NOVEL Darkness 6-5(Second)

ソクトア黒の章6巻の5(後半)


 私の周りには、無茶をする人ばかりが集まるらしい。
 俊男さんは、自分の命を懸けて、私の為に『瘴気』と闘った。
 そして兄様は、殻を破る為に、ゼーダさんと命のやり取りをして、それに勝った。
 どちらも、自分の命を懸けて、自分を貫く為に、無茶をした。
 私は怒った。本気で怒った。この人達は、自分を何だと思っているのか?
 でも、同時に羨ましいと思った・・・。
 この時代、このソクトアで、これだけの意志を示せる人が、近くに居るなんてね。
 だから私は、この目でこの人達の生き様を焼き付けようと思う。
 それが、この時代に生きる私達に出来る意味になると信じて・・・。
 ・・・
 兄様は、無茶をしながらも生還した。その事を俊男さんに話したら、呆れていた
が、一定の理解もしていた。予想通りとは言え、俊男さんも共感を抱いていた。
 だけど、これ以上無茶をするなと一言言うのだけは忘れなかった。置いてかれる
人達の事を、少しは思って欲しい物だ。
 そして、その昼に、道場に皆が集まって、兄様の様子を見に来た。私がお報せし
たら、皆が心配になって集まってくれた。当然の事だし、兄様も少しは自覚しても
らいたかった。無茶ばかりするんです物。
 で、ジュダさんの立会いの下、俊男さんと兄様で、手合わせする事になった。
 それがまぁ・・・恐ろしいの何の・・・。
 ガキィ!!ビキィ!!
 さっきから、恐ろしい音が響いている。何せジュダさんと赤毘車さんが、本気で
道場内を結界で守っているのに、全体が揺れる程の攻撃を、あの二人は行っている
からだ。どれだけなんですの・・・。
「す、凄いよ。瞬君!僕は、この前、誰にも負けない力を手に入れたと、本当に思
っていたんだ。でも、思い上がりだったと感じさせてくれる!」
 俊男さんは、嬉しそうだった。この前の事で、頭一つ抜け出た感じだったから、
本気で修練する事は、ほとんど無いと思っていたのだろう。
「お前こそ、俺のこの力を本気にさせてくれるなんて、何て奴だよ!全く!!」
 兄様も、子供のような顔をする。この方達は、本当に仲が良いわね・・・。
「全く参った奴等だ・・・。俺を置いて、こんな強くなりやがって。」
 ジュダさんは、冷や汗を掻きながら、結界を強めている。
「でやぁ!!」
「ハイィィィ!!」
 兄様と俊男さんは、互いに掛け声を放って、拳を交差させる。そこで、弾かれる
ように離れて、修練は終わった。互いに礼をする。
「ふー。良い汗を掻いたよ。やるね!瞬君!」
「それは俺の台詞だ。さすがだな。俊男!」
 俊男さんも兄様も笑顔で握手を交わす。仲が良い事で・・・。
「瞬君まで、あんなに強くなるなんてね・・・。まぁ瞬君の場合は、前から素質は
感じていたけれどさ。んー。対策を考えないと・・・。」
 ファリアさんは、本気で心配する。その気持ちも分からなくも無い。何せこれで
兄様のタッグは、こんな強い兄様と、秋月の下で手解きを受けている江里香先輩で
すからね。手強いタッグになりそうだ。
「おい。瞬。グロバスから伝言がある。」
 士さんが、兄様に声を掛ける。グロバスさんとしては、複雑でしょうね。
 士さんは、極自然にグロバスさんに変わる。最近スムーズですね。
「お前が、ゼーダの跡を継いだのか?」
 グロバスさんは、兄様を値踏みするように見る。
「俺は、まだまだです。まだ跡を継いだと胸を晴れるような事をしていません。だ
から、これから一歩ずつ進んでいこうと思っています。」
 兄様は迷い無く言った。昔の兄様なら、強く正しいが口癖だった筈だ。
「ゼーダが意志を託す訳だな。我もお前の覚悟を見たくなった。見せてくれるんだ
ろうな?」
 グロバスさんは、ジロリと兄様を見る。
「見てください。誰よりも強く正しくを目指したアイツを、俺が見返してやる覚悟
です。この強さは、それを示す為の一歩でしかありません。」
 凄い。兄様の力は誰よりも輝いていた。こんな清廉な魂を、私は見た事が無い。
「その覚悟、その言動、そして、その魂の輝きは、正に天上神の物。お前のこれか
らの覚悟は、この神魔王も見させてもらうぞ。」
 グロバスさんは、兄様の事を認めた。・・・何だろう。兄様の言動は、確かに変
わった。愚直なまでに強く正しくを目指していた兄様は、もう居ない。自分の行い
で、強くて正しい事を証明して見せると言う強い覚悟を感じた。
 グロバスさんは満足すると、士さんの中に戻った。
「それにしても、あの皮肉屋が居なくなったと思うと、寂しいな。」
 士さんは、溜め息を吐く。
「あ。皆は勘違いしてますが、ゼーダは出て来れなくなっただけで、俺の中に居ま
すよ。だから、『神化(しんか)』も可能です。」
 『神化』か。確か、神が、自分を出す為に一番最高の状態になる事よね。ジュダ
さんが竜の化身になり、ネイガさんが鳳凰の化身になれるように。
「と言う事は、『予知』も使える訳だな?」
 赤毘車さんは、確認する。まぁそう言う事になりそうね。
「滅多に使いませんが、多分使えると思います。」
 兄様は、まだ試してないから、そう言うに留めた。
「瞬と俊男に、水を開けられちまったな。・・・俺もそろそろか・・・。」
 レイクさんは、何かを覚悟しようとしていた。そう言えば、最近は部屋に篭って、
何かを瞑想している事が、多々ある。それと関係してるのかも知れない。
「レイク。焦っちゃ駄目よ?一つずつ進めば良いんだからね?」
 ファリアさんは何かを知っているようだ。要注意ね。
「それにしても、『予知』ってキツイ能力だよな。参ったぜ。」
 エイディさんは、頭を掻いていた。エイディさんは、作戦を練っていたから、油
断出来ないわね。葵と綿密に何かを話し合っている感じだったし。
「私の『重力』でも、通じるかどうか怪しいね。」
 ゼリンが警戒を強める。
「俺の狙撃も『予知』されたんじゃ形無しだな。フォロー頼むぜ。」
 グリードさんは、兄様と当たりたくないようだ。グリードさんの主な攻撃は狙撃
による攻撃だ。『予知』が出来る兄様との相性は、物凄く悪いだろう。
「恵さん、瞬君は強い。だけど、僕達だって強くなった。絶対に勝とうね!」
 俊男さんは、私が兄様と闘う時の事を思い描いていた。
「言われるまでも無く勝ちます。覚悟するのは兄様の方よ?」
 私は、勝算が無い訳でも無かった。俊男さんと組んでるから尚更だ。
「おっかない妹だ。だが俺も、もう簡単には勝ちは譲らないぞ。」
 兄様は、自信に満ち溢れていた。今までには無かった事だ。
「あーあ。瞬さんとの舞台に立って、瞬さんを見返そうと思ったのに、瞬さんの方
が、そんなに強くなっちゃうなんて、ビックリですよ。」
 葉月は、そんな文句を言いながらも、尊敬の目で兄様を見る。
「フッ。瞬の対策を踏まえて、特訓するぞ?葉月。」
 赤毘車さんが、葉月の言葉を聞いて、ここぞとばかりに鍛えようと宣言する。
「頑張りなさい葉月。ま、『闘式』では、応援しますよ。」
 睦月は、素直じゃない。本当は大手を降って応援したい癖に。
「でも、油断は禁物ですぞ。私達の仲間だけじゃない。魔族や、セントの者共も出
場するのですからな。彼等も、相当な物ですぞ。」
 ショアンさんは、他のタッグの警戒も怠らない。
「セント・・・か。あ、そうだ。睦月さん。セントの元老院の情報ってあります?」
 ジャンさんが、元老院の事を聞いてくる。珍しいわね。
「ジャン。やっぱり、気になるのかい?」
 アスカさんは、何か知っていそうね。
「この前のテレビで流れてた情報程度ならば、ありますよ。」
