NOVEL Darkness 6-3(Second)

ソクトア黒の章6巻の3(後半)


 最近、力は付けてきたと思う。それに、『記憶の原始』からの問い掛けで、新た
な力に対しても、考え始めている。全ての力に対して見直す機会を得て、『無』の
力の本質も考えている。だから、力に付いては、文句無しに出来上がって来ている。
 それくらいは最低こなさないと、新たな魔法を試しているファリアに対して、申
し訳無い位だ。アイツは、今の魔法だけでは満足せずに、古代魔法の研究や新たな
使い方を模索している。皆に教えながら研究をすると言う離れ業をこなしているん
だから、大した物だ。アイツは、魔法を極める気でいる。
 俺も負けてはいられない。いざ闘う時にアイツの役に立てないんじゃ駄目だ。力
は今以上の事は、中々出来ない。ならばどうするか?・・・技だ。技を磨く事が今
の俺には必要だった。不動真剣術は、剣術の中では凄い方だと信じている。最高の
技術だと信じている。だが、俺が全てを使いこなせていないのだ。不動真剣術の基
本の動きは、出来る様になったが、応用的な動きが出来ていない。特に他の剣術に
対しての動きが全く駄目だ。不動真剣術の動きに頼り過ぎている。しかし、不動真
剣術を使いこなせなくても、動きを知っている人は多い。
 歴史の上で、不動真剣術は欠かせない。何せ時代を切り拓いたジークが、不動真
剣術の使い手だからだ。どう言う技を使って、どう対応されたか、そしてジークが
どう打開して、勝利して行ったかを詳細に記されているのだ。歴史書を見るだけで
も参考になる動きが多い。そんな中で基本的な動きをしたって勝てる訳が無い。
 だから、技の段階を進めなくてはならない。他の剣術の動きに付いて行く為に、
何をすれば良いのか?一番早いのは親父から学ぶ事だ。親父は今回の『闘式』は不
参加だが、救護班に回るだけで、特訓に参加してない訳じゃない。実際にファリア
から魔法を学びながら、俺と個人的に打ち合いをしたりしている。今の所、互角に
渡り合えるが、それは親父が不動真剣術だけで打ち合う事が多いからだ。
 親父は天武砕剣術の継承者でもある。と言うより、今は不動真剣術を俺に譲った
分、天武砕剣術の継承者だと言い切っても良い位だ。親父は2個の剣術を使いこな
せるので、対処も早い。何よりも戦闘の最中に瞬時に切り替える事が出来る。親父
は、その頭の回転の良さが士さんからも褒められている。
 俺が学ぶべきは、親父の対処の仕方だろうな。
 今日も打ち合いを始めている。
「レイク。本当にその方針で良いのか?」
 親父は、俺の伝えたい事を理解したようだ。
「基本の動きの研究は、続けるよ。でも今必要なのは、対処の仕方だ。」
 俺は、その方針を違えるつもりは無い。俺に足りない所を強化する方針だ。
「成程な。確かにお前は凄い力を身に付けている。だが技が甘い。自分で気が付く
とはな。普通は、頭で分かっていても認めない奴が多い物だがな。」
 親父は素直に褒める。俺は今、強くなるためなら下らないプライドなど捨てる気
でいる。捨てて強くなれるなら捨てるべきだ。
「なら、課題を与えるしかないな。分かっているだろうが、一応確認だ。」
 親父は、俺を見て目を細める。
「私はこれより、2つの剣術をフルに使ってお前に対処する。それを技だけで打ち
破ってみせろ。闘気などを開放する技は禁止にするぞ。」
 親父は技術だけで勝つように言う。それこそが俺の望んだ事だ。
「了解。俺もそのつもりだよ。・・・で、それに付き合うんだね?士さん。」
 俺は、背後に居た士さんに声を掛ける。
「どうしてバレるかね?お前もやるようになったな。」
 士さんは、完全に気配を遮断していた。だが、瘴気の残滓を感じた。今の俺達の
会話に興味がある人で、瘴気を使いこなせる人なんて限られている。それから推測
して、士さんだと限定したのだ。
「俺もこれ以上強くなるには、技が必須だと思ったからだ。お前達と一緒にやれば、
効率も良いだろうからな。と言うか、俺も加わった方が良いだろ?」
 士さんは霊王剣術を極めて、他の剣術に対しても、ある程度対処が出来ている人
だ。これ以上無い程、参考になる。
「寧ろ、こっちからお願いしたいくらいです。」
 俺は握手をする。親父に士さんは、剣術の頂点に立っていると思っている。この
二人に技だけで対抗出来るのは、せいぜいシャドゥさんと健蔵さんくらいだ。俺も
このレベルに立たなければならない。
 何せ瞬の話では、藤堂姉妹の祖父の秋月さんは、瞬に技で圧倒したらしい。瞬と
俺は、空手と剣術の違いはあるが、技の部分では互角に近い。その瞬が圧倒された
と言うのだから、俺も圧倒されてもおかしくない。
「『闘式』の日まで、やれる事は、全部やります!」
 俺は、偽らざる気持ちを伝える。贅沢かも知れないが、力も技も磨かなくては、
勝ち残れない。その為には、死ぬ気でやらなければ・・・。


 もう何度生死を彷徨ったか分からない。・・・これが『無』の直接の脅威だと言
うのか。・・・生死を彷徨うと言うより、意識が薄れて消え行くかも知れないと言
う恐怖が強い。気が付くと指の先の感覚が無くなったりする。恐らく気を抜くと、
これが進行していって、消え行く事になるのだろう。
 冗談じゃない。僕は消える訳にはいかない。このまま消えたら、『時界』の彼方
に行ってしまった僕に顔向けが出来ない。何としてでも乗り越えて、ケイオスの前
に立たなければならない。恵さんは、絶対にケイオスには靡かないだろう。それは
分かっているのだが、『闘式』の勝利者に与えられる権利がある。それを使われた
ら、提案をしたのはこっちなので文句も言えない。妾なんて、例え形だけでもさせ
たくない。恵さんは僕の大事な人だ。奪われて堪るか!
