NOVEL 4-4(First)

ソクトア第2章4巻の4(前半)


 4、天魔決戦
 全ての『道』が、戦う準備が整った。こんな事は珍しい。大体、どこかが何かの
トラブルで、動けない事が多かった。だが、4つの『道』全てが、この戦力なら打
倒出来ると確信し、攻める用意を整えていると言うのは、ある意味奇妙でもあった。
 『法道』は、天使を大量動員した他、ネイガの傷も癒えて、救世主は、その意味
を理解し、全ての力を注ぐ事を決意した。そして何より、運命神ミシェーダが後か
ら、この戦列に加わる決心をしたのだ。理想郷のため、自らが立ち上がろうとして
いる。否が応でも、気運は高まっていった。
 そして、『覇道』は、魔界三将軍の力が完全に回復したのに加えて、魔人である
レイリーが、自らの力を高めている。その成長には目を見張る物がある。そして、
ダークエルフであるミライタルの諜報活動により、全ての道の戦力を知った上で、
グロバスは勝負時だと言う事で、宣戦布告をした。何より健蔵の傷が癒えて、更な
る力を持って帰って来たと言うのが大きい。その力は、ワイス以上だと言う話だ。
 『無道』は、何よりも『熾天使』ラジェルドの存在が大きい。各個人の力は、ど
の道にも負けぬ程の力がありながら、主戦力がクラーデスのみだった無道にとって、
ラジェルドの存在は、正に救いの主である。クラーデスが認める程の者が入ったと
言う事で、いつでも攻め滅ぼす準備は、出来ていると言った所か。それに、クワド
ゥラートが、ほぼ完成した。拠点も、しっかりして戦力も整った。今度は、攻め時
を間違えなければ、必ず勝てると踏んだのである。
 そして『人道』は、目立った行動はしていないが、着々と、その準備を進めてい
た。毎日のように特訓して、ジークや仲間達は仕上がりは、最高に高まっているし、
神である2人は、子供のためにも、悔いの無い戦いをすると燃えている。更に妖精
達や、人間の中でも、際立った実力者達が次々と集まっている。他かの『道』も、
臨戦態勢に入ったとの情報も相まって、ついに動き出す事を決意したのである。
 そして、ついに動き出す時が来た。向かう先は、決まっている。全ての『道』が、
目指す所。それは、中央大陸だった。中央大陸の、凄まじいまでの広さは、全ての
雌雄を決するに、相応しい場所だ。
 そして、その前夜、ルクトリアでは、集会を開いていた。
「皆・・・。俺達は、ついに明日中央大陸に向かおうと思う。」
 ジークが、高台の上から演説する。
「正直に言おう。俺は、こんな怖い事は無い。皆も同じ気持ちだと思う。」
 ジークは、正直に自分の気持ちを言う。この戦いで、全てが決まってしまうのだ
ろうか?それを思うと、嬉しくもあるが、怖いと言う気持ちの方が強かった。
「魔族や神々が現れて、既に1年程も経つ。ここで皆に言って置きたいのは、この
戦いの始まりの事だ。」
 ジークは目を瞑る。すると、兵士達の間から、どよめきが起こった。
「この戦いの原因は、一人の人間の欲望から出た物だ。」
 ジークの一言で、どよめきは更に強くなる。
「ルドラーと言う男を、覚えているか?」
 ジークが言う。すると、兵士達は、どうやら大半が知っているらしかった。
「あの男が、健蔵と組んで、ワイスを生き返らせたのが、そもそもの発端だ。ワイ
ス遺跡に足を踏み入れたルドラーが、健蔵と出会ってワイスを復活させた。この表
現は良くないな。ワイスを召喚したんだ。それでだ・・・。」
 ジークは説明する。元々魔界に居たワイスを、このソクトアに呼ぶために、必要
な物が、『闇の骨』である。暗黒物質で出来ているので、多くの瘴気を含んでいる。
それを利用して、魔界からの扉を開く。それが召喚の手順だった。しかし、ソクト
アに来た瞬間は、力が発揮出来ない。ソクトアの空気に慣れなければならない。そ
のための期間は、強い奴ほど長い。その事を、トーリスとミカルドと共に説明した。
 兵士達は、どよめきながらも、全部聞き入る。
「お前らに説明しておこう。俺達魔族は、元々、このソクトアに居たんだよ。」
 ミカルドは説明し始める。魔族は、元々ソクトアを支配していた。だが神々が、
それを許さなかったのである。神々は、魔族の余りにも自分達を無視する態度に、
痺れを切らして、とうとう全面戦争となったのである。その時に離反した神が、当
時の破壊神グロバスと、当時の月神レイモスである。そして魔族の中でも、突出し
た力を持っていたのが、神魔ワイスであった。クラーデスも、それなりの力を持っ
て居たが、ワイスには遠く及ばなかった。しかし神々は、全ての力を結集させて、
当時の神々のリーダーである天上神ゼーダが、グロバスとレイモス、更には、ワイ
スやクラーデスと言った、主要な魔族達を、魔界に封印する事に成功したのだ。
 その戦いの名残が、ガリウロルと中央大陸なのだ。ガリウロルは、元々ソクトア
大陸とは、地続きだった。しかし、その闘いの時に余りの衝撃で、大地が分断され
てしまったのだ。その分かれた大陸こそが、ガリウロルである。そして、主戦場に
なった中央大陸は、未だに植物が生えてこない大地となったのである。