 睦月は、一応の為、資料に纏めていたようだ。さすがに手配が早いわね。
「睦月。皆も興味がお有りのようだから、コピーして拝見しましょう。」
 私は指示を出すと、睦月は、一礼して手早く動く。資料のコピーは、『闘式』の
開催が決定してから、うんざりする程やらせている。だから天神家の執事やメイド
達の反応も早い。だから、あっと言う間に終わらせてきた。
「ここの人達は優秀だねぇ・・・。」
 亜理栖先輩は、手際の良さに感心する。
「内のジムのポスターの増刷も頼みたいくらいじゃのう。」
 伊能先輩は、プロレスの試合が控えてるんでしたっけ。確かそろそろじゃなかっ
たかしら?体も絞れてきてるみたいですしね。
「では、拝見するか。フム・・・。こ奴は、見覚えがあるな。確か、軍隊研究所に
侵入した際に、額縁に飾られていた覚えがある。」
 ゼハーンさんは、加藤 篤則を指差す。そう言えば、メトロタワーに侵入してら
したんだっけ。良くやりますわ。
「加藤 篤則・・・。ってコイツが、例のシンマインドって奴?」
 レイクさんが驚く。ゼロマインドの片割れのシンマインドは、確かにこの男のよ
うだ。普通の中年に見えるわね。
「篤則か・・・。この男は、確かにかなりの古株だね。年齢も41歳と偽っている
が、実際はもっと上だろうね。私もそうだったんだが、年齢を誤魔化す上で、他の
人達に暗示を掛ける必要がある。恐らく、篤則も行っている筈だ。」
 ゼリンが説明してくれた。成程。そうやって、セントの深部に入り込んでいたの
ね。全ての人達への暗示じゃなく、ゼロマインドに関わる僅かな人達への暗示を掛
けた訳ね。それじゃ他の経歴の人も、疑った方が良さそうだ。
「軍隊研究所で、頭角を現して、現在に至る・・・か。その前の経歴がすっぽり抜
け落ちてるじゃねぇか。こんな杜撰な経歴で、良くもバレなかった物だ。」
 士さんは呆れていた。確かに曖昧な経歴だ。
「その曖昧さが、ポイントじゃないカ?詳しい経歴だと、ボロが出るからネ。」
 センリンさんの言う通りだ。あまり細かく書いても、出身校などを訪ねられたら、
経歴が無い事がバレてしまう。
「って事は、この中で、経歴が曖昧な奴程、ゼロマインドの、もう一人の片割れに
近いって事じゃねーか?見てみようぜ。」
 エイディさんは鋭い所を突く。確かに、その可能性は高い。
「どれどれ。まずはタッグのパートナーからだな。ええと、アルヴァ=ツィーア。
17歳。ツィーア財閥のトップで、デルルツィアの皇帝の血を引く若き当主。つい
最近までデルルツィアン柔術をやっていた経歴があり・・・と。」
 兄様が経歴を読み上げる。この方は私もお付き合いがあるわね。と言っても、こ
の方の父親の方ですけどね。ツィーア財閥とは、取引がありましたね。
「この人、ヒート先輩の従兄弟じゃないかな?僕、聞いた事があるよ。ヒート先輩
と最後まで跡目争いをしていた継承者候補だったって。財閥の方が、慌しくなった
から、結局ヒート先輩が継いだんだけど、実力じゃ、そう変わらないって言ってた
よ。ヒート先輩が、警戒している一人だったと思う。」
 俊男さんは、ヒート先輩とも仲が良かったですから、良く知っていた。何だか、
垢抜けない顔をしているが、これでもデルルツィアン柔術の使い手なのね。
「この者は違う感じがしますな。私も名前は聞いた事がありますし。」
 ショアンさんもセント出身なので知っているようだ。
「まぁそうでしょう。私も恵様と一緒に、ツィーア財閥との取引に参加した事があ
ります。その時は先代でしたが、その後継と見て間違いないでしょう。」
 睦月が補足説明をする。まぁ身元はハッキリしてるわね。
「参加者以外を見てみっか。ええと。ケイリー=オリバー、26歳。キャピタルの
金融街の元締めと。若くしてその才能を発揮し、天才フィクサーとして活躍したと
あるな。タウン出身か。って事は、完全に叩き上げって事だな。」
 グリードさんが、経歴を読みながら、唸っていた。
「・・・出身校は・・・。やはり、タウンのエイブル小にエイブル中か・・・。」
 ジャンさんが、苦い声で、搾り出すように言う。肩を落としているわね。
「ジャン。やっぱり、話していた人なのかい?」
 アスカさんも、事情を知っているようだ。
「ああ。コイツは、間違い無くオレのダチだった男だ・・・。野心溢れる男だった
けどさ・・・。セントを変えてみせるって意気込んでたよ・・・。それが、今は元
老院に居るなんて・・・。」
 ジャンさんは、苦しそうだ。知り合いが元老院の一味じゃぁ、やりきれないでし
ょうね。元老院は、今のセントの象徴でもある。
「『闘式』で、何があったのか、問い質すさ・・・。」
 ジャンさんは、その決意で居た。何があったのか、そこでハッキリするだろう。
「にしても、お前の知り合いって事は、コイツもシロだな。」
 士さんは、溜め息を吐く。ジャンさんの気持ちを落ち着かせる為に、話題を変え
ようと思ったのだろう。細かい気配りね。
「次に行くネ。ゲラルド=フォン、51歳。ああ。この顔には見覚えがあるヨ。何
度か国事総代表を経験してる政治家だネ。」
 センリンさんは、セント出身なので、良く知っているようだ。
「キナ臭い話が絶えなかった男だな。私が若い頃ですら、政治献金の話で、何度か
追求された事のある奴だ。だが、それ以外の経歴は普通だな。シティの進学校出身
のようだが・・・。ありきたりだな。」
 ゼハーンさんが、余り好きでは無い部類の男のようだ。
「ま、要注意人物の一人かもな。結構な大物みたいだし。」
 エイディさんは、ゲラルドの丸を付ける。マメですわね。
「ん?この目付きがあまり良くない男は何じゃ?狐みたいな目をしとるのう。ええ
と、リー=ダオロン、43歳かぁ。不正監視委員会の委員長を3回もしとるのか。
不正監視とかする割には、良い目付きじゃないのう。」
 伊能先輩が、ダオロンの情報を読み上げる。目付きが気に入らないみたいだ。
「目付きは関係ないだろ?・・・でもコイツも、委員会に入るまでは、ゲラルドと
一緒で、シティの進学校出身か。どっちも政治塾を出ているし、順調に出世したみ
たいだね。何だかありきたりだねぇ。」
 亜理栖先輩は、メガネを掛けながら、顎に手をつけて考える。
「ありきたりってのは、逆に怪しいかも知れんな。ま、注意しておこう。」
 ジュダさんが、資料を見ながらチェックしていた。
「で、ハイネス=ローン。ああ。コイツか。確かケイオスの息子だったな。最近に
なって元老院したらしいが、これは、ケイオスからの言質でも分かるように、ケイ
オスの代わりに行かされたんだろう。」
 赤毘車さんは、ケイオスの息子の事を話す。私達が直接ケイオスから聞いた事だ。
「ハイネスは、もう一人の僕が倒したミシェーダの代わりに元老院入りした者でし
ょう。本来なら、ケイオスが呼ばれる筈だったと言ってました。ケイオスは、断る
代わりにハイネスに行くように命じたとの事です。」
 俊男さんが、もう一人の僕と言う時に、少し言葉に詰まったのを私は感じた。時
の彼方に飛ばされた私が見守った俊男さんね・・・。
「何でも、ワイスと猛特訓しているらしい。楽しみだな。」
 ジュダさんは、『闘式』を楽しみにしている。それは、こう言う未知の戦力が育
ってきているのも、楽しみの一つとなっているのだろう。
「次に、マイニィ=ファーンさんですね。31歳で、テレビ局の局長?あれ?姉さ
んこの人、ご奉仕メイド大会で、開会宣言してた人に似てません?」
 葉月が、思い出しながら睦月に問う。
「今年は知りませんが、昨年までなら、確かにそうですね。敏腕の女性プロデュー
