NOVEL Darkness 4-3(First)

ソクトア黒の章4巻の3(前半)


 3、異変
 ゼハーンさんの依頼を受けてから、周辺が、慌しくなってきた気がする。でも、
それは、別に悪い慌しさじゃない。私達には、良い刺激になっている。
 やはり、一緒に暮らす人が増えたと言うのが、大きい。とは言っても、私達は、
5階に住んでいるし、他の住人は、3階を使わせている。4階と6階と7階は、ほ
とんど空きスペースだ。士が、7階の一室を使ってるのは、知ってるけどね。4階
は、余り行かない方が良いと士から言われている。強力なトラップを仕掛けている
と言う話だ。士は、そう言う所は、容赦が無いからなぁ。
 ちなみに、地下スペースは修練場だが、1階が店、2階は、ほぼ倉庫になってい
る。1階に駐車スペースがあり、2階は、資料置き場と食材置き場になっている。
そこは、大事なスペースなので、無断に、誰かが立ち入る事が無いように、相当強
い防犯対策を施してある。おかげ様で、泥棒とかが、入った形跡は無い。と言うよ
り、入れば、すぐ分かるように、対策してある。
 ゼハーンさん達が、住むようになってから1ヶ月が経っただろうか。私と士が中
心になって、店の切り盛りをして、ジャンさんとアスカが、その手伝い。ショアン
さんとゼハーンさんが、仕入れを中心に、バックアップと言う形でやっている。正
直な話、戦力が、とても増えたので、今までと違って、注文が、滞る事が無くなっ
た。本当に助かっている。とは言っても、料理関連で、ジャンさんやアスカに任せ
るまでには、至らない。それは、覚えてもらうとして、盛り付けなどは任せてある。
 アスカには、ウェイトレスも、してもらってる。ただ一般には、知られてないと
は言え、『オプティカル』のボスをやってたので、アスカには、髪型を変える様に
言ってあった。『オプティカル』の連中は、手出しして来ないだろうが、万が一っ
て事もある。昔は長めのストレートだったが、髪を短くしたので、ソバージュを掛
けて、更に短めのツインテールのような髪型にしてもらった。化粧なども、香水を
変える様に言ってあるので、傍目からは、アスカだと気付かない。ジャンさんや、
ショアンさんも、ココに来てからは、髪形などを変えているが、アスカには、特に
念入りにやってもらった。
 おかげ様で、追っ手などは、来てない様だ。士の血のニオイが、強くないのを感
じるに、『ダークネス』などの追っ手も、余り来ていないようだ。
 ちなみに、修練の方も、欠かさずやっている。アスカの実力は、私達に、僅かに
届かずと言った所だった。基礎修練をやりつつ、私達と、手合わせをする形を取っ
ている。士やゼハーンさんを相手にするには、まだまだだ。何せ私達ですら、10
回に、1回か2回、一本が取れるかって程だ。アスカじゃ、まだ取れないだろう。
最初は不満を言っていたが、士とゼハーンさんの稽古を見て、素直に納得していた。
人間離れしてるからね。二人共。
 そんなある日・・・。士が、居ないのを感じた。
 ・・・最近無かったのに・・・。間違いなく『ダークネス』の追っ手だ。どうや
ら、既に出た後らしく、迅速に、処理をしに行っているのだろう。この時は、不安
で、仕方なくなる。士は、敵には容赦が無い。余りやり過ぎると、見境が無くなる
かも知れないと、思うからだ。でも、士は、強靭な精神力で、次の日は、何も無か
ったかのように振舞う。凄いけど、精神が、削られているのでは無いだろうか?
 ・・・今日は・・・。もう我慢出来なかった。
 私は、もう分かっているので、7階の一室に向かう。士が内緒だと思って、使っ
てる部屋。しかし、私も馬鹿では無い。何かに使われた形跡を見つけたら、想像は
付く。だから、この部屋で、待つ事にした。私は、気配を殺した・・・。
 ・・・それから少し経って、士は戻ってきた。そして、真っ先に、ココに向かう。
やはり、追っ手だった。悪い予感は当たるものだ。
「・・・クッ。」
 士が、扉を開けると、血のニオイがしているのを感じた。強い・・・。多分、今
日は、5人程、殺したのかも知れない。士は、気配を殺しているとは言え、私に気
付かない。・・・それは、いつもの士では、ありえない。つまり疲弊しているのだ。
「・・・フゥ・・・。」
 士は、自分を落ち着けているのだろうか。こんな士を、見た事が無かった。
「・・・!!・・・う・・・。」
 士は、私に気が付いたのか、こちらを凝視してきたが、一瞬で、警戒を解く。
「・・・知っていたのか?」
 士は、観念していたようだ。全てを悟ったらしい。私も、気配を殺すのを止めた。
「何年、一緒に居ると、思ってるのヨ。」
 私は、士の眼を見る。まだ、少し血走っている。
「いつか言おう・・・いつか言おうと思っても、中々・・・な。本当に済まん。」
 士は、下手な言い訳をしなかった。そう言う所は、士らしい。
「必要な事だもんネ。正直、複雑だけド・・・。私は、受け入れるヨ。」
 私だって、こんな殺人させたくないけど、必要な事だと、分かっている。
「でも・・・もう隠さないでヨ・・・。それが、一番辛いかラ・・・。」
 私は、目に、涙を溜めていたのかも知れない。信頼されてなかったと思うのが、
一番嫌だ。隠し事を、されたくないのだ。
「・・・泣かせちまったな・・・。済まん・・・。血のニオイを、嗅がれたくなか
ったんだ。」
 士は、そう言うと、地面に座り込む。疲れているのだろう。
「士・・・。私は、どんな士も受け入れるし、大好キ。」
 私は、血のニオイが取れていない士に、抱きつく。これだって士だ。その事実か
ら、逃げようとは思わない。そして、今まで、士が殺した追っ手から、恨まれるな
ら、私も恨まれる筋合いがあると思っている。
「・・・お前には・・・敵わんな。・・・こんな俺だが、宜しくな。」
 士は、微笑んでいた。血のニオイをさせつつも、微笑む姿は、幻想的でもあった。
「私は、負けなイ。どんな事があってモ・・・。それは、士が助けてくれたからっ
て理由だけじゃなイ。士が居ないなんて、考えられないかラ。」
 私は、士から助けられた過去があるから、士を好きになったと、思われたくなか
った。色々な事があって、助けられたのは、もう、切っ掛けに過ぎないんだって事
を、伝えたかった。助けられたのを理由にしたくなかった。士だから、好きなんだ。
「フッ。本当に敵わんな。お前に惚れて、正解だったよ・・・。」
 士は、私への愛を、誤魔化したりしない。それは、私が本気で告白した時から、
変わらない。そんな士だから、好きなんだ。
「本当は隠してようかと思ったが・・・。もう一つ、教えなきゃならん事がある。
・・・センリンにしか、話せない事だ。」
 士は、真剣だった。真っ直ぐな眼を見ると、吸い込まれそうになる。
「俺を、化け物と思うかも知れないし、コレを見た後、考えを変えても良い。」
 士は、何をしようと言うのか?