 人間は何も知らずに、凄まじい天変地異だと勘違いしている。当時、人間達は、
ルクトリアの先端、そして、プサグルの森の中と、ガリウロルの辺境にしか居なか
った。だが、その戦いで魔族が、ほぼ居なくなって、神々が天界に帰って行った。
その後、爆発的に繁栄したのだ。実質400年で人間達は、ソクトア全土を覆う程
の繁栄を見せている。
「・・・って訳で、魔族が人間を恨むのは、本能に近いんだ。それ以上に、神々は
気に食わないがな。」
 ミカルドが、説明を終える。この話は、ジーク達も知らなかった事で、非常に興
味深かった。ジュダなどは、理解していたようだ。
「俺も言っておこう。皆には、是非理解して欲しい話だ。」
 ジュダが説明を始める。ジュダは元人間だった事を話した。人間でも、特化した
能力の持ち主に、神のリーダーが「神化」を施すのである。これは、人間を細胞レ
ベルから、神の力に加える能力で、これにより認められた者だけが、神になれるの
だ。「神化」は、神のリーダーが、代々守っている光がある。それを、体に取り込
む事で、その能力が得られるのである。
 そして今、守っているのはミシェーダだ。彼は、天上神ゼーダが、行方不明にな
った時に、一番尽力して探した神で、実力も群を抜いていたため、神のリーダーと
して認められたのである。
「だが・・・ミシェーダは、この頃のソクトアに、自分の権威が伝わってないので、
伝わる者達だけを、優遇しようとしている・・・。そんなの間違っている。」
 ミシェーダは、確かに優れた神である。しかし、リーダーとなるのに相応しい神
かどうかは、謎マークである。
「俺は、その現状に耐えられなかった。だから、こうしてここに居る。俺は、この
人道が、どういう風に発展するかは、分からない。だが、お前達なら、必ず良い方
向に行くと信じている。期待を裏切らないでくれよ。」
 ジュダは、皆に発破をかける。
「俺も、ただ奪うだけの魔族のやり方には、付いていけない。だから、ここに居る
のさ。それに、俺が生まれる以前の話など、興味は無い。お前達が、気に入ったか
ら、俺は、ここに居る。俺に後悔させるなよ。」
 ミカルドも応援する。皆の熱気は高まっていく。
「ジュダさんに、ミカルドの言う事を聞いて、分かったと思う。俺達は、絶対に勝
たなくてはならない。そして何よりも、人道が、正しい道だったと言う事を示さな
きゃ駄目なんだ。自分達だけが生き残る道じゃ駄目なんだ。共存するために、必要
な物は何かを考えて欲しい。理想を現実に変えるために、皆の力を貸して欲しい。」
 ジークは、飾らずに演説する。他の道は、全て自分ありきである。法道は、神々
のため、覇道は全てを支配するため、無道は全てを破壊した後、自分の理想郷を作
るためである。しかし、人道は違う。皆が協力して、共存する社会を作り上げるた
めだ。それを人の手で作成しただけの道で、参加するのに魔族も妖精も無い。そこ
が、この人道の窓口の広い所であった。
「ジークさん・・・。俺は、付いて行きますぜ!!」
「アンタに命運を懸けていた時から、アンタの言葉を信じるって決めてるんだ。」
「他の道に、俺達の生き様を、見せてやりましょうや!」
 兵士達から、次々と歓声が起こる。それを見て、ジークは涙が出そうになる。こ
れこそが、人道だ。他には無い団結力。それが、この人道にはある。
「皆、出陣だ!絶対、生き残ろう!!」
 ジークの声と共に、大きな掛け声が、大地を揺るがした。
 ・・・その頃プサグルでは、運命神共同体を中心とした『法道』の者の集まりが
あった。その数は、かなりの数に上っていた。そして、その中心に、鳳凰神ネイガ
と大天使長イジェルン。そして、救世主であるアインが居た。
「今日集まってもらったのは、他でもない。今こそ、皆の理想郷を現実にしたいと
思う。そして、理想郷を現実にするために立ち上がった、ミシェーダ様をお迎えし
たいと思う。さぁ!ミシェーダ様!」
 アインが説明すると、どよめきが起きる。今まで、ビジョンでしか見た事が無か
った神のリーダーが、降りてくる時が来たのだ。すると、天が光りだす。
「おお!!!」
「なんと神々しい!!」
「我らを導く光!!」
 人々が、次々と声を出す。それは、待ち侘びた降臨でもあった。いつの間にか、
軍天使達が、迎えの用意をしていた。
「『法道』の者達よ。大義である。我が、神のリーダーにして、運命神ミシェーダ
である。時は熟した!お前達の導き手に、我はなろう!」
 ミシェーダが、ゆっくりと降りながら演説する。人々は狂ったように歓声を上げ
ている。この威厳、光は、間違いなく自分達の救い主であると認識したようだ。
(・・・凄まじき力と神々しさだ・・・。さすがはミシェーダ様・・・。)
 ネイガも、つい平伏してしまう。天界に居た時も、凄まじき神気を放っていたが、
今は、それ以上だ。ソクトアに入ると言う事で、いつも以上に燃えているのだろう。
「鳳凰神ネイガ。並びに救世主アイン。今までの働きは、見事である。理想郷を夢
見る者達を導くのは、さぞ大変であったろう。」
 ミシェーダが、アインやネイガの苦労を労う。
