NOVEL Darkness 6-1(Second)

ソクトア黒の章6巻の1(後半)


 俺の所にも、情報がどんどん入ってくる。人間側も面白い人選をしてくる。神と
人間のタッグなども、意外性があって面白い。それだけ人間の可能性も高いと言う
事だろうな。さすがと言う他無い。
 ワイス遺跡にも参加者が増えてきている。どんどん増えて有名になるのは良い事
だ。それだけ我等の力を正確に見せる事が出来る。そうすれば、ケイオスの掲げる
『覇道』が、どのような物か、理解してもらえるだろう。この時代であっても、通
じる考えであると、俺は確信している。それと同時に、グロバス様が見たと言う人
間との絆の力を、俺は見てみたい。
 絆と言えば、俺はメイと、手合わせをしている。メイは、メイジェスの事だが。
メイは、さすがにケイオスの娘だけあって、良い腕をしていた。これならば、俺の
タッグとして、働けるレベルだろう。瘴気は問題無いし、闘気まで放出していた。
余程邪気が無いのだろう。闘気が出せる魔族は、邪気が無い者が多い。ミカルドも
そうであったな。メイは、純粋な性格なのだろう。大事に育てられている感じがす
る。ああ見えて、意外と親馬鹿なのかも知れぬな。ケイオスも。
 メイは斧をよく使う。その斧捌きは、眼を見張る物があった。まず斧である為か、
一撃が重い。なのにも関わらず、狙いが正確なのだ。
「行きますよー!せい!!」
 メイが投擲用の斧をこちらに向けつつ懐に突っ込んでくる。同時攻撃か。だが、
こう言う手合いは、どちらかが囮である場合が多い。投擲の方は、囮か?
「フン!・・・こちらが本命か?」
 俺は、投擲用の斧を叩き落すと、メイの斧を受けてやる。メイは斧を横に薙いで
来た。風圧が来る程の大振りだ。俺は、それを剣の背で受けると、力を利用して背
後に回ろうとする。っと、そこに投擲用の斧が2本程回り込むように襲い掛かって
きた。まさか!これが本命か!
 キン!ギィン!!
 俺は、寸での所で投擲用の斧を叩き落した。危なかった・・・。中々組み立てが
上手いではないか。俺に気付かれずに投擲用の斧を2本も飛ばすとは。
「ちぇー。健蔵さんの対処早いなぁ。上手く行ったと思ったのにー。」
 メイは、そう言いつつも、闘気を斧に込めつつ俺と打ち合っている。
「今のは、かなり危なかったがな。腕を上げてるではないか。」
 俺は力を込めて、メイを後退させると、俺自身も距離を取って、剣に瘴気を込め
る。そして、そのまま打ち放った。
「霊王剣術、魔技『魔弾(まだん)』!!」
 俺は技名を言い放つ。剣に瘴気弾を乗せて撃ち放つ技だ。
「す、すごぉい!」
 メイは、斧を2本使って、『魔弾』を防ぎに掛かる。防御するのがやっとだ。
 しかしメイは、何とか堪えていた。そこにガラ空きになった腹に柄で殴る。
「つつ!いったーい・・・。」
 メイは、少し腹を押さえながら、涙目で堪えていた。
「・・・降参か?」
 俺は、メイの眼前に模造剣を突きつける。
「も、勿論ですよぉ・・・。」
 メイは、降参の意志を示す。まぁ、良くやった方か。俺は、メイの腹を見る。
「大丈夫か?少し強く打ち過ぎたか?」
 修練中は、中々手加減出来ない。気を抜くと、やられてしまうからだ。
「はい。健蔵さんは、さすがの強さですね!」
 メイは褒めてくれるが、中々手加減出来ないのは問題だな。『闘式』で勢い余っ
て、相手を殺してしまったとあっては、元も子もない。
「褒めても、何も出ないぞ。体は労れよ?」
 俺は、メイの頭を撫でてやる。何故だか、メイと居ると落ち着く自分が居る。
「心配されちゃいました。嬉しいです!」
 メイは、屈託の無い笑顔を見せる。
「お前は、本当に邪気が無いな。本当にケイオスの娘なのか?」
 俺は、呆れたような仕草を見せる。この娘をからかうのは、面白い。
「んー・・・。私は、ケイオスの娘より、父上が、メイジェスの父だって言わせた
いんです。・・・だって、いつまでも父上の付属品みたいで嫌じゃないですか。」
 これは、意外だ。ケイオスの事は、尊敬しているみたいだが、追い越そうとして
いるのか。中々殊勝な心掛けじゃないか。
「良く言ったな。確かにその意気で、強くなるのは、素晴らしい事だ。」
 あのケイオスを追い越そうとするのは、強さへの憧れでもある。
「健蔵さんも、お父様を追い越さないとね!」
 フン。言うではないか。俺もワイス様に、その事を期待されているんだろうな。
「この大会を通じて、それを期待されている。俺は、強さで証明せねばならん。手
伝ってくれるな?お前も兄を追い越すチャンスだぞ。」
 俺は、怒る事無く、逆に励ましてやった。昔の俺なら、ワイス様を追い越すなど
と、とんでもない事だと、怒ったかも知れぬ。だが、ワイス様の心を理解して、ワ
イス様が、俺の成長を望んでいるのならば、それに応えなくてはいけない。
「ご心配なく。私も兄上には負けませんよ。」
 メイは、やる気が十分な様だ。そうこなくてはな。
「良く言った。互いに目標があるのは、良い事だな。」
 俺は、そう言うと、メイを抱き寄せる。最近では、これだけ応えてくれるメイに
情も移っている。恋人らしい事も、してやらなくてはならん。
「あ、あっははー。私は、もう一つの目標が叶っちゃってて、怖いくらいですー。」
 メイは、もう一つの目標と言う。それは、俺との恋人関係の事だ。あれだけ好か
れれば、俺だって心を開かざるを得ない。それにメイは・・・美人だしな。
「ま、まだ慣れてないのが、寂しいですー。」
 メイは、顔を真っ青にしながら、俺を見る。魔族の血は青いので、頭に血が昇っ
ているのだろう。こう見えて、メイは純情なのだ。
「その割には、積極的だったではないか。分からぬ奴だな。」
 俺は、からかってやる。相変わらず、メイを、からかうのは面白い。
「だって・・・。魔界に居る時は、おべっかばっかり聞いててさー。そう言う気持
ちにすら、なれなかったんだもーん。」
 メイは、相当退屈な毎日を送っていたようだな。魔界も、ケイオスと言う絶対的
君主が出来て、争いが少なくなってしまったと言う事か。
「それでは、つまらぬだろうな。ケイオスを追い越そうと言う気持ちが無くて、何
が魔族か。今の魔族は、変わってしまったのか?」
 俺は、素直な感想を漏らす。ケイオスが強いからと言って、萎縮するようでは、
魔族としての心構えがなっていない。
「父上が、跳ね返し続けたせいだろうね・・・。」
 メイは、寂しそうな顔をする。魔界に居た時は、呆れてばかりだったのだろう。
「寂しい顔をするな。今は・・・お、俺が居るだろう?」
 いかん。肝心な場面でトチってしまった。俺も慣れて無いんだよ・・・。
「健蔵さんも、無理しなくて良いんですよ?私、そんな健蔵さんも好きなんですか
ら。不器用なのに、生き方が真っ直ぐな健蔵さんがね!」
 メイは、微笑むと、無邪気な笑みのまま、キスをしてきた。・・・慣れぬ。慣れ
ぬが、悪くない・・・。メイと居ると、安寧を覚える。
「ん・・・。俺も、少しずつ慣れるとするさ。」
 こうして、2度目の生を受けたならば、今の俺にしか出来ない事を、していきた
いと思う。それが、生涯を貫く事に繋がるのだろう。


 『闘式』のような大会は、魔族ならば、誰でも憧れを持つ。実際に、魔炎島から
も、何人か出場予定のようだ。これを機に伸し上がろうと思っているのだろう。そ
の姿勢は、魔族として正しい。
 無論、私も出場したい。だが、相手が居なかった。ジェシー様は、審判を務める
立場であるし、ゼハーンは医療班の一部として、控えるそうだ。となると、この島
の住民と組めばとは思うのだが、悪いが、私のレベルに付いて行ける者が居ない。
 とは言え、やはり出場したい。このような大きな大会に出られなかったとあれば、
後悔が付きまとうであろう。ナイアからも、『家の事は気にせずに、頑張って下さ
い。』と、言われている。此処まで言われれば、やはり出たい。
 ミカルド様も、勇樹と出ると言う。あの師弟ならば、純粋に闘う事が出来るだろ
う。『線糸』のルールもあるので、変則的な動きも可能だろう。
 何か、良い手は無いだろうか?私だけ出られないと言うのも、辛い物がある。
 ・・・む?何かが来たようだな。今日の訪問予定は無かった筈だ。久し振りに警
戒せねばならんな。傍迷惑な事だ。
 私は、急いで島の入り口に立つ。ジェシー様も気付いたようで、その場に来てい
た。さすが、行動は早い物だ。私も、もう少し早く来なくては。
「シャドゥ。分かってるね?上からだよ?」
 ジェシー様が、軽快すべき所を言う。そう。どうやら上空から、この島に上陸し
ようとしているらしい。中々度胸のある事だ。
「お客様でしょうか?」
 隣にナイアが来ていた。私が掛け付けたのを見て、来てくれたらしい。
「敵かも知れぬ。下がっていろ。」
 私は、警戒するように言う。すると、その者はゆっくりと降りてきた。
「・・・何者だ?」
 私は、その物に尋ねる。この島に飛んでやってくるなど、只者では無い。
「おいおい。そんな警戒するなよ。兄ちゃんさ。」
 随分馴れ馴れしい奴だな。それに人間の姿をしているが、さっきまで翼が生えて
いたような気がする。魔族・・・では無いようだが?
