#27 1万キロの旅(後編 こっち向いて笑って) 
走り初めでの10,000km達成に挫折して約1週間、リベンジの旅?に出ることにした。
でも、10,000kmまであと14km。
これでは、ルートによっては、県外に出られるかどうかもわからない。
特別な場所を狙うのはあきらめ、次の準備を兼ねて、多摩テックの場所確認に行くことに決めた。
次の週末、多摩テックで開催されるスポーツライディングスクールに初参加する予定なのだ。
夫に後ろについてもらい(記念写真を撮ってもらうため)、府中街道を淡々と西へ向かう。
まあ、書くまでもないのだが、14kmは本当にあっと言う間で、予想通り、県内(どころか市内)で、液晶表示はぴたりと5桁に切り替わった。
停車できるところを探し、記念撮影。
でも、多摩テックまではまだ距離がある。
10,000kmという数字だって、ひとつの通過点に過ぎない。

よく見えない

まだ雪の残る郊外を走って、多摩テックの場所を確認し、帰路についた。
途中のファミレスで、10,000kmお祝いと称して、コーヒーとケーキで休憩する。
「講習会に出て、役に立ってる?」
ケーキをつついていた夫が、不意に尋ねた。
「?」
「いや、ただ、みんなで集まってワイワイやって、それで気が済んでる人もいるんやないかと思って。」
「…初めて講習会に出て、いきなり一番上のクラスを難なくこなしちゃうような人にはわかんないわよっ!!」
「でも、初心者向けのクラスって、眠くなるような内容やろ?」
「私、ヘタだもん。人の何倍も努力して、せめて、人並みになりたい。」
どうも雲行きが怪しくなってきた。
「あのな、車線変更するとき、ウィンカ出してから、車線変更するの早すぎるで。コンプライアンス(法令遵守)を旨とするつるばらさんとしては、ふさわしくない行動やな。」
追い打ちをかけるように夫が指摘する。
「これから直します。」
決定的に雰囲気が悪くなってしまった。
帰りは夫が前を走る。
が、いつもより、乱暴な感じがする。
すり抜けをし、路肩を走り、どんどん進んでいく。
途中でイヤになって、ついていくのをやめた。
こんな走り方じゃ悲しいので、慣熟走行で後を追った時の、あの、うれしい!楽しい!大好き!の感覚を思い出そうとしてみた。
あのわくわくするような、こみ上げてくる気持ちは、今はどこに隠れてるのだろう?
うれしい・楽しい・大好き、と吉田美和の歌声を思い浮かべようとしたら、違うのを思い出してしまった。
「こっち向いて笑って 照れないで smile smile smile」
何かくすぐったい歌詞で、目元がほころんでしまう。
でも、ほころんだら、後はなし崩しである。
ついさっきまでのいじけた気分が引いていく。
やはり吉田美和は、アジアの歌姫である(そういう問題か?)。
信号待ちで夫に追いついた。
大丈夫?と聞かれ、大丈夫!でも手が冷たい、と笑顔で答えた。
アジアの歌姫のおかげで、家庭不和は回避されたと言っていいだろう。
こうして、私の10,000kmめの小さな旅は終わった。
記念品は「こっち向いて笑って 照れないで smile smile smile」というおまじないである。
思うとおりに運転できなくて、いじけた気分が沸いてきたら、このおまじないで立ち直ることにしよう。
そんなわけで、今は多摩テックでのスポーツライディングスクールが楽しみでしかたない。
このちょっと照れくさいような、わくわくする気持ちは、何となく、恋に似ているような気がする。
…人間、意外と枯れないものである。

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