サーで、未だにテレビ局に大きな影響力を持っているらしいですが?」
 睦月は、昨年の事を思い出す。今年は葉月に、託したのでしたね。
「セントのテレビ放送のボスか。『絶望の島』での放送も、確かセントからの電波
だったな。そう考えると、影響は大きいかもな。元老院が出来るまでは、現場編成
部に所属していたようだ。」
 レイクさんが、経歴の欄を見てみる。編成部に居たって事は、相当に腕が良いよ
うね。野心のありそうな顔をしてるわ。
「この人物も、それ以前の経歴が、いまいち良く分からないな。警戒するか。」
 兄様は、頭を掻きながら、チェックする。一癖も二癖もある連中ばかりですわ。
「ん?コイツだけ、院長としか書いてないな。」
 士さんは、院長の項目を見る。私も気になっていた所だ。名前が書いていない。
経歴は、色々分かっているのだが、名前が明らかにされていないのだ。
「経歴は輝かしいな。裁断長と国事総代表を務めたとなると、法にも政治にも通じ
ている訳だ。不正監視委員会にも顔が広いらしい。」
 ゼハーンさんは、経歴を見て唸る。上に立つ者として、相応しい人物だ。元老院
の院長になったのも頷ける。
「でもこの人、凄い苦労人みたいだよ。学生の時は、スラムの経済格差除去運動に
参加している。それに、キャピタルとタウンの物流の整備にも尽力して、シティ出
身者の特権排除運動を呼びかけてる。」
 俊男さんは、経歴を読んで驚いている。確かに、凄いやる気に溢れる活動ばかり
ね。こう言う運動に参加しているって事は、本気でセントを良くしたいと思ってい
る証拠ね。選挙で勝つ訳だ。
「・・・この経歴で、名前が知られていない?・・・記憶を操作している可能性が
あるな。さすがに、この経歴で聞き覚えが無いと言うのは、変だぜ?」
 ジャンさんが、怪訝そうな顔をする。確かに変だ。
「じゃぁ、この人がゲンマインドなのかい?」
 アスカさんは、マジマジと見る。
「多分違うわね。」
 私は、結論が出されそうになったので、否定しておいた。
「俺もそう思う。いくらなんでも、あからさま過ぎる。コイツは撒き餌だろうな。」
 エイディさんは、私と同じ考えのようだ。
「撒き餌ねぇ。また、小ざかしい手を使うなぁ。」
 魁さんが、呆れていた。まぁ、呆れたくもなるわね。
「撒き餌って、どう言う事だ?」
 グリードさんはピンと来ていないようだ。他にも分からない人が居るようね。
「この経歴を手に入れれば、誰が見ても、この院長は怪しいと思いますわ。トップ
だし、名前も明かしていない。なのに経歴が輝かしいと来てます。」
 私達以外でも、調べてる者が居たら、怪しいと思うだろう。
「だが、ゼロマインドだって、そこまで馬鹿じゃないだろって事だ。だから、院長
の事を調べて、セントに脅威を及ぼす奴を、炙り出そうとしてるんだろうよ。」
 エイディさんがそれに続く。考えは一緒のようだ。
「ま、奴等ならやりそうだな。」
 士さんは、セントのやり口を知っている。だから、実感するのだろう。
「そうだね。それに、私がセントに居た頃も、この院長は、品行方正で知られてい
た。この人がゲンマインドだとは、私も思えないんだ。」
 ゼリンが、セントの時の事を思い出して言う。
「ま、逆に怪し過ぎて、目を逸らすってのもあるだろうが、その線は薄そうだ。」
 士さんは、分析を始める。院長は、シロだろうと私も踏んでいる。
「最後に如月 由梨、23歳か。随分真面目そうな女性ですな。」
 ショアンさんが、顔を顰める。確かに睨んでいるような感じにも見える。
「ま、この由梨については、素性がハッキリしてますわ。」
 私は、事前に調べておいた。何せ名前からして興味を引いた。
「それについては、私から説明しましょう。」
 睦月が前に出る。ま、睦月からの説明の方が良いですね。
「如月 由梨は、藤堂の分家の当主です。」
 そう。由梨は、藤堂家縁の家柄だった。
「でも如月家は、先代から変わってしまいまして・・・。」
 葉月は、言い難そうにしていた。分家の悪口を言いたくないのだろう。
「ま、要はセントの国粋主義者になってしまったんです。」
 睦月は隠さずに言う。睦月は如月家を毛嫌いしてましたしね。
「そりゃまた、極端な話ですね。」
 葵が呆れる。セントでは、結構ある事だ。
「もしかして、鳳凰教の出身なのか?・・・それなら、私の責任だ・・・。」
 ゼリンは、目を瞑って肩を落とす。
「確かに、鳳凰教はセントの国粋主義者の集まりだったな。ゼリンの演説を、私も
聞いたから、間違い無いだろう。・・・それにしても、あそこ出身か・・・。」
 ゼハーンさんは、ゼリンが鳳凰教を広めていた時に、場所を突き止めた事がある。
「鳳凰教の教団幹部の、如月 剛清(たけきよ)の娘かも知れない。彼は、熱心な
信者だった。確か、娘がキャピタル大学の法学部に行くと、話していた。」
 ゼリンは、せめて情報だけでもと、思い出しながら言う。
「23歳で裁断長を務めたとなると、相当な成績だったんだねぇ。」
 莉奈が感想を漏らす。資料によると、かなりの成績だったらしい。
「キャピタル大学随一の成績だったらしく、裁断試験には、一発合格って書いてあ
るぜ。で、地方裁断所の裁断員で、衝撃デビューを果たして、押しも押されぬ人気
になったとか。これは、何かの手回しがあった臭いな・・・。就任して僅か1年で、
最高裁断所の裁断長に就任か・・・。」
 エイディさんが、不審の目で資料に目を通す。成績だけじゃない何かを感じます
ね。不正な何かを感じますわ。
「あまりの人気振りに、セントが目を付けたって所か。23歳で裁断長を経験して
元老院入りとは、破天荒な話だな。」
 士さんは、鼻で笑う。こんなに不自然なのに、平然と罷り通ってる事の可笑しさ
に、呆れているのだろう。私もそうですしね。
「私達が、『創』を倒したから、突然就任したのだろうな。時期的にもな。」
 ゼハーンさんが、資料に目を通して、間違いないと判断する。確かに、時期的に
は、そんな感じがしますわね。
「それにしても、随分と個性的な奴等が揃ってるな。」
 確かに兄様の言う通り、一筋縄では行かない連中が揃っている。
「コイツ等から、ゲンマインドが居るとなると、誰だ?」
 魁さんは、頭を捻る。私の考えでは恐らく、この人だと言うのはある。だが、確
信は持てていない。それに、皆の意見を聞くのも大事だ。
「身元がハッキリしてる奴は、除外って言ってたよなー。」
 グリードさんが、自分で丸を吐けてる人達を外す。
「篤則、アルヴァ、ケイリー、ハイネス、由梨辺りは除外って事だな。」
 エイディさんもチェックする。この5人は、ゲンマインドとして選ぶには、危険
過ぎる人達だ。篤則を除き、経歴が分かっているからだ。
「このゲラルドって人は、どうなのかな?順調に出世して元老院に、って感じみた
いだけど・・・。どうにも謎が多そうな人よね。」
 葵は、ゲラルドが気になるようだ。
「俺は、このダオロンって奴が気になるね。目付きが余り良くないし。」
 いまいちなコメントを残しているのは、魁さんだ。まぁ目付きは良くないですけ
ど・・・。それとこれとは、余り関係ないように思える。
「魁・・・。顔を材料にしちゃ駄目だって・・・。」
 亜理栖先輩にも突っ込まれている。まぁ突っ込むわよね。
「このマイニィって人、スタイル綺麗だなー。この人も怪しいんだっけ?」
 莉奈が、少しずれた意見を言う。スタイルも余り関係ない。
「ま、スタイルが良いに越した事は無いがのう・・・。関係無い気がするのう。」
 伊能先輩は溜め息を吐きながら、チェックしていた。
