7、前夜  どんなに自信があろうと、この時ばかりは緊張する物だ。それは、合否の判定で ある。相手の気分次第では、どんなに自分が良いと思っていても、落とされてしま う。こればっかりは、言い渡されるまで気が抜けない。  今の私は、正にそんな気分だった。これは、一昨日も味わったっけな。セントの 『鬼の巣』でこの気分を味わった。その時の相手は、アランさんであったが、今日 は、本番とも言うべき人が相手だ。  その名も天神 恵様。私が合格すれば、主人になる御方であり、また、主人と仰 ぐのに、これ以上無い程、相応しい御方だ。給仕を学べば学ぶ程に、恵様の偉大さ が分かってくる。  天神家で、今使用人をしている人達は、本当の意味でのエリートだ。また、その 心得も、骨の髄まで分かっているプロ中のプロだ。それを取り纏めている睦月さん も、とんでもない実力だと分かる。その補佐をしている葉月さんも、恐ろしい実力 の持ち主なのだ。給仕を学んだ後だと、本当に良く分かる。あの人達の動きは、尋 常では無い。あれを当たり前だと思っているのなら、考え直した方が良い。  そんな凄まじい天神家で働こうとしている。それは光栄な事であり、エリートの 仲間入りと言っても良い。しかし、それだけに試験は半端な物では無い。少しでも ミスがあればチェックが入るし、受からないだろう。アランさんなら、指摘をして 直す様に言うだけだが、それすらなく突っぱねられる。  その天神家の試験を、私達は受けたのだ。この日の為に、この2週間は、徹底的 に鍛えたのだ。アランさんに何度も注意されて、叱られ様とも、我慢してきたのだ。  恵様と睦月さんのチェックが入る。後ろでは、仲間達が見守っていた。修練の時 間が終えてからの試験だったので、皆の前で試験を受けたからだ。出来は、会心と は言えないまでも、今出来る事をしたつもりだ。  恵様ならば、こう言うチェックで、私情が入る事は無い。純粋に私やティーエの 実力を量ってくれる。そこは安心だ。なので、これで落ちたら、完全に実力不足と 言う事になる。そして、そうなる可能性も高いだろう。 「どう?睦月。・・・。」  恵様は、睦月さんと話し合っていた。詳しくは聞こえない。ベッドメイキングは、 お墨付きを貰った。そして掃除能力は、及第点だった。調度品の整理のセンスも何 とか合格を貰っていた。そして、最後に調理技術だ。  天神家で働くならば、調理技術も重要だ。最近では、人も増えてきたので、特に 重要だ。調理だけでなく、料理を運ぶ際の仕草などもチェックされた。 「今回のお題は、ストリウス料理でしたが・・・。成程。」  睦月さんは、舌に神経を集中させている。チェックの仕方が、アランさんにそっ くりだ。さすがは師弟にして、天神家を取り仕切っているだけある。 「・・・であれば、・・・と思います。」  恵様に耳打ちをしている。どうやら、評定が下ったようだ。 「分かったわ。私もほぼ同意見よ。」  恵様の中で、結論が決まったようだ。私達は、裁定が下る間も、姿勢を崩さずに 居た。こう言う所で優雅さが問われる。合格する為と言うより、アランさんに習っ た事を無駄にしない為に、私達は姿勢を崩さないようにしていたのだ。 「では、これより発表しますわ。」  恵様が、チェック票を手に取る。 「ベッドメイキングは、二人とも素晴らしい出来でした。いつでも葉月が代われる 程ね。そして、掃除能力に整理能力は、ジェイルに軍配ありましたね。ティーエも 及第点でしたが、もう少し頑張った方が良いわ。」  恵様は、チェックが厳しい。やはりティーエが、整理に時間が掛かっていたのを、 見逃していなかった。私より力が無い事など、余り関係無いようだ。 「調理技術ですが、配膳はジェイル、調理はティーエに、光る物がありましたわ。 ジェイルは、もう少し調味に気を付けた方が良いでしょう。」  恵様のチェックは容赦が無い。アランさんに心配された事が、そのまま言われて いるようだ。これは、駄目かも知れない。 「で、最終的な合否ですが・・・フッ・・・。合格よ。」  ・・・そうか・・・。って合格!?合格したのですか!?私は。 「有難う御座います。」 「これから、宜しくお願いします。」  私もティーエも、驚きだったが、そんな事は表に出さずに一礼する。最後まで、 優雅さを忘れてはいけない。 「・・・よし・・・。改めて合格・・・。」  え?睦月さんは、改めてと言った。 「見事ですわ。ジェイルにティーエ。今、手放しで喜んだりしたら、合格を取り消 すように、睦月から言われていたわ。」  恵様は、最後の最後に、判定を用意していたのだ。それは、優雅さと佇まいのチ ェックだ。私達が、そこで崩れるようなら、不合格を用意したのだろう。 「あー・・・。緊張したぜー・・・。」  レイクが、自分の事のように心配していた。 「私もよ。最後の仕掛けを聞いてたから、ドキドキしちゃった。」  ファリアも、知ったいたようだ。 「これから、天神家の一員として、しっかり頼みますよ。」  睦月さんが、私達に手を差し伸べる。私達は、その手をしっかりと握り返す。 「宜しくお願いします。睦月さん。」  私もティーエも、睦月さんの命令で動く事が多くなるだろう。 「良かったな。ジェイルにティーエ!俺も嬉しいぜ!」  グリードは、我が事のように喜んでいる。 「フッ。こっちまで緊張させるなよ。」  エイディも、胸を撫で下ろしていた。 「お姉ちゃン!さっきの料理、美味しかったヨ!」  センリンさんが、ティーエに抱き付いていた。さっきの料理は、皆で試食しても らったのだった。ティーエの味付けは、さすがだった。私も、頑張らねば。 「この餃子っての、美味しいなぁ!俺、こう言うの好きだよ!」  この声は、ルード君ですね。異星人の方にも気に入ってもらえるとは、光栄の至 りだ。このルード君は、この星に来てから、何にでも興味を持っている様子ですし ね。色々な体験をさせてやりたいですね。 「餃子なら俺の店でも、作っているが、焼き餃子が多いからな。この茹で餃子は、 香り付けと言い、上品で良いな。」  士さんが、独特な感想を漏らす。さすが店をやっていると、感想の仕方が違う。 「ああ。そうそう。それで、貴方達の担当ですけど、レイクさんにジェイル、ファ リアさんにティーエが付きなさい。」  恵様が、指示を出す。私がレイクを?・・・これは、光栄だ。 「え?お、俺の世話ですか?ジェイルがですか!?」  レイクは戸惑っていた。まぁ無理も無いだろう。 「私は良いわよ。宜しくねティーエ。」  ファリアは、慣れた物だった。さすがですね。 「宜しくお願いします。ファリア様。」  ティーエは、早速敬語を使い出した。対応が早いですね。 「私も宜しくお願いします。レイク様。」  私も負けじと使い出す。レイクは、悶え始める。 「恵。頼むから、様付けさせるの止めさせてくれない?さすがに慣れねぇよ。」  レイクは、私に様付けされるのが嫌なようだ。私もちょっと業とらしかったかも 知れない。これはいけませんね。 「フフフ。こう言ってるわよ?どう対処するのかしら?」  恵様は、意地悪っぽく私の方を見る。さすがに手馴れていらっしゃる。 「了解しました。しかし、今までの呼び捨てと言う訳には参りません。ですから、 これからは、『レイクさん』とお呼びしますよ。」  私は、姿勢を崩さずに即座に対応する。こう言う所はキッチリしておかないと駄 目だ。これからは、レイクが・・・いや、レイクさんが主人だ。 「ああ。それなら、まだ良い。・・・ああ。焦ったぜぇ・・・。」  レイクさんは、慣れないようですね。冷や汗を掻いていた。 「ああ。んじゃ私もそれにしてくれない?やっぱ慣れないのよね。」  どうやら、ファリア・・・いや、ファリアさんも、そう思っていたみたいだ。 「了解しました。『ファリアさん』。確かに私も慣れない真似を致しました。」  ティーエは、遊んでいる。しかし、親しみのある呼び方だった。ティーエが『鬼 の巣』で、一番直した点は、ここだった。優雅さを身に付けるのが一番苦戦してい た。だが最後には、キッチリ修正する所は、さすがだった。 「宜しく頼むわね。ティーエ。」  ファリアさんは、ティーエに挨拶をする。すると、ティーエは嬉しそうに頷く。 「なぁなぁ。『鬼の巣』って、そんなにすげぇ所なのか?お前達の佇まいが、そこ まで変わっちまう程にさ。」  エイディは、興味があるみたいだ。 「アランさんは、素晴らしい方ですが、厳しい御方でしたね。」  私は、それだけ言う。あの躾け方は、堂に入っていた。 「そう言えば、アランは元気だったか?」  ゼハーンさんが、尋ねてくる。ゼハーンさんも気になるみたいですね。 「向こうで撮った写真があります。拝見しますか?」  ティーエが、デジタルカメラを取り出す。そう言えば、レイクさんに見せる為に 撮ったのでしたね。折角だから、見てもらわないと駄目ですね。 「折角ですし、皆で見ましょう。・・・睦月。」  恵様が合図を送ると、睦月さんが手早く合図を送る。すると、とてつもない速さ で、スクリーンと映写機が用意される。デジタルカメラの画像を見る為の映写機だ。 相変わらず、この手早さには驚いてしまう。私も、この家の一員となるのならば、 この速さを見習って、参考にしなければならない。 「では、預かりましょう。」  睦月さんは、ティーエからデジタルカメラを預かると、中のメモリーカードを抜 き取って、映写機の差込口に入れる。そして、スクリーンに映し出した。 「お。アランだな。・・・良い笑顔だな。」  ゼハーンさんは、感慨深いみたいだ。 「この人が・・・アランさん・・・。何だろう。凄く、安心出来る笑顔だ。」  レイクさんは、マジマジと見入っていた。気に入って頂けたようだ。 「あー。この養成所は、見覚えがありますね。セントのお屋敷から、此処に派遣さ れた覚えがあります。師匠も変わっていませんね。」  睦月さんは、懐かしそうに見ていた。睦月さんは、セントのお屋敷で修行したら しいが、時々この施設に来ていたみたいだ。 「あれ?この刺繍は?・・・うわー。これ、中々凄いわね。」  次の写真を見ると、刺繍を持って、幸せそうにしているアランさんを写している 一枚があった。刺繍もバッチリ見れるようになっている。ファリアさんは、感嘆の 声を上げていた。これは、私とティーエが作った物ですね。 「私とティーエが、この施設を卒業した時に、感謝の気持ちを込めて、アランさん に送りました。アランさんが、一番望んでいる事だと思いまして。」  私は、説明しておく。アランさんが余りにも良い笑顔をするので、写したのだ。 「こ、これ、俺じゃん。ジェイルが縫ったのかよ?・・・すげぇな。」  グリードは照れながらも褒めてくれた。 「自分の姿が縫われているってのも落ち着かない物だな。」  エイディは、照れ隠しに皮肉を言っていた。 「これは私か?私まで入れてくれるとはな。」  ゼハーンさんが、嬉しそうに見ていた。自分が入っているとは思わなかったのだ ろう。だが、アランさん相手に、ゼハーンさん無しと言う訳にはいかない。 「ジェイル。ティーエ。良い物を作りましたけど、これじゃ足りませんわ。」  恵様が、不満そうに私達を見た。 「そうですね。私達が入っていません。これでは未完成です。」  睦月さんも容赦が無かった。そう言うとは思いましたけどね。 「実は、そう言うと思いまして、作成中です。」  ティーエは、アランさんが持っている物より、二回りほど大きい刺繍を、作成中 だ。今は、写真を元に下書きをしている段階だ。 「ならば宜しい。必ず完成させて、アランさんを喜ばせるのよ。」  恵様は、それが使命だと言わんばかりだった。こう言う事を命じる時の恵様は、 誰よりも輝いて見えた。さすがだ。 「了解しました。でも、それだけでは御座いませんよね?」  ティーエは逆に尋ねる。中々人が悪い。 「あら。良い切り返しね。当然ですわ。」  恵様も当然分かっているらしい。 「いつか皆で、アランさんに会いに行きますわ。決定事項よ。」  恵様は、当然の事だと思っている。本当に心優しい気遣いが出来る御方だ。 「フッ。そんな事をしたら、あの執事さん、歓迎と称して、凄まじい料理を作って くるぞ?楽しみな事だな。」  士さんは、アランさんに会った事があるので、どう言う人か知っている。 「やり兼ねないネ。あの人は、限度を知らないからネ。」  センリンさんまで同調している。確かにやるだろうな。 「アランの事だ。その方が幸せに思う事だろう。やれやれだな。」  ゼハーンさんは、自分の執事が褒められて、本当に嬉しそうだった。 「ま、その前に新人二人を、一人前にしませんと。これから、宜しく頼みます。」  睦月さんは、そう言うと、私とティーエを、にこやかな笑顔で迎え入れる。しか し、私とティーエは知っている。この笑顔は、容赦無い扱きをする前触れだと。  そう言う所は、本当に師匠譲りだった。  この天神家に、新しく仲間が増えるとは・・・。これまで面接した人達は、どう にも下心がある人達ばかりだったので、撥ねてきたのだが、やっと新しく仲間が増 えましたね。特に最後の、優雅さを失わない佇まいは見事だった。  私は知り合いだからと言って、面接を甘くしたりはしない。寧ろ、さっきの試験 は、いつもより厳しく裁定した。しかし二人は、かなりの優雅さを保っていたし、 技量も十分だった。これなら、天神家の一員として恥ずかしくない事でしょう。  レイクさんにはジェイルを。そしてファリアさんにはティーエを付けたのには、 理由がある。だけど、まだ誰も気が付いていない。それで良い。自然に溶け込ませ るのも、目的の内だ。だけど、その内知るだろう。私が、レイクさんとファリアさ んに二人を付けたのかを。