「あっれ?あー。なんだ。アンタか。」
 ジェシー様は、誰か気付いたらしい。誰であろうか?
「ありゃ?その声は、ジェシーさんだっけ?この世代じゃ初めてだな。」
 世代?何を言っているのだ?コイツは。
「5代目が、此処に何か用かい?物見遊山じゃないだろう?」
 5代目?と言う事は、何かの継承者?
「いやー、面白そうな大会やるじゃんさぁ。だから、俺も参加したいのよ。」
 コイツ、『闘式』の事を知って、此処に来たのか?
「5代目も興味津々かい?あー。私も出たいなー。」
 ジェシー様は、改めて文句を言う。相当出たがっておられたからな。
「あっれ?ジェシーさん出ないの?マジで?」
 どうやら、コイツは、ジェシー様が出られない事を知らないらしい。
「ジェシー様は、審判を為さる予定だ。」
 私は説明する。すると、ソイツは溜め息を吐く。
「あちゃー。それは、つまらんわ。大変だねぇ。ジェシーさんもさー。」
 どうにも馴れ馴れしい奴だ。ジェシー様の古い知り合いだろうか?
「ん?ああ。そうか。シャドゥは知らなかったっけ?コイツは、ドラムだよ。聞き
覚えがあるだろう?『王龍』のドラムさ。それの5代目。」
 な、何と!そうであったのか!伝記のジークに付いていって、『人道』を共に達
成した英雄の一人、ドラム。その後は、ドラムは母であるドリーを圧倒して、『王
龍』の座に就いた。その圧倒的な強さと行動を尊敬して、今でも『王龍』の座に就
いた龍は、ドラムと名乗る事にしていると、聞いた事がある。
「キーリッシュ30世帯の主、ドラム=ペンタだ。宜しくな。」
 この龍は、ドラム=ペンタと名乗った。
「確か『王龍』になると、先代の記憶を受け継ぐんだろ?」
 ジェシー様は、確認する。それで、この世代では初めてだと言ったのか。
「まーな。3代目の時は、挨拶に行ったからな。それ以来だよな?」
 このドラムは5代目なのか。3代目と言うと、丁度セントの支配がきつくなった
時だ。それから500年は、静かに暮らしていたのだろう。
「心配してたんだよ。あの時は、お互い大変だったからさ。」
 ジェシー様も、この島を見付けるのに、苦労していた時期だ。
「そうだな。・・・ところで、そこの御付きは、シャドゥって言うのか?」
 ドラムが、私に興味を向けてくる。
「ジェシー様の筆頭守護のシャドゥだ。宜しく頼む。」
 私は、ドラムと握手をする。屈託の無い笑顔で、握手をしてきた。
「500年前の時は、ジェシーさんとしか会って無かったからな。宜しくな。」
 そうであった。ジェシー様が、島を見つけてから、私が島の整備をして、ジェシ
ー様が、それぞれ挨拶に行ったのだったな。
「・・・へぇ。この兄さん、ジェシーさんと、どっちが強いんだ?」
 ドラムが値踏みしてくる。失礼な奴だな。
「ジェシー様に決まっているだろう?ジェシー様は『魔王』なのだぞ?」
 私は、即座に言い返してやる。『魔王』であるジェシー様と『魔界剣士』である
私とでは、実力の基礎が違う筈だ。
「何言ってるんだい。今は、アンタと同じくらいだよ。」
 ジェシー様?何を言ってらっしゃるのだ?
「何を、信じられないような顔をしてるんだよ。最近、アンタの成長は眼を見張る
物がある。正直、私よりも早いんだよ。・・・それに、アンタ『ルール』使いだろ
う?それも強烈な。隠したって分かるんだよ?」
 ・・・さすがジェシー様。バレていたか。私は『ルール』を受け取っていた。ゼ
ハーンにだけは教えておいたが、ジェシー様にもバレているとは。
「やっぱなー。実力を隠していますって顔に出てたぜ?嘘は吐けないよな?」
 ドラムは、私の隠していた事など、簡単に看破してくる。
「隠していたつもりは無い。『ルール』は、真の実力では無い。」
 あれは、能力だ。実力を高めあう魔族にとって、あんな反則技は無い。
「あーあ。頑固なんだから。ま、今度の大会では、見せてくれるんだろ?」
 ジェシー様は、私の肩を叩く。
「・・・ですが、私にはパートナーが居ないのですよ。」
 痛い所を突かれた。パートナーが居ないとなると、参加出来ないのだ。
「あのさぁ。ドラムの用件を察しろよ。アンタ・・・。」
 ジェシー様は呆れ顔だった。ドラムの用件?
「ジェシーさんは、話が早くて助かるねぇ。要するに、パートナー探しに来たんだ
よ。アンタが空いてるなら、丁度良いや。」
 な、何と!?私とドラムが組んでだと!?
