#51 二輪車倶楽部、伊豆へ

やま弥駐車場にて

計画は「かぶと煮」

会社の二輪車倶楽部で、伊豆にツーリングに行くことになった。
テーマは「かぶと煮のおいしいお店で、駿河湾の海の幸を堪能する。」
大変明確かつ即物的な目標のもと、土曜の朝の箱根ターンパイク入り口に集合する。
霧のターンパイク

前日の天気予報では、土曜の箱根周辺は「くもり、降水確率20%」だったが、朝起きてみると路面が濡れていた。
ゆうべ降ったんだな、と軽く思い、私はモンスター、夫はBMW80GSで普通に出発した。
が、東名を走っているうちに小雨がぱらつき始めた。
たいした雨ではなかったが、メッシュジャケットでは水がしみて寒いので上だけ合羽を着て、小田原厚木道路経由で箱根ターンパイクにたどり着いた。

ターンパイク入り口では、9RのY君が一人で待っていた。
「早く来て、先に一回りしようと思ったんですけど、降ってたのでここに居ました。」
そこでは、偶然、つじつかささんがツーリングスクール?をやっていた。
丹念に説明&ストレッチするのを、Y君は延々1時間見ていたそうだ。
「あと誰が来るんだ?」
CBR1000RRに乗る隊長が現れ、携帯電話を手にチェックする。
前日、出張だった人が多く、最終確認が取れていなかったのだ。
でも、特に心配することもなし、参加者は、ウチの周りはもろに降ってましたよ、とか何とかぶつぶつ言いながら、全員集まったのだった。
ホンダ・CBR1000RR(隊長)、ドカ・900SS(隊長代行)、トライアンフ・スピードトリプル(U君)、カワサキ・ZX-9R(Y君)、BMW・R80GS(夫=ビーマーのおっちゃん)、ドカ・M800(つるばら)の6人である。
雨より怖い

「誰か地図持ってる人?」
隊長の問いかけに、はあい、と手を上げたのは、一番若いY君だった(実は私も持っていたが、ちょっと古いので名乗りを上げなかった)。
「じゃ、Y君、先頭。」
地図持ってるって理由だけで〜?とみんな笑ったが、誰も異存はない。
このメンバーなら(私は除いて)、だれが先頭を走っても大丈夫なのだ。
じゃあ俺、最後尾につきます、と900SSの隊長代行が言い、6台は霧立ち上る箱根に入っていった。

霧に包まれた箱根ターンパイクは、はっきり言って、雨の時より怖い。
とにかく視界が利かないので、予期せぬ危険がそこここに隠れていそうな気がしてしまう。
Y君は控えめなスピードで、みんなを率いて行ったが、前から4番目の位置にいた私には、そのテールランプすら見えないのだった。
途中、大観山ドライブインでは、なにやらドカのイベントをやっていたが、悪天候で入場者がほとんど居ない。
隊長代行の900SSと私のモンスターが、ドライブイン脇の停止線に並んで一時停止すると、誘導係の人が一瞬、視線を向けたが、グループツーリングで通りかかっただけであることにすぐ気が付いたようだった。

亀石峠のパーキングで小休止した時には、みんな十分湿り切って(というより濡れて)いた。
「左に寄って、抜かせてくれようとするクルマもいましたが、怖くて行けませんでした。」
メッシュジャケットの前面をびしょ濡れにした9RのY君が言う。
「後は日が射して前が見える道を走りたいですね。」
まあ、下界はカンカン照りだったりするかもね、などといいながら、亀石で伊豆スカイラインを降りた。
ここからは県道19号、80号、18号などを通って海へ向かう。
海辺のかぶと煮

実際、下界は少なくとも雨や霧ではなかった。
うっすらと曇った空の下、海岸線伝いに走ると、目的のランチスポット「やま弥(沼津市西浦平沢)」が唐突に視界に入ってきた。
ここは先月、隊長代行と、この日は不参加だった面々が見つけた穴場・・・のはずだったのだが、最新のツーリングマップルにはちゃんと載っていた。
かぶと煮定食やら、かぶと焼定食やら、鯛丼やら海鮮丼やら、好き勝手なチョイスで、バイク談義に花が咲いた。
「この中の何人がいたか、忘れちゃったんだけど、戸田で、こんな感じのお店に入ったことがあったよね。」
思い切って話を切り出してみると、スピードトリプルのU君がそうそう、とうなずく。
「すごく寒い日で、こんな日は熱燗だよな、って部長が言ったら、お店の人がホントに出してきそうになって、必死で断ったんですよね。もう10年以上前ですよ。」
そう、「二輪車倶楽部」は、異動や転勤を繰り返す中、付かず離れずで付き合ってきた職場のバイク仲間なのだった。
結婚して子どもが生まれて、しばらくはバイクに乗っていなかった人もいた。
でも、また戻ってきている。
というか、本人に、「一度は降りた」などという感覚は無い。
バイクって、そういうものなのかもしれない。

