NOVEL Darkness 6-7(First)

ソクトア黒の章6巻の7(前半)


 7、前夜
 どんなに自信があろうと、この時ばかりは緊張する物だ。それは、合否の判定で
ある。相手の気分次第では、どんなに自分が良いと思っていても、落とされてしま
う。こればっかりは、言い渡されるまで気が抜けない。
 今の私は、正にそんな気分だった。これは、一昨日も味わったっけな。セントの
『鬼の巣』でこの気分を味わった。その時の相手は、アランさんであったが、今日
は、本番とも言うべき人が相手だ。
 その名も天神 恵様。私が合格すれば、主人になる御方であり、また、主人と仰
ぐのに、これ以上無い程、相応しい御方だ。給仕を学べば学ぶ程に、恵様の偉大さ
が分かってくる。
 天神家で、今使用人をしている人達は、本当の意味でのエリートだ。また、その
心得も、骨の髄まで分かっているプロ中のプロだ。それを取り纏めている睦月さん
も、とんでもない実力だと分かる。その補佐をしている葉月さんも、恐ろしい実力
の持ち主なのだ。給仕を学んだ後だと、本当に良く分かる。あの人達の動きは、尋
常では無い。あれを当たり前だと思っているのなら、考え直した方が良い。
 そんな凄まじい天神家で働こうとしている。それは光栄な事であり、エリートの
仲間入りと言っても良い。しかし、それだけに試験は半端な物では無い。少しでも
ミスがあればチェックが入るし、受からないだろう。アランさんなら、指摘をして
直す様に言うだけだが、それすらなく突っぱねられる。
 その天神家の試験を、私達は受けたのだ。この日の為に、この2週間は、徹底的
に鍛えたのだ。アランさんに何度も注意されて、叱られ様とも、我慢してきたのだ。
 恵様と睦月さんのチェックが入る。後ろでは、仲間達が見守っていた。修練の時
間が終えてからの試験だったので、皆の前で試験を受けたからだ。出来は、会心と
は言えないまでも、今出来る事をしたつもりだ。
 恵様ならば、こう言うチェックで、私情が入る事は無い。純粋に私やティーエの
実力を量ってくれる。そこは安心だ。なので、これで落ちたら、完全に実力不足と
言う事になる。そして、そうなる可能性も高いだろう。
「どう?睦月。・・・。」
 恵様は、睦月さんと話し合っていた。詳しくは聞こえない。ベッドメイキングは、
お墨付きを貰った。そして掃除能力は、及第点だった。調度品の整理のセンスも何
とか合格を貰っていた。そして、最後に調理技術だ。
 天神家で働くならば、調理技術も重要だ。最近では、人も増えてきたので、特に
重要だ。調理だけでなく、料理を運ぶ際の仕草などもチェックされた。
「今回のお題は、ストリウス料理でしたが・・・。成程。」
 睦月さんは、舌に神経を集中させている。チェックの仕方が、アランさんにそっ
くりだ。さすがは師弟にして、天神家を取り仕切っているだけある。
「・・・であれば、・・・と思います。」
 恵様に耳打ちをしている。どうやら、評定が下ったようだ。
「分かったわ。私もほぼ同意見よ。」
 恵様の中で、結論が決まったようだ。私達は、裁定が下る間も、姿勢を崩さずに
居た。こう言う所で優雅さが問われる。合格する為と言うより、アランさんに習っ
た事を無駄にしない為に、私達は姿勢を崩さないようにしていたのだ。
「では、これより発表しますわ。」
 恵様が、チェック票を手に取る。
「ベッドメイキングは、二人とも素晴らしい出来でした。いつでも葉月が代われる
程ね。そして、掃除能力に整理能力は、ジェイルに軍配ありましたね。ティーエも
及第点でしたが、もう少し頑張った方が良いわ。」
 恵様は、チェックが厳しい。やはりティーエが、整理に時間が掛かっていたのを、
見逃していなかった。私より力が無い事など、余り関係無いようだ。
「調理技術ですが、配膳はジェイル、調理はティーエに、光る物がありましたわ。
ジェイルは、もう少し調味に気を付けた方が良いでしょう。」
 恵様のチェックは容赦が無い。アランさんに心配された事が、そのまま言われて
いるようだ。これは、駄目かも知れない。
「で、最終的な合否ですが・・・フッ・・・。合格よ。」
 ・・・そうか・・・。って合格!?合格したのですか!?私は。
「有難う御座います。」
「これから、宜しくお願いします。」
 私もティーエも、驚きだったが、そんな事は表に出さずに一礼する。最後まで、
優雅さを忘れてはいけない。
「・・・よし・・・。改めて合格・・・。」
 え?睦月さんは、改めてと言った。
「見事ですわ。ジェイルにティーエ。今、手放しで喜んだりしたら、合格を取り消
すように、睦月から言われていたわ。」
 恵様は、最後の最後に、判定を用意していたのだ。それは、優雅さと佇まいのチ
ェックだ。私達が、そこで崩れるようなら、不合格を用意したのだろう。
「あー・・・。緊張したぜー・・・。」
 レイクが、自分の事のように心配していた。
「私もよ。最後の仕掛けを聞いてたから、ドキドキしちゃった。」
 ファリアも、知ったいたようだ。
「これから、天神家の一員として、しっかり頼みますよ。」
 睦月さんが、私達に手を差し伸べる。私達は、その手をしっかりと握り返す。
「宜しくお願いします。睦月さん。」
 私もティーエも、睦月さんの命令で動く事が多くなるだろう。
「良かったな。ジェイルにティーエ!俺も嬉しいぜ!」
 グリードは、我が事のように喜んでいる。
「フッ。こっちまで緊張させるなよ。」
 エイディも、胸を撫で下ろしていた。
「お姉ちゃン!さっきの料理、美味しかったヨ!」
 センリンさんが、ティーエに抱き付いていた。さっきの料理は、皆で試食しても
らったのだった。ティーエの味付けは、さすがだった。私も、頑張らねば。
「この餃子っての、美味しいなぁ!俺、こう言うの好きだよ!」
 この声は、ルード君ですね。異星人の方にも気に入ってもらえるとは、光栄の至
りだ。このルード君は、この星に来てから、何にでも興味を持っている様子ですし
ね。色々な体験をさせてやりたいですね。
「餃子なら俺の店でも、作っているが、焼き餃子が多いからな。この茹で餃子は、
香り付けと言い、上品で良いな。」
 士さんが、独特な感想を漏らす。さすが店をやっていると、感想の仕方が違う。
「ああ。そうそう。それで、貴方達の担当ですけど、レイクさんにジェイル、ファ
リアさんにティーエが付きなさい。」
 恵様が、指示を出す。私がレイクを?・・・これは、光栄だ。
「え?お、俺の世話ですか?ジェイルがですか!?」
 レイクは戸惑っていた。まぁ無理も無いだろう。
「私は良いわよ。宜しくねティーエ。」
 ファリアは、慣れた物だった。さすがですね。
「宜しくお願いします。ファリア様。」
 ティーエは、早速敬語を使い出した。対応が早いですね。
「私も宜しくお願いします。レイク様。」
 私も負けじと使い出す。レイクは、悶え始める。
「恵。頼むから、様付けさせるの止めさせてくれない?さすがに慣れねぇよ。」
 レイクは、私に様付けされるのが嫌なようだ。私もちょっと業とらしかったかも
知れない。これはいけませんね。
「フフフ。こう言ってるわよ?どう対処するのかしら?」
 恵様は、意地悪っぽく私の方を見る。さすがに手馴れていらっしゃる。
「了解しました。しかし、今までの呼び捨てと言う訳には参りません。ですから、
これからは、『レイクさん』とお呼びしますよ。」
 私は、姿勢を崩さずに即座に対応する。こう言う所はキッチリしておかないと駄
目だ。これからは、レイクが・・・いや、レイクさんが主人だ。
「ああ。それなら、まだ良い。・・・ああ。焦ったぜぇ・・・。」
 レイクさんは、慣れないようですね。冷や汗を掻いていた。
「ああ。んじゃ私もそれにしてくれない?やっぱ慣れないのよね。」
 どうやら、ファリア・・・いや、ファリアさんも、そう思っていたみたいだ。
