本会議場での一般質問や、代表質問の枠がとれなくても、質問趣意書という形をとれば、知事に質問できます。その権利を活用しました。   

財)神奈川科学技術アカデミーの役割について

 18年度当初予算案の知的財産戦略を推進する事業や新産業創出の環境整備関連の予算案の中に(財)神奈川科学技術アカデミー(KAST)と神奈川県産業技術総合研究所(産総研)との共同研究や協力事業予算が計上されています。 これらを見て、神奈川高度技術支援財団(KTF)と17年4月に統合されたKASTのこれからの目指す方向性について、考えさせられました。そこで、KASTを中心に知事に数点質問をいたします。

 
KASTは、川崎市高津区坂戸の池貝鉄鋼所跡地に、「先端的かつ高度な科学技術分野における研究の推進、技術移転、創造性ある人材の育成、学術文化の振興等を産学公の連携のもとに行い、神奈川県における科学技術基盤の充実を図り、もって産業の発展および生活の質的向上に寄与すること」を目的として、平成元年に神奈川県が設立した財団法人です。飛島建設が所有していた土地に民活法を最大限活用して建設した民間との協働事業を先進的に具現化したかながわサイエンスパークの事業の中核をなすのは(株)KSPとKTFとKASTは三位一体の組織でした。平成元年当時は松沢知事も現職県議会議員でありましたから事情はよくお解かりのことと思います。
 当時のかながわサイエンスパーク事業全体にかかった総費用は650億円と聞いておりますが、内、県の支出した税金は、(株)KSPの出資金とKAST・KTFの基本財産出えん金として、各5億1880万円、35億円、10億円であり、総合計は50億1880万円でありました。一方、その後に県からKASTとKTFに補助金として支出された合計額は16年度末の決算ベースで、275億1357万3305円となっています。また、KTFへの県からの受託事業費総額は16年度末の決算ベースで47億4451万1653円となっています。(株)KSPへの建設当初の補助金5000万円を加えると、何と370億2688万4958円という多額の税金が (株)KSP・KAST・KTFには使われてきたのです。

 
(株)KSPには、直接の補助金としての支出は、建設当初の5000万円のみですが、同社が当初借り入れした47億円は建設費用などに使われたものであり、その返済金は16年度末で32億1452万7千円が残っています。その返済原資として使用されてきた(株)KSP持分の収益である賃貸料の36〜38%は、KAST・KTFからの賃貸料であり、その賃貸料はまるまる県からの補助金でまかなわれたきたものであります。これについては、私の15年度決算特別委員会や17年2月定例議会での一般質問でも指摘したところですが、(株)KSPのあり方や、(株)KSPコミュニテーのあり方について、また、かながわサイエンスパークそのものの仕組み自体が問われていると私は主張し続けてきました。一応、現時点までにKAST・KTFの賃貸料を年間で13%から25%値下げしたこと、KAST・KTFを統合したことで、議会からの追求には前向きに答えたと県は考えているのかも知れません。しかし、これではまだ抜本的な問題解決にはなっていないと私は考えています。そして、17年4月に、KASTとKTFが統合し、18年度の予算案でKASTの方向転換がなされようとしているのなら、まず、今まで、県から支出されてきた税金総額を、もう一度確認し、その果実として何を残してきたのか?という検証をすべきであると私は考えます。また、費用対効果という視点にたって、科学技術という評価しにくい分野ではあっても、県税の重みを再確認し、反省すべきは反省して、次のステップに進まなければならないと私は考えますので、要望・提言を交えながら、数点質問いたします。

 
KASTの成果としてまず何が一番、わかりやすいかというと、知的財産量、すなわち特許出願数であります。16年度までのKASTの特許出願数は696件であり、その特許の実施許諾(企業で活用されたかどうかという事)の内訳は、実施契約30件、許諾特許130件となっており、実施許諾率約20%という数字は国の同様の機関や、企業などよりも高い数字だという事です。しかし、一方でその実施許諾によって得られた料金は約1億4000万円です。1億4千万円にもなるのかととるか、1億4千万円にしかならないのかととるかですが、特許出願するためにかかった費用を見れば答えは歴然とでてきます。特許出願費用と特許の維持管理費用を合わせて、16年度末までの累計が約3億4165万円、研究プロジェクトに投資した総額が150億4980万6千円、合計158億9145万円となります。160億円近くかけて1億4千万円の果実にしかなっていないのです。費用対効果として、どうなのか?全く効率の悪い仕事だと言わざるを得ません。知的財産による収支とはこんなに効率の悪いものだという事をまず指摘しておきます。そして特許出願してもこのぐらいの成果しか得られないのに、研究プロジェクトによってはひとつも特許出願していないものもありますし、特許出願しても企業との実施許諾をできないものも、80%もあるのです。同様の他機関と比較して、効率のいい方だとKASTでは述べていますが、このあまりにも効率の悪い実態について、知事はどんな感想をお持ちなのか、まず伺います。18年度予算案に計上されている知的財産戦略の各事業も、KASTの過去の非効率な結果を認識し、効率を考えた展開にすべきだと私は考えていますので、その点についての認識を含めてお答え頂きますようにお願いします。

