来まい。」
 『創』は、剣を構える。それに対して、ゼハーンが、対応に当たる。ゼハーンは、
『創』の剣を、横に縦にと、弾きながら、バランスを取る。
「中々良い腕だな。さすがは、伝記の末裔。」
 『創』は、余裕で対応している。これはやばいな。ここまでの腕を持っていると
は・・・。『ダークネス』のボスだけある。
「だが、この私の前では通用せぬ!」
 『創』は、また『ルール』を発動させる。すると、ゼハーンが弾こうとした剣が
すり抜けて、ゼハーンは、足が斬られた。
「うぐっ!!」
 ゼハーンは、足を押さえて飛び退く。
「ゼハーンさん!チィ!!」
 ジャンは、ナイフを再び取り出すと、『創』に投げ付けた。
 しかし、また『創』の体には当たらなかった。
「フハハハハ!!無駄だ!無駄よ!!」
 『創』には、全く攻撃が当たらない。しかも、相手の攻撃は、弾く事も出来ない。
どうなってやがる・・・。どんな能力なんだ。
「やらせないよ!!」
「タァ!!」
 アスカとセンリンが、2人同時に襲い掛かる。しかし、さっきと同じで、全く攻
撃が当たらない。2人共、信じられないようだが、諦めずに攻撃する。
「愚か者共め!この私に逆らう事自体が、罪なのだ!無駄なのだよ!」
 『創』は、闘気を開放する。そして、その力で、全員を吹き飛ばした。何て闘気
だ!恐ろしい腕前だ。皆、肩で息をしている。
「ウチは・・・仇を・・・取るんだ!!」
 アスカは、それでも動こうとする。
「まだそんな事を・・・。この私に、手を掛けた奴の子だったな・・・。」
 『創』の眼が怪しく光る。
「恨みがあるのは、寧ろこっちだ。この害虫めが!」
 『創』は、剣を逆手にすると、アスカに向かって剣を振り下ろす。
 ザン!!
 嫌な音と共に、剣を突き刺した音が聞こえた。しかし、それはアスカに、届いて
いなかった。その前にジャンが出てきて、素手で剣を受け止めたのだ。
「ジャ・・・ジャン!!」
 アスカは、ジャンが死に物狂いで剣を受け止めてるのを見て、呆然とする。
「姐さんを、殺させて堪るかってんだよ!!」
 ジャンは、歯を食いしばりながら、剣を受け止めている。受け止めている手から
は、夥しい程の血が流れ出ていた。
「なら、貴様ごと、死んでもらおうか。」
 『創』は、腕に力を入れる。
「やらせるかよぉ!!」
 ジャンは、受け止めていたが、もつ訳が無い。次第にジャンの腹に剣が届く。
「止めて!!止めてよぉ!!」
 アスカは、動けない体を引きずって、ジャンの前に出ようとする。
「姐さん・・・。駄目・・・だぁ!!」
 ジャンは、踏ん張っているが、アレではもたない。
「させないヨ!!」
 センリンは、棒で体を支えて、『創』に襲い掛かる。しかし、『創』には、棒が
届かない・・・。何せ、『創』には、あの能力が・・・。
 ガツッ!!
 ・・・え?当たった・・・だと?
「ヌゥ!!?」
 『創』は、驚いていた。何故当たったか、分からないようだ。
「・・・貴様、危険なようだな!!」
 『創』は、ジャンに向けた剣を引き抜くと、フラフラになってるセンリンに剣を
向ける。いかん!
