#10 ひとめ、あなたに

今週は金曜日に帰宅できない、土曜日の午前中に会議が入った、というメールが夫から届いた。
天王山、滑落したらしい。
じゃあ、私の方から迎えに行ってみよう。
新井素子のSF小説では、人類滅亡の日を目前に、ヒロインがバイクで恋人に会いに行くのだが、気分だけはそんな感じ?

そんなわけで、とある土曜の朝、私は夫の任地目指して旅立った(大げさ)。
初めての道ではないし、問題ないだろう、と思ったのだが、家を出てほんの十数分後、夫と一緒に何度も通ったのとは違う道に出ていた。
と、とにかく246→環八に出ればいいのよ!
通りの名前と方角を確認して、目指す道への復帰を試みた。

多少道には迷ったものの、家を出て約1時間後、高速道路に乗ることができた。
土曜の朝の関越は、暖かな春の日差し、土と草と家畜のニオイ。
海と山が続く東名よりも、おだやかな雰囲気があるような気がする。

全く混んでいない高速で、アクセルを開くと、モンスターが元気に応える。
絶好調!
私にも、アクセルを「開ける」ことができるようになってきたってことだろうか。

桜の花びらが、風と共に一瞬全身を包んで、また離れていく。
気を抜くと、(私としては)とんでもない速度で巡航していて緊張してしまうのだが、こんな短い出来事が、気分を和らげてくれる。

上里のSAでは、見事に手入れの行き届いた748Rが止まっていた。
ライダーらしき40がらみの男性が、傍らで休憩している。
こんにちは、748R、素敵ですね。
気さくに声をかけて、話ができたらいいのだが、私にはそんなことする勇気はまだない。

高速を降りると、また道に迷ってしまった。
夫の書いてくれた説明文にある道を探して、市街をぐるぐる回る。
私の性格からすると、こういう時に、接触とか転倒とかしそうなので、慎重にバイクを進める。
なんとなく、正しいような気がする道をたどり、二つの陸橋を越えてしばらく行くと、見覚えのある街並みが目に入った。
桜並木を通り抜けると、夫の「独房」こと、単身者用社宅まではすぐだった。

よく来てくれたなあ、掃除と洗濯まで済ませてくれて、ありがとう。
会議が終わって戻ってきた夫がとても喜んでくれたので、ちょっといい気になった。

帰り道は、夫のK-75との、のんびりツーリング。
でも、自分がものすごく疲れていて、操作がラフになってるのがよくわかった。
SAで夫と二人、おしゃべりしながらたこ焼きをつついてリフレッシュした。
一人で走るのは素敵なことだけど、疲れることでもある。
そして、疲れをとるには一人より連れがいる方がいいのだな、と痛感してしまった。

冒険のアリバイ

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