NOVEL Darkness 2-4(Second)

ソクトア黒の章2巻の4(後半)


 ジュダとの出会いは、俺にとって衝撃的だった。それにゼーダの方でも、色々、
ためになった話が聞けたとかで、プラスになる事だらけだった。最も、会った事は、
誰にも秘密にしてある。内容が内容だけに、迂闊に話す訳にはいかない。ゼハーン
さんとの約束もあるしな。
 まぁそれで、気力が充実したのか、ゼーダの扱きは、より一層厳しい物になった。
神気の強化は勿論、闘気や魔力の底上げ。そして、源のバランス感覚を磨き上げる
訓練なんかも、熾烈を極めた。ゼーダは、俺が学校に行っている間に、魂だけでも
鍛えるとかで、猛特訓をしているらしい。時々掛け声が響くので、注意するのだが、
集中してると、聞こえないらしく、良い迷惑になっていた。ま、俺も、人の事は言
えないので、何とも言えない所ではあるのだが・・・。
 で、ゼーダと一通り話し合った後、源を使いこなせるようになってきた今、やは
り忍術を習うのが、一番だろうと言う結果になった。だが、忍術は、そんなに容易
く習える物でも無いだろう。何せ、今の世の中は、魔力もそうだが、源だって本来
は、禁忌なのだ。源を使いこなせると言う事は、魔力を操れる事と同じだ。そうな
れば、セントに目を付けられたりするかも知れない。ここガリウロルでは、セント
の目が、そんなに厳しくないが、用心に、越した事は無い。
 とは言え、源が使いこなせるのに、忍術を習わないと言うのも、ゼーダ曰く、勿
体無いそうなので、チャンスがあれば、習わなくてはな。
 忍術で接点があると言えば・・・亜理栖先輩だよな。亜理栖先輩とは、合同練習
もするようになったし、あのパーティーの後、気軽に話しかけてくれる事もあって、
親しくない訳じゃない。でも、忍術の話となると別だろう。何て顔されるか不安で
ある。忍術の本場は、榊家だからなぁ。他に榊家と言えば、総一郎さんが居るけど、
俺は、余り面識が無いしな。準決勝の時に助けた後、少し話しただけだ。それに、
榊家の本家は、アズマにある。サキョウからは、結構遠い。亜理栖先輩は、分家だ
から爽天学園に通っているとの話だし、難しいよな。やっぱ亜理栖先輩に、話して
みるしかないよな。せっかく源のコツを掴みかけてるんだしな。
 今日は、亜理栖先輩と、合同練習があった。稽古をしながら、囁いて、亜理栖先
輩に、部活後に焼却炉前に来るように伝えた。亜理栖先輩は、かなり訝しげな目を
していたが、俺の目を見て、何か用があると感づいたのか、了承してくれた。
 しかし、これって・・・傍目から見ると、どうなんだ?空手部の人間が、キック
ボクシング部主将を呼び出して・・・で秘密の話がある・・・。何て、誤解を招く
設定なんだ。何だか関係無いのに、緊張して来たぞ。
 俺は焼却炉に向かう。お誂え向きに、誰も居なかった。俊男に今日は、ちょっと
寄る所があると言ってあるし、大丈夫だろ。江里香先輩や恵には、用事があると伝
えといてくれとも言ったし。・・・誤解を招く行為かなぁ?
 あ。亜理栖先輩は、先に待っててくれた。さすが律儀だなぁ。ミス・アネゴと呼
ばれてるだけある。面倒見が良いって事は、それだけ約束事には煩いって事だ。
「亜理栖先輩!遅れました!」
 俺は、挨拶をする。亜理栖先輩は、俺の様子を見て、こちらを睨む。俺、何か悪
い事でもやったでしょうか?・・・怖いんですけど。
「はぁ・・・。澄んだ目をしてるね。純粋に、頼み事って所かい?」
 亜理栖先輩は、それを読み取るために、こちらを見た様だ。そして、それに気が
付くと眼鏡を掛ける。そう言えば、亜理栖先輩は、眼が悪いんだっけ。だから睨む
ように見えたのか。とんだ勘違いをしてしまった。
「あ。はい!・・・ええと実は、あまり大っぴらに話せる事じゃないんですけどね。」
 俺は腕を組む。迂闊にしゃべって、噂が広がるのは良くない。
「あのねぇ。怪しい事なら、引き受けないよ?」
 亜理栖先輩は、曲がった事が嫌いだ。まぁ、そう言うだろうなぁ。
「決して、不純な事じゃないんですが・・・言い難い事では、ありますね。」
 まさか、忍術を教えてくれなんて、亜理栖先輩だって面食らうだろうなぁ。
「アンタねぇ。余り誤解を招くような言い方を、するんじゃないよ?」
 亜理栖先輩は、呆れていた。俺が何かしら用があるのは、見抜いている様だ。
「まぁ良いさ。話し難い相談事なんだろ?なら、うちの道場まで来るかい?」
 亜理栖先輩は、俺が話し難そうだと見抜いて、誘ってくる。そりゃ有難い。亜理
栖先輩の道場なら、忍術を習うには、丁度良い。
「お願いします。恐らく俺の相談事も、榊道場じゃないと、きついと思うんですよ。」
「護身術でも習うつもりかい?アンタには、必要無いと思うけどね。」
 亜理栖先輩は、俺の強さを身に染みている。手合わせしても、俺は、負けた事が
無い。だから、嫌味にでも、聞こえたのだろうか?
「ま、話せば分かるか。付いてきな。」
 亜理栖先輩は、手招きして、裏門の方から出る。と言う事は、これから、榊家の
分家に行くと言う事だろう。亜理栖先輩は、話せるなぁ。
「どんな用事なんだかねぇ。頼まれりゃ悪い気はしないけどさ。江里香には、話し
てあるのかい?」
 う・・・。痛い所を突かれたな。おいそれと、話せる内容じゃないんだよな。
「呆れた・・・。言って無いのかい?馬鹿だねぇ。誤解されても、知らないよ?」
「え?・・・誤解?」
 俺は、本気で意味が分からない。亜理栖先輩に、忍術を習う事が、何の誤解にな
ると言うのだろう?うーーん。強さを追い求めるためなんだけどなぁ。
「・・・鈍いねぇ・・・。こりゃ、江里香も苦労するね。」
 亜理栖先輩は、呆れながら先を歩いていく。まぁ俺としては、訳が分からないが、
亜理栖先輩に付いていくしかない。
 しばらくすると、結構でかい門が見えた。直感的に、ここが、榊家の分家だと悟
る。爺さんの所に、そっくりだ。
「おや?亜理栖嬢。今日は、男連れかい?」
「品の無い冗談言うなら、殴るよ?」
 門の所に居た掃除人が、亜理栖先輩に話しかける。様子を見ると、親しそうだ。
「そんな甲斐性は、亜理栖嬢には無いか。ま、客人。上がりなさい。」
 掃除の人が、門を開けてくれた。俺は苦笑しながら、入っていく。亜理栖先輩は、
無言で蹴りを放つが、掃除の人は、箒で受け止めていた。
「亜理栖嬢。今日の蹴りは、40点ですよ?」
 掃除の人は軽いステップで周りを掃きに行った。飄々としてるが、かなりの腕だ。
「あーーー。もう。・・・悪いね。アイツは、ウチの使用人で、冬野(ふゆの) 
健一郎(けんいちろう)って言ってね。人をからかうのが、趣味の奴でね。」
 亜理栖先輩は呆れていた。よっぽど、やられているのだろう。
「でも、良い動きでしたよ。」
 あの動きは、素人じゃない。亜理栖先輩の蹴りを、箒の柄で受け止めるなんて、
並みの腕じゃあない。門番としても、通じるだろう。
「あれでも、訓練してるからねぇ。その話は良いさ。本題を聞かせてもらおうか?」
 亜理栖先輩は、冬野さんの話は、余りしたくないようだった。さっさと道場の方
に案内する。結構大きい。天神家や爺さんの所に、匹敵する大きさだ。
「ここなら、聞いてませんね。」
 俺は、周りを確認する。今の所、誰も居ないようだ。
「実は・・・。忍術を習いたいと思ってまして。」
 俺は、単刀直入に相談する。こう言うのは、引き伸ばしても仕方が無い。
「・・・なる程ねぇ。そりゃウチじゃなきゃ、無理だろうし、学校で出来る相談じ
ゃあないね。ん・・・。はぁ・・・。」
 亜理栖先輩は、納得したように首を振るが、何故か、残念そうに溜め息を吐く。
何だったんだろうか?