「後は、この院長だな。如何にも怪しいって感じだがね。」
 ジャンさんは、院長の資料を読んでいた。
「怪し過ぎて、逆にって感じだよねぇ。」
 アスカさんが、続け様に感想を述べる。院長は、ミスリードな気はするわね。経
歴は大した物だから、ただのミスリードだけで選んだんじゃないだろうけど。
「さて、この4人に絞られたのは、間違いなさそうだが?」
 ジュダさんは、頭を捻っている。考えているのだろう。とは言え、ジュダさんも
この人だと言う目星は、付けている様だ。
「ま、7割方、アイツであろうな。」
 赤毘車さんも、予想が付いてる様だ。と言う事は、私と同じ意見だろう。
「え?分かるのですか?さすがですねー。」
 葉月は驚いていた。確かに資料は少ない。だが、要因を考慮すれば、自ずと答え
は出てくる。そうなると、コイツだろう。
「葉月、頭を働かせなさい。現在のセントが、どのような手段で発展してきたかを
考えれば、自ずと答えが出る筈ですよ?」
 睦月が、答えになるような事を言う。さすが睦月ね。気が付いている様だ。奉仕
スキルや合気道のスキルなどは、葉月の方が上かも知れないが、頭の回転の速さは、
睦月の方が上だ。だから私も、安心して家を任せられるのだ。
「睦月の言う通りですね。私も、その人物が一番怪しいと思ってますわ。」
 私も同意見だと付け加える。まぁ、間違いないと思う。
「成程な。で、誰なんだ?」
 レイクさんは、考えたけど分からなかったのだろう。
「力が抜けるような事を言わないでくれる?睦月さんがヒントをくれたんだから、
分かるでしょう?恐らく、テレビ局の局長をやっていたマイニィ=ファーンよ。」
 ファリアさんが、頭を抱えながら、説明してくれた。そう。恐らくマイニィだろ
う。セントは、結構早くから、テレビでの宣伝行為に目を付けていた。その宣伝効
果と、ソクトアにセントの強さを見せ付けたのも、テレビによる効果が大きい。
 だが、今回の事情を知ったワイスが、それを逆に利用して、魔族を知らしめたの
だ。だから、歯噛みしている事だろう。
「この姉ちゃんがねぇ・・・。パッと見じゃ信じられねぇな。」
 グリードさんは、腕を組んで考える。
「マイニィか・・・。言われてみれば、彼女は、いつの間にか元老院入りしていた
印象がある。ここに書いてある31歳と言うのも、偽証かも知れないね。」
 ゼリンは、思い出したように言う。恐らく近しい者には、強烈な暗示を掛けてい
るのだろう。何とも手の込んだ事である。
「ま、とりあえずは、様子見だな。警戒するべき相手が決まったのは大きいしな。」
 ゼハーンさんは、マイニィの資料を見て呟く。私と睦月は、資料に目を通した瞬
間に、マイニィだと思っていた。現在のセントの現状は、テレビの進化と共に発展
してきた。情報発信の重要性は、セントも分かっている様だ。
 特に、レイクさんが幼い頃に捕まったと言う、15年前辺りから、急激に発展し
て来たのを見ると、テレビによる貢献は大きい。
 加藤 篤則と、マイニィ=ファーン。元老院の二人の動きに、これからも注目し
なければならない。敵を観察すれば、自ずとやる事が見えてくるだろう。


 『無』を打倒するには、『無』の事を、完全に理解しなければならない。
 先祖がそうであったように、俺も、『無』に触れなければならない。
 そうなる為には、意識を『無』に傾けなければならない。
 先祖が至った境地・・・全ての感情を力に変える・・・。
 そうまでしても勝ちたいと思う心が、『無』の境地に至れる。
 それは、紛い物の『無』では無い、本当の意味での『無』。
 俺は、その境地に至れるのか?
 ・・・いや、そう考える事も不要だ。
 意識が・・・遠のいていく・・・。
 目の前に、何かを感じる・・・。
 遠くて近い何かで、最近良く見る光景になっていた。
 最初の内は、何かの見間違いかと思ったが、そうではない。
 意識を集中させる事で、この光景を良く見るようになっていた。
 圧倒的な何かが迫ってくる・・・俺は、呑まれてしまうのだろうか?
(意識を繋げろ。そのまま呑まれては駄目だ。)
 ・・・ゼロ・ブレイド?俺に語りかけているのか?
(私の所有者ならば、自ら招き寄せた『無』に呑まれるんじゃない。)
 『無』に呑まれる?この感覚がそうだと言うのか?
(君は、日に日に『無』に近づいていた。だが、呑まれてしまったら、そこで終わ
りだ。しっかりするんだ。私を使いこなしてくれるのだろう?)
 そうだな。俺の応えてくれる剣は、アンタしか居ない。
(光栄だ。・・・さて君は、やっと此処に辿り着いたな。)
 此処・・・か。此処は何処なんだ?
(記憶の渦が湧き出る場所。『無』の意識だ。)
 『無』の意識?『無』に意識があるのか?それならば、ゼロマインドと一緒にな
るんじゃ?アレだって、『無』の力に意識が芽生えた物なんだろ?
(その言い方は失礼になるな。語り掛けてみろ。今の君なら出来る。)
 語り掛ける・・・?この大きな塊に?
(新たな来訪者・・・。1000年振りの客人だな。)
 この声が・・・『無』の意識?
(此処に辿り着く人間が、再び現れるとは・・・奇跡よな。)
 随分、荘厳な感じがする。これが『無』?
(私は『無』の意識にて、意識の『根源』であり、『記憶の渦』でもある。)
 何だか、色んな呼ばれ方しているんだな。
(名前など、私にとっては不要。私は、ただ答えを返すのみの存在。)
 答えを返す?じゃぁ、何かを質問した方が良いのか?
(要求に応えるのが私の存在意義だ。・・・それが『無』の意識の真実。)
 何だか受身な話なんだな。『無』ってのは、積極的ではないのか?
(君達の言う『無』とは、私に還る事と同義だ。私の下に送り返す為の力が『無』
と呼ばれているようだ。・・・しかし、狂いが生じている。)
 アンタの元に還る?此処に還す為の力が、『無』なのか?それに狂いって?
(此処に還る事は、全ての創めに戻ると言う事。物事は、私より生まれ私に還る。
還る力を貰っている私は、全ての要求に応じるのが務め。・・・だが、ソクトアは
私の下に還っていない。ソクトアで使われている『無』は、違う場所へと集まって
いる。どうやら、特殊な磁場が生じているようだ。)
 特殊な磁場・・・。それが、ゼロマインドか・・・。
(・・・その者は、力を集めているようだな。それを支配の為に使おうとは・・・。
『無』の本来の意識とは、掛け離れているようだ。)
 ゼロマインドは、アンタの意識の一部じゃないのか?
(違うな。ソクトアに芽生えた意識は、私の力を用いて生まれし変異種だ。だが、
力の性質は、私と同じだ。そして、純粋な力は、私に迫る勢いで生成されている。)
 ゼロマインドは、アンタに迫る力を持っているってのか!?
(だが、あの者は、決して私にはなれぬ。・・・根源の意識を忘れた者は、ただ暴
走するだけだ。・・・その結末を、分からぬ筈が無いのに・・・。)
 つまり、ゼロマインドは、暴走するって分かっていながら、力を集めているのか?
(そうだ。その者が、私に成り代わろうとしているのは事実だ。)
 根源に成り代わろうとしているってのか・・・。
(宇宙には真理がある。摂理がある。それを破る者は、どんな者にも未来は無い。
根源は、求められたら応える事が定義。それを分かっておらぬようだ。)
 未来が無いのに、奴は成し遂げようとしているのか・・・。奴は止めなきゃ駄目
だな・・・。如何すれば良いんだろうか?
(奴も私と同義の力を持つ存在。私を止める力を持てば、奴も止められよう。)
 アンタを止められる力?そんな物あるのか?
