後日談
1.1通のメール
2. 木曜の夜の出来事

3.その前夜
4.土手で待ち合わせ
5.ロビーで
6.コースで旧交を温める
7.S4と意外な飛び入り
8.ふたたび土手
9.帰還

1. 1通のメール

秋の終わり、大型自動二輪免許取得までの(自分にとっては)楽しかった軌跡を文章にして、ウェブサイトに公開してから数週間が経っていた。
しかし、あまりアクセスはなく、まあこんなものか、と思っていたところに、びっくりするような、1通のメールが届いた。
メールの主は、「河川敷にある教習所」を言い当て、さらに、登場する指導員の中の3人、「カリスマ講師」、「班長」、「アルテミス」の本名を言い当てていた。
彼女は、Romiさんという若い女性で、私の1回めの卒検と同日に普通二輪の卒検を受けていたという。
あの「検定おやじ」の場面にも居合わせていたのだった。
お返事ぜひお待ちしています、という言葉に、指導員当ての解答を送った。
そこからメールのやりとりが始まった。

Romiさんは、今は普通免許の限定解除のため、教習所に通っているという。
チャーリーや他の先生方に、インターネット上での偶然の出会いと、「たぶん日本一情けない大型二輪免許取得のお話」のことを話してくれた。
私が卒業後、チャーリーに出した短い手紙が届いていることも聞いてきてくれた。
チャーリーのファーストネームを失念していたため、かなり不明確な宛名で書いた手紙だったので、無事届いたかどうか怪しかったのだ。

サイトでは公開しなかったエピソードの話をしたり、教習所の近況のやり取りをした。
一度お会いしましょう、という話がまとまるのに、そう長い時間はかからなかった。
邂逅の場は、もちろん河川敷、運命の日は12月の日曜日に決まった。
「もちろん、チャーリー先生が出勤される日であることは確認済みです。」
気の利くお嬢さんなのだった。

UP!

2. 木曜の夜の出来事

河川敷の教習所へは、天気さえよければバイクで行くことにした。
何だかそれが、達成すべき目標のように思えたからだ。
しかし、実はこの教習所、一部では「所内から出て一般道に入るのが最大の難関」と言われるくらい、出入りが難しい。
Romiさんがお世話になっている指導員の中に、私の教習記の未公開部分に「気配りの先生」として登場する方がいた。
Romiさんを通してその先生に、万一の場合の救援はお願いしておいた。
しかし、本当に途中で行き倒れるわけにはいかないので、ある夜、会社帰りに徒歩で実地チェックをしに行ってみた。

あ、意外と急でもないなあ、これなら、コースにも入れと言われれば入れるなあ、なんて思いながら、橋の手前の横断歩道を歩いていると
「つるばらさあああん。」
と元気いっぱいの声がして、そこには、女神様、アルテミスがいたのだった。
さすがの動体視力、そして記憶力、うああ、びっくりしたあ。

「ホームページ見ました!」
と言ってくださったのだが、動転した私は
「ありがとうごさいます。」
と言うのが精一杯だった。
その場所を歩いていた理由が理由だけに、内心とても恥ずかしかったのだった。
そのまま、私は駅の方へ、先生は教習所の方へ、すれ違って行った。

UP!

3. その前夜

河川敷での待ち合わせ前日の土曜日、アイドリングが不調だったので、バイクショップへ行った。
ショップではちょうど「教習所費用10万円プレゼント」というキャンペーンをやっていて、その対象はなんと河川敷の教習所だった。
大型二輪免許を取って、大きいバイクに乗り換えたいらしい若者が、熱心に説明を聞いていた。
以前、私にムルティストラーダのメモ帳をくれたスタッフ(実はここのおかみさん)が、説明の合間に私に微笑みかける。
そう、あのメモ帳が、あの長い物語の種子になったのだ。
会話に参加したかったけど、脱線しそうなので黙っていた。

修理の待ち時間は異様に長かった。
「冬の初めと終わりは、転倒する方が多いんですよ。箱根に遅くまで行き過ぎちゃった人とか、早くから行き過ぎちゃった人とか。だから、結構上手い人ばかりなの。」
女性スタッフが、待ち時間の長い理由を、それとなく説明してくれた。

バイクはプラグがかぶっていたそうで、片肺になっていたらしい。
プラグを交換し、800CCに戻ってみると、やっぱりパワーが全然違った。

UP!

