5、意志  セントの郊外にあり、奉仕を行う者の登竜門とも言うべき場所がある。その名も、 奉仕者養成所。別名『鬼の巣』と言うらしい。私達は、そこに居る。  私とジェイルは、天神家に借りを返す為に、天神家で働きたいと申し入れた。あ そこは、人を安心させてくれる家だった。あんなに豪華なのに、心地良い空間を生 み出している。それを実現する為のスタッフが、どれだけ頑張っているか・・・。 私達は、この養成所で思い切り知る事になった。  まず覚えたのが家事全般だった。これは、どんな新人であっても、一通りこなさ なければならない。これが出来なければ、話にならないのだ。まぁ私は『絶望の島』 の時も、馬鹿共の世話をしてた経験もあり、軽くパスしたのだが、ジェイルは、結 構苦戦していた。それでも持ち前の真面目さで、どんどん覚えていった。その辺の 努力は、ジェイルは怠らない。  寧ろ、私が苦戦したのは言葉遣いの方だ。いくら意識しても、中々慣れる事も無 い。私は、生まれからして、セントのお嬢として育てられたし、バイトだってウェ イトレスをしてた経験しかない。しかも、そこから『絶望の島』に送られたので、 口調は荒っぽいのが当たり前だった。  それでも主相手に、失礼な口を利いてはならない。それは頭で分かっているのだ が、どうしても地が出てしまう事がある。その癖が直らないので、注意されている。  ちなみに、教官はアラン=スフリトと言う人で、何でもレイクの父親であるゼハ ーンさんの家の執事なんだとか。と言うか、読み通りではあったが、レイクも良い 所の坊っちゃんだったんだねぇ。  特訓が終わった夜などは、ゼハーンさんとレイクの事を尋ねてくる。余程、思い 入れがあるのだろう。誰も居ない家であろうと、完璧に整備していると言う話だ。 今も特訓の間、信頼あるハウスキーパーに任せていると言う。凄い徹底振りだ。  それにしても、睦月さんと葉月ちゃんの師匠と言うだけあって、この人の鉄人振 りは凄かった。小さな家事から、身辺警護に至るまで、事細かに指導してくる。こ の仕込みを習わなきゃならないんだから、大変だ。 「今日は、此処までに致しましょう。」  アランさんが、今日の終わりの合図をする。 「ご指導有難う御座います。」  ジェイルは、あの激しい特訓の後なのに、紳士的な態度を崩さない。段々様にな ってきている。凄い努力だなぁ。 「これからも、ご指導宜しくお願いします。」  私は、付け加えるように返す。アランさんも、それを聞いて安心したように笑う。 「常日頃から、優雅な振る舞いをする事を心掛ける。これも大事な事です。貴方達 は、優秀なようだ。ティーエさんは、もう少しですがね。」  アランさんは、口調はとても優しい。出す命題は、鬼のようだけどね・・・。 「アランさんの教え方が、素晴らしいからですよ。いつも限界ギリギリを見切って らっしゃる。非常に遣り甲斐があります。」  ジェイルは、心からそう思っていそうだ。私なんかより、よっぽど素質がありそ うだね。私も心掛けから学ばないとなー。 「私はまだキツイですけどね。恵様の為ですから、頑張ります。」  私は、本音を交えて言う。アランさんの命題は、本当に限界ギリギリなのだ。今 だって倒れる寸前と言っても良いくらいだ。それでも優雅な振る舞いを崩すなと言 うんだから、この稼業も大変なんだなって身に染みる。 「今、ティーエさんは、大切な事を言いました。分かりますか?」  アランさんは、急に話題を振る。私、何か言ったっけ? 「恵様の為・・・ですね。私も素晴らしい心掛けだと思います。でも、勿論私だっ て常々思っている事です。」  ジェイルはスラスラと答える。さすがだねぇ。でも確かに、大事な事だし、私も 気を付けている。と言うより、当然の事だと思っている。ファリア達は、恩人と言 うより仲間だ。勿論助けてくれた事は感謝しているし、私もいつだって助けたいと 思っている。  だけど、恵様は恩人だ。ゼハーンさんを通じて、ファリア達を受け入れた事も感 謝しているし、その知り合いだからと言って、私とジェイルの体が治るまで、天神 家に逗留させてくれた事は、感謝してもし足りない。最初に、休ませる事を決定し たのは睦月さんだが、恵様が過去から帰って来た後も、正体不明だった私達に対し て、治るまで看病して、熱心に原因を探ってくれる様に指示したのは、恵様だ。  あの家には、恩返しをしなければならない。 「家人たる者は、家事が出来て当然。そして、給料を貰うだけの価値を、自ら持た なければならない。それは基本なのですが、一番大事なのは・・・。」 『主と家に対する忠誠を忘れぬ事。』  私とジェイルは、アランさんの言葉の後に、ハモりながら続けた。 「その通りです。優雅さや、物事に対する対処は、その心の現われとして、自然に 出て来る現象なのです。」  アランさんは、厳しいが筋が通っている。 「学ばせてもらっています。」  ジェイルは、本当に心酔しているようだ。私も尊敬しているけどね。 「では、今日の夜食は、自分が作ったメニューに致しましょう。」  アランさんは、今日の命題で出したメニューを、食卓に並べる。こうする事で、 毎日の食事が、自分が作った物になるので、嫌でも良い物を作りたくなる。 「・・・もっと上手くなりたい・・・って思います・・・。」  私は、アランさんが同じ物を作った例題と比べて、自分の出来の悪さを見比べる。 何で同じ食材を使って、こんなに違う物かね・・・。 「ティーエは、似ている味に為っているだけマシです。私は、もっと精進しなくて は・・・。不甲斐無いです・・・。」  ジェイルは、味付けの応用が、まだまだなので、学んでいる最中だ。 「目の前にある食事は、自分の成長の証です。しっかり食べて、学びましょう。」  アランさんは、食べて学べと言う。自分で作った物を、食べる事で、何処が駄目 だったのかを舌で感じるように言う。ちなみに、舌の試験もあった。ソクトアには 色んな人が居て、どうしても常人とは違う舌の持ち主が居ると言う話で、味覚障害 と言われる人達が居るのだと言う。好みはまだしも、濃くないと味を感じない人や、 やたら鋭敏過ぎる人も居るようだ。それでも国によって、味加減は違うらしく、ガ リウロル人は、敏感な人が多いのだとか。最も、恵様は半魔族なので、それに加え て、辛い物に耐性があるだろうと言う話だ。私達は、そう言う障害は無いと、判断 されたので、後は純粋に腕を上げなければならない。  私達は、自分で作った物を戴いて、メモを取る。何処が駄目だったのか、自分達 でも研究する為だ。私は包丁捌きが甘い。まだまだ大雑把な動きなので、細かく刻 む事が出来ない。丸みを帯びるような切り方を、どうやれば良いのか、考えなくて はね。アランさんなんて、芸術品みたいに仕上げるし・・・。  ジェイルは塩胡椒の加減が、強い傾向にあるらしく、少ししょっぱめだ。加減を 調整するのが難しいらしく、苦戦している。 「食事一つ取ってみても、これですからね。家事は、想像以上に大変ですね。」  ジェイルは、身に染みたようだ。ジェイルは今まで、自分で自分の世話をした事 が余り無い。私の看病が、初めてだったと言っていた。一生懸命やってくれたけど ね。それでも食事などは、睦月さんが持ってきてくれてたし、洗濯は葉月さんがメ インだった筈だ。こりゃ先が長そうだね。 「これから生きていくのに、必要な事でもあります。存分に教えますよ。」  アランさんは、にこやかに答える。明日の命題は、もっときつそうだ。 「そう言えば・・・。ゼハーンさんが、アランさんの様子を心配されてましたよ。」  私は、ゼハーンさんから、やたらと頼まれたのを思い出す。 「旦那様には、お気遣い感謝致しますとだけ、お伝え下さい。ハイム家を守る事は、 私にとって苦では無く、寧ろ喜びです。旦那様は、いつ帰ってきても大丈夫だと言 える様に務めて参ります。」  アランさんは淀み無く答える。凄いなぁ・・・。これが本当の執事なんだろう。 この人は、ハイム家を守る事に、命を懸けている感じだ。 「そう言えばレイクも興味津々でした。自分の実家に、いつか出向いてみたいと。」  ジェイルが、レイクの事を話題に出す。アランさんは、レイクの執事でもあるん だよね。・・・驚くだろうねぇ。 「坊ちゃまの実家ですから、出向くと言う表現では無く、帰ってくると言って構い ませんと、お伝え下さい。私は、いつでも歓迎する用意があります。」  アランさんは、本当に熱っぽく語る。レイクとゼハーンさんに対する想いは、人 一倍強いようだ。それを見て、ジェイルは嬉しそうだった。 「正直に言いますとね。私は、貴方の存在が怖かったんです。」  ジェイルは、アランさんに語りかける。 「此処の養成所は、噂が絶えませんから、そう思われるのも仕方の無い事です。」  アランさんは、此処の養成所の噂を知っているようだ。 「そっちではありませんよ。私は、少年の時からレイクを見ていましたから、厚か ましいですが、レイクの父親代わりだと、思っていました。」  ジェイル・・・。ジェイルは、レイクの仲間であり、父親代わりだと思う・・・。 「だから、いつかレイクは、私など忘れて、貴方やゼハーンさんと一緒に暮らすん だろうと、いつも覚悟していました。図々しい事です。」  ジェイルは、子離れしてない父親のような気分なのだろう。 「でもね。安心したんです。レイクは、私の事を忘れるような軽薄な男では無いし、 ゼハーンさんも・・・そして貴方も、レイクを任せるのに最適な人だと思います。 だから私は、安心して天神家に仕える事が出来るんです。」  ジェイルは、それを肌で感じたからこそ、天神家への奉仕を決めたのか・・・。 「ジェイル様。勘違い為さらないで下さい。」  アランさんは、厳しい口調になる。 「貴方は、父親代わりなどではありません。坊ちゃまの、もう一人の父親です。そ の事に誇りを持って戴きたい。それと、例え坊ちゃまが、ハイム家を継いでくれて も、貴方に頻繁に会いに行くように、私の方から申し上げます。」  アランさんは、これだけは譲れないと言う目をしていた。・・・この人は、本当 にゼハーンさんとレイクに敬愛の情を持っている。本当の執事だ。 「アランさん・・・。私は、レイクの父親を自覚して宜しいのでしょうか?」 「当たり前でしょう?ジェイル程、レイクに信頼されてる人、居ないんだから、し っかりしなさいって。」  私は、ジェイルの言う事を遮って、言ってやる。 「ティーエ様の言う通りです。寧ろ、その資格をお捨てになると言うのなら、私が 許しません。坊ちゃまを、これからもお支え下さい。」  アランさんは、そう言うと優雅に一礼する。さすが執事の鑑だ。 「分かりました・・・。有難う御座います。」  ジェイルは、涙を堪えて礼をする。アランさんを見習っているんだろう。 「そうだ。アランさん。レイクとゼハーンさんの写真を見ますか?」  私は、天神家で何枚か撮って来た写真を持ってきていた。恵様に頼んで、持って 来たのだ。睦月さんからも、是非見せてやるように言われていた。 「宜しいのでしょうか?拝見出来るのならば、お願いします。」  アランさんは、口調は丁寧だが、本当に見たいのだろう。目が輝いていた。  私は、天神家から持ってきた写真を、アランさんに手渡す。 「旦那様・・・に、これが・・・坊ちゃま・・・。奥方に良く似ておられる。」  アランさんは、ついに目に涙が零れる。色々思う所があるのだろう。 「レイクは、本当に良い子に育ちました。魂が輝いています。」  ジェイルは、我が子を見る親の目になっていた。・・・私達の間に子供が出来た ら、こんな感じになるようね。覚えておこう。 「んー・・・。そうだ!アランさんのお写真を撮って良いですか?」  私は、最近流行のデジタルカメラを持ってきている。携帯電話にもカメラ機能が 付いて来ていたが、本物には、まだ敵わないしね。 「私のですか?坊ちゃまに見せるおつもりですか?」  アランさんは、私の意図を察する。レイクだって、見たいと思うに決まってる。 「アランさんの話をしたら、食いついて来てましたから、興味あると思いますよ。」  私は、レイクが微妙な顔をしながら、逢ってみたいと言っていたのを思い出す。 自分が良い所の出だと言うのは、気に入らないみたいだが、アランさんの事は、こ の目で見たいと言っていた。 「私からも頼みます。レイクは、アランさんの事を、仲間だと思っています。『俺 をこんなに心配してくれてる人に、会えないで居るってのは、寂しいな。』とも、 漏らしていました。いつか、会える日が来るでしょうけど、今は写真だけでも。」  ジェイルが真摯に頼んでいた。ジェイルが、こんなに頼むと言う事は、レイクは 会いたいと、かなりの頻度で言っていたんだろうね。 「私などを仲間と・・・。大変光栄ですが・・・。私は執事です。坊ちゃまの世話 をする事は、私の夢でもあります。」  アランさんは、恐れ多いが、嬉しかったのだろう。微笑みながら困った顔をして いた。レイクは愛されているね。本当に。 「その夢は、叶えられない夢にしないで下さい。必ず叶えましょう。」  ジェイルは、心強く励ます。 「私も応援しています。さ、撮りましょう!」  私は、そう言うと、アランさんに好きなポーズを取る様に言う。すると、本当に いつも見ているポーズを取る。それは、腕を折り曲げて礼を取る前の、アランさん の自然な姿だった。  レイク・・・。いつか、会わせてあげるよ。絶対にね!  もう何度目だろうか・・・。爺さんの言っていた言葉が響き渡る。  『強く・・・正しく生きるのだ・・・。我が息子よ・・・。』  ここにどんな願いを込めたのだろうか?爺さんは、俺が息子で、幸せだっただろ うか?