NOVEL Darkness 6-2(First)

ソクトア黒の章6巻の2(前半)


 2、宣告
 殺しが無い大会か・・・。平和な事だ・・・。『人斬り』をしていた時は、平時
であっても、殺し合いに発展する場合が多かった。実際に殺した数は、どれだけ居
る事だろう。依頼を受ければ、その標的を殺すのは、当然の事だ。
 俺の人生の中で、死の臭いが無い時期は、余り無い。自分の命が狙われ、仲間の
命が狙われ、敵の命を狙う。そんな毎日が多かった。
 今は平和なもんだ・・・。とは言え世の中的には、物騒になってきたとも言えな
くは無いか。何せ、魔族が普通にテレビに出てきてるんだからな。少し前の常識か
ら照らし合わせても、驚かざるを得ない。
 しかも、あのお嬢様まで魔族の血を引いていたとはな。確かに瘴気を感じたが、
魔族の血を引いてるとは思わなかったぜ。
 最近では、皆との手合わせ以外に、個人的にも特訓をしている。レストラン『聖』
を昼食だけで切り上げて、夕方から夜に掛けては、仕事仲間と共に、特訓の毎日だ。
夕方の特訓は、いつもの面子で、がやがや特訓をする。だから、いつも個人的にや
ってる特訓が、どれ程なのか、見れる場所でもあるんだが・・・。
「行くわよ・・・。はああああぁぁ!!」
 恵が、気合を入れて、俊男と向かい合う。凄い闘気だ。しかも、あの構えは、パ
ーズ拳法の八極拳だな。俊男も同じポーズをしている。
「じゃ、始めようか!」
 俊男の声と共に、恵が突っ込んでいく。まるで演舞のような組み打ちだった。互
いが互いの打ち込みを半歩で進みながら、守りと攻撃を同時に意識したような打ち
合いだ。その見事さたるや、惚れ惚れする程だ。
 そして、俊男の足払いに反応して、恵は体を反転させて避けながら裏拳を放つ。
それを俊男は、左手で防ぎながら、右の正拳突きを放った。しかし恵は、右手で打
ち払うと、左手を添えて力を利用して投げようとした。合気道も混ぜてるのか。
「フッ!!ハァッ!!」
 俊男は、その投げに逆らわずに体を回転させると、逆に恵の手を捻って、投げよ
うとする。しかし恵は、既に見破っていた。
「ええい!!」
 恵は、捻られる前に俊男の足を払って、逆に投げようとする。俊男は、小手返し
の要領で投げられた。そこに恵の拳骨が迫る。しかし俊男は、体を回転させながら
起き上がり、恵と対峙する。そして恵の脇腹を狙って、渾身の拳を繰り出す!
「・・・っと・・・。」
 俊男は、恵に当たる寸前に拳を止めた。いや、いつの間にか恵も俊男に膝蹴りを
入れる寸前まで来て、止めていたのだ。
「ふー・・・。さすが恵さん。」
 俊男は、拳を緩める。どうやら、相討ちだと理解したようだ。
「俊男さんも、合気道をモノにしてきてますわ。素晴らしいです。」
 恵も、膝蹴りを下ろす。と言うか、アイツ等何なんだ。この短期間に、あそこま
で成長してるってのか?どんだけ特訓してるんだ・・・。
「なんつー、気合の乗りようじゃ・・・。負けられんのう・・・。」
 巌慈が、横で俊男と恵の強さを見て、呆れていた。
 しかし、それだけではなかった。奥で、レイクとファリアが打ち合っているのだ
が、これまた恐ろしいレベルだった。どうなってんだ・・・。
「チィ!!・・・さすが!!」
 レイクは、ファリアの厳しい攻めに対応するのがやっとだ。て言うか、ファリア
の剣技の冴えが、明らかに違う。今までも、武器次第で凄い動きをしていたが、今
回のは、そんなレベルでは無い。
「まだよ!・・・天武砕剣術!袈裟斬り『火炎(かえん)』!!」
 そう。これも驚きだ。ファリアの剣技は、天武砕剣術の動きだった。ゼハーンに
聞いてみたが、動きが完璧に近いらしい。ファリアの苛烈な袈裟斬りを、レイクは
後退しながら受け止める。そして、一歩引くと木刀を少し引く。
「そこよ!!」
 ファリアは、何かを見切ったのか、レイクの技に合わせる。
 ガキィ!!!
 凄い音が鳴って、木刀はどちらも木っ端微塵になった。
「・・・不動真剣術、突き『雷光(らいこう)』・・・。なんだけどなぁ。」
 レイクは、決めに来たのだが、ファリアが同じような技で返したのだ。
「こっちは、天武砕剣術、突き『雷鳴(らいめい)』よ。」
 正に同種の技で、潰しに来たのだ。何と言うセンスだ。
「ファリアさん、凄いねぇ。」
 瞬が、驚きながら、二人に近付いてくる。ありゃ凄いなんて物じゃない。
「あは!皆の前で見せるのは、初めてだけどね!」
 ファリアは事も無げに言う。恐ろしい奴だ。
「この『法力の剣』に宿る英雄、サイジン=ルーンのおかげよ。」
 ファリアは、そう言うと、サイジン=ルーンを出現させる。
「ご紹介預かりました。サイジン=ルーンです。お見知り置き下さい。」
 これはビックリした・・・。英雄を実際に『召喚』するとは・・・。
「え?君がサイジン君?うわー。大きくなったんだなー。」
 瞬は、懐かしそうに言う。ああ。そうか。1000年前に行って来たとか言ってたな。
「む?その出で立ち・・・。もしかして、シュンさんですか?」
 サイジンは、何かに気が付いたようだ。
「あ。覚えてた?君が幼い頃に子守してたんだよ。俺。」
 瞬は、英雄を前にして、全く怯んでいない。さすがだな。
「父上から聞いた事があってね。私を命を懸けて守った子守が居ると・・・。そし
て、『秩序無き戦い』を手伝った空手家が、その人物だと。・・・1000年後で出会
うとは、これも運命ですかね?名は、アマガミ シュンで合ってますね?」
 サイジンは、確かめるように言う。すると、瞬は嬉しそうに頷いた。
「やっぱりサイジン君だな!伝記に載るくらいの人物になるなんて、俺も嬉しいよ。」
 瞬は、満面の笑みで応える。
「貴方には、感謝し足りない。私の命を守り、そして・・・私の父と母の命も救っ
た・・・。皆は私を英雄と言うが、真の英雄足る人は、貴方だ。」
 サイジンは、非常に温かい眼で瞬を見る。本当に感謝してるんだな。
「え?父と母って・・・。出会えたの!?」
 江里香が、サイジンに尋ねる。そういや伝記では、そこまで書かれていない。
「貴女は、イチジョウ エリカですね。マレルさんが感謝していました。・・・貴
女との出会いが無ければ、前に踏み出せずに居たとね。・・・私が、父と母に出会
ったのは、『神魔戦争』の2年後です。父上は驚いていましたが・・・父と母が、
助けられた全容を、教えてくれました。その時の父上は、貴方達に涙を流して感謝
をしていました・・・。だから私は、貴方達4人の事を、忘れる事など出来ません。
シマヤマ トシオと、アマガミ ケイもね。」
 サイジンは、恵と俊男にも、親愛の眼を向ける。
「私は人として、当然の手伝いをしただけよ。でも、良かったですわ。」
 恵らしい感想だった。あのお嬢様は、人助けは当たり前だと思ってやがる。
