#56 感性のスーパースポーツ

市街地のコース

フェラーリ騒動
夫が、わが家で唯一の四輪自動車であるポルシェ(911カレラ4タイプ964)を手放し、フェラーリに乗り換えると言い出した。
フェラーリ!?
とりあえず普通に自家用車としての機能を果たすポルシェはわかるけど、フェラーリなんて、一般家庭で所有するようなシロモノなのか?
私はちっとも納得できなかったが、夫は気にも留めず、買い替えの手続きを進めていく。
当然、家庭争議となってしまった。
「ポルシェは理論で作られたクルマだけど、フェラーリは感性で作られたクルマや。車好きだけでなく本物の技術者を目指すなら、チャンスがあれば、人生一度はイタリアンスーパーカーの王者フェラーリを体験することも必要だと思う。」
夫はそう言うのだが、ほとんどペーパードライバーの私には理解できない。
「感性?私にわかるように説明して欲しいな。例えば、バイクに置き換えてみるとか。」
売り言葉に買い言葉、夫が応酬する。
「よし、じゃあ、スーパースポーツに乗ってごらん。HMSで、CBR954RRが借りられるやろ。」
そんなハチャメチャな展開で、私は平日HMS中級に、CBR954RRを借りて参加することになったのだった。
初めてのスーパースポーツ
そしていよいよHMS当日・・・生まれて初めて乗るスーパースポーツ、CBR954RRの日。
慣熟走行すらできないのではないか?とかなり不安だったが、走り出してみると、軽くてよく曲がる。
エンストが怖くて、一速でしか走れないのだが、CB750の一速よりもギクシャクしなくて、むしろ運転し易い。
慣熟走行は、954と私が少しずつお互いを知り合っていくようで、とても楽しかった。
「バイクとお話できましたか?」
インストラクターの何気ない一言が、あまりに自分の状況にぴったりだったので、思わず微笑んでしまった。

午前中は市街地のコースでの練習。
「手を離してもバイクが進む速度(三速または四速)で、上半身を柔らかく、下半身でバイクを操る」
という課題だったが、私の場合はスピードが出せなくて、二速が精一杯だった。
心なしか、いつもの中級よりはパイロン配置が緩いようで、とりあえず恐怖心なしに走ることはできる。
「曲がる時は肩から入るように」
インストラクターのアドバイスは、車種にはあまり関係ないようだ。

午後はバリアブルコースから。
いつもCB750で苦労する3連続Uターンは、「大きく入って小さく出る」こと、なるべくカーブの奥まで行って、アクセルを思い切って開けることを心がけた。
954はCB750よりもハンドルの切れ角が小さいはずなので、できる限り大きく外側から入り、できる限りパイロンに接近して出なければ、簡単にラインが破綻して転倒すると思ったのだ。
やってみると、CB750よりもずっとキレイに気持ちよく連続Uターンができる。
バイクが走ってくれる、とでも言えばいいのだろうか。
すーっとカーブに入り、パタッと倒れ込む、アクセルですばやく立ち上がる。
バリアブルの3連続Uターンを、初めて面白いと思った。
もしかしたら、こういう走りをしてくれるバイクを「感性で作られた」と言うのだろうか。
名誉の問題
最後の仕上げ、総合練習は再び市街地のコースへ。
パイロン配置が少し変更されたようだったが、午前中と比べて難しくなったわけではなかった。
いつも憧れていたように、流れるように滑らかに954が走ってくれるのだ。
このバイクは、私に、正確なライン取りを要求する、というかほとんど強制する。
そして私がそれに応えようとすると、今度はバイクが正確なラインを示してくれる。
走行中、どういうわけか、頭の中では、「クエスチョン オブ オナー」のメロディが流れていた。
クエスチョン オブ オナー・・・名誉の問題。
勝ち負けではない、挑戦することの意味。
名誉の問題は、この状況と何ら関係はない(私がスーパースポーツに乗ること自体、果敢な挑戦と言えなくもないが)。
でも、名誉の問題も感性の問題も、合理性では割り切れない点において、共通点があるのかもしれない。
「だいぶ曲がれるようになりましたね。あとはアクセルワークです。アクセルにも遊びがあることを忘れないように。」
「ラインは良いです。立ち上がる時にもっとアクセルを開けて。がんばりましょう。」
ふたりのインストラクターが代わる代わるにこやかに声をかけてくれる。
そういえば、今日は結局、ほとんど一速オンリーで走っていた。
やっぱり一速のアクセルワークは難しいのだ。

思いがけず最高に楽しかった1日が終わった。
・・・これでは、夫のフェラーリを認めざるを得ないではないか。
そして私は、スーパースポーツに、というより954に、すっかり魅了されてしまったようだった。
「乗り換えるか?スーパースポーツに。そういう日もいずれ来るで。」
夫はあっさり言う。
でも、もし今、私とモンスターが、HMS中級レベルのコース走行をしたら、今日みたいに気持ちよく走れるだろうか?
まだまだ難しいと思う。
モンスターの潜在力を引き出せる力が自分の身につくまでは、モンスターにこだわり続けたい、と思った。

CBR954RR(5号車)

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