俺は、恥ずかしくない日々を送れているだろうか?  いつまで経っても、答えは出ない。そもそも答えが出るような命題では無いのか も知れない。でも俺は、その答えを求めて、今日も修練する。  誰よりも、強く正しく生きたい。それは、爺さんだけではなく、俺の願いにもな っていった。言葉だけでは無い。実践する事が、大事なのだ。  恵は、俺みたいに強く正しくを、心掛けてる人が、間違える訳が無いと言う。嬉 しい事を言ってくれるが、今の俺には迷いがある。それは、強いってどう言う事な のだろうか?そして、正しいとは?・・・そして一番の命題は、俺は、本当に強く 正しく生きたいと、願っているのだろうか?と言う事だった。  俺は、未だに答えを出せていない。それは、この命題に限った事では無く、全て に於いてだ。特に待っている人が居るのに、その人に正しい答えを出す事すら出来 ていない・・・。今程、自分を情けないと思った事も無い。  恵は、自分の道を歩み始めた。俺が正しい答えを出せないままだったのに対し、 俊男は明確に自分の想いを伝えて、俺に挑んで勝利した。俺は、負けた悔しさもあ ったが、それ以上に、想いの強さに衝撃を受けた。俺は、俊男の想いに全然届いて すらいない。アイツは、想いの強さがあるから、どんどん強くなる。俺には無い強 さを持っていると思った。だから、恵を任せても良いと思ったのだ。・・・いや、 俺がそんな事を語る資格は無いと思ったのだ。  俺は、江里香先輩が好きだ。それは間違い無い。あの人と一緒に居ると、本当に 安心出来るし、あっちからの想いも、強烈に感じている。  だが、葉月さんの想いを聞いて、無視出来るのか?と言えば、そんな事は無い。 葉月さんは、思い返せば、本当に俺の為に尽くしてきた。そして、今回の『闘式』 など、俺の目線に立ちたいと言う理由で、参戦を決めている。あんなに闘いが好き じゃない人が、俺の為に闘うと言っているのだ。  江里香先輩だって、俺の役に立ちたいが為に、空手以外の武術を習うと決めた。 それも、実戦で俺の役に立ちたいと言う想いからだ。自分の限界に挑んで闘ってい る。それも強い想いがあるからこそだ。  なのに俺は、何をやっているんだ・・・。グジグジ悩んで、答えも出せずに、準 備が出来ているかすら怪しい。こんな事で、強く正しい男になれる物か・・・。  そんな中、ゼーダから申し入れがあった。恋の事は置いて、修練の事なら、今以 上の強さを与える為に、出来る事があると。その為に、一週間の時間をくれと言っ ていた。何かの準備が必要なのだろう。  俺は、その一週間を待った。無論修練をしながらだが、その事が頭から離れなか った。一体、何をするつもりなのだろう・・・。  その夜ゼーダから、いつものように意識を魂側に移せと連絡があった。いつも夢 の中の状態で、修練をしている。そうやって魂を鍛える事で、強くなっていた。だ が、この一週間は、ゼーダが準備中であったからか、全く声が掛からなかったのだ が、とうとう連絡があったのだ。  俺は、待ち望んでいた事でもあったので、早速夢の中に入っていった。  ・・・  ここは・・・。荒野?物凄く殺風景な所だ。 (良く来たな。ここは、私の心象風景だ。)  ゼーダか?っと、その格好は?いつもと違う格好をしているが? (天上神だった頃の正装だ。『時の羽衣』とも言う。)  『時の羽衣』?また随分と仰々しい名前が付いているんだな。 (フム。そして、ここは私が決戦をした場所だ。グロバスとな。)  グロバスさんと?って事は、昔の・・・。 (そうだ。現在で言うセント。中央大陸だ。)  中央大陸・・・。ここが・・・。文献では知っていたが、こんなに荒れ果てた所 だったのか。本当に何も無いじゃないか・・・。セントの人達は、こんな所から、 あんなでかい都市を造ったって言うのか・・・。 (その点は偉大だと思っている。彼等は、あの街を作るのに、命を懸けていた。よ り良い未来の為に。中央大陸の呪われた過去を変える為だ。)  呪われた過去?どう言う事だ? (中央大陸が、何故荒れ果てたのかを知らないのか?ここは、ソクトアの中央が故 に、激しい戦いが、何度も繰り広げられた場所だ。私がグロバスと対決した時です ら、この有様だった。だから、此処でグロバスを迎え撃ったのだ。)  何も無い所なのは、闘いがあったせいなのか・・・。 (人々の血塗られた過去を吸って、荒野と化した場所。それが中央大陸だった。)  何て寂しい場所なんだ・・・。 (そうだ。だが彼等は、この場所ですら変えようとしたのだ。私は、セントを見て 怒りも湧いたが、それと同じくらい、感動を覚えたのだ。)  支配する為に作られた場所じゃないって事か・・・。 (そうだ。この場所を知っている者なら、支配の為に、ここから街を造ろうなどと は思わぬ。人を拒絶した大地。それが中央大陸だったのだからな。)  そうだ・・・。この荒野からは、死の臭いしかしない。 (だが、彼等はあのような大都市を造った。それは、並大抵の努力では無かった筈 だ。最初にセントを造ろうと言った人間は、中央大陸の戦いの歴史を、繰り返さぬ 為に、平和な国を造ろうと想いを馳せた筈だ!それは、今のようなセントの姿か? 違うであろう!?私が怒りを覚えたのは、その想いに至ったからだ!)  そうか・・・。そうだよな。今のようなセントが、良い訳無いよな。先人は、こ んな荒れ果てた土地から、あんなすげぇもん造ったんだからさ・・・。 (瞬よ。お前が強くなりたいと言うのなら、正しく生きたいとするのなら、このよ うな事を許して置けぬだろう?・・・少なくとも、私はそう思っている。)  ・・・俺は、セントの人間が、平和に暮らしているのなら、それを壊すのは駄目 な事だと思っていた・・・。でも!このままじゃ駄目だ・・・。セントの人間も、 この荒野を知らなければ・・・。国を興した経緯を知らなければ駄目だ! (そうだ。生活を壊せと言っているのでは無い。だが今のまま、ソーラードームの 中で生き抜くのは、間違っている。)  ゼーダは、俺に、これを見せたかったのか? (それもある。だが、用件は別だ。・・・君の覚悟を聞きに来た。)  覚悟・・・か。どんな覚悟をだ? (君に、私を倒す覚悟があるかをだ!)  ・・・え?ゼーダを倒すって・・・嘘だろ? (嘘では無い。私はこれから全力で君と闘う。君は、人生を生き抜く為に、私を超 えろ。で無ければ君は、私と同化している意味は無い!)  そんな・・・人生を生き抜く為って・・・。 (私は誇りを示した。私が守った大地の姿を見せた。君は、私に示すのだ!君自身 が、強く正しく生きる為に、何が必要なのかを!その覚悟をだ!!)  俺自身が、強く正しく生きる為に・・・必要な事・・・。 (君は、迷っている。・・・それくらい私にも分かる。)  さすがに付き合い長いだけあるな。俺自身の心・・・か。 (私は、ここでグロバスと戦い、一時期でもソクトアを守ったのは、今でも誇りに 思う。数ある誇りの内の一つだが、此処での戦闘は、激しかった。・・・この場所 に君を連れてきて、私の正装を見せた意味を、君には知ってもらいたい。)  ・・・それだけ本気だって事か・・・。 (そうだ。この一週間、私は本気の修練をした。嘗ての自分を取り戻す為にな。)  その為の一週間だったのかよ・・・。なら、本気で俺と闘う気だな。 (闘う?いや、違う。今回は決闘を申し込みに来たのだ!!)  決闘って・・・どう言う事だ?ただの修練じゃないのか? (今の君に足りない物。それは、勝利に懸ける覚悟だ。)  勝利に懸ける覚悟?俺は、常に勝利を求めているぞ? (そうだ。しかし、君には死に物狂いで奪いに行く覚悟が足りない。・・・だから 私は、賭けに出る事にした。)  賭け?何だか嫌な予感がするぞ。 (今から、私と君で決闘をする。そして勝った者に意志を譲り渡すと言う条件を出 そうと思う。・・・これは、神の間で行われてきた試練だ!)  意志を譲り渡すって・・・。んじゃぁ、どうなるんだよ!俺が勝っても、アンタ が勝っても、もう今のままじゃ居られないってのか? (そうだ。君との共同生活は、今日で最後だ。)  そんな・・・。俺は、やっとアンタの事が気にならなくなったってのに。 (瞬。君は、強く正しく生きると言ったな。・・・その願いは、誰しもが持ってい る物だ。だが、その想いが強烈な者同士は、やがて衝突するしかないのだ。)  想いが強烈な者同士?・・・まさか・・・。 (・・・私だよ。若い頃から、強く正しくありたいと、強く願ってきた。そして、 常にそうあるべく上を目指してきた。君は、若い頃の私に似ているんだ。)  ゼーダ・・・。アンタ、いつも俺に問い掛けて来たのは、そう言う意味があった のか?アンタ自身が目指してきた物に似ていたから・・・。 (そうだよ。私が若い頃に問い掛けた命題に、君が間違いなく応えられるか、試し てきたのだ。その君が、本気で迷っている。・・・その答えに決着を付ける。)  そうだったのか・・・。悔しいけどよ・・・。アンタは、俺の理想その物だった。 常に強い心で自分を持ち、正しいと思う事を実行出来る神だった。俺は、いつの間 にか、アンタに憧れていたんだ。 (光栄だよ。だが、この先の答えは、自分で見付けるしかない。そして、君自身の 覚悟を示さぬ限り、先には進めないと思え。)  覚悟・・・。俺自身の覚悟か・・・。 (私が勝てば、君の代わりに君の役目を果たす。・・・だが、君が勝てたのなら、 私にその答えを見せてくれ!互いの意志を、ここに示すのだ!)  そうか・・・。アンタ、その覚悟をする為に、一週間も・・・。なら、俺の答え は一つだ。アンタの覚悟を受け取る!アンタが勝ったら、俺の果たせなかった夢を 託す。だが、俺が勝ったら、アンタの理想を受け継いでみせる!! (良く言った。だが、簡単に負ける私ではないぞ?)  俺だって負けない。・・・だけど、恨み辛みは無しだ!! (よし。では、行くぞ!!)  ゼーダは、腕を前に持っていくと、リラックスしたような構えを見せる。自然体 だ。余りにも自然体なので、普段と見間違う程だ。そして、そこから一気に俺の方 へと詰め寄る。何だ!?この速さは!  ガァン!!  物凄い衝撃音がした。俺がゼーダの攻撃をガードしたのだが、ガードの上から、 衝撃が伝わってくる。何て重い攻撃なんだ!! (どうした?まだ一発しか攻撃していないぞ?)  ゼーダは、続け様に回し蹴りを放ってくる。俺は、すかさず上段ガードをした。  バシィ!!  な、何ぃ!?上段ガードしたのに、いつの間にか腹に攻撃を食らった。 (君は、私の能力を忘れたのか?)  そうだった・・・。ゼーダの能力は、『予知』のルールだ。攻撃を予測してガー ドなど、愚の骨頂だ。ならば、こちらから攻める!!  俺は、天神流の四連突き『四海』を繰り出す。 (その技は、君の中で何度も拝見した技だぞ。)  そうだ。ゼーダには俺の闘いを、何度も見られている。だから、軌道までバッチ リ読まれる。避けるのに、『予知』を使わない程だ。 (どうした?君の覚悟はそんな物か!!)  ゼーダの攻撃は、本当に重い。この重さは、ゼーダが天上神としてやってきた誇 りが詰まっている。並大抵の一撃じゃない。俺は、突き技『貫』や、変化技『幻酔 (げんすい)』を繰り出すが、ゼーダには攻撃を読まれてしまう。  返ってくる攻撃は、体の芯に響く重さだ。受け技『鋼筋(こうきん)』で、軽減 させていても響いてくる。これが、神の力か・・・。  俺は、守りを捨てて攻撃に行くが、ゼーダは紙一重の所で避ける。 (『予知』を使っている訳では無いぞ?)  分かっている。『予知』のルールなど使わなくても、ゼーダの読みの深さは、群 を抜いているのだ。しかも、それだけ余裕で打ち合っている証拠だ。  万事休すか・・・。ゼーダの強さは、やはり尋常では無い。 (君は、このような状態になっても、まだ使わないつもりか?)  え?・・・ゼーダは、何を言ってるんだ? (フン。知らないとでも思っているのか?君は、未だに技を隠している。)  ま、まさか・・・。ゼーダはあの事を言っているのか? (思い出したようだな。忘れたい記憶だから、封印していたのか?)  あれは・・・封印しなきゃ駄目な技なんだ! (このような瀕死の状態になっても、隠すと言うのか?君は、どこまで御人好しな のだ!このままでは、私は君を潰すぞ!)  だけど・・・あれは、天神流にあって、天神流の精神では無い禁断の技だ! (『破拳』のルールよりマシだとは思うがな。)  俺は、あんな殺人技の数々を使いたいんじゃない!! (・・・技に罪は無い。それを振るう人間に悪意があって、初めて禁断の技となる のだ。その技で罪を犯そうとするのなら別だがな。)  確かにそうだけど・・・。あの技を振るって相手を殺さぬ自信が俺には無い! (愚か者!!技に心が負けてどうする!君は、禁断の技での誘惑に負ける程、愚か な男だったのか!?私の見込み違いだったとでも言うのか!)  ゼーダ・・・。俺に禁を解けと言うのか? (・・・私はな。君が心のどこかで、何かをセーブしているのを感じたのだ。最初 は、天神流の技を振るう強さかと思った。だが、君の夢に出て来た天神 真が、そ れを教えてくれた。・・・君の心の奥底にあった記憶だがな。)  俺の中にあった爺さんの記憶?あの時のか。 (そうだ。確か、『裏闘技』だったな。)  やっぱり、ゼーダは知っていたのか・・・。天神流『裏闘技』の数々。爺さんか ら、あまりに危険だから、無闇に使ってはいけないと言われた禁断の技だ。 (どのような技か知らないが、君は技に負ける程、柔な男では無い。少なくとも、 私はそう信じている。だから私に使って試してみろ!