NOVEL 3-7(First)

ソクトア第2章3巻の7(前半)


 7、神魔
 中央大陸の南に位置する、ストリウスとの国境付近に、次元の歪みがある。そこ
からは、ハッキリと、次元城の姿を見る事が出来た。禍々しい城ではあるが、どこ
か、美しさを感じさせる。特に魔族の美意識を、十分に堪能できる城であった。
 その主は、勿論グロバスだった。その壮大なる姿こそは、魔族の象徴であり、誇
りでもあった。グロバスの力は勿論の事、神々と戦うためのプランや、慎重さ、そ
して、実行する時の迅速な采配は、見てて気持ちの良い物があった。常に先見を明
を発揮して、行動している。
 しかし、そのグロバスを震撼させる出来事があった。それは、『人道』のジーク
が、ルクトリアに帰還したとの報告だった。ルクトリアには、その父であるライル
が居る。組まれたら、かなりの戦力になる事は、間違いない。ルクトリアの小競り
合いの長期化が、このような事態を招いたのだと反省する他無かった。
 しかし、グロバスを警戒させたのは、もう一つの報告だった。『法道』の神の動
きだった。とうとう重い腰を上げたのか、ミシェーダが戦力を集中させたのかも知
れない。竜神ジュダの実父であるパム。そして実母であるポニを、ソクトアに降臨
させたのだ。これは、由々しき事態である。パムとポニが、『人道』に行くにしろ
『法道』に行くにしろ、脅威な戦力には間違いない。他の神なら、多少増えても何
とかなる。だが、この2神は、普通の神では無い。竜神を産み落としたと言うだけ
あって、その実力も、ミシェーダの折り紙付きであった。大天使長ラジェルドが、
降臨したのを、知っているだけに、この2神が動き出したのは正直ショックだった。
 しかし、指導者たる者が、動じる訳には行かない。魔族達には、クラーデスが試
しの時に入っていると言う発表をして、クラーデスのパワーアップの可能性を、全
て説明して、魔族達を安心させた。
(ふっ。我ながら、道化な事を言った物だ。)
 グロバスは、発表したのは良いが、正直、クラーデスは、もう死ぬ寸前だと思っ
ていた。3週間も耐えているのは、驚愕に値するが、力は徐々に弱ってきている。
さすがの『魔王の中の魔王』も、神の力に対抗するには、まだ早かったと言う事か。
(それにしても、手を打たねばなるまい。)
 グロバスは考え込む。しかし、良い案が出る訳でも無い。どちらも、戦力が出し
辛い所だ。『法道』は、まだ戦力が慌しく動いているが、パムとポニが居ると想定
すると、自分とワイスが行った所で、苦戦する結果になるだろう。
 とは言え、『人道』は今、盛り上がっている最中だ。人間の最強クラスの者達が、
全て集結しているのだ。危険な戦力である。
(人間を甘く見ると、クラーデスのような結果になるからな。)
 グロバスは、クラーデスの力を感じる。まだ耐えているようだが、中では、相当
衰弱しているに違いない。封印をしていて、正解だったと思う。していなかったら、
暴れてワイス遺跡が、メチャクチャになる可能性だってある。
「グロバス様に申し上げます。」
 ミライタルが来た。どうやら、偵察に行っていたらしい。
「申せ。」
 グロバスは、どっしりと腰をすえる。
「ジーク達の中に、竜神と剣神が居なかった模様。力すら感じませぬ。」
 ミライタルは報告する。
「ほう・・・。」
 グロバスは、ニヤリと笑う。チャンスかも知れない。恐らく、何か調べているの
だろうが、こちらにとっては、好都合な事だ。
「ただし、残念なご報告もあります。・・・アルスォーン殿が、戦死なさいました。」
 ミライタルが伝える。アルスォーンは、ミカルドにやられたのだ。
「・・・ミカルドだな?」
 グロバスは、察する。
「はい。どうやら、妖精の森に、隠れ住んでいるようです。」
 ミライタルは、顔を顰める。自分の生まれ故郷ながら、自分の足を引っ張る出来
事に、内心面白くないのだろう。
「ふむ。相分かった。ワイスと健蔵を呼べ。」
 グロバスは、命じる。ここで何もしない程、グロバスは、お人好しでは無い。
「了解致しました。」
 ミライタルは、すぐにワイスと健蔵を呼びに行く。
(我らを、誘き寄せる罠かも知れん。だが、その時はその時・・・。)
 グロバスは、警戒は解いてはいない。しばらくすると、気配がした。
「グロバス様。砕魔 健蔵、参上致しました。」
 健蔵が、現れて挨拶をする。
「神魔ワイス、参上しました。」
 ワイスも後ろに控えていた。
「ふむ。ご苦労。」
 グロバスは、二人をそれぞれ見る。
「我達に御用とは?」
 ワイスが尋ねてきた。
「健蔵よ。『魔王剣士』として、呼ばれるようになって、何も無くて暇であろう?」