「いやー、出会えたなんて、僕も感激だよ!良かったね!」
 俊男は、我が事のように喜ぶ。お人よしな奴だ。
「しかし『闘式』では、敵になる訳ですね・・・。」
 サイジンは、分かっていた。ファリアの『召喚』に応じたと言う事は、いつか、
ぶつかる可能性があるという事をだ。
「何を残念そうにしてるんです?私は楽しみですのよ。ぶつかったら、全力で来な
さい。私が、貴方の成長も含めて、見て差し上げますわ。」
 恵は、遠慮するなと言いたいのだろう。
「そうだよ!全力でぶつかって、頑張ろうよ!」
 俊男も、燃えているようだ。変わらんな。コイツ等は。
「安心しました。やはり貴方達は、私の想像以上の人物のようだ。恵さんに俊男さ
ん、彼の繊一郎(せんいちろう)さんが脱帽した力を、私にも見せて下さい。」
 サイジンは、繊一郎の名を口にする。恐らく、榊 繊一郎の事だろうな。
「うわー。私の祖先の名前が出ちゃったよ。何でも有りだねー。」
 亜理栖が、冷や汗を掻く。そう言えば亜理酢は、繊一郎の子孫か。
「繊一郎さんか。懐かしいね。強かったよね。」
 俊男は、思い出していた。短い間だったらしいが、心で覚えていると言っていた
な。それだけ、印象深かったって事だろう。
「負けず嫌いでしたわね。でも、あのまま子供も作らなかったなんて・・・。」
 恵は繊一郎が、子孫を作らずに死んだ事が、気になっていたようだ。
「繊一郎さんは、若い頃に会った鮮烈な女性を、超える人が見つからなかったので、
独身を通したそうです。・・・私も、その訳が分かりましたよ。」
 サイジンは、繊一郎から聞いた事を、話してやった。成程。恵の事が忘れられな
かったのか。律儀な男なんだな。
「全く・・・。強情なんだから・・・。」
 恵は、複雑な表情をしていた。自分の事を言われているのは、分かっている。だ
が、恵と繊一郎が結ばれる運命じゃない事は、繊一郎も分かっていた事だ。
「繊一郎さんには悪いけど、恵さんの隣は、僕が引き受けると決めたからね。」
 俊男は、真面目な顔で言った。中々青臭い事を言うじゃないか。
「そう言う事は、真顔で言うのは、止めて下さる?」
 恵は、少し顔を赤らめながら、口を尖らす。恥ずかしがるとは、青春だな。
「ハッハッハ!眼福ですな。この時代も、面白いですな。」
 サイジンは、伝記の通り、馬鹿笑いをする。本当の話だったんだな。
「ご先祖さぁ・・・。あまり自由にされても困るんですけど?」
 ファリアが困っていた。まぁ、気持ちは分からんでも無いな。
「む?召喚者がそう言うなら、控えますかな。ああ。それと、ご先祖と言うのは、
あまり好ましくない。サイジンで良いですぞ。」
 サイジンは、名前で呼んでもらいたいようだ。
「了解。その方が私もやり易いわ。宜しく。サイジン。」
 ファリアは、即対応する。寧ろ、こう呼ぶ事を望んでいたようだな。
「んー。その声で名前を呼ばれると、生前を思い出します。やる気も倍増ですよ。」
 サイジンは、身悶えしている。気楽な英雄様だな。
「ところで、ここで一番強いのは、貴方か?」
 サイジンは、俺の方を見る。
「剣術では、まぁ一応は俺と言う事になるのか?」
 別に誇る訳じゃないが、総合的に一番上なのは俺かな?
「士さんは、マジで強いですよ。剣術に隙が無い。」
 レイクが、俺の事を褒める。最近ではレイクも、かなり近付いてきたけどな。
「お手合わせ願いたいのだが、どうかな?私の実力を見ると言う意味でも?」
 サイジンは、俺の事を誘ってくる。良い度胸だな。
「そう言われると、断りづらいな。良いぜ。伝記の剣士と闘うなんて、早々無いチ
ャンスだ。やってやるさ。」
 俺は、木刀を構える。伝記の剣士であるサイジン=ルーンと闘えるなんてな。
「素晴らしい闘気と瘴気。これは、遣り甲斐がありますね。・・・ファリア。私の
力を貴女に分け与えましょう。」
 サイジンは、そう言うと、ファリアの中に入る。するとファリアは、木刀を持っ
て、凄まじい程の闘気を発する。さすがだな。
「サイジン。どうやら、やる気タップリのようね。良いわ。付き合ってあげる。」
 ファリアは、覚悟を決めると、木刀に闘気を伝わせる。
 凄い闘気だな。ゾクゾクしやがるぜ。俺も、本気で掛からなきゃな。
「さーて、サイジン行くわよ。・・・士さん。行きます!」
 ファリアは楽しそうだった。魔法使いであるファリアが、あそこまで剣の達人に
なれるんだから、それは楽しい筈だわな。
「考えても無駄よね。なら、こっちから!!」
 ファリアは、突っ込んできて、俺に木刀を振るう。そして、その鋭さは、眼を見
張る物があった。しかも、上段かと思えば、その次は斜め下からの斬り。その速さ
は、流れるようであり、全てを合わせて、それ自体が剣技のように思える。常に死
角を突いてくる。この剣筋は、『死角剣』か!
「フッ!ハッ!!・・・っと、あぶねぇな・・・。」
 俺は、何とか木刀で受け止めきる。だが、スレスレの剣筋もあった。『死角剣』
の存在は知っていたが、此処まで完成度が高いと、やばいな・・・。
「それを受けきる貴方も、さすがとしか言いようが無いわ。」
 ファリアは、最後まで『死角剣』を出し切ると、意図的に後ろに下がる。
「ふぅぅぅ!!ええい!!」
 ファリアは、木刀を振って、衝撃波を3発打つ。それを俺に飛ばしてきた。俺は、
それを木刀の背で丁寧に受ける。その瞬間、ファリアは一気に距離を詰めてきた。
そして、そのまま袈裟斬りに入る。
 ガキィ!!
 凄い音が鳴った。俺も、同じような技で対抗した為だ。そのまま弾かれるように
距離が開いた。しかし、今のは危なかったぜ。
「うわぁ・・・。あれを、同じ袈裟斬りで返す?凄いわね。」
 ファリアは、冷や汗を掻く。俺も袈裟斬り『一閃(いっせん)』で対抗したのだ。
「飛び道具の後に、接近して袈裟斬り。常套手段だが、それだけ流麗だと、それだ
けで脅威だな。全く・・・。恐ろしい冴えだ。」
 俺は、息を整える。魔法使いの剣技じゃないぜ・・・。
「天武砕剣術、居合い『風牙(ふうが)』の後の、袈裟斬り『疾風(しっぷう)』。
上手く行くと思ったんだけどなぁ・・・。」
 ファリアは技名を披露する。
「私に迫るほどの勢い・・・。さすがは伝記のサイジンだな。」
 ゼハーンが、自分の剣技と比べていた。
「やるな・・・。なら、これはどうだ?」
 俺は、木刀で魔の六芒星を描く。俺にとっては、慣れ親しんだ技だ。
「士も、本気になったようだヨ!あの技を出すなんてネ。」
 センリンが、俺の本気度を、推し量る。この技には自信があるからな。
「参ったなぁ・・・。じゃぁ、これで対抗しますか。」
 ファリアは、魔力の塊で4箇所を光らせると、その中心に魔力を集中させる。
「・・・何をするか知らんが、防ぎ切れるか!?」
 俺は、そのまま六芒星に瘴気を載せる。行くぞ!!