そして、今以上の強さを、正 しく身に付けるのだ。私を超えようと言う気概を、忘れるな!)  使える技を使わずに、技を封印する事は、罪だと言うのか? (その事で、君が強さに枷を付けているのならば、その通りだ。)  枷に・・・。俺は、天神流裏闘技を枷にしていたのか?  爺さん、俺は天神流裏闘技をも正しく使いこなせるだろうか? (君が、君である為に、裏闘技も君自身の強さとするのだ。このままでは君は、一 回も本気で闘わずに終わる。君が歩んできた道を否定する事になる。)  ・・・今まで俺は、数多くの闘いを経験してきた。それは、俺の中で大事な思い 出と共に、築き上げてきた歴史だ。無駄な闘いなど一つも無かった・・・。  その強敵を否定したくない!俺は、自分の歩んできた道を、誇りにしたい! (来るのだ瞬!君の本当の強さを、私が受け止めてやる!)  分かった・・・。爺さん、俺、使いこなしてみるよ。爺さんが言う正しい道って 奴を示す為に、裏闘技を開放するよ。  ・・・そして、今まで済まなかったな。俺は裏闘技の数々を否定してきた。それ も天神流だって事を認めずにいた。これを正しく使いこなしてこそ継承者なのにな。  行くぞ!!天神流裏闘技・・・開放!! (・・・決意出来たようだな。だが、その闘技でも私に敵うかは別だ。)  ゼーダ。アンタに感謝する。俺の蟠りを解いてくれてな。 (甘いな。解くのは、これからだ!!)  ゼーダは、右斜め後ろに回りこんで裏拳を放ってきた。俺は、その腕を掴んで、 肩に担ぎ上げて固定すると、そのままゼーダの脇腹に肘鉄を食らわせた。 (グッハ!!・・・うぐあぁ!!動きを止めて肘鉄!しかも地味に回転を加えたな。 何と言う隙の無い動き・・・。これが裏闘技か!)  裏闘技とは、確実に相手にダメージを食らわす為に、動きを制限させて最大のダ メージを与える為の闘技。主に急所を狙う。当たり処が悪ければ、常に死の臭いが 纏う。体を最大に鍛えた天神流を活かす為の闘技だ。 (フッ・・・。何だ。寝技への対処の為に、他の格闘技から関節技の対処を覚えた のかと思ったが、君等自身も、関節技を使える様になっていたのか。)  そうだ。空手と言うには、程遠い固定技の数々。だが、敵を仕留める為に、最大 限に関節技を利用する。それが、天神流裏闘技だ。 (だが、ネタが割れてしまっては、私には通じぬぞ。)  ゼーダは自信満々で、俺に突っ込んでくる。しかし甘い。俺は、ゼーダの軌道を 最後まで目を離さずに見極めて、攻撃の瞬間に体を反応させる。 (き、君は・・・。私の『予知』に対応したと言うのか!?)  そうだ。アンタの『予知』は、恐ろしいルールだ。数瞬先を予想し、先に攻撃を 置き、こちらの攻撃を読む。だが極限まで集中し、攻撃の瞬間のみに集中すれば、 『予知』された所で、対処が間に合わない筈だ! (君は、その為に私の予想を上回る反応速度を見せたと言うのか?・・・それは、 今考えた事では無いな?君は、いつか私と闘う事を想定して、私の『予知』を分析 した事があると言うのだな?そうでなければ、導けない解答だ!)  そうだ。そして、相手の技に反応して固定させる裏闘技と組み合わせる時しか、 この答えは実行出来ない。それも分かっていた。アンタと闘うとなったら、俺の対 抗手段は、こう言う物になると、分かっていた! (フッ。何が禁断の技か!君は既に予想していたではないか!)  そうなりたく無かったけどな。だけど、これまでの俺の覚悟を見せたかった! (瞬よ。その心を忘れるな。自分を滅ぼそうとする者にまで、加減をする必要は無 い。勝つ為に覚悟を示すのは、大事な事だ。心を開放するんだ!)  心を開放する・・・。今までやった事が無かったな・・・。 (君の最大の弱点だ。それは、君自身の心が開放されていなかった事だ。君は、天 神 真から受け継いだ言葉を拠り所に生きてきたせいで、君自身の心を閉ざしてい た。真は、君を縛る為にあのような事を言ったのでは無い。君に羽ばたいて欲しい からこそ、強く正しく生きて欲しかったのだ!君の歪な生き方は、ここで終わりに するのだ!これからは、君自身の本当の闘いをするのだ!)  俺自身の・・・。爺さん・・・。俺、心に枷を作っちまってたかな?それが、裏 闘技を悪と断じ、他人を傷付ける事を畏れてきた。 (迷いは、晴れてきたようだな。ならば、それを確かめるまでだ!!)  ゼーダは、俺の一挙手一投足に注意を払いながら、ジリジリと近づく。さすがに さっきみたいに不用意に飛び込んでは来ない。俺は、心を澄み渡らせた。  爺さんは言っていたな。『裏闘技で闘う際には、無闇に相手を傷付けるのでは無 く、無心で相手を捉え、慈悲の心で攻撃を入れろ』と。あの時は、恐ろしい技なの で使う方が、手加減しなければならないと思っていたが、それは違う。攻撃を思い 切り入れる事で、相手に敬意を表しろと言う意味だったんだな。  そうだ。裏闘技を使う以上、相手を傷付ける羽目になる。だが、それで相手を圧 倒して、好い気になっては駄目なんだ。強い技だからこそ、心でそれを抑え、相手 に対し、この技を使わせてくれたと、感謝の気持ちで応える!それが裏闘技を使う 心得だ!・・・俺は、それにいつまで気が付かなかったんだ・・・。  よし!今なら、使いこなせる筈だ!ゼーダは、『予知』を利用して、俺の攻撃を 躱すだろう。しかし今の俺ならば、それをも計算に入れて、対抗出来る。  俺は腰を落として、右手は拳を握り、左手は手を開いて、いつでも掴める状態に する。この構えこそ、裏闘技の基本の構えだ。 (その構えから、威圧感を感じる。やれば出来るではないか。)  ゼーダ。気付かせてくれて、ありがとな。俺は、ずっとこの感覚を忘れていた。 俺は、この構えを使って、アンタに勝つ! (言い切ったな。良いだろう。受けて立つぞ!!)  ゼーダは、足払いから入る。それを左手で押さえて、正拳突きをするが、足を引 っ込めて膝蹴りをしてきた。俺は目の前まで引き付けて、その膝蹴りを右手で受け 止める。そして、腕にゼーダの足を絡めて逃げられないように固定すると、鳩尾に 向かって左正拳を打ち込む。 (甘い!!これしきでは捉えられんぞ!)  ゼーダは、体全体を捻る事で、俺の腕を逃れると、正拳が届く前に俺の肩を使っ て踏み込むようにして逃げる。さすがは『予知』のルール。やる事が一歩早い。  俺は、右拳を握って後ろに持っていくと、そこに闘気を宿す。 (その構えは、突き技『貫』か?さっき効かなかったのを、忘れたのか?)  さすがゼーダ。構えを見ただけでバレるとはな。だが今は、これだけじゃない。 これに裏闘技を加えれば、バリエーションが増える!  俺は高速で移動して、ゼーダの胸を狙う。この速さこそが突き技『貫』の真骨頂 だ。しかしゼーダは、『予知』のルールを発動させて、俺の突きのタイミングを、 完璧に予知する。手で防がれた。 (この技は何度も・・・何ぃ!!)  ゼーダは驚愕する。俺の勢いはまだ止まらなかったからだ。寧ろ、これを狙って いた。突きを防がれた右腕を曲げて、ゼーダの鳩尾に肘打ちを入れた。 (うぐあ!・・・『貫』の勢いを利用しての肘打ち!)  そうだ。これこそ『貫』の派生技、裏闘技『穿(せん)』! (『貫』の勢いを殺さずに肘打ちする。下手すると殺し兼ねん威力。成程。裏闘技 な訳だな。こんな技の数々を隠していたのか?恐ろしいな。)  天神流の本流は人が生きる為の拳、活人拳だ。だが裏闘技の本流は、人を殺め兼 ねない殺人拳だ。だが俺は、この殺人拳を使って、天神流の本意を遂げてみせる。 (吹っ切れたな。それが、君自身の闘いに必要だと判断したな?・・・ならば、私 も見せてやろう・・・。本当の闘いをな!!)  ゼーダは、距離を取る。俺が本気になったのを見て、とうとう『神気』を使うつ もりだ。ゼーダは全ての力を使いこなせるが、『神気』が一番使いこなせる筈だ。 『無』の力も、この前、使えるようになったと聞いたな。 (当然だ。いつまでも後れを取る訳にはいかないからな。)  さすがゼーダだ。『瘴気』と『神気』の関連性を聞いただけで、使いこなせるよ うになるとはな・・・。その辺の勘の良さは、嘗ての神のリーダーを髣髴させる。 (私をここまで本気にさせたのだ。楽しませろよ?瞬!)  ゼーダは、両手に神気を集め始める。さすがとしか言いようが無い。感じるパワ ーは圧倒的だ。集めるだけで、周りから竜巻が起こる。 (グロバス以来の力の解放だ。行くぞ!!)  ったく。その相手に俺を選ぶとはな。嬉しい事言ってくれるぜ!  なら俺も、それに相応しい力で対抗する! (来たな。君の最大の切り札。『破拳』のルール・・・。)  そうだ。俺の象徴であり、全てを破壊する正拳『破拳』のルールだ。これを拳に 乗せて対抗する。ゼーダの圧倒的な力に対抗するには、これしかない。 (しかし、君の『破拳』は、私の『予知』との相性は最悪だぞ?)  そうだな。当たればどんな物でも破壊してみせる『破拳』だが、ゼーダに『予知』 されたら、ほとんど当たらない。当てる為には、工夫しなければ。  それでも俺は、自分を信じてアンタに当ててみせる! (その気概や由!私を超えてみせろ!)  ゼーダはそう言うと、神気で地震を起こす。俺は慌てて飛ぶ事で、そこを離れる。 そこに神気弾を追撃で入れてきた。避け切れない!  バシュゥ!!  俺は、『破拳』のルールで神気弾を破壊する。危なかったぜ。それにしても、俺 の離れた所を正確に把握するとは、さすがは『予知』のルールだ。  俺は攻撃に転ずる。とやかく考えるより、まずは攻撃をする。 (当たれば一撃必倒の拳か。恐ろしいな。だが、当たらん!)  ゼーダは、俺の伸びまで見切って掠らせもしない。『予知』のルールの恐ろしさ って奴だ。本当に当たらない。 (こう言うのはどうだ?・・・フン!!)  ゼーダが両手を広げる。すると、俺の周りに神気が纏わり付く。幅広い使い方を してくる。・・・予測しろ。ゼーダが何をしてくるか、そして『予知』で読まれる 事を予測するんだ。ゼーダが予測した事の予想を変えずに、結果を変えるんだ! (この天上神に本気を出させたのだ!誇りに思うが良い!!)  ゼーダは、俺の周りの神気を狭める。そのまま潰す気だ。まずは・・・この神気 を俺も神気を発する事で防いでみせる。散々ゼーダに見させられたからな。俺も発 する事が出来るようだ。 (君は、元々神気を発するに適した体だったからな。)  そういや、そんな事言っていたな。 (だが、それも予測済みだ!君程度の神気で、私の神気を防げると思うな!)  ゼーダは、神気を狭めて食らわせる。うぐ!ゼーダの言った通り、物凄い衝撃だ! ゼーダは、俺より神気の扱いは数段上だ。神気の密度も全然違う。だから俺は、闘 気を混ぜて防御する事で耐える。それでもこの衝撃か! (・・・闘気を混ぜるとは、中々のセンスだ!)  ゼーダは、いつの間にか、目の前に居た。この神気は目眩ましか! (天上神の真の実力を知れ!!)  ゼーダの乱舞が始まった。鳩尾から始まり、ガードが下がった所に、顔面、肩、 脇腹、胸と入れてくる。凄まじい連撃だ! (この天上神の『恒天乱舞(こうてんらんぶ)』の前に、敵は無い!!)  ゼーダは、己の全ての力を振り絞って、俺に攻撃する。 (良い勝負だったが、これで『恒天乱舞』は締めだ!!)  渾身の蹴りが来る。俺は意識朦朧としている。そして、この蹴りを食らった。 (・・・グハァ!!!)  ゼーダは、『予知』していたのだろう。俺がこの蹴りを食らって倒れる所を。そ うだ。俺は全部食らうつもりで居た。最初からな!! (君は・・・わざと食らっていたと言うのか!・・・この一撃の為に!!)  ゼーダの脇腹に俺の拳が刺さった。全てを食らって、尚倒れず、この一撃の為に 反撃もしない。それが俺の選択だった。『予知』された予想を変えずに、結果を変 える。それは、反撃は無いと思わせ、全てを食らった上での反撃だ! (・・・ううぐぅあああ!こ、これが『破拳』のルール!!)  ゼーダは、もがき苦しむ。俺の『破拳』は、全てを破壊する。それは、当たりさ えすれば、ゼーダの体でさえ、この通りだ。 (み、見事だ・・・。君は、とうとう私の本気を超えた・・・。今の技は、私がグ ロバスを倒した時に放った技。それを、覚悟していたとは言え、全て食らって、耐 えて攻撃など、誰が予想しえるか!!)  そうだったのか・・・。アンタを超えたいと言う一心からだった。 (フ・・・。フフフ・・・。君の意志は、この体に刻まれた!・・・私を倒したの だ。もう誰にも負ける事は許さぬぞ!!)  ああ。俺は、俺の為にも負けたくない。アンタの強さを受け継いでみせる! (・・・良く言った。君こそ、私の後継者にして、次代を担う者だ!)  この決闘でアンタ、俺に勝たせるつもりだったのか? (馬鹿を言うな。私は勝つつもりだった。・・・そして互いの意志を、どちらかが 継いで、『闘式』に行くつもりだった。君もその覚悟だっただろう?)  ・・・まぁな。アンタが勝っても、俺は恨みはしなかった。その時は、アンタ主 導で『闘式』を闘って欲しいさえ思っていた。 (それで良いんだ。そして、君は私に勝った。・・・ならば、私の力を継ぐ権利は、 君にこそある。・・・受け取れ。私の意志を・・・。そして、私の力の全てを!)  アンタとは、結構長い付き合いだったが、感謝している。本当に俺を強くしてく れた。俺の第2の師匠だ。アンタの事は、どんな事があっても忘れない。 (嬉しい事を言う・・・。君はいつも、最後の最後まで、本音を言わないからな。 ・・・ああ。これで私は、君と一つになれる。・・・そして、君と一緒に生きてい ける。君を経て、君の視点で、この世界を見る事が出来る!)  