「よ、宜しいのでしょうか?」
 私は、目の前の現実が、信じられないでいた。
「この馬鹿!何が宜しいのでしょうか?だ。あれだけ出たそうにしてて、今更、否
定何かするんじゃないよ!・・・あたしの分まで、頑張って来い!」
 ジェシー様・・・。ジェシー様だって出たいのだ。しかし、出来ないので、せめ
て私が出る事を望んでおられるのだ。
「分かりました。ならば、このシャドゥ、ジェシー様の代理として、恥ずかしく無
い試合を致します。・・・ドラム。私からも宜しく頼む。」
 私は、再び握手をすると、ドラムに頭を下げる。
「良かったですー。シャドゥ様、頑張って下さい!」
 ナイアが喜んでくれていた。この笑顔を見れば、私にも力が湧いてくる。
「よっしゃ!兄さん強そうだし、手合わせしようぜ!」
 ドラムは、ノリが良い奴であった。ドラムから感じる力であれば、私のパートナ
ーとして、恥ずかしく無いレベルであろう。
 こうして、私の『闘式』への参加が決まったのであった。


 父と闘うやも知れぬ。その時、私はどうすれば良いのだろうか?私が幼い頃より、
絶対の存在だったのが父だ。反抗した事もあったが、とても続ける気にならなかっ
た。それ程、絶対的な存在なのが、我が父ケイオスであった。
 母も、かなりの厳格さであった。父に本気で付いて行くだけあって、自分自身に
も厳しい母であった。私は、二人とも尊敬している。単純に強いと言うだけでは無
く、生き方その物が、羨むほど鮮烈だった。
 そんな中で、今回の『闘式』とやらが開かれた。タッグを組んで、覇を競うとの
事。父のタッグ相手は、当然母であった。あの二人が負ける?そんな姿は想像が出
来ない。魔界では、無敵の軍勢だった。父のカリスマ性と母の補佐で、進軍する様
子は、正に圧巻であった。そんな姿を知っているからこそ、尊敬するのだ。
 妹は早速、健蔵とのタッグを決めた。どうやら本気で惚れているらしい。気に食
わない奴であるが、妹の幸せそうな顔を見ていたら、応援してやりたくなった。
 私は、そんな中、ワイス様と組んでいる。父の尊敬の対象の一人だった。一人は
『神魔王』グロバス。父が提唱する『覇道』の基礎を作った方だ。全魔族が尊敬し
ていると言っても良い。私も尊敬している。今は、黒小路 士と言う人間と、共に
居て、更なる強さを求めて、『絆』の力を研究しておられる。そのせいで我等と対
立する立場にあるのは、何とも皮肉な事だ。
 そして、このワイス様だ。ワイス様は、元々神であった訳では無く、その超人的
な努力と才能で、父と同じく伸し上がって『神魔』になられた御方だ。その先人と
なったワイス様を、父は尊敬に値すると、評していた。
 そのワイス様と私がタッグ?正直荷が重いと思う。
「ハイネス!集中するのだ!」
 ワイス様は、考え事をしていた私に檄を飛ばす。ワイス様との修練は、父とは違
い、力比べに因る物が多かった。父は、力比べと言うより、実践で鍛えるタイプだ。
ワイス様も、最初はそうしていたが、急に方針を変えたのだ。
「うぐぐ!まだだ!私の限界は、こんな物では!!」
 私は、ワイス様の瘴気弾を受け止めつつ、押し返そうとする。
「負けん気だけでは駄目だ!力を実感して、自分の力とするのだ!」
 力を実感して?この力を自分の物に?
 ボゥン!!!
「馬鹿者!考えるな!」
 ワイス様は、注意する。しかし時既に遅く、瘴気弾は私に炸裂する。
「・・・大丈夫か?少しやり過ぎたか?」
 ワイス様は、私を助け起こす。
「いえ、平気です!!しかし・・・私はまだ未熟だ・・・。」
 私の力の無さを痛感する。ワイス様は、本気など出していない。なのにも関わら
ず、私は防ぐ事すら、ままならない。
「伸びは悪くない。悲観する程では無いぞ?」
 ワイス様は、励ましてくれた。しかし・・・。
「私が、父と母と対抗する事自体、無い事なのだ・・・。」
 私は、父と母の偉大さが身に染みている。
「・・・愚か者・・・。そんな事では、ケイオスもエイハも、悲しむだけだ。」
 ワイス様は、私の肩を叩く。父や母が悲しむ?
「お主は、まだ開花していない。そんな事は、ケイオスも分かっている。・・・し
かし、開花していないのと、開花しようとしないのは、別の問題だ。」
 開花しようとしていない?どう言う事なのだろうか?
「私は、開花しようともしていないと?」
 思い当たる節はある。だが・・・。
「確かに、今のお主から見たら、ケイオスやエイハは、偉大であろうな。だが、メ
イジェスですら、追い越そうと努力しておる。健蔵とて、我を驚かそうと、努力し
ている。伝記時代であっても、奴は、力の研鑽を忘れなかった。」
 確かに健蔵は、ワイス様と共に闘っている時でも、ワイス様を守る為の力を手に
入れる為、全力で生きたと伝えられている。それに妹は、真っ先に健蔵と組んで、
修練に余念が無いと聞く。
「お主は、父や母の偉大さを称える事しかしていない。そんな事では、追い越すな
ど不可能だ。超えて見せると言う気概を見せよ。」
 そうか・・・。敵わなくても良い。偉大さを忘れる訳では無い。だが、真に偉大
さを理解する為には、自分も強くあろうとしなければ、意味が無い!
「私は、強さの限界を、自分で決めていた・・・。それでは駄目なのですね!!」
 そうだ。父や母を超えてはならぬと、枷をしていた気がする。
「そうだ。その姿勢が見え隠れしているから、ケイオスは、お主を認めないのだ。」
 単純に自分の力不足だと思っていた。父を称えて、補佐に徹する事が、最高の道
だと、勝手に思っていた。・・・それでは駄目なのか!
「お主自身の心の強さを持て!我は、それを教える為にお主と組んだのだ。」
 ワイス様は、俺に心の強さを・・・。何て御方だ!
「・・・恐れ入ります。・・・私は未熟者でした!」
 ワイス様に教えられるまで、超えようともしなかった。
「私は、もうケイオスの息子を卒業する!私は、ハイネス=ローンだ!!」
 そうだ。その事を超えなければ、私の成長など有り得ないのだ!
「そうだ。それで良い。・・・子の成長を喜ばぬ親など居ないのだからな。」
 ワイス様は、健蔵の事を思っているのだろう。今回、ワイス様が健蔵と組まなか
ったのは、今の私と同じ理由からだ。最も、健蔵の場合、既に行っていて、ワイス
様が、単純に闘ってみたいと言う理由もあるのだろう。
 私は、父と対立するのでは無い。父に私の成果を見てもらうのだ!その為には、
まだまだ力を付けなければならない!この心を忘れないようにしよう。


 栄えある歴史を紡いでいくセントメガロポリス。その頂点に位置するのが、元老
院である。制度が出来て以来、全ての事が御し易くなった。この調子で行けば、ゼ
ロマインドとして顕現し、ソクトアを支配後に、『無』の力で満たすのに、十分な
力が集まると、確信していた。
 だが、元老院が出来てからも、力の集まりは、余り変わらなかったので、次なる
策を打たねばならなかった。一気に力を得る方法は、無い物だろうか?・・・そう
考えた時に、相談したのがゼリンだった。
 ゼリンは、考えに考え抜いたのだろう。危険な賭けになるが、良い方法があると
提案してきた。あの頃のゼリンは従順だったので、その案に裏表など無かった。
 その方法は、神の能力である『ルール』の解放だった。聞けば、その能力の中に
は、力を何倍も引き出したり、大変便利な力が宿る者も居ると聞いた。その能力を
ゼリンも持っていたのが、更なる幸運だった。そのおかげで研究が進み、ついには、
『ルール』の解析に成功した。
 『ルール』とは、力の使っていない部分を司る脳を刺激する行為だった。そうす
る事によって、自らが望んだ力や、自らに一番合う能力が付与される。無論、その
せいで、脳の消費は激しくなるが、その分得られる力は、計り知れないのだ。それ
を出し易くする脳波の研究をし、ついに見つけたのだ。その波長に合う脳波を。
 それをメトロタワー・・・現在のメガロタワーから発信し、テレビなどの媒介を
