7、変革  真の王道を突き進む為には、揺ぎ無き道を示さねばならない。そして、それに相 応しい考え方こそが、『覇道』であり、余が信望する道だ。  その前に立ちはだかるは、1000年前と同じ、人間達である。そして1000年前には 同士だった『神魔王』まで、人間に肩入れをしている。何か気に入る力でも見せら れたのであろうな。そして、人間と歩む道を選んだ。  恨む気は毛頭無い。寧ろ、対戦が楽しみである。最強の『神魔王』にして、伝記 の魔族の憧れの対象。それと闘えるとは、滅多に無い機会だ。しかもかなりの強さ を持った人間と『同化』している。余の最大の敵だと言っても良い存在だ。  余は、対戦を楽しみたいが、『ダークネス』の人間達だけでは、駒が足りぬ。本 気でぶつかるには、駒が揃って無いと、意味が無い。  強力な駒を得たが、まだ一つだ。これでは足りぬ。やはり、呼ばなければならぬ ようだな。余の最大の理解者達を。『覇道』の賛同者にして、余の家族でもある。  余は、『ダークネス』の巨大魔方陣が描かれている部屋に足を踏み入れる。確か スラムの第2支部とか呼んでいたな。かなり出来が良かったので、『転移』の扉の マーキングをしておいた。これで、いつでもこの部屋に行く事が出来る。そして、 いざと言う時に、キャピタルにある本部に戻る事も出来る。中々便利だ。  巨大魔方陣の前に立つ。余は、このソクトアに、再び『覇道』を提唱しなければ ならぬ。『神魔王』が、提唱しないのならば、余が成し遂げるのだ。  余は、『ダークネス』の面々に集めさせた『闇の骨』を魔方陣に置く。『闇の骨』 は、相性と言う物がある。強力な魔族を呼び出す為には、かなり大きい『闇の骨』 が必要となる。しかも、呼び出し易い波長と言う物があり、それに呼ばれて、地上 への門が開くのだ。つまり、呼び出し易い波長だと、目の前に穴が出来る。この前 の余は、それに感づいて、穴を通り、ソクトアへと繰り出したのだ。  その時に、近くに余の妻が居れば、このような労力は必要無かったであろうが、 穴は一瞬しか開かなかったから、仕方が無い事であろうな。  ならば、こうして余が呼び出す他あるまい。あちらも心待ちにしているであろう。 早く呼び出してやらぬと、拗ねられては敵わぬからな。本当は、伝記のクラーデス のように、瘴気を辿るだけで召喚出来るようにすれば、早かっただろうが、余は、 そこまでの処理をしていなかった。  余は、力を集中させると、『闇の骨』を巨大魔方陣の上に置く。そして、力を注 入していく。すると、『闇の骨』は不気味に光りだした。そして、力を集め易くな るように六芒星の各点に『闇の骨』を配置する。 「来ると良い。余が一族よ。」  余は、魔方陣を見つめる。すると暗黒色に染まっていく。瘴気の色だ。  ハァァァァァァァァァ!!!  気合の入った叫び声が聞こえた。しかも3つだ。狙い通りだった。 「う・・・。此処は?・・・おお!やはり、ケイオス様じゃ!」  この声は、余が妻だな。1ヶ月振りくらいであるな。 「・・・おお!父!お久し振りです!やはり、あの穴は父の召喚要請でしたか!」  ハイネスであるな。変わっておらぬな。 「父上だぁ!って事は、此処がソクトア?」  メイジェスは、初めてのソクトアであったな。 「良くぞ来た。此処は、ソクトアの中央大陸である。今は生まれ変わって、セント メガロポリスなどと名乗っておるがな。」  余は説明してやる。そして、現在のソクトアのシステムを説明する。色々変わっ ておるからな。伝記時代の知識しか、魔界には伝わっておらぬから、説明しないと、 混乱してしまうであろう。 「此方達の父の時代とは、まるで違うのであるな・・・。」  エイハは、伝記時代の事を言う。そこからの知識から、変わっていない。余と同 じくらいの知識しかないので、慣れるまで大変かも知れぬな。 「父よ。私達は『覇道』の実現に尽力する為に呼ばれたのですね?」  ハイネスは、余の考えを汲み取ろうとする。 「如何にも。だが焦ってはならぬ。余が目指すは、目先の勝利では無い。それは分 かっておろう?今は『覇道』実現の為の準備段階である。」  余は、慌てて実現しようとは思っておらぬ。 「勝利を信じて疑わない。父上らしいね。」  メイジェスは、余のそう言う所が好きなようだ。可愛い奴よ。 「さすがは此方が夫じゃ。・・・ところでケイオス様。近くに強い瘴気を感じるが、 誰であろうか?此方の知ってる瘴気では無いですじゃ。」  エイハは、近くに居る瘴気を放つ者が気になっているようだ。 「焦るで無いわ。落ち着いたら紹介しようと思っていた所だ。余の賛同者よ。」  余は、少し勿体付けた。余らしく無かったな。 「出番だ。入るが良い。」  余は、近くに控えていた者を呼び出した。その者は、無造作に入ってくる。 「余り待たすな。仰々しくするのは、お前の悪い癖だ。」  その者は、文句を言う。気難しい奴よ。 「ぬぬ・・・!貴様、父に向かって無礼な!!」  ハイネスは、その者の口調が気に入らないのか、睨み付けた。 「ハイネス。気にするで無い。その者とは、対等に接する事で、契約しておる。そ れに、余は、どう呼ばれようとも構わぬ。余が気にするのは、敵対するか否かだ。」  余は、ハイネスを手で制する。余は、威光を示す為にソクトアに来たのでは無い。 『覇道』を目指す為だ。そこに威光など関係無い。 「中々慕われているようだな。ならば、此処は俺が謝っておこう。」  その者は、頭を下げる。 「余は気にしておらぬ。だが、こ奴等にとって余は、貴公にとってのワイスのよう な物だ。このような態度に出るのも、無理は無いと、思って戴こう。」  余は、ワイスを例に出す。そう。この者は、砕魔(さいま) 健蔵(けんぞう) だった。健蔵は余と闘い、余が勝利したが、かなり良い勝負だった為、余が止めを 刺す前に、勧誘してみたのだ。 「成程。確かにワイス様を愚弄されたら、俺も激怒する。これは悪い事をしたな。」  健蔵は、理解してくれたようだ。言って分からぬ奴でも無いのだ。 「名乗っておこうか。俺は、砕魔 健蔵だ。ケイオスの『覇道』は、俺が目指した 物と同じ故、賛同する事になった。」  健蔵は、改めて挨拶をする。余は、健蔵との戦闘と、会話を思い出す。  そして、それを一族にも伝えるつもりであった。  健蔵は、かつての上司であるグロバスの為に、グロバスの精神が乗り移った人間 黒小路 士を先に行かせる為に、余と戦闘になった。余は『ダークネス』の首領で あった『創』に呼ばれて此処に来たので、それを助けると言う義理を果たす為、士 を助ける健蔵と戦闘になった。  だが、お互いに、そんな背景など、どうでも良くなっていた。目の前に居る強者 と闘える事が、全てになった。互いに復活して間も無い状況で、全力を出せぬ身だ ったが、お互いの力の底は、かなりの物と見切っていた。 「やりおるな。さすがは伝記の『神魔剣士』よな。」  余と存分に闘える奴など、そうは居ない。既に魔界では皆無であった。 「貴様こそ、俺に此処までの力を出させるなど、恐ろしき奴よ。」  健蔵も、余の力を認めていた。 「・・・だが貴公も、此処までだな!!」  余は宣言する。確かに良い勝負をしてるし、気を抜くと、やられる可能性はある。 しかし、余の方が力が上だった。 「さっきの士との闘いを抜きにしても、確かに貴様の方が上のようだ・・・。」  健蔵は、士との闘いで消耗していたが、それを含めても、余の方が力が上だと認 めた。実力者だからこそ、埋められない実力差に気が付いたのだ。 「それに気が付いただけでも、貴公は強い。中々楽しめたぞ。」  僅かだが埋められない実力に気が付けるのは、強い者の証拠だ。 「残念だ・・・。だが、元よりこの命は貰い物だ。グロバス様のお役に立てただけ、 マシだな。・・・それに、貴様との闘い、楽しめたぞ。」  健蔵は、観念する。何とも忠実な事だ。だが、余はその言葉に納得しなかった。 「貴公、それで良いと申すか?誰かの為に命を捧げて、由とするのか?」  余は、気に入らなかった。忠実なのは良いが、そこに自分の意志が感じられぬの では、余の理想とは、掛け離れている。 「忠実な僕に徹するのは、生き方としては楽であろうな。だが、そんな生き方、余 は許さぬ。・・・余に迫る力を持った者が、そのような最期を由とするな!」  余は、力ある者が好きだ。だが、理想無き力を振りかざすのは、見るに堪えぬ。 「貴様、何を言っているのか、分かっているのか?敵が観念してるのに、息を吹き 返そうとさせるなど・・・。どうかしているぞ。」  健蔵は、信じられないらしい。まぁ益には、ならぬかも知れぬな。 「余は、犬死にする者を見る趣味は無い。死ぬなら誇りを抱いて死ぬが良い。」  余の根底には、その考えがある。誇りを持って、力を出し尽くして倒れるのなら ば良いが、それも出来ぬまま、無念を抱いて死ぬのは、見るに堪えない。 「・・・き、貴様、まるで・・・。」  健蔵は、そこまで言って、口を噤む。 「誰と比べてるか知らぬが、余は、誇りを持って生きる事こそが、『覇道』の真髄 と思っている。そして、その考えに間違いは無いと信じている。」  余は、真の意味での『覇道』を貫く事を、心に決めていた。 「・・・その考えに、偽りは無いな?」  健蔵は尋ねてくる。迷っているのか? 「くどい。余は、信念を貫く。誰にも文句は言わせぬ。」  研鑽を積む事で、力が増す。力を持つ為には、信念を持たねばならぬ。そうして 出来た力こそが珠玉であり、それが無為に終わる世など、間違っている。 「力こそ正義と言う言葉に、その研鑽や信念を貫く事も含まれていると、余は考え ている。『覇道』とは、その上で出来た言葉であろう?余は、そう思っているぞ。」  余は、その解釈で間違いは無いと思っている。で無ければ、アレだけの魔族が、 付いて行く筈が無い。力を信望する魔族だからこそ、その高潔なる精神を、本質で 理解出来るのだ。 「お前、本気で『覇道』を目指すつもりなんだな?その理解力は、敬意に値する。」  健蔵の見る目が変わった。さすが力を理解する魔族だ。 「健蔵。貴公は誰よりも、忠実で高潔なる精神を持っている。忠実さだけで終わる のは、貴公の力を考えると不足である。」  余は、健蔵を評価している。伝記を生きてきただけあって、魔界よりも濃い強さ を持っている。後は、忠実さだけでは無い何かが欲しい所だった。 「健蔵よ。貴公を殺すのは、余にとって痛手でしかない。余と『覇道』の精神を貫 く手伝いをしてみぬか?」  余は、健蔵を仲間に誘おうと思った。単純に力が惜しいと感じたからだ。 「俺に、グロバス様を裏切れと言っているのか?」  健蔵は、グロバスの忠実な部下だったから、気にするのは仕方が無い事だ。だが、 そのような考えは、笑止でしかない。 「フハハハハ!何故そうなる。『覇道』は、神魔王が提唱した道。グロバスならば、 余に貴公が付いていったら、余の『覇道』を尋ねるくらいで終わるであろうよ。」  あのグロバスならば、余が真実なる『覇道』を提唱していると気が付くだろう。 そこで健蔵が付いていって、裏切ったと感じるか?・・・感じる訳が無い。そのよ うな狭き魔族では無い。器の大きさは、並大抵の物ではあるまい。 「何故分かる?お前は、グロバス様の考えが分かるとでも言うのか?」  健蔵は、不思議なのだろう。 「分からぬ筈が無い。余も同じ考えだからだ。貴公が、ここで余と決別しても、余 は咎めたりせぬぞ。それだけ余の力に魅力が無かっただけの事だ。」  余は器の大きさで、グロバスに負ける訳には、いかぬ。 「フッ。大きく出たな。グロバス様と並ぼうと言う訳か。・・・面白い!お前は、 見てて飽きぬ!確かに、このまま死ぬのは勿体無いな!」  健蔵の眼が輝いていく。興味を持ってくれたようだな。 「良いだろう。お前と共闘しようではないか。俺が見極めてやるぞ。」  健蔵は、余を見極めると言った。言うではないか。 「存分に見極めるが良い。余はケイオス=ローン。『覇道』の新たな提唱者にして、 力の体現者である!」  余は、高らかに宣言する。部下にするのでは無く、共闘する。それが、余と健蔵 の関係だ。それを言うだけの力が、この男には宿っているからだ。  余は、話し終えた。余の一族は、感心しながら聞いていた。 「では、父と共闘するが、いつ裏切っても良いと言う事か?」  ハイネスは、健蔵を睨み付ける。 「坊主、聞いて無かったのか?それは裏切りとは言わんのだよ。」  健蔵は、実に愉快とばかりに、笑って見せた。 「だ、誰が坊主か!私は、危惧しているだけだ!」  ハイネスは、少し気が昂ぶっている様だな。 「ハイネス!・・・余を失望させるな。健蔵の言う通りではないか。余は、魅力あ る方に付けと言ったのだ。それで向こうに付いたとして、余は恨み言を言うつもり は無い。・・・こんな説明をさせるな。」  余は頭を抱える。ハイネスは、余の為と思って言ったのだろうが、そのような器 の小さい事を言っているのでは、余の理想とは程遠い。 「ハイネス。ケイオス様の言う通りじゃ。健蔵殿は、共闘すると言うたのじゃ。そ れを信じずにどうするのじゃ。今は、仲間として迎え入れ、もし、離れたら敵とし て、迎え撃てば良いだけじゃ。」  さすがは余が妻。これくらい度胸が据わっていると、見てて気持ちが良い。 「ほう。肝が据わっている。女にしておくには惜しいな。」  健蔵は、エイハの事を気に入ったみたいだな。 「ホッホッホ。女である事は、ハンデでは無いぞ?その言い方は、古風であるのう。 此方は、此方だから、こう言う考えなのじゃ。それ以外の何者でも無いぞよ?」  エイハは、上機嫌に語る。健蔵が、女である事を惜しいと言った事に対しての反 論か。確かにエイハは、そのような些事な事を気にする性格ではないな。 「それと此方に惚れても無駄ぞ?此方の心は、ケイオス様にしか向けられぬ故のう。」  エイハは、いつに無く饒舌になる。余程、上機嫌みたいだな。 「ハッハッハ!気持ち良いまでの女傑だな。良かろう。お前の名を聞いておこう。」  健蔵は、名前を尋ねてきた。 「此方はエイハと申す。覚えておくが良いぞ。」  エイハは、名を名乗る。すると健蔵は、考え込む。 「お前、レイモスの娘か?」  健蔵はレイモスを知っている。レイモスに子供が二人居た事も知っているようだ。 「此方の父をご存知かえ?」  エイハは、キョトンとしていた。 「ほう。本当にレイモスの娘とは・・・。大きくなった物だな。」  健蔵は、幼少の頃のエイハを見ているのかも知れぬな。 「幼少の頃の此方をご存知なのか。成程のう。時の流れを感じる物じゃな。」  エイハは、妙に納得していた。 「お前の兄貴はどうした?」  健蔵は、兄弟が居た事を覚えていた。 「兄?デイビッドであるか?あ奴は、此方に敗れて臣下になったぞ。その後は、ケ イオス様が頂点に立たれたから、今ではケイオス様の臣下じゃのう?」  エイハは、デイビッドの事を、もう余り良く覚えてないようだ。 「デイビッドは、余に挑戦し敗れた。その時に、余を暗殺しようとしたので、処分 した。面白い余興だったが、諦めの悪い男でな。つい殺してしまった。」  余は、デイビッドの末路を語る。余に挑戦するのは構わぬ。反逆するのは、別に 『覇道』なら常であると思っている。しかし、闇に紛れての暗殺は、余は好まなか ったので、勢い余って、殺してしまったのだ。 「ほう。兄は死んだのか?まぁ、あの器では、魔界では生きていけぬ。ケイオス様 に殺されたのなら、名誉ある死であろうのう。感謝するぞよ。」  エイハは、さすがだった。兄の死を聞いても、眉一つ動かさない。 「クックック。お前達は、魂の髄まで夫婦よな。」  健蔵は、高らかに笑う。確かに余に付いて行ける女は、エイハくらいだ。 「えーと。私、メイジェス=ローンだよ!オジサン!」  余が娘が健蔵に挨拶する。 「随分馴れ馴れしい娘だな。俺が怖くないのか?」  健蔵は拍子が抜けたようだ。 「え?だって父上と一緒に闘うんでしょ?なら、オジサン仲間だよね?」  メイジェスは、指を口に当てて考えていた。 「いつ離れるか分からぬがな。」  健蔵は皮肉を言う。しかし、それを許しているのは、余だ。 「離れたら、その時は敵でしょ?その時は、闘えば良いんだよね?父上。」  メイジェスは、無邪気に聞いてくる。 「そうだ。こう言う物騒な共闘者も乙であろう?」  余は、メイジェスの言う事を肯定する。 「父上らしいよねぇ。でも出来れば、闘いたく無いなぁ。」  メイジェスは、素直な感想を言う。 「フッ。俺は強いからか?怖気づいたか?娘。」  健蔵は、満足そうに笑う。 「いや、だって、オジサン格好良いジャン。個人的に闘いたく無いよねぇ。」  メイジェスは、無邪気に健蔵を見つめていた。 「おい。・・・お前の娘は、どこかずれてるぞ。」  健蔵は、頭を押さえる。メイジェスは、天然な所があるからな。 「ホッホッホ。健蔵殿を気に入ったと申すか?メイジェス。」  エイハは、愉快そうにメイジェスに話し掛けていた。 「うん!こんなに強くて格好良いオジサンは、魔界じゃ居ないしー。」  メイジェスは、素直に話す。何とも愛い奴だ。 「ま、褒め言葉として、受け取っておく。・・・ムズ痒いな。」  健蔵は照れていた。余りこう言う事に慣れていないのかも知れぬな。 「メイジェス。こんな奴を気に入るなんて、どうかしてるぞ?」  ハイネスが文句を言う。どうにもハイネスは、健蔵が嫌いなようだ。 「兄上煩い。文句があるんだったら、もっと強くならなきゃ。」  メイジェスは厳しかった。この娘は、物怖じせぬな。 「酷い言い様だな。だが確かに私より強いからな。その内、追い越して見せるぞ。」  ハイネスは、文句は言わない。健蔵の強さを肌で感じているからだろう。 「珍しく謙虚だな。・・・強さに対しては、真面目なんだな。」  健蔵は、余を見る。余の教育方針を見定めているのか? 「私は、気に入らぬ相手でも、力を持つ者に対しての敬意は忘れない。貴方は強い。 ならば、文句を言う資格は、私には無い。研鑽を積むだけだ。」  