正直、寂しいし、行って欲しくない気持ちはある。でも、そんな野暮な事は言わ ない。・・・ゼーダ。俺と共に、時代を築き上げよう。俺がそれを叶える!! (ああ・・・。頼んだぞ・・・。我が弟子にして、我が分身よ!)  ・・・ゼーダ。俺と共に生きろ。ゼーダ!!  そして俺は、この天上神の力を、使いこなして見せる!  これが、この皮肉屋の最期の姿だった。いや、これからは、この俺の意志と共に 歩んでいくのだった。  俺は・・・楽しい夢を見ていたのかも知れない。  どこまでも皮肉屋の神と、修行をする夢。  それは、至上の一時だったに違いない・・・。  俺は覚えている・・・忘れない・・・忘れて堪るか!  皮肉屋で、偉そうで、全てを悟ったような口調の神を。  そんなアンタが、俺の為に命を懸けた事を!  俺を強くさせる為だけに、自分を省みずに闘った事を!!  俺は・・・決して忘れない・・・。  ・・・  朝になったか・・・。  俺は、久し振りに涙を流していた。・・・俺の中に、もうゼーダは居ない。いや、 居るには居る。だが、話し掛けてくる事は無い。完全に俺と一体化したからだ。  俺は起き上がると、自分の心を落ち着ける。いつものように、天神流空手の型を 淡々とこなしていく。いつもなら、『見事な物だな』などと言う声が聞こえてきた が、もう聞こえる事は無い。  ゼーダが居ない生活。それは当たり前の事だった。しかし、過去へ行った時のよ うに、空虚感は無い。寧ろ、満たされていた。胸の中は、力で満たされていた。  俺は、胴着に着替え終わると、集中した。今までの事が、夢じゃ無ければ、俺は 受け継いだ筈だ。なら、出せる筈だ。  ・・・う、うおおおお!!心の奥底から、俺じゃない何かが、湧き出るような感 覚。これが・・・これが、ゼーダから受け継いだ力か!!  凄まじい・・・。だが、これでゼーダは、本当に俺の中に行ったと、理解する。  俺が、再び心を落ち着けると、足音が聞こえた。  その瞬間、次に出て来る情景が浮かんだ。恵と睦月さん、それとジュダさんと赤 毘車さんが、この部屋に来る情景だ。これが『予知』のルールか。  バァン!  予想通り、恵と睦月さん、そしてジュダさんと赤毘車さんが、この部屋に入って くる。そして、俺の姿を見た。 「・・・兄様?ですわよね?」  恵が、訝しげな目で俺を見る。 「ああ。勿論だ。おはよう恵。」  俺は優しく話し掛けた。それで恵は落ち着く。 「今のお力は・・・?」  睦月さんが、いきなり力を出すなと言わんばかりに抗議の目を向ける。 「済みません。どうしても確認したい事がありまして。」  そう。ゼーダとの激闘の印をだ。 「お前、今の状態が自然になったのか?」  ああ。さすがジュダさんだ。俺の変化に気付いている。 「はい。受け継ぎました。」  俺は、それだけ答える。すると、衝撃を受けたようだ。 「そうか・・・。ゼーダは、君に後を託したか・・・。」  赤毘車さんも、今の一言で、全てを察する。俺が受け継いだ事を悟ったようだ。 「後を託した?どう言う事でしょうか?」  さすがの恵も、今の意味は分からなかったらしい。 「言葉通りの意味だ。瞬は、ゼーダと完全に一つになった。今の瞬からは、天上神 の全てを感じる。つまり、天上神その物になったんだ。」  ジュダさんは、説明してくれた。 「瞬は、天上神からの受け継ぎの儀式を行ったのだろう。そして、それをクリアし た。だから瞬からは・・・もうゼーダの気配が無い。」  赤毘車さんは、言い辛そうにしていた。ゼーダが居ない事を告げるのは、苦しい 事だ。何せ、今まで散々見せてきたからだ。 「・・・昨日の夜に、俺の中で対決したんだ。そして勝った方が、俺の体で『闘式』 に出る覚悟でな。・・・本気のゼーダとの一騎打ちをした。」  俺は、目を瞑れば、まだゼーダと闘っているような感覚になる。 「俺は、勝てた・・・。何とかな。・・・そして、俺に全てを託して、ゼーダは去 った。いや、俺の中で一体化したんだ。」  俺は、説明してやる。ゼーダとしても俺にしても、後が無い賭けだった。 「・・・兄様の馬鹿!!何て危険な賭けを!!貴方、負けた時の事、考えなかった のですか!?負けて、残された人の気持ちを考えなかったのですか!?」  恵は、本気で怒っていた。こう言われてもしょうがない。それだけの事を、俺は したのだ。特に恵は、俊男の事で、一度誰かを失う悲しみを背負っている。 「済まないな。・・・でも、あのままで居たら、俺は駄目になっていた・・・。」  そうだ。俺が俺で居られる為に、ゼーダは俺と対決したのだ。 「無茶し過ぎですよ。瞬様。・・・貴方は、いつもそうですね。」  睦月さんも本気で怒っていた。それは、聞かん坊を諭す母のような口調だった。 「お前、本当にゼーダに勝ったのか?」  ジュダさんは、怪しんでいる。確かに信じられない事だ。 「ええ。アイツのおかげで、俺は吹っ切れました。見ていて下さい。」  俺は、俺の状態のまま、本気の力を出す。この部屋が崩れないように、コーティ ングをしてだ。この芸当も、俺が完全にゼーダと一体化したから、出来る芸当だ。 「ゼーダに変わらず、その力。確かに、受け継いだようだな。」  赤毘車さんは、僅かな変化も見逃さないようにしていたが、変わらなかった俺を 見て、俺の言う事が、本当だと知ったようだ。 「・・・お前と言い、俊男と言い、軽く神の力を超えてくるとは・・・。恐ろしい よ。本当に・・・。いや、お前の場合は、神になったと言った方が正しいか。」  ジュダさんは、お手上げのポーズをする。 「いや、俺は力を受け継いだだけです。俺の本当の生き方を見せるのは、これから ですよ。アイツも共に生き、俺と一緒にこの世界を見る事にしたんです。だから、 俺を通じて、見せてやりたいんですよ。このソクトアを!」  俺は、ゼーダの意志を忘れない。 「そうか・・・。なら、見せてやれ。そして、俺をも驚かせみろ!」  ジュダさんは、俺に発破を掛けてくれる。それは、新しい神に対して、応援して くれる感じだった。実際、そのつもりなんだろうな。 「はい。俺だけの生き方を、見せてあげます。ゼーダの意志、爺さんの意志、そし て俺が思い描いた意志を、この力と共に!!」  俺は、嘗て無い程の力が、この手に溢れるのを感じた。それは、今まで俺が歩ん できた歴史が詰まっていた。そして、この手の中には、爺さんからの魂。そして、 ゼーダが貫いてきた魂が詰まっていた。 「これが・・・兄様の・・・力!!」  恵は、『制御』のルールで、俺の絶対量が分かる。それは、嘗ての俺には無い力 だ。この力は、受け継いだ意志と、受け継いでいく意志だ。  俺は、このソクトアに、天上神の意志を示してみせる。  強く生きる。そして、正しく生きる。それは、強要されて示される物では無い。  俺の中で強く芽生えた意志。それは、前に進む為に、未来を勝ち取ると言う、単 純でありながら、大事な意志だった。  その為に、この力は手に入れたのだ・・・。見ていろ!ゼーダ!!  私の周りには、無茶をする人ばかりが集まるらしい。  俊男さんは、自分の命を懸けて、私の為に『瘴気』と闘った。  そして兄様は、殻を破る為に、ゼーダさんと命のやり取りをして、それに勝った。  どちらも、自分の命を懸けて、自分を貫く為に、無茶をした。  私は怒った。本気で怒った。この人達は、自分を何だと思っているのか?  でも、同時に羨ましいと思った・・・。  この時代、このソクトアで、これだけの意志を示せる人が、近くに居るなんてね。  だから私は、この目でこの人達の生き様を焼き付けようと思う。  それが、この時代に生きる私達に出来る意味になると信じて・・・。  ・・・  兄様は、無茶をしながらも生還した。その事を俊男さんに話したら、呆れていた が、一定の理解もしていた。予想通りとは言え、俊男さんも共感を抱いていた。  だけど、これ以上無茶をするなと一言言うのだけは忘れなかった。置いてかれる 人達の事を、少しは思って欲しい物だ。  そして、その昼に、道場に皆が集まって、兄様の様子を見に来た。私がお報せし たら、皆が心配になって集まってくれた。当然の事だし、兄様も少しは自覚しても らいたかった。無茶ばかりするんです物。  で、ジュダさんの立会いの下、俊男さんと兄様で、手合わせする事になった。  それがまぁ・・・恐ろしいの何の・・・。  ガキィ!!ビキィ!!  さっきから、恐ろしい音が響いている。何せジュダさんと赤毘車さんが、本気で 道場内を結界で守っているのに、全体が揺れる程の攻撃を、あの二人は行っている からだ。どれだけなんですの・・・。 「す、凄いよ。瞬君!僕は、この前、誰にも負けない力を手に入れたと、本当に思 っていたんだ。でも、思い上がりだったと感じさせてくれる!」  俊男さんは、嬉しそうだった。この前の事で、頭一つ抜け出た感じだったから、 本気で修練する事は、ほとんど無いと思っていたのだろう。 「お前こそ、俺のこの力を本気にさせてくれるなんて、何て奴だよ!全く!!」  兄様も、子供のような顔をする。この方達は、本当に仲が良いわね・・・。 「全く参った奴等だ・・・。俺を置いて、こんな強くなりやがって。」  ジュダさんは、冷や汗を掻きながら、結界を強めている。 「でやぁ!!」 「ハイィィィ!!」  兄様と俊男さんは、互いに掛け声を放って、拳を交差させる。そこで、弾かれる ように離れて、修練は終わった。互いに礼をする。 「ふー。良い汗を掻いたよ。やるね!瞬君!」 「それは俺の台詞だ。さすがだな。俊男!」  俊男さんも兄様も笑顔で握手を交わす。仲が良い事で・・・。 「瞬君まで、あんなに強くなるなんてね・・・。まぁ瞬君の場合は、前から素質は 感じていたけれどさ。んー。対策を考えないと・・・。」  ファリアさんは、本気で心配する。その気持ちも分からなくも無い。何せこれで 兄様のタッグは、こんな強い兄様と、秋月の下で手解きを受けている江里香先輩で すからね。手強いタッグになりそうだ。 「おい。瞬。グロバスから伝言がある。」  士さんが、兄様に声を掛ける。グロバスさんとしては、複雑でしょうね。  士さんは、極自然にグロバスさんに変わる。最近スムーズですね。 「お前が、ゼーダの跡を継いだのか?」  グロバスさんは、兄様を値踏みするように見る。 「俺は、まだまだです。まだ跡を継いだと胸を晴れるような事をしていません。だ から、これから一歩ずつ進んでいこうと思っています。」  兄様は迷い無く言った。昔の兄様なら、強く正しいが口癖だった筈だ。 「ゼーダが意志を託す訳だな。我もお前の覚悟を見たくなった。見せてくれるんだ ろうな?」  グロバスさんは、ジロリと兄様を見る。 「見てください。誰よりも強く正しくを目指したアイツを、俺が見返してやる覚悟 です。この強さは、それを示す為の一歩でしかありません。」  凄い。兄様の力は誰よりも輝いていた。こんな清廉な魂を、私は見た事が無い。 「その覚悟、その言動、そして、その魂の輝きは、正に天上神の物。お前のこれか らの覚悟は、この神魔王も見させてもらうぞ。」  グロバスさんは、兄様の事を認めた。・・・何だろう。兄様の言動は、確かに変 わった。愚直なまでに強く正しくを目指していた兄様は、もう居ない。自分の行い で、強くて正しい事を証明して見せると言う強い覚悟を感じた。  グロバスさんは満足すると、士さんの中に戻った。 「それにしても、あの皮肉屋が居なくなったと思うと、寂しいな。」  士さんは、溜め息を吐く。 「あ。皆は勘違いしてますが、ゼーダは出て来れなくなっただけで、俺の中に居ま すよ。だから、『神化(しんか)』も可能です。」  『神化』か。確か、神が、自分を出す為に一番最高の状態になる事よね。ジュダ さんが竜の化身になり、ネイガさんが鳳凰の化身になれるように。 「と言う事は、『予知』も使える訳だな?」  赤毘車さんは、確認する。まぁそう言う事になりそうね。 「滅多に使いませんが、多分使えると思います。」  兄様は、まだ試してないから、そう言うに留めた。 「瞬と俊男に、水を開けられちまったな。・・・俺もそろそろか・・・。」  レイクさんは、何かを覚悟しようとしていた。そう言えば、最近は部屋に篭って、 何かを瞑想している事が、多々ある。それと関係してるのかも知れない。 「レイク。焦っちゃ駄目よ?一つずつ進めば良いんだからね?」  ファリアさんは何かを知っているようだ。要注意ね。 「それにしても、『予知』ってキツイ能力だよな。参ったぜ。」  エイディさんは、頭を掻いていた。エイディさんは、作戦を練っていたから、油 断出来ないわね。葵と綿密に何かを話し合っている感じだったし。 「私の『重力』でも、通じるかどうか怪しいね。」  ゼリンが警戒を強める。 「俺の狙撃も『予知』されたんじゃ形無しだな。フォロー頼むぜ。」  グリードさんは、兄様と当たりたくないようだ。グリードさんの主な攻撃は狙撃 による攻撃だ。『予知』が出来る兄様との相性は、物凄く悪いだろう。 「恵さん、瞬君は強い。だけど、僕達だって強くなった。絶対に勝とうね!」  俊男さんは、私が兄様と闘う時の事を思い描いていた。 「言われるまでも無く勝ちます。覚悟するのは兄様の方よ?」  私は、勝算が無い訳でも無かった。俊男さんと組んでるから尚更だ。 「おっかない妹だ。だが俺も、もう簡単には勝ちは譲らないぞ。」  兄様は、自信に満ち溢れていた。今までには無かった事だ。 「あーあ。瞬さんとの舞台に立って、瞬さんを見返そうと思ったのに、瞬さんの方 が、そんなに強くなっちゃうなんて、ビックリですよ。」  葉月は、そんな文句を言いながらも、尊敬の目で兄様を見る。 