「了解しました。『ファリアさん』。確かに私も慣れない真似を致しました。」
 ティーエは、遊んでいる。しかし、親しみのある呼び方だった。ティーエが『鬼
の巣』で、一番直した点は、ここだった。優雅さを身に付けるのが一番苦戦してい
た。だが最後には、キッチリ修正する所は、さすがだった。
「宜しく頼むわね。ティーエ。」
 ファリアさんは、ティーエに挨拶をする。すると、ティーエは嬉しそうに頷く。
「なぁなぁ。『鬼の巣』って、そんなにすげぇ所なのか?お前達の佇まいが、そこ
まで変わっちまう程にさ。」
 エイディは、興味があるみたいだ。
「アランさんは、素晴らしい方ですが、厳しい御方でしたね。」
 私は、それだけ言う。あの躾け方は、堂に入っていた。
「そう言えば、アランは元気だったか?」
 ゼハーンさんが、尋ねてくる。ゼハーンさんも気になるみたいですね。
「向こうで撮った写真があります。拝見しますか?」
 ティーエが、デジタルカメラを取り出す。そう言えば、レイクさんに見せる為に
撮ったのでしたね。折角だから、見てもらわないと駄目ですね。
「折角ですし、皆で見ましょう。・・・睦月。」
 恵様が合図を送ると、睦月さんが手早く合図を送る。すると、とてつもない速さ
で、スクリーンと映写機が用意される。デジタルカメラの画像を見る為の映写機だ。
相変わらず、この手早さには驚いてしまう。私も、この家の一員となるのならば、
この速さを見習って、参考にしなければならない。
「では、預かりましょう。」
 睦月さんは、ティーエからデジタルカメラを預かると、中のメモリーカードを抜
き取って、映写機の差込口に入れる。そして、スクリーンに映し出した。
「お。アランだな。・・・良い笑顔だな。」
 ゼハーンさんは、感慨深いみたいだ。
「この人が・・・アランさん・・・。何だろう。凄く、安心出来る笑顔だ。」
 レイクさんは、マジマジと見入っていた。気に入って頂けたようだ。
「あー。この養成所は、見覚えがありますね。セントのお屋敷から、此処に派遣さ
れた覚えがあります。師匠も変わっていませんね。」
 睦月さんは、懐かしそうに見ていた。睦月さんは、セントのお屋敷で修行したら
しいが、時々この施設に来ていたみたいだ。
「あれ?この刺繍は?・・・うわー。これ、中々凄いわね。」
 次の写真を見ると、刺繍を持って、幸せそうにしているアランさんを写している
一枚があった。刺繍もバッチリ見れるようになっている。ファリアさんは、感嘆の
声を上げていた。これは、私とティーエが作った物ですね。
「私とティーエが、この施設を卒業した時に、感謝の気持ちを込めて、アランさん
に送りました。アランさんが、一番望んでいる事だと思いまして。」
 私は、説明しておく。アランさんが余りにも良い笑顔をするので、写したのだ。
「こ、これ、俺じゃん。ジェイルが縫ったのかよ?・・・すげぇな。」
 グリードは照れながらも褒めてくれた。
「自分の姿が縫われているってのも落ち着かない物だな。」
 エイディは、照れ隠しに皮肉を言っていた。
「これは私か?私まで入れてくれるとはな。」
 ゼハーンさんが、嬉しそうに見ていた。自分が入っているとは思わなかったのだ
ろう。だが、アランさん相手に、ゼハーンさん無しと言う訳にはいかない。
「ジェイル。ティーエ。良い物を作りましたけど、これじゃ足りませんわ。」
 恵様が、不満そうに私達を見た。
「そうですね。私達が入っていません。これでは未完成です。」
 睦月さんも容赦が無かった。そう言うとは思いましたけどね。
「実は、そう言うと思いまして、作成中です。」
 ティーエは、アランさんが持っている物より、二回りほど大きい刺繍を、作成中
だ。今は、写真を元に下書きをしている段階だ。
「ならば宜しい。必ず完成させて、アランさんを喜ばせるのよ。」
 恵様は、それが使命だと言わんばかりだった。こう言う事を命じる時の恵様は、
誰よりも輝いて見えた。さすがだ。
「了解しました。でも、それだけでは御座いませんよね?」
 ティーエは逆に尋ねる。中々人が悪い。
「あら。良い切り返しね。当然ですわ。」
 恵様も当然分かっているらしい。
「いつか皆で、アランさんに会いに行きますわ。決定事項よ。」
 恵様は、当然の事だと思っている。本当に心優しい気遣いが出来る御方だ。
「フッ。そんな事をしたら、あの執事さん、歓迎と称して、凄まじい料理を作って
くるぞ?楽しみな事だな。」
 士さんは、アランさんに会った事があるので、どう言う人か知っている。
「やり兼ねないネ。あの人は、限度を知らないからネ。」
 センリンさんまで同調している。確かにやるだろうな。
「アランの事だ。その方が幸せに思う事だろう。やれやれだな。」
 ゼハーンさんは、自分の執事が褒められて、本当に嬉しそうだった。
「ま、その前に新人二人を、一人前にしませんと。これから、宜しく頼みます。」
 睦月さんは、そう言うと、私とティーエを、にこやかな笑顔で迎え入れる。しか
し、私とティーエは知っている。この笑顔は、容赦無い扱きをする前触れだと。
 そう言う所は、本当に師匠譲りだった。


 この天神家に、新しく仲間が増えるとは・・・。これまで面接した人達は、どう
にも下心がある人達ばかりだったので、撥ねてきたのだが、やっと新しく仲間が増
えましたね。特に最後の、優雅さを失わない佇まいは見事だった。
 私は知り合いだからと言って、面接を甘くしたりはしない。寧ろ、さっきの試験
は、いつもより厳しく裁定した。しかし二人は、かなりの優雅さを保っていたし、
技量も十分だった。これなら、天神家の一員として恥ずかしくない事でしょう。
 レイクさんにはジェイルを。そしてファリアさんにはティーエを付けたのには、
理由がある。だけど、まだ誰も気が付いていない。それで良い。自然に溶け込ませ
るのも、目的の内だ。だけど、その内知るだろう。私が、レイクさんとファリアさ
んに二人を付けたのかを。・・・感謝して欲しいですわ。予行演習させているので
すから。ファリアさんですら、気が付いていないみたいですしね。さすがに、睦月
は気が付いているようですけど・・・。
 この試験が終わった後に、前夜祭として、パーティーをする事になっている。と
言うのも、前日の事ですが、やっと全ての用意が整ったので、『闘式』が無事に開
催される事に決まったからだ。会場への『転移』の扉の用意なども完璧だった。
 もう既に会場では、少しでも良い席を取ろうと、泊り込みで待っているファンが
居るくらいだ。有難いけど、余り無理されても困るのですがね。
 ま、とりあえず、今日のパーティーはマスコミを呼んでいない。なるべく気楽に
楽しめるようにしようと言う狙いもある。とは言え、どうしても地元の放送局が、
取材したいと、言ってきたので、その人達だけ了承を取った。
 もうパーティー会場は、着々と準備が出来ている。今回は、私達の仲間と、その
パートナーが対象だ。もう皆、『闘式』への準備が出来ている事を確認したので、
どうせならと、開催したのだ。
 修行に出ていた方達も、戻ってくる。どんな風になっているのか、楽しみだ。
 今の所、天神家の逗留メンバーは、既に着替えなどをしている。私は、手早く着
替えを済ませてしまった。今、天神家に居るメンバーは、私に兄様、レイクさん、
ファリアさん、グリードさん、エイディさん、ジェイルにティーエ。それと、ゼハ
ーンさん、士さん、センリンさん、ジャンさん、アスカさん、それに睦月ね。後は、
ゼリンも居る。
 今回は、気楽なパーティーなので、簡易的なドレスとスーツで良いと言っておい
た。余り気負った物にしたくない。とは言え、私は開催者として恥ずかしくないよ
うに最低限のドレスを用意している。立食用の紅いドレスだ。
「お。主催者様の登場だ。」
 士さんの声が聞こえた。簡易的なスーツだが、着こなしている。
「うわァ!さすが恵さんだヨ!豪華だネ!」