「で?何処で、知ったんだい?」
 亜理栖先輩は、今度は鋭い目付きで俺を睨む。やはり、隠していた物を見抜かれ
たと言う感は、否めないらしい。返答次第によっては、闘いになるかも知れない。
「違ってたら謝りますけど、恵との闘いの際、使ってませんでした?」
 俺は恵との闘いの時に亜理栖先輩が腕を捻られた際に使ったはずだ。あれは源の
残り香だった。あれこそ忍術だと俺は確信している。
「アレに気が付くなんてね。妹も妹なら兄も兄だね・・・。」
 亜理栖先輩は、言い訳をしなかった。気のせいとかに出来たかも知れないのにだ。
「ま、気が付いたならしょうがないね。一応、世間的には、ウチは、忍術なんて使
って無いって事になってるからさ。失言は、無いようにね。」
 つまり、迂闊に漏らすなって事だろう。それは、習う上で当たり前の事なので、
俺は黙って頷いた。魔術もだが、大っぴらにする事は、良くない。
「まずは、実力を見せてもらおうか。天神の空手の強さは、よーく知ってるから割
愛。闘気も、私なんかより遥かに使いこなせてるから割愛。問題は・・・。」
 亜理栖先輩は、こちらを向く。口にはしていないが、魔力の事なんだろう。魔力
を知らなければ、源は作れない。となると、忍術を使う以前の問題になるのだ。
「簡単な魔法なら、使えますよ。」
 俺は、何度も何度もやり直しさせられたが、『熱』の魔法、『帯電』の魔法くら
いなら、使えるようにしてある。ゼーダ曰く、魔法の中でも『雷』に対する強さが、
特化しているので『帯電』の魔法から、始めたのだとか。
「そこまで理解しているのかい?・・・もしかして、源を出せたりしちゃう?」
 亜理栖先輩は、ジト目でこちらを見る。
「ええと・・・こうですか?」
 俺は、散々やらされたので、体が覚えていた。源は、魔力と闘気を掛け合わせる
ようにして作る。慣れてきたので、魔力は周りから、もらえるようにまでなってい
る。と言っても、まだ感じ取って、魔力に転換すると言うレベルでは無い。飽くま
で借りてるなぁ。くらいの意識で、魔力を貰ってる程度だ。
「呆れた・・・。そこまで出来て、忍術が使えないなんて・・・何の冗談?」
 亜理栖先輩は、心底不思議がっていた。通常そこまで使いこなせれば、忍術など
習わなくても、ある程度使える筈なのだとか。とは言っても、ゼーダは、忍術は基
本から知らない。だから、どうしても魔力と闘気と神気の修行から入ってしまう。
(私が転生した後に、出来た戦術だ。仕方が無かろう。)
 へいへい。でも、どうせここで習えば、アンタだって使えるようになるだろうよ。
「ま、まぁそう言わずに・・・。知識から得たのを頼りに、独自に理解してたので。」
 俺は、ゼーダとの修行の事は、隠しておいた。
「ま、文献とかにも、源の事は載ってるからね。でも、そんな無茶する人間を初め
て見たよ。魔力が、それだけ出せれば、普通の人間は、魔法に走るんだけどね。」
 亜理栖先輩は、俺がいきなり忍術に走ったのが、稀有な例だと言った。
「まぁ良いさ。素質は、充分過ぎる程あるようだからね。それだけの源が出せて、
忍術が一つ使えないんじゃ、勿体無いって事だね。」
 亜理栖先輩は、核心を突いてくる。さすがに話が早いなぁ。
「しかし後輩に、源を平気で使いこなせるのが、居たなんてね。」
 亜理栖先輩は、悔しいようでも、嬉しいようでもあった。
「じゃ、お願いします!」
「ん。素直な弟子は、遣り甲斐があるって物だよ。」
 亜理栖先輩は、腕組をしながら、嬉しそうに笑う。
「む・・・?誰か居るね。」
 亜理栖先輩の目が、急に道場の外に泳ぐ。俺も、数人の気配に気が付いた。誰か
居るみたいだな。そりゃ拙い。詳しくは聞かれて無いだろうが、今の話は、内緒に
しなければならない話だ。
「出ておいで。『水遁』(すいとん)!!」
 亜理栖先輩は、指をパチンと鳴らすと、腕から、水の塊が弾け出て、外の侵入者
に向かって放水する。濡らすのは効果大だ。動きが鈍る。これが、腕から水を発生
させる技。『水遁』か。便利だな。
「全く・・・誰なんだ・・・い!?」
 亜理栖先輩は、その人物達を見て、ビックリすると言うか赤面していた。
「どうやって、入り込んだんだい?」
 亜理栖先輩は呆れていた。頭を抱える。すると、濡れた体でゾロゾロと3人も出
てきた。その3人は・・・って、アイツら・・・。
「おいおい・・・。勘弁してくれよ・・・。」
 俺も、頭を抱える。その3人は、恵と江里香先輩と俊男だった。
「フン。私に、内緒にするからよ。」
 江里香先輩は、ご機嫌斜めだ。俺が亜理栖先輩に、個人的に会ってる事が、気に
食わないらしい。それは、恵も一緒だった。
「兄様が正直に言って下されば、こんな真似せずに、済みましたのよ?全く。」
 恵も随分と、ご立腹のようだ。素直じゃないなぁ。
「あ、あははは!瞬君。僕に、止められるわけ無いじゃない?」
 俊男は、苦笑しながら俺に謝る。ここに来るまでに、2人を宥めてたんだろう。
俊男は、これ以上は、勘弁してくれと言う顔をしていた。
「天神兄妹だけじゃなくて、アンタ達にまで、忍術の事が知られるとは・・・。」
 亜理栖先輩は、頭を抱えていた。そりゃなぁ。なるべく隠すようにしていたのに、
『水遁』で足止めしたら同じだ。
「忍術の事なら、私は、気が付いてましたよ?大丈夫ですって。」
 江里香先輩は、笑いながら答える。確かに、この人なら知ってそうだ。
「実際に、この目で見ると、また違いますわね。」
 恵は頷いている。忍術が、どう言う物か、分析でもしているのだろうか?
