第14期 #23

チョコレートサンデー

 賭けに負けたのでチョコレートを買って帰る。ビニール袋三つ分のチョコレートが歩く度にがそごそいう。しかしまさか今回も負けるとは思っていなかった。インリンは賭けには滅法強い。しかしまさか今回も負けるとは。
「アリスのあの白い肌は三十秒後にはどうなるか」
 デパートに鏡を買いに行った帰りにアリスを見かけたあたし達は、咄嗟に賭けをした。
「白いまま」
「黒くなる」
 インリンはあたしと同時にそう叫んだ。
「黒くなる」
 懐中時計を取り出し、彼女はもう一度言う。
 あたし達は立ち止まり、アリスの後ろ姿を見守った。
 かちり。こちり。かちり。こちり。かちり。
 きっかり十三秒後に黒い車がガソリンスタンドに突っ込んで大爆発を起こした。アリスはそれに巻き込まれ、全身を炎に包まれた。周りの人々に助けられて火は消えたが、三十秒後には真っ黒焦げのアリスが誕生していた。
「あたしの勝ち」
「悔しい」
「チョコレートが良いわ。あたしチョコレートにするね」
 インリンは賭けに滅法強い。お下げ髪でおっぱいも大きく、頭が悪そうに見えるけれど、インリンは賭けに滅法強い。

 家に帰るとインリンは寝ていた。テレビが点けたままになっていた。ボクシング中継だった。一時期猛烈に勝ちまくった伝説のボクサーが滅多打ちにされていた。このボクサーにはあたしも勝ったことがある。インリンにそそのかされ飛び入りで参加し、勝ってしまったのだ。その賞金であたしは、インリンの欲しがっていた金魚を百匹買って帰った。
 あたしはベッドに腰掛け、チョコレートの包みを開いた。そしてインリンの唇へ押し当てる。
「なに?」
「チョコレートよ」
 目覚めたインリンに、あたしは言う。
「ああ、ありがとね」
 チョコレートは溶けて流れ落ち、シーツを汚した。あたしは二包み目を開ける。インリンは抵抗しない。あたしにされるがままだ。チョコレートが流れて落ちる。シーツにシミを作る。
「パンダみたいね」
 チョコレートのシミを見つめ、インリンが言う。
「パンダ欲しいな。あたしパンダ飼いたい」
「何言ってるのよ」
「パンダが駄目なら犬でも良いけれど。チョコレート色の」
「どうせすぐに飽きるでしょう」
 あたしは空になってしまった水槽を指差す。
「ねえ」
「駄目よ」
 そう言いながらあたしは、首輪だけなら買っても良いかな、という気になっている。赤い首輪を水槽に突っ込んでおくのは、なかなか楽しい眺めじゃないかな、と思う。



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