NOVEL Darkness 6-7(Second)

ソクトア黒の章6巻の7(後半)


 ワイス遺跡は、すっかり修復が進んで、元の気品ある姿を取り戻していた。これ
も魔族達が、ワイス達の為に『闘式』に間に合うように尽力した結果だ。
 その記念式典を『闘式』前夜にする事になった。魔族達は、自分達の作った成果
を確かめ合う為に、記念式典を大いに楽しんでいた。自分の修繕した所や、ワイス
が気に入っていた所を話し合ったりしていた。
 ワイスは大いに満足していた。やはり改築と言うのは気分が良い。新たな気持ち
にもさせてくれる。特に、次の日から『闘式』が開催されるとあれば、気分が一新
されると言う意味でも良い。
 その式典に、ケイオスとエイハを招待する。
 ケイオスもエイハも、体調を万全にして、『闘式』への準備はバッチリだったの
で、式典に参加する事にした。無論、健蔵やハイネス、メイジェスも居た。
「皆の者!大いに賑わっておるか?」
 ワイスが、全員集まったのを見て、皆に声を掛ける。すると、ワイスの声に応え
る様に魔族達は雄叫びを上げる。
「うむ。皆のやる気は、このワイスに伝わったぞ!」
 ワイスは、場を盛り上げる。意外とイベント好きなのかも知れない。
「今日の為に、尽力した皆の努力、このワイスは忘れぬぞ!この勢いを『闘式』に
も持っていく故、期待しておくと良いぞ!」
 ワイスは、此処に居る魔族達の為に、全力で闘う事を誓う。
 次に健蔵が前に出る。『闘式』出場者は、一言ずつ言う流れになっている。
「皆の尽力は、俺も見ていた。ワイス様の為、この城の修繕を行った者に、敬意を
表する!これからも、この城の為、力を貸してくれ。」
 健蔵は、無難な事を言う。すると、横でメイジェスが肘でつつく。
「・・・ああ。分かった分かった・・・。えー・・・。お前達に発表がある。」
 健蔵は、メイジェスから頼まれていた事を発表するつもりでいた。
「お前達の周知の通り、俺とメイは付き合っている。・・・それでだ。この場を借
りて、俺とメイが婚約した事を、報告する!」
 健蔵は、半魔族なので顔を真っ赤にしながら言う。人間の血の方が強く出ている
ようだ。横でメイジェスが真っ青になっている。こちらも頭に血が上っているよう
だ。魔族の血は青いからだ。
 すると、周りから、物凄い歓声が聞こえた。ほとんどが、祝福する声だった。そ
の声を聞いて、健蔵は恥ずかしがりながらも幸せを噛み締めていた。
「今、ご紹介に預かったメイジェスだよー。皆、祝福してくれてありがとねー!私、
健さんと婚約したけど、皆の事も大好きだよー!」
 メイジェスは、皆に手を振る。すると、惜しまれながらも祝福する声が、あちこ
ちから聞こえる。かなり人気があったようだ。ちなみに、メイジェスは、健蔵の事
を、略して『健さん』と呼んでいる。
「・・・オホン。・・・クソ。言い難いな・・・。」
 ハイネスが前に出て来る。この雰囲気の中なので、とても言い難そうにする。
「・・・まずはメイ。婚約おめでとう。相手が健蔵さんなら、私も安心だ。最初こ
そ、いけ好かないと思っていたが、健蔵さんは誠実な魔族だ。」
 ハイネスは、祝辞を述べる形になる。ハイネスが言ったとおり、最初こそ健蔵と
ハイネスは、いがみ合っていたが、最近はとても仲が良い。恐らく、テレビを通し
て共通の趣味を見出してからだろう。
「妹を、幸せにしてやって下さい。・・・と、まぁ祝辞を述べた所で、次は私の事
だ。・・・私は、この『闘式』で、自分の力を最大限に発揮するつもりで居る。」
 ハイネスは、拳を握る。自分の決意を表すかのようだった。
「この場に居る皆は、知らない者も多いだろうが、魔界では、父ケイオスは絶大な
支持を受けている。それは、強いからだ。そして肉体だけで無く、その信念の強さ
から来る物だ。私の憧れであり、私の目指すべき目標であった。」
 ハイネスは、まずはケイオスの説明をする。この場に居る者は、ソクトアに残り、
ワイス復活の報を受けて、集まった者がほとんどだ。そのケイオスの偉大さを、ハ
イネスは語る。しかし魔族達は、ケイオスが普通の魔族でなく、『覇道』を提唱し、
グロバスの後継者足らんと、その理想に近付いている事を知っている。
「父より与えられた命題をこなし、父の期待に応えるのが、私の魔族としての全て
だと思っていた。・・・だが!」
 ハイネスは、口調を変える。ここまでなら、今までのハイネスだった。
「私は、何をしたいのか!ワイス様と修練をして、だんだん分かってきたのだ!私
は、父を超えたい!そして、その機会を与えられている!ならば、私の全てを出し
尽くして、父にぶつかるのが、魔族として正しい事だ!」
 ハイネスは宣言した。父に従うだけの息子では無く、父を超えようとする息子に
なると。それが、ハイネスの望みであり、ケイオスの望みでもあった。
「私は、この『闘式』で父を超える事を誓う!この挑戦、受けてもらえますな!?」
 ハイネスは、ケイオスに挑戦を言い渡す。すると、周りがざわついてきた。
 それに伴って、ケイオスが前に出る。
「ただの祝辞を述べに来ただけなのだがな。ハイネス。お前の熱い想いを聞いて、
何も応えぬ余では無い・・・。存分に掛かってくるが良い!」
 ケイオスは、ハイネスの挑戦を堂々と受ける。
「ただし余と会う前に、負けてしまっては元も子も無いぞ?・・・それは勿論分か
っておろうな?・・・それを乗り越えて、余の前に立った時、余は全力を持って相
手をしよう!このケイオスを超える事の難しさを、体に刻み込んでやろう!」
 ケイオスは、ハイネスの挑戦を聞いて、断るなど出来はしない。こうやって挑戦
してくる事こそ、ケイオスの望みであった。そしてこの出来の良い息子は、その望
みを叶えてくれると言う。
(出来すぎた息子よな。負けるつもりは無いがな。)
 ケイオスは、息子の挑戦を由とした。しかし、それを打ち砕くのも自分だと思っ
ている。簡単には越えさせないつもりだ。