・・・感謝して欲しいですわ。予行演習させているので すから。ファリアさんですら、気が付いていないみたいですしね。さすがに、睦月 は気が付いているようですけど・・・。  この試験が終わった後に、前夜祭として、パーティーをする事になっている。と 言うのも、前日の事ですが、やっと全ての用意が整ったので、『闘式』が無事に開 催される事に決まったからだ。会場への『転移』の扉の用意なども完璧だった。  もう既に会場では、少しでも良い席を取ろうと、泊り込みで待っているファンが 居るくらいだ。有難いけど、余り無理されても困るのですがね。  ま、とりあえず、今日のパーティーはマスコミを呼んでいない。なるべく気楽に 楽しめるようにしようと言う狙いもある。とは言え、どうしても地元の放送局が、 取材したいと、言ってきたので、その人達だけ了承を取った。  もうパーティー会場は、着々と準備が出来ている。今回は、私達の仲間と、その パートナーが対象だ。もう皆、『闘式』への準備が出来ている事を確認したので、 どうせならと、開催したのだ。  修行に出ていた方達も、戻ってくる。どんな風になっているのか、楽しみだ。  今の所、天神家の逗留メンバーは、既に着替えなどをしている。私は、手早く着 替えを済ませてしまった。今、天神家に居るメンバーは、私に兄様、レイクさん、 ファリアさん、グリードさん、エイディさん、ジェイルにティーエ。それと、ゼハ ーンさん、士さん、センリンさん、ジャンさん、アスカさん、それに睦月ね。後は、 ゼリンも居る。  今回は、気楽なパーティーなので、簡易的なドレスとスーツで良いと言っておい た。余り気負った物にしたくない。とは言え、私は開催者として恥ずかしくないよ うに最低限のドレスを用意している。立食用の紅いドレスだ。 「お。主催者様の登場だ。」  士さんの声が聞こえた。簡易的なスーツだが、着こなしている。 「うわァ!さすが恵さんだヨ!豪華だネ!」  センリンさんも、士さんに合わせて、パーズドレスを着ている。それも結構似合 っている。こう言うの着たら、一番映えるのよねぇ。センリンさんは。 「さっすが当主様。眼福眼福。って、睨むなって姐さん。」 「んもう、ウチだって、ドレス着てるってのにー。でも恵さん綺麗だねぇ。」  ジャンさんとアスカさんは、いつも通りの反応を見せてくれる。 「いつぞやの祝勝会を思い出す。今日は、楽しく行こうじゃないか。」  ゼハーンさんは、大人の対応を見せている。こう言う落ち着いた人が居ると、こ っちも気が楽で良い。 「相変わらず、派手だな。そうだ。葵は莉奈と魁とルードと一緒に来るらしいぞ。」  エイディさんが、知らせてくれる。パートナーの動向だし、知っていて当然だ。 「分かりましたわ。ルード君は、緊張してなきゃ良いですけどね。」  私は、あの子の事は気に入っていた。最初こそビックリしたが、素直で可愛いで すしね。最近では、首飾り無しでも喋れる様に特訓しているらしい。 「お。もう始まってるのか?・・・あ。そうそう。江里香先輩から連絡あったぞ。 何でも、秋爺さんに校長と一緒に来るってさー。」  兄様が降りてきた。江里香先輩も、修行が終わったようね。 「あの偏屈爺も来るんですね。・・・まぁ客人ですから、我慢しますけど・・・。」  睦月は頭を抱えていた。秋月さんもいらっしゃるのね。 「我慢なさい。お客様に失礼を働いちゃ駄目ですよ?」  私は、釘を刺しておく。睦月は、結構過激だからね。 「分かっています。天神家の名に懸けて、御出迎えします。」  睦月は、業務モードに入る。・・・名に懸けなきゃいけないほど、嫌いな訳だ。 「いよっ!お待たせ!おお。今日は一段と美味そうだぞ。」 「レイク・・・。少しは品性を上げなさいよね・・・。」  レイクさんとファリアさんが、下に降りて来た。傍らには、ジェイルとティーエ が居た。ちゃんとやっているようね。 「レイクさん、これからこう言う機会も増えるのですから、ファリアさんの言う通 り、作法も身に付けましょう。」 「そうですね。ファリアさんは、バッチリなのですから、余計にですよ?」  ジェイルもティーエも容赦が無い。しかし、これで良いのだ。主人の言う事を全 部丸呑みするような給仕じゃなく、主人が至らない場合は、注意出来る給仕の方が、 関係としては望ましい。  でも、レイクさんも着付けは完璧だし、ファリアさんは、白いドレスが映えてい る。あの華やかさは、天性の物だろう。 「よ、容赦無い・・・。まぁ、善処します・・・。」  レイクさんは、言葉責めで萎縮していた。可哀想に。 「おい。いつまでそうしているんだ?・・・大丈夫だって。」  グリードさんの声が聞こえてきた。どうやら何かに手古摺っているらしい。 「・・・へ、変じゃないか?・・・わ、私は・・・。」  ゼリンの声も聞こえた。どうやら、恥ずかしがっているらしい。 「あのなぁ・・・。お前がその姿が変だと思ったら・・・お、俺の感性だって、変 だと思われちまうだろう?俺は・・・良いと思うぜ?」  何やら様子が変ですわ。本当に大丈夫かしら? 「グリードの感性が、変な訳無い!それは、私が保証する!」  何だか、面白そうなやり取りをしているみたいですが・・・。 「どう為されたの?階段の上で、騒がないようにして下さいます?」  私は、さすがにやり過ぎだと思ったので、注意する。 「ま、ビックリされると思いますよ。」  睦月がとても楽しそうにしていた。そう言えば、ゼリンの着付けを手伝ったのは 睦月だったわね。 「よ、よし。行くぞ。・・・ほら!」  グリードさんの緊張した声が聞こえた。すると、グリードさんの手を取って、ゼ リンが降りて来た。・・・これは驚きましたわ。ゼリンは、薄い水色のドレスを着 ていた。変どころじゃない。これは物凄く似合っていた。 「ほ、ほら。皆引いてるじゃないか・・・。呆れて物が言えないみたいだぞ?」  ゼリンは、困った顔になっていた。どうやら勘違いしているようだ。 「ちっげーっての。皆、お前が似合ってるから、見惚れてるんだって!・・・言わ せんなよ。恥ずかしいだろ?」  グリードさんは、何だかんだ文句を言いながら、ちゃんとエスコートをしていた。 「すっごーいヨ!ゼリン、綺麗じゃないカ!」  センリンさんがはしゃいでいた。分かる気がする。 「フッ。メトロタワーの時とは、大違いだな。」  士さんは、旧メトロタワーでゼリンと闘った事がある。その時は、管理職の兵装 をしていたのだから、違うのは当たり前だ。 「グリード。お前、ちゃんとエスコート出来るじゃねぇか。意外だな、おい。」  エイディさんが、からかっていた。 「お前なぁ・・・。俺だって自分の彼女くらい、ちゃんとエスコートするっての。」  ・・・え?今、グリードさん、物凄い事を言わなかった? 「・・・あ・・・。グリード・・・。今言わなくても・・・。」  ゼリンは、物凄く恥ずかしそうに俯く。可愛い所あるじゃないのよ。 「あ、あ、アンタ、いつからそ、そんな・・・。」  ファリアさんは、口を開けて驚いていた。 「ファリア、落ち着けって。」  レイクさんが、卒倒しそうなファリアさんの肩を支える。 「え?隠すような事でも無いだろ?いやぁ、ゼリンと話してると、パートナーだか らってのもあるけど、安心出来るから、どうかな?って。」  グリードさんは、当たり前の出来事のように話す。結構肝が据わってるのね。 「わ、私から、申し込んだんだ・・・。グリードは・・・こんな私に、笑ってくれ と言ってくれた・・・。それにグリードは、皆の笑顔の為に、こんなに一生懸命で、 私、憧れちゃって・・・。」  ゼリンは、もじもじしながら話す。何て初々しい。しかも後半部分は、ただのノ ロケだった。ゼリンがこんなになるとは・・・。 「意外でしたけど、お似合いなんじゃないかしら?」  私は、意外に似合っている二人だと思っていた。 「でも私、こんな幸せで良いのかな?って・・・。だって・・・。」  ゼリンは、士さんやレイクさんの方を見る。 「お前、まーだ言ってるのか?士さんや兄貴達は、そんな狭い心じゃないっての。 それに、お前が責められるんだったら、俺も受けるって言っただろ?」  グリードさんは、本気の眼をしていた。と言うか、イチャついているようにしか 見えない。よくもまぁ、こんなに惚れた物だ。 「おいおい。勝手に決め付けんな。・・・全く気にしてない訳じゃねぇ。でも、グ リードが見てるんだろ?なら、任せるさ。ま、グリードが不幸になったら、その時 は容赦しない。それだけの話だ。・・・良いな?センリン。」  士さんは、気にしてない訳では無い。だが、引き摺らないと決めたのだ。だけど、 それは酷い目にあったセンリンさんの意見無しでは、決められないのだろう。 「エ?良いんじゃないかナ?余りにもお似合いで、見惚れてたヨ。まぁあの時は、 大変だったけど、今の姿を見てたら、反対なんてしないヨ!」  センリンさんは、笑っていた。本当に祝福をしている顔だった。 「だそうだ。俺は、センリンがこう言うのなら、もう言わん。幸せになれよ。」  士さんは、そう言うと、ゼリンさんの肩を叩いてやった。 「・・・俺も正直複雑だけどさ。グリードが、それもひっくるめて、引き受けるっ て言ったんだろ?・・・なら、グリードを幸せにしてやってくれよ。」  レイクさんは、グリードさんの事を信じているのだ。だからこそ、こう言う台詞 が出るのだろう。 「私も、忘れた訳じゃないけどね。アンタのその姿見たら、何も言えなくなっちゃ ったわよ。私を騙した分まで、真摯にグリードと向き合うのよ?」  ファリアさんは、本当は認めたくないのかも知れない。でも、過去に縛られるよ り、未来を選んだのだ。それは、レイクさんと自分が味わった気持ちを知っている から、言える台詞なのかも知れない。 「・・・グリード。・・・これを受け取れ。」  ゼハーンさんは、『魂流』のルールを発動させる。何をする気だろう? 「ゼハーンさん・・・。」  私は注意しようとしたが、ゼハーンさんは手で制する。手荒な真似をする気は無 いみたいだ。ならば良いのだが・・・。 「・・・え?これって・・・。」  グリードさんは素直に手を出すと、何かが移動するのが見えた。 「私の『魂流』で、探し当てた我が養父リークと、我が妻のシーリスの形見だ。」  良く見ると、ゼハーンさんは、グリードさんに小さな入れ物のような物を渡して いた。グリードさんが中を見ると、土が入っていた。 「この土は、二人が眠る墓の下の土だ。これを、お前に預ける。」  ゼハーンさんが、しっかり握らせる。 「おやっさん。こんな大事な物・・・。」  グリードさんは、さすがにビックリしているようだ。 「ゼリンと前を向くのなら、必要な物だ。・・・頑張れよ。」  ゼハーンさんは、そう言うと、暖かな目でグリードを見ていた。 「士・・・。レイク・・・。ファリアにゼハーン・・・。」  ゼリンは、涙が止まらなかった。何て暖かな人達なのだろう。 「分かったよ。ほら。ゼリン、泣くなって。」  グリードさんは、自分も泣きそうになるのを堪えながら、ゼリンの涙を拭ってい た。本当にお似合いの二人だ。 「俺も、もう気にしちゃいないぜー。・・・けどな。一つだけ納得いかん!」  エイディさんが、真面目な顔で出てきた。 「おい。グリード・・・。お前・・・。先を越してるんじゃねーっての!!」  エイディさんは、そう言うと、グリードさんの頭を叩く。 「なーに言ってやがるんだ。お前に断る必要なんぞねーだろっての。」  グリードさんは、勝者の余裕を見せ付けていた。 「うぐ!何だ。その余裕・・・。あーー。むかつくーー!」  エイディさんは、本気で怒っている訳では無い。ただ単に先を越されて、悔しい だけなのだろう。まぁエイディさんの場合、複雑ですからね。 「済まない・・・。私はグリードしか見えないが、エイディは、二人から好かれて いるし、きっと大丈夫だよ!」  ゼリンは、さりげなくフォローしたつもりだろうが、嫌味にしか聞こえない。多 分、本当に心配しているのだろう。それだけに、怒るに怒れないようだ。  しかし、ゼリンとグリードさんね。確かにお似合いでしょうね。  いや、それにしてもビックリしたわ。まさか、あのグリードとゼリンがねぇ。確 かにパートナーになった時に、色々意識していたみたいだし?ゼリンがグリードに 惚れるのも分からなくは無いけど・・・。  ゼリンは、憎き敵だった。今でも騙された日々と、両親を殺された日の事は忘れ られない。でも、分かっている。憎むべき敵はゼリンでは無いのだ。最初こそ演技 かも知れないと思ったが、彼女は本当に真面目な人だった。真面目だったからこそ、 前しか見えなくなる人なのだ。その想いが、人一倍強いんだろう。だから、実の兄 を好きになったりした。聞けば、毘沙丸さんは、優秀を絵に描いたような人で、幼 少の頃から、その片鱗が見え隠れしていたような神童だったと言う。  そんな毘沙丸さんを見て育ったのだ。憧れるのも無理は無い。ただ、ゼリンが不 幸だったのは、憧れが恋愛だと勘違いした事だ。彼女は恋の仕方すら分からなかっ たのだ。いや、本当に兄に恋をしていたのかも知れない。  そんな恋が破れて、傷心だった時に、手を伸ばしたのがゼロマインドだった。ゼ ロマインドは、『無』の力の塊だ。とても魅力的に見えたのだろう。彼女は、操ら れたのだ。  そんなゼリンに、私も操られるように恋をさせられたのだから、滑稽な事だ。し かし彼女は、負の部分が全開に押し出された時でさえも真面目だった。だから、本 当に真面目な人なのだろうね。  そんな彼女が、本当の恋をしていた。あんな初々しい表情を浮かべるゼリンを、 私は初めて見た。