#38.5 白バイ大会の片隅で
白バイ大会の会場は、言わずと知れた「海の近くの研修所」である。
ここには、私にとって忘れられない、懐かしい人がいる。
たくさんの人が行き交う中で、見つけだすことは不可能だけど、この中のひとりがその人なのだ。
その人に、無事故無違反のきれいなカラダのままでまた会いたい、というのがいつでも私の最大の望みだった。
すぐ来て、今来て、ここに来て。
戯れにつぶやいて、何気なく振り返ると、教官服の腰にトランシーバーを帯びた人物が、ちょうど通りかかったところだった。
目があって、同時にはっと気がついた(と思う)。
チャーリーだった。
「見に来たの?」
「はい。お久しぶりです…!」
去年の10月、教習所のオープンキャンパス(?)でバッタリ出会ってから1年経っている。
足が震えた。
「バイク、まだ乗ってる?」
「乗ってますよ!!」
教習指導員(ただし現在は出向中)と元教習生の会話としてはごく普通だ。
でも、私はバイクに、というかモンスターに乗るために、不屈の根性を発揮し続け、今やそれが生きる原動力にもなっている(というのは大袈裟か)。
そんなことをチャーリーが知る由もないというのが、何となく可笑しかった。
大型二輪の教習をなかなか終わらせることができず、苦しんでいた時に、チャーリーが救済してくれた。
くじけそうで、投げやりになりそうだった時に、あきらめる必要なんかないことに、気づかせてくれた。
わずかなつまづきで、せっかく身につけたことを捨ててキレた走りをしそうになっていたのを、言葉ではなく態度でなだめてくれた。
それはそのまま、これから先ずっと、バイクをあきらめる必要なんかない、という思いになった。
チャーリーに教えられたことを、何ひとつ忘れたくない。
ハンドルを握ると、心と体が迷いなく、ひとつのことをするように・・・「安全運転」。
…そんなこと、本人にはとても言えないが…。
トランシーバーから響く声を気にしつつ、少しだけ、目の前で行われている傾斜走行操縦競技(スラローム)の話をした。
「みんなもちろん上手いんだけど、よく見てるとね、すごく上手い人とそうでない人がいるのがわかる。」
(その後ずっと一生懸命に目を凝らしたけれど、私にはわからなかった。)
「女性の方が、上手いかもしれない。」
そういえば、去年会った時も、女性白バイ隊員の技術を誉めていたっけ。
チャーリーの視線が、ふっと私に移る。
「競技会、出てみればいいのに。」
「出ました!これ賞品なんです。」
オレンジ色のパーカーの胸に書かれた「KANAGAWA NIFUKYO」の文字を必死で指し示した。
そうか、県大会に出たんだ、と微笑むチャーリーの目はやっぱり優しかった。
10月には、偶然の風が一度だけ吹く。
たった一度だけ、力強く、優しく。
私はそう思う。
無事故無違反のきれいな身体でチャーリーに会いたい。
この望みは、去年も今年も叶えられた。
10月の、偶然の出会いで。
私がそうありたいと思う限り、来年もきっと、風は吹くだろう。
ところで、今回気がついたこと。
「すぐ来て、今来て、ここに来て。」
このおまじない、すごく効くようだ。

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