「ホッホッホ。良く言うたぞ。ハイネス。此方の息子ならば、その誇りを貫いて見
せるが良いぞ。期待しておるぞ!」
 エイハも満足だった。ケイオスの望みにハイネスが応え、ハイネスの望みに夫が
全力を持って応える。こんな美しいやり取りを、母として味わえるのは格別だった。
「じゃが、御方様にも勿論じゃが、この母にも成長を見せてくれるのであろうな?」
 エイハは、ケイオスだけ挑戦されている、この状況を由としなかった。
「当然です。私の望みは、母をも超える事です。」
 ハイネスは、言い切る。眼中に無い訳では無い。このエイハも、ケイオスのパー
トナーとして、相応しい実力を持っているのだ。
「フッ。なれば、ハイネスとタッグを組むこの我に、御主等の力を見せよ。」
 ワイスは、すかさず口を挟む。ハイネスのやる気は買うが、実際にこのタッグで
脅威なのは、ワイスだ。伝記時代よりも気合が充実している。
「ワイス様。恐れながらこの俺も、ワイス様に全力をぶつける所存で御座います。」
 健蔵も、負けじとワイスに挑戦を申し込む。
「望む所よ。我とて闘いとなれば、手加減せんぞ。」
 ワイスは、健蔵の挑戦を当たり前のように受ける。それが元で今回のタッグとな
ったのだし、当然だった。
「私も兄上に挑戦するのだー。父上と挑戦する前に、私の挑戦を受けてね。」
 メイジェスも割り込んでくる。
「父をも超えようとする私を見て、敢えて挑むとは、さすがはメイだな。勿論受け
て立つぞ。だが私は負けぬ。私は父と母に勝たなくてはならぬのだからな!」
 ハイネスは、気合十分で返す。このやり取りを見て、魔族達は、主達の勝敗を予
想したりする。この辺が、昔の魔族と違う所であり、魔界に居る魔族達とは違う所
であった。昔ならば、此処まで自由な雰囲気は無い。しかし此処に居る魔族は、し
きたりや掟と無縁の魔族が多い。変な階級意識が存在しない。
 勿論、主達の事は尊敬している。だが、それに留まらずに自由に生きる事を忘れ
ない。この雰囲気を見て、ケイオスなどは満足していた。
(誰もが変な意識をせず、挑戦し、高みを目指す。これこそ余が理想では無いか。
ワイスと手を取り合って、正解だったかも知れぬな。)
 ケイオスの理想が形になっていた。これだからソクトアは、面白い。
「皆の気合を確かめた所で、堅苦しい挨拶は終わりだ!楽しめ皆の者!」
 ワイスの声と共に、賛同の声が木霊する。良い雰囲気であった。
 しばらくしてケイオスがワイスの近くに来る。
「ワイスよ。余は感謝する。息子の心まで鍛えてくれた事にな。」
 ケイオスは、ハイネスが常に自分の後をくっついていくだけなのが、気になって
いたのだ。それは、簡単な道ではあるが、ケイオスの望む所では無かった。
「何を言うか。我は切っ掛けを与えたに過ぎぬ。お主が望む闘いは、これから始ま
るのだ。感謝している暇など無いぞ?」
 ワイスは嬉しい返し方をしてくれる。何と言う度量の広い魔族か。ケイオスも、
スケールの大きい魔族だと言われたが、ワイスとて負けてはいない。
「さすがよな。余の理想を正しく理解する貴公こそ、盟友と呼ぶに相応しい。」
 ケイオスは、盟友と言った。グロバスの事は尊敬しているが、ワイスの事は、グ
ロバスよりも近しいので、盟友だと思っている。
「お主の様な男に盟友と呼ばれるのは、光栄な事だ。聞けば、お主は、スポーツを
推奨しているようだな。魔族の間でも流行らせようとしているようだが?」
 ワイスは、スポーツの事を話題に出す。噂では、ケイオスもスポーツ番組を良く
鑑賞していると聞いていたからだ。
「ワイスよ。それは正しくない。スポーツとは、互いに高みを目指す所に意味があ
るのだ。魔族の力で捻じ伏せて、良い物が見られるとは思えぬ。人間と同じリーグ
に入るのでは意味が無いと思った故、魔族だけのリーグを作る案を考えている。」
 ケイオスは、スポーツの素晴らしい所を余す所なく見ているようだ。正しい理解
をして、魔族に浸透させようとしている。
「成程。それは面白い案だ。だが互いに交わる事が無いのでは、進化に乏しいと我
は考える。・・・そうだ。最初は交流として、人間のリーグの一番と、魔族のリー
グの一番を競わせるのはどうか?互いに一番同士なら、それなりの闘いが出来ると
我は思う。そこで差が付くようなら、人間達も強化に力を入れよう?」
 ワイスは、ここぞとばかりに案を出す。結構乗り気だ。
「確かに盛り上がるな。余も見てみたいぞ。」
 ケイオスは、納得していた。かなり意気投合しているみたいだ。
「やれやれ。御方様の悪い病気が出たようじゃな。」
 エイハは、最近のケイオスが、スポーツ番組の話になると長い事を知っていた。
「父上、凄い嵌ってるんですねー。確かにお父様も嵌ってらしたけど。」
 メイジェスがエイハの話に合わせる。ワイスもやたらと見ているのを、メイジェ
スは近くで見ていたからだ。
「まぁ趣味を持つのは、悪い事では無いですじゃ。此方もスポーツを見るのは好き
じゃからのう。サッカーなる競技と『医療現場』は外せぬな。」
 エイハは、サッカーを良く見ていた。ボールを操る見事さは、見ていて驚嘆に値
すると、何度も呟いていた。そして、ドラマでは『医療現場』を欠かさず見ている。
「母上も見てたのー?あのドラマ良いですよねー!この前の刑事が病院を捜査する
シーンとか、見ていてドキドキしちゃったよー。」
 メイジェスは、早速話題に乗ってくる。
「あのシーンかえ?病院側の工作が、明るみに出ると見せかけて、見つからないと
言う展開は、本当にありそうで良かったのじゃ。あれは考えておるな。」
 エイハも良く見ている。細かいシーンのチェックなどもしている辺り、嵌ってい
るのだろう。メイジェスも同じくらい見ているみたいだ。
「ワイス様達と言い、メイ達と言い、テレビにはお世話になっているようだな。」
 健蔵は、会話を聞いて、楽しそうにしていた。
