8、開催  互いにタッグを組み、双方の力を磨き上げて来たのは、この日を迎えるためであ った。ソクトアと言う強者が集まる星だからこそ、開かれる祭典、それが『闘式』 である。そこには、種族の壁すら無い。力の際限も無い。  規定としては、相手を殺さぬ事だけが、規定に入っている。なので、これ以上危 険だと審判が判定したら、試合を止める事になっている。  会場は2つだ。一つはガリウロルの会場だ。この日の為に用意した海の上の会場 で、観客席は、シーサイドとなっている。手元にあるパネルが各テレビのモニター となっていて、それぞれの選手を自動で映す様に魔力で設定されている。ファリア が魔法の実践方法として、テレビ局に提供した結果、実現したのだ。  同じ仕掛けが、もう一つのストリウスの会場にもある。選手を高速に追い掛ける には、人の手のモニターでは追い付かない。それを、魔力で追い掛けるように自動 設定するのは、テレビ局側としても助かる。ちなみにストリウスの会場は、ワイス 遺跡のすぐ近くにあり、つい先日出来たと言う、美しいワイス遺跡の城を眺める事 が出来る。ワイスも、『闘式』の最中は、見学出来るようにしており、受付の魔族 達には、丁重な対応を心掛けるように言ってある。  最近の研究で、ハイスピードカメラと言う技術が確立されてきた。何でも、細か い動きをスローモーションで見る事が出来る技術で、それを使えば、テレビや、会 場のパネルでも、より分かり易く、見る事が出来る。  この日を迎える為に、ファリアなどは、魔力のテレビでの運用などを提供し、会 場のケアなどを、徹底的に教え込んだ従業員を用意し、会場外に危険が及ばないよ うに、バリアの耐久試験を何度も行った。ガリウロルの会場は、俊男が思いっ切り 暴れて壊れない程度の物を。そして、ストリウスは同じくケイオスが暴れても大丈 夫なように、実際にやってもらいながら作成した。何でも、そのバリアの技術提供 は、ジュダが行ったのだ。ジュダ曰く、『修行よりきつかった』と言う、その技術 は、ジュダの『付帯』のルールを使っている。  『付帯』のルールで最大限にまで高められた宝石を、恵の頼みで朝夕で2個、作 成していた。その力で会場内に小さな六芒星を作り、その小さな六芒星を更に五芒 星に並べて強化する二重方式で、ケイオスも驚く程の出来だったと言う。何せ、ジ ュダがリーゼル星に行った時でさえ、欠かさず作っていた宝石だ。そう簡単に破ら れはしない。それを、更に六芒星と五芒星で強化しているのだから、破るのは、ほ ぼ不可能に近い。  更に、それぞれスタッフが行き来し易いように、登録されたスタッフのみが通れ る『転移』の扉も用意した。これは、魔炎島にある技術で、かなり完成度が高かっ たので、採用されたのだ。非常用の扉まで用意してある。  ちなみに審判は、ストリウスがジェシーで、ガリウロルは睦月が担当する事にな っている。とても重要な見極めなので、信頼出来る二人に頼んだのだ。  こんな細かい会場の用意まで全て用意するのに、とんでもない労力を使った。だ からこそ、成功させなければならない。  既に会場は、開会式を一目見ようと客でいっぱいになっている。試合のチケット も、最終戦まで全て売り切れる程の人気だ。  まずは、それぞれが闘う会場を、抽選で決める。これは、本当にランダムであり、 どんな結果になるか、恵ですら分からない。それぞれ、ガリウロルとストリウスの 電光掲示板に会場の振り分けが表示される仕組みになっている。  とは言え、出場人数が多いので、最初に予選をやる予定だ。それぞれ8グループ に分かれて、勝ち残った組が、それぞれの会場で、トーナメント方式で争う。  なので、最初の会場が決まる抽選は、かなり重要だった。  何せ、ここでどちらかになってしまったら、決勝に進むまで、そちらの会場で行 うからだ。こればかりは、最初からの決まり事なので、仕方が無い。  そんな期待の中、開会式が始まった。  電光掲示板に『闘 式 開 催』の文字が刻まれる。すると、会場から轟音のよ うな歓声が起こる。これは、テレビの前でも一緒で、ソクトア中が注目する闘いが 始まったのだった。 「それでは、選手入場!!」  アナウンサーが叫ぶ。これにて、『闘式』が始まるのだった。  とうとう始まる。全ての強者が集い、誇りを懸けて闘う祭典が!  しかし、祭典と言っても、出場者の中には、とんでもない奴も混じっている。強 さに自信があれば、誰でも出場出来るようにしたので、『絶望の島』出身の犯罪者 も、何人か混じっている。それに今回は、種族も関係なく出場出来るので、魔炎島 の腕っ節に自信がある者まで出場していた。  それだけ、特典が美味しいからだ。これだけの強さの者が集まりつつも、大会の 勝者が、敗者に対して従えさせる事が出来ると言う物だ。この大会の勝者は、この ソクトアの『覇権』を取るのに等しい。とは言え、体制がそう簡単に変わる訳では 無い。セントはソーラードームを解かないだろうし、ワイス遺跡の者達が、そう簡 単に従う筈が無い。それでも、これだけの強者を従えさせると言うのは、魅力的な のだろう。腕に覚えのある者は、悉く出場していた。  だが、この大会の出場契約書に、生命の保証はするが、怪我をする危険性はある 事は明記してあるし、勝者に従うと言う決まりも明記してある。それを破った時に 発生する補償金についても、明記してあるので、基本的には従わざるを得ない。  恵などは、補償金を悠々と払えるだろう。しかし、本人が破るつもりが無い。そ れに、そう言う信義を違えたら、天神家の信用問題に繋がる。それが分かっている ので、結局は従わざるを得ないのだ。  何よりも、この強者が集うソクトアで、一番になったと言う称号は、何よりも代 え難い旨味だ。その覇者の姿を焼き付けようと、会場の人々は思っている。  そして、セントに寄る一極支配を打破するに値する大会として、注目されている のだ。この『黒の時代』を終わらせようとする意気込みを、大会の主催者は持って いる。その勢いが、この大会の盛り上がりに繋がっている。  選手入場は、アナウンスに従って、盛り上がりを見せながら行われていた。だが、 見知らぬ出場者も多いので、簡単な紹介で終わる場合が多い。注目選手は、後の方 に紹介される場合が多いのだ。  しかし、凶悪犯罪者の紹介などで、人々が驚嘆したり、格闘技経験者の紹介など があると、一際盛り上がったりしていた。  だが、とうとうメインの者達の紹介が始まる。ここからは、別枠で紹介される。 人々は、その者達の出場を、今か今かと待ち侘びているのだ。 「では、次の選手の入場です。エイディ=ローン選手!斉藤 葵選手!」  アナウンサーの掛け声が掛かった。そして、分かり易い忍者装束を纏ったエイデ ィと、学生服姿の葵が入場する。どちらも、少し恥ずかしそうにしていた。 「一条さん、このコンビの注目点は、どこでしょうか?」  アナウンサーが、横に居る解説者に尋ねた。 「異色のコンビですね。エイディ選手は、榊流忍術を学んだと言う情報があります。 榊流が護身術だけでは無く、忍術の系統も続いていたと言う情報は、周知の通りで す。一方で葵選手は、最近の魔力講座でお馴染みの、ファリア選手の弟子です。忍 術と魔法を駆使したコンビになるでしょう。」  解説者が手元の資料と共に、分かり易く解説する。解説者は娘と父親が出場して いる一条 健人だった。娘の可能性を信じ、父親の偉大さを知る空手の雄だが、二 人の強さを信じて、出場を辞退したのだった。 「成程。後、手元の資料にある『ルール』と言うのは、どう言う物なのでしょうか?」  アナウンサーは、『ルール』について尋ねる。 「これは、神の力とも呼ばれているそうです。修行で培った物が、力だとすると、 『ルール』は能力ですね。例えば、私の娘の江里香は、『治癒』のルールと言う物 を使う事が出来ます。これは、痛みを和らげる『逃痛』と、傷を治す『癒し』と、 疲れを取る効果の『精励』の魔法の効果を、同時に出来ると言う能力です。私も、 江里香が使うまでは、半信半疑でしたが、凄い能力だと思います。」  健人は、自分の娘が『ルール』を使った時、化け物にでもなったのかと思ったが、 実際に目の当たりにして、信じる事にしたのだ。 「本来であれば、神の奇跡とも呼ばれている能力なのですが、ある時期に、同時に 使える者が増えたとの事です。その一人が、私の娘だったとは、思いませんでした がね。ただ、便利な能力なので、闘いを有利に出来る事は間違いありません。」  健人は、凄い凄いと言うだけで無く、ちゃんと分析もしていた。 「成程。この『ルール』使用者が、大会の鍵を握ると言っても、過言では無いよう ですね。ちなみにエイディ選手も『紅蓮』と言う炎を自在に操る事が出来るルール を、使用出来るようです。」  アナウンサーは資料に目を通しながら言う。1ヶ月前まで信じられないくらい、 力には疎かったのだが、今では当たり前のように浸透している。慣れと言うのは怖 い物だ。とは言え、このアナウンサーも相当に勉強したのだろう。 「さぁ、お次はジャン=ホエール選手に、アスカ=コラット選手の入場です!」  アナウンサーはジャンとアスカの入場を伝える。ジャンは、戦闘用のジャケット にジーパンの姿で、アスカも、戦闘用に上は動き易いシャツにジャンパーを羽織り、 下はスパッツにタイトスカートと言った格好だった。かなり動き易い格好だ。 「このコンビは、レストラン『聖』の従業員と言う事ですが?」  アナウンサーは手元の資料を見て驚く。 「あのレストランは、かなり洗練されていますね。私も何度か食べに行きましたが、 料理のレベルは相当高いです。最近は、営業を昼までにして、修練を積んだと聞い ています。ジャン選手もアスカ選手も、相当な剣技の使い手らしく、ジャン選手は 短剣で素早く攻めるのを得意とし、アスカ選手は、舞踊を取り入れた剣技で、相手 を翻弄する事が出来るそうです。」  健人は、良く調べてあった。さすがに人斬りの話は出ないが、細かい剣技の使い 方などを、分かり易く伝えていた。 「それに、この二人も『ルール』が使えると言う事で、素晴らしい闘いが予想され ます。天神家との縁も強いようですしね。ジャン選手は、触れた物を爆弾に変える 事が出来る『爆破』のルールを、アスカ選手は踊る事で、身体能力を大きく引き上 げる事が出来る『舞踊』のルールが使えるようです。」  健人は、天神家の事を話す。天神家に凄い実力者が集まって、修練していると言 う噂は、周知の事実になりつつある。『ルール』に関しても、説明していた。 (・・・フッ。ジャンですか。久しい顔ですね。)  特別シート枠に座っている人物がジャンを見る。ジャンもその人物を見た。 (やはりケイリー・・・。元老院に入ったと言うのは、本当だったんだな。)  ジャンは、ケイリーと視線を合わせた後、特設巨大リング入りする。 「続きまして、シャドゥ選手とドラム=ペンタ選手の入場です!」  アナウンサーは、シャドゥとドラムの入場を知らせる。シャドゥは、ジェシーの 親衛隊長としての格好を崩さない。ドラムは、ケープにジーパンと言うラフな格好 をしていた。異色のコンビではある。 「シャドゥ選手は、ストリウス会場で審判をしている、ジェシーさんの親衛隊長だ と言う話です。魔族と言う事で、色々な剣術を本格的に身に付けているとの事で、 素晴らしい剣術が予想されます。一方のドラム選手は、伝記の『王龍』のドラムの 末裔だと言います。竜族だとも聞いているので、力が強そうですね。」  健人は、魔族と竜族のコンビと言う事で、その辺を考慮して説明する。 「『闘式』では、色々な種族が参加しているとの事で、魔族の方の参加が多いと言 うのは聞きますね。やはり強いのでしょうか?」  アナウンサーは、連日のように魔族のニュースを見ているとは言え、説明を求め る。