通して、全ソクトアに発信した。テレビが普及していたので、各国のテレビ塔の近
くや、高い位置に居る者が、先に受け取り易いと言う結果になったようだ。
 勿論、これは誰にでも発現する能力では無い。脳が許容出来ない場合、防衛本能
として、脳が拒否をする。なので、発現出来る者は、才能に応じてと言う形になっ
た。『ルール』発現の為の脳を司る場所と、才能を司る場所は、かなり近いのだ。
なので、才能ある者に、『ルール』が宿る場合がほとんどだった。
 そのせいか、脳の切り替えをスイッチのように切り替える事が出来る者が、『ル
ール』に目覚めたようだ。しかし、そのような事が出来る人間は少ない。なので、
目覚めたのは、ほんの一部だった。
 しかし、此処で誤算が起きた。能力ある人間は、セントに多いと思っていたのだ
が、実際は、管理出来ていないガリウロルに多く発現した。セントより人間の数が
少ないガリウロルで、あんな多くの『ルール』が発現するとは思っていなかった。
 そのせいで、却って力の均衡が崩れてしまい、ガリウロルの勢力が恐ろしく強く
なってしまったのだ。最も、ガリウロルの国事総代表は、その事に気が付かない凡
人だったので、大事には至っていない。だが、危険な事は確かだった。
 そこで、ミシェーダに掃討を命じたのだ。『ルール』の力は惜しいが、力が拮抗
するのは拙い。それは、ミシェーダも同意見だった。なので、首尾良く掃討させる
為に『時の涙』を発現させてやった。ミシェーダが大事そうに抱えていた『時の涙』
の複製をしてやったのだ。だが、原理など分かっていないので、複製しか出来なか
った。それでも、ミシェーダは小躍りして、これで勝てると言い放っていた。
 思惑通り、中心人物である天神 瞬、天神 恵、島山 俊男、一条 江里香の4
人が過去に飛ばされ、戻ってくるのは、まず不可能だろうと、報告を受けた。だが、
大技を使ったせいで、ミシェーダ自体が弱っていたので、追撃する事が適わなかっ
た。それは、仕方の無い事であろう。それに気になったのが、レイク=ユード=ル
クトリアの能力だった。奴は、時の力でさえ『万剣』の力で切り裂いたと言うのだ。
恐ろしい奴である。おかげで『次元』の向こうに送れなかったらしい。
 だが、戦力は大幅に減らせたと思っていた。それを、何とファリア=ルーンが、
あの4人を1000年前から戻したと言うのだから、驚きだった。どうやって見つけた
と言うのだ。どうやって戻したと言うのだ。方法までは調べられなかったが、4人
は、更なるパワーアップをして戻ってきたと報告を受けた。
 その報告を受けたミシェーダは愕然とし、次は絶対に葬ると言って、用意するの
だった。その用意とは、セントの人斬り組織『ダークネス』の首領『創(はじめ)』
を利用し、そそのかして、ケイオス=ローンを召喚する事にあった。
 何でも魔界では、魔界三将軍『黒炎』のジェシーと、『魔人』レイリーの息子で
あるケイオス=ローンが、長きに渡って支配していると言う。最近召喚した魔族か
ら、その事を聞いたミシェーダは、ケイオスを召喚しようと企んでいた。
 だが、メトロタワーに、そんな大掛かりな仕掛けは、中々作れない。しかも召喚
するとなると、莫大な力が要る。そこで、『創』を利用したのだ。彼は、人間にし
ては力を持っていたし、強力な魔法陣を用意出来る組織を持っていた。
 しかし、そんな用意の最中に、妙な連中がメトロタワーに乗り込んできた。それ
がゼハーン一行だった。ユード家は全部チェックした筈なのだが、国民章を偽造し
たのか知らないが、ゼハーンが潜り込んでいたらしい。しかも厄介な事に、乗り込
んだ連中全てが『ルール』に目覚めていた。どうして、逆らうような連中ばかりに
『ルール』が発現するのだろうか。メトロタワーの関係者のカードなど、何処で手
に入れたのか、気になる所だ。
 しかも、一度捕まえたのに、尋問する前に逃がしてしまったと言うのだから、ど
うしようもない。『ダークネス』の連中がしくじったらしい。何処まで使えない連
中なのだろうか。どうせ油断していたのだろう。
 ゼハーン一行は、『創』が元老院の一人である事を突き止めてきた。すると、予
想通りに『創』を追って、『ダークネス』に攻め込むと言った事件が起こった。ミ
シェーダは、それを知っていたが、敢えて放って置くべきだと進言してきた。する
と、ミシェーダの予想通りに『創』はケイオスの召喚を行った。
 これで駒も揃ったと思ったら、『創』の死亡が伝えられた。まさか殺されてしま
うとは、使えぬ奴だ。急いで次の元老院を探す羽目になった。最有力候補が居たの
で、如月(きさらぎ) 由梨(ゆり)を、元老院にする事を決定した。由梨は、セ
ント第一主義者なので、拒まなかったのだ。
 その一方で、ゼハーン一行のアジトを突き止めた。バー『聖』と言う所で、オー
ナーは、ファン=センリンとか言う女だ。しかも調べて行く内に分かったのだが、
奴等は、セントを騒がせていた人斬り『司馬』だったと言うのが判明した。セント
の中に居ると思ったが、こんな近くで営業していたとはな。しかし圧力を強めたら、
さすがにセントに居るのは困難だと思ったのか、セントから出て行ったようだ。入
る者への警戒は、厳重にするが、出て行った者を、しつこく追う程、元老院は暇な
組織では無い。結局、泳がせる事で合意に至る。
 しかし、そんな事をしていたら、危惧していた事が起こった。どうやらゼリンに
施していた洗脳が解けてしまったらしい。サークレットとネックレスが破壊された
との報告を受けた。強力な暗示を掛けていたのに、どうやって破壊したのだろうか?
レイクが破壊したらしく、その見返りとして、ゼロ・ブレイドを献上したらしい。
忌々しい連中だ。ゼリンが記憶を取り戻したら、こうなると分かっていたが、管理
する以上、ゼリンに教えぬ訳には行かなかった。なので結界を施しておいたが、ゼ
リンは、結界の上から大怪我をしてさえも、ゼロ・ブレイドを取り出したのだ。信
じられない事をする・・・。おかげで伝記の『記憶の原始』とユード家が、また結
びついてしまった。今のままでは、我等に『無』の力は効かないので、大した危機
ではないが、『記憶の原始』は、どう転ぶか分からぬ存在なので、封印したままに
したかった。だが、それも叶わなかったようだ。
 仕方が無いので、セントの強化を試みる事にした。より絶対な物にして、さっさ
と力を集めてしまおうと思ったのだ。だが、信じられない事を耳にした。何と、ゼ
ハーン一行が向かった先が、天神家だと言うのだ。
 これで、分かっているだけで、天神一派、レイク一派、『司馬』一派が天神家に
滞在してる事となる。放って置ける訳が無い。
 しかも、『ダークネス』が、ケイオスの手によって落ちたとの報告も受けた。奴
め、召喚に応じた『創』を死なせておいて、自分は目的の為に動こうと言うのか。
傍若無人にも程がある。だがケイオスの力は、半端な物では無い。あれは、ワイス
やクラーデス、グロバスに匹敵する力の持ち主だ。
 ワイスやクラーデスは、蘇生した際に、力を吸い取る為に、利用していたので、
奴に対抗する手段が、限られている。忌々しいが、同盟を結ぶ事にした。元老院で
の承諾も経て、ミシェーダが交渉に向かって、同盟とまでは行かないまでも、非戦
条約にまでは、こぎつけたようだ。
 そして、万全の用意が出来た所で、ミシェーダは今度こそ、葬ってくると息巻い
ていた。天神家の奴等は、絆が深いが、その分、一人でも欠ければ、そこから崩せ
るので、ミシェーダが戻り次第、攻撃すれば行けると言われた。その為の用意とし
て、ケイオスにも天神家に戦力が集中している事を報せておいたのだとか。ミシェ
ーダの用意には、畏れ入る。
 これで不安要素が消せると思ったのだが、ケイオスが何かに気が付いたのか、天
神家の攻撃を中断し、戻ってきた。それに加えて、ミシェーダが倒されると言う形
になった。死に際に、ミシェーダは相討ち狙いの自爆戦法を取ったようで、一人確