「貴方の力無くして、ここまでの人々が、集まりはしませんでした。貴方の力あっ
てこその、信じる人々で御座います。」
 ネイガが、生真面目に答える。
「フム。時に、この地には、神を神とも思わぬ所業を、繰り返す者達が居る。理想
郷を築くのに、それを粉砕せんと企む者達だ。それを赦す事が出来ようか?」
 ミシェーダが、皆に問いかける。
「お前達の思う通りだ。赦すには、時が経ち過ぎた!我を敵と思う魔族や、神魔な
どは勿論、それに付き従う人間は、赦す事など出来ぬ。増して、自分達だけで何と
かしようと言うのは、傲慢と言わざるを得ない。」
 ミシェーダは、他の道を非難する。法道こそが正しいと信じる、ミシェーダらし
い演説である。
「我が道を信ずる者よ。安心するが良い。我が鉄槌と、ここに居る頼もしい天使を
合わせれば、不可能など無い!だが、諸君らも働いてこその理想郷・・・。手伝っ
ては貰えぬだろうか?我は、強要はしない。」
 ミシェーダは、協力を要請する。
「ミシェーダ様のためなら、どこへでも行きます!」
「私が信じる理想郷を作るためなら、喜んで剣を取りましょう!」
「後世に法道こそが、真の道と説きます!そのために戦いましょう!」
 皆は口々に賛成する。結構な団結力である。人道に、勝るとも劣らない。これが
ミシェーダの影響力なのだろうか?
「皆の力強い支援に感謝する。これで我は、思う存分、力が奮えるだろう。この戦
いに、聖なる力を見せようぞ!」
 ミシェーダの掛け声で、皆が一致する。
(俺がやるべき事は、この道のために尽力する事だ!絶対に負けない!)
 アインは改めて、その誓いを胸に仕舞うのだった。
 そして、時を同じくして、ワイス遺跡の前に、魔族と覇道を信じる人々が、集ま
っていた。次元城から、ゆっくりとグロバスが降りてくる。それに続いて、魔界三
将軍に魔人レイリー。そして、健蔵が降りてきた。
「宣戦布告してから、各地で動きがあった。決戦の時は来た!」
 グロバスが、口を開く。覇道の者達は、緊張して次の言葉を待つ。
「見せ掛けだけの理想郷を企む「法道」は元より、個人の理想で、ソクトアを破壊
する「無道」、そして、群れる事でしか存在を表せない「人道」諸共、我が「覇道」
で討ち滅ぼす時が、来たのだ!」
 グロバスは、他の道の欠点を述べる。
「皆なら分かっていよう。この世の真理は、力!それを否定する『道』は、厳罰に
値する。この世で、最も分かりやすい力を体現する「覇道」こそが、生き残る資格
があるのだ!そして、魔族がソクトアを取り戻す時が、来たのだ!」
 グロバスは熱く語る。ソクトアは、元々魔族の物だと言う意識が強いのだ。
「皆、聞いてくれ。俺は、この戦いで必ずジークに勝つ。だから皆は、それ以外の
奴に集中してくれ。勝手言って、済まない。」
 健蔵は、狙いをジークに定めていた。他の者など、どうでもいいのだ。そして、
それこそが「覇道」にとって、一番の功績だと言う事も分かっている。
「健蔵の、この意気込みを見よ。我らも、負けてられぬぞ!」
 グロバスが叫ぶ。すると、覇道を信じる人々が、唸るような歓声を上げる。
「良いか!我らの力を、存分に発揮して、魔族と覇道を信じる者達の最高の地、ソ
クトアを手に入れるのだ!!」
 グロバスの掛け声と共に、皆が歓声を上げる。
「とうとう、力を試す時が来たな・・・。」
 レイリーは、震えていた。
「アンタらしくも無いねぇ。怖いのかい?」
 ジェシーが、軽口を叩く。
「ちげぇよ。嬉しいのさ。体の奥底から、戦いたがってるのさ。この体がよぉ!」
 レイリーは、明らかに興奮していた。段々魔族に近くなっている証拠だ。
「ふっ。その意気を、神々や人間共にぶつけるんだ。」
 シュバルツは、レイリーの気を静めてやる。
「・・・俺も・・・たくさん闘う・・・。」
 ミュラーは、静かながらも、戦いに備えて瘴気を溜めていた。
「頼もしい事だね。この戦い勝って、帰らなきゃ損するねぇ。」
 ジェシーも嬉しそうだった。魔族の血が騒ぐのだろう。戦う事で、自らを高める
のが、好きな魔族にとって、こんなに燃える戦いは無い。
「戦いに逸るのは良いが、負けは許されんぞ。」
 横から、ミライタルが口出しする。
「そう言う、お前はどうなんだよ?」
 レイリーが尋ねる。
「俺の闘うべき相手は、決まっている。決着を、つけなければならん。」
 ミライタルは闘志を燃やす。その相手は、言うまでも無かった。情報を手に入れ
た時から、決まっていた。
「兄貴とやるつもりなんだな。好きにしな。その代わり、負けるんじゃねぇぞ。」
 レイリーは、発破を掛ける。
「言われなくても負けぬ。奴は、潰し損ねただけだ。今度こそ・・・。」
 ミライタルは、エルザードを殺す気満々だった。無論、あっちもそうなのだろう。
もはや、この闘いは避けられないだろう。逸早く、それぞれを見つけて、殺しに掛
かるに違いない。どちらかが倒れるまで、決着は付かないだろう。
「皆の者!いざ出陣だ!」
 グロバスの手を上げるのと同時に、魔族は一丸となって掛け声を上げる。
 覇道の出陣となるのであった。