「はぁ・・・。もう良い。全員に、この本やるから、練習しときなよ。」
 亜理栖先輩は、床の間の隠し扉を開ける。そこに置いてあった本を数冊取ると、
俺達に渡す。そこには『忍術指南書』と書いてあった。
「亜理栖先輩?これは?」
 俊男が尋ねる。いきなり『忍術指南書』を渡されるとは思ってなかったんだろう。
「アンタ等は、今から、同志だ。皆で忍術を習う事。これは決定事項だよ。」
 亜理栖先輩は、有無言わせないつもりだ。
「じゃなきゃ、あたしが、アンタ等と闘わなきゃならないんだ。こんな理由で、闘
うなんて真っ平だからね。ギスギスしたのは、趣味じゃないんだ。」
 亜理栖先輩は、観念したようだ。全員に、この本を渡すって事は、全員忍術を覚
えろと言っているのだ。じゃなきゃ、忍術秘匿のために、闘わなきゃならないって
事だ。今の世の中、忍術を習うってのは、秘密にしなきゃならないんだな。
「ま、私は構わないわよ。忍術なんて、面白そうじゃないの。」
 さすが江里香先輩。めちゃ乗り気だ。
「まぁ覗きに来た、僕らが悪いんだし、僕も習いますよ。」
 俊男は、仕方無くと言った感じだ。俊男の場合、反対しないだろうな。
「私は・・・条件次第ね。」
 恵はストップをかける。当然だろう。恵は天神家の当主だ。その責務を全うする
ために、色々しなきゃいけない事がある。それに病気の事もあるから、亜理栖先輩
の家に通う余裕が無い。
「条件は聞くよ。ま、想像は付いてるけどね。」
 亜理栖先輩は、何となく分かっているようだ。
「忍術の修行を、我が道場でと言うのなら、大丈夫です。」
 ま、そう言う事になるよな。恵の場合、天神の家を離れる事自体が難しいのだ。
「別に構わないよ。それに、あの家の道場って、パーティーの時に案内してくれた
あそこだろ?離れにあるし、好都合だよ。」
 亜理栖先輩は、快く承諾してくれた。これは意外だ。
「なら、習いますわ。寧ろ、こちらからお願いします。」
 恵は改めて、頭を下げる。恵も、なんだかんだ言って興味はあったのだろう。だ
が、天神家当主として、そんなに簡単に受けたりは出来ないだけだ。
「へぇ。ウチでも良かったのか。」
「なぁに言ってんだい。本当は駄目だよ。でもね。あたしゃ、アンタ等と闘いたく
ないし、こうするしか無いってんなら、やるまでさ。」
 亜理栖先輩は、やっぱ良い人だ。俺のいきなりの頼みを聞いてくれたと思えば、
無断で覗いた3人の事まで気遣って、忍術を勧めてくれる。口では仕方ないと言っ
ているが、本当は、他にも手があった筈だ。
「しかし、アンタ等、良く入り込めたねぇ。うちの門番は、どうしたんだい?」
 亜理栖先輩は、そこが不思議だったらしい。確かに冬野さんは、並みの使い手じ
ゃない。物音一つ立てずに入るなんて、どんな手を使ったんだか。
「ああ・・・。あの人ですか?」
 どうやら、会ってきたらしい。門に居ない隙にって、感じでは無さそうだ。
「あの人には、挨拶しましたよ。僕達が爽天学園の生徒だって話したら、嬉々とし
て、通してくれましたよ?で、何故か、ナイスショットを頼む!とか言われて、カ
メラまで渡されたんですけど・・・。」
 俊男がカメラを見せる。そこには「けんいちろう♪」と書いてあった。あの人、
門番なのか?本当に・・・。
「は、はははははは。・・・ふーーーゆーーーーのーーーー!!!!!!」
 亜理栖先輩は、みるみる顔を赤くして、拳を作る。
「悪いけど、少し、席を外すよ。」
 亜理栖先輩はコメカミに筋が浮いていた。本気で怒ってるな。そして、亜理栖先
輩が、玄関まで着いたのだろう。途端に、バタバタ音が聞こえる。
「色々、突っ込み所が、あるけど、まずは殴らせろ!!!」
「お嬢、私の冗談を流せないようでは、修行が足りないぞー。」
 亜理栖先輩の怒号と、冬野さんの余裕そうな声が聞こえてくる。あれは、仲が良
いと言うのだろうか?結構、楽しい家なのかも知れない。しばらくすると、戻って
きた。亜理栖先輩は、憮然とした顔で座り込む。
「あんの馬鹿!!いつか、シメてやる。」
 亜理栖先輩は、物騒な事言いながら、追うのを止めた。
「楽しい人だね。冬野さんって。」
 俊男。お前、この光景を見て、その台詞が吐けるとは・・・。大物だな。
「もう良い。元はと言えば、あの馬鹿が、仕事しないのが原因なんだし、あたしが、
天神の家にお邪魔するよ。時間は、部活後で構わないね?」
 亜理栖先輩は、恵の方を向く。
「構いませんわ。ただ・・・その道場、うちの使用人の2人も使う所でして。もし
良ければ、『忍術指南書』を、後2冊程、もらえないかしら?」
 恵が言う、その2人は、恵の側に付いていなきゃ駄目な、あの2人の事だろう。
「あー。もう分かったよ。何人増えても、同じ事さね。」
 亜理栖先輩は、了承する。恵に『忍術指南書』を手渡していた。
「んじゃ、今日は、これで解散。各自、指南書を良く読んでおくこと。明日は、天
神の家でやるから、そのつもりでね。」
 亜理栖先輩は、溜め息を吐きながら、この場を纏める。それにしても、俺の理想
通りに進むとはね。天神の家でやるなんて、想像も付かなかった。ま、せいぜい叱
られないようにしなきゃ駄目だな。


 悪魔の囁きが、聞こえる。
 自分の力を信じろと言う、悪魔が居る。
 自信が無い訳じゃあない。
 でも、進んじゃいけない事だって、あるんだ。
 待つ・・・それが、許された選択肢。
 しかし待つ事で、自分が報われるのだろうか?
 否!!!
 悪魔は、それを否定する。
 お前が悪いんじゃあない・・・奴が現れてから、全てが狂った!!
 でも、彼は、凄く良い人だ。
 奴の事を信じるとは、愚か者だ。
 奴は、お前の全てを奪う存在なのだぞ!?
 悪魔は、ひたすら彼の存在を、否定する。
 そして抗えなくなってきている自分が居た。
 そんな・・・彼は、全幅の信頼を寄せてきているのに。
 それが、奴の手だと、どうして気が付かない!?
 そうやって周りを信用させておいて、お前の未来を奪うのだぞ?
 そんな筈無い・・・そんな筈無い!!
 自分が狂ったのは、悪魔が入り込んだせいだ!
 俺のせい?馬鹿を言うな。
 俺は、お前の味方だ。
 味方だと言うなら、彼の悪口を言うな!!
 お人好しで通る程、世の中は甘くない。
 それに今、お前を葛藤させてるのは、間違いなく奴じゃあないか。
 せいぜい、足元を掬われないように忠告してやってるのにな。
 彼が、そんな事する訳無いじゃないか!!
 一生、言ってろ屑が!!
 今日の所は、ここまでにしよう。
 俺の言った事を、忘れぬようにな・・・。
 ・・・くそ!!くそ!!!