実に殺そうとしたのだろう。それで死んだ筈だったのだ・・・。なのに!奴等は、
何故か蘇生する方法まで手に入れていた。死んだ筈の島山 俊男が、蘇生したと言
う情報を得て、生存を確認したのだ。・・・これは、何らかの方法で『ルール』が
使われたに違いない。奴等の中で、伝記で有名なフジーヤが使った『魂流操心術』
を使える奴が居たのだろう。今思えば、フジーヤの蘇生の技も、『ルール』だった
に違いない。そう考えれば、説明が付く。
 こうして盟友であるミシェーダが死んだ・・・。その穴は、思ったより大きい。
何故ならば、時間を操る事が出来るのは、我々の中でも、ミシェーダだけだったの
だ。そのミシェーダが居なくなるのは、非常に大きかった。
 その穴を埋めるべく、嫌々ながらも、ケイオスに元老院を頼むつもりで、交渉に
行った。その際に、力を見せねば説得にも応じようとしなかったので、力の片鱗を
見せてやった。しかし、それでも納得しないので、ワイスとクラーデスの解放を申
し出た。いざと言う時の切り札に取っておいたが、衰弱し切っていて、危険だった
からだ。特にワイスの方は危なかったので、さっさと渡してしまいたかった。する
と、ワイスの解放で条件を飲み込む事になった。だが、こちらが片方しか力を見せ
ていないのを不満とし、ケイオスではなく、息子であるハイネスの元老院入りでど
うか?と手を打ってきた。多少不満であったが、身内を元老院に入れると言う縛り
と言う点では、一致してたので、承諾する事にした。
 あらゆる手を尽くしたつもりだった。予定とはズレたが、修正出来ると思ってい
た。だが、復活したワイスが、とんでもない事をしでかした。
 魔族の復活宣言をしたのだ。しかもソクトア全土放送でだ。せっかく、これまで
人間しか居ないと言う風に教え込ませたのに、水の泡である。ケイオスがしっかり
管理してくれる物かと思ったが、甘かった。しかし、そう簡単に信じ込んだりしな
いだろうと、高を括ったのが間違いだった。奴等、今度は手を変えてきたのだ。昔
の奴等ならば、ソクトア全土を巻き込む形で、宣戦布告をし、都市一つ一つを潰そ
うと考えただろう。そこには、神への恨みがあり、自分達が虐げられてきた恨みが
あるからだ。その考え方で行けば、セントへ攻め込んでくると読んだのだ。しかし、
セントはソーラードームに守られているし、健蔵にも、その構造を教えていない。
ならば、手も足も出ないで途方に暮れると踏んでいたのだ。
 だが、彼等は情報戦を挑んできたのだ。これは意外だった。力押しでくると思っ
た。だが今回は、わざと人間が興味を引くような形でテレビの取材に応じ、事細か
に説明し、魔族の良い所、魔族の考え方を真摯に伝える形を取って来たのだ。小賢
しい事をする。そうする事によって、人々の興味は、嫌でも魔族の方に向く。
 更に止めを刺したのは、今回の『闘式』の開催だ。これは、娯楽に飢えていた人
間達にとって、極上の添え物だったに違いない。早速食いついてきた。セントでも、
無視する訳には行かない程、気運が高まっていき、『闘式』の特集を組まざるを得
なくなった。余計な事をしてくれる。
 セントへの興味が薄れれば、力の集まり方も悪くなる。余り放っておくと、計画
が全て水泡に帰す事も、考えねばならない。それだけは避けなくてはならぬ。その
為には、セントからも代表として、誰かを出さねばならない。
 一応元老院からは、ハイネスが出ると言う形を取っている。しかも優勝候補のワ
イスと組んでいる。良い所まで行くだろう。だが奴は、所詮魔族だ。元老院の正式
な候補を出さねばならない。面倒な事になった・・・。
 そんな中での、『院会』である。ハイネスの特訓の合間を縫って、開催した。ワ
イスとの交渉の結果、今ならば大丈夫だと言う事で、連れてきたのだ。それにして
も・・・何と力を付けてきたのか・・・。傍目から見れば、かなり疲れが出ている
ように見えるが、感じる力は、以前とは比べ物にならない。どんな特訓をしている
のだ・・・。それでも、疲れている事には変わりは無いみたいだが。
「これより、『院会』を始める。」
 院長のシルヴァンが、『院会』の開催を宣言する。
「何だか、最近多くない?まぁ、世間が騒がしいのは事実だけどさぁ。」
 ツィーア財閥のアルヴァ=ツィーアが文句を言う。
「セントを差し置いての『闘式』騒ぎだろう?良い迷惑であるな。」
 元国事総代表のゲラルド=フォンが憤っていた。
「セントに無断での開催・・・。許されません。鉄槌を下すべきです。」
 セント第一主義者の由梨が、裁断長だった頃の勢いで言い放つ。
「でも、無視する訳には行かないネ。何せ、セント以外の実力者のほとんどが、参
加を表明してるんだからサ。」
 不正監視委員長だったリー=ダオロンが、呆れた口調で言う。
「困った事に、その関係の報道すると、視聴率が良いのよねぇ。参っちゃうわ。」
 元テレビ局長のマイニィ=ファーンは、現実を伝える。やはり視聴率は、今回の
『闘式』関連だと、相当高いみたいだ。
「人々の関心が、セントに向かないのは、いけませんね。」
 金融街の元締めだったケイリー=オリバーが、危惧する。実際は、自分の所の株
式が、下落傾向にあるのが気に入らないのだろう。
「軍隊からも『闘式』に派遣すべきだと、喧しい声が聞こえる。」
 軍隊研究所の長官と言う位置である俺は、苦い顔で言う。一応、人間の顔を持っ
ていなければならない。ゼロマインドの片割れであるシンマインドとしての正体は、
隠さなければならぬ。加藤(かとう) 篤則(あつのり)を演じなければ。
「出せば良いのではないか?私もワイス様と出場予定だしな。」
 ハイネスは、軽く言ってくれる。これも魔族としての余裕からだろう。
「ハイネスは特訓中だったな。元老院代表としては、勝ち残って貰わないと、面子
に関わる。やってくれるんだろうな?」
 俺は、嫌味を言う。これくらい言わねば、やってられん。
「努力はしている。だが約束出来る程、甘い大会では無い。父の強大さもあるのだ
しな。・・・だが、心配せずとも、私は超えるつもりでいる。」
 ・・・ほう。父の傀儡とばかり思っていたが、コイツにも、色々思う所があった
のだろう。逆らう気があるのなら、少しは芽があると言う物だ。
「開催自体を止める事は?」
 ゲラルドは、元老院の力で、何とかならないか模索している。
「不可能だネ。セントの管轄じゃないし、ストリウスとガリウロルは、セントの手
を離れつつあル。勧告に応じるとは、思えないヨ。」
 ダオロンは、冷静な意見を言う。そうなのだ。ストリウスは、ワイスの庇護を受
けて以来、独自路線を貫くつもりでいるし、ガリウロルは、元からセントに従って
いない。勧告した所で、従うとは思えない。
「セントを無視しての大会など、何の意味がありましょうか。」
 由梨は、感情が先走っている。国粋主義者なので仕方の無い事だが・・・。
「影響は大きいと思うよ?財閥関連も、その話題ばっかりでさ。しかも、天神家に
投資する企業も多いんだよ。それだけ注目度が高いって事だね。」
 アルヴァは、最近の財閥関連の話をする。ここぞとばかりに乗ってきた企業も居
ると言う事か。盛り上がっているし、止める事は難しいな。
「株式も、天神家の勢いは止められません。腹の立つ事ですが、ここは乗っかるし
か無いでしょう。遅れを取る訳には、いきませんからね。」
 ケイリーは、溜め息を吐く。セントの力を持ってしても、この流れは止められな
いと言う事なのだろう。今までに無い事態だ。
「テレビ局も、締め付けても駄目よ。局内の反発が凄くてね。流さないわけには行
かない流れよ。他の番組が霞んじゃう位、人気あるわ。」
 マイニィも、色々手を打っていたようだが、結局押し切られて、特集を組む事に
なった。人々の関心が、それだけ集まっているのだ。
「思った以上の反響のようだな。別の方向から考えねばなるまいな。」
 院長も、この流れを断ち切れるとは思って無いみたいだ。
