NOVEL Darkness 4-7(First)

ソクトア黒の章4巻の7(前半)


 7、門出
 『ダークネス』は、その姿を変えた。
 『創』が死亡したとの報せは、『ダークネス』に激震を与えた。
 それは、人斬り組織にも激震を与えた事と同義であった。
 『ダークネス』は、人斬り組織最大の一派だった。
 その『ダークネス』のボスが死んだと言うのは、一大事だった。
 しかも、大幹部である『鏡』も死んだとの話だ。
 『創』の懐刀である『荒神』まで、やられたと言う。
 しかも、倒した相手が、伝説の人斬り『司馬』だと言う。
 人斬り業界は、その話題で、沸騰していた。
 対抗組織である『オプティカル』も、そのニュースを喜んでいた。
 しかし、目立った動きを見せていない。
 慎重になってると、言う事だろうか?
 実は違う。
 倒した相手が問題なのだ。
 『司馬』は、『オプティカル』にも関わりがあった。
 元『オプティカル』のボスは、『司馬』の仲間になった。
 そして、幹部連中は、悉く『司馬』に『誓約の紋章』を打ち込まれた。
 よって、『司馬』に近付くだけで、心臓がキリキリ痛み出すのだ。
 なので、手放しには喜べない。
 それに、『ダークネス』は、その姿を変えただけで、滅んだ訳では無い。
 絶対なる掟で支配していた『ダークネス』だが、ボスが変わった事で、様変わり
を果たしたのだ。その新しい支配者は、通称『神魔』と名乗っている。『創』が死
んだ後、僅か3日で、『ダークネス』が従わざるを得なかった経緯がある。
 何故か?それは、圧倒的な実力であったと言う。突如、現れた新星で、幹部だっ
た者も、従わなければ殺されると思ったと言う話だ。
 『ダークネス』の衰退を予想した『スピリット』が、『ダークネス』の組織に突
撃を掛けたらしいが、その襲撃を『神魔』は、一人で迎え撃って、撃退したと言う
のだ。その様子を見て、『ダークネス』は、『神魔』に従う事にしたのだ。
 こうして、『ダークネス』は、恐怖の掟に縛られる組織では無く、『神魔』と言
う強力なカリスマが指示を出す、統制組織へと変わっていったのだ。
 掟は撤廃され、各自、自由に依頼を受ける形に変わった。その代わり、切磋琢磨
する事を忘れぬように、意志を統一されたらしい。
 急な改革に、付いて行けぬ者も居た。しかし、『神魔』は、出て行く者を追おう
とは、しなかった。その代わり、敵対するのなら容赦はしないと、強烈な殺気を出
す事で、抜ける者を極力減らそうとしていた。
 掟から混沌へ。『ダークネス』の変革は、始まったばかりだった。


 私達は、無事に帰ってきた。
 誰もが、死を覚悟していた。
 でも、誰も失わずに行けたらと思った。
 だから、最良の結果だったと言える。
 無傷での勝利では無かった。
 しかし、命に別状は無い・・・贅沢は、言えない。
 だが、祝う事など出来ない。
 何故ならば、仲間に入る予定だった人が、帰ってこないからだ。
 あの人は、紛れも無く、仲間だった。
 仲間になる予定だった!
 だけど、勝ち目の無い闘いを挑んで、ついには、消息不明になった。
 闘った相手は、『ダークネス』の新たなボスになった。
 倒された可能性は高い。
 だが、私達は、死んだと思いたくなかった。
 信じる事が、必要だと思ったからだ。
 私達が、何とかハイム=カイザード家に着いたのは、夜中だった。
 それから、私達は、全員医務室に運ばれる形になった。帰ったと言っても、傷だ
らけだったからだ。特に、ジャンさんと士は、重症だった。ジャンさんは、腹を貫
かれていたし、士は、『ルール』を使用し過ぎて、意識不明の重体だったのだ。
 私達も、細かく傷付いていた。私は、吹き飛ばされた時に、壁に頭をぶつけたの
で、後頭部から、血が流れ出ていたし、アスカは、『舞踊』のルールを無理に使っ
たので、筋肉を酷使し過ぎて、その反動が来ていたし、ゼハーンさんも、『神聖薬』
を使ったとは言え、急激な回復の反動が体に負担を与えていたらしく、休暇が必要
だと、アランさんは判断したのだ。
 なので、私達は全員、医務室で過ごす事になった。アランさんが、一生懸命に看
病してくれている。本当に助かった。
「・・・大変でしたな。私も、手伝いたかったな。」
 ショアンさんは、私達から、どんな経緯だったのか、詳しく聞いていた。私達は、
『ダークネス』の支部での話を、詳しく教えてやった。
「駄目だよ。ショアンさんは、ウチが怪我させたような物だもん。その怪我で『創』
と相対するなんて、無謀だよ。」
 アスカは嗜める。まぁアスカの言う通りだ。
「全くです。3回程、出て行こうと、いかれましたね。そのような真似は、怪我を
進行させるだけです。ご勘弁戴きたい。」
 アランさんが、呆れていた。いつも丁寧な、アランさんだが、無茶をすると、結
構しっかり怒ってくる。思い遣りのある人だ。
「アランの言う事は、聞く物だ。こう見えて、怒ると怖いぞ?」
 ゼハーンさんが、冗談交じりに言う。
「して、士とジャンは、大丈夫か?」
 ゼハーンさんが、アランさんに問う。
「ジャン様は、止血も早かったし、内蔵が傷付いては居なかったので、大丈夫でし
ょう。士様は・・・昏睡状態ですが、精神が安定しておられます。目覚めるのは、
時間の問題だと思います。」
 アランさんは、二人の状態を正確に把握している。凄い腕だなぁ。この人が居て
くれなかったら、私達は、オロオロするだけだったかも知れない。
「フム。看病は頼むぞ。」
 ゼハーンさんは、アランさんに頼んでいた。
「お任せ下さい。旦那様。」
 アランさんは、それが自分の仕事とばかりに、胸を張る。
「全員、無事に帰って来れたか・・・。いや、そう言い切れは、しないか。」
 ゼハーンさんは、目を瞑る。そうだ。健蔵さんが、帰って来ないので、全員とは
言い難い。私達は、最後には、健蔵さんを仲間だと思っていた。
「健蔵殿。でしたか・・・。伝記の御仁。見てみたいのですが・・・。」
 ショアンさんは、本当に残念そうだった。
「いつか、会えるヨ。私達が、それを信じなきゃ駄目だヨ。」
 私は、皆に言ってやる。そうだ。諦めちゃ駄目だ。
「そう言って貰えると、励みになる。」
 いきなり隣から声がした。この声は・・・。
「グロバスか?」
 ゼハーンさんは、士の方を見て尋ねた。
「・・・今は、体を借りている。士は、深い眠りについている。」
 この声は、やはりグロバスさんだった。
「士は無事なノ?」
 私は、尋ねずには、いられなかった。
「我が、最初に入った時のような疲れだ。士ならば、克服するに違いない。」
 なる程。確かにあの時は、かなり昏睡状態だった。
「その状態のまま、乗っ取ると言う考えは無いだろうな?」
 ゼハーンさんは、一応のため尋ねてみる。