4. 土手で待ち合わせ

そして約束の日曜日、美しい青空の下、バイクで教習所へ。
駐輪場にバイクを停めて、土手に行くと、白いジャケットのRomiさんはすぐに見つかった。
少し話をした後、懐かしの控え室「二輪バス」の方へ降りて行った。
Romiさんの話によると、実はこのバス、ちゃんと動くそうだ。
年に一度は、少し移動するらしい。

ちょうど時限と時限の間で、コースから引き上げてくる女性指導員に出会った。
本文では残念ながらカットしたが、2回ほど教わった先生だ。
イメージは「キャンディ・キャンディ」のキャンディだったっけ。
「あら、どうしたの?」
「ちょっと来てみたんです。初心運転者講習じゃないですよ。」
「そんなこと言わないわよ。」

アルテミスの姿が見えたので、今度は私が、なるべく元気に挨拶した。
「先日はどうも失礼しましたっ!びっくりしちゃいました。」
ニコニコと挨拶を返してくれる、やっぱり女神様は女神様だった。

カリスマ講師からも声をかけられる。
「ホームページ見ましたよ。」
ああ、恥ずかしい・・・。

UP!

5. ロビーで

Romiさんが所用をすませる間、ロビーで待つことにした。
チャーリー先生に会いにいっては?と勧めてくれるRomiさんに、一人じゃ恥ずかしい、と年甲斐もない言い訳をしていた。
体験試乗の方ですか?と見知らぬ指導員に聞かれるが、いいえ、と答える。
ぼんやり外を眺めたりしていると、つるばらさんですね、と声を掛けられた。
「間接的に、よく知ってます。」
気配りの先生だとすぐわかったが、私は大雨の日に1回しか教わっていないので、記憶の方はあやしい。
この先生が「気配りの先生」なのは、大雨の教習の合間に、路上に溜まった水を黙々と掻き出していたからだ。
雨合羽を着て、ヘルメットをかぶってくれれば確信が持てるかも、と思ったが、普通は逆だろう。
ほんの少し話をして、窓から私のモンスター800を眺め、一時半までなら、コースに入ってもいいですよ、と言われるが、そんな勇気はない。
Romiさんが戻ってきた後、気配りの先生を呼び出してもらい、再びコースへ向かった。

UP!

6. コースで旧交を温める

コースでは、普通二輪の検定に合格した人たちが、大型二輪教習車の試乗をしていた。
気配りの先生の説明によると、教習所内は私有地なので、無免許運転でも警察はあまりうるさいことは言わないそうだ。
「庭園とか神社の境内とか、私有地でも一般の人が入ってくるところはだめなんですけどね。」

2回目の卒検の朝、校舎の前で出会った、話をしたことのなかった先生もいた。
Romiさんが教わっている先生なので、
「こんにちは、初めまして、じゃないんですけど」
と今度は声をかけてみた。

Romiさん、気配りの先生と話をしながらも、二輪バスの方が気にかかる。
Romiさんに後押しされ、覚悟を決めて二輪バスの1階、指導員の控え室に足を踏み入れた。
「失礼します。つるばらです。」
中には、チャーリー、班長、「普通二輪車スライディング事件」の時の指導員がいて、チャーリーが出てくる。
そうだ、この優しい目元をした先生だった。
かなり照れくさく、かつ緊張してしまう。

チャーリーに手土産(なぜか「感謝」と大書きされた個別包装の瓦せんべい。せんべい本体は、これまたなぜか私の勤務先のロゴ入り。菓子屋ではなく造船所なのだが。)を渡し、住んでいるところや仕事、行きつけのバイクショップの話をした。
そのショップのキャンペーンで、指定の教習所がここになっていることも話した。
Romiさんが、ツーショット?の写真を撮ってくれた。

UP!

