#55 流れるように滑らかに
遅いモンスター
自分で企画したもの以外のツーリングに参加する度に、思ったこと。
「コンプライアンス(法令順守)な走り方では、ツーリングは成り立たないのだろうか?」

私は(事故防止のためでもない限り)確信犯でイエローラインをカットする度胸はないし、「止まれ」と書いてあれば技術力を惜しみなく投入して(つまり多少辛くても)一時停止する。
道路に書いてある数字の2倍を速度計に表示させるようなこともしない。
そんなことをしても、何か意味があるようには思えないからだ。
「ルール違反なんかしなくたって、バイクは速い」と信じている。
でも、ツーリングでは、他の人があまりに「かっ飛んで行く」ので驚く。
他の人から見れば、遅いモンスター、それが私。
流れるように滑らかに
そんなツーリングの直後、HMS中級に参加する機会があった。
この日は平日だったので、参加人数は定員割れしていた。
コース内を走る人数も、待っている人数も少ないので、気持ちに余裕が持てる状況だった。
土日の練習の時みたいに、もたもたしていたら他の人の迷惑になる、という焦りがないのだ。
インストラクターのうちの一人は、10月に転倒した時に担当だった人。
私の「大転倒」を覚えてくれていて、急制動の練習では、
「あの時みたいに、急制動するとあらかじめわかっている時以外でも、今のように落ち着いて操作できるように。」
というようなことを言われた。

午前中にオフセット&直線パイロンスラローム、急制動の「地味な練習」をみっちり行った後、午後は模擬市街地のコースを使った、コーススラロームを走る。
かのインストラクターのアドバイスは
「流れるように滑らかに」
「視野は狭くなっていないか、視点は近すぎないか、気をつけること」
だった。

不思議なことに、視野を広く取るようにして走ると、アクセルを必死になって開けなくても、「流れる」速度が速くなっていくようだった。
次に何がくるか早く知ることで、余裕を持って操作ができるということなのだろうか。
客観的には私にとって大きすぎるCB750の、セルフステアを尊重しながら(「身を任せ」までいかない)、緩急入り混じった旋回を繰り返す。
「細かいターンになるとギクシャクするのは、視野が狭くなってるんです。広い所は1つ、狭い所は2つ先を見れば同じです。」
インストラクターのアドバイスはとてもわかりやすい。
ゆったりと走ることに慣れてきた頃、もう一人のイントラさんから声がかかった。
「今セカンドでしょ?ローでやってみて!」
ローギアで流れるように滑らかに走るには、デリケートなアクセルワークが要る。
でも、ためらわず、ギアをローに入れっぱなしにした。
「流れるように滑らかに」
「視野は狭くなっていないか、視点は近すぎないか」
そのことに集中していると、いつもは苦手なローギアでの走行も、不思議と滑らかになっていった(気がする)。

休憩時間、余裕がありますねえ、と、インストラクターが微笑む。
私の走り方のことかと思って、にんまりしそうになるが、後ろにいた受講生が、ホント平日はいいっスね、と、このイントラさんの真意を言い当てた。
イントラさんには、スタート待ちの位置で歩行者(イントラさん自身だが)保護をしたことでほめられてしまった。
運転者として当たり前のことだけど、こんなクローズドのコースの中で、気付いてもらえたことがうれしかった。

最後の総合練習は、なんとそれまで走っていたコースを逆にたどること!
やってみると、大きな旋回(ここは模擬市街地の外になる)の順序がわからなくなって、パイロンが2本余ってしまった。
見かねたもう一人のイントラさんが、タンデムで道案内をしてくれる。
その後は、再びゆったりした気持ちで走れるようになった。

これが私の走り方
気持ちのいい1日の練習は、冬の美しい夕日を見ながら終了となった。
「流れるように滑らかに」
これが私の目指す、マスター オブ モンスターとしての走り方のように思った。
速くないことは、バイクと一体になっていないこととも、操作が下手なこととも同義ではない。
ゆったりと安全に、乗っている人間も周囲も気持ちよく感じる走り方がきっとあるのだ。
そんな走り方ができるようになるには、やはり訓練が不可欠だと思う。

帰宅して、夫にその日考えたことを話した。
「それは絶版車の走り方や。別に遅くない。」
夫によると、絶版車はパワーもないし、ブレーキも効かないので、必然的にできるだけスピードを落とさない、スムーズな走りが要求されるそうだ。
私のモンスターも、いずれ絶版車になる時がくる(というか、このMonster800 S i.e.は、S2Rに代わっちゃった)。
長く付き合っていくためには、たぶん、そういう乗り方がよいのではないかと思う。

それにしても。
こんな風に気付かせてくれたのは、私だけの天使などではなかった。
マスター オブ モンスターへと導いてくれる、ただ一人のエンジェル オブ ライディングなんていなかった。
いたのは、たくさんのスウィート フォーリン エンジェルズ オブ ライディング(優しい運転の堕天使たち)。
たくさんの堕天使たちが、少しずつ、気付かせてくれたのだ。
私が、どんなマスター オブ モンスターになりたいのかということに。
これからは、その目標に向かって歩いて行く(じゃなくて走って行くのかな?)。

というわけで、わりと明確な目標が定まって、来年は更にがんばるぞ、と一人決意する2006年の年末なのだった。

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