「そんな事、あり得なイ!」
 私は、その自信だけはあった。士を愛する事に、偽りは無い。
「分かった。なら、俺の悩みの正体を、センリンにだけは、見せる。良いな?」
 士は、何故か、私にでは無い誰かに、喋ってるようでもあった。
「センリン。伝記は、覚えているな?」
 士は、伝記の事を話してくる。英雄ジークの話なら有名だ。
「有名な話ヨ。・・・何か関係あるノ?」
 士が何の関係も無しに、こんな話をする訳が無い。
「なら、神魔王グロバスは、知っているな?」
 士が質問する。グロバスは、特に有名だ。『覇道』の提唱者にして、魔界の主。
神にも匹敵する力と能力で、一時は、世を席巻した神魔の王だ。
「有名な魔族ネ。」
 これ以上無い程有名だ。
「この俺の中に・・・グロバスの魂が住み着いていると言ったら、驚くか?」
 士は、何を言っているのだろうか?士の中に?
「信じられないって顔だな。当然だ。・・・でも、本当なんだ。」
 士は、苦笑する。俄かには信じ難い。
「・・・センリン。証拠を見せる・・・。何が起きても、騒がないようにな。」
 士は、意を決したのか、目を瞑って見せた。何だろう?胸騒ぎがする。
「・・・フォォォォ・・・。」
 士は、少し苦しそうにしながら、集中しているようだ。
 ・・・嘘!?士から角が生えた?しかも、肌が褐色になっていく。しかも目が幻
想的な紅色に、染まっていく。
「エ・・・?エエ?」
 私は呆気にとられていた。これが・・・士?
「・・・フゥ・・・。お初にお目に掛かる。ファン=センリン。だな?」
 士の雰囲気が変わった。いや、これは、士なんだろうか?
「は、初めまして・・・?なノ?」
 さすがに混乱してしまう。姿は、士の名残があるが、全く別人だった。
「さっき、士が説明があった通り、士の中に、半年前から宿らせて貰っている。」
 ・・・半年前・・・?あ・・・。士が気絶した事があった。士が、完全に気を失
うなんて珍しかったから、覚えている。確かに半年前だ。
「どうやら、合点行ったようだな。我はグロバス。先の神魔王だ。」
 そんな・・・。本当に・・・本当に、こんな事が・・・。
「現実離れしていると思っているようだな。無理もない。この時代では、既に神や
魔族の存在自体が、稀有なのだからな。」
 グロバスは、寂しげな目をする。確かにそうだ。
「士の中に・・・居るノ?」
 私は、色々想像してしまう。士の中に居たと言う事は、私との生活の事も、覚え
ている筈だ。中々恥ずかしくなってしまう。
「む?どうしたのだ?顔が赤いぞ?・・・フム・・・。ああ。安心したまえ。我と
て、無粋な真似はしない。君達の私生活の時は、席を外している。」
 グロバスは、鼻で笑う。少し安心した。
「・・・じゃぁ、質問するけど・・・どうして士の中に居るノ?」
 私は、まず目的を知る事にした。
「一つは、相性の問題だ。士は、幼少の頃から、霊王剣術を習ったせいか、瘴気を
制御する能力が一際高い。そして、我が宿っても、耐えられる程の器の持ち主だっ
た。そんな条件の者は、中々居ない。」
 なる程。神魔王グロバスが宿っても、なお耐えられる程の器を、持っていたと言
う事とか・・・。さすが士だ。
「二つ目は難しい問題だ。士には悪いが、我は、魂だけの存在なのだ。ソクトアに
何か体現するには、誰かの体を、借りる他無い。我は神魔王だが、強引に、体を乗
っ取ると言うような、無粋な真似は、せぬ。」
 グロバスは、魂だけの存在だと言った。そう言えば、伝記でも運命神ミシェーダ
に、未来へ飛ばされたと言う記述があった。
「士の許可無しに、入り込んで、その言い草は無いヨ。」
 私は反論する。士の体は士の物だ。それを借りるのは、悪い事なのでは無いか?
「ぐうの音も出ぬ。士にも同じ事を言われている・・・。でも・・・我は、我慢出
来ぬのだ。・・・今のセントの現状が、許せぬ・・・。我が『覇道』が、敗れたの
は良い。我の力不足故だ。だが、勝利者となった『人道』が、いつの間にか、共存
の精神を奪われ、支配の道へ向かっていると言う現状が・・・。許せぬのだ!」
 グロバスは、泣きそうになる。グロバスと言えば、『覇道』を唱える事で、魔族
と人間で、強さを競い合い、卓越して行く世を作ろうとした魔族だ。
「悔しいのだ!このような現状を作り出している者達に、敗れたと言う現実が!」
 グロバスは、敗れたならば、誇り高い敗者になりたいと思っているんだろうか。
「でも・・・それを士に・・・押し付けるノ?」
 私は、士が士で無くなるのが、嫌だった。
「・・・痛い所を突く。これは、我がエゴに過ぎぬな。そのために、士の人生を捻
じ曲げるのは、我が美学に反する。・・・だから、士には、宿らせて貰っているが、
士が望む時にしか、代わろうとは思わぬ。」
 グロバスは、案外話せる魔族のようだ。
「士は、苦しんでるんじゃないノ?」
 士は、グロバスが居る事で、化け物になるかも知れないと言っていた。
「今の、我の姿を見せるのが嫌だったのであろう。・・・士も君も、勘違いをして
いるようだから言っておく。・・・我は、君達が望まぬ限り、出ようとは思わぬ。
君達の生活を壊してまで、復活しても、意味が無いのだ。」
 意味が無い?どう言う事なのだろう。
「士がさっきから、文句を言っているが、事実だ。士が望まぬのに、我が前面に出
たら、士の反発が、もろに表れる。そうすれば、本来の力など、出せる筈が無い。
逆に、もし、士が望む時に出したら、どうか?そうすれば、我は、前以上の力が出
せる。つまり、士が望まぬ事は、しても意味が無いのだ。」
 ・・・なる程。士が嫌がれば、それだけ反発が、体を襲うから、乗っ取ったとし
ても、力が出せずに終わるのか。
「・・・つぅ。・・・さっきから、士が戻りたいと言っている。そろそろ我は戻る。
我は、士の力の向上を、促しているだけの存在だと心得よ。」
 グロバスは、それだけ言うと、目を瞑る。すると、どんどん、角が縮んでいく。
そして、褐色から、普段の肌の色に戻る。
「・・・フゥ・・・。」
 この雰囲気は、士だ。戻ってきたのかな?
