NOVEL Darkness 5-4(Second)

ソクトア黒の章5巻の4(後半)


 2月も終盤に入って、色々忙しくなってきた。
 僕は、瞬君のレベルアップと、自分のレベルアップの為に毎日のように手合わせ
をしている。瞬君などは、この前のジュダさんの件が尾を引いてるのか、凄い真剣
だ。僕も、それに釣られて、真剣に手合わせをする。
 瞬君は、『破拳』のルールに自信を持っていた。ティアラさんを助けた実績もあ
る。しかし絶対じゃないと、気が付いたのだ。だから、絶対と行かないまでも、そ
れに近い効果にする為に、鍛えに鍛えるつもりなのだろう。
 ジュダさんの病気は、不治の病だって言っていた。神だからこそなる病気で、克
服した神は一人も居ないって言っていた。しかし、なった神は4人しか居ない。な
らば、ジュダさんの精神力が上回れば、何とかなる筈だ。
 ジュダさんは、天神家の医務室で休んでいる。そして、睦月さんと葉月さん、そ
れに天神家の精鋭部隊が、付きっ切りで看病をしている。赤毘車さんも看病する時
があったが、暇を見ては、修練に勤しんでいる。その様子は、鬼気迫る物があった。
まるで、不安を吹き飛ばそうとしているかのようだ。
 無理も無い。愛する人の危機が迫ってるんだ。何とかしたいと思うのが人情だ。
だけど、赤毘車さん自体に、その打開策は思い浮かばない。なら、せめて僕達のレ
ベルアップに努めると言うのが、赤毘車さんの回答なのだろう。
 だが、そんな中でも、学業の手を抜けない。それは、恵さんが居るからだ。それ
に、赤毘車さんも勉学に勤しむのは大賛成らしく、修練と勉学の両立を訴えていた。
中身を濃くすれば問題無いだろうと言う事だった。鬼だ・・・。
 こうして迎えた2学期の中間テストだが、皆、軒並み点が上がっていた。集中力
が上がっているのかも知れない。レイクさんも、ギリギリで赤点を免れていた。瞬
君や僕なんかも、ビックリするぐらい順位が上がっていた。まぁ恵さんは、全科目
満点だったんだけどね。どうやったら、あんな点数取れるんだか・・・。
 他にも、勇樹が4位に上がっていた。奨学金を貰うために必死なんだとか。でも、
最近は、道場も再建してきたとかで、必死にやらなくても大丈夫な程らしい。しか
し、本人曰く、前より下がったら、悔しいから勉強したとかで・・・。凄いや。
 ビックリしたのは、伊能先輩だ。赤点が一つも無かった。何でも、亜理栖先輩と
一緒にやった勉強なら、恥を掻かせる訳には行かないとかで、凄い集中力で、赤点
を免れたんだとか。伊能先輩もやれば出来るんだなぁ・・・。ちなみに、あんな事
があった後なのに、早乙女先輩は、全教科満点を取っていた。
 こうして、中間テストの結果を報告した後は、いつも通り、修練だ。勉学を間に
挟んだ事で、却って修行の内容が濃くなった気がした。一種の精神鍛錬に近かった
のかも知れない。
 毎日が、充実している。しかし、油断は出来ない。ジュダさんの容態次第では、
一気に状況が悪化する恐れもある。予断を許さない状態なのだ。
 僕は、今日も天神家の修練を終えて、自分の部屋で、パーズ拳法の型をこなす。
やはり、礼に始まり、礼に終わる。コレを繰り返し体に覚えさせ、日々の糧とする。
それが出来てこその免許皆伝だ。
 日課をこなしていると、外が少し明るかったので、気になった。・・・これは、
何かの光だろうか?緑色に光る塊が、こちらに迫ってきた。危険な物だろうか?
(・・・俊男・・・。やっと見つけた・・・。)
 え?この光、僕の名前を呼んだ?どう言う事だろうか?
(先に謝っておく・・・。悪いが、俺を受け入れてくれ。最適な器は、お前なんだ。)
 光は、謝ると、僕の中へと入ってきた。う、うわ!な、何コレ!!
 僕の意識は・・・沈んでいった・・・。


 ここは・・・どこだろう。僕は、一体どうなって・・・?
 確か、緑色の光が近づいてきて・・・。中に入った瞬間、意識が遠くなったよう
な?でも、邪悪な感じは受けなかったんだけどなぁ・・・。
(邪悪に迫った覚えは無いんだが・・・。)
 うわっと・・・。ええと、誰でしょう?
(聞き覚えがあるだろ?)
 え?あれ?・・・ま、まさかジュダさん!?
(正解だ。理解が早くて助かる。)
 え?でも、ジュダさんは今、闘病中じゃ無かったでしたっけ?まさか!?
(早とちりすんな。まだ死んじゃいねぇよ。この時空ではな。)
 良かったぁ・・・って時空?どう言う事です?
(今から説明する。・・・信じて貰えるかどうかは怪しいが、俺は未来から来た。)
 未来?え?未来ですって?
