平成18年6月  質 問 趣 意 書

平成17年度に、私は厚生常任委員会に所属しましたが、厚生常任委員会関係の出先機関のうち、県立病院は足柄上病院以外の全病院、保健福祉部関係の施設(含む指定管理・委託)は52ケ所中31ケ所を訪問しました。視察して感じた率直な感想を基に、総括の意味を込めて、質問趣意書を提出いたします。誠意ある回答を期待しております。

 私は平成16年11月の決算特別委員会において、県立病院の業務委託の実態を明らかにし、問題点を指摘しました。各県立病院が、8年から28年間(当時)もの長期に渡り、各業務を同一業者に業務委託してきた点について、業者選択の不透明さと税の節減という観点から、業務委託のあり方を改善すべきだと指摘しました。
追って平成17年県議会2月定例会の一般質問において、業務委託の透明性や合理性を高める手法として、長期継続契約締結のための条例制定の必要性を提唱し、同年10月にはその条例が公布・施行されました。
この条例を踏まえて、平成18年度から県立病院においても指名競争入札で業務委託先を決定するようになりましたので、さぞや内容も改善され、変化したものと思い、その実施状況を調査したところ、実態は何も変わっていないことに驚きました。そこで、知事に数点伺います。

 透明で公正な入札制度に県民が期待するのは、予算執行のムダをなくし、業務の健全な推進を期待するからであります。
 勿論、随意契約には、それなりの理由もありましたが、人件費が一律下落していた時期にも契約金額が削減されていなかったり、窓口業務のサービスの質が低下したりという随意契約がもたらした派生的な弊害を私が指摘したので、それらを排除するために、県立病院の業務委託を随意契約から指名競争入札に変えたものと、私は理解していました。
 そこで、県立病院における新たな入札について、その結果を興味深く検証したところ、各種業務委託先が、17件中15件がこれまでと同じ業者になっていた事は驚きでした。唯一の救いは、委託費が削減された事ですが、本当に公正な入札がなされた結果なのかどうかという疑問を私は抱きました。このような結果をもたらす競争入札が、本来の意味での競争入札と呼べるのかどうか、これが私の論点でもあります。
 昭和52年から24年間も同じ業者に医事事務業務を随意契約で委託してきた「こども医療センター」を今年訪問した折に、この点を質問したところ、「その業者でなければ同病院の医事事務はさばけない」という発言がありました。
 それでは、なぜ、指名競争入札をしたのか?なぜ、何のために、誰のために、随意契約から指名競争入札に変えたのか?とわたしは感じざるを得ませんでした。
 これこそが、正に、長期に同一業者に委託してきた事がもたらす弊害である依存体質の形成であり、業者にとっては願ってもない構造的メリットの形成でもあります。「この業者でなければ仕事ができない」と思いこんでしまうような依存体質の形成は、私が危惧し、指摘してきたところの癒着体質にも通じるものであり、構造上の大きな問題であります。なぜ、これまでの委託業者の選択方法を変更し、指名競争入札にしたのかという、本質論が現場に理解されていない証でもあります。公正な指名競争入札に県民が期待するのは、腐敗・癒着の温床や構造を絶つ必要性からであります。まして県立病院経営計画の中で、業務委託を拡大してゆくという方針が明記されています。病院現場のこの認識の低さは非常に問題であると、私は考えます。
平成18年度に取り入れられた業務委託における制度改正の趣旨が、全く現場の病院側には理解されていない事について、知事はどう考え、今後の職員の意識改革をどのようにしてゆくつもりなのか、所見を伺います。

 次に、医事事務業務委託に特化して伺いますが、平成18年度の指名競争入札では、足柄上病院では指名業者5社中2社が入札辞退。がんセンターでは6社中2社が入札辞退。そしてこども医療センター、精神医療センター、循環器呼吸器病センターでは6社中3社が、それぞれ入札辞退しています。内A社とB社は全病院で指名を受けながら、全入札を辞退しています。そして、この2社のみが、今まで当県で業務委託を受けていない新規の業者であり、他自治体では業務受託している実力ある業者であります。そして、各病院で落札したのは、重ねて指摘しますが、従前と全く同じ業者でした。
 これを知れば、何か不自然な、割り切れないものを感じるのは健全な感性でしょう。
 そこで、各病院の入札価格を見てみますと、N社は全病院の入札に参加していますが、自らが落札した病院以外の入札価格は落札価格の2倍・3倍の価格をつけています。これは建設談合よりも明白な、「入札しても、落札の意思なし」と疑われても仕方のない対応であり、公正な競争を阻害し、入札制度を形骸化させるような対応と言わざるをえません。このN社は、今回の指名競争入札でもこども医療センターの医事事務業務を落札しましたし、これまでの24年間も同病院で受託してきました。他の自治体でも受託している業者ですから、適正な落札価格を推測できないわけはありませんし、落札価格の2倍3倍の入札価格が何を意味するかは十分に熟知している筈です。
 そして、結果として各病院の入札は実質上2社で行われ、その入札価格はかけ離れていますので、不調にもならず、2回目の入札も行われずに、従前と同一の業者に業務委託されたのです。
 これらが示す問題点は、随意契約を指名競争入札に変えたものの、形式的な変更に過ぎず、実態は今までどおりの随意契約そのものであるという事です。唯一の救いは、がんセンターと循環器呼吸器病センターの落札価格が17年度との比較で減額された事ですが、民間の平均給与が下がり続けたこの数年間を同一価格で契約してきた事を考えれば、むしろ遅きに失する減額だと私は考えます。
 そもそも、医事事務業務に関しては、他の業務、すなわち清掃、設備保守、洗濯、警備給食などと比較して、業者数が限られているため、指名競争入札が本来の目的を達成できるのか?最適な方法なのか?と私は平成17年度の厚生常任委員会で指摘しました。その私の指摘どおり、不透明な結果になってしまった事を、私は非常に残念に受け止めています。
 一般になじみのない、県民の関心も薄い県立病院ではありましたが、病院事業庁長を民間から迎え、県内の各病院との連携を深めようとしている今、その県立病院の業務委託であるだけに、公正で、透明で健全な競争が図られ、契約価格の妥当性をいかに実現するか、真摯な対応が求められていると思います。
 故に、入札の実態を指摘しましたが、3年後の契約更改時には、再び同じ指摘を受けないような入札の仕組みを取り入れるべきだと考えますが、知事のご所見を伺います。


