NOVEL Darkness 6-4(First)

ソクトア黒の章6巻の4(前半)


 4、帰還
 セントメトロポリス改めセントメガロポリス。現在のソクトアの権威の象徴であ
る。その権威は、他の国のエネルギーを掻き集めて生活している事からも伺える。
 しかし、最近の魔族のテレビ進出により、その権威も翳りが出て来た。何せ、セ
ントの中ですら、魔族が出てくる番組が、一番人気だからだ。
 しかも、その強い魔族が、人間の強さを認めて、『闘式』などと言う格闘大会を
始めると言うのだから、否が応でも盛り上がる。その流れにセントとしても乗らな
い訳にはいかなかった。セントの権威を知らしめなければならないからだ。
 セントの権威を知らしめる。これは、他の元老院からしてみれば、セントの繁栄
を願う為と映るだろう。そして、その頂点に立つ事で、利権を手に入れる。その為
に元老院入りした者も居る。
 しかし、ゼロマインドは違う。ゼロマインドの目的は、飽くまで力の回収なのだ。
その為には、セントに羨望を抱かせねばならない。羨望を集める事で、より効率的
に力を回収し、自分の力の肥大化に繋がるのだ。なので、支持率の低下は死活問題
なのだ。正に命を懸けなければならない。
 ゼロマインドの片割れである、シンマインドの加藤 篤則は、自らが大会に参加
する事にした。『闘式』の様子を見守るのが役目だ。いざとなれば、今まで集めた
力を使って、大会を乗っ取る気でいた。
「忌々しい。魔族どもが調子に乗りおって。」
 篤則は舌打ちする。今の現状が気に入らないのだ。もう少しでゼロマインドとし
て、存分に力が奮えるのだ。そのもう少しを焦って、『ルール』を開放したりと、
色々手を打ったが、失敗に終わっている。
「功を焦った貴方が悪い。もう悟られないようにしないと。」
 もう一人が会話に加わる。
「結果的に失敗しただけだ。考え方は間違っていない筈だ!」
 篤則は、声を荒げる。だが、結果が付いてこないのでは、バツも悪い。
「シンマインドとして、努力したのは認めるけどね。」
 もう一人は、篤則をシンマインドと呼ぶ。
「お前も知恵を貸さぬか。ゲンマインド。」
 篤則は、もう一人をゲンマインドと呼んだ。ゼロマインドのもう一人の片割れで
ある。ゼロマインドは、意識を二つに分けて、人間に偽装していた。秘密裏に進め
る為である。元老院の人間にすら、知られる訳には行かない。
 セントメガロポリスは、ゼロマインドの為の、力収集機だと言う事をだ。『無』
の力を使ったソーラードームで囲んだ、変則クワドゥラートが、セントの正体であ
った。クワドゥラートは、四角錐の形をしていて、頂点に力が集まるようになって
いる。セントも、国民を守る為と言って、円錐のソーラードームで国を囲んでいる。
それを利用して、力を収集しているのだ。
「良く言う。このソーラードームの事を考えたのは、誰だったと?」
 ゲンマインドは嫌味を言う。この構成を考えたのは、ゲンマインドだった。篤則
は、その手伝いをしたに過ぎない。
「分かっておるわ。その点では、貴様の能力を認めている!だから、今回も良い知
恵が無いか、聞いているのだ!」
 篤則は、イライラしながらも、ゲンマインドを褒める。
「素直に言えば良いのに。ま、今回ばかりは、勝ち上がるしかないんじゃない?」
 ゲンマインドも、この事態を憂えている。やはり力が集まらないのは拙い。
「チッ。手間が掛かる・・・。だが仕方が無いか。」
 篤則は文句を言う。今回の『闘式』で勝ち上がるしかない。と言うが、今回の面
子を見る限り、容易な事では無い。ケイオス一人を取ってみても、ゼロマインドの
姿で、闘って互角と言った所だ。
「分かっていると思うけど、最終手段を使うには、まだ早いと思う。」
 ゲンマインドは、釘を刺しておく。
「分かっている。確実に進めるのが先決だ。」
 篤則は、考え無しの馬鹿では無い。ここで言う最終手段と言うのは、本当に危険
な手なのだろう。それを簡単に使う程、愚かな男では無い。
「なら頑張ってね。期待している。」
 ゲンマインドは、そう言うと、去っていく。
「・・・チッ。本当にイラつく奴だ。」
 篤則は、怒りを抑えながら言う。ゲンマインドとは、否が応でも結託しなければ
ならない。元は同一個体だからだ。しかし、篤則とは何もかもが反対の存在なのだ。
篤則は、熱くなり易く、次々と発案して実行に移す性格だ。だが、ゲンマインドは
違う。全体を冷静に見て、的確な指示を送って、篤則を上手く使おうとする。
 しかし、一々やる事が的確なので、篤則も文句が言えないのだ。だが、使われる
篤則としては、堪った物ではない。ゲンマインドは、篤則の事を結構信頼している
のだが、篤則としては、上手く扱われているようにしか感じないのだろう。
 怒りは募るが、事は慎重に運ばなければならない。篤則がシンマインドだと、敵
にバレている以上、ゲンマインドの正体は隠し通さなければならない。
 篤則の苦悩は、尽きる事が無かった。


 とうとう、俊男が帰ってきた。2週間余り苦しんだようだが、見事に魔性液を克
服したようだ。魔性液を渡した身としては、少し安心した。
 それにしても・・・おっそろしい力を感じる。これが、克復した者の力か。すげ
ぇな。何でも『瘴気』を体に取り込んだ事で、魔族としての体を手に入れたが、元
々が、『神気』を扱い易い体だったので、どちらも上手く扱える者として、『聖魔』
と呼ばれる存在になったのだとか。
 そう言われても、俊男自体は、俺達が知る俊男なので、『聖魔』などと言われて
も、コイツは俊男だとしか言いようが無い。仕草も大して変わっていない。敢えて
言うなら、少し自信を持ったのか、前より強気な発言が多くなったな。とは言え、
嫌味になるような発言では無く、こちらを奮い立たせてくれると言う意味での強気