 それにしても僕は『聖人』としての要素が、本当にあったんだな・・・。こうや
って『魔性液』を取り込んで、初めて感じる。魔神レイモスに取り込まれた時は、
僕は魔族になってしまうのかと思っていたが、ジュダさんとの適合率が高いと聞い
た時に、驚きと喜びを感じた。ジュダさんは神のリーダーだ。その神のリーダーと
適合率が高いと言う事は、『神気』を操る能力に優れていると言う事だ。
 聞けば、瞬君もゼーダさんと相性が良い事から、『神気』を使う能力が高い。だ
が、僕までその能力が高いとは思わなかった。
 ジュダさんから、その点に関して忠告を受けた。僕の体は『聖人』に近いと。レ
イモスの事を話したら、その時に反発出来たのは、皆の力だけじゃないと言われた。
僕自身が『聖人』に近いせいで、レイモスの力に対抗出来たのだとか。言われてみ
れば、その通りだ。レイモスの時も、僕の意識が消えてしまうかと思ったくらいだ
った。だから反発したのだ。レイモスも適合率が低いから、僕の心を弱らせたのだ
ろう。なのにも関わらず僕を選んだのは、単に器がでかいせいらしい。
 だがレイモスの時と違って今、僕は体に直接瘴気を取り込んでいる。追い出す為
じゃなく、受け入れる為だ。だから僕の中の『聖人』の血が反発するのだ。
 レイモスの時は拒否すれば良かったのだが、今回は乗り越えなければならない。
それが、こんなに苦しいとは・・・。中で『魔性液』が暴れまわっている感じがす
る。それを抑えて、何かに目覚めなければ・・・。その何かが分からない・・・。
 予想は付いている。こう言う試練を受けた者のほとんどが、『無』の力に目覚め
ている。だけど、どうすれば目覚めるのか分からない。
 僕の中にある何が・・・乗り越えるための指標なのだろうか・・・。
(何を迷っているんだか。消えちゃうよ?)
 ・・・何だ?この声は・・・。これは僕の声?
(変な意地を張らないでさ。自分に素直になろうよ。)
 素直に?何を言ってるんだ?僕は意地を張ってなんていない。
(恵さんの為?『闘式』で勝利を捧げる?それも本音の一つだろうけどね。)
 一つ?何を言っている。それが僕の目的だ!
(自分の為に強くなる。そうも言ってたね。)
 そうだ。僕は自分の為に、この身に代えてでも!
(馬鹿だなぁ。気が付いてないの?それじゃ意味が無いんだよ。)
 気が付いてない?何をだ?今の僕には、それが全てだよ。
(何を自分を誤魔化してるんだよ。犠牲にしてじゃないでしょ?凄い力を手に入れ
て、恵さんを見返したいんだろ?瞬君に勝ちたいんだろ?)
 馬鹿を言わないでくれ。そんな事の為に力が欲しいんじゃ・・・。
(何で?恵さんの足手纏いになりたくない?・・・綺麗事だね。)
 綺麗事で良いじゃないか!僕は『聖人』に近いんでしょ?
(ふーん。じゃぁ皆より優れていて当たり前だよね?『聖人』なんだからさ。皆、
凄い凄いと言ってくれるよ?気持ち良い事だろうねぇ?)
 皆を馬鹿にするな!強いからとか、『聖人』だからと言う理由だけで、繋がって
いるような、浅い仲じゃないんだ!
(凄い力を手に入れて、皆を従えさせれば良いじゃない?そうすれば恵さんだって
瞬君の事を忘れるくらいに僕の事を見てくれるよ?)
 そんな心構えを持っていたら、恵さんに見捨てられるよ・・・。
(でも、実際そう思っているんだろ?瞬君には勝ちたいよねぇ?)
 瞬君に勝ちたいのは、強引に従えさせる為じゃない!認め合った仲だからこそ、
互いに高めあいたいんだ!
(ふーん・・・。親友ね・・・。親友って何だい?)
 絆で結ばれた仲間だ!瞬君は、僕を救ってくれた仲間だ!
(それって、救われた負い目で、そう思ってるだけじゃないの?)
 な、何て事を!負い目なんかじゃない!僕は本当に感謝している!
(君は救われてばかりだしねぇ?違う『時界』の僕にさえ救われた。)
 そうだよ・・・。だから今度は僕が・・・救う?
(どうしたい?語尾が弱いよ?気が付いた?)
 僕が救うって・・・何だ・・・?皆がピンチになるとでも言うのか?
(そうだよねぇ?今度の大会は『平和』な闘いだよねぇ?)
 そうだ・・・。死人を出さない為に色々努力しているし・・・。
(ピンチになるって事自体が、おかしいよね?何を救うんだい?・・・だからさ。
自分の為に力を使えば良いんだよ。それを誤魔化しちゃ駄目だって。)
 自分の為に・・・力を・・・。そんな・・・。
(君が使えないなら、僕が使うよ。君は休んでいると良いよ。)
 僕の代わりに?・・・君が・・・。
(受け入れられないなら、任せれば良い。君の素直な心が僕なんだからさ。)
 僕の素直な心が君?・・・違う・・・。違う筈だ・・・。
(どうして其処まで否定するんだい?苦しむだけだと言うのに。)
 僕は・・・乗り越えなきゃ・・・。
 僕は・・・どうなりたいんだ?・・・このまま強くなって・・・。どうしたいん
だろう?・・・そうか・・・。それが分からないから、苦しいのか・・・。
(自分の事を犠牲にするばかりで、前に進もうとしない君には分からないよ。)
 前に・・・進む・・・。前に!!
(・・・え?な、何だ、この力は!!)
 そうだ・・・。僕は否定するばかりで、前に進む事を忘れていた!
(急に強く・・・!君は、まだ苦しむ気か!!)
 違う・・・。僕は強くなりたいと思った。それが自分の為だと言い続けた!だけ
ど心の何処かで、恵さんの為だと思っていた!皆の為だと思っていた!僕自身のエ
ゴの筈なのに!皆の事を理由にしていた!!
(何だ。分かっているんじゃないか。そうだよ!それで良いんだよ!)
 ・・・君の言う通りだ。それで良いんだ。
(え?・・・やけに素直だな・・・。)
 それを否定するのが、この苦しみの原因だったんだ!僕は僕自身の為に闘う!そ
して、皆の為に闘う!!どっちも否定しない!!
(・・・何だ・・・。気が付いちゃったか・・・。)
 そう・・・。君に負けない。消えて堪るかという心が、既にエゴだったんだね。
(そうだよ。僕は、君自身も大事に思う心を付けて欲しかった。)
 だからこその進化・・・。そして、どっちも受け入れる事で、純粋に闘う力に変
わる。全ての蟠りを『無』にして闘う!それこそが、『無』の本質!!
(心を否定して消えるより・・・全てを受け入れて生きる。それが大事だ。)
 ・・・僕の心の中の欲望の心。それが君だったんだね。・・・今まで抑え付けて
いて御免ね・・・。君は僕の心の一部だったんだ・・・。
(分かれば良いんだよ。僕は君の力の一部でもあったんだから。)
 僕の欲望の力を、駄目な力と断じていた。それが・・・僕の心の弱さ。
(誰もが持っていて、誰もが受け入れ難い。しかし大事な心だよ。)
 そうだね。そして、逆に皆の為になりたいと言う・・・誰かの為に役立ちたいと
言う心も・・・。心の強さの一つ・・・。それを合わせて、清濁合わせて生きる強
さを身に付ける事が、僕には必要なんだ!
(はぁー・・・。乗っ取ってやろうかと思ったんだけどなぁ。君の心が抵抗し続け
れば、このまま消えていたし、諦めれば僕が乗っ取る筈だったんだけどね。)
 だけど、僕は気付いた。君と共に融合すると言う道にだ。・・・一緒に行こう。
もう乗っ取るとか乗っ取らないとかじゃない。君と共に進む覚悟は出来た。
(カッコ付けるね。良いよ。行こうじゃないか僕。僕の力を使って・・・ね。)
 勿論だよ。僕の大事な力だしね。必要な時は呼び出すよ。さぁ、行こう!!