「私達も、他者の事は言えないでしょう?ガリウロルのアニメーションのレベルの
高さに、魅せられている訳ですから。」
 ハイネスは、いつも健蔵とこの話をしている。そのおかげで、今はすっかり仲が
良い。健蔵も、この話題で盛り上がれるとは思わなかったので、ハイネスとの話は、
密かに楽しみにしているのだ。
「最近では『ガニメーション』と略すようだ。分かる気がするな。他の国のアニメ
は、ガリウロルのと比べたら、天と地だからな。」
 健蔵は、ガリウロルのレベルの高さを味わっている。ソクトアの中で、一番自由
だと言われているガリウロルだからこその発想が、随時に感じるのだ。
「この前など、新規のアニメで伝記を取り扱ったそうです。」
 ハイネスは、新アニメの話題を出す。
「ああ。伝記を完全アニメ化!とか打ち出していたな。何でも、ワイス様やジュダ
達を参考にして作るらしいぞ。製作は『サキョアニ』だ。」
 健蔵は、勿論知っていた。自分達をアニメ化してくれるとなれば、喜んで協力す
るような男だ。密かに喜んでいた。ちなみに『サキョアニ』とは、サキョウアニメ
ーションの略で『宇宙英雄列伝』で売れたのを切っ掛けに、今回の製作を発表した
との事だ。中々チャレンジ精神が豊富な会社だ。
「私は、その時代は生まれていなかったので、健蔵さんが羨ましくて仕方が無い。」
 ハイネスは、出演するであろう健蔵を羨む。
「ま、あの時の俺は、人間達の完全な敵だ。碌な描かれ方は、していないだろうよ。
どこまで掘り下げるかは知らんがな。」
 健蔵は分かっている。あの時は、魔族の繁栄の為、人間達の城を破壊し、魔族の
力を知らしめる為に虐殺もした。その事を否定するつもりは無い。魔族の為に、そ
れが一番だと思ってやった結果だ。
「それに、俺のやった事は、俺のやった事として受け止めるつもりだ。だから、変
に差し替えて放送する方が冒涜に繋がる。その辺を分かって作ってくれるなら良い
がな。何せ俺は、伝記のジークを一回殺した男だからな。」
 健蔵は、その事に逃げるつもりなど無い。人間から恨まれても、それは当然だと
思っている。その辺の描かれ方を、このアニメは、どう描くのかは気になっていた。
「私はガニメーションを信じますよ。彼等なら誠実に起こった出来事を、描いてく
れる事でしょう。健蔵さんの事も、ちゃんと見てくれますよ。」
 ハイネスは、ガニメーションの可能性に期待していた。
「そうだな。どうなるかは、彼等の腕次第だ。これは注目せねばな。」
 健蔵も『サキョアニ』の実力を知っている。彼等は、誠実に作っている。
「この前、色々聞かれたのを考えれば、大丈夫じゃないですか?」
 横からメイジェスが口出ししてくる。こちらの事が聞こえたのだろう。
「聞かれた?どう言う事だ?メイ。」
 ハイネスは、何の事か良く分かっていない。
「あれ?兄上知らない?この前、『サキョアニ』の人が『ソクトア伝記』の製作に
当たってって事で、お父様と健さんに取材が来てたんだけど?」
 メイジェスは、思い出しながら言う。
「な、何と!『サキョアニ』の取材!?う、羨ましい!そんな事が!」
 ハイネスは、物凄く悔しそうな顔をする。
「あー。悪かった。お前が、悔しがると思って、無理に伝えなくても良いと思った
んだ。隠すつもりは無かったんだが・・・。」
 健蔵は、バツが悪そうに話す。こうなると分かっていたので、健蔵は敢えて黙っ
ていたのだ。とは言え、隠すつもりも無かったので、正直に言う。
「あ。いや、健蔵さんのせいじゃないですけど・・・。でも、取材にまで来るって
事は、本気じゃないですか!『サキョアニ』!」
 ハイネスは、魔族である健蔵に取材までして製作しようと言う『サキョアニ』の
姿勢を、素晴らしいと思っていた。それだけ、本格的に作るつもりなのだ。
「確かにな。何でも、今までのアニメの魔族は、化け物ばかりだったってのは、お
前も知っているだろ?だが今回のアニメで、より本物に近づけたいとの事でな。」
 健蔵も、取材を受けていてワクワクしていた物だ。
「我にも取材をしていたあれは、アニメの製作であったのか。随分細かく聞いてき
たので、ドキュメンタリーでも作るのかと思っていたのだが。」
 ワイスも話題に入る。ワイスも取材を受けていたのだ。
「例え魔族相手でも、誤魔化す事無く、本格的に作るために尽力するとは。その者
達、中々見所があるではないか。これは、高がアニメと思っていたが、見ておいた
方が良いかも知れぬな。余の父も出ておるのであろうしな。」
 ケイオスも考えを改めるようだ。確かに、そこまで本格的に取材をするのは、ド
キュメンタリーなどに多いのだが、アニメ製作だとは思わなかったのだ。
「その者達の作るアニメなら、見ても良いかも知れぬのう。前に見た下らぬ化け物
のような姿で無ければのう。」
 エイハも、最初は見ていたのだが、余りにも魔族の扱いが酷かったので、見るに
値せずと切っていたのだ。しかし、『サキョアニ』の姿勢は気に入ったようだ。
「これは、録画しなければなりませんな。この前から始まったので、まだ1話しか
入ってませんが、毎週であのクオリティを維持出来るか見物ですな。」
 ハイネスは、楽しみにしているようだった。ある意味『闘式』よりも楽しみにし
ているのだろう。それは、健蔵も同じだった。
「確か、今週出た雑誌に、取材内容が書いてあったよ?」
 メイジェスは、『週刊 話題』を取り出す。ガリウロルの話題を取り扱った雑誌
だ。その中に『ガニメーション』の革命児『サキョアニ』の力作と言う事で、今度
のアニメ『ソクトア伝記』のインタビュー内容が書いてあった。
「何と!『週刊 話題』に載っていたのか!『週刊 ガニメ』はチェック済みだっ
たのですが・・・。私とした事が!」
 ハイネスは、頭を抱える。
「・・・お主、そんな週刊誌を読んでおったのけ?」
 エイハは呆れていた。まさか息子が、そこまで入れ込んでいるとは思わなかった
のだ。アニメとは、そこまで魅力的なのだろうか?