(そうだ。今の俺は、闘病している。だが近い未来、俺は力尽きる。)
 このままでは、駄目なんですね。瞬君は頑張っているのに・・・。
(やってる事に間違いは無い。万年病とて病気だ。瞬は『破拳』のルールで、全て
を打ち砕く事が出来る。だが万年病は、強烈な呪いの様な物だ。それを人間の独力
で何とかしようと思う方が間違っているんだ。)
 そうか・・・。瞬君1人に任せっ切りにするのが良くないんですね。
(治し方は後で説明する。・・・このまま放って置くと、俺は死ぬ。その事自体は、
俺は、事実として受け止めた。神とて死ぬ時はある。それはしょうがない事だと、
俺は思っていた。・・・しかし、アイツが後を追ったんだ・・・。)
 アイツ?ええと・・・。まさか赤毘車さんが、後を追って、死んだんですか!?
(ああ・・・。皆が、止める間も無く、切腹しやがった・・・。江里香の『治癒』
のルールも、自分のルールで防御してまで拒んだ。)
 そ、そこまでして・・・。赤毘車さんが言っていた、ジュダさんは、自分の全て
と言う言葉は、本当だったんですね・・・。
(強情な奴だよ・・・。それからだ・・・。ソクトアは、おかしくなった。)
 おかしくなった?・・・とは?
(俺と赤毘車の死が、セントに知られたのさ。セントは、何かの切っ掛けを待って
いたんだろうよ。・・・まず、ミシェーダの手によって、士が殺された。)
 つ、士さんが!?そんな簡単に!?
(簡単にじゃ無い。相当抵抗した跡があった。だがミシェーダは、『時空』のルー
ルを駆使して、ギリギリの所で勝利したんだ。)
 そうか・・・。時間を巻き戻す事が出来る『時空』のルールは、最強に近い能力
だ。しかし、連発出来ないのが、欠点だった筈だ。『時空』のルールを駆使してっ
て、そんなに連発出来たんですか?
(本来なら出来ん。時間の蓄積をしないと、使えない『ルール』だ。)
 本来ならって事は・・・。この時のミシェーダは・・・。
(そうだ。何故か連発してやがった。何か特別な事をしたんだろう。)
 何か特別な事・・・。やはり、セントが何かしたんですね。
(そう考えるのが妥当だな。・・・ここからは、言い難いんだが・・・。)
 ジュダさん。僕は覚悟します。話して下さい。
(分かった・・・。まず、ゼハーンが、士の蘇生を試みた。・・・センリンが、士
の為に、魂を提供したいと言い出してな。・・・だが失敗した。・・・結果は、見
るも無残だった・・・。センリンは、魂を捧げて死亡し、ゼハーンは、『魂流』の
ルールでの蘇生に全ての力を使って、力尽きた・・・。)
 有り得る事だ。センリンさんと士さんは、深い所で繋がっている。しかし、失敗
してしまったのか・・・。しかもゼハーンさんまで・・・。
(士がやられた事で、センリンとゼハーンが犠牲になり、何かが狂ったんだろう。
・・・天神家は、ギクシャクし始めてな。・・・アレだけ絆が続いてたのが、嘘の
ように崩壊し始めた。レイク達のグループ、瞬達のグループ、そして、敵討ちをす
ると言って、ショアンとジャンとアスカのチームと、分かれてしまった・・・。絶
対的に強い士は、支柱だったんだ。)
 僕達がバラバラに・・・。それは、きついな・・・。
(そうなれば、相手の思う壺だ。レイク達は、新生魔族に襲われた。)
 新生魔族!?何ですかそれ?
(士達の話で出てきただろ?ケイオス=ローンとその一味だ。)
 ああ。『創』が呼んだ魔族でしたっけ・・・。
(そうだ。ケイオスは、『無』の力も扱える魔族だ。レイクは、ゼロ・ブレイドで
『無』の力に対抗していたが、それにも限界が来てな・・・。)
 レイクさん達は・・・やられてしまったのですか・・・。
(やられた・・・いや、それすらも無かった事にされた。)
 ま、まさか、『無』の力で!?
(そうだ。全て消された。・・・ケイオスは、そこまでやるつもりは無かったそう
だ。だが、ゼロ・ブレイドで対抗されたので、『無』を全開にしなきゃ、対抗出来
なかったそうだ・・・。その力に、全て巻き込まれた。)
 何て事だ・・・。なまじ強かったから、レイクさん達は、圧倒的な力を相手に出
させてしまったのか・・・。
(ショアン達は、士の敵討ちに出掛けたが、士が敵わなかったのに、敵う訳が無い。
それに、ショアンは正常な判断をして無かった。・・・最期は、抵抗も虚しく、戦
死した・・・。)
 ショアンさん・・・。睦月さんも居るってのに・・・。
(とうとう、追い詰められて、最後は、お前達だけになった。)
 僕達だけ・・・か・・・。それじゃ、敵いっこないですね。
(そうだ。俺も魂になりながら見ていた。だから、最後の賭けに出たんだ。)
 最後の賭け・・・ですか?