ハイネスは、強さに対して平等だ。それで良い。 「それで良い。実践するのだぞ?ハイネスよ。」  余は、満足な笑みを浮かべる。 「必ずや期待に応えます。」  ハイネスは、真面目なので、研鑽を忘れない。その心があれば、伸びるだろう。  余の一族に健蔵。余の『覇道』の第一歩を飾るに相応しい面子であった。  まさか、この時代に来てまで、あんな台詞が聞けるとは思わなかった。  死ぬなら、誇りを抱いて死ぬが良い・・・か。  あんな気高い事が言える魔族が存在するとはな。  しかも、口だけでは無い・・・実力まで備わっている。  久し振りに、付いて行っても良いと思える魔族が出来るとはな。  士やグロバス様には悪いが、俺はケイオスに、心を動かされた。  奴の『覇道』が、どんな物か、確かめたくなった。  奴の一族とか言うのも会ったが、中々面白き奴等だった。  奴の妻エイハは、レイモスの娘だ。魔神レイモスの娘と言うからには、いけ好か ない性格かと思いきや、中々度胸の据わった女であった。レイモスの尊大さだけ受 け継いだようで、話してて安心する性格であった。  奴の息子ハイネスは、からかい甲斐のある性格だったな。俺の若き頃に似ている 印象だった。向こう見ずで意地っ張り。そして、父親に忠誠を誓う性格など、俺の 若い頃を見ているようだ。俺もワイス様に忠誠を誓っていたしな。  奴の娘メイジェスは・・・何と言うか、扱い難い娘だったな。まさか、俺の事を 褒めてくるとは思わなかった。強さに恐怖を覚えるのならともかく、俺の事を異性 として意識するなど・・・。信じられぬ感性の持ち主だな。  とまぁ、個性的な奴等で、見てて飽きなかったな。だが、それを取り纏めるケイ オスも、さすがであった。魔界が奴を中心に成り立っていると言うのは、分かる気 がした。昔のグロバス様のポジションにケイオスは居るのだろう。『神魔』を名乗 るだけの実力も、威厳もある。  俺も油断せずに、実力をアップさせねばならん。この前の闘いですら、実力負け し、隠している実力も奴の方が明らかに上であった。その差を埋める為には、奴が 力を取り戻す以上に、修練で追い越す他無い。  幸い、『ダークネス』なる組織は、人間の中でも、優れたる暗殺者が多いと聞く。 俺やケイオスには及ばぬが、束になって掛かれば、それなりの修練になる。既にケ イオスは、『ダークネス』の連中に『覇道』の心得を言い聞かせている。此処に居 る連中は、その考えに賛同な奴等ばかりだと言う。伝記で俺達と一緒に闘った奴等 と顔付きが似ているな。  そんな中、訪問客が来たようだ。入り口が騒がしくなる。  俺は、ケイオスが力を溜めている最中だったので、対応しに行く。  『ダークネス』キャピタル本部は、地下通路の奥まった所にあると言うのに、訪 問してくると言うのは、紛れ込んだ訳では無いだろうしな。 「おお。健蔵様。怪しい奴が、訪問しに来ました!」  門番が警戒している。相手は、人間の中年に見えるが? 「俺が対応する。下がっていろ。」  俺は、訪問客を見据える。すると門番は、少し下がって様子を見守る。 「此処に何の用だ?ここは人斬り組織だし、依頼でもしに来たのか?」  俺は、当たり障りの無い事を言う。まだ魔族の組織だと言うのは、悟られない方 が良い。余り目を付けられたくは無い。 「隠さんでも良い。お前は、砕魔 健蔵だな?」  ・・・この男、俺を知っているらしいな。誰だ? 「チッ。もしやメトロタワーの関連者か?」  俺は舌打ちする。メトロタワーの連中は、組織の内情を知ってても不思議では無 い。何せ、俺を復活させたのは、他でも無いメトロタワーのゼロマインドなのだか らな。いきなり俺の事を知っているのは、その関連者と見て間違い無いだろう。 「確か、元老院だったか。その一味だな?」  俺は記憶を辿る。元老院の一味に、ゼロマインドの力の片鱗を感じていた。誰か は知らぬが、化けているに違いない。最初は『創』ことアリアス=ミラーが、その 一人だと思っていたが、奴はあっけなく死んだ。だから違うのだろう。 「フン。隠し事は出来ぬな。俺は加藤 篤則。お前が危惧している元老院の一人だ。 報告と交渉に来た。」  加藤 篤則と名乗った男は、やはり元老院のようだ。 「報告と交渉?その為にケイオスに会いに行くのか?」  俺は、真意を聞き出そうと思った。 「そうだ。しかし、まさかお前が、ケイオスに従っているとはな。」  篤則は、鼻で笑う。失礼な男だな。 「勘違いするな。従属では無い。共闘を呼びかけられただけだ。」  俺は、一応訂正しておく。 「そうか。まぁ、どちらにせよケイオスに会わせてもらいたいのだが?」  篤則は、ケイオスとの交渉に拘っていた。 「詳しい要件を言うつもりは無いのだな?」  俺は、目を細める。そして、腰にある剣に手を掛ける。 「脅しか?残念だが、俺には通じん。俺は元老院を代表して来ている。生半可な脅 しで、屈するつもりは無い。」  ・・・ほう。この男、見た目以上に肝は据わっているようだな。面白い。 「分かった。そこで、少し待っていろ。ケイオスに聞いてきてやる。」  俺は、そういい残すと、空間を引き裂いて、ケイオスの玉座の前に躍り出る。  ケイオスは、玉座に座っていたが、意識はハッキリしているようだった。この前、 一族を呼び出すのに力を使ったので、休養中なのだが・・・。 「その様子だと、誰か来たみたいだな。」  ケイオスは、俺の様子を見て、瞬時に悟る。 「ご名答だ。元老院の一人、加藤 篤則と名乗る男が来た。報告と交渉だそうだ。」  俺は、用件を伝えておいた。 「元老院?フム・・・。ミシェーダが、この前、不戦条約を結びに来たばかりだと 言うのに、妙だな。従属の相談にでも来たのか?」  ケイオスは、考えを巡らす。不戦条約は、ミシェーダの奴が交渉に来たのか。奴 も、俺と同じようにして蘇ったんだったな。忌々しい。 「色々気になる。通してみよ。」  ケイオスは、何が聞けるか分からない様子だったので、通す事にした。  俺は、篤則の所に戻り、ケイオスの許可を得た事を伝えて、案内してやる。従属 しているようで、気に食わなかったが、次元城の時の事を思い出して、懐かしい気 分になっていた。俺とした事が・・・。  ケイオスの玉座の前に着くと、篤則は周りの様子を見る。 「ケイオス=ローンとは、お前の事か?」  篤則は、ケイオスをジロリと睨む。余り良い態度では無いな。 「余が、ケイオス=ローンである。余に何か用か?」  ケイオスは、篤則に用事を尋ねる。それと同時に瘴気を出してみせた。 「・・・報告と交渉に来た。まずは報告だ。」  篤則は、少し怯んだが、ちゃんとケイオスの眼を見ていた。コイツ、中々やるで はないか。度胸はあるようだ。 「余は、ミシェーダと不戦条約を結んでいる。それ以上に何かあるのか?」  ケイオスは、下手な事を言えば、殺すと言わんばかりの殺気を出す。 「そう構える物じゃない。まずは聞いて欲しい。・・・そのミシェーダが、行方不 明になった。いや、正確には死んだと見て良いだろう。」  篤則は、ミシェーダの死を報告する。・・・何だと?あの復活したミシェーダが 死んだだと?俺は、見た事があるが、奴は『時の涙』をゼロマインドから渡されて いた。故に、自分は無敵だとか何とか、抜かしていた筈だ。そのミシェーダが殺さ れただと?・・・一体誰にだ。 「何だ。その報告か。知っておるぞ。」  ・・・何だと?ケイオスは知っていたのか? 「知っていたのか。詳細も知っているのか?」  篤則は、身を乗り出してきた。どうやら詳しい情報は、篤則も知らないらしい。 「うむ。余は、強者と闘う為に、ガリウロルに遠征していた時に、ミシェーダを見 つけた。その時に、ガリウロル人と闘って敗れたのを見ていたのでな。」  何と、ミシェーダは人間に敗れ去ったというのか!? 「その者、何故か竜神ジュダと『同化』をしておったな。しかし、ミシェーダの意 地で、チャクラムを爆弾に変えて、その者も巻き添えにしていたが?」  驚愕の事実だ。ジュダと『同化』だと?ジュダは死んだとでも言うのか? 「では、その脅威の男は、死亡したと言うのか?」  篤則は、その男の情報が聞きたいようだった。 「本来なら、そうだったのだろう。だが、奴等の仲間に、蘇生出来る仲間が居た。 それを使って、復活する様を、余は見たぞ。」  蘇生だと!?ま、まさか・・・。 「まさか、フジーヤの子孫でも居たのか?」  俺は、つい口出しする。俺との闘いで、ジークが死んだ時に、フジーヤと言う男 が、蘇生術を使って、ジークを蘇らせたと言う話は聞いた事がある。その復活した ジークに、俺はやられたのだからな。 「そこまでは、余は知らぬ。だが、蘇った様は見た。そのせいか、奴等は精も根も 尽き掛けていたのでな。余は、そのまま闘いを挑んでも、詰まらぬと感じて、帰っ てきた訳だ。そうで無ければ、闘いを挑む予定だったがな。」  成程。ケイオスらしい選択だ。不意打ちみたいな闘いは、コイツに似合わぬ。 「千載一遇のチャンスかも知れんと言うのに、甘い奴だ。」  篤則は、気に入らないらしい。まぁ普通なら、そう思うだろうな。 「フン。お前らしい選択だ。奴等の力が整うまで、こちらも戦力アップをすると言 う事か。正々堂々闘いを挑む気だな?」  俺は、ケイオスの行動パターンを理解してきた。コイツは、全力で闘う姿こそ、 一番似合っている。その為には、何でもするつもりなんだろう。 「余は『覇道』を貫く為、出来る事をやっているだけだ。」  全く、融通の利かない奴だ。そんな所が、気に入ったんだがな。 「ミシェーダを殺した奴の名は分かるか?」  篤則は、名前を聞いてきた。 「俊男・・・とか呼ばれておったな。器も相当な大きさであった。楽しみだ。」  ケイオスが楽しみと言う程か。俺はてっきり、士あたりかと思ったが、ジュダが 『同化』したとなれば、別人か。 「俊男・・・か。覚えておこう。」  篤則は、要注意人物として、俊男の名を刻んだようだ。俺も覚えておくか。 「もう一つの用件を聞こうか。」  ケイオスは、篤則が言った、もう一つの用件を尋ねる。 「ミシェーダが死んだ事で、元老院の座が空いた。そこに、お前を据えたい。」  ・・・ほう。ケイオスを元老院に推すとは・・・。 「断る。興味が無い。」  ケイオスは即座に答えた。人間の権威に興味など無いのだろう。 「結論が早い事だ。まぁ、予想の範囲ではあるがな。」  篤則は、ケイオスが断ってくる事を予想していたようだ。 「余は『覇道』実現の為、尽力するつもりでいる。支配する輩の座に就くつもりは 無い。不戦条約だけでも由とせよ。」  ケイオスは、同類になるつもりは無い。しかも、この交渉は、元老院にケイオス を据えて、動きを把握しようと言う企みに違いない。 「・・・仕方が無い。取引をしよう。」  篤則は、これ以上、只の説得をしても無駄だと思ったのだろう。交換条件を突き 出すつもりらしい。どんな事を言ってくるつもりなのやら。 「そちらの戦力アップに繋がる事だ。お前らの欲しがっている戦力を、提供してや ろうと思う。『無』によって消えた魔族をな。」  篤則は、取引を持ち掛けてきた。戦力アップだと? 「余を驚かせるような戦力ならば、一考しても良い。」  ケイオスは、事の真偽はともあれ、聞いてみたいと思ったのだろう。 「伝記の『神魔』ワイスと、『破壊神』エブリクラーデスだ。」  な、何だと!?ワ、ワイス様と、クラーデスだと!? 「面白い。しかし貴公が、本当に呼び出せるのか?生半可では無いぞ?」  ケイオスは、疑って掛かる。当然だ。ワイス様を呼び出すなど・・・。 「ゼロマインドならば可能だと言う事だ。『無』の存在の塊なのだからな。復元す る事は、そう難しくは無い。そこの健蔵も、それで生き返ったのだしな。」  確かに俺は、『無』の存在に引っ張られて復活した。ゼロマインドならば、その 二人の復活も可能だろう。 「ワイス様は、本当に復活為されるのか!?」  俺は、堪らず聞いてしまう。ワイス様の復活は、俺の悲願だ。 「ケイオスの返答次第だ。俺は交渉に来ただけだからな。」  この男・・・。取引材料にワイス様を使うとは・・・! 「一つ、確認したい事がある。」  ケイオスは、篤則を睨み付ける。 「交渉だからな。聞こうではないか。」  篤則は、余裕綽々の態度で、ケイオスを見下ろした。 「貴公に、その二人の復活が保証出来るのか?約束をした所で、やはり出来ぬでは、 こちらも堪らぬ。確実なる保証があるのならば、考えよう。」  ケイオスとて馬鹿では無い。確実に呼び出せるとなれば、即戦力になるので、協 力態勢をとっても良いと言うのだ。 「そ、そうだな。大体、ゼロマインドで無ければ、復活出来ないのだろう?」  俺は、冷静になりながら考えていた。篤則と約束をしても、ゼロマインドの協力 が得られるとは限らない。口約束だけでは、反故の可能性もある。 「仕方が無い・・・。ならばお前らも、約束しろ。協力すると・・・。」  篤則の態度が、急に変わる。いや、態度だけでは無い。この強烈な神気の量は何 だ!?コイツ、神か何かか!?一見そうは見えないのだが・・・。 「・・・貴公、何者だ・・・。」  ケイオスも、さすがに篤則の変貌に、驚きを隠せないようだ。 「新たな魔界の主よ。当方は、究極の『無』の力の存在である。その眼で、私を視 認するが良い。貴君達が今、目にしている者は、この世の神秘である。」  篤則は、雰囲気だけでは無く、姿も変わっていく。この姿は・・・力の塊が、人 の形をしているような感じだ・・・。 「貴公、ゼロマインドの片割れであったか。」  ケイオスは気が付いたようだ。まぁ俺でも気が付く。ゼロマインドは、普段はカ モフラージュして、2つに存在を分けていると言う噂があったが、本当だったみた いだな。この目で見るまでは、信じられなかったが・・・。 「私を、片方とは言え、視認出来る事を、光栄と思え。今まで、視認出来た者は、 数える程しか居ない。私が顕現する事は、それだけで奇跡だと思うが良い。」  篤則は、今や完全にゼロマインドと化していた。 「成程。余の前に姿を現す事。そこまでの危険を冒してまで、余の助力を欲すると 言うか。ならば、応えてやろうか。」  ケイオスは、今まで姿すら現さなかったゼロマインドに対して、不信感を抱いて いたが、とうとう姿を現した事で、気を良くしていた。 「当然の処置である。この姿を見て、畏敬を抱かぬ不敬な輩は、生物として間違っ ている。この世の最初を模した姿であり、全ての生物の祖の姿であるのだからな。」  ゼロマインドは、力の塊が意思を持った姿だ。つまり、物事の始まりの姿に意思 が連なった姿なのである。全ての生物の祖先とも言うべき姿なのだ。 「フム。面白い余興ではあるが、畏敬までは抱かぬな。余が支持するは、生物の祖 先ではなく、力の体現者だ。貴公は、力の体現者足りえるので、支持すると言って いる。その意味を履き違えないで戴こうか。」  ケイオスは、ゼロマインドの姿その物より、放っている力が凄いから、協力して も良いと言っているのだ。分かり易い奴だ。 「私を目の前にして、力を貫く意志を見せるか。生物も強くなった物だ。」  ゼロマインドは、俺達が『覇道』を貫く意志を見せた事に、驚いているようだ。 「神の子ですら、私を見て、畏敬の念を示したと言うのに・・・。」  神の子?誰の事だか、俺には分からんな。 「貴公の自慢話は、そこまでにしてもらおう。それで協力体制だが・・・。貴公が 姿を見せた事で、余は満足した。だが貴公は、片方なのであろう?」  ケイオスは、交渉に移る。 「完全なる協力をするには、まだ弱いと、余は考えている。・・・それに、余は力 を使ったばかりで、簡単には動けぬ。そこで、余の代理を向かわせたい。」  ケイオスは、自分の代理を行かせるつもりだった。 「厚かましい交渉である。片方の顕現で、事足りぬと申すか。このシンマインドの 顕現を見て、足らぬと申すか。」  シンマインド?そうか。片方だけなので、ゼロマインドでは無いのか。 「焦るな。余の代理は、余が息子、ハイネス=ローンだ。余の意見の代弁者となる に相応しき息子だ。」  ケイオスは、最初からハイネスに向かわせるつもりだったのかも知れない。 「最初から行くつもりが無かったのだな。だが、協力体制の意志は本物のようだ。 ならば、この条件で納得しよう。だが、こちらも条件がある。」  シンマインドは、当然、条件を付ける。 「ワイスとクラーデスを提供する事は出来ぬ。」  く・・・。やはりそこを突いて来たか・・・。 「それは、約定が違うな。守ってもらおうか。」  ケイオスは、目がギラリと光った。 「とことん強気だな。魔界の主よ。・・・まずは、戻るとしようか。」  シンマインドは、余り姿を晒すのは危険だと感じたのか、篤則の姿に戻る。 「・・・まさか、俺の真の姿を見て、交渉してくるとはな。」  篤則は、いつもの口調に戻る。 「貴公は、あの姿で居る時は、意識はあるのか?」  ケイオスが尋ねる。確かに、気になる疑問だった。 「俺の意思じゃないが、出来事を把握は出来る。」  篤則は、正直に答える。乗っ取られた状態と言うのが、正しい認識か。 「それで、条件だが、余も、そちらの不利な条件を強要するつもりは無い。そちら も片方の姿を晒したのだからな。必ず協力はする。だが、こちらも戦力増強は欲し い。なので、『神魔』ワイスの提供をお願いしたい。」  ケ、ケイオス!お、お前!!まさか、俺の事を考えて・・・。 「クラーデスは不要と?伝記を見れば、クラーデスの方を欲しがる物だがな。そち らの『神魔剣士』の要望か?」  篤則は、俺の事をチラリと見る。コイツ・・・。 「クラーデスは、余と考え方が違う。素直に従うような奴ではあるまい。ならば、 余との考え方の近いワイスを選ぶは必定。」  ケイオスは、『覇道』の為にワイス様を選ぶつもりだったのか。 「成程。・・・ま、交渉成立だな。落とし処ではある。」  篤則は、この条件で手を打つ。では・・・。 「ワイス様は、復活為されるのか?」  俺の心が躍る。