見ている人に分かり易く伝える為だ。 「魔族は寿命が長いと聞きます。それだけ、年季の入った技や力が繰り出されるで しょう。それに最近で解明された力の一つ、『瘴気』と言う負の力を、上手く使い こなす者が多いみたいです。『瘴気』と言うのは、怒りや憎しみと言った感情によ って、増幅される力の事ですね。」  健人は、解説するに当たって、大分研究していた。さすがに『無』の力までは、 説明出来ないが、それ以外の力は、伝記と実際に天神家に赴いて、目の当たりにす る事で、知識を身に付けているのだ。 「一方の『王龍』のドラム選手は、伝記のドラムの魂を受け継ぐ5代目の竜らしい です。『闘気』を中心に、『源』も使いこなせる本格派らしいです。ちなみに『闘 気』とは、格闘家の間では馴染みの深い力で、闘う気力の事です。『源』と言うの は、『闘気』と『魔力』を掛け合わせた力の事で、先に紹介したエイディ選手など も得意な『忍術』を使う際に必要とする力の事ですね。」  健人は、ドラムの紹介をする。ついでに『闘気』と『源』の紹介をする。視聴者 にも分かり易い様に図解のパネルまで持ってきている。そこには、三角の形で『闘 気』と『魔力』が下で、頂点に『源』と描いてあった。そして、その上に『瘴気』 と『神気』が対立しあっている図が描いてある。かなり分かり易い。 「大変分かり易い解説、有難う御座います。さて、続きましては、今度はストリウ ス側での入場ですね。加藤 篤則選手と、アルヴァ=ツィーア選手の入場です!」  アナウンサーが紹介する。どうやらストリウス側の会場での入場らしい。篤則は、 軍隊研究所の軍服での入場で、アルヴァは、上品なエリの付いたワイシャツと上等 な白いズボンを履いて現れた。 「この二人は、セントメガロポリスの元老院の2人だと言う事です。私は、元老院 と言えば、セントの象徴としての役割だけで、身体的な強さは、そうでもないと思 ったのですが、これがそうでも無いと言う事なんです。」  健人は、最初聞いた時は、道楽での出場かと思っていたが、手元の資料を見る限 り、そんな事は無さそうだった。 「と言いますと?この二人は、実力も相当高いと言う事なのでしょうか?」  アナウンサーも、元老院が強いとは思っていないようだ。 「その通りです。篤則選手は、元軍隊研究所の長官で、部下から鬼教官として知ら れています。軍隊式の戦闘術は、それは恐ろしい物だと聞いています。それを束ね る長官の篤則選手も、相当な強さだと思いますよ。そして、アルヴァ選手ですが、 資料にある通り、ヒート一族の柔術の継承者争いに参加した事がある経歴の持ち主 です。デルルツィアン柔術は、本格派の柔術ですから強いですよ。」  健人は、資料と自分の知識を組み合わせながら解説する。篤則は、表向きは軍隊 式の戦闘術を使う事になっている。実際に危なくなるまでは、それで切り抜けよう と考えていた。そしてアルヴァは、元ヒート一族の出身だ。結構注目株だった。 「これは驚きですね。元老院は、強さと言う意味でも一流だと言う事でしょうか?」  アナウンサーは、驚きを隠せなかった。 「今回の『闘式』をセント側は、余り良く思っていません。しかし、これ程に注目 されて、大規模な大会を無視する事も出来なかったのでしょう。そこで、元老院と しての存在感を示す為には、この大会で優勝をして見せる事、これに尽きるでしょ う。つまり、このコンビは、セントからの挑戦状とも言えるコンビです。」  健人は、セントの情勢を踏まえて説明する。セントは、逃げも隠れもしないと言 うメッセージが込められた二人だった。負けられないコンビである。 「それだけ『闘式』が、注目されていると言う事ですね!・・・さぁ、次のコンビ です。一条 大二郎選手と、藤堂 秋月選手の入場です!」  アナウンサーは、納得しながら、次の選手の入場を伝える。大二郎は、空手胴着 の姿で、秋月は、破れた胴着姿だった。秋月などは、枯れた老人と言った感じだ。 「大二郎選手は、一条さんの父親でしたね。」  アナウンサーもその事を知っている。当然話題に上げてくる。 「はい。父は一条流の全てを出し尽くすと言っています。今大会に懸ける意気込み は、目の当たりにして来ましたよ。是非勝ち上がって欲しいですね。そのパートナ ーである秋月選手ですが、藤堂流合気道の第一人者ですね。私の道場でも、技を披 露してくれましたが、信じられないくらい相手の動きを読むのが上手いです。」  健人は、さりげなく父の応援をして、秋月の事を話す。 「テンマの烏(からす)峠の生ける怪人が、秋月選手だと言う噂もありますね。」  アナウンサーは、資料を見る。確かに資料にはそう載っている。 「はい。自らを追い込んで強くなる為に、技を磨き上げた方だと聞いています。」  健人は、秋月の事は知っていたので、資料を見ずに話す。 「これは、とてつもない技が見られそうですね!・・・次の入場です!黒小路 士 選手に、ファン=センリン選手の入場です!」  アナウンサーは、士とセンリンの入場を伝える。士は、仕事をする時のラフな姿 にコートを羽織っていた。センリンは、お団子の髪型にストリウスの民族衣装を改 造した、戦闘用の服で登場する。 「この二人は、先程紹介したジャン選手、アスカ選手の雇い主ですね。レストラン 『聖』のオーナーを二人でやっています。料理の質は、さっき言った通りです。強 さの方は、士選手は、彼の霊王剣術の使い手だと言う事で、例の天神家に逗留して います。その中でも一、二を争う程、剣術の腕が冴えると言う話です。また、セン リン選手も、その棒術捌きは、目にも止まらないらしく、巧みさでは、士選手に引 けを取らないらしいですね。これは、優勝候補ですよ。」  健人は、資料だけでは無く、江里香から聞いた話を統合して話す。士も然る事な がら、センリンも相当な使い手だと聞いている。 「優勝候補ですか。これは楽しみですね。確かに士選手からは、風格を感じさせる 歩みですね。堂々としています!」  アナウンサーは、士が他の選手と違って、堂々と歩いている事に注目した。 「それだけ自信があるのでしょう。それに私には分かりますよ。平然と歩いている 中で、士選手には一分の隙もありません。センリン選手だって負けていません。そ れに、この二人も『ルール』を使用出来るとの事です。士選手は、敵と味方を一瞬 で見分け、そこにワープする事が出来る『索敵』と言うルールを、そしてセンリン 選手は、近くにある物を掴んだり、持ったり、投げたり出来る『念動』と言うルー ルが使用出来るようです。大変便利だと思いますよ。」  健人は、士の佇まいだけで、強さを把握する。センリンも最近は、腕を上げてき たので、隙が見当たらなかった。まさか伝説の人斬り『司馬』だとは明かせなかっ たので、そこは資料に載っていない。だが『ルール』使いと言う事だけでも、その 強さは想像出来るだろう。しかも凄く使い易い『ルール』だ。 「さぁ、次の入場です!グリード選手とゼリン=ゼムハード選手の入場です!」  アナウンサーは、グリードとゼリンの入場を告げる。グリードは、普段着に弓を 背負っているような格好をし、ゼリンは、清楚な白いワンピースを羽織っていた。 正直、かなり目立っている。 「これは見事な衣装ですね。ゼリン選手。」  アナウンサーも、目立った所を指摘する。 「『闘式』では、こう言った華やかさも必要でしょう。」  健人も、そこは否定しない。視聴率の為には、そこは否定してはいけない所だ。 「で、グリード選手ですが、彼は最近になって、ユード=プサグル家の末裔だと言 う事が判明したらしいです。伝記のゲラムですね。そのせいか分かりませんが、彼 の射撃能力は、凄まじい物があって、弓ですら、50メートル先の標的に当てられ る程の腕前らしいです。それとゼリン選手ですが、彼女は、神の娘らしいですね。」  健人は、手元の資料を見つつも、説明する。 「ほう。あのゲラムの末裔ですか。その射撃能力は、他の選手には脅威ですね。そ れに神の娘とは、また凄い経歴ですね。」  アナウンサーは、特に驚きを見せる。最近は、神の存在も明らかになったとは言 え、やはり信じるには、時間が掛かると言った所だ。 「はい。私も信心深い方では無いので、最初は信じてなかったのですが、この前の 会見や、娘の言う事を信じれば、間違いないようです。彼女は、セントのメトロタ ワーの管理人だったようです。現在のメガロタワーですね。今は、そこを辞めて、 ガリウロルに滞在しています。セントの発表曰く、クビになったらしいですが、管 理人時代は、不法侵入者を見張る為に、活躍したと聞いています。」  健人は、江里香の言う事と、資料を照らし合わせて説明する。セントも、ゼリン の事に関して隠す気は無いようだ。そう言う事も含めて、決着を付けるつもりなの だろう。ゼリンも、その事を分かっている。 「そしてこの二人も『ルール』を使えると言う事です。グリード選手は『千里』と 言う、遠くが見えるようになる能力で、ゼリン選手は『重力』と言う、重力を操る 能力らしいです。これは脅威ですよ。」  健人は、グリードとゼリンの能力を説明する。凄まじい能力だった。 「次の選手の入場です!ミカルド選手に外本 勇樹選手の入場です。」  アナウンサーは、ミカルドと勇樹の入場を告げる。ミカルドは、妖精の森の『樹 海士』として、森の戦士である緑の服を着ていた。勇樹は、女性用の胴着だが、下 は胴着を改造したスカートで、中はスパッツで、足はタイツと言う格好だった。最 初は、男用の胴着を着ようと思ったらしいのだが、女性らしさを見せた方が良いと 言う江里香やファリア達の勧めで、この姿に決めたのだ。 「ミカルド選手は、妖精の森の『樹海士』を1000年に渡り、続けていたと言います。 腕も相当な物でしょう。伝記にも出て来た通り、羅刹拳を使う事でしょうね。そし て、その羅刹拳を現代まで伝えているのが、この勇樹選手でしょう。父親と私は、 何度か闘いましたが、本当に強い選手です。勇樹選手は、その父親を超えるかも知 れないと言う噂があります。非常に楽しみですね。」  健人は、ミカルドの紹介と、勇樹が外本の娘と言う事で、細かく説明する。 「では、このコンビは、羅刹拳コンビと言う事で宜しいですか?」  アナウンサーは、どちらも羅刹拳の使い手だと言う事に注目する。 「そうですね。新旧の羅刹拳のコンビですね。良いチームワークを見せてくれると 思います。特に勇樹選手は、『繊糸』と言うルールの使い手です。これは、大きな アドバンテージになるでしょうね。」  健人は、否定しない。このアナウンサーも良い所に注目してくる。良く鍛えられ ているのだろう。かなり解説し易いようだ。 「次の選手です!毘沙丸=ロンド=ムクトー選手にアイン選手の入場です!」  アナウンサーは毘沙丸とアインの入場を告げた。毘沙丸はガリウロルに伝わる虚 無僧のような姿をしていた。退魔士の正式な格好だ。アインは、白いジャケットに 白いズボンに白いマントと言う、天界の警備長の格好をする。 「これまた、目を引く格好ですね。しかも似合っていますね。」  アナウンサーは、中々派手な格好の二人を褒める。 「ええ。でも、あの格好は伊達ではありませんよ。毘沙丸選手は『北神』と言う神 の一人です。退魔の力を得意とし、『魔力』や『瘴気』に対しては、かなりの強さ を発揮するようです。そしてアイン選手は伝記に出て来るアインと同一人物です。 その後、天界の警備隊長をしていたらしいので、その格好で挑んできているようで すね。上司と部下の関係なので、息もピッタリでしょう。」  健人は、格好だけでは無く、その能力についても言及する。何せアインなどは、 伝記でも出て来ている。それがこの目で見られるのだから、幸せだ。 「次の選手です。おおっと。