「母上。アニメと言っても、ガリウロルのだけが特別なのです。」
 ハイネスは熱く語る。エイハは、そこがまだ分からない。
「分かったのじゃ。・・・まぁ嵌れる物があるのは、悪い事じゃないがのう。『闘
式』に影響が無い程度にしておくのじゃぞ?」
 エイハは呆れながら、注意する事を忘れなかった。
「ま、余達もハイネスの事は言えぬ。ちゃんと『闘式』で成果を見せねば、何を言
われるか分からん。気を引き締めよ。」
 ケイオスも、スポーツなどに嵌っているので、『闘式』で、疎かにならないか心
配していたのだ。いくら優勝候補と言われ続けても、結果が出ないのでは仕方が無
いからだ。それに今回の『闘式』は、色んな者が出場している。
 この式典で、色々な事が分かったが、気を引き締めるに越した事は無いと、ケイ
オスは思っていた。


 これ以上、やる必要があるのだろうか?と自分でも思う。
 これで失敗してしまったら、皆が悲しむに違いない。
 もう、俺は一人じゃない。悲しむ人が、たくさん居る。俺を支え、俺が支える人
が、いっぱい居る。その人達を守りたいのだ。守りたいが為に、俺は命を懸ける。
何せ、このままでは、ゼロマインドに勝てない。そして、ゼロマインドに負けると
言う事は、何れ全てを『無』と同化してしまう事に等しい。
 『根源』は言っていた。『無』の力とは、『根源』へと還る為の力だと。
 ゼロマインドは、『根源』と同じ力を邪悪な目的の為に使おうとしている。
 今は、まだ『根源』程、完成されていないので、表立った動きをしていない。
 だが、力が溜まり、時が来れば、必ず行動を起こすと『根源』は予言していた。
 それでも『根源』は、手を出さないと言っていた。そうする事が定めで、見守り
続けるのが宇宙の摂理だと・・・。つまり、俺達が止めなければならないのだ。俺
達のソクトアだ。俺達が何とかするのは、当たり前の事だ。だから俺は、『根源』
は悲しい奴だとは思うけど、恨んだりはしない。
 ゼロマインドを止める為に、打倒する力を見付けなければならない。これから、
その答えを示さなければならない。下手をすれば、俺の存在その物が、消えるかも
知れない。だが前に進む為に、そして皆で笑いあえる未来を、掴み取る為にも、俺
は、やり遂げなければならない。
 遂に、その時は来た。俺はベッドに座る。そして自分の手を見る。この手に未来
を掴み取る・・・。その為に、命を懸ける。それは当然の事だ!
 今までなら、余計な心配を掛けさせたくないと思っていた。だから一人で、『根
源』に会いに行き、答えを探しに行った。
 だが、今回は違う。俺には、絆を誓い合った仲間が居る。その仲間達に何も知ら
せずに命を懸けるのは、不誠実な事だ。だから、前夜である今日に、俺は『無』を
打倒する力を手に入れると、宣言した。そして、その為に命を懸けてくると宣言し
た。知らせる事で、皆にも覚悟を持ってもらいたいと思ったからだ。
「よりによって、前夜である今日とはね。レイクらしいわ。」
 ファリアが呆れる。ギリギリになってから、やり遂げようとする俺に、呆れてい
るのかも知れない。本当なら、俺に命を懸けて欲しくないのだろう。
「兄貴だからな。うやむやのまま、『闘式』に出たくないんだろ?」
 グリードも分かっている。俺が半端な覚悟のまま、『闘式』に参加するつもりが
無い事をだ。だから、今日やり遂げるのだ。
「困った奴だ。黙って命を懸けに行くなとは言ったけどよ。」
 エイディも、笑っている。俺には何を言っても無駄だと悟っている。俺も、説得
された所で止める気など無い。
「レイクさん。就任したばかりの私に、主無しの給仕にさせないで下さいね。」
 ジェイルは、嫌味を言いつつも、俺の事を心配していた。
「そうですわ。止めたって無駄でしょうから、止めませんけど・・・。ジェイルを
主無しの状態にさせる不幸だけは、避けて下さいます?」
 恵も来ている。俺が挑戦するのを、何処かで知ったようだ。恐らくファリアが話
したんだろう。確かに恵が居れば安心だ。
「レイクさん。俺、レイクさんは、他人と思えない所があります。だから、レイク
さんが帰って来ないと、俺の半身が失ったような感じがします。だから、絶対に成
功させて下さい。」
 瞬も駆けつけてくれた。確かに瞬とは他人とは思えない。俺に魂のレベルで似た
男だと思っている。御人好しで、人を助ける事に命を燃やして、皆に心配を掛けて
な・・・。本当に自分を見ているようだ。
「レイクさん。私達は貴方が、こんな所で終わるなんて、思っていませんよ。私と
ジェイルを救った恩は、ちゃんと返させて下さいね。」
 ティーエさんは、俺を恩人だと思っている。
「レイク。無茶ばかりして、私を困らすのは、これっきりにしてくれよ?」
 親父が、俺の肩を叩いてくる。親父には心配を掛けている。本当に、これっきり
にしたい物だ。無茶ばかりしてきたからな。俺は・・・。
「皆、有難う。俺は、本当に一人じゃなくなった・・・。絶対に成功させるよ。」
 俺は、皆を信じさせなきゃならない。そして、成功しなきゃならない。
「・・・その事だけど、レイク。私も行くわ。」
「行くって・・・まさか俺に付いてくるつもりか!?」
 俺はファリアの言葉にビックリする。まさか、こんな事を言い出すとは思ってい
なかった。『根源』への邂逅は危険なのだ。下手したら、それだけでも精神を壊さ
れ兼ねない。それなのに行くと言っているのだ。
「そうよ。これは、決定事項よ。」
 ファリアは有無言わせないつもりで居た。『決定事項よ』と言う言葉が出た時は、
絶対曲げないと決めた時に出る台詞だ。
「お前、どれだけ危険か分かってるのか?」
 俺は一応注意する。本当に危険だからだ。『根源』は『無』の意識の塊なのだ。
ゼロマインドより、摂理に対して誠実な意志を持っているので、話せるってだけで、
危険なのだ。本当に危険なのだ。
「そうね。想像は付くけど、本当にどれだけ危険かは、分からないわ。」
