NOVEL Darkness 6-1(First)

ソクトア黒の章6巻の1(前半)


・プロローグ
 かつて、美しい大地を誇っていたソクトア大陸。
 神々の祝福に恵まれ、人は神を敬っていた。そして、地の底から魔族が襲ってき
た時にも、神々の力のおかげで、守られた時もあった。
 だが、織り成す人々にとって忘れられないのは、1000年前の伝記である。事実を
物語った伝記は、未だに、人々の心を惹き付けて止まない。
 当時の運命神ミシェーダを中心に、神の世界をソクトアに降臨させようとした、
『法道』。魔族を中心に、力の理をソクトアに反映させようとした『覇道』。新た
な世界を作る事を前提に、ソクトアを消し去ろうとした『無道』。そして、共存と
言う名の下に、全ての種族と、共にありたいと願った人の歩むべき道『人道』。
 それぞれの思惑がぶつかって、最終的に勝利したのは『人道』だった。それは、
共存と言う夢を、最後まで諦めなかった、人間こそが、勝利したと言う劇的な話。
・・・それは事実であった。
 だが、1000年の時を経て、人間は、その精神を忘れ去ってしまったようだ。伝記
は、飽くまで作り話だと言う説が有力となり、このソクトアは、人間の所有物であ
るかのように、勘違いしてしまったようだ。確かに、もう人間以外は、暮らしてい
るとは言えない。しかし隠れつつも、住んでいるのだ。それは、いつか人間と和解
出来るかも知れないと言う期待からだ。・・・だが、大半は、人間の愚かさに失望
して、関わらないように生きていきたいと言う、思いの表れからだった。
 『人道』を思い描いて、勝利に導いた伝記の『勇士』ジーク=ユード=ルクトリ
アが、この現状を見たら、さぞ嘆き悲しむ事だろう。
 その最もたる所以が、セントメトロポリス(通称セント)の建造だろう。ソクト
ア大陸の中心にあり、かつて中央大陸と呼ばれた、広大な土地に出来上がった、近
代化学発祥の地。それが、セントだった。文明は頂点を極め、セントから、他の国
へと物が流れ込む。正に化学が、このソクトアを支配した表れであった。
 他のソクトア大陸の国、ルクトリア、プサグル、デルルツィア、サマハドール、
ストリウス、パーズ、クワドゥラート。その7つの国は、全てセントの言いなりで
あった。逆らえないのである。逆らったら、一生懸けても、出られないと言われて
いる、恐ろしい島『絶望の島』と言う監獄島へと送られる運命にあった。しかも、
セント反逆罪などと言う罪名が、流布している。何とも、悲しい事実だった。
 ソクトア大陸は、今や化学の元である『電力』が無ければ、まともに生活出来な
い。便利な物が増え過ぎたせいである。電話、自動車、電球、果ては、農作物を作
る農具でさえ、電力が必要なのである。しかし、電力は、自然に出来る訳では無い。
大規模な火力を利用した火力発電、豊かな水源を利用した水力発電、降り注ぐ太陽
を利用した太陽発電、そして、電力工場と呼ばれる所で、ひたすら働いて巨大な滑
車を回して発電する、人力発電の4つが主流だった。
 火力発電と水力発電、そして太陽発電については、管理者が十数人付いていれば
やっていける程だった。主に自然の力を利用していたからである。だが、人力発電
は別である。この工場で働く人々は、数千から数万に渡ると言われる。しかも単純
作業なので、賃金も高くは無い。要するに、発電のためだけに雇われた人々である。
しかも思った以上に成績を上げられなかった場合は、最悪『絶望の島』行きである。
人々は、ただ電力を生み出すために生きていく。そんな地獄のような状態の所が、
ソクトア大陸全土に、広がっていたのだ。
 人々は皮肉を込めて、『黒の時代』などと呼んでいる有様である。
 しかも驚くべき事に、電力の供給は、セントに向かって伸びていくのだ。そう言
うシステムを既に構築してしまったのだ。これでは、他の国は、その恩恵を受けら
れない。電力が無い国は無い。だが、セントに比べると、その差は歴然である。
 その屈辱に耐え兼ねて、クーデターを起こした人物が居た。その中心人物は、ジ
ークの末裔、リーク=ユード=ルクトリアである。だが、彼は失敗した。多くの人
々を連れて、セントまで迫ったが、セントの圧倒的な兵器の前に、敗れ去ったので
ある。この世で究極とさえ言われていた、全てを消し去る力『無』の力を使っても
勝てなかったのだ。正確に言うと、セントを覆うソーラードームと呼ばれるバリア
が、『無』の力までも防いでしまったのだ。そのせいで、大量の死者を出したリー
クは、見せしめとして首を刎ねられて、全ソクトアに、その顔を晒されたと言う。
 この事件以後、人々は、セントに逆らう気力を無くしてしまった。いや、例え小
規模な、いざこざであっても『絶望の島』に入れられてしまったので、不満の声す
ら封じられてしまったのである。恐怖政治の、始まりでもあった。
 そんな中で唯一つの国家だけ、その難を逃れた国があった。それは、島国の国家
であるガリウロルである。ソクトア大陸の6分の1程度しかないガリウロル島だが、
セントの支配を逃れているため、その自由度は、とてつもない物があった。更には
ここ数十年で、セントの良い所だけ取り入れようと、少しずつ貿易を開始したので、
化学の素晴らしい所だけを真似ている傾向にある。更に、この国が幸運だったのは
豊かな自然であった。この国は、日照時間が多く、豊かな水源、自然があるため、
人力発電など無くても、電力が賄える程であった。
 よって、セント以外で、一番栄えてる国は、他でも無いガリウロルだった。セン
トは、さすがに警戒を強めているが、まずは圧力で、貿易を開始させただけでも由
としたのか、それ以上の追求は無かった。数十年前までは、それすら断ってきた国
である。余程、独自の文化が強いのであろう。
 ガリウロル島のは『く』の字の形をしていて、その『く』の中心に位置する都市
サキョウ。そのサキョウにある豪邸がある。その主は、天神家である。天神家は、
近頃成功しだした名家で、企業としての天神グループは、かなりの影響力を持って
いる。その当主が、僅か14歳である天神(あまがみ) 恵(けい)だと言うのだ
から驚きである。さすがに学生の身分なので、大まかな所は、側近に任せているら
しい。使用人でもある藤堂(とうどう) 睦月(むつき)が、そのノウハウのほと
んどを受け継いでいるらしく、現在の天神 恵は、当主としての帝王学を学んでい
る最中だと言う。
 とうとうこの時代にも、魔族が顕現するようになった。ワイス遺跡に『神魔』ワ
イスが現れたのである。しかし今回のワイスは、友好的に事を進めていた。
 連日のようにテレビの取材に応じ、魔族のアピールをしてきた。そのような状況
になって、ついに祭典を開く事になった。
 その名も『闘式(とうしき)』。意地のぶつかり合いになるタッグ戦の始まりで
あった・・・。







 1、準備
 最初は驚きもした。突然の事でもあったからな。まさか、恵が自分の正体を明か
すなんて、思いもしなかった。と言うより、魔族とのハーフだったのか・・・。
 それには訳がある。この大会を通じて、人間だの魔族だのと言う括りは、終わり
にさせたいと言う想いがあるのだとか。俺も賛成だった。
 そこにジュダさんも神であると言う宣言をする。対等に事を進めようと言うのだ
ろう。この大会は物凄く注目されてるからな。企業としての天神家は、こんなんで
大丈夫なのか?と思ったら、この大会の開催者と言う事で、景気は、ビックリする
くらい上昇したそうだ。恵に対する期待の表れでもあるのだと言う。
 学園の方も、恵に協力するとかで、特に校長なんかは、出場選手は期末試験パス
にしてやるから、こっちに集中しろとか言っていた。良いのだろうか?