(あるとだけ言っておく。私の存在に関わる事項だからな。これ以上は答えられぬ。
だが私は、質問には答えなければならぬ。だから、その力が存在する事だけは確か
だ。君がそれに目覚めた所で、私は止めはしない。)
 アンタが、どんな項目でも答えなきゃいけないってのは、本当の事らしいな。自
分を滅ぼすかも知れない事項にまで、答えなきゃならないとは。
(それが根源たる私の、存在意義だからだ。奴は、それを持ち合わせていない。だ
から奴は、私には成り代われぬのだ。)
 存在意義か・・・。アンタは、存在意義に迷う事は無いのか?
(根源たる私は、迷う事は無い。私が迷えば摂理が乱れる。善の存在も悪の存在も
私は知覚している。だが、分け隔て無く接する。例えそれで宇宙その物が乱れたと
しても、私は手を出さぬ。・・・それが根源たる私の役目だ。)
 そうか・・・。何かそれって、悲しいな。でも、アンタは俺達が想像する『無』
の姿、その物だって事は分かった。
(そうか。私を知覚出来たか。君は、私の役目を正当に理解したようだな。今なら
ば、君達が『無』と呼ぶ力を制御出来るだろう。嘗て、1000年前に私が、君の祖先
に制御させた力をだ。)
 先祖ジークが巨大な力を制御して使いこなした。それを俺が・・・。
(君は、私の存在を理解し、私の力がどう言う物か理解した。ならば、力に溺れる
事も無いだろう。危険だと知覚する事で制御する。全ての感情を、私との意識に繋
ぐ事が出来れば、必然的に私に辿り着く筈だ。)
 確かに、アンタの力は強大だ。そんな力を無限に使おうとしたら、摂理が壊れる
と思う。そんな事は、俺の望む事じゃない。
(その心が理解だ。制御しようと思う心が無ければ、この力は暴走する。)
 そうだな。それじゃゼロマインドと変わりがない。
(奴は、彼の星で擬似的に私に成り代わり、巨大化を図った。それは完成しつつあ
る。彼の星の1000年前までの情報を記録し、過去の情報を整理して、命を復活させ
るにまで至っている。)
 ワイスや健蔵の事だな。彼等は、1000年前に『無』の力で散っていった奴等だ。
だが、復活した。それも擬似的に此処を真似ようとしたからか。
(私利私欲で私の力を使うのは、摂理に逆らう事。狂いが生じて当然だ。)
 じゃぁ、ワイスや健蔵は、ゼロマインドを滅ぼせば、消えちまうのか?
(その解釈は違う。奴も勘違いしていたが、奴がやった事は、魂の復元だ。奴は、
それにより従えさせようとしていたようだが、奴の配下になった訳では無い。だか
ら、もう奴とは別個の存在なのだ。そして、それを世が許した以上、摂理は手出し
出来ぬ。再び命を全うするまで、消える事は無い。)
 えーと。つまり、生まれた所が違うだけで、ゼロマインドと繋がっている訳じゃ
ないって事?何だか、微妙に言い辛いけど・・・。
(その解釈で合っている。復元では無く、召喚ならば話は別だ。召喚とは、召喚者
が力の源になって、一時的に顕現させる事。召喚者の力が尽きれば消える。よって
召喚者の意に応じるしか無い。だが、奴がやったのは、完全なる復元だ。復元させ
てしまったら、違う存在となる。従う道理など無い。)
 ゼロマインドは、そこをトチったって訳か・・・。
(そんな間違いを犯すのも、奴が私を理解していない証拠だ。力だけ真似るから、
知識が追いついていないのだ。)
 手段を知っていても、使役方法を知らないって事だな。さっきから聞いていると、
アンタも、ゼロマインドの事は気に入らないみたいだな。
(それは無い。私は求めに応じて応える存在だ。よって、奴から私に接触すれば、
力を与えるつもりでいる。)
 それが、アンタの脅威になる事でもか?
(君には不快かも知れんが、それが根源と言う存在の意義なのだ。)
 成程ね。不快と言うより、悲しいよ。俺は。
(君が悲しいと言う事は、私の事を理解した証だ。)
 そうかもな。ままならないアンタは、本当に孤独な存在なんだな。
(私に孤独と言う言葉は当てはまらない。全ての者は、私より生まれ、私に還るか
らだ。それは、君にとっては悲しい事なのだろう。それで、私を理解したと言った
のだ。人間は、他者との絆を大事にすると言うからな。)
 そうだな。俺は、人間である事を誇りに思う。だから、ゼロマインドは何が何で
も止めたい。その為の力が欲しいんだ。
(ならば、制御する力を強化すると良い。まずは、私から流れ出る力を完全に制御
する事から始める事だ。彼の星を消したくなければな。)
 制御する力か・・・。まるで恵みたいだな。
(君の仲間の一人だな。制御する力を『ルール』と呼んでいたな。)
 さすがは、根源だな。細かい事情まで把握しているらしいな。
(それが根源たる私の役目だ。それに加えて、君達の星は昔から問題が多い。だか
ら、事情を把握する事は容易い。)
 何だか、ジュダさんからも、そんな事を言われた気がするなぁ。
(神の者達だな。・・・現在の神達は、色々頑張っているようだが、今回の件に関
しては、手を焼いているようだな。仕方の無い事だが・・・。)
 ・・・そう言えば、アンタと神って、どっちの方が立場が上なんだ?
(立場・・・。私には、そう言う概念すら無い。私はただ答えるだけの存在である
し、神は善行を管理する立場だ。そこには、上も下も無い。敢えて言うなら、君達
の立場で考えれば、神の方が有難い存在であろう。)
 善行を管理する立場か・・・。そう言われると納得だな。
(生物には、それぞれ役目がある。それを忘れた者は、必ず報いを受ける。)
 報い・・・それは、あの俊男やジュダさんのように・・・かな?
(時間跳躍者か。彼等は報いを受けたのでは無い。)
 ・・・え?報いを受けたんじゃない?どう言う事だ?
(彼等は、自分達の星や仲間達に、危害が及ぼさぬように理を紡いだのだ。『因果』
と言うのは、無理が生じさせぬように調整する役目を持っている。)
 無理が生じさせぬように?それはどう言う事なんだ?
(あそこで、誰かが死ぬと言うのは、決まっていた。それに対し君の仲間は、堕ち
た神の死を当てはめた。だが、何度も繰り返し戻ったせいで、時空が不安定になっ
た。そこで『因果』は、戻った二人を果てに連れて行く事で調整したのだ。)
 調整?そんな事が原因だったのか・・・。
(勘違いしないで欲しい。『因果』は、それでも君達の被害が一番少ない方法を模
索して、選択したのだ。・・・調整をしなければ、大変な事になっていた。)
 そうだったのか?大変な事って何なんだ?あの二人が犠牲になっても、やらなけ
ればならない事だったのか?
(時空が安定しなければ、時空の穴が、突然開く事も考えられる。その穴に落ちれ
ば、何も知らない者が時空跳躍してしまう可能性がある。)
 え?つまり、いきなり誰かが時空跳躍しちゃうって事か?
(そう言う事だ。彼等は、その穴を埋める為に理を紡いだのだ。)
 ・・・ただ犠牲になった訳じゃ無いって事か。どっちにしろやり切れないけどな。
(・・・そろそろ戻った方が良い。君の意識が、こちらに吸収されかかっている。)
 マジか・・・。余り居ると危ないんだな。
(私は全てが還る場所でもある。気を付けた方が良い。)
 分かった。そろそろ現実世界で何とかするよ。・・・この力を使いこなして、理
解が深まったら、また来るさ。その時は・・・。
(君の望む力について、答えよう。まずは理解を深めたまえ。)
 了解した。頑張ってみるさ。近い内に、また来るよ。
 ・・・俺は、必ずこの力を使いこなしてみせる。それが、俺とゼロ・ブレイドに
課せられた課題でもあった。


 どんな問いにも答え、分け与える存在に、俺は辿り着いた。
 記憶の渦にして、あらゆる存在の根源に、俺は辿り着いた・・・。
 そして、俺は色んな質問をした。
 その存在は、どんなに難しい質問でも答えてくれた。
 その存在は、自分に害を為す者が問い掛けても、結果で応えると言っていた。
 その存在は、善でも悪でも無かった。
 ただ・・・答えを返して、分け与える存在だった。
 俺は、悲しいと思ったんだ。
 そこに自分の意思は反映されない。
 どんなに間違った質問でも答えなければいけない。
 それが、悲劇を生むとしても、答えを返さなければならないからだ。
 その存在は、全ての起源だから、気にする必要は無いと言っていた。
 でも、俺には憂えているように見えたんだ・・・。
 自分に成り代わろうとしているゼロマインドに、脅威を感じているように見えた。
 それは、当然の事だと思う。
 だが、ゼロマインドから要求があれば、それに応えると言う。
 そうする事が、その存在の意義なのだと、キッパリ答えた。
 それは、誰よりも孤高な存在だ。
 だけど、誰よりも儚い存在だったのだ・・・。
 俺は、その儚い摂理を、守ってみせる・・・。
 そして、見つけてみせる!