「フッ。瞬の対策を踏まえて、特訓するぞ?葉月。」  赤毘車さんが、葉月の言葉を聞いて、ここぞとばかりに鍛えようと宣言する。 「頑張りなさい葉月。ま、『闘式』では、応援しますよ。」  睦月は、素直じゃない。本当は大手を降って応援したい癖に。 「でも、油断は禁物ですぞ。私達の仲間だけじゃない。魔族や、セントの者共も出 場するのですからな。彼等も、相当な物ですぞ。」  ショアンさんは、他のタッグの警戒も怠らない。 「セント・・・か。あ、そうだ。睦月さん。セントの元老院の情報ってあります?」  ジャンさんが、元老院の事を聞いてくる。珍しいわね。 「ジャン。やっぱり、気になるのかい?」  アスカさんは、何か知っていそうね。 「この前のテレビで流れてた情報程度ならば、ありますよ。」  睦月は、一応の為、資料に纏めていたようだ。さすがに手配が早いわね。 「睦月。皆も興味がお有りのようだから、コピーして拝見しましょう。」  私は指示を出すと、睦月は、一礼して手早く動く。資料のコピーは、『闘式』の 開催が決定してから、うんざりする程やらせている。だから天神家の執事やメイド 達の反応も早い。だから、あっと言う間に終わらせてきた。 「ここの人達は優秀だねぇ・・・。」  亜理栖先輩は、手際の良さに感心する。 「内のジムのポスターの増刷も頼みたいくらいじゃのう。」  伊能先輩は、プロレスの試合が控えてるんでしたっけ。確かそろそろじゃなかっ たかしら?体も絞れてきてるみたいですしね。 「では、拝見するか。フム・・・。こ奴は、見覚えがあるな。確か、軍隊研究所に 侵入した際に、額縁に飾られていた覚えがある。」  ゼハーンさんは、加藤 篤則を指差す。そう言えば、メトロタワーに侵入してら したんだっけ。良くやりますわ。 「加藤 篤則・・・。ってコイツが、例のシンマインドって奴?」  レイクさんが驚く。ゼロマインドの片割れのシンマインドは、確かにこの男のよ うだ。普通の中年に見えるわね。 「篤則か・・・。この男は、確かにかなりの古株だね。年齢も41歳と偽っている が、実際はもっと上だろうね。私もそうだったんだが、年齢を誤魔化す上で、他の 人達に暗示を掛ける必要がある。恐らく、篤則も行っている筈だ。」  ゼリンが説明してくれた。成程。そうやって、セントの深部に入り込んでいたの ね。全ての人達への暗示じゃなく、ゼロマインドに関わる僅かな人達への暗示を掛 けた訳ね。それじゃ他の経歴の人も、疑った方が良さそうだ。 「軍隊研究所で、頭角を現して、現在に至る・・・か。その前の経歴がすっぽり抜 け落ちてるじゃねぇか。こんな杜撰な経歴で、良くもバレなかった物だ。」  士さんは呆れていた。確かに曖昧な経歴だ。 「その曖昧さが、ポイントじゃないカ?詳しい経歴だと、ボロが出るからネ。」  センリンさんの言う通りだ。あまり細かく書いても、出身校などを訪ねられたら、 経歴が無い事がバレてしまう。 「って事は、この中で、経歴が曖昧な奴程、ゼロマインドの、もう一人の片割れに 近いって事じゃねーか?見てみようぜ。」  エイディさんは鋭い所を突く。確かに、その可能性は高い。 「どれどれ。まずはタッグのパートナーからだな。ええと、アルヴァ=ツィーア。 17歳。ツィーア財閥のトップで、デルルツィアの皇帝の血を引く若き当主。つい 最近までデルルツィアン柔術をやっていた経歴があり・・・と。」  兄様が経歴を読み上げる。この方は私もお付き合いがあるわね。と言っても、こ の方の父親の方ですけどね。ツィーア財閥とは、取引がありましたね。 「この人、ヒート先輩の従兄弟じゃないかな?僕、聞いた事があるよ。ヒート先輩 と最後まで跡目争いをしていた継承者候補だったって。財閥の方が、慌しくなった から、結局ヒート先輩が継いだんだけど、実力じゃ、そう変わらないって言ってた よ。ヒート先輩が、警戒している一人だったと思う。」  俊男さんは、ヒート先輩とも仲が良かったですから、良く知っていた。何だか、 垢抜けない顔をしているが、これでもデルルツィアン柔術の使い手なのね。 「この者は違う感じがしますな。私も名前は聞いた事がありますし。」  ショアンさんもセント出身なので知っているようだ。 「まぁそうでしょう。私も恵様と一緒に、ツィーア財閥との取引に参加した事があ ります。その時は先代でしたが、その後継と見て間違いないでしょう。」  睦月が補足説明をする。まぁ身元はハッキリしてるわね。 「参加者以外を見てみっか。ええと。ケイリー=オリバー、26歳。キャピタルの 金融街の元締めと。若くしてその才能を発揮し、天才フィクサーとして活躍したと あるな。タウン出身か。って事は、完全に叩き上げって事だな。」  グリードさんが、経歴を読みながら、唸っていた。 「・・・出身校は・・・。やはり、タウンのエイブル小にエイブル中か・・・。」  ジャンさんが、苦い声で、搾り出すように言う。肩を落としているわね。 「ジャン。やっぱり、話していた人なのかい?」  アスカさんも、事情を知っているようだ。 「ああ。コイツは、間違い無くオレのダチだった男だ・・・。野心溢れる男だった けどさ・・・。セントを変えてみせるって意気込んでたよ・・・。それが、今は元 老院に居るなんて・・・。」  ジャンさんは、苦しそうだ。知り合いが元老院の一味じゃぁ、やりきれないでし ょうね。元老院は、今のセントの象徴でもある。 「『闘式』で、何があったのか、問い質すさ・・・。」  ジャンさんは、その決意で居た。何があったのか、そこでハッキリするだろう。 「にしても、お前の知り合いって事は、コイツもシロだな。」  士さんは、溜め息を吐く。ジャンさんの気持ちを落ち着かせる為に、話題を変え ようと思ったのだろう。細かい気配りね。 「次に行くネ。ゲラルド=フォン、51歳。ああ。この顔には見覚えがあるヨ。何 度か国事総代表を経験してる政治家だネ。」  センリンさんは、セント出身なので、良く知っているようだ。 「キナ臭い話が絶えなかった男だな。私が若い頃ですら、政治献金の話で、何度か 追求された事のある奴だ。だが、それ以外の経歴は普通だな。シティの進学校出身 のようだが・・・。ありきたりだな。」  ゼハーンさんが、余り好きでは無い部類の男のようだ。 「ま、要注意人物の一人かもな。結構な大物みたいだし。」  エイディさんは、ゲラルドの丸を付ける。マメですわね。 「ん?この目付きがあまり良くない男は何じゃ?狐みたいな目をしとるのう。ええ と、リー=ダオロン、43歳かぁ。不正監視委員会の委員長を3回もしとるのか。 不正監視とかする割には、良い目付きじゃないのう。」  伊能先輩が、ダオロンの情報を読み上げる。目付きが気に入らないみたいだ。 「目付きは関係ないだろ?・・・でもコイツも、委員会に入るまでは、ゲラルドと 一緒で、シティの進学校出身か。どっちも政治塾を出ているし、順調に出世したみ たいだね。何だかありきたりだねぇ。」  亜理栖先輩は、メガネを掛けながら、顎に手をつけて考える。 「ありきたりってのは、逆に怪しいかも知れんな。ま、注意しておこう。」  ジュダさんが、資料を見ながらチェックしていた。 「で、ハイネス=ローン。ああ。コイツか。確かケイオスの息子だったな。最近に なって元老院したらしいが、これは、ケイオスからの言質でも分かるように、ケイ オスの代わりに行かされたんだろう。」  赤毘車さんは、ケイオスの息子の事を話す。私達が直接ケイオスから聞いた事だ。 「ハイネスは、もう一人の僕が倒したミシェーダの代わりに元老院入りした者でし ょう。本来なら、ケイオスが呼ばれる筈だったと言ってました。ケイオスは、断る 代わりにハイネスに行くように命じたとの事です。」  俊男さんが、もう一人の僕と言う時に、少し言葉に詰まったのを私は感じた。時 の彼方に飛ばされた私が見守った俊男さんね・・・。 「何でも、ワイスと猛特訓しているらしい。楽しみだな。」  ジュダさんは、『闘式』を楽しみにしている。それは、こう言う未知の戦力が育 ってきているのも、楽しみの一つとなっているのだろう。 「次に、マイニィ=ファーンさんですね。31歳で、テレビ局の局長?あれ?姉さ んこの人、ご奉仕メイド大会で、開会宣言してた人に似てません?」  葉月が、思い出しながら睦月に問う。 「今年は知りませんが、昨年までなら、確かにそうですね。敏腕の女性プロデュー サーで、未だにテレビ局に大きな影響力を持っているらしいですが?」  睦月は、昨年の事を思い出す。今年は葉月に、託したのでしたね。 「セントのテレビ放送のボスか。『絶望の島』での放送も、確かセントからの電波 だったな。そう考えると、影響は大きいかもな。元老院が出来るまでは、現場編成 部に所属していたようだ。」  レイクさんが、経歴の欄を見てみる。編成部に居たって事は、相当に腕が良いよ うね。野心のありそうな顔をしてるわ。 「この人物も、それ以前の経歴が、いまいち良く分からないな。警戒するか。」  兄様は、頭を掻きながら、チェックする。一癖も二癖もある連中ばかりですわ。 「ん?コイツだけ、院長としか書いてないな。」  士さんは、院長の項目を見る。私も気になっていた所だ。名前が書いていない。 経歴は、色々分かっているのだが、名前が明らかにされていないのだ。 「経歴は輝かしいな。裁断長と国事総代表を務めたとなると、法にも政治にも通じ ている訳だ。不正監視委員会にも顔が広いらしい。」  ゼハーンさんは、経歴を見て唸る。上に立つ者として、相応しい人物だ。元老院 の院長になったのも頷ける。 「でもこの人、凄い苦労人みたいだよ。学生の時は、スラムの経済格差除去運動に 参加している。それに、キャピタルとタウンの物流の整備にも尽力して、シティ出 身者の特権排除運動を呼びかけてる。」  俊男さんは、経歴を読んで驚いている。確かに、凄いやる気に溢れる活動ばかり ね。こう言う運動に参加しているって事は、本気でセントを良くしたいと思ってい る証拠ね。選挙で勝つ訳だ。 「・・・この経歴で、名前が知られていない?・・・記憶を操作している可能性が あるな。さすがに、この経歴で聞き覚えが無いと言うのは、変だぜ?」  ジャンさんが、怪訝そうな顔をする。確かに変だ。 「じゃぁ、この人がゲンマインドなのかい?」  アスカさんは、マジマジと見る。 「多分違うわね。」  私は、結論が出されそうになったので、否定しておいた。 「俺もそう思う。いくらなんでも、あからさま過ぎる。コイツは撒き餌だろうな。」  エイディさんは、私と同じ考えのようだ。 「撒き餌ねぇ。また、小ざかしい手を使うなぁ。」  魁さんが、呆れていた。まぁ、呆れたくもなるわね。 「撒き餌って、どう言う事だ?」  グリードさんはピンと来ていないようだ。他にも分からない人が居るようね。 「この経歴を手に入れれば、誰が見ても、この院長は怪しいと思いますわ。トップ だし、名前も明かしていない。なのに経歴が輝かしいと来てます。」  私達以外でも、調べてる者が居たら、怪しいと思うだろう。 「だが、ゼロマインドだって、そこまで馬鹿じゃないだろって事だ。だから、院長 の事を調べて、セントに脅威を及ぼす奴を、炙り出そうとしてるんだろうよ。」  エイディさんがそれに続く。考えは一緒のようだ。 「ま、奴等ならやりそうだな。」  士さんは、セントのやり口を知っている。だから、実感するのだろう。 「そうだね。それに、私がセントに居た頃も、この院長は、品行方正で知られてい た。この人がゲンマインドだとは、私も思えないんだ。」  ゼリンが、セントの時の事を思い出して言う。 「ま、逆に怪し過ぎて、目を逸らすってのもあるだろうが、その線は薄そうだ。」  士さんは、分析を始める。院長は、シロだろうと私も踏んでいる。 「最後に如月 由梨、23歳か。随分真面目そうな女性ですな。」  ショアンさんが、顔を顰める。確かに睨んでいるような感じにも見える。 「ま、この由梨については、素性がハッキリしてますわ。」  私は、事前に調べておいた。何せ名前からして興味を引いた。 「それについては、私から説明しましょう。」  睦月が前に出る。ま、睦月からの説明の方が良いですね。 「如月 由梨は、藤堂の分家の当主です。」  そう。由梨は、藤堂家縁の家柄だった。 「でも如月家は、先代から変わってしまいまして・・・。」  葉月は、言い難そうにしていた。分家の悪口を言いたくないのだろう。 「ま、要はセントの国粋主義者になってしまったんです。」  睦月は隠さずに言う。睦月は如月家を毛嫌いしてましたしね。 「そりゃまた、極端な話ですね。」  葵が呆れる。セントでは、結構ある事だ。 「もしかして、鳳凰教の出身なのか?・・・それなら、私の責任だ・・・。」  ゼリンは、目を瞑って肩を落とす。 「確かに、鳳凰教はセントの国粋主義者の集まりだったな。ゼリンの演説を、私も 聞いたから、間違い無いだろう。・・・それにしても、あそこ出身か・・・。」  ゼハーンさんは、ゼリンが鳳凰教を広めていた時に、場所を突き止めた事がある。 「鳳凰教の教団幹部の、如月 剛清(たけきよ)の娘かも知れない。彼は、熱心な 信者だった。確か、娘がキャピタル大学の法学部に行くと、話していた。」  ゼリンは、せめて情報だけでもと、思い出しながら言う。 「23歳で裁断長を務めたとなると、相当な成績だったんだねぇ。」  莉奈が感想を漏らす。資料によると、かなりの成績だったらしい。 「キャピタル大学随一の成績だったらしく、裁断試験には、一発合格って書いてあ るぜ。で、地方裁断所の裁断員で、衝撃デビューを果たして、押しも押されぬ人気 になったとか。これは、何かの手回しがあった臭いな・・・。