 センリンさんも、士さんに合わせて、パーズドレスを着ている。それも結構似合
っている。こう言うの着たら、一番映えるのよねぇ。センリンさんは。
「さっすが当主様。眼福眼福。って、睨むなって姐さん。」
「んもう、ウチだって、ドレス着てるってのにー。でも恵さん綺麗だねぇ。」
 ジャンさんとアスカさんは、いつも通りの反応を見せてくれる。
「いつぞやの祝勝会を思い出す。今日は、楽しく行こうじゃないか。」
 ゼハーンさんは、大人の対応を見せている。こう言う落ち着いた人が居ると、こ
っちも気が楽で良い。
「相変わらず、派手だな。そうだ。葵は莉奈と魁とルードと一緒に来るらしいぞ。」
 エイディさんが、知らせてくれる。パートナーの動向だし、知っていて当然だ。
「分かりましたわ。ルード君は、緊張してなきゃ良いですけどね。」
 私は、あの子の事は気に入っていた。最初こそビックリしたが、素直で可愛いで
すしね。最近では、首飾り無しでも喋れる様に特訓しているらしい。
「お。もう始まってるのか?・・・あ。そうそう。江里香先輩から連絡あったぞ。
何でも、秋爺さんに校長と一緒に来るってさー。」
 兄様が降りてきた。江里香先輩も、修行が終わったようね。
「あの偏屈爺も来るんですね。・・・まぁ客人ですから、我慢しますけど・・・。」
 睦月は頭を抱えていた。秋月さんもいらっしゃるのね。
「我慢なさい。お客様に失礼を働いちゃ駄目ですよ?」
 私は、釘を刺しておく。睦月は、結構過激だからね。
「分かっています。天神家の名に懸けて、御出迎えします。」
 睦月は、業務モードに入る。・・・名に懸けなきゃいけないほど、嫌いな訳だ。
「いよっ!お待たせ!おお。今日は一段と美味そうだぞ。」
「レイク・・・。少しは品性を上げなさいよね・・・。」
 レイクさんとファリアさんが、下に降りて来た。傍らには、ジェイルとティーエ
が居た。ちゃんとやっているようね。
「レイクさん、これからこう言う機会も増えるのですから、ファリアさんの言う通
り、作法も身に付けましょう。」
「そうですね。ファリアさんは、バッチリなのですから、余計にですよ?」
 ジェイルもティーエも容赦が無い。しかし、これで良いのだ。主人の言う事を全
部丸呑みするような給仕じゃなく、主人が至らない場合は、注意出来る給仕の方が、
関係としては望ましい。
 でも、レイクさんも着付けは完璧だし、ファリアさんは、白いドレスが映えてい
る。あの華やかさは、天性の物だろう。
「よ、容赦無い・・・。まぁ、善処します・・・。」
 レイクさんは、言葉責めで萎縮していた。可哀想に。
「おい。いつまでそうしているんだ?・・・大丈夫だって。」
 グリードさんの声が聞こえてきた。どうやら何かに手古摺っているらしい。
「・・・へ、変じゃないか?・・・わ、私は・・・。」
 ゼリンの声も聞こえた。どうやら、恥ずかしがっているらしい。
「あのなぁ・・・。お前がその姿が変だと思ったら・・・お、俺の感性だって、変
だと思われちまうだろう?俺は・・・良いと思うぜ?」
 何やら様子が変ですわ。本当に大丈夫かしら?
「グリードの感性が、変な訳無い!それは、私が保証する!」
 何だか、面白そうなやり取りをしているみたいですが・・・。
「どう為されたの?階段の上で、騒がないようにして下さいます?」
 私は、さすがにやり過ぎだと思ったので、注意する。
「ま、ビックリされると思いますよ。」
 睦月がとても楽しそうにしていた。そう言えば、ゼリンの着付けを手伝ったのは
睦月だったわね。
「よ、よし。行くぞ。・・・ほら!」
 グリードさんの緊張した声が聞こえた。すると、グリードさんの手を取って、ゼ
リンが降りて来た。・・・これは驚きましたわ。ゼリンは、薄い水色のドレスを着
ていた。変どころじゃない。これは物凄く似合っていた。
「ほ、ほら。皆引いてるじゃないか・・・。呆れて物が言えないみたいだぞ?」
 ゼリンは、困った顔になっていた。どうやら勘違いしているようだ。
「ちっげーっての。皆、お前が似合ってるから、見惚れてるんだって!・・・言わ
せんなよ。恥ずかしいだろ?」
 グリードさんは、何だかんだ文句を言いながら、ちゃんとエスコートをしていた。
「すっごーいヨ!ゼリン、綺麗じゃないカ!」
 センリンさんがはしゃいでいた。分かる気がする。
「フッ。メトロタワーの時とは、大違いだな。」
 士さんは、旧メトロタワーでゼリンと闘った事がある。その時は、管理職の兵装
をしていたのだから、違うのは当たり前だ。
「グリード。お前、ちゃんとエスコート出来るじゃねぇか。意外だな、おい。」
 エイディさんが、からかっていた。
「お前なぁ・・・。俺だって自分の彼女くらい、ちゃんとエスコートするっての。」
 ・・・え?今、グリードさん、物凄い事を言わなかった?
「・・・あ・・・。グリード・・・。今言わなくても・・・。」
 ゼリンは、物凄く恥ずかしそうに俯く。可愛い所あるじゃないのよ。
「あ、あ、アンタ、いつからそ、そんな・・・。」
 ファリアさんは、口を開けて驚いていた。
「ファリア、落ち着けって。」
 レイクさんが、卒倒しそうなファリアさんの肩を支える。
「え?隠すような事でも無いだろ?いやぁ、ゼリンと話してると、パートナーだか
らってのもあるけど、安心出来るから、どうかな?って。」
 グリードさんは、当たり前の出来事のように話す。結構肝が据わってるのね。
「わ、私から、申し込んだんだ・・・。グリードは・・・こんな私に、笑ってくれ
と言ってくれた・・・。それにグリードは、皆の笑顔の為に、こんなに一生懸命で、
私、憧れちゃって・・・。」
 ゼリンは、もじもじしながら話す。何て初々しい。しかも後半部分は、ただのノ
ロケだった。ゼリンがこんなになるとは・・・。
「意外でしたけど、お似合いなんじゃないかしら?」
 私は、意外に似合っている二人だと思っていた。
「でも私、こんな幸せで良いのかな?って・・・。だって・・・。」
 ゼリンは、士さんやレイクさんの方を見る。
「お前、まーだ言ってるのか?士さんや兄貴達は、そんな狭い心じゃないっての。
それに、お前が責められるんだったら、俺も受けるって言っただろ?」
 グリードさんは、本気の眼をしていた。と言うか、イチャついているようにしか
見えない。よくもまぁ、こんなに惚れた物だ。
「おいおい。勝手に決め付けんな。・・・全く気にしてない訳じゃねぇ。でも、グ
リードが見てるんだろ?なら、任せるさ。ま、グリードが不幸になったら、その時
は容赦しない。それだけの話だ。・・・良いな?センリン。」
 士さんは、気にしてない訳では無い。だが、引き摺らないと決めたのだ。だけど、
それは酷い目にあったセンリンさんの意見無しでは、決められないのだろう。
「エ?良いんじゃないかナ?余りにもお似合いで、見惚れてたヨ。まぁあの時は、
大変だったけど、今の姿を見てたら、反対なんてしないヨ!」
 センリンさんは、笑っていた。本当に祝福をしている顔だった。
「だそうだ。俺は、センリンがこう言うのなら、もう言わん。幸せになれよ。」
 士さんは、そう言うと、ゼリンさんの肩を叩いてやった。
「・・・俺も正直複雑だけどさ。グリードが、それもひっくるめて、引き受けるっ
て言ったんだろ?・・・なら、グリードを幸せにしてやってくれよ。」
 レイクさんは、グリードさんの事を信じているのだ。だからこそ、こう言う台詞
が出るのだろう。
「私も、忘れた訳じゃないけどね。アンタのその姿見たら、何も言えなくなっちゃ
ったわよ。私を騙した分まで、真摯にグリードと向き合うのよ?」
 ファリアさんは、本当は認めたくないのかも知れない。でも、過去に縛られるよ
り、未来を選んだのだ。それは、レイクさんと自分が味わった気持ちを知っている
から、言える台詞なのかも知れない。
「・・・グリード。・・・これを受け取れ。」
 ゼハーンさんは、『魂流』のルールを発動させる。何をする気だろう?