の発言だ。性格の良さは変わっちゃいない。
 莉奈辺りは、大はしゃぎだった。これで、魁が帰ってくれば・・・。と言ってい
たが、アイツも星を救うなどと言う大任を背負わされてるので、簡単には帰って来
れないだろう。近々報告があるようだがな。
 俊男が帰ってきたと言う事で、俺達は天神家に集まる事にした。店の仕入れは済
ませておいて、明日の準備もバッチリなので、修練に集中出来るって物だ。最近は
それぞれに違う方向に伸びてきているので、遣り甲斐がある。
 で、手合わせをしてみたんだが・・・。
「てぇぇええい!!」
 俊男は、その中心に居た。『聖魔』形態になると、髪の色と目の色が変わるらし
いが、そうじゃない時でさえ、無尽蔵の体力を持っているのか、いくら動いても衰
えを見せない。闘いの状況に応じて『瘴気』と『神気』を瞬時に使い分けてくるし、
厄介な事この上無い。
「俺だって、死ぬ気で修行したんだけどな・・・。とんでもねーな・・・。」
 瞬も驚きを隠せないようだ。前まで互角に近かったが、今は俊男の方が動きが鋭
い。それでも、動いている内に俊男の動きに付いて行くんだから大した物だ。死ぬ
気で修行をしていると言う言葉は嘘じゃない。
「俺が、グロバスと一緒になっても、敵うかどうか分からん。」
 正直、此処まで強いとは思っていなかった。
(奴の生きたいと言う願望が、此処まで強くさせたのだろうよ。)
 そうは言うがな・・・。『聖魔』にならなくて、これかよ・・・。
(この力は、ケイオスを超えてるかも知れん。『聖魔』形態になった時の伸び代を
考えれば、ケイオスを超えた力を持っていても、おかしくない。)
 お前さんが言うんだから、間違い無さそうだな。とんでもねぇな。
「はぁ!!」
 その俊男に本気で付いてきているのが、この恵だ。このお嬢さんも本当に凄いな。
どうやったら、この歳で、此処まで強くなれるんだか・・・。
「ホゥォ!!」
 俊男は、どんどん違う技を使ってくる恵に苦戦する。恵も巧みだ。俊男が違う力
を巧みに使ってきても、技で対処している。『制御』のルールを使えば、俊男の力
も止められるように鍛えているらしい。どうなってんだ・・・。
 これは、このコンビは優勝候補の筆頭になったと言ってもおかしくない。俺とセ
ンリンも、負けないようにやるしかねぇが、コイツ等と対等に闘うには、それこそ
死ぬ気でやらなきゃならん。
「ここまでね・・・。はぁ・・・。きついわね・・・。」
 恵でさえ音を上げる。俊男の動きが、重いからだろう。対処するのに神経を使う
みたいだ。当の俊男は、パーズ拳法の礼を欠かさずにやって、涼しい顔をしている。
アイツ、本当に化け物だな・・・。
「お前・・・強く・・・なったなー・・・。」
 瞬も肩で息をする。皆、疲労困憊だ。俺も見せないようにしているが、かなり疲
れている。全く・・・無尽蔵のスタミナを手に入れやがって。
「僕も強くなったと思う。でも、この力を、どう活かすかが問題なんだよ。僕は、
それを間違えないようにしようと思う。」
 俊男は前向きな事を言う。お人好しだが、自信に満ち溢れている。
「間違えたら、私が止めますから、安心なさい。」
 恵は、サラリと凄い事を言う。全く良いコンビだぜ。
「トシ兄、凄いなぁ・・・。何だか遠くに行っちゃった感じがする・・・。」
 莉奈は、俊男が凄くなり過ぎて、実感が湧かないのかも知れないな。
「安心しなさい。僕はどんな姿をしても、莉奈の兄だよ。」
 俊男は優しい目をしていた。魔族が入る事で自分に自信が持てたのか、『瘴気』
に負けないくらいの強い気持ちが芽生えたようだな。
「うん!後は、魁君が戻ってくれればなー。」
 莉奈は、やっぱり気になるようだな。
「アイツなら、大丈夫だよ。ああ見えて、やる時はやる奴だ。」
 レイクは、信じているようだな。まぁ俺も、魁に関しちゃ心配して無いな。
「ま、最近は真面目だしねー。」
 ファリアがフォローする。
「そう言えば、エリ姉さんが、秋月さんの弟子になったって本当なの?」
 俊男が尋ねてくる。ああ。その情報は、俺もビックリしたな。
「・・・ま、あの爺は、腕だけは本物ですからね。」
 後ろで睦月が嫌味を言う。かなり嫌っているようだな。
「あはは。江里香先輩もさ。自分の殻を破りたいんだよ。誰にも負けない技量を身
に付けたいと思っているみたい。」
 瞬は、江里香の事を、ちゃんと理解しているみたいだな。
「あーあ。後輩連中は、気合入ってるねぇ。」
「俺等も負けてられないのう。」
 亜理栖に巌慈は、冷や汗を掻く。どんどん凄くなっていく後輩達に置いて行かれ
ない様に必死なんだろうな。
「そういや、ショアンの奴は元気か?」
 俺は、睦月に聞いてみる。ショアンは、神界で修行中だと聞いた。
「ガムシャラにやってますわ。葉月と共に、そろそろ顔を出す頃だと思います。」
 ほう。奴もやってるようだな。それにそろそろ顔を出す頃か。楽しみだな。
「元気でやってるみたいだネ。」
 センリンも笑みを浮かべる。かなり心配してたからな。
「店の方も、昼のお客さんから、応援貰ってるしな。」
 ジャン達も俺達も、出場する事を隠していない。と言うより、レストラン『聖』
で出場しないのは、ゼハーンだけだ。
「ウチ達も、良い所まで行かないとね。」
 アスカも、かなり腕を上げてきたからな。俺も油断出来んな。
 勇樹は羅刹拳の道場で、ミカルドと共に修行中だ。
「しっかしまぁ、魔性液ってのは、やっぱきつかったのか?」
 グリードが、気さくに話し掛ける。こう言う質問をサラッと聞けるのも、コイツ
の性格のおかげだな。
「何度も消えるかと思いましたよ。それに、もう一人の自分に会いました。」
 俊男は、気にしてないようで、教えてくれた。
「もう一人の自分か?どんな事を言ってたんだ?」