 そして、ほぼ同時期に「無道」も、クワドュラートで旗揚げをしていた。クラー
デスを中心として、横に控えるのは「熾天使」ラジェルドだった。「無道」の者達
は、ほとんどの者が『聖人』か『魔人』である。人間に神液を与える事で『聖人』
が誕生し、同じく魔性液を与える事で『魔人』が誕生する。クラーデスは、死力を
振り絞って、それらを増産し、人間達に分け与えていた。しかし『聖人』や『魔人』
になるためには、非常に激しい苦痛に耐えなければならない。それに耐え切れずに、
死んだ者が半数にも上っていた。
 だが、元『絶望の島』出身と言うだけあって、ほとんどの者が罪人なので、罪人
として生きるのならと、飲む事に挑戦する者が、ほとんどで、挑んでいない者は、
存在しないと言っても、過言では無かった。
「良く聞くと良い。我が「無道」は、これから中央大陸に出陣する。」
 クラーデスは、静かに話し始める。
「他の「道」の者も、集結しつつある。どうやら、四つ巴の戦いになる事が、予想
される。我が「無道」も、狙われる可能性が高い。」
 クラーデスは説明する。一番人数的に少ないのは、「無道」である。
「だが、最初さえ凌げば、我らは既に、戦力的には、他のどの「道」よりも優れて
いる。それは、苦しみに耐えた、お前達の特権だ。」
 クラーデスは、神液や魔性液の事を話す。言うなれば、成り立てのレイリーやア
インが、たくさん居るような物である。強くない訳が無い。
「お前達は、常に苦しんできた。罪人として流され、勝手に決めた法により裁かれ、
仲間を失っていく。そんな世の中に生まれたのは、不幸と言う他無い。」
 クラーデスが、演説する。皆はシーンと聞いている。
「このソクトアが、間違った方向に進んでいると言うならば、正すのが生物の役目
だ。この役は、苦しみに耐えた諸君と、俺にこそ相応しい。」
 クラーデスの一言で、皆シンミリしている。しかし、決意がフツフツと沸いてき
ているらしく、毅然とした目になってきた。
「我が「無道」は、このソクトアを破壊する。それ自体は、非常に恐ろしい事だと
俺も思う。だが、そうしなければ、ソクトアは再生出来ない所まで来ている。そし
て、全てを無に帰した後、新しい間違いの無い世の中を、作らなければならない!」
 クラーデスが叫ぶと、少数ながらも歓声が沸く。しかし、少数と言っても、他の
「道」と比べて劣るだけで、戦力的には、かなりの数である。
「皆、聞くが良い。余は、大天使長であったラジェルドである。」
 ラジェルドが、口を開く。
「もう理解している通り「熾天使」として生まれ変わった。その時に、今の世の中
の矛盾が見えたのだ・・・。神のリーダーが、運命神であると言う所で、既におか
しいでは無いか。奴が、全ての運命を決めるとでも言うのか?」
 ラジェルドは説明する。運命神は、全ての運命を司る神なのだ。それだけの力を
持っている神であるし、人々を導くと言う点では、優れた神である。
「死して迷える者を導くのなら、話はまだ分かる。だが奴は、自由に生きようとす
る者まで、導こうとしている!そんな事は、間違いである!」
 ラジェルドは、熱弁を揮う。
「それに奴は、大罪を犯している。許す訳には行かぬ!奴は、前の神のリーダーで
ある天上神ゼーダを、追放した身なのだ!これが、許されると思うか!?」
 ラジェルドは、衝撃の事実を話す。この話には、皆も半信半疑だった。
「余は見た。全ての力を理解する時に、ミシェーダが犯した愚行をな。」
 ラジェルドは、語気を緩めない。
「余は、諸君らを導き、二度と、あのような神に、のさばらせぬ事を誓おう!」
 ラジェルドは拳を上げて、ポーズを作る。すると、辺りから大歓声が沸いた。
「フッ。やはり、貴様も見ていたか・・・。」
 クラーデスは、ラジェルドに声を掛ける。クラーデスも、無の力を得る時に、ミ
シェーダが、ゼーダを追放する様を見たのだ。
「余は、間違った者に味方する程、目が濁っては居ない。」
 ラジェルドは、例え「堕天使」と呼ばれようと、ミシェーダに、二度と仕えない
事を誓ったのだ。
「皆の者!!決戦の時だ!!蓄えた力を、存分に発揮して、この地に勝利を!!」
 クラーデスが、掛け声を上げると、地を揺るがすような声援が伝わる。
 こうして舞台は、中央大陸へと移していく。全てを決する戦いの幕開けだった。


 敵は中央大陸に居る。それぞれの「道」が、一斉に中央大陸に集まるとは、とて
も壮観でもあったが、空恐ろしくもあった。申し合わせたかのようである。しかし、
これは、偶然ではなかった。神々と魔族にとって、中央大陸は因縁の地なのだ。魔
族は、自分達が、追放された切っ掛けになった土地であり、神々にとっては、魔族
を一掃した縁起の良い土地なのだ。そして人間達にとっても、この中央大陸は、因
縁の土地だった。それは、20年前に起きた戦争だ。プサグルとルクトリアが、繰り
広げた戦争のほとんどは、この中央大陸が中心である。ソクトアの中での中央大陸
は、どこかしら戦いに火を付ける、そんな雰囲気が漂う場所なのだ。
 そして、プサグルを占拠していた「法道」は、西から姿を現す。そして、南から