(今のお前と同じ状態になった。つまり、俊男に憑依したんだ。)
 成程。瞬君にはゼーダさんが付いてますからね。それで僕なんですか。
(そうだ。それに、お前とは波長が合ってな。)
 そう言う事でしたか・・・。それは光栄です。
(やがて、爽天学園も襲われてな。その戦いで瞬と江里香は、やられた。ミシェー
ダが江里香を盾にとって、瞬に止めを刺したんだ。)
 エリ姉さんまで・・・。そうか・・・。エリ姉さんを守る為の人数が居なかった
のか・・・。あんなに僕達には、頼れる仲間が居たのに・・・。
(あっけなかったよ・・・。最後に残った希望は、お前だけになったんだ。俺と同
化しているお前だけにな。)
 僕だけで、勝てる筈が無い・・・。
(そうだ。それでも、恵は諦めなかった。血の涙を流してでも、諦めずに闘ってい
たんだ!・・・そこで、俺は最後の手段をお前に勧めた。)
 最後の手段・・・ですか?それはどう言う?
(今、目の前に起こっている事だ。・・・俺は、宝石の力を使って、『時空』を越
えてきたんだ。『琥珀時力(アンバートライアングル)』を使ってな。)
 凄いですね。宝石に時空を操る能力があるなんて。
(元々、ミシェーダに対抗するために、死ぬ気で見つけた能力だったんだが。こん
な状況で使うとは、思わなかったぜ。)
 絶望的ですものね・・・。
(俺が戻れるのは、この時間くらいが限界だ。しかも、使うには、お前の力も合わ
さってじゃなきゃ、完全な形では出来ん。・・・その事を忘れるなよ。)
 どう言う事ですか?限界とは?それに、僕の力も要るのですか?
(本当は、俺が発症する前に戻りたかった。しかし何の因果か、戻れなかったのさ。
恐らく、俺の意識がある内は駄目なんだよ。・・・それと、この力は、俺だけの力
じゃ未完成のままだったんだ。だから、お前の力も要るのさ。)
 そうですか・・・。僕の力も・・・。それで、ジュダさんが昏睡している今じゃ
ないと、時空を超える事は、無理って事ですか?
(そう言う事だ。・・・それと、先に謝っておく・・・。これから、俺がお前に託
すのは、恐らく、とても辛い事だ・・・。)
 何を言ってるんですか。さっき言ったような未来なんて、僕だって真っ平です。
なら、変えていきましょうよ!
(なら良いんだけどな・・・。俺は、何としてでも未来を変えたい。赤毘車を、あ
んな形で失うなんて、冗談じゃない。)
 ジュダさん・・・自分より、赤毘車さんの為なんですね。
(アイツも俺に言っていたが、俺にとっても、アイツは全てなんだ。)
 互いが互いを必要としている。良い関係なんですね。
(そうだ。俺は死んでから、その想いが強くなった。馬鹿だろ?)
 そんな事ありません。平常時は、気付かない物だと思います。
(ありがとうよ・・・。それと・・・。これを受け取れ。)
 ・・・これは?ジュダさんより少し青に近い光ですね。
(未来のお前の魂だ。今話した事が、もっとリアルに分かる。)
 これを先に渡してくれても良かったのでは?
(馬鹿。予備知識も無しに渡したら、記憶が混乱するだろう?)
 ああ。そりゃそうだ。突然、今言われた事を、一気に記憶に流れたら、混乱じゃ
済まないだろう。廃人になり兼ねない。
(予備知識がある今だって、廃人になってもおかしくないんだ。覚悟しろよ。)
 ・・・分かりました。宜しくお願いします。
(じゃ、渡すぞ。)
 これが・・・僕の未来の魂・・・。
 吸い込んだ瞬間、僕の頭の中は、色んな事が駆け巡った。


 このままでは、いけない・・・。
 本当に、あっけなかった・・・。
 いつまでも続く楽園など無い・・・。
 だからって、こんな結末は、あんまりだ・・・。
 歴史を変えてはいけない・・・。
 軽々しく変える事は許されない・・・。
 だけど、だけど!!だけど!!!!
 こんな結末は、変えてやら無くてどうする!!
 僕は、チャンスを貰った。
 ならば、最後の最後まで、足掻くんだ!!
 それが、僕に課せられた使命だ。
 士さんは、最後まで闘った・・・ミシェーダが、息絶え絶えになるまで。
 それは、その時間を使って、僕達に打倒して欲しかったからだ。
 なのに僕達は、士さんの死を嘆き悲しんだだけで、何もしてこなかった。
 レイクさん達は、闘った・・・。
 相手は、グロバスさんをも上回ろうかと言う『神魔』なのにだ。
 最後まで勝利を信じて闘って、ケイオスに本気を出させた。
 瞬君も闘った・・・闘った!!
 エリ姉さんも!亜理栖先輩も!伊能先輩も!!勇樹も!!!
 皆、そう・・・皆、死力を尽くして闘ったんだ!!
 だけど、敵わなかったんだ!!
 余りにも強大だったんだ!!