 グロバスは、まず健蔵に話を振ってみた。
「恐れながら、ご指摘の通りで御座います。」
 健蔵は、素直に本心を言った。任務が来ないのでは、暇にもなると言う物だ。
「ふむ。そこで、お前達に、任務を与えようと思う。」
 グロバスは二人を見る。
「とうとう神との対決ですかな?」
 ワイスは、横目でグロバスを見る。
「その前に憂いを断とうと思う。お前達にも『人道』の情報は、伝わっているな?」
「言われるまでもありませぬな。厄介な事です。」
 ワイスは、溜め息をつく。
「その『人道』に今、竜神と剣神が不在との情報が入った。」
 グロバスは説明する。
「ほう・・・。それで我らに任務と言う訳でありますか。」
 ワイスは意を汲み取る。
「罠かも知れん。だが、この機を逃す気も更々無い。よって、万全を期さねばなら
ぬ。生半可な者には、任せられぬ。」
 グロバスは、ワイスを見る。神魔であるワイスを呼び寄せたと言う事は、本気で
ある。本気でジーク達を潰そうとしなければ、出来ない事だ。
「ジークとか言う者。成長力が並ではない。今の内に、叩いて置かねばならぬ。」
 グロバスは、ジークには一目置いていた。クラーデスと引き分けたのも、ただの
偶然では無いだろう。
「行ってくれるな?ワイス。」
 グロバスは、ワイスに目配せする。
「仰せの通りに致しまする。」
 ワイスは一礼をする。
「健蔵。お前には、裏切り者の始末をしてもらいたい。」
 グロバスは健蔵の方を見る。
「裏切り者?では・・・ミカルドで御座いますか?」
 健蔵は、ミカルドの事を聞いてみる。
「ふむ。アルスォーンが、倒れたと言う話でな。妖精の里に隠れ住んでいるとの事
だ。妖精共と、手を組んだとなれば、放って置く訳にも行かぬのでな。」
 グロバスは説明してやる。ミカルドは、とても脅威な存在だ。
「了解致しました。」
 健蔵は、即座に了解する。相手がミカルドとあれば、不足は無い。
「危険な任務だ。両名とも引き締めて係ると良い。」
 グロバスは、労いの言葉を掛ける。
「神魔としての力が、やっと見せられると言う物・・・。感謝しますぞ。」
 ワイスは、これまで自分の力を振るう機会が無かった。やっと、その出番が来た
と言う事だ。
「『魔王剣士』として、恥ずかしくない働きを見せるつもりです。」
 健蔵も嬉しさに満ち溢れていた。久しぶりに、強敵と戦える事で、武者震いがし
ていた。健蔵も闘う事が、好きなのだ。
「ふむ。期待している。」
 グロバスは、満足そうに両名を見る。
「恐れながら、申し上げます。健蔵様の闘いに、この私をお加え下さい!」
 ミライタルが、申し出てきた。
「・・・ミライタルよ。この俺を愚弄する気か?俺は、一人で十分だぞ?」
 健蔵は、ミライタルを睨む。
「お気に障ったとあらば、謝罪致します。だが・・・私と妖精の里とは、浅からぬ
因縁が御座います。」
 ミライタルは、熱弁する。ミライタルは妖精の里の出身なのだ。
「そう言えば、そうであったな。故郷に帰りたいのか?」
 グロバスは、ミライタルに焚きつける。
「グロバス様。私の魔界へ落とされた理由をお知りとあれば、それは無い事を、ご
存知のはず。逆で御座います。私の手で、滅ぼしたいのです。」
 ミライタルは、邪悪な笑みを浮かべる。この邪悪さこそ、グロバスが期待した物
だった。ミライタルの、力への執念と、邪悪さは目を見張る物がある。
「貴様の私怨に、俺も付き合えと言うのか?」
 健蔵は、またしてもミライタルを睨む。
「滅相も御座いませぬ。健蔵様は、ミカルドをお討ちになられて下さい。私は一切
邪魔はしませぬ。私が狙うは、妖精の里のみ。」
 ミライタルは釈明する。
「・・・ならば良かろう。一切の邪魔は、許さぬぞ。」
 健蔵は鼻で笑う。邪魔された所で、ミライタルならば一撃の下に殺せると、判断
したのだろう。
「健蔵が許すとあらば、良いだろう。思う存分暴れるが良い。」
 グロバスは、ミライタルの申し入れを聞き入れる。
「有難き幸せ。我が兄だけは、この手で止めを刺したいと思っておりました。」
 ミライタルは、邪悪な笑みを浮かべる。ミライタルは、今でも忘れない。兄の側
近に封印された事をだ。そのせいで地上へ出られなかった。150年以上も前の事だ。
「さあ、『覇道』成就のために、頼むぞ。」
 グロバスは、3人を送り出す。3人は、それぞれ頷くと、次元城の扉を開く。
(さて・・・この選択が、誤りで無いと良いがな。)
 グロバスは、腕を組みながら考え込んでいた。


 ガリウロルには、非常に美しい自然がある。ここで暮らす者は、それを受け入れ
て、暮らすのが普通である。ガリウロルは島国なので、他の国とは違い、戦争に巻
き込まれる事は少ない。
