#50 HMSバランスファースト たぶん日本一情けない20年ライダー


Hornet250の陰謀

マスター オブ モンスターとして、モンスターを乗りこなすための腕をどうやって磨くか?
もう、ずっと考えてきた問題だけど、少し違うアプローチを試みることにした。
「できて当たり前(できなきゃただのバカ?)」
のことから、ひとつずつ確認すること。
できなければ、できるようにすること。
そう考えて、HMSのバランスファ−スト(低速課題を中心としたクラス)に3度目の参加を申し込んだ。
車両はいつものCB750ではなく、Hornet250を選択した。
これで全課題制覇ができなければ、私はただのバカ?ということになる。
8の字の判定

人知れず緊張感を抱いて(だって、バカ?か否かの分かれ道だから)、HMSバランスファーストが開講した。
担当は、前回のバランスファースト(3/28)でも担当だったどちらかというと若いインストラクター、、雑誌の記事等で有名なスーパーインストラクターの二人である。
車両点検(クラッチレバーの調整まで教えてくれる親切な説明付き)、慣熟走行の後、コースへ移動して、まずは8の字に取り組む。
Hornet250、250のクセに、タンクやシートがデカくて、足つきが良くない。
でも、やっぱり軽いので、8の字は比較的楽に、思い通りに回れた(ように思っていた)。
「リーンアウト気味です。曲がる方向に体を向けるようにすれば直ってきますよ。」
スーパーインストラクターに言われて、上半身、特に体を意識して、ひたすら回る。
しばらく回った後、呼ばれた人は付いてきてください、とスーパーインストラクターが参加者の半数程度を抜き出して引き連れていった。
その姿が、「ハーメルンの笛吹き男」に見えたのは私だけだろうか?
居残り組

どちらかというと若いインストラクターが、残った我々を集めて説明する。
「こちらの皆さんは、もう少し8の字をやりましょう。」
!居残り組ってことである。
ハーメルンの笛吹き男は、標準組を別世界へ連れて行ったのだ。
さすがスーパーインストラクター、数回転の8の字で、私の実力を見切った、というか見限ったのか。
この時点で、全課題制覇という私の野望はもろくも崩れ去った(というか、全課題挑戦自体が消えた)。

そんなわけで、午前中はずっと8の字をやることになった。
「リーンアウト気味だと楽に回れます。でも、ここは敢てリーンウィズでやります。」
どちらかというと若いイントラさんが私を呼びとめ、説明する。
20年間大過なく走ってきたけど、技術力は不足したままであることの謎解きをしてくれそうなので、つい、すがるような目で聞き入ってしまう。

「ハンドルはやや斜めに握ります(柏秀樹さんのよく言う「45度」「腕はまあるく」と同じ意味だな)。」
「肩をハンドルと平行に(さっきのスーパーインストラクターの言っていたことと同じだな)。」
ふむふむと聞いていると、核心部分迫る指摘が!
「旋回の時、ひじが内側に来ているので、それが邪魔で体が逃げてアウト気味になっているんです。ひじを意識的に外側へむけましょう。」
こういう悪い癖を、20年かかって身につけてきたのだろうか?

さて、ひとりで延々8の字をやっているとさびしいので、ちょっと遊んでみる。
8の字は「加速(Accelerate)、減速(Break)、旋回(Circulate)」なので、「アルファ、ブラボー、チャーリー」と唱えながら8の字を回るのだ。
でも、肩やひじのことを気にしていると、おまじないはすぐに途切れてしまう。
そんなこんなで、納得できるようなできないような午前中の練習が終了した。
この間、標準組は細かい切り返しや、小さなUターンをやって、いい汗を流したようだ。
昼休み、標準組だった人たちと一緒に昼食を摂ったが、みなさん疲れ切ってほとんど食べられないのに、私は一人完食してしまった。
おいしかったけど、何かむなしいものを感じてしまった。
微速前進

午後は一本橋の準備として、長い直線コースを、できる限り低速で進む、という課題から始まった。
昔(というほどではないか)、教習所で、気配りの先生と雨の日に遊んだ?課題だ。
あの時は、前を走る先生に追いついてはいけない、足をついてはいけないという二つのルールだったっけ。
さすがにこの課題、Hornet250では比較的簡単だった。
要はアクセルを開けず、アイドリングだけで進むようにリアブレーキとクラッチ操作をすればいい。
Hornetは4気筒なので、アイドリングでの前進に不安感はない。
「今度は停止してみてください。ハンドルを左右どちらか好きなほうに切って。まっすぐ向いたまま止まるのは難しいです。」
これは難しくて、何度も足を付いてしまった。
それでも超低速で最後まで走り切る(動き切る?)と、ゴールでインストラクターたちが拍手で迎えてくれた。
メインイベントは一本橋