 エイディも尋ねる。何だかんだで、気になるんだろうな。
「僕が、抑え付けてた自分・・・欲望に素直になれと言われましたね。」
 あー・・・。分かる気はする。俊男は皆の為に無理をし過ぎる。
「欲望のままにか・・・。それは、時として悲劇を生む。確かに抑えたくなるだろ
うね。抑えるのは大変だっただろう?」
 ゼリンが、実感の篭った声で尋ねる。まぁコイツの場合、操られたってのもある
が、欲望を抑えられなかったツケが、回っているからな。
「そうですね。でも、僕は悟ったんです。無理に抑え付けているから歪むんだとね。
良いんですよ。抑えなくても。ただ、その欲望が良い方向に向かうように仕向けれ
ば良いんです。そう気が付いた時、僕の中に何かが広がるのを感じました。」
 ・・・そう言う事か。コイツは、人間なら当たり前に持ってる欲望。認められた
いとか、より強くなりたいとか、そんな欲望まで、無理矢理抑えてたって事か。
「その良い方向に向かうように仕向けるってのが、難しいのに・・・。俊男は、や
っぱり何かが違うね。」
 葵が、溜め息を吐く。俊男はそれに気が付いただけで、自分を解放出来るんだか
ら、大した物だな。やはり器が大きいんだろうな。
「皆の為に強くなるって心は、間違っていないと思います。だけど、その為に自分
も強くなりたいと言う心を、閉ざしていたんでは、元も子もありません。だから、
僕は自分の為にも強くなります。そして恵さんを、この手で守ります!」
 俊男は、恥ずかしげも無く宣言する。この自信を持った台詞は、前には聞けなか
った言葉だ。今は堂々と宣言している。あれくらい堂々と言うと、様になるな。
「ま、全く・・・。まぁ、嬉しいですけど・・・。」
 恵は、まだ恥ずかしいようだ。だけど、とても嬉しそうな顔をしていた。
「あーあ・・・。何だか物凄く先を越された気分だ・・・。でも、俊男ならその資
格があるしな。・・・よーし!俺も追いつくぞ!」
 瞬は、こう言う時にめげない。その性格は羨ましい限りだ。
「お・・・。帰ってきたかな?」
 俊男は、そう言うと、恵に合図を送る。っと、成程。確かに帰ってきたようだ。
「おいおい。俺より先に気が付くなよ・・・。どう言う嗅覚してるんだ。」
 俺は文句を言う。俺の『索敵』のルールよりも先に帰って来た事に気が付いたの
だ。この感じは、赤毘車と葉月、そしてネイガとショアンだな。
 恵から目配せを受けた睦月が、対応しに行く。
「え?何が起こっとるんじゃ?」
 巌慈は、何が何だか分からないようだ。
「あー。葉月達と、ショアン達がこちらに向かっている。そろそろインターホンを
押す頃だ。」
 俺は説明してやった。すると、インターホンが鳴った。タイミングもバッチリだ
な。しっかし、俺より先に気が付くとは・・・。
(信じられないくらい、感覚が鋭くなっているな。)
 アンタが言うくらいだから相当だな。
「ホント、どうなってんだ、お前・・・。」
 グリードも呆れていた。グリードも鋭い方だが、気が付かなかったようだ。
 すると、少ししてから、赤毘車に葉月、ネイガにショアンが顔を出す。
「久しいな。集まっているようだ。」
 赤毘車が皆に挨拶をする。そして、俊男の方を見ていた。気になるみたいだな。
「皆さん、ただいまですー。姉さん、ただいま!」
 葉月は元気良く挨拶した。
「睦月、今帰った。士殿もお久し振りです。」
 ショアンも、笑顔で挨拶する。良い顔が出来るようになったな。
「久し振りですな。ゼリンも、頑張っているようだな。見違えたぞ。」
 ネイガは、俺達の挨拶と共に、ゼリンに挨拶する。
「フッ。成功したと聞いてはいたが・・・。漲っているな。俊男。」
 赤毘車さんは、俊男に注目していた。まぁコイツの変化が、一番だよな。
「ハイ!僕は、ケイオスに勝たなくてはいけません。勝って優勝したいと思ってい
ます。恵さんと共にね。」
 俊男は、爽やかに優勝宣言する。
「私達を見ても、その宣言が出来るとは・・・。期待してますよ。」
 ネイガも俊男には注目しているみたいだな。まぁこの力を見ればな。
「あ、あれが俊男殿で御座るか?どうなっているのだ・・・。あの力・・・。」
 ショアンは、驚きを隠せない。って言うかコイツ・・・。
「お前、分かるのか?俊男の中にある力が。」
 俺は聞いてみる。ショアンもそれを感じる事が出来ると言う事は、相当に腕が上
がっている証拠だ。これは、侮れないな。
「凄いですねー・・・。恵様も、皆さんからも、感じる力が段違いです。」
 葉月も、苦笑いしながら驚く。どうやら、葉月も感じれるようだ。この2人も、
相当に腕を上げているようだな。
「フフッ。私も楽しみだわ。『闘式』では、皆も修行の成果を、全部見せてくれる
んでしょう?それを超えてみせなくてはね。」
 恵は、その様子を見て楽しむ。この優雅さは真似出来んな。
「ああ。そうだ。ジュダから伝言を預かっている。」
 赤毘車は、思い出したのか、手を叩く。
「もしかして、魁君の事ですか!」
 莉奈は早速反応を示す。余程心配のようだな。
「ああ。後少しで帰れるそうだ。魁も一緒らしい。」
 ほほう。ジュダが帰れると言っていると言う事は、魁の奴、星を救うのに、成功
したみたいだな。大丈夫だとは思っていたが、やるじゃないか。
「良かったー・・・。魁君、成功したんですね。」
 莉奈は、少し涙を浮かべていた。心配してたみたいだな。
「良かったね。莉奈!」
 葵も自分の事のように喜んでいる。仲が良い事だ。
「驚くのは早いぞ。彼は、リーゼル星を救う為に、相当強くなったと聞く。楽しみ
にして良いと思うぞ。」
 ネイガは、色々聞いているようだな。
「私もビックリしたな。大体、リーゼル星を選ぶ所が、ジュダらしい。私の事を厳
しいなどと言えんぞ。」
 赤毘車が冷や汗を掻いている。其処まで過酷なのか?