 ま、そんな訳で、俺達と言えば、タッグパートナー探しをする事になったのだが。
俺は、当然ファリアと出場する。お互いの事も分かっているし、信頼しあえる仲間
だし、何より、違うタッグになったら、気が散ってしょうがない。
 それをファリアに伝えたら、当然の如く、了承を貰った。
「当たり前じゃないの。私だってレイク以外、考えて無いわよ。」
 ファリアは、当然と言う態度だった。まぁ俺の心配は杞憂に終わった訳だが。
「兄貴が、タッグ組んでくれないなんてよぉ・・・。」
 まぁ当然、こうなる訳で・・・。で、エイディと組めば?と言ったら・・・。
「あのなぁ。俺は俺で、もうパートナー決めてるっての。」
 と、エイディから断られる始末。と言うより、何でもタッグ戦が決まってすぐに、
斉藤(さいとう) 葵(あおい)が声を掛けてきたらしく、葵とタッグを組んでし
まったのだとか。榊(さかき) 亜理栖(ありす)が、物凄く悔しがっていた。
「兄貴ぃ、組んでくれる人が居ないよぉ。」
 と、グリードから文句を言われる始末・・・。
「他を当たりなさいな。組んでくれる人は、居るでしょう?」
 ファリアは、俺を取られ兼ねないと思っているのか、そっけなかった。
「てめぇ。兄貴と組めたからって、調子に乗るなよぉ!!」
 グリードは遠吠えのように泣き言を言いながら、遠ざかっていく。
「さすがに、可哀想じゃないか?まぁ俺も、お前以外と組むつもり無いけどさぁ。」
 俺は、グリードの後姿が物悲しかったので、さすがに気になってしまう。
「あのねぇ。粘られても事が発展する訳じゃないのよ?」
 ファリアは、グリードの為を思うなら、突き放せと言っていた。
 とは言え、気にならない訳じゃない。グリードは、頼み込むのとか下手糞だから
な。誰とも組めずに居たんじゃ、可哀想だ。
 俺は、グリードの後を追う。天神家をうろうろしていた。
「・・・よしなさいよ。趣味が悪いわよ。」
 後ろから、ファリアに声を掛けられてビックリする。
「お、お前だって、急に声を掛けるなよ・・・。」
 俺は、文句を言う。まさか、後をつけられていたとは・・・。
 ま、俺も文句を言える立場じゃないか。グリードの後をつけてる訳だしな。
「おーい。お前、タッグ戦に出る気ない?」
 グリードの声がした。意外と普通に誘えてるじゃないか。・・・誰にだ?
「私に言っているのか?」
 ・・・ってゼリンじゃないか。意外な人選だ。
「おうよ。いやぁ、兄貴はファリアと組むってさ。つれねーよなぁ。」
 意外と軽いな。あんなに残念そうだったのに・・・。
「彼等なら、優勝を狙えるタッグだな。応援しよう!」
 ゼリンは、爽やかに応援してくれた。何だか照れるな・・・。
「あ、いや、そりゃ応援はするけど・・・。俺も出たいんだけどさ。」
 グリードは、爽やかに俺を応援してくれるゼリンに、呆気に取られていた。
「それで私にか?・・・私も実力をアップさせたいのはあるが・・・。あんな祭典
に出るのは・・・。私に資格があるだろうか?」
 ゼリンは、後ろ向きになっていた。無理も無いか。ゼリンは罪の意識が強いから
な。それにテレビで放映される試合だから、マークされるってのもある。
「何だよ。びびってるのか?セントを倒すつもりなら、今更って感じでもあるぞ?」
 グリードは、口を尖らす。アイツ、時々容赦無いよな。
「顔が知れるのは構わないのだが、私は罪人だからな・・・。」
 ゼリンは、ストイックに強さを上げる事だけをしている。罪の意識が強いな。
「それって、関係あるのか?」
 グリードは、疑問をぶつけてくる。
「どう言う事だ?」
 ゼリンは、腑に落ちない顔をしていた。
「だってさ。罪があるから、大会に出ちゃいけないなんて、誰が決めたんだよ?思
いっ切り楽しめば良いんじゃねーの?」
 グリードは、素直なんだろう。そう言う所は、アイツの良い所でもある。
「私は、赦される為に闘う身だぞ?楽しめと言われても・・・。」
 ゼリンは、顔を顰める。やはり、相当根が深いらしい。
「眼を覚ませよ。・・・お前、意識を取り戻してから、心から笑った事が無いんじ
ゃねーの?そんなんじゃ、ジュダさん達にも失礼だろ?」
 グリードは、案外鋭い所を突いてくる。結構良く見てやがるな。
「父さん達に失礼?どう言う事だ?」
 ゼリンは、ムッとする。怒らせたようだ。
「何だよ。気が付いてないのか?ジュダさん、お前を見る度に肩を落としてるぜ?
お前が笑えてないからじゃないの?」
 グリードは、ジュダさんとゼリンの微妙な距離を見抜いていた。良く見てるなぁ。
「そうだったのか・・・。私は父さん達にまで・・・。」
 ゼリンは、更に落ち込んだ顔をする。
「おい。何また落ち込んでるんだよ。それが、いけねぇっての。良いか?こう言う
時は笑い飛ばすんだよ。俺だって辛い時にこそ笑い飛ばすようにして、ここまで来
たんだ。ま、兄貴が居たから、ここまでなれたんだけどな。」
 グリードは、常に笑っていた。俺の記憶している限り、笑顔をいっぱい見せてい
た。それには、皆を楽しませたいって気持ちがあったのか・・・。
「そ、そうか・・・。じゃ、こ、こうか?」
 ゼリンは、ギコちなく笑った。・・・これは酷い・・・。
「ぷっ・・・。お前、何だよ!その変な笑顔!百面相じゃ無いんだぞ?」
 グリードはゲラゲラ笑う。あれは演技じゃないな・・・。
「ひ、酷い奴だな・・・。私に笑えと言っておいて、それか?」
 ゼリンは、頬を膨らませている。珍しく怒っている顔だ。
「お。その表情、初めて見るな。それで良いんだよ。能面みたいに頑張る頑張るじ
ゃ、気持ちが伝わらないだろ?」
 グリードは、ウンウンと頷いていた。全く、明るい奴だな。
「・・・き、君は、私のそんな表情を見て、楽しいのか?」
 ゼリンは、眼を細めながら、グリードを見る。
「楽しいに決まってるじゃんか。笑顔を見て、楽しく無い奴なんて居ないぜ?」
 グリードは、素直過ぎる事を言う。裏表が無い奴だ。
「そ、そうか。・・・教えてもらって感謝する。」
 ゼリンは、頬を染めていた。・・・あんな表情も出来るんだな。
「よし。じゃ、教えてもらった恩もある。大会に出ようじゃないか!」
 ゼリンは、照れ臭そうにしながら、グリードの願いを聞く。
「いよっしゃー!話が分かるねぇ!狙うなら優勝だぞ?」
 グリードは、この上なく良い笑顔を見せる。嬉しそうだなぁ・・・。
「君は、見てて飽きないな・・・。ま、宜しく頼むよ。」
 ゼリンは、握手を求めた。すると、自然にグリードも握手をする。
「・・・意外よねぇ。グリードが選んだってのもそうだけど、ゼリンって、あんな
表情も出来るのね・・・。グリードじゃなきゃ無理か・・・。」
 ファリアは、なんだかんだ言って、俺と一緒に一部始終を見ていた。
「おい。負けられないぞ?あのタッグには・・・。」
 俺は、気を引き締める事にした。正直、戦力的には、十分に強敵だ。何せ、俺達
を苦しめた『重力(じゅうりょく)』のルール持ちのゼリンに遠くから射撃が出来
るグリードのタッグだ。ちゃんと対処しないと、苦戦は必至だ。
「わーかってるわよ。案外良いタッグだから困ってるんじゃないの。対策打つわよ。」
 ファリアは、早速対策を打つ事にした。
 こうして、ゼリンとグリードのタッグが決まった。油断ならないタッグの誕生で
ある。俺達もウカウカしてられないな。


 ああー。もう悔しいったらありゃしない。私は、あの話が広まった時に、エイデ
ィ兄さんと一緒に駆け抜けてやる!って決めてたのに!葵の奴、上手くやったね。
でも、逸早くエイディ兄さんの所に行ったんだから、文句も言えない。
 そうなると、私は観戦?冗談じゃない。こんな面白そうな大会に出られないなん
て、一生悔いが残る。そんなの私らしくも無い。
 とは言え・・・誰と出ますかね?仲間内以外では、この大会のレベルに付いて行
く人材を見付けるだけでも億劫だ。となると、仲間内しかないのかなぁ?