 ファリアは、あっさり分からないと認める。
「なら、どうして・・・。」
 俺は、ファリアが未知なる恐怖を抱えながらも、付いて行くと言ってるのを感じ
た。それだけの覚悟を、どうして持てるのか。
「レイク。貴方、少しは相手の立場も考えなさいよ。もしも私が、そんな危険な所
に行くって知ったら、貴方どうする?」
 ファリアは、逆の立場になれと言っていた。
「・・・ああ。そうだな。俺もファリアと共に頑張りたいと思う。」
 それは間違いなかった。俺の力が少しでも役に立つなら、役立てて欲しいと思う
に違いない。それこそ命を懸けてでもだ。
「それにね?私、貴方が帰ってこなかったら、後を追うかも知れないって、自分で
も思うのよ。貴方もそうでしょ?」
 ・・・ああ。そう言う事か。確かに俺も、ファリアが帰って来なかったら、絶望
に打ちひしがれるかも知れない。
「だからね。これは貴方の為に付いて行くんじゃないの。私が自分の命を守る為に
付いて行くのよ。やるだけやらないと、私の気が済まないのよ。」
 ファリアらしい言葉を聞く。俺の為では無く、自分の為。だから気にするなと言
いたいのだろう。本当に俺の彼女は、出来過ぎだ。
「分かった。・・・とりあえず、それが可能かどうか、ゼロ・ブレイドに聞いてみ
るさ。まずは、それからだ。」
 俺は、ゼロ・ブレイドを握る。俺が会いに行くのは、出来るだろうが、ファリア
を連れて行くとなると、俺の精神の中に飛び込まなければならないだろう。
(聞かせてもらった。本当に無茶をするな。君と君の彼女は・・・。)
 こうだと決めたら、曲げないんだよ・・・。
(そうか。ならば、もう文句は言うまい。・・・で、『根源』に会いに行く件だが、
普通なら無理だ。他人の精神に入り込むなど、普通の所業では無いからな。)
 まぁ当然か・・・。俺の精神が『根源』に行けるからって、他人と共有するなん
て、普通じゃないよなぁ。
(だが君達は、普通では無い。幸いにも、君の父親の『能力』を使えば、共有が可
能だ。君の魂を『魂流』にて安定させた後、君の彼女が追い掛ければ良い。危険な
事には違いないがな。)
 ああ。そうか。前にやった蘇生の要領で、俺の精神の中に入り込めば良いのか。
それが出来るのは、親父しか居ないな。
(蘇生と違って、君の父親の負担は少ない。魂を戻すのでは無く、魂を導くだけな
ら、天使の本領だからな。・・・それでも無茶だと言う事は忘れるなよ。)
 分かってるよ。アンタの助言には感謝する。でも、親父の負担が少ないのは、良
い事だ。親父にも無茶させてるからな。
「聞いてきた。親父の『魂流』を使えば、可能だそうだ。でも、今回は蘇生じゃな
いから、親父の負担は少ないみたいだぜ。」
 俺は、親父に伝える。すると、親父は溜め息を吐いた。
「私は、いくら負担になっても良い・・・。お前とファリアが無事に帰ってくるの
が一番だ。・・・まぁ清芽殿には、伝えておいた。」
 親父は、恵と瞬の祖母であり、天使である清芽さんに今の事項を伝える。
「悪いな。心配掛けさせちゃってさ。・・・でも俺は、絶対に戻ってくる。だから、
応援していてくれれば助かる。」
 俺は、皆に伝える。応援されれば、それだけ俺の力になる。
「私も、皆を置いて消える気は無いわ。弟子達も居る事だしね。」
 ファリアは、俺と共にやり遂げる意志を見せる。
「もう何も言わぬ。行って来いレイク。そしてファリア。戻って来なかったら、許
さん。私とアランの夢を、台無しにするんじゃないぞ?」
 親父は、後を押してくれた。親父とアランさんの夢。つまり、皆でハイム家に赴
いて、アランさんに会いに行く事だ。それを幻にしちゃいけない。
「私は信じてます。だから見せて下さいね。乗り越える瞬間をね・・・。」
 恵は、散々奇跡の瞬間を目の当たりにしてきた。だから今回も、俺達が乗り越え
てくる事を信じて疑わない。これじゃ失敗出来ないな。困ったお嬢様だ。
「レイクさん。ファリアさん。俺、初めて会った時から、貴方達は魂が違うって思
っていました。今でもその想いは変わりません。だから、待ってますよ。」
 瞬は、俺とファリアに会った時の事を話す。俺も瞬や恵を見た時に、コイツ等は
何かが違うと思っていた。そして、コイツ等はそれを証明してきた。だから、俺も
コイツ等の期待に応えるつもりだ。
「・・・ファリア。行こうぜ。『根源』は、俺の答えを待っている。正直な所、ま
だゼロマインドを打倒する力の正体は分かってない。だけど、もう少しで何かが掴
めそうなんだ。・・・だから、今回の邂逅で、掴んでみせる!」
 俺は邂逅の中で、『根源』の望む答えを得られると思っていた。
「行きましょう。貴方が掴めると思うのなら、私はそれを信じる。そして、その答
えを一番近くで見せて頂戴。」
 ファリアは、俺が失敗するなんて微塵も思っていない。参った奴だ。まぁ良いさ。
なら最高の答えを用意するまでだ!
「じゃぁ行くぞ。・・・ファリア。」
 俺は、ファリアの手を握る。そして、そのまま目を閉じる。『根源』よ。今から
会いに行く。そちらで待っていろ!
 俺の意識は、段々ゼロ・ブレイドと共に沈んでいった。


 混濁した意識の中、俺は集中していた。『根源』に会いに行く為には、極限まで
集中しなければならない。この前会った時も、全ての感情を『無』と同化させて、
集中した結果、出会う事が出来たのだ。
 『無』を正しく理解しないと、『根源』には辿り着けない。『神気』と『瘴気』
を掛け合わせた『無』では、真の『根源』への道へ至れない。ゼロマインドに補足
される事はあっても、『根源』に至る事は出来ない。
 『無』とは、『根源』へと還る力。全ての情報が集まっているが故に、全てが還
るので『無』へと帰す。この境地に至れたのは、伝記のジークだけだ。俺が至れた
のも、その想いに馳せる事が出来たからだ。
(何も不思議では無い。君は色濃くその血を受け継いでいる。私を通して、そのや
り方を知ったのだろう?)