「どんな所なんです?」
 レイクが尋ねる。確かに気になる所だな。俺達は、魁が星を救う手伝いをしてい
るとしか、聞いてなかったしな。
「リーゼルは、火山崇拝の星だな。『命の火山』と言う、恵みの火山を崇拝してい
る。今回は、その火山が大噴火を起こして、星を飲み込むと言う予測が出たから、
鎮めに行ったのだ。」
 火山崇拝か。また厄介な連中だな。
「大方、火山を鎮めるのは、駄目な事だとか、言われたんじゃないか?」
 俺は、予想して言ってみる。
「士の言う通りだ。火山と共に生きた彼等は、火山と共に死ぬ覚悟だった。」
 予想通りと言いたい所だが、激しい連中だな・・・。
「頑固な連中だねぇ・・・。」
 亜理栖も呆れていた。俺なら放って置くと言う選択肢も、視野に入れる所だ。
「リーゼル星は、星自体が弱っていてな。活性化させれば、通常の噴火で落ち着く
んだが、その回復エネルギーがジュダ一人では足りなかったのだ。」
 まぁ、星を回復させるとなると、相当な力が必要になるだろう。
「ジュダの宝石技の一つ、『青石治癒(アクアマリンキュアー)』は、ジュダの最
大の治癒の技だ。星全部に行き渡る大技なんだ。だが、リーゼル星の連中がジュダ
に協力的じゃなければ、止められないような状態だったようだ。」
 成程。周りの連中の力を使って、何とかしようとしたのか。
「僕の時にゼーダさんやジュダさんが使ってくれた『魂の力』を利用して、活性化
させるつもりだったんですね。」
 俊男も気が付く。『魂の力』は、他人を思いやる事で、様々な力に変化出来ると
言っていた。俊男は2度も、この力に救われている。
「あー。あれかー・・・。確かに凄かったなー。」
 レイクも記憶に新しいので、思い出している。
「それから1ヶ月間、ジュダは火山と睨めっこだ。放って置くと、1ヶ月も、もた
なかったらしいからな。そこで魁が説得する事になった。」
 説得役か。成程な。それなら、アイツにも出来るかも知れんな。
「説得するだけなら、そんなに時間が掛かる物なのか?」
 エイディは、指を顎に当てて考える。
「普通の星なら、何とかなるかも知れんがな。生憎リーゼル星は違う。リーゼル星
は、火山の星だからな。火山は力の象徴でもある。説得する為には、強さを示さな
ければならない。意見を言うのは戦士のみと言う事だ。」
 また厄介な星だな・・・。その条件だと魁じゃきついな。
「しかも、魁の相手はリーゼル星きっての勇者だったらしい。」
 アイツは、苦労性だな。相変わらず、その辺の苦労は背負い込むタイプだな。
「それに加えて、リーゼル星の重力はソクトアの2倍だ。大変だったと思うぞ。」
 アイツ、死んでないよな?ひでぇ条件だ。
「そんな条件で、魁は引き受けたのですか?」
 ゼリンは、信じられないのだろうな。魁は俺達みたいに修練を続けてた奴じゃな
い。この前まで一般の強さを持った奴だった。重力の厳しさは、ゼリンは良く知っ
ている事だろうしな。
「魁は、リーゼル星の子供を見て、その子供達が巻き込まれるのは、許せなかった
らしい。快諾していたよ。」
 ・・・あの馬鹿・・・。本当に無茶をする・・・。
「魁らしいね。お調子者なのに、そう言う所だけ、律儀でさ。」
 俊男は、もう魁の事を赦している。それは魁が、行動で示しているからだ。
「私達の説教が効いたかしらね。」
 恵は、もう気にも留めてない事を言う。素直じゃないな。
「魁君は、自分で自分が赦せないんだよ・・・。無茶し過ぎだよ・・・。」
 莉奈は泣き出す寸前だった。魁が自分を赦せなくなった原因が、自分にあると知
っているからだろうな。魁は逃げ出すと、昔の自分に戻るんじゃないかと心配なの
かも知れない。俺にも身に覚えがある事だ。
「アイツ、本当に成長している・・・。」
 瞬は、自分の手を見る。今言った『成長』は、瞬の目標の一つである正しさの方
だろう。師の教えとか言っていたな。
「でも、帰れるって事は、アイツは、やり遂げたって事か・・・。」
 グリードは、感慨深いのだろう。魁がやる時はやる男だってのを、グリードは知
っている。前に学園がピンチだった時に一緒に手を組んだらしいしな。
「そうだな。何でもリーゼルの闘法を学んで、新戦法を編み出して勝ったと言う話
だから、楽しみにしてると良い。」
 赤毘車は、興味深い事を言う。リーゼルの闘法か・・・。
「魁君は、ああ見えて柔軟だし、成長力は凄いからね。伸び盛りなのかもね。」
 ファリアは、弟子の事を良く知っている。魁は魔法をやっている時の伸びも凄か
ったと話していたな。成長力はあるのかもな。
「魁君。私、待ってるからね!」
 莉奈は、恋人を信じていた。信頼し合う姿を見るのは、良い物だな。
 俺も、気合を入れ直さなきゃな。俺だけ成長していないとなると、『闘式』で恥
を掻く事になるかも知れんからな。


 幼少の頃、私と弟は仲の良い兄弟だった。弟は私の後を付いて来る。私は先導し
て、弟の為に道を作ってやる。両親を早くに亡くした私達は、そうやって生き抜い
て、優しくしてくれた親戚の叔父さん達に心配掛けまいとしていた。
 親が居ない辛さは、互いに支え合う事で、何とかしようと思っていた。親戚の叔
父さんには、とても良くしてもらったので、応えようと思っていた。
 やがて、受験シーズンになった。私は、タウンの中にある市立のハイスクールを
希望した。叔父さん達に迷惑を掛けないように安い方を選んだのだ。しかし、余り
良い噂を聞かなかった。そこのハイスクールは不良が多く、階級制度まで作ってい
る札付きが集まる所だと言われていた。
 そんな時、叔父さんが倒れた。叔母さんを早くに亡くしていた叔父さんは、俺達
の事だけが生き甲斐で、無理をしてまで働いていたのだ。だから私は、親孝行がし
たいと思っていたので、働きながら学校に通う事になった。
 しかし、市立のハイスクールに合格を決めた日に、叔父さんは息を引き取った。
私は、何も出来なかった自分が悔しかった。せめて弟だけは、私が道を作ってやら
ねばと思った。
 それから、バイトと学校の両立の日々だった。大変だったが生き甲斐さえあれば、
生きていける物だと実感する。叔父さんの気持ちが分かるような気がした。
 だが、それも長くは続かなかった。私は大柄な体だった為、バイトでも体力仕事
を任される事が多かったが、学校でも悪目立ちしていた。しかも学校の雰囲気は、
余り良くないと来れば、自然と絡まれる事が多かった。最初こそ無視していたのだ
が、余りにしつこいので、反撃したら一撃で倒してしまった。