とうとうこの時代にも、ワイス様が・・・。 「復活は、もうしている。・・・連れて来るだけだ。」  篤則は、驚く事を言った。もう復活されているのか!? 「クラーデスも、ワイスも、もう復活している。・・・だがクラーデスは、何故か 様子がおかしいし、ワイスは、まだ力が戻っていない。」  篤則は舌打ちする。・・・ワイス様は、力を取り戻していないのか。 「適応力の差だろうな。お前が一番早く、この時代に適応したんだ。」  篤則は、俺の事を見る。そうか・・・。俺は、適応が早かったのか。 「仕方が無い事だ。個人差はあろう。余とて、適応には時間が掛かったのだ。」  ケイオスは、フォローをする。 「今は、軍事研究所の一角に居る。連れて来よう。」  篤則は、もう隠す気は無いのか、『転移』の魔法を使う。いつもは、他の元老院 に気付かれないように、自分が強い事を隠しているのだろう。しかし、正体がバレ た俺達には、隠す気は無いようだ。『転移』の魔法が消えない内に篤則は、ワイス 様の手を引いて、この場に連れて来た。 「お・・・おぉぉ!!ワイス様!!」  俺は、言葉が上手く発せなかった。このお姿は、間違い無くワイス様だった。 「・・・ぅ・・・。」  ワイス様は、衰弱しておられた。 「約定は果たした。この紙とカードを渡しておく。そのハイネスとやらに、そのカ ードを身に付けさせて、その紙に書いてあるスケジュール通りに来させるが良い。」  篤則は、そう言うと、ケイオスに紙とカードを渡して、『転移』でメトロタワー に戻っていった。 「これで、メトロタワーとは、中々、事を構えられぬな。」  ケイオスは、溜め息を吐く。メトロタワーとは、いずれ闘う事になるが、約定を 結んでいる以上、そう簡単に、違える事が出来ないのだろう。 「ワイス様!お気を確かに!」  俺は、ワイス様の鼓動を確かめる。随分と衰弱しておられた。これは、危ないか も知れぬ。ならば・・・!俺の『瘴気』を分け与えれば・・・。 「ワイス様。俺の『瘴気』です!受け取って下さい!」  俺は、かなりの脱力感がしたが、構わなかった。ワイス様を失うよりマシだった。 「・・・ぅ・・・うぐぅぉぉぉ!!」  ワイス様は、目を見開く。そして、咆哮を上げる。 「・・・健蔵か?・・・ここは?」  ワイス様は、目を覚ましたようだ。 「良かった・・・。ワイス様!」  俺は、意識を失いそうになるが、我慢して堪えていた。 「貴公が、『神魔』ワイスであるか?」  ケイオスは、俺に近寄って、俺に『瘴気』を与えてくれた。助かる・・・。 「如何にも。我はワイス。『神魔』ワイスなり。」  ワイス様は、力強い宣言をなされた。 「フム。素晴らしい器を感じる。余は、ケイオス=ローン。現代の魔界の支配者に て、『神魔』の座を戴いている。」  ケイオスは、自己紹介をしつつ、ワイス様と握手をする。 「・・・この様子だと、何から何まで、世話になったようだ。礼を言おう。」  ワイス様は、ケイオスと意気投合しているようだ。 「余は『覇道』を今のソクトアに体現する為には、どんな協力も惜しまぬ。貴公の ような強者ならば、余は歓迎しよう。」  ケイオスは、強者に対しての礼を忘れない。 「現代に『覇道』を提唱するとは・・・。中々豪気な魔族だな。我も助けてもらっ た恩がある。力を取り戻したら、必ず協力する事を誓おう。」  ワイス様が、ケイオスと手を取り合う。何と麗しい光景か・・・。ん?助けても らった?助けてもらったとは何だ? 「ワイス様?助けてもらったと言うのは?」  俺は、気になる言葉だったので聞いてみた。 「言葉通りである。あの者達、我を使って実験しようとしておってな。屈辱である が、『瘴気』と『神気』を吸い取る装置のような物を付けさせられていたのだ。」  ・・・な、何だと!?ではワイス様は、奴等に力を利用されて・・・。 「お、おのれメトロタワーの者共!!」  俺は、騙されていたのだ。ワイス様は、厚意で復活してもらったのでは無かった。 単に力を吸い取る為に復活させていたに過ぎなかったのだ。何が適応力か。 「奴等の考えそうな事だな。・・・ハイネスには、気を付けて置く様言っておかね ばな。メトロタワーの連中は、何をするか分からぬ。」  ケイオスは、それでも約定を守る為、ハイネスを派遣するつもりだった。 「ケイオス。何から何まで、感謝する。俺は、お前に敬意を表する。」  俺は、最大限の感謝の意を伝える。ワイス様と会えたのは、コイツのおかげだ。 「らしくないぞ。健蔵。お前らしく、不遜で居ると良い。その方が、余は愉快だ。」  ケイオスは、今まで通りで良いと言う。全く、敵わんな。コイツは。  こうして、俺とワイス様は、再びこのソクトアで、出会うのだった。  我は、ずっと何かを付けさせられていた。非常に不愉快であるが、『瘴気』と、 『神気』を吸い上げる装置だったらしく、我の力は、どんどん減退していった。あ のような恐ろしい装置を作るとは、恐ろしき奴等よ。  衰弱していた所、我をこのような目に合わせていた奴が、装置を外しに掛かった のだ。そして乱暴に、我を引っ張る。我は意識朦朧としたまま、どこかへ連れ出さ れたのだ。すると、目の前に健蔵が居たと言う訳だ。  後で、話を聞いてみると、納得させられる内容が多かった。我は、あのメトロタ ワーのソーラードームとやらの維持の為の力の源として、復活させられたのだ。し かし、衰弱していたので、ケイオスとの交渉で使われたのだろう。屈辱的な話だが、 何も出来なかった我も悪い。  それにしても、現状は恐ろしい事態になっているようだ。彼の中央大陸がセント メガロポリスなどと言う名前に変わり、ソクトア大陸を支配しているのだと言う。 我の感覚から言うと、信じられない話だ。中央大陸は、飽くまで力を試す場であり、 戦場の意味合いが強かった。しかし今は、このような大都市が聳え立っているとは。  健蔵から、現状を聞く。健蔵は、少し前に復活させられたようだ。話を聞く限り、 我と同じような時期だ。我は、力の源として使われ、健蔵は、前の元老院だった人 斬り組織『ダークネス』の首領、『創』のボディーガードとして雇われたらしい。  その『ダークネス』が、我等が現状お世話になっている所らしい。『創』なる者 は、死んでしまったらしく、ケイオスが、組織を丸々奪ってしまったのだ。そして、 『覇道』実現の為に、この組織を大いに利用しようと言うのだろう。  それにしても、『ダークネス』の『創』を倒したのは、黒小路 士と言う人間ら しい。どこかで聞いた事があると思ったら、我が甥の黒小路 光成の家の出だと言 う。我が、神との戦いで傷付き、療養したのがイド家だった。  その療養中に恋仲に落ちた人間が、健蔵の母親であったな。あれも心が強い女で あったが、病弱でな・・・。我がグロバス様の下へ行き、遠征中に病気で亡くなっ たと聞いた。ひっそり墓参りに行った時、健蔵を見つけたのだったな。その健蔵の 叔父に当たるのがダンゲル=イドで、霊王剣術の始祖であった。健蔵は、そこで剣 術を習い、才能を発揮していった。だが健蔵は、魔族の血を捨てる事が出来ずに、 魔族の軍へと入っていった。そこで、我と出会ったのだ。  健蔵が居なくなった後、ダンゲルの甥である光成が、霊王剣術を継いだらしい。 その子孫が、士だと言う事だ。と言う事は、我や健蔵の子孫でもあると言う事か。  その士なのだが、驚く事に、グロバス様と『同化』しているのだと言う。それは、 強い事であろう。・・・それにしても、グロバス様が『同化』した経緯は、凄まじ い物だったな・・・。ミシェーダの『輪廻転生』を食らって、今の時代へと魂だけ 飛ばされたのだとか。時を操る能力とは、恐ろしい事だ。苦労されたのだな。  そのミシェーダも、伝記時代も現代でも、ジュダに倒されたのだとか。竜神ジュ ダ・・・。恐るべき実力を持っている神だ。奴は、好感の持てる神ではある。実力 に対する考え方が、『覇道』に近い。そこに、ミシェーダを倒した経緯を聞く限り、 時を越える手段を備えていると言う事になる。恐るべき強さだ。尤も、おいそれと 使うような能力では無いようだがな。危険度も高いと言う訳だ。  健蔵は、我の死後、グロバス様から我の子である事を聞き、グロバス様に付き従 い、グロバス様が飛ばされた後は、『覇道』を率いて先陣に立って闘ったと言う。 本当に良く出来た息子よ・・・。我は、恵まれている。だが、ジークとの闘いで敗 れたと言う。そこを責める気は無い。我もジークとの闘いで敗れた。奴は、人間と 言う器を超えた英雄であった。  我は、1000年前の決着を聞き、その後に現状を聞いた。人間達が勝利し、『人道』 の世となった事は、評価に値する。彼等は、我等が甘いと評した『共存』の精神を、 500年も続かせたと言う話だ。  だが、その500年前に我が敗れた『無』の力の塊が意識を持ち、ゼロマインド なる化け物が出て来たのだから、皮肉な物だな。そこから、このソクトアは、おか しくなっていった。中央大陸・・・セントメガロポリスが、支配する世になった。  我は、何を聞いても新鮮な話ばかりで、何から理解した物か・・・と言う状態だ った。健蔵が、かなり現状を把握しているのが救いであった。 「成程な。現代に来たと言う感覚しか掴めなかったが、恐ろしい世になっているよ うだ。・・・ゼロマインドか・・・。」  我は、健蔵の話を理解しようと努力する。 「ワイス様を蔑ろにした罪は、必ず償わせてみせます。」  健蔵は、燃えるような瞳で返す。頼もしい事だな。 「・・・フッ。頼もしくなったな。お前は・・・。」  我は、感慨深い物があった。我は碌でも無い父であった。妻の死に会えず、健蔵 には苦労を掛け、父らしい事も出来なかった。 「我は、父らしい事も出来ずに、消えた身だったからな。」  我は、健蔵を残してジークに敗れて、死した身だった。 「何を仰います。俺にとって、ワイス様は父であり、また、尊敬する上司でもあり ます。その想いは、1000年経った今でも変わりません!」  健蔵は、我を父と呼んでくれる。・・・1000年前、何度か迷った。我が父だと言 う事を、健蔵に知らせたかった。しかし我は、健蔵を置いて闘いに出掛けたと言う 負い目があった為、言い出せずにいたのだ。 「我は果報者よ。お前のような息子が居るのだからな。」  正直な気持ちを言った。健蔵は、我の部下にして最高の息子だ。 「勿体無きお言葉。俺はワイス様の息子として、恥ずかしくない働きを約束します。」  健蔵は、本当に孝行息子だ。1000年が経っても、この調子とはな。  トントン・・・。  不意に扉がノックされる。どうやら、誰かが訪ねて来たみたいだ。 「誰だ?今日は、訪問予定は無い筈だが?」  健蔵は、扉の向こうの奴に、事務的に答える。 「あのー。メイジェスですけど?」  メイジェスとな。確かケイオスの娘であったか。 「・・・また、お前か・・・。」  健蔵は、頭を抱える。何かあったのだろうか?随分と苦手なようだが。 「ケイオスの娘であったな。入れてやるだけでも、してやってはどうだ?我は、ま だ会った事も無いから、興味がある。」  我は、まだケイオスの一族とやらには、会った事が無い。ケイオスが紹介する前 に、我は健蔵の話を聞きに行ったし、ケイオスも力を溜めるのに忙しいようだった からな。我も、健蔵の部屋に用意された上等な椅子に座って、力を溜め中である。 「・・・ワイス様が、そう言うのであれば・・・。」  健蔵は、気に食わなかったようだが、入れてやる事にする。 「うわー。有難う御座います!」  ケイオスの娘は、声が弾んでいた。健蔵に興味でもあるのか?  健蔵が扉を開くと、ケイオスの娘は、健蔵に微笑んでから、入ってきた。 「父上の部屋の次に大きい部屋ですねー。」  随分と、マイペースな娘のようだ。 「そうなのか?俺は、適当な部屋を割り振られたと思っていたが・・・。」  健蔵は、知らないようだ。それだけ、期待度が高いのかも知れぬな。 「我は『神魔』ワイス。お主が、ケイオスの娘か。名は・・・。」  我は、挨拶をしておく。ケイオスの娘ならば、丁重に扱った方が良いか? 「メイジェスって言います!宜しくお願いします!ワイス様!」  ・・・何とも元気な娘のようだ。メイジェスか。 「フム。覚えておこう。わざわざ挨拶に来るとは、殊勝な事だ。」  我は、褒めておく。するとメイジェスは、顔を輝かせる。 「有難う御座います!お父様!」  む?お父様?どう言う事だ? 「・・・お、お前、頭の調子は大丈夫か!?ワイス様を父扱いするとは・・・!」  さすがの健蔵も、面食らっているようだ。 「中々、面白いな娘。お主、我を父と呼ぶ根拠は何だ?」  我は、理由を聞いておく。 「え?だって、健蔵さんのお父様ですよね?なら、私の将来のお父様かなーと。」  ほう・・・。この娘、健蔵に惚れておるのか? 「だ、誰が、誰と結婚と言うのだ!戯言ばかり言いおって!」  健蔵は、好意を向けられるのが苦手のようだな。そう言えば、朴念仁であったな。 「えー?・・・私の事、嫌いなんですか?」  メイジェスは、涙を溜めている。・・・フム。業とだな。あれは。 「え、いや、会ったばかりで、結婚とかどうのとか言う段階では無いだけであって、 別に、お前を嫌ってる訳では無いのだが・・・。」  健蔵は、どう言って良いのか分からぬようだ。この孝行息子にも、弱点があった ようだな。さて、これはどうした物か。 「良かったですー!嫌われちゃったら、どうしようかと・・・。」  この娘は、明るいな。業とらしい所もあるようだが。 「ま、全く・・・。俺は、結婚するつもりなど無いぞ。」  健蔵は、ブツブツ文句を言っている。 「健蔵。何を言っておる。子孫を残さぬのは、罪悪だぞ?」  我は、釘を刺しておく。朴念仁にも程がある。 「俺はワイス様をお守りするのが務め。結婚に、うつつ抜かす暇はありません。」  健蔵は、我を守るのが全てだと言っていた。 「健蔵よ・・・。我に付き従う気持ちは有難い・・・。だが、お主自身が、生涯を 楽しまないでどうする?我は、そんなお前を見たくなど無いぞ。」  我は、健蔵の気持ちは嬉しかったが、それを強要するつもりは無い。 「で、ですが・・・。」  健蔵は、さすがに我の言葉なので、否定しづらいようだ。 「さ、さすがお父様!良い事を言います!」  メイジェスは、首を縦に振りながら喜んでいた。 「お前、適当な事を・・・。まぁ良い・・・。しかし、俺の何処に惚れる要素があ るのだ?自分では、全く分からん。」  健蔵・・・。お前、何て悲しい事を言うんだ・・・。 「健蔵さんは、自分を卑下し過ぎですー。そんなに強くて格好良いのに、何でそん なに自信が無いんですか?その方こそ分かりませんー。」  メイジェスは、顔を膨らませて反論する。強くて格好良いとは、この娘、見る目 があるな。健蔵の事が、本気で気に入ってるようだ。 「本気で言っているのか?・・・だとしたらまぁ、褒め言葉として受け取ろう。」  健蔵は、顔を真っ赤にしながら言う。人間の方の血が、出ているようだな。 「時にメイジェスよ。お主、健蔵を好いておるのならば、一つ、質問がある。」  我は、意地悪い質問をしようと思った。 「もし、ケイオスと我等が闘う事になったら・・・どうする?」  我は、ケイオスと事を構えるつもりは無いが、対立する恐れが無い訳では無い。 「ワイス様・・・。いや、しかし・・・。」  健蔵は、我の質問の意図を察して、目を伏せる。優しい奴だ。 「難しい質問ですねー。でも、最初にやる事は、仲直り出来るように、頼み込むか なー?やっぱ、闘って欲しく無いですしー。」  ほう。面白い答えだな。まぁそうする事が最善ではあるな。 「あの父親相手に出来るか?そして、我等相手に出来るか?」  我は、少し瘴気を出しつつ尋ねてみた。 「んー・・・。怖いですよねー。でも、諦めませんよ!いざとなったら、私が間に 入って、『駄目ー!』って叫ぶんです!そうすれば、少しは考えてくれますよね?」  メイジェスは、明るく話している。しかし、目は本気のようだ。 「お、お前は、正気か?ケイオスとワイス様だぞ?」  健蔵は、ビックリしているようだ。この娘、度胸があるな。 「関係無いです。闘って欲しく無いから、止めに行くだけですもん。その気持ちに 嘘を吐きたくないですからねー。」  ・・・本当に清々しい娘だ。この娘にあるのは、意地や体面などでは無い。気持 ちに素直にと言うのが、前面に出ているのだ。 「ハッハッハ!天晴れな娘よ!気に入ったぞメイジェス!我からも頼もう。健蔵は、 この通りの男だが、意志は強い。振り向かせてやると良い!」  我は、気分が良くなって、ついメイジェスを褒めてしまう。 「ワイス様がお認めになるとは・・・。・・・まぁ俺も、今の言葉には感心した。」  健蔵は、メイジェスを認めるようになったようだ。 「しかし、お前はケイオスの娘だろう?言い寄る男も少なく無かろう?」  健蔵は、メイジェスに尋ねてみる。確かに、現在の魔界の主の娘とあれば、容姿 も可愛げがあるし、モテる事だろう。 「いやー、私に近寄る男の人ってさ。父上の威光に近付きたい人ばかりで、面白く ないんですよ。自分で何かを為そうって心意気が感じられないんですよー。」  メイジェスは、つまらなそうに言う。成程な。この娘、よく見ておる。 「俺だって、ワイス様に従うのが、全ての男だぞ?」  健蔵は、気にしていたようだ。だから、好きにしろと言っているのに。 「んー?確かに、表面的には、そう見えますねー。でも、私には分かるんです。健 蔵さんは、一人になった時、皆を引っ張っていける人だってね!」  メイジェスは、本当に、健蔵に惚れているのだな。健蔵の良い所を、的確に見抜 いている。このような娘、逃がすのは勿体無いな。 「・・・ほ、褒め言葉として、受け取っておこう。」  健蔵は、そっぽを向く。何とも、隠すのが下手な男だな。 「では、これからも、宜しくお願いしますね。お父様!」  メイジェスは、笑顔でこちらに対応する。魔族で、このような性格の娘が居ると はな。珍しいと言うか・・・。