 何でだ!!何で否定出来ないんだ・・・。
 何で・・・。


 だんだん暑くなってきた。季節も梅雨の時期に入ろうとしていた。ガリウロルで
は、11月頃から梅雨の時期に入る。この時期は、強烈な暖流の影響で、梅雨前線が
押し上げられて、雨が降りやすくなるのだと言う。ジメジメした季節か。
 それにしても、爽天学園に入って2ヶ月半程だが、随分と、慣れた物だと思う。
最近では、恵が目当てじゃなく、俺目当てで、声を掛けられる場合も増えてきた。
俺って、そんな目立つ方だったかな?まぁ、あんな妹が居て、部活動対抗戦で優勝。
しかも、あの空手部主将の下で、帰りは、パーズ拳法部の免許皆伝の奴と帰って、
部活の後に、榊家出身のミス・アネゴと、自分の家の道場で練習する。
 目立つ事ばかりじゃあないか!これで、目立たないと思う、自分が恥ずかしい。
話題の中心が、一気に集まってるような物じゃないか。しかも最近では、部活動対
抗戦での激闘を演じた先輩達にも、可愛がられている。目立つなと言う方が無理だ。
 ま、楽しいから良いか。それに一番とんでもない出来事ってのが、自分の中での
出来事なんだから、周りが変わっても、動じなくなった。そのせいかも知れないな。
(ほう。それは私の事か?)
 分かってるな。自分の中で、神と共生していると言う事実が、一番とんでもない
出来事だ。最近では、慣れ始めている自分が怖い。
(君が、図太くなる点については、好ましい事だ。)
 ハッキリ言って、アンタに言われたくない。
 ゼーダは、これでも1200年前じゃ神の中でも、リーダーを勤めていた凄い神で、
現在の神のリーダーであるジュダ神が、探しに来るくらいの神らしい。
(崇め奉って良いぞ。)
 誰が、そんな事するか!こう話してる分だと、とても、そうは思えない。
(君も出会った時から、失礼な口調は治らんな。)
 と、まぁこんな感じで、軽口を叩くのがせいぜいだ。学園生活をしながら、寝て
いる時は、ゼーダとの修行。これで強くならない訳が無い。しかも、部活動後に、
榊 亜理栖こと、亜理栖先輩に忍術の修行を内密でやっていると言うスケジュール
を1ヶ月も続けてるんだから、日に日に、力が沸いてくるのも無理はない。
 それにしても、梅雨と言うのは堪えるな。部活中も、部活後の練習もきつい事こ
の上ない。少し動く度に、汗とは違う物が流れる辺り、凄まじい湿度だと言う事を
物語っている。教える亜理栖先輩なんかも、参っている。恵に、道場の中にクーラ
ーを入れようと提案したら、『何のための修行場なんです?』と呆れられた。言っ
てる事は分かるんだが、こう暑いとなぁ・・・。
 そりゃそうと、皆、忍術に関しては、結構覚え始めてきていた。恵なんかは2日
目辺りから、本格的な組み手と、忍術の使うタイミングなんかの練習をしていた。
江里香先輩は、魔法を覚えるまで苦労していたが、コツが分かってきてからは、覚
えが早いのが、特徴的だった。俊男は、魔力が俺と同じで、余り使いこなせなかっ
たので、周りから吸収するやり方を中心に、やっと忍術が使えるようになったみた
いだ。まぁ、俺はと言うと、源の方は問題無いのに、忍術の概念を理解するのに、
時間が掛かったせいで、江里香先輩と似たような段階だった。亜理栖先輩曰く、皆
の上達が早くて羨ましいと言ってた。俊男ですら、亜理栖先輩の時より、数倍早い
のだと言う。しかし、驚いたのは藤堂姉妹だ。
 最初こそ、忍術に関して怪訝そうな目を向けていたと言うのに、恵にきつく言わ
れて習い始めてからの、上達振りは、目を見張るようだった。しかし今となっては、
驚く事も無い。恵もそうだったのだが、藤堂姉妹と恵は、魔力に関する事は、俺が
来る前から知っていたようで、闘気の使い方を勉強する方が、後だったのだと言う。
恵も睦月さんも、葉月さんも忍術の説明の時に、見事に魔法を使って見せたのには
驚いた。だが、俺まで魔法を使ったのは、向こうを驚かせたらしい。俺の場合は、
ゼーダのおかげではあるのだが・・・教えてもいないのに知ってると言うのが、驚
きだったらしい。
 こうして、互いに知らない一面を知る事で、俺達は、更に理解を深めた。亜理栖
先輩なんかは、ソクトアってのも、狭い物だと感心していた。
 しかし1ヶ月も経つと、慣れが生じるもので、部活後は、忍術の話ばかりであっ
た。指導に回っていた亜理栖先輩も、自分が修行しなくちゃ駄目だと気が付いたら
しく、ここ半月程は、亜理栖先輩もレベルアップしたと自覚しているらしい。
 そんな中での今日の練習は、梅雨と言う事もあって、風を起こす『風陣(ふうじ
ん)』の忍術の練習をしていた。ただし、修行と言うのも建前で、ほとんど罰ゲー
ムに近い感覚だった。と言うのも、今日は、少し面白い趣向にしようと、亜理栖先
輩が言い出して、ジャンケンで負けた人が『風陣』で、10分間、皆を涼しくさせ
ると言う、何だか良く分からない修行を考案した。それを皆、反対も無しに通すの
だから俺達も、ノリが良いんだろうなと思う。『風陣』なら、俊男でも使いこなせ
るし、10分間連続となると、結構ハードな源を消費する。
 ・・・で、今回負けたのは、俺な訳だが・・・。これもお約束?
「兄様。風が弱いですわ。」
「あれぇ?瞬君、こっちに、風が来てないわよー?」
 なんて言うか、理不尽さを隠せないのは、俺だけか!?
「ははっ。瞬君。最後にグーは良くないよ?」
 うぐっ。俊男め。最後の最後に、勝ちやがった。
「瞬様。今日は、蒸しますね。」
「瞬さん。頑張って下さいね。」
 妙な迫力を感じる睦月さんと、励ましながらも、手伝おうともしない葉月さん。
本当に良い姉妹だ・・・。
「おらっ。こっちにも風が来てないよ。修行修行。」
 亜理栖先輩まで容赦無い。ジャンケンって、非情だなぁ・・・。それに全員分っ
てなると、冗談抜きでハードだ。急いで魔力を補充させて、風を送っている。しか
も、今回は、涼しいようにと言う条件なので、強過ぎず弱過ぎずと、加減をしなき
ゃならない。それがまた、良い修行と言うか・・・ハードなのだ。
「兄様。道場に、クーラーは要りませんわねー。」
 うぐぐぐぐぐっ!恵の奴、楽しんでやがる!!
 と、ここで救いになるか分からないが、客の呼び鈴が鳴った。
「私が出ます。風を忘れないようにして下さい。瞬様。」
 睦月さんが素早く応対する。しかし、俺が楽になる事は無かったようだ。ジャン
ケンに負けないようにしよう・・・。この流れ出る汗と露が、俺に、そう問いかけ
てくる。無情な程、気持ち悪い。
「恵様。どうやら、客人のようですが・・・。」
 睦月さんは、言葉を濁す。どうやら、只の客人では無いらしい。
「客人?今日は、予定は無かった筈ですがね・・・。誰かしら?」
 恵は、葉月さんの方を見る。葉月さんは、スケジュール表をチェックしているが、
予定は無いらしい。となると、予定外の客人なのだろう。しばらくすると、使用人
の一人が、やってきて睦月さんに、耳打ちした後に何かを手渡す。
「外人のようです。何やら、こんな物を、手渡されたようです。」
 睦月さんは、恵に手紙のような物を手渡す。
「外人?全く・・・。予定表に無い人だと、結構こう言う事をするのよね。」
 恵は頭を抱える。ガリウロル人は、約束を交わしてから、待ち合うと言う義理を
欠かさない人が多いのだが、外人は、意外と気にしない人が多い。サキョウでは、
外人街があるせいか、そう言う対応をする人が、多いのだ。
「・・・!?これは・・・本当に予定外ね。」
 恵は、そう言うと、俺の方を見る。どうやら、俺に用があるらしい。俺が『風陣』
を止めると、皆、自分で『風陣』を使って仰ぎ始めた。最初からやれよってーの。
俺は、横目で皆を見つつ、恵の所に行く。すると、黙って手紙を差し出す。
「・・・ほ、本当かよ。これ?」
 俺は、思わず中身を疑う。そして恵が、俺を呼んだ理由が分かった。だって、こ
れ、ゼハーンさんの手紙じゃないか。しかも、これ紹介文だ。何でも、目的は果た
せたとの事で、あの時の約束を、頼み申すとの事だ。
 あの時の約束?・・・そうか。不意に言った、あの言葉か。しかし、こんなに早
く実現するなんてなぁ・・・。思っても見なかったぜ。しかし、本当なのかな?