「見縊るな。我は誇り高き神魔王ぞ。士と共存すると決めた以上、士を第一に考え
る。その誓いを違えるつもりは無いわ。」
 グロバスさんは、肩を震わせて怒っていた。
「済まぬ。性質の悪い冗談であったな。もう私も、そんな事をするとは、思ってな
い。士が心配だっただけだ。」
 ゼハーンさんは、素直に謝る。確かに、グロバスさんは、そんな事をするような
魔族じゃない。誰よりも誇りを大事にしている。
「だが、相当深い眠りであるから、目覚めるのは、明日になるかも知れん。」
 グロバスさんですら、心配しているようだ。
「やはり、『ルール』の使い過ぎによる反動か?」
 そう。士は、『索敵』のルールを、凄い頻度で使っていた。
「そうだ。しかも、最後に限界を超えて『索敵』のルールでのワープを使った。あ
れが、疲労を促進する結果となった。」
 限界を超えての『ルール』の使用。それは、危険な賭けでもあった。しかし、士
は、あそこでキッチリ止めを刺すため、無理をしたのだ。
「無茶し過ぎだヨ・・・。」
 私は、溜め息を吐く。皆を生かすために、無茶をしたのだろう。
「・・・結局、私達の、親の仇を討ったのは、士と言う事か。」
 ゼハーンさんは、最期の止めを、士に譲っていた。
「でも、ウチは、士さんなら納得だよ。」
 アスカは、士が『創』を倒した事に、異論は無いようだ。
「士は、優しいからネ・・・。私達の手を、汚したく無かったんだヨ。」
 私は、気付いていた。あそこで無理をしてまで自分で『創』を討った理由は、私
達の手を汚させたくないからだ。そうやって、自分だけ汚れようとする。
「士は、馬鹿だヨ。・・・大馬鹿だヨ!」
 私は、自然と涙が溢れる。士は、優し過ぎる。優しいから、自分の手を、どんど
ん汚していく。それが、私には、堪らなく悲しい。
「士は優しいか・・・。我も、その意見に賛成だ。・・・この男はな。今まで斬っ
た奴の顔を、全て覚えている。5000人近く居るのにな。」
 え・・・。ほ、本当に!?・・・士は、今まで依頼で斬った者も、全て覚えてい
ると言うのか・・・。何て律儀な・・・。
「士らしい・・・。なら、私達は、その負担を軽くせねばならんな。」
 ゼハーンさんは、それが、自分のやるべき事だと思っている。
「ウチ達は、仲間としてやれる事を、やらなきゃね。」
 アスカも、異論は無いみたいだ。
「士殿には、何度救われたか分からぬ。今度は私達が、恩を返さねば。」
 ショアンさんは、ミサンガを握り締めながら言う。
「士・・・。皆、待ってるんだヨ。だから、起きてヨ。」
 私は、士の無事な顔が見たい。
「う・・・うぐ・・・。」
 皆の声が聞こえてなのか、ジャンさんが呻き声を上げながら、目を覚ます。
「ジャン!!」
 アスカが、真っ先に声を上げる。
「・・・姐さん・・・。ここは?・・・ああ。ゼハーンさんの所か。」
 ジャンさんは、アスカの声を聞いて、安心する。
「結構、長い間、寝てた気がするぜ。」
 ジャンさんは、身を起こす。
「お早う御座います。ジャン様。」
 アランさんが、いつの間にか入ってきた。隙が無いなぁ。
「アランさん。いやぁ、助かったぜ。オレの怪我、結構酷かったっしょ?」
 こんな時でも、ジャンさんは、明るく話す。めげない人だ。
「幸いにも、内蔵に傷が入っていませんでしたので、そこまででは御座いません。
ただ、無茶を為さらない様にして貰うと、助かります。」
 アランさんは、丁寧に答えた。だが、キチンと注意する事は忘れなかった。
「まぁ、オレも、あんな無茶するのは、もう2度とゴメンだし、気をつけるよ。」
 ジャンさんは、頭を掻きながら答える。
「絶対だよ!ウチ、ウチ・・・。」
 アスカは、言葉にならない。心配してたからなぁ。
「姐さんを残して、死んだり出来るかよ。これから・・・だろ?」
 ジャンさんは、嬉しい事を言ってくる。これじゃ、アスカも惚れる訳だ。
「うん・・・。うん!」
 アスカは、涙を流しながら、嬉しそうにしていた。
 後は、士が、元気になってくれればね・・・。
 私も・・・心配してるんだから、早く目を覚ましてよ?


 俺は・・・この手を汚し続けてきた。
 センリンの為、そして仲間の為だ。
 本当に?本当にそうだろうか?
 俺は単に人殺しが、合理的に出来る職業に就いていただけなんじゃないのか?
 それを、センリンの為、仲間の為と言うのは、エゴなんじゃないか?
 俺は、疲れてしまったのかも知れない。
 このまま眠れれば、楽だろうな。
 俺の意識は、沈んでいく・・・。
 俺は、このまま生きてても、人を殺し続けるだけだ。
 こんな人間は、生きていたら、駄目なんだ・・・。
 だから、このまま眠っていたい・・・。
 俺は・・・。
(馬鹿者が!!)
 誰だ?俺を呼ぶ声・・・。これは、グロバス?
(お前は、お前一人の体では無いだろうが!)
 グロバス・・・。そうか。お前も必死だよな。俺が眠れば、お前も自分を出す事
が、出来ないもんな。そりゃ必死にもなるよな。
(見縊るな!愚か者が!!その状態でも、お前の身体を使う事は出来る。だが、そ
のような下種な事を、この我が、するとでも思うのか!!)
 何だ。俺の身体は動かせるのか。なら、お前が使えば良いんじゃないのか?
(ふざけるな!!我は、お前と共に生きると決めたのだ!お前の心が死んだのなら、
ここに居る意味など無い!)
 随分と、俺を買ってるみたいだが、俺は、もう疲れたんだよ。
(その手を汚した事にか?お前は、必要な者以外は、殺して無いのだろう?)
 本当にそうか?俺は只の殺人鬼で、それを、仲間のせいにしているだけかも知れ
ない。そんな男は、生きていても、しょうがないだろう?
(皆は、お前が目覚めるのを待っているのだぞ!!)
 どうだか。俺は、便利な男だからな。
(これを見ても、そんな事が、言えるのか!!!)
 グロバスは、俺に、映像を見せる。いや、これは、今の俺の周りの映像か?
「士・・・。まだ目覚めないヨ・・・。」
 センリンは、目に涙を溜めていた。俺なんかの為に、泣く必要は無いんだぞ。既
に、俺以外のメンバーは、目覚めているようだな。
(昨日までは、皆もベッドで寝ていた。しかし、今日は、もう起き上がって良いそ
うだ。後は、お前だけなんだぞ。士。)
 そう言われてもな・・・。俺はもう・・・。
「士は・・・苦しんでたのかも知れぬな。」
 ゼハーンが、俺の気持ちを代弁する。苦しむ・・・か。
「士殿・・・。私達は、重荷になっていたのか?」
 ショアンは、見当違いな事を、言っている。重荷だと?俺は、お前達を重荷に感
じた事なんて無い!お前達を言い訳にしたくないだけだ!
「ウチ、士さんに、迷惑を掛けてばっかりだった・・・。」
 迷惑なんかじゃ・・・迷惑なんかじゃない!!俺は、お前達と過ごせて、楽しか
った!寧ろ、お前達が居なかったら、とっくに心が擦り切れてた!!