まぁ時代が変わったと思うべきだろうか。  我は、健蔵とメイジェスを、暖かな眼で見る事にした。  セントメガロポリスに名前が変わって、発展を続けるセント。中央に位置するメ トロタワーも、名前が正式に変えられた。メガロタワーにだ。都市名を変えたのと、 合わせた配慮だろう。メガロタワーは、セントの象徴でもある。  そのメガロタワーの最上階に近い所に、元老院が集まる『院会』を開く為の会議 室がある。セントを支配している元老院の為のスペースだ。  通常『院会』は、定期的に行う物だ。そこで溜まった案件を、次々に処理して行 くのが普通だ。国事総代表などが、国会で決まった案を、『院会』に持って行き、 『院会』で成否を決める。そこで決まったら、初めて施行される。  誰もが元老院になりたがる。特に国事代表に選ばれた者は、自分達の決めた案件 が拒否される事があるのも知っているので、元老院を目指す。だが、誰でもなれる 訳じゃない。特にセントにとって、貢献度が高い者が選ばれるのだ。  この前の『院会』では、ミシェーダが居なくなった事で、新しい元老院を決める 是非を取った。そこで、候補に挙がったのが、最近『ダークネス』の首領になった ケイオス=ローンだった。魔族だが、セントにおける影響度が大きいので、元老院 の座を用意して、仲間に引き入れようと言う案だった。  だが相手も馬鹿では無い。こっちのそんな思惑など、見抜いている。それを踏ま えた上での説得者が必要だった。それが篤則だった。  その篤則が帰ってきたので、緊急に『院会』が開かれる事になった。 「これより、『院会』を執り行う。」  院長が、『院会』の開始を宣言する。 「最近、回数多くない?さすがに、召集多すぎって感じがするんだけど?」  アルヴァが、文句を言う。無理も無い。 「ま、そう言うな。それだけ忙しいと言う事だ。」  篤則が、アルヴァを嗜める。そして、指で合図をする。すると、精悍な顔付きの 青年が入ってきた。その青年は、『院会』の様子を、グルリと見回す。 「紹介しよう。今日付けで、元老院入りしたハイネス=ローン君だ。」  篤則は、青年の紹介をする。ケイオスの代理としてきた、ハイネスだった。 「『ダークネス』から来たハイネスだ。宜しく頼む。」  ハイネスは、一礼をする。ケイオスからは、迂闊な行動はするなと言われている。 そして、元老院の様子を探って来いとも言われているので、慎重だった。 「ハイネス君か。私はゲラルド=フォンと言う。国事総代表を2期務めて、元老院 入りした。最初は大変だが、頑張ると良い。」  ゲラルドは、落ち着いた対応を見せる。ハイネスは、適当に返事をすると、握手 をした。ハイネスは、ケイオスから、シンマインドの話を聞いている。篤則の正体 だ。もう一人と合わせる事で、ゼロマインドになると言う話だ。だから、誰がもう 一人なのか、見極めようと思っていた。 「私は、ケイリー=オリバー。シティ出身です。金融街に興味があったら、声を掛 けて下さい。ご案内しますよ。」  ケイリーとも握手をする。物腰柔らかだが、油断のならない男だと思った。 「私は、リー=ダオロンと言ウ。不正監視委員会の出身ダ。」  ダオロンも自己紹介をする。ストリウス出身なのだろう。 「私は、マイニィ=ファーンよ。テレビに出たかったら、言って頂戴。貴方の容姿 なら、いつでも大歓迎よ。」  マイニィが、ウィンクしながら握手をする。ハイネスが、苦手なタイプだった。 「君が新しい元老院かい?僕はアルヴァ=ツィーアだ。『ダークネス』とは、付き 合いが長いけど、最近になって変わったんだったね。また宜しく頼むよ。」  アルヴァが、馴れ馴れしく話し掛けながら握手をする。アルヴァは、ツィーア財 閥を若くして継いだ男だ。子供っぽさが抜けないが、鋭い目付きをしていた。 「裁断長をしておりました如月 由梨と申します。セントの為、尽力しましょう。」  由梨とも挨拶をする。裁断長をしてただけあって、固そうな女性だ。 「わしは、ここの元老院の院長、シルヴァンだ。覚えておきなさい。」  院長も挨拶をした。院長は、滅多に本名を明かさないが、皆が紹介した手前、言 わない訳には行かなかったようだ。  これで全部だろう。篤則の勧めで、ハイネスは、空いていた席に座る。ここにミ シェーダが座ってたのだろう。そう思うと、不思議な気持ちになる。 「皆の自己紹介は終わったな?では、本題に入る。」  院長は、全員が席に着いた所で、議題に移ろうとする。 「最近のガリウロルの動向だ。セントと地続きで無いガリウロルは、中々支配が及 ばない土地である。しかし、そのせいで、危険な者達が集まる傾向にある。」  院長が、報告書を広げて読んだ。マークしている者達のほとんどが、ガリウロル に居るのだと言う。地続きじゃないので、中々手出しが出来ないのだ。 「セントに歯向かう意志はあるの?」  アルヴァは、まずそこを聞いてくる。危険であっても、反逆する意志を見せなけ れば、放って置けば良いと思っているのだろう。 「今の所は、こちらに攻める意思は無いようだ。・・・だが、とうとうあのミシェ ーダは、ガリウロルでやられたとの情報を手に入れた。」  篤則は、ケイオスから仕入れた情報を言う。 「セントの脅威なら、対策を打つべきだと思います。」  由梨は、強い口調で言う。セント第一主義者らしい言葉だ。 「ま、焦らなくても良いんじゃないカ?新任の人も居る事だしサ。」  ダオロンは、からかうような口調で言う。 「採決システムに慣れてもらうには、良い案件なんじゃない?」  マイニィは、『院会』のシステムに慣れてもらおうと思っていた。 「この前みたいに、同数と言う事は無いでしょうしね。良い機会ですね。」  ケイリーは、この前の話をする。8人で採決をして、同数と言う結果になった事 だろう。今回は9人なので、同数と言う事は無いだろう。 「ま、難しい事は無い。是か非か選ぶだけだ。」  ゲラルドは、さり気なく説明してやる。ハイネスは、是と非のボタンを見て、理 解する。確かに単純なシステムだ。 「では、採決を取る。ガリウロルに対策を施す案件。是か非か選ばれよ!」  院長が、宣言をすると、採決ボタンが光る、此処で押せという事だろう。  ハイネスは、父に言われた事を思い出して、ボタンを押した。 「是が4、非が5。では、この案件は、否決であるな。」  院長が宣言する。どうやら、ハイネスの決定が、運命を分けたようだ。 「成程。理解した。中々面白いシステムだな。」  ハイネスは、自分の意見が直接反映されるシステムだと思った。それに、誰がど っちを押したかと言うのを問わないのも、良い配慮だと思った。 「しかし、また微妙な・・・。割れる所だったのか・・・。」  ゲラルドは、またしても意見が割れた事に、危惧を覚えたようだ。 「ま、これまでが、すんなり行き過ぎたんじゃないカ?」  ダオロンは、こう言う評決こそが、セントらしいと思っているようだ。  実際の所は、ガリウロルの事は、皆が脅威に感じているようだが、そこに態々戦 力を割く必要は無いと言うのが、非の側の意見のようだ。 (事勿れ主義どもめ・・・。)  篤則は、当然是に入れていた。ガリウロルの面々は、日に日に力を増している。 更には、あのミシェーダの実力を、篤則は十二分に知っている。何せ、ゼロマイン ドの片割れであるシンマインドとして、ミシェーダを復活させたのは、篤則なのだ。  あのミシェーダが、人間に敗れ去ったのだ。それは、新たな脅威の誕生でもあっ た。それを、この『院会』の連中は、分かっていない。  とは言え、このシステムを作り上げたのは、他でも無い篤則だった。いつか、上 位の元老院を作り、セントを支配しつつ、力を効率よく集める。これが、篤則が考 え出した案だった。しかし、それが仇になる時もあると言う事だ。 (既に、何人かは、操りきれて無い部分もあるからな・・・。)  今回のハイネスも、ケイオスの代弁者だし、アルヴァやダオロン辺りも、余り賛 同する事が無い。アルヴァは、自尊心が高いし、ダオロンは、事勿れ主義なのだ。 院長は、必要な事以外、口を挟まないので、何を考えているか分からない。マイニ ィは、視聴率の事を重視している。ゲラルドや由梨は、同調する事が多いが、ケイ リーは、場の空気を読む事がある。一筋縄では行かない連中ばかりだ。  この中に、篤則と同じ、ゼロマインドの片割れであるゲンマインドが居る筈だ。 (ま、そいつも、いつも俺と同調する訳では無いがな。)  いつも同調などしていたら、怪しまれてしまう。篤則とて、そこまで馬鹿では無 い。常に慎重になって、バレない様に心掛けているのだ。  一方、ハイネスは、『院会』の雰囲気が掴めたので、大成功と言えた。 (さて、今回の結果も踏まえて、父に、お知らせせねばな。)  ハイネスは、ケイオスに土産話が出来ると思っていた。  いつまでも、後ろを向いては居られない。そんな事は、俊男も望んでいない。俺 達は、前を向いて生きていかなきゃいけないんだ。アイツに、見てもらわなきゃい けないんだ。忘れる訳じゃない。忘れられる訳が無い。でも、これからの姿を見せ る事で、行ってしまったアイツへの土産にもなる筈だ。  今日は、3月7日だ。アイツが行ってしまってから、1週間ほど経つ。まだショ ックは抜けきってないが、この『時界』の俊男やジュダさんが居る。その前で、堂 々と悲しむのは、二人に対して失礼だ。なので、気持ちを切り替える事にしている。  どちらの俊男も忘れない為、そして、ああ言う事が起きても、完全に救う為に、 俺は、俊男相手に修練している。相手が俊男だと言う事に、意味は無い。俊男は、 今や俺達の中でも最強に近い実力を持っている。だから俊男と修練しているんだ。  士さんも強いし、凄く勉強になるのだが、俺が闘志を燃やし、本気でぶつかり合 える相手は、俊男が一番だった。俺と俊男は、実力が本当に近いのだ。だから、遠 慮無くぶつかり合えるんだ。レイクさんとも、そう言う仲に近いが、俊男と俺は、 互いに格闘でのぶつかり合いなので、更に燃える物があるのだ。  そう言う意味では、レイクさんは、士さんとの剣術の修練を楽しみにしているみ たいだ。やはり、近い物を感じるんだろう。ただ最近では、そこに恵が割り込んで きているのが、恐ろしい所だ。恵は本物の天才だ。魔族のハーフと言う事を考慮し ても、これ程の才能を持っている女性は少ない。我が妹ながら、恐ろしい奴だ。凄 まじい勢いで強くなっていくので、俺も手加減出来そうも無い。恵は、それでも満 足出来ないみたいで、時々ジュダさんとも手合わせをしている。今回なんかは、赤 毘車さんとの手合わせを所望したみたいだ。 「えええぇぇい!!」  恵は、足払いから上段回し蹴りに持っていき、赤毘車さんの反撃の竹刀を左手で 払いのけると同時に、右の膝蹴りを放つ。流れるような攻めだ。 「ちぃ!」  赤毘車さんが本気で苦戦している。赤毘車さんは、神なのに・・・。恵の奴、何 処まで強くなるんだ?恵の攻めに危惧を感じた赤毘車さんは、回り込んで一旦距離 を取ると、竹刀に『神気』を込める。 「破砕一刀流!斬気『波界(はかい)』!!」  赤毘車さんは、剣圧で『神気』を飛ばす『波界』を使ってくる。 「そこよ!!」  う、嘘だろ!?恵の奴、構えを合気道に戻して、『波界』を右と左の掌に挟み込 むようにして受け止めると、そのまま受け流してしまった。 「ば、馬鹿な!?」  さすがの赤毘車さんも驚愕しているようだ。俺達も驚く。その隙に恵は、赤毘車 さんの懐に飛び込んだ。赤毘車さんは、そこに竹刀を振り下ろそうとする。 「ハッ!」  恵は、竹刀をミリ単位で見切ると、そのまま勢いで投げ飛ばして、脇固めに移行 した。そして、固めたまま拳骨を作って、赤毘車さんに振り下ろす! 「・・・ここまでですか?」  恵は、それを寸止めしてみせる。 「ああ・・・。私の負けだ・・・。恐ろしいな。君は。」  赤毘車さんは、負けを認めた。恵の奴、勝っちまったぞ・・・。 (妹君の成長速度は、恐ろしい物があるな。)  ゼーダか。確かにな。俺もウカウカしてると、置いていかれそうだぜ。 「おいおい。手加減したんじゃないよな?」  ジュダさんは、心配して赤毘車さんに駆け寄る。 「失礼な事を言うな。本気でやったさ。・・・本物だぞ。あれは。」  赤毘車さんは、嬉しそうに笑っていた。 「・・・ギリギリでしたけどね・・・。」  恵は、『波界』を完全に受け流した訳では無いらしく、肘に切り傷が出来ていた。 「よし。決めた!・・・恵!君は、私のライバルとして認定したい!」  赤毘車さんは、驚きの事を言う。 「・・・有難い申し出ですわ。是非、そうして下さいな。」  恵は、優雅に答える。恐ろしい奴だ・・・。 「あーあ。恵さんったら、どんどん遠くに言っちゃう感じがするわねー。」  江里香先輩が呆れていた。恵の強くなるスピードに驚いているんだろう。 「恐ろしい後輩だね。ま、でも、負けないくらいの気持ち持たなきゃね。」  亜理栖先輩は、前向きに言う。 「・・・。」 「どうした?俊男。浮かない顔をしているぞ。」  俺は、俊男が、神妙な顔をしていたので、声を掛ける。 「恵さんの頑張りは、僕の為なのかな?って。鬼気迫る頑張りだからさ。」  俊男は恵が、何であんなに頑張れるのか、その根底を探るつもりで居た。 「そうかも知れないな。でも、やらせてやりゃ良いじゃないか。」  俺は、否定しなかった。恵は、消えてしまった方の俊男に、見せてやる為に頑張 っている。それは間違いないだろう。 「それが、自分のせいだとでも思うのか?それは間違いじゃないか?」  俺は俊男が、そう言うことを気にする性格だと知っている。無理させてると言う 自負があるのかも知れない。 「俺もそうなんだが・・・あんな事があったからこそ、それを利用して強くなろう と思ってるんだ。それは、強要じゃない。不思議と力が湧いてくるから、自然と強 くなろうって気持ちになれる。それは、悪い事じゃないだろ?」  俺は、これを糧にして、強くなろうと思っていた。それは、決して間違いなんか じゃないと、俺は思っている。 「そっか。そうだよね。よし!僕も、強くならなきゃ!」  俊男は、スッキリした顔をしていた。何だかんだ言って、気にしてたんだな。 (あの俊男は、私達に感銘を与えてくれた。無駄には、せぬさ。)  そうだな。無駄にしちまったら、あっちの俊男に笑われちまうな。 「皆様。大変です!」  葉月さんが、息を切らして、道場に入ってきた。 「どうしました?葉月。」  恵が、不思議そうな顔をしていた。すると葉月さんは、道場に備え付けてあるテ レビの電源を付ける。すると、特報ニュースがやっていた。 『只今セントより、速報です!旧ワイス遺跡に、突如として、別の建物が出現しま した!ストリウスの法皇は、前代未聞の事態だと、声明を発表しました!』  現地に行っている特派員が、ワイス遺跡を映し出す。すると、今まで遺跡でしか 無かった所に、急に門が出来て、まるで伝記時代のように、立派な建物が出現して いた。観光名所として知られていたが、今は、パニック状態である。 「随分、堂々と出てきやがったな・・・。」  士さんが、舌打ちしていた。 『続報です!中から、誰か出て来ました!』  特派員が、震える足を押さえながら、実況している。 「あれは・・・。ご先祖!」  士さんは、ビックリしていた。ご先祖と言う事は、砕魔 健蔵か!? 『そこ!危ないから下がっていなさい!』  どうやら、ストリウス軍が、後ろに控えていたらしく、銃口を健蔵に向けていた。 健蔵は、それをチラッと見ると、鼻で笑う。 『そこの奴に告ぐ!ここはストリウスの特別天然記念物に指定されている!直ちに 建造物を撤去させなさい!!』  ストリウス軍の隊長が、スピーカーを使って、勧告をする。  健蔵は、溜め息を吐いて目を伏せると、奥から来た誰かを恭しく迎えていた。 「な、何だ・・・あれ・・・。」  魁は、目を見開いていた。テレビから出てきたのは、遠目から見ても瘴気を放っ ている強烈な魔族の姿だった。これ程までに、凄い姿を、俺は見た事が無い。 「シャドゥさん以上かも知れねぇ・・・。アイツ・・・。」  レイクさんは、冷や汗を掻く。シャドゥさんを間近で見てきたレイクさんが言う のだから、相当ビッグな魔族なんだろう。 「あれは・・・ワイスだ・・・。」  ジュダさんが、苦々しい声を上げる。ワイスと言うと、健蔵の上司であり、父親 だった奴か。確か『神魔』だった筈だ。 (ワイスか・・・。久しく見て無かったが、間違いないようだな。)  そう言えば、アンタも知ってるんだったな。 『ば、化け物め!撃てーーー!!』  隊長は、有無言わせずに、部下に一斉掃射を命じる。  ババババババババッ!!!  凄い人数に物を言わせて、ワイスに銃弾が襲い掛かる。物凄い音だ。 『物凄い音です!そして、あれは、何者なのでしょうか!?』  特派員が、仕事なのか、一生懸命実況していた。 『んな!?』  そこに居る誰もが驚愕した。ワイスだけでは無く、ワイス遺跡にすら、傷一つ付 いていなかった。それは、健蔵とワイスが、全て拳銃の弾を見切って手で掴んだせ いであった。さすがである。 『ば、化け物です!・・・あわわわわ・・・。』  さすがの特派員も、腰を抜かしていた。ストリウス軍も、及び腰だった。 『そこの者共!!我が居城に、何か用でもあるのか!?』  ワイスは、大声で叫ぶ。テレビに届くようにか? 『は、話せるのか!?』  隊長は、及び腰ながら、勇気を奮い立たせて、話す事にした。 『貴様等、いきなり攻撃を仕掛けるとは、野蛮では無いか!』  健蔵が、同じように大声で叫ぶ。そして、テレビカメラの前に、一瞬で移動する。 「速い!・・・さすがだな。」  エイディさんは、健蔵の速さに驚いているようだ。 『た、た、助けて!!』  特派員は、腰を抜かしていた。カメラの映像も乱れている。カメラマンが震えて いるのだろう。仕事とは言え、怖いのだろう。 『落ち着け!取って食う訳では無い。勘違いをするな。貴様等。』  