就任して僅か1年で、 最高裁断所の裁断長に就任か・・・。」  エイディさんが、不審の目で資料に目を通す。成績だけじゃない何かを感じます ね。不正な何かを感じますわ。 「あまりの人気振りに、セントが目を付けたって所か。23歳で裁断長を経験して 元老院入りとは、破天荒な話だな。」  士さんは、鼻で笑う。こんなに不自然なのに、平然と罷り通ってる事の可笑しさ に、呆れているのだろう。私もそうですしね。 「私達が、『創』を倒したから、突然就任したのだろうな。時期的にもな。」  ゼハーンさんが、資料に目を通して、間違いないと判断する。確かに、時期的に は、そんな感じがしますわね。 「それにしても、随分と個性的な奴等が揃ってるな。」  確かに兄様の言う通り、一筋縄では行かない連中が揃っている。 「コイツ等から、ゲンマインドが居るとなると、誰だ?」  魁さんは、頭を捻る。私の考えでは恐らく、この人だと言うのはある。だが、確 信は持てていない。それに、皆の意見を聞くのも大事だ。 「身元がハッキリしてる奴は、除外って言ってたよなー。」  グリードさんが、自分で丸を吐けてる人達を外す。 「篤則、アルヴァ、ケイリー、ハイネス、由梨辺りは除外って事だな。」  エイディさんもチェックする。この5人は、ゲンマインドとして選ぶには、危険 過ぎる人達だ。篤則を除き、経歴が分かっているからだ。 「このゲラルドって人は、どうなのかな?順調に出世して元老院に、って感じみた いだけど・・・。どうにも謎が多そうな人よね。」  葵は、ゲラルドが気になるようだ。 「俺は、このダオロンって奴が気になるね。目付きが余り良くないし。」  いまいちなコメントを残しているのは、魁さんだ。まぁ目付きは良くないですけ ど・・・。それとこれとは、余り関係ないように思える。 「魁・・・。顔を材料にしちゃ駄目だって・・・。」  亜理栖先輩にも突っ込まれている。まぁ突っ込むわよね。 「このマイニィって人、スタイル綺麗だなー。この人も怪しいんだっけ?」  莉奈が、少しずれた意見を言う。スタイルも余り関係ない。 「ま、スタイルが良いに越した事は無いがのう・・・。関係無い気がするのう。」  伊能先輩は溜め息を吐きながら、チェックしていた。 「後は、この院長だな。如何にも怪しいって感じだがね。」  ジャンさんは、院長の資料を読んでいた。 「怪し過ぎて、逆にって感じだよねぇ。」  アスカさんが、続け様に感想を述べる。院長は、ミスリードな気はするわね。経 歴は大した物だから、ただのミスリードだけで選んだんじゃないだろうけど。 「さて、この4人に絞られたのは、間違いなさそうだが?」  ジュダさんは、頭を捻っている。考えているのだろう。とは言え、ジュダさんも この人だと言う目星は、付けている様だ。 「ま、7割方、アイツであろうな。」  赤毘車さんも、予想が付いてる様だ。と言う事は、私と同じ意見だろう。 「え?分かるのですか?さすがですねー。」  葉月は驚いていた。確かに資料は少ない。だが、要因を考慮すれば、自ずと答え は出てくる。そうなると、コイツだろう。 「葉月、頭を働かせなさい。現在のセントが、どのような手段で発展してきたかを 考えれば、自ずと答えが出る筈ですよ?」  睦月が、答えになるような事を言う。さすが睦月ね。気が付いている様だ。奉仕 スキルや合気道のスキルなどは、葉月の方が上かも知れないが、頭の回転の速さは、 睦月の方が上だ。だから私も、安心して家を任せられるのだ。 「睦月の言う通りですね。私も、その人物が一番怪しいと思ってますわ。」  私も同意見だと付け加える。まぁ、間違いないと思う。 「成程な。で、誰なんだ?」  レイクさんは、考えたけど分からなかったのだろう。 「力が抜けるような事を言わないでくれる?睦月さんがヒントをくれたんだから、 分かるでしょう?恐らく、テレビ局の局長をやっていたマイニィ=ファーンよ。」  ファリアさんが、頭を抱えながら、説明してくれた。そう。恐らくマイニィだろ う。セントは、結構早くから、テレビでの宣伝行為に目を付けていた。その宣伝効 果と、ソクトアにセントの強さを見せ付けたのも、テレビによる効果が大きい。  だが、今回の事情を知ったワイスが、それを逆に利用して、魔族を知らしめたの だ。だから、歯噛みしている事だろう。 「この姉ちゃんがねぇ・・・。パッと見じゃ信じられねぇな。」  グリードさんは、腕を組んで考える。 「マイニィか・・・。言われてみれば、彼女は、いつの間にか元老院入りしていた 印象がある。ここに書いてある31歳と言うのも、偽証かも知れないね。」  ゼリンは、思い出したように言う。恐らく近しい者には、強烈な暗示を掛けてい るのだろう。何とも手の込んだ事である。 「ま、とりあえずは、様子見だな。警戒するべき相手が決まったのは大きいしな。」  ゼハーンさんは、マイニィの資料を見て呟く。私と睦月は、資料に目を通した瞬 間に、マイニィだと思っていた。現在のセントの現状は、テレビの進化と共に発展 してきた。情報発信の重要性は、セントも分かっている様だ。  特に、レイクさんが幼い頃に捕まったと言う、15年前辺りから、急激に発展し て来たのを見ると、テレビによる貢献は大きい。  加藤 篤則と、マイニィ=ファーン。元老院の二人の動きに、これからも注目し なければならない。敵を観察すれば、自ずとやる事が見えてくるだろう。  『無』を打倒するには、『無』の事を、完全に理解しなければならない。  先祖がそうであったように、俺も、『無』に触れなければならない。  そうなる為には、意識を『無』に傾けなければならない。  先祖が至った境地・・・全ての感情を力に変える・・・。  そうまでしても勝ちたいと思う心が、『無』の境地に至れる。  それは、紛い物の『無』では無い、本当の意味での『無』。  俺は、その境地に至れるのか?  ・・・いや、そう考える事も不要だ。  意識が・・・遠のいていく・・・。  目の前に、何かを感じる・・・。  遠くて近い何かで、最近良く見る光景になっていた。  最初の内は、何かの見間違いかと思ったが、そうではない。  意識を集中させる事で、この光景を良く見るようになっていた。  圧倒的な何かが迫ってくる・・・俺は、呑まれてしまうのだろうか? (意識を繋げろ。そのまま呑まれては駄目だ。)  ・・・ゼロ・ブレイド?俺に語りかけているのか? (私の所有者ならば、自ら招き寄せた『無』に呑まれるんじゃない。)  『無』に呑まれる?この感覚がそうだと言うのか? (君は、日に日に『無』に近づいていた。だが、呑まれてしまったら、そこで終わ りだ。しっかりするんだ。私を使いこなしてくれるのだろう?)  そうだな。俺の応えてくれる剣は、アンタしか居ない。 (光栄だ。・・・さて君は、やっと此処に辿り着いたな。)  此処・・・か。此処は何処なんだ? (記憶の渦が湧き出る場所。『無』の意識だ。)  『無』の意識?『無』に意識があるのか?それならば、ゼロマインドと一緒にな るんじゃ?アレだって、『無』の力に意識が芽生えた物なんだろ? (その言い方は失礼になるな。語り掛けてみろ。今の君なら出来る。)  語り掛ける・・・?この大きな塊に? (新たな来訪者・・・。1000年振りの客人だな。)  この声が・・・『無』の意識? (此処に辿り着く人間が、再び現れるとは・・・奇跡よな。)  随分、荘厳な感じがする。これが『無』? (私は『無』の意識にて、意識の『根源』であり、『記憶の渦』でもある。)  何だか、色んな呼ばれ方しているんだな。 (名前など、私にとっては不要。私は、ただ答えを返すのみの存在。)  答えを返す?じゃぁ、何かを質問した方が良いのか? (要求に応えるのが私の存在意義だ。・・・それが『無』の意識の真実。)  何だか受身な話なんだな。『無』ってのは、積極的ではないのか? (君達の言う『無』とは、私に還る事と同義だ。私の下に送り返す為の力が『無』 と呼ばれているようだ。・・・しかし、狂いが生じている。)  アンタの元に還る?此処に還す為の力が、『無』なのか?それに狂いって? (此処に還る事は、全ての創めに戻ると言う事。物事は、私より生まれ私に還る。 還る力を貰っている私は、全ての要求に応じるのが務め。・・・だが、ソクトアは 私の下に還っていない。ソクトアで使われている『無』は、違う場所へと集まって いる。どうやら、特殊な磁場が生じているようだ。)  特殊な磁場・・・。それが、ゼロマインドか・・・。 (・・・その者は、力を集めているようだな。それを支配の為に使おうとは・・・。 『無』の本来の意識とは、掛け離れているようだ。)  ゼロマインドは、アンタの意識の一部じゃないのか? (違うな。ソクトアに芽生えた意識は、私の力を用いて生まれし変異種だ。だが、 力の性質は、私と同じだ。そして、純粋な力は、私に迫る勢いで生成されている。)  ゼロマインドは、アンタに迫る力を持っているってのか!? (だが、あの者は、決して私にはなれぬ。・・・根源の意識を忘れた者は、ただ暴 走するだけだ。・・・その結末を、分からぬ筈が無いのに・・・。)  つまり、ゼロマインドは、暴走するって分かっていながら、力を集めているのか? (そうだ。その者が、私に成り代わろうとしているのは事実だ。)  根源に成り代わろうとしているってのか・・・。 (宇宙には真理がある。摂理がある。それを破る者は、どんな者にも未来は無い。 根源は、求められたら応える事が定義。それを分かっておらぬようだ。)  未来が無いのに、奴は成し遂げようとしているのか・・・。奴は止めなきゃ駄目 だな・・・。如何すれば良いんだろうか? (奴も私と同義の力を持つ存在。私を止める力を持てば、奴も止められよう。)  アンタを止められる力?そんな物あるのか? (あるとだけ言っておく。私の存在に関わる事項だからな。これ以上は答えられぬ。 だが私は、質問には答えなければならぬ。だから、その力が存在する事だけは確か だ。君がそれに目覚めた所で、私は止めはしない。)  アンタが、どんな項目でも答えなきゃいけないってのは、本当の事らしいな。自 分を滅ぼすかも知れない事項にまで、答えなきゃならないとは。 (それが根源たる私の、存在意義だからだ。奴は、それを持ち合わせていない。だ から奴は、私には成り代われぬのだ。)  存在意義か・・・。アンタは、存在意義に迷う事は無いのか? (根源たる私は、迷う事は無い。私が迷えば摂理が乱れる。善の存在も悪の存在も 私は知覚している。だが、分け隔て無く接する。例えそれで宇宙その物が乱れたと しても、私は手を出さぬ。・・・それが根源たる私の役目だ。)  そうか・・・。何かそれって、悲しいな。でも、アンタは俺達が想像する『無』 の姿、その物だって事は分かった。 (そうか。私を知覚出来たか。君は、私の役目を正当に理解したようだな。今なら ば、君達が『無』と呼ぶ力を制御出来るだろう。嘗て、1000年前に私が、君の祖先 に制御させた力をだ。)  先祖ジークが巨大な力を制御して使いこなした。それを俺が・・・。 (君は、私の存在を理解し、私の力がどう言う物か理解した。ならば、力に溺れる 事も無いだろう。危険だと知覚する事で制御する。全ての感情を、私との意識に繋 ぐ事が出来れば、必然的に私に辿り着く筈だ。)  確かに、アンタの力は強大だ。そんな力を無限に使おうとしたら、摂理が壊れる と思う。そんな事は、俺の望む事じゃない。 (その心が理解だ。制御しようと思う心が無ければ、この力は暴走する。)  そうだな。それじゃゼロマインドと変わりがない。 (奴は、彼の星で擬似的に私に成り代わり、巨大化を図った。それは完成しつつあ る。彼の星の1000年前までの情報を記録し、過去の情報を整理して、命を復活させ るにまで至っている。)  ワイスや健蔵の事だな。彼等は、1000年前に『無』の力で散っていった奴等だ。 だが、復活した。それも擬似的に此処を真似ようとしたからか。 (私利私欲で私の力を使うのは、摂理に逆らう事。狂いが生じて当然だ。)  じゃぁ、ワイスや健蔵は、ゼロマインドを滅ぼせば、消えちまうのか? (その解釈は違う。奴も勘違いしていたが、奴がやった事は、魂の復元だ。奴は、 それにより従えさせようとしていたようだが、奴の配下になった訳では無い。だか ら、もう奴とは別個の存在なのだ。そして、それを世が許した以上、摂理は手出し 出来ぬ。再び命を全うするまで、消える事は無い。)  えーと。つまり、生まれた所が違うだけで、ゼロマインドと繋がっている訳じゃ ないって事?何だか、微妙に言い辛いけど・・・。 (その解釈で合っている。復元では無く、召喚ならば話は別だ。召喚とは、召喚者 が力の源になって、一時的に顕現させる事。召喚者の力が尽きれば消える。よって 召喚者の意に応じるしか無い。だが、奴がやったのは、完全なる復元だ。復元させ てしまったら、違う存在となる。従う道理など無い。)  ゼロマインドは、そこをトチったって訳か・・・。 (そんな間違いを犯すのも、奴が私を理解していない証拠だ。力だけ真似るから、 知識が追いついていないのだ。)  手段を知っていても、使役方法を知らないって事だな。さっきから聞いていると、 アンタも、ゼロマインドの事は気に入らないみたいだな。 (それは無い。私は求めに応じて応える存在だ。よって、奴から私に接触すれば、 力を与えるつもりでいる。)  それが、アンタの脅威になる事でもか? (君には不快かも知れんが、それが根源と言う存在の意義なのだ。)  成程ね。不快と言うより、悲しいよ。俺は。 (君が悲しいと言う事は、私の事を理解した証だ。)  