「ゼハーンさん・・・。」
 私は注意しようとしたが、ゼハーンさんは手で制する。手荒な真似をする気は無
いみたいだ。ならば良いのだが・・・。
「・・・え?これって・・・。」
 グリードさんは素直に手を出すと、何かが移動するのが見えた。
「私の『魂流』で、探し当てた我が養父リークと、我が妻のシーリスの形見だ。」
 良く見ると、ゼハーンさんは、グリードさんに小さな入れ物のような物を渡して
いた。グリードさんが中を見ると、土が入っていた。
「この土は、二人が眠る墓の下の土だ。これを、お前に預ける。」
 ゼハーンさんが、しっかり握らせる。
「おやっさん。こんな大事な物・・・。」
 グリードさんは、さすがにビックリしているようだ。
「ゼリンと前を向くのなら、必要な物だ。・・・頑張れよ。」
 ゼハーンさんは、そう言うと、暖かな目でグリードを見ていた。
「士・・・。レイク・・・。ファリアにゼハーン・・・。」
 ゼリンは、涙が止まらなかった。何て暖かな人達なのだろう。
「分かったよ。ほら。ゼリン、泣くなって。」
 グリードさんは、自分も泣きそうになるのを堪えながら、ゼリンの涙を拭ってい
た。本当にお似合いの二人だ。
「俺も、もう気にしちゃいないぜー。・・・けどな。一つだけ納得いかん!」
 エイディさんが、真面目な顔で出てきた。
「おい。グリード・・・。お前・・・。先を越してるんじゃねーっての!!」
 エイディさんは、そう言うと、グリードさんの頭を叩く。
「なーに言ってやがるんだ。お前に断る必要なんぞねーだろっての。」
 グリードさんは、勝者の余裕を見せ付けていた。
「うぐ!何だ。その余裕・・・。あーー。むかつくーー!」
 エイディさんは、本気で怒っている訳では無い。ただ単に先を越されて、悔しい
だけなのだろう。まぁエイディさんの場合、複雑ですからね。
「済まない・・・。私はグリードしか見えないが、エイディは、二人から好かれて
いるし、きっと大丈夫だよ!」
 ゼリンは、さりげなくフォローしたつもりだろうが、嫌味にしか聞こえない。多
分、本当に心配しているのだろう。それだけに、怒るに怒れないようだ。
 しかし、ゼリンとグリードさんね。確かにお似合いでしょうね。


 いや、それにしてもビックリしたわ。まさか、あのグリードとゼリンがねぇ。確
かにパートナーになった時に、色々意識していたみたいだし?ゼリンがグリードに
惚れるのも分からなくは無いけど・・・。
 ゼリンは、憎き敵だった。今でも騙された日々と、両親を殺された日の事は忘れ
られない。でも、分かっている。憎むべき敵はゼリンでは無いのだ。最初こそ演技
かも知れないと思ったが、彼女は本当に真面目な人だった。真面目だったからこそ、
前しか見えなくなる人なのだ。その想いが、人一倍強いんだろう。だから、実の兄
を好きになったりした。聞けば、毘沙丸さんは、優秀を絵に描いたような人で、幼
少の頃から、その片鱗が見え隠れしていたような神童だったと言う。
 そんな毘沙丸さんを見て育ったのだ。憧れるのも無理は無い。ただ、ゼリンが不
幸だったのは、憧れが恋愛だと勘違いした事だ。彼女は恋の仕方すら分からなかっ
たのだ。いや、本当に兄に恋をしていたのかも知れない。
 そんな恋が破れて、傷心だった時に、手を伸ばしたのがゼロマインドだった。ゼ
ロマインドは、『無』の力の塊だ。とても魅力的に見えたのだろう。彼女は、操ら
れたのだ。
 そんなゼリンに、私も操られるように恋をさせられたのだから、滑稽な事だ。し
かし彼女は、負の部分が全開に押し出された時でさえも真面目だった。だから、本
当に真面目な人なのだろうね。
 そんな彼女が、本当の恋をしていた。あんな初々しい表情を浮かべるゼリンを、
私は初めて見た。しかも着飾ったら、あんなに美人だ何て卑怯だ。私だって、自信
が無かった訳では無いが、あんなに可愛くて美人だなんて・・・。
 しかも、彼女については、最近分かった事がある。彼女は相当に『天然』だと言
う事だ。昔から非常識な発言をする事はあったが、本当に意識してないのに、変な
発言が多い。そこがまた可愛いのが、腹立つ所だ。
 そんな部分を知っちゃったらさ。もう敵としてなんか、見れる訳が無いっての。
もう勢いで赦しちゃったわ。でもま、グリードが操られたり、不幸になったりした
ら、その時は容赦無く、敵になってあげるけどね。
 しかし、それにも増して意外だったのがグリードの対応だ。レイクの事を、兄貴
兄貴なんて連呼するもんだから、女っ気なんて、微塵も感じなかったのに、いざ蓋
を開けてみれば、紳士な事が出来るじゃないのよ。意外だわ・・・。
 ああ見えて、面倒見が良いし、周りの空気を読むのが早いから、お似合いなんで
しょうね。祝福しといてあげるわ。
 それはそうと、さっきまでの騒ぎが収まって、天神家では、今度は来客の対応に
追われていた。来客と言っても、帰ってくる人達への対応がほとんどかしらね。
「招待に応じに参りました。これは、賑わっておるようですな。」
 毘沙丸さんが来ていた。正装の和服を着ている。
「豪勢ですな。・・・このようなパーティーに招かれるとは、光栄です。」
 横で、何だか吐きそうな表情をしているアインさんが居た。
(フッ。アインとは、また懐かしいですな。彼は、乗り物酔いが酷いので、車酔い
でもしたのではないでしょうか?良く馬車酔いしてましたよ。)
 ん?サイジン?そうなの?確かに文献でも、そんな事書いてあった気がするけど。
「おお。ゼリン。その様子だと、拙のアドバイスは効いたみたいだな!」
 毘沙丸さんが、ゼリンとの再会を喜んでいた。・・・アドバイス?
「はい!兄さんが、背中を押してくれたおかげで、グリードは受け入れてくれまし
た。・・・有難う御座います!」
 ゼリンは、頭を下げる。ああ。成程。ゼリンは告白する前に、毘沙丸さんにアド
バイスを聞きに行ったのね。
「アドバイスって・・・。いきなり好きな奴が居るのを聞いてくるアレがか?」
 グリードは呆れていた。ゼリンらしい天然さだ。
「・・・ゼリン・・・。お主、良く失敗しなかったな・・・。拙は、迷っているく
らいなら、告白しに行けと言っただけで御座る。」
 毘沙丸さんは、頭を抱えていた。あの妹じゃ苦労しそうね。
「兄さんから勇気を貰ったから、いけたんです。」
 ゼリンは、ニコニコ笑っていた。呆れられてる事に気付いて無さそうだ。
「ゼリン様も、想い人が出来ましたか。私も嬉しいです!」
 アインさんは、我が事のように喜んでいた。
(アインは、自分の事も考えれば良いのに・・・。)
 あら。文句がありそうね。話してみる?
(そうですね。久し振りで話もあります。お願い出来ますか?)
 勿論よ。一応断っておくわね。
「あのー。すいません。アインさん。」
 私は声を掛ける。結構緊張するなぁ。
「ええと・・・。レルファの子孫の・・・ファリア殿ですな。」
 アインさんが思い出すようにしていた。やはりご先祖に似てるのね。私。
「ええとですね。今、この剣の柄にサイジンが宿っているんですが、話がしたいっ
て言うんですよ。応じてもらえます?」
 私は、一応の為持ってきていた剣の柄を見せる。ドレスの後ろに隠して置いて良
かったわ。だけど、少しはしたないかな・・・。
「お?サイジンとは・・・。あのサイジンですか!?それは凄い!是非!」
 アインさんは声を弾ませていた。
(あんなに喜ぶとは・・・。何だか嬉しくなりますね。)
 はいはい。んじゃ。どうする?そのまま剣から出る?