健蔵は、またしても溜め息を吐いて、周りを見渡す。 『・・・これが、テレビと言う物か?便利な物を作った物だ。』  健蔵は、テレビに興味を示していた。 『て、手を上げろ!!』  隊長は、震えた声で、命令をする。 『おい。その銃とやらは、俺達に効かないのは、分かっただろう?脅しにならぬぞ? それすらも分からないのか?お前達は・・・。人間は、脆弱になった物だ・・・。』  健蔵は、呆れていた。そして、また一瞬でワイスの所に戻る。そして、ワイスに 耳打ちをする。健蔵は、比較的人間に近い形をしている。しかしワイスは、如何に も魔族と言う格好をしているので、恐れられているのかも知れない。なので、ワイ スが動く度に、悲鳴が聞こえていた。何せ、肌の色が魔族の青なのだ。  そして今度は、ワイスがテレビカメラの前に一瞬で移動する。 『ひいぃぃぃ!!』  特派員は、また悲鳴を上げていた。 『・・・まだ何もしておらぬぞ?・・・これが、世に聞くテレビなる物か。これで、 全ソクトアに情報を流せるとは・・・便利な物を作る。ビジョンを使わずして、こ のような真似が出来るとは、文明は発達したようだな。』  ワイスは、興味津々だった。 「何がしたいのだ?ワイスは・・・。」  赤毘車さんが、呆れていた。何か楽しんでいるようにも見えた。 『丁度良い。宣言を行う!そこの者、我をよく映しておくが良い!』  ワイスは、カメラマンに自分を映すように言った。カメラマンは、震えながら、 それに応える。逆らったら、何をされるか分からないと思ったのだろう。 『ソクトアの人間達よ!貴様等は、このソクトアを自分達の物と勘違いをしたらし いな。・・・よもや、魔族が存在しないと、勘違いをする世になろうとは、思って も見なかったぞ!』  ワイスは演説を始めた。どうやら、何かを宣言するつもりらしい。 『貴様等が、伝記などと呼んでいる、1000年前に、我は滅びた!だが、我はここに 復活したのだ!!我の名を覚えている者は、居ないだろうがな。』  ワイスは、嘆かわしいと、呟く。確かに、ソクトアでは、魔族は居ない事になっ ていた。それは、セント中心の世の中だからだ。 『我が名は、『神魔』ワイス!伝記とやらで、聞いた事があろう?ジークと闘い、 敗れた者だ!その我は、1000年の時を越えた!そして、此処に復活を宣言する!』  ワイスは、大々的に復活を宣言した。しかしワイスは、誰が復活させたのだろう? 『無』の力で敗れたから、ゼロマインドのせいだろうか? 『そして、ここは我が居城だった場所だ。我が戻るのに、何の不都合がある?』  ワイスは、ワイス遺跡を指差す。確かにワイス遺跡は、ワイスの居城だった場所 だ。だが今は、ストリウスが管理していたのだ。 『いきなり、こんな事を言われて、納得出来る物ではない!!』  隊長は、勇気を振り絞って、反論した。 『ほう。我に意見するか。見所があるな。貴様。』  ワイスは、嬉しそうにしていた。 『確かに、我が居ない間の管理は、お前達がやっていたのだ。それに敬意を表そう。 我とて、只で返せとは言わぬ。』  ワイスは、面白そうに話していた。本当に楽しそうだ。 『そこの者の意志を尊重して、ストリウスだったか?そなた達の国に、我が力を貸 してやる契約を交わすと言うのは、どうか?悪く無い提案だと思うが?』  ワイスは、ストリウスに力を貸してやると、提案していた。 『そこの者。今日は、ワイス様の機嫌が良い。即刻、貴様等の長に伝えるが良い。』  健蔵は、ワイスの機嫌が良いので、つられて機嫌が良いみたいだ。  すると、隊長の携帯電話から、音がした。 『・・・こ、これは!法皇!!』  隊長は、法皇から直接電話が掛かってきたので、ビックリして敬礼をしながら、 電話を取った。そして、色々頷いてから、電話を切った。 『長からの電話だな?我の提案の答えを聞こうか?』  ワイスは、隊長に尋ねる。 『ほ、法皇は・・・。』  隊長は、声が震えていた。何か大きな事を言うつもりなのだろう。 『貴方の提案に、応じました!!』  ・・・やはりな・・・。怪しい提案だったが、目の前で、こんな事が起きれば、 嫌でもその力を利用したいと思うのが普通だ。 『そうか!ならば、先程の無礼は、全て赦そう。そして、そこの者、貴様は中々見 所がある。我に付いて来るつもりは無いか?』  ワイスは、隊長を自分の所に誘う。 『お、お断りです!自分は、法皇様の軍の者であります!』  隊長は、震えた声だったが、きっぱりと断った。 『ほう。それは残念であるな。見所があったのだが・・・。』  ワイスは、目を伏せる。そして、何やら宝石を取り出した。 『我の誘いに安易に乗らなかった貴様に、これをやろう。そしてこっちは、その法 皇とやらに、渡すが良い。手土産だ。』  ワイスは、一際大きな宝石を、隊長に渡すと、残りの高価そうな飾り物を、法皇 の手土産にするように言う。 『・・・あ、貴方達の目的は?』  隊長は、呆気に取られていた。自分は殺される物だと思っていたからだ。こんな に話せる奴だと、思ってなかったのだろう。 『1000年前ならば、神と決着を!と言う所であるが、今は無い。だが、ある奴と約 束をしたのだ。その者は、グロバス様では無いが、『覇道』を宣告した。』  ワイスは、『覇道』の言葉を口にする。その昔、『共存』を説いた『人道』と覇 を争った道だ。伝記でも、何度と無く出てくる言葉だ。 『その者に、恩義もあるので、手伝おうと思う。だが、無闇に人間と争う気は無い。 それだけは言っておこうか。信じるか信じないかは、貴様等の自由だがな。』  ワイスは、その言葉通り、誰も殺していない。 『・・・今日の所の用事は、我が居城を直す事だけだ。邪魔をしないで戴くと助か る。我とて、徒に事を構えたくは、無いのでな。』  ワイスは、終始紳士的だった。何が狙いなんだろうか? 『ただし、次に我に武器を向けた時は、容赦せぬ。貴様等の言う所の、正当防衛に 当たるのだろう?そこで我慢する我では無い。』  ワイスは、その瞬間、大量の瘴気を発する。肉眼でも見える程だ。さすがだ。 『りょ、了解した。・・・これより、我が軍は、撤退する!!』  隊長は、意図を理解すると、部下の命もあるので、撤退を命じた。すると、ワイ スは、満足そうにワイス遺跡に戻っていく。 『た、大変な事が起こりました!!ストリウスに、ま、魔族が現れました!』  特派員は、腰が抜けたのが治ったのか、再び実況しだす。  それを見て、健蔵がまた一瞬で、こっちに来る。 『俺も宣言しておこうか。俺の名前は、砕魔 健蔵だ。知ってる奴も居るだろう。 ワイス様に歯向かわぬ限り、俺も手出しはしない。だが、我等を敵と見なすのなら ば、俺も容赦はしない。それを覚えておくが良い。』  健蔵は、ワイスの部下として、最高の答えを言っておいた。 『さて、お前も御苦労だったな。スクープ映像とやらは、撮れたであろう?』  健蔵は、特派員を助け起こしてやった。随分紳士的だ。 『ま、待ってください。』  特派員は、キョトンとしてたが、健蔵を呼び止める。 『貴方達は、伝記で人間の敵として書かれています。・・・な、何故今回は、そん なに紳士的なのでしょうか?あそこに書いてあるのは、嘘なんでしょうか?』  特派員は、仕事柄気になるのか、聞いてみる事にした。 『俺が1000年前、人間を殺しまくった事実は、変わらん。命令もあったし、人間を 恨んでいたのも事実だ。だが、そのような些事な事に囚われるのに、俺は疲れたん だ。俺が今、叩き潰したいのは、現在の支配構造を生成しているクズ共だ。セント は、やっている事が、『法道』と変わらぬ。そして、あのような支配を受けている お前達は、『黒の時代』の犠牲者とも言うべきだ。そのお前達を恨んでどうなる? 意味が無い事だろう?だから、敵対しないと決めたのだ。』  健蔵は、想いを語っていた。健蔵の言う事は、筋が通っている。昔の健蔵は、人 間に迫害された事を恨んでいた。だが、人間全体を知っていた訳では無い。なのに 恨み続けるのは、お門が違うと思ったのだろう。しかし、ソクトア大陸を支配して いるセントは、許せないのだろう。その支配構造を『黒の時代』と呼称していた。 『変革を求めるのですか!?』  特派員は、諦めずに聞いていた。すると、今度はワイスが近寄る。 『ならば、反対に聞こう。お主達は、今の状態が正常だとでも思っているのか?我 は、とてもそうは思えぬ。だから、足掻いてみようと思ったのだ。』  ワイスは、今の状態は、間違っていると、宣言した。 『では、セントに対して、宣戦布告をするのでしょうか!?』  特派員は、核心に迫る。 『そうだ・・・と言いたい所だが、今は、そこまで考えておらぬ。まずは住む所を 確保したいだけである。』  ワイスは、飽くまで居城を取り返すだけだと言っていた。  放送は、続いていたが、もうどう言う状況か掴めたので、テレビを消す。 「あれが、『神魔』ワイス・・・か。」  レイクさんが、複雑な表情を浮かべる。自分の祖先が倒した魔族だ。そして、そ の映像を、ゼロ=ブレイドを通して、見ているのだ。 「何だか、随分話せる魔族だったね。」  俊男が、素直な感想を述べた。確かに伝記の時とは、様子が違っていた。 「あの男が、人間の恨みを忘れる程、時が経ったと言う事か・・・。」  赤毘車さんは、1000年前の様子を知っているので、何とも言えないようだ。 (時が経てば変わる物か・・・。)  永久に変わらない物ってのも無い物だと俺は思うぜ。 「それにしても、派手な事をしますわね。」  恵は、呆れていた。目立つ為にやった感じにも見えたしな。 「グロバスさんは、どう思ってるんですか?」  俺は、士さんに尋ねてみた。グロバスさんの見解が欲しい所だ。 「何だか、納得してるみたいだが・・・まぁ代わるか。」  士さんは、意識を集中させて、グロバスさんに姿を変える。慣れた物だ。 「・・・ふむ・・・。まさか、ワイスまで復活してるとはな。」  グロバスさんは、懐かしむような目をしていた。 「しかし、あっちが本来のワイスなのであろうか?我は、奴等に『覇道』を強要し てしまったのかも知れぬな・・・。」  グロバスさんは、ワイスや健蔵に、自分の考えを押し付けたと思っているようだ。 「バーカ。んな訳無いだろ。奴等は、当時のお前の考えに賛成だっただけさ。お前 が、それを否定して、どうするんだよ。それに言ってただろ?奴等は、無闇に争う のに、疲れたってさ。その言葉を信じろよ。」  ジュダさんは、優しく諭す。確かに、ワイスや健蔵は、今は争うつもりは無いと 言ったが、当時は、人間達を憎んでいたのだろう。 「この事態を、セントが黙っているとは思えない・・・。何か起きなければ良いん ですが・・・。」  ゼリンは、新たな火種にならないか、心配しているようだ。  この事件を切っ掛けに、世間は魔族を認識するようになっていった。  ワイス遺跡に魔族が出現する!・・・このニュースは、瞬く間にソクトア中に広 まり、特集を組む国が少なく無かった。そのニュースを見ていたのか、今まで隠れ 住んで暮らしていた魔族も居たらしく、次々とワイス遺跡を訪れる事態になった。 ワイスも健蔵も、1000年前とは違うと言う事を説明し、それでもワイスと共に居た いと言ってくれる魔族は、拒まずに受け入れていた。  すると、連日ニュースになり、特集も組まれていた。そして、今回のワイスと健 蔵は、飽くまで紳士的にを貫いているので、取材の申し込みを正式にし、荒らさな いと言う条件付で、報道を許している。なので、取材の申し込みが殺到しているの も、事実である。  これにより、人々の目も変わってきている。特に、紳士的なのが受けているのか、 何処の局も好意的だ。しかし、セントの報道陣だけは、かなり高圧的な奴が多いの で、取材を拒否している場合が多いのだと言う。セントでも、ちゃんと申し込んで いる所は、受け入れているらしいが・・・。どうしても、元老院の意向もあって、 偏向報道になり易いのだ。 「大変な騒ぎですわね。ま、本人達は、望んでやってる所もありそうですが。」  ワイスも健蔵も、進んで案内してる光景もあった。それに、セントだけ優遇と言 う報道が多かった今までと比べ、かなり平等に扱っている為、他の国からの受けが 凄く良いのだ。それだけ、セントの圧政に反対だったのかも知れない。  私達はと言えば、世間が騒いだ所で、自分達の事を変えるつもりは無い。いつも 通りの日常を、繰り返していた。  とは言え、私達は世間が放って置く事を許さない訳で、早速、訪問客が来た。 「恵様。シャドゥ様とジェシー様が、いらっしゃったようです。」  睦月が報告してくれる。思った通りだ。 「通してあげなさい。知らない仲じゃありませんしね。」  恐らく、ワイス遺跡の話で、ジュダさん等に用事があってきたのだろう。 「大広間に、皆を集めて話をします。用意なさい。」  私は、本格的に話し合う為に、皆を集める事にした。  シャドゥさんもジェシーさんも、変装しながら此処へ来たようだ。 「ジェシーさん!久し振りです!」  レイクさんが、嬉しそうに話し掛ける。恩人でしたっけ。 「久し振りだね。元気してるかい?」  ジェシーさんは、気さくに話し掛けてくる。 「こちらは順調ですわ。・・・と言いたいけど、色々ありました。」  私は、隠さずに言う事にする。 「むぅ・・・。何かあったのか?」  シャドゥさんは、ゼハーンさんに尋ねていた。 「まぁな。恵殿の話を聞くと良い。」  ゼハーンさんは、私に話を振る。 「恵殿。何があったのか、教えて戴けますか?」  シャドゥさんが、何が何やら分からない様子で尋ねてきた。 「そうですね・・・。では、お話します。」  私は、何度目かになったが、話す事にした。  まず、ジュダさんが万年病になった事を報告する。万年病の事は、ジェシーさん は知らなかったらしく、大変驚いていた。  そして・・・時を越えて、皆を救って、その事が原因で、『因果』に囚われ、時 の無間地獄へ旅立ってしまった人の話を・・・。 「・・・凄まじい話さね。まさか、そんな事が起きてるとはね。」  ジェシーさんは、顔を曇らせる。 「それにしても、許せぬのはミシェーダですな・・・。」  シャドゥさんは、拳を握って怒っていた。  ついでに、今の生活の話もしておいた。特に士さん達が、レストランを開いた事 は、驚きがあったようだ。 「セントで、バーを経営してて、ガリウロルに行くと聞いたから、いつかやるとは 思っていたが、こんなに早く実現してるとは・・・。」  シャドゥさんは、ゼハーンさんと携帯電話でやり取りしている。だから、何とな くは、知っているのだろう。 「色々ビックリしたよ・・・。」  ジェシーさんは、感慨深く言う。私達は、いろいろな事に巻き込まれ過ぎな気が する。だが、無駄にはしない。これを糧に、強くなっているんだ。 「で、そちらの用事は何なんだ?想像は付くけどな。」  ジュダさんは、ジェシーさん達の用件を聞き出そうとする。 「想像通りさ。ワイス様の事だよ。正直、ビックリしてる。」  ジェシーさんは、ワイスの事を相談する。 「ま、そうだろうな。俺だって驚いてるさ。しかも、様変わりしてるしな。」  ジュダさんは、様変わりしていると言った。余程意外だったのだろう。 「何だか楽しそうではあったな。」  赤毘車さんは、思い出してか、含み笑いをしていた。 「何かに吹っ切れた感じがするさね。今回の生は、楽しむ為に生きるって決めてる 感じだったね。健蔵さんもだけど・・・。」  ジェシーさんは、二人の真意が、見えないようだ。 「俺としては、特に対策をするつもりは無い。特に、今回は害を及ぼす感じでは無 いしな。俺は、ミシェーダとは違うんでな。」  ジュダさんは、害が無ければ、放って置くつもりらしい。 「だが、ケイオスの事は、放って置けんな。」  ジュダさんは付け加える。ケイオスは、『覇道』を提唱している。テレビでは、 ケイオスの名前を言って無いが、士さんやグロバスさん曰く、間違いなくケイオス の事だそうだ。 「ケイオス・・・か。そうだよねぇ・・・。あの子、こっち来てるんだよねぇ。」  ジェシーさんは、溜め息を吐いていた。自分の息子が、成長して帰ってきたのは 嬉しいが、『覇道』を提唱しているのは、反対のようだ。 「私達は、どうすれば良いのでしょうか?」  シャドゥさんも、迷っている。どう振舞えば正解なのか、それは中々分からない。 「まどろっこしいなー。ワイス遺跡に行けば良いんじゃないの?」  ファリアさんが、口を開く。ファリアさんらしい意見だ。 「俺も、その意見に賛成だな。行かなきゃ分からない事だらけだろ。」  レイクさんも賛成のようだ。確かに、行くのが一番手っ取り早い。 「ま、調査も兼ねて、行ってみるか。」  ジュダさんも乗り気のようだ。何だか一気に話が進む。 「確か、今度の3月16日の月曜日って、サキョウの市井記念日で学園も休みだろ? 俺達からも、誰か行った方が良いんじゃないのか?」  兄様は、物見遊山気分で言う。随分と暢気です事。 「んじゃ、恵、それに俊男、お前達と士は、決まりだ。俺と一緒に来い。」  ・・・想像の範囲でしたが、やはりこうなりましたか。 「えー。良いなぁ。」  兄様が残念がる。やはり行きたかったのですね。 「あのね。遊びじゃないんですよ?」  私は、頭を押さえながら話す。 「ま、良く考えたら、行くのが一番早いさね。よし。ウジウジしてもしょうがない し、行って見ますか。」  ジェシーさんも、乗り気になったようだ。  それにしても、突然現れた魔族か・・・。どんな方なんでしょうね?  目立つ行動ばかりしてきたので、こう言う事は、いつか起きると思っていた。  これまでは、テレビの取材ばかりであったが、とうとう大物が動いたみたいだ。  その名も、竜神ジュダ=ロンド=ムクトー。言わずもがな、現在の神のリーダー らしい。確かにミシェーダ亡き後を考えれば、奴が神のリーダーに座るのは、順当 だと言える。奴と会うのは、楽しみであると言えた。  何でも、日曜日に来ると言う。それに目立ちたくないので、その日の取材は断る ように書いてあった。