「なぁに?どうしたの?2人共。」
 江里香先輩が、不思議そうな顔をしている。
「恵様と、瞬さんだけが知ってる、秘密なんですか!?」
 葉月さんが、えらい事を言う。何だか、悪い事をしたみたいじゃないか。
「ほっほっほ。中々魅力的だけど、やましい事じゃないわ。でも、対処に困る内容
ではあります。ちょっと、対応し難いですわ。これ。」
 恵は考え込む。無理はない。この手紙の内容が本当だとすると、会わないと、ど
うしようもない。
「悪いけど、皆、修行していてくれる?俺と恵は、客人に会わなきゃ拙そうなんだ。
ある人の頼みでね。」
 俺は、皆に言う。すると、皆、白い目で俺を見る。
「天神?言っとくけど、そんな勿体振った事を言われて、我慢出来る、あたし達だ
と思ってるのかい?」
 亜理栖先輩は興味津々だった。いや、亜理栖先輩だけじゃない。他の皆も、納得
出来ない顔をしていた。
「分かりましたよ。んじゃぁ、俺と恵で、とりあえずの対応をした後、客室で、皆
の所に行くってので、どう?」
 俺は、とりあえずの対処方法を言う。
「ま、本当に疚しい事じゃ無さそうね。それに大事な用っぽいし。私は良いわ。」
 江里香先輩は納得する。俺の目を見て納得してくれている辺り、ちょっと嬉しい。
「覚悟を決めないと駄目ね。はぁ〜・・・安請け合い、しちゃいましたかしら?」
 恵は首を振る。だが決して、嬉しくない訳じゃあない。ゼハーンさんが、俺達を
それ程に、信用してくれたって事だ。
「では、お二人に任せましょう。不審者であれば、即お呼び下さい。」
 睦月さんが、忠告してくれた。さすがは使用人の鑑だ。
 俺と恵は、早速着替えて、玄関の方に向かう。使用人には、道場で練習している
ので、時間が掛かると伝えてあるので、客人が帰る事も無いだろう。それに、ゼハ
ーンさんの手紙が本物なら、紹介されて来ている訳だから、帰らないだろう。
 玄関の前に着くと、使用人が、お辞儀をする。どうやら、上手く応してくれたら
しい。恵は頷いて、使用人を労っていた。そして玄関を開けた。
 そこに、4人の男女が居た。その内の一人に、俺はビックリさせられた。
「ゼハーンさん?・・・じゃないな。」
 俺が、ボソッと呟くと、向こうは、俺以上の反応を返してきた。
「うおっ!すげぇ!本物だよ!!」
「おいおい。その言い方は、失礼に当たるぞ。」
「アンタねぇ。余り、恥掻かせないでくれる?」
 ・・・何だか、騒がしい人達だった。それに、何だか俺を見て、過剰反応をして
いる。と言う事は、空手大会を見たんだろうなぁ。この人達。そんな中で、俺を見
て、真っ直ぐな視線を送る人物が居た。それが、ゼハーンさんに似た人だった。
「天神 瞬・・・。俺の親父が、前に立ち寄ったっての、本当ですか?」
 ・・・親父か・・・。そうか。この人が、ゼハーンさんの息子さんか。
「ちょっとレイク。いきなり呼び捨ては失礼でしょ?」
 女性が、息子さんの頭を叩く。
「全く・・・兄様は、有名です事。」
 恵は、予想外の反応に呆れていた。
「あ。す、すいません!俺、親父の紹介で、ここに来るように言われてまして。」
 息子さんが、頭を下げる。今更って、感じもするな。
「まずは、この天神家の当主として、ご挨拶致しますわ。天神 恵と申します。」
 恵は、完璧なまでの、令嬢の挨拶をこなす。
「あ、恵の兄の天神 瞬です。何だか、知られちゃってるみたいですけど。」
 俺は、恵に続く。何だか挨拶するって、照れるなぁ。
「俺は、レイク=ユードです。一応、ここでは班長を務めてます。」
 レイクさんか。恵も感じているようだが、この人、本物だ。溢れ出す闘気と言い、
醸し出す誠実さと言い、ゼハーンさんに、そっくりだ。しかし班長って・・・。
「班長は、余計よ。私はファリア=ルーンです。宜しくお願いします。」
 女性が挨拶する。ファリアさんか。何て言うか、江里香先輩や恵、亜理栖先輩と
は、また違った感じの美人だ。でも何だか、行動が江里香先輩に似てた気がする。
「俺は、エイディ=ローンだ。宜しく頼む。」
 軽い感じの人がエイディさんか。あれ?この人からは、源の残り香がする。この
頃、源を習い始めてる影響で、それが分かる。
「俺は、グリード。レイク班長の義理の弟だ!宜しくな!」
 何だか勢いのある人だ。それにしても、義理の弟って・・・。この人の方が、絶
対に年上だよなぁ・・・。色々あるんだな。
「では、天神家当主として、ご案内致しましょう。」
 恵は、完璧な挨拶を済ませると、玄関を開ける。その瞬間、4人から、感嘆の声
が、あがる。これだけでかい家だと、当然かもな。
「すげぇな。シャドウさんちより、大きいぜ。ジェシーさんちくらい、あるんじゃ
ないか?すっげぇなぁ。」
 レイクさんは、しきりに感心している。何だか、本当に素直に喜んでくれている
感じだ。純粋な感じが、滲み出ている。
「庭が、でかいな。榊家を思い出す。」
 エイディさんが感慨深く言う。何だか、知っているみたいだな。榊家って事は、
亜理栖先輩の所の、本家の所だよなぁ。
 しかしレイクさん達一行は、4人で居る事が似合うなぁ。何て言うか、とても自
然だ。仲間って言うのかな。レイクさんを中心に、信頼関係が築かれている感じだ。
長年の仲間なんだろうなぁ。
 恵は、レイクさん達の様子を、傍目で見ながら、天神家本館まで辿りつく。
「恵よ。迎えの準備、出来てる?」
 恵は、扉の前で使用人に話し掛けていた。すると、問題無いとの返事が返ってき
た。用意周到だな。さっきの迎えに行く所で、既に用意してたって事か。
「では皆様、天神家は、貴方達を歓迎致しますわ。」
 恵が優雅に言うと、扉が開いた。そこでは、使用人達が、きちっと並んでいて、
それぞれがお辞儀をしていた。さすが対応早いなぁ。俺が最初に来た時と一緒だ。
「これは、ご丁寧に、ありがとう御座います。」
 ファリアさんが、それに応える。この人は、このグループの中でも、お嬢様の方
なのかも知れない。何て言うか、対応が手馴れている。
「気を使わせちゃってるみたいだなぁ。構わないんですがね。」
 レイクさんは、恐縮しきりだ。慣れて無いんだろうなぁ。
「皆様との積もる話があります。それに用件を聞きますので、こちらにお越し下さ
い。睦月!案内頼むわ。」
 恵が合図すると、いつの間にか着替えた睦月さんと、葉月さんが迎えに来る。さ
っきまで、道場で『風陣』で仰いでもらってた人には、とても見えない。
「皆様、こちらになります。」
 睦月さんは、これ以上無いくらい優雅に案内する。さすがだ。
「こちらが、客室になります。お寛ぎ下さい。」
 葉月さんは、温和に笑いながら勧める。葉月さんも、人を安心させるって点では、
凄い才能を持ってるよな。この人は、天然でやってるのかも知れないけど。
 客室には全員で入った。そこには、優雅な椅子が用意されていた。そして、江里
香先輩達も座っていた。
「ご紹介します。私の、学友の方達ですわ。」
 恵が、江里香先輩達を、優雅に紹介する。
「あ・・・。ああああああーーーー!?」
 亜理栖先輩は、突然、目を丸くして、俺達の方を見る。いや、俺達と言うより、
レイクさん達の方だ。誰か、知り合いでも居るのかな?