「ぬおおお!!!」
 俺は、『創』の剣を、気合で弾く。冗談じゃない。センリンに手を掛けられて堪
るか!しかし、こっちも中々、力がはいらねぇ・・・。
「『司馬』まで、無駄な足掻きを続けるようだな!!」
 『創』は、激高する。・・・冷静だ・・・。冷静になれ・・・。相手は逆上して
いる。なら、俺が冷静になって対抗すれば、必ず勝てる筈だ。この前みたいな失敗
は、犯して堪るか。
 アイツの能力だ。それを解明すれば・・・今の俺でも勝てる筈だ。最後の力を溜
めて、奴にぶつければ・・・。
 待てよ・・・。俺は、奴の『ルール』は、何か空間を捻じ曲げる能力だと思って
いた。空間を歪めて、来た物を躱す。だが、そこまで強力な『ルール』を、あんな
連発出来る物だろうか?いや・・・。俺が、そうだから分かる。便利な『ルール』
は、とんでもなく疲労が来る。そんな凄まじい『ルール』なら、もつ訳が無い。増
して、その状態で、この全員を相手する事自体、体に負担が掛かる。精神力は、か
なりの物があるだろうが、いくら『創』だからと言って、人間の精神力で、全員に
そんな強力な『ルール』を連発しながら、圧倒出来るか?
 なら、どんな『ルール』だ?・・・空間では無いとすると、強力な風でも操るの
か?・・・そうとも考え難い。それなら、強力な風の煽りが、俺達にも感じる筈だ。
 では・・・む・・・。そ、そうか!!もしや!!
「ぬぅぅぅ!!!」
 俺は、膝に力を入れる。そして、奴を見据える。やっと、分かったぞ・・・。
「士!!まだいけるか!?」
 横でゼハーンも、気合で起き上がってきた。
「まだ、くたばる訳には、いかん!!」
 ゼハーンは、まだ眼が死んでいない。行ける!
「生意気な奴らめ。この私の能力を見て、まだ立ち上がるか!」
 『創』は、まだ、自分の能力に自信があるようだ。
「ゼハーン。耳を貸せ。」
 俺は、ゼハーンに秘策を授ける。俺の考えが正しければ、ゼハーンならば、行け
る筈だ。伝えると、ゼハーンは、驚いていた。
「本当に、それで、行けるのか?」
「ああ。と言うか、それしかない。」
 俺は、ほぼ確信を持っていた。
「お前を信じるか。・・・それにしても、教訓が生きているようだな。」
 ゼハーンは、この前の俺の失敗の事を言っている。中々耳の痛い事を・・・。
「耳が痛い事を言うな。勝つ為だ。行くぞ!!」
 俺は、ゼハーンと共に『創』に突っ掛かっていく。
「馬鹿め。ただ突っ込むだけでは、この私に勝つ事など出来ぬ!」
 『創』は、『ルール』を発動する。俺の予想が正しければ・・・。こうする事で、
行ける筈!俺は、ゼハーンと共に、目を瞑った。
 ヒュン!!!
 聞こえた。ここだ!!
 キィン!!
 俺は、確かな手応えを感じた。やはり、思った通りだ。コイツの能力は、空間を
捻じ曲げるような強力な物では無い!ゼハーンの方も、半信半疑だったようだが、
剣を弾いていた。やはり、間違いない!
「貴様等、何故弾ける!!」
 明らかに『創』に焦りの色が出る。
「・・・そこだ!!」
 俺は、目を閉じたまま、気配だけを察知して、瘴気弾を打ち出す。
「ぬああああ!!」
 『創』に当たった。俺の予想は当たっていた。
「見抜いたぞ。お前の『ルール』をな!!」
 そうだ。コイツの『ルール』は、空間を捻じ曲げる事でも、風を操るような強力
な物では無い。
「まさか、幻覚を見せる『ルール』だったとはな。」
 そう。物は使いようだ。単に狙いが狂っていたのだ。しかし、タネさえ分かれば、
こちらの物だ。『幻視』のルール・・・に間違いないだろう。
(そう言う事か。我も騙されていたとは・・・。)
 分かっちまえば、こっちの物だ。
「見破られるとはな。確かにその通りだ!だが、その体で何が出来る!」
 『創』は、俺達が限界だと言う事を、悟っている。
 冷静になれ。俺は、もう力を放出する関連の技を、繰り出す事は出来ない。なら
ば、俺に出来る限りのサポートをすれば良い。
「ゼハーン。お前に任せる。」
 俺は、それだけ言う。すると、ゼハーンは、それだけで俺の考えを見抜いた。助
かる。そして、目でセンリンに合図をする。
「出来るか?」
 俺は、それだけ聞く。すると、センリンは、強く頷いてくれた。
「行くぞ!!」
 俺は、剣を振るいに行く。すると『創』は、俺の剣を弾こうとする。
 キィン!!