我は、楽しみにしていたので、そのように手配する。  それに同伴者に面白い名前があった。島山 俊男と言う名前だ。人間の同伴者ら しいが、健蔵が聞いた情報によれば、ミシェーダを殺した人間の名だそうだ。非常 に興味深かった。それとグロバス様と一緒に居ると言う黒小路 士と言う人間も気 になった。それと、魔族の同伴者に、ジェシーの名前があった。随分と懐かしい。 1000年前では仲間であったが、何でも『共存』の精神に感銘を受けて、残りの魔族 を引き連れて、魔炎島なる島の盟主になっていると言う。どのような盟主になった のか、聞いてみたい物だ。  健蔵は緊張しているようだが、我は、そこまで心配していなかった。今日は顔合 わせだと言っていたし、いきなり争いを始めるほど愚かではあるまい。  しばらくすると、使いの魔族が、報せに来た。 「ワイス様。裏門から、竜神と同伴者が来たようです。」  使いの者も、緊張している。とうとう来たか。 「通すが良い。大広間の改修は終わっているし、そこに通せ。」  我は、玉座の手前にある大広間の改修を急がせたので、少しは見れるようになっ ていた。これならば、ある程度の来賓者とも会えるであろう。 「ワイス様。今回の来賓は、何を考えての事でしょうか?」  健蔵が、疑問をぶつけてくる。 「分からぬ。ま、こう言う展開も、楽しみではないか。」  先が読めぬ展開は、面白い物だ。我は、二度目の生を楽しみたいと思っていたの で、丁度良かった。しかし、何が幸いするか分からぬな。我は、あの場で完全なる 『無』により、消え去ったと言うのに・・・。  ゼロマインドには感謝している。どのような用事であれ、我を復活させたのは、 奴だ。力を利用したかったのであろうが、そんな事は、我が知った事では無い。た だし、奴も我を利用しようとしたように、我は、奴に従う義理など無い。なので、 好きにやらせてもらうつもりだ。 「ワイス様。御一行様がいらっしゃいました。」  使いの者が、此処まで連れて来てくれたようだな。 「フム。御苦労であった。休憩に行くが良い。」  我は、使いの者を労う言葉を言う。すると、大広間の扉が開かれる。 「いよっ。ちゃんと対応してくれて、何よりだ。」  ジュダが気さくに挨拶してきた。奴らしいな。 「当たり前だ。我とて、お主を無視するほど、愚かでは無い。」  我は、軽口で返す。ジュダは超重要人物だ。無視など出来ない。 「久し振りだな。士。それにグロバス様も。」  健蔵が、後ろに居る物凄い瘴気を放っている人間に挨拶する。成程。彼が士か。 「ご先祖も、元気そうだな。それと、アンタはどう呼べば良いのか?」  士は、我をどう呼べば良いのか、迷っているようだ。 「好きに呼ぶが良い。ワイスで良いぞ。」  我は、呼び名など特に気にしなかった。 「なら、ワイスさんだっけか?初めましてだな。」  士は挨拶してきた。ふむ。中々好青年ではないか。 「フム。お主が黒小路 士であるな。宜しく頼むぞ。それと、グロバス様も、そこ におられると聞いた。久し振りの挨拶として戴きたい。」  我は、士と握手をする。む・・・。こ奴、本当に底知れぬ強さを持っているな。 「微笑ましい挨拶だねぇ。お久し振りさね。ワイス様に、健蔵さん。」  この声はジェシーであるな。美しいままであるな。 「久し振りであるな。ジェシーは、『魔王』になったと聞いたが?」  我は、情報を手に入れていた。 「長年、島を治めていたら、いつの間にか貰った称号ですよ。」  ジェシーは、そう言うが、実力は明らかに上がっている。成程。『魔王』を名乗 る訳だ。『魔界剣士』を名乗るよりは、ずっと相応しい。 「ワイス様に、健蔵様ですね。お初にお目に掛かります。私は、ジェシー様の第一 守護を司るシャドゥと申します。」  後ろに居るシャドゥとか申す者が、挨拶をする。 「ほう。・・・うむ。中々良い力を持っている。ジェシーよ。お前、部下に恵まれ ているではないか。この男、お前を追い越す素材やも知れぬぞ。」  我は、シャドゥの底力を測る。中々良い物を持っている。 「当たり前ですよ。この私の自慢の部下ですよ?」  ジェシーは隠そうともしない。可愛がっているようだな。我と健蔵のような関係 のようだ。信頼が見え隠れしている。 「しかし、丸くなった物だな。方針転換か?ワイスよ。」  赤毘車がいきなり失礼な挨拶をする。 「無闇に争うのに疲れただけだ。剣神よ。二度目の生は、楽しみたいと思うのは、 間違いでは、なかろう?」  我は、率直な意見を言う。 「俺も、その方針に従っているだけだ。どうせ蘇ったのなら、好きにしようと思っ たのさ。そこの士にも、命を投げ捨てるなと、言われたしな。」  健蔵も付け加える。 「貴方が、伝記の『神魔』ワイスさんに、『神魔剣士』の健蔵さんですわね?私は、 天神家の当主、天神 恵と申しますわ。お見知りおき下さい。」  人間の女が挨拶してくる。・・・この女、恐ろしい実力を秘めているな。何者だ? 「フム。挨拶御苦労である。お主、本当に人間か?凄まじい瘴気を感じるのだが?」  我は、恵とか申す者の中に、恐ろしき瘴気を感じた。 「・・・ま、いずれ分かる事ですし、言いましょうか。」  恵は、優雅に髪を掻き揚げる。 「私の父親は、ゲンドゥと言う名の魔族ですわ。魔族とのハーフですの。私。」  ・・・ゲンドゥ?もしや、研究者のゲンドゥか! 「あ奴、ソクトアに残っておったのか!てっきり魔界に帰った物だとばかり思って いたぞ。研究第一で、生真面目な奴であったが。」  我は記憶を頼りにして、思い出す。 「行方をくらましていた、ゲンドゥか。俺も覚えている。まさか、人間と結ばれて いたとは・・・。意外だったぞ。あの堅物・・・。」  健蔵も思い出したようだ。奴は堅物だったし、研究一筋だった。色々やりすぎる 点があったが、悪い奴では無かった。 「ゲンドゥは、この私の手で殺しました。何でも、それが、父の望みだったらしい です。私には、理解出来ませんでしたけどね。」  何と・・・。この娘、ゲンドゥを殺したと言うか。あれでもかなりの実力者だっ た筈だが・・・。確かに才能は、この娘の方が上だろうが・・・。 「恵さん。無理して話さなくても良いのに・・・。」  後ろの男が心配する。 「良いのよ。俊男さん。私は、もう自分のした事から逃げないって決めたの。」  恵は、強い眼をしていた。中々肝が据わっているようだな。それに今聞こえてき たが、後ろの男が、俊男か。 「お主が、島山 俊男か。噂は聞いておるぞ。」  我は、俊男を見つめる。確かに良い器を持っているようだな。 「え?僕って有名なんですか?・・・えーと。パーズ拳法の免許皆伝を戴いている 島山 俊男と言います。宜しくお願いします。」  俊男は、挨拶をした。パーズ拳法・・・。おお。そう言えば、パーズの王が、そ のような拳法を国に広めていた記憶がある。 「お前が、ミシェーダを倒したって聞いている。それで知っているんだよ。」  健蔵が、楽しそうに報せておく。実力者を称えるのは、我等にとっては常だ。 「まぁ、その事についても、色々話しておこうと思ってな。」  ジュダが、バツが悪そうにしていた。何かあったのだろうか? 「まずは、情報交換と言う事か?」  我との邂逅を求めたのは、そのせいかも知れぬな。 「良かろう。挨拶はこの辺にして、本題に入ろうか。」  我は、今までの事を、こやつ等に話した。とは言っても、我は復活してから、ほ とんど力を吸い取られていたので、話せるのは、ケイオスとの話だけだった。  それでも、向こうにとっては、有益だったようだが。  そして、あちらの状況を聞く事になった。何とも興味深い話であった。ガリウロ ルの天神家と言う所に、色々実力者が集まっているとの話だ。  それに、ミシェーダの悪行も知った。あの男、此処に居る恵や俊男も含めて、過 去に送り込む所業をしたらしい。1000年前の我等が出る前の時代へだ。しかし、こ の時代のジークの子孫と、その仲間達の協力を得て、戻ってきたらしい。大した物 だ。『召喚』と『時空』と『転移』を掛け合わせるなど、通常の発想では無い。  それに、ジュダが万年病に罹った事も聞いた。そして、その悲劇を止める為に、 色々手を尽くしたらしい。未来で死んだジュダが、その器として選んだのが、此処 に居る俊男だったと言う訳だ。これで合点行った。ジュダの力と、俊男の器があれ ば、確かにミシェーダを撃破出来るだろう。  しかし、『時界』を越えた、その代償として、ミシェーダを撃破した俊男は、時 の無間地獄へ旅立たされたらしい。悲劇よな。それを語る恵は、苦しそうであった。 「・・・そのような出来事を超えて、今の場所に居るのが、お主等か。」  我は、こ奴等の強さの源を知った気がした。これは、強くなる。このような出来 事を超えた者が、強くならない筈が無い。 「感服に値するな。お世辞抜きでな。」  健蔵も感心していた。これは、我等も負けていられん。 「そっちの情報も、私にとっては有難いよ。私ったら、いつの間にか、孫が出来て たんだね・・・。見たいけどねー・・・。」  ジェシーにとっては、ケイオスの情報が気になったようだ。確かに、ジェシーに とっては、新鮮の情報であるか。 「なら、見てやるが良い。・・・待っておれ。」  我は、水晶玉に強く念じると、ケイオスに思念を送る。  すると、ケイオスは、今すぐ『転移』してくると、返事があった。 「今なら、携帯電話とか、便利な物があるでしょうに・・・。」  恵は呆れていた。確かに、そのような物が発達しておったな。 「ケイオスか・・・。僕にとっては、複雑な存在だよ。」  俊男にとっては、違う自分の『因果』で、深く関わった魔族である。ミシェーダ は必ず来たが、ミシェーダに対策をしたら、ケイオスが攻めて来たと言う。 「そう言うで無い。奴は、正々堂々と闘うのが好きでな。その『因果』とやらに導 かれて、本気で相手した結果であろう?苦い記憶だったのかも知れぬが、今のケイ オスにぶつけるのは、お門違いと言う物だ。」  我は、フォローをしてやる。『因果』の力は、凄まじい物であったのだろうが、 それを今のケイオスにぶつけるのは、間違っている。 「ケイオスか・・・。本当に久し振りさね・・・。」  ジェシーも感慨深いようだ。 「ま、お手並み拝見と言った所だな。」  ジュダは、楽しむつもりらしい。それでこそ竜神よな。 「お、お知らせします!ケイオス様御一行が、突然いらっしゃいました!」  使いの魔族が、驚きながら報せてくる。 「慌てるでない。我が呼んだ。ここへ通すが良い。」  我は、優しく諭すように言う。さすがに驚かせてしまったようだな。 「ハッ!直ちに!!」  使いの者は、緊張した声で、入り口の方へと向かっていた。 「ケイオスとは、どう言う男だ?」  赤毘車が、尋ねてきた。気になるのであろうな。 「会えば分かる。あれは、スケールの大きい男だ。」  我は、余計な事を言わないで置いた。奴を表現するのに、美辞麗句など必要無い。 「ケイオス様・・・。とうとう会えるのですね。」  シャドゥも緊張しているようだ。期待と不安が混じっている感じだな。  扉の外で気配がした。来たようだな。 「ケイオス様御一行をお連れしました!」  使いの者が、生真面目に報告する。 「うむ。御苦労。休むと良い。」  我は、労いを忘れずに言っておいた。  そして、扉が開かれると、ケイオスと、その家族が姿を現す。 「良くぞ来た。我の求めに応じ、感謝する。」  我は、ケイオスに挨拶をする。 「構わぬ。寧ろ、こんな面白いイベントなら、積極的に行かねばならん。」  ケイオスは、乗り気だったようだ。確かに貴重な一時かも知れぬな。 「ケイオス?ケイオスなのかい?」  ジェシーが、言葉を震わせている。約1000年振りであったか? 「うむ。母よ。随分待たせてしまったようだな。余は、母との約束通り、魔界で何 かを掴んで、帰ってきたぞ。余の家族と、余の信念は、魔界で培われた物だ!」  ケイオスは、嬉しそうに報告する。親子の邂逅は良い物だな。 「ケイオス様の母君であられるな?此方はケイオス様の妻、エイハと申しますじゃ。」  エイハが、丁寧に挨拶する。エイハは、こうやって報告出来る事が嬉しいようだ。 「私は、魔界の主たるケイオス=ローンの息子であるハイネス=ローンです。私に とっての祖母の貴女を、心より尊敬しています。お見知り置きを。」  ハイネスが、真面目な口調で挨拶する。相変わらず堅苦しい奴だ。 「兄上は口上が長い。飽きちゃう。あ。私のお婆様ですね?初めましてですー。父 上の娘のメイジェスって言います!お父様もお元気ですか?」  メイジェスは、さり気なく我と健蔵へのアピールを忘れない。可愛い奴よ。 「ケイオスの家族・・・。いやー、実感湧かないけど、嬉しいものさね。こちらも 宜しく頼むよ!孫が2人も出来ちゃったんだねー。私。」  ジェシーは、孫2人と妻を見て、微笑ましく思っているのだろう。 「でも、お父様って、ワイス様の事かい?」  ジェシーは、メイジェスの一言に突っ込みを入れる。 「うん!健蔵さんと、お付き合いしてるんですー!」  メイジェスは嬉しそうに報告する。無邪気よのう。 「お前な・・・会っていきなり言う事か?それに俺は、まだ返事した覚えは・・・。」  健蔵は、頭を押さえながら反論する。 「やっぱり私じゃ駄目なんですか?」  メイジェスは、頬を膨らませて、涙を溜めていた。 「だから・・・駄目ってより、場所を考えろと・・・悪かったよ・・・。」  健蔵は、文句を言いつつ、結局謝ってしまった。これは、先が思いやられるな。 「ご先祖の貴重なシーンが見られたな・・・。」  士は、軽く含み笑いをする。健蔵にも、こんな一面があるのだな。 「フン。メイジェスも物好きだな。私には分からん。」  ハイネスは、溜め息を吐いていた。 「ハイネス。お主は、妹離れをしなきゃ駄目なのじゃ。」  エイハが嗜める。成程。確かに、この兄は、妹離れ出来て無い気がするな。 「何だ。中々楽しそうな一族じゃないか。」  ジュダは、ニヤニヤしながら見ていた。 「いやー、僕も緊張が解けてきたよ。」  俊男は、ずっと緊張しっぱなしだったようだな。 「人間も魔族も、本質は変わらないと言う事でしょう。納得ですわ。」  恵は、勝手に分析していた。何とも熱心な事よ。 「ま、頑張れご先祖。としか言えんな。」  士は、健蔵の様子を、暖かい眼差しで見ていた。 「うちの娘も、あれくらい可愛げがあれば良かったのだが・・・。」  赤毘車は、自分の娘のことを思ってか、溜め息を吐いていた。 「随分積極的なんだねぇ。いやいや、羨ましいねぇ。」  ジェシーは、孫娘が可愛いのか、頷きながら見ていた。 「健蔵様、メイジェス様。式には、是非、お呼び下さい!」  シャドゥは、すっかり、祝福モードだった。何だか、気が早い奴である。 「フム。健蔵ならば、余も不満は無い。余が娘ながら、良い眼をしている。」  ケイオスは、厳しい眼をしていた。 「・・・物凄くからかわれている気がする・・・。面白く無いぞ・・・。」  健蔵は、コメカミに手を当てながら我慢する。朴念仁め・・・。 「ハッハッハ。愉快だが、本題に入るか。」  ケイオスは、鋭い目付きに変わる。奴も、世間話だけをしに来た訳では無い。 「まずは、お互いの情報を、交換するとしようか。」  ケイオスは、近況を報告する事にした。 「また話す事になりそうね・・・。」  恵は、うんざりした顔をしていた。さっきの説明を、しなければならないからな。  そして、お互いの事を報告しあう。一番濃いのは、恵の説明であったが・・・。  ケイオスの方は、ハイネスが元老院入りした事を伝えた。そして元老院は、9人 からなる組織で、それぞれが、投票して次の出来事を決めるのだと言う。奇数にし てあるのは、意見が揉めるのを防ぐ為なのだとか。そして、健蔵から聞いてはいた が、元老院の加藤 篤則は、ゼロマインドの片割れである事を伝える。 「片割れ・・・か。やはり、ゼロマインドは、意識を分断していたのだな。」  赤毘車は、予想していたらしいが、本当になっていると聞いて、驚く。 「私が元老院入りしたので分かるでしょうが、私達は、セントと不戦条約を結んで います。貴方達とは、敵になる可能性が高い。」  ハイネスは、平然と敵になる可能性を口にする。 「ま、そうでしょうね。でも貴方達は、正々堂々と、攻めるつもりなのでしょう? ならば、問題はありませんわ。」  恵は少しも怯まずに言う。この娘、本当に14なのか? 「当然である。『覇道』を提唱する限り、力に拠る決着以外無い。その闘う意志を 見せる事が重要であり、ただ勝つだけの戦闘など無意味よ。」  ケイオスは『覇道』の信念を大事にしている。不意打ちや騙し討ちなどを、最も 嫌う傾向にある。その辺は、グロバス様に似ているな。 「グロバスが、話があるそうだ。代わって良いか?」  士が、グロバス様に代わりたいと申し出る。 「グロバス様が?我は、反対する理由など無い。寧ろ、会ってみたいぞ。」  我は、まだグロバス様にお会いしていない。 「余も直接会った事は無い。見てみたいぞ。」  ケイオスも同意見のようだ。それだけ、グロバス様は特別な存在なのだ。 「分かったよ。んじゃ代わるぞ?・・・ん・・・。」  士は、眼を閉じる。・・・おお!この瘴気は間違いなくグロバス様の物だ! 「ぬううううう!・・・フム・・・。しばらくだなワイス。」  士の体がベースだが、間違いなくグロバス様だった。 「お久し振りです。グロバス様。本当に、士の中に居たのですな。」  我は、半信半疑であったが、この瘴気を出されては、反論出来なかった。 「士は我と共に歩むに相応しい器の持ち主だからな。お前の子孫だと聞けば、納得 だ。この男、瘴気の扱いに関しては、『神魔』レベルだぞ。」  ほう・・・。そこまで・・・。相当な器の持ち主なのだな。 「そして、ケイオス。こうして話すのは初めてだな?」  グロバス様は、ケイオスに話し掛ける。 「そうであるな。こうして対峙しているだけで、この圧力。