「やはり、セントの影響を強くさせる為には、その大会、ハイネス以外にも出るし
かないだろう。強いセントを見せねばならん。」
 俺は、苦肉の策を言う。セントは偉大だと見せる為には、手段を選んでは、いら
れない。元老院が優勝する事で、力を見せ付けるのだ。奴等の狙いを逆に利用して
やるのが一番だ。
「ほほう・・・。私だけでは不服だと?面白い。」
 ハイネスは、早速反応してきた。
「君を信用して無い訳では無いが、元老院になってから日が浅い君が優勝しても、
説得力が無いのだ。それに君が組んでるのは神魔ワイスだ。人々の関心は、そちら
にも行くだろう?それでは意味が無いのだ。」
 俺は説明する。ハイネスが勝った所で、魔族は強いとしか、人々は思わないだろ
う。それでは、意味が無い。強いセントを印象付けられない。
「物は言い様と言う訳か?しかし、誰が出るのだ?」
 ハイネスは、俺達を見回す。
「ミシェーダが居ない今、代わりをしている俺が出場する。」
 これは、決まっている事だ。ミシェーダが居れば、ミシェーダに任せる所だが、
奴が死んだ今は、俺が出るしかない。この姿でも、シンマインドとしての力は、あ
る程度操れる。ミシェーダと同じくらいにまでは、力を出せる筈だ。最も、ミシェ
ーダが絶対的な信頼を勝ち得ていたのは、力よりも、『時空』のルールに因る所が
大きい。あの能力は、反則技と言っても良い。
「勝算はあるのか?」
 ゲラルドが聞いてくる。確かに気になるだろうな。
「タッグパートナー次第だな。ハイネスでは無いが、この大会は、並の大会では無
い。必ず勝利するなど、約束は出来ぬ。」
 これは、本音だった。例えシンマインドの姿になったとしても、『闘式』に勝ち
残れるか?と言われれば、保証など出来る物では無い。
「タッグパートナーか。格闘技経験者が良いのではないか?」
 ゲラルドは、自分が選ばれる事が無いと思ってか、適当な事を言う。
「そうだな。じゃ、ここは元継承者候補に手伝ってもらおうか。」
 俺は、そう言うと、アルヴァを見る。
「あれ?篤則さんたら、知ってるんだ?全く、抜け目が無いなぁ。」
 アルヴァは、観念したのか、隠そうとしていなかった。
「ほウ。アルヴァは、何かの格闘技の継承者なのカ?」
 ダオロンは、意外そうな顔をする。皆も知らないようだ。
「調べておいたのでな。・・・アルヴァ=ヒート=ツィーア。これが、アルヴァの
本名だ。そうだよな?」
 俺は、アルヴァの本名を明かす。ツィーア財閥は、元々デルルツィアの皇帝であ
るゼイラー=ヒート=ツィーアの一族の出だった。
「まさか・・・デルルツィアの皇帝の血筋!?」
 ケイリーは、気が付いたようだ。さすがに株式を取り扱ってるだけあって、家柄
の事については、人一倍詳しい。
「なになに?僕の出自が分かったからって、態度変えるような真似は、よしてよね。
こう見えても、今の関係は、気に入ってるんだからさー。」
 アルヴァは、口を尖らす。余り出自で人を見て欲しくないようだ。
「セントを思う気持ちが一緒ならば、どのような出でも等しく思います。」
 由梨は、揺るぎ無い。さすがはセント第一主義者である。
「さっすが由梨さん。皆も、この調子で宜しくー。」
 アルヴァは、軽い口調で答える。この少年は、何を考えているか、分からんな。
「では、決議を行う。・・・元老院代表として、アルヴァ殿と、加藤殿を推薦する
事とする。是か非か、選ばれよ。」
 院長が、決議を行った。その結果は、思い通り、全員一致で是だった。
「ふむ。では決まりだな。元老院代表として、最善を尽くすが良い。」
 院長は、俺とアルヴァが代表だと言う事を認める。
「篤則さん。僕の足を引っ張らないでよね。」
 フッ・・・。こ奴、言うではないか。強気なのは嫌いじゃない。
「それは、こちらの台詞だ。足を引っ張らぬよう、昔の感覚を思い出す事だ。」
 アルヴァとて、格闘技は、久し振りの筈だ。
「うーん。良いんじゃない?絵になるし、話題性も有るわね。局に連絡して、特集
を組まないと。良いわよね?」
 マイニィが、浮かれたようにアルヴァと俺を指差す。全く、現実的な女だ。
 こうして、セントからの出場者が決まった。俺とアルヴァ。
 色々手を考えなきゃならんな。


 僕と恵さんは、他の出場者の対策を含めながら、特訓をしていた。無論、皆との
修練も欠かさない。それに加えて、学校に居る時間も、校長の特権で修練出来る。
此処まで来たら、もう隠さずに出場者同士で手合わせをしたりしている。学内は、
驚きと感嘆の声で溢れている。
 校長曰く、互いに青春を懸けて、覇を競うのであれば、爽天学園として、最高の
栄誉である。としている。修練している最中は、応援と評論が飛び交っていた。
 レストラン『聖』も、全員が出場者と言う事で、営業はしばらくの間、昼だけに
するとしていた。客は、残念がっていたが、それでも、大会の事はご存知のようで、
応援しようと言う客まで現れたのは、僥倖とも言える。
 そして、僕と恵さんは、夜の天神家で、個人的に特訓をしていた。とは言っても、
今は手合わせをしている訳では無い。対策を練っているのだ。何せ、出場者が千差
万別だ。それに加えて各陣営も、特訓をしている。生半可な用意では、負けてしま
う。そうならない為の対策だ。
 その対策会議に、レイクさんとファリアさんも呼び寄せた。一緒に意見を交わそ
うと言う事で持ちかけたら、あっさり乗ってきた。
「さーて、この部屋は防音なんだっけか?」
 レイクさんは、キョロキョロしていた。
「勿論、防音ですわ。葉月や、他の皆さんも出てる以上、ここに4人で集まってい
る事は、極力知られたくありませんからね。」
 恵さんは、ちゃんと考えて呼び寄せていた。
「一応、『召喚』で、私の父さんが、見てくれてるわ。」
 ファリアさんのお父さんが、扉の見張りをしてくれているらしい。
「あまり、コソコソするのもなぁ・・・。」
 僕は、こう言う打ち合わせは、余り好きじゃなかった。
「残念だけど、そんな事言ってられる程、甘い相手じゃありませんからね。」
 恵さんは、手を抜く気は無い。特にケイオスや魔族連中に優勝を持ってかれたら、
『覇道』に賛同しなければならない。それは、避けなければ。
「特にケイオスは、私やレイクが本気で行っても、叶わなかったくらい、強いんで
しょう?・・・それこそ、何回もやられたと聞いたわ。」
 ファリアさんは、気にしていた。『時界』を旅した僕は、ミシェーダに対する対
処を完璧にしたら、ケイオスが攻めてきたと言っていたらしい。その攻撃対象が、
レイクさん達の仲間達だ。ケイオスは強大で、何回やり直しても『因果』の関連も
あったのか、誰かが殺されていたと、話していた。だが、それは、ケイオスが本気
にならなければならない程、レイクさん達が追い詰めた証拠でもあった。
「ま、今のケイオスは、殺したりはしないだろうがな。それでも、俺達が束で掛か
っても、ケイオス一人に勝てるかどうか、怪しいんだ。」
 レイクさんは、悔しそうにしていた。単純に勝てなかったのもそうだが、それの
せいで、違う『時界』の僕が苦しんだから、余計になのだろう。
「ケイオスとエイハのタッグは、優勝候補の筆頭よ。話によれば、エイハもお飾り
などではない強さらしいですからね。」
 恵さんは、冷静に分析している。エイハも、周りの評価では、ケイオスの妻と言
うだけあって、凄い強さらしい。しかも夫婦なので、息もピッタリだ。
「このタッグには、『ルール』を最初から、ぶつけるしかないわね。マゴマゴして
たら、そのままやられてしまうくらい強いんだろうしね。」
 ファリアさんは、本気をぶつけるしかないと判断する。確かに、そんなに強い相
手なら、出し惜しみする必要は無いね。
「まぁ、魔族陣営だと、ワイスさんとハイネス組も脅威だね。」
 僕は思い出すように言う。この前会った神魔ワイスさんは、さすがと言う他無い
瘴気の渦を感じた。あれは、暴虐と言って良い。ケイオスとも、互角に渡り合える
んじゃないだろうか?