は、ワイス遺跡から出陣してきた「覇道」、そして東から、ルクトリアを中心とす
る「人道」がやってくる。そして、クワドゥラートは元バルゼなので北からである。
 だが、中央大陸に来るまでの時間が多少ずれたのか、先に着いたのは「法道」と
「覇道」だった。「覇道」は、中央大陸のすぐ南である。着くのは容易だった。そ
して「人道」と「法道」は、ほぼ同じ時期に出発したが、プサグルに比べると、ル
クトリアの方が、中央大陸に着くまで長いのだ。そのせいだろう。「無道」は、出
発時間が遅れていたので、遅いみたいである。
(先に動くのは、得策では無い・・・。)
 グロバスは、逸る気持ちを抑えていた。この四つ巴戦で、一番気を付けなければ
ならないのは、全ての「道」に攻められる事だ。こうなると、いくら「覇道」とは
言え、耐えられそうもない。しかし、他の「道」が来る前に、「法道」を倒してし
まえば、痛手を負うとは言え、勢いが付く。微妙な所だった。
 しかし、その均衡は、すぐに破られた。グロバスが「法道」の方に、注意してい
たので、すぐに分かった。
「皆の者、下がれ!!」
 グロバスが、危険を察知して、自らが前に出る。すると、とてつもないエネルギ
ーの弾が、こちらに向かってきた。
「ムン!!!」
 グロバスは、それを両手で受け止める。そして、自らに渇を入れると、エネルギ
ー弾を掻き消した。
「我が神気の弾を受け止めるとは、さすがは元神だな。」
 上空から声がした。
「ミシェーダか・・・。とうとう、この地にまで来たのだな。」
 グロバスは、ミシェーダが来た事は、却って好都合だと思った。
「昔の借りを、返す時は来た!」
 グロバスは、400年前の事を思い出す。
「月神が居なくて、行けると思うのか?」
 ミシェーダは、余裕の表情でグロバスを見つめる。
「舐めてもらっては困る。あそこに居る健蔵は、レイモス以上の逸材・・・。あの
時のようには、行かぬ!」
 グロバスは、勝算があるからこそ、戦いを挑んだのだ。今更、後には退けない。
「フン。ならば、試さねばな。皆の者!!悪しき魔族共を許すな!行けい!!」
 ミシェーダが、号令を掛ける。すると「軍天使」を中心に、「法道」の者達が、
一斉に動き出す。
「決めるぞ!死力を尽くして戦え!!行くが良い!!」
 グロバスも号令を掛ける。凄まじい光景だった。これこそ、生き抜くための闘い
なのだろうか?凄まじい程の人々が、己の信じる道のために死闘を繰り広げていた。
「貴様の相手は私だ。運命神の手に掛かって死ぬ事を、誇りに思うと良い。」
 ミシェーダは、グロバスと対峙する。グロバスとしても、望む所だった。
「そこの者。私の相手は、どうやらお前のようだ。」
 ネイガが、健蔵に声を掛ける。
「俺は、ジークしか見えん。・・・が、グロバス様の邪魔をさせる訳にもいかん。
仕方が無い。来るが良い。俺の目覚めた力を、見せてやる。」
 健蔵は、剣を構える。すると凄まじい程の瘴気、そして、何と神気も出し始める。
「相手に不足は無いようだな。この鳳凰神の力を見るが良い!」
 ネイガも、神気を出し始める。さすが神だけあって、その力は、包み込まれるか
のようだ。しかし、健蔵とて負けていない。
「久しぶりだな。」
 アインが、レイリーに声を掛ける。
「あの時以来だな。」
 レイリーは、前に対峙した時の事を思い出す。その時は、途中で止められた。
「決着を付けなければな。」
 アインは、剣を抜く。すると、神気に満ち溢れる。
「それは、こっちの台詞だぜ。偽善者気取りは、癇に障る。行くぞ!!」
 レイリーも剣を抜いて、瘴気を出し始める。
「魔族に加担する邪悪な存在ならば、かつての仲間とて、容赦はしない!!」
 アインは、レイリーに斬り掛かる。
「ケッ。神の言う事だけを聞いて、本質を忘れた馬鹿野郎は、てめぇの方だ!!」
 レイリーは、その剣を弾くように返す。しかしアインは、すぐに体制を整える。
「止まれ。そこの天使。」
 シュバルツが、イジェルンに声を掛ける。
「汚らわしい魔族よ。私は、大天使長イジェルン。貴公の名を、聞いて置こう。」
 イジェルンは、見下した目でシュバルツを見る。
「俺は魔界三将軍の一人、赤炎のシュバルツ!大天使長とは、美味しい獲物だな。」
 シュバルツは、瘴気を出し始める。
「その力量で将軍とは笑わせる。ミシェーダ様に代わって、引導を渡してやろう。」
 イジェルンは、シュバルツに飛び掛かる。そして、手を振り翳すと、神気で作っ
た剣を生成する。シュバルツは、槍を取り出す。
「俺の槍に付いて来れた奴は、居ねーぜ?」
 シュバルツは、素早い動きで槍を操作する。
「天使・・・殺す!!」
 ミュラーも、応援に駆け付けたようだ。
「魔界三将軍・・・青炎・・・ミュラー!!」
 ミュラーも、名乗りを上げる。そして手には、2個の斧を持っていた。どうやら、
2個の斧を自在に操るらしい。
「なる程。しかし貴方達二人を持ってしても、私には届きませんよ。」
 イジェルンは、神気の剣を叩きつけると、衝撃波が起こる。それを2人共、受け
止めるが、とんでもない勢いで、武器が弾き飛ばされそうになる。
 ヴォン!!