 どこで、何処で間違ったんだ・・・。
 いや、それは、最初からだ・・・。
 士さんを一人で行かせちゃ駄目だったんだ・・・。
 レイクさん達が離れるのを、引き止めなくては、いけなかったんだ・・・。
 赤毘車さんが、絶望に打ちひしがれた時、誰かが居なくてはならなかったんだ!
 ジュダさんが、死ぬ前に、何とかしなきゃいけなかったんだ!!
 何も・・・何もしなかったんだ・・・。
 こんな事で、仲間とは、笑わせる。
 最後に残ったのは、ジュダさんと同化した僕だ。
 瞬君が闘っている時に、ジュダさんと同化して、気絶していた僕だ。
 皆が、最後の希望だと言う。
 こんな情けない男が希望?・・・馬鹿な・・・。
 でも、チャンスはあると言う。
 ジュダさんが、最後の賭けがしたいと言い出した。
 時空を通って、過去を変える・・・。
 そうすれば、現在(いま)が変わる筈だと、言っていた。
 こんな現在など、僕には何の価値も無い。
 僕は、時空を越える事を決意した。
 恵さんに、それを明かしたら、頑張ってと言われた。
 恵さんは、知っていたのかもな・・・。
 恵さんは、ジュダさんの病気の解明を、睦月さんとずっとしていた。
 いつかの役に立つと、懸命にやっていた。
 特に、睦月さんなんかは、ショアンさんが戦死して、悲しいのを隠してだ・・・。
 そして、ゼハーンさんに相談しろと、言ってきた。
 ゼハーンさんは、大分前に、死亡した・・・。
 原因は『魂流』のルールでの蘇生での無理が祟ってだ。
 だから、生きている時に相談しなさいと、恵さんは言った。
 恵さんは、いつも、先の事を考えていたんだ・・・。
 こんな絶望的な現在になっても、諦めて無かったのだ。
 なら、やり遂げるしかない。
 どんなに辛くても、どんなにきつくても、やり遂げなきゃ駄目だ。
 恵さんの頑張りを、無駄にしてはいけない。
 僕は、時空を越える・・・。
 そう決意して、琥珀を握り締める。
 後は、ジュダさんが発動すれば、過去に行ける。
 しかし、目の前にはミシェーダが迫っていた。
 過去を変えさせてなる物かと、邪魔をしに来た。
 それを、睦月さんが『転移』のルールで撹乱する。
 葉月さんが、『結界』のルールで周りを遮断する。
 恵さんが、『制御』のルールで、迫り来る神気弾や、瘴気弾を防いでいる。
 恵さんに至っては、魔族形態を惜しみなく使ってまで、止めている。
 琥珀に、光が宿る・・・上手く行け!!
 恵さんは、力の使い過ぎたのか、肩で息をしていた。
 その隙に、大量の敵が天神家に押し寄せる。
 とうとう恵さんが、外に出て、体を張って止めて見せていた。
 ああ・・・恵さんが・・・胸を貫かれる・・・。
 とうとう、恵さんまで・・・。
 冗談じゃない・・・冗談じゃない!!!
 こんな現在、認めて堪るか!!!
 僕は、変えてみせる!!
 後悔しない為にも、やり遂げるんだ!!
 過去へ・・・過去へだ!!
 行けええええええええ!!!!!


 ・・・遠い未来・・・いや、近い未来の夢を見ていた。
 そこでは、誰もが犠牲になり、最後の最後で、僕だけが残される。
 絶望と怒りの狭間に苛まれて、僕は、時を越える決意をする。
 そんな夢・・・いや、夢なんかじゃない!!
(そうだ。夢なんかじゃない。そろそろ起きろ。皆が心配してるぞ。)
 この声は、ジュダさんか。皆が心配してるとは?
(その通りの意味だ。お前は、俺を受け入れてから、ずっと気絶している。)
 そ、そう言う事ですか。ここは・・・天神家?
(気絶していたお前を、莉奈が発見して、天神家に運ばれたんだ。)
 成程・・・。莉奈には、迷惑を掛けたね。
(それより、未来は見たか?)
 ・・・はい。想像以上でした・・・。あんな絶望感は、ありません。僕は、自分
が許せません。絶対に、絶対に変えて見せます。
(そうか・・・。俺の都合だけで、お前まで運命を背負わせてしまって、済まない。)
 前にも言った筈です。僕は、あんな未来認めません。
(そうだったな。なら、変な話だが、俺の事を頼む・・・。恐らく、俺の死が、未
来を変えるための鍵なんだと思っている。)
 そうでしょうね。僕もそう思います。ジュダさんの死が原因で、赤毘車さんも死
に至った。そこから、セントが攻めて来たんですからね。
(そうだな。よし・・・。頼むぞ。俊男。)
 分かりました。必ず、何とかします。あんな想いは、もうしたくないです。
(記憶も受け継いだか・・・。辛い事をさせて済まない・・・。)
 いえ、この記憶があるからこそ、現在を変えなきゃと思うんです。
(そうか。お前は強いな。俺が見込んだだけある。)
 僕は、皆と未来を守りたいだけなんです・・・。
(そうだったな・・・。さ、そろそろ起きろ。)
 分かりました。余り心配されても、困りますからね。
「・・・ん・・・。」
 僕は、眼が覚める。すると、天神家のベッドの上だと知る。
 そして、ここは、医務室か?横にジュダさんが横たわっていた。未だに苦しげな
声を上げている。まだ闘っているんだ・・・。
(妙な気分だな。この時空の俺は、まだ生きているか・・・。)
 確かに、奇妙な感じがしますね。
「・・・あ。起きましたのね。」
 この声は・・・恵さん・・・。生きてる・・・。生きてるんだ!