しかも着飾ったら、あんなに美人だ何て卑怯だ。私だって、自信 が無かった訳では無いが、あんなに可愛くて美人だなんて・・・。  しかも、彼女については、最近分かった事がある。彼女は相当に『天然』だと言 う事だ。昔から非常識な発言をする事はあったが、本当に意識してないのに、変な 発言が多い。そこがまた可愛いのが、腹立つ所だ。  そんな部分を知っちゃったらさ。もう敵としてなんか、見れる訳が無いっての。 もう勢いで赦しちゃったわ。でもま、グリードが操られたり、不幸になったりした ら、その時は容赦無く、敵になってあげるけどね。  しかし、それにも増して意外だったのがグリードの対応だ。レイクの事を、兄貴 兄貴なんて連呼するもんだから、女っ気なんて、微塵も感じなかったのに、いざ蓋 を開けてみれば、紳士な事が出来るじゃないのよ。意外だわ・・・。  ああ見えて、面倒見が良いし、周りの空気を読むのが早いから、お似合いなんで しょうね。祝福しといてあげるわ。  それはそうと、さっきまでの騒ぎが収まって、天神家では、今度は来客の対応に 追われていた。来客と言っても、帰ってくる人達への対応がほとんどかしらね。 「招待に応じに参りました。これは、賑わっておるようですな。」  毘沙丸さんが来ていた。正装の和服を着ている。 「豪勢ですな。・・・このようなパーティーに招かれるとは、光栄です。」  横で、何だか吐きそうな表情をしているアインさんが居た。 (フッ。アインとは、また懐かしいですな。彼は、乗り物酔いが酷いので、車酔い でもしたのではないでしょうか?良く馬車酔いしてましたよ。)  ん?サイジン?そうなの?確かに文献でも、そんな事書いてあった気がするけど。 「おお。ゼリン。その様子だと、拙のアドバイスは効いたみたいだな!」  毘沙丸さんが、ゼリンとの再会を喜んでいた。・・・アドバイス? 「はい!兄さんが、背中を押してくれたおかげで、グリードは受け入れてくれまし た。・・・有難う御座います!」  ゼリンは、頭を下げる。ああ。成程。ゼリンは告白する前に、毘沙丸さんにアド バイスを聞きに行ったのね。 「アドバイスって・・・。いきなり好きな奴が居るのを聞いてくるアレがか?」  グリードは呆れていた。ゼリンらしい天然さだ。 「・・・ゼリン・・・。お主、良く失敗しなかったな・・・。拙は、迷っているく らいなら、告白しに行けと言っただけで御座る。」  毘沙丸さんは、頭を抱えていた。あの妹じゃ苦労しそうね。 「兄さんから勇気を貰ったから、いけたんです。」  ゼリンは、ニコニコ笑っていた。呆れられてる事に気付いて無さそうだ。 「ゼリン様も、想い人が出来ましたか。私も嬉しいです!」  アインさんは、我が事のように喜んでいた。 (アインは、自分の事も考えれば良いのに・・・。)  あら。文句がありそうね。話してみる? (そうですね。久し振りで話もあります。お願い出来ますか?)  勿論よ。一応断っておくわね。 「あのー。すいません。アインさん。」  私は声を掛ける。結構緊張するなぁ。 「ええと・・・。レルファの子孫の・・・ファリア殿ですな。」  アインさんが思い出すようにしていた。やはりご先祖に似てるのね。私。 「ええとですね。今、この剣の柄にサイジンが宿っているんですが、話がしたいっ て言うんですよ。応じてもらえます?」  私は、一応の為持ってきていた剣の柄を見せる。ドレスの後ろに隠して置いて良 かったわ。だけど、少しはしたないかな・・・。 「お?サイジンとは・・・。あのサイジンですか!?それは凄い!是非!」  アインさんは声を弾ませていた。 (あんなに喜ぶとは・・・。何だか嬉しくなりますね。)  はいはい。んじゃ。どうする?そのまま剣から出る? (そうしましょう。その方が、貴女の負担も少ない筈です。)  了解。んじゃ、行くわよ。 「はぁ・・・。『召喚』のルール!」  私は『召喚』のルールを使って、剣の柄に意識を集中させる。さーて、出なさい な。これまでの修行の成果を見せる意味でも丁度良いわ。安定して出してあげるわ よ。魔力の桁も上がってるって事を、見せてやりましょ。 「むううう!さすがはファリアさんです。いやはや、私を顕現させるのに、労力を 使わなくなるとは・・・。最初とは大違いですね。」  サイジンは、そう言うと、表に出て来た。大して疲れなくなってる。 「おお!これは凄い!サイジン!久し振りです!」  アインさんは、本当に懐かしむ眼をしていた。 「アインも、乗り物酔いが酷い中、ご苦労様です。」  サイジンは、皮肉を言う。こう言うやり取りは、知り合いしか出来ないな。 「気付いてましたか。全く目敏いですね。」  アインさんは、否定しなかった。やっぱり車酔いするんだ。 「しかし、サイジン。君とファリアさんを見てると、生前を思い出すよ。」  アインさんは、サイジンとレルファの事を言っているのだろう。 「止して下さいよ。ファリアさんは、レルファとは比べられません。いや、比べち ゃいけないんです。・・・それに私は、ファリアさんの事は、孫を見るような気持 ちで見ていますからね。」  ・・・孫ね。まぁ、近いかも知れないわね。実際子孫なんだし。 「それより、貴方の方こそ、良い人を見つけないでどうするんです?」  サイジンは、アインさんに注意する事を忘れない。 「私は良いんだ。・・・毘沙丸様に仕える事が出来て、幸せだからね。」  アインさんは、満足そうな顔をする。 「アイン・・・。お主、何を言っておるのだ。・・・良い機会だから言っておく。 お主のような者が、子孫を残さんでどうするのだ。」  毘沙丸さんが注意していた。気持ちは分かる。 「兄さん・・・。兄さんも、もう私に遠慮しなくて良いんですよ?」  ゼリンが、毘沙丸さんにも言う。そうか。毘沙丸さんも、結婚はしていたが、子 供を作っていない。それは、ゼリンが居るからだったのだろう。 「・・・気付かれていたか。・・・そうだな。お主が幸せになったのなら、それも 考えねばならぬで御座るな。」  毘沙丸さんは、吹っ切れた顔をしていた。ゼリンの事が気になっていた毘沙丸さ んだが、これからは、自分の為に生きる時間も出てくるだろう。 「ハッハッハ!私の心配する一言で、大事になってしまいましたな!」  サイジンは馬鹿笑いをする。こう言う所は、文献と一緒じゃない方が良かった。 「ま、そろそろ私は戻る。久し振りに話が出来て、楽しかったですぞ。アイン。」 「私もだ。君が変わってないようで、安心したよ。」  二人は、嘗ての友を懐かしんでいた。それは、伝記の頃に出来た絆であり、今も 尚、色褪せない絆だった。サイジンは、引っ込んでいった。 「ふう・・・。全く・・・。ご先祖も引っ掻き回すだけして帰って行くなんて、失 礼しちゃうわね。」  私は、文句が口に出る。まぁおかげで色々吹っ切れた人も居た様だが。 「サイジンらしいです。貴女には感謝します。さすがレルファの子孫ですね。いや、 その言い方も失礼ですね。貴女は、稀代の魔法使いだ。」  アインさんは、何だか持ち上げてくれる。 「止して下さいよ。まだ修行中ですから。」  私は、修行で強くなったと思ったが、まだ極めたとは思っていない。 「おいおい・・・。あれで修行中らしいぞ・・・。」  瞬君は呆れていた。まぁ瞬君からしてみたら、未知の世界よね。  しばらくすると、誰かが来た。この魔力は、可愛い弟子達ね。 「うっわー。すげぇ料理がいっぱいだー!」  ルード君の声がした。あれ?今日は首飾りをしてないわね。 「あら?ルード君、首飾りを外したのかしら?」  恵さんが、ルード君に尋ねる。 「うん!莉奈姉ちゃんが、教えてくれたから、この星の言葉も覚えてきたんだ!」  ルード君は、無邪気に話す。それにしても、莉奈が教えてたのか。 「ルード君、覚えが早いから、教えるって程でも無かったよー。」  莉奈は、ルード君の頭を撫で回す。結構懐いていた。莉奈もそれなりのドレスを 着ていた。結構可愛いドレスを着るのね。黒の基調のドレスで、フリフリが付いて いた。これが結構、莉奈に似合っていた。 「へっへー。その内、魁より覚えてやるんだからねー。」  ルード君は、鼻を高くする仕草をする。可愛いなぁ。 「お前ねぇ・・・。俺っちを馬鹿にするなよ?こう見えても・・・。」  魁君が後ろからやってくる。今日はスーツみたいね。 「はいはい。そう言う事は、もう少し成績が上がってから言いなさいねー。」  葵が冷やかしていた。相変わらず仲が良い事だ。 「あ。エイディさん!・・・あれ?どうしたんです?」  葵が、エイディの近くに寄る。エイディは、さっきのやり取りで、グリードに敗 北感を味合わされたので、拗ねていた。 「ああ。実はね?」  私は、さっきのやり取りを説明する。すると、皆驚いていた。 「うわー!確かにゼリンさん綺麗だねー。あ。おめでとう御座います!」  莉奈は、にこやかに挨拶をする。 「有難う。君達も、幸せそうで何よりだ。」  ゼリンは、莉奈と握手をする。本当に嬉しそうだった。 「何だ何だ。グリードさんも、隅に置けないなぁ。」  魁君は、グリードに近寄って冷やかす。 「うっせーな。俺だって、決める時は決めるんだよ。」  グリードは、冷やかされながらも、顔が綻んでいた。あれは、相当に舞い上がっ てるわね。稀に見る馬鹿っプルになりそうね。 「あー。もしかして、グリードさんに先を越されて、拗ねてるんですか?なら、私 に決めちゃえば良いんですって!」  葵が、ここぞとばかりにアピールする。結構抜け目無いわよね。あの子。葵は、 名前と一緒で、青いドレスを着ていた。雰囲気はピッタリね。  そうこうしている内に、誰かが来たようだ。 「おう!集まっておるのう!賑やかなのは良い事じゃ!」  この声は巌慈だ。相変わらず豪快な声を発する。最近は、サウザンド伊能の名を 継いだとかで、更に自信を深めたようだ。スーツじゃきついのか、和装をしている。 「あ、集まってるね・・・。は、恥ずかしいよ・・・。」  何だか、亜理栖さんが、もじもじしている。何故かコートを取ろうとしない。ド レス姿に余りなった事が無いから、恥ずかしいのかも知れないわね。 「亜理栖。好い加減に覚悟を決めなさい。それに、その格好は榊流の正装なんだか ら、恥ずかしがる理由など無いのだぞ?」  総一郎さんは・・・ええと。物凄く奇抜な格好をしている。あれ、忍者装束じゃ ないの?こう言う場で着てくる?普通・・・。 「その格好、懐かしいですわ。繊一郎さんを思い出しますわ。」  恵さんは、朗らかに対応している。あれは楽しんでいるな。 「皆さん、良い笑顔ですね!料理も素晴らしい匂いがします。幸せですねぇ。」  冬野さんも来ていた。冬野さんも総一郎さん程じゃないが、忍者に近い装束を身 に纏っている。まぁ榊流の正装なんでしょうけど。・・・って事は・・・。 「成程。亜理栖先輩が、恥ずかしがるわけね。」  恵さんは、分かっているようだ。多分あのコートの中は、大分際どい格好をして いる筈だ。忍者の装束と言っても、男と女では、格好が違う。全身を隠すようにす る男の装束は、正に暗殺の為の物なのだが、女の装束は、確か身軽で面積も、相当 少なかったと記憶している。 「アネゴ。正式な装束なら、恥ずかしい事は無いのではないか?」  あの口調だと、巌慈も中を見てないわね。見ていたら、あんな反応をする筈が無 い。亜理栖さんは、少し涙目になる。 「う、煩いよ。・・・うぅ。何でこんな事にぃ。」  亜理栖さんは、口を曲げていた。 「亜理栖先輩。ドレスに自信が無いなら、着てこなきゃ良いのに。」  葵が挑発していた。あの子も大胆ねぇ・・・。 「ち、違うよ!じ、自信が無い訳じゃないよ!」  亜理栖さんは、簡単に挑発に乗る。分かり易い・・・。 「お、おい。葵、何煽ってるんだよ。」  エイディが、止めに入ろうとする。逆効果なのに分かってないなぁ。 「あー!もう!分かったよ!見せれば良いんだろ!ええい!」  亜理栖さんは、訳が分からなくなったのか、コートを脱ぎ捨てる。すると、本当 に忍者の装束を着ていた。忍者と言うより、くノ一の格好だ。 「お、お前、その格好・・・。」  エイディは、さすがに面食らっていた。 「うわぁ・・・。亜理栖先輩、ずるーい・・・。」  葵は、自分で煽っておいて、臍を曲げていた。 「わ、私、似合ってるかい?エイディ兄さん。」  亜理栖さんは、恥ずかしそうにしながらも、ちゃんとエイディを見ていた。 「も、勿論似合ってるぜ。・・・ちょっと驚いたけどな。」  エイディは、何とか気を落ち着ける。あれは、相当焦ってたわね。 「アネゴ・・・。俺は、惚れ直したぞ!アネゴ!!」  巌慈が、涙を流していた。分かり易いわねー・・・。 「あー。ありがとさん。結構恥ずかしいんだよ。この格好・・・。」  亜理栖さんは、顔を真っ赤にしていた。あれは、良いネタになるわね。 「そんなに変か?榊流の正装だと言うのに・・・。」  総一郎さんは、首を捻っている。・・・この人、こう見えても天然なのかも。 「頭領・・・。そう言う問題じゃないですって。年頃の女の子の気持ちも、分かっ てやってあげなさいよ。お嬢も、ああ見えて、そう言う年頃なんですって。」  冬野さんがフォローしていた。良いコンビね。 「『ああ見えて』は余計だ馬鹿!一言多い!!」  亜理栖さんは、照れ隠しか、冬野さんを殴りつけていた。可哀想に。 「亜理栖先輩って、プロポーション良いんだねぇ。羨ましいなぁ。」  莉奈が、感想を漏らす。確かに、肉付きは悪くないわね。 「羨む必要無いって。・・・お前だって、魅力的だしな。」  魁君が、ちゃんとフォローしていた。莉奈は、それを聞いて、魁君に抱きつく。 青春してるわねぇ。こっちも負けてられないかしらね。  っと、誰か来たわね。