#12 第35回二輪車安全運転神奈川県大会

1. 動機
2. 練習

3. 技能走行
4. 法規履行
5. 泣き濡れてただ一人…
6. 表彰式

1. 動機

Monster 800S i.e.を自由に、安全に、操れるようになりたい。
そのためには、個々の技術を磨く必要がある。
二俣川の運転免許試験場では、定期的に講習会が行われている。
行きたいのだが、改造車は参加できないとのことなので、私専用にカスタマイズしたMonster 800S i.e.では、入り口で追い返されてしまうだろう。
そんなある日、県警のウェブサイトを見ていて、「第35回二輪車安全運転神奈川県大会」が開催されることを知った。
改造車禁止ではないようなので、まずはこれに参加してみようと思った。

とはいうものの、自分のバイクで、スラロームや8の字をやったことは一度もないので、本番前に経験しておきたい。
東京都の府中と鮫洲で行われる講習会は、改造車でも参加OKだと教えられ、早速行ってみることにした。
が、当日、都内は無情の雨、講習会は中止だった。
結局、ぶっつけ本番、「ありのままの、今の自分を表現」するしかない状況になってしまったのだった。
しかたがないので、目標は「無傷で完走」、具体的実施項目は「転倒しないこと」と決めた。

UP!

練習風景

2. 練習

そして、5月22日(土)、今にも泣き出しそうな曇り空。
午前は、練習する時間として設定されていた。
集まったバイクは、おなじみのCB750、バリウス、BMWのF650GS、VFR750K…。
Kって、教習車の払い下げなのだろうか?
コースを覚えるつもりで走ってください、今はムリをしないで、と言われ、素直に従う。
競技コースには「技能コース」と「法規コース」があり、白バイの先導でたどっていくのだが、技能コースが、私にはものすごく難しい課題の連続だった。
審判員は、白バイ隊員や、普段は安全運転の講習会で指導をしている人たちのようだ。
千鳥走行で「練習会、やってますから来て下さいね。」(改造車なのでムリです)
ブレーキングで「スピードが足りませんよ。」
コンビネーションスラロームで「まだ自分のバイクに慣れていないでしょ?」
私のたどたどしさ?を見かねて、いろいろと声を掛けてくれる。
緩い斜面に設定された8の字走行では転倒する人が二人、私も転倒しそうになる。
駆け寄ってくる白バイ隊員。
でも、持ちこたえて、転倒せずに済んだ。
「そのバイク、曲がんないでしょ?倒し込まないとだめだよ。」
最後に、ベテランと思しき審判員が、鋭いアドバイスをくれた。
見物していた夫には、カメの呪いがかかったみたいに遅い、と言われてしまった。

UP!

3. 技能走行

支給されたシュウマイ弁当(横浜だから)と、夫の手作り弁当をしっかり食べた後、競技が始まった。
競技は、ミスをするごとに減点される方式で、首から下げた成績表の該当する点数部分に、パンチ穴が開けられる。
課題ごとの最大減点は40点で、それより多く減点されることはない。
私は女性クラスの第1走者である。

コーナーリング
設定された幅内で、設定された時間(4秒)内にコーナーを曲がるもの。
キレイに決めたつもりだったが、あっさり40点の欄にパンチ穴が開けられる。
ラインを踏んだ上に、基準時間を大幅にオーバーしたらしい。

ブロックスネーク
これは波状路を蛇行させたようなブロックの並びを渡っていくもの。
立ち姿勢で走り出したとたんに脱輪した。
はーい、ときれいな女性審判員が、成績表の減点40点の欄にパンチ穴を開ける。

応用千鳥走行
オフセットスラロームのようなもの、だろうか。
ひとつめのパイロンを曲がった直後、応用千鳥走行ではなく千鳥足になってしまった。
よれよれと基準ラインをオーバーし、次のパイロンをどうにか曲がる。
が、その後が続かない。
コースアウト、更にエンスト、審判員が無言で減点40点の欄にパンチ穴を開ける。

ブレーキング
これは任せなさい、私じゃなくてブレンボに、というわけで自信を持って臨んだ。
基準は10m以内だったが、8.5mでぴたりと停止した。
なのに、40点の欄にパンチ穴が開けられる。
ええ、なんで?と思ったら、審判員が
「36km/hしか出ていません。速度計の読み値より低く出るから、40ちょうどじゃダメなんだよ。」
と今更ながら的確なアドバイスをしてくれた。

レムニー(8の字)
何というか、記録更新中で、舞い上がってしまい、移動ルートを間違えた。
動揺したまま、レムニーのある斜面に辿り着く。
この課題は、転倒しない事より他に目標なんてない。
どのみちマイナス40点は確実なので、つま先つんつんダンスと切り返しで、とにかくやり過ごした。
白バイ審判員が、当惑した表情で減点40点の欄にパンチ穴を開ける。

ストレートブリッジ
15mの平均台を15秒かけて通過するという、私には到底ムリな課題である。
ブロックスネークで脱輪しているので、ここでは最後まで渡りきる事に専念した。
記録は更に伸び、40点の欄にパンチ穴がきれいに並んだ。
ある意味、本領発揮の快進撃である。

コンビネーションスラローム
最初のクランクを抜けて左折したとたん
「はい、コース間違いです。こっちね。」
と外周に誘導される。
ええー、ひとつ間違ったら、残りの分は全然やらせてもらえないの!?と思ったが、ルールなら仕方がない。
またしても、減点40点である。

別に笑いを取ろうと思ってやってるワケではない。
すごすごと課題のエリアを後にした。
雨まで降り始めて、気分はどんどん盛り下がっていく。

UP!