 ゼロ・ブレイドか。俺は、この現状を打破したいと言う考えが全てだ。
 ・・・む?何か違和感がする。この感じは・・・。誰かが俺に意識を繋げる感じ
だ。意識を集中させる前に、誰かと約束したような・・・。
(・・・イ・・・レイク!!)
 この声は・・・俺の一番大事な人の声だ。
(ちょっとレイク!返事しなさいって!)
 ああ。間違いない。やはりファリアだ。
(あ。居た。どうしたのよ。貴方と一緒に行くって、ついさっきまで言ってたじゃ
ない。もしかして、忘れてたの?)
 済まない。『根源』に至る為には、全ての意識を集中しなきゃいけないんだ。つ
いさっきの事も、覚えてられない程なんだよ。
(そう・・・。なら仕方が無いわね。)
 ああ。済まないな。だけど・・・。どうやら、とりあえずは行けそうだぞ。
(分かってる。貴方の奥底から物凄い『無』を感じるわ。)
 感じるか?・・・そうだ。その奥底に感じる力こそ、『根源』であり、全ての問
いに答える存在だ。気をしっかり持てよ?
(ええ。この吸い込まれるような感じは、さすがに恐ろしいけど、貴方と一緒なら
大丈夫。意識を保ってられる。)
 よし。じゃぁ俺から離れるなよ。と言っても、俺の精神の中の話だ。離れるなと
言う表現はおかしいか。
(そうね。でも、この精神の中は、とても広い空間のように見えるわね。)
 確かに、改めて見ると、凄い広い空間に投げ出されたみたいだ。
 まごまごしてもしょうがないな。『根源』と意識を繋げるぞ。
(ええ。覚悟は出来てる。お願いするわ。)
 よし・・・。『根源』よ。俺の全ての感情を『無』へと繋げる。此処に現れろ!
 そうだ・・・。この感情だ。喜びも悲しみも憎しみも怒りも・・・。全てが溶け
合って、『無』へと帰結する。ひたすら『根源』を求め、邂逅を得るんだ。
(す、凄い・・・。この意識の奔流。これが『根源』!)
 ファリアは、『根源』の強さに押し流されそうになる。俺はそれを見て、静かに
引き寄せてやる。焦りは無い。俺になら、ファリアを助ける事が出来て当然だと言
う意識がある。
(・・・ああ。レイク。貴方の意識を感じる。貴方は激情を忘れられるのね。)
 ファリアは、俺の意識と重なる。俺の至った境地に触れて、俺の意識と合わせに
来ている。『根源』との邂逅には欠かせない過程だ。
(私を呼ぶ者は、君達か。答えを求めに来たのだな。)
 さすが『根源』だな。俺達が何を求めているのか、分かっているようだ。
(私は全てに応え、全ての者が還る場所。君達の願いを聞き、役目を果たすのが、
私の存在意義。)
 『根源』は、前に聞いた台詞を言う。全ての問いに応えるのが役目らしい。
(ゼロマインドを打倒する力を求めに来たのだな。その求めに、私は正確に答える
事は出来ない。その力は、私をも滅ぼす力であるからだ。私は、自らが滅ぶ事項に
ついて、直接教える事は出来ぬ。)
 自分を否定する力を、口に出す事は出来ないのだろう。それに、『根源』を滅ぼ
してしまったら、今の摂理が破壊されてしまう。それは、俺達を滅ぼす行為にも繋
がる。それだけは避けなければならない。ならば・・・。
(・・・そうか。君は私の力を内に入れて、打ち破る力を探るつもりか。)
 さすが『根源』だ。言わなくても分かっているらしい。俺が命を懸けると言った
のは、『根源』の力を内に入れるつもりだからだ。力を見つけられなければ、俺は
消えるのだろう。それくらいの覚悟でやっている。
(私の力を、その身に携えて否定するつもりか。確かに、その方法ならば、私を消
す事無く、力に目覚める事が出来る。だが、私の力を打ち破る事が出来なければ、
待つのは消滅だ。分かっているだろうが、忠告を与える。)
 何物も関与しない『根源』が、忠告するだけでも有難いって物だ。俺は、この方
法に賭けるつもりだ。
(考えたわね。確かに『根源』その物を否定し、滅ぼしてしまったら、この世の摂
理が壊れる。それは避けなきゃならない。・・・だけど、『根源』の力を、その身
に携える事で、打ち勝つ。その打ち勝った力こそが・・・。)
 そうだ。打ち勝つ時に出来る力こそが、『根源』の否定であり、ゼロマインドを
打倒する力になる。危険な賭けだとは、承知している。
 だけど俺は、ゼロマインドを放っておけない。このままでは、俺の全てが・・・。
今の、この感情さえも、ゼロマインドにやられてしまう。俺が俺である為に、そし
て、皆が笑いあえる世を、この目で見る為に、身に付けてみせる。
(自らの存在を懸けて、私とゼロマインドの力を否定するつもりか。・・・その願
いを聞き届けよう・・・。君の可能性は、私が見極めよう。)
 『根源』は、余計な感情は無かった。願いを聞き届けて、俺が打開するかどうか
を見極めるのが、『根源』の役目だった。
(レイク。やるのね。・・・私も貴方と一緒に、乗り越えるわ。)
 ファリア・・・。もう俺は、お前を止めはしない。一緒に乗り越えよう!そして、
この手で未来を掴むんだ!
(ええ。私もやるわ。生きるも死ぬも、一緒よ!レイク!)
 ああ。この想いは、決して消せはしない!消させはしない!
 さぁ『根源』よ!やってくれ!
(分かった。その想いも、私は記憶しよう。それが私の役目だ。)
 『根源』は、そう言うと、とてつもなく純度の高い『無』を俺の方へと向けてく
る。全ての答えを有し、全てが還るべき場所の力・・・。それがこの俺の中に!
 ・・・来た・・・。
 うぐううああああああ!!!