「士さんはさ。オレ達が、重荷になってるんじゃないよ。多分、それを理由にして、
人斬りを続けて行く事が、嫌になったんじゃないかな?」
 ジャン・・・。お前は、最近、俺の思考に似てきたな。
「士は、私達の代わりに手を汚している。なのに、それを理由に人斬りを続けて行
く事が嫌に?馬鹿者が!!そんな男が、只の人殺しな訳が、あるか!!」
 ゼハーンは、本気で怒っていた。俺は・・・。
「士・・・。私は、士が苦しんでたのを知ってル・・・。毎日のように魘されてい
るのを知ってル・・・。疲れたんだよネ。・・・もう休みたいんだよネ・・・。」
 センリン・・・。お前には、全部知られているな・・・。
「士が、目を覚まさなかったラ・・・。私は、一生ここに居るヨ。」
 センリン!お前は、お前だけは幸せに・・・。こんな俺では無く・・・。
「私にとって、士は全てだヨ。士無しで、幸せには、なれないヨ!」
 センリンに・・・そこまで言わせるとは・・・。俺は馬鹿だ・・・。
(そうだ。もうお前だけの身体じゃ無いのだ。我とて、お前が居なかったら、こん
な心変わりは無かった!)
 ああ・・・。そうだな・・・。俺は、こんな所で終われるよな奴じゃ無かったな。
 俺は・・・まだ生き抜いて・・・。今まで殺した奴の分まで、生きなきゃならん。
この呪いの連鎖から逃げようなんて、甘かったんだな。それを乗り越えてでも、セ
ンリンを幸せにしなきゃならないんだったな!!
「う・・・うぐ!!!」
 俺は、起きなきゃならない。そうだ。俺は、終わる訳には行かない!!
「ぅぅぅおおおおお!!」
 俺は、何かを振り払うかのように叫ぶ。
「ふぅ・・・。ふぅ・・・。」
 俺は、目を覚ました。
「士・・・士!!」
 センリンは、俺が起き上がったのを見ると、抱き付いて来た。
「センリン!・・・心配を掛けたな!」
 俺は、センリンの頭を撫でてやる。
「全くだヨ!もう、目を覚まさないと、思ったんだかラ!」
 そうだ。俺は、生きていくしかないんだ。
「余り心配させるな。全く。」
 ゼハーンも照れ隠しをしていた。
「士さんが、居ないとさ。調子出ねーよ。」
 ジャンは、嬉しい事を言ってくれる。
「良かったよ。士さんが居ないと締まらないもんね!」
 アスカも、もうスッカリ俺達の仲間だな。
「士殿。無理は為さるなよ?」
 ショアンめ。余計な世話を・・・。だが、その心遣いが嬉しかった。
「士様。お目覚めになられて、何よりです。」
 アランは、俺が目覚めるのを見て、部屋に入ってきた。
 俺は、誰よりも恵まれていたと、実感した。
 こんな仲間達を置いて、逃げるなど、俺には出来ない事だった。


 伝記の血筋を引いているだけで、狙われる。
 その理由は、何か?
 それは、単純明快な答えだった。
 『無』により生まれたゼロマインドが、自らの存在の為に、狙ったのだ。
 確かに、伝記では、クラーデスが『無道』を提唱していた。
 『無道』が繁栄すれば、自ずと、『無』の力が、信仰の対象になる。
 そうすれば、ゼロマインドは、もっと早く生まれてきた事だろう。
 それを遅らせた我が祖先を、ゼロマインドは恨んでいたのだ。
 その為に、レイクは15年も奪われたのか・・・。
 その為に、シーリスが、死に追いやられたのか・・・。
 冗談では無い!!
 セントに逆らう事が罪?
 ゼロマインドに逆らう事が、大罪?
 そんなソクトアに、誰がしたと言うのだ・・・。
 私は、認めぬ。
 しかし今は、何も出来ぬ。
 メトロタワーと言う壁が、余りにも高過ぎる。
 今は、逆らう事も出来ぬ。
 だから、どこかに移動しなければならない。
 セントに居ては、狙われ続けてしまう。
 何処に行けば、良いのか?
 ガリウロルだろうな。
 あの国だけは、セント以外で、唯一、独立性を守っている。
 そんな事を思っていると、電話が来た。携帯電話からだ。
「ゼハーンドだ。」
 私は、偽名を使う。まぁ、偽名と言う程では、無いのだが・・・。もう一つの名
を使う。ここでは、それで通している。
『シャッドだ。元気か?』
 シャドゥか。と言うより、この電話からは、シャドゥ以外から掛かってきた事が
無いな。まぁ、私が隠匿生活を送っていたからであろうな。
「今は、何とか元気だ。どうした?」
 私は、今まで起きた事を、伝えるのは止めた。
『いや、お前の所に送った手紙が、届いたかと思ってな。』
 手紙?そんな物は、届いていないが・・・。
「あ。そうか・・・。住居を変えたのだった。」
 バー『聖』には、もう帰らないのだったな・・・。
『そうだったのか・・・。しかし、念の為、お前の実家に、もう一通送っておいた
が。それは、届いているか?』
 シャドゥは、本当に気が利くなぁ。
「忝い。今は、そこに居る。それなら、直に届くだろう。助かる。」
 本当に助かる。念の為に、ここの住所を教えて置いて良かったな。
『息子殿の近況を書いておいた。色々ビックリするだろうさ。』
 レイクの近況か。そう言えば気になる所であるな。
「有難い。・・・今度は、私から、手紙を書くさ。」
 そうだ。と言うより私は、手紙で伝えなきゃならない事がある。
『早めに書くようにな。着いたら、即送り届けてやる。』
 シャドゥには、本当に良く気が付く奴だ。頭が下がるな。
「分かった。心より感謝する。では、またな。」
 私は、そう言うと、携帯電話を切る。果てさて、手紙か・・・。
 私は、思い立つと、アランの所に行く。
「アラン。私宛の手紙は無いか?」
 私は、尋ねてみた。手紙とあれば、アランが処理をしている事だろう。
「お怪我を為さっている間に、一通来ましたが、その事を言っておられますか?」
 お。脈有りか。既に着いていたとはな。有難い限りだな。
「多分それだ。・・・どれ。」
 私は、アランが手早く用意した手紙を受け取ると、中身を読んだ。
「ほう・・・。な、なに!?」
 手紙の内容は、驚くべき事が書かれていた。
「これはまた・・・信じ難い内容だな。」
 私は、中身を吟味する。そして、この内容は、皆に知らせる必要があると思った。
士にも、関係のある事・・・。いや、ショアンにも、関係のある事だな。
(・・・その手紙。本当の事ですか?)
 清芽殿が、興味を示すとは、珍しいな。
(知っている名前が、ある気がするんです。)
 知っている名前?それは、また珍しいな。
(凄く懐かしい・・・いや、そんな物じゃ済まされない気が・・・。)
 清芽殿?どうやら、大事な人の名前が、あるみたいですな。
(・・・!ま、まさか!)
 どう為された?思い出したのか?
(私の・・・息子の名前が・・・。まさか・・・。こんな事が!)
 息子・・・か。それは、驚きですな。ならば、会いに行かねば、なりませんな。
(会わせてくれるのですか?)
