#60 道志みちに別れを告げて

たむら亭にて


道志みちから山中湖へ
夏休みの最終日、ささやかなツーリングに出かけることにした。
メンバーは、夫(748R)、ちろさん(トリッカー)と私(モンスター)の3台。
もしかしたら、今度こそ最後かもしれないので、気の置けない少数のメンバーで走れるのは願ってもないことだった。
ルートは、もう何回も走った、そして、何回走ってもまた走りたい道志みち。
待ち合わせの、宮が瀬の鳥居原園地を出発して、山中湖へ向かう。
モンスターは絶好調である。
私が腕をあげた、というよりも、モンスターが私の運転に慣れてくれたような気がしないでもない。
これだけアクセルを開ければ、これくらい加速する・・・
これくらいブレーキをかければ、これくらい減速する・・・
モンスターは、私の思うとおりに、ではなく、私の覚えた通りに走る。

歩行者保護
夏休みとあって、道志みちには、いつものツーリングではあまり見かけない、徒歩?の観光客が何組も歩いていた。
信号のない横断歩道で、小学生の集団が、世話役とおぼしき大人に連れられて横断のタイミングを待っていた。
自動車教習所の送迎ワゴン車が、対向車線の停止線で止まっている。
なのに、止まらない先行車。
止まらなきゃ、止まれるんだから、と思いながら、置いていかれるのがイヤで、通過してしまった。
ものすごい自己嫌悪と罪の意識に襲われた。
モンスターに乗っていて、一番大事なこと、一番守らなければならないことを、私はもう、捨ててしまったの?
モンスターが残してくれるはずの、素敵な思い出を、自分で壊そうというのか。
置いていかれるのがイヤだから、なんていうのは、自立した運転者でない証拠じゃないか。
小さなトゲが、心に刺さって、残った。

雨の道志みちと雨上がりの山中湖
「道の駅どうし」を過ぎると、雨が落ちてきた。
思いがけず本降りとなった中を、更に進む。
最後かもしれないモンスターでのツーリングなのだから、お天気フルコースというのも悪くない。
そう考えると、雨さえも、天からの最後の贈り物のように思えてくる。
合羽を脱いだり着たり、真夏のお天気に振り回されながら、山中湖を望む「たむら亭」にたどり着いた。
ここは古い民家を改造した静かなレストランで、終焉に向かうモンスターでのツーリングに似つかわしかった。
店に置かれた富士山の写真を眺めながらくつろいでいると、二度と戻ることのない時間が、ゆっくりと過ぎていった。
ステップの悲しい思い出
モンスターでアクセルを開けることも、ブレーキをかけることも、もう、むやみに怖いと思うことはなくなった。
最後に残った心配事は、実は足元だった。
土踏まずをステップに置くと、クラッチもリアブレーキも、ペダルが遠い。
少し前に持っていくと、リアブレーキは思いっきり踏みすぎてしまう。
クラッチは踏みたくない時に踏んでしまいそうなので、つま先をペダルの下に入れたくなる(ガマンすると、足がしんどい)。
気持ちよく、運転しやすいベストポジションは、遂に見つからなかった。
私の体格でモンスターに乗った場合に、私では攻略することができなかったのが、足元というわけか。
土踏まずの位置をずらしてみたり、多少足首が辛くても正しいフォームになるようがんばってみたり、努力はしたけど、イマイチだった。
これがヘンな癖になって、スーパーバイクに引き継いでしまってはまずい。
反省する私を乗せて、それでもバイクは軽快に駆けていく。
道に迷っても
さて、ルートの方はといえば、道志みちにもどった後、ちろさんと私たちは別れて、それぞれの帰路につく。
走り足りない夫は、鳥居原で待ってるから、と言い残して走り去ってしまった。
私の方は、来た通りに戻ればいいだけだから、とのんびり構えていたのがまずかった。
ふと気がつくと、違う道に入り込んでいて、なんとちろさんのトリッカーに遭遇してしまう。
驚きながら、挨拶してくれるちろさん。
一瞬焦った(というか、恥ずかしい〜!と思った)けど、少し遠回りして、鳥居原に向かう。
間違えたとは言っても、何回もモンスターやシェルパで走った道ばかりだから、無事に目的地に着くことができた。
もう一度鳥居原
鳥居原園地の駐車場で、夫の748Rを探して隣に駐車した。
この2台が並ぶのも最後かな、なんて思っていると、見慣れた笑顔が近づいてきた。
えちご屋さんだった。
「これが最後かもしれないので、よく見てやってください。」
思わず言ってしまう。
えちご屋さんは、子犬の頭をなでるように、モンスターのシートに手を置いてくれた。
実際、これが私のモンスターと、懐かしい仲間との最後の邂逅となった。

帰り道、バイクショップに立ち寄ると、私の次の相棒になる1098Sが店内に展示されていた。
届きましたよ、つるばらさんの1098S!と店員さんが駆け寄ってくれる。
ついに運命の日がやってくるのだ。

大型二輪免許を取るために通った教習所で、免許よりももっと大切なことを教えられた。
その優しい記憶に守られて、おっかなびっくり走っていた時代に、別れを告げよう。
これからは、今、目の前に現れたこのバイクを、自分の安全運転の意識と技術とで走らせる。
もちろんそれは、モンスターが身に付けさせてくれたものだ。
真っ赤な怪物君に、両手いっぱいの愛と感謝とバラの花束を贈りたい。

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