「さあ、ここからどこへ行こうか。この先の計画って、まだだったね。」
隊長が恐ろしい?事実を指摘する。
結局、最新版ツーリングマップルを参考に、この後は「西天城高原牧場の家」でソフトクリーム、戸田港近くの「フルーツランドギャラリー」でメロンパフェを食べようということになった。
・・・こんなルート計画でいいのだろうか?
ソフトクリームの丘

最大の目的(かぶと煮)を果たしたという満足感と、少しずつ射してきた日光に包まれて、残りの湿気を飛ばしながら、県道17号、411号を通って西天城高原を目指した。
私の前を走るのは、先頭の9RのY君、スピードトリプルのU君、ビーマーのおっちゃんである。
峠道では、3人の走り方は、きっちりと同じラインを描くように見えた。
つまり、カーブ入り口の一番奥にリーンの開始点を置いた、コントロールしやすく、安全マージンも高いライン取り(参考:根本健著「バイク”乗れてる”大図解」エイ出版、99年3月初版)。
長年習慣にしてきた正確なコーナーリングは、安定していてスピードも落ちない。
なるべくそのラインをたどって走るようにしてみたけど、つい、イン側に寄ってしまったり。
この辺り、もう少し基本をきちんと身につけなくては、と今更素直に思ってしまった。

さて、途中、ここから先はしばらくガソリンスタンドが無いので、ちょっともどって給油しよう、という場面があった。
Uターン、道幅が比較的広かったので、あっさりできてしまった。
が、私の後ろに居た、900SSとCBR1000RRは軽く路肩に刺さっていた。
もしかして、私がヘンな場所でターンして、彼らの進路をふさいでしまったのか?

すっかり顔を出した太陽の下、「西天城高原牧場の家」のソフトクリームは、とてもおいしかった。
俺もう、このまま、ここで1日終えたいです、と隊長代行が満足そうにつぶやいた。
峠の茶屋

牧場の家でゆっくりしすぎたため、戸田港近くの「フルーツランドギャラリー」まで来た時には、営業時間を過ぎてしまっていた。
どうする?このまま沼津インターまでノンストップはキツイよね、と言って、隊長と隊長代行が先頭に着く。
やがて隊長は、「峠の茶屋」という絶壁に立つティーサロンを見つけ、小休止することになった。
この茶屋は、もともと庭先というか、オープンエアだったところに、ビニールの屋根を掛け、屋外トイレを設置した野趣あふれる店だった。
店内には、なぜか岡田真澄に顔立ちがそっくりなビーグル犬がいて、その時唯一の客だった私たちに、愛嬌を振りまいていた。
注文したメニューのうち、私の「絞りたてみかんジュース」がなかなか出てこず、多分裏山でみかん採ってるんですよ、サルと取り合いの格闘してるんですよ、などと軽口をたたいていると、店主が息を切らせながらみかんジュースを持ってきてくれた。
このお店、サービスでさくらんぼを出してくれたり、裏で採れたというミョウガをお土産にくれたり、かなり楽しい所だった。
駐輪場に戻ると、モンスターのタンクに、頭上の木から落ちた合歓(ねむ)の花か張り付いていた。

岡田真澄風のビーグル犬

帰路

予定を大幅にオーバーして、といっても、もともと予定なんて無かったんだけど、沼津インターから東名に入る。
「高速は、人によってペースが違うから、各自で走って、足柄SAで一度集まってから解散しましょう。」
夫が提案し、その通りに走り出す。
「自分のペース」で走る私を、隊長がものすごい勢いで抜いていった。
常に理性的な隊長、実は直線番長だったのか?

足柄では、当然のように、次はどこに行きたいか?という話が出ると思ったらちょっと違って、何を食べにどこへ行きたいか、という方向に進んでしまった。
夫「あー、群馬。下仁田ネギとこんにゃくではどうでしょう?」
Y君「それ、全然モチベーション上がりません。」
実はこのふたり、かつて「(新入社員の)指導員と新入社員」という関係だった。
そのころから、(こんな会話をしながら)ことあるごとに、思い出したようにつるんで走っていた。

「思い出したようにつるんで走る」
そういう関係って、すごく良いなあ。
大げさに言うと、長い人生の中では、バイクに乗れない時期なんていくらでもあるし、お互い離れ離れで、連絡も取らない時期もあるかもしれない。
でも、バイクを通して、お互いを思い出す。
また一緒に走る。
「会社辞めてメットのデザイン始めたA君、今は事務所も大きくなって、何でも塗るそうです。この間、トラック塗ったって言ってましたよ。」
おお、会社離れた人とも、バイクでつながってるんだ。
願わくば、この善良なる?ライダーたちと、いつまでも付き合っていけますように。

今回の走行距離は350km程度。
結構疲れた。
そういえば、10年以上前、似たような?ルートを走った時は、250CCのVTスパーダに乗っていた。
この距離を250で走っていたとは、若かったな、私も。

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