「心配しましたのよ?いきなり気絶したって聞きまし・・・え!?」
 僕は、我慢出来ずに恵さんを抱き締める。僕が、最後に見た光景は、恵さんが胸
を貫かれている光景だった・・・。あんなの、あんなの無い!!
「ど、どうしましたの?・・・何か、あったの?」
 恵さんは、僕の様子が変だと思ったのか、驚きながらも、尋ねて来た。
「ご、ごめん。情けないけど、怖い夢を見ちゃってね。」
 僕は、恐らく涙を流していたのだろう。
「んもう、しっかりして下さいな。・・・で?何があったんですの?」
 恵さんは、鋭い目付きで、僕を見た。今度は、倒れていた理由だろう。
「うーん・・・。信じてもらえるかなぁ?」
 僕は、眼を細める。正直に言って、信じてもらえるかどうか・・・。
「俊男さん?私に隠し事は、通用しませんわ。」
 恵さんは、どんな嘘も見抜いてくる。確かに、僕一人じゃ何も出来ない。
「分かったよ・・・。んじゃぁ、話すね。」
 僕は、何も隠さず、全てを話した。僕が未来から来た記憶を持ってる事。その未
来が碌でも無い事。そして、それを回避する為に必要な鍵が、ジュダさんの死を打
ち消すと言う事。今の僕は、未来のジュダさんが乗り移ってる事。そして・・・僕
の記憶の最後をだ・・・。
「・・・信じ難いわね・・・。でも、嘘を言ってないわね。」
 恵さんは、ずっと僕の眼を見ていた。
「僕は、あんな未来は、認めない・・・。」
 そうだ。僕は、未来を変えるチャンスを得たんだ。ならば、変えなくては・・・。
「それにしても、未来のジュダさんが、俊男さんの中にねぇ・・・。」
 恵さんは、疑っているようだ。
(なら、俺が表に出れば良いだけだな。)
 ジュダさんが表に?良いんですか?
(良いも何も、そうじゃなきゃ信じてもらえないんだろ?)
 そうですがね・・・。分かりました。
「ジュダさんが、表に出てくるって。」
「ああ。ゼーダさんみたいに?大丈夫なんですの?」
 恵さんは、心配していた。確かに、アレの後は、瞬君気絶とかしてたしなぁ。
(力を使ったりはしない。ただ出るだけなら、多少疲れるだけで大丈夫だろ。)
 僕の気持ち次第って事ですね。分かりました。強く持ちます。
「じゃ、頑張るよ・・・。」
 僕は、気持ちを集中させる。ジュダさんが前に出易いように・・・。
 ・・・。
 う・・・。お?入れ替わったようだな。初めてにしちゃ上出来だ。
「これは・・・確かにジュダさんの気配ね・・・。」
 恵は、『制御』のルールを使って、俺と俊男の気配を感じ取っていた。
「さすがだな。話が早くて助かるぜ。」
 俺の言葉を聞いて、恵は、医務室に横たわっている俺を見る。そこに居る俺と、
今の俺は、多少違うが、ほとんど同じ存在だ。
「さて、余り代わると、俊男がまた気絶しかねない。戻るぞ。」
 俊男は、まだ気絶から戻ったばかりだ。無理はさせられない。
「じゃ、俊男・・・。戻るぞ!」
 俺は、俊男に意識を渡す。これは、慣れないと駄目だな。
 ・・・。
 うわ・・・。つ、疲れる!!これが、入れ替わりなのか!?
「ふう・・・。これは・・・。本当に疲れるね。」
 記憶の中でも、何回か入れ替わりをしているが、今の僕は、初めてなのだ。
(いや、それでも記憶の中で、何回かやってるから、気絶せずに済んでるんだ。)
 そうですか・・・。やはり、体に負担が来る物なんですね。
「大丈夫?汗が凄いですわ。」
 恵さんは、汗を拭ってくれた。助かるなぁ。
「とりあえず、信じますわ。ただ、そう考えると、深刻ね・・・。」
 そうだ。このままでは、暗い未来が来ると言う事だ。それだけは、避けなくては。
「確か私は、ジュダさんの病気、万年病の解析に尽力したのよね?」
 恵さんは、自分のやる事を、見据えていた。
「そうだね。睦月さんも命を懸けてやっていたよ。」
 僕の記憶の中では、そうだ。そして、出した結論が・・・。
「あ。そうだ。確か最後に、ゼハーンさんを頼れって、言ってた。」
 僕は思い出す。恵さんは、ゼハーンさんこそが、鍵だと言っていた。
「ゼハーンさんに?・・・ああ!成程!」
 恵さんは、何やら手を打つ。もう何か分かったのか?