 当然であろう?清芽殿と、同化している以上、尽力したい。それに、息子に会え
ずに居る苦しみは、私が誰よりも知っている。放って置けませんよ。
(ありがとう。助かります。)
 ま、感謝は、会えてから、受け取りましょう。
 私は、大広間に皆を集める。士の容態も安定してきたので、もう起きても大丈夫
だったから、心置きなく集められた。
「話とは?今日、電話してたみたいだが、それに関連がありそうだな。」
 士は抜け目が無いな。どこで、それを知ったんだ。
「アランさんから、手紙を受け取ってたよな。それじゃね?」
 ジャンも、最近、士に似てきたな。妙に鋭いな。
「大事な話なら、関係がありそうだネ。」
 センリンも、何かあると、気が付いているようだ。
「ウチ達全員に関係があるのかな?」
 アスカは、腕を組みながら考えていた。
「ゼハーン殿が大事な話と言うからには、間違いないと思いますぞ。」
 ショアンは、私を信じているようだな。ま、ショアンにも関係のある話だ。
「では、旦那様。」
 アランが、手紙を改めて私に渡す。
「ま、前に話したシャドゥが、私に手紙を送ったのだ。レイクの近況についてだ。」
 私は、手紙を広げてみた。
「坊ちゃまが!!坊ちゃまは、ご無事だったのですか!!」
 アランは、真っ先に驚いた。そう言えば、アランには、報せていなかったな。
「ああ。レイクは、今、ガリウロルの天神家に、逗留している。」
 私は、アランに、ガリウロルに渡った事までは伝えていたが、それ以上の事は、
伝えていなかった。悪い事をしたな。
「坊ちゃまが、ご無事だったとは・・・。このアラン。嬉しく思いますぞ。」
 アランは、一々嬉しい事を言ってくれる。
「大げさだ。まぁ、その後、色々巻き込まれていたみたいだから、無事とは言い難
いがな。何とか元気にやっているそうだ。」
 レイクも、『ルール』に目覚めたり、その力を狙われたりしている。
「でだ。今から、近況を伝える。どうやら、私達にも、関係があるみたいだ。」
 私は、皆を見渡す。これからの有り様を、決定するのに必要な事を言うつもりだ
った。本当に、色々あったみたいだからな。
『ゼハーン殿へ
 君は、筆不精も良い所だ。私が、色々伝えていると言うのに、返事一つ寄越さな
い。それでは、また、レイク殿に叱られてしまうぞ。
 まぁ良い。近況であるが、1000年前に連れ去られた4人が、帰ってきたらしい。
覚えているか?天神(あまがみ) 瞬(しゅん)、天神 恵(けい)、島山(しま
やま) 俊男(としお)、一条(いちじょう) 江里香(えりか)の4人だ。主要
メンバーだったからな。帰ってきて、活気付いている所だ。
 その方法が凄い。仲間の中に『探知』のルールに目覚めた者が居て、場所を特定
したのだ。そして、『召喚』のルールに目覚めているファリア殿が、『転移』と、
『時空』の魔法を同時使用して、4人を『召喚』する事で、この時代に戻したと言
うのだ。私には、とても信じられんよ。ファリア殿も、ご研鑽を積まれて、凄まじ
い腕の魔法使いに、なられたと言う事だな。
 ただ、過去で、運命神ミシェーダに邪魔をされたらしい。奴の直属である副天使
長イジェルンには、子飼いの四大天使が居る。槍天使ニケエル、魔天使ベルゼール、
聖天使セラフィエル、裁天使サタラエルの4天使だ。ニケエルとベルゼールは、俊
男殿と恵殿が撃破し、セラフィエルとサタラエルは、瞬殿と江里香殿が、撃破して、
見事に生き残ったと言うのだから驚きだ。さすがであるよ。
 だが、どうやら、4人を濃い霧を使って、覆い隠していたのは、四大天使では無
かったようだ。霧天使レイシーと言う女天使でな。何でも、江里香殿が世話になっ
た修道院の修道長をしていたらしい。その修道長を説得して、霧を晴らしたらしい
が、修道長は、ミシェーダから『誓約の紋章』を埋め込まれていてな。逆らった為
に、絶命したようだ。その事を、江里香殿は、悔やんでいたと言う話だ。
 それにしても、興味深い話だったぞ。やはり、4人は、只者では無かった。
 天神 瞬。彼は、プサグル四天王の一人、ハイム=ジルドラン=カイザードの元
に身を寄せていたらしい。忠誠心で、彼を超える者は居なかったと言う話だ。
 天神 恵は、『聖亭』に居たらしい。そこで出会った人物が、ファン=レイホウ
と、榊 繊一郎だと言うのだから、驚きだ。
 島山 俊男は、パーズに居たらしい。彼は、パーズ拳法使いだが、その祖先であ
るショウ=ウィバーン=トリサイルの元に居たらしいぞ。
 そして一条 江里香は、修道院に居た。そこで、マレル=ムーン。つまり、伝記
のジークの母親に出会ったらしい。凄い話だ。
 と、ここまでは、4人の近況であったな。では、レイク殿の近況だ。
 レイク殿だが、前に仲間であるジェイル=ガイアを犠牲にして、助かったと言っ
ていたな。その事なのだが、どうやら、ジェイル殿は生きていたらしい。何でも、
強靭な体力に、『絶望の島』の研究員達が目を付けて、肉体改造実験の実験台に、
されていたと言う話だ。酷い話だ・・・。それと、ファリア殿が、親切にしてもら
っていたファン=ティーエと言う女性も、『絶望の島』の島主の、お気に入りの部
屋で、酷い目に遭っていたと言う話だ・・・。
 だが、それを聞いたレイク殿は、救出作戦を展開した。島主が、全ソクトアご奉
仕メイド大会に行っている隙を突いて、見事に救出したらしい。ジェイル殿とティ
ーエ殿は、見事に救出され、天神家に逗留しているとの話だ。・・・だが、ジェイ
ル殿は、精神を弄られた反動で、そしてティーエ殿は、クスリを使わされて強引に
奉仕させられたので、その反動もあって、現在は、療養中との事だ。
 そして、驚いたのが、次だ。
 君の話にも、何度か出てきていたゼリン=ゼムハードだが、どうやら、彼女は、
操られていたらしい。私には信じ難いが、ゼロマインドに服従のサークレットと、
信望のネックレスを付けられて以降、ゼロマインドに忠誠を誓うよう、強要されて
いたと言う話だ。それをレイク殿に壊されて、改心したそうだ。その証に、彼女の
神の子としての細胞を、取り上げられ、人間にされたみたいだ。そして、その状態
で、レイク殿に協力して、ゼロマインドを打ち倒すように命じられたのだとか。私
は、余り信用して無いんだがな。
 だが、レイク殿に誓いの証明として、かの宝剣ゼロ・ブレイドを捧げたと言うの
だから、信憑性は上がったと言う事かな。彼の剣は、『絶望の島』の地下深くに続
くエレベーターを伝っていくらしいのだが、そこへ辿り着く扉は、魔力で3重にカ
モフラージュされていて、更に、ゼロマインドが結界を張って、守っていたらしい。
その結界を、手が焼けるのすら我慢して、レイク殿にゼロ・ブレイドを手渡したの
だから、多少は、信用出来るのかもな。
 後これは、私が聞いた話だが、この島に久し振りにミカルド様が来られてな。例
のクラーデスの息子で、『樹海士』として活動をしているミカルド様だ。そのミカ
ルド様が、『親父が復活するかも知れない』と言っていた。これは、警戒するべき
事項かも知れぬ。クラーデスが復活となれば、ゼロマインドは、何をするか分から
ぬ。セントの様子は、不気味ながら動いているようだし、警戒に越した事は無い。
 ま、近況としては、以上だ。
 かなり色々な出来事が起こったので、私も混乱中だが、君には報せなくてはなら
ない事が、山ほどあったのでな。こうして手紙にした次第だ。
 君も、近い内に、返事を寄越したまえ。で無いと、レイク殿に呆れられるぞ。
 では、これにて失礼する。   シャドゥ』
 かなり長い手紙だ。だが、重要な事だらけだった。
「兄が・・・生きていた・・・か。」
 ショアンは、複雑な表情をしていた。ショアンにとって、ジェイル殿は、枷であ
り、肉親でもあった。胸中は複雑だろうな。
「わ、わた、私・・・あああああア!!」
 センリン殿が、唇を震わせている。どうしたのだ?
