#23 南伊豆ドカの集い 
初めての一泊ツーリング
バイクショップの主催する「年に一度の一泊ツーリング」に参加することになった。
メンバーは、当然、怒濤のごとくドゥカティばかりである。
Multi M400 M800 M900 M1000 S4 S4R SS1000 999 999S 749S 749R 998sFE 998s MHR 748R 996
書いていて疲れる程である。
ちょっと不安なのは、以前こやひろさんのツーリングでご一緒した方が、M400に乗り始めたばかりの彼女をまだショップのツーリングには参加させられない、というような発言をしていたこと。
彼女は、私が一緒に走った限りでは、特に問題のない安全な運転をしていたから、その彼女を参加させられないツーリングとは?
という疑念があったのだ。
ともあれ、南伊豆への旅は始まった。

東名は、元気よく走れる区間もあったけれど、行楽シーズンにありがちな渋滞もちらほら。
高速ですり抜けて行くと、周りの車は止まっているように見えてしまう。
海の中で、じっとしている大きな魚たちの間を泳ぐ小さな魚になったような気がした。
小田原厚木道路、箱根、伊豆スカイラインを通ってまずは中伊豆へ。
反応ののろい私にとっては、この辺りからがワインディングのウォーミングアップになった。
連続するカーブを走るのには、いつも慣れるための時間が要る。
どうしてギクシャクするのか、記憶の奥に問いかけて、ブレーキかけるのが遅いんだよ、という優しい答えを思い出す。
天城越え
中伊豆のワイナリーで、ワイン横目にランチをとった後は、修善寺を経由して天城越えである。
後ろの人たちに迷惑をかけてはいけないと思い、前車から離れないように走った。
速いペースに最初は必死でついていく。
徐々に慣れて、それが自分のペースみたいな錯覚をおこしていく。
速度を落としてカーブに入り、速度を上げて出て行く、その繰り返し。
少し疲れたかな、と思う時には、目線が驚くほど近く、不安定になっている。
気合を入れ直して、さらについていく。
普段の自分なら決して出さないような速度で走り続けていた時、カーブに入るラインが少し崩れた。
右のブラインドカーブ、大型トラックが視界に飛び込んでくる。
クラクションが鳴り響き、すぐにそれは罵声に変わって、すれ違っていった。
トラックの運転手に、危険を感じさせてしまったのだ。
死にはぐったという恐怖よりも、自分がこんなことをやってしまう人間であるというショックの方が大きかった。
すーっと速度が下がり、姿勢がギクシャクし始める。
もうついていけない、これが限界だと知った。

あの彼が、M400の彼女を心配していたのは、こういうことだったのかもしれない。
ついていけないのじゃない、ついていってはいけないのだ。
でも、まだ経験の浅い彼女は、自分のペースを見失って、危険の中へ飛び込んでいってしまうかもしれない。
そういうことを心配していたのではないかと思った。

ループ橋を通ってしばらく行ったところで休憩になった。
夫に大型トラックとの遭遇の話をすると、夫曰く「悪運はいつか尽きる」。
その通りである。
更に落ち込む私に、もう少しで宿だからめげるな、と励ましの言葉をかけてくれた。
下田の夜
下田の夜は、ドカ乗り達とのおしゃべりと、これでもかのごちそうで更けていく。
あまり社交的とは言えない私だが、こういう状況だと、初対面の人とも、その日の話題で盛り上がる。
「ガンガンいってましたね。」
「ええ、まあ、つられて(身の程知らずでした…)。」
「あっちの彼は、サーキットも走ってるんですよ。」
「へえ〜(試験場なら何回か走ったことあります)。」
宴会場にはカラオケセットもあったが、誰も歌わなかった。
ひとりぐらい「銀河鉄道999」を歌う人がいてもよさそうなものだが。
(余談だが、この歌は結構好き。「あの人はもう思い出だけど どこかで君を見つめてる」…だから無謀な運転はしてはいけない)

自我がやっと芽生えたの、とショップのおかみさんが目を輝かせる。
ムルティで先頭を走る大将のすぐ後を、S4Rで軽快に飛ばしていたおかみさん、実は一人で走ったことがない、と言う。
でもね、今日走って、なんか自分で走ってるなあ、って気がしたの、後を追ってるんじゃなくて。
あれだけ峠道をガンガン走れる人が、意外な発言だと思ったが、意外とそんなものなのかもしれない。
私は逆に、長いこと一人で乗ってきたから、一人でどこにでも行けるような気がする。
が、誰かから「鍛えられる」という経験をしなかったので(教習所や講習会は別)、峠を攻めるなんてとてもできない。

結局、部屋にもどってからも集まって飲んだ。
酔ってしまったのか、私は何故かその夜、転倒したバイクを片手で起こすというマッチョな?夢を見てしまった。
ピースフルフィーリング
翌朝は、夫の仕事の都合で、他の参加者と別れ、帰路についた。
…決して、めげて脱落したわけではない(ホントか?)
海岸沿いの道、山あいの道を自分らしいペースで走る。
such a peaceful feelingという言葉が心に浮かんだ。
平和な気持ちで、Monster 800S i.e.との一体感を楽しんでいた。
「平和な走り方なら、アメリカンだと思うけど、なんでアメリカン嫌いなん?」
夫はよくこんなことを聞くが、愚問である。
重くてごついバイクは嫌なのだ。
私のピースフルフィーリングは、この軽くて身体に良くなじむバイクで得られるものなのだと思う。
前日のことをくよくよするのはやめることにして、箱根のターンパイクでは、すっ飛んでいく夫を早々に見放し(?)、ムリのない、(自分なりに)軽やかな走りを堪能してしまった。

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