 俺は、剣を弾かれて思わず剣を落としてしまう。すると、『創』は、チャンスと
ばかりに、俺に追撃しようとする。・・・掛かった!!
 俺は、その瞬間、飛び退く。こう来ると分かっていたからだ。
 ザン!!!
 センリンが、渾身の力で、棒を地面に突き立てる。すると、『創』の目の前に壁
が出来る。いや、地面を抉って壁にしたのだ。センリンの得意技だ。
 ヒュン!!!
 俺は、そこに目掛けて、針を飛ばす。
「グッ!!」
 『創』を拘束する。『影縛り』だ。俺の得意技だ。『創』は、完全に不意を突か
れたのか、『影縛り』を破るのに、時間が掛かっていた。
 そこに、ジャンのナイフが飛んでくる。『創』は弾き飛ばしたが、その瞬間に爆
発した。『爆破』のルール!アイツ、あの体で『爆破』のルールを使うなんて!
「ぬぅああ!!」
 『創』は怯む。しかし、それでも尚、『影縛り』を破ろうとしている。そこに、
アスカが『舞踊』のルールを発動させて、鋭い攻撃で邪魔をする。
 ザシュ!!!
 ゼハーンが、間髪入れずに『創』の足を斬り飛ばす。
「うぐあああああ!!」
 『創』は、片足になったが、剣を支えに立っていた。
 ジュブ・・・。
 そこに、俺の一撃を食らわす。そう。俺は、最後の力を振り絞って、『索敵』の
ルールで、『創』の背後にワープして、心臓に剣を突き立てた。
「あ・・・。ぐ・・・。」
 『創』は、信じられないような顔になる。
「この、『創』が・・・。そんな、馬鹿な!!馬鹿な!!!」
 『創』は、口から血を吐き出すと、それ以外にも、何かが飛び出る。
「・・・あれが、『創』の魂か・・・。」
 ゼハーンは、『魂流』のルールで『創』の魂が出て行ったのを確認する。絶叫を
上げながら、段々と消えていった。
「うぐ・・・。」
 呻き声を上げる。・・・コイツは、もうアリアスか?
「『創』様・・・。また・・・お別れ・・・ですか?」
 アリアスだった。もう虫の息である。
「・・・阿呆。お前、『創』しか、頭に無いのかよ。」
 俺は、やり切れなかった。コイツは、人生を全て『ダークネス』に捧げてきた。
最初は、ゼハーンの親父さんを殺す事に始まり、駆け抜けて、駆け抜けて、『ダー
クネス』を大きくしてきた。そして、ついには『創』に体を捧げて、この様だ。
「私・・・は・・・後悔・・・し・・・ない。」
 アリアスは、微塵も後悔していなかった。
「夢・・・だった・・・。・・・『創』・・・様に・・・なる・・・のが。」
 どこまで純粋な奴だ。恐らく、『創』に命令されたら、容赦無かったのだろう。
そして、最後は『創』になりきった。何て奴だ・・・。
「お・・・前・・・達・・・。・・・私達・・・を・・・。忘れ・・・るな!!」
 アリアスは、目を見開く。もう死を悟ったアリアスは、最期の願いを言う。
「私・・・も・・・そ・・・こ・・・へ・・・。」
 アリアスは、そう言って、上に手を伸ばすと、そのまま手の力が無くなる。
 『ダークネス』のボスである『創』。
 そして大幹部『鏡』こと、アリアス=ミラーは、凄絶な最期を迎えたのであった。



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