「センリンちゃんは、どうしたんだい?」
 ジャンも心配しているようだ。
「・・・その手紙にあるファン=ティーエってのは、センリンの従姉妹だ。そして、
俺が、最初の依頼で殺したセンリンの伯父の娘だ・・・。」
 士が代わりに答える。そうか・・・。そう言えば、センリンが士と知り合う切っ
掛けになったのが、この最初の殺しの依頼だった。当時14歳だったセンリンを、
士は救ったのだ。その全てに関わる事項を葬ってだ。
「俺のせいで、没落した。『絶望の島』に入れられたと、噂では聞いてた・・・。」
 そうか。士が伯父を斬った事で、そのティーエは、人生を狂わされたのだ。
「お姉ちゃん・・・。こ、こんな酷い目に・・・。」
 センリンは、泣き止まない。センリンは、自分を士が助けた為に、こうなったの
だと、思っているのだろう。
「・・・センリンにとっては、仲の良い従姉妹だったんだ・・・。」
 士は、溜め息を吐く。また、士の心労が増える事だな。
「そんなの、士さんと、センリンさんのせいじゃない!」
 アスカは、強い口調で反論する。
「大体、最初にセンリンさんを殺そうとしたのは、伯父さんなんでしょ?しかも、
『絶望の島』に送られたのは・・・この前、アリアスが言っていた、伝記の子孫を
狙うって言う話の一環じゃないの?」
 そうか。ティーエ殿も、ファン家の血筋の者だ。そこに、セントが目を付けたの
だ。こんな所にも、ゼロマインドの手が回っているとはな。
「姐さんの言う通りだぜ。ここは、嘆く所じゃねぇ。怒る所だ!」
 ジャンは、アスカに同調する。全く仲の良い事だ。
「ありがとよ。その言葉、俺は忘れん。」
 士は、2人に感謝をしているようだ。
「旦那様。坊ちゃまは、ゼロ・ブレイドを手に入れたのですな。」
 アランは、レイクの事が気になっているようだ。
「そうみたいだな。それにしても、ゼリンが仲間に・・・。信じ難い。」
 私は、その事が、どうも信じられない。あのゼリンだぞ?私が、夢にまで見るゼ
リンだ。あの悪夢を引き起こした張本人だぞ?
「服従のサークレットと信望のネックレスなら、俺も聞いた事がある。確かに恐ろ
しい程の拘束力を持つアクセサリーだ。」
 士は、そう言う所の知識は詳しい。
「とは言え、アイツが仲間となると、俺にも信じられん。」
 そうだ。士もこの前、メトロタワーで、やられたばかりなのだ。
「だが、レイクの人を見る目は、確かだ。やはり、この目で確かめたい所だな。」
 それに、レイクだけでは無く、ファリアやエイディまで納得している所が気にな
る。もしや、また、魔力で何とかしているのか?しかし、今のファリアには、そん
な芸当は効かない筈だ。
「私は、これに対し、返事を書くつもりだ。」
 私は、まず宣言する。そして、士を見る。
「・・・フン・・・。俺に決めろと言うのか?」
 士は、私の意図を読み取ったようだ。
「俺の答えは決まっている。ここまで気になる手紙を貰って、黙っていられるかよ。
・・・行くぞ。ガリウロルへ!」
 士は、皆に向けて、言い切る。そう。私の一存で、行くとは決められない。ガリ
ウロルに行く為には、士の同意を得なければ、ならないと思っていた。
「ウチも、行きたい。ウチは、このセントの事しか知らない。ソクトアを、見てみ
たいんだ。ガリウロルを見てみたいんだ!」
 アスカは、これまで、セントのキャピタルでしか生きてきた事が無かった。私の
家に来たのも、初めてだ。
「姐さんを守るってのも、あるけどさ。オレも見てみたいんだ。セントの外の世界
をな。オレも、何だかんだ言って、ここから出た事が無いしな。」
 ジャンも、セントの中だけで生活してきた。それは、庇護の下で生活してた事に
なる。と言うより、私以外は、出た事が無いのではないか?
「私は、行かねばならない。・・・兄の幻影を追うのは、もう真っ平で御座る。」
 そうだ。ショアンは、ジェイルの事もある。兄と再会して、何かを感じ取らねば
ならない。それが何であるかは、ショアンにしか分からないだろう。
「お姉ちゃんに、会わないト・・・。私は、会って謝りたイ。」
 センリンは、ティーエ殿に会って、謝りたいと言う。
「センリンの事もある。だが、俺も、ガリウロルに行かなきゃならん。・・・俺の
両親が居たガリウロルに、一度行かなきゃならんと思っていた所だ。」
 そう。士も、行く理由がある。士は、名前の通り、元はガリウロル人だ。両親共
に、セントに移り住んだ経緯があるので、セント人ではあるが、ガリウロルの血が
流れている。しかし、ガリウロルに行った事が無い。一度は、行ってみたいのだろ
う。両親の故郷である、ガリウロルへ・・・。
「決まりだな。では、ガリウロルに向かうと、手紙に書いておこう。」
 私は、ガリウロルに行く事を決めた。
「旦那様。坊ちゃんに、宜しく言って置いて下さい。」
 アランは、恭しく礼をする。アランは、いつもこうだ。黙ってここを守ろうとす
る。付いて行く事は、しないんだろうな。
「アランさんは、行かないのかい?」
 アスカが、残念そうに尋ねる。
「私には、ここを守る義務があります。大旦那様に拾ってもらった恩を、忘れる事
は、出来ません。ですが、再びセントに来た際には、ここに寄って貰えると、私の
励みになります。」
 ・・・アランも寂しいんだろうな。今まで私には、こんな事は、言わなかった。
「俺達を、受け入れてくれた恩を、そして、俺達を救護してくれた恩を、俺は忘れ
ん。アラン。アンタは、俺達の恩人だ。」
 士は、そう言うと、アランと握手をする。
「勿体無いお言葉。・・・士様は、これからの時代に必要なお方。私程度で、役に
立てたのであれば、光栄で御座います。」
 アランにしては、珍しい事を言う。確かに士は、私が見ても、凄い器だ。これか
らの次代を担うに、十分な器だ。
「買い被り過ぎだ。まぁまずは、ガリウロルに無事に行かなきゃな。」
 士は、照れ隠しをしていたが、嬉しそうだった。
(私も、ガリウロルに行くと言う事で、良いんですね?)