「これぞ霊王剣術、奥義『滅砕陣(めっさいじん)』!!」
 俺は技名を叫ぶと、ファリアに滅砕陣を撃ち放った。
「防ぐ?違うわ!これで対抗するのよ!」
 ファリアが叫ぶと、特殊な魔法陣の真ん中から、魔力の塊が飛び出してきた!こ
の魔法は何だ!?見た事が無いぞ!!
「驚く事は無いわ。古代に、攻撃魔法が無い魔法使いが、魔力を増幅させて攻撃手
段にするなんてのは、日常茶飯事だったのよ!」
 ファリアは、太いレーザー状の魔力の塊を滅砕陣にぶつけた。凄い!あの滅砕陣
と拮抗してるだと!?木刀でもかなりの威力の筈だが・・・。
 ドォン!!!
 物凄い音と共に、魔力も滅砕陣も掻き消えた。相殺されたか!
 すると、その隙にファリアが、目の前に来ていた。しかし、読んでいる!ファリ
アの三段攻撃を全て防いで、胴に袈裟斬りを入れた!
「きゃ!!・・・うぐぅ!」
 ファリアが吹き飛ばされた。そして、その吹き飛ばされた先に俺は移動して、フ
ァリアの首筋に木刀を当てる。・・・そこで俺は、木刀を止めた。
「さっすがー。私の負けよ。」
 ファリアは降参する。・・・しかし、危なかったぜ・・・。まさか、あの魔力の
塊を出した後に突っ込んでくるとは・・・。気配を感じて読んでいなかったら、負
けていたのは俺だったかも知れない。
「負けてしまいましたねぇ。いやはや、お強いですな!」
 サイジンが、ファリアから出てくる。『召喚』が効いてる間は、いつでも出られ
るようだ。便利だな。それにしても・・・。恐ろしいコンビネーションだった。
「おいおい。今の魔法は、何物だよ。」
 エイディが、近寄って尋ねてくる。余程不思議だったらしい。
「今のは、古代魔法の『魔砲(まほう)』よ。古代では、五芒星や六芒星ではなく、
四方陣が主流だったのよ。その真ん中に力を集めて、魔力を効率良く放出して、そ
のまま攻撃に使うのが、『魔砲』よ。」
 ファリアは、説明してくれた。古代魔法だったのか。
「ってーと、少ない魔力であれだけ放出するってのか?恐ろしいな。」
 グリードも、今の魔法の恐ろしさを実感したらしい。
「いやぁ、さすがファリアだねぇ・・・。早い内から当たりたくないね。」
 亜理栖は、肩を竦める。今の魔法の放出量は、あれでも抑え目みたいだな。
「しかし、あれに勝つとは、さすがじゃのう。士さんは。」
 巌慈が褒めてくれた。だが、実際は危なかったけどな。
「さっすが、油断はしないね。士さん。」
 ジャンが、肩を叩いてくる。闘いで油断などするか。
「勝ったとか、終わったとか思ったら、その時点で負けだ。覚えておくんだな。」
 俺は、ジャンに忠告を含めて言っておく。コイツは、油断する癖があるからな。
「覚えておくよ。ウチもね。ジャンだって分かってるね?」
 アスカは、ジャンをからかいながら、俺の言う事を聞いていた。
「この時代も、面白いですね。これは、降臨した甲斐があります。」
 サイジンは、嬉しそうだった。そう思えてもらえれば、光栄だ。
「ま、またやる機会もあるだろ。その時まで、鍛えておくんだな。」
 俺は、そう言うと、サイジンとファリアに握手をする。
「俺も燃えてきたぞー!絶対強くならないと!」
 レイクは、俺とファリアの手合わせを見て、思う所があったようだ。
「さすが兄貴。あれを見ても、めげないね。」
 グリードは、冷や汗を掻きながらも、レイクを頼もしそうに見ていた。
「私達も頑張ろう!このままでは、負けてしまうぞ?」
 ゼリンは、グリードに言い聞かせるように言う。意外と乗り気なんだよなぁ。
「やっぱり、対策立てないと駄目だなぁ・・・。」
 葵は、この光景を見て、ウンウンと頷いている。エイディのフォローだけに終わ
るつもりは無いみたいだな。向上心が有るのは良い事だ。
「それにしても・・・此処に来てない連中は、平気なのかねぇ?」
 ジャンは、思い出したように言う。此処に居ないのは、ジュダに連れ去られた魁、
赤毘車と猛特訓している葉月、道場で腕を磨いている勇樹、ネイガと組んだショア
ンもだ。後は修羅が、レオナルド=ヒートと共に腕を磨いているらしい。
「それだけ、特訓に集中しているって事だ。楽しみだ。」
 瞬は、猛特訓をしている連中の事を、信じているようだ。
「皆様、そろそろお昼の時間で御座います。」
 睦月が、ティーエとジェイルを連れながら、昼飯の合図をする。
「皆、強くなってますね。『闘式』では、応援しますよ。」
 ジェイルは、応援に回るようだ。
「現地に見に行くつもりだからね。皆は、負けないようにね!」
 ティーエは、ジェイルと共に、応援に回るようだな。
「魁君、大丈夫かなぁ?私、心配だよ。」
 莉奈が、中々帰ってこない魁の心配をしていた。
「ジュダさんと一緒だし、まぁ大丈夫でしょ。アイツ、案外しぶといし。」
 葵は、莉奈を元気付けていた。微笑ましい光景だな。
「魁は強くなるよ。莉奈の為にも、頑張るだろうね。そう言う奴だよ。」
 俊男は、ある種の確信を持っていた。魁はああ見えて、根性がある。そして仲間
を想う気持ちは、本物になりつつある。あれなら、強くなるだろう。
「さて、昼食を摂りましょう。その後、続きをしますわよ。」
 恵が、号令を掛けると、皆はそれに従う。
 ・・・それにしても、危なかった・・・。これは俺も対策を考えなきゃならんよ
うだ。只の力押しじゃ、『闘式』では勝てないな・・・。


 宇宙には、様々な星がある。俺達が、星として見えているのは恒星と言って、光
り輝いている。恒星は質量が半端無く、自ら発光しつつ燃え盛っている。その表面
温度たるや、1万度を超える物もあると言うのだから、驚きだ。
 その周りに周る惑星の内の一つがソクトアだ。俺達が太陽と呼んでいる星も、他
の生物が居る惑星から見れば、違う名前が付いているのだろう。ただしソクトアは、
他の惑星の質量から考えると、とんでもなく高密度で、強い生命体が生まれ易いの
だとか・・・。それこそ、恒星に迫る質量らしく、そこから生物が生まれるのは、
それこそ稀なんだとか。その奇跡の星に、俺達は居るらしい。そもそもそこまで質
量のある星は、惑星でもガス惑星の塊になる場合が多いらしく、陸地と海面が存在
する惑星の中で、これほど高密度に保たれている星は、他に無いのだとか。
 太陽と衛星である月があり、生物が住んでいる星は、他にもあるらしいが、これ
程のバランスで保たれている星は、中々無いのだと言う。衛星が多数あったり、太
陽が弱い光で多数有るような星もあるらしく、太陽と衛星が1個ずつと言うのは、
結構珍しいのだとか。当たり前のように太陽と月が対になっているので、意識した
事は無かったが、教えられると、成程と思う事が多い。
 生物が住んでいる星は、少ないが無い訳ではない。寧ろ数だけを言えば、相当な
数になる。だが宇宙には、数え切れない程の星があるのだ。なので、少ないと言っ
てもそれだけの数になるのだ。
 神は、その生物が住んでいる星を管理するのが主な仕事だと言う。ソクトアも最
重要地域ではあるが、その内の一つであり、そこだけに構っていられないのだとか。
ジュダさんが病気で苦しんでいる間も、他の神をあらゆる星に派遣し、救って見せ
てきたのだとか。忙しい事だ・・・。
 その穴埋めではないが、仕事に対しては、仕事に報いるのが一番と言う事で、久
し振りの仕事再開に、ジュダさんは嬉しそうにしていた。まぁ、それは分かるんだ
が・・・何で俺まで、付いて来てるんだ?