4. 法規履行

コンビネーションスラロームのコースから出されてしまったので、記憶していた順路と現状に相違が生じていた。
早い話が、「こっちに行けばいいんでしたっけ?」状態である。

停止車両の側方通過
やっと辿り着いたこの課題では、2回の進路変更で車両の1m横を通過した後、車両の陰に潜む横断歩道と子どもを鋭く捉え、一時停止する。
対向車のいないコースを道なりに走るが、なかなか次の踏切に出ない。
距離感が無いので、そろそろ見えてくるはず、なんていうカンが働かない。
たぶん少し遠回りして、ようやく踏切が見えてきた。

踏切
「止まれ、見よ、聞け」と小さく唱えてから、後方を確認して発車する。
踏切を越えたら、右折して、側方通過の所までもどって…あれ?
ちょっと違うような気がする。
ゆっくり周囲を見ながらバイクを進めたが、次の課題の赤信号が見えてこない。
なんかもう、どこにいるのかもわからなくなっていた。
試験場の中を走るのは初めてなので、コースを間違えた場合に、どっちに向かえば復帰できるのかさっぱりわからないのだ。
もう発車地点にもどろうかとも思ったが、今の状態をプロジェクトマネージャ的に見ると、プロジェクトが大赤字で進んでいるのと同じだろう。
大赤字だからって、放棄しちゃいけない。
プロジェクトマネージャは、プロジェクトの責任を最後まで負わなければならない。
ちょっと横道にそれたような決意を固めて、勇気をふるいおこし、コースを探す。

信号機(赤点滅)のある交差点での右折
交差点が見えたが、信号は黄色く点滅していた。
ということは、今、走っている道に交差する道で赤信号が点滅しているということ、つまり、そっちが正しいコースである。
…なんでこうなるのだろうか?
そっちじゃないよ〜、と審判員が手を振るのが見えた。

どうにか赤信号を法規通りに通過し、ゴール地点に向かうと、私の次のスタートだった選手がいた。
道に迷っているうちに、抜かされてしまったらしい。
降車の採点があるので、彼女の採点が済むまで、私はゴールせずに待たなければならなかった。

最後に、気のよさそうな審判員が成績表を回収する。
どうでした?と聞かれ、もう全然できません、たぶん最低です、とほとんど半ベソで答えた。
えー、そんなことないでしょ、と微笑む審判員に、ホントです、信じて〜、となぜか懇願してしまった。
「じゃあね、今が出発点なんですよ。これから進歩しかないわけだから。来年も、シュウマイ弁当があなたを待っている。」
気のよさそうな審判員は、笑顔で送り出してくれるのだった。

UP!

5. 泣き濡れてただ一人…

疲れて落ち込んで、待合所に戻った。
予想をはるかに越えた、空前絶後のひどい出来である。
Monster 800S i.e.に乗り始めて、もうすぐ8ヶ月。
何やってたんだろ、今まで。
漫然と乗っていただけなんだな。
テラス、というより体育館の犬走りみたいな所で柵にもたれて雨を眺める。
バイクを通じて、いろんな人に出会えたのに。
たくさんの人が、たくさんのことを教えてくれたのに。
私が何も実らせることができなかったら、その人たちの示してくれた優しい気持ちや気遣いは、どこに消えてしまうんだろう?
交通事故を起こした人は、こんなふうに悩むのかも、なんて少しだけ客観的になった。
雨になっちゃいましたね、と選手のひとりが声をかけてくれる。
ちょっとムリして笑顔を作り、競技中にひどくならなくて良かったですね、と答える。
見知らぬ人が、声をかけずにいられないくらい、ヘコんだ顔していたのかな?

UP!

6. 表彰式

少し落ち着いたので、居眠りしていた夫をたたき起こし、話をしながら、成績発表を待った。
「まあ、転倒しない、という目標は達成したわけだから、プロジェクト的には成功やな。」
「プロジェクト的には、大赤字だけど完遂、ってことね。無傷で完走したから。」
「スラロームから追い出されたんだから、完走というのには異議がある。検定なら中止や。」
そんなこんなで表彰式が始まった。
関係ないや、けっ、とか思いながら黙って聞いていたが、奇跡は唐突に起こった。
「安全ドライバー賞、つるばらさん。」
ええ!?
訳も分からず、表彰状と賞品を受け取った。
なお、後から見たら、賞状には「優良ドライバー賞」と書いてあった。
賞の聞き間違い…。

「どこが安全だったんや?危なっかしくて見てられんような運転やったで。」
夫が更に異議を唱えるが、私にもわからない。
「最下位だがめげるな賞」とか、「クラス最高齢お疲れさま賞」の間違いのような気がする。

女性クラスの1,2位の二人は、友人どうしで、試験場で行われる講習会の常連らしかった。
やっぱり、いつもちゃんと練習している人が、いい成績を収める、という当たり前な結果が出ているのだ。
私も、愛するモンスターを走らせる技量が不足していると思うのなら、精進せねばなるまい。
「練習する!来年は、女性クラスじゃなく、大排気量のクラスに出る!」
「…懲りてないな。でも、いい成績出したいなら、競技向きのバイクにした方がいい。」
競技でいい成績を出すのが目的じゃない。
私のMonster 800S i.e.を、自在に、安全に操れるようになりたいの。
必死で訴える私に、夫は、コケるで、とあくまでクールなのだった。

UP!

二俣川の試験場

マスターオブモンスターのトップへ

トップページへもどる