 だが、その分、豪族が何度もぶつかり合い、紛争が絶えないと言う現状もあった。
破砕一刀流を継承する結城(ゆうき)家も、その強力な豪族の一派だった。だが、
継承者不在が理由で、巽(たつみ)家に吸収されたと言う歴史がある。その絶えた
結城家の継承者こそ、赤毘車であった。剣神となり、俗世間との交わりを絶たなけ
れば、まだ続いていたかも知れない。だが、神として生きる事を選んだ赤毘車は、
その憂いを全て捨て去った。
 その結城家跡に、ジュダと赤毘車は来ていた。既に破砕一刀流は、赤毘車が独自
に開発した技によって、ほとんどが赤毘車一人の剣技と化している。そして、既に
破砕一刀流を伝える者が居ないのだから、それも道理である。結城家は、既に荒れ
放題になっていた。仕方が無い事である。
 それでも赤毘車は、ここに来なければならなかった。父と母の慰霊と、報告をし
なければ、ならなかったのだ。結城家の赤毘車の父と母の墓である。
「父上。母上。もう何百年も経ってしまいましたが・・・慰霊に参りました。」
 赤毘車は、神になって以来、初めて慰霊に来たのである。
「私は、最初こそ寂しい思いをしましたが、今は、このジュダが居ます。」
 赤毘車は、笑みを見せる。
「神となった今、父上と母上の冥福を祈る事で、あの時の力不足をお許し下さい。」
 赤毘車は、父と母が暗殺された時に、自分の力不足を呪った事もあった。
「赤毘車・・・。全く真面目だねぇ。」
 ジュダは、頭が下がる思いだ。赤毘車は、子供の頃の自分を責めている。あの時
は、しょうがない事だったとジュダは思っている。
「お前と一緒にしない事だ。・・・ふふっ。墓前に来てまで、こんな事を言うとは
な。お前と居ると飽きないな。」
 赤毘車は、口煩い自分に、つい笑ってしまう。
「後、もう一つ・・・。私にも、稚児(やや)を授かりました。」
 赤毘車は、顔を赤く染める。
「やや?・・・ってオイ。本当かよ?」
 ジュダはビックリする。稚児とは、赤ん坊の事だ。つまり、子供が出来たと言う
事だ。これには、ジュダもビックリする。
「お前とは、仕事ばっかりで、中々暇が取れなくて、こう言う機会が無かった。」
 赤毘車は、溜め息をつく。
「まぁ、たまにの機会に、出来てしまうのだから・・・不思議な事だな。」
 赤毘車は、顔を真っ赤にしながら言う。
「あー・・・この前のか?ネイガが行った時の・・・。」
 ジュダは、思い出してみる。この頃で言うと、それしか考えられない。神と言う
と、激務なので、中々機会が無いのだ。夫婦での派遣は多いが、中々意識しない物
だ。それほど、人間達は問題を起こす。神の子であれば、細胞レベルで神としての
遺伝子を受け継いでいるので、『天人』となって、寿命は長くなる。だが、パムと
ポニの子供達は、3人居たが、ジュダ以外は、人間として生きる道を選んだ。
 ジュダだけは、神の試練を突破し、神として生きる道を選んだのだ。しかも、才
能溢れる竜神として降臨する。それが、どれだけ大変か・・・。
 神の子だとしても、神になるには、試練を突破しなければならない。その試練は、
苛烈を極めるため、なれない子供の方が多い。ジュダみたいな例の方が稀なのだ。
「初めての子供か・・・。想像もしてなかったな。」
 ジュダは首を捻る。
「まぁ、私達は、若い神だ。まだ機会はあると思う。慣れてもらわねば困るな。」
 赤毘車は悪戯っぽく笑う。最も、赤毘車は子供が産まれるからには、大事にしよ
うと思っていた。出来れば、神としての試験を突破してくれる事を祈りたい。
「ほう。そいつは、めでたい事だな。」
 突然、空から声がした。赤毘車とジュダは戦闘態勢に入る。
「おいおい。そう身構えるなよ。」
 ソイツは、ゆっくりと降りてくる。
「親父!それにお袋。どうしてここに?」
 ジュダは、驚く。まさかパムとポニが来るとは、思ってなかったのだ。
「どうしては無いだろ?探したんだぞ?」
 パムは、ニヤリと笑う。
「ミシェーダの差し金か?」
 ジュダは警戒する。現在ジュダは『人道』を進んでいる。『法道』を勧める神達
とは、敵対関係にあるのだ。
「差し金って言い方は、ねーだろ?お前が神々の敵になるって聞いて、心配してる
ってのによ。お前さんの頑固さを、見に来たんだよ。」
 パムは軽口を叩く。
「心配してるのよ?アンタ、結構向こう見ずな所があるから。」
 ポニは、本当に心配してそうだった。
「親父とお袋は、あのミシェーダの演説を聴いたんだろ?アレを許せるってのか?」
 ジュダは、両親を睨み付ける。ジュダには、人間を駒としてしか見ないミシェー
ダの態度が、許せなかったのである。
「義父上に義母上。私も同意見です。ミシェーダは、素晴らしい神だとは思います