「何だ?不満そうだな?魁。」
 ジュダさんは、涼しい顔で俺に話し掛けてくる。
「いや、だって、いきなり違う星に来れば、面食らいますって。」
 俺は、ジュダさんに修行だと連れてこられた星が、ここだった。
 それにしても殺風景な星だ。海も無ければ、空気だって余り濃くない。それに重
力が強いせいか、体が重く感じる。一体どうなってるんだか。
「動き辛そうだな。まずは、この星に慣れるんだな。」
 簡単に言ってくれる。立ち上がるだけでも一苦労だってのに。
「うぐぐ・・・。ど、努力はしますー・・・。」
 俺だって、強くなりたくない訳じゃないが、こりゃきつい・・・。
「さーて、あそこに街がある。ちょっくら挨拶に行こうぜ。」
 ジュダさんは、軽く言ってくれるが、この状態では、それすらも苦しい気がする。
「りょ、了解・・・ですぅー。」
 俺は、気力を振り絞って、ジュダさんに付いて行く事にした。こんな所で置いて
かれたら、それこそ命取りも良い所だからだ。
 しばらく歩くと、確かに街らしき物が見えてきた。やけに石で出来た建物が多い
気がする。随分頑丈そうに見えるな。
「ああ。そうだ。これ付けてろよ。じゃなきゃ、ここの住人と話が出来んぞ。」
 ジュダさんは、ちょっとしたネックレスを身に付けさせる。なんだこれ?
「自動的に翻訳させる為の魔力が篭ったネックレスだ。肌身離さず付けておくんだ
な。此処の住民は、ソクトアの言葉とは、言語自体が違うからな。」
 成程。これが無いと、コミュニケーションすら取れないって訳か。
「って言うか、人間が住んで居るんですか?」
 こんな荒廃した土地に、人が住めるんだろうか?
「・・・まぁ、居ねぇな。だが、喋れる種族は居る。その目で確かめな。」
 喋れる種族は居る?つまり魔族か何かかな?それはそれで怖いな。
 ジュダさんは、教えてくれた後、街へと足を踏み入れる。すると、何かがこっち
を睨んでいる感じがした。これが原住民だろうか?
「様子を見張られているな。ま、最初の内だけだろうがな。」
 ジュダさんは、特に気にしていないようだ。俺は、とても気になるんですが。
 しばらくすると、トカゲのような体をした怪物が、建物の中から現れた。だが、
二本足で立っている。すっげぇ怖いんですが。
「・・・な、何すかあれ?」
 俺は、怖い何処ろの騒ぎじゃなくなっていた。足が震えている。
「落ち着け。あれが、此処の原住民だ。ネックレスがあれば、喋れるぞ。」
 ジュダさんは、俺の首を指差す。これで、あれと喋れるってのか?
「・・・貴方達は・・・。もしや!」
 トカゲの一人が、何かに気が付く。結構渋い声だな。
「おい!爺を呼べ!長老を此処へ!!」
 トカゲの一人は、何かに気が付いたようで、誰かを呼んでいた。
 すると、さっきのトカゲより、腰の曲がったトカゲが出てきた。爺さんかな?
「うむぅ。これは・・・間違いあるまい!!」
 爺さんトカゲが、確信を持った声で言う。
「貴方達は、神であらせられるな?お告げの通りじゃ!」
 何やら、仰々しい感じで頭を下げられる。・・・て神?まぁジュダさんは神だけ
どさ。俺は、何も関係ないんですが・・・。
「ご名答だ。俺が此処に来た理由は分かるな?」
 ジュダさんは、当然のように答えを返す。俺の事も説明して欲しいんだが。
「この星の『命の火山』を止めに来たのですな?」
 長老さんが、妙なキーワードを出す。『命の火山』?
「お前達が、信仰しているのは知っている。だがあれは、放って置けば、1ヶ月程
で大噴火を起こして、この星は、死の星になる。分かっているな?」
 ジュダさんは、説明してやる。それは大変な事じゃねぇか。1ヶ月で死の星って、
とんでもない事だぞ。何で、こんな平然として居られるんだ?
「別の星に避難する事は、考えないのか?」
 ジュダさんは、救助案を提示する。確かに、死の星と化す所に留まるくらいなら、
別の場所に行くのも手だ。荒廃としていたのは、そのせいか。
「神よ。救済案は感謝する。じゃが我等は、この星の生まれ。この星が滅びると言
うのならば、運命を共にします。」
 長老は、揺ぎ無い決意を表した。何だよ・・・それ・・・。
「なら、止めるしかない訳か。だが、俺一人じゃ無理だな。」
 ジュダさんは溜め息を吐く。ジュダさん一人じゃ無理って・・・。
「俺一人では、止める準備くらいしか出来ない。この街を中心に、お前等の祈りが
あれば別だ。その祈りを俺に見せてくれれば、何とかする。」
 ジュダさんは、祈りと言った。確か、俊男を助ける時にも、魂の力が、アイツを
助ける手助けになった。つまり、あの力が求められている訳か。
「もしかして、魂の力の事を、言ってます?」
 俺は、ジュダさんに尋ねてみた。するとジュダさんは、頷いてくれた。
「察しが良いな。火山を止めるとなると、一苦労だからな。住民の手助けも必要な
んだ。それだけ此処の火山は、高密度でな。」
 ジュダさんは、高密度だと言った。成程。結構大変なんだな。
「残念ですが、その提案には乗れませぬ。」
 長老は、頭を振る。へ?何でだ?この星を救うチャンスなんじゃないのか?
「我等は、この星と運命を共にする覚悟が有ります。」
 な、何を言ってるんだよ!このままじゃ、滅びちゃうのに!
「あー・・・。もう頭の固い連中だ。仕方ねぇな。俺一人でやってみるか。」
 ジュダさんは、呆れながら、俺の方に振り向く。
「おい。俺は用意してるからよ。お前が、この星の連中を説得しろ。」
 ジュダさん?お、俺が、このトカゲ人間を助けろっての!?
「・・・それが修行の内容だ。お前さんには、この星を救ってもらう。」
 修行って・・・。これ、俺なんかに出来るような内容じゃないよ・・・。
「俺、何も出来ないですよ?・・・!!」
 俺は、この星の事を諦めようとしていた。俺には関係無いと・・・。しかし、俺
の目に留まったのは、無邪気な目を向ける小さなトカゲ達だった。
「あんちゃん、神様なのか?」
 小さな子供のトカゲが、俺の方を向く。
「これ!神様に口を利く時は、もっと丁寧に!」
 母親であろうトカゲが注意していた。・・・何だよ・・・。俺達と変わりねーじ
ゃないか。子供が居て、両親が居て・・・。これを見て、俺は見捨てられるのか?
それじゃ、俊男を失った時と同じじゃないか!