そうかもな。ままならないアンタは、本当に孤独な存在なんだな。 (私に孤独と言う言葉は当てはまらない。全ての者は、私より生まれ、私に還るか らだ。それは、君にとっては悲しい事なのだろう。それで、私を理解したと言った のだ。人間は、他者との絆を大事にすると言うからな。)  そうだな。俺は、人間である事を誇りに思う。だから、ゼロマインドは何が何で も止めたい。その為の力が欲しいんだ。 (ならば、制御する力を強化すると良い。まずは、私から流れ出る力を完全に制御 する事から始める事だ。彼の星を消したくなければな。)  制御する力か・・・。まるで恵みたいだな。 (君の仲間の一人だな。制御する力を『ルール』と呼んでいたな。)  さすがは、根源だな。細かい事情まで把握しているらしいな。 (それが根源たる私の役目だ。それに加えて、君達の星は昔から問題が多い。だか ら、事情を把握する事は容易い。)  何だか、ジュダさんからも、そんな事を言われた気がするなぁ。 (神の者達だな。・・・現在の神達は、色々頑張っているようだが、今回の件に関 しては、手を焼いているようだな。仕方の無い事だが・・・。)  ・・・そう言えば、アンタと神って、どっちの方が立場が上なんだ? (立場・・・。私には、そう言う概念すら無い。私はただ答えるだけの存在である し、神は善行を管理する立場だ。そこには、上も下も無い。敢えて言うなら、君達 の立場で考えれば、神の方が有難い存在であろう。)  善行を管理する立場か・・・。そう言われると納得だな。 (生物には、それぞれ役目がある。それを忘れた者は、必ず報いを受ける。)  報い・・・それは、あの俊男やジュダさんのように・・・かな? (時間跳躍者か。彼等は報いを受けたのでは無い。)  ・・・え?報いを受けたんじゃない?どう言う事だ? (彼等は、自分達の星や仲間達に、危害が及ぼさぬように理を紡いだのだ。『因果』 と言うのは、無理が生じさせぬように調整する役目を持っている。)  無理が生じさせぬように?それはどう言う事なんだ? (あそこで、誰かが死ぬと言うのは、決まっていた。それに対し君の仲間は、堕ち た神の死を当てはめた。だが、何度も繰り返し戻ったせいで、時空が不安定になっ た。そこで『因果』は、戻った二人を果てに連れて行く事で調整したのだ。)  調整?そんな事が原因だったのか・・・。 (勘違いしないで欲しい。『因果』は、それでも君達の被害が一番少ない方法を模 索して、選択したのだ。・・・調整をしなければ、大変な事になっていた。)  そうだったのか?大変な事って何なんだ?あの二人が犠牲になっても、やらなけ ればならない事だったのか? (時空が安定しなければ、時空の穴が、突然開く事も考えられる。その穴に落ちれ ば、何も知らない者が時空跳躍してしまう可能性がある。)  え?つまり、いきなり誰かが時空跳躍しちゃうって事か? (そう言う事だ。彼等は、その穴を埋める為に理を紡いだのだ。)  ・・・ただ犠牲になった訳じゃ無いって事か。どっちにしろやり切れないけどな。 (・・・そろそろ戻った方が良い。君の意識が、こちらに吸収されかかっている。)  マジか・・・。余り居ると危ないんだな。 (私は全てが還る場所でもある。気を付けた方が良い。)  分かった。そろそろ現実世界で何とかするよ。・・・この力を使いこなして、理 解が深まったら、また来るさ。その時は・・・。 (君の望む力について、答えよう。まずは理解を深めたまえ。)  了解した。頑張ってみるさ。近い内に、また来るよ。  ・・・俺は、必ずこの力を使いこなしてみせる。それが、俺とゼロ・ブレイドに 課せられた課題でもあった。  どんな問いにも答え、分け与える存在に、俺は辿り着いた。  記憶の渦にして、あらゆる存在の根源に、俺は辿り着いた・・・。  そして、俺は色んな質問をした。  その存在は、どんなに難しい質問でも答えてくれた。  その存在は、自分に害を為す者が問い掛けても、結果で応えると言っていた。  その存在は、善でも悪でも無かった。  ただ・・・答えを返して、分け与える存在だった。  俺は、悲しいと思ったんだ。  そこに自分の意思は反映されない。  どんなに間違った質問でも答えなければいけない。  それが、悲劇を生むとしても、答えを返さなければならないからだ。  その存在は、全ての起源だから、気にする必要は無いと言っていた。  でも、俺には憂えているように見えたんだ・・・。  自分に成り代わろうとしているゼロマインドに、脅威を感じているように見えた。  それは、当然の事だと思う。  だが、ゼロマインドから要求があれば、それに応えると言う。  そうする事が、その存在の意義なのだと、キッパリ答えた。  それは、誰よりも孤高な存在だ。  だけど、誰よりも儚い存在だったのだ・・・。  俺は、その儚い摂理を、守ってみせる・・・。  そして、見つけてみせる!  ゼロマインドを止められる力を!!  ・・・  俺は、希薄な意識が、回復していくのを感じた。  誰かが起こしている。これは・・・俺を一番に想ってくれている人だな。 「・・・ク!レイク!しっかり!!」  ああ。やっぱりファリアの声だ。俺が一番安心する声だ。 「・・・う・・・。ふう・・・。」  俺は、静かに目を開けた。まだ意識が希薄な部分がある。 「レイク!・・・はぁ・・・。ビックリしたわよ・・・。朝になっても起きないか ら、起こしに来たってのに、意識が混濁状態でした物・・・。」  ファリアは、普段通りに起こしに来たのだろう。だが、俺の様子がおかしいから 心配になったのだろう。でも、もう大丈夫だ。 「・・・済まん。心配掛けたな。ちょっと色々あってな。・・・つぅ!」  俺は、頭が冴え渡ると同時に、少し痛みを感じた。 「大丈夫?調子悪いなら、休んだ方が良いわよ?」  ファリアは、俺を支えてくれた。だが、この痛みは、体調から来る物では無い。 「大丈夫。・・・それより、頼みたい事がある。」  俺は、さっきまで居た空間が、嘘じゃないか確かめようと思った。 「何?私に出来る事なら、何でも言って頂戴。」  ファリアは、本当に心配なんだろう。何だか悪い気もするな。 「後で説明するけど、新しく力を手に入れたかどうか確かめたいんだ。」  俺は、まだ確信を持ってないので、曖昧な説明をする。 「・・・それで納得する人は、少ないと思うけど?」  ファリアは、ジト目で俺を見る。確かにその通りだ。 「ま、良いわ。レイクと付き合ってたら、これくらいで文句を言ってたら、キリが 無いからね。強めの結界を作れば良いのね?」  さすがファリアだ。俺の言いたい事を直ぐに分かってくれる。 「後で、ちゃんと説明してもらうわよ?・・・『結界』!!」  ファリアは、溜め息を吐きながら、本気の『結界』を張ってくれる。最近のファ リアの魔力の桁は、恐ろしい物があるな。 「よし・・・。後は集中して・・・。」  俺は、『根源』との邂逅を思い出す。あそこは、ひたすら孤独の世界だった。そ れは、ただ答えを返すのみの存在だったからだ。そこには、怒りも喜びも悲しみも 憎しみも無い。ひたすら求めに応じて返す。そう言う孤独の世界だった。俺は、そ の世界を悲しいと思った・・・。しかし、その悲しみすら、溶けて消えるような世 界だった。その世界の力を借りるんだ・・・。  あそこの力は強力だからな。制御するように心掛けるんだ・・・。出し過ぎない ように・・・。ソクトアを壊さない程度に・・・だ! 「・・・!!この力!これは、やばいわね!!」  ファリアは、俺が出そうとする力の片鱗を感じただけで、分かったようだ。  あの世界は、本当に何も無かった。『根源』が居て、それに対し質問をぶつけて 返してくれるだけの世界だった。『無』の力とは、全ての者が生まれ、全ての者が 還る『根源』と一体化させる力の事だ。故にあそこには、全ての情報がある。それ は、魅力に満ちた世界かも知れない。だけど、その後は消えるしかない。そんな世 界に戻す『無』の力は、恐ろしい力だ。  ゼロマインドは、そんな中で生まれた怪物だった。しかも『根源』と同じ力を有 していると言う。そのせいか、ソクトアで起こった1000年前からの情報を全て記憶 している。それは、俺の祖先であるジークが、『無』を顕現させたからだ。  ジークは、この力の本当の恐ろしさを、肌で感じていた。だからこそ制御する力 を鍛えていた。しかし、その時代に天才が現れたのだ。それがクラーデスだった。 彼は、『神気』と『瘴気』の力を合わせる事で、互いに消しあう力が増幅される、 『無』の力が出来ると発見したのだ。そこから、一時的に『根源』と会話して、ミ シェーダの過去の不正を知った。『無』の力に目覚めると、色々な事を知る事が出 来るのは、情報の宝庫である『根源』と会話出来るからだったのだ。  ゼロマインドは、その『根源』に成り代わろうとしている。全ての情報を集め、 ソクトアを呑みこみ、全ての者を従えさせる為に力を集めている。ソクトアを、あ の何も無い世界に変えようと思っているんだ・・・。  そんな事させる物か!!俺は、あの場で知った。あの世界が、どんなに悲しい物 であるかを!あの世界の行き着く果てを!!『根源』は、悲しい存在に見えた。し かし、それを感じる事すら出来ないのだ。そんな世界にさせる物か!! 「俺は・・・ゼロマインドを止める・・・。絶対に・・・絶対にだ!!」  俺の力が増していく感じがした。俺は、傍にあったゼロ・ブレイドを手に取る。 (君は、ジーク以来の『本物』の『無』の力を知ったのだな。)  ああ。アンタと行き着いた果てにあった世界。あの世界を知る事が、『無』の力 の第一歩だったんだ。俺は、あの世界を知った・・・。だから、このソクトアを、 あんな世界にさせはしない!! (良く言った。君になら、私の力の全てを託せる。共に高みを目指すぞ!)  有難い。俺は、この力の次を目指す!『根源』が存在すると言っていた、『根源』 さえも打倒する力を、この手に掴んでみせる!! (一緒に探すぞ。君になら、必ず手に入れられる。)  了解だ。・・・まずは、この感覚を覚える!『無』の力を暴走させちゃ駄目だか らな。この力をアンタと共に制御する! (そうだ。そのギリギリの感覚を、忘れるな!)  難しいな・・・。でも、ジークに出来た事だ。俺も使いこなす! 「俺は、この力になんか負けない!」  俺の叫びと共に、ゼロ・ブレイドは、安定し始める。・・・これが・・・。本当 の『無』の力を纏ったゼロ・ブレイドか! 「つぅ・・・。はぁ・・・はぁ・・・。」  あ。ファリアが肩で息をしている。 「す、済まん。大丈夫か?ファリア。」  俺は、ゼロ・ブレイドを安定させて鞘にしまった後、ファリアに近寄る。 「・・・危なかったわよ。でも、凄いの見ちゃったから、良いわ。」  ファリアは、笑顔で返してくれた。『結界』のおかげで、幾分暴走が防げた筈だ。 ファリアには、感謝し足りないぜ。 「あれが、本物の『無』の力なの?」  ファリアは、俺から感じた力を、肌で感じていたからな。 「そうだ。紛い物じゃない本物の『無』だ。」  掛け合わせる事で出来る微小の『無』は、大量の『神気』と『瘴気』を必要とす る。だから、使いこなせる者は、『無』の力は、『放出』する物と勘違いをしてい る。しかし、本物の『無』は、『根源』から与えられる力の事だ。これは、扱いを 間違ってはいけない。これを相手の力に合わせて『制御』しなければならないのだ。  部屋の外が騒がしくなってきた。今の力の説明を求められそうだな。  扉をノックする音が聞こえた。 「あ。大丈夫です。」  俺は、椅子に座る。ファリアは腕組しながら向かいに立つ。 「・・・レイクさんね。さっきの力は・・・。」  恵が部屋に入ってきた。アレだけ派手にやれば、感じ取られもするか。 「騒がせたな。皆を集めてもらって良いか?俺から言う事がある。」  俺は、『根源』との会話を、皆に知らせるべきだと思った。 「元よりそのつもりよ。今、睦月に連絡させてるわ。」  さすが恵だ。こう言う時に、話が早いと助かる。  そして、30分もしない内に、皆が集まってきた。どうやら『結界』越しでも、 俺が制御した『無』の力の特異性に気が付いたらしい。 「レイクさんから感じた力、僕が目覚めた『無』とも違う・・・。」  俊男は、この前『聖魔』に目覚めた時に、『無』を使っていたが、俺が出した力 は、あの力とは、根本からして違うのだ。 「レイク・・・。君は、本物に辿り着いたのか?」  ゼリンは、知っていそうだった。そう言えば、俺の祖父に真の『無』の力に目覚 めていないと断言したのもゼリンだ。ゼロマインドから、色々情報を貰っていたん だろうな。親父も、神妙そうな顔をしている。 「今から話しますよ。・・・まずは・・・。」  俺は、説明を始めた。それは、何も無い世界の事。『根源』と言う存在。そして、 『無』の力の真実を。今、ソクトアで溢れている『無』の特異性についても説明す る。俺の力が特異なのでは無い。ソクトアで生成されている『無』の方が、特異な のだ。そして、その力を大量に生成して、ゼロマインドは『根源』に成り代わろう としている事も話してやった。 「・・・成程な・・・。納得の行く話だ。」  ジュダさんは、開口一番に納得する。俺が会話して得た事項は、把握しているよ うだ。赤毘車さんも横で頷いている。 「全く・・・レイクも無茶し過ぎ。目覚めない時は、本当に心配したのよ?」  ファリアが睨んでいる。確かに心配掛けたよな。 「レイクに無茶をするなって言っても無駄だ。だけど、次は知らせろよ?心構えが 無くやられたら、俺達だって何も対処出来んだろうが。」  