「士?士よネ?」
 私は確かめるように、顔を覗き込む。すると、優しい目をした士が居た。私は、
堪らず抱きついた。
「・・・戻って来れたか・・・。正直、不安だったぜ。」
 士は、私の頭を、撫でてくれた。
「俺の中に、あんな化けもんが居ると思うと、気が気じゃ無かった・・・。」
 士は、自分の胸を指差す。
「でも、思ったより、話せる魔族だったヨ?」
 私の感想を述べる。強引に物事を進めたりしない、魔族だった。
「じゃ無かったら追い出してるさ。・・・ま、でもセンリンには、この事は、知っ
て貰いたかったんだ。・・・隠し事は、もう、したくないからな。」
 士は、それだけのために、グロバスと代わったのかも知れない。
「んもう・・・強引だヨ。」
 私は、士が愛おしくて、堪らなかった。士は、危険かも知れないと思いながらも、
グロバスの姿を見せたのだ。信頼してくれてる証拠だった。
「ハハッ。さっきから、グロバスが、文句言ってら。ざまぁねぇ。」
 士は、子供のように笑う。
「我を化け物と呼ぶのだけは、止めろだとさ。さすが誇り高い魔族様だ。」
 士は、いつも、こんなやり取りをしてたのかも知れない。
「むぅー・・・。私より、士を知ってるような雰囲気は、歓迎しないヨ。」
 グロバスとは、魂で繋がっているのだから、しょうがないかも知れないが、恋人
としては、納得し辛かった。
「安心しろ。俺が大事に思って、愛を向けるのは、お前だけだ。」
 士は、そう言うと、私の唇を奪って、キスをしてくる。暖かい・・・。
「ハウ・・・。納得したヨー。」
 私は、扱い易いのかなー。すぐに、デレッとしてしまう。
「これで・・・。隠し事は、無しだ。・・・これからも頼むぜ?」
 士は、本気の信頼の目を、向けてくる。私はコレに応えなきゃいけない。
 士が魔族っぽくなったのは驚いたけど、信頼関係は高まった。こんな嬉しい事は
ない。大事に、しようと思った。


 俺の中には、かつて、ソクトアを揺るがせた魔族が居る。
 何だか、痛い人みたいだが、本当なんだから、仕方が無い。
 最初は、二重人格のような物かと思ったが、違うようだ。
 俺の意思とは裏腹に、しゃべり掛けて来やがる。
 この景色も、奴の光景に違いない。
 ・・・。
 荒野には、数々の神々が居た。
 法律を、遵守せよ!
 そんな言葉が響いている。
 我と、レイモスは、そんな物を遵守する気は無かった。
 レイモスは、月神として、優れた技量を持っていた。
 しかし、心が成ってなかった。
 レイモスは、人間と配合し、より高みに行くつもりだった。
 よって、神による支配など、真っ平だったのだろう。
 より優れた力を求めたのだろうが、やり方が、なってなかった。
 自らの力を使わずに、強くなろうとしても、長続きなどしない。
 その点、我は違った。
 法が悪い訳では無い。
 しかし、それを強制するのでは、支配と変わらぬ。
 なぜ、その道理が、こ奴等には、分からぬのか。
 人間が、栄えるのは構わぬ。
 だが何故、魔族を、迫害するのか!
 魔族とて、人間と種が同じでは無いか!
 我には、贔屓にしか映らなかった。
 魔族は、瘴気を使うが、気持ちの良い奴らが多かった。
 その彼らを、迫害するのが神か!!
 そんな法など、我は許さぬ!
 その想いが、我の戦う力となった。
 2神しか居ないと、舐めて掛かったのだろう。
 我は、魔族の期待を一身に背負って、戦った・・・戦った!戦った!!!
 そして、分からず屋どもを、血の海へと沈めて行った。
 いつの間にか、魔族の主などと、呼ばれるようになったが、構わなかった。
 せめて、魔族に希望を持たせたかった。
 負けると分かっていてもだ・・・。
 やがて、レイモスは力尽き、さっさと黒竜王と組んで、次の準備に掛かっていた。
 奴は、自分の体に執着しない。
 我は、最後まで抵抗した。
 後ろには、魔族が付いている。
 魔族が見せる期待の眼差しは、本物だった。
 しかし、それも終焉の時が来る。
 我には分かっていた・・・コイツが来たら、終わりだと。
 その神こそ、天上神ゼーダだった。
 奴は、凄まじい特殊能力を持っている。
 恐らくは・・・予知。
 奴には、攻撃が当たった事が無い。
 我は、負けると分かっていた!
 しかし、我を信じた同士ワイスも倒れていたので、引く訳には、行かなかった。
 我に力を!!魔族に希望を!!
 我は、最後の力を振り絞って、ゼーダと、一騎打ちをした。
 だが・・・勝てなかった・・・。
 我の攻撃は、何度か当たったが、致命傷になる攻撃は、全て避けられた。
 さすが、天上神だ。
 我の特殊能力もあるが、こ奴にとっては、一時凌ぎにしかならぬ。
 ならば、全力を持って、瘴気と神気を打ち出すしかない!
 我の全力を、ぶつけた!予知を持ってしても、避けられぬくらいの全力だ!
 それを、ゼーダは、受け止めて、なお握り潰す。
 我は、全力を使い果たして、力尽きる。
 でも、悔いは無かった。
 我は、希望を示せたのだから・・・。
 ・・・。
 ・・・なる程な・・・。
 それが、アンタの強さの元か。
(我は、色々な悪の書かれ方をしている。実際、人間にとっては悪だろう。)
 そこは、否定しないんだな。
(力ある者が、報われぬ世など見たくないのだ・・・。それだけなのだ。)
 アンタの行動理念は、いつも、そこなんだな。
(切磋琢磨しなければ・・・進化など、無いではないか!)
 伝記でも・・・ずっとアンタは、そう願い続けてきたな。
(我は、今の世が、正しいとは思えぬ・・・。だが、君と一緒に過ごし、少し考え
方が、変わってきた。)
 へぇ。珍しいじゃないか。
(我は、セントなど潰した方が良いと思っていたが、それは間違いだと思っている。
無論、このままで良い訳では無い。)
 それは、こっちとしても、助かるな。どんな心境の変化だ?
(人々の顔を見ていたら、幸せを潰すのは・・・辛い事だと思ってな。我は、表に
出られぬ魔族を助けたいとは思うが、人々を、苦しめたい訳では無い。)
 ・・・『覇道』を唱えた、アンタがか?
(我の考えに同調した者は、丁重に扱ったつもりだ。・・・それに『人道』とか言
ったか・・・。共存出来るのならば、それで良いと思っている。)
 『覇道』の提唱者が『人道』を推すとはな。俄かには、信じ難いぜ。
(我には、夢物語にしか見えなかっただけだ。だが、奴らは、500年も、その意
志を示した。その事実が、我を変えたのかも知れぬ。)
 共存の500年か。確かに、理想だったんだろうな。
(人間にも、暖かい者達が居る。それは、君と、その光景を見て、信じられるよう
になった事だ。・・・無論、許せぬ者も居るがな。)
 お甘い事だな。だが、人間の俺にとっては、その考えで居てくれると、助かる。
ま、俺の言えた義理では無いな。俺の手は、血塗れだからな。
(君は、人斬りにするには、優し過ぎる。コレまで、殺した人数を正確に覚えてい
るでは無いか。顔も、忘れぬでは無いか。)
 ・・・知ってたのか?いや、そりゃ知られるか。
(我は信じられぬよ。敵に対して容赦が無いのに、その敵の顔を忘れぬ、優しい君
がな。これまで、5千人近く斬っているのに、忘れぬ君がな。)
 正確には、4969人だ。奴らの断末魔の顔は、忘れぬ。それが、俺の報いだ。
(損な性分だな。・・・だが、無理は、してはならぬぞ。)
 無理なんかしてない。俺は、センリンを守るため、そして、センリンと一緒に暮
らすために、十字架を背負うと決めた。センリンには、背負わせたく無かったが、
それは、おこがましい考えだと知った。
(彼女は、見た目以上に強い。君の行動を全て知って、なお愛してくるのだからな。)
 俺には、出来すぎた彼女だ。だから、容赦しない。
 そう。俺は敵に対して容赦が出来る程、器用では無い。
 だが、決めたのだ。・・・この生活を守り通す!そして、その為にしてきた事は
忘れぬと!!!