 その話はあっと言う間に広がり、連日のように挑戦者が来るようになった。冗談
では無かったが、バイト先まで来ない事を条件に受けてやった。私は、それを繰り
返す内に学校での地位も上がってきた。
 気が付くと、話をしているのは、舎弟となった者達ばかりだった。だが、それな
りに気の良い奴らだったので、気にする事も無かったが、バイト先にバレたら、ク
ビになってしまった・・・。仕方が無い事だ。
 新しいバイトを探している時に、タウンでも有数の極道事務所から勧誘が掛かっ
た。断ろうと思ったが、弟の事もあったし、他に割りの良い仕事も無かったので、
引き受ける事にした。
 そんな状態が続いた頃であろうか、皆が弟を見る目が変わってきた。私が兄だと
言う事で、弟もチヤホヤされたと言う話だ。最も弟は真面目な性格だったので、周
りから一目置かれる存在なだけで、問題などは起こさなかった。
 それから極道事務所内でも、私の地位はどんどん上がっていき、ついには組長か
ら盃を戴く程になった。その頃になると、私も覚悟を決めていた。表社会には、も
う戻れないんだろうなと・・・。ハイスクールを卒業すると同時に幹部待遇で鳴り
物入りした。それからと言う物、組長の下で色んな抗争に参加した。
 そんな折に、弟がハイスクールを卒業し、この世界に入るように私から言われた
と伝えられて、事務所入りした。弟は、私に対して負い目があったのだろう。弟の
学費なども私が払っていたので、逆らわずに入ったのだ。弟は巻き込みたく無かっ
たのに、結局は私が巻き込んでしまった・・・。
 それから兄弟で事務所内の地位を上げていった。私は順調に出世していき、25
歳の時には、異例の速さで若頭に任命された。だが、私の心は晴れない。これが、
本当に私が望んだ事だっただろうか?・・・でも、私にも部下が出来て、部下を見
捨てるなど、出来そうにも無かった。
 31歳の時、組長が人斬り組織にやられた。タウンでの収益配分の争いに巻き込
まれての事だ。そして、ついに私が組長に推薦されたのだ・・・。私は断ろうにも
断れない地位に居た。他に適任者も居なかったし、部下を見捨てる事も出来ない。
その頃の事務所は、組長がやられた事もあって、衰退の一途を辿っていた。私が立
ち上がらなければ、行く当ても無い者が増える。・・・だが、今思えば、この時に
断っていたら・・・と思う。
 私は、就任早々に組長の敵を取りに行った。行かなければ、部下が暴走しそうだ
ったからだ。人斬り組織は、所詮頼まれただけだ。調べて行く内に、タウンで抗争
していた有数事務所の一つが、『ダークネス』に依頼したのだと知った。こうなれ
ば、乗り込むだけだ。
 こっちは小さな事務所だったが、皆が奮闘してくれたおかげで、勝つ事が出来た。
そして、タウンの他の組織にも連戦連勝し、いつの間にか押しも押されぬタウンで
一番の組織になった。タウンで『ガイア組』に逆らう者は、最早居なかった。
 しばらく安泰の時が続いたが、ついにその時は来た。34歳の時だった。
 タウンの古い組織である『ゴール組』が、ガイア組に戦争を仕掛けてきたのだ。
私の学生時代からの付き合いの者を殺されて、私も血が上っていたのもある。タウ
ン全土を巻き込んだ闘争になった。
 最初こそ私達が有利だったが、ゴール組の組長であるヴィアン=ゴールは、事も
あろうに、警察と組んでやがった。その結果ガイア組は、ほぼ壊滅となった。私の
油断からであった・・・。なので、残った部下達には、これから暮らしていけるだ
けの金を渡して、逃げるように言い、弟にも金を渡して、逃げ延びるように言った。
弟は、この稼業が嫌になっていたらしく、文句を言いつつも私の下から去っていっ
た。そして総仕上げとして、ヴィアンを殺す事に決めた。
 私の学生時代を踏み躙り、弟の存在を知っているヴィアンを殺さなければ、私は
捕まっても安心出来なかったからだ。私は人斬りの事を丹念に調べ上げて、『司馬』
を見付けた。普通なら私のような極道関係の仕事は請けないらしいが、私の必死さ
が伝わったのか、請け負ってくれた。
 士さん曰く、『司馬』立ち上げ当初だったので、どんな仕事でも請け負いたい時
期だったらしい。先にも後にも、極道関係の仕事をしたのは、私だけらしい。士さ
んにも、迷惑を掛けた物だ。
 こうして私は、セントの警察に出頭し、極悪犯として、『絶望の島』に送られる
事になった。覚悟はしていた。・・・あそこでレイクに出会ってなければ、私は腐
ったまま死んでいただろう。
 私は、人生の大半を人々を苦しめる事で費やした男だ。そんな私が今、こんな救
われる家で、愛する者が出来るとは・・・。人生は分からぬ物だ。
 私は自分が犯した罪を忘れたりはしない。
 私の人生は、今囲まれている仲間を守る為に、存在している。義務ではない。私
が守りたいのだ。今居る仲間は、最高の仲間達だ。どの人も光り輝いている。
 私は、『絶望の島』での改造手術で、大きく傷ついたが、睦月さん曰く、やっと
完治するらしい。今では、運動や修練をしても問題無いまでに回復した。隣に居る
ティーエも、麻薬の禁断症状を乗り越えて、笑顔を浮かべている。
 回復祝いと言う事で、豪勢な食事を作ってくれる所が、この家のお節介な所だ。
私は、このような恵まれた環境に居て良いのか、時々分からなくなる。
 その夜、久し振りに『絶望の島』に居た面々で会う事になった。
 仲間も増えたし、皆の意識も変わってきている。それでも、この面々と会うと、
安心出来る。そんな気持ちにさせてくれる仲間達だ。
「まずは、ジェイルにティーエさん。回復おめでとさん!」
 レイクが、祝ってくれる。食事時にも言った言葉だが、気分は悪くない。
「有難う御座います。これも、皆のおかげですよ。」
 私は、誇張無く言う。私が此処に居るのは、皆のおかげだ。
「皆のおかげ・・・じゃないわ。それぞれが助け合ったおかげよ。」
 成程。ファリアの言う通りかも知れませんね。
「そうだな。俺達は、ジェイルとティーエさんのおかげで、出られた。」
 エイディは、あの時の事を、未だに恩に感じている。私は、気にしてないのだが。
「そして、アンタ達が、私とジェイルを救い出した。お互い様だね。」
 そう。ティーエも私と同意見だ。助け合った結果だ。
「俺達が強くなれたのも、二人のおかげだしなー。」
 グリードは、本当に嬉しそうだ。この男は、場を盛り上げるのが上手い。
「本当に色んな事があったな。・・・少し前までじゃ考えられないな。」