「あ。俺、神様なんかじゃないんです。寧ろ、ジュダさんに連れられた、別の星の
原住民で、人間なんです・・・。」
 俺は、神様扱いされるのもアレなんで、ちゃんと説明する。
「でも、神に関連する者なのでしょう?ならば、敬うのは当然です。」
 トカゲ達は、尊敬の眼差しを浴びせる。何だか慣れない・・・。
「んっじゃ。俺は、用意している。これを渡しておくから、頑張れよ。」
 俺の様子を見て、ジュダさんは、宝石を渡してくる。
「何ですか?これ。エメラルド?」
「通信の為のエメラルドだ。ここじゃ携帯電話も効かないしな。ま、覚悟を決めな。」
 ジュダさんは、そう言い残すと、サッサと行ってしまった・・・。
 俺、どうなっちまうんだ?この星に一人って・・・。


 『闘式』の参加を決めた時から、厳しい特訓である事は分かっている。私を選ん
でくれたネイガ殿には感謝している。私は、攻めが甘いからな。どうしても、そこ
を学びたかった。『剛壁』などと呼ばれていても、攻めが疎かではしょうがない。
 鳳凰神ネイガ殿と言えば、その名の通り、鳳凰の化身であるので、凄まじい速さ
で攻める事で有名だ。私には無い強さを持っている。『追跡』のルールで追っても
中々追い付けない程の速さを持っておられる。
 そんな私は、厳しい特訓を受けていた。天界に連れてこられて、ネイガ殿と赤毘
車殿が、一緒に特訓してくれている。葉月も一緒だ。一緒に特訓しようと持ちかけ
たのは、向こうだ。互いに徹底的に強くなる事で、相乗効果を狙おうと言うのだろ
う。より濃く特訓する為に、これ以上の人数は要らないのだとか。
 おかげで、私もそうだが、葉月も、恐ろしく強くなっている。雑務に追われてい
る睦月も、時々だが、見に来てくれている。赤毘車殿が此処に案内して、その後は、
『転移』の扉に登録してもらったのだとか。睦月が応援に来てくれると、私の修行
も捗るので、良い効果を生んでいた。
「ショアン!命題だ!私の攻撃を防ぎ、跳ね返せ!」
 ネイガ殿は、そう言うと、凄まじい速さで私を翻弄する。しかし私とて、伊達に
修行を受け続けていたのではない。最近では、目が慣れてきた。まぁ速さ的には手
加減されてるんだろうがな。少しずつ速い動きに変えてきている。私の対応力に合
わせているのだろう。
 ネイガ殿は、懐に飛び込んで蹴りを放つと、一瞬で後ろに回りこんで回し蹴りを
打って来る。ほぼ同時に見えるんだから恐ろしい・・・。
「フン!!!」
 私は、その後の正拳突きも読むと、模擬の槍を振り回すように反撃する。
「攻めが甘いぞ!!」
 ネイガ殿は、それを完璧に読んで後ろに回りこもうとする。だが私は、それを読
んで、後ろに向かって槍を振り下ろした。
「うぬ!!」
 ネイガ殿は、驚いたみたいで、両拳を合わせてガードした。しかし私は、槍の範
囲を利用して、間合いの外から突き、回して、振り下ろす。ネイガ殿は、守勢に回
ると私は、その間合いを保ちながら、無数の突きを見せた。
「ぬう!!やる!!」
 ネイガ殿は、その無数の突きを、拳で打ち払ってみせる。さすがだ。
「厳しい攻めが出来るようになったな!嬉しいぞ!」
 ネイガ殿は、何とか空中に逃げると、そのまま加速して別の場所に降り立つ。
「これは、どう受ける?」
 ネイガ殿は、無数の神気弾を用意する。そして、それを私に向かって全て打ち放
つ。確かにこう言う状況も有りえるだろう。
「ふぅぅぅ・・・!はぁ!!!」
 私は気合を入れると、槍の穂先に闘気を集中させる。その強度を保ったまま、神
気弾を、穂先で次々突いていく。穂先に集中する事で、少ない力で燃費良く打ち落
とす事にした。神気弾を、見事に打ち落として見せた。そして、それを盾に突っ込
んでくるネイガ殿を見据える。そう来ると思っていたからだ。
「むぅ!読んでいたか!!」
 ネイガ殿は、読まれていたのを見切ると、弾かれたように間合いを取る。
「行きますぞ!!『追跡』のルール!!」
 私は、『追跡』のルールを発動させる。闘気弾に『追跡』を付与させて、ネイガ
殿に撃ち放つ。そして、それと同時に私も突っ込んで攻撃に回った。
「そう来たか!!ならば!」
 ネイガ殿は、闘気弾を蹴りで打ち落とそうとした。しかし甘い!闘気弾は、狙い
所は、首の後ろの延髄だ!ネイガ殿の延髄に闘気弾が当たると同時に、私は渾身の
突きを放った!行けたか!
「うぐぅ!!・・・せぇい!!」
 な、何と!!ネイガ殿は、延髄の攻撃を耐え切って、私の突きを拳でガードする
と、私の腹に蹴りを放ってきた。
「うおあああ!!!」
 私は、腹を押さえて蹲る。決まったと思ったのだが!
「うむ。ここまでだな。」
 赤毘車殿が、制止する。油断した・・・。
「ふぅ・・・。ショアン。今の攻めは、決して甘く無かったぞ。」
 ネイガ殿は褒めていた。しかし、負けてしまったな。
「最後に油断しました・・・。まだまだです。」
 私は反省しきりだった。まだまだ実力が伴ってないのだから、仕方が無い。
「何を言っているんだ。お前は、神である私に、最後の最後に、本気を出させたの
だぞ?誇って良いと思うのだがな?課題の攻めは、大分良くなったと思うぞ?」
 ネイガ殿が、本気を?それは、本当なのか?
「不思議な顔をしているな。でも本当だ。正直、最後は本気でガードした。じゃな
かったら、倒れていたのは私だ。」
 そうか・・・。私の攻めで、本気を・・・。
「有難う御座います。私が、此処まで強くなれているのは、貴方のおかげです。」
 私は、本当にそう思った。士殿と言い、私は師に恵まれている。
「お前が強くなれば、私の負担が減る。喜ばしいのは、こっちだ。」
 ネイガ殿は、私をパートナーとして、認め始めている。嬉しい事だ。
「良い動きを見せてくれますね。ショアン。」
 後ろから睦月の声がする。また来ていたのか。
「私も、本気で優勝を狙いたいからな。やるだけやってみせる。」
 私は、睦月に優しい顔で話しかけてやった。
「楽しみにしてます。そこで伸びてる葉月にもね。」
 睦月は、葉月にも声を掛ける。
「ううう。姉さん厳しい・・・。赤毘車さんは、もっと厳しい・・・。」
 葉月は、私とネイガの闘いの間、赤毘車殿と手合わせをしていたのだが、結果は
この通りだ。赤毘車殿も容赦が無いからな。
「私の弐の太刀を合気道で対応したまでは、褒めてやるがな。その後の衝撃波に対
する対応がまだまだだったな。受けた後、後ろに回られる事を想定しなくてはな。」
 赤毘車殿は、的確なアドバイスを送る。さすがであるな。
「気合入ってますね。・・・ああ。そうそう。悪いニュースがあるんですが。」
 睦月は、神妙な顔をする。どうしたのだろうか?