さすがは、伝記の『神 魔王』だ。余が尊敬に値する力の持ち主だけある。」  ケイオスは『覇道』を提唱するくらいなのだから、グロバス様も尊敬しているの だろう。グロバス様は、魔族の憧れの存在だからな。 「貴殿が、此方が父と駆け抜けた破壊神グロバス様なのけ?」  エイハは、圧倒されているようだが、尋ねている。 「レイモスの娘か。大きくなったな。今は魂だけの身だがな。」  グロバス様は、挨拶をしてくる。 「この圧力!この威厳!父が話していたグロバス様とは、貴方か!私は、ハイネス と申します!お見知り置き下さい!」  ハイネスは圧倒されているようだ。分からなくも無い話だ。 「そう改めんでも良い。今の我は、士に体を借りている身だ。」  グロバス様は、昔を思い出していたのかも知れぬな。 「うわー。すごーい!グロバス様、かっこいーですー!あ。でも健蔵さんの方が好 きですよ?私、本気なの健蔵さんの方だし。」  メイジェスは、目を輝かせていた。それでいて健蔵へのフォローも忘れない。何 とも忙しい娘だな。 「褒め言葉として受け取ろう。・・・健蔵の事は、我も気に掛けている。朴念仁だ が、信念は誰よりも強い。支えてやってくれると嬉しい。」  グロバス様は、暖かな眼をしていた。健蔵は、グロバス様にとっても、息子のよ うな存在だからな。 「グ、グロバス様まで・・・。俺は、結婚する気など無いと言うのに・・・。」  健蔵は、往生際の悪い事を言っている。 「これだけ祝福されてるんだし、しちゃえば良いんじゃねーの?お前も独身長いだ ろ?ワイスもグロバスも心配なんだと思うぜ?」  ジュダまで、後押ししてくる。まぁ間違ってはいない。 「と言うか、そこまで意固地になる理由が分からん。」  赤毘車は、ジト目で健蔵を見る。 「いや、私には分かりますよ。健蔵様は、結婚する事で、ワイス様への護衛が疎か になる事を恐れているのでしょう。」  シャドゥは、ジェシーの護衛をしているから、何となく分かるのだろう。 「俺の気持ちが分かる奴が居てくれたか!」  健蔵は顔を輝かせる。 「ですが!そのような心配は必要ありません!私もそうでした!私如きが妻を持っ て、ジェシー様の護衛が疎かに・・・と思った事もあります!でも、それは杞憂で した・・・。寧ろ、妻の存在があるからこそ、私は『絶対に死なない覚悟』が出来 るようになったのです。健蔵様にも、その気持ち、分かって欲しいです!」  シャドゥは熱く語る。成程な。似たような境遇だったのだな。それにしても、幸 せそうな顔をしている。やはり、結婚させるべきかも知れんな。 「この馬鹿も、相当な朴念仁でね。まぁコイツの妻も、遠慮しがちの子だったから、 苦労したさね。でも、結婚の後押ししてくれたのが、人間だったんだよ。」  ジェシーは、その時の様子を語る。シャドゥとその妻を結びつけた人間の話だ。 その人間は、ジークの妹のレルファの子孫であったと言う。 「ファリアさんは、凄い人だよねぇ。あんなに世話好きな人、中々居ないよね。」  俊男は、色々世話になってると付け加えていた。 「私が、尊敬する友人の一人よ。当然じゃありません事?」  恵は、当然と言った風に返す。相当信頼のある人間らしいな。 「・・・お前、後悔していないのか?疎かになっていないのか?」  健蔵は、シャドゥに今の様子を聞く。結婚してから、不自由して無いか聞いてい る。興味が無い訳では無さそうだな。 「以前よりも、充実しております。嘘偽らざる気持ちです。」  シャドゥの答えは、迷いが無かった。 「中々の信念、気に入ったぞ。貴公、余の部下にならぬか?」  ケイオスは、シャドゥの事が気に入ったようだ。 「ケイオス様、有難き言葉ですが、私はジェシー様の第一部下ですので。」  シャドゥは、丁重にお断りする。ま、当然か。 「フム。残念であるな。まぁ貴公は、母の信頼ある部下なれば、余の兄弟のような 物だ。これからも精進するが良いぞ。」  ケイオスは、シャドゥとガッチリ握手をする。 「それにしても、そのファリアとやらも、余が殺しに行ったらしいな?確かにミシ ェーダとの闘いの見物に行った時、門番と闘おうと思った事もあった。今思えば、 それが『因果』とやらの力だったのかも知れぬな。」  ケイオスは、恵の話を聞いて、思い出していた。恵の話では、ミシェーダに対す る策を完璧にしたら、ケイオスが攻めてきたのだと言う。 「ま、今のお前には関係の無い話だ。俊男は苦しんだがな・・・。」  ジュダは、申し訳なさそうな顔をしていた。 「大体、余はおかしいと思っていたのだ。ガリウロルの家に戦力が集まっているか ら、力試しをしろと、促された時点でな。ミシェーダと同時に余を使おうと思った 訳か。下らぬ策を講じる・・・。」  ケイオスは、セントから要請があったようだ。それで、天神家に向かったのか。 「どうにも、セントとやらは、キナ臭いのじゃ。」  エイハも気に入らないようだ。 「我は、セントに付く気は無い。あの者達には、借りがあるのでな。」  我の力を利用しようなどと、大それた事をした連中に、肩入れする気は無い。 「だが余は、恵と言ったか。お前達と戦闘を楽しみたい気持ちもある。複雑だな。」  ケイオスは、強い者との闘いを、至上の喜びとしている。 「ケイオス。やっぱり、その気持ちを曲げる気は無いのかい?」  ジェシーが、憂鬱な顔をしていた。 「母と言えど、この信念は曲げられぬ。『覇道』を掲げる限り、信念を持って闘う は必定。ソクトアの支配など、余の眼中では無いが、強い者との闘いで、互いを高 めあうのは、余の魔族としての生の全てだ。」  ケイオスは、信念を曲げる気は無い。さすがの覚悟よ。 「強い者との闘いこそ信条か。我の精神を正しく受け継いでいるな。頑張って見せ るが良い。我は加担出来ぬがな。」  グロバス様は、『覇道』に加担するつもりは無いようだ。 「そこを聞きたい。先の『神魔王』よ。なぜ貴殿は『覇道』を支持しない?」  ケイオスは、疑問に思っていたようだ。ケイオスの理想が、正しく『覇道』なら ば、グロバス様が付いてこないのは、おかしいと思っているのだろう。 「単純な理由だ。我は、まだ強くなりたい。その為には、人間の絆の力が不可欠だ と思っているからだ。彼等から学ぶ事で、我はまだまだ強くなれると思ったのだ。」  成程。我も思っている疑問だったが、単純な理由であったな。 「奴等が言う『共存』が生み出す力は、そんなに凄い物なのか?」  ケイオスは、顎に手を乗せて考える。 「そうだ。この我をして、考え方を変えるくらいにな。奴等と共に高みに上ると考 えるだけで、無限に力が湧いてくる感じがするのだ。素晴らしいぞ?」  グロバス様は、新しい物を見つけた子供のように、目を輝かせていた。 「俺には、まだ理解出来ぬが、その力、この目で見たい物だ。」  健蔵は、グロバス様の言う力がどう言う物か、確かめたいようだ。 「我もだ。その為には、一時の対立は必定かも知れんな。」  我も同意する。そして、それを理解する為には、一度、敵として対峙して、闘っ てみるのが、一番だと考えていた。 「面白い。『神魔王』が垣間見たと言うその力、余に通じるか、見せてみよ。」  ケイオスも、すっかり乗り気のようだ。 「おっと。そろそろ士が戻りたいと言ってきた。我はそろそろ戻るとするか。」  グロバス様は、士に戻るようだ。 「グロバス様。いつか必ず見せてくれると信じておりますぞ。」  我は、一言言っておく。すると、グロバス様は、力強く頷いた。 「・・・ふぅ・・・。アイツも、よく喋るようになったな。」  士は呆れていた。グロバス様との共同生活に慣れてきているな。 「絆の力か・・・。どんな力か、興味が湧いてきたな・・・。」  健蔵は、グロバス様の言葉を反芻する。 「うん・・・。成程。そう言う展開な訳ね。んじゃ、決まりね。」  恵は、少し考えて、手を打つ。何か考え付いたのであろうか? 「・・・恵さんさ。まさかと思うけど・・・。」  俊男は、恵の考えを見抜いたのか、物凄く嫌そうな顔をする。 「あーら。失礼な顔ね。面白そうじゃない?」  恵は、凄く嬉しそうな顔をしていた。何故だか、我も嫌な予感がしてきた。 「提案があるけど、良いかしら?」  恵は、ニコニコと笑いながら挙手をする。 「ま、想像は付くけど、無茶言うつもりだな。お前。」  ジュダも気が付いたようだ。どう言う提案なのであろうか? 「言ってみよ。面白そうな提案なのだろうな?」  我は、発言を許可する。嫌な予感もしたが、面白そうではある。 「魔族も人間も、目標があった方が、面白いと思いません?」  恵は、人差し指を上げて、説明し始める。 「何かを目標にするのは常であろう?余とて『覇道』を貫くのが目標であるぞ?」  ケイオスは、『覇道』を成功させると言う究極の目標がある。 「そう言う最終目標より、目の前の目標と言う事ですわ。そう言う物は、人生に必 要な物だと、私は思ってますの。」  恵は、目標の話をする。話が見えぬな。 「話が逸れましたわね。要は、大会を開きたいんですの。腕を競う場と言えば宜し いかしら?そう言う目標って、大事じゃないですか?」  ほほう・・・。この娘、面白い事を言う。大会か。大々的にやるのも、面白いか も知れぬな。実力試しと言う訳か。 「それでは、余の圧勝で終わるかも知れぬぞ?それに、ただの腕試しでは、余興と しては、興醒めするのではないか?」  ケイオスは、自信たっぷりに言う。この男は、それを言うだけの資格はある。 「誰が、只の腕試しと言いました?後、個人戦じゃありませんよ?」  恵は、面白そうに笑っていた。この娘、中々に曲者よ。 「規則は明快にしますわ。タッグ戦で、両方とも降参したら負けです。そして、微 妙な扱いになりますが、『ルール』は、有りの方向で進めますわ。じゃないと、私 達に勝ちの可能性が無くなりますからね。」  恵が説明する。『ルール』が有りだと?と言うか・・・。 「お主、何故『ルール』の事を知っている。ジュダの入れ知恵か?」  我は、『ルール』についての説明があったのに驚いた。人間が『ルール』を知っ ているなど、我の時代では有りえない事だ。 「あれ?もしかして、まだ知らなかったかしら?ゼロマインドが、『ルール』を解 明して、ソクトア全土にバラ撒いたのよ。」  な、何だと!?ゼロマインドの奴、そんな危険な事をしていたのか!? 「恐ろしい事をする・・・。お主等が、そこまで強い理由が分かった気がする。ま さか、『ルール』まで使えるとは・・・。」  我は、『神魔』になった時、初めて神の能力を知った。それが『ルール』であっ た。力ではなく能力。使い方次第で、強さを何倍にもしてくれる恐ろしい能力だ。 「ワイス様。『ルール』とは、どのような物で御座いますか?」  そうか。健蔵は知らぬのであったな。 「此方も存じ上げませんが、御前は知っておられるか?」  エイハや、ハイネス、メイジェスも知らないようだ。当然か。 「余も、目にした事は無い。聞いた事はあるがな。」  ケイオスも、実際に見た事は無いようだな。 「口で説明するのは、難しいんですが・・・。」  恵は、顎に指を当てる。 「見せた方が早いんじゃないか?」  士が助け舟を出す。と言うより、百聞は一見にしかずとも言う。その通りであろ う。見せられれば、早いだろうな。あの能力は。 「そうだね。見てもらった方が早いね。」  俊男も賛成のようだ。この男も使えるようだな。 「仕方無いですわね。じゃ、一番分かり易いのは、士さんかしら?」  ほう。士も『ルール』を使えるのか。楽しみであるな。 「グロバスと言い、人使いが荒いな。まぁ良い・・・。」  士は、意識を集中させる。すると、何やら違和感が広がる。 「・・・『索敵』のルール!!」  士は『索敵』のルールと言った。つまり、敵と味方の居場所が分かる『ルール』 か!便利な物を身につけているな。 「よっ。・・・いよぅ!ご先祖!」  士が、一瞬にして居なくなった。いや、ワープしたのか!?健蔵の後ろに居た。 「お前、一体何をした?本当に消えたように見えたぞ?」  健蔵は、驚いていた。超スピードで誤魔化したのではない。正真正銘ワープした のだ。『転移』かと思ったが、使った形跡も無い。 「これが俺の能力だ。敵と味方を一瞬で見分けて、そこにワープ出来る能力だ。」  何と言う便利な能力だ。士は、底知れない能力を持っているな。 「これは・・・凄い能力だな・・・。」  健蔵も、驚かざるを得なかった。しかし、本当に使えるのだな・・・。 「フハハハハ!驚かざるを得ない能力だ。ゼロマインドめ。こんな面白い能力を解 放していたとは・・・。余も欲しくなってきたな。」  ケイオスは、見た事が無い能力に、目を輝かせていた。 「しかし、何の為に?人間を強くするだけではないか。」  ハイネスが、訝しげに思っていた。確かに、益が無いように思える。 「何でも、それで卓越した能力をもった人間の力を吸いたかったそうだ。それだけ、 力の集まりに不満があったんだろうな。」  赤毘車が説明してくれる。成程な。強くさせて襲おうと言う案か。 「器の小さい事をする。裏目に出ているとは、愚かその物よ。」  ケイオスは、鼻で笑う。セントの人間に目覚めさせて、力を、より吸い取ろうと 思ったのだろう。確かに、せこい事をする。 「ま、広めた切っ掛けを作ったのは、俺の娘だけどな・・・。」  ジュダは苦い顔をしていた。責任を感じているのかも知れぬな。 「で、どうかしら?『ルール』は有りで、トーナメント戦を行う予定よ。二人一組 のタッグ戦で、優勝チームの要望に敗者チームは応えると言う条件よ。」  ・・・ほほう。つまり、ケイオスが勝てば、『覇道』の考えを一気に広められる 訳か。面白い提案だな。 「余が勝てば『覇道』を宣言し、更にそれに付いて来る強者達を集められる訳か。 随分と余の要望に応えた形なんだな?後悔せぬのか?」  ケイオスは、条件が良すぎるだけに、警戒している。 「しないわ。貴方が勝てば、それが時代が望んだ事と思うまでよ。でも、悪いけど させませんわ。後、勝利条件は、相手が動けなくなるまでか、降参したらよ。」  ふむ。中々強気な事よな。それに勝利条件か・・・。 「後、相手を殺してしまうのは、禁止します。失格にしますわ。ただし、降参を中 々認めないチームが、命の危険だと判断したら、こちらで試合を止める予定です。」  殺してしまったら失格か。それは随分厳しい条件だな。 「余は、微妙な手加減など出来ぬぞ?勢い余ってしまうかも知れぬ。」  ケイオスは、不満な顔をしていた。それはそうだ。 「悪いけど、守って戴かないと、参加者が萎縮してしまいますからね。でも、それ くらいの力の見極めは出来ますわよね?」  恵は、挑発する。それくらいの力の調整は、出来る筈だと、言っているのだ。 「それも力の内だと言う訳か。手厳しいな。良かろう。その条件飲もう。」  ケイオスは、殺さないと言う条件を飲む事にした。 「一応、私達の方で、医療チームを用意致しますわ。」  随分と手際の良い事だ。その辺は任せるとしようか。 「我等は、会場でも用意すれば良いのか?」  我の予想では、会場の一つが此処っぽいな。 「ご名答よ。会場の一つを此処で、頼めますわね?ガリウロルでも、一つ用意致し ますわ。楽しい物にしましょう?」  恵は、予想通りの答えを返す。確かに、それなりの広さが必要だからな。 「承知した。用意させておこう。」  我は、健蔵に合図をする。健蔵は、更に部下に合図をすると、早速伝達したよう だ。ワイス遺跡の修復ついでにやってくれるようだ。 「面白そうなのじゃ。魔界での争いを思い出すのじゃ。」  エイハは、魔界で争ったときの事を思い出していた。 「タッグパートナーは自由よ。誰と組んでも良いわ。でも、タッグじゃないと駄目 よ?タッグになった後の闘い方までは、指図しませんけどね。」  となると、余程信じられるパートナーである方が良いと言う事か。 「で、審判は、あたしにやれと言いたいのかい?」  ジェシーが、不満そうに言う。ジェシーが審判とな? 「さすがジェシーさん。話が早くて助かりますわ。」  恵も、当然と言わんばかりに、頼み込む。 「冷静に考えた結果だよ。どっちの陣営にも顔が知れていて、一番公平に裁けるの は、誰なのか?ってね。で、裁くには、ある程度の実力が無きゃ駄目さね。そう考 えたら、アタシしか居ないじゃないか。」  ジェシーは、つまらなそうな顔をしていた。本当は出たいのだろう。 「ま、良いよ。どうせ、あたしは『ルール』に目覚めてないし、ワイス様やケイオ スに付いて行ける程の実力は、無いからね。」  まぁ確かに可能性はあるだろうが、我やケイオスに追いつくほどでは無いな。 「無念であるな。母よ。だが、安心すると良い。余が優勝し、母は優秀であった事 を証明して見せよう。審判は、公正にお願いする。」  ケイオスは、母の為にと言う訳では無いが、ついでに母の優秀さを証明してやろ うと思っているみたいだ。奴らしいな。 「余計なお世話だよ。それより、変な遠慮すんじゃ無いよ。やるなら思いっきり燃 焼しな!一応言っておくとね。この子達は、半端じゃないよ?勢い余って殺すとか 舐めてると、本当に負けるよアンタ。」  ジェシーは、我やケイオスに向けて言ったのであろう。確かに油断は一番の敗北 の元でもある。気を引き締めるのは、悪い事では無い。 「確かに、その『ルール』とやらは、舐められる能力では無いな。」  ケイオスは、能力の恐ろしさを肌で感じていた。 「ホッホッホ。此方とケイオス様のタッグで優勝出来ないとでも?」  エイハは、ケイオスとタッグを組む気で、満々だった。 「ま、余の相棒は、貴公であろうな。」  ケイオスも認めていた。エイハとケイオスの組か。優勝候補筆頭であろうな。 「気が早いですわ。ま、私も俊男さんと出るけどね。」  恵は、横の俊男にウィンクする。成程。手強いかも知れぬな。 「ま、そうなるだろうとは思ってたけどね。頑張るよ!」  俊男も、やる気満々だ。意外とノリが良い奴なのだな。 「フッフッフ。俺とワイス様のタッグも、忘れてもらっては困るな。」  