(恵の頭の良さは、本当に一つの武器だな。)
 そうですね。こんなに頼れる人は、他に居ません。
「恐らく、ゼハーンさんだけじゃ無いわ。内のお婆様にも相談するのよ。」
 内のお婆様?って、清芽さんか!つまり、天使が鍵だと言うのかな?
「後は、ゼハーンさんの『魂流』のルールは、魂を見る事が出来る筈。ゼハーンさ
んが健在なら、ジュダさんの魂の形を見る事で、病気の詳細が分かるかも。」
 病気と闘っているジュダさんの魂の形を見るのか・・・。良いかも知れない。
(そんな事を、簡単に思い付く辺り、さすがとしか言いようが無い。)
 恵さんは、凄いなぁ・・・。僕なんかとは、出来が違う。
「凄いや。恵さん・・・。僕一人じゃ、絶対思いつかなかった・・・。」
 僕は、恵さんを再び抱き締める。こんなに凄くて、愛しいと思った人は、恵さん
だけだ。一人で未来を変えようと思ってた自分に腹が立つ。
「んもう・・・。今日の俊男さんは、甘えん坊さんね。・・・絶対に、未来を変え
ましょう・・・。私も、死にたくない・・・。」
 恵さんは、震えていた。そうか・・・。恵さんは、気丈に考えてくれてたが、本
当は怖いんだ。自分が死ぬかもしれないんだ。当たり前だ・・・。
「頑張ろう・・・。一人じゃなく、皆で・・・。」
 僕は、これ以上無い程のパートナーを得た。後は、ゼハーンさんの協力が要る。
後は、恵さんのお婆さんと話をするのに、ファリアさんも必要だ。
 そして、最後は、瞬君だ。万年病を壊せるのは、瞬君だけの筈だ。
 僕は、決意を新たにするのだった。


 それから、僕の突然倒れた事について、根掘り葉掘り聞かれた。皆が心配してく
れたのは、嬉しい事だった。仲間なんだって実感する。この仲間達を守る為なら、
何だってしなくてはならない。
 僕は、貧血が長引いたって事にしておいた。恵さんが、今は全部話すべきじゃな
いって言ってた。ジュダさんが僕の中に宿っていると知れば、赤毘車さんがパニッ
クになりかねないと、言っていた。でも、時期が来たら、話すつもりだと言ってい
た。確かに、いきなりパニックになられても困るね。
 それから、瞬君の猛特訓に付き合う。瞬君は、このまま頑張れば、ジュダさんを
救えると信じて、懸命だ。この瞬君の頑張りを、無駄にしてはいけない。
 それに、最後に恵さんが倒れたのを見たが、その後のソクトアを考えれば、莉奈
や、父さん母さんも、無事じゃ居られないだろう。それだけは、絶対避けなくては
ならない。その為には、ジュダさんと赤毘車さんを死なせてはならない。
 恵さんは、早速、万年病の研究をすると言っていた。修練をしながらだが、睦月
さんと一緒に、死ぬ気で研究すると言う事だ。本当に強い女性だ。
 僕は、いつもの修練を終えると、レストラン『聖』に電話をする。士さんの声が
した。士さんも、真っ先にミシェーダに狙われた・・・。それに、士さんが死んだ
後のセンリンさんは、狂ったようにミシェーダさんを狙っていた。だけど、ゼハー
ンさんと一緒に殺されてしまった・・・。あんな未来、認めない!
 しかし、誰にでも話せる訳じゃない。今の所、恵さんと僕しか知らない。慎重に
やらないと、未来を下手に弄ってしまう可能性がある。それに、赤毘車さんに知ら
れると、看破されて、ジュダさんの未来を知ってしまうそれは、出来るだけ避けた
い。恐らく、赤毘車さんなら、それを受け止めて、助力してくれる。しかし、ジュ
ダさんを助けられなかった場合、止める間も無く死んでしまうだろう。
 そこで、ゼハーンさんに用事を伝える。ゼハーンさんが鍵だと、未来の恵さんは
言っていた。その言葉を信じようと思う。全部を伝える訳には行かないので、とり
あえず今夜、個人的に会いたいと言っておいた。その布石として、今日は、天神家
に泊まると、親には伝えておいた。天神家には莉奈と共に、何度も通っているので、
信用されているので、話も通し易かった。
 こうして、夜の恵さんの個室に集まる事になった。何でも、特にこの部屋は防音
が完璧で、まず聞かれる事が無いのだとか。恵さんは、ファリアさんも呼んである。
ファリアさんを呼ばないと、清芽さんと話が出来ない。
「で、話とは何だ?私に関連する事か?」
 ゼハーンさんは、訝しげだ。確かに僕とゼハーンさんは、ほとんど接点が無い。
修練を何回か一緒に受けた仲だが、特別親しい訳でも無い。
「はい。前に見せてくれた恵さんのお婆さんに、用事があります。」
 僕は、話を切り出す。ここは、何かを隠しても無駄だろう。
「ああー。それで、私が呼ばれた訳ね。何事かと思ったわ。」
 ファリアさんは、合点が行く。