 僕は、強くなるんだ!そして、皆に必要だって言われるんだ!認めてもらうんだ!
その力を使って、恵さんと共に歩むんだ!ケイオスを超えたい!!僕は、僕の可能
性を信じて、ケイオスを・・・超える!!『神気』も『瘴気』も僕の力だ!どちら
も使いこなして、超えてみせる!!


 待つと言う行為は、凄く焦れったい。しかも、それが生死に関わる出来事なら尚
更だ。いや、消滅に関わる事だから、もっとだろう。
 俊男さんが異次元で苦しむようになって、もう2週間だろうか?私は、片時も忘
れた事は無かった。俊男さんの成否は、私にとって最優先事項だ。修行しながらも
俊男さんの事を待つ日々だった。
 だから、俊男さんの残滓を忘れないように、俊男さんが異次元に入った場所は、
常にチェックしていた。暇があれば、『制御』のルールで残滓があるか、チェック
しにいっていた。今もそう。俊男さんは、まだ苦しんで・・・。
 ・・・と、止まった・・・?俊男さんの気配が消えた!!ま、まさか!!
「い、行かないと!!・・・俊男さん・・・。俊男さん!!!」
 私は、血の気が引いた。俊男さんに限って・・・負けてしまったの!?
「恵様!どうなされました!?」
 睦月が私の様子を見て、取り乱していた。私はそれ以上なのだろう。
「俊男さんの気配が!!嘘よ!!こんな!!」
 私は、俊男さんが入った場所に全速力で向かう。消えないで!!消えちゃ駄目!!
 無我夢中だったが、異次元の跡の所まで辿り着いた。途中に何があったのかさえ
覚えていない。我を忘れるとは、こう言う事か・・・。
「俊男さん!!消えちゃ駄目よ!!私を置いて行かないで!!」
 もう待つのは嫌だ!あんな想いは、もうしたくないの!!
「俊男さん!!!」
 私は、異次元の扉をこじ開けようとさえする。でも開かない!
「恵様!!お気を確かに!!」
 睦月も慌てて追いかけたのだろう。メイド服が傷だらけになっていた。
「あ・・・。睦月・・・。俊男さんが!」
 私は、膝を突いてしまう。嘘だ・・・。俊男さんが消えるなんて・・・。
 あ、あれ?消えて・・・あれ?・・・消えたんじゃない!?
「な、何これ・・・。俊男さんの残滓が消えたんじゃないの!?」
 私は、膨れ上がる力に驚く。こんな物凄い力を・・・誰が・・・。もしかして、
俊男さんが!?し、信じられない!ケイオスよりも、凄いかも・・・。
 すると、空間から指が現れる。これは・・・俊男さんの指!
「俊男さん!!」
「・・・恵さん?・・・来ていたんだね?」
 俊男さんだ!俊男さんの声だ!!
「よっし・・・ハァァァァアアアアア!!!!」
 俊男さんの声が響き渡ると、異次元が一気に割れ始める!そして俊男さんは、姿
を現した。す、凄い・・・。俊男さんは消えたんじゃない。変わったんだ!俊男さ
んは、生まれ変わるかのように変わったから、消えたように感じたんだ!
「俊男さん・・・なの?」
「うん。恵さん!ただいま!!」
 俊男さんは、爽やかに受け答えする。しかし、髪の毛の生え際が暗黒色になり、
先は金色に輝いていた。そして、右手に『神気』、左手に『瘴気』を宿していた。
「す、凄いわね。全身から力を感じますわ。」
 そう。本当に、これが俊男さんなのかと思う程だ。
「僕の心の弱さを乗り越えた時に、力が溢れて来たよ・・・。」
 俊男さんは、晴れやかだった。何か憑き物が落ちたような顔をしていた。
「そう・・・。頑張ったのね。この力は・・・。その心の強さの証なのね?」
 私は、俊男さんが口先だけで力を求めたとは思っていない。本当に心が強くなっ
たから手に入れた力なのだろう。今感じる力は、俊男さんとジュダさんが一緒にな
った時に匹敵する力だ。
「僕は、誰かを守る為に、自分を捨てなきゃならないと思っていた。・・・そして、
その誰かを守れれば、それでも良いと思った。・・・だけど、それじゃ駄目なんだ。
僕自身、本当に強くなって、何がしたいのかを示さなきゃ駄目だったんだ。」
 俊男さんは優しくだが、確かな決意を持った目で言った。こんな自信溢れる俊男
さんは、初めて見た。どこか遠慮している感じが、今は感じられない。
「僕は僕自身の為に勝つ。それが、君と一緒に生きる道になるんだ。」
 この自信を、俊男さんは今まで、抑え付けていたのかな?
「ケイオスを倒す。その為の力は、此処に手に入れた!後は、確実に勝つ為に、修
行をしよう!僕は絶対に勝ってみせる!」
 俊男さんの揺ぎ無い目・・・。凄いわね・・・。っと・・・見惚れてたわ・・・。
「ええ。勝ちましょう!私も力を付けるわ!」
 私は、この人になら付いて行けると思った。何処までも付いて行く気ではあった。
けど、この逞しさは、以前には無かった事だ。私とした事が、惚れ直しちゃうなん
てね。楽しみになってきましたわ!


 力とは不思議な物よ。十分に強いと思っても、更に上があると思ってしまう。際
限無く求めてしまう。だが、純粋なる力は嘘を吐かない。だから、その力を身に付
けた者は正しいのだ。そこには修行なり、苦しみなりを乗り越えた証が刻まれてい
る筈だ。それこそが『覇道』の考え方だ。
 我もその考え方には、大いに賛同する。魔族だからと言うのもあるが、分かり易
いからと言うのもある。一番強い者は、乗り越えた証が多いのだ。だからその者が
世を治めるのは道理だ。
 我は、ハイネスの修練の進み具合をケイオスに報告していた。ケイオスも気にな
っていたようだし、ハイネスもそれに応えていた。
 ケイオスは、誰に対しても分け隔てなく接している。家族だからと言って贔屓す
るつもりは無いようだ。それが魔界の主たる者の責務だと分かっているようだ。
 健蔵からも報告があったので、メイジェスの事も教えておいた。今は、壁にぶち
当たっている最中だと言う。強くなりたいのになれない。どう強くなったら良いの
か分からないらしい。良くある事だ。魔族に限らず、誰もが経験した道だろう。
「ハイネスもメイジェスも、課題を決めて取り組んでおるようじゃな。感心じゃ。」
 横で聞いているエイハも、満足そうだ。エイハは、かなりの教育熱心な母親だ。
まぁそれも、ケイオスに気に入られる為でもあるのだろう。
「余の子と言っても、特別扱いする気は無い。更に鍛えてやるが良い。」
 ケイオスは自分の子だから、特別に鍛えろと言ってるのでは無い。ケイオスの満
足の行く強さになって欲しいから言っているのだ。とは言え有望株だとは思ってい
るのだろう。期待はしているようだ。
「余は、楽をして覇者になるつもりは無い。強き者は、どんどん出て欲しいのだ。
・・・!!む!!この猛烈な波動は!!」
 ケイオスは、ガリウロルの方向を見る。・・・む・・・?うお!!この凄まじい
までの力は何事だ!このような噴出する力の持ち主が居たのか!?