エイディが、頭を押さえてくる。確かに、何も知らせないのは良くなかったな。 「兄貴、俺達の事を、もっと頼って良いんだぜ?」  グリードは、口を尖らせている。確かにその通りだ。 「それにしても、その『根源』だったか?ソイツの狙いは何なんだろうな?」  士さんは、『根源』の考えている事が読めないようだ。 「士さん。『根源』は、質問に対して、答えを返す事しか出来ないんです。それを 破るつもりも無いようです。それによって自分が滅びたとしても構わないって言っ てました。本当に・・・そんな奴でした。」  俺は、言葉を詰まらせる。俺が感じた悲しい世界の管理者だった。 「難儀な奴だな・・・。そう言う輩が、一番対処しにくいぜ。」  士さんは怒っていた。『根源』が、それ以外の何も感情がない事に対してだ。 「ずっと孤独だったんだネ。何だか寂しい気がするヨ。」  センリンさんは、人一倍孤独には敏感だ。だから、憐れみの気持ちが強い。 「それにしても、おっそろしい力を手に入れたもんだねぇ。」  ジャンさんが、冷や汗を掻きながら、話してくる。 「さすが、ゼハーン殿の息子と言うべきでしょうな。」  ショアンさんも褒めてきた。何だか、この人達には、可愛がられてる気がする。 「俺は、今を生きるのに必死なだけですよ。」  俺は、ムズ痒くなって来たので、誤魔化す。 「謙遜するな。お前は、祖父であるリークが成し遂げられなかった、本当の『無』 の力を引き出す事に成功したのだ。誇って良い事だぞ。」  親父が褒めてくれる。滅多に褒めてもらえないので、少し嬉しい。 「ゼハーンさんの嬉しそうな顔、久し振りに見るね。」  アスカさんが冷やかしていた。仲が良いなぁ。 「それにしても・・・。お前、本当にジークに似てきたな。」  ジュダさんは、懐かしむように俺を見る。俺が『無』の力に目覚めた事で、伝記 のジークの、在りし日の姿に似てきたのだろう。 「これは、『闘式』の日が楽しみだな。」  赤毘車さんも俺の成長に、ジークを重ねている。 「しっかし、さすがレイクさんだ。俺達も、負けてられないよな。」  瞬は、俺が目覚めた事を素直に喜んでいた。 「僕達も、少し前と比べたら、格段に強くなった。けど、レイクさんは、強さとは 違う所で、成長している。見習わないと、いけないね。」  俊男は、俺が精神的に成長しているのを感じ取ったらしい。確かに今回は、力も 手に入れた事は勿論だが、それ以上に精神的に強くなった感じがある。 「レイクは凄いのう。でも、俺は俺じゃ。精一杯やらんとな。」  巌慈は、プロレスと言う舞台がある。自分の舞台を盛り上げようと思っているん だろうな。俺は、それも凄い事だと思っている。 「ま、お前さんは、次の試合を頑張りな。」  亜理栖が、巌慈を応援する。何だかんだで良いコンビだ。 「レイク、君ならゼロマインドを打倒出来ると信じている。」  ゼリンは、ゼロマインドを倒さなければならない。だから、俺が次のステップア ップを目指してる事を、悟っているのかも知れない。その事は、まだ言う気は無か った。と言うのも、それは極秘にしようと思っているからだ。何せ、誰もやった事 がない所業であるし、危険だからだ。  俺は、次の力に目覚めると言う決意を新たにするのだった。  セントの象徴であるメガロタワーの頂点には、入室に制限がある部屋が存在する。 例え元老院であっても、出入りに許可が要る。そこは、ゼロマインドが居る部屋だ とされ、その存在を知っている者は極僅かである。  その部屋にシンマインドこと、加藤 篤則が入室する。シンマインドである彼は、 当たり前のように入室する。そして溜め息を吐く。最近、色々上手く行かないから だ。今までは、当然のように企みは成功してきた。特にソーラードームの仕組みは、 絶対の自信があった。原案はゲンマインドが用意した物だが、実際に実行したのは 篤則である。  だが、『ルール』を配った辺りから、様子がおかしくなった。これにも絶対の自 信があったのだが、それからは、ミシェーダがやられるなど、全く上手くいかない。 今回の『闘式』も、結局は魔族に裏切られたような形での開催だ。こんな大会を容 認しなければならないのは、屈辱以外何者でもない。  そこにゲンマインドが入ってくる。 「随分、溜め息が多いのね。」  軽口を叩いてくる。この軽口が、篤則を余計にイラつかせている。 「フン。最近の有様を見れば、溜め息も吐きたくなる。」  篤則は、つれなく返す。最近は、こう言うやり取りが多い。 「カルシウムを取らないと。と言っても、そんなの効くのは、人間の体だけどね。」  ゲンマインドは、楽しそうに受け流す。ゲンマインドは、余り怒らないタイプだ。 「余裕なのだな・・・。貴様は、『闘式』に出ないから当たり前か。」  篤則は、嫌味を言う。あんな大会に出場しなければならない自分を呪う。 「まだ言ってるの?私は、電波で協力してるじゃない?」  ゲンマインドは、毎日にようにテレビを流させている。元老院が如何に偉大かを 報せ、『闘式』では、敵が居ないと言う様な報道をしているのだ。それにより、セ ントの期待が高まり、結果的にゼロマインドである自分達の力が高まっていく。  ソーラードームは円錐の形をしているので、頂点に力が集まる。その頂点の部屋 に自由に出入りするゼロマインドの特権である。 「分かっている。貴様のテレビ戦略には舌を巻いている。」  篤則は、力を集めてもらっている負い目があるので、必要以上に文句は言わない。 「テレビ局は、気付いてないのか?」 「私がそんなヘマをする訳無いでしょ?今の局長は、私の言いなりよ。」  ゲンマインドは、そう言うと妖艶な笑みを浮かべる。その美貌で色々な男を騙し ているが、尻尾は決して出さない。恐ろしい女性だ。 「テレビ局にマイニィありってか?恐ろしい女だ。」  篤則は皮肉を言う。 「ちょっと。名前を安易に出すのは止めてよね。」  ゲンマインドは、頬を膨らませる。そう。ゲンマインドの正体は、マイニィ=フ ァーンだった。テレビ局を自由に操り、搦め手で力を集める。それがマイニィの戦 略だった。元々頭が良いので、篤則と違って、効率的に力を集めている。 「誰が聞いてるか分からないんだからね。って言っても、限界でしょうけどね。」  マイニィは気が付いていた。もう自分の事がバレるのは、時間の問題だと。 「どうしてだ?誰か口でも割ったのか?・・・もしや、ゼリンか?」  篤則は、警戒する。誰かが裏切った可能性を探る。有り得るとすれば、ゼリンだ と考えている。彼女には、あらゆる機密を任せていた。 「彼女の可能性もあるけど、彼女に正体までは教えてないでしょ?それは、貴方も 同じ。貴方がバレたのはケイオスに話したせいだし。そんなの自業自得だけどね。」  マイニィは、嫌味に拍車を掛ける。こう言う時のマイニィは、生き生きしている。 「喧しいわ。・・・口の減らん女だ。で、何でバレるんだ?」  篤則は考えたが、見当が付かないので聞いてみる。 「少しは、頭脳も労働しなさいよ。私達のプロフィールを公開したでしょ?」  マイニィは、嫌味を言いながら、プロフィールの事を言う。 「あれには、そんなに詳しい事を書いてないぞ?巧妙に隠したではないか。」  篤則には、分からないようだ。確かにあのプロフィールには、大した事は書いて いない。出身校などは、巧妙に隠してある。差し障りの無い所を書いて、偽装工作 まで施している。 「馬鹿ね。その些細な情報で、気が付く人も居るのよ。貴方、人間を舐め過ぎてる でしょ?最近の人間は、ちょっと昔までとは違うわよ。伝記の再来と言っても良い かも知れないわ。油断は禁物よ。」  マイニィは気が付いていた。『ルール』に適用される人間が、思いの外、多かっ たのが切欠である。精神の使い方が上手い者程、『ルール』に目覚めるのだが、そ の数が多いと言う事は、強敵が多い事を意味する。 「そんな物か?俺達が、ここまで来れたのも、人間が愚かだったからだぞ?」  篤則は、人間にそこまで脅威を感じていない。 「ミシェーダがやられた事を、もう忘れたの?」  マイニィは呆れる。ミシェーダがやられるくらい、今の人間達は危険なのだ。 「忘れる訳が無い・・・。忘れられる物か・・・。」  篤則は、声のトーンを落とす。何だかんだで篤則は、ミシェーダと仲が良かった。 それだけに、ミシェーダがやられたのは、結構ショックだったのだ。 「あーら。結構センチなのね。妬けちゃうわ。」  マイニィは、からかう。いや、結構本気なのかも知れない。 「言ってろ。何にせよ、貴様とは切っても切れぬ仲なのだ。安心しろ。」  篤則は、忌々しいと思う。何もかも正反対の存在である、ゲンマインドのマイニ ィとは、結局一心同体の存在なのだ。最終的にゼロマインドになる事は、決まって いるのだ。今の性格の違いさえも、ゼロマインドになれば感じなくなる。 「お気に入りだったのね?残念ねぇ。・・・そう言えば、あの子はどうなの?」  マイニィは、思い出したように言う。勿論、アルヴァの事だ。 「あのガキか。最初は、お遊び程度にしか思ってなかったが、アレで中々、良い技 を持っている。正直見縊っていたな。」  篤則は、正直な感想を述べる。アルヴァの技の冴えは、本物に見えた。もっと児 戯な技だと思っていた。数合わせくらいにしか思っていなかったからだ。 「あーら意外。って事は、本物なのね?」  マイニィも、普段のアルヴァを知っているだけに、意外だった。 「なら、あの処置を施せば、もっと強くなれるかしら?」  マイニィは、邪悪な笑みを浮かべる。嫌な響きだった。 「お前、アルヴァに例の処置をするつもりか?」  篤則は呆れる。例の処置は、非常用だった。簡単に施して良い物じゃない。 「別に?保険よ。ホ・ケ・ン。誰かさんが頑張れば、処置を施すつもりは無いわよ。 期待してるわよー?」  マイニィは、嫌らしく語尾を延ばしながら、挑発する。 「・・・全く、貴様らしい発言だ。俺もシンマインドとして、そう簡単には負けん。 万が一に備えて、用意だけはしておくんだな。」  篤則は、渋々だが了承する形を取る。万が一と言う言葉は、了承する時に良く使 うのだ。マイニィの提案は、8割方碌な事が無いので、反対な事が多いのだが、了 承する時は、渋々ながら承認するのだ。 「了解。ま、あの子を壊すような事は、避けたいからね。大丈夫・・・!?」  マイニィは、軽口を叩こうとした瞬間、何かを感じた。それは、篤則も一緒だっ た。急に戦慄が走る。この感覚は、忘れられなかった。 「こ、これは!!『無』の波動!!しかも、これは!!」  篤則は、冷や汗を掻く。感じる力は間違いなかった。 「・・・嫌な感じね。ただの『無』じゃ無いわね。」  マイニィも感じ取る。この感じは、忘れもしない。 「俺達が最も目指すべき力・・・。間違いない。これは、『根源』からだ。」  篤則は、警戒を強める。今までの『無』の力を使った者は、『瘴気』と『神気』 を掛け合わせていた。なので、自分達の把握出来る『無』だったのだ。だが、今感 じた『無』の力は違う。自分達が生まれ出た時に、感じた力だった。それは、自分 達とは根本的に違う大いなる存在であった。それが『根源』だと言う事は、他なら ぬゼロマインドである自分達だからこそ、分かったのである。 「あそこに通じる力を持った、イケナイ子は誰かしらね?」  マイニィは、いつものふざけた口調では無かった。 「フン。分かってる癖に、知らない振りは止せ。」  篤則は、嗜める。こんな事が出来る者は、『記憶の原始』を持っている者しか居 ない。恐らく、やり方を教わったのだろう。 「あのボンクラのせいで、とうとうあの血が目覚めちまったな。」  篤則は、島主の事を思い出す。レイクは、『絶望の島』から出すつもりは無かっ た。見せしめに一生あそこから出さないつもりだったのだ。ゼハーンに絶望を与え、 ゼロマインドに逆らう事が、どれだけ無益な事か、思い知らせる予定だった。  それを、あの島主が、事もあろうに油断して逃がしてしまったのだ。しかも、性 質の悪い事に、それを隠蔽しようとした。その報告を受けた時は、怒りで、どうに かなりそうだった。しかし、過ぎてしまった事はしょうがないので、ゼリンに島主 を処分するように言って、事無きを経たのだが・・・。 「ま、時間の問題とは思っていたわ。でも、本当に目覚めたとなると、あの子の才 能は、15年前のリーク以上って事よ?気を付けなさいね。」  マイニィは、リークの事を引き合いに出す。15年前に起こった反乱の事だ。類 稀なる才能で、次々と仲間を増やし、セントの門の前まで迫った事件の事だ。  だが、あの時はソーラードームが完成していたので、生半可な『無』しか使えな かったリークでは、打ち破れなかったのだ。 「分かっている。だが、これはチャンスだぞ。奴が『根源』に至る道を見つけたの なら、我々は巨大な力を手に入れるチャンスが生まれる・・・。」  篤則は、それを狙っていた。『根源』の力は脅威だが、その分、物凄く旨みの濃 い力を放っている。それを、自分達の物にすれば、この上ない力となる。 「そんな事は、分かってるわよ。」  マイニィは、呆れていた。そんな事は、誰でも思い付くからだ。今のままでは、 『無』の力なので、自分達が吸収する事が出来るが、もし、これを打倒する力を手 に入れてしまったら・・・と考えてしまう。だからこそ、脅威に感じているのだ。 (短絡的な男は、これだから・・・。)  マイニィは、相方の馬鹿さ加減に呆れてしまう。  それでも、自分の分身である以上、何とかしなければならない。  ゼロマインドとして、脅威を感じる力は、何とか対処しなければならないと、マ イニィは警戒を強めるのだった。