 士は、ちゃんと全部を打ち明けてくれた。それが、今の私には、とても嬉しい。
信頼されてるし、信頼してる。仕方無くじゃなく、自然とだ。
 ちょっと意識して、士を見ていたが、グロバスさんが出てくる様子など、おくび
にも出さない。他の皆には知られないように、しているのだろうが、その精神力が
凄いと思う。私が見るに、料理中や、仕事中も、話し掛けられている事だろう。だ
が、その様子など、まるで見せない。凄い事だ。
 今年も、そろそろ年末の時期だ。この時期は、休む事にしている。年末前に人斬
りの仕事が入る事もあるし、私が、士と一緒に居たいからだ。年末前から、正月に
掛けては、余り仕事をしない事にしている。常連客も、分かっているので、正月が
明けてから、来るようにして貰っている。今年なら、人が増えたので、店を開けて
も良い様な気はするが、習慣になっていたので、特に、崩さないようにするつもり
だ。その事は、店の皆にも、伝えてある。そして、休みの間に、羽を伸ばす事にし
ている。やっぱ、休みは利用しないとね。
 ジャンさんは常連客だったので、その辺の事は、心得ている。特に今回は、アス
カと一緒なので、好都合なのだとか。ショアンさんなんかは、少し面食らっていた
が、特にする事が無いので、同じく、する事が無いゼハーンさんと、店を守ってく
れるそうだ。地味だが、非常に役立つ仕事だ。有難い限りだ。
 士は、私と、いつも予約してある店に、出掛ける事になっている。セントの中で
も、高級な店だ。しかも、ほかの人斬り組織などの、手が掛かってない所だ。そこ
ら辺は、常に意識している。
 ここ最近は、店の売り上げも良いし、人斬りとしての仕事も、無難にこなせてい
る。追っ手も士が追い払ったきり、余り活発じゃない。この時期になると、人斬り
の仕事自体、余り無いのだと言う。この時期は、どこも、休みたい時期なのかも知
れない。一年の総清算の時期だ。ゴタゴタしたくないのだろう。
 ただ、ここ最近、セントの動き自体が、不穏だと士が言っていた。特に、メトロ
タワーから発する瘴気のような物が、増して来ていると言っていた。士は、グロバ
スさんと一緒に居るせいか、その辺の事情に、敏感なのだ。
 年末前といえば、セント建国記念日だろうか?12月25日にセントが建国され
たと、言われているので、盛大に祝う行事がある。その日は、恋人達の祭典などと
も言われているので、士も私も、店の予約を取ったりしているのだ。既に2日前か
ら、店を休業にして、仕入れもストップしている。
『国民よ!今日の祝いの日を、皆で過ごそうでは、ありませんか!』
 政治家達が、演説をしている。その周りを当たり前のように、人斬りが警護して
いる。見慣れた光景である。護衛の仕事は、『司馬』にも入ってきてたが、何より
も、予定があったので、断りを入れておいた。ショアンさんやゼハーンさんが、行
っても良いと言っていたが、急に、今年から行けるようになったら、却って怪しま
れるから、止めろと士から言われたのだった。
「ま、我々は、メトロタワー広場で、式典の見学にでも、行きますよ。」
 ショアンさんは毎年、広場で式典の様子を見ているようで、今年も、そうすると
言っていた。広場までは、一般参加出来るからだ。メトロタワーの入り口の大門前
は、一般は、入れないらしい。
「私は、式典を見るのは、初めてなので、少し楽しみだ。」
 ゼハーンさんは、少し浮かれている。珍しい。何でも、シティで、テレビ越しか
らは見た事があるらしいのだが、生で見に行くのは、初めての事らしい。キャピタ
ルに入れたのは、『司馬』としての仕事が、成功したおかげだし、当たり前か。
「フッ。楽しんで来い。ここからここまでは、出店のレベルが高い割りには、混ん
で無いからオススメだ。だが、2店ほどボッタクリの店があるから、気を付けろ。」
 士は、こう言う情報に妙に詳しい。去年は、私と出掛けて、下調べでもしてあっ
たのか、出店で並ぶ事は、少なかった。
「オレ等は、士さん情報に肖って、出店を回ってから、予約の店に行くか。」
 ジャンさんは、士の情報を、頼りにしているようだ。
「ウチ、出店とかは、初めてかも。」
 アスカは、『オプティカル』のボスの娘だったせいか、出店などに、行った事は
無いのだろう。
「フム。なら、この通りが良い。さっきの所より、値段は張るし、少し人気だが、
出店の態度が悪くない。しかも、こう抜ければ、ショッピング街に抜けられる。」
 士は、地図を指差して確認させる。本当に良く知っている。
「うっわー・・・。士さんって、本当に、良く知ってるんだね。」
 アスカは感心している。士は、こう見えて、お祭り好きだ。だから、この時期に
依頼が来ると、凄い下調べをしてくる。今回は、依頼こそ無かったが、ついでに下
調べをしてあったのだろう。
「祭りは、楽しまないとな。で、センリンは、いつものコースか?」
 士が尋ねてきた。いつものコース・・・。まぁそうかな。
「いつも通り、土産物屋から、ショッピングモール行って、予約の店だネ。」
 私は今日の予定を話す。士が、マメに調べてくれるのは私との予定があるからだ。
「よし。じゃぁ、この通りが良い。今回は、ここに、土産物市を開催中らしい。」
 士は指差す。確かに、この通りならやりそうだ。それに、ここからなら、少し迂
回すれば、ショッピングモールに行ける。
「ほー。って、あれ?士さん予約の店・・・ここ?」
 ジャンさんは、予測したのか、綺麗な景色が見れるホテルが、ある店を指差す。
「ここに18時からだ。」
 士は、チケットを見せる。脅威の窓側って奴だ。抜け目が無いなぁ。
「ま、まさか・・・って奴だあぁ・・・。」
「・・・ウチ等も、そこなんですよぉ。」
 ジャンさんとアスカは困ったように、チケットを見せる。
「・・・ほ、本当だネ・・・。しかも、隣とはネ・・・。」
 私もビックリしてしまった。何だって、偶然がある物だ。
「ジャン、お前、当日のお楽しみとか言って、予定を話さないから、こうなるんだ
ろうが!俺は、この辺の店にするって、言ったぞ?」
 士は呆れていた。予定が、被らないようにしようとは、してたみたいだ。
「だって、この辺って言ったら、景色綺麗じゃん?やっぱ選ぶよ。ここ。」
 ジャンさんも、同じような考えだったらしい。
「あー・・・。もう面倒だ。知らねぇ仲じゃないし、相席にすっか?」
 士は、開き直っていた。バツが悪そうにしていた。
「プッ。私は、それで良いヨ。皆で、楽しくやろうヨ。」
 私は賛成だった。どうせ、二人での予定は、例年でやっている。
「ウチも、それで良いよ。元は、ジャンが悪いんだしね。」
 アスカも、笑いを堪えていた。気が合うなぁ。
「皆さんの仰せのままに・・・。オレに決定権は、ありません。」
 ジャンさんは、ショボーンとしていた。
「分かった。電話しとく。まったく、恥を掻かすんじゃねぇよ。」
 士は、ブツブツ文句を言いながら、ちゃんと、予定をこなしていく。
「ムムム・・・。このホテル、五つ星では御座らぬか!」
