始まりはいつも・・・
あおやま あきら
某企業の研究所においてのお話です。彼らは家庭用アンドロイド、つまり家事一切をしてくれるアンドロイドの開発を進めてきました、そしてこのたびめでたく実験機1号――機体ナンバーX−01−A、通称マリア――が完成したのでありました。これは彼らの奮闘を描写した、純然たる事実である。
「坂本君、起動してくれ。」
坂本と呼ばれたその男は、目の前に立っているアンドロイドの背中側に回りこみ、背中に付いている計器類を確認した後、起動スイッチを押した。
「博士、いよいよですね。なんかこう、妙な気分ですね。嬉しくもあるけれど、どことなく不安もある。」
「そうだな、これがアンドロイドの歴史の始まりになるかもしれないしな。」
アンドロイド内部から各種のモーター音が聞こえ始めた。もう少しで起動が完了する。「記録用のカメラは?」
「正常作動中です、各種計器類にも異常はありません。」
アンドロイドの体が小刻みに震え始めた。それと同時にアンドロイドの目がゆっくりと開き始めた。目が完全に開いたとき、体の振動は止まっていた。起動は正常に完了した。「さあ、マリア、こっちに向かって5歩、歩きなさい。ゆっくりでいいぞ。」
マリアはゆっくりと右足持ち上げる。左足に全体重がかかろうとして、体のバランスが崩れかかるが、オートバランサー機構により倒れてしまうことなく無事に1歩目を踏み出すことができた。それからもう4歩、ゆっくりではあるが確実に補助なしで歩くことができた。
「よーし、よくできたぞ。じゃあ次だ。目の前の机の上にリンゴとナイフが置いてあるだろう。ナイフを使ってリンゴをむいてくれ。」
マリアのアイボールセンサーがリンゴとナイフをキャッチした。右手にリンゴ、左手にナイフを持つと器用にむき始めた。
その後も、各種の実験が行われたが、マリアはそつなくそれらをこなしていった。
「博士、大成功と言っていいんじゃないですか。」
「ああ、今のところはな。正直言って、これほどトラブルが少ないとは予想できなかったよ。かえって気味が悪いくらいだ。」
「確かにそうですね。」
「まあそれなりに金はかかっているしな。でも少し大きくなりすぎたかな」
「身長2.3m、大きいと言えば大きいですがまあ仕方ないでしょう、これが今の限界ですから。」
「なあ、うちの会社はマリアの購買層をどの辺においているんだ?」
「たぶん、35才前後の家を持ったサラリーマンをターゲットにしていると思いますが」
「そうか・・・、じゃあ、たぶん、マリアは生産ラインには乗らないな」
「ええ。体重1.2トンでは、一般家庭の床なんて突き抜けてしまうことが十分に考えられますからね」
「・・・俺達って、無駄なものつくっちまったのかな・・・。」
その後もいろいろなトライアルがなされたが、結局、マリアが量産化されることはなかった。実験終了後マリアは倉庫の中にずっと眠っていたが数百年後のあるとき、突然脚光を浴びることになった。
そのガラスケースの前には人だかりができていた。
「へえー、昔のやつってこんなに大きかったんだ。」
「しかも、話をすることができなかったんだってよ。」
「なんでそんな使えないものつくったの?」
「皆さーん、聞こえますか。じゃあ、始めますよ。えー、皆さんが今見ているのが最初に製造されたと言われているアンドロイド、通称マリアです。大きいでしょう。この当時の技術ではこれが限界だったんですね。でも、このマリアがなかったら今のアンドロイドはなかったかもしれません。残念ながら設計者が誰であるかは分かっていません。それでですねこのマリアの駆動系について・・・・・・」
説明が終わると、その集団は別の展示品の前へと移動した。
それは『アンドロイド博物館』において日常的に見られるひとつの小さな光景だった。
おわり
あとがき
自分でも何がいいたいのか良く分からない。もとネタは、「自動車」です。自動車もできた当時は人間の歩くスピードよりも遅かったことは有名です。どんなものでも、できてすぐの頃は「何でこんなものをつくるのか」と批難されるものなんですね。
1995年12月24日 あおやま あきら
撰者より:
どんなことでも、まず一歩踏み出さなくては発展はあり得ない。斯くして、一見無駄に見えた発明は、思わぬ利用法を得る。