が、あの発言には、疑問が残りまする。」
 赤毘車も加勢した。
「揃って頑固だな。でも考えてみろ。人間達に任せて、その後どうする?それで良
い結果になるか?ネイガは、自分の星が滅び行く様を見たらしい。それは、人間達
が、互いの利益のために、始めた戦争のせいだったそうだ。」
 パムは説明してやる。ジュダは、少なからず衝撃を受けた。
(それでか・・・。あのネイガが、ミシェーダの下に走ったのは・・・。)
 ジュダは、ネイガが『法道』に走った訳を知った。責任感の強いネイガは、自分
が救った星が、滅び行く様を見て、同じ過ちは繰り返さないと決めたのだろう。
「確かに人間は、愚かかも知れないな。」
 ジュダは目を瞑る。
「だが親父!俺達だって、元は人間だったはずだ。そして、それに劣らぬと認めて
いる人間達を、俺は知っている!それが神の尖兵になるなんて我慢出来ねぇ!」
 ジュダは、拳を握って力説する。
「ソクトアは違う・・・か。幻想じゃないと言い切れるな?」
 パムは、ジュダに問い掛ける。
「クドいぜ。例え、そのせいで滅びたとしたら、俺は、この星と運命を共にする。」
 ジュダは言い切った。赤毘車は、満足そうに夫を見る。
「全く・・・誰に似たんだかな。」
 パムは、溜め息をつく。
「私達じゃ説得は無理ね。なら、答えは一つよ。自分の信じる道を行く事。良いわ
ね?中途半端は、許さないからね。」
 ポニは、ジュダに念を押す。
「言われるまでもねーぜ。元より、そんなつもりはねぇよ。」
 ジュダは、母親を安心させる。
「宜しい。・・・ただ、赤毘車。貴女は無理しちゃ駄目よ?」
 ポニは、赤毘車の肩を優しく叩く。
「無理して、私達の孫に影響したら、残念だからね。」
 ポニはニッコリ笑った。赤毘車は、その笑顔に安心させられる。さすがは、蓬莱
神である。安心させる術を知っている。
「分かりました。この稚児は、大事にしまする。」
 赤毘車は、クソ真面目に答える。
(ポニ様が祖母・・・。見えないなぁ・・・。)
 赤毘車は、ポニの若々しい姿を見て、どうしても、そう思わざるを得なかった。
しかし、それが神の宿命と言えば、それまでだった。
「よし。んじゃ、俺達は、天界に帰るぜ。邪魔はしねぇが、さすがに手伝いまでは、
出来ねぇからよ。おめぇさん達の、成功を祈ってるぜ。」
 パムは指を鳴らすと、ポニを連れて空に浮く。
「親父達も気を付けろよ。ミシェーダは、何言ってくっか、分からねぇからな。」
 ジュダは、パム達の心配をする。ミシェーダが、どんな手を打ってくるか分から
ない。とは言え、神々のリーダーにして厳格なる運命神なので、その事で、パム達
を責めると言う事はしないだろう。
(ま、しっかりしなきゃ行けねぇのは、俺の方だな。)
 ジュダは口元で笑うと、これからの事を考えるのだった。


 ルクトリアでは、連日のように、特訓を繰り返していた。まずはジーク、ゲラム、
ルイ、ミリィの4人に、忍術を覚えさせるのが先だった。覚えるのと、覚えてない
のでは、戦術や戦力の面で大幅に違ってくる。これほど応用が利いて、使い勝手の
良いスキルは無いだろう。ジークやミリィ、それにゲラムは、魔力の才能も申し分
無いレベルだったので、見る見る内に習得していった。トーリスや、繊一郎の教え
方が良いと言うのも事実だったが、それにしても、天賦の才能を感じた。しかし、
ルイは、かなり苦戦していた。魔力の面では申し分ないのだが、ルイは、避けなが
ら剣を繰り出すカウンタータイプの剣士なので、闘気と言う概念が伝わり難いのだ。
「まさか、この私が出遅れるとは思いも寄らなかったわ・・・。」
 ルイは、悔しそうな顔をしていた。自分のせいで、皆の修行が遅れるのが、プラ
イドに障ったのだろう。しかも、剣士なのに闘気で梃子摺るとは、思ってなかった。
「ルイ。闘気は、頭で覚える物じゃない。相手を倒すと言う気構えだ。魔族に立ち
向かう時の心を持てば、絶対に出来るはずだ。」
 ジークは、アドバイスする。闘気とは闘う力の事であり、何かを守りたい、相手
を圧倒したいと思う気持ちが、強ければ強いほど如実に現れる。
 しかしルイは、それがどうしても苦手だった。自分が守りたいと思う物は何なの
か?そして、魔族と立ち向かうなんて事、自分には出来るのか?迷っている最中だ
ったため、どうしても、上手く闘気が出せないでいた。
 その夜、ルイは、一人で特訓していた。闘気を上手く出せるように、自分に言い
聞かせながらの特訓だろう。
(何で、上手く出せないの!?・・・いや・・・分かっている事よね。)
 ルイは、自分でも気が付いていた。自分に闘気と言う面に於いて、皆に遅れを取