7. S4と意外な飛び入り

コースに、気配りの先生が自分のモンスターS4を持ってきた。
胸のすくような音なのだが、班長や他の先生達には「うるさいバイク」とからかわれている。

ぴったり3ヶ月ぶりに再会したチャーリーと、S4を前にすると照れずに話ができた。
でも、話題はS4ではなく、私のモンスター800になる。
「足は着くの?シートのアンコ抜きしても、限界があるでしょう。」
「シートの他に、こっちも下げてもらって。プリロードはもう少し余裕があるんですが、それ以上下げると、サイドスタンドが立たなくなっちゃうそうです。」
正直にいろいろ話したので、卒業生なのに、心配させてしまったかもしれない。

そんな風にS4を囲んでみんなで話していると、何とバイクショップのおかみさんと、前日ショップに来ていた若者が階段の下に立っていた。
「さっき話した、バイクショップのおかみさんです。」
とチャーリーに耳打ちする。
「なんで?なんでこんなところにS4があるの、と思ったらつるばらさんがいるし。」
とおかみさん。
私だってものすごく驚いた。
「いろいろ事情があって、こういうことになっちゃったんです。」
全然説明になってない。

「S4だと、スラロームはできないね。やってみたけど、一速だと遅くて、二速だと速過ぎて合わない。S4Rだと、できる。マイルドなんだ。」
気配りの先生が解説する。
「自分のバイクでやんないよ。」
班長がまぜっかえす。
気配りの先生と更にモンスターの話をしたが、実はちょっと難しくてついていけないところもあった。
「それで、片肺状態だったんですけど、気が付かなくて。」
「それでも走っちゃうからね。」
私も怪物の主めざして、もっと乗りこなしていきたい。

「これから寒くなっても乗るの?」
尋ねてくれるチャーリーに
「はい。まだ2000kmしか乗ってないから。もっと乗って慣れていきたいです。」
と、答えた。
小学生の作文の結びの言葉みたいだ。
因みにRomiさんは冬眠中とのこと。

教習生が集まってきたので、Romiさんと私は引き上げることにする。
校舎の前までは、気配りの先生が一緒に歩く。
「今日はたまたま学科だったからね、相手してあげられたけど。」
ごめんなさい、お邪魔しまして。

UP!

8. ふたたび土手

昼休みが終わったので、Romiさんと再度、土手に腰掛ける。
「そんなところに止まっていないで、あっちに行って見ればいいのに。」
とチャーリーに声をかけられながら、写真を撮ったり、先生方のバイクを眺めたり。
キャンディのスーパーシェルパ(私が買おうかどうしようか、散々迷った時の次の年式)、班長の9R(2000年型?)、チャーリーのマジェスティ(スクーターはほとんどわからなくて残念)、そして気配りの先生のS4。
このあたりが、来客用と職員用の駐車場。

共通の秘密について語り合うように、Romiさんと二人で教習を眺めた。
「あれ、だれでしょうね。」
「班長。」
「わかるんですか。」
「だって、立ってるから。」

大きい先生は、普通車の「練習中」の札を引き抜くと、教習生を3人乗せてどこかへ。
話に聞く高速教習だろうか。
大きい先生は、Romiさんから見ると、「いつも怖い顔をしている先生」だそうだ。
高速道路で危険なことをしたら、
「男4人で心中する気かっ!」
とか怒ってたりして?
私は高速教習というのを受けたことがないので、勝手な想像をして笑ってしまう。

2時を少し過ぎた頃、解散した。
私のモンスターは、すっかり調子がよくなって、ほとんど暖機なしでスタートできた。

バイクショップ以外の場所に一人で出かけたのは、実はこれが初めてだった。
バイクの調子が良かったせいか、なんだか、これから、一人であちこち出かけられそうな気がした。

それにしても、素敵な訪問だった。
私は好きな人には自分から話しかけられないような、内気もしくはあまのじゃくな性格なので(?)、ひとりではこんな再訪はとてもできなかっただろう。
Romiさんに感謝・・・。

UP!

9. 帰還

午後になっても輝くような青空の下、家へと走った。
帰着後、すぐにモンスターの掃除を始めた。
バイクを磨いていると、気分が落ち着く。
磨きながら、その日の出来事を、と言うより、その日までの一連の出来事を思い出した。
この不思議で楽しい経験は、少し早すぎるクリスマスプレゼント?
もしかしたら、彼女は天使で、私は夢を見たのかな?
・・・夢のタイトルは「チャーリーとエンジェル」?

その夜、Romiさんから写真が届いた。
ツーショットで、ちょっと困ったようなチャーリーの表情が、その日の出来事が夢ではなかったことをもの語っていた。

UP!

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