(そうしましょう。その方が、貴女の負担も少ない筈です。)
 了解。んじゃ、行くわよ。
「はぁ・・・。『召喚』のルール!」
 私は『召喚』のルールを使って、剣の柄に意識を集中させる。さーて、出なさい
な。これまでの修行の成果を見せる意味でも丁度良いわ。安定して出してあげるわ
よ。魔力の桁も上がってるって事を、見せてやりましょ。
「むううう!さすがはファリアさんです。いやはや、私を顕現させるのに、労力を
使わなくなるとは・・・。最初とは大違いですね。」
 サイジンは、そう言うと、表に出て来た。大して疲れなくなってる。
「おお!これは凄い!サイジン!久し振りです!」
 アインさんは、本当に懐かしむ眼をしていた。
「アインも、乗り物酔いが酷い中、ご苦労様です。」
 サイジンは、皮肉を言う。こう言うやり取りは、知り合いしか出来ないな。
「気付いてましたか。全く目敏いですね。」
 アインさんは、否定しなかった。やっぱり車酔いするんだ。
「しかし、サイジン。君とファリアさんを見てると、生前を思い出すよ。」
 アインさんは、サイジンとレルファの事を言っているのだろう。
「止して下さいよ。ファリアさんは、レルファとは比べられません。いや、比べち
ゃいけないんです。・・・それに私は、ファリアさんの事は、孫を見るような気持
ちで見ていますからね。」
 ・・・孫ね。まぁ、近いかも知れないわね。実際子孫なんだし。
「それより、貴方の方こそ、良い人を見つけないでどうするんです?」
 サイジンは、アインさんに注意する事を忘れない。
「私は良いんだ。・・・毘沙丸様に仕える事が出来て、幸せだからね。」
 アインさんは、満足そうな顔をする。
「アイン・・・。お主、何を言っておるのだ。・・・良い機会だから言っておく。
お主のような者が、子孫を残さんでどうするのだ。」
 毘沙丸さんが注意していた。気持ちは分かる。
「兄さん・・・。兄さんも、もう私に遠慮しなくて良いんですよ?」
 ゼリンが、毘沙丸さんにも言う。そうか。毘沙丸さんも、結婚はしていたが、子
供を作っていない。それは、ゼリンが居るからだったのだろう。
「・・・気付かれていたか。・・・そうだな。お主が幸せになったのなら、それも
考えねばならぬで御座るな。」
 毘沙丸さんは、吹っ切れた顔をしていた。ゼリンの事が気になっていた毘沙丸さ
んだが、これからは、自分の為に生きる時間も出てくるだろう。
「ハッハッハ!私の心配する一言で、大事になってしまいましたな!」
 サイジンは馬鹿笑いをする。こう言う所は、文献と一緒じゃない方が良かった。
「ま、そろそろ私は戻る。久し振りに話が出来て、楽しかったですぞ。アイン。」
「私もだ。君が変わってないようで、安心したよ。」
 二人は、嘗ての友を懐かしんでいた。それは、伝記の頃に出来た絆であり、今も
尚、色褪せない絆だった。サイジンは、引っ込んでいった。
「ふう・・・。全く・・・。ご先祖も引っ掻き回すだけして帰って行くなんて、失
礼しちゃうわね。」
 私は、文句が口に出る。まぁおかげで色々吹っ切れた人も居た様だが。
「サイジンらしいです。貴女には感謝します。さすがレルファの子孫ですね。いや、
その言い方も失礼ですね。貴女は、稀代の魔法使いだ。」
 アインさんは、何だか持ち上げてくれる。
「止して下さいよ。まだ修行中ですから。」
 私は、修行で強くなったと思ったが、まだ極めたとは思っていない。
「おいおい・・・。あれで修行中らしいぞ・・・。」
 瞬君は呆れていた。まぁ瞬君からしてみたら、未知の世界よね。
 しばらくすると、誰かが来た。この魔力は、可愛い弟子達ね。
「うっわー。すげぇ料理がいっぱいだー!」
 ルード君の声がした。あれ?今日は首飾りをしてないわね。
「あら?ルード君、首飾りを外したのかしら?」
 恵さんが、ルード君に尋ねる。
「うん!莉奈姉ちゃんが、教えてくれたから、この星の言葉も覚えてきたんだ!」
 ルード君は、無邪気に話す。それにしても、莉奈が教えてたのか。
「ルード君、覚えが早いから、教えるって程でも無かったよー。」
 莉奈は、ルード君の頭を撫で回す。結構懐いていた。莉奈もそれなりのドレスを
着ていた。結構可愛いドレスを着るのね。黒の基調のドレスで、フリフリが付いて
いた。これが結構、莉奈に似合っていた。
「へっへー。その内、魁より覚えてやるんだからねー。」
 ルード君は、鼻を高くする仕草をする。可愛いなぁ。
「お前ねぇ・・・。俺っちを馬鹿にするなよ?こう見えても・・・。」
 魁君が後ろからやってくる。今日はスーツみたいね。
「はいはい。そう言う事は、もう少し成績が上がってから言いなさいねー。」
 葵が冷やかしていた。相変わらず仲が良い事だ。
「あ。エイディさん!・・・あれ?どうしたんです?」
 葵が、エイディの近くに寄る。エイディは、さっきのやり取りで、グリードに敗
北感を味合わされたので、拗ねていた。
「ああ。実はね?」
 私は、さっきのやり取りを説明する。すると、皆驚いていた。
「うわー!確かにゼリンさん綺麗だねー。あ。おめでとう御座います!」
 莉奈は、にこやかに挨拶をする。
「有難う。君達も、幸せそうで何よりだ。」
 ゼリンは、莉奈と握手をする。本当に嬉しそうだった。
「何だ何だ。グリードさんも、隅に置けないなぁ。」
 魁君は、グリードに近寄って冷やかす。
「うっせーな。俺だって、決める時は決めるんだよ。」
 グリードは、冷やかされながらも、顔が綻んでいた。あれは、相当に舞い上がっ
てるわね。稀に見る馬鹿っプルになりそうね。
「あー。もしかして、グリードさんに先を越されて、拗ねてるんですか?なら、私
に決めちゃえば良いんですって!」
 葵が、ここぞとばかりにアピールする。結構抜け目無いわよね。あの子。葵は、
名前と一緒で、青いドレスを着ていた。雰囲気はピッタリね。
 そうこうしている内に、誰かが来たようだ。
「おう!集まっておるのう!賑やかなのは良い事じゃ!」
 この声は巌慈だ。相変わらず豪快な声を発する。最近は、サウザンド伊能の名を
継いだとかで、更に自信を深めたようだ。スーツじゃきついのか、和装をしている。
「あ、集まってるね・・・。は、恥ずかしいよ・・・。」
 何だか、亜理栖さんが、もじもじしている。何故かコートを取ろうとしない。ド
レス姿に余りなった事が無いから、恥ずかしいのかも知れないわね。
「亜理栖。好い加減に覚悟を決めなさい。それに、その格好は榊流の正装なんだか
ら、恥ずかしがる理由など無いのだぞ?」
 総一郎さんは・・・ええと。物凄く奇抜な格好をしている。あれ、忍者装束じゃ
ないの?こう言う場で着てくる?普通・・・。
「その格好、懐かしいですわ。繊一郎さんを思い出しますわ。」
 恵さんは、朗らかに対応している。あれは楽しんでいるな。
「皆さん、良い笑顔ですね!料理も素晴らしい匂いがします。幸せですねぇ。」
 冬野さんも来ていた。冬野さんも総一郎さん程じゃないが、忍者に近い装束を身
に纏っている。まぁ榊流の正装なんでしょうけど。・・・って事は・・・。
「成程。亜理栖先輩が、恥ずかしがるわけね。」
 恵さんは、分かっているようだ。多分あのコートの中は、大分際どい格好をして
いる筈だ。忍者の装束と言っても、男と女では、格好が違う。全身を隠すようにす
る男の装束は、正に暗殺の為の物なのだが、女の装束は、確か身軽で面積も、相当
