日本人の姓名――日付篇

日頃、言語のいろいろな側面に興味を持っているのだが、その興味は時に人名にも向けられる。日本人の姓は種類も豊富であり、全く予想もつかない読み方や、時には辞書にも載ってない怪しい漢字が出てきたりするので面白い。

ここではそんな変わった人名をテーマに沿って取り上げて行こうと思う。今回のテーマは「日付が姓になったもの」だ。

四月一日 つぼみ、わたぬき
四月朔日 わたぬき

全国

「わたぬき」の読みの由来は「四月一日に綿入れの着物から綿を抜くから」と言われている。

他の書き方:綿貫(わたぬき)

五月七日 つゆり

大阪市、神戸市、全国に少し

何故五月七日が「つゆり」なのか? これについてはこんな昔話がある。

昔あるところに、水無瀬殿(みなせどの)という大臣(おとど)がいた。彼は露姫という摂津国第一の美女を娶ったが、露姫は一年も経たぬうちに亡くなった。

大臣は悲しみのあまり、庭先に一宇(いちう)の堂を建て、妻の霊を祀った。栗の花の落ちる頃なので、露姫の代りに栗花落姫と当てた。妻の遺言により堂脇に井戸を掘り、朝夕、水を汲んでは飲んだ。

水はどんな時でも涸れることなく、評判になり、水をもらいに来る者も出た。堂宇はいつの間にか栗花落(つゆり)神社と呼ばれ、霊水は雨乞いの呼び水として知られるようになったという。

そして旧暦五月七日に栗花落祭りという雨乞いの祭りを行うので、この読み方のになったとのこと。深い。

他の書き方:栗花落(つゆり、つゆ)

六月一日 うりはり、うりわり、くさか、さいぐさ、むりはり
六月一日宮 ほずみや

うりわり、くさか、さいぐさはそれぞれは全然違う名字なのに、何故これらに「六月一日」の字を当てるのだろうか? 謎だ。「六月一日宮」の読みの由来は、八月の項を参照。

他の書き方:瓜破(うりわり)日下(くさか)三枝(さいぐさ)

八月一日、八月朔日 はっさく、ほずみ、ほそみ、やぶみ、わたぬき
八月一日宮 ほずのみや
八月十五日 なかあき
八月三十一日 ほずのみや
八月晦日 はつみ、ほずみ

「ほずみ」の読みの由来は、この日に稲の新穂を積み始めるから。「はっさく」は「八朔」の音読みだろう。「わたぬき」は「四月一日」の誤用だろうか。

他の書き方:穂積(ほずみ)

十一月二十九日 つめずめ

日付の名字ということを抜きにしても、字数の多さでインパクトがある。平均1.75文字に1音と、読みがなより多い文字数であるところも凄い。とはいえ、とくに何の行事もなさそうなこの日にどんな意味があるのか? 残念ながら分からなかった。

十二月一日 しはすだ
十二月晦日 ひずめ、ひなし

他の書き方:十二月田(しはすだ)

正月一日 あお、あら

(情報なし)

今回の調査で分かったのはこれまで。他にもあったら是非教えてください。引き続き、面白い姓・名を求めて調査します。

(1998年8月12日)

北村曉 kits@akatsukinishisu.net