そしてついに、バランスファーストの花形課題?、一本橋詰め合わせである。
ここでも先ほどの標準組と居残った組に分かれ、半分ずつ取り組む。
居残った組の最初は
千鳥→細い一本橋(幅約20cmらしい)→普通の一本橋→Uターン→もう一本の普通の一本橋→波状路→オフセット
である。
モンスターではフルロックの繰り返しになる千鳥だが、Hornett250では、可笑しいくらいすんなりと通れた。
それでも、熟考されたパイロン構成になっているので、途中ライン取りを間違えて、2回ほど破綻してしまった。
一本橋も、マルチの強みか、自分では考えられないくらい長時間滞在できてしまった。
「はとぽっぽ」を歌い終わって、まだ橋の上に居たりして。
でも、何回も繰り返すうちに、疲れてしまうのか、少しずつ、タイムが悪くなっていったように思う。

その次は、
千鳥→スネーク一本橋→かまぼこ一本橋→W字溝→V字溝→オフセット
である。
「こちらはさきほどより難しいと思ってください。先の組(標準組のこと)は、最後に砂利道と山登りもやっていましたが、砂利道は横切る程度でいいです。山登りは、やりたい方はどうぞ。」
うーん、差別待遇と思いつつ、遭難した場合に申し開きができないので登山はあきらめた。
何のためにHornett250を選んだのか、もうすっかり初心を忘れている自分が哀しい。
こちらも千鳥は楽勝だったが、変形一本橋群はやっぱり難しかった。
スネーク一本橋、さすがにCB750でやるよりは先まで進めるのだが、やっぱり完走できない。
回を重ねるごとに進む距離は伸びたけど、最後までいけなかった。
余談だが、このスネーク一本橋、右側に落輪すると、一本橋の土台であるコンクリート面と草地の境目と橋にはさまれて、身動きできなくなる。
そしてそう思うと、なぜか必ず右側に落ちてしまうのだった。

W字とV字はCB750でも割と得意だったので、何も考えずに入っていったら難しかった。
そう、250は750よりもタイヤの幅が狭いから…つまり今まで私は、溝にCB750のタイヤをぴったりはめて走っていただけだったのだ。
そりゃ誰だってできるよね〜。
新たな発見(ただしとほほ)だった。

V字溝からオフセットスラロームに入る所が、かなりきついターンをしなければならなくて、これはCB750だとできなかったかもしれない。
オフセットそのものは、ライン取りでミスったりすることもあるけれど、モンスターでやるよりもきれいに回れたのではないかと思う。
技術力を買いに

そんなこんなで、自主的実力テストを兼ねたバランスファーストは終わった。
結果は…悲惨?
まあ、最初に居残り組と見切られた時点で結果は出ていたようなものなのだが、1日を振り返ってみると、やっぱり出来が悪い。
私、もしかしたら、日本一腕の悪い20年ライダーなのかもしれない。

忸怩たる思いを胸に、Hornet250を車庫に入れようとバックで押していると、
「お待たせしましたぁ」
と、侮れないインストラクターが、満面の笑みを浮かべて、突然どこからか出てきた。
このイントラさん、最近こちらに異動してきたそうなのだが、芸風が一味違うというか、まあ、楽しい人なので、私は密かにこう呼んでいる(マンガのキャラでいうと、青池保子さんの「エロイカより愛をこめて」シリーズに出てくる「ロレンス」氏に似ているかもしれない)。
先日の中級では、私を拉致&恐怖のスラロームタンデムで、みっちり指導してくれた。
はい、離していいですよ、と侮れないイントラさんは私からバイクを受け取り、車庫に入れてくれた。
ささいな出来事だったけど、なんだか笑えて、気持ちが和んだ。

HMSで、自分の実力を思い知らされる度に、毎回きっちり気分は沈む。
でも、また参加してしまう。
バイクに乗り始めてから20年間、技術力を伸ばす努力を怠ってきたから、その埋め合わせをお金で買いに、たぶんまた行ってしまう。
そういう自分を情けないと思う。
そんな思いが胸をよぎって、レインボー埼玉からの帰り道は、いつもちょっとセンチなたそがれ時となるのだった。

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