 清芽殿か。当たり前だ。貴女も行きたいのだろう?
(ええ。息子に会いに行きたいです。)
 息子か。誰の事か、何となく見当は、ついているが・・・。
(意地っ張りな、夫との間に出来た息子ですからね。)
 何だか、棘があるな・・・。大丈夫か?
(大丈夫ですよ。良い子ですから。)
 清芽殿は、息子殿を、信頼されているのですな。
(可愛がりましたからね。良い子に育っていると、信じてますよ。)
 まぁ、恐らく、『彼』であろう?誰よりも真っ直ぐな『彼』なら、大丈夫でしょ
う。私も会いましたが、強い眼をしていました。
(会うのが楽しみですよ。)
 私も、レイクと会うのは、久し振りだからな。気を引き締めなきゃな。


 拝啓 レイク
 久し振りだな。元気にしているか?
 私は、セントに居る。色々と、やるべき事があってな。
 忙しい毎日を送っていたら、シャドゥ殿に怒られてしまった。筆不精が過ぎると
な。私もお前も、手紙など中々送らないからな。怒られて当然だな。
 ついでに、シャドゥ殿から、お前の近況を聞いておいた。中々稀有な体験をして
いるみたいだな。人生の経験と言う意味に於いて、貴重な経験をしているのだろう。
その体験を大事にする事だ。特に学友と仲間は、大事にするのだぞ。
 そうそう。私にも、仲間が出来た。掛け替えの無い仲間がな。
 知っているかも知れぬが、伝説の人斬り『司馬』で有名な男だ。
 私は、セントの首都であるキャピタルに侵入する時に、『司馬』に依頼を頼んだ
のだ。名を黒小路(くろのこうじ) 士(つかさ)と言う。
 彼は、バー『聖』と言う店を持っていてな。彼の店を手伝うのが、依頼の条件に
含まれていた。私は、二つ返事で了承したさ。
 そのバー『聖』の女店主が居てな。その女性は、ファン=センリンと言う。彼女
は、士のパートナーにして恋人だ。彼女は、士と一心同体と言って良い。それ程、
離れられない存在だと、私は思う。
 そして、私はキャピタルに侵入した。士には感謝し切れぬよ。しかし、士は伝説
の人斬りなのだ。だから、人斬り組織から狙われる存在だった。
 一番因縁深いのは、『ダークネス』だ。人斬り組織の中でも、特に暗殺の度合い
が強い組織でな。統制と掟によって、支配を広げている組織だ。士は、元『ダーク
ネス』で、そこを抜けて、フリーとなって『司馬』となったのだ。ちなみに、私の
実の父を殺したのも、『ダークネス』だ。色々因縁を感じたよ。
 そして、それに対抗する組織が『オプティカル』だ。セントの人斬り組織と言う
より、自治体に近い役割をしている変わった組織だ。
 最後に『スピリット』。ここは、腕試しをしたいと言う人きりが集まっている組
織だ。妙に因縁を付けて来る、危険な組織でもある。
 そんな人斬り組織が闊歩するセントだが、私にも仲間が出来た。
 『ダークネス』の『剛壁』の異名を持つショアン=ガイア。彼は、『ダークネス』
を抜けたがっていた。それを士に頼んで、私達の仲間になった。名前でピーンと来
ているかも知れんが、ジェイル殿の弟だ。
 そして、『オプティカル』の『軟派師』のジャン=ホエール。彼は、『オプティ
カル』で、自由にやっていたが、組織が自由を束縛したため、私達を頼ってきた。
組織の幹部が、彼の自由を束縛しようとしたと言う理由でな。恋人も居たと言うの
に、抜けてきたのだ。
 その恋人が、『オプティカル』のボスであるアスカ=コラットだ。ジャンに惚れ
抜いててな。彼女は、ジャンが行方不明になったと聞かされて、私達を頼ってきた
のだ。ジャンは、幹部から追い出されて、行方不明になったと嘘を吐かれたのだ。
アスカは、それを信じられずに、私達に依頼をしたと言う経緯だ。
 ジャンは、アスカを置いて抜けたのを後悔していた。しかし、私達の依頼で、再
会した後は、ジャンは、誠意を持ってアスカと接するようになった。自分の『軟派
師』と言う異名を返上する程だ。私達は、それを見て安心した物だ。
 こうして、私達は6人で『司馬』となった。『司馬』は元々、士のコードネーム
だったが、いつしかチーム名と変わっていったのだ。
 そして、私の当初の予定である依頼を、果たしてもらう事にした。それは、『伝
記の子孫を付け狙う』理由を探る為だ。その為に、キャピタルの中でも、一際目立
つメトロタワーに侵入した。
 だが・・・それは失敗に終わった。やはりセントの中枢であるメトロタワーは、
一筋縄いかなかった。何とか脱出に成功したが、バー『聖』が拠点だと、バレてし
まってな。店を閉めざるを得なくなった・・・。
 私は、仲間の為に、何とかしようと、私の実家であるハイム=カイザード家を提
供した。私の執事であるアラン=スフリトが、未だに家を綺麗にしていたので、ス
ムーズに移住に成功した。
 だが、このままで済ますつもりは無かった。噂で『ダークネス』のボスが、元老
院の一味だと知ったからだ。そこで、『ダークネス』のボスが滞在している場所を
突き止め、逆に襲撃したのだ。そこで、私達が付け狙われる理由を知った。
 聞いてみれば、単純な理由さ。『無』の存在から生まれたゼロマインド。これは、
シャドゥ殿が、お前から聞いたんだったな。だから知ってると思う。奴は『無』の
存在だ。伝記で『無道』が勝っていたら、もっと早くに生まれている筈だったのだ。
それを阻止した伝記の英雄達が憎かったらしい。・・・そんな理由だ。そんな理由
で、私の妻を、死に追いやり、レイク。お前の15年間を奪ったのだ!!私は、断
じて許せぬ。だが、今は何も手出しが出来ぬ。メトロタワーは強大なのだ。
 と、長々書いたが、これが、私達が辿った経緯だ。
 ちなみに、6人共、『ルール』に目覚めている。どんな物かは、会ってから説明
しようと思う。
 今書いたように、私達はガリウロルに向かおうと思っている。今、セントに留ま
るのは、危険でしか無い。だから、そちらに出向こうと思っている。
 なので、不躾で悪いが、恵殿に頼んでくれぬか?私達がそちらに滞在するツテが
欲しいと。全くもって、図々しい願いなのは分かっている。だが、仲間達は、全員
セントを出るのが初めてで、私しか頼れぬらしいのだ。だから、私が、何とかしな
ければならないのだ。
 こんな事しか言えない父を許せ。
 だが、お前との再会は、非常に楽しみにしている。
 ・・・変な手紙になってしまったな。やはり、書き慣れぬ。
 お前の成長した姿を、この目で見に行くので、宜しく頼む。
 ゼハーン


 珍しく、長々と手紙を書いてしまった。
 だが、私も、この2ヶ月程の間、色々な経験をした。
 それを、詳しく伝えずして、ガリウロルに発つ訳には行かない。
 士達は、私の仲間だ。
 つい2ヶ月前までは、一人でもやり遂げると、息巻いてたな。
 だが、それは間違いだな。
 私は、士を助けたし、士に助けられた。
 掛け替えの無い仲間と言うのが、このセントで出来るとはな・・・。
 そして、ガリウロルに発たなければならない。
 でも、この仲間達となら、不安に思う事も無い。
 ・・・私は、呪われている過去を持つ男だ。
 彼等の犠牲を無駄にしては、ならない。
 ゼロマインドは、必ず、報いを受けさせなければならない。
 その為の、準備期間としてのガリウロルへの滞在だ。
 レイク達の近況が本当なら、実力者が集結している事になる。
 私達が、後進に、何を伝えられるのか・・・。
 それも考えなくてはならんな。
(真面目なんですねぇ。)
 清芽殿か。そりゃ、真面目にもなる。私は、恐らく一番の年長者。レイク達の所
に行ったら、頼られる存在になろう。それに応えなければな。
(気負い過ぎるのも、問題ですよ?)