 となると・・・あの馬鹿かな?でもねぇ・・・。
「おう!アネゴ!俺を呼び寄せてくれるなんて、嬉しいじゃないか!」
 そう。この馬鹿、伊能(いのう) 巌慈(がんじ)だ。まぁ、戦力的には中々良
い物を持っているし、相性も悪く無いんだけどさ。
「こうやって、個人的に呼び寄せるって事は、俺の想いに応えてくれるんだな!」
 ・・・これだ・・・。この男は、超絶に人の話を聞かない時がある。
「寝惚けるんじゃないよ。私の好きな人は、アンタ知ってるだろ?」
 私は、きつく言う。こう言わないと、何を言われるか、分かった物じゃない。
「アネゴ・・・。俺を萎縮させに来たのか?」
 すぐシュンとなる。全く手が焼ける男だよ・・・。
「張っ倒すよ。アンタ、電話の内容を覚えてないのかい?」
 私は電話で、タッグ戦の事を言ったつもりだ。生返事だった気がするが。
「そうだっけ?アネゴに呼ばれたんで、つい、浮かれてもうたわ。」
 ・・・コイツ・・・早く何とかしないと・・・。
「お馬鹿!この時期に呼び出すって言ったら、タッグ戦の事に決まってるだろ!」
 私は、頭を押さえながら、話を進める。全く、話を聞かない男だ。
「あー。タッグ戦の事か。・・・って俺で良いのか?」
 巌慈は、エイディ兄さんの事を気にしているんだろう。いざとなると、萎縮する
んだから・・・手が焼ける男だねぇ。
「エイディ兄さんは、葵と組んだ。以上、質問はあるかい?」
 私は、イライラしながら、巌慈に伝える。
「エイディさんも、罪な男よのぉ。でも、俺では、代わりも務まらんじゃろ?」
 巌慈は、こう見えて、豪快なんだが、気にする所は気にする。
「誰が代わりをしろと言った!アンタはアンタらしくすりゃ良いんだよ!」
 私は、巌慈をエイディ兄さんの代わりをさせるつもりで頼んでなど居ない。
「そりゃ、最初はエイディ兄さんと、と思ったけど。それ以外なら、アンタ以外考
えちゃいないよ。変な事を言うんじゃ無いよ。」
 私は、キッパリと伝えてやった。仕方無いから組んでやるんじゃない。巌慈だか
ら組んでも良いと思ったんだ。その気持ちに嘘は無い。
「いよっし。分かった。俺も男じゃ!なら、優勝を狙うつもりで行くぞ!」
 巌慈は、明るく笑うと、私とタッグを組む事に賛同する。
「ハッハッハ!俺が『鋼身(こうしん)』のルールで守ってやるから、安心じゃ!」
 巌慈は、力瘤を作ってアピールする。
「あのね。私は、ただ守られるだけのタッグなんて真っ平だよ。やるなら、とこと
んまで力を出すつもりさ。アンタ、遅れるんじゃないよ。」
 私は、そう言うと、握手を促す。すると巌慈は、満足そうに笑いながら、握手に
応えてきた。ま、コイツとなら、少しはマシな闘いになるね。


 面白い大会なんだけどなぁ・・・。俺は不参加かなぁ・・・。俺も参加したいの
は山々なんだけどね。タッグで参加となると、相手が居ないよ・・・。
 仲間内は、どんどん相手が決まっていく。良いよなぁ・・・。道場の奴等も、俺
が出た方が盛り上がるって言ってくれてるけどさぁ。親父は出たがってるけど、親
子でタッグってのも、違う気がするんだよね。まぁでも、親父もそれだけ前向きな
のは有かな。前の飲んだくれた時と比べれば、幾分かマシだ。
 でもさぁ。相手が魔族の親玉だった奴だぜ?腕試したって、限度って物があるだ
ろ。何でも『ルール』を使っても良いって事らしいが、それだけじゃねぇ・・・。
「勇樹(ゆうき)。顔が優れんな。何か悩みか?」
 親父が、心配そうに見つめてくる。最近こう言う事が多くなった。飲んだくれじ
ゃない親父は、優しかったんだって実感する。
「心配いらねーよ。大した悩みじゃないよ。」
 俺は、親父に心配を掛けたくなかった。
「なら、悩みはあるんだな?お前の事だから、今度の『闘式』の事だろ?」
 一発でバレた・・・。ってより俺、分かり易すぎ?