「あらら、お前さんが居たのか?俺も少し驚いたぜ。」
 エイディさんが答える。どうやら、知り合いのようだ。
「エイディ兄さん!ええ!?・・・ええええ・・・。」
 亜理栖先輩は、突然涙ぐむ。どどど、どうしたんだ!?この対応には、さすがに
恵も驚いているようだ。
「お、おいおい。皆が見てるって・・・。まぁ、何だ。・・・心配掛けたな。」
 エイディさんは、とてつもなく暖かい目で、亜理栖先輩を見ていた。そして、亜
理栖先輩の頭を撫でてやる。あ、あの亜理栖先輩が・・・。信じられない。
「だって・・・だって!!エイディ兄さんは、あの島に・・・連れてかれたって聞
いて・・・。あたし、もう会えないと思ったんだよ!!」
「運が悪くてな・・・。それにしても、大きくなったじゃねぇか。」
 エイディさんは、人懐こい笑顔を見せる。いやぁ、何て言うか、感動の再会?
「おい・・・。エイディ。頼むから、分かるように説明して貰いたいんだが?」
 どうやら、置いてかれてるのは、レイクさん達も同じみたいだ。
「それには、多大な時間が掛かると思うからなぁ・・・。ま、自己紹介ついでに、
色々話した方が、良いんじゃねぇか?」
 エイディさんは、皆に向けて話す。そりゃそうだ。こっちとしても、訳分からな
い事だらけだ。
 ・・・それから、それぞれの事情説明と、自己紹介を行った。混迷極まる中での、
自己紹介だったが、何とか無事に終わったのも、恵が、多少イライラしながらも、
仕切ったおかげだろう。恵は、本当に何でも出来るんだな。
 それにしても、レイクさんの事情は、凄まじい物だった。レイクさん達は『絶望
の島』に居たんだと言う。レイクさんの祖父であるリークと、父であるゼハーンさ
んを中心に起こった『英雄の反乱』。俺と恵は、その話を知っていたが、改めて聞
いても、恐ろしい話だった。その罪でレイクさんは、3歳の時から、あの流刑の島
に居たんだと言う。15年もだ・・・。俺が生まれた頃に、既にあの島に居たのか。
 その島でエイディさん、グリードさんに会って、つい最近になってファリアさん
が収容されてきたのだと言う。それともう1人、ジェイルって人も収容されていた
らしい。その監獄での、班長がレイクさんだったのだとか。さっき班長と呼ばれて
たのが、これで分かった。
 そして、グリードさん。この人は、ルクトリアで起こった大規模なデモの主要人
物として、捕らえられたんだと言う。本当は、別の人だったらしいけど、罪を被せ
られたんだとか。それ以来、人を信じられなくなったのだが、自分の危機に、体を
張って助けてくれたレイクさんを、尊敬しており、どうしても頼むと言いつつ、レ
イクさんと、義兄弟の契りを結んだらしい。レイクさんは、本当に仲間想いで、話
を聞く度に無茶な事をしている。それを聞いて、何だか、俺の事を言われてるよう
な気もしてきた。
 そしてエイディさん。エイディさんは、ガリウロルでは、凄く有名な話なのだが、
榊家と親交の深いローン家の人だったらしい。伝記では、榊 繊香(せんか)って
人と、英雄の1人、エルディス=ローンが結婚しているくらいなのだから、かなり
の仲の良さだったらしい。その末裔らしいのだが、ローン家では、幼い頃から、榊
家に出向いて、忍術の修行をするらしくて、そこで、亜理栖先輩と知り合ったらし
い。エイディさんは、亜理栖先輩の7つ上なので、良いお兄さんだった。亜理栖先
輩からしてみたら、仲の良い兄のような存在だったのだろう。しかし、エイディさ
んは、義理の父親である人の策謀で嵌められて、最高級の宝石だった『闇の輝き』
を奪った窃盗犯として、捕まったのだと言う。しかしそれは、エイディさんを『絶
望の島』に入れるための策謀だったのだ。ローン家の人間と知って、陰謀に巻き込
まれたのだ。酷い話だ。それを冷静に話せるエイディさんは、大人なんだなって思
う。そして、これは、レイクさん達にも知らせてなかった事らしいのだが、盗みの
計画が決まった時に、10歳の時まで世話になった榊家に、挨拶に行ったのだと言
う。国宝級の宝石の盗みだ。エイディさんも、義理の親のためとは言え、迷ったか
らだろう。その時に、亜理栖先輩には内緒の約束で、その計画の事を話したのだと
言う。亜理栖先輩が、エイディさんの様子が、おかしかったのを見抜いたせいだと
言う。エイディさんは、心配する亜理栖先輩に笑顔で必ず戻ってくると約束したの
だ。しかし・・・風の噂で、エイディさんが捕まった事を知る。その時の亜理栖先
輩は、どうしようもないくらい落ち込んだと言う話だ。そして『絶望の島』に収容
されるが、やはり、レイクさんの人柄に打ち解けていって、行動を共にする事にな
ったのだとか。
 ファリアさんの話も凄かったな。ファリアさんは、セントメトロポリス・・・通
称セントの、良い所の出だった。そこで隠れながらも、魔法を続けてきたルーン家
の出身だった。隠れながらだったが、その生活は、安泰してたし、充実した物だっ
たと言う。そしてある日、恋人が出来たのだが、その恋人は、魅惑の魔法を使って
ファリアさんを惚れさせていたのだ。そして、そろそろ頃合だと思ったのか、ファ
リアさんは、ある日、いきなり別れを告げられる。しかし、納得出来ないファリア
さんは、激しく詰め寄ったらしい。そこで、悲劇の日が訪れた。翌日、ファリアさ
んの両親は、突然自殺した。そして、ファリアさんは、セント反逆罪で即『絶望の
島』行きが決まった。その時の警視が、恋人であるゼリンだったのだと言う。後で
その事を知ったファリアさんは、陰謀に巻き込まれたのだと知る。ゼリンって人は、
伝記時代に活躍した人物を、軒並み消そうとしている人物なのだと言う。そして、
それはゼハーンさんの話に出てきた、ゼリンと組み合わせれば、納得の行く話だっ
た。こうして『絶望の島』行きが決まったファリアさんだが、レイクさんの組に、