少なかったと記憶している。
「アネゴ。正式な装束なら、恥ずかしい事は無いのではないか?」
 あの口調だと、巌慈も中を見てないわね。見ていたら、あんな反応をする筈が無
い。亜理栖さんは、少し涙目になる。
「う、煩いよ。・・・うぅ。何でこんな事にぃ。」
 亜理栖さんは、口を曲げていた。
「亜理栖先輩。ドレスに自信が無いなら、着てこなきゃ良いのに。」
 葵が挑発していた。あの子も大胆ねぇ・・・。
「ち、違うよ!じ、自信が無い訳じゃないよ!」
 亜理栖さんは、簡単に挑発に乗る。分かり易い・・・。
「お、おい。葵、何煽ってるんだよ。」
 エイディが、止めに入ろうとする。逆効果なのに分かってないなぁ。
「あー!もう!分かったよ!見せれば良いんだろ!ええい!」
 亜理栖さんは、訳が分からなくなったのか、コートを脱ぎ捨てる。すると、本当
に忍者の装束を着ていた。忍者と言うより、くノ一の格好だ。
「お、お前、その格好・・・。」
 エイディは、さすがに面食らっていた。
「うわぁ・・・。亜理栖先輩、ずるーい・・・。」
 葵は、自分で煽っておいて、臍を曲げていた。
「わ、私、似合ってるかい?エイディ兄さん。」
 亜理栖さんは、恥ずかしそうにしながらも、ちゃんとエイディを見ていた。
「も、勿論似合ってるぜ。・・・ちょっと驚いたけどな。」
 エイディは、何とか気を落ち着ける。あれは、相当焦ってたわね。
「アネゴ・・・。俺は、惚れ直したぞ!アネゴ!!」
 巌慈が、涙を流していた。分かり易いわねー・・・。
「あー。ありがとさん。結構恥ずかしいんだよ。この格好・・・。」
 亜理栖さんは、顔を真っ赤にしていた。あれは、良いネタになるわね。
「そんなに変か?榊流の正装だと言うのに・・・。」
 総一郎さんは、首を捻っている。・・・この人、こう見えても天然なのかも。
「頭領・・・。そう言う問題じゃないですって。年頃の女の子の気持ちも、分かっ
てやってあげなさいよ。お嬢も、ああ見えて、そう言う年頃なんですって。」
 冬野さんがフォローしていた。良いコンビね。
「『ああ見えて』は余計だ馬鹿!一言多い!!」
 亜理栖さんは、照れ隠しか、冬野さんを殴りつけていた。可哀想に。
「亜理栖先輩って、プロポーション良いんだねぇ。羨ましいなぁ。」
 莉奈が、感想を漏らす。確かに、肉付きは悪くないわね。
「羨む必要無いって。・・・お前だって、魅力的だしな。」
 魁君が、ちゃんとフォローしていた。莉奈は、それを聞いて、魁君に抱きつく。
青春してるわねぇ。こっちも負けてられないかしらね。
 っと、誰か来たわね。これは、俊男君ね。
「あ。トシ兄!遅いよー。その格好してるからだよー。」
 莉奈が、文句を言う。と、成程。俊男君も、民族衣装を着てきたのね。あれは、
パーズ拳法に伝わる豪華絢爛な衣装だ。やるわねー。
「いやぁ、ごめんごめん。あ。今来たよ!恵さん!」
 俊男君は、真っ先に計算に挨拶をする。
「フフッ。中々楽しそうな衣装じゃない。今日は、楽しみましょう?」
 恵さんは、負けず劣らずの豪華なドレスを着ているから、中々お似合いだ。
「そうだね!って、皆、凄い気合入ってる!」
 俊男君は、見渡す。確かに恵さんからは、気楽で良いと言っていたのに、皆、気
合の入った衣装を着ていた。
「そう言えば、ジュダさんは、赤毘車さんと来るって言ってたぜ?昨日までは一緒
に修行してたんだけどさ。」
 魁君が、恵さんに教えてやる。良く考えたら、ジュダさんと修行してるのよね。
「魁も頑張ってるね。ジュダさんは、やっぱ厳しいのかい?」
 俊男君は、ジュダさんの修行に興味があるようだ。
「厳しい?・・・ハハッ。そうだな。厳しい・・・な・・・。」
 魁君は、顔が引き攣っていた。その表情だけで、どれだけ厳しいか分かる。
「朝から昼まで、基礎体力の訓練をミッチリやって、昼から夕方までは、ジュダさ
んと手加減無しの修行三昧だったよ・・・。」
 魁君は、冷や汗を掻きながら説明する。結構ミッチリやったみたいね。
 続いての訪問客は、異色だった。魔族と竜族の知り合いだった。
「おー。集まってるね。結構華やかじゃないか。」
 この声は、ジェシーさんだ。大会では、審判部長を務める事になっている。ワイ
ス遺跡にあるストリウス会場の審判を主に務める。ガリウロル会場の審判は、睦月
さんがやるみたいだが。
「皆さん、中々気合が入ってらっしゃる。私と当たった時にも、その調子で頼みま
すぞ。私も全力でお相手します。」
 この声は、シャドゥさんね。この気合の充実を見る感じ、調子は良さそうだ。
「あ。皆様、お招き戴いて有難う御座います!」
 ナイアが、幸せそうな顔をしながら入ってくる。良い事ね。
「うおー。漲る闘気の量がすげぇな!燃えるぜぇ!」
 何だか暑苦しそうな人が居た。確か竜族の王龍ドラム=ペンタだったかしら?噂
には聞いてたけど、豪快そうな人だ。
「ナイア!久し振り!」
 私は、ナイアと挨拶をする。
「ファリア様!お元気そうで何よりです!」
 ナイアは、私が惚れそうな程、素敵な笑みで返す。こう言う仕草が自然に出来る
辺り、凄い才能だ。
「久しいわね。妹との一騎打ち、見せてもらったわ。見事でした。」
 睦月さんが、ナイアと握手をする。
「貴女と葉月様は、私の励みにもなっています。こちらこそ、素晴らしい物を見せ
てもらいました。次は、貴女と一緒に頑張りたいです。」
 ナイアは、決して自分を卑下せず、相手を思いやった台詞で返した。
「言葉の選び方が慎重ですね。フフッ。でも、貴女がいるおかげで、私は今のスキ
ルを身に付けられました。感謝しています。」
 睦月さんは、もう食って掛かったりしない。余裕を感じられる。それも恋人が出
来た影響かも知れない。それに恵さんの父親の厳導への気持ちが、吹っ切れたおか
げかもね。前の睦月さんは、必死で、余裕が無かった様に見えた。
「私も貴女達が居なければ、大会を楽しめなかったと思います。感謝しています。」
 ナイアは、本当にそう思っているのだろう。実際に、圧倒的な差で勝っている訳
ではなく、いつも僅差だったし、この前なんかは、葉月さんと引き分けたのだ。
「いやぁ、テレビでしか見てない連中が揃ってると、嬉しいなぁ。」
 ドラムさんが、物珍しそうに見渡していた。そう言うドラムさんだって、私はテ
レビの特集でしか見た事が無い。
「おおお!アンタ、サウザンド伊能ジュニア!いや、今はサウザンド伊能さんじゃ
ないか!本物だぁ!・・・さ、サインもらえないですか!?」
 ドラムさんは、巌慈を見て、はしゃいでいる。物凄い喜びようね。
「ハッハッハ!アンタ、試合見てくれたんか?有難いのう。お安い御用じゃ!」
 さすがに巌慈も、プロだけあって、それなりの対応をする。
「へー。巌慈って、やっぱ有名なんだね。」
 もうくノ一の格好に慣れてきたのか、亜理栖さんが、意外そうな顔で見ていた。
自分のパートナーでしょうに・・・。
「ドラムは、最近プロレス番組が好きみたいでしてな。」
 シャドゥさんが呆れていた。余りにミーハーだったので、引いているんだろう。
「良いじゃないか!・・・だって最近、内の息子やワイス様まで、テレビに嵌って
いるらしいよ?どっちもスポーツ番組が好きらしいから、アンタ、あの二人にも、
サインねだられるかもよ?」
 ジェシーさんが意外な事実を教えてくれる。魔族もテレビ見るのね・・・。