「大事な話なんだな?清芽殿が必要なくらいに。」
 ゼハーンさんは、緊張する。
「俊男さん。ここは、任せますわ。」
 恵さんは、自分で説明しろと、僕を促す。そうだ。これは、あくまで僕が言わな
きゃ駄目だ。恵さんに言わせた所で、真意は伝わらない。
「はい。・・・ジュダさんの病気と、僕達の未来を変える為です・・・。」
 僕は、重い口を開く。この二人には、協力してもらわないと駄目だ。だから、全
てを伝えないと駄目だと思った。そして、驚かれながらも、全てを話し終えた。
「・・・あの時の俊男君の症状は、気になってたのよね。レイクがゼロ・ブレイド
を持った時に似てたし、違う精神が入り込むと、その分の負担が来るのかもね。」
 ファリアさんは、突然失神した僕の症状が気になっていたようだ。
「それにしても、未来からとは・・・。少し信じ難いな。」
 ゼハーンさんは、そんなに簡単には、信じられないようだ。
「やっぱり、見せなきゃ拙いですかね?」
 僕は覚悟していた。やはり、信じて貰う為には、ジュダさんを見せるのが一番効
果的のようだ。二人は、今日もジュダさんをお見舞いしてたので、ジュダさんが、
まだ苦しんでいるのを知っている。
「私も、証拠が欲しいわね。見せて貰えるかしら?・・・『結界』!」
 ファリアさんは、そう言いつつも、『結界』を手早く張る。さすがの手際だ。
(まぁ、しょうがねぇわな。『琥珀時力』は、現在の俺でさえ、まだやった事が無
い技の筈だ。お前の体に乗り移ってから、初めて使ったんだ。)
 そ、そうなんですか?失敗しなくて、良かったですね・・・。
(そう、引くなよ・・・。怖い技だから、安易に使いたく無かったんだよ。)
 そうですよね・・・。過去に行くなんて、凄い技ですしね。
「ジュダさんの了解は得ました。代わりますね。」
 僕は、断りを入れてから、ジュダさんに意識を渡していく。
 ・・・。
 さっきの変身より、スムーズだな。少し慣れたか?その方が、俺も助かる。
「・・・確かに、ジュダさんね・・・。さすがに、驚くわ。この状況は・・・。」
 ファリアは、俺の気配を感じ取ったようだな。
「俊男を選んだ理由はあるのですかな?」
 ゼハーンは、そっちの方が気になっているようだな。
「ああ。俊男とは、波長がバッチリだったってのもある。ただな・・・。こんな事
を背負わせて、悪いと思っている・・・。」
 俺の素直な気持ちだ。俊男は、未来を変える事を、俺と共に背負わなきゃいけな
くなった。苦しい戦いになると思う・・・。
(僕は、他の誰かが背負うなら、自分で背負いたいと思ってます。)
 ・・・ありがとうよ。でも、自分を労るのも、忘れないでくれ。
「俺は、自分の死だけなら、そんなに気にしなかったんだけどな・・・。赤毘車が
後を追うとは思わなかったんだ・・・。それだけは避けたい・・・。」
 そうだ。自分だけが死ぬなら、ここまでするつもりは無かった。
「全く・・・。ジュダさんと言い、俊男君と言い、無理し過ぎよ。背負い過ぎなの
よ。もっと単純で良いのよ。皆が明るく笑う未来が欲しい!で良いじゃない。」
 ファリアは、未来の事とか、過去を改変する事とかを忘れろと言う。
「このままでは、士も死んでしまうのだろう?そして私達も。なら、改変する事に
躊躇いは無い。是非、私にも協力させてくれ。」
 ゼハーンも、覚悟を決めたようだ。
「感謝する。・・・俊男を支えてやってくれ。」
 俺は、そう言うと、俊男に意識を渡す。
 ・・・。
 うぐ・・・。まだ少し疲れるけど、我慢出来ない程じゃない。段々慣れて行って
るのかもね。最終的には、違和感無く代われる様にしないと。
「俊男さん。大丈夫?無理してないわよね。」
 恵さんが、支えてくれた。助かる・・・。
「大丈夫だよ。今は、前に進まないとね。」
 僕は、疲れなど吹き飛ばす。そんな事を気にしている場合じゃない。
「じゃ、お願いします。清芽さんを、呼んで下さい。」
 僕は、ゼハーンさんにお願いする。
「分かった。と言うより、本人も、出てくる気満々だ。ファリア・・・頼む。」
 ゼハーンさんは、ファリアさんに声を掛ける。
「はいはい。じゃ、行くわよ。『召喚』のルール!!」
 ファリアさんは、『召喚』のルールを発動させる。『召喚』に関するあらゆる事
項が、飛躍的に跳ね上がるルールだ。そしてファリアさんは、ゼハーンさんの方に
手を翳すと、何かを引っ張るような仕草をして、今度は予め用意しておいた小さ目
の彫像に目をやる。恵さんが用意してくれたのだ。
「じゃ、移すわね・・・。ええい!!」