入れられたのは幸運だった。いや、これも仕組まれた事だろうと、レイクさんは言
う。『絶望の島』に入れられた女性の末路は、普通、悲惨な物だったが、レイクさ
んは、寧ろ厚遇してくれた。その行動に惹かれて、レイクさんと、行動を共にする
事になったのだという。
 こうしてグループになったレイクさん達は、ファリアさんが引き起こしたピンチ
で、ファリアさんが島主に、酷い事をされると気が付いてか、混乱に乗じて、脱走
する事を試みる。何年か前から、用意していたらしく、ファリアさんを助け出すと
同時にタルで作った船で、海道と呼ばれる、海へ通じる出口で脱出する計画だった。
だが、海道への出口は、出る時に、刃物が突き刺さる構造になっている。それを解
除するためのレバーを用意したと言う話だ。そして、計画は上手く行くように思わ
れた。解除のためのレバーを鎖で固定して、後は海道に飛び出すだけだったと言う。
しかし、途中でレバーが壊されて、不可能かと思われた。それを・・・この場に居
ないジェイルって人が、文字通り命を懸けて、銃で撃たれながらもレバーを引き続
けて、レイクさん達4人は、脱走出来たのだと言う・・・。ジェイルって人の話を
する時の4人は、本当に苦しそうだった。未だに一緒に出られなかった事を、夢見
る事があるのだとか。
 そこで普通は、ガリウロルを目指すのだが、セントに目を付けられているレイク
さん達は、安易にガリウロルに行く訳にもいかないし、脱走した9月は、台風が巻
き起こる時期でもある。そこに、タルの船なんかで突っ込んだら、自殺行為だった
ので、前にゼハーンさんが話していた『魔炎島』の話を、エイディさんが覚えてい
たらしく、そこに向かって、船を走らせたのだとか。地図にも無い島だったが、確
かに存在したらしい。そして、そこでは魔族が暮らしていたのだ。それは、途中で
恵も、間違いないと言う事を、皆に話していた。途中で睦月さんが、話をして良い
のか目配せしてたが、ここに居るメンバーは、ほぼ知っているし、約束は、守る人
物だと知っているので、構わないと言っていた。
 そこでの生活は『絶望の島』とは打って変わって、厚遇だったと言う。エイディ
さんが、ローン家の人間だったと言うのも、大きな判断材料だったと言う。魔族と
言えば、伝記では、レイリーが命を投げ出して、魔族のために闘った話があるくら
いだ。その恩返しをするためにも、厚遇するのは当たり前だったのだとか。そこで
お世話になったシャドゥと言う魔族は、とても穏やかで、尊敬に値する魔族だった
と言う。そして、そこの給仕として働いていた、魔族ナイアも、魔族とは思えない
程の丁寧さで、迎えてくれたのだとか。その話を聞いた睦月さんの顔は、恐ろしい
表情だった。そして、物凄い顔で笑っていた。そう言えば、全ソクトアご奉仕メイ
ド大会ってのの優勝者が、ナイア。正に、この魔族なんだろうと、俺でも気が付い
た。葉月さんは、その事を知って、かなり憂鬱な溜め息を吐いていた。睦月さんの
悪い病気が出たそうだ・・・。
 そして、その生活の中で途中で会ったのが、ゼハーンさんだ。最初は、父親だと
気が付かなかったらしい。そして、そこで父からの直伝で、不動真剣術を習ったの
だと言う。レイクさんは、息子と言うだけあって、自分でも不思議なくらい、不動
真剣術を吸収出来たのだと言う。そして、ついこの前、ゼハーンさんを、真剣勝負
で負かす事に成功して、自分の父だと、告白されたらしい。そしてゼハーンさんか
ら、ガリウロルのサキョウに行くように言われて、そのついでに、この手紙を貰っ
たのだと言う。ガリウロルで、是非、頼って欲しいと言われたらしい。
 ・・・これで話は繋がった。と言うか、本当に在った事かどうかさえも、疑わし
いと思ったが、これ以上無い程の証拠が、次々と紹介されて、信じざるを得なかっ
た。何よりレイクさんからは、凄い闘気を感じたし、グリードさんは、自己紹介の
時に物凄い射撃を見せてもらった。そしてエイディさんからは、源が溢れてくるの
を感じるし、ファリアさんからは、とてつもない程の魔力を感じた。この人達、只
者じゃあ無い。
 そして、こっちの事も話した。俺の爺さんの事、そして天神流空手の事。恵と睦
月さん、葉月さんの関係。そして、パーズ拳法免許皆伝の俊男。俊男の事は、テレ
ビで見て、知っていたと言う。その時の俊男の照れようは、見てて面白かった。そ
して、江里香先輩の事、解説の一条の娘だと話すと、納得していた。そして、部活
動対抗戦の事と、亜理栖先輩の事も、話した。
 4人は、とにかく真剣に聞いていた。4人の事も興味深かったが、俺達の話も、
相当に面白かったらしく、あんなに、真剣に聞かれると恥ずかしいくらいだった。
「・・・終わりましたわね。」
 恵は、やっと終わったという顔をしていた。皆が、混乱しないように纏め役を努
めていた姿には、感心だった。皆は拍手をしていた。
「何て言うか、俺達も君達も・・・濃い人生だったんだなぁ・・・。」
 レイクさんは、笑いながら言っていた。しかし、この人は大物だよなぁ。『絶望
の島』で人生の大半を過ごしていたってのに、それを濃い人生の一言で言うんだ物。
「何て言うか、ここまで話しちゃうと・・・スッキリしますよね。」
 俺も、笑いながら話す。本当にスッキリした。
「亜理栖先輩の、貴重なお姿も、拝見出来たしねー。」
 江里香先輩は、亜理栖先輩をからかっていた。亜理栖先輩は、凄い目で睨んでい
た。恥ずかしいんだろうなぁ。
「いやはや、俺も、亜理栖と会えるとは、思わなかったよ。」
 エイディさんは、爽やかな笑顔を送る。何て言うか、落ち着いてるなぁ。
「うーーん。やっぱ兄貴と居ると、退屈しないな!!ゼハーンさんの人脈ってのも、
見直したぜ。」
 感心しきりのグリードさん。この人は、本当に年上なんだろうか?