「・・・今朝方、参加を決めたタッグがあります。・・・一条 大二郎(だいじろ
う)と、藤堂 秋月(しゅうげつ)の組よ。」
 ・・・何と・・・。その名は・・・。
「姉さん!お爺様が!?それに大二郎様も!?」
 葉月は驚いていた。そうだ。その名前は、江里香の祖父である一条流空手の総帥
の一条 大二郎と、藤堂流合気道の前継承者の藤堂 秋月だった。
「まさか、この二人が手を組むなんて。何が起こるか、分かりませんね。」
 睦月は、呆れていた。だが、この二人とて強敵には違いない。
「強いのか?その二人は?」
 ネイガ殿は、葉月に尋ねている。
「そうですね。人間の技量と言う点では、抜きん出てる二人です。敵に力を出させ
ない事では、お爺様は、最高の技量をお持ちの筈です。大二郎様は、江里香さんを
更に攻撃的にした感じの技をお持ちです。」
 葉月は、知っている限りの情報を出す。
「面白いな。技を極めた人間か。台風の目になりそうだな。」
 赤毘車殿は、楽しそうにしている。
「葉月。あの爺には、遠慮は要らないです。当たったら、全力で相手するのよ。」
 睦月は、秋月の事が、大嫌いだからな・・・。
「力は尽くしますけど・・・。余り当たりたくないです。」
 葉月は、闘い難そうだった。秋月と言えば、技を窮める為に家族をも捨てた男だ
と、睦月は教えてくれた。その技の凄さは、葉月も良く知っているのだろう。
「秋月殿の技、大二郎殿の力・・・。中々強敵ですな。」
 私は、単なる力だけなら、私の仲間の方が強いと思っている。だが、技を組み合
わせて、こちらの力を封じた時の強さが計り知れないのだ。それが出来るだけの技
量を、この二人は持ち合わせている。
「ところでジュダ殿は、何処に行ったのですか?」
 私は、ジュダ殿の行方が気になっていた。何せ、魁が一緒の筈だ。
「アイツは、リーゼル星と言う星に派遣中だ。」
 赤毘車殿は、聞き慣れない言葉を言う。リーゼル星?
「星を救いに行ったのだよ。リーゼル星は、君達の言う所の爬虫類が、進化して知
能を持った種族が、支配している星だ。」
 ネイガ殿が説明してくれた。そうか。ジュダ殿も、ソクトアばかりに気を掛ける
訳にも行かないのだろう。それにしても、魁も一緒なのか?
「魁さんも一緒なんですか?」
 葉月が、私と同じ疑問を持ったらしい。
「一緒だな。何でも、その仕事を手伝わせる事で、修行代わりにするんだとか。全
く、恐ろしい事をする。私なんかより、よっぽど厳しいな。アイツは。」
 赤毘車殿は、呆れている。神の仕事を手伝うと言うのは、どれ程の物なのだろう
か?やはり、厳しいのだろうか?
「どんな事をするのですかな?」
 私は尋ねてみる。やはり、何をするのかが気になる。
「そうだな。リーゼル星なら、今は大噴火の危機に陥ってる筈だ。過去にも何度か
あったのだが、今回のは、地表を覆う程の噴火レベルだと言う話だった筈だ。」
 大噴火!?それを止める仕事だとでも言うのか?そんな事、どうやって・・・。
「ジュダ様ならば、マントルに直接、神気を送り込む事で、止める事が可能だが、
神気を満たすには、魂の力が結集しなければ、難しいだろうな。」
 ネイガ殿も、説明に加わる。魂の力か・・・。
「あの星の連中は、古くからの掟があってな。火山信仰と呼ばれていて、火山と共
に生き、火山と共に死すと言う考え方がある。なので、魂の力が全く集まらない事
態に陥っているらしい。」
 協力する気が無いのなら、魂の力が集まらないのも道理だ。魂の力が、大きな力
添えになるのは、私達も経験している。
「その説得を手伝わせてるのかもな。ジュダも酷な事をする。」
 赤毘車殿は、目を伏せる。掟を守ろうとしている人々を変えさせると言うのか。
「ジュダ様も考えあっての事でしょう。あの方は、不可能だと思う事は、させない
筈です。つまり、努力すれば何とかなるレベルなのでしょう。」
 ネイガ殿は、ジュダ殿の性格を知り尽くしている。
「なら、心配要らないですね。」
 睦月は、即答する。魁殿の事を信頼しているのか?
「そうですねー。魁さんは、ああ見えて、何とかしちゃう人ですからね。」
 葉月も同意権のようだ。信頼されているんだな。
「魁殿は、そんなに凄いのか?」
 申し訳ないが、私には、そんなに大人物には見えない。
「いや、全然です。」
 睦月は、またしても即答する。それも酷いな。
「全然なんだけど、何とかしちゃう人なんですよ。不思議でしょう?」
 睦月は、魁との付き合いも、もう4ヶ月程になる。どう言う人物なのか、分かっ
ているようだ。士殿とは違う信頼を、勝ち得ているようだな。
「何をやるにも一生懸命だからねー。魁さんは。」
 葉月が、具体的に言ってくれる。一生懸命にやるので、不可能では無いレベルな
らば、何とかしてしまうのだろうな。
「それに説得なら、そこまで力の要る仕事でも無いのでしょう?」
 睦月は説得と聞いて、尚更安心しているようだ。
「それなんだが・・・リーゼル星の者達は、自分達より弱い者の言う事など、聞き
入れたりしないのだ。それにあの星は、素でソクトアの2倍の重力だから、生活す
るだけでも一苦労だと思うぞ?」
 ネイガ殿が説明してくれる。何と過酷な星なのだろう。これは魁殿も大変だな。
「駄目かも知れませんね。」
 睦月は、バッサリ言う。相変わらず容赦が無いな。
「姉さん・・・。まぁ、信じて待ちましょうよ。」
 葉月がフォローを入れる。何と言うか、信頼されてるのか、信頼されて無いのか、
分からぬ奴だ。不思議な奴だな。
 私も応援しているから、頑張るのだぞ。魁殿。


 魔力を溜める事が出来、溜めた魔力を光線のように撃ち出す事が出来る銃。それ
がライティングだ。概要を話して、この銃の大会での許可申請を出したら、条件付
で携帯が許された。それは、相手側の了承を得た時のみと言う条件らしい。まぁ当
然か。これは凄まじい武器になるだろうし、対応出来る奴でしか、対応出来ないだ
ろうしな。俺だって人殺しをしたい訳じゃねぇ。
 ま、切り札程度に思っておけば良い。実戦で本当に使うのは、鏃の無い矢だろう
な。俺は遠距離攻撃が得意だと言ったら、矢を用意してくれた。しかも小回りの利
くボウガンだ。これは有難い。これなら俺の特色を損なわずに闘えるだろう。
 で、相棒のゼリンは『重力』のルールに磨きを掛けている。扱えるフィールド全
てに掛けるのでは無く、特定の人物にだけ掛けられるように範囲を圧縮する技術を
身に付けている。器用な事を試す奴だ。何でも、周りに被害を及ぼしたく無いそう
で、飽くまで狙いを付ける為だとか。
 ゼリンは、色々負い目があるからな。巻き込むような闘いはしたく無いんだろう
な。だが、それが、裏目に出なきゃ良いがな。
 それにしても・・・今日は、此処で待ち合わせって・・・。爽天学園の裏山かよ。
夜は、余り人が寄り付かない所なんだがな。誰と待ち合わせだと聞いても、楽しみ
にしていろとしか、言わないし、何考えてやがるんだ。ゼリンは・・・。
「不満か?私を信用出来ないのは、無理も無い話だが・・・。」
 ゼリンが、また自信が無さそうな声で言う。