「ま、隠せないか・・・。やっぱ出たいよなー。」
 俺は正直に言う事にする。観戦するのも悪くない。だけど、こんなお祭りみたい
な大会は、やっぱ出場するに限る。
「俺と出場するって線は無いのか?別に親子でも、問題あるまい?」
 親父は、俺の事を思って言ってるんだろうけど、なーんだか違う。
「こう言うのって、親子じゃなくて、仲間と行くもんだろ?」
 俺は、親父と組みたくない訳じゃない。だけど、親子で出場は、何となく違う気
がするだけだ。ま、贅沢な悩みなのかも知れないな。
「ま、お前がそう言うなら、仕方ないか。いつでも声を掛けて良いんだからな?」
 親父は、そう言うと、打ち込みに行く。前と違って厳格な親父じゃないが、他人
行儀って訳でも無い。今じゃ良い親父だった。
 道場仲間と行くってのも考えたが、悪いが、そんなレベルの大会じゃない。
「どうしたもんかねー。」
 俺は、打ち込みをしながら考える。
「勇樹さん!『闘式』に出るなら俺と出ましょうよ!」
 道場仲間の一人が、声を掛けてくる。いつも真面目にやってる奴だな。
「ハハッ。気持ちは嬉しいけどさ。今度の大会、俺でも危ないくらいのレベルの大
会なんだぜ?それでも出たいか?」
 俺は、無碍に断るのも何なんで、一応忠告しておく。
「ゆ、勇樹さんとなら、何処までも行きたいです!」
 あちゃー。逆効果だったかな?却って行く気になっちゃったよ。
「ありがとよ。でも、駄目だ。お前が大怪我したらと思うと、俺は、集中出来ない
よ。分かってくれ。それほど凄い大会なんだよ。・・・あの恵だって、優勝出来な
いかも知れないと思う程なんだぜ?」
 俺は、酷な様だが、ちゃんと言ってやる。仲間内も恵の事は知っている。
「す、済みません!そんな事まで考えずに、言ってしまって!」
 道場仲間は、却って俺が気を使ったと思っているみたいだ。
「バーカ。謝るなよ。申し出自体は嬉しかったぜ?」
 俺は、素直に気持ちを伝える。すると、何か熱っぽい視線を感じた。最近、何だ
って、こんな視線を感じる事が多くなったな・・・。
「ぬ、抜け駆けは良くないぞ!俺だって勇樹さんと!」
 あちゃー。始まった・・・。いつも、このパターンだよ。
「勇樹さん!俺と出ましょう!」
 コイツ等は・・・。さっきの話を聞いて無かったのかよ・・・。
「無理な物は・・・。」
「無理だと、勇樹は言っておろう?そんなに出たければ、俺と出るか?」
 親父が、俺の言葉の続きを言ってくれた。そして、親父に睨まれた道場生達は、
蛇に睨まれた蛙の様に大人しくなった。・・・こんなんで、あの大会で通じる訳ね
ーだろ・・・。どんなもんかねぇ・・・。
 すると、入り口の方から声がした。お。珍しく道場破りでも来たかな?最近は、
道場破りも多く見かけるようになったからな。
「誰だ?今日は、誰の訪問予定も無かった筈だが?」
 親父が、スケジュール表をチェックする。となると、道場破りかな?
「はいはいー。俺が出るよ。」
 俺は、入り口の方へと走っていく。そして、扉を開けた。
「よう!久し振りだな。」
 ・・・え?こ、この人は!
「そ、創始者様!来てたんですか!?」
 俺は、つい大きな声を出す。間違いない。この顔は創始者様だ!人間に変装して
いるけど、間違いない。
「おいおい。その創始者様ての止めない?俺は、ミカルドって名前があるんだぜ?」
 創始者・・・いやミカルド様は、口を尖らす。
「そうでした!お久し振りです!ミカルド様!」
 俺は、つい、声が上ずる。ミカルド様がいらっしゃるなんて、思いもしなかった。
「元気してたか?いやー、此処探すの苦労したぜぇ?つい交番に寄って、道を聞い
ちまったぜ。でも、有名なんだなー。有難い限りだぜ。」
 ミカルド様は、とても嬉しそうにしていた。創始者としては、有名なのは、嬉し
いのかも知れないな。俺達の努力が実って良かった。
「えっと、お主は、誰ですかな?」
 親父が、訝しげな目で、ミカルド様を見る。
「お、親父!前話しただろ!ミカルド様だよ!」
 俺は、慌てて取り繕う。すると親父は、まだ合点が行って無い様子だった。
「ミカルド様・・・って、本当なのか?」
 親父は、疑いの眼差しだった。まぁ、分からなくも無い話だけど・・・。
「馬鹿!この人は本物だって!!」
 俺は、実際に打ち込んだから分かる。この人は本物だった。
「あー。そうかそうか。わりぃな。最近ワイスと健蔵がメディアに出まくってるか
らさ。俺達の存在も、信じられてる物だとばっかり思ってたぜ。」
 ミカルド様は、大して気にして無い様子だった。そう言えば魔族が、テレビに出
まくっている。って事は、ミカルド様も、信じられてると思って当然か。
「しかし、お前、外本(ほかもと) 一徹(いってつ)にそっくりだな。」
 ミカルド様は、親父を見て、感慨深そうにしていた。
「我が祖先の名前・・・。まさか、本物の?しかし・・・。未だに生きておられる
とは、少し考え難いのだが・・・。」
 親父は、まだ疑って掛かっている。そりゃ、伝記の時代から生きていると言われ
れば、誰だって疑いたくなる。だけど、本物だってのに。
「ま、信じられないのも無理ないか。なら、証拠を見せてやるよ。」
 ミカルド様は、コートを脱ぐと、その下には、胴着を着ていて、青白い肌だが、
筋肉が隆々としていた。鍛えに鍛え抜かれている体だった。
「まずは『瘴気』を見せれば良いか?・・・ちなみに俺は『闘気』も得意だけどな。」
 ミカルド様は、魔族でありながら、人間に近い体になって、『闘気』を発するの
も得意になっていたと、伝記に書いてあった。
「では、『瘴気』の方が、分かり易いと思います。」
 俺は、『瘴気』を出すように願い出る。
「了解だ。んじゃ、見てろよー?・・・フン!」
 ミカルド様は、腹に力を入れると、『瘴気』が噴き出てくる。
「な、何と!?この力!!秘伝の書にあった『瘴気』!」
 親父は、秘伝の書に『瘴気』が載っていたのを思い出す。創始者であるミカルド
様は、魔族なので、『瘴気』を出し易かったが、どうしても人間に伝え難かったの
で、『闘気』で代用したと言う記述が残っているのだ。
「す、すげぇ。今の何だ!?」
「わっかんねーよ!とにかく、凄かったけどさ!」
 道場生達も、騒ぎ始める。ミカルド様だからなぁ。
「これは、間違いないな・・・。失礼致しました。ミカルド様。」
 親父は、ミカルド様に間違い無いと思ったのか、礼をし始める。
「ま、そんな改まるなって。それより、伝えてくれて有難うな!俺はそっちの方が
嬉しいぜ。1000年も伝わるなんて、思っても見なかったからさ。」
 ミカルド様は、気さくに話し掛けてきた。話し易い人だ。
「そして、お前達が、次期羅刹拳の継承者候補達か?頑張れよ!」
 ミカルド様は、道場生達にも、声を掛けていた。
「あれ?怖がられてる?俺?」
 ミカルド様は、腕を組んで、唸る。
「おい。皆!この方は、1000年前の伝記にも居た、この羅刹拳の創始者のミカルド
様だ。怖がる必要なんて無いぞ!」
 俺は、説明してやる。すると、道場生達は、騒ぎ始めた。
「え?だって伝記って1000年前でしょ!?」
「でも、勇樹さんが本物だって言ってるぜ?」
 まぁ、動揺が広がるのも、無理ないか・・・。
「ゼロマインドの野郎・・・。根が深いなぁ。魔族が居ないって、よっぽど信じ込
まされてきたんだな・・・。俺も『妖精の森』の番人ばっかやってたからな。」
 ミカルド様は、伝記の戦いの後、『妖精の森』の番人をする道を選んだ。現在の
妖精王リーアの夫になる道を選んだってのが、顛末だった筈だ。
「お前等、テレビで連日のように魔族が居るの見てるだろ?」
 俺は、最近のテレビが、魔族一色である事を知っている。しかも今回の大会で、
余計に関心が高まっているのだ。
「じゃ、マジなの!?す、すげぇ!」
「本物なんですね!ここの創始者って、凄くね!?」
 道場生達は、今度は歓声に変わる。
「やっと、信じてくれたか?結構大変な物だな。」
 ミカルド様は、ほっと胸を撫で下ろす。
「俺みたいに、いつも瞬達とやってる奴なら、信じられるんですけどね。そうじゃ
ない奴は、そう簡単には、いかないですよ。」
 そうだ。俺だって瞬達と一緒に修練をしてる状態が無ければ、簡単に信じたりし
ない。そう言う意味では、一緒にやっててラッキーだったな。
「で、ミカルド様、今日は見学に来たんですか?」
 俺は、用件を尋ねてみる。態々こっちまで来るって事は、何か用事があるのか?