っていると言う事にだ。皆は、魔族と闘う時に、無類の勇気を持って、闘っている。
臆する事無く、立ち向かっている。だが自分には、その経験が無い。
 結局、ジークが死に掛けた時も、自分は何も出来ずに、見学している羽目になっ
ていた。ミリィは、ジークの盾になるために動けたと言うのにだ。
 自分には、守る物が無い。そして、立ち向かうだけの心が無い。怖いのだ。恐怖
が闘気を上回っているので、闘気を上手く出せないのだ。
(何がソクトア一のトレジャーハンターよ・・・。)
 ルイは、自分の不甲斐無さを呪う。
「ルイさん・・・。また、こんな時間までやってたの?」
 ゲラムが、心配そうに見ていた。
「アンタにまで、こんな心配されるとはね・・・。」
 ルイは自虐的に笑う。
「笑って良いわよ?私は、ソクトアに名前を響かせる臆病者なんだから。」
 ルイは顔を背ける。
「何言ってるんだよ!ルイさんは・・・強いじゃないか!」
 ゲラムは真剣な目付きで言う。
「お世辞なら真っ平よ!!」
 ルイはゲラムを睨む。
「お世辞なんかじゃない!!ルイさんは・・・ジーク兄ちゃんの事で耐えたじゃな
いか!自分から言い出せたじゃないか!!」
 ゲラムは、ルイがジークに好意を持っていた事を、知っている。
「あんなのを、アンタは強さだって言うの!?馬鹿にするのも、好い加減にしてよ!」
 ルイは涙を流す。侮辱されたと感じたのだろう。
「馬鹿になんかしてないよ!僕は・・・ルイさんが、どれだけ辛いか分かる!僕だ
って好きな女の子が居た・・・。でも、種族の違いで諦めなきゃいけなかった。そ
の辛さを自分から言うなんて・・・僕には出来ないよ・・・。」
 ゲラムは、リーアの事を思い出す。結局、あれから音沙汰もない。だが、ジュダ
に聞いたのだ。リーアは、妖精の里に帰って魔族のミカルドと一緒に住んで幸せそ
うだと言う事をだ。ジュダは、妖精の里の様子を調べていた事があったので、ゲラ
ムに聞かれた時に、素直に答えたのだ。その時の悲しさをゲラムは忘れていない。
「ジークの事は、最初から踏ん切りがついてたわ。アンタと一緒にしないでよ。」
 ルイは、つい憎まれ口を叩いてしまう。
「嘘だ!ルイさんが、ジーク兄ちゃんを見る目は、普通の人とは違っていたはずだ!」
 ゲラムは、良く見ていた。ルイから相談を受けてから、ちゃんと、その事を気に
掛けていたのだ。特に無理してそうだったので、見ていても辛かった。
「何で、そんなに無理するの!?何で・・・。」
 ゲラムは、心配でならないのだ。ルイが、意地を張る度に悲しくなる。
「そこまで・・・心配されてたとはね・・・。アンタは、良い人よね・・・。」
 ルイは、ゲラムの人の良さに、つい笑みを見せる。
「私は、才能も性格も捻くれてるわ。心配されても、何も返せないわよ?」
 ルイは、ついに平常なルイに戻ったようだ。優しい笑みを見せている。
「返してくれなんて言わないよ。僕だって、勝手に心配してるだけだもんね。」
 ゲラムは微笑み返す。
「意地っ張りね。アンタも・・・。」
 ルイは、悩んでいた事を忘れそうになる。ゲラムと話していると、安心してしま
う自分が、ルイには分かった。
「・・・しっ・・・。何か聞こえない?」
 ゲラムが、警戒態勢に入る。ルイは耳を澄ませる。
「・・・何か、来ているわね。」
 ルイも警戒態勢に入る。腰の剣を抜く。
「30人・・・は居るね。」
 ゲラムは、足音を正確に数える。どうやら何かが、近づいているらしい。
「ルイさんは、ジーク兄ちゃん達を呼んできて。」
 ゲラムは、弓とナイフを用意する。
「何言ってるのよ。貴方一人で止める気?」
 ルイは心配する。ゲラム一人では、いくらなんでも人数が多い。
「敵じゃないかも知れないからね・・・。大丈夫。少しなら何とかなるよ。」
 ゲラムは、親指を立てて合図する。
「私の見せ所の心配をしてるだけよ。」
 ルイは恥ずかしくなったのか、憎まれ口を叩く。
(素直じゃないなぁ・・・。私も。)
 ルイは、つい自責の念に駆られてしまう。
「じゃ、行くわよ。無理だけは禁物よ。」
 ルイは、そう言うと、皆の居る宿舎に向かう。
「・・・よし・・・。」
 ゲラムは、ルイが行ったのを確認すると、その30人の所へ向かう。
(敵じゃないと、良いんだけどね。)
 ゲラムは、自分で考えてて、馬鹿馬鹿しくなった。この一団は、正門からでは無
く、裏門から来ようとしている。しかも、足音に細心の注意を払っているようだ。
これが敵で無くて、どうだと言うのだろう。声が聞こえてきた。
「・・・これよりゲリラ作戦を行う。各自用意は良いか?」
 何者かが、指示を出そうとしていた。
(・・・魔族・・・か。よし・・・。なら先制攻撃だ!)