 レイクは感慨に耽っている。確かに色々な事があった。
「私は病み上がりなので出られませんが、『闘式』では、応援しています。頑張っ
て下さい。皆、優勝を狙うつもりで行くのですよ。」
 私は発破を掛ける。勿論、皆優勝するつもりだろう。
「ま、色々対策は練ってるけどな。正直、恵と俊男のタッグは、きついな。」
 エイディは、お手上げのポーズをする。確かにあの二人は凄い。
「後は、ケイオスとエイハだっけ?あそこも、きっついよなー。」
 グリードは、溜め息を吐く。その2つは優勝候補だろう。
「何処も強いけど、頑張るしかないよな。」
 レイクは、苦笑いをする。
「そう言うアンタ達だって、優勝候補でしょ?」
 ティーエは、レイクとファリアを指差す。
「やっぱ、そう言う見方されてる?」
 ファリアは、顎に拳を当てて考える。確かにこの3つは、ズバ抜けて強いでしょ
うね。普段の修練から見ても、飛び抜けてますしね。
「瞬と江里香の組も、かなり厄介だけどな。」
 エイディは、もう1候補挙げる。瞬君と江里香さんは、相性が良いですからね。
瞬君が思いっ切り闘って、江里香さんが回復を担当する。しかも江里香さんは、個
人でも闘えるように技を磨いているのだとか。
「奥の手を出さざるを得なくなるかも知れないわね・・・。」
 ファリアは、顔を顰める。余り危険な事はして欲しくないんですがね。
「もしかして、前に話してたアレか?追い詰められた時だけにしろよ?」
 レイクは心配そうに声を掛ける。これは、相当危険なんでしょうね。
「ファリア、怖いのは程々にしなよ?アンタ、もう一人じゃないんだから。」
 ティーエが、心配そうにしていた。私も心配ですね。
「大丈夫大丈夫。自分の出来ない領域までは、やるつもりないから。」
 ファリアは、笑顔を見せる。無理してなきゃ良いのですが・・・。
 トントン・・・。
 私の扉がノックされた。ああ。やっと来ましたか。
「恵さんですか?」
 私は、恵さんを呼びつけていた。ちょっとした用事があったからだ。
「入りますわ。」
 恵さんは、一言断って、部屋に入ってきた。
「あら?決起集会でもしてたのかしら?」
 恵さんは、楽しそうだった。最近の恵さんは、俊男さんが戻ってから、良い笑顔
を見せるようになりましたね。
「そんな大それた物じゃないわ。ま、快気祝いって所よ。」
 ファリアが答える。恵さんとファリアは本当に仲が良いですね。
「私からも、祝いの言葉を述べておきます。ジェイルさんにティーエさん。」
 恵さんは、目を瞑りながら、丁寧に頭を下げて礼をしてくれた。
「で、私に用事とは、何でしょうか?」
 恵さんは、本題に入る。・・・私が呼びつけた理由。それは・・・。
「私とティーエを、雇って貰えないでしょうか?」
 私は、隠さずに言う。これは、ティーエと話し合った結果だ。
「え?雇って?って、此処で働く気か?」
 グリードは、余りに意外だったのか、聞き返してくる。
「まぁね。私も色々考えたんだけどさ。助けてもらった恩を、直接返したいんだよ
ね。それだけじゃないんだけど・・・。」
 ティーエも、私と同じ気持ちだ。此処まで世話になった家に、本気で恩返しした
いのだ。レイクを見守ると言う役目も、此処でなら可能だ。
「気にしなくて良いと、何度も言った筈ですが。・・・決意は固いようね。」
 恵さんは、腕組しながら考えていた。
「そうなると、睦月の下で働いてもらう事になるわ。・・・でも天神家では、いき
なり執事になって貰う訳にはいかないんですの。」
 それはそうだ。素人がいきなり働ける程、この家は甘くない。
「睦月の紹介で、アランの所に行ってもらう事になりますわね。」
 前に話に出て来た、睦月さんと葉月さんの師匠でしたっけ。
「あー・・・。でも、私達は・・・。」
 ティーエが言い淀む。私達は『絶望の島』の脱走者だ。セントに入るのは、困難
だろう。これは、難しい問題ですね。
「心配しなくて良いわ。手が無い訳ではなくてよ。」
 恵さんは携帯電話で、誰かに連絡を取る。すると、あっと言う間に睦月さんがや
ってきた。何とも便利な・・・。そう言えば、睦月さんの『ルール』は、『転移』
だと言ってましたね。
「私をお呼びでしょうか?」
 睦月さんは、用件を聞いてきた。
「睦月。この二人が、ここで働きたいらしいの。セントに入れないみたいだから、
養成所に連絡取れます?」
 恵さんは、簡潔に話をした。
「・・・取れますけど・・・。本気ですか?」
 睦月さんは、物凄く嫌そうな顔をした。何だか怖くなってきましたよ。
「本気かどうかは、この方達に聞いた方が早いんじゃなくて?」
 恵さんは、明言を避ける。どう言う事なんでしょう。
「そうですね。・・・では、ティーエ様にジェイル様。お覚悟を聞きます。」
 睦月さんは、改まって私達に問い掛ける。
「恵様が、今話された『養成所』と言うのは、セントの郊外にある他国用の奉仕者
養成所の事です。そこでは、集中的に課題を行う分、とてもきついんです。それを
潜り抜ける覚悟はありますか?」
 睦月さんは、簡単に説明してくれた。睦月さんが相当きついと言うのだから、本
当にきついのだろう。
「私はあります。この家には・・・そして貴女にも、返しきれない程の恩がありま
す。それを返さずにいるのは、私の中の仁義に反します。」
 命の恩人に報いずにいるのは、私の精神衛生上にも良くない。
「私も、本当に世話になったと思います。・・・そろそろ仕事しなきゃと思ったん
です。でも、全く知らない所で働きたくないんです。だから、一緒に働かせて下さ
い。恩を返すだけじゃなく、ここで働きたいんです。」
 ティーエも敬語を使いながら話す。此処で働くつもりなら当然だろう。
「分かりました。では、連絡致します。今は『闘式』の準備もあるので、2週間後
に面接します。それまでに基礎知識からミッチリ学んできて下さい。」
 睦月さんは、予定を調整してくれた。『闘式』が始まるのは5月1日だ。今日は
『闘式』の受付が終わった4月16日なので、『闘式』の前日に面接と言う訳です
か。確かにその日なら、準備も終わってる頃でしょう。
「ティーエが、この屋敷のメイドかー・・・。」
 ファリアは、想像している様だ。
「ジェイルの執事姿っての、見てみたいな。」
 グリードは暢気な事を言っていた。しかし私は、甘くないのだろうなと、肌で感
じていた。何せ移動もあるので、実質1週間半で基礎知識を学ばなければならない
のだ。厳しい訓練になるだろう。
 ・・・しかし、やりぬく覚悟でいます。負けませんよ!