 後ろから、衝撃波が起こると、イジェルンの衝撃波が霧散した。
「なぁに、やってるんだい。気合入れなきゃ駄目じゃない。」
 ジェシーが、駆けつけたようだ。
「私は、魔界三将軍の黒炎のジェシー。神の手先には、容赦しないよ。」
 ジェシーは燃えるような目付きで、イジェルンを睨む。
「女性とは言え、呪われし魔族よ。私が慈悲を持って、魔界に帰そう。」
 イジェルンは、6枚の翼を広げる。大天使長に昇格した時に、新たに2枚増やし
てもらったのだ。元々は、4枚であった。
「3人なら、この私に勝てると言う算段ですか?見縊られた物ですね。」
 イジェルンは、ラジェルドに隠れがちだったが、密かにラジェルドを上回るかも
知れないと言われた、実力の持ち主である。その力は、折り紙付きである。
「大天使長となり、更に力を授かった、私の真の力をお見せしよう!」
 イジェルンは、6枚の翼を広げて衝撃波を増幅させる。それだけでも、吹き飛ば
されそうになる。事実、後ろに控えていた魔族は、悉く吹き飛ばされている。
「やるじゃないのさ!!」
 ジェシーが、鞭を取り出して、それを振り回す事で衝撃波を出して対抗している。
「・・・ほう。これは驚きました。そこの女性が、一番の実力者とはね。」
 イジェルンは、興味深くジェシーを見る。
「余裕扱いてる暇は無いよ!!」
 ジェシーは、鞭をイジェルンに巻きつけようとする。しかし、一瞬で宙に浮いて、
これを躱す。かなりの速さだ。
「休ませるか!!」
 シュバルツは、全身を震わせて、全ての力を槍に集中させて、目に見えない程の
突きを繰り出す。
「・・・手伝う!!」
 ミュラーは、シュバルツに負けじと、2本の斧を交差するように持つと、一本を
投げつけて、もう一本で斬りに掛かる。
「なるほど。3方向からの攻撃・・・。」
 イジェルンは、周りをちょっと見渡すと、投げつけた斧が戻ってくるのを感じた。
そこに2人の攻撃である。これには、イジェルンも成す術が無い・・・と思われた。
しかしイジェルンに当たったと思った瞬間、イジェルンの体が消えた。
「馬鹿な!!!」
 シュバルツは驚く。確かに、貫いたはずだった。しかし、イジェルンの体は、既
に無かった。ミュラーも驚いているようだ。
「危ない!!」
 ジェシーが叫ぶ前に、シュバルツとミュラーは吹き飛ばされる。
「・・・一体・・・何が?」
 シュバルツは背中から、もろに神気弾を食らってしまった。
「貴方達が斬ったのは、私の残像ですよ。最も・・・そこの女性には、見えてらし
たようですがね。」
 イジェルンは、ジェシーを褒める。
「アンタ・・・強いね。でも気に食わないね。その態度。」
 ジェシーは戦闘態勢に入る。こんなに狂暴的になったのは、初めてかも知れない。
「どうやら、私の相手に相応しいのは、貴女のようですね。」
 イジェルンは、ジェシーの方を見る。
「・・・ぬうう・・・。」
 ミュラーは悔しがる。あんな一発で、動けもしなくなるなんて、実力の差は明ら
かである。シュバルツも、指一本動かすのも苦しいくらいだ。
「この黒炎のジェシー・・・。覚悟を決めて、負けた事は一回も無いよ。」
 ジェシーは、鞭に気合を込める。何とジェシーは、闘気を出していた。
「ほう。瘴気では無いとは・・・。」
 イジェルンは、少し驚いた。ジェシーは魔族なのに、闘気を出していたのだ。
「良いでしょう。貴女が敗北した、初めての相手が、この私となりましょう。」
 イジェルンは、静かに印を組むと、神気が漲ってくる。
「舐めんじゃないよ!!」
 ジェシーは、変幻自在の鞭の動きで、イジェルンに攻撃する。
「中々の鞭捌き。私も、武器を出しますか。」
 イジェルンは、腰からブラ下げている剣を抜く。しかし、それは剣と言うより、
突剣だった。イジェルンは、軽快な動きで突剣を手にする。
「このエンジェルエストックこそ、大天使長の証。」
 イジェルンは、突剣が得意だったので、ミシェーダよりエンジェルエストックを
貰い受けたのだ。ラジェルドは肉弾戦が得意だったので、腕輪を貰ったと言う話だ。
「フン。頼りなさそうな武器出した所で、変わりゃしないよ!!」
 ジェシーは鞭を素早く振ると、衝撃波を生み出す。それをイジェルンにぶつける。
「ハッ!」
 イジェルンは気合を入れると、その衝撃波を突く事で、衝撃波を消してしまった。
「な、何だって?」
 ジェシーは、ビックリする。たった一回の突きで消える程、柔な衝撃波じゃない。
何かの見間違いであろうか?