「おお。それだよそれ。『闘式』に出ようと思ってるんだよ。俺。」
 ミカルド様なら、当たり前か。何せ羅刹拳の創始者だしなぁ。
「で、天神家に行って、まだ出場決めて無い奴のリストを見たら、お前がまだだっ
たからさ。どうだよ?出てみないか?俺と。」
 あー。ミカルド様まだなんだ。・・・って、俺と!?
「え、ええ!?お、俺とですか!?」
 まさかお誘いがあるとは思わなかった。
「いやー。前に俺に突きを放ったじゃねーか。あの時の真っ直ぐな突きが忘れられ
なくてな?この機会に、『闘式』に出るのも良いんじゃね?って思ってな?」
 ミカルド様に、前に放った突きは、あの時の俺の全力を出した。
「お、俺なんかで、ミカルド様のタッグ務まるんですか!?」
 俺は、そこまで実力を付けたと思っていない。
「なーに言ってんだ。だから、こうやって来てるんだろ?お前の予定、忙しそうだ
からさ。この道場と天神家の時間を使って、強くさせようと思ってるんだよ。」
 ミカルド様・・・まさか、そこまでして俺を!
「す、凄いじゃないか!勇樹さん!出るべきですよ!」
「そうだよ!1000年前の人と出るなんて、勇樹さんスケールでかいよ!」
 道場生達は、次々に祝福を述べる。
「お、親父。俺、出ても良いのかな?」
 俺は、親父の方を向く。親父は腕組をしながら、俺に近付く。
「羅刹拳代表だ。出るからには、優勝する覚悟で行くんだぞ?」
 親父は、俺の肩を叩いてくれた。
「よーし。決まりだな!じゃ、宜しく頼むぜ?相棒!」
 ミカルド様は、軽い言葉で俺に握手を求める。
「こちらこそ、宜しくお願いします!!」
 俺は、ミカルド様と固い握手をする。まさか、こんなサプライズがあるなんて、
思いも寄らなかったよ・・・。
 こうして、俺の『闘式』への出場が、正式に決まった。やってやる!!


 皆、すげーよなぁ・・・。あんなおっかねぇ大会に、出たがって、しかもタッグ
パートナーを見つけて、出場するなんてさ。昨日一昨日で、大分出場者が決まって
きたって話だ。俺達の仲間は、ほぼ皆、出場する。
 まずは、優勝候補筆頭とも言われている、天神 恵さんと島山(しまやま) 俊
男(としお)だ。俺の親友の一人で、俊男は、俺達の日常を救ったってのもある。
ジュダさんに器として認められるくらいだから、すっげーよな。しかも、このタッ
グは、相性もバッチリだ。俊男が『跳壁(ちょうへき)』で足場を提供して、恵さ
んが攻め込むも由。恵さんが『制御(せいぎょ)』で力を封じている間に俊男が、
一気に間合いを詰めて攻め込むも由と、バランスが物凄く取れている。
 次に天神 瞬と、一条(いちじょう) 江里香(えりか)先輩だ。どっちも背中
を任せられると、豪語している。そして、瞬の『破拳(はけん)』は、物凄く威力
が高く、半端じゃ無いが、消耗が激しい。それを江里香先輩の『治癒(ちゆ)』の
ルールで治しながら闘うと言った、変則的な事も出来る。他のタッグから見ても、
脅威だろうな。
 そして、レイクさんとファリアさんのタッグだ。レイクさんが前に出て、不動真
剣術で翻弄して、ファリアさんが魔法で援護と言う、オーソドックスながら強烈な
戦法が使えるのが、強みだ。しかも、この二人の剣術と魔法は、半端じゃなく強烈
だ。それぞれ極みが掛かっている。それに加えて、『万剣(ばんけん)』のルール
で、あらゆる状況を打破して、『召喚(しょうかん)』のルールで臨機応変に対応
すると言った事も可能で、バランスが凄く良い。ファリアさんは、『召喚』した伝
説の武器などから、持ち主の記憶を頼りに達人の技を使うと言った、変則的な事も
可能だ。実際にそれを使って、レイクさんと打ち合っているのも見た事がある。
 エイディさんは、葵と組んだ。最初はビックリしたが、葵ってば大胆だよなぁ。
俺達と居た頃も、あんな積極的だったかな?まぁこのタッグは、他のタッグと比べ
ると、少し弱いかもな。葵自体が『ルール』を使えないし、戦力的にはエイディさ
んが中心だろう。でも葵は、色々秘策を用意しているとの話だ。何やるつもりだ?
エイディさんの『紅蓮(ぐれん)』のルールでも活かすつもりか?