 ファリアさんが、彫像に何かを移した。すると、彫像が光りだす。
「・・・またまた、皆さんこんばんは。」
 彫像が笑いかける。いやはや、いつ見ても、凄いな・・・。
「清芽殿。話は聞いていただろう?力になってやってくれ。」
 ゼハーンさんが促す。どうやらゼハーンさんを通して、話は聞いていたようだ。
「ええと・・・具体的に、何をすれば良いか・・・。ちょっと分からないんだけど。」
 清芽さんは困ったような表情になる。そりゃそうか。
「お婆様。天使になった時、何か言われた事とかあります?」
 恵さんが、清芽さんに尋ねてみる。
「そうねぇ。『喜びの歌と共に、魂を運びなさい。』と言われたかしら?」
 清芽さんは、記憶を辿る。天使の基本の仕事なのだろう。
「お婆様が、ジュダさんの魂を運ぶとしたら、どうします?」
 恵さんは、ズバリと聞いてくる。
「恐れ多い事だけど・・・やっぱり、体から離れて行くのを見届けて、天の楽園に
お連れする事になるのかな?神になるくらいの人は、ほとんど天の楽園に連れて行
く筈よ?魔族などは、反対に魔の楽園に連れて行くけどね。」
 清芽さんは、必死に記憶を思い出しながら、説明する。
「ありがとう。お婆様。・・・ちなみに、体から離れる前に、魂に触る事は出来ま
す?生霊みたいになっちゃうかも知れませんが・・・。」
 恵さんは、何か考えがあるようだ。
「普通は、無理だと思う・・・。だけど・・・。」
 清芽さんは、ゼハーンさんを見る。
「私の『魂流』のルールなら可能なのだな?」
 ゼハーンさんは気が付いたようだ。成程。『魂流』のルールで魂に触れられるゼ
ハーンさんが居れば、ジュダさんの魂に触れられるかも知れない。
「それで、ジュダさんの魂を治すんだね?」
 僕は尋ねてみた。そうすれば、ジュダさんは、元気になるかも。
(いや違うな。万年病は、そんな生易しい病気じゃない。恵も気付いている筈だ。)
「そう行けば楽でしょうけど、恐らく無理よ。それで治るなら、未来の私も、試し
ている筈。・・・ゼハーンさんだけじゃ駄目なのよ・・・。」
 恵さんは、苦しそうに声を出す。それは、言い難い事を言う時の恵さんだった。
「それに、それだけで治るなら、兄様の『破拳』のルールでも、治せる筈・・・。
恐らく万年病は、それ以上の強制力が働いている・・・。つまり、万年病と言う病
魔を形にしなきゃならない筈よ。」
 病魔を形に・・・。と言う事は、その病魔を倒さなきゃいけないのか?
「魂を形にした時、何が起きるか分かりませんわ。その対応に行ける人を、何人か
用意した方が良いと思います。」
 何が起きるか分からないか・・・。それだけ、万年病と言うのは、正体不明なの
だろう。恐ろしい病気だ。
「んー?じゃぁ私は、何をすれば良いの?恵ちゃん。」
 清芽さんは、不思議そうな顔をしていた。
「お婆様は、その何かの時の為に、待機して下さると、助かります。」
 恵さんは、いくつか思い当たる節があるようだ。
「うん。ゼハーンさんのお手伝いも兼ねて、頑張るわね。」
 清芽さんは、自分が役に立てるのが嬉しいようだ。
「私も見届けるわ。蚊帳の外は真っ平だからね。」
 ファリアさんも、付いてきてくれるようだ。助かるね。
「私は、『魂流』のルールで、魂を取り出せば良いのだな?」
 これは、正にゼハーンさんしか出来ない事だ。
「お願いするわ。後は・・・期限は、いつまでかしら?」
 恵さんは、僕に尋ねてくる。
(俺の体力が尽きたのは、確か3日後だ。3月の1日だな。)
 3日後!?そんな早いんですか!?
(事実だ。万年病は、進行が早くてな・・・。)
 そうですか・・・。でも、やらなくちゃですね!
「・・・3日後だそうです。3月1日にジュダさんは、力尽きたと言ってます。」
 僕は、搾り取るような声で言う。
「3日後ね・・・。面白いですわ。覆して見せましょう。」
 恵さんは、臆する事無く言った。頼もしいなぁ。
「私も、何が出来るか分からないけど、手伝える事があったら、やるつもりよ。」
 ファリアさんも、やる気タップリだ。頼もしいよ本当に。
「緊張してきました・・・。でも、やらなくちゃ駄目ね。」
 清芽さんも、覚悟を決めているようだ。
「フッ。罪人の私が、ソクトアを救う鍵にか・・・。面白い!」
 ゼハーンさんは、いつに無くやる気に満ちていた。
(全く、頼もしい仲間達だな。お前達と知り合えて、良かったぜ。)
 僕もですよ。ジュダさん。やってやりましょう!
 こうして、僕達のジュダさんを救う作戦が、開始されたのだった。



ソクトア黒の章5巻の5前半へ

NOVEL Home Page TOPへ