これは、俊男君ね。 「あ。トシ兄!遅いよー。その格好してるからだよー。」  莉奈が、文句を言う。と、成程。俊男君も、民族衣装を着てきたのね。あれは、 パーズ拳法に伝わる豪華絢爛な衣装だ。やるわねー。 「いやぁ、ごめんごめん。あ。今来たよ!恵さん!」  俊男君は、真っ先に計算に挨拶をする。 「フフッ。中々楽しそうな衣装じゃない。今日は、楽しみましょう?」  恵さんは、負けず劣らずの豪華なドレスを着ているから、中々お似合いだ。 「そうだね!って、皆、凄い気合入ってる!」  俊男君は、見渡す。確かに恵さんからは、気楽で良いと言っていたのに、皆、気 合の入った衣装を着ていた。 「そう言えば、ジュダさんは、赤毘車さんと来るって言ってたぜ?昨日までは一緒 に修行してたんだけどさ。」  魁君が、恵さんに教えてやる。良く考えたら、ジュダさんと修行してるのよね。 「魁も頑張ってるね。ジュダさんは、やっぱ厳しいのかい?」  俊男君は、ジュダさんの修行に興味があるようだ。 「厳しい?・・・ハハッ。そうだな。厳しい・・・な・・・。」  魁君は、顔が引き攣っていた。その表情だけで、どれだけ厳しいか分かる。 「朝から昼まで、基礎体力の訓練をミッチリやって、昼から夕方までは、ジュダさ んと手加減無しの修行三昧だったよ・・・。」  魁君は、冷や汗を掻きながら説明する。結構ミッチリやったみたいね。  続いての訪問客は、異色だった。魔族と竜族の知り合いだった。 「おー。集まってるね。結構華やかじゃないか。」  この声は、ジェシーさんだ。大会では、審判部長を務める事になっている。ワイ ス遺跡にあるストリウス会場の審判を主に務める。ガリウロル会場の審判は、睦月 さんがやるみたいだが。 「皆さん、中々気合が入ってらっしゃる。私と当たった時にも、その調子で頼みま すぞ。私も全力でお相手します。」  この声は、シャドゥさんね。この気合の充実を見る感じ、調子は良さそうだ。 「あ。皆様、お招き戴いて有難う御座います!」  ナイアが、幸せそうな顔をしながら入ってくる。良い事ね。 「うおー。漲る闘気の量がすげぇな!燃えるぜぇ!」  何だか暑苦しそうな人が居た。確か竜族の王龍ドラム=ペンタだったかしら?噂 には聞いてたけど、豪快そうな人だ。 「ナイア!久し振り!」  私は、ナイアと挨拶をする。 「ファリア様!お元気そうで何よりです!」  ナイアは、私が惚れそうな程、素敵な笑みで返す。こう言う仕草が自然に出来る 辺り、凄い才能だ。 「久しいわね。妹との一騎打ち、見せてもらったわ。見事でした。」  睦月さんが、ナイアと握手をする。 「貴女と葉月様は、私の励みにもなっています。こちらこそ、素晴らしい物を見せ てもらいました。次は、貴女と一緒に頑張りたいです。」  ナイアは、決して自分を卑下せず、相手を思いやった台詞で返した。 「言葉の選び方が慎重ですね。フフッ。でも、貴女がいるおかげで、私は今のスキ ルを身に付けられました。感謝しています。」  睦月さんは、もう食って掛かったりしない。余裕を感じられる。それも恋人が出 来た影響かも知れない。それに恵さんの父親の厳導への気持ちが、吹っ切れたおか げかもね。前の睦月さんは、必死で、余裕が無かった様に見えた。 「私も貴女達が居なければ、大会を楽しめなかったと思います。感謝しています。」  ナイアは、本当にそう思っているのだろう。実際に、圧倒的な差で勝っている訳 ではなく、いつも僅差だったし、この前なんかは、葉月さんと引き分けたのだ。 「いやぁ、テレビでしか見てない連中が揃ってると、嬉しいなぁ。」  ドラムさんが、物珍しそうに見渡していた。そう言うドラムさんだって、私はテ レビの特集でしか見た事が無い。 「おおお!アンタ、サウザンド伊能ジュニア!いや、今はサウザンド伊能さんじゃ ないか!本物だぁ!・・・さ、サインもらえないですか!?」  ドラムさんは、巌慈を見て、はしゃいでいる。物凄い喜びようね。 「ハッハッハ!アンタ、試合見てくれたんか?有難いのう。お安い御用じゃ!」  さすがに巌慈も、プロだけあって、それなりの対応をする。 「へー。巌慈って、やっぱ有名なんだね。」  もうくノ一の格好に慣れてきたのか、亜理栖さんが、意外そうな顔で見ていた。 自分のパートナーでしょうに・・・。 「ドラムは、最近プロレス番組が好きみたいでしてな。」  シャドゥさんが呆れていた。余りにミーハーだったので、引いているんだろう。 「良いじゃないか!・・・だって最近、内の息子やワイス様まで、テレビに嵌って いるらしいよ?どっちもスポーツ番組が好きらしいから、アンタ、あの二人にも、 サインねだられるかもよ?」  ジェシーさんが意外な事実を教えてくれる。魔族もテレビ見るのね・・・。 「何だか意外だなぁ。もしかして、深夜アニメなんかも見てるのかな?」  魁君は、指に手を当てる。って事は、魁君は見てるのね。 「あー。魁君が言ってた『宇宙英雄列伝』だっけ?あれ、面白いよねー。」  莉奈も見ているみたいね。意外だわ。私は教育番組の、魔力講座ばかり見てたか らなぁ。私が協力してるから、ちゃんと放映してるかのチェックは欠かさない。 「皆見てるのね。サキョウアニメーションへの出資は、間違いじゃなかったみたい ね。最初から最後まで、キチンと作ると言うから、信じてみましたの。」  恵さんは、さすがだ。『宇宙英雄列伝』を作っているサキョウアニメーションに、 出資していたらしい。スポンサー様は、さすがねー。 「ガリウロルアニメは、一つの文化ですよ!」  冬野さんが、力説する。この人も見てたんだ・・・。 「私には分からんが、人気はあるみたいだな。うちの教え子でも、そのアニメの話 題が多くてな。私も単語ばかり覚えてしまったよ。」  総一郎さんは、指に手を当てる。この人は苦手そうよね。  そうこうしている内に、誰かが来たようだ。 「むはははは!教え子のパーティーに出席するのは、嬉しい物じゃな!」  この声は、内の校長の一条 大二郎さんだ。 「あー。もうこんなに集まってるの?凄いわねー。あ。瞬君久し振り!」  横に居たのは、江里香さんだった。・・・うわ。凄い。江里香さんたら、普段の 佇まいですら、隙が無くなっている。 「江里香先輩!お久し振りです!・・・ってまた華やかですねー。」  瞬君は、江里香さんの格好を褒める。これまた豪華だった。和服の振袖の姿だっ た。これは、着付けに時間が掛かってそうだ。 「お爺様が、これにしなさいって煩いんだもん。時間掛かっちゃったわ。」  江里香さんは、口を尖らせる。確かに豪華だが、時間掛かるわよね。 「ガリウロルの正装と言えば、振袖じゃろう?手間を惜しんじゃいかん。」  校長先生は、頑として譲らない。さすがね。 「す、凄く似合ってます!」  瞬君は、満面の笑みで答える。すると、江里香さんは恥ずかしそうにする。 「そ、そう?なら良かったかな!・・・あ。そうそう。内の師匠は欠席ですって。 パーティーでは、精神統一出来ないってさ。」  江里香さんは、睦月さんに教えてやる。 「了解です。安心しました。これで、我慢せずに済みそうです。」  睦月さんは容赦が無かった。本当に仲が悪いわね。 「それにしても江里香先輩、その格好なのに隙が無いなんて、本当に腕を上げまし たね。どんな特訓したんですか?」  瞬君は、江里香さんの佇まいだけで腕が上がったかどうか見切る。その眼力だっ て凄いと思うけどね。瞬君も、ゼーダさんと一緒になっただけあって、実力は恐ろ しく上がっているのだ。 「精神鍛錬がほとんどだったわよ。技の練習もしたけどね。・・・そう言う瞬君や トシ君も、どうしちゃったの?基礎能力が、凄い事になっちゃってるじゃない。」  江里香さんは、少し見るだけで見切る。一瞬で見抜く辺り、実力が上がっている 証拠だ。これは凄い強敵になりそうね。 「僕は、ケイオスに勝たなきゃならないからね。恵さんと共に、倒して見せるよ。」  俊男君は、少しも迷いは無かった。この自信の有り様は、昔の俊男君には無かっ た物だ。『聖魔』になった俊男君だからこそ、言える台詞だ。 「俺も、ゼーダと共に『闘式』を闘い抜くって決めたからな。そう簡単には、負け られないな。力の限りを尽くすつもりだよ。」  瞬君は、ゼーダさんの想いと共に語る。 「了解よ。私も貴方の役に立つ為に、強くなったんだから、楽しみにしてよね。」  江里香さんは、修行の成果を存分に見せるつもりだ。 「良い気合だね。私の息子は強いけど、頑張りな!」  ジェシーさんが、俊男君に発破を掛ける。 「僕は、負ける訳にはいかないけど、ケイオスには感謝しているんです。」  俊男君は、意外な事を言う。 「確かに僕は、消えそうになるような目にあいました。・・・でも、あのまま『闘 式』に出ていたら、そこそこ良い所まで進むくらいで、終わっていたと思うんです。 でもケイオスは、僕に強くなる理由をくれた・・・。」  確かに俊男君は、あの出来事があってから、劇的に強くなった。 「多分わざとだよ。恵を気に入ったのは本当だと思うけどね。挑発しに行ったのは、 アンタの限界を引き出すためだろうさ。・・・やり方が荒っぽいのは、感心しない けどね・・・。そこは謝るよ。」  ジェシーさんは、ケイオスの非礼を詫びる。でも、それはジェシーさんが謝る事 じゃないと思う。まぁ気にしたい気持ちは分かるけどね。 「良いんですよ。負けられないって気持ちと、強くなった事を示す為にも、ケイオ スの所まで勝ち上がって、全力で向かうつもりです。」  俊男君は、ケイオスに色々な感情を抱いているが、全力で闘う事で、全てに応え るつもりだった。それが、ケイオスが望んだ事でもあった。 「分かったよ。不器用な子だけど、宜しく頼んだよ。」  ジェシーさんは、ケイオスの事を俊男君に頼む。強い者との闘いを望むケイオス にとって、今の俊男君は絶好の相手の筈だ。  しばらくすると、また訪問客があった。 「オー!これは、凄いな!豪華なパーティーだよ。シュラ!」  この声は、デルルツィアン柔術のレオナルド=ヒートさんだ。 「俺達も強くなったと思ったけどな。此処から感じる闘気は、並じゃあ無い。恐ろ しい事だな。これだから、此処に足を運ぶのは、止められん。」  隣に修羅が居た。ヒートさんとの山篭りから返って来たらしい。どちらも、 今日はパーティーなので、スーツを用意してきていたようだ。 「来おったな!修羅!お前も、闘気が充実しとるじゃないか。」  巌慈は、修羅を見て、実力が上がった事を悟る。 「そう言うお前こそ、凄いじゃないか。・・・見たぞ?親父さんを超える所をな。」  修羅は、巌慈のこの前の試合を見ていたみたいだ。 「親父は、ただ負けたんじゃない。俺にサウザンドの名を残したんじゃ。その名に 懸けても、無様な闘いは見せられんわ。」  巌慈は、サウザンド伊能の名を継いだ男として、注目されている。 「ガンジ!ワタシもデルルツィアン柔術の名を継いでいる!仲間だな!」  ヒートさんは、陽気に話し掛けていた。明るい人なのね。 「おお!アンタ等、柔道の紅 修羅に、デルルツィアン柔術のレオナルド=ヒート じゃんか!アンタ等の決勝戦は、中々熱かったよな!」  ドラムさんが、気さくに声を掛けて来る。どうやら、スポーツ大会は、かなりチ ェックしているようだ。 「あの決勝戦を見たのか?ええとアンタは、竜族の人だったか?」  修羅は、テレビの特集の記憶を頼りに、ドラムさんを思い出す。 「あの決勝は、ワタシの誇りだ。今度は、シュラと共に勝ち残るつもりさ!」  ヒートさんも、特に嫌がる事無く、ドラムさんと話していた。  それにしても、賑わって来たわね。これでまだ全員じゃないんだから凄いわ。  またしても訪問客が増えたようだ。 「うわ!こ、こんな来てたのか?・・・す、凄いな。」  この声は勇樹だ。亜理栖さんと同じでコートで中を隠している。 「おいおい。此処さぁ、集まり過ぎだろ。すっげーな。」  隣にミカルドさんが居た。今日はちゃんとスーツで決めている。 「私は、来ても良かったのかしら?」  その隣に見た事が無い人が居た。凄く綺麗な人だけど? 「勇樹さん、この御方はどなたかしら?」  恵さんが、早速対応していた。落ち着いてるわね。 「ああ。俺が説明するわ。俺の妻のリーアだ。聞いた事あるだろ?」  ミカルドさんが、簡単に説明する。ああ。伝記に書いてあったわね。 「今、ご紹介に預かった妖精王のリーアと申します。ミカルドが『闘式』に参加す ると聞いて、パーティーに足を運びました。非礼はお詫びします。」  リーアさんは、上品に挨拶する。さすが妖精王としての気品がある。 「これは、ご丁寧に。私は今回のパーティーの主催をした天神家当主の天神 恵と 申します。貴女ならば、当方は歓迎致しますわ。どうぞ楽しんでらして下さい。」  恵さんは、当主として完璧な対応をする。さすがよねー。 「はー・・・。何か俺、すっごい場違いな感じが・・・。」  勇樹は、ボーっとしていた。 「何を言ってるんだ。今のお前なら、場違いなんかじゃ無いだろ?コート脱いどけ って。折角着てきたんだろ?」  ミカルドさんは、そう言うと、ボーっとしている勇樹のコートを手早く脱がす。 「・・・え?・・・えええ!」  勇樹は、突然脱がされて、ビックリしていた。すると、かなり大胆なリトルブラ ックドレスを着ていた。それに少し装飾品を付けて、可愛く着飾っていた。 「あーら。勇樹さん、良いじゃないですか。」  恵さんは、からかう様でも無く、本当に似合ってると思って、感想を言う。 「そ、そうか?・・・これはさ・・・。親父がお袋が生きてた時に送った物だって 言うからさ。お、親父が着てけって・・・。」  勇樹は、もじもじしている。