 む・・・。やはり分かりますか?いや、分かるのでしたな。
(私を誰だと思っているのです?こう見えても、貴方より年上なんですよ?)
 うぐぐ。そうであった。私などより、人生経験は豊富なのでしたな。
(その言い方は、デリカシーに欠けます。)
 済まぬ。私は、余り気が付く方では無いのだ。
(良いですよー。分かっていますから。)
 ひ、酷い言われようだ・・・。反論出来ないのが、悔しい所だ。
(私は、今、心が晴れやかですからね。だって、もうすぐ会えるんですよ?)
 息子殿の事か?・・・いや、もう隠す必要も無いな。天神 瞬殿の事か。
(ありゃ、珍しくビンゴですね。どうして知っていたのですか?)
 実は、シャドゥが、ファリアから瞬殿の出生の秘密を聞いたらしい。ファリアは、
天神家でも相当に信用されているので、知っていたようだ。
(そうですか・・・。しかし何故、私だと?)
 まずは、名前だな。清芽と言う名は、天使にしては珍しい。となると、生前の名
前に近い名なのか?と推察した。貴女は、天神 喜代(きよ)殿だな?
(私も、最近まで、生前の名前なんて忘れてたんですけどね。)
 そう。シャドゥの手紙を見て、思い出したのだろう?天神と言う名前で。
(はい。直感で、ビビッと来ました。)
 で、あの中で、最近死んだとされている母親とあれば、誰か?と考えるに、瞬殿
の母か、今は、まだ生死不明だと言われている天神 恵殿の母かと思った。
(恵ちゃんは、苦労したからねぇ・・・。厳導(げんどう)は、もうちょっと恵ち
ゃんを親として、見てあげれば良かったのに・・・。)
 天神 厳導、確か恵殿の父親であったか。親としてとは?
(厳導は、恵ちゃんの優秀な能力を見て、後継者としてしか、見てなかった。だか
ら、過度な期待をして、厳しく躾けたんでしょうね。)
 過度な躾けか・・・。子供に対する期待と言う点では、同意出来るが・・・。
(行き過ぎたら、悲劇を生むの。それでは駄目なんですよ。)
 行き過ぎか・・・。そうだな。期待を背負わされたら、子供が大変だからな。
(大体、愛(あい)も愛よ。恵ちゃんを産んでから、失踪しちゃうなんて。)
 母親の事か。天神 愛であったな。しかし、失踪とは・・・。
(事情があったのよ。それでも、失踪しちゃうのは、許せませんけどね。)
 厳導は、魔族であったな。魔族との間に生まれた子供だからと言って、失踪して
しまうのは、宜しくない・・・。
(・・・その話は、誰から聞いたのですか?)
 シャドゥからだ。天神家に出向いた時に、瘴気の残滓を捉えて、ファリアから聞
き出したらしい。ファリアは、その時に、瞬殿と恵殿の出生の秘密を話したらしい
のだ。まぁファリアもシャドゥにしか漏らしてないし、シャドゥも私にしか漏らし
ていない。私も、大っぴらに広めるつもりは無い。
(黙っていてくれると、助かります。恵ちゃんも、その事には、触れて欲しくない
でしょうから。)
 勿論だ。それに、こんな形で、天神家と繋がるとは、思わなかったしな。
(奇妙な縁ですよねぇ。・・・瞬ちゃんは、大きくなったかしら?)
 瞬殿は、全ソクトア空手大会で、優勝するくらいの腕前だ。それに、私が訪ねた
時も、爽天学園の部活動対抗戦で、優勝していた。さすがだと思うぞ。
(瞬ちゃん、強くなったのねぇ・・・。)
 清芽殿にとっては、いつまでも子供なのですな。
(そうよ。瞬ちゃんは、厳導の養子になったけど、実際に育てたのは、私なんです
よ。さすがに、小学校に入る頃には、離されましたけどね。)
 そうか。天神家で帝王学を教え始めたのは、小学校に入り始めた頃からか。
(最も、恵ちゃんには、生まれた時から期待してたみたいで、物心がつく前から、
教え込んでたみたいですけどね・・・。)
 それは、過酷だな・・・。恵殿は、苦労してきたのだな・・・。
(恵ちゃんは、責任感の強い子だったからね。瘴気の事で、苦しんでたのも、持病
だから、いつか治るって、私に言うんですよ・・・。無理しちゃって。)
 清芽殿に、心配を掛けたく無かったのだろうな。健気だな。
(私は分かっていたんですけどね。恵ちゃんが、苦しんでいる事も・・・。)
 清芽殿は、後悔しているのか?
(少し・・・ね。手を差し伸べた方が良かったのかもと・・・。)
 なる程。でも、恵殿は、その手を取らなかったでしょう。
(・・・そうでしょうねぇ。恵ちゃん、本当に強い子だから・・・。)
 清芽殿・・・。ま、今度、天神家に行った時は、恵殿の事も、存分に見ると良い。
(ええ。恵ちゃんは、可愛い孫ですから。)
 孫か・・・。そう言えば、孫なのは、恵殿だけだったな。
(瞬ちゃんも、孫みたいな物ですけどね。)
 歳は、恵殿と1歳しか違わないからな。しかも、あの二人は、兄妹として育って
いるしな。
(行くのが本当に楽しみですよ。)
 ああ。そうしてくれ。出来れば、話もさせたいのだがな。
(そこまでは望みません。瞬ちゃんと、恵ちゃんの姿を見れるだけで、満足ですよ。)
 分かった。後は、私が無事に着く事を、願ってくれ。
(じゃぁ、無理しないでと、言っておきます。)
 了解した。貴女の為にも、無事にガリウロルに着くように、尽力しよう。
 私の為でもあるしな。


 キャピタルを出て、シティへ。
 そして、ついには、セントを出る事になったか。
 俺には、余程、疫病神が憑いてると見える。
 バー『聖』を追われて、ハイム=カイザード家に行き・・・。
 セントに留まると、危険だから、ガリウロルに行く。
 この仕事をしていると、危険は付き物だと分かっていたがな。
 何だか、逃げてばかりだな。
 俺の人生は、逃げてばかりだ。
 追われたら撃退してきた。
 その為に、何千人と斬ってきた。
 守る為に、仕方の無い行動だと思っていたが・・・。
 その言葉も・・・逃げ・・・だな。
 結局俺は、この仕事を選んだ時から、この因果からは、逃げられないんだ。
 なら、もがいてやるだけだ!
 仲間達と生きていくと、決めた以上は、生き抜いてやる!