これは有名な選手ですね!紅 修羅選手と、レオナル ド=ヒート選手の入場です!」  アナウンサーは、地元の英雄の紹介で、声が上ずる。修羅と言えば、ソクトア選 手権で優勝した事で、名声は知れ渡っている。そしてその最後の相手が、ヒートだ と言う事も知れている。修羅もヒートも柔道着を着ていたが、修羅はガリウロルを 表す白い胴着で、ヒートはデルルツィアの色である、緑色の胴着だった。 「このコンビは、言うまでもありませんね。ソクトア選手権の柔道代表の二人です。 このガリウロルのサキョウ代表の修羅選手と、デルルツィア南代表のヒート選手で すね。この二人の決勝は見応えがありました。」  健人も、その試合はテレビで何度も見た。技と力が拮抗した素晴らしい試合だっ た。その感動は、全ソクトアに知れ渡っている。 「ヒート選手は、ヒート一族の継承者ですから、アルヴァ選手と面識があるでしょ う。アルヴァ選手は、ツィーア財閥の危機が無かったら、継承者になれたかも知れ ないとも言われていますし、楽しみですね。ちなみに修羅選手も『重心』と言う、 柔道には欠かせない要素のルールを使えるようです。」  健人は、ヒートとアルヴァの因縁の説明をして、修羅の『重心』の説明をする。 (アルヴァ・・・。来ているようだね。ワタシは、キミと決着を付けたい。)  ヒートは、ストリウス会場のアルヴァが写っている画面を見る。 (レオさんか・・・。あの時の僕と一緒にしてもらっちゃ困るよ。)  アルヴァは不敵な笑みを浮かべて、ヒートの方を見ていた。継承者争いでは、僅 かだがヒートが勝っていた。しかしアルヴァは、手を抜いていた節がある。それを ヒートは見抜いていた。 「次は、おおっと!これも凄い人気です!聞いて下さい!この声援を!この声援は、 伝説のプロレスラーの名を継いだサウザンド伊能選手に送られた物です!そして、 その横には・・・おおっと、これは、また派手ですねぇ。榊 亜理栖選手ですが。」  アナウンサーは、巌慈と亜理栖の入場を伝えた。巌慈には、入場する前から物凄 い応援団の声が聞こえた。プログラムを見て合わせたのだろう。巌慈は、プロレス ラーらしく、下はタイツで、上半身はマントで覆って、マスクを被っていた。それ に対して亜理栖は、先日に前夜祭で見せたくノ一の格好をしていた。どうせ闘いに なったら、この格好だからと吹っ切って、この格好にしたのだが、やっぱり恥ずか しいのだろう。顔を真っ赤にしていた。 「亜理栖選手は、榊流護身術のサキョウ道場の跡取りですが、最近になって、榊流 忍術も使えると公表されたばかりです。なので、あの格好で来たのでしょうが、派 手ですねぇ。・・・それと伊能選手は、言うまでも無く、伝説のプロレスラーのサ ウザンド伊能の名を継いだ本人ですね。父親は強かったですよ。」  健人は浮かれる事無く、ちゃんと説明をする。亜理栖の格好は派手だが、ちゃん と榊流忍術のくノ一の正式な格好なのだ。これで来る以上、忍術を使う事は間違い ない。そして、巌慈が現在のサウザンド伊能である事も説明する。 「ちゃんと理由があっての二人の格好なのですね。納得です。」  アナウンサーは、健人の解説で、納得したようだ。 「この二人も『ルール』が使えるようです。伊能選手は『鋼身』のルールですね。 何でも、耐久力が飛躍的に上がるとかで、プロレスラーとして、ただでさえ高い耐 久力が強化される、凄い能力です。亜理栖選手は『帯雷』のルールですね。雷の力 を操る事が出来る能力で、忍術との併用が期待されます。」  健人は二人の『ルール』に付いても言及する。 「次は、榊 総一郎選手と、冬野 健一郎選手の入場です!」  アナウンサーは、総一郎と冬野の入場を伝える。すると、また一際声援が多くな った。今度は、榊流の門下生が歓声を送る。二人共、忍者装束を身に纏っていた。 総一郎は、顔が隠れるタイプで、冬野は顔が出ているタイプだった。 「こう来ましたか。総一郎選手は、派手な格好では無いと思ったのですがね。榊流 忍術を押し出すと決めたみたいですね。榊流忍術の総帥としての格好をしているよ うです。冬野選手は、榊流のサキョウ道場の門番をしています。彼も相当な使い手 ですよ。忍術コンビと言って、差し支え無いでしょう。」  健人は、総一郎の事は知っていた。何せ、自分の後に瞬が現れるまでのソクトア 空手大会の覇者だからだ。この男が出たので、健人は優勝出来なくなったのだ。 「一条さんは、総一郎選手と闘った事がありますね。どうでした?」  アナウンサーも手元の資料に、その事が書いてあるのを知る。 「彼は、本当に相手を追い詰めるのが上手いです。熟練の技ですね。背も高いので、 それを利用した闘いを老獪に仕掛けて来ます。他の選手も苦労すると思いますよ。 冬野選手も、そのパートナーとして選ばれている訳ですから、相当な使い手だと窺 い知れます。サキョウ道場の道場破りの相手は、ほとんど彼が請け負ってるらしい ですからね。一回も負けてないんですよ?彼は。」  健人は、総一郎の事は、過去の闘いからの感想を述べ、冬野の事は、噂で聞いた 事を独自に分析して解説する。 「次はストリウスからです。砕魔 健蔵選手と、メイジェス=ローン選手の入場で す。オーロラビジョンをご覧下さい。」  アナウンサーは、健蔵とメイジェスの入場を知らせた。ストリウス会場からだっ たが、凄い歓声が聞こえた。これは魔族の間からだ。健蔵と言えば、魔族の間では 尊敬を集めている。そしてメイジェスは、その天真爛漫さで最近人気なのだ。健蔵 は、戦闘用の黒い大剣を携えて、黒いジャケットを羽織っていた。メイジェスは、 ピンクのレオタードにジャンパー姿と言う派手な格好だった。 「健蔵選手は、伝記にもありますね。彼は伝記で伝わる魔族の中でも、かなり有名 です。魔族の為に生き、魔族の為に死んだ事でね。強さを示すエピソードも、枚挙 を挙げたらキリがありません。それに対しメイジェス選手は、今大会の魔族の中で も、一番強いと噂されているケイオス=ローン選手の娘です。この二人は、最近に なって婚約したとかで、絆も強いと思われます。」  健人は、健蔵の事を魔族の為に生き、魔族の為に死んだ男と評する。伝記時代の 健蔵は、正にその通りで、伝記でも恐怖の対象に近かった。メイジェスは、ケイオ スの噂が流れているので、それに合わせての紹介をする。 「健蔵選手は、1000年の時を掛けて復活したらしいですが、今回は、上司で父親で ある神魔ワイス選手が、人間と対立するつもりが無いとの事で、紳士的な対応をし ている事で有名です。私も、ワイス遺跡の騒動から今までの対応を見ていなければ、 恐怖していた事でしょう。しかし、この大会では、その強さを見せてくれる筈です。 これは、ワイス選手と合わせて、楽しみですね。」  健人は、最近の健蔵の動向もちゃんと説明する。資料と共に、自分で見た事も踏 まえての説明だった。さすがにちゃんと調べているだけある。 「次はこちらですね。神城 扇選手に風見 隆景選手の入場です!」  アナウンサーが扇と風見の入場を知らせた。扇は、神城流に伝わる赤い胴着を着 ていた。風見はそれに合わせて、橙色の胴着を着る。 「この二人ですか。・・・扇選手は、空手大会でも見せた通り、神城流空手の継承 者です。彼はやり過ぎる所があるので、要注意です。それと風見選手は、神城流の 家に仕える者で、その実力は、扇選手に迫る物があると言われています。爽天学園 の部活動対抗戦に出場したのですが、扇選手と同じく、やり過ぎた所があった様で、 今大会でも、その様な事が無いと良いのですが・・・。」  健人は、この二人に、余り良い印象を抱いていなかった。前の空手大会では、扇 がやり過ぎた所を見ているし、風見が部活動対抗戦で、ヒートに対し同様の行為を したと、江里香から聞いているからだ。 「この大会では、死人を出さない事が、規約に掲げられています。大丈夫だとは思 いますが・・・。やり過ぎて後遺症が残らないか心配です。」  アナウンサーは、大会規約を説明しながら話す。 「そうですね。それと、この扇選手も『疾風』と言うルールが使えるようです。カ マイタチの様な風を起こせる能力らしいですね。これは脅威です。」  健人は『ルール』の説明を忘れない。扇は自分の『ルール』を、『疾風』と名付 けたようだ。確かにその通りの能力だ。 「次は、ネイガ=ゼムハード選手と、ショアン=ガイア選手の入場です!」  アナウンサーが、ネイガとショアンの入場を告げた。ネイガは、鳳凰を描いたシ ャツに、マントを羽織った格好で、ショアンは、仕事着のTシャツにコートと言っ た出で立ちだった。 「このコンビのまず注目すべきは、ネイガ選手ですね。ネイガ選手は、伝記でも出 て来た鳳凰神でいらっしゃいます。伝記でも、その活躍は描かれている通りです。 他の参加者が、ネイガ選手の圧倒的な力に、どう立ち向かっていくかも注目です。 一方のショアン選手ですが、レストラン『聖』の従業員の一人で、彼の槍捌きは、 鉄壁だと言います。非常にバランスの取れたコンビだと思いますよ。」  健人は、ネイガに対しては、敬語を交えて話す。やはり神相手だと、畏まってし まうのは、今までの教育のせいかも知れない。 「ネイガ選手は伝記でも、素晴らしい活躍を成されてましたからね。一方のショア ン選手は、槍使いとは、この大会でも珍しいのでは無いでしょうか?」  アナウンサーは、ショアンが槍使いと言う事に注目する。 「そうですね。このソクトアでは、最近では格闘術が主流ですが、古くからは、剣 術が盛んですからね。槍術と言うのは、珍しい部類になると思います。それだけに、 本格的な使い手を見てみたい気がしますね。」  健人は、槍術の本格的な使い手を、中々見た事が無い。このショアンが、それを 見せてくれると、期待しているのだ。 「ネイガ選手は、伝記にもある通り、『恒星』のルールが使えます。恒星の力を具 現化するらしいのですが、反動が大きいので、簡単には使えないそうです。ショア ン選手は、『追跡』のルールと言う目標物を追い掛けるルールが使えるようです。 こちらは便利な能力だと思います。」  健人は『ルール』の紹介を忘れない。ネイガは、簡単には使えないが、ショアン は、便利な能力なので、使う可能性がある。 「さぁ次は、ストリウスからです。ワイス選手にハイネス=ローン選手の入場です!」  アナウンサーは、ワイスとハイネスの入場を知らせた。ワイスは、如何にも魔族 と言った出で立ちをする。長く伸びた爪に2本の角、それに強大な翼を上手く見せ る為に用意された漆黒のマントを羽織っていた。変わってハイネスは、若い魔族の 間で流行っているピアスを付けて、翼には見栄えのする牙の装飾が施されていた。 それをカーディガンで纏めて見せると言う手法を取っていた。 「ワイス選手は、伝記でも伝えられている出で立ちですね。自らの武器を上手く見 せた装飾です。ハイネス選手は、若い魔族の間で流行っているピアスを中心に、若 々しいデザインのようです。」  健人は、資料と照らし合わせて紹介する。 「このコンビは、何処に注目でしょうか?」  アナウンサーは、本題に入る。 「そうですね。ワイス選手は、伝記でも良く書かれています。神魔ワイスと言えば、 類稀なる強さと、懐が深い魔族として有名ですね。『瘴気』の使い方は、誰よりも 群を抜いて上手いでしょう。ハイネス選手は、ケイオス選手の息子と言う事で、誰 よりもケイオス選手が期待している事でしょう。私が江里香に期待しているのと一 緒ですよ。ワイス選手とコンビを組んだ事で、ケイオス選手との闘いが、面白くな る事が期待されます。」  健人は、自分が江里香に寄せる期待を話しながらも、ハイネスの紹介をする。親 が子に期待すると言うのは、人間であっても魔族であっても一緒だろう。 「『闘式』では、数々のドラマが生み出されると言う事ですね。