 
また、KASTの研究者の足跡を追ってみますと、KASTでの研究期間終了直後に他の研究機関に移動し、そこで特許出願している例が散見されます。KASTで3年もしくは5年間に渡り、1年間で1億円の研究費を頂いていても、KASTで研究した期間を踏み台に、KASTに成果を残さず、他機関で特許出願をするとは言語道断であります。しかし、KASTにはそれを防ぐ規約がありません。性善説をとるのも結構ですが1研究室に3億円から5億円もの大金を、税金から気前よく成果を期待せずに差し上げられる程、県財政は余裕があるとは、私には思えません。全ての研究者がそうだとは言いません。現KAST理事長の藤島昭氏は、東大研究室の後輩である橋本和仁氏がKASTに外部研究プロジェクトとして採用されている間、先輩として指導・アドバイスをされ、光触媒・・酸化チタン関連の特許出願には大きく貢献されたりっぱな方です。が、すべての優れた研究者が、藤島理事長のように誠実で優れた人格者とは限らないのです。インターネットで、研究者のその後を調査しただけでも、何例も疑問を抱かせる事例がでてきます。KASTでの研究と重なる内容での、他での特許出願をしないでほしいと研究者には注意しているとKASTでは言っていましたが、注意するだけでは、甘すぎると私は考えます。KASTで研究された事が神奈川県民にどのように貢献しているかということが重要であり、それを押し測ることや数字で表現することは困難だと私も考えますが、目に見える成果の一つである特許出願にしても、県民への裏切りと疑われるような事例がある事は、もってのほかであります。こういう例がこれからは起きないように、KASTの研究者たちのその後のチェックをする必要があると私は考えます。研究者に税の重みを理解し、自覚してもらうための仕組みづくりが重要であります。現に、ある研究室の助手のホームページには、「KASTでは5年間にわたり、1年間に1億円のお金と場所を提供します。あとはご自由に」という感じだと掲載されているのを見れば、KASTの上層部が、税金をもらっているのだと自覚するように指導していると言っても、各研究室に浸透していない事がよくわかります。もっとも、この部分は私が指摘したら、KAST上層部の指導で削除されたので、現在は見る事はできません。しかし、こういう不幸な誤解を防ぐために、KASTで研究者が研究者したテーマの論文発表や特許出願などを、KAST外で行った事が露見した場合は、研究費の全額返却や、KASTへの特許の移転などの罰則を含んだ規約を早急に策定すべきだと考えますが、知事のご所見を伺います。

 
関連して、特許出願についてもう一問質問いたします。特許出願をしても、登録をするだけで、特許取得をするための審査要求をしない場合があると伺いました。KASTの場合も特許出願件数は696件ですが、特許取得した件数は130件前後しかないそうです。登録をしただけでも企業と契約する場合も多々あるようですが、特許取得には登録するだけよりも費用がかかるので、取得した方がいいと判断した場合だけ、審査請求をすると伺いました。そして、登録をやめてしまえば、権利を失ってしまうので、毎年維持管理費を払っているそうですが、本当に維持管理してゆく価値があるものなのかどうか、私にはわかりません。それは吟味していると聞きましたが、その信憑性を数字で求めたいと私は思います。特許出願と維持管理に累計で3億円以上かかっているわけですが、企業に使用されたものは20%のみであり、使用料が1億4千万円にしかなっていない現状を踏まえてここで、総点検してみる必要があると私は思うのです。KASTは常に吟味はしていると言っていますが、この質問をするにあたって、特許出願費用と維持管理費用とに分けて累計額をだしてほしいと依頼したところ、すぐには出せないということで、2つ合わせた数字のみを使いましたが、経費削減を常に意識しているのであれば、特許の維持管理費に関しても常に把握をしているべきだと私は考えます。特許出願するだけが、KASTの使命ではないというのかも知れませんが、他に私たちがKASTの実績の目安として理解しやすいものがあるのでしょうか?また、特許出願数をKASTの実績のひとつとして、示しているのはKAST側なのですから、示した限りは責任を持って、説明する必要があると私は考えます。特許出願し、登録維持だけをしているものと、審査要求をして、特許権を取得したもののそれぞれの数と維持管理費を、特許出願費用も含めて、16年度末までの数字で分類してお示しください。加えて、登録維持だけのものの実施許諾率と実施料、特許権を取得したものの実施許諾料と実施料をそれぞれ分類してお示しください。そして、その数字を見て、知事がこれから知的財産戦略を展開してゆく上で、どのような感想を持たれたか、お聞かせいただきたいと思います。