 ゼロマインドを止められる力を!!
 ・・・
 俺は、希薄な意識が、回復していくのを感じた。
 誰かが起こしている。これは・・・俺を一番に想ってくれている人だな。
「・・・ク!レイク!しっかり!!」
 ああ。やっぱりファリアの声だ。俺が一番安心する声だ。
「・・・う・・・。ふう・・・。」
 俺は、静かに目を開けた。まだ意識が希薄な部分がある。
「レイク!・・・はぁ・・・。ビックリしたわよ・・・。朝になっても起きないか
ら、起こしに来たってのに、意識が混濁状態でした物・・・。」
 ファリアは、普段通りに起こしに来たのだろう。だが、俺の様子がおかしいから
心配になったのだろう。でも、もう大丈夫だ。
「・・・済まん。心配掛けたな。ちょっと色々あってな。・・・つぅ!」
 俺は、頭が冴え渡ると同時に、少し痛みを感じた。
「大丈夫?調子悪いなら、休んだ方が良いわよ?」
 ファリアは、俺を支えてくれた。だが、この痛みは、体調から来る物では無い。
「大丈夫。・・・それより、頼みたい事がある。」
 俺は、さっきまで居た空間が、嘘じゃないか確かめようと思った。
「何?私に出来る事なら、何でも言って頂戴。」
 ファリアは、本当に心配なんだろう。何だか悪い気もするな。
「後で説明するけど、新しく力を手に入れたかどうか確かめたいんだ。」
 俺は、まだ確信を持ってないので、曖昧な説明をする。
「・・・それで納得する人は、少ないと思うけど?」
 ファリアは、ジト目で俺を見る。確かにその通りだ。
「ま、良いわ。レイクと付き合ってたら、これくらいで文句を言ってたら、キリが
無いからね。強めの結界を作れば良いのね?」
 さすがファリアだ。俺の言いたい事を直ぐに分かってくれる。
「後で、ちゃんと説明してもらうわよ?・・・『結界』!!」
 ファリアは、溜め息を吐きながら、本気の『結界』を張ってくれる。最近のファ
リアの魔力の桁は、恐ろしい物があるな。
「よし・・・。後は集中して・・・。」
 俺は、『根源』との邂逅を思い出す。あそこは、ひたすら孤独の世界だった。そ
れは、ただ答えを返すのみの存在だったからだ。そこには、怒りも喜びも悲しみも
憎しみも無い。ひたすら求めに応じて返す。そう言う孤独の世界だった。俺は、そ
の世界を悲しいと思った・・・。しかし、その悲しみすら、溶けて消えるような世
界だった。その世界の力を借りるんだ・・・。
 あそこの力は強力だからな。制御するように心掛けるんだ・・・。出し過ぎない
ように・・・。ソクトアを壊さない程度に・・・だ!
「・・・!!この力!これは、やばいわね!!」
 ファリアは、俺が出そうとする力の片鱗を感じただけで、分かったようだ。
 あの世界は、本当に何も無かった。『根源』が居て、それに対し質問をぶつけて
返してくれるだけの世界だった。『無』の力とは、全ての者が生まれ、全ての者が
還る『根源』と一体化させる力の事だ。故にあそこには、全ての情報がある。それ
は、魅力に満ちた世界かも知れない。だけど、その後は消えるしかない。そんな世
界に戻す『無』の力は、恐ろしい力だ。
 ゼロマインドは、そんな中で生まれた怪物だった。しかも『根源』と同じ力を有
していると言う。そのせいか、ソクトアで起こった1000年前からの情報を全て記憶
している。それは、俺の祖先であるジークが、『無』を顕現させたからだ。
 ジークは、この力の本当の恐ろしさを、肌で感じていた。だからこそ制御する力
を鍛えていた。しかし、その時代に天才が現れたのだ。それがクラーデスだった。
彼は、『神気』と『瘴気』の力を合わせる事で、互いに消しあう力が増幅される、
『無』の力が出来ると発見したのだ。そこから、一時的に『根源』と会話して、ミ
シェーダの過去の不正を知った。『無』の力に目覚めると、色々な事を知る事が出
来るのは、情報の宝庫である『根源』と会話出来るからだったのだ。
 ゼロマインドは、その『根源』に成り代わろうとしている。全ての情報を集め、
ソクトアを呑みこみ、全ての者を従えさせる為に力を集めている。ソクトアを、あ
の何も無い世界に変えようと思っているんだ・・・。
 そんな事させる物か!!俺は、あの場で知った。あの世界が、どんなに悲しい物
であるかを!あの世界の行き着く果てを!!『根源』は、悲しい存在に見えた。し
かし、それを感じる事すら出来ないのだ。そんな世界にさせる物か!!
「俺は・・・ゼロマインドを止める・・・。絶対に・・・絶対にだ!!」
 俺の力が増していく感じがした。俺は、傍にあったゼロ・ブレイドを手に取る。
(君は、ジーク以来の『本物』の『無』の力を知ったのだな。)
 ああ。アンタと行き着いた果てにあった世界。あの世界を知る事が、『無』の力
の第一歩だったんだ。俺は、あの世界を知った・・・。だから、このソクトアを、
あんな世界にさせはしない!!
(良く言った。君になら、私の力の全てを託せる。共に高みを目指すぞ!)
 有難い。俺は、この力の次を目指す!『根源』が存在すると言っていた、『根源』
さえも打倒する力を、この手に掴んでみせる!!
(一緒に探すぞ。君になら、必ず手に入れられる。)
 了解だ。・・・まずは、この感覚を覚える!『無』の力を暴走させちゃ駄目だか
らな。この力をアンタと共に制御する!
(そうだ。そのギリギリの感覚を、忘れるな!)
 難しいな・・・。でも、ジークに出来た事だ。俺も使いこなす!
「俺は、この力になんか負けない!」
 俺の叫びと共に、ゼロ・ブレイドは、安定し始める。・・・これが・・・。本当
の『無』の力を纏ったゼロ・ブレイドか!