 ・・・それにしても、ガリウロルか・・・。
 俺の両親の生まれ故郷だ。まさか、自分が行く事になるとはな。バー『聖』を開
いた時点では、二度と行く事は無いと思っていた。・・・何が起こるか、分からん
物だ。だが、興味はある。
(ガリウロルか。我も初めて行く。確か、健蔵の生まれ故郷であったな。)
 グロバスも初めてか。意外だな。
(特に行く必要が無かったからな。独特な文化が根付いていると聞く。)
 俺も聞いた事くらいしかない。ご先祖の分まで、今のガリウロルを見に行かない
とな。・・・ご先祖も見たかっただろうからな。
(健蔵か・・・。死んではいないと思うのだが・・・。)
 俺も、そう信じている。ご先祖の強さは本物だ。例え相手が、アンタに成り代わ
る程の相手でも、生き抜いていると信じている。
(ケイオス・・・だったか。まさか、ジェシーの息子がな・・・。)
 1000年前じゃ、無名だったんだっけか?
(無名も何も、我は、ジェシーに息子が居た事すら、初めて聞いたわ。)
 そう言えば、『神魔戦争』が終わってから生まれたと言っていたな。
(我が去った後の魔界か・・・。それは混乱するであろうな。我が居た時から、覇
権争いはあった。だが、我に敵う者は居なかった故、治まっていたような物だ。)
 実力で押さえ込んでたって事か。それが、アンタと言うトップが居なくなった事
で、覇権争いが激化したと・・・。
(そうなのだろうな。その激化した争いの中、勝ち残ったのが、レイモスの子供達
だったらしいが、それを打ち破ったのが、あのケイオスだと言う事だ。)
 魔神レイモスの子供達か。デイビッドと、エイハだっけか。
(小僧と小娘だな。レイモスが我と共に、ソクトアに君臨した頃に出来た子供だそ
うだ。1000年前では、既に魔界に渡っていて、切磋琢磨していた。確か、ジュダと
同じような歳だったと記憶している。)
 んじゃ、アンタにとっては、若造な訳だ。
(我が、1000年前にソクトアに呼び出された頃は、中堅の魔貴族であったな。あの
頃は、神魔はワイス一人であったし、魔王も、クラーデス以外は、神魔まで行けそ
うな器は居なかった。)
 そして、アンタが敗れたと知った魔界は、混迷が渦巻いた訳だ。
(そう言う所だ。我とて敗れれば、その者に従うだけの事。実力が全てなのだ。)
 その頃を知っている魔族にとっては、アンタは絶大な支持を受けている訳だな。
(ソクトアに残ったジェシーなどは、支持をしてくれていた様だな。)
 魔界三将軍の一人、『黒炎』のジェシーだっけか?
(ふむ。魔貴族だったジェシーだが、実力は魔王級であった。現在は、魔王と名乗
っているようだな。)
 そのジェシーは、そんなに強かったのか?
(女の魔族では、トップの実力だったな。エイハよりも実力は上だった。)
 レイモスの娘より上だったのか。さすがだな。
(そのジェシーと、魔人(まびと)となったレイリー=ローンの息子が、あのケイ
オス=ローンと言う訳だ。素質はあろうな。)
 素質があって、更に想像を絶する修練を積んで、魔界の頂点に立ったって訳だな。
こりゃ、手強そうだな。アンタでも、キツいんじゃないか?
(キツいどころでは無い。恐らく、私より実力は上だ。)
 随分弱気だな。・・・そんなに強いのか?
(感じた瘴気のスケールの大きさは、今の我より上であった。素直に認める。)
 今の・・・って事は、磨く気満々だな。アンタ。
(当然だ。我とて、士との修練をする事で、実力は前より増してきている。負けっ
放しは、性に合わぬ。)
 そう言う事なら、寝てる間、幾らでも付き合おう。俺も、実力はアップせねば、
ならんしな。前のような失敗は、真っ平だ。
(その意気だ。我とて、手加減せぬぞ。)
 当たり前だ。されて堪るかよ。
 俺とグロバスは、再び構えを取った。
(この空間は、飽くまで現実と同じ。後は、実力次第だと思え。)
 起きるまでの間、アンタから一本取ってやるぜ。
(良い度胸だ。この神魔王相手に、そこまで言える度胸は買ってやろう。)
 グロバスは、6枚の翼を広げる。こりゃ、本気の構えだ。
 小細工無しだ!!喰らえ!!
 キィン!!
 俺の裂帛の気合が乗った剣を、グロバスは軽々と受け止める。
(ヌゥン!!)
 グロバスの蹴りが来た。俺は、剣の背でガードするが、それでも衝撃が来る程の
蹴りだった。何て重たい蹴りを放ちやがる。
(昔取った杵柄とは言え、まだ負ける程では無いぞ?)
 チィ。そうかよ・・・。頼もしい限りだな。
(そう言うお前こそ、我の攻撃をガード出来るだけマシだ。)
 グロバスは、そう言うと、正拳突き、回し蹴りからサマーソルトキックに繋げて
来る。俺は、回し蹴りまでは、ガードしたが、サマーソルトキックを喰らって吹き
飛ぶ。なんて威力だ。
 こうなったら、俺も仕掛けるしかねぇ!!俺は、剣と体術を駆使して襲い掛かる。
縦斬りから下段回し蹴り、そこから突き上げるように剣を振り、最後はミドルキッ
クで締める。これ以上無いタイミングだったが、グロバスは、全て寸前で見切って
いた。何て目だ。そして、何て反応だよ。
(さすがに鋭いではないか。)
 グロバスは、感心すると、距離をとって、瘴気弾を作り出す。そして、それを、
俺に向かって次々と打ち出していった。
 ぬぐあ!!弾くだけで精一杯だ!!何てプレッシャーだ!!
 俺が弾くのが精一杯と見ると、グロバスは、一気に攻勢を強める。そして、俺が
弾き終わると、グロバスの姿が消えた。・・・上か!!
 俺はグロバスが、上から襲い掛かって来たのを見切ると、そのまま反撃する。
(そうか。お前には、奇襲は効かないんだったな。)
 『索敵』のルールがある限り、奇襲は成功しないぜ?
(それは、中々良いアドバンテージだな。)
 チッ。その割には余裕じゃねぇか。
 俺は、手早く六芒星を描くと、そこに瘴気を込める。すると、瘴気が増幅されて
いく。これぞ、霊王剣術、奥義『滅砕陣』!!
(健蔵も得意だった技だな。)
 ご先祖も、よく使ってた技だ。受けてもらうぞ!
 俺は、『滅砕陣』をグロバスに打ち出す。
(フム・・・。ムン!!)
 グロバスは、片手で『滅砕陣』を握り潰す。マジかよ・・・。
(精進が足りぬな!)
 グロバスは、俺に突っ込んでくる。そして、右の回し蹴りをしてきた。俺は、そ
れを受け止めようとするが、その瞬間に、左の回し蹴りを喰らってしまった。
 馬鹿な・・・。全くの同時にしか見えなかったぞ・・・。
 俺は、無様に吹き飛ばされる。これが、俺とグロバスの実力差だ。仕方が無い。
(フッ。これで終わりでは無かろう?掛かってくるが良い。)
 グロバスは、まだまだ余裕だ。チッ!言ってくれる。
 俺は、ボロボロになるまで、グロバスと修練するのだった。
 グロバスとは、毎日のように修練してるが、本当に勝てないぜ・・・。



ソクトア黒の章4巻の7後半へ

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