 ゲラムは、魔族だと言う事を確認すると、忍術の印を組む。
「そうは行かないよ!!『水遁』!!」
 ゲラムは、覚えたての『水遁』を使う。魔族達は不意を突かれたのか、うろたえ
ていた。慌てて空を飛ぶ魔族が居た。
「ていっ!!」
 ゲラムは、それに狙いをつけて弓を引く。見事に命中した。5人程、それで落と
す事に成功する。しかも、弓はトーリスに聖なる力を付与してもらったので、魔族
は即座に息絶える。
「・・・あそこだ!!」
 残りの魔族が、ゲラムを見て憎しみの目を向ける。
(ちょっと目立ち過ぎたかな。)
 ゲラムは、舌打ちする。さすがに大っぴらに攻撃したのは、拙かったかも知れな
い。だが、次の瞬間ゲラムの血は沸騰する。
「・・・!!そ、それは!!」
 ゲラムは、ビックリする。そこには、人間の首が並べられていた。魔族達は、首
を手に持っていたのだ。
「ふっ。珍しいのか?これは、魔族の勲章さ。『覇道』に逆らう愚かな人間は、こ
うなるのだ!!」
 魔族は、陶酔しながら言い放つ。
「ふざけた事言うなぁあ!!」
 ゲラムは、ナイフで襲い掛かる。魔族達は、それを寸での所で躱す。
「何がふざけた事か!!貴様ら人間も、我ら魔族に対してやってる事だろうが!」
 魔族は痛い所をついてくる。ゲラムは動きが止まる。
「お互い様な事は、貴様も承知しているようだな。だが、我らの理念は、それは弱
者である事が理由。勝たねば道が開けぬのなら、勝てるよう努力するのが肝要。」
 魔族は『覇道』を説いて回る。
(僕は、魔族を端から敵だと決め付けた・・・。それと比べると、何と意志を持っ
てる事か・・・。)
 ゲラムは、少し気を落とす。
「ふむ。貴様は話せる相手らしいな。『覇道』は、誰もが平等に、その力を発揮出
来る世界を築こうとしている。貴様も、グロバス様を支持してみては、どうだ?」
 魔族は、ゲラムを誘惑する。魔族にとって見れば、強い味方は大歓迎なのだ。
(僕が魔族を倒したばかりだってのに・・・。)
 ゲラムは、魔族の寛容さが信じられなかった。
「・・・でも僕は・・・悪いけど人間なんだ!人間でありたい!誘ってくれた事に
は、礼を言うけど、付いては行けない!」
 ゲラムは、ナイフを構え直す。
「仕方あるまいな。『覇道』の邪魔をする者を、生かしては置けぬ。」
 魔族は、人間達の首を放り投げる。もう脅しが通用する相手では無いと、悟った
のだろう。大概の人間は、恐怖に歪む物だが、ゲラムには、通用しそうにない。
「何をしている。早く片付けろ。ゲリラで片付けると言ったはずだ。」
 魔族のリーダーらしき者が、後から現れた。しかもグループを連れてだ。
「申し訳ありません。ルドラー様。」
 魔族は敬礼する。
「ルドラー・・・?ルドラーだと!!」
 ゲラムは、再び体中の血が沸騰する。
「小僧。俺の名を知ってるのか?」
 ルドラーは、嫌味そうに笑う。ゲラムにとっては、祖父を殺された仇だ。忘れる
はずが無い。直接的には健蔵だが、諸悪の根源は、このルドラーなのだ。
「僕は、プサグルの第2王子ゲラム=ユード=プサグルだ!祖父の仇!!」
 ゲラムは、目を血走らせていた。
「ほう。貴様が・・・。よし。掛かれ!!」
 ルドラーは、合図を送る。すると、魔族達は、一斉に襲い掛かる。
「邪魔しないでくれ!僕はルドラー!お前に用があるんだ!!」
 ゲラムは、関係ない魔族を殺したくは無かった。
「ふっ・・・甘ちゃんめ!!」
 ルドラーは、もう一回合図を送ると、両手両足に向かって鎖を投げつける。する
と、ゲラムの両手両足に鎖が填められた。これでは、身動き出来ない。
「くっ!・・・ルドラーめ!!」
 ゲラムは、振りほどこうとするが、魔族が、それぞれ引っ張っているので、中々
思うように、力が出ない。
「お前さんは無謀な奴だな?突っ込んできて、攻撃しないとあれば、こうなるに決
まっているだろう?頭は使う物だぞ?」
 ルドラーは高笑いする。
「正々堂々と、決着をつけろ!!」
 ゲラムは睨み付ける。すると、ルドラーは鳩尾に拳を入れる。
「ぐわっ!!」
 ゲラムは、胃の内容物を戻しそうになる。
「口の利き方には気をつけろ。立場を考える事だな。」
 ルドラーは、面白そうにしている。
「俺は、お前らの親父達のせいで、25年間隠れ住んでたんだ。貴様に、その苦し
みが分かるか?ユード家は、俺にとっては憎むべき敵なんだよ。」
 ルドラーは、そう言うとゲラムをサンドバックのように殴りつける。
「・・・ふざけるな・・・!お前は、国を利用した挙句に、カールスと共に誇りを
捨てたんだろう!?逆恨みするんじゃない!!」
 ゲラムは、吐き捨てる。
「・・・貴様。言ってはならぬ事を・・・。そして、その眼が気に入らんな・・・。」
 ルドラーは、髪を逆立ててキレていた。そして、ナイフを取り出す。