可愛いわねぇ。思わず撫でたくなっちゃう。 「おー。いつもとは、また違う表情だな。」  ジャンさんが、勇樹の肩を叩いていた。すると、横に無言のアスカさんが居た。 「あ、姐さん、これは、社交辞令だって・・・って、あれ?」  ジャンさんが言い訳をしていたが、アスカさんには届いていない。 「勇樹、可愛いよ。今度、ウチの髪飾り貸すよ!」  アスカさんは、可愛い人形を見つけたような表情になっていた。 「あ、有難う御座います。でも、俺に似合います?」  勇樹は、俯いている。何を言っているんだろう。 「自信を持って良いと思うけど?貴女、此処のメンバーの中でも目を引いている方 よ?そんな言葉出されちゃうと、こっちの立場が無いわ。」  私は、ハッキリ言ってやった。勇樹は可愛いし、自信持って良いと思う。 「そ、そうですか?どうもです。・・・慣れませんけどね。」  勇樹は、謙遜するのは止めたが、本当に慣れて無いみたいね。 「うわー。この胸ピン、可愛い!私の服にも似合いそうだね。」  莉奈が、勇樹の胸ピンを褒める。確かに良いアクセントになってるわね。 「これは、親父がプロポーズした時に、お袋に送った物らしいんだ。」  勇樹は、嬉しそうに話していた。表情が柔らかくなったわねぇ。  そして、ついに最後の訪問客が来た。ま、本命よね。 「おお。今日はさすがに多いな!しかも懐かしい顔まで居るじゃねぇか。」  ジュダさんだ。ここまで多く集まるのも、中々無い事だしね。ちゃんとスーツに 身を包んでいた。結構珍しい姿だ。 「これも絆の力だ。私は、この場に居る事を誇りに思うぞ。」  赤毘車さんも、今日は楽しむ気でいっぱいだった。いつもの武士姿の和装では無 く、燃えるような色の振袖を着ていた。 「素晴らしい絆を感じます。1000年前を思い出しますね。」  ネイガさんは、1000年前の伝記時代を思い出していた。ネイガさんのスーツ姿は、 結構似合っていた。元が真面目な人だと、似合うのかもね。 「今日はいっぱい居ますー。あ。姉さん、ただいま!瞬さんも、お元気でした?」  葉月さんも元気いっぱいに挨拶をする。瞬君にアピールしているわね。葉月さん は、戻ったら手伝う気だったので、メイド姿だった。葉月さんは、この姿が一番似 合うわね。何と言うか、安心出来る姿だ。 「今日は、見事な客人がいっぱいですな。戻りましたぞ。睦月。」  ショアンさんは、睦月さんに自然に挨拶を交わす。長年寄り添った夫婦みたいな 雰囲気だった。自然だなぁ。 「葉月さん、お久し振り!どうでした?修行は。」  瞬君は、まず修行の事を聞く。相変わらずね。 「厳しかったですー。でも、色々見えてきた物もありますよ。『闘式』で当たった ら、お見せしますよ!」  葉月さんは、言動が違っていた。前と比べると、自信に満ちていた。 「藤堂の女らしくなりましたね。私も見せてもらいますよ。」  睦月さんは、葉月さんにエールを送る。 「はい!で、何処から手伝いましょう?」  葉月さんは、元気に挨拶した後、手伝いの方に回る。忙しい人だ。 「良い修行したみたいだなショアン。お前から感じる雰囲気が、以前とは違うぜ。」  士さんは、ショアンさんの胸板をつつく。そこには、親しみが込められていた。 「出るからには、優勝したいですからな。ネイガ殿との修行の成果を、お見せしま すよ。楽しみにして下され。」  ショアンさんも、結構自信を持っていた。かなり鍛えたみたいね。 「それにしても・・・兄上が給仕をしているとは・・・。」  ショアンさんは、話は聞いていたみたいだが、実際目にして驚いている。 「無職のままでは、格好も付きませんからね。」  ジェイルさんは、軽く受け流す。慣れた物だ。 「ティーエさんも、私達の仲間入りですね。宜しく頼みますー。」  葉月さんは、歓迎していた。 「こちらこそ、宜しくお願いします。葉月先輩。」  ティーエは、葉月さんの事を先輩と呼ぶ。 「あ、あはは。それ慣れないです・・・。先輩は勘弁して下さいー。」  葉月さんは、やんわりだがお断りしていた。 「分かりました。葉月さん。」  ティーエは、自然に直す。最初から、さん付けで呼ぶ気だった癖に意地が悪い。 「あれ?お前、ゼリンか?今日は、随分着飾ってるな!」  ジュダさんは、ゼリンを見付けて、声を掛ける。 「ゼリン。似合っているぞ。・・・む?もしや・・・。」  赤毘車さんは、ゼリンとグリードを見て、何かを悟る。 「あ。ジュダさん、赤毘車さん、それにネイガさん!・・・ええと、俺とゼリンは、 付き合う事になりました!これから、末永い付き合いを宜しくお願いします!」  グリードは緊張していたが、ちゃんと言えていた。実の両親であるジュダさんと 赤毘車さん、そして義理の父親であるネイガさんに、挨拶をしたのだ。 「・・・おお。ゼリン、お前は、ついに・・・!」  ネイガさんは、本当に嬉しそうにゼリンを見る。 「・・・そうか・・・。ゼリンを・・・。貰ってくれるか・・・。」  ジュダさんは、声が震えていた。どうやら、感涙しているみたいだ。 「ゼリン、幸せか?・・・グリードは、大事にしてくれそうか?」  赤毘車さんは、何だかんだで気になるらしく、心配そうに声を掛ける。 「グリードは、私の笑顔が好きだと言ってくれました。私は、グリードと付き合え て、幸せです。・・・もう後悔致しません。」  ゼリンは、淀み無く答える。そこから溢れる笑顔は、幸せいっぱいだった。 「フッ。馬鹿だな。これから更に幸せにならなくてどうする。絶対になるんだぞ?」  赤毘車さんは、そう言うと、可愛い娘の頭を撫でてやる。 「グリード、お前、ゼリンを幸せにしないと、承知しねーからな!頼んだぜ!」  ジュダさんは、グリードの肩を叩いてやる。 「はい!俺は、ゼリンを絶対に・・・絶対に笑顔で満たしてみせます!」  グリードったら、決めるわねぇ。格好付けるじゃないのよ。 「私からも頼む。ゼリンの幸せは、君に掛かっている。頼むぞ。」  ネイガさんも、感涙しているみたいだ。 「分かりました。やりますよ!俺!」  グリードは、そう言うと、ゼリンを自分に向かせて、目を合わせる。  あちゃー・・・。これは本物の馬鹿っプルになりそうだわ・・・。 「グリード!お前、決めたな!マジで応援してるから、頑張れよな!」  レイクは、一緒になって喜ぶ。全く御人好しね。 「て言うか、幸せにならなかったら許さないから、覚悟しなさいよ。」  私は、私らしい言葉で発破を掛ける。素直じゃないな。私も。 (良いんじゃないですか?皆分かっていますよ。)  そうね。私らしく祝福してやらなきゃね。 「めでたいわね。じゃ、締まった所で、私から一言、皆様にお伝えしますわ。」  恵さんが、周りを見渡すと、一際通る声を出して、注目させる。 「恵様。どうぞ。」  睦月さんは、すかさず恵さんにマイクを渡す。さすが手馴れている。 「ん。・・・今日は、皆様に集まって戴いて、光栄の至りですわ。」  恵さんは、皆を見渡す。皆は、それぞれが楽しみながら、恵さんを見る。 「『闘式』の準備も無事に終わって、明日から、開催出来ます。これも、参加者で ある、皆様のおかげだと思っています。」  そうだ。これだけの参加者が、皆、思い思いに修行をして、無事に開催出来る。 これは、とても幸せな事なのだろう。 「今回の大会は、腕比べと称していますが、私は、これまでの絆を、思う存分に発 揮出来る大会になると、信じております。」  恵さんは、絆を大事にしたいのだろう。 「強敵も居ます。困難にぶつかる事もあると思います。・・・でも私は、此処に居 るメンバーなら、優勝に導けると思います。・・・絶対に勝つわよ!」 『おう!!』  恵さんは、自分にも言い聞かせるように言う。そして、最後の言葉に力強さを感 じた。その想いは、皆が思っていた事だからだ。だから、最後の掛け声は、皆が揃 って声を出した。その一体感は、決して伝記時代に負ける物では無い。いや、それ 以上だと確信している。  こうして、楽しい前夜祭は始まったのであった。  ワイス遺跡は、すっかり修復が進んで、元の気品ある姿を取り戻していた。これ も魔族達が、ワイス達の為に『闘式』に間に合うように尽力した結果だ。  その記念式典を『闘式』前夜にする事になった。魔族達は、自分達の作った成果 を確かめ合う為に、記念式典を大いに楽しんでいた。自分の修繕した所や、ワイス が気に入っていた所を話し合ったりしていた。  ワイスは大いに満足していた。やはり改築と言うのは気分が良い。新たな気持ち にもさせてくれる。特に、次の日から『闘式』が開催されるとあれば、気分が一新 されると言う意味でも良い。  その式典に、ケイオスとエイハを招待する。  ケイオスもエイハも、体調を万全にして、『闘式』への準備はバッチリだったの で、式典に参加する事にした。無論、健蔵やハイネス、メイジェスも居た。 「皆の者!大いに賑わっておるか?」  ワイスが、全員集まったのを見て、皆に声を掛ける。すると、ワイスの声に応え る様に魔族達は雄叫びを上げる。 「うむ。皆のやる気は、このワイスに伝わったぞ!」  ワイスは、場を盛り上げる。意外とイベント好きなのかも知れない。 「今日の為に、尽力した皆の努力、このワイスは忘れぬぞ!この勢いを『闘式』に も持っていく故、期待しておくと良いぞ!」  ワイスは、此処に居る魔族達の為に、全力で闘う事を誓う。  次に健蔵が前に出る。『闘式』出場者は、一言ずつ言う流れになっている。 「皆の尽力は、俺も見ていた。ワイス様の為、この城の修繕を行った者に、敬意を 表する!これからも、この城の為、力を貸してくれ。」  健蔵は、無難な事を言う。すると、横でメイジェスが肘でつつく。 「・・・ああ。分かった分かった・・・。えー・・・。お前達に発表がある。」  健蔵は、メイジェスから頼まれていた事を発表するつもりでいた。 「お前達の周知の通り、俺とメイは付き合っている。・・・それでだ。この場を借 りて、俺とメイが婚約した事を、報告する!」  健蔵は、半魔族なので顔を真っ赤にしながら言う。人間の血の方が強く出ている ようだ。横でメイジェスが真っ青になっている。こちらも頭に血が上っているよう だ。魔族の血は青いからだ。  すると、周りから、物凄い歓声が聞こえた。ほとんどが、祝福する声だった。そ の声を聞いて、健蔵は恥ずかしがりながらも幸せを噛み締めていた。 「今、ご紹介に預かったメイジェスだよー。皆、祝福してくれてありがとねー!私、 健さんと婚約したけど、皆の事も大好きだよー!」  メイジェスは、皆に手を振る。すると、惜しまれながらも祝福する声が、あちこ ちから聞こえる。かなり人気があったようだ。ちなみに、メイジェスは、健蔵の事 を、略して『健さん』と呼んでいる。 「・・・オホン。・・・クソ。言い難いな・・・。」  ハイネスが前に出て来る。この雰囲気の中なので、とても言い難そうにする。 「・・・まずはメイ。婚約おめでとう。相手が健蔵さんなら、私も安心だ。最初こ そ、いけ好かないと思っていたが、健蔵さんは誠実な魔族だ。」  ハイネスは、祝辞を述べる形になる。ハイネスが言ったとおり、最初こそ健蔵と ハイネスは、いがみ合っていたが、最近はとても仲が良い。恐らく、テレビを通し て共通の趣味を見出してからだろう。 「妹を、幸せにしてやって下さい。・・・と、まぁ祝辞を述べた所で、次は私の事 だ。・・・私は、この『闘式』で、自分の力を最大限に発揮するつもりで居る。」  ハイネスは、拳を握る。自分の決意を表すかのようだった。 「この場に居る皆は、知らない者も多いだろうが、魔界では、父ケイオスは絶大な 支持を受けている。それは、強いからだ。そして肉体だけで無く、その信念の強さ から来る物だ。私の憧れであり、私の目指すべき目標であった。」  ハイネスは、まずはケイオスの説明をする。この場に居る者は、ソクトアに残り、 ワイス復活の報を受けて、集まった者がほとんどだ。そのケイオスの偉大さを、ハ イネスは語る。しかし魔族達は、ケイオスが普通の魔族でなく、『覇道』を提唱し、 グロバスの後継者足らんと、その理想に近付いている事を知っている。 「父より与えられた命題をこなし、父の期待に応えるのが、私の魔族としての全て だと思っていた。・・・だが!」  ハイネスは、口調を変える。ここまでなら、今までのハイネスだった。 「私は、何をしたいのか!ワイス様と修練をして、だんだん分かってきたのだ!私 は、父を超えたい!そして、その機会を与えられている!ならば、私の全てを出し 尽くして、父にぶつかるのが、魔族として正しい事だ!」  ハイネスは宣言した。父に従うだけの息子では無く、父を超えようとする息子に なると。それが、ハイネスの望みであり、ケイオスの望みでもあった。 「私は、この『闘式』で父を超える事を誓う!この挑戦、受けてもらえますな!?」  ハイネスは、ケイオスに挑戦を言い渡す。すると、周りがざわついてきた。  それに伴って、ケイオスが前に出る。 「ただの祝辞を述べに来ただけなのだがな。ハイネス。お前の熱い想いを聞いて、 何も応えぬ余では無い・・・。存分に掛かってくるが良い!」  ケイオスは、ハイネスの挑戦を堂々と受ける。 「ただし余と会う前に、負けてしまっては元も子も無いぞ?・・・それは勿論分か っておろうな?・・・それを乗り越えて、余の前に立った時、余は全力を持って相 手をしよう!このケイオスを超える事の難しさを、体に刻み込んでやろう!」  ケイオスは、ハイネスの挑戦を聞いて、断るなど出来はしない。こうやって挑戦 してくる事こそ、ケイオスの望みであった。そしてこの出来の良い息子は、その望 みを叶えてくれると言う。 (出来すぎた息子よな。負けるつもりは無いがな。)  