「これは・・・間違い無い!フフフハハハハハ!!」
 ケイオスは、実に嬉しそうに笑みを浮かべる。どうやら出処を知っているようだ
な。それにしても、信じられぬな。我が全力を出し切った所で、この力に敵うか分
からぬ。奥の手を使っても・・・勝てるかどうかだ。
「御方様・・・。この力、御方様を凌ぐ勢いですじゃ・・・。」
 エイハも信じられないのだろう。ケイオスは強く気高く圧倒的な力を見せてきた。
そのケイオスに勝る勢いの力が出て来たのだ。
「これだからソクトアは面白い!!この気配は、余が期待したあ奴だ!!」
 ケイオスは、確信を得ているようだ。
「あの島山 俊男とか申す者か?人間が、こんな力を宿せる物ですじゃ?」
 エイハも事情を知っているようだ。これが人間だと!?
「この力を発しているのが人間だと・・・?化け物か?そ奴は・・・。」
 我の見解では、このような巨大な力は、魔族や神をもってしても難しいと言うの
に・・・。人間が持てる力なのか?
「レイモスが惚れた器であり、竜神が宿っていても遜色無く発揮出来る逸材だ。」
 そこまでか・・・。しかもその力にケイオスも注目したと言う訳か。
「御方様・・・。此方は心配ですじゃ。」
 エイハも警戒する程の力。ケイオスが負けるかも知れないと思っているのだろう。
「何を沈んでおる!喜べ!余の楽しみが増えたわ!・・・余の強さと本気で渡り合
える者が現れたのだ!・・・これだ。このような力と出会いたかったのだ!!」
 ケイオスは至上の喜びに打ち震えていた。
「お主の力への欲求は、度が外れているな。敵にすら求めるとは・・・。」
 我は呆れる。自分だけで無く、敵にも力を求め、果てしなき死闘を求める羅刹の
如き魔族。これは筋金入りと言っても良い程の力の殉教者だ。
「敵では無い。余は、この者を打ち負かして、余の部下とするつもりだ。」
 ケイオスは、そうやって、力を求めては、闘いを繰り広げたのだろう。
「何ともお主らしい。やってみると良い。我は、この事実を伝えて、ハイネスを鍛
え上げてやる。励みになるだろう。」
 ケイオスの気が倍増したと言うだけでも、やる気が違って来る物だろう。
「ワイスよ。貴公のような理解ある者に息子を預けられるのは、光栄である。」
「フッ。少しは家族への情が湧いたか?」
 ケイオスも、全く気にならない訳では無いようだな。ま、我は自分の修練にもな
るので、そのついでにやってやるだけだがな。楽しみな逸材である。
「さてな。だが余の血を引いているのならば、余を楽しませる事が出来る逸材にな
って欲しい物よ。それは偽り無き心だ。」
 成程。我の健蔵へ対する心に近いか。やはり親子だな。
「フフフハハハ!力を見せてくれた礼をせねばならん・・・。余は、この力をねじ
伏せて、君臨してみせるぞ!・・・エイハよ。本腰を入れて修練を開始するぞ!」
「了解なのじゃ。こうなった以上、最後まで付き合いますのじゃ。」
 ケイオスは嬉々として展望を話し、エイハは、それを支える。何とも良く出来た
妻だ。仲の良い事だな。
「では、我はこれにて去ろう。その内、健蔵達と共に此処に確かめに来る。互いに
腕を磨いて置くとしようか。我も楽しみにしているぞ。」
 我はケイオスに、それだけ言い残して去る。
 そうだ。我がする事は、恐怖に脅える事では無い。共に闘う準備をする事だ。
 そして、何よりも我の血も騒ぐ。何も、心が躍ったのはケイオス一人では無いと
言う事だ。我も闘いたいと思ったのだ。
 心の思う侭に闘いに備えるとしよう・・・。


 いつか約束された日だった。この星を救うと決めていた時から、約束された闘い
だった。俺なんかが敵うかどうか分からない。でも、やるしかないんだ。この星の
流儀で説得をして、この星の者を救ってみせる。滅びへ向かう道を違えてみせる。
 だが、この俺に本当にそんな事が出来るのか?・・・正直に言えば、自信は無い。
俺はアイツ等のような天才じゃない。いざと言う時に、サッと現れて敵を倒してく
れるアイツ等とは違う。瞬や俊男は凄い奴等だ。アイツ等と一緒に居ると、負ける
気がしない。どんな困難も、乗り越えてくる。
 俺は、未だに罪の意識は拭えない。アイツ等は赦してくれたし、俺を仲間だと言
ってくれる。俺も心からの仲間だと思う。だけど、犯した罪が消える事は無い。だ
から、二度とあんな事をしないと誓っている。俺は俺が守りたいと思った者を、本
気で守りたい。それは、俺の身では過ぎた願いかも知れない。でも、そう願う事は、
間違いなんかじゃ無い筈だ。
 ・・・かつて、瞬も同じだったと言う。瞬は、正しく強く生きたいと願った。過
ぎた願いを叶える為に、強くなったと言う。そして、レイクさんもそうだった。レ
イクさんは、仲間を救う為に命を張った。そして俊男も、そうだった。アイツは馬
鹿だ・・・。俺達の為に『時界』を超えて助けてくれた・・・。今居る俊男も、皆
の為に命を張れる男だ。
 そんな偉大な仲間がやった事を、この俺が・・・。出来るのだろうか?皆を救う。
言葉に出すのは簡単だ。だけど実際にやるのは、不可能に近い。俺は、出来るのだ
ろうか?・・・逃げるか?・・・またあの時のように・・・楽な方に逃げるか?
