#54.5 白バイ大会のターコイズ
ターコイズの言い伝え
ターコイズ(トルコ石)には魔除けの力があるという。
身に付けている人間を守り、力を使い果たすと色が変わってしまうのだそうだ。
友人が退職を上司に申し出た日の夜、彼女のネックレスのターコイズはいつもより緑がかって見えた。
そのことを言ったら、彼女は退職のことを打ち明けてくれた。
そして、この言い伝えを教えてくれたのだ。

今年も白バイ大会を見学するため、チャーリーの出向している海の近くの研修所に行く。
私のジンクスなのだが、毎年10月には、一度だけ「偶然の風」が吹いて、チャーリーに再会できると信じている。
一昨年は教習所の地域感謝祭、昨年は白バイ大会でばったり出会っているためか、何となく今年も会えるような気がしていた。
会えたら手渡そうと、昨年の白バイ大会で一緒に写した写真を「お店プリント」したものも用意した。
行く手をさえぎるものから守ってくれれば、とターコイズのベビーリングのペンダントを身につけて。
ただ、このペンダント、10年以上前にプランタン銀座で買ったもので、デザインが古い。
同時に、魔除けとしても性能が落ちていることは十分予想される。
振り返れば誰がいる?
大会1日目、午前中のバランス走行競技は、強風と時折落ちてくる雨の中スタートした。
この競技を見るのは実は初めてだった。
今年から新型になったというVFR800P、低速課題にも強いのか、白バイ隊員だからなのか、パイロンスラロームやブロックスネークを難なく通っていく。
強風にあおられた髪を少しでも直そうと、手で抑えながら振り返ると、何人かの教官が競技を見ていた。
その中の一人が、チャーリーだった。

しばらく迷った挙句、立ち去ろうとするところをやっとの思いで声をかけた。
「先生ですね?」
「あ・・・。今年も来たんだね。」
「もしお会いできたら、渡そうと思って・・・去年の写真。覚えていますか?」
どきどきしながら、写真を手渡すことができた。

チャーリーは、今年は競技をなるべく見ようと思ってるんだ、と気さくに話してくれる。
それなのに、私ときたら、圧倒的な包容力?の前に、はにかんだ小さな子供みたいになってしまい、思うように言葉が出てこない。
・・・それでもサラリーマンか、自分?(しかも今や技術営業)
今回は倉庫の番をしていると笑って教えてくれたが、その日のうちに訪ねて行く時間は無かった。

ターコイズよりも青い空
大会2日目の空は晴れ渡り、ターコイズよりもさわやかに青かった。
この日もチャーリーが倉庫番を務めているのかどうか不明だったが、聞いてしまった以上、気になるのは仕方が無い。
つい、ふらふらと倉庫に引き寄せられて行くと、なんと倉庫の斜め横は神奈川県警の控え?テントだった。
これは、倉庫の周りなんかうろうろしていたら、ストーカーか物盗りの疑いをかけられるかも。
こんなところで、自分の地元の警察に捕まりたくない。

人知れず悶々としているうちに、午前中の不整地走行(モトクロス)は終了、昼食後は傾斜走行操縦競技(コーススラローム)である。
去年はこの競技を見学している時に、「偶然の風」が吹いて、ばったり会うことができたのだ。
「よく見てるとね、ものすごく上手い人と、そうでない人がいるのがわかる。」
去年そう言われた時は、私が見てもわからない、と思ったけれど、今なら少しはわかる。
選手と比べて(図々しくも)、自分のできないこと、できるようになりたいことも説明できる。
でも、チャーリーは現れない。
もう一度一緒に見学しながら、話をしてみたかった、と思う。

結局、偶然の風はいつも一度だけしか吹かない。
競技が終わった後、倉庫に行ってみたが、そこにチャーリーの姿はなく、山のようなパイロンが格納されるのを待っているだけだった。

でも、仮に会うことができたとして、私に何が話せるだろう?
3年前に大型二輪免許を取るために通った教習所で手に入れることができた、免許と同じくらいすばらしいものを錆びつかせないために、何をしてきたか・・・
そうすることで、どれだけ多くの人たちと知り合えたか・・・
たぶん、言葉で伝えきれない。
10月の青い空の記憶と、切ない思いを残して、今年の白バイ大会見学は終わった。

さて、私のターコイズだが、どうやら写真を渡した一瞬で力を使い果たしたらしい。
帰り道は、夫と一緒に首都高を通って、バイクパーキングにモンスターを置き、パーキングからシェルパで帰宅するという計画だったのだが、一筋縄ではいかなかった。
 首都高では夫と生き別れ
 バイクパーキングを目前にして、パーキングのキーを家においてきたことにやっと気づき
 一旦帰宅してからバイクパーキングに行ったら、帰り道でシェルパがガス欠
やはり魔除けには、使用期限があったのではないかと思われる。

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