「つぅ・・・。はぁ・・・はぁ・・・。」
 あ。ファリアが肩で息をしている。
「す、済まん。大丈夫か?ファリア。」
 俺は、ゼロ・ブレイドを安定させて鞘にしまった後、ファリアに近寄る。
「・・・危なかったわよ。でも、凄いの見ちゃったから、良いわ。」
 ファリアは、笑顔で返してくれた。『結界』のおかげで、幾分暴走が防げた筈だ。
ファリアには、感謝し足りないぜ。
「あれが、本物の『無』の力なの?」
 ファリアは、俺から感じた力を、肌で感じていたからな。
「そうだ。紛い物じゃない本物の『無』だ。」
 掛け合わせる事で出来る微小の『無』は、大量の『神気』と『瘴気』を必要とす
る。だから、使いこなせる者は、『無』の力は、『放出』する物と勘違いをしてい
る。しかし、本物の『無』は、『根源』から与えられる力の事だ。これは、扱いを
間違ってはいけない。これを相手の力に合わせて『制御』しなければならないのだ。
 部屋の外が騒がしくなってきた。今の力の説明を求められそうだな。
 扉をノックする音が聞こえた。
「あ。大丈夫です。」
 俺は、椅子に座る。ファリアは腕組しながら向かいに立つ。
「・・・レイクさんね。さっきの力は・・・。」
 恵が部屋に入ってきた。アレだけ派手にやれば、感じ取られもするか。
「騒がせたな。皆を集めてもらって良いか?俺から言う事がある。」
 俺は、『根源』との会話を、皆に知らせるべきだと思った。
「元よりそのつもりよ。今、睦月に連絡させてるわ。」
 さすが恵だ。こう言う時に、話が早いと助かる。
 そして、30分もしない内に、皆が集まってきた。どうやら『結界』越しでも、
俺が制御した『無』の力の特異性に気が付いたらしい。
「レイクさんから感じた力、僕が目覚めた『無』とも違う・・・。」
 俊男は、この前『聖魔』に目覚めた時に、『無』を使っていたが、俺が出した力
は、あの力とは、根本からして違うのだ。
「レイク・・・。君は、本物に辿り着いたのか?」
 ゼリンは、知っていそうだった。そう言えば、俺の祖父に真の『無』の力に目覚
めていないと断言したのもゼリンだ。ゼロマインドから、色々情報を貰っていたん
だろうな。親父も、神妙そうな顔をしている。
「今から話しますよ。・・・まずは・・・。」
 俺は、説明を始めた。それは、何も無い世界の事。『根源』と言う存在。そして、
『無』の力の真実を。今、ソクトアで溢れている『無』の特異性についても説明す
る。俺の力が特異なのでは無い。ソクトアで生成されている『無』の方が、特異な
のだ。そして、その力を大量に生成して、ゼロマインドは『根源』に成り代わろう
としている事も話してやった。
「・・・成程な・・・。納得の行く話だ。」
 ジュダさんは、開口一番に納得する。俺が会話して得た事項は、把握しているよ
うだ。赤毘車さんも横で頷いている。
「全く・・・レイクも無茶し過ぎ。目覚めない時は、本当に心配したのよ?」
 ファリアが睨んでいる。確かに心配掛けたよな。
「レイクに無茶をするなって言っても無駄だ。だけど、次は知らせろよ?心構えが
無くやられたら、俺達だって何も対処出来んだろうが。」
 エイディが、頭を押さえてくる。確かに、何も知らせないのは良くなかったな。
「兄貴、俺達の事を、もっと頼って良いんだぜ?」
 グリードは、口を尖らせている。確かにその通りだ。
「それにしても、その『根源』だったか?ソイツの狙いは何なんだろうな?」
 士さんは、『根源』の考えている事が読めないようだ。
「士さん。『根源』は、質問に対して、答えを返す事しか出来ないんです。それを
破るつもりも無いようです。それによって自分が滅びたとしても構わないって言っ
てました。本当に・・・そんな奴でした。」
 俺は、言葉を詰まらせる。俺が感じた悲しい世界の管理者だった。
「難儀な奴だな・・・。そう言う輩が、一番対処しにくいぜ。」
 士さんは怒っていた。『根源』が、それ以外の何も感情がない事に対してだ。
「ずっと孤独だったんだネ。何だか寂しい気がするヨ。」
 センリンさんは、人一倍孤独には敏感だ。だから、憐れみの気持ちが強い。
「それにしても、おっそろしい力を手に入れたもんだねぇ。」
 ジャンさんが、冷や汗を掻きながら、話してくる。
「さすが、ゼハーン殿の息子と言うべきでしょうな。」
 ショアンさんも褒めてきた。何だか、この人達には、可愛がられてる気がする。
「俺は、今を生きるのに必死なだけですよ。」
 俺は、ムズ痒くなって来たので、誤魔化す。
「謙遜するな。お前は、祖父であるリークが成し遂げられなかった、本当の『無』
の力を引き出す事に成功したのだ。誇って良い事だぞ。」
 親父が褒めてくれる。滅多に褒めてもらえないので、少し嬉しい。
「ゼハーンさんの嬉しそうな顔、久し振りに見るね。」
 アスカさんが冷やかしていた。仲が良いなぁ。
「それにしても・・・。お前、本当にジークに似てきたな。」
 ジュダさんは、懐かしむように俺を見る。俺が『無』の力に目覚めた事で、伝記
のジークの、在りし日の姿に似てきたのだろう。
「これは、『闘式』の日が楽しみだな。」
 赤毘車さんも俺の成長に、ジークを重ねている。
「しっかし、さすがレイクさんだ。俺達も、負けてられないよな。」
 瞬は、俺が目覚めた事を素直に喜んでいた。
「僕達も、少し前と比べたら、格段に強くなった。けど、レイクさんは、強さとは
違う所で、成長している。見習わないと、いけないね。」
 俊男は、俺が精神的に成長しているのを感じ取ったらしい。確かに今回は、力も
手に入れた事は勿論だが、それ以上に精神的に強くなった感じがある。
「レイクは凄いのう。でも、俺は俺じゃ。精一杯やらんとな。」
 巌慈は、プロレスと言う舞台がある。自分の舞台を盛り上げようと思っているん
だろうな。俺は、それも凄い事だと思っている。
「ま、お前さんは、次の試合を頑張りな。」
 亜理栖が、巌慈を応援する。何だかんだで良いコンビだ。
「レイク、君ならゼロマインドを打倒出来ると信じている。」
 ゼリンは、ゼロマインドを倒さなければならない。だから、俺が次のステップア
ップを目指してる事を、悟っているのかも知れない。その事は、まだ言う気は無か
った。と言うのも、それは極秘にしようと思っているからだ。何せ、誰もやった事
がない所業であるし、危険だからだ。
 俺は、次の力に目覚めると言う決意を新たにするのだった。


 セントの象徴であるメガロタワーの頂点には、入室に制限がある部屋が存在する。
例え元老院であっても、出入りに許可が要る。そこは、ゼロマインドが居る部屋だ
とされ、その存在を知っている者は極僅かである。
 その部屋にシンマインドこと、加藤 篤則が入室する。シンマインドである彼は、
当たり前のように入室する。そして溜め息を吐く。最近、色々上手く行かないから
だ。今までは、当然のように企みは成功してきた。特にソーラードームの仕組みは、
絶対の自信があった。原案はゲンマインドが用意した物だが、実際に実行したのは
篤則である。
 だが、『ルール』を配った辺りから、様子がおかしくなった。これにも絶対の自
信があったのだが、それからは、ミシェーダがやられるなど、全く上手くいかない。
今回の『闘式』も、結局は魔族に裏切られたような形での開催だ。こんな大会を容
認しなければならないのは、屈辱以外何者でもない。
 そこにゲンマインドが入ってくる。
「随分、溜め息が多いのね。」
 軽口を叩いてくる。この軽口が、篤則を余計にイラつかせている。
「フン。最近の有様を見れば、溜め息も吐きたくなる。」
 篤則は、つれなく返す。最近は、こう言うやり取りが多い。
「カルシウムを取らないと。と言っても、そんなの効くのは、人間の体だけどね。」
 ゲンマインドは、楽しそうに受け流す。ゲンマインドは、余り怒らないタイプだ。
「余裕なのだな・・・。貴様は、『闘式』に出ないから当たり前か。」
 篤則は、嫌味を言う。あんな大会に出場しなければならない自分を呪う。
「まだ言ってるの?私は、電波で協力してるじゃない?」
 ゲンマインドは、毎日にようにテレビを流させている。元老院が如何に偉大かを
報せ、『闘式』では、敵が居ないと言う様な報道をしているのだ。それにより、セ
ントの期待が高まり、結果的にゼロマインドである自分達の力が高まっていく。
 ソーラードームは円錐の形をしているので、頂点に力が集まる。その頂点の部屋
に自由に出入りするゼロマインドの特権である。