 俺は・・・逃げないぞ・・・。正直おっかないが、此処まで来たら、自分を信じ
るしかない。それが如何に大変か身に染みるけどな・・・。
「魁ー。そろそろ出番だってー。」
 この声はルードだ。思えば、コイツも俺に懐いてから、ずっと付いてきてる。
「・・・よっしゃ!行くか!!」
 俺は、気合を入れる。これは避けられない闘いだ。このルードを救う為でもある。
「魁さー。レーデル様に勝つつもりなのかー?」
 ルードは聞いてくる。そんな心配そうな声出すなよ・・・。
「心配そうだな。ま、勝てそうに無かったら、降参するよ。心配すんな。」
 俺は安心させる為に言う。しかし降参する気など更々無かった。
「魁さ。そこまでして叶えたい願いって何なんだ?」
 ルードも、俺が余りに一生懸命なので、気になっているのだろう。
「そりゃお前、俺っちに美味い飯を食わせて貰うように頼もうかと思ってなぁ!」
 俺は、適当に誤魔化す。本当の事を言っても、心配させるだけだ。
「嘘吐くんじゃねーよ。俺、魁とは、まだ3週間の付き合いだけどさ。飯の為だけ
に命張るような男には見えないね。俺達に関係あるんだろ?」
 さすがに、わざとらしかったかな・・・。
「あーあ。さすがに気付くか・・・。」
 俺は、隠し通せないなと思った。
「でも聞かないよ。どうせ魁が勝ったら、聞けるもんな。」
 ルードは、そう言うと、これ以上聞こうとしなかった。コイツ、俺が勝つと信じ
てやがる。全く・・・。こんな俺にも、信じてくれる奴が居たんだな。
「ったく。しゃあねーな。いっちょ勝ちに行くか!」
 俺は、努めて明るく答えた。
 そして、闘技場の控え場でザインに会う。
「魁。もう何も言わん。やれるだけやれ!」
 ザインは、背中を押してくれる。やれるだけやれ・・・か。そうだな。ウジウジ
考えてても仕方が無い。やるしかねぇ!
(魁。聞こえるか?魁。)
 ・・・この声は・・・ジュダさん?
(ああ。お前に渡した通信のエメラルドで話し掛けている。)
 そういや渡されたっけ。此処は、電話が使えないから、便利ですね。
(その為の宝石だから当たり前だ。それより・・・お前、やっと其処まで辿り着い
たんだな。こっちは、もって後1週間だ。今回負けたら次があるなんて、思うんじ
ゃねーぞ。良いな?)
 分かってますって。それくらいの気持ちじゃないと、勝てませんよ。
(・・・言うようになったな。お前が自力で其処まで辿り着いた事は、褒めてやる
よ。後は結果だ。頼むぜ相棒!)
 ・・・はい!やってみせます!!
 後は結果・・・か。そうだな。せっかく此処まで来たんだ。勝たなきゃな。
 俺が闘技場に姿を現すと、凄い数のリーゼル星人が、歓声を上げた。この数、リ
ーゼル星の、ほぼ総人口じゃないのか?長老に聞いた数だと、1万人行くかどうか
って話だったし、それくらい居るぞ・・・。
 そして中央に一際大きいリーゼル星人が居た。レーデルさんだ。間違い無い。歴
戦の勇者の証として、腕と足には凄い数の傷があるが、背中には一つも無い。後退
した事が無い証拠だ。そして、あの精悍な目付きは、相手を圧倒する・・・。って
ーか、こええ・・・。おっそろしい目付きだ。
 おっかねぇのは知っていたけど、ここまでかよ・・・。棄権しようかな・・・。
此処まで来たら、そうも行かないよなぁ・・・。
「・・・緊張しているようだな。私を目の前にしては仕方が無い事だが。」
 この声は、レーデルさんか?
「あ・・・よ、宜しくお願いします。」
 俺は、間抜けな声を上げる。声が上ずってる気もした。
「君の噂は聞いていた。異星人でありながら、リーゼルの掟を変えようとする者だ
とな。この星と共に歩むリーゼルの掟を破る者だとな。」
 レーデルさんは、低い声で言う。怒ってるのかな・・・。
「お。俺は・・・馬鹿ですから・・・。皆を助ける方法が、他に思いつかなくて。」
 俺は、言い訳臭い事を言う。他にも方法があるかも知れないよなぁ。
「私は、正直・・・感動した。」
 やっぱり怒って・・・って、え?
「私はこの星の勇者などと呼ばれている。この星の為に、この身を犠牲にしてきた。
だが、掟に逆らう勇気は、持てなかった。」
 レーデルさんは、物静かな目をしていた。何だろう。さっきまでのおっかない目
付きじゃない。これは、親愛の目だ。
「滅びの運命を辿る我らも、殉じる事への美しさと諦めていた。・・・だが、君は
違うのだろう?・・・ただ私達を助けたいが為に、強くなろうとし、私との決闘を
選んだ。それは、勇気ある行動だ。」
 レーデルさんは、何かを伝えようとしているのか?
「お、俺は・・・世話になった奴を、ほっとけないんです・・・。」
 この3週間、ザインには世話になった。村の人にも良くしてもらった。ルードと
は、仲良くなれた。その彼らを見捨てられない。
「それが、勇者への第一歩だ。放っておけない。誰かの為に何かをする。それは、
闘う事でしか示せない我らには、中々成し得ない感情なのだ。」
 ・・・そう言えば、ザインが言っていた。リーゼル星人は、強い者を認める傾向
にある。それは、リーゼルの者達が戦士でありたいと思うからだと。なので、自ら
を鍛えるのが第一で、他者の為に働く者は、殆ど居ないのだとか。戦士の世話をす
るのは、当然とも言える行為で、戦士を気持ちよく送り出す事は、名誉なのだとか。
 ザインが修練に付き合ったのも、俺が長老の話を聞いて、レーデルさんと闘う事
を決めたからだ。闘う者を最大限にバックアップするのは、戦士の務めなのだとか。
それだけ、闘いに誇りを持っているのだ。
 この星随一の戦士であるレーデルさんは、その庇護を受けて頂点に立ち、この星
の邪悪な化け物や、奥に潜む恐竜などに立ち向かい、勝利してきた勇者なのだ。
「我が身を呈して他の者の為に闘う気高さが、どれだけ大変なのか、私は知ってい
る。君は、この星に来て間も無いのに、それを示し始めている。それは称えるべき
行動だ。・・・そんな君と闘えるのを、私は光栄に思う。」
 レーデルさんは、俺の事を褒める。何だか照れ臭いな。それにこの人は、怖い顔
立ちをしているが、思い遣りがあって、人の上に立つ資質に溢れている。
「お主の願いは、知っておったからな。闘技場に、この星の者を集めるように、手
配しておいたんじゃ。我等は賛成出来ぬが、チャンスくらいは与えよう。」
 長老が話し掛けてきた。そうだ。長老は、この星と共に滅びるつもりだ。ジュダ
さんの問い掛けすら拒否した筈だ。なのに俺に、こんなチャンスをくれたんだ。
「レーデル!!レーデル!!」
 闘技場は、レーデルさんを称える声で溢れている。この決闘を楽しみにしている
のだろう。もうすぐ滅びる運命にあるからこそ、最後まで楽しもうとする。それが、
戦士の星としてのリーゼル星人の生き方だった。