「フフッ。気が付きませんか?」
 イジェルンは、構えを解かずに近づく。不気味な事である。
「これでどうだい!!」
 ジェシーは鞭を、目にも止まらぬ速さで、イジェルンに振り翳す。
 バシィ!!
「イタッ!!・・・何ぃ!?」
 ジェシーは、またしても目を疑う。鞭が、何と一突きで、綺麗に割れてしまった
のだ。しかも、ジェシーから、どうやって弾いたのかすら分からない。
「何だってんだい!?」
 ジェシーは、少しパニックになる。
「分からないようですね。貴女は、この私相手に、エンジェルエストックを出した
だけでも、素晴らしい相手でしたが・・・ここまでです。」
 イジェルンは、エンジェルエストックを振り翳そうとする。
 バシィッッッ!!
 凄まじい音が鳴った。その瞬間、ジェシーはやられた・・・と思った。しかし、
無事だった。何故か、目の前に壁が出来て、それが守ってくれたらしい。
「・・・意外でしたね・・・。」
 イジェルンは目を伏せる。そして、エンジェルエストックを仕舞う。ジェシーは、
目の前の壁を見る。しかし、それは壁では無かった。
「シュバルツ!!!ミュラー!!!」
 ジェシーは無傷だった。シュバルツとミュラーが壁になったのだ。
「こ、これは!!」
 ジェシーは、シュバルツとミュラーの傷を見る。何と、全面に突きの跡があった。
そう。一回の突きでは無かったのだ。凄まじい程の突きを、目にも止まらぬ速さで
繰り出していただけだったのだ。そして、シュバルツとミュラーの傷から、シャワ
ーのように血が流れる。
「何で、こんな事をした!!」
 ジェシーは2人を、介抱する。
「俺達は・・・所詮、奴には届かねぇ・・・。それを悟ったからだ。」
 シュバルツは、息絶え絶えだった。
「盾・・・なれた・・・。」
 ミュラーも、満足そうだ。
「馬鹿!!こんなんで死んだら、犬死じゃないか!!」
 ジェシーは叫ぶ。
「大丈夫・・・。俺達の跡を、継ぐ奴が居る・・・。」
 シュバルツは言いながら、血を吐き出す。
「レイリー・・・。頑張る・・・。」
 ミュラーも同じ想いだった。レイリーとジェシーは、この2人の希望なのだ。
「シュバルツ・・・。アンタは私の事が憎かったんじゃないのか?地位を追われて。」
 ジェシーは、自分が初めてシュバルツと闘った時の事を思い出す。
「ヘヘッ。そんな昔の事・・・忘れちまったよ。」
 シュバルツは、嘘を吐く。覚えて無い訳が無いのだ。
「前向く・・・。それ大事・・・。」
 ミュラーも凄く澄んだ目をしてジェシーを見る。恨み等無いかのように・・・。
「ジェシー・・・死ぬ・・・んじゃねぇ・・・。ぞ。」
 シュバルツは、そう言うとニッコリ笑う。そして、首の力が無くなる。
「後・・・頼・・・む・・・。」
 ミュラーも、そう言い終えると目を閉じたまま、二度と開かなかった。
「シュバルツ・・・ミュラー・・・あああああああああああああああ!!!!!!」
 ジェシーは、凄まじい咆哮を上げる。その瞬間、ジェシーから、とんでもない殺
気と、闘気と瘴気が混ざり合ったような力が噴出す。
「まさか・・・あのような真似を、魔族がするとは・・・。」
 イジェルンも、意外だったのだろう。しかし、それ以上に、ジェシーがパワーア
ップしたのは厄介だと思った。
「まずは、ミシェーダ様に報告しなければな。」
 イジェルンは、そう言うと飛び去ろうとする。
「逃げるな!!!てめぇえぇぇえ!!!」
 ジェシーは、イジェルンに向かって闘気弾を打ち出す。
「ハッ!・・・我を見失っても私には、敵いませ・・・何ぃ!?」
 イジェルンは、ビックリした。エンジェルエストックで、闘気弾を消したのだが、
そのエンジェルエストックが、今の衝撃で壊れてしまったのだ。
「ミシェーダ様から頂いた、このエンジェルエストックが・・・私は、何と罪深い
のだ!この罪は、償わなければ!」
 イジェルンは向きなおすと、ジェシーに向かって、神気弾を投げつける。これま
でとは、別物だ。本気で怒ったらしい。
「しゃらくさいよ!!」
 ジェシーは、その神気弾を受け止める。
「ぬぐぐぐぐぐ!!」
 凄まじいパワーの神気弾だった。ジェシーも堪えてはいるが、中々受け止め切れ
ない。さすが、大天使長だけあって、並みのパワーでは無い。
(何て事だ・・・。このあたしが、反撃すら出来ないなんてさ・・・。)
 ジェシーは、改めてイジェルンの強さを思い知る。
(魔界三将軍が、笑わせるね・・・。)
 ジェシーは、とうとう神気弾に負けそうになった。その時である。
「どおおおりゃあああああああ!!!!」