「分かっている。貴様のテレビ戦略には舌を巻いている。」
 篤則は、力を集めてもらっている負い目があるので、必要以上に文句は言わない。
「テレビ局は、気付いてないのか?」
「私がそんなヘマをする訳無いでしょ?今の局長は、私の言いなりよ。」
 ゲンマインドは、そう言うと妖艶な笑みを浮かべる。その美貌で色々な男を騙し
ているが、尻尾は決して出さない。恐ろしい女性だ。
「テレビ局にマイニィありってか?恐ろしい女だ。」
 篤則は皮肉を言う。
「ちょっと。名前を安易に出すのは止めてよね。」
 ゲンマインドは、頬を膨らませる。そう。ゲンマインドの正体は、マイニィ=フ
ァーンだった。テレビ局を自由に操り、搦め手で力を集める。それがマイニィの戦
略だった。元々頭が良いので、篤則と違って、効率的に力を集めている。
「誰が聞いてるか分からないんだからね。って言っても、限界でしょうけどね。」
 マイニィは気が付いていた。もう自分の事がバレるのは、時間の問題だと。
「どうしてだ?誰か口でも割ったのか?・・・もしや、ゼリンか?」
 篤則は、警戒する。誰かが裏切った可能性を探る。有り得るとすれば、ゼリンだ
と考えている。彼女には、あらゆる機密を任せていた。
「彼女の可能性もあるけど、彼女に正体までは教えてないでしょ?それは、貴方も
同じ。貴方がバレたのはケイオスに話したせいだし。そんなの自業自得だけどね。」
 マイニィは、嫌味に拍車を掛ける。こう言う時のマイニィは、生き生きしている。
「喧しいわ。・・・口の減らん女だ。で、何でバレるんだ?」
 篤則は考えたが、見当が付かないので聞いてみる。
「少しは、頭脳も労働しなさいよ。私達のプロフィールを公開したでしょ?」
 マイニィは、嫌味を言いながら、プロフィールの事を言う。
「あれには、そんなに詳しい事を書いてないぞ?巧妙に隠したではないか。」
 篤則には、分からないようだ。確かにあのプロフィールには、大した事は書いて
いない。出身校などは、巧妙に隠してある。差し障りの無い所を書いて、偽装工作
まで施している。
「馬鹿ね。その些細な情報で、気が付く人も居るのよ。貴方、人間を舐め過ぎてる
でしょ?最近の人間は、ちょっと昔までとは違うわよ。伝記の再来と言っても良い
かも知れないわ。油断は禁物よ。」
 マイニィは気が付いていた。『ルール』に適用される人間が、思いの外、多かっ
たのが切欠である。精神の使い方が上手い者程、『ルール』に目覚めるのだが、そ
の数が多いと言う事は、強敵が多い事を意味する。
「そんな物か?俺達が、ここまで来れたのも、人間が愚かだったからだぞ?」
 篤則は、人間にそこまで脅威を感じていない。
「ミシェーダがやられた事を、もう忘れたの?」
 マイニィは呆れる。ミシェーダがやられるくらい、今の人間達は危険なのだ。
「忘れる訳が無い・・・。忘れられる物か・・・。」
 篤則は、声のトーンを落とす。何だかんだで篤則は、ミシェーダと仲が良かった。
それだけに、ミシェーダがやられたのは、結構ショックだったのだ。
「あーら。結構センチなのね。妬けちゃうわ。」
 マイニィは、からかう。いや、結構本気なのかも知れない。
「言ってろ。何にせよ、貴様とは切っても切れぬ仲なのだ。安心しろ。」
 篤則は、忌々しいと思う。何もかも正反対の存在である、ゲンマインドのマイニ
ィとは、結局一心同体の存在なのだ。最終的にゼロマインドになる事は、決まって
いるのだ。今の性格の違いさえも、ゼロマインドになれば感じなくなる。
「お気に入りだったのね?残念ねぇ。・・・そう言えば、あの子はどうなの?」
 マイニィは、思い出したように言う。勿論、アルヴァの事だ。
「あのガキか。最初は、お遊び程度にしか思ってなかったが、アレで中々、良い技
を持っている。正直見縊っていたな。」
 篤則は、正直な感想を述べる。アルヴァの技の冴えは、本物に見えた。もっと児
戯な技だと思っていた。数合わせくらいにしか思っていなかったからだ。
「あーら意外。って事は、本物なのね?」
 マイニィも、普段のアルヴァを知っているだけに、意外だった。
「なら、あの処置を施せば、もっと強くなれるかしら?」
 マイニィは、邪悪な笑みを浮かべる。嫌な響きだった。
「お前、アルヴァに例の処置をするつもりか?」
 篤則は呆れる。例の処置は、非常用だった。簡単に施して良い物じゃない。
「別に?保険よ。ホ・ケ・ン。誰かさんが頑張れば、処置を施すつもりは無いわよ。
期待してるわよー?」
 マイニィは、嫌らしく語尾を延ばしながら、挑発する。
「・・・全く、貴様らしい発言だ。俺もシンマインドとして、そう簡単には負けん。
万が一に備えて、用意だけはしておくんだな。」
 篤則は、渋々だが了承する形を取る。万が一と言う言葉は、了承する時に良く使
うのだ。マイニィの提案は、8割方碌な事が無いので、反対な事が多いのだが、了
承する時は、渋々ながら承認するのだ。
「了解。ま、あの子を壊すような事は、避けたいからね。大丈夫・・・!?」
 マイニィは、軽口を叩こうとした瞬間、何かを感じた。それは、篤則も一緒だっ
た。急に戦慄が走る。この感覚は、忘れられなかった。
「こ、これは!!『無』の波動!!しかも、これは!!」
 篤則は、冷や汗を掻く。感じる力は間違いなかった。
「・・・嫌な感じね。ただの『無』じゃ無いわね。」
 マイニィも感じ取る。この感じは、忘れもしない。
「俺達が最も目指すべき力・・・。間違いない。これは、『根源』からだ。」
 篤則は、警戒を強める。今までの『無』の力を使った者は、『瘴気』と『神気』
を掛け合わせていた。なので、自分達の把握出来る『無』だったのだ。だが、今感
じた『無』の力は違う。自分達が生まれ出た時に、感じた力だった。それは、自分
達とは根本的に違う大いなる存在であった。それが『根源』だと言う事は、他なら
ぬゼロマインドである自分達だからこそ、分かったのである。
「あそこに通じる力を持った、イケナイ子は誰かしらね?」
 マイニィは、いつものふざけた口調では無かった。
「フン。分かってる癖に、知らない振りは止せ。」
 篤則は、嗜める。こんな事が出来る者は、『記憶の原始』を持っている者しか居
ない。恐らく、やり方を教わったのだろう。
「あのボンクラのせいで、とうとうあの血が目覚めちまったな。」
 篤則は、島主の事を思い出す。レイクは、『絶望の島』から出すつもりは無かっ
た。見せしめに一生あそこから出さないつもりだったのだ。ゼハーンに絶望を与え、
ゼロマインドに逆らう事が、どれだけ無益な事か、思い知らせる予定だった。
 それを、あの島主が、事もあろうに油断して逃がしてしまったのだ。しかも、性
質の悪い事に、それを隠蔽しようとした。その報告を受けた時は、怒りで、どうに
かなりそうだった。しかし、過ぎてしまった事はしょうがないので、ゼリンに島主
を処分するように言って、事無きを経たのだが・・・。
「ま、時間の問題とは思っていたわ。でも、本当に目覚めたとなると、あの子の才
能は、15年前のリーク以上って事よ?気を付けなさいね。」
 マイニィは、リークの事を引き合いに出す。15年前に起こった反乱の事だ。類
稀なる才能で、次々と仲間を増やし、セントの門の前まで迫った事件の事だ。
 だが、あの時はソーラードームが完成していたので、生半可な『無』しか使えな
かったリークでは、打ち破れなかったのだ。
「分かっている。だが、これはチャンスだぞ。奴が『根源』に至る道を見つけたの
なら、我々は巨大な力を手に入れるチャンスが生まれる・・・。」
 篤則は、それを狙っていた。『根源』の力は脅威だが、その分、物凄く旨みの濃
い力を放っている。それを、自分達の物にすれば、この上ない力となる。
「そんな事は、分かってるわよ。」
 マイニィは、呆れていた。そんな事は、誰でも思い付くからだ。今のままでは、
『無』の力なので、自分達が吸収する事が出来るが、もし、これを打倒する力を手
に入れてしまったら・・・と考えてしまう。だからこそ、脅威に感じているのだ。
(短絡的な男は、これだから・・・。)
 マイニィは、相方の馬鹿さ加減に呆れてしまう。
 それでも、自分の分身である以上、何とかしなければならない。
 ゼロマインドとして、脅威を感じる力は、何とか対処しなければならないと、マ
イニィは警戒を強めるのだった。



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