 ショアンさんは、チケットの店の、パンフレットを見ていた。
「おー。奮発したな。士もジャンも。」
 ゼハーンさんも、興味深そうに、パンフレットを見ていた。
「こういう時に、金をケチっちゃ駄目なんだぜ?」
 ジャンさんは、ウンウンと頷いていた。やけに得意そうだ。
「良く分かってるじゃないか。お?お前も、同じコースか。」
 士は、コース内容を確認していた。
「どれどレ?・・・まさかこレ!?」
 私は驚いた。凄い高級コースだ。予約を取っていたとは言ってたが・・・。
「あのな。こう言うのは、値段を見るもんじゃないんだぞ?」
 士は呆れていた。まぁ確かに気にし過ぎるのは、良くないかも知れないけどね。
「ジャンが連れてってくれるなら、どこでも、嬉しいんだけどねー。」
 アスカも、そう言いつつも、冷や汗を掻いていた。やっぱ気になる。
「うーーむ。ゼハーン殿。我らも、何か良い物を!」
「変な対抗心を持つ物じゃないぞ。私達が出来るのは、ここを守る事だ。まぁ、出
店の帰りに、良い物を、買っておいてやるから。」
 ゼハーンさんは、大人だ。確かに私達だけ豪勢なのは、気が引けちゃうかも。
「ん?センリン。気にするな。楽しんで来ると良い。」
 ゼハーンさんは、優しく声をかける。凄く出来た人だ。
「お言葉に、甘えるヨ。」
 私は、礼を言っておく。
「済まんな。アンタには、世話になりっぱなしだ。」
 士ですら、そう言う。正直ゼハーンさんは、私達の仲間内では、一番、頼りにな
る存在だった。士も、勿論凄いけど、ゼハーンさんのフォローで、どれだけ助かっ
た事か。皆、そう思ってるから、悪いと思っているのだろう。
「私の口癖は、分かっているだろう?だったら、楽しんで来い。」
 ゼハーンさんの口癖は、『絶対に幸せになれ』だった。何て言うか、出来た人だ
けど、ゼハーンさん自身は、どうなのだろうか?少し考えてしまう。
「有難いけどさ。ゼハーンさんも・・・だぜ?」
 ジャンさんは、私の言いたい事を言う。
「嬉しい事を言ってくれる。忘れんさ。レイクの為にもな。」
 ゼハーンさんは、極上の笑みを見せる。レイクって・・・確か息子さん。愛して
るんだなぁ。自慢の息子だって、言ってたしなぁ。
「アンタは、無理し過ぎる時が、あるからな。本当に気を付けろよ?」
 士も、心配しているようだ。
「うーーーむ。ゼハーン殿の姿勢には、いつも感服させられる・・・。」
 ショアンさんは、まだ、そこまでに至ってないのだろう。
「ウチの組織には、ここまで出来た人は、居なかったなぁ。」
 アスカは、渋い顔になる。まぁゼハーンさん程、出来た人は、中々居ないだろう。
幹部が、ギルやイルなら、尚更だ。
「まぁそう言う訳だ。全員、楽しもうではないか。セント主催ってのは気に入らぬ
が、祭りは、悪い事では無いからな。」
 ゼハーンさんが、締めてくれた。しかし、本当に頼りになる。
 だが・・・やっぱりゼハーンさん自体の幸せは・・・。そう考えずには、いられ
なかった。まぁでも、今日は楽しもうかな!


 セントの建国記念日は、盛り上がりを見せていた。パレードも凄いが、この日は、
皆が、祭りを楽しもうと言う雰囲気に、なっている。セントの記念日を祝うと言う
より、自分達が楽しむために頑張ると言う姿勢が、多いのかも知れない。
 著名人の挨拶も凄いが、その間に、出店などが流行る。市場なども賑わうし、シ
ョッピングモールも、一層の盛り上がりを見せている。
 夜になると、花火も上がるため、景色の良い所は、結構取られたりする。その点、
ホテルの予約などをしている人は、賢い選択なのかも知れない。とは言え、事前に
予約するのは、結構至難の業だ。予約は殺到するからだ。士もジャンさんも、必死
に、この券を取ったって、言っていた。士は、かなり前から予約していたようだが、
ジャンさんは、中々取れなくて、ダフ屋に頼んだのだとか。
 出店やショッピングは、無事に終わり、荷物は一旦、家に置いてきた。それから、
間に合うように、ホテル前に移動して、エレベーターを使って、ホテルの最上階へ
移動する。
「いらっしゃいませ。お客様、券を拝見致します。」
 ホテルマンが、尋ねてくる。士とジャンさんは、チケットを渡す。
「士様にジャン様ですね。お電話の通り、相席になりますが?」
 ホテルマンが、釘を刺す。まぁ普通は、相席にならない。
「ああ。構わん。」
 士が答える。すると、ホテルマンは、意を介したようで、席に案内する。
「うわぁ・・・綺麗だヨ。」
 私が感想を漏らす。花火が始まる前だが、ネオンの光が、とても綺麗だった。
「この街の、こんな景色、見るの初めてかも。」
 アスカも、すっかり見惚れているようだ。
「ま、苦労した甲斐があったな。」
 士も楽しんでいるようだ。今は、仕事の事は、忘れているようだ。
「こっからの花火、是非、見たいね。」
 ジャンさんも、珍しがっている。初めてなのかも知れない。
 それから、食事をしつつも、花火が出る時間まで待つ。ここのホテルは、花火の
時間帯に、消灯するようだ。食事は、さすがに五つ星が付くだけあって、洗練され
ていた。美味いのは当たり前で、飾り付けの技術が、群を抜いていた。
 そして、しばらくして、花火が始まった。電気が消される。
「綺麗だネ・・・。」
 私は、見惚れてしまう。下から見る花火も綺麗だったが、この位置からの花火は、
凄かった。目の前で開くように弾ける為、とても綺麗に見える。
「凄いなぁ。ウチ、初めてだぁ。」
 アスカも、感動しているらしい。こんな光景、滅多に見れる物じゃない。
「眼に、焼き付けなきゃな。」
 士まで、嬉しそうにしていた。私の方を見て、優しい目をしてくれる。やっぱり
士は優しい。これだから、ますます惚れちゃう。
「オレ、この街、そんな好きじゃなかった。でも、今は・・・。」
 ジャンさんも、アスカに優しい目をしていた。やっぱり、思う所が、あるのかな。
ジャンさんも、色々、苦い経験してるみたいだしね。
 花火が終わるまで見ていた。終わると、再び電気が点けられる。
 後は、お土産を買って、士と私、そしてジャンさんとアスカが、違う部屋に分か
れる。まぁ、仲が悪い訳じゃないけど、さすがに、今から、する事を考えれば、同
部屋と言う訳には、いかない。
 私は、幸せなのかも知れない。大好きな人と、一緒に居られる。そして、大好き
な人が、私を必要としてくれる。
 ・・・
 士とは、何度も体を重ねている。そして、今は、知らない事も無い。内緒にして
る事も無い。幸せ過ぎて、怖いくらいだ。
 でも、これからも続くのか?と思うと、少し怖くなる。私達は人斬りだ。他人の
命を犠牲にして、成り立っている。護衛の仕事を大目にしているが、それでも、命
のやり取りを、する結果になる事は、少なくない。全うな職では無い。
 店の方も順調だが、セントから、目を付けられないようにしているからだ。私が、
ファン=レイホウの末裔だってのも、方便と言う事にしてある。実際、レイホウの
子孫の名を語る店は、少なくない。私は本物だが、別に、客商売では良くある事だ。
 でも・・・このまま続くのかな?
