#21 指導員は見ていた
全国白バイ安全運転競技大会の見学から1週間、私は腑抜け状態になってしまっていた。
免許を取って1年間無事故無違反のキレイな身体で(?)ひたちなかまで自力で行く、というのは実現したが、不本意な出来だった。
夫の単身赴任が終わらない。
友人たちとも、しばらく会えない。
そんなぐらいで腑抜けるなんて、甘えてんじゃねえっっ!というお怒りの声が聞こえてきそうではある。
10月の曇り空の下、肌寒さを感じながら、二俣川に向かった。
私にとって2回目の安全運転講習会に参加するためだ。
2回目ともなると、会場への道にも慣れるのが普通だが、私はやっぱり、そうはいかない。
こっちでよかったっけ?ここだっけ?と不安混じりに道をたどってしまう。
そして、運命の?二俣川駅前、前車が右折したのについつられて、自分も右折をしてしまった。
目前に迫る、直進の対向車。
バイクの加速の良さで逃げるように曲がってしまったが、ヒヤリハットだった。
ヒヤリハット、というのは、私の会社で使う安全用語で、災害には至らなかったが、十分に危険だった事例を示す(例:荷がくずれたが、たまたま人間には当たらなかった、等)。
恐怖感と自己嫌悪の混じったイヤな感覚のまま、試験場に到着した。
二俣川の講習は、レベルの高い順に3班、2班、1班、初心者班に分かれて行われる。
コーススラロームがやってみたくて、1班に入るつもりだったが、1班は人数が多かったので、初心者の班にした。
講習は前半と後半に分かれていて、初心者班の前半にはパイロンスラロームがあった。
1回目の通過を終えた時、アドバイスをくれた指導員が、直接関係ないんだけど、と切り出した。
「今朝、二俣川の駅前で、あれ、だめだよ。強引な右折しちゃ。(対向車線の先頭車の)3台後にいたんだけど急ブレーキ踏んだもの。」
指導員は見ていた。
試験場の外で、私の顔を知らないうちから。
気をつけます、ぼーっとして前のトラックについていっちゃったんです、と言いながら、すごく恥ずかしかった。
自分もヒヤリハットだったけど、相手もヒヤリハット。
今思い出しても、情けなくなる。
こんなんじゃ、いくら練習したって、何の意味もない。
後半では、パイロンスラロームに代わって、千鳥スラローム(千鳥走行)が加わった。
2本一組になったパイロンがコース上、左右に交互に並べてあり、2本のパイロンの間を通りながら、左右にスラロームしていくというもの(こんな説明でわかるだろうか?)。
今のところ、私には全くできない課題(初心者班にしてよかった!)。
パイロンの手前に指導員が立ち、こっちを見て、ここまで来たら外側のパイロン見て、と誘導してくれる。
外側のパイロンを目標に、ハンドルをロックする寸前まで切り、車体を傾けてゆっくりほぼ真横へ「移動」する(走るという速度ではない)。
パイロンの間を通過しながら、目線は早めに次のパイロンへ。
これでできるようになりそうだった。
単純にも、気分が少し明るくなった。
私の場合、気持ちを上向けるには、練習に励むのが一番なのかもしれない。
帰宅すると、自動車安全運転センター神奈川県事務所からの封書が届いていた。
封筒には「重要」の赤い文字と、私の通った教習所を示す略称のスタンプが押してあった。
開けてみると、運転記録証明書と、SDカードと、「SJD」(!)のマーク入りの送付状?、そしてなぜか教習所からの一筆が入っていた。
「Safty Driver(安全運転者)の仲間入りおめでとうございます。」
人生って皮肉だな、こんな日に届くのか(苦笑)。
運転記録証明書には、平成15年8月2日の通行区分違反(教習の真っ最中だったのだ!)の2点が特例により点数計算されないことが記されていた。
私って、違反はしてるし無謀な右折するしで、やっぱり情けないのだ。
腑抜けている場合ではない、問題解決しなくちゃ!と思うのだが、今は静かに、うつむいていたい気もするのだった。

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