「何か圧倒され過ぎて、混乱しちゃうよ。僕。」
 俊男は、苦笑していた。安心しろ。俺もだ・・・俊男。
「あたしも、こんな疲れる話を聞いたの、7年振りだよ。ねぇ兄さん?」
 亜理栖先輩は、ジト目でエイディさんを見る。エイディさんは、誤魔化すように
笑っていた。逃げたな・・・。
「そう言えば・・・用件を、聞いてませんでしたわ。」
 恵は、レイクさん達を見る。濃い話だったので、忘れがちだが、レイクさん達は、
頼みがあって、ここに来たのだろう。
「親父が言ってたんですけどね。・・・ここで、しばらく世話になれって・・・。」
 レイクさんは、言い難そうだった。
「ええ。構いませんわ。そんな用件なら、いつでも承ります。」
 恵は、迷う事無く了承した。と言うより、あれは、こう言う頼みだと見抜いてい
たのだろう。既に睦月さんや葉月さんも、了承済みだったらしく、何の反論も、無
かった。どうやら、意識合わせをしてたみたいだな。
「ただし、条件があります。」
「聞こう。出来る事なら、何でもやるつもりだ。」
 レイクさんは、覚悟が出来てる目だった。まぁ世話になると言った時点で、覚悟
してたんだろうなぁ。それを見て、恵は口元で笑う。あれは、凄く面白い事を思い
ついた時の顔だ。とても嬉しそうだ・・・。
「レイクさんは、教育を受けてなかったのでしょう?なら、今からでも、留学と言
う形で、爽天学園に入って下さる?」
 ・・・な、何ぃぃぃ!?俺ですら、予想を超えていた。それは、皆も同じだった
らしく、ポカーンとしていた。
「なぁに?それは、この場に私が居ての発言?」
 江里香先輩は、恵に細目を向ける。江里香先輩は爽天学園の校長の孫だもんなぁ。
「勿論ですわ。校長には、話して下さるわね?江里香先輩。」
 恵は、動じた様子も無い。さすがだ。恵の考える事は、2歩も3歩も上だ。
「それって・・・学校って所に、通うって事か?」
 レイクさんは、何だか余り分かって無い様子だった。・・・恵が言い出したのも
分かる気がした。この人、学校に行って無いんだよな・・・。それも分からずに、
監獄島で、ずっと過ごしてきた。その時間を、取り戻してあげようと、恵は考えて
いるのか。恵は、本当に良く気が付いて、思いやりのある妹だ・・・。
「本当に・・・それで良いのか?」
 レイクさんは、世話になるのに学校まで行かせて貰って良いのか?と、考えてる
ようだ。あれは、半分感動している顔だった。
「お引き受けしないのなら、ここでの居住権は、ありませんわ。」
「・・・有難い。貴方の情に、最大限の感謝をしよう。」
 レイクさんは、自然と、涙が込み上げてきた。
「レイクが、学生かー・・・。うん。良い!!私も賛成!」
 ファリアさんも、喜んでいた。
「全く。天神家の当主様には、敵わないわねー。良いわ。お爺様には話してみる。
で、そこのファリアさんもでしょ?」
 ・・・江里香先輩?何を言ってるんの?
「話が早くて、助かるわ。さすが江里香先輩。」
 恵も当然のように言う。今度はファリアさんが、顔を真っ赤にする番だった。
「えええ!?あたし、またハイスクールに!?いや、だって・・・ねぇ?」
 ファリアさんは、うろたえていた。無理も無い。
「ファリア。こうなったら、受けようぜ。」
 レイクさんは、ファリアさんの肩に手を置く。すると、ファリアさんは、顔を真
っ赤にしながら、皆を見つめていた。
「レイクが・・・言うなら・・・どうしよう・・・。幸せ過ぎて、怖い・・・。」
 ファリアさんの目にも涙が溜まってくる。それをレイクさんは、暖かい眼差しで、
頭を撫でてやる。俺にも、ファリアさんを入れる理由が分かった。この人達、離れ
てちゃ駄目だ。互いに居ないと、不安定になる。
「決まりね。手続きは頼むわよ?睦月。ここの4人は、家族扱い。良いわね?」
 恵は『家族』と言った。恵は、もうこの4人を、他人だと思って居ないようだ。
「おい。亜理栖。ここの当主様って・・・何て言うか、若いのに、すげぇな。」
 エイディさんが、恵の行動力に、ビックリしていた。
「あたしも、この後輩には逆らえないよ・・・。兄さんも、気を付けな。」
 亜理栖先輩は、余りの事に、笑うしか無かったみたいだ。
「恵さんらしいよねぇ。いやぁ、ビックリしちゃったよ。僕。」
「安心しろ。俊男。俺もだ。」
 俊男の呟きに俺が同調する。恵は本当に良い妹だ。あれで14歳だってのが、信
じられない。俺も、しっかりしなきゃ駄目だな。
「俺達は、学生と言うには無理があるな。おい。グリード。明日から職探しするぞ。」
「俺は兄貴に・・・って訳にも、いかないよな。よし!兄貴は、安心して学園生活
して下さい!!俺は、この家のために頑張りますよ!」
 エイディさんと、グリードさんの方針も決まったようだ。さすがの恵も、グリー
ドさんまで、学生に仕立てるつもりは無い様だ。
「レイク様、ファリア様、グリード様、エイディ様。恵様のご意向を、私達、使用
人もご賛同致します。この家では、ご自分の家だと思って、使って下さい。」
 睦月さんは頭を下げる。まぁ実質、この家を仕切っているのは睦月さんだからな。
「ねぇ。睦月さんだっけ?貴方も、他人行儀は止めない?」
 ファリアさんは、睦月さんに言ってくる。
「そう言われましても・・・。私は、使用人として、この家を任されてます。貴方
達と同様と、言う訳には、いきません。」
 睦月さんは、しっかりと線を引いていた。譲れない線なんだろうな。
「んー・・・。分かった!無理は言わない!でも、私は、睦月さんも葉月さんも、
この家の一員として見るわ。せっかく話し合った仲だもん。」
 ファリアさんは、親しげな笑みを浮かべる。
「参りましたね。でも、お気持ちは受け取ります。」
 睦月さんは、満更でも無かった様だ。凄いなファリアさん。睦月さんが、こんな
顔するなんて、初めて見た。
「姉さん。・・・良かったね。」
 葉月さんは、睦月さんが喜んでるのを感じ取っていた。
「ファリアさんの言う通りよ。私も兄様も、貴方達を他人だと思った事は、無くて
よ?胸を張りなさい。」
 恵は、ファリアさんに同調する。俺も、しっかり頷いた。
「うわぁ・・・。何だか、明日からが、楽しみで仕方無いや!」
 俊男はレイクさん達を見る。む・・・。そうか。明日から、一緒なのか?となる
と、俺達って・・・物凄く目立つんじゃ無いだろうか?いや、目立たない筈が無い。
何せ外人の留学生、しかもレイクさんもファリアさんも、凄く整った顔立ちをして
いる。ま、今更だな。俺達、いつも目立ってたし。
「瞬。俊男。それに、恵さんに江里香さん、それと亜理栖さん。明日から、宜しく
お願いする。ハッキリ言って、右も左も分からないんでな。」
 レイクさんは握手を求める。俺は喜んで握手をした。そして皆に目配せすると、
皆が、上に手を置いてきた。ファリアさん、江里香先輩、亜理栖先輩、そして、恵
に俊男。それぞれ見つめると、合図と共に腕を離す。これで、明日から、安心して
登校出来る・・・かな?通過儀式は、したって感じだ。
「ハイスクールかぁ。いやぁ、私も、捨てたモンじゃないなぁ。」
「自己紹介の時に、引かれるなよ?」
 ファリアさんの呟きに、レイクさんが軽口を叩くと、凄い肘打ちの音が聞こえた。
「レイク〜?乙女に、余り失礼な口を聞くと、熱いわよぉ?」
 ファリアさんは、魔力の帯びた手で、レイクさんを威嚇していた。・・・この人
やっぱり、江里香先輩や恵にそっくりだ。・・・そんな事を思っていると、江里香
先輩と恵が、笑みを浮かべながら、こっちを見ていた。何だろう?考えを見透かさ
れたような、あの笑みは・・・。変な汗が、出てくるぜ・・・。
「では、皆様。交流会も兼ねて夕食と致しましょう。これより、腕を奮って、料理
を作ります。楽しみにしてください。特に・・・今日の4名は、歓迎しますわ。」
 睦月さんは、燃えるような目で、レイクさん達を見ていた。ああ。そうか。この
人達、例のナイアって魔族の料理を食べてたんだもんな。睦月さんたら、対抗意識
を燃やしてるんだな。4人共、苦笑していた。
 こうして、仲間が4人も増えた。それもゼハーンさんのおかげだ。俺は、これか
ら先に、色んな事があるかも知れないと思ったが、この仲間達となら・・・切り抜
けられる。・・・そう信じていた。



ソクトア黒の章2巻の5前半へ

NOVEL Home Page TOPへ