「・・・!!」
 突然、士が周りを気にしだした。
「タワーから?・・・う!」
 士は、メトロタワーの方を気にしだした。そして、周りをキョロキョロ見だす。
 ・・・え?何これ?
 私もビックリした。何かが体の中に入ったのを感じた。体の中に違和感を感じた。
「士?・・・こ、こレ・・・。」
 私も、マトモな返事が出来ない。まずは、体を落ち着ける事を最優先にした。
「・・・む・・・。なる・・・程な。」
 士は、呻きつつも、落ち着きを取り戻していた。もしかして、士も、今の違和感
を感じているのかな?
「・・・センリン。お前も、違和感を感じたか?」
 士は、優しく、問い掛けてくる。私は、首を縦に振る。
「そうか・・・。メトロタワーで、何が起こってやがる。」
 士は、またメトロタワーの方を見る。
「これ、メトロタワーからなノ?」
 私もメトロタワーの方を見る。やっと落ち着けるようになってきた。違和感が無
くなってきた。馴染んで来たとも、言うべきか。
「そうらしい。グロバスが教えてくれた。・・・何でも、神の『能力』を、バラ撒
いた奴が、居るらしい。目的は不明だとさ。」
 士が説明してくれた。神の『能力』?どう言う事なんだろう?
「『ルール』って能力らしい。何でも、神だけが行使出来る、反則技みたいな物ら
しいぞ。センリンにも、宿ったみたいだな。」
 神の反則技・・・って。何だか凄いけど・・・何でまた?
「怖いヨ・・・。私、そんな能力・・・貰ってモ・・・。」
 私は、今のままが良い。幸せで居たい。
「センリン・・・。落ち着くんだ。確かに、俺だって不安だ。・・・だけど、宿っ
た物は、仕方がない。・・・グロバスが言うには、身を守る手段になるとの事だ。」
 士は、グロバスさんから、説明を受けているのか。
「分かっタ・・・。士の言う事なら、信じル。だから、離さないでいテ。」
 私は、不安に押し潰されそうになるのを、抑えていたが、限界だった。
「気を、しっかり持てよ・・・。俺が付いてる。」
 士は、抱き留めてくれていた。不安が、どんどん癒されていく。
 私は、突然、振って沸いた力に、右往左往するのだった。士が居なければ、不安
で押し潰される所だった・・・。


 それから、少し混乱は、あった物の、体も精神も落ち着いてき来たので、ジャン
さんと、アスカとも合流して、ビルに帰る事にした。話を聞くと、ジャンさんも、
アスカも違和感を受け取ったらしい。戸惑っていたらしいが、二人で支えあって、
落ち着きを取り戻したらしい。何だ。私達と同じか。
 どうやら、帰ったら士が説明してくれるとの事だ。グロバスさんがいる分、士は
説明し易い。そして、士は、あの事も、話すつもりだと言っていた。
 おそらく、中に住んでいるグロバスさんの事だろう。いつか、話さなきゃいけな
いって言っていたし、ルールの事に関しては、グロバスさんの知識無しでは、中々
語れないそうだ。
 ただし、変身した時の、皆の反応が怖いと士は言っていた。・・・私は、そこを
フォローするつもりだ。私しか出来ない。既に知っている、私にしか出来ない事だ。
いくらグロバスさんが宿っていても、士は士だ。私は信じている。だから、変身の
間は、手を握ってやるって決めている。グロバスさんにも、伝えたら、感謝してい
たとの事だ。人間の敵だった魔族に感謝されるのは、変な気分だが、グロバスさん
は、分別の付かない魔族じゃない。話し合えば、絶対に、分かってもらえる。
 ビルに帰ると、しっかり戸締りしてあった。それぞれ合図を言い渡すと、即座に
開けてくれた。さすがに、慣れた物である。
「4人共、帰り申したか。お帰り。」
 ショアンさんが、丁寧に挨拶してくれるが、どこか、様子がおかしい。
「フム。楽しんで来れたみたいで、幸いだな。」
 ゼハーンさんも、嬉しそうにしていたが、表情は、冴えない。
「どうにも、昨日から体がしっくり来なくてな。」
 二人とも、体に違和感を感じているらしい。やっぱり・・・。
「・・・まさか、ゼハーンさんとショアンさんも?」
 アスカが、懸念していた事を言う。
「その口振りだと、君ら4人もか・・・。」
 ゼハーンさんは、私達の様子を見て、状況を悟ったらしい。
「ここに要る全員が、受け取っちまうとは・・・。こりゃ、いよいよもって、説明
しなきゃ、ならんみたいだな。」
 士は観念する。本当なら、あんな化け物の姿に、なりたくは無いのだろう。
「士は知っているのか?」
 ゼハーンさんは、士に尋ねてみる。皆も、士に注目した。
「知ってる。・・・だが、説明するには、色々面倒な事をしなきゃならん。そこで、
皆の覚悟が聞きたい。じゃなきゃ、話す事は出来ん。」
 士は、皆の眼を見る。そして、見渡す。そして、自分の目を閉じた。
「私は・・・もう知ってるし、覚悟は出来てるネ。いつまでも・・・士を信じル。
皆は多分・・・驚くし、受け入れ難い人も居ると思ウ。私だって・・・まだ受け入
れ難いヨ・・・。でも、士を信じル。」
 私は、士の手を握って、皆にも言う。私の覚悟を聞いてか、皆は、只事では無い
と知ったみたいだ。
「士には、色々世話になってる。センリンにもな。恐らく、重大発表なんだろうが、
私は受け入れねば、ならんようだ。」
 ゼハーンさんは、こっちを見る眼が険しくなった。恐らく、この人が、一番受け
入れ難い筈だ。伝記の末裔なら、尚更だ。
「私は、この目で起こった事を、信じ申す。その私の目の前で、士殿とセンリン殿
の絆を感じた。何があっても、信じる覚悟が必要と見申した。」
 ショアンさんは、只ならぬ様子を、受け入れてくれてるみたいだ。
「オレはよ。士さんにも、センリンちゃんにも、借りがあるからな。食事の恩は、
一生もんって言うだろ?・・・見届けるさ。」
 ジャンさんは、優しい目をしていた。信じてくれるだろうか?