楽しみですね!」  アナウンサーは、視聴者が期待している事を代弁する。 「さて次は、赤毘車=ロンド選手と、藤堂 葉月選手の入場です!」  アナウンサーの声で、赤毘車と葉月が入場する。赤毘車は、ガリウロルに昔居た 侍の格好をしていた。燃えるような髪に上手く噛み合わさっていた。一方の葉月は、 天神家のメイドの格好で出て来る。多少動き易いように改造してあるが、目を引く 格好だった。天神家のメイド代表で出ると言う意気込みを感じられた。 「さぁ赤毘車選手です!伝記でも『人道』を支援した神として、有名な方でいらっ しゃいます!その伝説の存在が、この現代に、蘇りました!」  アナウンサーは、赤毘車の紹介に時間を掛ける。 「伝記の剣神の赤毘車選手ですね。赤毘車選手は、剣の神でいらっしゃるので、剣 技に関しては、彼のジークですら互角と言う腕だったそうです。伝記を読んだ事の ある人なら、その強さが分かると言う物です。一方の葉月選手は、秋月選手の孫に 当たる人物で、藤堂流合気道を継承しているそうです。それを更に磨きを掛ける為 に、赤毘車選手と特訓をしたと言う情報があります。楽しみですね。」  健人は、赤毘車にも敬意を持って説明する。そして葉月に関しては、藤堂流合気 道についての補足をしながらの説明をした。中々分かり易い。 「それにしても、あの格好は・・・メイドですか?」  アナウンサーも、闘いの場にメイドが出てくるとは思わなかったのだろう。 「そうですね。葉月選手は、あの天神家のメイド長で、『闘式』のガリウロル会場 の審判でもある藤堂 睦月さんの妹さんです。しかも、最近有名になってきた全ソ クトアご奉仕メイド大会でしたっけ?あの大会で、同時優勝を果たした優秀なメイ ドだと聞いています。その誇りを忘れない為の衣装だと思います。」  健人は、補足説明をする。単に目を引くだけの衣装では無く、誇りがあるからこ そ、敢えてこの格好をしていると言う事を強調した。 「成程。確かに参加者は、自分を示す為の衣装を着ている方が多いですからね。」  アナウンサーは納得する。今回の『闘式』は、単に実力を示す為では無く、自分 がどのように修行し、どのような人生を歩んできたかを見せてくれる大会に、なり つつあるのだ。 「赤毘車選手は、『一閃』と言うルールが使えます。これは直線上に居る相手を、 選んで切る事が出来ると言う凄まじいルールです。一方の葉月選手は、『結界』と 言うルールが使えます。名の通り、全てを遮断する結界を張るルールだと聞いてい ます。攻防を兼ね備えた組み合わせだと思いますよ。」  健人は、『ルール』の説明をする。実際、この二人の組み合わせは、凄くバラン スが良い。手強い事は、間違い無かった。 「次の入場です。・・・おお。この方の入場ですか!ジュダ=ロンド=ムクトー選 手と・・・桜川 魁選手の入場です!」  アナウンサーは、ジュダと魁の入場を知らせる。ジュダは余りにも有名なので、 物凄い盛り上がりを見せる。しかし魁の名前が上がった時、会場はざわつき始めた。 「さぁ、ついにこの方の入場です!ジュダ選手!伝記でもあらゆる場面で活躍し、 現在の神のリーダーであり、『人道』を支援した竜神でいらっしゃいます!」  アナウンサーも、これ以上無い程、興奮していた。 「ジュダ選手は偉大な竜神であり、伝記でも『人道』を支援する事を最初に決めた 神として、余りに有名ですね。赤毘車選手と合わせて、その闘いが見たいと思う人 は、いっぱい居ると思います。・・・一方で忘れてはいけません。タッグを組んだ 魁選手ですが、彼は爽天学園の生徒で、ファリア選手のお弟子さんの一人らしいで す。2ヶ月前までは、極普通の生徒だったと言う情報ですが、ジュダ選手の導きで、 凄い特訓を受けたとの情報があります。これは楽しみですね。」  健人は、ジュダに埋もれそうになっている魁の事を、ちゃんと紹介する。実際に、 人々の期待は、魁では無く、ジュダに注がれている。だが、ジュダが選んだパート ナーなのだ。ただの一般人である筈が無い。 「そうですね。確かにジュダ選手は、赤毘車選手と組むとの予想が溢れていた中で、 赤毘車選手は葉月選手と、ジュダ選手は魁選手と組んでいます。これは、注目すべ き条項ですね。人と神との絆に期待が掛かります!」  アナウンサーも浮かれ気味だったのを戻して、健人に合わせる辺り、かなり鍛え られている。仕事とは言え、浮かれたい気持ちを抑えるのは、大変だろう。 「ジュダ選手は、『付帯』のルールが使えます。これは伝記でも、良く登場した宝 石を使った必殺技を使う為のルールですね。宝石の数だけ必殺技があると言う話で すので、非常に強力なルールです。この特設会場のバリアにも使われているとの事 です。一方で魁選手は、『探知』のルールが使えます。これは人でも物でも、どん なに離れていようとも見つけ出す事が出来るルールと言う事ですので、戦闘向きで はありませんが、タッグを組む『闘式』では、脅威になりうるルールです。」  健人は、ジュダの『付帯』が、この会場のバリアに使われている事の宣伝を忘れ ない。それと、魁の『探知』を脅威と言った。それは、どんなに隠れても見つけ出 す事が出来るからだろう。今回の会場は、結構広めに作ってある。しかし、魁の能 力を使われれば、何処に隠れていても見つかってしまうのだ。そこをジュダと言う 類稀な戦闘力で狙われたら、一溜まりも無いだろう。健人は、そう読んでいるのだ。 「成程。これは、他の参加者は、注意が必要です!」  アナウンサーも、意味が分かったようで納得する。 「次は、ストリウス会場からです!この『闘式』の賛同者にして、『覇道』を提唱 している魔族!ケイオス=ローン選手と、その妻であるエイハ=ローン選手です!」  アナウンサーは、手元の資料を元に、ケイオスとエイハの入場を叫んだ。すると、 ストリウス会場は、大きな盛り上がりを見せる。現在の魔族達の羨望を集め、『覇 道』を提唱した新たな『神魔』ケイオスの登場に、会場は盛り上がった。ケイオス は、ワイスに劣らずの雰囲気を見せる。年季の入った角に、激闘を潜り抜けた跡が ある青色の翼を誇示し、カメラに対して見せる眼は、見ている者を平伏させる程の 力を宿していた。一方のエイハは、長い髪を纏めてガリウロルの衣装である古代の 和服を着ていた。それに自分が闘いで使う扇子を携えていた。ガリウロルの大奥を イメージしたそうだ。 「さすが『覇道』を新しく提唱したと言うケイオス選手ですね。あの眼の力は、本 物です。あそこから感じる意志は、尋常ではありません。それもその筈で、ケイオ ス選手は、長年現れなかったと言う、『神魔』の座に着いた魔族で、過酷な試練を 潜り抜けた猛者だと聞いています。その証拠に、ストリウスの魔族達が一斉に、羨 望の眼差しで見詰めています。これは、強さが溢れている証拠です。」  健人は、ケイオスの説明をする。伝記には居なかったが、ケイオスは、この会場 の中に居る魔族の中では、一番強いと言う情報がある。 「一方のエイハ選手は、ケイオス選手の妻で、伝記でも有名な、魔神レイモスの子 であるらしいです。一時期、ケイオス選手と魔界の覇権を争ったとの情報があるの で、ケイオス選手に迫る強さを持っている事でしょう。」  健人は、資料を見ながら、身震いする。あの射抜くような眼差しを持つケイオス と、それに近い実力を持つエイハは、どれだけ強い事か・・・。 「ケイオス選手は、伝記のレイリーとストリウス会場の審判であるジェシーさんの、 息子であり、魔界に力を付ける為に、敢えて向かったと言う話です。凄まじいです ね。これは、優勝候補の筆頭でしょう。」  健人は、ケイオスを優勝候補の筆頭として紹介する。逸話と言い、雰囲気を言い、 間違いないと判断したのだろう。 「す、凄いですね。このケイオス選手に対し、他のタッグが、どれだけ闘えるのか が、注目されます!」  アナウンサーは、健人の様子にビビリながらも、上手く纏める。 「次は・・・これも凄いコンビです!レイク=ユード=ルクトリア選手と、ファリ ア=ルーン選手です!」  アナウンサーは、レイクとファリアの入場を叫ぶ。すると、資料を見ていた会場 は、一斉にざわつき始めた。レイクは資料にも書いてしまったので、伝記のジーク をあしらったバンダナとジャケットとマントを用意して、後ろにエル・ソードを背 負っていた。このニクイ演出に会場は、一層盛り上がる。そして、横に居たファリ アも、伝記のレルファをあしらった格好をしていた。散々似ていると言われたので、 逆に利用してやろうと思ったのだ。 「これは凄いですね!伝記の挿絵の格好そのままですよ!あたかも伝記の人物が、 飛び出たかのような演出です!」  アナウンサーは先程、ケイオスの件で盛り下がりそうだったので、一層盛り上げ ていた。それだけの華もあった。 「これは、盛り上がりますね。レイク選手は、ジークの子孫で、ユード家の血を濃 く受け継いでいるとの情報があります。それが本当ならば、あの剣術を披露してく れる事が期待されます。一方のファリア選手は、レルファの子孫らしいですが、そ れ以上に、最近の魔力講座で良く出演しているので、そちらで知っている方も多い と思います。稀代の魔法使いであるとの事です。」  健人は、ジークの子孫と、レルファの子孫と言う事を、強調する。伝記を読んで いる者ならば、誰しもが憧れるジークの子孫と、レルファの子孫だ。しかもファリ アの場合、魔力を使った便利講座に何度か出演しているので、顔も知られている。 「手元の資料によりますと、レイク選手は、祖父のリークが起こしたセントへの反 乱の罪で、『絶望の島』に居たようですが、つい最近になって、釈放が決まったよ うです。それにしても、『絶望の島』とは・・・。」  アナウンサーが読み上げながら、ビックリする。『絶望の島』の噂は、誰もが知 っているからだ。二度と帰れないと言われている『絶望の島』だ。  レイクとファリアは、生まれを明かした事で、伝記の人物が不当な扱いを受けて いると知られるのを、セントは拙いと判断したのだろう。なので、脱走したレイク の仲間達は、釈放したと言う発表を行ったのだ。しかし、一時期でも『絶望の島』 に入れられていたと言う事で、人々のセントへの不審は、広がっていた。 「リークの反乱は、衝撃でしたからね。それでも、レイク選手は、その時3歳だっ たと言います。右も左も分からなかったと思いますよ。・・・しかし、こうして無 事な姿を見せてくれたのです。素晴らしい闘いを期待したいですね。」  健人も、その話には、憤りを感じていた。だがセントを、これ以上怒らせても仕 方がないので、話を打ち切る事にする。 「レイク選手は、周りの対象物を自由に斬る事が出来る『万剣』のルールが使える と言う事です。正にレイク選手らしいと言えるでしょう。一方のファリア選手は、 魔法の中で一番難しいと言われる召喚魔法の能力が上がる『召喚』のルールが使え るとの事です。これを利用した闘いが期待されますね。大変に便利な能力で、本人 達の強さも相まって、このコンビも優勝候補と言えるでしょう。」  健人は、『ルール』の補足説明をする。そしてレイクとファリアの事も、優勝候 補に挙げる。何せ隙が無い。レイクが、あの剣術の使い手であるならば、どれほど 強いか予想が出来ないし、ファリアは、一番難しい魔法を自由に操れる能力なので、 これも強さが予想出来ないでいたからだ。 「楽しみですね!・・・では、次のコンビです。・・・おおっと!次も注目です! 全ソクトア空手大会の優勝者の天神 瞬選手と、一条さんの娘さんである一条 江 里香選手の入場です!」  アナウンサーは、瞬と江里香の入場を告げる。すると瞬は、真から受け継いだ天 神流の空手着を綺麗に補修した物を着てくる。この日に合わせて、睦月が補修して くれたのだ。