「何だか意外だなぁ。もしかして、深夜アニメなんかも見てるのかな?」
 魁君は、指に手を当てる。って事は、魁君は見てるのね。
「あー。魁君が言ってた『宇宙英雄列伝』だっけ?あれ、面白いよねー。」
 莉奈も見ているみたいね。意外だわ。私は教育番組の、魔力講座ばかり見てたか
らなぁ。私が協力してるから、ちゃんと放映してるかのチェックは欠かさない。
「皆見てるのね。サキョウアニメーションへの出資は、間違いじゃなかったみたい
ね。最初から最後まで、キチンと作ると言うから、信じてみましたの。」
 恵さんは、さすがだ。『宇宙英雄列伝』を作っているサキョウアニメーションに、
出資していたらしい。スポンサー様は、さすがねー。
「ガリウロルアニメは、一つの文化ですよ!」
 冬野さんが、力説する。この人も見てたんだ・・・。
「私には分からんが、人気はあるみたいだな。うちの教え子でも、そのアニメの話
題が多くてな。私も単語ばかり覚えてしまったよ。」
 総一郎さんは、指に手を当てる。この人は苦手そうよね。
 そうこうしている内に、誰かが来たようだ。
「むはははは!教え子のパーティーに出席するのは、嬉しい物じゃな!」
 この声は、内の校長の一条 大二郎さんだ。
「あー。もうこんなに集まってるの?凄いわねー。あ。瞬君久し振り!」
 横に居たのは、江里香さんだった。・・・うわ。凄い。江里香さんたら、普段の
佇まいですら、隙が無くなっている。
「江里香先輩!お久し振りです!・・・ってまた華やかですねー。」
 瞬君は、江里香さんの格好を褒める。これまた豪華だった。和服の振袖の姿だっ
た。これは、着付けに時間が掛かってそうだ。
「お爺様が、これにしなさいって煩いんだもん。時間掛かっちゃったわ。」
 江里香さんは、口を尖らせる。確かに豪華だが、時間掛かるわよね。
「ガリウロルの正装と言えば、振袖じゃろう?手間を惜しんじゃいかん。」
 校長先生は、頑として譲らない。さすがね。
「す、凄く似合ってます!」
 瞬君は、満面の笑みで答える。すると、江里香さんは恥ずかしそうにする。
「そ、そう?なら良かったかな!・・・あ。そうそう。内の師匠は欠席ですって。
パーティーでは、精神統一出来ないってさ。」
 江里香さんは、睦月さんに教えてやる。
「了解です。安心しました。これで、我慢せずに済みそうです。」
 睦月さんは容赦が無かった。本当に仲が悪いわね。
「それにしても江里香先輩、その格好なのに隙が無いなんて、本当に腕を上げまし
たね。どんな特訓したんですか?」
 瞬君は、江里香さんの佇まいだけで腕が上がったかどうか見切る。その眼力だっ
て凄いと思うけどね。瞬君も、ゼーダさんと一緒になっただけあって、実力は恐ろ
しく上がっているのだ。
「精神鍛錬がほとんどだったわよ。技の練習もしたけどね。・・・そう言う瞬君や
トシ君も、どうしちゃったの?基礎能力が、凄い事になっちゃってるじゃない。」
 江里香さんは、少し見るだけで見切る。一瞬で見抜く辺り、実力が上がっている
証拠だ。これは凄い強敵になりそうね。
「僕は、ケイオスに勝たなきゃならないからね。恵さんと共に、倒して見せるよ。」
 俊男君は、少しも迷いは無かった。この自信の有り様は、昔の俊男君には無かっ
た物だ。『聖魔』になった俊男君だからこそ、言える台詞だ。
「俺も、ゼーダと共に『闘式』を闘い抜くって決めたからな。そう簡単には、負け
られないな。力の限りを尽くすつもりだよ。」
 瞬君は、ゼーダさんの想いと共に語る。
「了解よ。私も貴方の役に立つ為に、強くなったんだから、楽しみにしてよね。」
 江里香さんは、修行の成果を存分に見せるつもりだ。
「良い気合だね。私の息子は強いけど、頑張りな!」
 ジェシーさんが、俊男君に発破を掛ける。
「僕は、負ける訳にはいかないけど、ケイオスには感謝しているんです。」
 俊男君は、意外な事を言う。
「確かに僕は、消えそうになるような目にあいました。・・・でも、あのまま『闘
式』に出ていたら、そこそこ良い所まで進むくらいで、終わっていたと思うんです。
でもケイオスは、僕に強くなる理由をくれた・・・。」
 確かに俊男君は、あの出来事があってから、劇的に強くなった。
「多分わざとだよ。恵を気に入ったのは本当だと思うけどね。挑発しに行ったのは、
アンタの限界を引き出すためだろうさ。・・・やり方が荒っぽいのは、感心しない
けどね・・・。そこは謝るよ。」
 ジェシーさんは、ケイオスの非礼を詫びる。でも、それはジェシーさんが謝る事
じゃないと思う。まぁ気にしたい気持ちは分かるけどね。
「良いんですよ。負けられないって気持ちと、強くなった事を示す為にも、ケイオ
スの所まで勝ち上がって、全力で向かうつもりです。」
 俊男君は、ケイオスに色々な感情を抱いているが、全力で闘う事で、全てに応え
るつもりだった。それが、ケイオスが望んだ事でもあった。
「分かったよ。不器用な子だけど、宜しく頼んだよ。」
 ジェシーさんは、ケイオスの事を俊男君に頼む。強い者との闘いを望むケイオス
にとって、今の俊男君は絶好の相手の筈だ。
 しばらくすると、また訪問客があった。
「オー!これは、凄いな!豪華なパーティーだよ。シュラ!」
 この声は、デルルツィアン柔術のレオナルド=ヒートさんだ。
「俺達も強くなったと思ったけどな。此処から感じる闘気は、並じゃあ無い。恐ろ
しい事だな。これだから、此処に足を運ぶのは、止められん。」
 隣に修羅が居た。ヒートさんとの山篭りから返って来たらしい。どちらも、
今日はパーティーなので、スーツを用意してきていたようだ。
「来おったな!修羅!お前も、闘気が充実しとるじゃないか。」
 巌慈は、修羅を見て、実力が上がった事を悟る。
「そう言うお前こそ、凄いじゃないか。・・・見たぞ?親父さんを超える所をな。」
 修羅は、巌慈のこの前の試合を見ていたみたいだ。
「親父は、ただ負けたんじゃない。俺にサウザンドの名を残したんじゃ。その名に
懸けても、無様な闘いは見せられんわ。」
 巌慈は、サウザンド伊能の名を継いだ男として、注目されている。
「ガンジ!ワタシもデルルツィアン柔術の名を継いでいる!仲間だな!」
 ヒートさんは、陽気に話し掛けていた。明るい人なのね。
「おお!アンタ等、柔道の紅 修羅に、デルルツィアン柔術のレオナルド=ヒート
じゃんか!アンタ等の決勝戦は、中々熱かったよな!」
 ドラムさんが、気さくに声を掛けて来る。どうやら、スポーツ大会は、かなりチ
ェックしているようだ。
「あの決勝戦を見たのか?ええとアンタは、竜族の人だったか?」
 修羅は、テレビの特集の記憶を頼りに、ドラムさんを思い出す。
「あの決勝は、ワタシの誇りだ。今度は、シュラと共に勝ち残るつもりさ!」
 ヒートさんも、特に嫌がる事無く、ドラムさんと話していた。
 それにしても、賑わって来たわね。これでまだ全員じゃないんだから凄いわ。
 またしても訪問客が増えたようだ。
「うわ!こ、こんな来てたのか?・・・す、凄いな。」
 この声は勇樹だ。亜理栖さんと同じでコートで中を隠している。
「おいおい。此処さぁ、集まり過ぎだろ。すっげーな。」
 隣にミカルドさんが居た。今日はちゃんとスーツで決めている。
「私は、来ても良かったのかしら?」
 その隣に見た事が無い人が居た。凄く綺麗な人だけど?