「皆の者、今日ここに居るソクトア星人の桜川 魁は、我等に伝えたい事項がある
と言う。じゃが我等の掟により、強き者かどうか、確かめる儀を執り行う。」
 長老が皆に話し始める。皆、黙って聞き始めた。
「この者が強き者かどうか確かめるのは、我等が勇者、レーデルじゃ!」
 長老がレーデルさんを紹介すると、一層の歓声が上がった。
「レーデル殿!気高き闘いを期待してますぞ!!」
「我等が勇者の力を、この目で見届けます!!」
「勇者の闘いを忘れはしません!」
 所々で声が上がる。この声を聞いていても分かる。皆は、この星の滅びの運命を
忘れている訳じゃない。心に焼き付けて運命を共にしようとしているのだ。本当に
此処の奴等は頑固だ。
「ソクトア星人、桜川 魁よ。我等が流儀に付き合ってくれる事に感謝しますぞ。」
 長老は俺にも礼を述べる。本当なら、このまま帰っても、文句は言われないのだ。
「お、俺は、今更引き返す気は・・・無いです!」
 勢いで言ってやった。本当はマジで怖い。
「皆の者!!この私の闘いを見逃すな!!」
 レーデルさんは、戦闘モードに入ったのか、雄叫びを上げる。何と言う重厚な轟
きなんだ・・・。これが、勇者レーデルの雄叫びか。
「魁よ。君の心意気は評価する。だがリーゼルの掟は、果て無き強さこそが絶対だ。
君の強さの真偽を確かめる為、私は容赦しない!!」
 レーデルさんは、四肢に力を入れると、体の色が赤くなる。
「うわ。怖いなぁ・・・。」
 俺は口に出して言う。雰囲気に飲まれそうだぜ。でも・・・。
「お、俺は逃げません!やるだけやってみせますよ!!」
 俺は、自分に言い聞かせるように言う。もうヤケクソだ。こうでも言わないと、
雰囲気に呑まれちまう。自己暗示をかけるしかない。
「よぉ言うた!!ここに双方の闘いに懸ける意思表示が為された!!我等が法によ
り、これよりレーデルと桜川 魁の決闘を始める!」
 長老は、そう言うと、後ろに下がる。俺は、この3週間愛用してきた棍棒と盾を
構える。俺は、盾を後ろにして、棍棒を前にして構える。
「おい。あのソクトア星人、レーデル様相手に盾を使わぬ気か?」
 後ろで、ざわめきが起こる。普通なら盾でしっかり守って、守りきった後攻撃と
言うのが、セオリーだ。しかし、レーデルさんの方が、明らかに攻撃の速さも力強
さも上なのだ。そんな相手に守りきろうとしたって無理だ。
「まずは、第一関門をクリアと言った所だな。だが、君に私の攻撃が捌けるか?」
 さすがレーデルさんだ。俺の目論見などバレている。俺が、こんな構えをした理
由は、レーデルさんの攻撃を寸での所で見切る為だ。盾で防ぐのでは無く、盾で捌
く為だ。捌くと決めた以上、盾の中で縮こまっていては駄目だ。だから、こんな構
えになるのだ。
「では、レーデルよ!魁よ!双方用意は良いな!・・・始め!!」
 長老が、腕で合図をする。すると、場内が完成で湧いた。
「行くぞ!!」
 レーデルさんは、中腰で棍棒と盾を構えながら、こちらに突っ込んできた。そし
て、俺に向かって棍棒を振り下ろしてきた。
 ガン!!ギィン!!
 レーデルさんの棍棒の連撃を、ギリギリのタイミングで何とか盾で捌く。
 な、何とか出来た・・・。でも、思ったよりずっと早い。さすがだ。
「勇気ある見切りだな。私も楽しめそうだ!」
 レーデルさんは、更に激しい動きで俺を攻め立てる。俺は必死の見切りで攻撃を
捌く。冗談じゃねぇ。何だこの速さ。攻撃する暇なんてあった物じゃねぇ。
「てぇい!!」
 俺は、レーデルさんの攻撃を弾きながら、何とか棍棒を振り回して反撃する。
「む・・・。中々やる!だが!」
 レーデルさんは、俺の攻撃など簡単に防ぎ切る。しかも、俺の攻撃に合わせて、
盾で棍棒を弾こうとする。・・・っと、あぶねぇ。棍棒を手放さずに済んだ。
「相当に鍛えられたようだな。ならば、私も本気が出せそうだ!」
 レーデルさんは、目の色が変わる。そして、今までよりも激しく棍棒を振り下ろ
してきた。うわ!すげぇ!やば過ぎる!捌いてる腕が痺れる程、激しい攻撃だ。
 ガァン!!
 俺は、レーデルさんに弾き飛ばされた。盾ごと吹き飛ばされた所に、脇腹に一撃
食らった・・・。いってー・・・。こりゃ凄い・・・。
「もう終わりか!?」
 レーデルさんは、俺を睨みながら近付いてきた。
「・・・いや、まだですよ!!」
 俺は、気合で立ち上がると、棍棒を有らん限りの力で振り回す。
 しかし、レーデルさんは、余裕で防ぎ切っている。
「甘いぞ!!こんな攻撃では、私に掠り傷一つ与えられん!」
 レーデルさんは、俺の攻撃など問題も無く防ぐ。何て硬いんだ・・・。まるで壁
だ。壁が迫ってくるかのようだ。
「フン!!」
 レーデルさんは、俺を盾越しでも構わず攻撃を加えて吹き飛ばした。体重差が出
ている。それだけじゃない。何て重い一撃なんだ。腕力が半端じゃない。
 やっぱり・・・『普通』の攻撃では、勝てやしないか・・・。予想はしていたけ
ど、ここまでだと、少しへこむぜ。
「異星の勇者よ・・・。ここまでか・・・。ならば、終わりにしよう!」
 レーデルさんは、目を見開いて、棍棒を振り下ろしてくる。
 やるしかねぇ!俺が、この前編み出した『これ』で!!
 バシィ!!!
 俺は、レーデルさんの攻撃を両手で弾いた。
「んな!今のは一体!!?」
 レーデルさんは驚きを隠せない。そう。俺がやった戦法は、棍棒と盾と言う戦法
その物を覆すやり方だ。それは、棍棒を盾の後ろに持って行き、重みを増して、両
手で振り回すと言う戦法だった。いくらレーデルさんの攻撃が重いと言っても、俺
の全体重に、棍棒と盾を合わせた力よりは下だ。だから、全部合わせて攻撃する。
防具である筈の盾を鈍器として使って攻撃する。それが、俺が編み出した戦法だっ
た。棍棒は、盾と共に重みに加えたのだ。
「うおおおおお!」
 俺は、両手を合わせながら、レーデルさんの棍棒に両手を思いっ切り叩き付けて、
レーデルさんが怯んだ隙に、脇腹に一撃食らわす。それも両手でだ。
「む!!ぐっふ!!」
 レーデルさんは、完全に入ったのか、腹を押さえる。
「出た!魁の新戦法!」
 ルードは、はしゃいでいる。ザインに見せた時も、驚いていたな。
「・・・フフフ。さすがだな。君は我が星の人間よりも、頭が良いようだ。我が星
の人間は、決まった事を決まっただけ、こなす事しか出来ぬ。今のような戦法を思
いつくまでに、至らぬのだ。」
 レーデルさんは俺を褒める。リーゼル星人は、力と速さに優れている。だが頭脳
では、俺の方が上だ。そこで何とかするしかないのだ。
「アンタが強いから、こうでもしないと、勝てないと思ったんだ!」
 俺は、そう叫ぶと、またしても同じ戦法で、レーデルさんに対抗する。
 ガン!!バシィ!!ドボォ!!