 グリードさんは、意外な事に、ゼリンさんと組んだ。何でも、グリードさんの説
得に応じたらしい。でも、このタッグは、他のタッグには厄介な組み合わせだ。そ
れぞれの『ルール』が、脅威だからだ。ゼリンさんの『重力』のルールと、グリー
ドさんの『千里(せんり)』のルールは、特徴がハッキリしている。『重力』のル
ールで動きを鈍らせて、『千里』のルールで遠くから射撃をすると言うのは、脅威
だろう。かなり考えた上で行動しなければならない。
 伊能先輩は、亜理栖先輩と組んだ。葵がエイディさんと組んだから、亜理栖先輩
が伊能先輩に変えたんだろうな。でも、このタッグも結構侮れない。伊能先輩は、
『鋼身』のルールで盾になって、隙間から『帯雷(たいらい)』のルールを要する
亜理栖先輩が、攻め込む事も可能だ。
 勇樹は、最初は不参加かなぁ・・・とか、ぼやいていたのに、ミカルドさんが来
たらしく、急遽参戦する事になった。どっちも羅刹拳のとんでもない使い手だ。し
かも、『闘式』が開催されるまでの間に鍛え上げるとかで、泊り込みで強くさせよ
うとしているらしい。勇樹は『線糸(せんし)』のルールが使えるので、相手を封
じて、ミカルドさんが止めって事も出来るかも知れない。
 黒小路(くろのこうじ) 士(つかさ)さんは、真っ先にセンリンさんと組んだ。
理由は、言うまでも無いだろう?と言われた。いやはや、もう夫婦ですね。この人
達。戦力的には、士さんがメインだけど、センリンさんだって相当強いのを、俺は
知っている。とにかく勤勉なので、士さんに追いつきたいと言う執念で、どんどん
強くなっている。士さんの『索敵(さくてき)』のルールで敵を捕捉して、センリ
ンさんの『念力(ねんりき)』のルールで、色んな状況に対応する。かなり対応力
の高いタッグだ。これは、優勝を狙えるかも知れない。
 ゼハーンさんは、タッグを組まなかった。自らの意志で、審判を申し出たらしい。
何でも、緊急に治療する場合の控えとしての枠として、活躍する予定らしい。と言
うより、ゼハーンさんの『魂流(こんりゅう)』のルールは魂を吸い取る『ルール』
だ。これを使われたら、洒落にならないし、正解かも知れない。と言うより、規則
の一つに殺してはならないとあるだけに、ゼハーンさん向きじゃないのだとか。後
は、ゼハーンさん自体、『魂流』を救う為に使いたいと言っていた。最近では、定
期的に魂を貰っている。俺達からだ。それは、強制されてるのではなく、いつ蘇生
する事態になっても良いように、恵さんからの提案で、魂の力を日常からも、分け
与えているのだ。恐らく俊男の件が、そんな判断に繋がったのだろう。
 ジャンさんは、アスカさんと組んだ。まぁこれも当然の事で、今更聞くまでも無
いと言うのが、皆の判断だった。正直、優勝を狙うには難しいが、凄く良い所まで
行くだろう。アスカさんが『舞踊(ぶよう)』のルールで相手を翻弄しつつ、ジャ
ンさんが『爆破(ばくは)』のルールで各個撃破して行くと言った戦法が可能だ。
 藤堂(とうどう) 睦月(むつき)さんは、『闘式』の裏方に徹する事になった。
何でも、大会運営委員会として、恵さんがバックアップするように命じたのだとか。
天神家のバックアップとなれば、かなりの質が期待出来る。妹の葉月(はづき)さ
んは、そのお手伝いをする予定らしいが、まだ決まっていない。
 後は、紅(くれない) 修羅(しゅら)先輩が、柔道選手権で争ったヒート先輩
と組んだらしい。この二人の柔道は、かなりの域に達していて、相手にとっては嫌
な事この上ない動きをするだろう。修羅先輩は、『重心(じゅうしん)』のルール
を使えるので、尚更だ。
 赤毘車(あかびしゃ)さんは、多分ジュダさんと組むんじゃないかな?この二人
が参戦したっての聞かないけど、夫婦だしなぁ。
 俺はと言えば、葵じゃ有るまいし、中々飛びついて参加って訳にも行かないなぁ。
だってさ・・・出る面子がおかしいじゃん・・・。俺が入っていけるような闘いで
も無い気がする。そりゃ俺だって、莉奈(りな)の前とかじゃさ。この闘いに参加
して、良い所まで進んでやるぜー!とか言いたいけど、ちょっとなぁ・・・。
 爽天学園では、物凄い騒ぎになっている。恵さんの正体から、今回の参加者リス
トと言い、詳しい情報が飛び交って、トトカルチョまで作られる騒ぎだ。
 大体校長が、乗り気でフォローしているんだからな。ちなみに恵さんは、学内で
異質な存在として、仲間外れにされると思ったが、元から目立ってた上に、今は、
魔族の印象が、悪くないのも功を奏して、普段と変わらない感じで受け入れられて
いた。むしろ、魔族になった姿を見たいと、歓声が上がる始末だ。何て言うか、そ
う言う所は、うちの学園っぽい感じがする。
 今日も、天神家で修練を兼ねて、『闘式』の参加者をチェックする予定だ。
「魁(かい)君。元気ないよ?」
 莉奈が、俺の顔を覗き込んでくる。相変わらず可愛い仕草だ。
「いやいや、俺っちは元気だぜぇ?」
 莉奈に心配は掛けさせたくない。余り、考え事をするのは止めるか。
「本当は出たいんでしょ?『闘式』だっけ?」
 莉奈は、俺の考えを読んで来る。あれだけの大会だからね。俺だって参加したら
格好良いかなー?とか思ってるよ?でもなー・・・。
「いや、そりゃ出たら目立つなーとは思うけど・・・。参加者凄いじゃん?」
 俺は、あの中に付いて行ける自信は余り無い。
「確かに凄いけどね。私、魁君なら、それなりに工夫して、良い所まで行けると思
うんだけど?葵ちゃんも、そうやって勝ち上がるつもりらしいし。」
 そうだなぁ・・・。葵も良く参加決めたよな・・・。俺も出来るんだろうか?
「それに、タッグ次第なんじゃないの?私はちょっと無理だけどね。」
 莉奈は、申し訳無さそうにしていた。
「当たり前だろ?莉奈を危険な目になんか合わせたくねーよ。」
 俺は、莉奈の頭を撫でてやる。すると嬉しそうに、はにかんでいた。可愛い奴だ。
「おーう!居た居た!」
 突然、上から声がした。何だ?・・・っといきなり降りてきた!!
「いよっ!今日も天神家に行くのか?」
 ジュダさんだった。ビックリさせる・・・。
「い、いきなり上からとか、勘弁して下さいよ!ビックリしましたよ!」
 俺は、一応抗議する。さすがに、寿命が縮むかと思った・・・。
「ハハッ!悪いな!でも、対戦する時、上からなんてのは、よくある事だぜ?気を
つけていたら、そんな抗議も出ない筈だが?」
 ジュダさんは、随分厳しい事を言う。普通は上からなんて、気を付けないと思う
んですが・・・って、対戦する時?
「対戦する時って何の事です?俺、大会に出場決まりましたっけ?」
 俺は、その一言が気になったので、聞いてみる。
「んー。決まったってより、これから決まると言うか・・・。」
 ジュダさんは、何を言いたいのだろうか?
「ああ。面倒くせぇ。お前、まだ決まって無いんだろ?俺と組もうぜ!」
 ああ。ジュダさんと組むって事か。・・・ってえええ!!!?
「お、俺とですか!?な、ななな何で!?」
 ジュダさんは、赤毘車さんと出るんじゃないのか?
「んー?アイツと話し合ったんだけどな。お互い、神と組むのは止めようって決め
たんだ。その方が、修行になるしな。」
 そ、そうだったのか・・・。って事は、ネイガさんや、毘沙丸(びしゃまる)さ
んとも無いって事か。思い切った事をするなぁ。
「で、でも、何で俺!?俺、何の力も無いですよ!?」
 そうだ。ジュダさんなら、もっと相応しい相手が居る筈だ。
「まさか、俺は、戦力としてじゃなく数合わせ?」
 それなら納得出来る。ジュダさんは、とんでもなく強い。所謂ハンデとして、俺
を選んだって事かな?それも情け無い気がする。
「お前、自分を数合わせとか、悲しい事を言うんじゃねーよ。」
 ジュダさんは、俺の頭を優しく叩く。
「俺はな?こう見えても、お前の事、買ってるんだぜ?お前さん、確かに今は、力
は無い。魔力も足りない。『ルール』も戦闘向きじゃないと来た。」
 ・・・よ、容赦無いっす。ジュダさんたら・・・。
「でも、お前は、仲間の為なら、命を張れるだろ?そんな奴、中々居ないんだぜ?
