#36 玉川サンデー
開始を待つバイク達
多摩川の向こうへ
玉川署が行う「サンデーバイクスクール」(毎月第2日曜実施)に参加してみた。
1時間だけだけど、自分でじっくり練習できるからいい、という話を二俣川の気のいい指導員さんから聞いていたので、一度行ってみたいと思っていたのだ。
会場は、わが家から見ると多摩川の対岸にある自動車学校だった。
初めての場所、それも教習所だなんて、私にとっては、緊張しろと言われているようなものである。
この講習会、事務局?は、制服の警察官だが、指導員は二輪車安全普及協会の人ではないようだった。
ネームプレートに、名前の他に何か書いてあるのだが、遠目には「いらっしゃいませ」と書いてあるように見えたのだ(見間違いかもしれない)。
…まあ、誤解かもしれないが、とにかく、二俣川とは大いに違う、淡々とした雰囲気の中、講習がスタートする。
「マフラーを改造していたり、排気音が特に大きい人は、途中で遠慮してもらうことがあります。」
「一本橋などの低速課題以外は二速以上です。近隣の迷惑にもなりますから、一速で走り続けるのはやめて下さい。」
注意事項も、実にシンプル、かつ厳格である。
参加者は、慣れた感じの人が多いが、仲良しグループ的な雰囲気はなく、初めてでも気後れすることはなかった(不安は不安だったが)。
その中に、バイク急便の制服姿で参加している人が二人、1台はコンテナを積んだバイク…もしかしたら、会社から受講を指示されたのだろうか。
難しい初級
講習は、上級・中級・初級の3グループに分かれて行われる。
初めてなので当然(?)、私は初級に参加した。

初級グループの前半は、一本橋・波状路・坂道スラローム・8の字・パイロンスラローム・クランク・S字(順番は少し違ったかも)である。
坂道スラロームというのは、坂の上り・下り共にパイロンが並べてあって、スラロームしながら通過するというもの。
しかもこれ、波状路を通過した後、鋭く右にUターンして坂に入る…どこが初級なんだろうか?
指導員からのアドバイスは基本的に無しなので、自分で考えながら、少しずつ課題をこなしていく。
…ハズなのだが、各課題で一杯一杯の私は順番を間違えまくって、指導員に、そっちじゃなくてこっちです、などと注意されていた。
一本橋の上でエンストしたり、坂道のパイロンで最初の2本がどうしても回れなかったり、クランクを二速で通過できなかったり(ごめんなさい)、課題では予想通りに苦労したが、もっと大変だったのは「つなぎ」の部分。
波状路から坂道に入る小転回、クランクを出た後のターン…どうにも苦手だ。
7:30に始まった講習なのに、8:00前には結構クタクタになっていた。

アドバイスは胸の奥から
後半はコーススラロームである。
愛し君よ、恋しアナタ、回れ〜、である(これはサザンの「ごめんね、チャーリー」という曲の歌詞)。
クランクやS字をつないだコースなのだが、このコースがとても良くできていて、大型車用の大きなクランクやS字から、普通車用の小さなクランク・S字に進んでいくようになっている。
最後はクランクからクランクへ、左のキツいターンで入っていく。
つまり、徐々に難しくなるような構成なのだ。
但し、前半の課題になっていた、二輪用の一番小さいクランク・S字はなし。
さすが「都内最大♪バス2台♪♪」の教習所である(関係ないか)。

このコーススラローム、最初はとにかく辛かった。
前車に一生懸命ついていこうとするのだが、クランクを抜けるのにギクシャクして時間がかかり、どこまで行っても離される。
速く走れないので、二速のモンスターは失速しそうで怖い。
アドバイスはないので、自分の中にある、今までにいろいろな人からもらったアドバイスをひっくり返して、考えながら走る。
思い出したのは、「クラッチを一瞬切る」と鋭く小回りができた経験。
半クラッチや断続クラッチではなく、スパッと一瞬切ってみる。
その瞬間に下半身でバイクを倒し込むような感じでクランクに飛び込む。
上手く説明できないけれど、一瞬クラッチを切ることで、ギクシャクが無くなったような気がした。
下半身を強く意識したためか、モンスターが身体にぴたりとなじんで、急に姿勢が変わったのが自分でよくわかってしまった。
…しばらく考えてからでないと、思い出せないあたりが私らしくていいじゃん(←開き直り)。
最後のクランクからクランクへのターン、これは最後まで苦労した。
上手くバランスが取れなくて、どうしても左足を出してしまう。
しかも超低速、後の人、ごめんなさい。
大回りしてもいいから!と自分に言い聞かせて、少しずつマシになってきたが、時間内には、足を出さずに回れるようにはならなかった。
黄色いモンスター
もうお腹一杯!と言うくらい充実した1時間が終わった。
指導員に指示された位置にバイクを止めると、とたんに周囲の人たちに話しかけられた。
「そんなハンドルの切れないバイクでよく回れますね。」
「ボクはあのクランクはパスしました。このBMWでハンドル切りたくなくて。」
ああ、みんな同じように、悩みながら、考えながら練習してるんだな、と思うと、なんだかうれしかった。

ふと、コースに目をやると、上級クラスはまだ練習中のようだった。
目の前の二輪車用の小さなクランクを、黄色のM400が楽々と通過していく。
モンスターでもあれだけできるんだ!
驚くと同時に、希望の光が見えた気がした。
このバイクに「できないこと」がたくさんあるわけじゃない。
私が今、できないだけなのだ。
正しい方法で練習を続ければ、必ずできるようになる。
やってみよう…!
黄色いモンスターは幻のように去ってしまい、ライダーと話すことはできなかったが(たぶん男性だったと思う)、私の中に、小さな野望の火を残してくれたのだった。

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