「ウチは・・・ちょっと怖い。でも、ここで逃げたくない。だから・・・見るよ。」
 アスカは、勇気を奮い立たせているようだ。
「そうか・・・。なら、まず、俺の、今の悩みを話そう。」
 士は、皆を射抜くように見る。ここからが正念場だ。
「お前達、俺の中に、魔族が住んでると言えば、信じるか?」
 士は、見渡してから、皆を見る。
「話が唐突だけど、この違和感と、関係がある話なのかい?」
 ジャンさんは、困ったような顔をしていた。
「間接的には、関係がある。」
 士も、隠す気は無いようだ。
「魔族か・・・。例えとかでは無いのだな?」
 ゼハーンさんが、訝しげに見ていた。
「俺も最初は、二重人格だと思ってた。だが、違うようだ。」
 士は、溜め息を吐く。皆は、俄かには、信じられないと言った表情になる。
「まっさかー?って言いたい所だけどよ。センリンちゃんの表情を見る感じ、マジ
なんだな?・・・参ったねー。」
 ジャンさんは、私の表情を読み取る。私は、至って真面目な顔をしている。
「・・・して、どの魔族で御座ろうか?」
 ショアンさんは、嘘なら見抜くと言う眼で見ていた。
「皆も知ってる魔族だ。・・・神魔王グロバス・・・だ。」
 士は苦々しく言う。その名を知らない人は居ない。伝記で『覇道』を唱えた最強
の魔族・・・であり、魔族の主だった。
「グロバスの名では、重いな・・・。特に、私にはな。」
 ゼハーンさんは、私達が、冗談を言っているのでは無いと思っている。だから、
重いと言った。ユード家の者として、グロバスの名は、重いのだった。
「ウチは・・・怖いけど、センリンさんを信じたい。」
 アスカは、私の手を握る。私は、それを握り返す。
「ありがとウ。私は、皆が信じて貰えるか、そして、皆が受け入れて貰えるのか、
不安だったのヨ。」
 私は、少し涙が出てしまう。だって、いきなりグロバスさんである。そりゃ誰だ
って驚くし、信じられないだろう。
「半年程前だ。・・・俺は、光る何かに魅入られた。・・・そして、そいつが中に
入った瞬間、気絶しちまった。」
 士は、苦笑する。士が気絶すると言うのは、非常に珍しい事だからだ。
「私が保証するヨ。士が意味も無く、倒れてたのにはビックリしたネ。」
 私は付け加える。私は、士のフォローをしなきゃいけない。
「それからだ。俺の内に語り掛けてくる奴が現れたのは・・・。最初は、幻覚だと
思った。・・・だが、ソイツを少しだけ外に出すように意識を傾けたらな・・・。」
 士は、頭を抱える。そして、目だけ、こちらを向けてくる。
「頭から角が生えて・・・。翼が出てきた・・・。ビックリして、急いで意識を戻
したのさ・・・。俺は・・・どうかしちまったと思った・・・。」
 士の眼が、紅く光る。少しグロバスさんを、出しているようだ。
「グロバスは、伝記で未来へ飛ばされたと書かれていた。その未来が、ここなのさ。」
 士は、床を指差す。つまりは、今のソクトアと言う意味だろう。
「・・・で、グロバスの話をするのは、何故だい?」
 ジャンさんは、問い掛ける。
「お前達に宿った能力の事なんだが・・・。グロバスの方が詳しいんだ。だから、
グロバスに、話をさせる予定だ。じゃなきゃ、こんな事、漏らす訳が無い。」
 士は、自分で説明しても良いのだが、肝心な所は、中々説明出来ないみたいだ。
「士・・・昨日、苦しんでタ・・・。皆に信じてもらえるか、分からないっテ。そ
して、皆が、俺を見る目が変わるに違いないっテ。それでも・・・皆の能力につい
て、話をしてやらなきゃ、暴走するかもしれないって、言うんだヨ・・・。」
 私は、涙が溢れて来た。士は、そんな危険を冒してまでも、皆の事を、考えてい
たのだ。そんな士が、大好きだ。私が、士を信じなきゃ駄目なんだ。
「センリンちゃんに泣かれちゃ、オレは、信じるしかねーわ。」
 ジャンさんは、お手上げと言うポーズをした。感謝したい。
「士殿らしいと言うか・・・。意地を張り過ぎですな。私も、信じよう。」
 ショアンさんも、信じてくれたみたいだ。
「ウチは、センリンさんを信じる。だから、士さんも信じるさね。」
 アスカは、私を励ましてくれる。頼もしい限りだ。
「皆が、ここまで言って、空気を読まぬ、私では無いぞ?信じるさ。・・・私は、
元は、ハイム家の人間だ。そこまで、英雄の血に、こだわりは無い。」
 ゼハーンさんは、警戒を解いたみたいだ。やっと・・・全員が信じてくれた。
「・・・だが、グロバスは、危険では無いのか?」
 ゼハーンさんは、そこはキッチリ聞いてくる。当然だ。
「俺に宿った時点で、野望は捨てているらしい。だが、現状のセントが気に入らね
ーんだとよ。だから、セントの方針に従ってない俺達を、支持するみたいだぜ?ま
ぁ、正直な話、結構、話せる奴だ。食って掛かるような奴じゃねぇよ。」
 士は、説明する。確かにグロバスさんは、信念を持っているようだが、突然襲い
掛かるような、無粋な事をするような、魔族じゃない。
「伝記でも、最後まで、誇りを捨てぬ魔族でしたな。」
 ショアンさんが、思い出してくれてるようだ。
「よし。では、平静を保つ努力をしよう。・・・代わって頂けるか?」
 ゼハーンさんは、慎重に言葉を選びながら、士に言う。
「そうだな。・・・じゃぁ、代わるから・・・。後は頼むぜ・・・。」
 士は、そう言うと、目を閉じる。恐らく意識を、グロバスさんに傾けているのだ
ろう。すると、士の眼が、紅く光りだす。そして、髪の色が青く光る。それだけで
は無い。左右から魔族の角が、せり上がってきた。そして、極め付けは、背中から
翼が生え始める。と言っても、士の体に、合わせての変化だ。
「・・・フゥ・・・フゥウ・・・。」
 そして、周りを見渡すと、まず、私を見る。
「センリンであったな。士と我の事を、信じてくれた人間よ。心から感謝する。」
 いきなり礼を言われた。まぁグロバスさんを信じると言うより、士を信じてるん
だけどね。それにしても、雰囲気が違うなぁ。
「士を通して、君達には会っていたが、お初にお目に掛かる。先の神魔王グロバス
である。・・・士の中に、住まわせてもらっている。」
 グロバスさんは、皆に挨拶する。
「参ったねぇ・・・。実際に見ると・・・怖いっス。」
 ジャンさんは、頭を掻きつつ、苦笑いしていた。
「士殿が・・・いや、しかし・・・。」
 ショアンさんも、かなり戸惑っているようだ。無理もない。
「ウチ、凄い体験してるんじゃ?」
 アスカも、驚きを隠せないようだ。
「グロバス。我が家は、貴方と対立している。だが士が、貴方を信じている。だか
ら、今は、いざこざを忘れる事にする。」
 ゼハーンさんは、真っ直ぐ、グロバスさんを見ていた。凄い人だ。
「人間にしては、良い目付きだ。君等の佇まいは、我が、誇りを持って戦った戦友
達に似ている。我は、人間に幻滅していたが、最近では、少し、信じられるように
なっている。それは、士と、君達を見ての事だ。」
 グロバスさんは、眼が紅く光っているが、優しい目付きになっていた。
「我は、誇りある強さを求めし者ならば、どんな者であろうとも、尊敬する。君等
には、その輝きが、あると信ずる。」
 グロバスさんは、士を通して、私達を見ていたのだろう。
「何だか、緊張するな。いやホント。」
 ジャンさんは畏まりつつある。荘厳な雰囲気を、グロバスさんは持っている。
「話が脱線したな。士に怒られてしまった。・・・で、君らに宿った能力の事につ
いて、説明せねば、ならぬようだ。」
 グロバスさんは、苦笑する。やはり、士とは交信しているみたいだ。
 こうして、グロバスさんの説明が始まった。まず、6つの力について、おさらい
された。ソクトアに今、存在する6つの力についてだ。
 『闘気』は、私達が一番馴染み深い力らしい。剣術や、体術などの鍛える力によ
って内なる闘う意思を力にした物だと言う事だ。
 『魔力』は、自然界と交信するのに使う力らしい。魔法と言う概念で、完全に形
骸化されている。才能に、左右される能力らしい。
 『源』は、闘気と魔力を掛け合わせた新しい技術。榊流護身術を使う連中が、未
だに、その力を研究しているとの事だ。忍術と言う、詠唱無しの魔法の様な物が、
使えるらしい。それが本当なら、便利だ。
 『瘴気』は、魔族に馴染み深い力で、闘気より、怒りや憎しみと言った力が、強
いらしい。しかし、それによる力は、奥深い物がある。士が、得意とする力だ。
 『神気』は反対に享楽や喜びを力とするもので、神が得意とするみたいだ。グロ
バスさんも使えるらしいが、余り、得意では無いみたいだ。魔力の上位の力で、天
変地異などを起こすのに、使うと言っていた。
 『無』は、伝記でも最後の方に出てきた力で、全てを消し去ろうとする力が働く
らしい。恐るべき力だが、乱用は禁物との事だ。ゼハーンさんが、目の前で見た事
があると、言っていた。反乱の時のリークが、使っていた力だ。
 一通り、説明が終わると、この違和感の正体について、話し始めた。
「君等に宿った能力は、神の特典だ。神が就任する時に授かる力だ。自らの範囲内
なら、摂理を捻じ曲げる事が出来る。その力を『ルール』と呼んでいる。」
 『ルール』か・・・。昨日も、そんな事を言ってたなぁ。
「『ルール』は、我も破壊神を継いだ時に、頂いている。だから、君等に宿ったの
を感じる事が出来た。『ルール』使い同士なら、いつ使ったか、感じる事が出来る
筈だ。違和感を治めた時とは逆に、違和感を出す感じで、頭のスイッチを切り替え
ると、発動出来る。士にも、宿ったみたいだな。」
 グロバスさんは説明する。なる程。頭のスイッチを切り替える感じかぁ。どうや
るんだろうなぁ。こんな感じかなぁ?