 次に福祉施策について伺います。

私は、冒頭に述べたように、県立病院は足柄上病院以外の全病院、保健福祉部関係の施設(含む指定管理・委託)は52ケ所中31ケ所を訪問しました。とりわけ、障害児・者施設の訪問を重ねるたびに、不思議な感覚を覚えるようになりました。知的障害や、精神障害、身体障害を持つ方々のための入所・通所施設は、開設当時の目的や法的な根拠、経緯はそれぞれ異なっていますが、訪問してみると、ほとんど印象が同じなのです。管理委託を経て17年度から指定管理に移行した秦野精華園は他と違う印象を受けましたが、他施設は症状の軽重の差はあるものの、どこも、開設当時の目的や法的根拠とは異なる方々を受け入れているという点で、印象が全く同じなのです。
福祉と医療のハザマを埋めるためにという理念を掲げて設置された、県立の各障害児・者施設ですが、更生施設であるはずなのに、入所者の「終の棲家」になってしまっていたり、児童施設であるのに、児童期をはるかに過ぎている人々が入所している事。比較的障害が軽度であるのに、引き受ける家族がいない事や、障害に対する無理解から、家族から虐待を受けてしまう、という理由で入所している人がいる事。この3点が、特に印象深く心に残りました。なるほど、家族の立場にたてば、県立施設に入所できればこんなありがたい、安心な事はないと思います。手厚く、情のこもった、すばらしい支援が受けられる訳ですから。しかし、一方では、両親の熱意や、本人の固い意志から、在宅で生活を送っている身障者の方々も多数いらっしゃいます。その方々や、ご家族が、施設に入所している方々と同等の支援を行政から受けているか、というと、全くそうではないのです。介護保険制度でもそうであったように、在宅で高齢者の世話をしている家族の負担は、施設入所している方の家族と比較して、かなりの格差がありました。今回の制度改革の中で、かなりその格差が改善されたとはいえ、まだまだ在宅と施設入所では歴然とした格差、不公平があります。障害を持った方々にも全く同じ事が言えると私は思います。
また他方、支援費改め自立支援法給付費が、3年から5年の間に介護保険制度と統合されると言われております。県立の各施設も5年間の移行猶予期間の中で、それぞれのあり方を模索し検討されていると伺っておりますが、既存の県立の障害児・者施設を、個々の役割の見直しをするだけではなく、県の福祉施策の中で、どのように位置づけてゆくのかを検討する事は、非常に重要なファクターであると考えます。上記に述べたように、現況は各施設とも当初の目的とはかなりなズレが生じている事から、制度とサービスの状況を見合いながら県立施設としての役割をどうするか?という根本的な議論をする必要があると思います。
しかし、この議論の前提として、現在入所されている障害児・者の方々の処遇に関しては、慎重に慎重を重ねて対応するべきであります。症状が比較的軽い方々にたいしても、地域での自立、グループホームを受け皿になどと簡単に言うほど、現状は甘くはありません。グループホームにしても都会ではなかなか部屋の貸し手がみつからない状況なのです。また、運営費についても、行政がどのぐらい上乗せできるのかという問題もあります。これらの自立に対する十分な配慮やアフターフォローに責任を持つという前提だという事は重ねて指摘しておきます。
私は、県立施設の役割としては、重度障害に特化すべきであると考えていますし、将来的にも県立県営施設として維持するべきだと考えておりますが、知事の所見を伺います。また、平成2年からの管理委託を経て、既に指定管理に移行した4施設のように、更生を目的とする施設であり、入所者の自立度も比較的高い施設については、給付費制度の安定を見極めた上での完全民営化も視野にいれるべきではないかと考えますが、この点についての知事の所見を伺います。
また一方で、各県立施設に養護施設から入所してきた、軽度ではあるが、家族の無理解から虐待を受けた障害児・者への対応は、ここ数年新たに求められてきた重要な課題でありますので、今までの対応策とは別に、検討すべきではないかと考えます。例えば、現存する県立児童養護施設の拡充・拡大やDVシェルターの例に見るように民間への委託なども検討せざるを得ないと考えていますが、知事の所見はいかがでしょうか?
そして、このように、県立障害児・者施設の経営については、県は大きな判断を迫られる時を迎えようとしております。知事はどのような方針でこの重要なときを迎えようとしているのか?知事の意思と方針を伺います。



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