「貴様ら一族は、害虫なんだよ!苦しめ!!そして叫べ!」
 ルドラーは、楽しそうにゲラムの胸を切り刻む。
「ぐぅ・・・!」
 ゲラムは苦しむ。当たり前だ。胸を好きなように刻まれているのだ。
「・・・ふう・・・。どうした?命乞いでもしてみろ。」
 ルドラーは、邪悪な笑みを浮かべる。
「・・・こ・・・。」
 ゲラムは、ルドラーを見る。ルドラーは耳を楽しそうに傾ける。
「このカス野郎!!・・・ゲリラしか出来ない能無し!」
 ゲラムは、力いっぱい叫ぶ。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
 ルドラーは、眉間に皺を寄せてナイフを振り翳す。
 キンッ!!
 その瞬間ルドラーのナイフが、いきなり壊れた。どうやら魔法で壊されたようだ。
「・・・み・・・皆・・・。」
 ゲラムは、意識を何とか保ちながら、ジーク達の姿を確認する。
「貴様ら・・・よくもゲラムを!!!」
 ジーク達は、怒りに燃えていた。同胞を傷つけられたと言う事。そして、何より
拷問に掛けていると言う事実が許せなかった。
「皆・・・。ここに居るルドラーを倒して!!・・・他の魔族達は・・・利用され
てるだけなんだ・・・。悪いのは、ルドラーだけ何だよ!!」
 ゲラムは叫ぶ。
「ゲラム・・・。」
 皆は驚く。この期に及んで、何と言う事を言うのか・・・。魔族に、これだけや
られて、まだ魔族を庇おうと言うのか。
「・・・ふん。馬鹿め。今回は、魔の大軍を用意しているのだぞ?」
 ルドラーは、いざと言う時のために、魔族を後ろから用意してあったのだ。
「さぁ、魔法を浴びせかけろ!そして崩れた所を叩くぞ!!」
 ルドラーは、合図する。皆は、それに備えるように防御した。
 しかし魔法は、来なかった。
「?どうした?合図が見えなかったのか?魔法だ!」
 ルドラーは、必死に合図する。
 カラン・・・。
 鎖を持っていた魔族が、手を離した。ゲラムは解放される。
「何のつもりだ!!血迷ったか!!」
 ルドラーは、魔族達を見る。
「ルドラー様・・・我らにも、誇りが御座います。この状態で、大軍で攻める。そ
れで勝って、何の意味がありましょうや?」
 魔族は皆、同じ想いだった。このゲリラ戦は納得行かなかった。それに加えて、
この少年の誇り高き様と、ルドラーの醜態を見せられて、納得出来兼ねていた。
「何だと!!貴様ら、俺の力を知っての反逆か!!」
 ルドラーは、血相を変える。
「ゲラムは、志の違う我らをも、巻き込むのを由としない・・・それに付け込んで、
我らが、このような姑息な手で勝つ・・・。魔族に汚点が残りまする。」
 魔族達は、鬱憤が溜まっていたのだろう。それが、一気に爆発したようだ。
「ふん。勝負に、汚いも綺麗も無い。貴様ら勘違いするんじゃないぞ?働け!働か
ねば、俺の監督具合すら疑われるであろう?」
 ルドラーは拳を握る。
「ルドラー様にとって、我らは道具なのですね・・・。失望致しました。」
 魔族は、無念そうにすると、一人、また一人と去っていく。
「ぬぅぅぅぅ!役立たず達め!」
 ルドラーは、そう言うとジーク達の方を向きなおす。
「良い様だな。ルドラー。」
 ライルが、前に出てくる。
「貴様はライル!!!貴様だけは、この俺が殺してやる!!」
 ルドラーは、焦りながら言葉を選ぶ。
「勝手な事を言う物では、ありませんよ?ゲラムを傷つけたお礼はさせて・・・。」
 サイジンが、睨み付けながら前に出ると、ライルがそれを制す。
「ルドラーよ。貴様は俺が目的なのだろう?存分に来ると良い。俺が相手になろう。」
 ライルは、剣を構える。
「父さん!!」
 ジークはライルを心配する。
「下がっていろ。手を出すな。ここで1対1で無かったら、ゲラムに対しても、申
し訳が立たんだろう?俺達は、正々堂々勝負するんだ。」
 ライルは諭す。その通りだったが、ルドラーは、強力な力を放っている。しかも、
何をするか分からない卑怯者だ。
「ライルさん・・・。頑張っ・・・うぐっ!!」
 ゲラムは、苦しみだす。顔も青くなってきた。
「ゲラム!!」
 ルイが、真っ先に近寄って抱えてやる。
「・・・効いてきたようだな・・・。」
 ルドラーは笑みを浮かべる。
「貴様、ナイフに毒を・・・。」
 ジークが拳を震わせながら怒る。
「フン。何をしても勝つのが俺の流儀だ・・・。ライル。今度は、貴様を殺して悲
願を達成するぜぇ!リチャードの時も邪魔してくれたしなぁ・・・。」
 ルドラーは、黒竜王リチャード=サンの事を言う。
「・・・お前は、魂まで外道に染まったようだな。」
 ライルは目を瞑る。その瞬間、ルドラーは襲い掛かる。しかも毒入りのナイフを
持って含み針を吹いた。
 シュッ!!