そして江里香は、上半身は空手着で、下半身は合気道特有の袴を履い てきていた。これまた珍しい格好である。 「瞬選手の強さは、ソクトア中に轟いています!天神流の一撃必倒の体現者として、 数々の死闘をしてきたとの情報もあります!一方の江里香選手は、一条さんの娘さ んでもあります。これは期待が出来ます!・・・一条さん?」  アナウンサーは喋っていたが、健人が黙っていたので解説を促す。 「申し訳ありません。この歳になると、涙腺が緩んでいけませんね。」  健人は、江里香の入場が余りに堂々としていたので、感動していたのだ。 「では、気を取り直して戴いて、このコンビの注目点をお願いします。」  アナウンサーは、健人が落ち着いたのを見て、解説を求めた。 「はい。瞬選手は、空手大会でも見せてくれたので、知っている方も多いと思いま す。一撃必倒を目指し、拳を極限まで鍛え上げる空手を武器に闘います。最近では、 神の力である『神気』と言う物を使いこなせる様になったと聞いています。更なる 強さを見せてくれる事でしょう。で、うちの江里香ですが、江里香は我が一条流の 代表として、父の大二郎と共に出場しています。一条流は、相手に悟られない動き と、正確に弱点を突く事を極意としています。その極意を、私の目の前で見せてく れると信じています。」  健人は、瞬の一撃必倒の精神を紹介し、江里香が使う一条流の極意を話す。一条 流は、とにかく捌きが上手い事で有名だ。そして、動きで翻弄した後に弱点を突い て倒す。主に正中線を狙う事が多い。 「そう言えば一条さんも、相手を受け流した後の、強烈な一撃で倒した試合が多か ったですね。やはり、一条流の教えがあったからこそですか?」  アナウンサーは健人の試合を思い出す。 「はい。私が勝利を収めた試合も、一条流の賜物です。しかし、正確に打ち抜く為 には、何度も何度も繰り返し修練するしかありません。父は勿論の事、江里香も頑 張っていましたからね。この大会でも、見せてくれると信じています。」  健人は、江里香が、壁にぶつかりながらも頑張っていた事を、知っている。 「しかも江里香は、一条流だけでは無く、藤堂流の合気道も身に付けたので、受け 技も見せてくれる事でしょう。返って来たときの手合わせで、私は見事に引っ繰り 返されました。秋月選手の修行を受けていたようです。」  健人は補足説明をする。江里香は秋月の元で合気道の修行もしたのを、知らせて おこうと思ったのだ。血の滲む様な特訓をした娘に、期待するのは当然だった。 「それと、瞬選手は『破拳』と言う、拳に触れた物を破壊すると言うルールを使い、 江里香は、先程説明した『治癒』のルールが使えます。瞬選手の爆発力と、江里香 の回復力が加われば、相手は苦戦を免れません。控えめに見ても、このコンビも優 勝候補と言えるでしょう。親馬鹿と言われかねませんけどね。」  健人は『ルール』の説明をした後、優勝候補に挙げた。しかし、言っている事は 的を射ていた。このコンビも正しく脅威で、優勝候補に間違いは無かった。 「さて、最後の選手の登場です!この『闘式』の主催者にして、魔族と人間の間に 生まれた天神家当主!ここまでの大会に仕立て上げた手腕と、華麗な会見で、人々 の期待を一身に請け負う若き英雄の登場です!その名も天神 恵選手です!そして、 そのパートナーは、パーズ拳法の免許皆伝者であり、瞬選手と数々の互角の闘いを 演じたと言う、若き闘士!島山 俊男選手の入場です!!」  アナウンサーは、一際派手に紹介する。この『闘式』のスポンサーであると言う 事もあるが、話題が尽きない二人だからだ。  その恵と俊男が入場すると、会場は驚きと期待の歓声を上げる。何と恵は、真っ 赤なドレスにモデルも真っ青の天女のような布をあしらった服を着ていた。見てい る者を夢見心地にするくらい、美しかった。その隣に居る俊男も、パーズ拳法の象 徴である龍、蛇、虎、豹、鶴の刺繍が施された胴着を着て、その髪は、生え際が暗 黒色で、先が金色に輝いていた。 「これは・・・凄い・・・!」  アナウンサーも言葉を失うくらい豪華だった。恵だけでは無い。俊男も負けてい なかった。しかも感じる力は、ケイオスにすら負けていない。 「私も、俊男君が凄い力を手に入れたと、何度も江里香から聞いていましたが、こ れは、凄いですね・・・。」  健人も感嘆の溜め息を吐くくらい、力を感じていた。 「失礼しました。では一条さん、解説をお願いします。」  アナウンサーは正気に返ると、健人に解説をお願いする。 「はい。恵選手は、一言で言うならば天才です。この人は、教えた事をスポンジの 如く吸収する事が出来ます。闘いに関しては、藤堂流合気道を3年で物にし、ここ 半年でパーズ拳法をも会得したと言います。それに加えて、この前の会見で明かし た半魔族と言う特性上、『瘴気』を扱う事が出来ます。」  健人は、恵の資料を見つつも、聞いた話と統合する。 「一方の俊男君ですが、彼はパーズ拳法の免許皆伝を持っています。恐らく恵選手 に教えたのも彼でしょう。そして、彼自身の能力ですが、瞬選手と何度か死闘を演 じ、互角の勝負をしているとの事です。・・・しかも、この前、ケイオス選手が、 俊男君に圧倒的な力を見せ付けに行ったらしいのです。その悔しさをバネに、彼は 『魔性液』を手に入れて、伝記のレイリーの様に、『魔人(まびと)』になる事に 成功したと言います。勿論、死ぬ程の苦しみだったらしいですが・・・。」  健人は、聞いた話を元に、俊男の話をする。江里香から聞いた話がほとんどだ。 「私も後で知ったのですが、俊男君は、元々『神気』を扱えたらしいのです。その 状態で体に『瘴気』を入れたので、本当に苦しんだとの事です。・・・だけど、そ れを乗り越えた俊男君の姿が、あれです。『神気』と『瘴気』を同時に扱える『聖 魔』と呼ばれる存在になったのです。」  健人は補足説明をする。俊男が、そんな苦しむ事をしているとは、知らなかった が故にショックだった。可愛がっていたからだ。 「壮絶な話ですね。それも『闘式』に勝つ為なのでしょうか?」  アナウンサーは、ビックリする。そこまで命を懸ける選手が居るとは思わなかっ たからだ。今の話が本当なら、俊男は死に掛かったのだ。 「はい。彼にも、負けられない何かがあるのでしょう。私にすら想像出来ない何か がね。それだけに、このコンビは、この大会で一番の注目株でしょう。」  健人は、一番の注目株だと言った。優勝候補の筆頭はケイオス、エイハ組だが、 優勝を左右するのは、この恵、俊男組だと思ったのだろう。 「この恵選手は、『制御』と言う、あらゆる力を制限、制御出来るルールが使える ようです。とても便利ですね。そして、俊男君は『跳壁』と言う足場が作れるルー ルを使用出来ると言います。これは地味なようですが、とても重要です。足場が安 定すると言う事は、どんな状態であっても、最大の力が発揮出来ると言う事です。 大変応用が利くルールなのでしょう。」  健人は『ルール』の説明をした。恵も俊男も、直接戦闘に繋がる『ルール』では 無いが、応用する事で、無限の可能性がある『ルール』だった。 「以上を持ちまして、選手入場を終了致します。・・・いやぁ、凄い盛り上がりで したね。これは、どの選手も見応えある試合が期待出来ますね!」  アナウンサーは、気持ちを落ち着かせて、健人に話題を振る。 「そうですね。どの選手が優勝してもおかしくないと思います。しかし、やはり注 目なのは、ケイオス選手とエイハ選手の組と、恵選手と俊男君の組でしょう。」  健人は、統括する。この2チームは、本当に強さが滲み出ている。やはり、優勝 候補の筆頭に挙げられるのだろう。 「成程。有難う御座います。・・・さぁ!次は注目の会場分けです!」  アナウンサーが会場分けのアナウンスをする。すると会場も、それに合わせて歓 声を上げる。この会場分けを生で見たいから、今日の券を取った人も多い。  注目の会場分けが、始まろうとしていた。  会場分けで、ある程度の優勝予想がされる。勿論、下馬評の高いタッグは、もう 既に優勝候補として、名を連ねている。だが組み合わせ次第では、強いタッグに何 度もぶつかるタッグもある。そうなれば、疲労度も違ってくる。疲労が重なれば、 如何に強いタッグであろうと、足元を掬われかねないのだ。  そんな中、次々と振り分けが決まってくる。その中にも、かなりの大物が居たが、 人々が注目しているのは、後半に別枠で紹介された面々の組み合わせである。  とうとう別枠の者達が抽選を引く事になった。紹介順なので、まずはエイディと 葵の組であった。 「エイディ選手!前に!」  係員が促すと、代表のエイディが前に出る。その横には葵の姿もあった。そして、 完全に視界が遮断された箱の中に入ってあるボールを掴み取るのだ。その色が青の 場合はストリウス、赤の場合はガリウロルだ。エイディは、箱の中を探る。そして、 迷ってもしょうがないので、適当にボールを手にした。 「・・・青だ!ストリウスだな!」  エイディは、会場に見せ付ける。そして電光掲示板にエイディと葵がストリウス サイドに行く事を伝える表示が出た。 「さっすがエイディさん!行きたかったんですよー?ストリウス。」  葵が喜んでいた。大会の移動とは言え、ストリウス観光がしたかったのだろう。 「お前ね・・・。遊びで行くんじゃないんだぞ?」  エイディは呆れていたが、葵が喜んでいるので、気にしない事にする。  次に出てきたのは、ジャンとアスカだった。 「ジャン選手!お願いします!」  係員が、ジャンを呼ぶ。アスカは、ジャンの動向を伺う。ジャンは、これも適当 にボールを探る。まだ振り分けも最初なので、あまり気にする必要は無いだろう。 しかしジャンは、ガリウロルを引きたかった。それは、ケイリーがガリウロルの会 場に居たからだ。どちらの会場にも、元老院が派遣されるのだが、ケイリーは、ガ リウロルの担当になったのだろう。 「・・・赤だ!此処だな!」  ジャンは、ガッツポーズをしそうになるのを抑えて、会場に赤いボールを見せた。 「これで、ウチ達は、エイディ達と当たらずに済みそうだね。」  アスカが、率直な感想を述べる。本当は分かっている。ジャンがどんな想いでボ ールを引いたのかをだ。しかし余計な事は言わないつもりでいたのだ。 「ああ。ま、どっちも決勝に行くくらいのつもりで、やろうぜ!」  ジャンは、アスカに明るく返す。アスカが気遣っているのを感じたので、それに 対応したのだ。それに今は、ケイリーの事を考え過ぎないようにしたのだ。  次にシャドゥとドラムが壇上に上がった。 「シャドゥ選手!お願いします!」  係員が促すと、シャドゥは、これも無造作にボールを探る。深く考えないように したのだ。どうせ知り合いが多いので、いずれかと当たると思ったのだろう。 「青だ。ストリウスだ。」  シャドゥは、会場に見えるようにボールを見せる。 「おう。ストリウスか。やったろうぜ。」  ドラムは、シャドゥの肩を叩く。このやり取りも慣れた物だった。  そして次は、電光掲示板の向こう側で、篤則とアルヴァが前に出る。 『篤則選手!お願いします!』  向こう側の係員が促す。そして篤則は、軽く手を回してからボールを掴む。 『・・・ほう。青だな。ストリウスだ。』  篤則は、こちら側にも見せ付けるようにボールを見せた。すると、周りがざわめ き始めた。ストリウスが多いからだ。  そして次に大二郎が壇上に上がった。 「大二郎選手!どうぞ!」  係員の促しで、大二郎が無造作にボールを掴み取った。ちなみに、この箱は、中 に『次元』の魔法を掛けてあって、ボールはどっちの会場でも共有している。だか ら、偏る事は無いのだが・・・。 「・・・む?青じゃな。ストリウスか・・・。」  大二郎は、さすがに顔を顰める。ストリウスが多いようだ。