 俺の攻撃が、レーデルさんに当たりまくる。行ける!
「ヌゥオオオオ!!」
 レーデルさんは、雄叫びを上げる。そして俺の攻撃を躱すと、脇腹を蹴って来た。
「うあああ!!」
 俺は、脇腹を押さえた。さすがに油断してると、すぐにこうなるな。
「君の攻撃は、芯まで響いた。誇りある一撃であった・・・。その君に、敬意を表
して、私の最高の技を披露しよう!!」
 レーデルさんは、棍棒と盾をお腹に集める。そして、力を溜めているような仕草
をする。いや、実際に溜めているのか?・・・これは、ヤバイ予感がする。大体、
普通の攻撃だけで、勇者と言われる程、凄い攻撃を繰り出すレーデルさんが、最高
の技と言うくらいだ。どんな技なのか、想像も付かない。
「フン!!」
 レーデルさんは、低い姿勢のまま突っ込んできた。そして、盾で俺を打ち上げる
ように突き上げる。そして浮いた所に、棍棒で滅多打ちにしてきた!
 ババババババババ!!
 うぐあ!何て激しいんだ!意識が・・・飛ぶ・・・!
 レーデルさんは、最後の一撃を入れると、俺は吹き飛ばされた。
「盾での突き上げの後の13連撃。・・・私の必殺技だ。」
 レーデルさんの声が聞こえる。13連撃とか・・・信じられねぇ。その攻撃を出
す為の力溜めだったのか・・・。レーデルさんも、肩で息をしている。
「おい!魁!ここで終わっちまうのかよ!」
 ルードの声が聞こえる・・・。だが、もう動けねぇ・・・。救うって思ったのに
よ・・・。レーデルさんって壁は、でかかったぜ・・・。
(魁君・・・。魁君は・・・無事に帰ってくるよね。)
 この声は!莉奈!!
「莉奈!お前なのか!!」
 俺は、意識がハッキリして来た。まだ倒れているが、意識を失っちゃいない。今
のは、幻覚?・・・いや、違う。アイツの事だ。俺の事を未だに心配しているに違
いない。その声が、此処まで届いたんだな。
「魁。君は良くやった!だが、勝ったのは、わた・・・何!?」
 レーデルさんが勝利宣言をしようとする前に、俺は脚をふらつかせながらも、立
ち上がった。莉奈が遠くから応援してくれている。こんな所で、諦めて堪るか!!
「レーデルさん。アンタ強いよ・・・。だけど、俺は諦めが悪くてな!!」
 俺は、気力で立ち上がる。何かが体の中で湧き上がるのを感じた。魔力とも違う。
これは・・・何だ?身体はフラフラなのに、倒れる気がしない。
「何と言う『闘気』・・・。君は、その身にそれだけの気力が眠っていたのか!」
 ・・・『闘気』?そうか。これが『闘気』か。俺になんか無い物だと思っていた。
「だが、その体で何が出来る?私も傷を負っているが、今の君を、跳ね返す事くら
い出来るぞ。立ち上がったからには、何かを見せてみろ!」
 レーデルさんは、壁のように立ち上がる。本当にすげぇよな。マジで壁だよ。だ
けど、レーデルさんだって苦しい筈だ。さっきの技は、常識を超えていた。体に掛
かる負担も大きいのだろう。だから、追撃に来ないのだ。
「俺は、ここで闘い方を学んだ!そして、自分なりの闘い方を見付けた!そんな俺
の全てを表現するんだ!俺は、まだ終われない!!」
 俺は、思いの丈を話す。此処で過ごした時間を、無駄にして堪るか!
 俺の出来る事・・・。それは全てをこれに込めて、突っ込むんだ!!
「ふおおおおおお!!」
 俺は、棍棒と盾に、想いの全てを託す。小難しい事は、考えるな!!俺の全てを
この棍棒と盾に込めて、突っ込む!それが俺に出来る全てだ!!
「来る気だな!良かろう!私は逃げぬ!」
 レーデルさんは防ぎ切るつもりでいた。と言うより避けようとしても無駄だと悟
ったのだろう。俺は、避けようとした所にも対応出来るように、しっかりとレーデ
ルさんを見据えていた。
「うあああああ!!!」
 俺は、声を振り絞って雄叫びを上げる。
「君の勇気には感服した!だが、私に勝つ事など出来ぬ!!」
 レーデルさんは、俺の肉弾に対して、思いっ切り棍棒を叩き付けて来た。腕が痺
れる!だけど、まだまだいける!!俺は、レーデルさんの圧力を感じたが、構わず
突っ込む!もうこれくらいしか手が無いんだ!
「俺は・・・諦めない!!!」
 俺は、そう言うと、レーデルさんの棍棒を弾き飛ばした。そして、盾を前にして
突っ込む!レーデルさんは、盾を引き戻して防ごうとするが、甘い!
 バシィィィィィ!!
 物凄い音が鳴った。そして、確かな手応えがあった・・・。俺は、気力で振り返
る。レーデルさんは立っていた。失敗か・・・。
「・・・見事であった。異星の勇者よ・・・。」
 レーデルさんは、そう言うと、レーデルさんの付けていた鎧が剥がれ落ちていく。
そして、盾の形に胸に痣が出来た。
「ぐふぅ!!!」
 レーデルさんは、片膝をついて、跪く。
「勝者!桜川 魁!!」
 長老は、俺の勝ちを宣言した。・・・か、勝ったのか・・・。
「おおお!新しい勇者の誕生だ!」
「レーデル様を倒すとは!感服したぞ!」
 会場は、俺の事を称える声も大きくなってきた。
「見事じゃ。魁よ。」
 長老が、俺の事を労ってくれる。実感は無いが・・・勝てたんだな・・・。
「魁よ。お主の望みを、言ってみるが良い。」
 長老は、覚悟を決めたように言う。そうだ。これからが正念場だ。まだ気を失う
訳にはいかない。この星の運命を、変える!