「勇樹さん、この御方はどなたかしら?」
 恵さんが、早速対応していた。落ち着いてるわね。
「ああ。俺が説明するわ。俺の妻のリーアだ。聞いた事あるだろ?」
 ミカルドさんが、簡単に説明する。ああ。伝記に書いてあったわね。
「今、ご紹介に預かった妖精王のリーアと申します。ミカルドが『闘式』に参加す
ると聞いて、パーティーに足を運びました。非礼はお詫びします。」
 リーアさんは、上品に挨拶する。さすが妖精王としての気品がある。
「これは、ご丁寧に。私は今回のパーティーの主催をした天神家当主の天神 恵と
申します。貴女ならば、当方は歓迎致しますわ。どうぞ楽しんでらして下さい。」
 恵さんは、当主として完璧な対応をする。さすがよねー。
「はー・・・。何か俺、すっごい場違いな感じが・・・。」
 勇樹は、ボーっとしていた。
「何を言ってるんだ。今のお前なら、場違いなんかじゃ無いだろ?コート脱いどけ
って。折角着てきたんだろ?」
 ミカルドさんは、そう言うと、ボーっとしている勇樹のコートを手早く脱がす。
「・・・え?・・・えええ!」
 勇樹は、突然脱がされて、ビックリしていた。すると、かなり大胆なリトルブラ
ックドレスを着ていた。それに少し装飾品を付けて、可愛く着飾っていた。
「あーら。勇樹さん、良いじゃないですか。」
 恵さんは、からかう様でも無く、本当に似合ってると思って、感想を言う。
「そ、そうか?・・・これはさ・・・。親父がお袋が生きてた時に送った物だって
言うからさ。お、親父が着てけって・・・。」
 勇樹は、もじもじしている。可愛いわねぇ。思わず撫でたくなっちゃう。
「おー。いつもとは、また違う表情だな。」
 ジャンさんが、勇樹の肩を叩いていた。すると、横に無言のアスカさんが居た。
「あ、姐さん、これは、社交辞令だって・・・って、あれ?」
 ジャンさんが言い訳をしていたが、アスカさんには届いていない。
「勇樹、可愛いよ。今度、ウチの髪飾り貸すよ!」
 アスカさんは、可愛い人形を見つけたような表情になっていた。
「あ、有難う御座います。でも、俺に似合います?」
 勇樹は、俯いている。何を言っているんだろう。
「自信を持って良いと思うけど?貴女、此処のメンバーの中でも目を引いている方
よ?そんな言葉出されちゃうと、こっちの立場が無いわ。」
 私は、ハッキリ言ってやった。勇樹は可愛いし、自信持って良いと思う。
「そ、そうですか?どうもです。・・・慣れませんけどね。」
 勇樹は、謙遜するのは止めたが、本当に慣れて無いみたいね。
「うわー。この胸ピン、可愛い!私の服にも似合いそうだね。」
 莉奈が、勇樹の胸ピンを褒める。確かに良いアクセントになってるわね。
「これは、親父がプロポーズした時に、お袋に送った物らしいんだ。」
 勇樹は、嬉しそうに話していた。表情が柔らかくなったわねぇ。
 そして、ついに最後の訪問客が来た。ま、本命よね。
「おお。今日はさすがに多いな!しかも懐かしい顔まで居るじゃねぇか。」
 ジュダさんだ。ここまで多く集まるのも、中々無い事だしね。ちゃんとスーツに
身を包んでいた。結構珍しい姿だ。
「これも絆の力だ。私は、この場に居る事を誇りに思うぞ。」
 赤毘車さんも、今日は楽しむ気でいっぱいだった。いつもの武士姿の和装では無
く、燃えるような色の振袖を着ていた。
「素晴らしい絆を感じます。1000年前を思い出しますね。」
 ネイガさんは、1000年前の伝記時代を思い出していた。ネイガさんのスーツ姿は、
結構似合っていた。元が真面目な人だと、似合うのかもね。
「今日はいっぱい居ますー。あ。姉さん、ただいま!瞬さんも、お元気でした?」
 葉月さんも元気いっぱいに挨拶をする。瞬君にアピールしているわね。葉月さん
は、戻ったら手伝う気だったので、メイド姿だった。葉月さんは、この姿が一番似
合うわね。何と言うか、安心出来る姿だ。
「今日は、見事な客人がいっぱいですな。戻りましたぞ。睦月。」
 ショアンさんは、睦月さんに自然に挨拶を交わす。長年寄り添った夫婦みたいな
雰囲気だった。自然だなぁ。
「葉月さん、お久し振り!どうでした?修行は。」
 瞬君は、まず修行の事を聞く。相変わらずね。
「厳しかったですー。でも、色々見えてきた物もありますよ。『闘式』で当たった
ら、お見せしますよ!」
 葉月さんは、言動が違っていた。前と比べると、自信に満ちていた。
「藤堂の女らしくなりましたね。私も見せてもらいますよ。」
 睦月さんは、葉月さんにエールを送る。
「はい!で、何処から手伝いましょう?」
 葉月さんは、元気に挨拶した後、手伝いの方に回る。忙しい人だ。
「良い修行したみたいだなショアン。お前から感じる雰囲気が、以前とは違うぜ。」
 士さんは、ショアンさんの胸板をつつく。そこには、親しみが込められていた。
「出るからには、優勝したいですからな。ネイガ殿との修行の成果を、お見せしま
すよ。楽しみにして下され。」
 ショアンさんも、結構自信を持っていた。かなり鍛えたみたいね。
「それにしても・・・兄上が給仕をしているとは・・・。」
 ショアンさんは、話は聞いていたみたいだが、実際目にして驚いている。
「無職のままでは、格好も付きませんからね。」
 ジェイルさんは、軽く受け流す。慣れた物だ。
「ティーエさんも、私達の仲間入りですね。宜しく頼みますー。」
 葉月さんは、歓迎していた。
「こちらこそ、宜しくお願いします。葉月先輩。」
 ティーエは、葉月さんの事を先輩と呼ぶ。
「あ、あはは。それ慣れないです・・・。先輩は勘弁して下さいー。」
 葉月さんは、やんわりだがお断りしていた。
「分かりました。葉月さん。」
 ティーエは、自然に直す。最初から、さん付けで呼ぶ気だった癖に意地が悪い。
「あれ?お前、ゼリンか?今日は、随分着飾ってるな!」
 ジュダさんは、ゼリンを見付けて、声を掛ける。
「ゼリン。似合っているぞ。・・・む?もしや・・・。」
 赤毘車さんは、ゼリンとグリードを見て、何かを悟る。
「あ。ジュダさん、赤毘車さん、それにネイガさん!・・・ええと、俺とゼリンは、
付き合う事になりました!これから、末永い付き合いを宜しくお願いします!」
 グリードは緊張していたが、ちゃんと言えていた。実の両親であるジュダさんと
赤毘車さん、そして義理の父親であるネイガさんに、挨拶をしたのだ。
「・・・おお。ゼリン、お前は、ついに・・・!」
 ネイガさんは、本当に嬉しそうにゼリンを見る。
「・・・そうか・・・。ゼリンを・・・。貰ってくれるか・・・。」
 ジュダさんは、声が震えていた。どうやら、感涙しているみたいだ。
「ゼリン、幸せか?・・・グリードは、大事にしてくれそうか?」
 赤毘車さんは、何だかんだで気になるらしく、心配そうに声を掛ける。
「グリードは、私の笑顔が好きだと言ってくれました。私は、グリードと付き合え
て、幸せです。・・・もう後悔致しません。」
 ゼリンは、淀み無く答える。そこから溢れる笑顔は、幸せいっぱいだった。
「フッ。馬鹿だな。これから更に幸せにならなくてどうする。絶対になるんだぞ?」
 赤毘車さんは、そう言うと、可愛い娘の頭を撫でてやる。
「グリード、お前、ゼリンを幸せにしないと、承知しねーからな!頼んだぜ!」
 ジュダさんは、グリードの肩を叩いてやる。
「はい!俺は、ゼリンを絶対に・・・絶対に笑顔で満たしてみせます!」
 グリードったら、決めるわねぇ。格好付けるじゃないのよ。
「私からも頼む。ゼリンの幸せは、君に掛かっている。頼むぞ。」
 ネイガさんも、感涙しているみたいだ。
「分かりました。やりますよ!俺!」
 グリードは、そう言うと、ゼリンを自分に向かせて、目を合わせる。
 あちゃー・・・。これは本物の馬鹿っプルになりそうだわ・・・。
「グリード!お前、決めたな!マジで応援してるから、頑張れよな!」
 レイクは、一緒になって喜ぶ。全く御人好しね。
「て言うか、幸せにならなかったら許さないから、覚悟しなさいよ。」
 私は、私らしい言葉で発破を掛ける。素直じゃないな。私も。
(良いんじゃないですか?皆分かっていますよ。)
 そうね。私らしく祝福してやらなきゃね。
「めでたいわね。じゃ、締まった所で、私から一言、皆様にお伝えしますわ。」
 恵さんが、周りを見渡すと、一際通る声を出して、注目させる。
「恵様。どうぞ。」
 睦月さんは、すかさず恵さんにマイクを渡す。さすが手馴れている。
「ん。・・・今日は、皆様に集まって戴いて、光栄の至りですわ。」
 恵さんは、皆を見渡す。皆は、それぞれが楽しみながら、恵さんを見る。
「『闘式』の準備も無事に終わって、明日から、開催出来ます。これも、参加者で
ある、皆様のおかげだと思っています。」
 そうだ。これだけの参加者が、皆、思い思いに修行をして、無事に開催出来る。
これは、とても幸せな事なのだろう。
「今回の大会は、腕比べと称していますが、私は、これまでの絆を、思う存分に発
揮出来る大会になると、信じております。」
 恵さんは、絆を大事にしたいのだろう。
「強敵も居ます。困難にぶつかる事もあると思います。・・・でも私は、此処に居
るメンバーなら、優勝に導けると思います。・・・絶対に勝つわよ!」
『おう!!』
 恵さんは、自分にも言い聞かせるように言う。そして、最後の言葉に力強さを感
じた。その想いは、皆が思っていた事だからだ。だから、最後の掛け声は、皆が揃
って声を出した。その一体感は、決して伝記時代に負ける物では無い。いや、それ
以上だと確信している。
 こうして、楽しい前夜祭は始まったのであった。



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