 後ろから声が聞こえた。何とレイリーだった。その後ろから、アインが追いかけ
てくる。レイリーは、神気弾をぶった斬ろうとしている。
「レイリー!この私に、背を向けるとは・・・侮るか!!」
 アインは、激昂する。
「うるせぇ!!仲間のピンチに駆けつけない奴は、男じゃねぇ!!」
 レイリーは、そう言いながら神気弾を押していく。
「後ろからは趣味じゃありませんが・・・今は、そう言う事を言っている時では無
い。覚悟!レイリー!!」
 アインは、剣を水平に構えて空高くジャンプする。
「くらえ!!ルース流剣術「燕三段」!!」
 アインは、燕返しを凄まじい勢いで、三回繰り返す「燕三段」を放つ。
「ぐ・・・ぎ・・・!!」
 何と、一人の魔族が、それを全て受け止めた。
「な、何だと!?」
 アインは、ビックリする。魔族が、こういう行動に出るとは思わなかったのだ。
「ぬがあああああああ!!!!!」
 レイリーは、怒りに任せて神気弾をイジェルンに跳ね返す。
「おい!!しっかりしな!!」
 ジェシーが、犠牲になった魔族に近寄る。
「・・・ジェシー様・・・レイリー様・・・必ず我らの・・・国を・・・。」
 魔族は、そこで息絶えた。
「ちっくしょおおおお!!仲間を守れるだけの力もねぇのか!!俺は!!冗談じゃ
ねぇ!!こんな所で、終わって堪るかってんだよ!!」
 レイリーは、とてつもない瘴気を放つ。
「俺が魔人になってまで、手に入れた力は、こんな物じゃねぇはずだ!!もっとだ!
もっと力を!自分を裏切らないだけの力を!!」
 レイリーは、そう言うと、目の色が変わっていく。そして、角が見る見る内に、
生え変わり、魔族の象徴である翼まで生え出した。それだけでは無い。爪が鋭くな
っていき、牙も凄まじい長さにまで伸びた。体は、人間だった頃とは比べ物になら
ない程、筋肉で引き締まり、腕からは刃が飛び出す。
「・・・この眼で「瘴気覚醒」を見ようとは・・・。思っても見ませんでしたね。」
 イジェルンが、厄介な事になったと、言わんばかりの声を出す。
「あたしも初めて見た。魔族の「瘴気覚醒」・・・そのパワーが何倍にもなる儀式。」
 ジェシーもビックリした。自分が、さっき引き出した物よりも、もっと凄いパワ
ーアップだ。ジェシーの力すら、もう超えているだろう。
「力だ・・・。力が俺の体を駆け巡ってる・・・。」
 レイリーは、歓喜の声を上げる。
「死ね・・・。」
 レイリーは、前方に瘴気弾を投げつける。すると「法道」の部隊に直撃した。
「アアアアアア!!ミシェーダ様ァァァァ!!」
 部隊の者は、叫び声を上げながら消えていく。
「熱い!!!!消える!!ネイガ様ーー!!!救世主様!!!!」
 多くの者は、苦しみながら消えていった。
「止めないか!!!!」
 アインが、怒りの声を上げる。
「貴様・・・わざと苦しむように、瘴気を撃ったな・・・。」
 アインは、レイリーの残虐さに怒りを覚える。
「てめぇらだって、やっている事だ。それを分からせただけの事だ。」
 レイリーは、感情の無い声で言う。どうやら何か悟ったようだ。凄まじい強さだ。
「・・・神を信じる純粋な者と、力が全ての魔族を、一緒にするとは・・・。」
 アインの中で、何かが切れた。
「もう許さぬ。生涯使う事は無いと思った力を、解放してやる・・・。」
 アインは手を交差させる。すると、恐ろしい程の神気が、纏わり付き始めた。
「神より与えられた頃から、ずっとセーブしてきた。しかし、それも終わりだ!!」
 アインは背中から、天使の翼が生える。そして肌が、鉄のように硬くなっていく。
さらには目の色が、黄金色に変わっていく。
「おおお!!あれは・・・「天化」!?」
 イジェルンは、またも驚く。アインが天人(てんじん)へと、変化して行ったの
だ。天人とは、天界に住む、限りなく神に近い存在で、その力は、地上の人間の何
百倍にも相当すると言う。
「この力を使えば、私は二度と戻れぬ。分かっていた・・・。しかし、貴様の行為
を見過ごすくらいなら・・・私は、人の体を捨てる!!」
 聖人から見ても、天人は至高の存在で、それだけアインが、凄まじい変化を遂げ
たと言う事だ。
「救世主殿は、とうとう天人になられたと言うのか・・・。」
 イジェルンが、ひれ伏す。それだけ、天人は尊い存在なのだ。神に次ぐ立場と言
っても、過言では無い。
 二人の変化はこの後、大きな戦力となるのは間違いなかった。「法道」と「覇道」
のぶつかり合いは、始まったばかりだった。



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