#52 赤城山ツーリングにて

赤城山頂

憧れの峠道

「つるばらさんにぜひ走って欲しいな、と思ってる道があるんです。私の地元なんですが、赤城山の北面、とても気持ちのよい道です。」
16歳の頃から40年以上バイクに乗っている先輩が、こんな風に話してくれたことがあった。
「私は今はもう、峠を頑張って走れないので、オフ車からオンロードバイクに乗り換えました。これから、中高年の走りに変えていかなければと思っています。」
そんな会話を交わしてから、「赤城山の北面」は私の密かな憧れだった。
ずっといく機会がなかったのだが、今年は夏休みを利用して(日帰りだけど)、走りに行ってみることにした。
「赤城といえばレッドサンズやな。」
夫は、よくわからないことを言ってニヤニヤしていたが、NSR250Rで同行してくれることになった。
そんなわけで、8月のとある金曜日の朝、夫と私は赤城山を目指して、モンスターとNSRで出発した。
灼熱の道行

赤城山、遠い・・・。
我が家からだと、R246→環状八号→関越自動車道→前橋IC→R17を経由してやっと現地である。
この日、群馬県は最高気温38.6度と日本記録を更新していたらしい。
前橋につく頃には、革パンとブーツで固めた下半身が溶解するんじゃないかと思うほど暑かった。
山に入ったら涼しいかな、涼しいといいな、と思いながら、赤城山に入っていく。
ルートは県道4号から畜産試験場の交差点を過ぎて赤城道路を登り、頂上?から北側に下りた後、同じ道路を南下して戻り、今度は頂上から東側の大胡赤城線(裏ルート)で下る、というもの。
平日ということもあって、山中の道路は交通量も少なく、快適に走ることができる。
山頂では、以前にケーブルカーの頂上駅だった施設を改造したらしいレストハウスで昼食を取った。
山頂も猛烈に暑かったが、下界よりは涼しいと思い込みたくて、夫と、少しはマシだよね、とムリに会話した。
が、近くに居た別のお客さんが、暑いな〜、今日は全然涼しくないや、などとジモティかつ常連な発言をして、さっさと幻想を打ち破ってくれた。
緑の山道

赤城道路は、一部荒れている所もあったが、比較的走りやすかった。
まあ、普通、「中低速コーナー」とか「高速コーナー」とかに区別される箇所も、私が走るとすべて「中低速(あるいは制限速度?)コーナー」になってしまうので、走りやすいも何もないかもしれないが。
私は別に、峠を速く走れるようになりたいとは思っていない。
きれいなラインで、安全に快適に最適に走れるようになりたいのだ。
最近、特に気に掛けているのは、コーナーでのライン取り。
私は、二輪車倶楽部の他のメンバーみたいに、コーナーの一番奥まで行って、ぱた、っとバイクを倒し込むようにして曲がれない。
緩い旋回をつないだような、メリハリのないコーナーリングになってしまう。
これを直したくて、ひたすらライン取りに注力した。
憧れた北面でさえ、夢中になって走っているうちに、行き止まり・・・ダムにたどり着いた。
辺りは緑、木陰、木漏れ日、そよ風。
ああ、これが先輩の話してくれた、気持ちのいい道だったのだ。
ずっとライン取りに心を奪われていたので、停車して初めて気がついた。
この道は、赤城山という山を、バイクという足でたどる、美しい「緑の山道」だったのだ。
遠足で、目的地にやっとたどり着いた小学生みたいな、うれしい気持ちが沸いてきた。

薗原ダム

接触

同じルートを頂上付近まで戻り、その後は東側の大胡赤城線(裏ルート)を通って下山する。
この裏ルート、地図の注釈によると
「道幅狭く急勾配」
「狭いので下りは十分注意」
とある。
走り出してみると、道幅がどんどん狭くなる。
しかも一方通行ではない。
乗用車なら、譲り合わないとすれ違えないほど細い道。
夫はNSRでこともなげに通過して行ったが、私にはそんなことできない。
いつ現れるかわからない対向車が怖くて、どうしてもアウト側に寄ってしまう。
そのくせ、ライン取りがやっぱり気になって、アウト・イン・アウトにしなきゃ、と気持ちが上滑りする。
下り勾配のきつい右カーブ、はっと気がつくとアウト側にラインが膨らみ過ぎていた。
ダメ!離れなきゃ!
頭の中では叫んでいたが、目がガードレールに釘付けになったみたいだった。
何とか進行方向に目を、バイクを向けたけど、既に遅く、ばす、っと言うような音がして、左足がガードレールに接触してしまった。
バイクを停めて、ケガの程度とガードレールの損傷を確認しなければ。
でも、左右ブラインドのきついR、急な下り坂、狭い道幅・・・バイクを停められるような場所ではなかった。
まずい、と思いつつ、そのまま下山する。
途中、前を行く夫のNSRが見えたので、クラクションを鳴らしたが気づいてもらえない。
麓でも、夫のNSRが止まっているのが見えたので再度合図したが、夫は軽く手を振って走り出してしまった。
・・・バイクって、やっぱり一人で乗るものなんだな。
富士見温泉の星占い

仕方が無いので、杉の木の下でケガの程度をひとり確かめた。
ブーツと革パンの一部にはガードレールの塗料なのか、白い粉がべったりと付着していた。
幸い骨折はないようだったが、足の甲と親指の爪の下に青あざができていた。
つま先がチェンジペダルの下に入っていて、ペダルにぶつけたらしい。
モンスターは、カーボンのマフラーとテルミのステッカーに擦り傷が付いてしまった。
とうとうやってしまった、と思うと涙が出てきた。
大型二輪免許を取った時、これから後の一生安全運転する、と決めたのに。
練習だってそれなりにしてきたのに、全然身についてないみたいだ。
それとも、一生懸命に練習してやっとこの程度なんだろうか?
ラインが膨らみすぎた、とわかった時点で、すぐにリカバリーできない。
20年乗ってきて、未だにヘタなままの私、やっぱりダメなんだろうか?

その後、夫に追いつき、当初の予定通り、「富士見温泉 見晴らしの湯」に立ち寄った。
温泉は打撲に効くだろうと思ったのだ。
十分湯に浸かった後、ロビーでテレビを見ていると、星占いをやっていた。
「今日最悪なのはふたご座の人!何をやってもうまくいきません。運気回復にはブルーベリーを食べましょう。」
・・・そうか、ふたご座の私、今日はお星様に運命を翻弄されていたのね。
自分で自分が情けなく可笑しく、つい、ブルーベリージュースを飲んでしまった。

休みが明けて、職場でケガの話をした。
足を引き摺っていたので、つい、言い訳してしまったのだ。
上司「おい、気をつけろよ。」
私「今までこんなこと無かったんですよ。初めてです、接触なんて。」
上司「もうそろそろトシなんだよ、トシ。」
口の悪い上司に、言いたい放題言われながら、私はあの先輩のことを思い出していた。
「もう、峠を頑張って走れないので、これから、中高年の走りに変えていかなければと思っています。」
やっぱり、先輩はよくわかっているのだ。
私も、ずっとバイクに乗り続けるのなら、これから先どんな走りをしていくのか、考えなければなるまい。
でも今は、やっぱりもう少し、「峠を頑張って走れるようになりたい」気がするのだった。

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