会場もざわつく。 「・・・ま、良いのでは無いか?どちらでも変わらぬよ。」  秋月は、会場決めくらいでは動じない。さすがの精神力だった。  そして士が壇上に上がった。会場は、段々注目し始めていた。 「士選手!お願いします!」  係員は、良く箱を振ってから士に引かせる。と言っても、『次元』で共有してい る箱なので、振った所で効果は無いのだが・・・。 「赤だ。ガリウロルだ。」  士は、手早く取って会場に見せる。会場のざわめきは、少し収まった。 「士、お疲れさマ!ジャンさんやアスカ達と同じ会場になったネ。」  センリンは、ジャン達の事を気にしていた。 「ま、遅かれ早かれ当たる可能性はあるんだ。気にしない事だな。」  士は動じない。気にしても、結果は変わらないからだ。  次にグリードが壇上に上がった。その抽選に注目が集まる。 「グリード選手!お願いします!」  係員がグリードに箱を向ける。グリードは、少し緊張しながらボールを取った。 「・・・青か。ストリウスだな。」  グリードは、少し冷や汗を掻きながら見せた。いくら何でもストリウスが多いか らだ。意図している訳では無い。本当に偶然だろう。 「ストリウスか。一緒に買い物とかしたいな!」  ゼリンは、全く動じていなかった。ある意味大物だった。多分天然なだけだろう。  次にミカルドが壇上に上がる。人々は段々注目度が上がってきた。 「ミカルド選手!お願いします!」  係員に促されて、ミカルドは手早くボールを掴んだ。 「お。ガリウロルだな。赤だ!」  ミカルドは、会場にボールを見せる。会場は、納得の溜め息を漏らす。 「ちぇー。ガリウロル会場かー。ストリウスに観光に行きたかったぜ。」  勇樹は、ストリウスに行った事が無かったので、不満を漏らす。暢気な物だった。  次に毘沙丸が前に出る。ついに神が抽選をする時が来たのだ。 「毘沙丸選手!お願いします!」  係員は緊張気味に箱を向ける。やはり神だからだろうか? 「・・・ほう。拙はガリウロルか。赤だ。」  毘沙丸は、赤のボールを会場に見せた。会場は、これで安心する。余りにストリ ウスが続いたのは、偶然だったようだ。 「毘沙丸様。感謝致します。ストリウスで無くて、ホッとしております。」  アインは胸を撫で下ろす。ストリウス会場となると、会場から滞在ホテルまで、 かなり距離があると言う情報があったからだ。このガリウロル会場は、シーサイド なのでシーサイドホテルを使えば、目の前だからだ。 「お主の乗り物酔いも、そろそろ治れば、良いので御座るが・・・。」  毘沙丸は溜め息を吐く。アインの乗り物酔いは1000年間も治っていない。筋金入 りだ。困った体質であるが、仕方が無い。  次に修羅が壇上に上がる。すると、人々から歓声が上がる。ガリウロルに金メダ ルを齎した英雄だからだ。ソクトア選手権の効果は大きい。 「修羅選手!お願いします!」  係員も、声を弾ませる。修羅は、本能の赴くままにボールを拾い上げる。 「お。青か。ストリウスだな。」  修羅は会場に見せる。すると、会場は残念そうな溜め息に変わる。修羅がストリ ウス会場に行ってしまうからだ。 「シュラ!ナイスだ!ストリウス観光のパンフレットが無駄にならずに済んだな!」  ヒートは、『おいでませ!ストリウス!』と書かれたパンフレットを2、3個持 っていた。行った事が無かったので、行きたかったようだ。 (それに、アルヴァがストリウスだからね。本当にナイスだよ。)  ヒートはアルヴァとの対決を望んでいたので好都合だった。  次の抽選の出番になると、一際大きな声援が送られる。巌慈だった。 「サウザンド伊能選手!ど、どうぞ!!」  係員も、その人気を知ってるらしく、緊張していた。巌慈は、その気持ちを嬉し く思った。こんな係員にまで好かれるプロレスラーに、なりたかったからだ。 「ガッハッハ!見ろ!青じゃ!サウザンド伊能は、ストリウスに凱旋じゃい!」  巌慈は、青のボールを高々と上げる。すると、ガリウロルでは溜め息が出て、ス トリウスでは盛り上がっていた。どうやら魔族の間でも、人気があるらしい。 「巌慈・・・ナイス!私、一回ストリウス行きたかったんだよ!それに・・・。」  亜理栖が眼鏡を触りながら歓迎する。何せ観光で行きたかったのと、エイディが ストリウスなので、そちらが良かったからだ。 「アネゴ・・・。俺の気持ちは、知っておろう?・・・まぁ、せめて4人で回ろう や。楽しく凱旋せんとな。」  巌慈は、エイディの事を話す亜理栖に少し落ち込むが、気を取り直して、エイデ ィと葵と一緒に観光に回る事を提案する。 「ま、落とし所は、そんなとこかな?存分に楽しむよ。」  亜理栖は反対しなかった。巌慈の気持ちも知っているし、エイディとも回りたい となると、4人で回るしか無かった。エイディ達も、それで良い様だった。  次に総一郎が壇上に上がった。観客は、またしてもストリウスが多くなってきた ので、注目度が上がってきた。 「総一郎選手!どうぞ!」  係員は、総一郎に箱を向ける。少し緊張気味だった。 「・・・おやおや・・・。偶然とは怖いな。青だ。ストリウスだ。」  総一郎も分かっていたようで、会場に見せるように青のボールを見せる。会場は またしても、ざわつき始める。 「頭領、ストリウス道場へ連絡しておきますね。」  冬野は早速、ストリウスにある榊流道場に携帯電話で連絡を入れる。  次は、ストリウス会場が盛り上がる。どうやら健蔵が引くようだ。 『健蔵選手!お願いします!』  係員は、堂々と健蔵に対して言う。それを見て健蔵は、少し笑いながら引いてい た。昔なら、疎まれるか恐れられるかばかりだったからだ。 『ほほう。赤だな。ガリウロルだ!』  健蔵は、声が上ずる。何故か分からないが、物凄く嬉しそうだった。 『健蔵さん!『サキョアニ』への見学、行きましょうね!!』 『馬鹿!そんなでかい声で言うな!』  メイジェスの声に健蔵は恥ずかしそうにしていた。その声を聞いて、人々は笑っ ていた。丸くなった物である。どうやら『サキョウアニメーション』に見学に行き たいようだ。魔族の間でも流行っているのだ。  次に、扇が壇上に上がる。扇は、周りを威圧するかのように鋭い目付きで見る。 「扇選手!お願いします!」  係員は、堂々と扇に促す。それを見て扇は、鍛えられていると思った。 「・・・何だ。赤だな。此処のようだ。」  扇は、赤いボールを見せた。確率的に言えば、ストリウスのボールは、数少ない ので、赤になる確率は高くて当然だった。 「扇様。お疲れ様です。後は、奴らの出方ですな。」  風見が、瞬と江里香の方をチラッと見る。過去の因縁は、この前の闘いで決着し たが、それとは別に瞬と闘いたがっていたからだ。  次に、ネイガが壇上に上がる。ネイガは鳳凰神として、堂々と壇上に上がった。 「ネイガ選手!お願いします!」  係員は、平伏しそうになったが、ボールを促す。 「・・・ほう。青だ。随分と続く物だな。」  ネイガは、青いボールを見せる。数少ない筈のストリウスを引き当てたのだ。人 々は、驚きの声を上げた。 「ネイガ殿。我等は・・・ストリウスですな。この際、楽しみましょうぞ。」  ショアンは、ストリウスに行った事が無かったので、少し楽しみのようだ。だが、 睦月がガリウロル会場の審判なので、残念そうにしていた。  次に電光掲示板が光る。どうやらワイスが壇上に上がったようだ。 『ワイス選手!お願いします!!』  係員は、その雰囲気だけで、呑まれそうになっていたが、何とか持ち直す。 『・・・フム。ほう。赤だな。ガリウロルである。』  ワイスは赤いボールを見せる。すると、ストリウスの会場からは、嘆きの声が聞 こえる。魔族からの人気が高いからだろう。 『ご苦労様です。ワイス様。』 『フッ。良かったな。お主も健蔵と共に、見学に行くと良いぞ。』  ハイネスの迎えに対し、ワイスはからかう様に声を掛ける。要は、『サキョアニ』 に見学に行く話であろう。ハイネスは、かなり恥ずかしそうにしていたが、内心は 嬉しかったようだ。  次に壇上に上がったのは、赤毘車だった。凛々しい出で立ちだった。 「赤毘車選手!お願いします!」  係員は、赤毘車に対して、かなり緊張気味に箱を差し向ける。 「どれ・・・。お。赤だな。ガリウロルだ。」  赤毘車は、自分の名前にある色を引き当てる。縁起が良いと思っていた。 「赤毘車さん、お疲れ様です。後は瞬さんが、こっちだと良いんですがね。」  葉月は、『闘式』で瞬に自分の想いをぶつけるのが目的だ。しかし、この会場分 けで別々になってしまっては、闘う確率は大きく下がる。 「こっちになる事を祈ろうか。」  赤毘車は、その想いを知っているので、葉月の願い通りにさせたいと思っていた。  次に出て来たのは、ジュダだった。会場は、一際大きな声援が流れる。 「ジュダ選手!ど、どうぞ!」  係員は、つい声が上ずる。無理も無い。目の前に神のリーダーが居るのだから。 「んー。・・・お。ストリウスか。」  ジュダも数少ない筈のストリウスを引き当てた。 「ジュダさん、俺達もストリウスですね。って事は、葵もストリウスだし、莉奈も 連れて観光ですかね?・・・他国の観光ってのも良いですね。」  魁が勝手に盛り上がっていた。 「ま、楽しめ楽しめ。試合では、キッチリ働いてもらうけどな。」  ジュダは、楽しむのは構わないが、試合はキッチリ頑張ってもらうつもりでいた。 「分かってますって。ま、ルードにも他国を見せてやりたいですしね。」  魁は、莉奈とルードを連れて、ちゃんと観光させようと思っていた。  そして、次の抽選が始まる。電光掲示板が盛り上がっていた。どうやら、ケイオ スが引く番のようである。と、ここで電光掲示板を見た観客が、ざわつき始める。  何と、あと4チーム残っているが、青いボールが後1個しか無いと表示されてい たのだ。つまり、誰かがストリウスを引けば、そこで終わりらしい。 『ケ、ケイオス選手!お願いします!』  係員は、ケイオスの圧力と、ボールの行方が気になるのか、少し声を震わせなが ら、ケイオスの前に箱を突き出す。 『フム・・・。ぬ?・・・赤か。ガリウロルのようだな。』  ケイオスは、どちらでも良いらしく、特に感情を表したりはしていなかったが、 ガリウロルの方が、面白い対戦者が多いと思っていた。 『ガリウロルけ?どうやら此方等は、皆ガリウロルのようじゃの?』  エイハが、楽しそうに指摘する。確かに『覇道』を提唱する魔族の者達は、ガリ ウロルに決まったようだ。 『どちらでも構わぬ。どんな組み合わせであろうとも、余が勝てば良いだけだ。』  ケイオスは、余裕だった。どんなにキツイ組み合わせだろうと、自分が勝つと疑 ってないようだ。さすがは『覇道』を提唱するだけある。  そして、ついにレイクの出番になった。ボールは後3つだ。ここでストリウスを 引けば、残るチームは、どちらもガリウロルになる。 「レイク選手!お願いします!」  係員も分かっているらしく、気合の入った声になる。こうなると、レイクも緊張 してくる。とは言え、考えてもしょうがないので、運に天を任せる事にした。 「悪いな。これで決まりだ。青だ!ストリウスだ!」  レイクは、青いボールを見せた。どうやら、これで全部決まったようだ。 「これでストリウスね。ま、乗り込んでやりましょうか。」  ファリアは余裕であった。しかし、望んだ結果だった。何故なら、倒すべき相手 がストリウスに居るからだ。それは、シンマインドの化身の篤則である。 「ストリウスか・・・。初めて行くし、丁度良いな。」  レイクは、ストリウスは、勿論初めてであった。なので、楽しみにする。 「あちゃー。俺もボール引きたかったけど、しょうがないですね。決勝で会いまし ょう!レイクさん!」  瞬が声を掛けてくる。必然的に瞬がレイクと当たるには、決勝でしかない。