その姿勢を、俺は買っているんだ。それに強さなら、大会までの間に、どんどん強
くなれるさ。お前は、才能が無い訳じゃない。単に今までやって無かっただけだ。」
 え?本当に・・・?俺が役立てるって言うのか?人生を闘いに費やしてきた奴に
勝てるって言うのか?アイツ等が濃いのは、俺も良く知っている。
「俺は、本当に出来るんですか?あんな凄い奴等に、勝てたりするんですか?」
 手合わせしてても、一度たりとも勝った事が無い奴等だ。
「ま、難しいだろうな。普通にやったんじゃ、まず勝てない。」
 うぐ・・・。まぁそうだよね。ジュダさんも本当の事を言ってくれる。
「落ち込むなよ。俺は、普通にやったんじゃ・・・と言っただろ?」
 ジュダさんは、俺の肩を叩く。普通にやったんじゃ?ってもしかして・・・。
「な、何をするつもりなんでしょうか?」
 俺は、とてつもなく嫌な予感がした。寒気までしてきた。
「良い顔になったじゃねーか。俺と組むとなれば、特訓あるのみだ。」
 や、やっぱりぃ!普通じゃない方法で強くするんですねー!!
「いや、いやいやいや、怖いですって。『闘式』前に死んじゃいますって。」
 俺は、命の危険を感じていた。物凄く嫌な予感しかしない。
「男子、三日会わずば、刮目せよ。と言う言葉がある。お前も、やる気を出して、
特訓すれば、1ヶ月もありゃ、絶対強くなるって。」
 ジュダさんは、有名な諺を絡めて、俺を誘う。
「その特訓が、嫌な予感がするんですけど!」
 アイツ等と、まともに闘える位まで強くするって、どれ程だよ・・・。
「魁君・・・。やってみたら?」
 莉奈?お、お前は、俺の味方だと思っていたのに・・・。
「そ、そんな眼をしないでよ・・・。いや、魁君出たがってたからさ。」
 そりゃぁ・・・俺だって参加したら、莉奈に格好良い所見せられ・・・。
 俺は、少し考えて、莉奈の肩を掴む。
「な、何?魁君?」
 莉奈は、怯みながら、俺の眼を見る。
「莉奈は、俺が出たら・・・勝ったら、喜んでくれるか?」
 俺は、莉奈の眼を見ながら、真面目に問い掛ける。
「そ、そりゃぁ、魁君が出たら、格好良いと思うよ。私の彼氏が・・・出るんだか
ら、応援だって、いっぱいしちゃうんだから!」
 莉奈は、素直な気持ちを言ったのだろう。
「・・・し、仕方ないなぁ・・・。じゃぁ、出る!出ますよ!」
 俺は観念する。どうせ、する事も無いんだ。やってやらぁ!
「莉奈の前では、男の子か・・・。その意気や由!大丈夫!俺が、強くするぞ!」
 ジュダさんは、とても嬉しそうな表情で、俺の肩を叩く。
「あのー・・・。お手柔らかに・・・。」
「魁。ソクトアの人間の体ってのはな。他の星の人間より、丈夫なんだ。」
 俺の言葉を遮るようにジュダさんは、言葉を被せてくる。いや、不安なんですけ
ど!丈夫って、何をするつもりなんですか!?
「喜べ喜べー。俺が直々に猛特訓してやるんだ!強くならない訳が無いぞー?」
 ジュダさん、喜んでいるなー・・・。って・・・。
「猛特訓に言葉が変わってるんですけど?」
 嫌な響きだ・・・。何をされるんだ?俺・・・。
「いやいや、雰囲気で言っただけだ。気にするな。それより、俺と出るんだ。これ
に、指紋で良いから、印を押せ。色々書類があるんだよ。」
 ジュダさんは、4枚程、書類を出す。俺は、ジュダさんが用意してくれた朱肉を
使って、指紋を押し当てて、手早く全部印を押す。
「よしよし。上出来。んじゃ莉奈。悪いんだが、これを恵に渡してくれるか?」
 ジュダさんは、莉奈に書類を渡す。って、何故かジュダさんは俺の手を引く。
「あのー・・・。この手は一体?」
「いや、これから特訓に決まってるだろ?今、印を押したろ?」
 ・・・え?今、印を押した?ってまさか!!
「出場申込書と、大会規約誓約書と、爽天学園の特別欠席届と、特訓申込書。」
 ジュダさんは、当たり前のように、指折りして教える。
「いや、最後の何です!?そんな申込書は、聞いた事が無いんですけど!?」
 特訓申込書って何だ!そんな怪しげな物に俺は、印を押したってのか!!
「いやー、快く印を押してくれて、助かるぜー。頑張ろうな?」
 ジュダさんは、有無言わせずに俺の手を引っ張る。
「魁君!頑張ってね!!」
 莉奈・・・ああ!もう!やけだ!
「ええい!もうやったらーー!!!」
 俺は、こうして『闘式』への出場を決めた。こうなったら、何でも来いだ!どう
せ、俺には失う物なんかありゃしない!やってやるさ!!


 大会の出場者が決まっていく。リストを見ると、犯罪者なども、参加しているよ
うだ。その辺は自由に参加して良いと有るので、特に構わないのだが、志は低いと
思わざるを得ない。どうせ、犯罪歴を無しにしたいのと、体の良い部下が欲しいと
言う浅はかな考えから来てるんだろう。そんなレベルの大会じゃないのに。
 私は、真っ先にバックアップの道を選んだ。恵様が、あんなに堂々として居られ
る姿を見て、その手伝いがしたいと思ったからだ。
 ショアンが出たがっていたが、まだ決まってないのだけ、少し不安だ。ショアン
は、あの方にそっくりだが、押しが弱いから、決まるかどうか・・・。
 とりあえず、今日に提出された参加者のチェックを・・・。まずは・・・。あれ?
ショアン!早速決まっていた。ああ。良かった・・・。あんなに楽しみにしていた
のに、出られず仕舞いじゃ、後悔しますからね。で、お相手は・・・。ネイガ=ゼ
ムハード?・・・って鳳凰神では!?前に此処に来た事がありましたね・・・。こ
れは、意外と言うか、凄い方と組む事になったんですね・・・。
 後は、ああ。これは予想通り。神城(かみしろ) 扇(おうぎ)と、風見(かざ
み) 隆景(たかかげ)のタッグね。主従だったかしら?あの二人。『闘式』みた
いな大会があったら、出ない筈が無いと思ったけどね。
 チェックしていると、訪問客があった。
「桐原 莉奈様です。」
 私の部下が報せてくれる。私は、此処に通すように指示する。どうやら、いつも
の通り、これから道場で特訓かしら?莉奈様も、魔力が大分上がってきている。魁
様も、日に日に強くなっているし、私も怠っていられない。
「睦月さん、お邪魔しますー!」
 莉奈様は、元気な挨拶をする。明るくなって何よりだ。
「莉奈様、ようこそいらっしゃいました。」
 私は、使用人らしく挨拶する。と言っても、もう慣れているが・・・。
「おや?今日は魁様と一緒では無いのですか?」
 不思議に思った。いつも莉奈様は魁様と一緒に来る筈だ。
「あ、まずその事なんですけど・・・これ。」
 莉奈様は、私に書類を手渡す。大会申込書・・・ああ。魁様も出られるんだ。恵
様とか俊男様まで居るのに、よく出る気になりましたね。・・・!!