 俺は、気力で闘技場の真ん中まで行く。そして、周りを見渡した。長老から、マ
イクのような物を受け取る。この星の集音機だ。
「・・・俺は、違う星から来た桜川 魁です。」
 俺は、まず自己紹介をする。まだ、俺の事を良く知らないリーゼル星人も居るか
らだ。ルードが、こちらを見て、応援してくれていた。
「知っている人も居ると思う。・・・この星は、一週間後に『命の火山』が大爆発
を起こす。放って置けば、此処の居る皆も死んでしまうだろう。」
 俺は、隠さずに言う。しかし、反応は大きくなかった。やはり気が付いている人
がほとんどだった。気が付いていて黙っていたのだ。
「皆は『命の火山』と共に生き、共に死ぬのが掟だと言っていた。・・・俺は、最
初こそ訳が分からなかったが、今は違う。・・・この星で生活してみて、火山の恩
恵が、どれくらい影響しているのか、身に染みた。」
 この星で生活してみると、水を得るのも火山から。生物を育てるのも火山の恩恵。
食事を炒めるのも火山の恩恵なのだ。火山は命の源であり、恵みである。
「俺は、たった3週間だけど、この星で生活してみた。だから、皆がどんな事を思
って生活しているかも知ってる。この星に、どれだけ誇りを抱いているのかも知っ
てる。・・・だけど、俺の願いを聞いて欲しい!」
 俺は、本題に入る事にした。このままじゃ駄目なんだ・・・。
「俺は、このまま皆が火山に飲み込まれるなんて、嫌だ!見てられないんだ!」
 助けたい。この滅びから助けたい。それだけなんだ。
「今、ジュダさんが火山を鎮静しに行っている。・・・毎日兆候を見つつも、鎮め
てる・・・。だけど火山の噴火するパワーが凄くて、今のままじゃ、後一週間で、
予定通り『命の火山』は大爆発するって言ってた!」
 ジュダさんは、毎日のように火山を鎮静しに行っている。食事と休憩以外は、ほ
ぼ休み無しでだ。それだけ火山が危険なのだ。いつ噴火してもおかしくない。
「爆発を止めるには、皆の願いが必要だってジュダさんは言ってた!それさえあれ
ば、噴火を鎮静する力が集まるって言ってた!だから、鎮まるように願って欲しい!
俺の願いは、それだけだ!」
 俺は、声を張り上げて言った。この星の皆は、掟が強い。余程強い願いじゃなけ
れば、動かす事など出来ないだろう。
「・・・薄々感付いてはいたが、本当だったとは・・・。」
「しかし、掟がある・・・。火山を鎮めるなど・・・。」
 やはり中々納得してくれない。
「魁。お前、そんなボロボロになりながら、俺達の事を思ってたんだな。」
 ルードが声を掛けてきた。素直な瞳をこっちに向ける。
「俺さー。しょうがない事なら、受け入れるけどさ。変えられるんだろ?願えば、
鎮めてくれるんだろ?・・・なら、魁の言う事を信じるよ。」
 ルードは、俺の言う事を信じてくれた。
「ありがとよ。俺も信じるから、変えようぜ!未来をさ!」
 俺は、ルードを撫でながら、皆を信じる事にした。
「・・・儂は無理じゃ。『命の火山』は、不可侵領域。鎮めるなど恐れ多い。」
 長老は、当初からそう言っていた。仕方が無い事だ。・・・このままじゃ全然足
りない。俺とルードくらいじゃ全然止められない・・・。
「皆、俺は、思うんだよ。『命の火山』は、病気なんじゃないかってな。」
 俺は、自分の見解を言う。
「今、常に響いている地鳴りもさ・・・。悲鳴なんじゃないかって思うんだよ。こ
の星が悲鳴を上げている・・・。そんな感じがするんだ。」
 俺にはそう思えた。これは怒っているんじゃない。悲鳴を上げているんだ。
「治して欲しいって、叫んでいるんじゃないか?そして、治せる人が居るのに、こ
のままにしておけないだろ?・・・俺は、そう思えてならないんだよ。」
 ジュダさんは治せると言った。鎮めてみせると言った。だからその言葉を信じる。
「魁。お前は、どこまで・・・。よし!俺も信じる!」
 ザインが声を上げた。ザインも俺の一言で、協力する気になったようだ。
「この星を守る為か・・・。俺もその案に乗ろう!」
「この子を守れるのなら、私も信じましょう。」
 人々の信じる声が聞こえた。段々広がってきている。特に子持ちの母親は、その
傾向が強いようだ。このまま滅ぶよりは、願った方が良いからだ。
「・・・掟は、もう古いのかも知れぬな。」
 長老が呟く。掟は大事だと思う。だけど、今は違う。それだけだ。
 もうちょっとだ。皆が一つになるには、決定的な何かが必要だ。
「・・・心優しき・・・勇者よ・・・。」
 後ろから声が聞こえた。ずっと気絶していたレーデルさんだった。
「私を、打ち破った力は・・・その優しき心なのだな?」
 レーデルさんは、俺に確認を求める。
「分かりません。・・・無我夢中でしたから。ただ、皆を助けたいと、思っただけ
です。それ以外の余計な事は、考えられない程、貴方は強かった。」
 俺は、正直に言う。本当に強かった。勝てるだなんて思えなかった。
「・・・フッ。それだけ、集中していたのだな。」
 レーデルさんは、含み笑いをする。
「み、皆の者!魁は勝者である!・・・掟を守ろうとした私を倒した男だ!魁を信
じてみないか!?・・・この星の存続を願った勇者を称えようではないか!!」
 ・・・レーデルさんが・・・。このレーデルさんが、こんな事を言うなんて。
「・・・俺は、信じるぞ・・・。我らが勇者レーデルと、新しき勇者を信じる!」
「レーデルさんが信じるなら、俺も信じるぞ!!」
 皆の一体感が変わってきた。レーデルさんの応援が後押しして、願いが集まる感
じがした。これなら・・・。これなら行けるんじゃないか!?
「・・・レーデルまで信じおったか。・・・儂も、お主が言うこの星の『悲鳴』を
止めてもらうように、頼み込むとするかの。」
 長老が・・・あの長老まで、俺の言う事を・・・。
(・・・良くやったな・・・。)
 ジュダさん!ジュダさん、俺・・・俺!!
(お前は、単に強かったから、信じられた訳じゃない。・・・お前の頑張りを、ル
ードが見て、ザインが感じて、その結果をレーデルが身に刻んで、長老の心を打っ
たんだ。これは、最初から強かった瞬や俊男じゃ出来ない事だ。)
 そんな・・・アイツ等なら、もっと上手くやりますよ。
(素直じゃない奴だ。でもま、俺の手の中は、凄い力に溢れている。お前のおかげ
で、火山を鎮めるのに必要な力は集まったぞ。)
 本当ですか!良かった!
(見ていろ。お前の努力は無駄じゃ無かったって事を、証明する。それが、お前の
相棒としての俺の役目だ!)
 ・・・相棒か・・・。良い言葉ですね。でも、宜しくお願いします!
(ああ。『闘式』でも、宜しく頼むぜ!)
 はい!ジュダさんと、此処に居る皆の為にも、思いっ切りやります!
(よーし・・・。癒しの青き宝石よ・・・。その大いなる力を活力とし、目覚めよ!
『青石治癒(アクアマリンキュアー)』!!)
 ジュダさんの宝石による『付帯』のルールだ。物凄い光を放っていた。此処から
でも見える。これが、魂の力を得たジュダさんの力か。
「おおお!何たる神々しい光!」
「奇跡の光だ!全てが癒される光だ!」
 皆、その光に魅入っている。さすがジュダさんだな。
 何だか、安心しちまったな。
 ・・・俺の役目は、これで終わりかな・・・。
 俺は、この星を・・・救えた・・・のかな?
 ・・・莉奈・・・俺、頑張れたよな?



ソクトア黒の章6巻の4前半へ

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