「・・・ウワッ!!」
 私は驚く。私の中の違和感が膨れたからだ。それと同時に、皆も、やってみたら
しい。なる程。皆、使ってみたのか。
「どんな能力が宿るかまでは、分からぬ。それぞれの性格に合わせて、宿っている
筈だ。あと、効果範囲に気を付けろ。敵意がある『ルール』の中に居たら、『防御』
を意識しないと、満足に『ルール』を出せなくなる筈だ。例え、自分だけの効果だ
としてもだ。ただし、効果範囲が狭い『ルール』は恐ろしい『ルール』が多い。」
 つまり、効果範囲が大きい『ルール』は便利ではあるが、効果範囲が狭い『ルー
ル』の方が、とんでもない能力なんだろう。
「しかし・・・なんでまた、私達に?」
 ショアンさんは、当然の疑問をぶつける。
「何故、バラ撒かれたかは知らぬ。だが、『ルール』の仕組みを理解した恐ろしい
何者かが、意図的にバラ撒いたのは、間違いない。今頃、偵察に来ている神共は、
右往左往している事だろう。この力を人間に使わせるなんて、普通じゃないからな。」
 グロバスさんは、神の力だと言った。そして、何が宿っているか、分からないと
言った。どれだけ恐ろしい能力なのだろう。
「私が会った、ジュダ神も、苦い顔をしている事だろうな。」
 ゼハーンさんが、ジュダ神の事を思い出す。
「ジュダか。奴は、楽しむかも知れぬな。奴は神でありながら、面白い気質であっ
た。いつか、この手で、勝負してみたかったものよ。」
 グロバスさんは、握り拳を作る。闘いが好きなのは、変わらないみたいだ。
「む?もう戻れと言うのか?・・・まぁ、そうだな。我の役目は終わった。しかし、
もうちょっと、我に感謝しても、良いのではないか?」
 グロバスさんは、胸の辺りを見ながら話しかける。どうやら、士が抗議している
ようだ。確かに説明は、もう終わったみたいだ。
「フム。まぁ、我とて、君を困らせるつもりは無い。・・・分かった。戻ろう。」
 グロバスさんは、大人しく従っている。
「乗っ取るとか、考えた事無いんすか?」
 ジャンさんは、尋ねてみた。
「そこのセンリンにも話したがな。士に反対されながら変身しても、十分な強さな
ど出せんのだ。士とは、協力し合わなければならん。それに、我は、もうソクトア
を支配するなど、どうでも良いのだ。・・・このセントだけは、何とかせねば、な
らぬと思っているがな。・・・このままでは、ソクトアは、滅び兼ねん。」
 グロバスさんは、恐ろしい事を言っている。このセントが滅びる?いや、ソクト
アが滅びる?どう言う事なんだろう。
「・・・済まん。士。一言だけ喋らせよ。・・・現状のソクトアは、非常に危うい。
神の力が解放され、その力を吸い上げるための、ソーラードームと来ている。メト
ロタワーの頂点の連中は、何を考えているか分からぬ。このままのパワーバランス
は、非常に危ないのだ。それだけのパワーを集めて、支配だけで終わるとは思えぬ。」
 グロバスさんは、危険だと言った。ソクトアが滅びるくらいのパワーが、集まっ
ているのかも知れない。それを、危惧しているのだ。
「我は、魔界の主などと呼ばれているが、この星が好きだ。だから、このまま放置
など、したくない・・・。それが本音だ。・・・待たせたな士。・・・ん・・・。」
 グロバスさんは、そう言うと、ゆっくり眼を閉じる。すると、肌の色が薄くなり、
角が引っ込む。そして、翼も無くなり、眼の色が、栗色に変わっていく。
「・・・まぁったく・・・。長いんだよ。」
 完全に、士に代わっていた。戻って来たんだ!
「士!お帰リ!!」
 私は士に抱きつく。そして、胸に顔を埋めた。
「心配掛けたな。・・・それと、信じてくれて、助かった。お人好しな連中だ。」
 士は、皆に向かって、軽口を叩く。元気が出てきているのかな?
「マジで、驚いた。・・・でも、思ったより、話せたな。」
 ジャンさんの印象は、悪くないようだ。
「思えば、伝記でも、神魔王グロバスと言えば、魔族のために尽くしつつも、『覇
道』に従う者を受け入れていた。そこは、常に平等だったと言う。」
 ショアンさんは伝記を思い出している。確かにグロバスさんは、迫害などは、し
なかった。そんな真似は、許さなかったとも言う。ただし、敵対した者には、容赦
が無かった筈だ。そこは、士にも似ている。
「末裔としては、少し複雑だが、敵意は無いみたいだな。それに、奴が語った危険
は、私も感じていた所だ。利害関係は、一致する。」
 ゼハーンさんは、グロバスさんの感じていた危険に、同調している。
「ウチ、本当に怖いけど・・・現状から逃げるのだけは、したくない。」
 アスカは、必死に恐怖に耐えながらも、前を見ている。『オプティカル』のボス
だった時は、自分の与り知らぬ所で、事が進んでいたから、尚更だ。
「ったく。俺は、ソクトアが、どうだとか気にしちゃいねぇ。・・・だが、居場所
を荒らす馬鹿には、容赦しない。センリンに手を出す奴は、八つ裂きにするだけだ。」
 士は、ソクトアを救うとかに興味は無いのだろう。だが、このままでは滅びると
言うのが、気に食わないのかも知れない。
「私だって、士を襲う敵なら、容赦しないヨ!ここは、私と士と・・・皆の店ヨ!
それを荒らすなら、私も許さないヨ!」
 私も、誓った。士のために・・・そして、この場所と皆のために、負けないと。



ソクトア黒の章4巻の3後半へ

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