健蔵は、我を見る。確かにそれならば、順当であろう。だが・・・。 「健蔵よ。我は、お前と組む気は無いぞ?」  我は、言い渡す。その瞬間、健蔵の顔が青ざめた。 「な、何故で御座いますか!?俺とのタッグでは不満だと!?」  健蔵は、思った通りの反応を示す。まぁ、そう思うであろうな。 「健蔵。今回の大会は、殺し合いでは無い。どれだけ実力があるか、本気でぶつか る大会となろう。ならば、我はお前と闘いたい。」  我は、本心を述べる。健蔵と一緒に出る事は容易い。それに良い所まで行くであ ろう。しかし、2度目の生を楽しむのならば、このような選択もありだろう。 「・・・ワイス様・・・。そう言う事ならば、俺も全力で勝ちあがって見せます!」  健蔵は、我の目を見て、真意を悟る。何だ。成長しているではないか。昔の健蔵 ならば、問い質して、駄々を言っていたに違いない。だが健蔵は、我が健蔵の成長 を見たいと言う真意を見抜いたのだ。 「やったー!なら健蔵さん、私と組もうよ!」  メイジェスが、喜び勇んで健蔵と組む事を宣言する。 「よりにもよって、お前とか?・・・お前、俺に付いてこれるんだろうな?」  健蔵は、訝しげな眼で、メイジェスを睨む。 「ひっどーい。私、こう見えても強いんですよー!」  メイジェスは、頬を膨らませている。しかし、健蔵とて分かって言っているので あろう。ケイオスの娘だ。弱い訳が無い。 「私は、どうしようか・・・。」  ハイネスが、所在無さげにしていた。父は母と、妹は健蔵とだからな。 「ハッハッハ!ハイネス。我と組むか?お主も、妹の成長を見たいであろう?」  我は、ハイネスを誘う。我と健蔵の逆のパターンであるな。 「ワイスさんとですか?良いのですか?」  ハイネスは、実力の事を気にしているのかも知れぬな。 「実力が不足していると思うのならば、今から磨けば良い。違うか?」  我は、ハイネスが弱いとは思っていない。だが、付いて行くには時間が要る。な らば、徹底的に鍛えてやれば良いと思った。 「それに、お主が出なければ、元老院が黙っていないであろうよ。お主は、元老院 代表として、出て見せて、良い所まで行かなければ、ならぬ身であろう?」  我は、そう読んでいた。元老院が、このような大会を傍観している筈が無い。な らば、元老院の代表として、一人出れば、文句も少ないだろうと踏んだのだ。 「で、この大会の狙いを聞こうか?」  我は、恵に確認する。何の狙いも無しに、開こうと言う訳では無いだろう。 「良い機会だと思ったのよ。人間全体は今、退化していると言うのは、私も同じ想 いですわ。なら、人間の可能性を見せてあげたいんです。この大会を開く事で、人 間が、これだけ出来るんだって証明したいんですわ。」  恵は、人間全体の事を考えているようだ。 「それだけじゃないよね?この大会で、魔族や人間が、闘いを通じて、理解出来る 事を証明したいんでしょ?僕達が勝ったら、『共存』の精神を唱えるつもり・・・ だよね?そうじゃ無かったら、こんな案、出す訳無いもんね。」  俊男が付け加える。中々考えているではないか。 「さっすが俊男さん。ご名答。もう、セント一極支配のまま、人間が飼われ続ける ような時代は終わりにしたいのよ。『黒の時代』なんて言われているこの時代を、 終わりにしたいのよ。これは、兄様の意志でもあります。」  恵は、この時代が『黒の時代』と言われている事に、我慢がならないようだ。 「その覚悟、気に入ったよ。『共存』を唱えるなら、私達が隠れ住む今の世を、変 えてくれるんだろうね?」  ジェシーは、魔炎島なる所で、隠れ住んでいるからな。 「良く言った。その覚悟があるなら、俺達も、神である事を公開して闘おう。それ が、本当の『共存』を生むんだよな?」  ジュダは、覚悟をするようだ。神である事を隠していたのは、セントにバレ無い 為だが、それを解くと言う事は、全面対決する覚悟が出来たようだ。 「貴公等も、余と同じくらい負けられないと言う訳か。面白い!」  ケイオスは、このタッグ戦は、只の腕試しでは無く、意地のぶつかり合いになる と予想する。その方が、盛り上がると言う物だ。 「確かに、このような世では、我等が命を懸けた甲斐も無い。それを変革する為の 闘いとあれば、本気を出さざるを得んな。」  我は、このタッグ戦で、色々な事が変わると思っていた。 「いつ開く予定だ?」  赤毘車は、開催予定を聞く。なんだかんだで、楽しみにしていそうだな。 「準備期間も有るでしょうから、受付は、明日から1ヶ月後の4月16日まで。で、 開催は5月頭からよ。宣伝は、開催含め、お願い致しますわ。こちらでも会見を開 く予定ですけどね。」  成程。5月に決戦と言う訳か。分かり易くて良い。 「承知した。大いに盛り上げようではないか。祭典とするぞ。」  我は、心が躍った。やはり、こうでなくてはならぬ。何かを糧にする時は、盛り 上がらなくてはならぬ。  こうして、それぞれが意地を懸けた闘い『闘式(とうしき)』が、開催される事 が決定した。我も出るからには、優勝を目指さなくてはならぬな。  恵さんが戻ってきた。何やら色々成果が有ったようだが、敢えて何も言われなか った。これは、何かとてつもない事をしてきたな?と予想する。  そして、帰ってくるなり、テレビを付けろと言われた。何事かと思ったが、そこ で、例のワイス遺跡から、会見があると、報道されていた。 『諸君。これより、ワイス様から発表がある。心して聞くが良い。』  健蔵が、会見場を用意して、記者を呼び寄せていた。マメよね。 『皆の者。神魔ワイスである。集まってもらったのは、他でも無い。先日、人間と 謁見して、面白い提案があったので、それを発表する事にした。』  ワイスは、人間と謁見したと言っていた。まぁ恵さんの事よね。 『我等が、このように1000年の時を経て、顕現したのに、何も無いでは、お主達も つまらぬと思ってな。協議した結果、目標を作る事で、意見が一致した。』  目標を作る?また随分と曖昧な・・・。恵さんが口にしそうな事だが・・・。 『よって、余興を開こうと思っている。つまり、大会を開こうと思っておる。闘技 を競う大会だ。名前を『闘式』と命名する!』  ・・・え?何これ?『闘式』?って、まさか闘う約束でも取り付けたって言うの? 周りは、どよめいていた。当然だ。会見場も騒然となる。 『そ、それは、魔族の貴方達と闘うと言う事ですか!?ば、馬鹿な!?』  記者の一人が、抗議する。とても、正気とは思えないと思ったのだろう。 『ふむ。当然の疑問であるな。我と闘える者など居ないと申したいのであろう?』  ワイスは、意見を予想する。まぁ当然、そう言う疑問も出るわよね。 『安心するが良い。この1000年で、人間全体は、確かに強さ的に退化したかも知れ ぬ。だが、実力を磨いている者は、1000年前以上に強い!』  ワイスは、確信めいていた。そりゃ、恵さんを見れば、そう思うだろうけど。 『そ、そんな人間が居るんですか!?』  記者達はざわめく。人間で、そこまで力がある者が居るとは思わないのだろう。 『居る。それと、この大会は、あくまで腕試しの延長だ。血生臭い物にはせぬとの 約束だ。これより概要を説明する。』  ワイスは、血生臭い物にはしないと言った。この辺を、恵さんが交渉したんだろ うな。如何にも取り付けそうな約束だ。 『まずは、勝者の権限だ。敗者は、勝者の考えに付いていく事になっている。そこ に意地はあろう。だが、それでも従ってもらう。その誓約書を書いてもらう。』  いきなり凄い条件が来たわね。と言う事は、何か叶えたい願いがある人には、う ってつけって事ね。 『次に、この闘いは、あくまで個々の腕を競う物だ。死に至らしめるのは厳禁。そ の者は失格となる。よって勝利条件は、相手が動けなくなるか、相手が降参するま でだ。だが、中々降参しない者も居るだろう。しかし、こちらが危険と判断した場 合、試合を止めさせてもらう。』  成程。殺す為の闘いじゃないって事ね。この辺は、恵さんが言いそうな事だわ。 恵さんは、涼しそうな顔をしている。 『次に、個々の闘いでは盛り上がらぬと言う意見があった。よって、この闘いは、 タッグ戦で行う。出場する際には、タッグパートナーを見つける事だ。』  ・・・成程ね。タッグ戦か。それなら、こちらも勝機がある。と言うか、そうじ ゃなきゃ、一方的な闘いが多くなりそうだ物ね。 『最後に、会場は、こことガリウロルで用意するそうだ。受付は、今日より1ヵ月 後の4月16日までとする。・・・ちなみに試合は、何を使っても良い。ただし、 武器は、こちらで用意する模造品を使ってもらう。それ以外の力、能力を使用する のは、自由だ。』  へぇ・・・。こう言ってるって事は、『ルール』は有って事ね。良くこんな条件 を飲ませたわね。此処までオープンにするって事は、いろいろぶっちゃけた可能性 が高いわね。恵さんらしい。 『以上である。詳細は、健蔵が作ったパンフレットを見るが良い。』  ワイスは、会見を終えた。・・・て言うか、また凄い事を・・・。 「以上よ。まぁ、楽しそうでしょ?」  恵さんは、皆の前で涼しい顔をする。恐ろしい・・・。 「色々質問があるけど・・・どうせ、これから発表するんでしょ?」  私は、天神家でも、会見場を作っている事を思い出す。まったく、手回しが良い 事だ。記者達が、どよめきながら集まっている。さっきのワイスの発表に合わせて、 こちらでも会見を開くとあれば、期待も高まる事だろう。 「ご名答。行って来ますわ。」  恵さんは、臨時会見場の方へと向かった。 「圧倒されっぱなしだぜ。俺。」  レイクが、恵さんの行動力に舌を巻いていた。 「まぁ、考えがあっての事でしょう?期待しましょうよ。」  これだけの事をするのだから、期待せざるを得ない。  私達も、臨時会見場の方へと移動する。すると、既に記者が集まっていた。凄い 人数だ。睦月さんなどが、対応に追われている。 「来たぞ!天神家の女王だ!」  記者から変な呼ばれ方をしていた。色々と噂があるみたいだ。 「皆さん、お待たせ致しました。」  恵さんが、優雅な衣装に身を包んで、会見場に現れる。ドレスアップしていた。 「この度は、お集まり戴き、誠に光栄ですわ。」  恵さんは、堂々としていた。さすがだなー。 「皆さんも知っての通り、ワイス遺跡で重大発表がありましたね?あの時に出て来 た相談を受けた人間と言うのが、私です。」  会見場がどよめく。薄々感づいていた物の、本当だと分かると、それはそれで、 話題になる。カメラのフラッシュが、一斉に光りだす。 「魔族と闘って、勝利なさる御つもりですか!?」  記者の質問が飛ぶ。まぁ、当然だろう。 「勝ち目の無い闘いをするつもりは有りません。当然やるからには、勝利を目指し ますわ。今回はタッグ戦ですからね。それに・・・。」  恵さんは、押し黙る。どうやら、少し躊躇っているようだ。 「迷う必要は無いわね。・・・私は魔族の存在を知っていましたから、当然その闘 い方も知っています。私の父、天神 厳導は、魔族でしたから。」  恵さん・・・。とうとう白日の下に晒すのね。その覚悟の為の会見だったのか。 「私は、幼少の頃より、急に様子がおかしくなる事が有りました。病気のせいかと 思ったけど、そうじゃありません。何の事は無い。魔族の血が騒いで、瘴気が噴き 出てしまった為でしたわ。こんな風にね。」  恵さんは、静かに眼を閉じた後、眼を紅く輝かせる。そして、噴き出る瘴気を、 テレビ越しでも見えるように強めに放出していた。 「・・・ふぅ。驚かせてしまったわね。今では、完全に制御出来ます。でも、それ は、死ぬほどの訓練を経ての事です。それまでは、誰かに知られるのでさえ怖かっ た・・・。でも、そんな私を、受け入れてくれた人が居るんです。」  恵さんは、瘴気を元に戻して、いつもの恵さんに戻る。 「最初は兄様がそうでした。・・・ちなみに、私と兄は、血の繋がりは御座いませ ん。この家系図を見れば、分かりますわね?」  恵さんは、天神家の家系図を発表する。するとそこには、天神 厳導が天神 真 の養子となっていて、真の息子に瞬君の名前があった。 「そして今は、私のパートナーである俊男さんが、その人でした。」  そう言うと、恵さんは、俊男君を登場させる。すると緊張気味に入ってきた。 「し、島山 俊男です!宜しくお願いします。」  俊男君は、声が震え気味だった。当然かなー。 「この事実、ずっと隠すつもりでした。それでも幸せになれると思ってました。で もね。ワイス遺跡に現れた魔族が、私の考えを変えました。」  恵さんは、ワイス遺跡の事を話す。連日のようにテレビの取材に応じている姿に、 思う所があったんだろう。 「皆さんも、取材して分かったでしょうが、魔族は異質な存在ですが、決して話せ ない訳では有りません。それは、伝記にすら書かれている事です。」  恵さんは、伝記の事を例に出す。伝記でも、グロバスさんは、自分の考えを肯定 した人間を、邪険に扱ったりはしなかった筈だ。 「歴史を見れば、500年も『共存』が続いたのに、今ではその歴史すら、無かっ た事にされようとしています。そんな悲しい事がありますか?」  今では、只の夢物語として、伝記は扱われている。それは、今の世が、余りにも 伝記とかけ離れているせいで、誰も信じなくなったからだ。 「そんな思いを抱いていた所に、ワイス遺跡の出来事が起きました。ワイスさんも 言っていましたが、人間の強さは退化しています。それは人間以外は、このソクト アには居ないと思っているからです。」  そうだ。だからこそ、天敵が居ないと思っている人間は、強くなる必要が無い為、 どんどん弱くなっているのだ。それは、必然である。 「私達やその仲間は、魔族の存在を知っています。だから、それに備えて強くあろ うと努力してきました。ワイスさんが言っていた人間とは私達の事です。」  私達は、魔族の存在を知っている。そして、その強さを身に感じているから、強 くありたいと願った。その姿勢は、間違っていない筈だ。 「此処に宣言します。私は、勝利した暁には、『共存』の精神を、世に伝えさせよ うと思っています。彼の英雄、ジークが願った事であり、人間全体の心の拠り所だ った筈の願いです。このタッグ戦は、それを広める為の、大いなる一歩です。」  恵さんは、高らかに宣言する。さすがね。役者が違うわね。 「このタッグ戦は、お互いを理解する為の第一歩です。だから私は、死者を出さな いように提案しました。・・・人間も、魔族も、神も、関係ありません。理解しあ う為の場なのです。」  恵さんが、そこまで言うと、今度はジュダさんが会見場に現れる。 「全ソクトアの者よ。見ているか?俺が誰だか分かるか?・・・分からないだろう? 500年前までは、すぐに俺の名前が出てきた物だ。だが、今じゃこの体たらくだ。」  ジュダさんは、溜め息を吐く。 「良いか?良く聞け。俺の名前はジュダ=ロンド=ムクトー。伝記で聞いた事があ るか?その本人だ。神のリーダーをしている。」  ジュダさんは、素性を明かす。すると、どよめきは、更に高まった。 「信じられねぇか?無理も無いな。お前達は、俺の存在すら疑っていたからな。」  そう言うと、ジュダさんは、その場で『化身』を使う。と、その前に赤毘車さん が、記者たちの前に立って、余波が出ないように守っていた。 「これで、分かったか?」  ジュダさんは、テレビに映ったのを確認して、元に戻った。 「ほ、本物なんですか!?」 「作り物じゃないぞ!?」 「今のは、どうやったのですか!?」  記者達は、口々に質問を飛ばす。パニックになりかけだった。 「単に本来の力が出せるように調整しただけだ。・・・仕方が無いな。もっと分か り易い方法を取るか。伝記の時代にも、1回やった事だがな。」  ジュダさんは、古代魔法の『照射』の魔法を手に宿す。そして、手を翳した。 「っと。見えているか?空を見るが良い。」  ジュダさんは、空を見ろと言った。すると、空には会見場の様子が映されていた。 これは伝記時代にも使った『照射』の魔法を最高に高めた結果だ。 「伝記時代にも一回やったがな。あの時は、『人道』を広めてやったっけな。」  ジュダさんは、懐かしそうにしていた。その時代から居るのよねー。 「ま、今のお前達が、信じられないのは無理も無い。そう教育させられたのだから な。セントにな。・・・あの地は、こうなる事を分かっていて、人類全体を退化さ せた。この星に来た時は、失望した物だ。・・・だが此処に居る人間達は、俺を再 び信じさせた。だから、俺もその当て馬に乗ろうと思っている。」  ジュダさんは、恵さん達を見る。信じられる仲間とは、私達の事だろう。 「俺も参戦する!そして、俺が勝った暁にも『人道』を宣言しよう。『共存』の精 神に乗った俺を、失望させてくれるなよ?・・・以上だ。」  ジュダさんは、『人道』を宣言した。 「さぁ、我は!と思う人は、ここでも受け付けますわ!何度も言うようだけど、今 回はタッグ戦です。只の力の差が出るような大会では有りませんわ。」  恵さんは、大々的に言う。成程。こうやって実力者をおびき寄せようと言うのも、 狙いの一つな訳ね。 「・・・ねぇ。でも、こんな事発表して、大丈夫なの?」  私は、近くに居た睦月さんに、尋ねてみた。企業としての天神家は、当主が魔族 だと発表して大丈夫なのだろうか? 「問題ありません。実は恵様が、いつ発表しても良いように、根回ししております。 それに、厳導様の事は、薄々感づかれてましたから。」  さすが睦月さんだ。根回しは完璧だった。  この発表で、色々な事が変わると思った。  何せ、全てを曝け出しての大会。それに臨む出場者。  最強の名誉を掛けて闘う者も居るだろう。  そして・・・セントとて黙っていないだろう・・・。  何かが変わる出来事の切っ掛けとして、今回の大会が行われるのだろう。  そして、それが、良い事なのかどうか?・・・それは誰にも分からなかった。  ソクトア暦2042年3月17日の出来事だった・・・。