#40 HMS初級 〜2005年12月の第1土曜日に〜

レインボー埼玉の猫(レインボー埼玉にいつもいる猫)

サラリーウーマンのとある週末
金曜日。
私は上司から、人前で、人格まで否定するような激しい叱責を受け、弁明することも許されず、ただ困惑しきって立っていた。
優しく声をかけてくれる人や、慰めてくれる人がいるわけでもない。
いつのまにか、私は誰かに愚痴や泣き言を聞いてもらえる立場ではなく、誰かの愚痴や泣き言を聞いて、支え励まさなければならない立場になっていた。
自分自身の現実には、自分一人で立ち向かって行かなければならない。
ひどいダメージを受けたまま、単身赴任先から疲れ切って帰宅した夫と二人、週末を迎えた。
翌日HMSに参加するから、というより、二人ともぐったり疲れ果てて、早々に眠りについた。
既視感のある練習
翌日は12月最初の土曜日、HMS初級に初参加した。
今回借りたのはCB750、最近、自分がモンスターのハイパワーを使いこなしていないことを痛感していたので、重い車両が多少しんどくても大型車で練習しなければ、と思ったから。
体調確認のため、センタースタンド掛けをやってみると、最初はもたついたけど、ちゃんとできた。
ダメージ受けたとか何とかいいながら、意外とタフなのか、自分?

午前中は、ウォーミングアップ、慣熟走行で始まって、オフセットスラローム、パイロンスラローム、急制動と課題が続く。
慣熟走行で、インストラクターのすぐ後ろを走ることになったのだが、インストラクターが右手を挙げているので、その通りにやってみたら、ちゃんと走る。
教習所で、教習指導員が両手を離して走るのを見た時、アクセルから手を離して、なぜ走れるのか不思議だった。
私の見間違いで、右手は離していなかったのだろうと考えていたけど、やっぱり両手離しで走っていたのだ。
アクセルから手を離した慣熟走行、それは、アイドリングで走るということだったのだ。
目から鱗が落ちる気がした(…間違ってる?)。

それで調子づいたら良かったのだが、そんなに世の中、甘くはなかった。
オフセットスラローム、とりあえず回れることは回れるのだが、何だかギクシャクしてかっこわるい。
案の定、インストラクターが、アナタちょっとこっち来なさい、と手招きする。
「こわごわ、回っていませんか?」
ムラのあるアクセルワークが、おっかなびっくりアクセルを開けているように見えたのか?
「曲がり始める前に、十分減速できていないから、怖くなっちゃうんですよ。」
二人乗りでやってみましょう、と、インストラクターが私の乗っていたCB750に跨り、私はリアシートに移る。
「肩につかまって、ニーグリップして下さいね。
そう言われて、私は不思議な既視感にとらわれていた。
…!ちょうど1年前の12月の第1土曜日、ペーパーライダー教習を受けに行って、「気配りの先生」の後ろに乗せてもらったのだ。
あの時は、下半身でのコントロールを教えてもらったのだった。

さて、肝心の曲がり方だが、順番に、アクセルオフ→前後ブレーキかける→前ブレーキ離す→後ブレーキ離しているうちにアクセル、と教えられる。
前ブレーキと後ブレーキ、同時に離してしまっていたようだ。
後ブレーキは多少引きずっていいみたい。
その通りにやってみたら、カーブもオフセットスラロームも、アクセルの「ごんっっ!」という感じが消えて、滑らかになった(ように思った)。

急制動では、加減がしやすいから、ということでブレーキレバー指4本掛けを指定される。
つまり、アクセル全閉→ブレーキ、としなければならないのだが、そうなっていない私のブレーキングを、インストラクターは鋭く指摘する。
「(レバーを)引っ張ると、アクセル回してしまうことがあります。指で引き寄せる感じです。」
その他、ブレーキの反動に対して、腕でハンドルを押して支えていたようだ。
おへそのあたりに気合いを入れて、身体を支える練習をする。
激走!?コーススラローム
午後は、スラロームでのステップワーク、減速チェンジ、コーススラローム。
スラロームでのステップワークというのは、ステップを踏み込んで曲がる、反対側のステップを踏み込んで戻す、いわゆる「外足荷重」のことのようだ。
以前話を聞いた時には、すぐにはできるようにならなかった。
でも、今回は、何となくできてきたような感じが…気のせいか?
重くてデカいCB750が、なんだか身体にぴったりなじんでいるように感じる瞬間があったんだけど。
ステップを気にかけてスラロームをしていると、バイクを振り回しているような、ちょっとした快感があったのは確かだ。

減速チェンジ、これはシフトダウンの時に「回転を合わせる」テクニック。
クラッチ切る→シフトダウン→素早くアクセル回す→クラッチつなぐ、という手順になる。
速度に見合ったギアまで落とすという基本的な方法の他に、知っておいて(身につけておいて)ソンはない、ということだった。
この練習では、かなり思いっきりアクセルを開けて加速してからのシフトダウンになり、否応なしに大型二輪車のパワーを感じさせられた。
「私、減速チェンジは無意識にやってたかも。違和感ないもん。」
夫に話しかけてみると、夫は私が減速チェンジをしているところなど一度も見たことがない、と言う。
気のせい?
ということは、今日、できたような気になっている他の課題も気のせいだったりするのだろうか?
…まあ、全部気のせい、ってこともないだろう。

そして、最後はみんな大好き!コーススラロームである。
実は私、コーススラロームで何が一番苦手って、コースを覚えるのが一番苦手だったりする。
でも、今回は、割とすぐに覚えることができた。
コーススラロームでは、立っていたり寝ていたりするパイロンが、コースを教えてくれることに気がついたのだ。
「こっちに来るな」とか「あっち行ってね」とか。
走行は、午前中からの練習の成果で、身体が良く動き、さくさく走れてホントに楽しい!
CB750がかなり身体になじんでいたので、自分としては可能な限り最大限、車体を振り回せているような気がした。
それにしても、やはり大型車のパワーって凄い。
前車が400CCだったりすると、あっという間に追いついてしまうのだ。
ここで、大型二輪に乗る者の、より重い責任を自覚するのがオトナなのだろうな。

が、最後の1周、オフセットスラロームの箇所で、インストラクターの乗るフォルツァに追い回されてしまった(それがとても楽しかったのだけど)。
1年経ったら
帰り道、去年も今年も12月の第1土曜日に、CB750にタンデムして指導を受けたことを思い出し、何となくちょっぴり面白かった。
1年前と比べたら、できるようになったことがいくつもある。
1年間、バイクが好きだという気持ちを持ち続けて、モンスターを乗りこなせるようになろうとがんばってきた。
誰がどんな風に私を否定したとしても、それくらいの強さは持っていたということだ。
誰も評価してくれなくても、そのことだけは、自分を信じられる。
だから、たぶん、これからも大丈夫。
バイクに元気づけられて、心地よい疲れを感じながら、楽しい一日が終わる。
ふっと嫌なことが頭をかすめて、憂鬱な気持ちが広がっていっても(それは歌の文句だ)、今は振り払える気がした。

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