 
次に、今ひとつKASTの成果としてわかりやすい事例があります。ベンチャー企業新産業の創出であります。17年間でKASTから10社のベンチャー企業が創設されました。その内、2社はKSP内に本社があり、1社が川崎市内にありますが、他の7社は東京都内に本社を置いており、内1社は、目黒区の東工大インキュベーションセンターに本社を置いています。KASTの成果と、(株)KSPのインキュベート事業の支援適用を受けて創設した企業が、5〜6社あるのですが、10社中3社しか県内に残っていないとは非常に残念であります。知事が神奈川インベストで企業誘致に努力しても、新産業創出の環境整備に予算案を計上しても、お膝元のKSPで、県外への企業の流失を許しているのでは、大きな矛盾となります。県の方針が1本化されていないと、指摘されても仕方がないと私は思います。これについても、KASTの上層部は、県内に本社をおくように厳しく指導しているのだが、県外に出て行ってしまうのだと私に説明していましたが、これも、方針が甘いからだと私は思います。指導して、すべてがその指導のとおりになるのであれば世の中苦労はひとつも無いはずです。県立看護学校や県立大学、自治医科大学などでは、就学費用を負担した自治体には、卒業後に貢献する仕組みが作られています。これについてはKASTも(株)KSPも県内に企業を引き止める規約を策定していない事が原因だと私は考えます。どうしても県外に本社を置く必要がある場合も想定した上で、県外に企業を移転する場合は、研究費や支援費を返却するという罰則を含んだ規約を策定するべきと考えますが、知事のお考えはいかがでしょうか?18年度予算案にも深く関係する質問ですので慎重にお答え頂きますようにお願いします

 
次に、計測センターについて伺います。KTFが担ってきた、川崎地域における中小企業への支援策を統合後はKASTが担っています。が、私は、KSPという賃貸料の高い場所で、単に計測器だけを置いておく事業を継続していていいのかと疑問に思っています。川崎市内にも、もっと経費がかからない、そして、より計測センターを必要とする地域により安価な場所があるのではないかと私は思うのです。KASTの外部研究所として川崎市のTHINK内に借りている研究室の賃貸料は共益費込みで、u単価3177円と2706円です。(株)KSPがいくら賃貸料を値下げしたといっても、共益費込みでu単価6800円と比較したら、1/2の経費です。計測センターが移転するほどまとまった場所がないといいますが、川崎市の施設には探せば出てくるものがあると私は思いますし、常に、経費削減という視点を持って探せば、場所はでてくるものだと私は思います。計測センターがKSP内にあることが最善なのかどうかを今一度吟味するべきだと私は考えますが、知事のご所見はいかがでしょうか?

 
最後に、KASTの今後のあり方について質問いたします。
藤島理事長を、KASTにお招きできたことは、県民として大きな喜びであり、大きな誇りでもあります。藤島理事長がいらしてから、KASTの対外的な働きかけは、活発化し、情報発信や、地域への融合にも心を砕いていらっしゃる事が形として現れている事や、その実行力にも尊敬の念を抱いております。が、KASTはその設立時とは、置かれた環境も実体も大きく異なってきています。これについては、KASTのパンフレットの冒頭に「新たなる出発」として理事長の思いが述べられています。そこには、今までの16年間の活動を通じて蓄積された成果を踏まえて、地域の産業振興や県民生活の質の向上に貢献してゆきたいとあります。そのご決意はそこからも読み取れるのではありますが、18年度予算案に計上されている地域産学公結集共同研究事業費として、県産総研や地域大学と結集して、ものづくりで非常に重要な分野である表面処理に着目した共同研究を推進するという、KASTにはかつて見られなかった地域の中小企業の需要に適応しようとする事業に着手されようとしています。私としては、望ましい事業展開であると歓迎しています。が、これまでの、KASTの総決算をしてみると、研究者にとってはすばらしい場所であり、研究者自身が出世するためにはなったが、県民のために役立つ研究がどのくらいあっただろうかと、疑問に思います。また、県民がどのくらいKASTの存在や成果について認識しているかというと、地元の川崎市であっても、一般県民にはほとんど浸透していないのが現実です。また、科学の進歩には気が遠くなるような無駄がその基礎になっていると聞いていますし、科学の推進は文化の推進と同じように、費用対効果を考えたら、大変非効率な分野にあるのだとは理解しますが、かといって、KASTの過去の17年間を反省もせずに、次に進んでいいとは、私にはとても思えません。これまで、投資してきた380億円近くの多額な税金に対して、KASTの成果は何なのか?県民に理解してもらえるだけの
価値を見出せるのか?非常に厳しいところだと私は考えます。しかし、藤島理事長を迎ええて、県民の理解を得ながら進む道はみいだせる可能性はあると私は考えますが、非常に細い、困難な道だと思います。県産総研との役割分担や、連携を踏まえて、今後のKASTのあり方をどうあるべきと考えているのか、知事に伺います。