「伝記に書かれていた魔族ですもんねー。ご先祖様も闘ったみたいだし・・・。」
 ファリアさんは、先祖が勇士ジークの妹だけあって、因縁が無い訳じゃない。だ
が、そんな事を持ち込む程、無粋じゃない。
「ま、胸を貸してもらうつもりで、やるしかないな。」
 レイクさんも一緒のようだ。手強い相手だ。
「それに情報では、ハイネスの力も、相当上がってると言う話です。」
 恵さんは、報告書を手渡す。ワイスさんと特訓した事で、基礎能力が向上したと
書かれている。成程ね。向こうも力を上げていると言う事だ。
「勿論、油断するつもりは無いわよ。素質は十分だろうしね。」
 ファリアさんは、警戒を忘れない。こっちも力を付けてるように、向こうだって
何かしら特訓しているのだ。
「後は、健蔵さんだね。士さん曰く、信念なら、誰にも負けないんだとか。」
 僕は、士さんに言われていた事を思い出す。健蔵さんは、とても献身的で、信念
を持っている。今回は、ワイスさんに追いつきたいと言う事で、勝ち上がる気でい
る。親を超えたいと言う事だ。
「親父を超えたいか・・・。俺にも経験があるな。」
 レイクさんは魔炎島で、ゼハーンさんとの死闘を演じた事がある。その事を思い
出しているんだろう。そこでは勝ったらしいが、レイクさんは、未だにゼハーンさ
んを完全に超えたとは思っていないらしい。
「それに、ケイオスの娘のメイジェスねぇ・・・。」
 ファリアさんが、チェックしている。メイジェスは、何とも言えない魔族だった。
「あの子は、健蔵さんとのタッグで、恋仲を証明しようとしていたわね。」
 恵さんが、思い出し笑いをする。あの時の健蔵さんは、分かり易い程、照れてい
た。メイジェスは、凄く積極的だったしね。
「強さの方は、どうなんだ?」
 レイクさんは、そっちの方も気になるみたいだ。
「多分、ハイネスと同等か、それ以上だね。特訓次第で化けると思う。」
 僕は、見てきた限りで言う。二人が、どんな特訓をやってるか知らないが、成長
している事だろう。どれだけ鍛えてくるかが、鍵になると思う。
「結構強敵よ。気を付けないとね。」
 恵さんも警戒している。正直な所、ケイオスの子供2人は、未知数な所が多い。
「後は、この前に参戦を表明した、コイツね。」
 ファリアさんは、セントの資料を持ってくる。
「加藤 篤則と、アルヴァ=ツィーアのタッグか。」
 レイクさんは、資料を流し見していた。
「加藤 篤則・・・。軍隊研究所の長官だった男で、元老院の一人。教え方は、軍
隊式で、容赦が無い。ナイフとワイヤーを使った闘技が得意で、相手を翻弄する動
きは、超一流。鬼教官として有名だが、人望は厚い・・・か。」
 ファリアさんが経歴を読み上げる。ナイフとワイヤーを使った闘技とは、特殊な
攻撃をしてくる。結構厄介だな。それに・・・。
「コイツは、シンマインドだしね・・・。」
 僕は、口に出して言う。ゼロマインドの片割れだと言う。全ての元凶であるゼロ
マインド。ゼリンさんを誑かし、レイクさん達を『絶望の島』に追いやり、セント
のあらゆる障害を取り去ろうと、尽力してきた。その目的は、自らの存在意義の為
だ。自分の力を増やして、『無』を絶対の物にするつもりだろう。
「・・・コイツだけは、勝たせちゃ駄目ね。」
 恵さんも分かっている。篤則は、セントの力を見せ付けるのと同時に、『無』の
力を集めるつもりなのだろう。大会の実力者を勝者の権限で集めて、力を集める。
それが狙いだろう。そうすれば、一気に事が進む。
「しかし・・・このアルヴァってのは、何者なんだ?」
 レイクさんが首を傾げる。確かに、聞いた事が無いなぁ。
「資料によれば、元老院の一人で、ツィーア財閥の当主らしいわよ。」
 ファリアさんは、資料を読み上げる。ツィーア財閥ねぇ。
「父親が死んで、後を継いだとありますわね。・・・ふーん・・・。」
 恵さんは、自分と重ねているのかも知れない。
「どこかで聞いた事あるんだけどなぁ・・・。」
 僕は、記憶の片隅に聞いた事があった。だけど、うろ覚えで思い出せない。
「この人が、ゼロマインドの片割れと言う可能性はあるのか?」
 レイクさんは、篤則がシンマインドなので、それも考慮していた。
「多分違いますわ。・・・恐らく、敢えて外してくるでしょう。」
 恵さんは、見解を述べる。敢えて外してくる・・・か。
「そうね。私も同意見よ。ゼロマインドは、正体がバレるのを、かなり恐れている。
それなのに、ゼロマインドの片割れ同士で組むなんて、危険過ぎるからね。」
 ファリアさんも同調した。確かにゼロマインドは、正体を極度に隠している。
「只の人数合わせかも知れませんが、用心に越した事はありません。」
 恵さんは、引き続き調べて置くようだ。
「後は気になるのは、ジュダさんと魁だね。」
 僕は気になっていた。ジュダさんと組んだと言うのも驚きだが、あれから一度も
学校に来ていない。何でも特訓中だそうだ。
「魁を本格的に闘えるようにしているんだろうな。」
 レイクさんも、気になっていた。結構仲が良いからね。
「案外、莉奈を守れるようにしてあげるのが、目的かも知れませんわね。」
 恵さんは、楽しそうに笑う。莉奈を守る・・・か。そうだね。僕が付きっ切りで
見ている訳にも行かないし、魁にはある程度守ってもらうしかない。この前、拳斗
先輩の手下に襲われたって聞くし、心配だしね。
「さて、じゃ、今後の強化方針と行きますか。」
 ファリアさんは、特訓の方向性について、話題を切り出す。
「私は・・・パーズ拳法を、もうちょっと鍛えたいですわ。」
 恵さんは、パーズ拳法を強くさせたいようだ。
「良いよ。でも、パーズ拳法に特化する理由は?」
 僕は、一応の為聞いてみる。何となく気になったのだ。恵さんが、こう言い出す
のは珍しいからだ。パーズ拳法に限らず、強化する物だと思っていた。
「私は・・・弱点を克服したいのかも・・・。」
 弱点?恵さんのパーズ拳法のレベルは、既に達人の域に近い。弱点とは言えない
様な強さだと思うのだが・・・。どう言う事だろう?