 この星は、本当に火山の星だった。その名の通り、噴火は起きた。俺も初めて見
たので、正直、そのスケールにビビッていた。
 だがジュダさんが、この星に活力を入れたおかげで、通常の噴火程度で済んだ。
いつもの噴火ならば、それは『恵みの噴火』らしく、火山灰とマグマが冷える事に
よって、作物は良く育つし、水源も確保出来るのだと言う。
 確かに1回の噴火で、これだけの恵みがあるのならば、火山崇拝にもなるかも知
れない。この火山は、この星の生命線だ。それが火山と共に生き、火山と共に死ぬ
覚悟を生んだのだろうな。
 闘技場にアレだけ居たリーゼル星人は、それぞれの土地に戻り、各地で噴火を楽
しんでいた。この星での噴火は、祭りに近い感覚なのだと言う。
 こうして、噴火の大切さを子孫に伝え、継承していくのだと、ザインが話してく
れた。それを見て、この星を守る戦士に憧れたのだと。
 俺は、深い理由を知って、ますますこの星が好きになった。本当に星を大事にし
ている。それが過ぎて、星と共に滅びる覚悟まであったのだから、筋金入りだ。
 だが、出会いと共に別れも来る。俺もそろそろ戻らなければならない。名残惜し
い気もするが、俺が此処での修練で得た物は、一生忘れない。
「そろそろ、お別れですな。」
 長老が、優しく声を掛けてくれた。戦士として認められた俺は、村の皆から、愛
される存在になっていた。
「俺、此処での出来事は、忘れませんよ。」
 俺は、わざと明るく言う。湿っぽい別れは、俺には似合わない。
「君が来てから、我等の意識も変わった。礼を言う。真に星を大事にすると言う心
は、従うだけでは駄目だと言う事をな。」
 ザインは、意識が変わったと言う。今までは、崇拝してたが故に、星を何とかす
る事は、禁忌だと思っていたが、これからは、星を今まで以上に大事にする覚悟だ
と言う。良い事だと思う。
「フッ。お前にしては、本当に頑張ったと思うぜ?」
 ジュダさんは、俺の頭をポンポンと叩く。少し照れ臭いぜ。
「それにしても・・・レーデルさんは、休んでいて下さいよ・・・。」
 俺は、包帯に包まれたレーデルさんを見る。どうしても見送りたいと、松葉杖を
付きながらでも見送りに来たのだ。
「そうはいかぬ。私を破った勇者の凱旋だ。見送らなければ、私自身が赦せぬ。そ
れに、君には渡したい物がある。」
 レーデルさんは、そう言うと、合図を送る。すると側近の人達が、俺に何かを手
渡した・・・ってこれ・・・。
「レ、レーデルさんの棍棒と盾じゃないですか!?こんな大事な物!」
 俺はビックリした。レーデルさんが長年使ってきた棍棒と盾だった。しかも、元
が物凄く丈夫に作ってあるのか、少しも崩れていない。
「君に受け取って貰いたいのだ。君は母星で闘いの大会に参加すると聞いてな。私
の魂を、その大会に発揮してもらいたくてな。」
 レーデルさんは、『闘式』の事を知っていたのか・・・。ってジュダさんがバラ
したんだな・・・。それでか・・・。
「有難う御座います。俺、出来る限り頑張ります!」
 俺は、軽く感動してしまった。レーデルさんは、自分の誇りである棍棒と盾を、
俺に託したのだ。これには応えたいと思う。
「勇者よ。君に栄光あれ!」
 レーデルさんは、怪我を押しているのに、背筋を伸ばしていた。凄い人だな。俺
は、この人に勝ったなんて信じられない。
「んじゃ、魁が世話になったな。」
 ジュダさんが長老と握手をする。
「貴方様にも感謝します。あのような暴言を吐いた我等を、見捨てずに居た事を、
忘れはしません。竜神と、異星の勇者に火山の恵みあらん事を・・・。」
 長老は、俺達に最大の賛辞を送る。
「大袈裟だな。まぁ、また何かあったら、こっちに来るから、その時は宜しくな。
そろそろ行くぞ。」
 ジュダさんは、俺に付いて来る様に言う。
「分かりました!今行きます!」
 ・・・アイツ、結局来なかったな。最後くらい顔を見たかったんだが・・・。
「ジュダ様。宜しくお願いします。」
 長老は頭を下げる。別れの挨拶ってのは、湿っぽくていけないな。にしても、宜
しくお願いしますっての、変じゃないか?
「おう。じゃ、また来るぜ。じゃあな!」
 ジュダさんは、荷物を持つと『転移』の魔法で空間を作り出す。
「俺、頑張りますから!!じゃぁ!!」
 俺は、力いっぱい叫ぶと、『転移』の空間の中に入った。
 ・・・そして、当たり前だが、気が付くとソクトアに戻っていた。
「・・・戻りましたね・・・。」
 俺は、ついにソクトアに戻ってきた。・・・何だか、体の調子が変だ。
「う、うわ。何だか変ですよ!」
 俺は、体が落ち着かない。何だろう?ソクトアに何か起こった訳じゃないのに。
「そりゃお前、リーゼルとソクトアじゃ、重力が違うからな。体を慣れさせろよ。」
 ああ。そうか。リーゼルは重力が2倍あったんだっけ。体がフワフワしたのは、
そのせいか。体が物凄く軽く感じるなぁ。
「あれ?何か浮くよー?なぁにこれ?」
 ・・・へ?こ、この声・・・。いや、気のせいか?
「こりゃ、参った・・・。幻聴まで聞こえるとは・・・。」
 アイツ、最後まで来なかったしな・・・。相当名残惜しいのかな?俺。
「もう出て良いかな?・・・魁ー。出してくれよー。」
 ・・・まだ聞こえ・・・って、ジュダさんが持ってたあの荷物からか?・・・ま、
まさか!この荷物、来る時は無かったぞ!!
「うおい!まさか!!」
 俺は、荷物の紐を解く。すると、とても見覚えのある奴が姿を現した。
「ルード!お前、この中に居たのか!?」
 間違いなくルードだった。この瞳に愛嬌のあるトカゲ顔・・・。
「うわー。この星すげー!空が青いなんて初めて見たー!それに何だか涼しいね。」
 ルードは、能天気な事を言っている。いや、そんな事言ってる場合じゃ・・・。
「いやな?長老とザインに頼まれたんだよ。ルードにソクトアを見させてくれって
さ。ルードも、魁に付いて行きたいって言うからさ。まぁ丁度良いかなって。」
 ジュダさんは、サラッと凄い事を言う。だから、何で勝手に決めるんですか!
