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    外部音源式の雄 例えば天賞堂 SL-1を解析する

 1950年代に一般的になった、外部に音源を置いて、レールを通してモータ駆動の
直流電流と一緒に車両搭載のスピーカに音声を送り込む方法(いわゆる外部音源式)は
アメリカのPFM社が1972年に発売したモデルをもってほぼ完成を見た。
天賞堂など、多くのメーカも類似の製品で製作し、いまでも日本ではサウンドすなわち
SL−1というのが一般的である。 そこで本日は、このPFM方式のサウンド装置の
実力を代表的製品SL−1で少し詳しく検討してみよう。
(PMF製品は実際は made in JapanのOEM製品であったとか)

PFM方式は、「サウンドの黎明期」で紹介した従来の外部音源方式に、当時としては
画期的な方法を追加採用したことに意味があった。  それは、それ以前の旧方式では、
音声電流を、 そのままレールに流す方法であったのに比較して、改良の新方式では、
280ー300KHz位の高周波信号(キャリアーと言う)を発生させ、これに音声を
重ね合わせてレールに送り出すということである。 NHK第一放送等の中波AM放送
と同じ原理である。  違うのは、空中ではなくレールを通して電波ならぬ電流を送る
ことである。 また、金属導体を通して送る電流の強さは強力であり、空中の電波の比
ではない。 直接スピーカを鳴らせることができる      この方式の有利な点を挙げると以下の通り
1)走行車両にはスピーカ、および直流をカットのコンデンサーだけでよい。

これは、たびたび述べてきた事で、今更言及する必要もないが、新たに追記すると:
 高周波に乗ってくる音声信号は、モータ用の直流電源で大きくバイアスされているの
で、ラジオの様に検波してからスピーカを鳴らせる必要もない。音声で変調された高周
波電流をスピーカに送り込めばスピーカは、その音声成分だけ勝手に拾って(高周波で
はスピーカの振動が追いつかず、音声成分の分だけ振動する)鳴ってくれる。 しかし、
高周波音声部分もモータに入るので、汽笛を鳴らすとモータが加速する珍現象も起こる。
                   
               
2)車両には、電池も電源も一切不要。
 自前で鳴るのではないから、当然電源はいらない。 電池などを車両に乗せたりする
 必要はなく、面倒はない。

3)新たに高周波信号(キャリヤー)を付け加えたこの新方式では、断続するブラ
  スト音発生と、汽笛発生の機能を同時に実現できるようになった。 

 音声信号(汽笛やブラスト音用のホワイトノイズ)を直接流す旧方式では、ブラスト
音をカム接点で断続すると、同時に汽笛音も断続されてしまう。 PMFの新方式では、
高周波電流を、コンデンサに蓄めておいて、ブラスト音用カムスイッチがON/OFFす
る時に、巧み、かつ簡単回路でLC充放電させる度に、 ジャ シャ シャという
ブラスト音を発振させている。下図にその概略図を示す。 
 電気に強いモデラー各位は、この図から巧妙なアイディアがご理解頂けると思う。
               

4)従来より周波数の高い信号を使うことで、交流阻止チョークコイルを劇的に
  小型化(低価格化)することができた。

レールに音声電流などの交流を重畳(ちょうじょう)させると、交流がパワーパック、
照明回路などに回り込んで吸収されることを阻止するチョークコイルが必要となるが、
従来の音声電流(数百Hzー数KHz)そのままの場合は、阻止チョークコイルはヘンリー
単位の大型の物が必要であり、価格も今日では数千円程度はする。 高周波の交流電流
であれば、これが数百マイクロヘンリー単位と千分の1以下の大きさでよく。当然価格
も安く300円程度で済む。 スペースもほとんどいらない。
                  

車両に簡単なコンデンサとスピーカを載せるだけの簡便さ、取り付け工作に特に技能も
知識も不要等。 特に前述した1)と2)が支持され、圧倒的シェアで日本のサウンド
の主流として、4半世紀以上の長期にわたり愛用されてきたし、いまでも日本ではサウ
ンド愛用者の9割近くは、この方式を使っていると言えるだろう、良くも悪しくも。
それはサウンドすなわち蒸機音であり、とりわけブラスト音を指す狭い言葉になってし
まったと言うことであろうか。
しかし、すでに長い命脈も既に終わりつつある。 
30年間で新しい電子技術は次々に生まれ、特に最近の変化は劇的である。反面
残念ながら、PFM方式は過去30年以上、基本的に何の進歩もしていない。  
基本的に進歩の余地は無い旧システムといえるだろう。  PFMやSL−1の
限界はどこにあるのか、次にその点について述べてみよう。

1)1フィーダにつき、1列車だけしか、サウンドが出せない。1つのパワーパック
 から出る直流電源に音声信号を重ねて送るのだから当然である。 
 (新しいシステムでは1フィーダ上で複数の列車のサウンドを別個に再生するのが普通)