「お前は、いつまで言わせるんだ。パートナーになった時点で、信用しているに決
まってるだろ?卑屈になる考えは止めろ。」
 俺は一言、伝えておく。ゼリンは、罪の意識が強過ぎて、躊躇する事が多い。
「有難う。私を信用してくれるのは、とても嬉しい。」
 ゼリンは、本当に嬉しそうな顔をする。こんな顔が出来る癖に、暗い顔するんじ
ゃねーっての。その辺は、俺が注意すれば良いか。
「お。来たようだぞ。」
 ゼリンは、何かを察知して、俺に報せる。確かに何かの気配がした。
 誰かが、闇の中から姿を現した。・・・コイツは・・・。
「久しいな。ゼリン。主も『闘式』に参加するようだな。」
 ソイツは、親しげに話している。
「お主が、ゼリンのパートナーだな?妹を宜しく頼む。」
 ソイツは握手してきた。俺は応じる。そう。ゼリンの兄貴であり、北神の毘沙丸
さんだったっけな。俺も、神の知り合いが多くなってきたな。
「グリードだ。大会で当たった時は、全力でお願いするぜ。」
 俺は、手加減してもらおう何て考えて無かった。
「中々大した自信ですね。私も全力でお相手します。」
 もう一人居たが、こっちも見覚えがあった。
「確かアインさんだっけ?宜しく頼むぜ。」
 俺は、アインさんにも握手をする。『聖騎士』の異名を持つ天人だ。
「兄様にアイン。良く来てくれた。今日の特訓は、充実した物になるだろう。」
 ゼリンは、にこやかに応対する。コイツ、こんな顔も出来るんだな・・・って。
「おい。特訓とか聞いて無いぞ?」
 俺は、聞き逃せない言葉が出てきたので、文句を言う。
「え?この時期に兄様とアインを呼び出すと言ったら、特訓しか無いだろう?」
 ゼリンは、さも当然と言わんばかりだ。コイツ・・・。本気で言っているんだろ
うな。天然な所があるからなぁ・・・。
「あのな・・・。別に反対はしないけどさ。俺に何も言わずに決めるのは、どうか
と思うんだが?特訓の為に此処に来たと言われれば、俺だって納得するぞ。」
 俺は、一応釘を刺しておく。何も言わずに決められるのは、些かな・・・。
「はう。済まない・・・。グリードなら反対しないだろうって思って、つい・・・。」
 ゼリンは、頭を下げる。本当に天然な所があるな・・・。
「いや、分かりゃ良いんだ。特訓自体は賛成だしな。」
 俺も、『闘式』のレベルを考えたら、特訓した方が良いと思っている。
「成程。拙との修行だな。こちらとしても、望む所である。」
 毘沙丸さんは、結構乗り気だな。こりゃ気合入れないと。
「そう言えば、父さんは、魁君と組んだって本当なんですか?」
 ゼリンは、その報告を聞いて驚いていた。俺も驚いたけどな。
「はい。今、桜川 魁と共に、リーゼル星の救済を手伝わせているそうです。」
 アインさんが、説明してくれた。アイツ、違う星に居るのか。
「リ、リーゼル星!?」
 ゼリンは、突然大きな声を上げる。何だ?
「その、リーゼルって星、知ってるのか?」
 俺は、全く情報が無いので、聞いてみる事にした。
「ああ。活火山が多く、火山崇拝で知られている星で、トカゲなどの爬虫類が進化
した生物が、覇権を握っている。リーゼル星人は、火山と共に生き、火山と共に死
すと言う掟がある。今は確か・・・。」
 ゼリンは、思い出しながら言う。何だか俺達の想像とは掛け離れた星みたいだな。
「活火山が活発過ぎて、今度こそ滅びそうなのだ。父上は、説得と活火山の鎮火を
担当する予定であった。拙が聞く限り、説得が魁の仕事だそうだ。」
 毘沙丸さんは、追加説明してくれた。火山崇拝の奴等の説得って・・・。また面
倒な事に巻き込まれているな。アイツは・・・。
「あの星は、火山活動が活発な為、気温がソクトアより10度程高いのです。それ
に、星自体の質量も、ソクトアより大きいから、重力が2倍程ある筈です。」
 アインさんが、更に説明を加える。もしかして・・・。
「お前の『ルール』を食らった時の状態が続くって事?」
 俺は、ゼリンに尋ねてみた。すると、首を縦に振る。マジかよ・・・。
「体感させると、こんな感じだ。・・・『重力』のルール!」
 ゼリンは、『重力』のルールを俺に向かって放つ。ってちょっと待て・・・。
「あ・・・ぐ・・・が!!こりゃきつい!!分かった!分かったよ!!」
 俺は、止める様に合図をする。・・・コイツ、いきなり浴びせる奴があるか!
「お、お前ね・・・。分かり易いけど・・・いきなりやるな!!」
 俺は、肩で息をした、って言うか、ライティングを背負ったままなので、肩が、
ぶっ壊れるかと思った・・・。
「あ・・・。済まない。すぐ分かるかと思って・・・。」
 ゼリンは、本当に申し訳無さそうに謝る。コイツ、悪気は無いんだろうな・・・。
それだけに、怒るに怒れない。
「その魁と言う人間、大丈夫なのでしょうか?聞けば、戦闘の心得も無いとか。」
 アインさんは、心配しているようだ。まぁ分からなくも無いな。
「まぁ、何とかなるんじゃないっすか?ああ見えて魁は、やる男ですよ。」
 俺は、心配していなかった。魁は、瞬とか俊男みたいに安心出来る強さがある訳
じゃない。だけど、現状で出来る事を最大限に活かそうとする。自分が何が出来る
のか、正確に把握してる男だ。
「彼は、強い訳じゃない。だけど、人間の魅力が詰まった男です。だから、私も安
心です。父さんが選んだのも分かる気がします。」
 ゼリンも、ここ最近は、魁の事を良く見ている。だから、魁の良さを分かってい
るのだろう。不安と期待を同時に感じる奴だよな。
「父さんが説得を頼んだと言うのなら、頑張れば何とかなると思っているからでし
ょう。それならば、彼はクリア出来ると思います。」
 ゼリンは、ジュダさんが何も考えずに魁を選んだ訳じゃないと思っているようだ。
修行にもなるし、説得も出来ると思ったから、その星に行かせたのだろう。
「しかし説得ってだけで修行になるのか?」
 俺は、修行と言うと、もっと体を鍛える事だと思っていたのだが。
「リーゼル星人は、強さが無い者には厳しい。上下関係が激しいからな。その中で
説得を行わせるとなれば、良い修行になると思うぞ。」
 ゼリンは説明を加える。つまり強くならなきゃ、話すら聞いてもらえないと言う
事か。となると、是が非でも強くならなきゃ駄目な訳だ。
「ま、魁なら、気合と根性で強くなるだろうな。手強くなりそうだ。」
 俺は、魁が成長するだろう事を予見する。
「魁は、現状で出来る努力を全てする男だ。心配要らない。」
 ゼリンも、安心しているようだ。
「これは、油断出来ぬ相手のようだな。そう言う相手は、とてもやり難い。何せ、
何をしてくるか分からぬからな。」
 毘沙丸さんは、警戒を強めたようだ。
「ジュダ様だけを警戒する方針でしたが、考えを改めないと駄目ですね。」
 アインさんも、やり辛い相手だと認識を変えたようだ。
 ・・・魁。気張って強くなれよ。俺も、お前に負けねぇように、強くなってみせ
るからな。その為にも、まずは特訓からだな。


 母なる灼熱の大地は、恵みの元であり、敬うべし。
 噴火は命の象徴であり、新たなる生命の覇道と知れ。
 リーゼルに生きる子らは、全てに於いて、火山の恵みと共にあると誓え。