 ライルは、見ないでも避ける。そして、ルドラーの攻撃の瞬間に眼を見開く。
 ズバァァァッ!!
 ライルは、いつの間にかルドラーの後ろに回っていた。
「・・・不動真剣術・・・連続斬『微塵』。」
 ライルが、言い放つとルドラーは真っ二つに裂ける。そして、その後無数の斬り
跡が出来て、断末魔すら上げずに崩れていった。
「・・・人類の恥部め。」
 ライルは、その一言だけ発した。ルドラーの悪行に、一番怒っていたのは、ライ
ルかも知れない。
「凄まじい迫力ネ・・・。さすがジークのお父さんヨ。」
 ミリィですら、身の毛の弥立つ程の迫力だった。
「・・・間抜けな所を見せちゃったね・・・。」
 ゲラムは、苦しみながら笑う。皆を心配させまいとしているのだ。レルファとト
ーリスが『解毒』の魔法を、立て続けに掛けている。
「・・・アンタ馬鹿よ・・・。意地張っちゃって・・・。」
 ルイは、涙を流していた。皆の前で流すのは、初めてだった。しかし、もう隠す
気も無かった。
「・・・でも良かった。皆、無事で・・・。」
 ゲラムはニッコリ笑う。その皆とは、魔族の事も含めてだった。
「優し過ぎるよ・・・。ゲラムは・・・。」
 ルイは、ゲラムの頭を抱いてやる。
「・・・怖いんだよ。僕は、力が足りなくて、皆の役に立てないのが怖いだけ。」
 ゲラムは、本心を言った。だからこそ無理してしまうのだろう。
「ゲラム・・・。私と一緒に強くなろう?」
 ルイは微笑みかける。素直な心だった。
「やっと、素直に言えたね。・・・でもちょっと痛かったかな?」
 ゲラムは微笑み返す。だが、傷は、まだ深そうだった。
「私がゲラムを守る!私だ物!出来ないはずが無い!」
 ルイは、そう言うと、ゲラムを強く抱きしめる。
「・・・ルイさん・・・。」
 ゲラムは、恥ずかしそうにしていたが、嬉しそうに微笑んだ。
「・・・これは!何!?」
 ルイは、自分の変化に気がついた。何かが溢れてくる。力が漲って来る。これが
ある事で、恐怖が克服出来そうな気がしてきた。
「闘気・・・。闘気だ・・・。」
 ジークは、ルイから凄まじい程の闘気を感じた。
「ゲラム・・・。私にも闘気が・・・。」
 ルイは素直に、嬉しそうだった。
「だから言ったじゃん!・・・ルイさんは強いって・・・。」
 ゲラムは、そう言うと眼を瞑る。
「嬉しいけど・・・疲れたなぁ・・・。」
 ゲラムは、そう言うと気絶する。
「ゲラム!!」
 ルイは、ゲラムを揺さぶる。
「ルイさん。大丈夫です。気絶しただけです。私とレルファが何とかします。」
 トーリスが、真剣その物の顔になって言う。
「頼んだわ・・・。」
 ルイは、心配そうにゲラムを見つつも任せる事にした。
「ゲラム君。凄いなぁ・・・。」
 ツィリルは、感心していた。中々出来る事では無い。
「私達は・・・ゲラムの優しさに、何度救われた事か・・・。」
 サイジンも敬礼の意を表した。
 そして、ルイは、ゲラムに対しての想いを、もう隠そうとしなかった。
 傷ついてみて、初めてゲラムの偉大さを皆は知るのだった。



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