2)モータ駆動の直流電源に直接音声信号を重ねて送るので、ノイズが大きい。 

火花のでるモータのノイズと言う物はかなりの物で、オシロスコープで観測すると、
かるーく200ボルトぐらいはある。このパルスがジャージャー雑音としてモロにスピ
ーカから再生される。 原理的に、このノイズを除去する事は不可能。 

幸いにして、超小型低能率のHOゲージ取り付けスピーカではなんとか使える。しかし
音が出ればハッピー、他と比較するすべの無かった時代と違い、現在ではこれは苦しい。
わたしはSL−1をGゲージ車両で実験してみたが、Gゲージ用サイズのスピーカでは、
能率もよく、音域も広いので、停止時にはきれいに音が出るが、車両が走りだすと雑音が
ひどくて実用にならなかった。 

3)原理上は、ユーザ任意の音声を送れるのであるが、実際には組み込済みの蒸機
  のおきまりサウンドだけしか、出すことが出来ない 理由は まず上記2)で述べた雑音のためである。 蒸気機関車のブラストサウンドは
要するに雑音発生器なので、外部ノイズが入ったところで大した影響は受けないが、これ
がディーゼル車や電車のサウンドでは、あのノイズ混入はとても問題となるだろう。 
電気機関車用でEL−1という姉妹機もあるらしいが、どの程度の音が出せるのか。
雑音をどうやって防止しているのだろうか。  それとも単に警笛音しか出せない代物
なのか。

 別の理由は、SL−1(PMFは手元に無いので不明)には、外部音声入力端子という
ものが無い。 知人より実験のためSL−1をお借りしたところ、背面にDIN端子
がある。DIN端子は昔から、オープンリールデッキで音声信号入出端子として使われ
ていたので、てっきりこの端子から任意の音声を入力できるのだと思っていたが、これ
はオプションのエコー装置を取り付ける為の端子だった。 
                   
自分で改造すればということもあるが、これはかなり電気の知識と技術力のある人向き
の話で、普通のモデラにとっては意味があるとは思えない。出来たところでノイズ混入
の問題はやはり変わらない。 だから、実際問題としてSL−1が出せる音は装置に組
込みしてある汽笛音とブラスト音だけ。 これ以外の音は出せない装置である。


4)長い線路では、満足な音が出ない

2年ほど前のある合同運転会で、0番ゲージの大きなエンドレス上を”カタカタカタ”
という音を発しながら走っているD51を見たことがある。 「おや、ロッドピンか、
ギアのどこかが外れていますよ」と思ったところ、機関車が運転者の近くに来ると、
シュッシュシュという音に変わるではないか。 運転者は、近くしか分からないので、
遠くの位置ではブラスト音が出ていない事に、気がつかないようであった。

はじめその現象の理由が分からなかったが、あとで理由が分かった。 線路長が長くな
ると線路の右左にまたがる奇生容量が大きくなり、大きなコンデンサをレール間に入れ
たのと同じ現象が起こる。 このコンデンサを介して高周波電流が流れてしまい機関車
までは、十分届かなくなってしまうためらしい。
               
この文章を書くために上の写真のような実験で確かめてみた。 長い0番レールなど
持っていないので、平行2芯ケーブル1束を仮想長レールとして写真の96蒸機のスピ
−カを鳴らしてみる実験である。 運転会でみた現象の再現実験である。 
このケーブルのコンデンサ分はLCRメータで測定すると7500ピコファラッドある。
高周波が300KHzとすれば、計算では、70オームの抵抗でレールをショートした
のと同じであり、これでは、音声電流はガクンと下がり、満足な音は出せないであろう。
音が十分届く短い線路長であっても、音質は高音から低音に向かって順に、大幅に悪化
しているはずで、「SL−1は音が汚い」と言われる理由の一つになる。

 
5)原理を考えれば当然の事だが、直流2線式(あるいは3線式)にしか使えない。 
  デジタル信号を使う最近のDCC方式には使用不可。

6)音声信号はレールから車輪との接触で拾うので、接触不良雑音が大きい。
 (車載音源式は、音源は内部にある(レールからは制御信号のみ)ので雑音に強い。)

蒸気機関車のブラスト音は雑音の一種なので、雑音混入でも蒸機音には使えるが、電車
音やディーゼル機関の音など、雑音があると実用にならぬ音声を送る場合、前述の理由 4)
だけでなく、この接触不良ノイズの面からも適さない。
 
 評価
サウンド装置PFMやSL−1は、その単純さをもって一世を風靡したと言っても良い
製品であり、この製品で蒸機サウンドを楽しんでおられるモデラは断然多い。

しかし、やはり過去の製品であると言える。 製造元は今でも販売しているが、発売当
時そのままで、何ら改良もされていないままである。 海外ではほとんど売れない製品
になってしまったが、販売元としては、次の一手もさしあたり無いので、とりあえずと
云うところで販売を続けているのであろうか....。 
まだ、電子回路技術が鉄道模型の分野では十分行き渡らない時代には、革新的製品であ
ったが以後の展開はどうか。 取り付け簡単という以外の利点は、すでに失われている
と思えるのであるが。

                                                    03 2月25日

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