(いやあああ!何これ!!何よこれ!!!)
 ファリア!うぐぐぐ!!!消えるな!俺は此処に居るぞ!!
(レイク!・・・ええ!まだ居る!私は此処に居る!!貴方も消えないで!!)
 うぐあああ!あ、甘く見ていた!!こ、此処までだとは!!消える!消えてしま
う!俺の生きてきた記憶が!!俺の此処までやってきた力が!!俺の想いが!!
(いや!いやよ!!消えたくない!!私は消えない!!!)
 ファリア!!そうだ!俺は消えない!!此処までやってきたのは、お前の為だ!
そしてこの俺自信の為だ!消えて堪るか!!
(私は、全てが還るとしても!・・・レイクへの想いは消させない!!)
 ファリア・・・。そうだ!例え『根源』に全てが還る時が来ても!!俺の想いは!
俺の築いてきた絆は!消させはしない!消えて堪るかってんだ!!!
 ・・・!!こ、これは・・・。な、何だ・・・?
(レイク!・・・私にも見える・・・。何これ?)
 そうだ・・・。見えるぞ。俺の築いてきた絆が!俺が創った想いが!!
(ああ・・・。私にも見えるわ。私が創り上げてきた貴方への感情が!!)
 そうだ!全て『無』に還っても、創ってみせる!!
(そうよ!全てが『無』になっても、また築いてみせる!)
『この『創世』の力で、勝ってみせる!!』
 ・・・俺とファリアの想いは、これで一つになった!
(レイク・・・。私、消されたって創るから!!)
 ああ。そうだ!例えどんなに消されようとも、また創ってやる!!
 晴れる・・・。晴れていく!!俺とファリアの想いを受けて、『根源』に還る力
が、晴れていく!そうだ!例え『根源』に還ったとしても、俺達はまた築くんだ!
 『無』の否定では無く、『無』を受け入れて尚、生まれ出ようとする!それが、
ゼロマインドでさえも、消し切れない力だ!!
(おおお・・・。眩しい・・・。私の力が乗り越えられる・・・。)
 『根源』・・・。アンタには感謝している。アンタは自らの命を脅かす事項です
ら了承してくれた。・・・この力、無駄にはしない!
(『創世』の力。それが、答えだったのね。レイクと一緒じゃなければ、消えてい
たわね。でも、もう消させないわ!)
 ファリア。これからも築き上げよう。この『創世』の力で!!
(見事な物だ。・・・私を乗り越えたか・・・。これで、私の役目も終わりのよう
だな。・・・私はこれからも、問いに答える存在になる・・・。)
 『根源』!俺は、アンタの事も忘れない。この力で、必ずゼロマインドを倒して
みせる!だから、そこで見ててくれ!!
(私をも乗り越えし者よ。・・・未来を開くが良い。その権利を、君達は手に入れ
たのだからな。暗き『黒の時代』を打破すると良い。)
 ああ。約束する。俺が俺である為にも!必ず!
(・・・見事なり!)
 この声はゼロ・ブレイドか?
(ゼロ・ブレイドでは無い。私は今より生まれ変わる。君の『創世』の力を、この
『記憶の原始』はしかと受け取った!)
 そうか・・・。アンタは、精神を反映する剣だったな。
(『創世』の力・・・。『エル』を、私は認識した!私はこれよりエル・ソードと
なった!君の手によって、生まれ変わったのだ!)
 エル・ソードか。了解した。俺のこの想いを、最大に活かせる剣は、アンタだけ
だ。宜しく頼むぜ。絶対に勝つぞ!そして、ファリア。やってやろうぜ!俺は、お
前と一緒なら、どんな奴にだって負けない!ゼロマインド何かに、絶対に負けてや
る物か!一緒に乗り越えようぜ!!
(当然よ。貴方と一緒なら、誰にだって負けない!負けてやる物ですか!)
 そうだ・・・。見ていろよ『根源』。俺は一人じゃない。ファリアが居る。そし
て、絆を築いた仲間が居る!俺は、その仲間の為に創ってみせる!これからの未来
を、俺の手で築いてみせるんだ!!


 私の自慢の息子。そして、その息子を心から愛してくれる息子の恋人。その二人
が、危険な事をしている。消えてしまうかも知れない。その手伝いを、私はしてい
るのだ。こんな残酷な事があろうか。
 だが、息子が望んだのだ。私の力を頼ってくれていた。・・・複雑な気分だが、
私は息子の望みを叶えてやりたかった。だから、息子が瞑想に入った後、息子の恋
人を、息子の精神の元へと送った。これは、私にしか出来ない事だ。・・・何て残
酷な事をさせるのだ・・・。本当は止めたかった。だけど私は、息子の望みを優先
させてしまった。
 こうなったら、私に出来る事は、祈るしかない。応援するしかない。私まで精神
に入り込んでしまったら、息子も、息子の恋人も、戻れなくなってしまう。
 頑張れレイク!そしてファリア!愛する子達よ!私の願いなどで、力が分け与え
られるなら、私は死ぬ気で願う!だから、頑張るのだ!!
 ・・・そう思っていた時だった。急にレイクの気配が希薄になった。ファリアの
気配もだ。私は、『魂流』で魂を送っている身だから分かる。レイクとファリアは、
『無』の力を、その身に受けたのだ。何て無謀な事を・・・。
 そうまでして乗り越えなければならないのか?そこまで、この仲間達が・・・。
そして私の事が大事なのか!・・・何て息子だ・・・。出来が良い所では無い。
 消えるな。レイク!!私を置いて消えるな!ファリア!!お前達は、私が望む未
来その物なんだ!消えてくれるな!!
 ・・・私の願いは、届いただろうか?・・・急に静かになった。
「おい・・・。兄貴・・・。血の気が引いてるぜ!?」
 グリードは心配になって、レイクの手を握る。
「グリード!レイクさんは帰ってきます!絶対です!!」
 ジェイルは、唇を噛みながらもレイクを信じていた。
「そうだ!コイツが俺達を置いていく訳が無い!ファリアもだ!」
 エイディは、目を見開きながら、この光景に耐える。強き絆だな。
「ファリアさん!私は、信じてるからね!!」
 ティーエは、つい地が出てしまう。
「この二人が、負ける筈がありません!どんな困難も、乗り越えてきた二人です物!
