#5 病み上がりなら優しく

1月2日に走り初めをした後、2週間ほどバイクに乗れなかった。
軽くて長引く、タチの悪いカゼをひいたのだ(会社では、「根性はないけど、しつこい菌」と呼ばれていた)。
枯れていた声がようやく元にもどったので、ウォーミングアップ程度に走りに行った。
日曜昼時のMM21地区は、意外なほど交通量が少なく、病み上がりのライダーの慣らしにはちょうどよかった。

久しぶりなので、バイクの音に、いつもより注意して耳を傾ける。
正確に運転すれば、バイクは誠実に応えてくれると思う。
「リラックスして、でも緊張感はなくさずに。」
まるで恋人といる時のようだ。

いつも苦手な一速から二速へのシフトアップ、1回だけだが、驚くほどスムーズにできた。
「よし、できた!」
頭に浮かんだ言葉は、Monster800がほめてくれた声みたいでうれしい。
病み上がりだから、優しいのだろうか。
しかし、これではまるで、全くの初心者とかわらない。

途中、バイクショップで時々顔を合わせる常連さんに、路上でばったり出会った。
この方の愛車はムルティストラーダなのだが、マフラーがテルミニョーニのカーボンに換わっていた。
あ、換えたんですね、と夫が言うと、ええ、とうれしそうに微笑んでいた。

着いたところは海の近くのカフェ、窓際の席でひと休みした。
「やっぱりドカだと、デュアルパーパスでもマフラー換えずにはいられないんやな。」
と夫が言う。
デュアルパーパスは、自然の中を走ることが多いので、大きな音がしないマフラーがメインになるという。
それに対して、レーサーレプリカは、本来ならマフラーの音は大きいはず。
でも、排ガスや騒音の規制に合わせるので、すべからく音が小さくなっているそうだ。
「わざと鼻づまりの状態にして、出荷されるワケや。鼻がつまってないのが、元々の正しい姿や。」
夫の説明は時として、目から鱗が落ちるというか、コペルニクス的転回というか、感心させられる。
「つまり、カフェレーサーなら、マフラー換えて当然、というこっちゃ。カフェでレーサーなんだから。」
ええ!?そうだったの?
「そう、だから、モンスターでマフラー換えてるなら、みんなカフェレーサー。」
おお、そうなのか!!
ひたすら感心してしまった。

窓の外には、夫のBMW R80GS Basicと、私のMonster800S i.e.が見える。
上記の説でいくと、私のバイクはカフェレーサー、夫のバイクはたまたまカフェの外に停められたデュアルパーパス、ということになる。
やはりバイクは奥が深い、と思ってしまった。
・・・よく考えると、なにが教訓なのかさっぱりわからないのだが。

カゼひきで乗れなかった間、なぜか
「右からすりぬけで追い越すときに、速いバイクが死角から出てきてぶつかっちゃったら、はね飛ばされて、追い越そうとしたクルマに轢かれちゃうんだ。」とか、
「カーブに入る時に十分減速できなくて、旋回中にブレーキかけちゃったら転倒して、後ろからくるクルマに(以下略)」とか、怖いことばかり想像していた。
それが何かのイメージトレーニングになったのか、この日はとても慎重に、でも意外なほどメリハリつけて走れたように思う。

「たまに会ってるようじゃ お互いのことわかりはしないだろ」
初めてモンスター800で走った時、頭の中に浮かんだ歌は「思い過ごしも恋のうち」(笑)。
たまにしか乗らないようじゃ、私はこのバイクのことがわかるようにならないし、バイクだって私のことがわからないだろう。
だから、たくさん乗ることにした。

・ ・・のはよかったのだが、この楽しい日曜と引き替えに、私はカゼをぶり返した。
今、職場では、第1設計室(私のいる大部屋)の中だけカゼがはやっている、という噂が流れている。

カフェの窓から見た2台

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