しか し、勝ち抜く可能性は、無い訳では無い。 「あーら。私に勝てるつもりですか?兄様。」  恵が、聞き逃さなかった。決勝でレイクと会うと言う事は、恵にも勝つと言う事 だ。しかし、簡単に決勝進出を許す恵では無い。 「決勝の話も良いけど、まずは、倒すべき相手が居るからね。それからだよ。」  俊男は、ケイオスを意識していた。俊男にとっては、瞬もそうだが、ケイオスに は、絶対に勝たなくてはならない。 「ま、このメンバーで決勝戦をやれるように、全力を尽くさなくちゃね。」  江里香は、それを願っていた。勿論不可能では無い。此処に居る6人は、それを 軽く言える程、実力を秘めたメンバーなのだ。江里香だって、今の実力なら、足手 纏いになどならない自信がある。 「当然ですわ。だからファリアさん。それにレイクさん。そっちは頼んだわよ?」  恵は、当然と言う風に返す。この自信は、さすがであった。そして、ストリウス の勝ち残りは、レイクとファリアだと、指定する。 「さすが言うわね。ま、全てを出し尽くすわ。それで安心?」  ファリアは、恵の言う事をサラリと返す。その時点でも余裕が伺える。 「安心ですよ。俺達も、やるしかないな。・・・恵、俊男。当たった時は、互いに 恨みっこ無しだぜ?」  瞬は、恵と俊男に全力で闘う事を誓う。 「当たり前だよ。どっちか勝った方が、優勝だよ?」  俊男も、それを受ける。勝ち進んだ方が優勝すると言う決意を表す。 「言うわね。トシ君。ま、私と当たったら、修行の成果を見せてあげるわよ?」  江里香も言うだけの修行をしてきた自覚がある。だからこその台詞だ。 「それは楽しみですわ。兄様も江里香先輩も、私に簡単に勝てると思わないで下さ いね。知っての通り、負けるのは苦手ですので。」  恵は、独特の言い回しで決闘を宣言する。 「よーし。決勝で会おうぜ!」  レイクは、嬉しくなったのか、決勝進出宣言をする。  こうして、波乱の幕開けとなる会場分けが、終わったのであった。  続いて、運命のグループ分けが行われる。会場移動はまだだったが、さっきの会 場分けで、それぞれどっちの会場かは分かっているので、それぞれが、番号の書い たボールを引いていくのである。  ここでも、色々盛り上がりがあったが、人々が注目しているのは、やはり後半の 出場者である。本戦出場の可能性が高い出場者達だが、注目のチームが22チーム あるのだが、本戦出場は両会場合わせて16グループの勝者である。しかも予選で あるグループでの闘いは、バトルロイヤルで行われる。各グループに6チームほど 振り分けられるので、他の5チームから狙われたら、不利である。  そう言う意味でも、このグループ分けは重要だった。  そして、グループ分けも後半に差し掛かる。とうとう主要チームの振り分けが始 まった。これだけは、対戦者を意識せざるを得ない。  まずは、エイディがストリウス会場用のボールが入った箱に手を入れた。この瞬 間は、どんな人も緊張する物だ。何処の枠も、まだ1つ以上余っている。つまり、 この主要チームが入らないグループは無いと言う事だ。 「・・・ち。余り縁起良くは無いな。4番だ!」  エイディは舌打ちする。4と9は、ガリウロルでは縁起が良くないとされている。 それに4番は、もう1枠空いていた。つまり、もう1チーム、主要チームから選ば れるのが確実だ。余り良い番号では無かった。 「避けたかったですけどねぇ・・・。まぁ、頑張りましょう。」  葵も、その意味は分かっている。だから、残念そうだったが、頭を切り替えてい た。当たったチームと全力で闘うしかないのだ。  次にジャンがボールを手に取る。ガリウロルと書かれた箱からだ。 「・・・さーて、何番かな?・・・6番か。あちゃー・・・。」  ジャンも頭を抱える。6番も余り良い番号では無い。縁起とかでは無く、もう1 枠空いていると言う意味でだ。しかもガリウロルは結構強敵が多い。出来れば引き たくない番号だった。 「ま、仕方ないよ。頑張ろうよ!ジャン!ウチも頑張るからさ!」  アスカが励ます。決まってしまった物は仕方が無い。やるしかなかった。  次にシャドゥがストリウスと書かれた箱に、手を突っ込んだ。出来れば、4番は 避けたいと考えているようだ。予選からエイディと当たりたくは無いだろう。 「・・・む。1番か。一安心だな。」  シャドゥは、ひとまず安心する。1番は主要チームが入り込む隙が無い。つまり、 本戦出場の可能性が高いからだ。何より仲間達と当たらないで済むからだ。 「おいおい。他の1番の参加者に失礼じゃねーの?油断はしねーようにな。」  ドラムが注意を促す。全く持ってその通りだった。油断するのは、一番の命取り だ。どんな強敵が出てくるか分からないのだ。 「その通りだな。気を引き締めなくては。」  シャドゥは、反論出来なかった。この『闘式』は、そんな甘い大会じゃないから だ。本戦出場が確約されているチームなど、存在しないのだ。  次に電光掲示板で篤則がストリウスと書かれた箱に手を伸ばす。ちなみに、この 箱も、さっきの会場分けの箱と一緒で、両会場で共有している。なので、重なる心 配は無い。この仕掛けを作るのに、ファリアは四苦八苦したので苦労の賜物だった。 『・・・ち。6番だ。』  篤則は舌打ちする。ストリウスの6番も、ガリウロルの6番と一緒で、もう1枠 余っていたからだ。本戦に出場するのに、無駄な労力を使わなければならない。 『ま、仕方ないね。セント代表として、やるしかないですよ。』  アルヴァは、篤則の様子を見て、軽く返す。飄々としていた。  次に出て来たのは、大二郎だった。一条流空手の刺繍が入った腕を見せ付ける。 ストリウスと書かれた箱に手を突っ込んだ。 「ふむ・・・。5番じゃな。・・・ほうほう。」  大二郎は、1枠しかない5番を引き当てる。しかし、このグループを勝ち抜いた としても、6番の勝者と闘う事になる。つまり、今決まった篤則達と闘うかも知れ ないのだ。正直、篤則達は得体が知れないので、警戒していた。 「これは、本戦まで勝ち抜くしかないのう?」  秋月は意に介さず、ただ勝ち抜くだけだと思っているようだ。  そして次は、士の番だった。ガリウロルの箱に手を伸ばす。最初に6番を引かな いように、祈っていた。初戦から、ジャンと当たりたくは無いだろう。 「・・・お。7番か。ま、無難な所だな。」  士は、まずは胸を撫で下ろす。7番は1枠しかない。しかもジャンと当たるには、 準決勝しかない。先送りではあるが、仲間同士の潰し合いは避けられたようだ。 「さっすが士だヨ。でも、此処を当てたからには、勝ち上がらないとネ。」  センリンは、こう言う所を引き当てたからこそ、無様な負けは許されないと思っ ているようだ。士もそう思っていた。  次はグリードの番だった。段々ストリウスの枠が埋まっていくのを見て、緊張が 高まる。この瞬間ばかりは、祈るしかない。とりあえず、4番は避けたいと思って いた。いきなりエイディとは当たりたくない。 「ええーと。8・・・8番だ!」  グリードは、8番のボールを引き当てた。ここも1枠しかない。 「8番か。7番は誰が来るんだろうね?」  ゼリンは、既に7番の相手の心配をしていた。8番のグループの事など、気にも 留めていない。図太いと思われがちだが、単に天然なだけだった。  次にミカルドがガリウロルの箱に手を伸ばした。6番を引くと、いきなりジャン と対戦である。勇樹は、当たりたくないと思っていた。 「お。これは2番だな。まぁまぁか?」  ミカルドは、2番だった。勇樹はホッとする。いきなりジャンと当たる事は無さ そうだ。しかしそうなると、勝ち抜かなくてはならないし、1番の相手が気になる 所だった。仲間達とは当たりたくないと思ったが、逆に闘ってみたいとも思った。 「羅刹拳の真髄、見せましょうよ!」  勇樹としては、それが一番だった。やはり、羅刹拳の認知度を広めたい。  次に毘沙丸がガリウロルの箱に手を伸ばした。余計な事は考えずに引く事にした。 雑念が入ると、嫌な結果になるからだ。 「ほう。拙は3番か。誰と当たるか、楽しみで御座るな。」  毘沙丸は動じない。3番は、もう1枠空いていたので、余り良い番号では無い。 だが、それを嘆いても仕方が無い。 「誰が来ても、このアイン、闘い抜く所存であります。」  アインは、3番と言う結果は、余り良くないと思ったが、それだけ遣り甲斐があ ると思えば、苦になる事も無かった。要は、誰が来るかである。  次に修羅がストリウスの箱に手を伸ばす。4番だと、いきなりエイディと当たる。 それは避けたいと考えていた。 「・・・む!・・・そうか・・・。6番だ。」  修羅は、緊張する。6番を引き当てたのだ。その瞬間、会場にも緊張が走った。 6番は篤則とアルヴァのペアだ。 「さすがシュラだね。ボクの望み通りの番号だよ。」  ヒートは、嬉しそうだった。何せ望んでいた闘いになったからだ。ヒートはアル ヴァとの闘いを望んでいた。予選だが、いきなり全力で闘える。 (レオは、このアルヴァと闘いたがっていたな。となると、俺の相手は・・・必然 的に、あの篤則になる訳だ・・・。確かシンマインド・・・。)  修羅は、天神家で教えられた情報を思い出す。それが真実なら修羅は、この時代 を作った元凶と闘う事になるのだ。 (のっけから、妙な役を押し付けられた物だ。まぁ良い。俺は俺のやり方で、倒し て見せるだけだ。瞬や俊男ばかりに任せてられないからな。少しは先輩らしい所を 見せてやらなきゃならん。)  修羅は、こう見えて気にしていたのだ。瞬や俊男が命を懸けて闘っているのに、 自分は何もしていない事をだ。だからこそ、ソクトア選手権が終わった後の、この 大会で、自分の闘志を懸けて闘いたいと思ったのだ。  次の出番になると、会場は盛り上がる。巌慈の出番だった。サウザンド伊能とし て、どの番号を引く事になるのか、気になる人が多いようだ。ストリウスの箱に手 を伸ばす。運に天を任せて、引いてみた。 「おう!3番じゃ!」  巌慈は、3番を引いたのだ。すると、亜理栖に緊張が走った。 「良い番号じゃないか。巌慈。」  亜理栖は、意識していた。ストリウスの3番は、最後の1枠だったが、勝ち抜け ば、ストリウスの4番の勝者と対戦する事になる。そして、そのストリウスの4番 を引いたのは、エイディと葵の組だった。 「こりゃ、因縁かのう?やるしかないわな。」  巌慈は、どちらにせよエイディとは、決着を付けなくてはならない。勿論それは、 亜理栖も一緒だ。なので、早い段階で決着が付くのは、望む所だ。  とは言え、どちらも本選に進まなければ意味が無い。それは、分かっている。  次に総一郎が壇上に上がった。総一郎は、特に考えなど無かった。引いてみてか ら、対策を考えるつもりでいた。ストリウスの箱に手を伸ばした。 「・・・む!!・・・そう来たか。4番だ!!」  総一郎は気合を入れる。ストリウスの4番だった。その番号は、正に因縁の番号 だった。エイディと葵の組の番号であった。 「頭領、キツイ所引きますねぇ・・・。ま、フォローはしますよ。」  さすがの冬野も、この結果には、呆れていた。同門のエイディとの対決だ。しか も、エイディに勝った所で、次に当たるのは、恐らく亜理栖達だ。 「ま、最悪でも誰かは、ベスト8まで行けると思えば良いでは無いか。物は考えよ うだぞ?冬野。無論、私は勝つつもりで行くがな。」  総一郎は、考えを変えろと言った。この組み合わせなら、思った通りに本選にさ え行ければ、誰かはベスト8まで勝ち進む事が出来るのだ。  今度は電光掲示板がアップになる。健蔵が引くようだ。健蔵は、何処でも良いと 思っていた。やれる事をやるだけだ。ガリウロルの箱に手を伸ばす。 『ふむ。5番だな。』  健蔵は、5番のボールを会場に見せた。