「恵さんのパーズ拳法は、僕から見ても、凄い域だと思うんだけどなぁ・・・。」
 僕はお墨付きを与える。お世辞なんかではない。本気でそう思っていた。
「違うんですの・・・。私、何でも器用にこなせる・・・。一流になれる自信はあ
ります。・・・でも、超一流になれる自信がありませんの。」
 恵さんは、悩んでいたようだ。そうか。恵さんは、どんな事でも手を抜かないし、
才能もあるから、すぐに一流になれる。だけど、それを超えた超一流になる事が出
来ないでいる。それが、悩みだったんだな。
「ピンと来ないなぁ・・・。恵は、凄い能力の持ち主だと思うけどな?」
 レイクさんには、ピンと来ないようだ。
「でも、合気道では葉月に、パーズ拳法では俊男さんに、魔力はファリアさんに、
絶対及ばない・・・。これじゃ、半端で、足を引っ張るだけ・・・。」
 恵さんは、思ったより深刻に悩んでいるようだ。
「はぁ・・・贅沢な悩みねぇ・・・。」
 ファリアさんは、呆れていた。それはそうだ。恵さんは、超一流になれない事を
悩んでいるのだ。一流にすらなれない人には、分からない事でもある。
「恵さん。僕は、恵さんにしか無い能力を知ってるよ。・・・それは、一流として
身に付いた能力を、場面場面で切り替えて使いこなせる事だよ。」
 僕は、恵さんにしか出来ない事を言う。恵さんは、身に付いた能力を、切り替え
て全力で使いこなす事が出来る。だから、相手に合わせて戦闘スタイルが変えられ
るのだ。これは、大きな強みだと思う。
「俊男君、分かってるじゃない。その通りよ。恵さんは、それを瞬時に切り替えら
れる頭の回転の速さを持ってるのよ。それは、誰にも真似出来る事じゃないわ。」
 ファリアさんは、付け加えてくれる。前に士さんが、ゼハーンさんを評して、不
動真剣術と天武砕剣術の二つを瞬時に切り替えられるのが、強みだと言ってたのを
思い出す。そう言われた時に、僕は恵さんの事を思いついていた。
「恵さん。パーズ拳法を教えるのは、大歓迎だし、是非やろう。でも、他の事も疎
かにしない恵さんが、僕は好きなんだよ。」
 恵さんは、どんな事でも手を抜かない。その孤高な姿が、僕は好きだった。
「・・・んもう・・・。分かりましたわ。能力を磨くのは、忘れませんわ。」
 恵さんは、納得してくれたようだ。
「その代わり、僕にも合気道を教えて欲しいな。あの切り返しは、絶対役に立つか
らね。僕も強くなりたいんだ。」
 僕も頼み込む。パーズ拳法だけで乗り切れる程、甘い大会じゃないと思っている。
勿論、パーズ拳法は優れた闘技だが、それに加えた何かが欲しい。
「フフッ。そう言う事なら、大歓迎ですわよ。」
 恵さんは、喜んで了承してくれた。これで、僕も強くなれそうだ。
「おもしれぇな。俺の剣術も教えるから、体捌きとか教えてくれよ。」
 レイクさんも、乗り気のようだ。皆で強くなるのは、大歓迎だ。
「決まりね。それぞれが教えて、強くなる方針ね。私も混ぜてよね。」
 ファリアさんも、当然乗り気だ。
「あ。そうだ。レイク。前に頼んだ事、覚えてる?」
 ファリアさんは、レイクさんに何かを確認する。
「・・・本当にやるのか?正直、あれは、最終手段だと思っているんだが。」
 レイクさんは躊躇いがちだ。何をするつもりなんだろう。
「良いのよ。成功すれば、貴方の剣だって、受け止められるようになるしね。」
 ファリアさんは、自信たっぷりだ。
「・・・暴走しないかどうか、見ててやるからな。」
 レイクさんは、そう言うと、ファリアさんに柄のような物を渡す。
「それは何です?何か、刀身が無いように見えるんですが?」
 柄だけの剣・・・。異様だが、どこか迫力に満ちている気がする。
「親父から貰った剣で、『法力(ほうりき)の剣』だそうだ。・・・闘気に反応し
て、刀身が出る仕掛けになっている。」
 レイクさんが説明してくれた。何だか、凄い剣だな。
「便利な剣ですのね。でも、何で危険なのかしら?」
 恵さんが、僕と同じ疑問をぶつける。暴走するとは、どう言う事なのだろうか?
「この剣は、サイジン=ルーン。つまり、ファリアのご先祖が使った事がある剣な
んだ。その魂を取り込んで、『召喚』を付与すると言ってるんだ。」
 『召喚』を付与する?って事は、サイジンの魂を呼び出すつもりか?
「大丈夫ですの?暴走したりしないんですの?」
 恵さんも、心配になってきたようだ。
「良いのよ。それに、それくらいやらないと、勝ち抜けないと思ってるからさ。使
いこなせば、レイクの相手するのも、捗る筈よ。」
 確かに、サイジンともなれば、ジークの剣を受けてきた英雄の一人だ。
「ま、今やっちゃうか。暴走したら、頼むわね。」
 ファリアさんは、善は急げとばかりに、集中しだす。
「もう・・・唐突ですのねぇ。ま、見ててあげますわ。」
 恵さんは、文句を言いながらも、対応の準備をしていた。
「さーて。ご先祖様。頼むわよー・・・。『召喚』のルール!!」
 ファリアさんは、刀身を握ると、『召喚』のルールを付与する。すると、刀身に
宿っていた何かが噴出すように出てきた。これは、魂か?
「ファリアさん!大丈夫ですか!?」
 僕は、ファリアさんの様子を見る。制御するのに手古摺っているようだ。
「大丈夫・・・。もう少し・・・!・・・私の『召喚』に応じなさい!」
 ファリアさんは、莫大な魔力を放出して、制御に力を入れる。
「言わんこっちゃ無い。・・・『制御』のルール!」
 恵さんが、『制御』のルールで、ファリアさんの状態を安定させる。
「ファリア!・・・いけるか?」
 レイクさんがファリアさんの手を握ってやった。その瞬間、ファリアさんを囲っ
ていた何かが、ファリアさんの目の前に現れた。
「・・・おや?・・・私は・・・。と、ここは、どこでしょう?」
 刀身から随分と長身の人が現れる。これは・・・伝記の達人、サイジンなのか?
「ここはガリウロルのサキョウの名家、天神家ですわ。私は天神 恵よ。」
 恵さんが、手早く説明する。すると、その人は、周りを見渡す。
「もしや、私は『召喚』されたのか?いやはや、そんな使い手が居るなんて・・・。
って、レルファ!レルファが何故、この時代に?」
 ・・・この人、絶対サイジンだ。ファリアさんを伝記の恋人であるレルファと見
間違えるなんて・・・。
「・・・私は、ファリア=ルーンよ。ご先祖様。」
 ファリアさんは、魔力が安定してきたのか、眼を見て答える。
「わ、私の子孫でしたか。・・・フム。レルファにそっくりですねぇ。それにそこ
の君、ジークに似てますね。ビックリですよ。」
 サイジンは、レイクさんを見て、勝手に頷いていた。
「俺は、レイク=ユード=ルクトリアだ。ご先祖様の事は、よく言われる事だな。」
 レイクさんは、溜め息を吐く。何度言われた事かと、愚痴を溢していた。
「僕は、島山 俊男って言います。パーズ拳法の使い手です!」
 僕は一応挨拶をしておく。じゃないと、失礼な気がした。
「ほう。パーズ拳法。私の時代でも、ショウ王が、普及させてましたね。」
 サイジンは、ショウさんの事を思い出しているようだ。
「まずは、今の時代の説明をしておきましょうか。」
 恵さんは、説明する事にした。そして、分かり易く、この時代の説明をする。そ
して、何故サイジンを呼び出したのか、説明してあげた。
「ふーむ・・・。ジークが危惧していました。『人道』は、いつまでも続くか分か
らないと・・・。だが、実際そうなってると、悲しいですね。」
 サイジン・・・いや、サイジンさんは、悲しそうにしていた。
「しかし、貴方達のように、何とかしようと行動している人達が居るのは、救いで
はありますね。それに、ワイスや健蔵が変わっている事も見てみたいですね。」
 サイジンさんは、この時代に興味を持ったようだ。
「それに、私の子孫であり、レルファに似ている貴女の助力となるのに、異存はあ
りません。私の剣技などで良ければ、喜んで力を貸しましょう。」
 サイジンさんは、レルファさんに助力する事を了承する。
「宜しくね。ご先祖様。」
 ファリアさんは、涼しい顔で契約を済ませる。
「私を使いたかったら、この剣を握り締めるだけで良い。その時に『召喚』に応じ
ましょう。私の剣技の記憶を、貴女の物とします。」
 サイジンさんは、『法力の剣』を指差すと、説明する。
「分かったわ。出るからには、優勝を狙うわよ。」
 ファリアさんは、やる気タップリだ。
「優勝宣言されちゃいましたわね。これは、生半可では勝てませんね。」
 恵さんは、口調とは裏腹に嬉しそうだった。おっかないなぁ。
「こりゃ、特訓を、本格的に強化しなきゃね。レイクさんは、間違いなく強化され
るだろうしね。参ったなぁ。」
 そう。ファリアさんの戦力になるのは勿論の事、レイクさんも、ファリアさんと
手合わせする事を考えると、剣の鋭さが増す事だろう。
「なーに弱気になってるんだよ!・・・お前達も、強くなってさ。この面子で、決
勝戦をしようぜ!魔族もゼロマインドにも負けずにさ!」
 レイクさんは、発破を掛けてくる。そうだね。弱気になるのは良くない。
「分かりました。僕も負けませんよ!レイクさん!」
 僕は、レイクさんと握手をする。
 これで、僕も負けられなくなったな。ハッキリ言って、皆強い。だけど僕も、こ
こまでやってきたんだ。負けられない!!



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