 ・・・これが掟だそうだ。火山とは強さの象徴であり、灼熱の大地から芽吹く植
物で、食物連鎖が置き、リーゼル星の生活を支えているのだから、当然と言えば当
然なのだが・・・。生き物は何かを食べなければ生きていけないので、それを支え
ている火山は、この星の象徴なのだろう。
 だが現在の周期は、この星を呑み込む程の噴火になると予想されている。ジュダ
さんの目測でも、あと3週間が限度らしい。
 俺は、ここに来て1週間は、自分を鍛え上げる事に専念した。それは、話すら聞
いてもらえないからだ。火山崇拝の原理に、強さに頼っていると言う事もある。だ
から、この星では、強さ無き者は、意見を聞いてもらえないのだ。
 ここで生活する為に、ここでの掟や、基本の考え方などを、教えてもらった。食
事などは、慣れるのが大変だったが、慣れると案外食べられる物だった。
 この星の戦士とも手合わせを願った。最初こそボロボロにされたが、一昨日辺り
から、付いていけるようになっていた。それも、アイツ等との修行の成果が出てい
るのかも知れない。確かに戦士は強かったが、アイツ等のような圧倒的な強さは、
持ち合わせていない。弱音さえ吐かなければ、何とかなるレベルだった。
「ここだぁ!!」
 俺は、この星の戦闘術である棍棒術を駆使して、戦士を倒す。棍棒術は、棍棒と
盾を組み合わせた戦闘技術で、剣一つで何とかするソクトアの剣術とは、趣が違う。
弾くのに見切りが必要な剣術と違い、盾で確実に防御してから棍棒で圧倒すると言
う技術なので、理に叶っていると思った。ソクトアは、剣術ばかりが発達している
傾向にある。防ぐのも鎧や小手などで、斬られても躱すと言う形態が多い。盾によ
る回避は、昔はあったそうだが、剣術の圧倒的な冴えにジリ貧となり、躱す技術が
発達した為、廃れて行ったと言う歴史がある。
 と言うのも、ソクトアで一時期流行った盾は、鉄製の大きな盾で、体を全面守る
タイプなので、素早く動けないからだ。しかし、リーゼル星の技術は違う。受ける
面の要所要所だけを鉄で強化した軽い木の盾を使って、確実に攻撃を防いだ後に、
棍棒の一撃を入れるのだが、そこにも工夫がある。体の動かし方一つで、盾で防ぐ
動きと棍棒を振る動きをミックスさせているのだ。だから、攻撃と防御が同時に出
来る。後は、その組み合わせ次第で、幾らでも攻撃手段が増えると言う訳だ。
「ぐぅ!降参だ!」
 戦士は、俺の一撃を腹に食らって、降参する。
「信じられん・・・。魁は、本当に神では無いのか?」
 戦士は、腹を抑えながら、俺に言う。
「俺は・・・自分の星でも弱い方ですよ。」
 嘘では無かった。誰よりも弱い心で、力も無かったからこそ、出来る事を全部や
ってきたんだ。おかげで、少しは闘えるようになった。
「成長速度が、普通じゃ無いんだ・・・。君は。」
 戦士は、俺の成長速度に驚いていた。でも慣れてきたから、この動きが出来るの
であって、最初はボコボコにされたしなぁ。
「魁すっげー!俺、最初は駄目な奴だと思ったけど、すげーんだな!」
 子供が、目を輝かせている。最初は駄目な奴って・・・酷い言われようだな。
「ま、俺っちに掛かれば、こんな物よ!」
 俺は、おどけてみせる。そして笑いあう。リーゼルの人達は、顔こそ爬虫類で怖
いけど、話すと、とても良い奴等だった。
 こんな気の良い奴等が、滅びるかも知れない危機なら、放って置けねーよ。
「君に戦闘訓練を施して、本当に良かったと思っている。・・・我等の技術が、世
に残せるのだからな。しかし、5日程で覚えるとは、呑み込みが速いな。」
 リーゼルの戦士ザインは、俺に戦闘技術を教えてくれた師匠だ。と言っても、俺
の性に合っていたのか、短期間で覚えちまったけどな。何て言うか、早く覚えない
と、この人達を説得出来ないと思って、死に物狂いで覚えたのだ。
 聞いての通りザインは、この星が滅びると、勘付いているしな・・・。
「・・・ザイン。俺っちが、意見を通すには、後どれくらい強くなれば良いんだ?」
 俺は、ザインに聞いてみる。ザインは、この村の戦士だ。だから、どれくらいに
なれば、話を聞いて貰えるか、目安は分かっている。
「またその話か?我等の掟に口を出すのなら、長老に認められなければならない。
となると、戦士長のレーデル様に勝たなくては駄目だろうな。」
 レーデル様・・・。って確か、最初にこの村に来た時に、睨み付けてた怖い奴か。
体も他の奴よりでかいし、おっかねえなぁ。
「結構無茶があるぜ・・・。」
 俺は、幾ら強くなったからと言って、最近の事だ。レーデルは、聞いた話による
と、この星の歴戦の勇者だって話だ。そんな奴を相手に勝てるかよ・・・。
「レーデル様は、本当に強い。しかも知り合いだからと言って、手を抜くような方
でも無い。・・・魁。君は優しいから、この星の運命を変えようとしているのだろ
う?だが我等は、掟に従うつもりだ。君は母星に戻った方が良い・・・。」
 ザインは、俺がどう言う事を言うのか、見抜いていた。そりゃそうだ。掟で皆が
死ななきゃならないなんて、納得出来ないんだ・・・。でも、俺に出来る事は限度
がある・・・。この星の技術は、何とか覚えたし、ソクトアに帰るのもありか?
「魁さぁ。何でそんな顔してんだよー。って言うか、何か言いたい事有るのか?」
 コイツは、俺と仲良くなった子供のルードだ。
「俺は大人だからな!大人の話って奴を、長老としてみたいんだよ!」
 俺は、適当に誤魔化す。ルードは、この星が滅びるなんて、知らないのだ。本当
の話など出来ない。・・・悲しい顔をさせたくない。
「何だよー。魁だって子供だろー?大人ぶっちゃって、つまんねーぞー。」
 ルードは、文句を言う。口の減らない奴だ。
「お前も、俺のように一人前の戦士になったら、大人ぶれるぞー?」
 俺は、軽口を叩く。こんな時こそ、明るい話題にしたいのだ。
「言ったな?俺、ぜってー強くなるかんな!楽しみにしてろよ!」
「ああ。・・・待ってるぜ。」
 俺は、明るく振舞う。しかし、このままでは、叶わない願いなのだ。・・・こん
なのありかよ?あんな子供が、何も知らないまま死んじまうってのかよ・・・。
 向こうでは、母親が赤ん坊をあやしている。あんな赤ん坊まで、犠牲になるって
のかよ!!やっぱり、ありえねーよ!!
「ザイン・・・。俺やっぱり、駄目だ。このままじゃ帰れない・・・。お前等と知
り合ったなら、見捨てて逃げるなんて、出来ない・・・。」
 俺は、このまま何もせずに逃げるなんて、出来なかった。
「お前は・・・。お節介な奴だな。全く・・・。なら、構えろ!どこまでやれるか
知らんが、レーデル様に少しでも近付ける様に、鍛えてやる!」
 ザインは、修行再開の合図をする。口では文句を言ってても、俺に協力してくれ
るようだ。これだからな・・・。やっぱり俺は、コイツ等を見捨てられねーわ。
 どうなるか分からない・・・けど、出来る事をやってやる!!



ソクトア黒の章6巻の2後半へ

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