つまり、本選に勝ち進めば、最初に当た る相手は、ジャンとアスカになるかも知れないのだ。 『健蔵さん。お疲れですー。』  メイジェスは、知ってか知らずか、健蔵を労っていた。  一方のジャンとアスカは、戦慄を覚えていた。いくら予選で勝った所で、いきな り当たる相手は、健蔵とメイジェスだからだ。これは手強い。  次に扇がガリウロルの箱の前に来る。扇にとって見れば、皆が敵である。とりあ えず引いてみるしかないと思っていた。 「ほう。4番だな。面白い。」  扇は、少しでも闘いたかったので、4番は縁起が良いと思っていた。4番は、も う1枠空いているので、いきなり強敵と当たる可能性が高いからだ。 「お疲れ様です。扇様。4番とは、幸先が良いですな。」  さすが風見である。扇の考えを見通していた。タッグを組んだのは、正解だった と思った。風見は補佐として、かなり優秀であった。  一方、当たる可能性が高い毘沙丸とアインは、扇の方を見る。 (確か、『疾風』とか言うルールの使い手であったな・・・。)  毘沙丸は、ちゃんとチェックしていた。  次にネイガが前に出た。ストリウスの箱に手を伸ばす。 「ぬ・・・。7番か。中々面白げな所になったな。」  ネイガは、素直な感想を漏らす。7番はもう1枠余っている。強敵とぶつかる可 能性が高い。それに、本選に進んだ所で、当たるのは、グリードとゼリンの組だ。 「難しい所ですな。でも、全力で当たりましょう!」  ショアンは、自分が何処まで勝ち抜けるか分からない。こうなったら、行ける所 まで行くだけだと思っていた。 「参ったな。これでは勝っても、いきなり父上と当たってしまうな。」  ゼリンが、溜め息を吐く。出来れば、早い段階で当たりたくは無かったようだ。 「まだ分からないぜ?あっちは、もう1枠余ってるじゃねーか。」  グリードは、気を引き締めさせる。7番は、もう1枠余っている。ここに凄い奴 が入ったら、もしかしたらネイガも負けるかも知れないからだ。 「父上は強いんだぞ?そう簡単には負けないと思うよ?」  ゼリンは、義父であるネイガが馬鹿にされてると思ったのか、頬を膨らませる。 「まぁ、そうだな。ネイガさん、物凄く強いしな・・・。」  グリードも、それ以上は言わなかった。しかし、残ってる面子が恐ろしいから、 気を引き締めさせたのだ。だが、ネイガも神だし、早々負けないだろう。  次に大きな声援が飛ぶ。ストリウス会場では、ワイスがガリウロルの箱に手を伸 ばした。ワイスは、無造作にボールを引いた。 『・・・面白い・・・。6番だ!』  ワイスは、声を高らかにして宣言する。すると、会場は大いに湧いた。それはそ うである。6番は激戦区だ。まずは予選でジャンとアスカと当たる。そして、勝ち 抜いた所で、来るのは健蔵とメイジェス組である。 『これは、全力で当たるしかないようですね。』  ハイネスも、気合が入っていた。この中で勝ち抜いて見せるのは、至難の業だ。 それだけに、勝ち抜きたいと思っているのだ。 『フハハハハ!ワイス様!本選で会いましょう!』  健蔵は嬉しそうに叫ぶ。早い段階で、当たりたいと思っていたからだ。予選は突 破したいが、本選の1回目で当たるなら、本望である。 『健蔵よ。その気持ちは嬉しいがな。我だけをマークするのは、些か軽率だぞ?我 の相手とて、一筋縄行かぬ相手ぞ。・・・のう?』  ワイスは、そう言うと電光掲示板越しに、ジャンを見詰める。 「参ったぜ・・・。全く・・・。いや、やるしかねぇよな・・・。」  ジャンは、頭を抱えたくなった。予選の1回目で当たるような相手じゃない。何 せ伝記の時代にジーク達を、一回は圧倒したと言う、『神魔』ワイスだ。 「ジャン。頑張ろうよ!ウチ、ジャンと一緒なら怖くないよ!」  アスカは、恐怖で足が震えそうなのを、ジャンを見る事で、押さえ込んでいた。 「姐さん・・・。そうだな・・・。どうせ、失う物は何も無いんだ!思いっきりぶ つかろうぜ!それが、俺達の生き方だったな!」  ジャンは、アスカに勇気付けられる。愚痴愚痴考えても仕方が無いのだ。当たっ てしまったのなら、やるしかないのだ。 (ジャンも、大変だな・・・。ま、俺も気を引き締めないとな。)  士は、ジャンの事を気遣ったが、冷静に考えても、ジャンが勝ち抜ける確率は少 なかった。ならば、思いっきり闘って欲しいと思った。そして、そう言う意味では、 ジャンは良い相手に当たったと言えた。ワイスならば、力を出し尽くせる相手だ。  次に赤毘車が前に出た。さっきは、盛り上がりを見せていたので、それに負けな い所を引き当てるべきか?と、前向きに考える。ガリウロルの箱に手を伸ばす。 「・・・おやおや・・・。これは参った物だ。3番だ!」  赤毘車も、高らかに宣言する。すると会場は、驚きの声でざわめき始めた。予選 で、いきなり赤毘車と毘沙丸が当たるみたいである。二人が親子だと言う情報は、 パンフレットにも書かれている。 「赤毘車さーん・・・。いきなりですかぁ?んもう・・・。」  葉月は、大きな溜め息を吐いた。そりゃ瞬と当たる為には、誰にも負けてはいけ ないと言う覚悟はある。だが予選で、こんな大物と当たるなんて、さすがについて ないと思う。アインだって強いのを知っているからだ。 「ま、許せ。お前には悪いが、私は少し楽しみでな。」  赤毘車は、不謹慎ながらも楽しみにしていた。毘沙丸が、どれほど強いのか。確 かめるチャンスである。アインの補佐振りも見たかったのだ。 「拙の相手は、母上か・・・。これは、本気を見せる他、無いで御座るな!」  毘沙丸も相手が赤毘車と言う事で、燃えるような眼をしていた。 「赤毘車様、そして葉月さん。胸を借りるつもりで行きますよ!」  アインも、毘沙丸のパートナーとして、全力で補佐する事を誓う。 「おー。盛りあがってんな!見せてくれるねぇ。赤毘車。俺も盛り上げるか!」  ジュダが前に出る。妙な対抗意識を燃やしていた。 「ジュ、ジュダさん!変な対抗意識は、要らないですからね!」  パートナーである魁は、いまいち不安だった。ジュダは、意地悪そうに笑うと、 ストリウスの箱に手を伸ばした。 「・・・ビンゴ!覚悟しろよ?7番だ!」  ジュダが思いっきり良い声で宣言した。そして、その番号は・・・。 「ああ。もうね・・・。予感はしてたんですよ?俺・・・。」  魁が嘆くのも無理は無い。その番号の相手は、よりにもよってネイガとショアン の組だったからだ。手強いなんて物じゃない。会場は、赤毘車以上に盛り上がる。 ジュダとネイガの試合である。現在、5大神と言われているジュダとネイガの直接 対決である。予選のカードじゃない。 「ジュダ様とか・・・。これは、御無礼は禁物だな。全力でやるぞ!ショアン!」  ネイガは勿論、真正面から受けて立つつもりだった。相手にとって不足は無い。 いや、寧ろ相手に、そう感じさせない様に、しなければならない相手だ。 「ジュダさんに魁か・・・。参りましたな。修行の成果を、隅々まで見せなければ ならんようで御座りまするな。」  ショアンも燃えていた。予選から分からなくなった。それは、不幸な事では無い。 「私は別に、此処まで盛り上げろとは、言って無いんだがな。」  赤毘車は、苦笑いをする。まさかジュダとネイガだとは思わなかったからだ。  そして、この瞬間、レイク達の番号も決まったのだった。 「そうか。俺達は2番か。って事は、予選を勝ち抜いたら・・・。」  レイクは、意識をする。2番と言う事は、1番の相手と当たる。そして1番のボ ールは、シャドゥが引き当てている。 「決まったわねー。本選まで行ったら、シャドゥさんとドラムさんかぁ。ま、やる しかないわね。ナイアには悪いけど、勝ちに行くわ。」  ファリアは、友人の名前を口にする。シャドゥとは、早い段階で当たりたくなか ったが、これも運命だ。仕方が無い。当たったからには、全力で勝ちに行くだけだ。 「レイク・・・。お前の成長を、見せてもらうぞ。本気のお前をな・・・。」  シャドゥは、今のレイクの本気を見てみたかった。レイクは技だけで、あのゼハ ーンに勝ったと言う。その実力を見てみたかったのだ。 「かー。いきなり優勝候補とかよ!良いねぇ!燃えるぜぇ!」  ドラムも、望む所だった。しかも前世の記憶では、あのファリアの祖先には可愛 がってもらった記憶がある。その恩に報いる為にも、成長を見せなければならない と思っていた。それが、ドラムの恩の報い方だった。  しかし今度は、向こうの会場も盛り上がる。今度はケイオスの番だからだ。ケイ オスは、さっきの盛り上がりを見て、面白いと思いながら、ガリウロルの箱に手を 伸ばした。何処になるか楽しみだった。 『む?8番か。成程な。・・・悪くない。』  ケイオスは、8番だった。8番は特に要注意するべき相手は居ない。だが、勝ち 抜いた先に、面白い相手が居た。それは、士だった。 『御方様。これは、早い段階で『神魔王』とぶつかりそうですじゃ。』  エイハは、士の中に宿るグロバスの事を意識する。先の『神魔王』と、『神魔』 であるケイオスの闘いは、知る人ぞ知る好カードだった。 「チッ。さすがに楽じゃねぇな。・・・やるしかねぇな。」  士も意味は分かっていた。ケイオスの強さは、肌で感じた事がある。あれは、グ ロバスを超えるかも知れない化け物だ。 「士!私も、フォローするヨ!目に物を見せてやろうヨ!」  センリンは、本当は怖い筈だ。魔族の大ボスが相手だ。怖くない筈が無い。しか し、弱音を吐かないようにしているのだ。 「ま、誰が相手でも、強敵な事には、代わり無いんだ。俺達の誇りってのを、見せ てやろうぜ。」  士は、センリンの為にも、負けられないなと思った。  そして、最後のボールが引かれようとしていた。瞬達である。瞬が引けば、自動 的に恵達の番号も決まる。1番か4番だった。 「ま、やるしかないな。えい!・・・4番か!」  瞬は4番を引いたのだった。そして4番は、言うまでも無く扇達だった。 「瞬君も、相変わらずの運ね。ま、付き合ってあげるわ。」  江里香は、こう言う事は初めてでは無いので、付き合うだけだと思っている。4 番の方が激戦だったからだ。しかし関係ない。勝ち抜けば良いだけの話だ。 「クックック。予選からとは、運があるな。」  扇は、楽しくて仕方が無かった。いきなり瞬と決着が付けられる。それは、楽し くて仕方が無かったようだ。 「相手に不足はありませんな。行きましょう!」  風見も瞬を意識する。因縁の天神家と神城家の対決に、会場は大いに盛り上がる。  そして、この瞬間、恵と俊男の番号も決まったのだった。 「んー。1番ね。ま、無難な所かしらね。予選なんかで負けてられないわよ?」  恵は、俊男をからかう。元々予選で負けるつもりなど無い。 「当然。やるからには、優勝!だよね?勝ち抜けば、次はミカルドさんと勇樹だ。」  俊男は、ミカルドと勇樹を意識する。 「あの組、滅茶苦茶強いんだろ?楽しみだな。」  ミカルドは、勇樹に尋ねる。優勝候補と言われているが、ミカルドは細かい実力 を知らないのだ。無理も無い。 「ハッキリ言って、全力でぶつかるしかない相手です。ヘッ。上等だよ。あの時の 俺とは、訳が違うって所を、見せますよ!」  勇樹は、予選を突破して当たる相手が、瞬と江里香のタッグか、恵と俊男のタッ グかだったので、どっちが来てもやるしかないと思っていた。そして、より強いと 思っていた方と当たったのだ。この二人の場合、どちらも一人で勝ち抜けるくらい 強い。参った物だと思う。でもやるしか無かった。  これで、全ての組み合わせが決まった。それぞれ、思う所はある。  だが、この組み合わせになったのは、言うなれば運命だろう。  より、闘いたいと思っていた相手と当たる様になっていた。  それを全て含めて、『闘式』なのだ。  ソクトア暦2042年、5月1日。  歴史的な大会が、遂に始まったのだった・・・。