「ジュ、ジュダ様と!?失礼ですが、これは、本物でしょうか?」
 私は、つい失礼な事を言ってしまう。眼を疑った。
「あ、はい。本物です。ついさっき、魁君は、特訓に連れて行かれました。」
 莉奈様は、困ったような笑顔をする。それは戸惑うだろう・・・。
「これは意外でしたね・・・。でも、了解しました。受理致します。」
 私は、大会運営の受理要請の所に書類を置く。
「規約も由。ああ。これは爽天学園にですね。・・・特訓申込書?」
 私は、訝しげな眼で書類に眼を通す。大会規約誓約書と、爽天学園の特別欠席届
は、分かったが、特訓申込書だけは、意味が分からなかった。
「ああ。これに印を押しちゃったんで、魁君、連れて行かれました。」
 莉奈様は、心配そうな顔をしていた。ええと、この1ヶ月間、どのような特訓も
私は耐え忍んで、見事に従事して見せます・・・。こんな申込書、眼を通せば、印
を押す訳が無い。魁様は、よく見ずに押したんでしょうね。
「後の処理は、私がやりますか。・・・でも莉奈様は、宜しかったのですか?」
 私は莉奈様が、魁様と離れ離れになって大丈夫か聞いてみる。
「少し寂しいけど、嬉しいんです。どんな形であれ、魁君が、私の為に、この大会
に出たいって言って、本気になってくれてるのが・・・。」
 莉奈様の顔は、本当に濁りの無い、良い笑顔だった。眩しい笑顔だ。
「莉奈様は、本当に良い笑顔を為さるようになった。私も嬉しいです。」
 私は、つい莉奈様の頭を撫でてあげる。莉奈様は嬉しそうにしていた。
「・・・あれ?あ。ショアンさんも出るんですね!睦月さん、おめでとう御座いま
す!ショアンさん出たがってましたもんね!」
 莉奈様は、参加者のリストにショアンの名前を見つけたのだろう。
「ショアンは、力が出せたら、それで本望なんだと思います。」
 私は、ショアンが思い切り闘えれば、それで良いと思っている。
「睦月さんも、幸せそうで、私嬉しいです!」
 莉奈様は、本当に祝福してくれる笑顔を私に向ける。眩しいなぁ・・・。
「ありがとう。莉奈様。私は、幸せ者ですよ。」
 私は、素直に礼を言う。莉奈様は裏表が無い笑顔を向けてくれる。
「タッグは・・・ええ!?この方、あのネイガさんですか!?」
 莉奈様も知っている。ネイガ様は、鳳凰神だ。
「優勝狙うつもりなのかも知れませんね。応援するのみですよ。」
 私は、ショアンの本気度を、タッグの中に見た。鳳凰神ネイガ様は、実力では、
ジュダ様を凌ぐかも知れな御方だ。
「次々決まっていきますねー。」
 莉奈様も、魁様が出るとだけあって、興味津々だ。
 すると、ノックがあった。このノックは葉月だ。
「どうしましたか?葉月。」
 私は、扉の向こうに居る葉月に対応する。
「訪問客です。赤毘車様が、いらっしゃいましたー。」
 葉月は、用件を言ってくる。赤毘車様か。そう言えば、まだタッグが決まってい
ないみたいですね。出場するとは思うのですが・・・。
「お通ししなさい。出場申込かも知れませんしね。」
 私は、大会運営委員会として、出場申込は、見逃せない立場だ。
 しばらくすると、葉月と赤毘車様がやってきた。
「大会運営、ご苦労様だな。」
 赤毘車様は、私の仕事を見に来た。
「恵様が望んだ事です。全力でお手伝いするつもりです。」
 私は、当然の受け答えをする。恵様は、この闘いで、何かを掴むおつもりだ。
「赤毘車さんも、出場するんですよね!」
 莉奈様が、笑顔で尋ねる。すると、赤毘車様の顔が曇った。
「実は、組む相手が居なくてな・・・。少々困っている。」
 赤毘車様が、組む相手がいらっしゃらないとは・・・。
「お?ジュダとネイガは・・・これまた意外な・・・。」
 赤毘車様は、出場者リストを見て、ビックリしていた。
「ジュダは魁か。アイツらしい。俊男と魁は、他人の為に命を張れるから、自分と
波長が合うって、何度も言ってたっけな。」
 赤毘車様は、その辺を聞いておられるのだろう。
「魁君、ジュダさんとなんですねー。すごーい。」
 葉月は、眼を丸くして、出場者リストを見ていた。
「ネイガはショアンか。これも意外だが、面白いな。ネイガも考えているようだ。
ショアンの『追跡』の能力と、自分のスピードをフルに活かすつもりだろう。」
 成程。単に居ないから組んだって訳でも無いようだ。
「ちなみに、これを預かっている。これも受理してくれ。」
 赤毘車様は、申込書を提出する。これは・・・。
「毘沙丸様と、アイン様ですか?」
 毘沙丸様は、赤毘車様の息子だ。息子の申込用紙を出しに来たのか。
「ああ。そうだ。アインは、毘沙丸の部下でな。俄然乗り気のようだ。」
 赤毘車様は、息子のやる気が嬉しいのか、笑顔で答える。
「アイン様か・・・。以前、此処に来られたあの方ですね。」
 確かに毘沙丸様の部下を名乗っていた。それに伝記の『救世主』にして、今は、
『聖騎士』を名乗っている方だ。
「皆、次々決まっていくな。私も、もう少し探さないといけないな。・・・ただ、
出場するからには、信用出来る者じゃないと・・・とは思うんだが・・・。」
 赤毘車様も、ただ出場するだけなら、頭数を揃えれば良いのだが、信用出来ると
なると、話は違ってくるのだろう。
「じゃ、私を連れて行ってください!」
 ・・・え?この声は、葉月?
「貴女、出るつもりですか?『闘式』は、遊びで出るような大会では・・・。」
 私は、心配した。この大会は、レベルが高すぎる。
「分かっています。でも、瞬さんと同じ目線で、闘ってみたいのです!」
 葉月は、結構引っ込み思案だった筈だ。そのあの子が、こんな決意を見せるなん
て・・・。瞬様に惚れているのは、本当だったのか・・・。
「葉月・・・。君の気持ちは嬉しいが、私の特訓は厳しいぞ?」
 赤毘車様は、鬼のような特訓をする事で有名だ。確かに葉月では・・・。
「覚悟しています!私は、こう見えても藤堂流の女です!闘わずして、敵に背を見
せるような女ではありません!」
 葉月・・・。なんて力強い事を言うように・・・。
「・・・赤毘車様。私からもお願いします。葉月の気持ちを、受け取ってください。」
 私は、もう迷わなかった。葉月は、好きな人の為に、好きな人と同じ目線に立と
うとしている。こんな葉月の気持ちを、応援したいと思った。
「姉さん・・・。ありがとう・・・。」
 葉月は、感謝の言葉を述べる。
「フフッ。熱い。熱いな。・・・その言葉を聞いて、断る私では無いぞ?」
 赤毘車様は、私達の言葉を聞いて、髪の色と同じ燃えるような眼をしていた。
「うわー。赤毘車さんも葉月さんも、頑張ってください!!」
 莉奈様は、心からの祝福をしてくれた。
 こうして、次のタッグが決まった。それにしても、身内が神とタッグを組むなん
て、思いもしなかった。葉月も積極的になったわね・・・。



ソクトア黒の章6巻の1後半へ

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