「何だよ。その顔ー。俺、魁と一緒に、この星を見たかったのにさー。嫌なのか?」
「嫌じゃねーよ。そりゃ嬉しいけどさ。・・・まぁビックリしただけだ。」
 俺は、そう言うと、溜め息を吐きながら、ルードの頭を撫でてやった。全く、コ
イツも良くリーゼルを離れる気になったな。
「なら、問題ないよな!いやー、長老とザインさんに行けって言われた時は、不安
だったけどさー。魁と一緒なら大丈夫かな?って思ったんだー。」
 コイツは、一々可愛い事を言う。ああ。もう面倒見てやらねーとな。
「まぁ、リーゼルでの出来事が夢だと思われるのも癪だしな。」
 ジュダさんは、俺の事を見抜いている。恐らく、このまま帰ったら、俺は夢でも
見てたんじゃないか?と思うに違いない。
「これがあるから、夢だ何て思いませんよ。」
 俺は、レーデルさんから貰った棍棒と盾を見せる。
「おー!これレーデル様のだー!魁すげー!貰ったのかよー!」
 ルードは、目を輝かせていた。
「お前、荷物の中で寝てたのか?」
 今までの会話からして、そうとしか思えない。
「『転移』をする時に、暴れられたら困るから、この中で眠ってもらったんだ。」
 ジュダさんは、袋を見せる。良く見ると、魔力で包んであった。
「これ貰ったんなら、魁、優勝しなきゃなー!」
 ルードは、ニコニコしていた。
「簡単に言うなよ。前にも話したと思うけど、俺の星の連中は、強いんだぞ?」
 俺は、連日のように負けていたしな。
「昔ならそうだな。だが、今なら勝てると思うぞ?」
 ジュダさんは、俺の仲間の実力を知っても尚、言ってくる。
「まぁ、全力を尽くしますよ。・・・それにしても、ここどこです?」
 俺は、周りを見渡す。てっきり天神家の前だと思っていた。
「サキョウ近郊だ。少し体が慣れてからじゃないと、暴走するから、慣れさせろ。
お前だけじゃなく、ルードもだぞ?」
 ジュダさんは、注意する。成程。重力の差に戸惑うからか。
「何だか妙に体が軽いんだよねー。」
 ルードは、さっきから3メートルくらいジャンプしている。
「俺も、あれくらい飛べるのかな?・・・よっと!」
 俺は、思いっ切りジャンプしてみる。すると、とんでもないくらい体が浮いた。
「ま、マジか!?」
 俺はビックリする。5メートルくらい浮いてるぞ俺・・・。
「分かったか?これが重力の違いだ。お前が過ごした3週間は、それだけ濃密だっ
たんだよ。大会では、一般人相手には手加減しろよ?」
 何だかすげぇ。これが重力の違いって奴か!
「ま、これでお前もスタートラインに立てたって事だ。後は、天神家で調整するか
ら、楽しみにしてろよ?俺が直々に相手をしてやる。」
 ・・・楽しみって・・・。怖いんですが・・・。
「はぁ・・・ま、そろそろ天神家に行きましょう・・・。」
 俺は、物凄く疲れた・・・。凱旋気分など、吹き飛んでしまった。
「顔が暗いぜー?俺、応援するから、負けんなよー?」
 ルードは、ひたすら明るく対応していた。ま、何とも可愛い奴だ。
 俺のリーゼルでの3週間は終わった。そして、新しく小さい仲間と共に、次のス
テップに進もうとしていた。


 俺は、連日のように激しい修練をしている。寝てる時もゼーダに意識を起こされ
て修練をしている。この頃はフル稼働している。それくらいしないと、俊男に追い
つけないからだ。アイツは、死線を彷徨って、大幅なパワーアップを遂げた。
 恵を守りたいと願う心は、俊男の方が上だ。その心があれば、あそこまで強くな
れる物なのか・・・。俺は、どうすればアイツに追いつける?
 俺は、爺さんが言っていた強く正しい事を、実行出来る男になれるのだろうか?
(悩んでいるな。周りが強くなっていくのは、不安か?)
 ゼーダ。俺としては、寧ろ喜ばしい事だと思っている。それは本当なんだ。だけ
ど、俺が付いて行けなくなるんじゃないか?って思ってな。
(成程な。・・・ソクトアは、強い者がどんどん出てくる。不思議な所だ。)
 そうだな。しかも、確固たる強さを持っている。
(君とて負けてはいまいよ。私と合わさった時の能力は、『予知』に『破拳』だ。
敵にとっては脅威の能力だと思うぞ。)
 確かに、俺の『ルール』は強力だと思う。だけど、それに頼ってばかりで、俺は
強くなっているのか?
(深刻だな。だが、力だけを追い求めても、必ず強くなれる訳じゃない。)
 分かっている。強さとは『心・技・体』だと思っている。
(良く聴く言葉だな。)
 俺は今、『技』を鍛えている。これも強さの一つだ。だが、今回で『体』、つま
り力の放出と言う点で、俊男はとんでもなく強くなった。
(君も鍛えているが、力と言う点では、俊男やケイオスには一歩譲らざるを得ない
な。奴等は私をも超えているからな・・・。)
 となると・・・。やはり『心』か・・・。
(今回の俊男は、恵を守り、皆を守る強さを欲しいと、強く願った。その結果があ
の強さに繋がっている。『心』の部分で、大きく成長したのだ。)
 俺にも、強く願える『心』が無きゃ駄目って事だな。
(そこまで分かっているのなら、何とかする事だな。私は手伝える事は手伝うが、
今の君の悩みは、完全に専門外だ。頑張りたまえ。)
 分かってる・・・分かってるよ・・・。俺の中途半端な心が、いけないんだと。
(力と言う点では、私も手伝える部分がある。)
 本当か?俺は、少しでも強くなりたい。江里香先輩が、合気を習うくらい頑張っ
ているのに、俺が何もしないのは、失礼だ。
(ただし荒行になる。それでも良ければ、やるが?)
 荒行か・・・。冗談じゃないと思った時期もある。だけど、今の俺にはうってつ
けだ。頼む。俺にその荒行を受けさせてくれ。
(分かった。ただし、用意がある。1週間程時間をくれ。)
 『闘式』に間に合えば良い。レイクさんも自分の殻を破ろうとしている。俺も、
手を拱いて見ているだけじゃ駄目だ!
(よし。ならば、私も覚悟を決めよう。君に付き合ってやる。)
 お願いするぜ。俺だって、このまま終わりにはしたくないからな。
 爺さん・・・。俺は、強く正しい男の誓い、忘れないぜ!



ソクトア黒の章6巻の4後半へ

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