ケイオスは、息子の挑戦を由とした。しかし、それを打ち砕くのも自分だと思っ ている。簡単には越えさせないつもりだ。 「ホッホッホ。良く言うたぞ。ハイネス。此方の息子ならば、その誇りを貫いて見 せるが良いぞ。期待しておるぞ!」  エイハも満足だった。ケイオスの望みにハイネスが応え、ハイネスの望みに夫が 全力を持って応える。こんな美しいやり取りを、母として味わえるのは格別だった。 「じゃが、御方様にも勿論じゃが、この母にも成長を見せてくれるのであろうな?」  エイハは、ケイオスだけ挑戦されている、この状況を由としなかった。 「当然です。私の望みは、母をも超える事です。」  ハイネスは、言い切る。眼中に無い訳では無い。このエイハも、ケイオスのパー トナーとして、相応しい実力を持っているのだ。 「フッ。なれば、ハイネスとタッグを組むこの我に、御主等の力を見せよ。」  ワイスは、すかさず口を挟む。ハイネスのやる気は買うが、実際にこのタッグで 脅威なのは、ワイスだ。伝記時代よりも気合が充実している。 「ワイス様。恐れながらこの俺も、ワイス様に全力をぶつける所存で御座います。」  健蔵も、負けじとワイスに挑戦を申し込む。 「望む所よ。我とて闘いとなれば、手加減せんぞ。」  ワイスは、健蔵の挑戦を当たり前のように受ける。それが元で今回のタッグとな ったのだし、当然だった。 「私も兄上に挑戦するのだー。父上と挑戦する前に、私の挑戦を受けてね。」  メイジェスも割り込んでくる。 「父をも超えようとする私を見て、敢えて挑むとは、さすがはメイだな。勿論受け て立つぞ。だが私は負けぬ。私は父と母に勝たなくてはならぬのだからな!」  ハイネスは、気合十分で返す。このやり取りを見て、魔族達は、主達の勝敗を予 想したりする。この辺が、昔の魔族と違う所であり、魔界に居る魔族達とは違う所 であった。昔ならば、此処まで自由な雰囲気は無い。しかし此処に居る魔族は、し きたりや掟と無縁の魔族が多い。変な階級意識が存在しない。  勿論、主達の事は尊敬している。だが、それに留まらずに自由に生きる事を忘れ ない。この雰囲気を見て、ケイオスなどは満足していた。 (誰もが変な意識をせず、挑戦し、高みを目指す。これこそ余が理想では無いか。 ワイスと手を取り合って、正解だったかも知れぬな。)  ケイオスの理想が形になっていた。これだからソクトアは、面白い。 「皆の気合を確かめた所で、堅苦しい挨拶は終わりだ!楽しめ皆の者!」  ワイスの声と共に、賛同の声が木霊する。良い雰囲気であった。  しばらくしてケイオスがワイスの近くに来る。 「ワイスよ。余は感謝する。息子の心まで鍛えてくれた事にな。」  ケイオスは、ハイネスが常に自分の後をくっついていくだけなのが、気になって いたのだ。それは、簡単な道ではあるが、ケイオスの望む所では無かった。 「何を言うか。我は切っ掛けを与えたに過ぎぬ。お主が望む闘いは、これから始ま るのだ。感謝している暇など無いぞ?」  ワイスは嬉しい返し方をしてくれる。何と言う度量の広い魔族か。ケイオスも、 スケールの大きい魔族だと言われたが、ワイスとて負けてはいない。 「さすがよな。余の理想を正しく理解する貴公こそ、盟友と呼ぶに相応しい。」  ケイオスは、盟友と言った。グロバスの事は尊敬しているが、ワイスの事は、グ ロバスよりも近しいので、盟友だと思っている。 「お主の様な男に盟友と呼ばれるのは、光栄な事だ。聞けば、お主は、スポーツを 推奨しているようだな。魔族の間でも流行らせようとしているようだが?」  ワイスは、スポーツの事を話題に出す。噂では、ケイオスもスポーツ番組を良く 鑑賞していると聞いていたからだ。 「ワイスよ。それは正しくない。スポーツとは、互いに高みを目指す所に意味があ るのだ。魔族の力で捻じ伏せて、良い物が見られるとは思えぬ。人間と同じリーグ に入るのでは意味が無いと思った故、魔族だけのリーグを作る案を考えている。」  ケイオスは、スポーツの素晴らしい所を余す所なく見ているようだ。正しい理解 をして、魔族に浸透させようとしている。 「成程。それは面白い案だ。だが互いに交わる事が無いのでは、進化に乏しいと我 は考える。・・・そうだ。最初は交流として、人間のリーグの一番と、魔族のリー グの一番を競わせるのはどうか?互いに一番同士なら、それなりの闘いが出来ると 我は思う。そこで差が付くようなら、人間達も強化に力を入れよう?」  ワイスは、ここぞとばかりに案を出す。結構乗り気だ。 「確かに盛り上がるな。余も見てみたいぞ。」  ケイオスは、納得していた。かなり意気投合しているみたいだ。 「やれやれ。御方様の悪い病気が出たようじゃな。」  エイハは、最近のケイオスが、スポーツ番組の話になると長い事を知っていた。 「父上、凄い嵌ってるんですねー。確かにお父様も嵌ってらしたけど。」  メイジェスがエイハの話に合わせる。ワイスもやたらと見ているのを、メイジェ スは近くで見ていたからだ。 「まぁ趣味を持つのは、悪い事では無いですじゃ。此方もスポーツを見るのは好き じゃからのう。サッカーなる競技と『医療現場』は外せぬな。」  エイハは、サッカーを良く見ていた。ボールを操る見事さは、見ていて驚嘆に値 すると、何度も呟いていた。そして、ドラマでは『医療現場』を欠かさず見ている。 「母上も見てたのー?あのドラマ良いですよねー!この前の刑事が病院を捜査する シーンとか、見ていてドキドキしちゃったよー。」  メイジェスは、早速話題に乗ってくる。 「あのシーンかえ?病院側の工作が、明るみに出ると見せかけて、見つからないと 言う展開は、本当にありそうで良かったのじゃ。あれは考えておるな。」  エイハも良く見ている。細かいシーンのチェックなどもしている辺り、嵌ってい るのだろう。メイジェスも同じくらい見ているみたいだ。 「ワイス様達と言い、メイ達と言い、テレビにはお世話になっているようだな。」  健蔵は、会話を聞いて、楽しそうにしていた。 「私達も、他者の事は言えないでしょう?ガリウロルのアニメーションのレベルの 高さに、魅せられている訳ですから。」  ハイネスは、いつも健蔵とこの話をしている。そのおかげで、今はすっかり仲が 良い。健蔵も、この話題で盛り上がれるとは思わなかったので、ハイネスとの話は、 密かに楽しみにしているのだ。 「最近では『ガニメーション』と略すようだ。分かる気がするな。他の国のアニメ は、ガリウロルのと比べたら、天と地だからな。」  健蔵は、ガリウロルのレベルの高さを味わっている。ソクトアの中で、一番自由 だと言われているガリウロルだからこその発想が、随時に感じるのだ。 「この前など、新規のアニメで伝記を取り扱ったそうです。」  ハイネスは、新アニメの話題を出す。 「ああ。伝記を完全アニメ化!とか打ち出していたな。何でも、ワイス様やジュダ 達を参考にして作るらしいぞ。製作は『サキョアニ』だ。」  健蔵は、勿論知っていた。自分達をアニメ化してくれるとなれば、喜んで協力す るような男だ。密かに喜んでいた。ちなみに『サキョアニ』とは、サキョウアニメ ーションの略で『宇宙英雄列伝』で売れたのを切っ掛けに、今回の製作を発表した との事だ。中々チャレンジ精神が豊富な会社だ。 「私は、その時代は生まれていなかったので、健蔵さんが羨ましくて仕方が無い。」  ハイネスは、出演するであろう健蔵を羨む。 「ま、あの時の俺は、人間達の完全な敵だ。碌な描かれ方は、していないだろうよ。 どこまで掘り下げるかは知らんがな。」  健蔵は分かっている。あの時は、魔族の繁栄の為、人間達の城を破壊し、魔族の 力を知らしめる為に虐殺もした。その事を否定するつもりは無い。魔族の為に、そ れが一番だと思ってやった結果だ。 「それに、俺のやった事は、俺のやった事として受け止めるつもりだ。だから、変 に差し替えて放送する方が冒涜に繋がる。その辺を分かって作ってくれるなら良い がな。何せ俺は、伝記のジークを一回殺した男だからな。」  健蔵は、その事に逃げるつもりなど無い。人間から恨まれても、それは当然だと 思っている。その辺の描かれ方を、このアニメは、どう描くのかは気になっていた。 「私はガニメーションを信じますよ。彼等なら誠実に起こった出来事を、描いてく れる事でしょう。健蔵さんの事も、ちゃんと見てくれますよ。」  ハイネスは、ガニメーションの可能性に期待していた。 「そうだな。どうなるかは、彼等の腕次第だ。これは注目せねばな。」  健蔵も『サキョアニ』の実力を知っている。彼等は、誠実に作っている。 「この前、色々聞かれたのを考えれば、大丈夫じゃないですか?」  横からメイジェスが口出ししてくる。こちらの事が聞こえたのだろう。 「聞かれた?どう言う事だ?メイ。」  ハイネスは、何の事か良く分かっていない。 「あれ?兄上知らない?この前、『サキョアニ』の人が『ソクトア伝記』の製作に 当たってって事で、お父様と健さんに取材が来てたんだけど?」  メイジェスは、思い出しながら言う。 「な、何と!『サキョアニ』の取材!?う、羨ましい!そんな事が!」  ハイネスは、物凄く悔しそうな顔をする。 「あー。悪かった。お前が、悔しがると思って、無理に伝えなくても良いと思った んだ。隠すつもりは無かったんだが・・・。」  健蔵は、バツが悪そうに話す。こうなると分かっていたので、健蔵は敢えて黙っ ていたのだ。とは言え、隠すつもりも無かったので、正直に言う。 「あ。いや、健蔵さんのせいじゃないですけど・・・。でも、取材にまで来るって 事は、本気じゃないですか!『サキョアニ』!」  ハイネスは、魔族である健蔵に取材までして製作しようと言う『サキョアニ』の 姿勢を、素晴らしいと思っていた。それだけ、本格的に作るつもりなのだ。 「確かにな。何でも、今までのアニメの魔族は、化け物ばかりだったってのは、お 前も知っているだろ?だが今回のアニメで、より本物に近づけたいとの事でな。」  健蔵も、取材を受けていてワクワクしていた物だ。 「我にも取材をしていたあれは、アニメの製作であったのか。随分細かく聞いてき たので、ドキュメンタリーでも作るのかと思っていたのだが。」  ワイスも話題に入る。ワイスも取材を受けていたのだ。 「例え魔族相手でも、誤魔化す事無く、本格的に作るために尽力するとは。その者 達、中々見所があるではないか。これは、高がアニメと思っていたが、見ておいた 方が良いかも知れぬな。余の父も出ておるのであろうしな。」  ケイオスも考えを改めるようだ。確かに、そこまで本格的に取材をするのは、ド キュメンタリーなどに多いのだが、アニメ製作だとは思わなかったのだ。 「その者達の作るアニメなら、見ても良いかも知れぬのう。前に見た下らぬ化け物 のような姿で無ければのう。」  エイハも、最初は見ていたのだが、余りにも魔族の扱いが酷かったので、見るに 値せずと切っていたのだ。しかし、『サキョアニ』の姿勢は気に入ったようだ。 「これは、録画しなければなりませんな。この前から始まったので、まだ1話しか 入ってませんが、毎週であのクオリティを維持出来るか見物ですな。」  ハイネスは、楽しみにしているようだった。ある意味『闘式』よりも楽しみにし ているのだろう。それは、健蔵も同じだった。 「確か、今週出た雑誌に、取材内容が書いてあったよ?」  メイジェスは、『週刊 話題』を取り出す。ガリウロルの話題を取り扱った雑誌 だ。その中に『ガニメーション』の革命児『サキョアニ』の力作と言う事で、今度 のアニメ『ソクトア伝記』のインタビュー内容が書いてあった。 「何と!『週刊 話題』に載っていたのか!『週刊 ガニメ』はチェック済みだっ たのですが・・・。私とした事が!」  ハイネスは、頭を抱える。 「・・・お主、そんな週刊誌を読んでおったのけ?」  エイハは呆れていた。まさか息子が、そこまで入れ込んでいるとは思わなかった のだ。アニメとは、そこまで魅力的なのだろうか? 「母上。アニメと言っても、ガリウロルのだけが特別なのです。」  ハイネスは熱く語る。エイハは、そこがまだ分からない。 「分かったのじゃ。・・・まぁ嵌れる物があるのは、悪い事じゃないがのう。『闘 式』に影響が無い程度にしておくのじゃぞ?」  エイハは呆れながら、注意する事を忘れなかった。 「ま、余達もハイネスの事は言えぬ。ちゃんと『闘式』で成果を見せねば、何を言 われるか分からん。気を引き締めよ。」  ケイオスも、スポーツなどに嵌っているので、『闘式』で、疎かにならないか心 配していたのだ。いくら優勝候補と言われ続けても、結果が出ないのでは仕方が無 いからだ。それに今回の『闘式』は、色んな者が出場している。  この式典で、色々な事が分かったが、気を引き締めるに越した事は無いと、ケイ オスは思っていた。  これ以上、やる必要があるのだろうか?と自分でも思う。  これで失敗してしまったら、皆が悲しむに違いない。  もう、俺は一人じゃない。悲しむ人が、たくさん居る。俺を支え、俺が支える人 が、いっぱい居る。その人達を守りたいのだ。守りたいが為に、俺は命を懸ける。 何せ、このままでは、ゼロマインドに勝てない。そして、ゼロマインドに負けると 言う事は、何れ全てを『無』と同化してしまう事に等しい。  『根源』は言っていた。『無』の力とは、『根源』へと還る為の力だと。  ゼロマインドは、『根源』と同じ力を邪悪な目的の為に使おうとしている。  今は、まだ『根源』程、完成されていないので、表立った動きをしていない。  だが、力が溜まり、時が来れば、必ず行動を起こすと『根源』は予言していた。  