今回も、必ず乗り越えてきますわ!」
 恵は、自分に言い聞かせるように叫ぶ。だが想いは、本物だった。
「・・・!・・・おおお!!」
 瞬は、何かを感じ取る。瞬はゼーダと融合した身だ。何かを感じたのかも知れな
い。瞬は、二人を見つめる。
「レイクさん!ファリアさん!・・・この力の奔流は・・・!凄い!」
 瞬は、二人の手を取る。そして優しく手を繋いでやった。その瞬間だった。
 レイクが抱いていたゼロ・ブレイドが、浮き上がった。こんな光景は初めて見た。
「ゼロ・ブレイド!これは!?」
 私は、ゼロ・ブレイドをしっかりと見た。眩い光を放っていたが、見逃す訳には
行かなかった。するとその瞬間、感じた事も無い力が、ゼロ・ブレイドから放たれ
始めた。何だ・・・この暖かい力は!
「う、うお!!何だこれ!!」
 グリードが驚く。レイクとファリアの体から、信じられないくらいの力を感じた。
それもゼロ・ブレイドが放っている力と同じ力をだ。
 ああ・・・。私には分かる!レイクとファリアは、掴んだのだ!何かとてつもな
い物を、この手に掴んだのだ!!
「来る!魂が、帰って来るぞ!!」
 私は、二人の魂が、この手に帰ってくるのを感じた。凄い光だった。だが、失敗
する訳にはいかない!私は、この瞬間の為に任されたのだ!失敗して堪るか!
 私は、慎重に二人を選定し、体に戻した・・・。吸い込まれていく。成功だ!
「・・・ん・・・。ンン!!」
 ファリアの体が、魂が入った瞬間、汗ばみ始める。しかし、しばらくすると安定
し、血の気が戻ってきた。何とか成功したようだな。
「う・・・うおおお!!」
 レイクの体も、弾ける様だったが、段々と血の気が戻ってくる。・・・私は、失
敗せずに済んだようだ・・・。ゼロ・ブレイドが、レイクの手に戻っていった。
「目覚めるぞ!」
 エイディは、目を輝かせる。
「・・・あ・・・。もど・・・ったの・・・ね。」
 ファリアは、薄目を開けてティーエの方を見る。
「み・・・んな・・・。ただ・・・いま!」
 続いてレイクも、瞑想から覚める。
「レイクさん!ファリアさん!」
 瞬が、二人の手を自分の手を重ねる。
「兄貴!心配したぞ!ちくしょう!!」
 グリードは、嬉し涙でいっぱいになる。
「二人共、心配掛けすぎだぞ?全く!」
 エイディは、素直じゃなかった。しかし、その目には嬉し涙が光っていた。
「おかえりなさい!レイクさん!ファリアさん!」
 ジェイルは、姿勢を崩さず二人に挨拶をした。
「無事で何よりです!ファリアさん!」
 ティーエは、地が出そうになっていたが、口調を直していた。
「だから言ったのよ。この二人が負ける筈が無いってね。」
 恵は、そう言いつつも、胸を撫で下ろしていた。
「二人共、良くやったな!私も安心したぞ!」
 私は、声が震えそうになる。本当に不安だったからだ。不安で押し潰されそうだ
ったからだ。こんなに心配したのは、いつ以来か・・・。
(良かったですねぇ。無事が一番ですよ!)
 清芽殿。貴女にも感謝する。二人が、無事に戻って来たのは、貴女のおかげだ。
(感謝なんて良いんですよ。無事な姿を見れましたし!)
 清芽殿。有難う。私の息子を心配してくれたのだな。
「それにしましても・・・。さっき感じた力は・・・?」
 恵は、さっき二人から放出された力が気になっているようだ。
「・・・そうか。こっちでも放っていたんだな。」
 レイクは、自分の体の感覚を確かめる。どうやら、そう簡単に発現出来る物では
無いようだ。確かに凄い力だったしな。
「ファリア・・・。やってみるか?」
「ええ。そうね。やってみましょう。」
 レイクとファリアは、互いに手足の感覚を確かめつつも、精神を集中させる。
「・・・ハァァァアアアアア!!」
 レイクは、精神を統一させると、ゼロ・ブレイドを抜き放つ。
「・・・この想いは、どんなに消されても、再び創ってあげる!」
 ファリアは、そう言うと、レイクと手を繋ぐ。
「これぞ!『創世』の力『エル』!此処に発現するは、エル・ソード!」
 レイクは、ゼロ・ブレイドに力を注入させると、ゼロ・ブレイドの形が変わって
いく。それをエル・ソードと名付けた。
「創世の力『エル』ですって?この湧き上がるような強い力が!」
 恵は、驚きの声を上げる。気持ちは分かる。この力は何だ?透き通るように、身
体に染み込んでいく。何かが生まれ出るような・・・。
「・・・全ての情報の基にして、全てが還る場所の力である『無』を、唯一打開す
る力よ。それは、例えこの身が滅びようとも、新たに想いを創って見せると言う意
志!それが、創世の力『エル』よ!」
 ファリアは、悟ったような顔をしていた。レイクもだ。創世の力か・・・。だか
ら、胸がざわつくのかも知れない。何かが生まれ出ようとする力は、何物にも負け
ない・・・か。良くぞその境地に至った物だ。
「俺は、このソクトアで生き抜く為に、『無』に負けない!相手が全てを還す力な
らば、新たに創ってみせる!例え全ての情報が相手であっても!新たに湧き上がる
力で、打倒してみせる!!」
 レイクは、『エル』の力に包まれていた。何と神々しい光か・・・。見ているか?
義父リークよ。レイクは、私達の希望の光になったのだ!
「レイク。私は、いつまでもこの想いを創るわ。貴方と一緒に!」
「ああ。俺もだ!ファリアと築いてみせると、『根源』の前で誓ったからな!」
 ファリアが微笑む。それにレイクが応える。この二人の絆は、例え『無』に消さ
れようとも、無限に創られる事だろう。私には確かな絆が渦巻いているのを感じた。
 ・・・シーリス。私とお前の息子は、凄い男だ。そして、ファリアとなら、どん
な困難でも打ち破ってくれるだろう。・・・楽しみだ!!
 レイクとファリアは、私の誇りだ。・・・頑張るのだぞ。我が息子よ!



ソクトア黒の章6巻の8前半へ

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