それでも『根源』は、手を出さないと言っていた。そうする事が定めで、見守り 続けるのが宇宙の摂理だと・・・。つまり、俺達が止めなければならないのだ。俺 達のソクトアだ。俺達が何とかするのは、当たり前の事だ。だから俺は、『根源』 は悲しい奴だとは思うけど、恨んだりはしない。  ゼロマインドを止める為に、打倒する力を見付けなければならない。これから、 その答えを示さなければならない。下手をすれば、俺の存在その物が、消えるかも 知れない。だが前に進む為に、そして皆で笑いあえる未来を、掴み取る為にも、俺 は、やり遂げなければならない。  遂に、その時は来た。俺はベッドに座る。そして自分の手を見る。この手に未来 を掴み取る・・・。その為に、命を懸ける。それは当然の事だ!  今までなら、余計な心配を掛けさせたくないと思っていた。だから一人で、『根 源』に会いに行き、答えを探しに行った。  だが、今回は違う。俺には、絆を誓い合った仲間が居る。その仲間達に何も知ら せずに命を懸けるのは、不誠実な事だ。だから、前夜である今日に、俺は『無』を 打倒する力を手に入れると、宣言した。そして、その為に命を懸けてくると宣言し た。知らせる事で、皆にも覚悟を持ってもらいたいと思ったからだ。 「よりによって、前夜である今日とはね。レイクらしいわ。」  ファリアが呆れる。ギリギリになってから、やり遂げようとする俺に、呆れてい るのかも知れない。本当なら、俺に命を懸けて欲しくないのだろう。 「兄貴だからな。うやむやのまま、『闘式』に出たくないんだろ?」  グリードも分かっている。俺が半端な覚悟のまま、『闘式』に参加するつもりが 無い事をだ。だから、今日やり遂げるのだ。 「困った奴だ。黙って命を懸けに行くなとは言ったけどよ。」  エイディも、笑っている。俺には何を言っても無駄だと悟っている。俺も、説得 された所で止める気など無い。 「レイクさん。就任したばかりの私に、主無しの給仕にさせないで下さいね。」  ジェイルは、嫌味を言いつつも、俺の事を心配していた。 「そうですわ。止めたって無駄でしょうから、止めませんけど・・・。ジェイルを 主無しの状態にさせる不幸だけは、避けて下さいます?」  恵も来ている。俺が挑戦するのを、何処かで知ったようだ。恐らくファリアが話 したんだろう。確かに恵が居れば安心だ。 「レイクさん。俺、レイクさんは、他人と思えない所があります。だから、レイク さんが帰って来ないと、俺の半身が失ったような感じがします。だから、絶対に成 功させて下さい。」  瞬も駆けつけてくれた。確かに瞬とは他人とは思えない。俺に魂のレベルで似た 男だと思っている。御人好しで、人を助ける事に命を燃やして、皆に心配を掛けて な・・・。本当に自分を見ているようだ。 「レイクさん。私達は貴方が、こんな所で終わるなんて、思っていませんよ。私と ジェイルを救った恩は、ちゃんと返させて下さいね。」  ティーエさんは、俺を恩人だと思っている。 「レイク。無茶ばかりして、私を困らすのは、これっきりにしてくれよ?」  親父が、俺の肩を叩いてくる。親父には心配を掛けている。本当に、これっきり にしたい物だ。無茶ばかりしてきたからな。俺は・・・。 「皆、有難う。俺は、本当に一人じゃなくなった・・・。絶対に成功させるよ。」  俺は、皆を信じさせなきゃならない。そして、成功しなきゃならない。 「・・・その事だけど、レイク。私も行くわ。」 「行くって・・・まさか俺に付いてくるつもりか!?」  俺はファリアの言葉にビックリする。まさか、こんな事を言い出すとは思ってい なかった。『根源』への邂逅は危険なのだ。下手したら、それだけでも精神を壊さ れ兼ねない。それなのに行くと言っているのだ。 「そうよ。これは、決定事項よ。」  ファリアは有無言わせないつもりで居た。『決定事項よ』と言う言葉が出た時は、 絶対曲げないと決めた時に出る台詞だ。 「お前、どれだけ危険か分かってるのか?」  俺は一応注意する。本当に危険だからだ。『根源』は『無』の意識の塊なのだ。 ゼロマインドより、摂理に対して誠実な意志を持っているので、話せるってだけで、 危険なのだ。本当に危険なのだ。 「そうね。想像は付くけど、本当にどれだけ危険かは、分からないわ。」  ファリアは、あっさり分からないと認める。 「なら、どうして・・・。」  俺は、ファリアが未知なる恐怖を抱えながらも、付いて行くと言ってるのを感じ た。それだけの覚悟を、どうして持てるのか。 「レイク。貴方、少しは相手の立場も考えなさいよ。もしも私が、そんな危険な所 に行くって知ったら、貴方どうする?」  ファリアは、逆の立場になれと言っていた。 「・・・ああ。そうだな。俺もファリアと共に頑張りたいと思う。」  それは間違いなかった。俺の力が少しでも役に立つなら、役立てて欲しいと思う に違いない。それこそ命を懸けてでもだ。 「それにね?私、貴方が帰ってこなかったら、後を追うかも知れないって、自分で も思うのよ。貴方もそうでしょ?」  ・・・ああ。そう言う事か。確かに俺も、ファリアが帰って来なかったら、絶望 に打ちひしがれるかも知れない。 「だからね。これは貴方の為に付いて行くんじゃないの。私が自分の命を守る為に 付いて行くのよ。やるだけやらないと、私の気が済まないのよ。」  ファリアらしい言葉を聞く。俺の為では無く、自分の為。だから気にするなと言 いたいのだろう。本当に俺の彼女は、出来過ぎだ。 「分かった。・・・とりあえず、それが可能かどうか、ゼロ・ブレイドに聞いてみ るさ。まずは、それからだ。」  俺は、ゼロ・ブレイドを握る。俺が会いに行くのは、出来るだろうが、ファリア を連れて行くとなると、俺の精神の中に飛び込まなければならないだろう。 (聞かせてもらった。本当に無茶をするな。君と君の彼女は・・・。)  こうだと決めたら、曲げないんだよ・・・。 (そうか。ならば、もう文句は言うまい。・・・で、『根源』に会いに行く件だが、 普通なら無理だ。他人の精神に入り込むなど、普通の所業では無いからな。)  まぁ当然か・・・。俺の精神が『根源』に行けるからって、他人と共有するなん て、普通じゃないよなぁ。 (だが君達は、普通では無い。幸いにも、君の父親の『能力』を使えば、共有が可 能だ。君の魂を『魂流』にて安定させた後、君の彼女が追い掛ければ良い。危険な 事には違いないがな。)  ああ。そうか。前にやった蘇生の要領で、俺の精神の中に入り込めば良いのか。 それが出来るのは、親父しか居ないな。 (蘇生と違って、君の父親の負担は少ない。魂を戻すのでは無く、魂を導くだけな ら、天使の本領だからな。・・・それでも無茶だと言う事は忘れるなよ。)  分かってるよ。アンタの助言には感謝する。でも、親父の負担が少ないのは、良 い事だ。親父にも無茶させてるからな。 「聞いてきた。親父の『魂流』を使えば、可能だそうだ。でも、今回は蘇生じゃな いから、親父の負担は少ないみたいだぜ。」  俺は、親父に伝える。すると、親父は溜め息を吐いた。 「私は、いくら負担になっても良い・・・。お前とファリアが無事に帰ってくるの が一番だ。・・・まぁ清芽殿には、伝えておいた。」  親父は、恵と瞬の祖母であり、天使である清芽さんに今の事項を伝える。 「悪いな。心配掛けさせちゃってさ。・・・でも俺は、絶対に戻ってくる。だから、 応援していてくれれば助かる。」  俺は、皆に伝える。応援されれば、それだけ俺の力になる。 「私も、皆を置いて消える気は無いわ。弟子達も居る事だしね。」  ファリアは、俺と共にやり遂げる意志を見せる。 「もう何も言わぬ。行って来いレイク。そしてファリア。戻って来なかったら、許 さん。私とアランの夢を、台無しにするんじゃないぞ?」  親父は、後を押してくれた。親父とアランさんの夢。つまり、皆でハイム家に赴 いて、アランさんに会いに行く事だ。それを幻にしちゃいけない。 「私は信じてます。だから見せて下さいね。乗り越える瞬間をね・・・。」  恵は、散々奇跡の瞬間を目の当たりにしてきた。だから今回も、俺達が乗り越え てくる事を信じて疑わない。これじゃ失敗出来ないな。困ったお嬢様だ。 「レイクさん。ファリアさん。俺、初めて会った時から、貴方達は魂が違うって思 っていました。今でもその想いは変わりません。だから、待ってますよ。」  瞬は、俺とファリアに会った時の事を話す。俺も瞬や恵を見た時に、コイツ等は 何かが違うと思っていた。そして、コイツ等はそれを証明してきた。だから、俺も コイツ等の期待に応えるつもりだ。 「・・・ファリア。行こうぜ。『根源』は、俺の答えを待っている。正直な所、ま だゼロマインドを打倒する力の正体は分かってない。だけど、もう少しで何かが掴 めそうなんだ。・・・だから、今回の邂逅で、掴んでみせる!」  俺は邂逅の中で、『根源』の望む答えを得られると思っていた。 「行きましょう。貴方が掴めると思うのなら、私はそれを信じる。そして、その答 えを一番近くで見せて頂戴。」  ファリアは、俺が失敗するなんて微塵も思っていない。参った奴だ。まぁ良いさ。 なら最高の答えを用意するまでだ! 「じゃぁ行くぞ。・・・ファリア。」  俺は、ファリアの手を握る。そして、そのまま目を閉じる。『根源』よ。今から 会いに行く。そちらで待っていろ!  俺の意識は、段々ゼロ・ブレイドと共に沈んでいった。  混濁した意識の中、俺は集中していた。『根源』に会いに行く為には、極限まで 集中しなければならない。この前会った時も、全ての感情を『無』と同化させて、 集中した結果、出会う事が出来たのだ。  『無』を正しく理解しないと、『根源』には辿り着けない。『神気』と『瘴気』 を掛け合わせた『無』では、真の『根源』への道へ至れない。ゼロマインドに補足 される事はあっても、『根源』に至る事は出来ない。  『無』とは、『根源』へと還る力。全ての情報が集まっているが故に、全てが還 るので『無』へと帰す。この境地に至れたのは、伝記のジークだけだ。俺が至れた のも、その想いに馳せる事が出来たからだ。 (何も不思議では無い。君は色濃くその血を受け継いでいる。私を通して、そのや り方を知ったのだろう?)  ゼロ・ブレイドか。俺は、この現状を打破したいと言う考えが全てだ。  ・・・む?何か違和感がする。この感じは・・・。誰かが俺に意識を繋げる感じ だ。意識を集中させる前に、誰かと約束したような・・・。 (・・・イ・・・レイク!!)  この声は・・・俺の一番大事な人の声だ。 (ちょっとレイク!返事しなさいって!)  ああ。間違いない。やはりファリアだ。 (あ。居た。どうしたのよ。貴方と一緒に行くって、ついさっきまで言ってたじゃ ない。もしかして、忘れてたの?)  済まない。『根源』に至る為には、全ての意識を集中しなきゃいけないんだ。つ いさっきの事も、覚えてられない程なんだよ。 (そう・・・。なら仕方が無いわね。)  ああ。済まないな。だけど・・・。どうやら、とりあえずは行けそうだぞ。 (分かってる。貴方の奥底から物凄い『無』を感じるわ。)  感じるか?・・・そうだ。その奥底に感じる力こそ、『根源』であり、全ての問 いに答える存在だ。気をしっかり持てよ? (ええ。この吸い込まれるような感じは、さすがに恐ろしいけど、貴方と一緒なら 大丈夫。意識を保ってられる。)  よし。じゃぁ俺から離れるなよ。と言っても、俺の精神の中の話だ。離れるなと 言う表現はおかしいか。 (そうね。でも、この精神の中は、とても広い空間のように見えるわね。)  確かに、改めて見ると、凄い広い空間に投げ出されたみたいだ。  まごまごしてもしょうがないな。『根源』と意識を繋げるぞ。 (ええ。覚悟は出来てる。お願いするわ。)  よし・・・。『根源』よ。俺の全ての感情を『無』へと繋げる。此処に現れろ!  そうだ・・・。この感情だ。喜びも悲しみも憎しみも怒りも・・・。全てが溶け 合って、『無』へと帰結する。ひたすら『根源』を求め、邂逅を得るんだ。 (す、凄い・・・。この意識の奔流。これが『根源』!)  ファリアは、『根源』の強さに押し流されそうになる。俺はそれを見て、静かに 引き寄せてやる。焦りは無い。俺になら、ファリアを助ける事が出来て当然だと言 う意識がある。 (・・・ああ。レイク。貴方の意識を感じる。貴方は激情を忘れられるのね。)  ファリアは、俺の意識と重なる。俺の至った境地に触れて、俺の意識と合わせに 来ている。『根源』との邂逅には欠かせない過程だ。 (私を呼ぶ者は、君達か。答えを求めに来たのだな。)  さすが『根源』だな。俺達が何を求めているのか、分かっているようだ。 (私は全てに応え、全ての者が還る場所。君達の願いを聞き、役目を果たすのが、 私の存在意義。)  『根源』は、前に聞いた台詞を言う。全ての問いに応えるのが役目らしい。 (ゼロマインドを打倒する力を求めに来たのだな。その求めに、私は正確に答える 事は出来ない。その力は、私をも滅ぼす力であるからだ。私は、自らが滅ぶ事項に ついて、直接教える事は出来ぬ。)  自分を否定する力を、口に出す事は出来ないのだろう。それに、『根源』を滅ぼ してしまったら、今の摂理が破壊されてしまう。それは、俺達を滅ぼす行為にも繋 がる。それだけは避けなければならない。ならば・・・。 (・・・そうか。君は私の力を内に入れて、打ち破る力を探るつもりか。)  さすが『根源』だ。言わなくても分かっているらしい。俺が命を懸けると言った のは、『根源』の力を内に入れるつもりだからだ。力を見つけられなければ、俺は 消えるのだろう。それくらいの覚悟でやっている。 (私の力を、その身に携えて否定するつもりか。確かに、その方法ならば、私を消 す事無く、力に目覚める事が出来る。だが、私の力を打ち破る事が出来なければ、 待つのは消滅だ。分かっているだろうが、忠告を与える。)  何物も関与しない『根源』が、忠告するだけでも有難いって物だ。俺は、この方 法に賭けるつもりだ。 (考えたわね。確かに『根源』その物を否定し、滅ぼしてしまったら、この世の摂 理が壊れる。それは避けなきゃならない。・・・だけど、『根源』の力を、その身 に携える事で、打ち勝つ。その打ち勝った力こそが・・・。)  そうだ。打ち勝つ時に出来る力こそが、『根源』の否定であり、ゼロマインドを 打倒する力になる。危険な賭けだとは、承知している。  だけど俺は、ゼロマインドを放っておけない。このままでは、俺の全てが・・・。 今の、この感情さえも、ゼロマインドにやられてしまう。俺が俺である為に、そし て、皆が笑いあえる世を、この目で見る為に、身に付けてみせる。 (自らの存在を懸けて、私とゼロマインドの力を否定するつもりか。・・・その願 いを聞き届けよう・・・。君の可能性は、私が見極めよう。)  『根源』は、余計な感情は無かった。願いを聞き届けて、俺が打開するかどうか を見極めるのが、『根源』の役目だった。 (レイク。やるのね。・・・私も貴方と一緒に、乗り越えるわ。)  ファリア・・・。もう俺は、お前を止めはしない。一緒に乗り越えよう!そして、 この手で未来を掴むんだ! (ええ。私もやるわ。生きるも死ぬも、一緒よ!レイク!)  ああ。この想いは、決して消せはしない!消させはしない!  さぁ『根源』よ!やってくれ! (分かった。その想いも、私は記憶しよう。それが私の役目だ。)  『根源』は、そう言うと、とてつもなく純度の高い『無』を俺の方へと向けてく る。全ての答えを有し、全てが還るべき場所の力・・・。それがこの俺の中に!  ・・・来た・・・。  うぐううああああああ!!! (いやあああ!何これ!!何よこれ!!!)  ファリア!うぐぐぐ!!!消えるな!俺は此処に居るぞ!! (レイク!・・・ええ!まだ居る!私は此処に居る!!貴方も消えないで!!)  うぐあああ!あ、甘く見ていた!!こ、此処までだとは!!消える!消えてしま う!俺の生きてきた記憶が!!俺の此処までやってきた力が!!俺の想いが!! (いや!いやよ!!消えたくない!!私は消えない!!!)  ファリア!!そうだ!俺は消えない!!此処までやってきたのは、お前の為だ! そしてこの俺自信の為だ!消えて堪るか!! (私は、全てが還るとしても!・・・レイクへの想いは消させない!!)  ファリア・・・。そうだ!例え『根源』に全てが還る時が来ても!!俺の想いは! 俺の築いてきた絆は!消させはしない!消えて堪るかってんだ!!!  ・・・!!こ、これは・・・。な、何だ・・・? (レイク!・・・私にも見える・・・。何これ?)  そうだ・・・。見えるぞ。俺の築いてきた絆が!俺が創った想いが!! (ああ・・・。私にも見えるわ。私が創り上げてきた貴方への感情が!!)  そうだ!全て『無』に還っても、創ってみせる!! (そうよ!全てが『無』になっても、また築いてみせる!) 『この『創世』の力で、勝ってみせる!!』  ・・・俺とファリアの想いは、これで一つになった! (レイク・・・。私、消されたって創るから!!)  ああ。そうだ!例えどんなに消されようとも、また創ってやる!!  晴れる・・・。晴れていく!!俺とファリアの想いを受けて、『根源』に還る力 が、晴れていく!そうだ!例え『根源』に還ったとしても、俺達はまた築くんだ!  『無』の否定では無く、『無』を受け入れて尚、生まれ出ようとする!それが、 ゼロマインドでさえも、消し切れない力だ!! (おおお・・・。眩しい・・・。私の力が乗り越えられる・・・。)  『根源』・・・。アンタには感謝している。アンタは自らの命を脅かす事項です ら了承してくれた。・・・この力、無駄にはしない! (『創世』の力。それが、答えだったのね。レイクと一緒じゃなければ、消えてい たわね。でも、もう消させないわ!)  ファリア。これからも築き上げよう。この『創世』の力で!! (見事な物だ。・・・私を乗り越えたか・・・。これで、私の役目も終わりのよう だな。・・・私はこれからも、問いに答える存在になる・・・。)  『根源』!俺は、アンタの事も忘れない。この力で、必ずゼロマインドを倒して みせる!だから、そこで見ててくれ!! (私をも乗り越えし者よ。・・・未来を開くが良い。その権利を、君達は手に入れ たのだからな。暗き『黒の時代』を打破すると良い。)  ああ。約束する。俺が俺である為にも!必ず! (・・・見事なり!)  この声はゼロ・ブレイドか? (ゼロ・ブレイドでは無い。私は今より生まれ変わる。君の『創世』の力を、この 『記憶の原始』はしかと受け取った!)  そうか・・・。アンタは、精神を反映する剣だったな。 (『創世』の力・・・。『エル』を、私は認識した!私はこれよりエル・ソードと なった!君の手によって、生まれ変わったのだ!)  エル・ソードか。了解した。俺のこの想いを、最大に活かせる剣は、アンタだけ だ。宜しく頼むぜ。絶対に勝つぞ!そして、ファリア。やってやろうぜ!俺は、お 前と一緒なら、どんな奴にだって負けない!ゼロマインド何かに、絶対に負けてや る物か!一緒に乗り越えようぜ!! (当然よ。貴方と一緒なら、誰にだって負けない!負けてやる物ですか!)  そうだ・・・。見ていろよ『根源』。俺は一人じゃない。ファリアが居る。そし て、絆を築いた仲間が居る!俺は、その仲間の為に創ってみせる!これからの未来 を、俺の手で築いてみせるんだ!!  私の自慢の息子。そして、その息子を心から愛してくれる息子の恋人。その二人 が、危険な事をしている。消えてしまうかも知れない。その手伝いを、私はしてい るのだ。こんな残酷な事があろうか。  だが、息子が望んだのだ。私の力を頼ってくれていた。・・・複雑な気分だが、 私は息子の望みを叶えてやりたかった。だから、息子が瞑想に入った後、息子の恋 人を、息子の精神の元へと送った。これは、私にしか出来ない事だ。・・・何て残 酷な事をさせるのだ・・・。本当は止めたかった。だけど私は、息子の望みを優先 させてしまった。  こうなったら、私に出来る事は、祈るしかない。応援するしかない。私まで精神 に入り込んでしまったら、息子も、息子の恋人も、戻れなくなってしまう。  頑張れレイク!そしてファリア!愛する子達よ!私の願いなどで、力が分け与え られるなら、私は死ぬ気で願う!だから、頑張るのだ!!  ・・・そう思っていた時だった。急にレイクの気配が希薄になった。ファリアの 気配もだ。私は、『魂流』で魂を送っている身だから分かる。レイクとファリアは、 『無』の力を、その身に受けたのだ。何て無謀な事を・・・。  そうまでして乗り越えなければならないのか?そこまで、この仲間達が・・・。 そして私の事が大事なのか!・・・何て息子だ・・・。出来が良い所では無い。  消えるな。レイク!!私を置いて消えるな!ファリア!!お前達は、私が望む未 来その物なんだ!消えてくれるな!!  ・・・私の願いは、届いただろうか?・・・急に静かになった。 「おい・・・。兄貴・・・。血の気が引いてるぜ!?」  グリードは心配になって、レイクの手を握る。 「グリード!レイクさんは帰ってきます!絶対です!!」  ジェイルは、唇を噛みながらもレイクを信じていた。 「そうだ!コイツが俺達を置いていく訳が無い!ファリアもだ!」  エイディは、目を見開きながら、この光景に耐える。強き絆だな。 「ファリアさん!私は、信じてるからね!!」  ティーエは、つい地が出てしまう。 「この二人が、負ける筈がありません!どんな困難も、乗り越えてきた二人です物! 今回も、必ず乗り越えてきますわ!」  恵は、自分に言い聞かせるように叫ぶ。だが想いは、本物だった。 「・・・!・・・おおお!!」  瞬は、何かを感じ取る。瞬はゼーダと融合した身だ。何かを感じたのかも知れな い。瞬は、二人を見つめる。 「レイクさん!ファリアさん!・・・この力の奔流は・・・!凄い!」  瞬は、二人の手を取る。そして優しく手を繋いでやった。その瞬間だった。  レイクが抱いていたゼロ・ブレイドが、浮き上がった。こんな光景は初めて見た。 「ゼロ・ブレイド!これは!?」  私は、ゼロ・ブレイドをしっかりと見た。眩い光を放っていたが、見逃す訳には 行かなかった。するとその瞬間、感じた事も無い力が、ゼロ・ブレイドから放たれ 始めた。何だ・・・この暖かい力は! 「う、うお!!何だこれ!!」  グリードが驚く。レイクとファリアの体から、信じられないくらいの力を感じた。 それもゼロ・ブレイドが放っている力と同じ力をだ。  ああ・・・。私には分かる!レイクとファリアは、掴んだのだ!何かとてつもな い物を、この手に掴んだのだ!! 「来る!魂が、帰って来るぞ!!」  私は、二人の魂が、この手に帰ってくるのを感じた。凄い光だった。だが、失敗 する訳にはいかない!私は、この瞬間の為に任されたのだ!失敗して堪るか!  私は、慎重に二人を選定し、体に戻した・・・。吸い込まれていく。成功だ! 「・・・ん・・・。ンン!!」  ファリアの体が、魂が入った瞬間、汗ばみ始める。しかし、しばらくすると安定 し、血の気が戻ってきた。何とか成功したようだな。 「う・・・うおおお!!」  レイクの体も、弾ける様だったが、段々と血の気が戻ってくる。・・・私は、失 敗せずに済んだようだ・・・。ゼロ・ブレイドが、レイクの手に戻っていった。 「目覚めるぞ!」  エイディは、目を輝かせる。 「・・・あ・・・。もど・・・ったの・・・ね。」  ファリアは、薄目を開けてティーエの方を見る。 「み・・・んな・・・。ただ・・・いま!」  続いてレイクも、瞑想から覚める。 「レイクさん!ファリアさん!」  瞬が、二人の手を自分の手を重ねる。 「兄貴!心配したぞ!ちくしょう!!」  グリードは、嬉し涙でいっぱいになる。 「二人共、心配掛けすぎだぞ?全く!」  エイディは、素直じゃなかった。しかし、その目には嬉し涙が光っていた。 「おかえりなさい!レイクさん!ファリアさん!」  ジェイルは、姿勢を崩さず二人に挨拶をした。 「無事で何よりです!ファリアさん!」  ティーエは、地が出そうになっていたが、口調を直していた。 「だから言ったのよ。この二人が負ける筈が無いってね。」  恵は、そう言いつつも、胸を撫で下ろしていた。 「二人共、良くやったな!私も安心したぞ!」  私は、声が震えそうになる。本当に不安だったからだ。不安で押し潰されそうだ ったからだ。こんなに心配したのは、いつ以来か・・・。 (良かったですねぇ。無事が一番ですよ!)  清芽殿。貴女にも感謝する。二人が、無事に戻って来たのは、貴女のおかげだ。 (感謝なんて良いんですよ。無事な姿を見れましたし!)  清芽殿。有難う。私の息子を心配してくれたのだな。 「それにしましても・・・。さっき感じた力は・・・?」  恵は、さっき二人から放出された力が気になっているようだ。 「・・・そうか。こっちでも放っていたんだな。」  レイクは、自分の体の感覚を確かめる。どうやら、そう簡単に発現出来る物では 無いようだ。確かに凄い力だったしな。 「ファリア・・・。やってみるか?」 「ええ。そうね。やってみましょう。」  レイクとファリアは、互いに手足の感覚を確かめつつも、精神を集中させる。 「・・・ハァァァアアアアア!!」  レイクは、精神を統一させると、ゼロ・ブレイドを抜き放つ。 「・・・この想いは、どんなに消されても、再び創ってあげる!」  ファリアは、そう言うと、レイクと手を繋ぐ。 「これぞ!『創世』の力『エル』!此処に発現するは、エル・ソード!」  レイクは、ゼロ・ブレイドに力を注入させると、ゼロ・ブレイドの形が変わって いく。それをエル・ソードと名付けた。 「創世の力『エル』ですって?この湧き上がるような強い力が!」  恵は、驚きの声を上げる。気持ちは分かる。この力は何だ?透き通るように、身 体に染み込んでいく。何かが生まれ出るような・・・。 「・・・全ての情報の基にして、全てが還る場所の力である『無』を、唯一打開す る力よ。それは、例えこの身が滅びようとも、新たに想いを創って見せると言う意 志!それが、創世の力『エル』よ!」  ファリアは、悟ったような顔をしていた。レイクもだ。創世の力か・・・。だか ら、胸がざわつくのかも知れない。何かが生まれ出ようとする力は、何物にも負け ない・・・か。良くぞその境地に至った物だ。 「俺は、このソクトアで生き抜く為に、『無』に負けない!相手が全てを還す力な らば、新たに創ってみせる!例え全ての情報が相手であっても!新たに湧き上がる 力で、打倒してみせる!!」  レイクは、『エル』の力に包まれていた。何と神々しい光か・・・。見ているか? 義父リークよ。レイクは、私達の希望の光になったのだ! 「レイク。私は、いつまでもこの想いを創るわ。貴方と一緒に!」 「ああ。俺もだ!ファリアと築いてみせると、『根源』の前で誓ったからな!」  ファリアが微笑む。それにレイクが応える。この二人の絆は、例え『無』に消さ れようとも、無限に創られる事だろう。私には確かな絆が渦巻いているのを感じた。  ・・・シーリス。私とお前の息子は、凄い男だ。そして、ファリアとなら、どん な困難でも打ち破ってくれるだろう。・・・楽しみだ!!  レイクとファリアは、私の誇りだ。・・・頑張るのだぞ。我が息子よ!